ゲスト
(ka0000)
パーティーはこれにて終了でーす!
マスター:電気石八生

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/09/24 09:00
- 完成日
- 2019/09/26 17:59
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●準備
ノアーラ・クンタウの片隅に小さな看板を出すバー『二郎』。
リアルブルー産の酒が取りそろえられているのが売り――なのに、なぜか店主であるゲモ・ママ(kz0256)の手料理が評判だったり、最近始まった昼営業の喫茶タイムが話題だったりするわけだが。
「レヲ蔵ー!!」
狂おしいほどスキニーな革パンに空恐ろしいタンクトップを決めたママが、緑でラメラメなアフロをぼっはぼっは揺らして両腕を拡げれば。
「ママー!!」
フリルまみれの襟を大きく開け放った白いドレスシャツ、そしてなぜか黒の半ズボンとかいう風なのか木なのか歌なのかな格好を晒した天王洲レヲナ(kx0260)がまっすぐ飛び込んだ。
「アンタもうバカっ! 病院出られたくせになぁんでいきなり仕事してんのよぉ!」
ぎゅーっと抱きしめてやって、レヲナの桃色アフロをぐしゃぐしゃにかき回す。
レヲナはくすぐったげにその手を受け入れ、えへへ。
「もう一回会うときは元気になってからって決めてたから! ああああ、それよりボク見たかったよ……マチヨの空に裂くボンバーの華!」
「超昔話ねっ!? 心配しなくってもちぁゃんと阿鼻叫喚だったわよぉ」
オネェと男の子が涙とともに語り合うことなのかどうかはさておき。
「ってゆうか今さらなんだけどさぁ。なんでアンタ“耽美”なわけぇ?」
ドレスシャツに半ズボン。それは1970年代にリアルブルー某所ですごいことになってた男子同士のドロドロな恋愛劇「耽美もの」の定番ユニフォームである。
「なんかニッチ狙いよねぇ。男の娘なんだし? メイド服とかのが無難だったんじゃ? あー、まずはアフロしまいなさい。半ズボンに超似合わねぇから」
「ママのノリに合わせただけだし。衣装は……需要に対する供給?」
最初は普通の英国式男の娘メイド喫茶店だった昼営業。しかし偏った客がひとり現われたと思いきや、どんどん偏った客が増え始めて――こういう類友の増殖はいろいろな場所でよくあることなのだ――それに応えているうち普通の客はいなくなり、今やもうこんな有様に。
「生クリームが分岐点だったわねぇ」
「生クリームだよねぇ……売り上げのためにボクの半ズボンの丈も短くなる一方だよ恥ずかしいっ!」
幾度となく裾上げされた半ズボンは、すでにホットパンツレベルのピチピチっぷりである。
「いやいや、スカートんときもおんなじくらい脚出てんでしょ。アンタやっぱスカートじゃねぇと死ぬ病なんじゃねぇのぉ?」
なんかこうやる気なくしたママに、レヲナがくわっと目を見開いて。
「そんなことで死んでたらキリがないよ!?」
男の娘の現実は、オネェが思うよりもっとずっとめんどくさいらしかった。そして。
「まあ、もうすぐなんだけどねー」
不思議なほど翳りのないレヲナの声音に、ママはただうなずいた。
強化人間の宿命は、たとえ精霊と契約して新たな生を踏み出した後にも追いかけてくる。追いつかれるのが早いか遅いかの差はあれ、逃げおおせることは不可能だ。
でも。
「もうすぐだけど、最後まで普通にボクって奴をやり通したいんだ」
レヲナは力強く言い切って。
だからこそ。
「それがこうなるってのはなんの業かしらねぇ~」
ツインテールに戻ったレヲナの頭を小突き、ママはツッコんだ。
いつものように、いつものごとく。なにひとつ有り様を変えることなく、しかし相手の幸いを全力で祈り、ありったけの情を込めて――
と、先日いっしょに戦った縁でバイトに来てくれることとなった辺境の民マチヨ族(のマッチョ)が、騒がしくドアの向こうから駆け込んできた。
「お帰りなさいませお客さんっす! どーいするっす!?」
ちなみに衣装はブーメランパンツに蝶ネクタイ、あとは筋肉あるのみだ。
「お帰りなさいませはお客様に言うセリフだよ。あと、どーいはしないからね。どうするかは」
「あああああいつの間にかマッチョいるじゃねぇのぉ!! なにこれマッチョとリーズナブルにお愉しんじゃえるカフェぇぇぇ!? こんなのもうなにがあってもアクシデンツなんだからノー犯罪よねぇ!?」
雰囲気丸っとぶち壊し、一気に盛り上がるママにジト目を向けたレヲナは、おもむろに指をパチリ!
するとどこからともなく駆け込んでくる武装兵団!
「ウチのもんに触ったり障ったりする輩は遠くへ捨てられる……それが掟だよ」
「ちょ待っ! アタシまだなんもしてねぇでしょお!? 差別よぉ! アタシ差別だわぁ!!」
「差別じゃないでーす。区別でーす」
せめてっ! せめて1回くらいいいいいいいい――
●耽美劇場
遠ざかっていく絶叫を見送って、レヲナは店の外にセットされた通称テラス席へ向かう。
「あはぁ(感嘆)! 半ズボンぅぅん(欲望)!!」
「今日のおすすめは(飢え)!? 今日のおすすめはあああ(餓え)!?」
「ごちそうさまです(満悦)! ごちそうさまですううううううう(喜悦)!」
そこかしこにひしめくアレな人たち。もちろん、その凄絶な邪気は周囲のマッチョをも侵していて、自慢の筋肉から水気を奪っていたり。
死ぬのもあれだけど、生きるのって大変だなぁ。
レヲナは万感を笑顔の裏へ押し隠し、にっこり。
「今日のサービスは『ボクの半ズボンのポッケから取り出した生クリームで好きな字を思わせぶりな呪文を唱えながらパンケーキに書きつけるやつ』だよ」
というわけで、「キミに砕かれたボクの墜ちる先は無間地獄であればいい。もう二度と、キミって光を見いだせないように、ね」とか言いながら、レヲナは自分の顔がプリントされたチョコケーキへ生クリーム絞り器の先端を向け、“甘い”と書きつけた。
「さあ、たっぷりおあがりよ。汗まみれの無様を晒す前に」
前のめりに斃れ伏すのは最終目標だけれど、正直なところ接客員ひとりのこの状況は、心身共に厳しかった。マチヨ族は特殊接客以外役に立たないし……
ため息を隠してレヲナは顔を上げ。
「次は、誰の番?」
ノアーラ・クンタウの片隅に小さな看板を出すバー『二郎』。
リアルブルー産の酒が取りそろえられているのが売り――なのに、なぜか店主であるゲモ・ママ(kz0256)の手料理が評判だったり、最近始まった昼営業の喫茶タイムが話題だったりするわけだが。
「レヲ蔵ー!!」
狂おしいほどスキニーな革パンに空恐ろしいタンクトップを決めたママが、緑でラメラメなアフロをぼっはぼっは揺らして両腕を拡げれば。
「ママー!!」
フリルまみれの襟を大きく開け放った白いドレスシャツ、そしてなぜか黒の半ズボンとかいう風なのか木なのか歌なのかな格好を晒した天王洲レヲナ(kx0260)がまっすぐ飛び込んだ。
「アンタもうバカっ! 病院出られたくせになぁんでいきなり仕事してんのよぉ!」
ぎゅーっと抱きしめてやって、レヲナの桃色アフロをぐしゃぐしゃにかき回す。
レヲナはくすぐったげにその手を受け入れ、えへへ。
「もう一回会うときは元気になってからって決めてたから! ああああ、それよりボク見たかったよ……マチヨの空に裂くボンバーの華!」
「超昔話ねっ!? 心配しなくってもちぁゃんと阿鼻叫喚だったわよぉ」
オネェと男の子が涙とともに語り合うことなのかどうかはさておき。
「ってゆうか今さらなんだけどさぁ。なんでアンタ“耽美”なわけぇ?」
ドレスシャツに半ズボン。それは1970年代にリアルブルー某所ですごいことになってた男子同士のドロドロな恋愛劇「耽美もの」の定番ユニフォームである。
「なんかニッチ狙いよねぇ。男の娘なんだし? メイド服とかのが無難だったんじゃ? あー、まずはアフロしまいなさい。半ズボンに超似合わねぇから」
「ママのノリに合わせただけだし。衣装は……需要に対する供給?」
最初は普通の英国式男の娘メイド喫茶店だった昼営業。しかし偏った客がひとり現われたと思いきや、どんどん偏った客が増え始めて――こういう類友の増殖はいろいろな場所でよくあることなのだ――それに応えているうち普通の客はいなくなり、今やもうこんな有様に。
「生クリームが分岐点だったわねぇ」
「生クリームだよねぇ……売り上げのためにボクの半ズボンの丈も短くなる一方だよ恥ずかしいっ!」
幾度となく裾上げされた半ズボンは、すでにホットパンツレベルのピチピチっぷりである。
「いやいや、スカートんときもおんなじくらい脚出てんでしょ。アンタやっぱスカートじゃねぇと死ぬ病なんじゃねぇのぉ?」
なんかこうやる気なくしたママに、レヲナがくわっと目を見開いて。
「そんなことで死んでたらキリがないよ!?」
男の娘の現実は、オネェが思うよりもっとずっとめんどくさいらしかった。そして。
「まあ、もうすぐなんだけどねー」
不思議なほど翳りのないレヲナの声音に、ママはただうなずいた。
強化人間の宿命は、たとえ精霊と契約して新たな生を踏み出した後にも追いかけてくる。追いつかれるのが早いか遅いかの差はあれ、逃げおおせることは不可能だ。
でも。
「もうすぐだけど、最後まで普通にボクって奴をやり通したいんだ」
レヲナは力強く言い切って。
だからこそ。
「それがこうなるってのはなんの業かしらねぇ~」
ツインテールに戻ったレヲナの頭を小突き、ママはツッコんだ。
いつものように、いつものごとく。なにひとつ有り様を変えることなく、しかし相手の幸いを全力で祈り、ありったけの情を込めて――
と、先日いっしょに戦った縁でバイトに来てくれることとなった辺境の民マチヨ族(のマッチョ)が、騒がしくドアの向こうから駆け込んできた。
「お帰りなさいませお客さんっす! どーいするっす!?」
ちなみに衣装はブーメランパンツに蝶ネクタイ、あとは筋肉あるのみだ。
「お帰りなさいませはお客様に言うセリフだよ。あと、どーいはしないからね。どうするかは」
「あああああいつの間にかマッチョいるじゃねぇのぉ!! なにこれマッチョとリーズナブルにお愉しんじゃえるカフェぇぇぇ!? こんなのもうなにがあってもアクシデンツなんだからノー犯罪よねぇ!?」
雰囲気丸っとぶち壊し、一気に盛り上がるママにジト目を向けたレヲナは、おもむろに指をパチリ!
するとどこからともなく駆け込んでくる武装兵団!
「ウチのもんに触ったり障ったりする輩は遠くへ捨てられる……それが掟だよ」
「ちょ待っ! アタシまだなんもしてねぇでしょお!? 差別よぉ! アタシ差別だわぁ!!」
「差別じゃないでーす。区別でーす」
せめてっ! せめて1回くらいいいいいいいい――
●耽美劇場
遠ざかっていく絶叫を見送って、レヲナは店の外にセットされた通称テラス席へ向かう。
「あはぁ(感嘆)! 半ズボンぅぅん(欲望)!!」
「今日のおすすめは(飢え)!? 今日のおすすめはあああ(餓え)!?」
「ごちそうさまです(満悦)! ごちそうさまですううううううう(喜悦)!」
そこかしこにひしめくアレな人たち。もちろん、その凄絶な邪気は周囲のマッチョをも侵していて、自慢の筋肉から水気を奪っていたり。
死ぬのもあれだけど、生きるのって大変だなぁ。
レヲナは万感を笑顔の裏へ押し隠し、にっこり。
「今日のサービスは『ボクの半ズボンのポッケから取り出した生クリームで好きな字を思わせぶりな呪文を唱えながらパンケーキに書きつけるやつ』だよ」
というわけで、「キミに砕かれたボクの墜ちる先は無間地獄であればいい。もう二度と、キミって光を見いだせないように、ね」とか言いながら、レヲナは自分の顔がプリントされたチョコケーキへ生クリーム絞り器の先端を向け、“甘い”と書きつけた。
「さあ、たっぷりおあがりよ。汗まみれの無様を晒す前に」
前のめりに斃れ伏すのは最終目標だけれど、正直なところ接客員ひとりのこの状況は、心身共に厳しかった。マチヨ族は特殊接客以外役に立たないし……
ため息を隠してレヲナは顔を上げ。
「次は、誰の番?」
リプレイ本文
●開店
レヲナが最期まで自分らしくと言うなら、それを俺は支え、叶えよう。
と、天王洲レヲナ(kz0260)へメンカル(ka5338)は伝えようとしていたわけなんだが。
辺境の民、マチヨ族の熱気――物理的な筋肉熱だ――の狭間に押し込まれ、ご唱和もなにもあったのじゃなかったりする。
「はいみなさんおはようございまーす。耽美ネーム“白”こと天王洲レヲナでーす。お手伝いに来てくれたハンターさんもご唱和よろしくー! お客様はお嬢様でーす!」
悲劇のお姫様というか悲劇のヒーローというか、そういうレヲナしか知らないんだけど……ちょっと私のイメージ返して?
「お嬢様です!」
心とは裏腹、見事なご唱和を決めるカーミン・S・フィールズ(ka1559)に、となりのツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は渋い顔を向けて。
「カーミンさんじゃなくて“桃”、馴染んでいますね?」
「私は表面をなぞるのが得意なのよ、“青”」
しれっと応えるカーミンにとりあえずうなずいてみせて、小さく息をついた。
ここで私のするべきことは、一条の縁を結んだレヲナが胸を張って旅立てるよう、心ゆくまでいっしょに楽しむことですね。
――そしてレヲナはバー『二郎』の外へ続くドアを押し開ける。
「宴には間に合ったようだね、お嬢様方」
果たして、店外にセットされたテラス席へ接客員withマッチョが殺到する。
レヲナさんが元気そうでひと安心です。
百鬼 一夏(ka7308)は胸の内で語り、笑みをこぼした。
彼女にとってレヲナは戦友のひとりだ。共に死線で膝をつき、歯を食いしばって踏み越えて、なんでない今日まで辿り着いた。それなのにレヲナは、その命の期限を満了しようとしている。でもよかったです。落ち込んでないかなーって、心配してたので!
レヲナさんがやるなら私も咲かせてみせます命の華を!
ぎくり! 主のやる気にすくみあがるポロウ“瑠璃茉莉”。あわてて一夏から離れようとするが、動けない。なぜなら左右の羽の根元をがっしり羽交い締められているから。
「瑠璃茉莉。大きな戦いが終わって、あなたちょっとたるんでるよね。ごはん食べて寝ておやつ食べて昼寝してばっかりだよね。思いだそっか、ひりつく死線のにおい。次のマッスルボンバー祭はもう、始まってるンダヨ?」
一夏の視線の先にあるもの、それは――青空ジムでお待ちしているマチヨ族と、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の乾いた笑顔だった。
「そもさん! 筋肉(にく)とはなにか!?」
どーい! 筋肉とは命っす!
マチヨどもの答に、ボルディアはフロント・リラックスからのサイド・リラックスで振り返り、自らにマッスルトーチを灯してみせる。
「せっぱ! 筋肉とは確かに命っ!! すべての力の源にして生を満たす豊穣――お宝だあーっ!!」
どーい!!
「耽美とかようわかんねぇけどよ、この筋肉に圧倒的感謝っ! バーベルだバーベル! バーベル持ってこーい! スクワットで大腿四頭筋キメるぜ!」
生き地獄だよ!? 瑠璃茉莉が大空をのんびりと舞うメンカルの愛ポロウ、エーギルを必死の形相で仰ぎ見ている横で、ゾファル・G・初火(ka4407)は“地母神の涼やかなる涙”という名のお冷やをちびちびやりつつ思うのだ。
呼ばれて来たのはいいけどさ、想像以上になにしたらいいかわかんねーじゃん?
ま、レヲナちゃんの送別会みてーなもんだしな。あいつがパーっといきたいってんなら付き合うだけじゃん。だからよ。
「俺様ちゃん、超全力でセクハラしちゃうじゃーん!!」
「はい不埒発言確認! 掟に従って遠くに捨てちゃってー!」
レヲナの召喚に従って現われた武装集団がゾファルを担ぎ上げ、どこかへ向けて駆け出した。
「俺様ちゃんまだ無罪じゃーん!?」
遠ざかっていく絶叫をよそに、星野 ハナ(ka5852)は占領したテーブル席からくわっと手を挙げて。
「じゃんじゃん肉と酒持ってこいやぁ! ですぅ!」
「そういう店じゃねぇのよお嬢様」
黒革のぴちぴち半ズボン姿のゲモ・ママ(kz0256)が、メニューを開きながら苦笑する。
「だぁって、ママのお店にお金落とそうと思ったらぁ、人件費ぶっちぎるくらいご注文しなくちゃじゃないですかぁ。――お菓子好きですぅ。喫茶メニュー見せてくださいぃ」
言いながらのぞき込む。原価が安くて利率の高いものって、どれでしょうねぇ?
そんな彼女にママは再び薄笑んで。
「気ぃ回してないでお嬢様してきなさい。アタシでよければサービスするしぃ?」
きゅぴん。ハナの瞳が輝いた。
●耽美?
一般のお嬢様方の目線殺到する中、メンカルはホットパンツ丈の黒半ズボンの裾を必死で引き下げる作業に勤しんでいた。
「……レヲナ。全力を尽くすのはやぶさかじゃないが、これはもしかしなくても大事故じゃないか俺?」
「黒、大丈夫。狂おしいくらいうけてるから」
慈愛すら感じさせる表情でレヲナが指し示す。そう、獣の目をしたお嬢様方を。
喰われる――! 恐怖によろめくメンカルだったが、使命とか仕事とかを忘れられないのが彼の美徳で弱点。
そうだ、俺はやらねばならん。なぜなら俺の両脚はもう、剥き出しなんだからな!
「……時は有限だが、なるほど。お嬢様方はずいぶんと持て余しているようだ」
鍛え抜いた脚を無意味にクロスさせ、メンカルは天を仰ぐ。見ていろエーギル、俺――いや耽美ネーム“黒”の生き様を。
主の生足を見た次の瞬間、隠れるホーを展開して逃亡したエーギルの背を思いながら、より怜悧に声音を澄まし、お嬢様方へ笑みかける。
「とはいえ、この怠惰をこそ望む君たちにはいらぬ忠告だな。ならば砂と共に堕ちゆくこの時を、斜陽まで共に過ごそうか」
ハ゛ン゛ズ゛ボ゛ン゛!! 濁った歓声の中、ティーポットに紅茶を淹れ、彼は砂時計を引っ繰り返してセットした。
なぜだろうな。思いがけないほど自然に表情が決まり、体が動くのは。
どーいっす! どーいどーい!
「あと169ラウンドしかスクワットできねえんだぜ!? 惜しめよこのかけがえのねえ時をよ!」
しっかりと上体をもたげて腿へ負荷をかけ、バーベルスクワットをこなしていくボルディアと、その横でよろよろスクワットをさせられる瑠璃茉莉。
「こいつは人間もポロウも関係ねぇ。てめぇをいじめぬいた後のリアルブルー産ソイプロテインはよ……隅々までキクんだぜ?」
ボルディアのしみじみした言葉にマチヨどもが「どーい」、強くうなずいた。
そして瑠璃茉莉はぎぃええええええええ!
「瑠璃茉莉、がんばってますね。私もやらなくちゃ!」
腕まくりした一夏はレヲナを呼び、
「レヲナさん、脂質控えめタンパク質多めなチーズケーキをください!」
「いいよ。ボクの手で。キミを甘美に満たしてあげる」
ふふふ。怪しげな笑みを残していったレヲナが帰ってきて“かろやかなる砕骸に積もりし沸かされた白き甘露の最果て(ベイクドチーズケーキ)”を彼女の前へ置き。
「キミの誇りは今、ボクの濁りに甘く穢されるのさ」
ぶじゅるるる。生クリームで“穢れ”と書きつけた。
「生クリームの糖質と脂質で台無しですし、字画多いせいでもうただの山になってますけど!!」
「なにひとつ為せていないことを識るよりもましさ」
それっぽいことを言うレヲナだったが――考えてみれば、生クリームは乳製品。プロテインだって牛乳で割るものだし、これはこれでこれなんじゃないか!?
「もっと盛ってくださぁい! 私の筋肉は――燃料を求めてます!」
一方、ツィスカ。
カーミンさんやメンカルさんとご一緒できる機会、楽しもうと思っていたのですが!
彼女は店内でひとり、次々舞い込む注文に従って調理に明け暮れている。
白磁の皿に盛りつけたたっぷりのケチャップであえたチキンライスへ、生クリームとバターをしっかり効かせたじゅくじゅくのオムレツを乗せ、ナイフとスプーンを添えて、完成。
「“生まれ出でることなく業火に灼かれしき魂の果て(オムライス)”あがり――生誕しました! 次はそば粉のクレープにかかります」
「“黒き蔑みの欠片を敷き伸べた哀れなる軛”よ」
皿を受け取りに来たカーミンは諳んじてみせて、ふと首を傾げた。
「どうして軛なのかしらね?」
「そば粉をまとめて焼くから、でしょうか?」
「それにこの制服、驚くほどぴったりなのはおかしくない?」
レヲナから借りた制服は、男の娘と女の子のちがい(主に胸と腰のあたり)をまるで感じさせないジャストフィットぶりである。
おかげでまあ、お嬢様方からも特に文句が出ることもなく……どころか、「それはそれで(倒錯)!」とかご好評いただいたりなんだり。
「調理担当なのにこの格好な理由もわかりませんけれどね」
青色の半ズボンと赤いドレスシャツという、なかなかになかなかな配食の衣装。唯一の救いはシャツが長袖なので油が跳ねても熱くないくらいか。
「とにかく、そこにお嬢様方がいるわけですから。全力でご提供させていただくだけです」
静かに意気込むツィスカに感心しつつ、カーミンはとある男の顔を浮かべて小首を傾げた。
もしあいつに料理を作ってやったら――どんなリアクションをするのかしらね? って、私がそんな殊勝なことするなんてありえないけど。
ぶびびぶばぶぼ。ベーコンステーキ(耽美ネーム略)に盛られゆく、レヲナの生クリーム。
それをなんとも言えない顔で見下ろしていたゾファルはふと我に返った。
「あんたちゃんってずっと男か女かわかんなかったけどさ、ついてんの?」
左手でレヲナの腿をさすさすして硬直させ、二刀流の要領で右手を半スボンの裾から内へイン!
「どうだった?」
にっこり。レヲナがゾファルへ問い。
「つ、ついてるじゃん」
「じゃ、次は思い知ろうか。ボクのボクがどう機能するか」
武装集団(となぜかエーギル)に担がれたゾファルはじたじた暴れながら叫んだ。
「確かに今のは有罪だけどよおおおあああ!!」
「あの子たち、なにやってんだか」
げんなりため息をつくママは、石畳へ突き立てたCAM用の槍の柄に巻きつき、開花した百合のごとくに背を反らしてふうわりと回る。いわゆるポールダンスだ。
「これが耽美……? 70年代は難しいですぅ」
とりあえずママの半ズボンのポケットを狙い、符を投じるようにチップを投げ込んでいく。気づかれたら突っ返してくるだろうから、いかに知られず、多額を突っ込めるかが勝負だ。
ママにも少しくらいは贅沢してほしいですからねぇ。
●祭騒
「よーし、あったまってきたぜ! 野郎ども、俺に続けぇ!」
ボルディアの号令でマチヨどもが一斉にアブソリュートポーズ――アドミナブル・アンド・サイを決め、腹筋と共に先ほどからいじめ抜いてきた大腿四頭筋を強調した。
「えっと、大きい。脚に冷蔵庫を詰めてるのかしら?」
衝撃波に巻き込まれない位置からそれっぽいかけ声を唱えたカーミンが、ボルディアが注文していた酒を手に現われる。
「お酒は筋肉を溶かすらしいけど」
言いながら生クリームをたっぷりぶち込んで、渡してやった。
「溶ける? ……そしたらまた一から鍛えられちまうじゃねえか」
どーい!! 盛り上がるボルディアとマチヨどもに、カーミンは息をつく。しかたない、彼女は誰より強く、妙なところに隙のある女で、そこが魅力なわけだから。でも。
「少し落ち着いて。こういうときは筋肉を数えるといいそうよ」
カーミンに騙されて、自分の腹筋の数を数えるボルディア。
「6ぅ!」
あっさり終了した上、耽美でもなかった。
「この鋳鉄の純然が天駆ける翼に光を与え給うんだよ!」
瑠璃茉莉といっしょにワンハンドドローイング――広背筋を鍛えるダンベルトレーニング――に勤しむ一夏。手もないのになぜ瑠璃茉莉ができているのかは謎だが、さておき。
「それに広背筋はパンチ力の源だしね! この拳を鋼と化して、次のボンバー祭ではノーハンマー爆破をキメてやるの! 瑠璃茉莉の急降下からの超チョッピングライトで!」
それ、爆発避けられないから死ぬやつでは!? 瑠璃茉莉は思わず一夏を見たが……だめだ。一夏は本気で言っている!
「マチヨのみなさん、重り追加でお願いします!」
瑠璃茉莉の細い悲鳴はマチヨの「どーい!!」に塗り潰されて消えた。
「星屑が墜ちた。私はその尾を追ってゆこう」
砂時計で管理している接客時間の終了を告げ、メンカルはお嬢様の傍らを辞する。
程なく追加注文も入るだろうが、今は予約された料理と接客時間をお届けに、別のお嬢様へ向かわなければ。
と、ついでに鉢合わせたレヲナへわざと肩をぶつけてよろめかせ、思わせぶりに引き寄せて起こす。
「掬われるのが足元ばかりとは限らない。――私が君を救わぬことなどありえないが、な」
ぎゃー。叫ぶお嬢様から見えないよう、レヲナとサムズアップをかわして店内へ。
「“翔ぶことを忘れ果て煉獄に踊る(唐揚げ)”に“引き裂かれし我が身に添う哀れなるものども(ポテトフライ)”ですね!」
ツィスカがどん、盛りつけの済んだ皿をカウンターへ置いた。
「居酒屋メニューになってきたな」
素に戻って言うメンカルに、ツィスカは「生クリームのご加護があればきっと耽美です!」。
そういうものか。思ってみて、ふと、メンカルはカウンター席の最奥に幻(み)る。今は誰も座っていないあの席を好んだ、黄金の約束を交わした彼女の姿を。
「お嬢様がお待ちよぉ! メンちゃん急いで急いで!」
生クリームの補充に駆け込んできたママの声で我に返り。
「……ああ、忘れたことはない。けして忘れはしないさ」
そんな彼の横顔を見やり、ツィスカは発しかけた言葉を飲み下した。メンカルさんにも事情があるのでしょうし、それに障るのは本意ではありませんから。
「なに書くぅ?」
絞り器をチーズタルトの上で構えたママがハナへ問う。
先のチップ攻撃ですっかりハナの専属化してしまったママだったが、むしろ周囲としてはありがたい。耽美世界にママ需要は皆無だったから。
さておき。ハナはうーんと考え込んでぽんと赤らみ、そっと目を逸らして。
「結婚――恋人カムヒあ――お任せで」
ママは息をつき、器用に細文字を絞り出して“恋愛成就”と書きつけた。
「アンタが優しい子なの、アタシは知ってるからね」
「だっしゃー!」
「白く穢されたボクの有様に風と木が歌うんだよぉー!」
生クリームまみれの体を打ちつけ合うゾファルとレヲナ。
なぜかふたりは今、泥レスならぬクリレスで激突していた。
「プロレスだったらカウント3まで無罪じゃーん!?」
ビクトル投げでレヲナを転がして脚を開かせ、股関節を極める。法に背かず(自主規制)を触る高度な戦術で、お嬢様方大盛り上がり。
「お嬢様にウケてるから退場させられないし股関節が痛いいいい!」
そして――
●これにて
「俺を差し置いて楽しそうなことしてんじゃねえよ!」
満を持してボルディアが参戦、ゾファルに延髄ラリアットon生クリームを喰らわせて。
「瑠璃茉莉、私たちも負けてられませんよ! 今こそボンバーするときです!」
瑠璃茉莉を引きずりながら跳び込んできた一夏が、ボルディアにフライングボディアタック~生クリームを添えて~をしかけた。
「私の上司を穢していいのは甘やかなる白、それだけだ」
やけにノリノリなメンカル――後に彼は語る。「意外に向いているのかもしれないな、演じることは」と――がレヲナを引っぱりだしつつ一夏へ目潰しの生クリーム噴射。
相棒エーギルが速やかに惑わすホーをかけ、一応メンカルをサポートする。
「“鋼楔に貫かれし残響”、ご入り用のお嬢様はお気軽にお申しつけを」
その奥では、ツィスカが“現(うつし)に引き出されし業火(焚き火)”で串焼きをこさえ、戦いに滾るお嬢様方へもりもり売りつけ始めた。
「ママもいっしょに見物しませんかぁ? お客さんからの奢りを受けるのもお仕事ですよねぇ?」
ママを誘って見物を決め込むハナ。
「ちっくしょ、負けねーじゃーん! あ、おひねりはお触りじゃねーからいいよな?」
レヲナの半ズボンにリアルブルー伝来の“万札”をねじり込み、ゾファルが唇だけで言う。また明日も遊ぼうぜ?
果たして、そんな騒ぎは本当に夕暮れまで続いたのだった。
「うう、これは耽美じゃないよねぇ……」
プロレスの後、なぜか一夏に筋トレまで強いられたレヲナは、ようやく汚れを洗い落として帰ってきた。
その体をふわりと抱きしめたのは、カーミン。
「自分の最期をきちんと受け入れたあなたには悪いけど、私はあきらめが悪いの。たとえパーティーがここで終わって、あなたが彼の岸へゆくのだとしても――繋いだ縁を辿って追いついてみせるわ。呆れられても疎まれても、あくまで私自身のためにね」
ずっとこんな騒がしい日が続けばいいと、皆が願っていた。でもそれがけして敵わぬ夢だとも知っているから――集まった7人は、レヲナに笑みを贈る。そして。
皆に送り出されたママが、レヲナの頭をなぜた。
「パーティーは終わんないわよ。アンタが死んでもアタシが死んでも、ずっとね」
程なくして倒れたレヲナは、そのまま自室で息を引き取った。
最高の笑みを輝かせて「生きたー」。あのときと同じく集まった7人とママに言い残して。
レヲナが最期まで自分らしくと言うなら、それを俺は支え、叶えよう。
と、天王洲レヲナ(kz0260)へメンカル(ka5338)は伝えようとしていたわけなんだが。
辺境の民、マチヨ族の熱気――物理的な筋肉熱だ――の狭間に押し込まれ、ご唱和もなにもあったのじゃなかったりする。
「はいみなさんおはようございまーす。耽美ネーム“白”こと天王洲レヲナでーす。お手伝いに来てくれたハンターさんもご唱和よろしくー! お客様はお嬢様でーす!」
悲劇のお姫様というか悲劇のヒーローというか、そういうレヲナしか知らないんだけど……ちょっと私のイメージ返して?
「お嬢様です!」
心とは裏腹、見事なご唱和を決めるカーミン・S・フィールズ(ka1559)に、となりのツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は渋い顔を向けて。
「カーミンさんじゃなくて“桃”、馴染んでいますね?」
「私は表面をなぞるのが得意なのよ、“青”」
しれっと応えるカーミンにとりあえずうなずいてみせて、小さく息をついた。
ここで私のするべきことは、一条の縁を結んだレヲナが胸を張って旅立てるよう、心ゆくまでいっしょに楽しむことですね。
――そしてレヲナはバー『二郎』の外へ続くドアを押し開ける。
「宴には間に合ったようだね、お嬢様方」
果たして、店外にセットされたテラス席へ接客員withマッチョが殺到する。
レヲナさんが元気そうでひと安心です。
百鬼 一夏(ka7308)は胸の内で語り、笑みをこぼした。
彼女にとってレヲナは戦友のひとりだ。共に死線で膝をつき、歯を食いしばって踏み越えて、なんでない今日まで辿り着いた。それなのにレヲナは、その命の期限を満了しようとしている。でもよかったです。落ち込んでないかなーって、心配してたので!
レヲナさんがやるなら私も咲かせてみせます命の華を!
ぎくり! 主のやる気にすくみあがるポロウ“瑠璃茉莉”。あわてて一夏から離れようとするが、動けない。なぜなら左右の羽の根元をがっしり羽交い締められているから。
「瑠璃茉莉。大きな戦いが終わって、あなたちょっとたるんでるよね。ごはん食べて寝ておやつ食べて昼寝してばっかりだよね。思いだそっか、ひりつく死線のにおい。次のマッスルボンバー祭はもう、始まってるンダヨ?」
一夏の視線の先にあるもの、それは――青空ジムでお待ちしているマチヨ族と、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の乾いた笑顔だった。
「そもさん! 筋肉(にく)とはなにか!?」
どーい! 筋肉とは命っす!
マチヨどもの答に、ボルディアはフロント・リラックスからのサイド・リラックスで振り返り、自らにマッスルトーチを灯してみせる。
「せっぱ! 筋肉とは確かに命っ!! すべての力の源にして生を満たす豊穣――お宝だあーっ!!」
どーい!!
「耽美とかようわかんねぇけどよ、この筋肉に圧倒的感謝っ! バーベルだバーベル! バーベル持ってこーい! スクワットで大腿四頭筋キメるぜ!」
生き地獄だよ!? 瑠璃茉莉が大空をのんびりと舞うメンカルの愛ポロウ、エーギルを必死の形相で仰ぎ見ている横で、ゾファル・G・初火(ka4407)は“地母神の涼やかなる涙”という名のお冷やをちびちびやりつつ思うのだ。
呼ばれて来たのはいいけどさ、想像以上になにしたらいいかわかんねーじゃん?
ま、レヲナちゃんの送別会みてーなもんだしな。あいつがパーっといきたいってんなら付き合うだけじゃん。だからよ。
「俺様ちゃん、超全力でセクハラしちゃうじゃーん!!」
「はい不埒発言確認! 掟に従って遠くに捨てちゃってー!」
レヲナの召喚に従って現われた武装集団がゾファルを担ぎ上げ、どこかへ向けて駆け出した。
「俺様ちゃんまだ無罪じゃーん!?」
遠ざかっていく絶叫をよそに、星野 ハナ(ka5852)は占領したテーブル席からくわっと手を挙げて。
「じゃんじゃん肉と酒持ってこいやぁ! ですぅ!」
「そういう店じゃねぇのよお嬢様」
黒革のぴちぴち半ズボン姿のゲモ・ママ(kz0256)が、メニューを開きながら苦笑する。
「だぁって、ママのお店にお金落とそうと思ったらぁ、人件費ぶっちぎるくらいご注文しなくちゃじゃないですかぁ。――お菓子好きですぅ。喫茶メニュー見せてくださいぃ」
言いながらのぞき込む。原価が安くて利率の高いものって、どれでしょうねぇ?
そんな彼女にママは再び薄笑んで。
「気ぃ回してないでお嬢様してきなさい。アタシでよければサービスするしぃ?」
きゅぴん。ハナの瞳が輝いた。
●耽美?
一般のお嬢様方の目線殺到する中、メンカルはホットパンツ丈の黒半ズボンの裾を必死で引き下げる作業に勤しんでいた。
「……レヲナ。全力を尽くすのはやぶさかじゃないが、これはもしかしなくても大事故じゃないか俺?」
「黒、大丈夫。狂おしいくらいうけてるから」
慈愛すら感じさせる表情でレヲナが指し示す。そう、獣の目をしたお嬢様方を。
喰われる――! 恐怖によろめくメンカルだったが、使命とか仕事とかを忘れられないのが彼の美徳で弱点。
そうだ、俺はやらねばならん。なぜなら俺の両脚はもう、剥き出しなんだからな!
「……時は有限だが、なるほど。お嬢様方はずいぶんと持て余しているようだ」
鍛え抜いた脚を無意味にクロスさせ、メンカルは天を仰ぐ。見ていろエーギル、俺――いや耽美ネーム“黒”の生き様を。
主の生足を見た次の瞬間、隠れるホーを展開して逃亡したエーギルの背を思いながら、より怜悧に声音を澄まし、お嬢様方へ笑みかける。
「とはいえ、この怠惰をこそ望む君たちにはいらぬ忠告だな。ならば砂と共に堕ちゆくこの時を、斜陽まで共に過ごそうか」
ハ゛ン゛ズ゛ボ゛ン゛!! 濁った歓声の中、ティーポットに紅茶を淹れ、彼は砂時計を引っ繰り返してセットした。
なぜだろうな。思いがけないほど自然に表情が決まり、体が動くのは。
どーいっす! どーいどーい!
「あと169ラウンドしかスクワットできねえんだぜ!? 惜しめよこのかけがえのねえ時をよ!」
しっかりと上体をもたげて腿へ負荷をかけ、バーベルスクワットをこなしていくボルディアと、その横でよろよろスクワットをさせられる瑠璃茉莉。
「こいつは人間もポロウも関係ねぇ。てめぇをいじめぬいた後のリアルブルー産ソイプロテインはよ……隅々までキクんだぜ?」
ボルディアのしみじみした言葉にマチヨどもが「どーい」、強くうなずいた。
そして瑠璃茉莉はぎぃええええええええ!
「瑠璃茉莉、がんばってますね。私もやらなくちゃ!」
腕まくりした一夏はレヲナを呼び、
「レヲナさん、脂質控えめタンパク質多めなチーズケーキをください!」
「いいよ。ボクの手で。キミを甘美に満たしてあげる」
ふふふ。怪しげな笑みを残していったレヲナが帰ってきて“かろやかなる砕骸に積もりし沸かされた白き甘露の最果て(ベイクドチーズケーキ)”を彼女の前へ置き。
「キミの誇りは今、ボクの濁りに甘く穢されるのさ」
ぶじゅるるる。生クリームで“穢れ”と書きつけた。
「生クリームの糖質と脂質で台無しですし、字画多いせいでもうただの山になってますけど!!」
「なにひとつ為せていないことを識るよりもましさ」
それっぽいことを言うレヲナだったが――考えてみれば、生クリームは乳製品。プロテインだって牛乳で割るものだし、これはこれでこれなんじゃないか!?
「もっと盛ってくださぁい! 私の筋肉は――燃料を求めてます!」
一方、ツィスカ。
カーミンさんやメンカルさんとご一緒できる機会、楽しもうと思っていたのですが!
彼女は店内でひとり、次々舞い込む注文に従って調理に明け暮れている。
白磁の皿に盛りつけたたっぷりのケチャップであえたチキンライスへ、生クリームとバターをしっかり効かせたじゅくじゅくのオムレツを乗せ、ナイフとスプーンを添えて、完成。
「“生まれ出でることなく業火に灼かれしき魂の果て(オムライス)”あがり――生誕しました! 次はそば粉のクレープにかかります」
「“黒き蔑みの欠片を敷き伸べた哀れなる軛”よ」
皿を受け取りに来たカーミンは諳んじてみせて、ふと首を傾げた。
「どうして軛なのかしらね?」
「そば粉をまとめて焼くから、でしょうか?」
「それにこの制服、驚くほどぴったりなのはおかしくない?」
レヲナから借りた制服は、男の娘と女の子のちがい(主に胸と腰のあたり)をまるで感じさせないジャストフィットぶりである。
おかげでまあ、お嬢様方からも特に文句が出ることもなく……どころか、「それはそれで(倒錯)!」とかご好評いただいたりなんだり。
「調理担当なのにこの格好な理由もわかりませんけれどね」
青色の半ズボンと赤いドレスシャツという、なかなかになかなかな配食の衣装。唯一の救いはシャツが長袖なので油が跳ねても熱くないくらいか。
「とにかく、そこにお嬢様方がいるわけですから。全力でご提供させていただくだけです」
静かに意気込むツィスカに感心しつつ、カーミンはとある男の顔を浮かべて小首を傾げた。
もしあいつに料理を作ってやったら――どんなリアクションをするのかしらね? って、私がそんな殊勝なことするなんてありえないけど。
ぶびびぶばぶぼ。ベーコンステーキ(耽美ネーム略)に盛られゆく、レヲナの生クリーム。
それをなんとも言えない顔で見下ろしていたゾファルはふと我に返った。
「あんたちゃんってずっと男か女かわかんなかったけどさ、ついてんの?」
左手でレヲナの腿をさすさすして硬直させ、二刀流の要領で右手を半スボンの裾から内へイン!
「どうだった?」
にっこり。レヲナがゾファルへ問い。
「つ、ついてるじゃん」
「じゃ、次は思い知ろうか。ボクのボクがどう機能するか」
武装集団(となぜかエーギル)に担がれたゾファルはじたじた暴れながら叫んだ。
「確かに今のは有罪だけどよおおおあああ!!」
「あの子たち、なにやってんだか」
げんなりため息をつくママは、石畳へ突き立てたCAM用の槍の柄に巻きつき、開花した百合のごとくに背を反らしてふうわりと回る。いわゆるポールダンスだ。
「これが耽美……? 70年代は難しいですぅ」
とりあえずママの半ズボンのポケットを狙い、符を投じるようにチップを投げ込んでいく。気づかれたら突っ返してくるだろうから、いかに知られず、多額を突っ込めるかが勝負だ。
ママにも少しくらいは贅沢してほしいですからねぇ。
●祭騒
「よーし、あったまってきたぜ! 野郎ども、俺に続けぇ!」
ボルディアの号令でマチヨどもが一斉にアブソリュートポーズ――アドミナブル・アンド・サイを決め、腹筋と共に先ほどからいじめ抜いてきた大腿四頭筋を強調した。
「えっと、大きい。脚に冷蔵庫を詰めてるのかしら?」
衝撃波に巻き込まれない位置からそれっぽいかけ声を唱えたカーミンが、ボルディアが注文していた酒を手に現われる。
「お酒は筋肉を溶かすらしいけど」
言いながら生クリームをたっぷりぶち込んで、渡してやった。
「溶ける? ……そしたらまた一から鍛えられちまうじゃねえか」
どーい!! 盛り上がるボルディアとマチヨどもに、カーミンは息をつく。しかたない、彼女は誰より強く、妙なところに隙のある女で、そこが魅力なわけだから。でも。
「少し落ち着いて。こういうときは筋肉を数えるといいそうよ」
カーミンに騙されて、自分の腹筋の数を数えるボルディア。
「6ぅ!」
あっさり終了した上、耽美でもなかった。
「この鋳鉄の純然が天駆ける翼に光を与え給うんだよ!」
瑠璃茉莉といっしょにワンハンドドローイング――広背筋を鍛えるダンベルトレーニング――に勤しむ一夏。手もないのになぜ瑠璃茉莉ができているのかは謎だが、さておき。
「それに広背筋はパンチ力の源だしね! この拳を鋼と化して、次のボンバー祭ではノーハンマー爆破をキメてやるの! 瑠璃茉莉の急降下からの超チョッピングライトで!」
それ、爆発避けられないから死ぬやつでは!? 瑠璃茉莉は思わず一夏を見たが……だめだ。一夏は本気で言っている!
「マチヨのみなさん、重り追加でお願いします!」
瑠璃茉莉の細い悲鳴はマチヨの「どーい!!」に塗り潰されて消えた。
「星屑が墜ちた。私はその尾を追ってゆこう」
砂時計で管理している接客時間の終了を告げ、メンカルはお嬢様の傍らを辞する。
程なく追加注文も入るだろうが、今は予約された料理と接客時間をお届けに、別のお嬢様へ向かわなければ。
と、ついでに鉢合わせたレヲナへわざと肩をぶつけてよろめかせ、思わせぶりに引き寄せて起こす。
「掬われるのが足元ばかりとは限らない。――私が君を救わぬことなどありえないが、な」
ぎゃー。叫ぶお嬢様から見えないよう、レヲナとサムズアップをかわして店内へ。
「“翔ぶことを忘れ果て煉獄に踊る(唐揚げ)”に“引き裂かれし我が身に添う哀れなるものども(ポテトフライ)”ですね!」
ツィスカがどん、盛りつけの済んだ皿をカウンターへ置いた。
「居酒屋メニューになってきたな」
素に戻って言うメンカルに、ツィスカは「生クリームのご加護があればきっと耽美です!」。
そういうものか。思ってみて、ふと、メンカルはカウンター席の最奥に幻(み)る。今は誰も座っていないあの席を好んだ、黄金の約束を交わした彼女の姿を。
「お嬢様がお待ちよぉ! メンちゃん急いで急いで!」
生クリームの補充に駆け込んできたママの声で我に返り。
「……ああ、忘れたことはない。けして忘れはしないさ」
そんな彼の横顔を見やり、ツィスカは発しかけた言葉を飲み下した。メンカルさんにも事情があるのでしょうし、それに障るのは本意ではありませんから。
「なに書くぅ?」
絞り器をチーズタルトの上で構えたママがハナへ問う。
先のチップ攻撃ですっかりハナの専属化してしまったママだったが、むしろ周囲としてはありがたい。耽美世界にママ需要は皆無だったから。
さておき。ハナはうーんと考え込んでぽんと赤らみ、そっと目を逸らして。
「結婚――恋人カムヒあ――お任せで」
ママは息をつき、器用に細文字を絞り出して“恋愛成就”と書きつけた。
「アンタが優しい子なの、アタシは知ってるからね」
「だっしゃー!」
「白く穢されたボクの有様に風と木が歌うんだよぉー!」
生クリームまみれの体を打ちつけ合うゾファルとレヲナ。
なぜかふたりは今、泥レスならぬクリレスで激突していた。
「プロレスだったらカウント3まで無罪じゃーん!?」
ビクトル投げでレヲナを転がして脚を開かせ、股関節を極める。法に背かず(自主規制)を触る高度な戦術で、お嬢様方大盛り上がり。
「お嬢様にウケてるから退場させられないし股関節が痛いいいい!」
そして――
●これにて
「俺を差し置いて楽しそうなことしてんじゃねえよ!」
満を持してボルディアが参戦、ゾファルに延髄ラリアットon生クリームを喰らわせて。
「瑠璃茉莉、私たちも負けてられませんよ! 今こそボンバーするときです!」
瑠璃茉莉を引きずりながら跳び込んできた一夏が、ボルディアにフライングボディアタック~生クリームを添えて~をしかけた。
「私の上司を穢していいのは甘やかなる白、それだけだ」
やけにノリノリなメンカル――後に彼は語る。「意外に向いているのかもしれないな、演じることは」と――がレヲナを引っぱりだしつつ一夏へ目潰しの生クリーム噴射。
相棒エーギルが速やかに惑わすホーをかけ、一応メンカルをサポートする。
「“鋼楔に貫かれし残響”、ご入り用のお嬢様はお気軽にお申しつけを」
その奥では、ツィスカが“現(うつし)に引き出されし業火(焚き火)”で串焼きをこさえ、戦いに滾るお嬢様方へもりもり売りつけ始めた。
「ママもいっしょに見物しませんかぁ? お客さんからの奢りを受けるのもお仕事ですよねぇ?」
ママを誘って見物を決め込むハナ。
「ちっくしょ、負けねーじゃーん! あ、おひねりはお触りじゃねーからいいよな?」
レヲナの半ズボンにリアルブルー伝来の“万札”をねじり込み、ゾファルが唇だけで言う。また明日も遊ぼうぜ?
果たして、そんな騒ぎは本当に夕暮れまで続いたのだった。
「うう、これは耽美じゃないよねぇ……」
プロレスの後、なぜか一夏に筋トレまで強いられたレヲナは、ようやく汚れを洗い落として帰ってきた。
その体をふわりと抱きしめたのは、カーミン。
「自分の最期をきちんと受け入れたあなたには悪いけど、私はあきらめが悪いの。たとえパーティーがここで終わって、あなたが彼の岸へゆくのだとしても――繋いだ縁を辿って追いついてみせるわ。呆れられても疎まれても、あくまで私自身のためにね」
ずっとこんな騒がしい日が続けばいいと、皆が願っていた。でもそれがけして敵わぬ夢だとも知っているから――集まった7人は、レヲナに笑みを贈る。そして。
皆に送り出されたママが、レヲナの頭をなぜた。
「パーティーは終わんないわよ。アンタが死んでもアタシが死んでも、ずっとね」
程なくして倒れたレヲナは、そのまま自室で息を引き取った。
最高の笑みを輝かせて「生きたー」。あのときと同じく集まった7人とママに言い残して。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 15人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/24 00:44:25 |
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相談卓 カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/09/24 01:00:03 |