ゲスト
(ka0000)
【星罰】地に足つけて
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/09/20 19:00
- 完成日
- 2019/10/07 19:28
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あぁ、やはり肉体労働はいい!!」
そう言って、鍬をザクザクと地面に打ち込んでいる男がいた。クロウである。
最近になって、クロウは何を思ったのか錬成工房近くの空き地を耕し始めていた。
まだ何を植えたわけでもない。ただひたすらに耕している。
例によって突拍子のないことを考え付いた……というわけではない。先に述べた言葉とは裏腹に、その表情はどこかすっきりとしないものだった。
実のところ、体を動かせればなんでもよかった。
「ふぅ……」
一息入れるためにクロウは水を飲みつつ座り込んだ。
(戦うべきか……戦わざるべきか……)
クロウが考えているのは、暴食王から帝国に行われた提案についてだ。
歪虚と手を取り合うことは基本的にはできない。存在からして違うというのももちろんそうだが、あの歪虚たちのせいで帝国には少なくない犠牲が出ているのだ。戦わなければならないのは間違いないのだ、いずれは。
なので帝国人としてのクロウは戦って倒すべきだと、そう思う。
だが、クロウの立場はそれだけではない。クロウは錬金術師組合の正博士だ。
(組合としてはこの件をどう考えるか)
今、帝国は疲弊している。いや、帝国以外のすべてが今は大きな戦いを終えたばかりなのだ。この期に及んで暴食王と正面切って戦うことなどできない。
ただし、帝国が戦うというなら、それを止めることはできないだろう。つまり組合としては、戦闘は避けるべきと提案しつつ戦うなら反対はしない。こんなところだろう。
そして……一個人としてのクロウの考えというものもある。ただ、その考えは帝国に生きるものとして、一応は公人である人間の立場として口に出してはいけないものではないかとも思っていた。
(まぁ『今は歪虚と協力するべきだ』なんておおっぴらには言えねぇよなぁ……)
負の領域への旅路を思いながら、クロウはまた鍬を振るい始めた。
そう言って、鍬をザクザクと地面に打ち込んでいる男がいた。クロウである。
最近になって、クロウは何を思ったのか錬成工房近くの空き地を耕し始めていた。
まだ何を植えたわけでもない。ただひたすらに耕している。
例によって突拍子のないことを考え付いた……というわけではない。先に述べた言葉とは裏腹に、その表情はどこかすっきりとしないものだった。
実のところ、体を動かせればなんでもよかった。
「ふぅ……」
一息入れるためにクロウは水を飲みつつ座り込んだ。
(戦うべきか……戦わざるべきか……)
クロウが考えているのは、暴食王から帝国に行われた提案についてだ。
歪虚と手を取り合うことは基本的にはできない。存在からして違うというのももちろんそうだが、あの歪虚たちのせいで帝国には少なくない犠牲が出ているのだ。戦わなければならないのは間違いないのだ、いずれは。
なので帝国人としてのクロウは戦って倒すべきだと、そう思う。
だが、クロウの立場はそれだけではない。クロウは錬金術師組合の正博士だ。
(組合としてはこの件をどう考えるか)
今、帝国は疲弊している。いや、帝国以外のすべてが今は大きな戦いを終えたばかりなのだ。この期に及んで暴食王と正面切って戦うことなどできない。
ただし、帝国が戦うというなら、それを止めることはできないだろう。つまり組合としては、戦闘は避けるべきと提案しつつ戦うなら反対はしない。こんなところだろう。
そして……一個人としてのクロウの考えというものもある。ただ、その考えは帝国に生きるものとして、一応は公人である人間の立場として口に出してはいけないものではないかとも思っていた。
(まぁ『今は歪虚と協力するべきだ』なんておおっぴらには言えねぇよなぁ……)
負の領域への旅路を思いながら、クロウはまた鍬を振るい始めた。
リプレイ本文
●
ザクザクと地面を耕すクロウに声をかけてきたのはミグ・ロマイヤー(ka0665)だ。
「なんじゃ、遊びに来てはいかんのかえ?」
そう告げたミグに苦笑しつつ、クロウは鍬を置いた。ちょうど休憩しようと思っていたところだったのだ。
「おや、休憩ですか。それならちょうどよかった」
そこにやってきたのは修理品の受け取りに来たGacrux(ka2726)だ。
見ると、端の方にシートを広げ座っていたフィロ(ka6966)がお茶を淹れてくれていた。いくつか質問があると言って、クロウが作業を終わらせるのを待っていたのだ。
「休憩ついでに、世間話でもどうです? 色々考え込んでいるようですし」
図星を突かれたクロウは一瞬驚いたような表情を見せた。
「戦うべきではない」
クロウが「実は暴食王の件で」と口にした瞬間、ミグははっきりそう言った。
「理由をうかがってもよろしいですか」
「うむ。これまでは全く話し合いに応じてこなかった歪虚から停戦の申し出なのだから聞かぬわけにはいくまいよ」
もちろん相手は歪虚だから100%の信用などありはしない。だから見るだけ見てそれでどうするかを判断すればいい。ということだ。
「といっても、国是である以上基本的に歪虚は倒さにゃならんしなぁ」
クロウの国是という言葉に少し複雑そうな表情を浮かべるGacrux。
「確かに倒すべき狂った歪虚もいるのも事実ですが……人の心を持つ歪虚までも排除せねばならないのでしょうか」
月で世界に結界を張るという途方もない事が出来たのだから、人の心を持つ歪虚でも……周囲への負のマテリアルの影響が問題ならそれを抑える道具だって作れたのではないか。そうGacruxは考えていた。
「歪虚だからと諦め、やむなく消滅させていた部分もあったのではと……」
「その考えは否定できんのぅ。技術的な部分は今後の課題とはなってくるじゃろうが……」
憎い敵だから殺す。信用できないから殺すでは戦争とは呼べない。どこかでやめるという落としどころを見つけなければ、歪虚を殺しつくした後には人間同士で殺し合うことになるのは明白だとミグは続けた。
「戦いになれば被害は必至です。大切なものを失いたくない……この気持ちは当然誰にでもあるでしょう」
そのためにも、やはりここで戦いたくはないというのがGacruxの考えのようだ。これには、身を挺したハンターに暴食王が感化されたという話があり、その心を信じてみたい気持ちもあるそうだ。
「なんにせよ、正と負のマテリアル共にある形が世界の両輪なのだから人間との戦争同様休戦するという選択肢をミグは支持するのじゃ」
「人間との戦争同様、か……」
率直に面白い考えだとクロウは思った。生粋の帝国人であるクロウにはそも歪虚と人間を同一視することが難しかったからだ。歪虚と今後どうかかわっていくのか……
「多くの不可能を可能にしてきたのは技術者の力も大きいです。今後、北の浄化の研究のために多く必要とされると思います」
その過程でクリュティエ……知人である歪虚の先行きにも何か明るいものが得られれば良い、と……Gacruxは口には出さなかったが、そんな感情が察せられた。
「長話をしすぎたようですね。修理品は確かに」
「こっちこそ付き合わせて悪かったな」
話し込んでいたようですっかり日も暮れている。修理品を受け取ると、軽く頭を下げながらGacruxは去っていった。
「ではミグも帰るとするかの……クロウよ」
「ん?」
「忘れるでないぞ。暴食王がこちらを罠にはめようというのなら断固相手をするまでである」
Gacruxの姿が見えなくなったところでミグは小さく、しかしはっきりとそう告げて、ミグは背を向けた。
「私も今日は失礼いたします」
「あぁ、話があるってきてくれたのに結局待たせる形になってすまなかったな」
深々とお辞儀をして、フィロもまた去っていった。
●
次の日。作業をしていたところにアルマ・A・エインズワース(ka4901)と時音 ざくろ(ka1250)がやってきた。
2人はしばしクロウと一緒に土いじりをすると、休憩をとる。その時には、例によってフィロが敷いていたシートにメンテナンス中の武具を受け取りに来たキヅカ・リク(ka0038)の姿もあった。
「ふぅ……鍬使うのも武器とは違ったコツがあって……これだと考えちゃうな」
戻ってくるとき、その時ざくろはそんなことをこぼす。
「わふ? 何を考えるです?」
「うん。子供も増えるし嫁様達連れて東方に移住とかもあったんだけど、やっぱりリゼリオに住むか……あっ、自分の話ばっかりでごめんね、帝国もまだ大変そうなのに……多分悩んでるのもそのことだよね?」
ついつい自分の話をしすぎたと慌てたざくろは、そのままクロウに悩みを話すように促す。
「歪虚さんと強力、すごく素敵だと思うです! けど、僕は停戦反対派ですー」
クロウの話を聞き、アルマは停戦に関する意見を即座に否定する。
「暴食王さん、策略ができるってことは僕らを騙すのも簡単ですー。どーして信じるです? よく知らない子ですのに」
無垢なまなざしのまま、しかし、歪虚を信じない、信じるべきではない断言するかのようなアルマ。その言葉は全く持って正しく、クロウは返す言葉がなかった。
「やっぱりそういう人もいるよなぁ……」
静かに話をきいていたキヅカが口を開く。
異世界にやってきたことで、キヅカにもいろいろな変化があった。最たるものは結婚したことだろうか。今後はきっともとの世界に戻り、暴食王と戦うことはないだろう。
「だからこそ。今ここで僕はやつから目をそらしたらダメなんだと思う」
まず暴食王が弱体化し、人類側が戦力を増やしてことにあたることは今後ないだろうとキヅカは考えている。
「だよね。ざくろも今戦って倒すべきだって思う」
それにざくろも同意する。
「先延ばしにして平和が続いたら、段々と戦いの感覚鈍くなっていくんじゃないかって、それで急に戦う事になって戦えるのかって心配も……それはざくろ自身だって多分そう」
農具と武器の使い方は違う。農具に慣れれば武器の扱いを忘れてしまうかもしれない。
また、今でこそ一つの脅威に対して世界が同じ方向を向いてことに当たっていたのだが、数百年後それがどうなっているかはわからない。いや、きっとバラバラになっているだろうことは想像に難くない。
「強者は何かを阻害する道具に、弱者は世界の構図を変える力に……そんな風に駆け引きの要素にされる可能性が高いんじゃないか」
そんな危惧を提示し、キヅカは言葉を切った。
「……そうそう、クロウさん」
しばしの沈黙を破ったのはアルマだった。その手には指輪が光る。
「わふん。僕、最近結婚しましたです」
驚きの表情を浮かべるクロウだったが、アルマの相手が絶火の騎士という話を聞きさらに驚かされた。
「話がそれましたです……なので、暴食王さんに眠ってもらっても、あの子はいつか暴食王さんと戦うことになるです」
「……そうか、精霊だから……」
話を聞いていたざくろが呟くと、肯定するかのようにアルマが頷く。
精霊と暴食は相性が致命的に悪く、エルフの寿命は長い……とはいえ、限りはある。いつかは、相手を一人にしてしまう。
「だったら、僕が死んじゃう前に一緒に戦えたら。あの子も守れて一緒に戦場に出られて、二つ嬉しいことが増えるです! って思うことにしましたです」
普段の言動とは裏腹に大人びた表情を浮かべるアルマ。
「僕の大事な妻を、戦場で一人にしたくないだけの、ただの我儘ですよ」
「我儘、か……まぁ、ここまでは大人的な大義。本音は……ここで避ける道を選ぶ自分を、きっと未来の自分はどこかで後悔しながら生きていくと思うんだ」
アルマの話を受けてキヅカは言う。キヅカはこれを、最後の宿題と称した。
「……だから僕はやつから目をそらさない。乗り越えてみせる……必ず」
話し終わったときには、やはり日が暮れかけていた。
3人は手を振り、フィロも時間が遅いと今日も話をすることなく去っていく。
未来のために彼らは戦うべきだと言った。それは、今ある幸せが未来の脅威により壊させたくないという意思表示なのかもしれない。
「それにしても、嫁さんねぇ……うらやましい限りだ」
●
「クロウさん、インテリ男子からガテン系に転職ですぅ? もしや恋人さんにもっと胸板厚くしろとかせっつかれたんですぅ? いっくら重い物持って錬金するにしたってそれ以上筋肉は増えなさそうですもんねぇ」
次の日、作業はいきなりやってきた星野 ハナ(ka5852)のマシンガントークに中断させられる。
「いやぁ、男の人が女の人の胸やお尻ガン見するのとおんなじでぇ、私たちも男の人の胸の厚みとか腕の太さとかは結構見てますよぅ? 男の人ほどガン見しないだけでぇ」
「……まぁ、褒められたと思っておくぜ」
カッコつけてクール感を装っているが、満更ではなさそうなクロウ。その服の裾が不意に引っ張られる。振り向くと、そこにはディーナ・フェルミ(ka5843)が立っていた。
「……クロウさん、農民に転職しちゃったの? ……ゴッドブレス、必要かな?」
上目遣いでそう聞いてくるディーナ。
「いや、別に転職したわけじゃないし、なんでゴッドブレス使おうと……」
「偉い錬金術師のはずのクロウさんが突然こんなこと始めるの見たら、錬金術用に怪しい禁制品の栽培でも始めるのかなとか、熱中症で脳みそ煮えちゃったのかなとか、色々心配すると思うの」
「なるほどぉ、その可能性も……」
「ないから安心しろ」
納得したように手を打ったハナをたしなめるようにクロウは言った。
「クロウ様はこの数日悩んでいるのです」
助け舟を出すかのように発せられたフィロの言葉。その内容に興味を持った二人は、クロウから話を聞いた。
「なるほど、暴食王の話だったの……」
工房に戻ってきたクロウたちは、フィロにお茶を淹れてもらったお茶を飲みつつ話す。
「決戦が決まればもちろん参加しますけどぉ……今でも勝てる気はあんまりしませんしぃ、未来にはもっと勝てなさそうな気がしますぅ」
「今無理で、未来でも無理ならどうするってんだ?」
「正直、あと半年とか1年程度ならそこそこ勝機はあるかもって思いますぅ」
「……正直な話をすれば、今倒せないんじゃ未来でだって倒せないんじゃないかなって思うの。でも、今すぐの討伐は難しそうな気もするの」
未来に討伐するのは難しいというのに加え、今すぐ倒すのもまた難しいというのが二人の考えらしい。
「崑崙が戻るなら、リアルブルー出身の人たちはみんな帰りそうな気がするもの。エバーグリーンだってもうなくなっちゃった。でもみんな、邪神戦争の煽りで気が抜けちゃったから……」
そこで、ディーナは言葉を濁す。そのあとに続いてハナが話す。
「邪神戦争で喪った物が多くてみんなちょっとメンタルが削れてるんですよねぇ。邪神戦争自体も最後が怒涛過ぎて不完全燃焼でしたしぃ」
今倒すのが難しい理由がこれだろう。つまり、全体が疲弊しているということだ。それに関してはクロウも同意する。ただ、半年から1年以内というのも難しいだろう。
「そう、暴食王の切っている期限がそれと一致しないんですよねぇ。だから、暴食王との戦いは未来への持ち越しになりそうな気がしますぅ」
「でも、もうこんな高レベルハンターは要らないんじゃって話になってるみたいで。それは違うかなって私は思うの」
現状世界の流れは戦力を縮小していく方向に進んでいる。尤も、実際に停戦するとなれば未来のために戦力を維持していこうという方向に舵が切られる可能性もあるが。
「邪神が居なくても歪虚は発生する。放置すれば汚染領域も増える。だから……」
ディーナはクロウの目をまっすぐ見て言った。
「私は王国で高位聖導士の輩出に協力するよ。クロウさんは、帝国で高位機導師輩出とアイテム作りに邁進してほしい……人間領域をもっと広げて、暴食王を倒すために」
「そうだな。努力する……ハナは今後どうするんだ?」
「そうですねぇ。私は帝国での活動は薄いですけど、他は大体均等に依頼を受けてますからぁ。今後は辺境や龍園での活動は増えそうですけどぉ」
辺境や龍園ということは巫女の領域の話になるのだろうか。ハナもきっと未来に残るかもしれない課題のことを考えているのだろう。少なくともクロウはそう考えた。
2人を見送ったクロウは、フィロとともに工房に戻った。
「さて、今日はちっと時間が取れそうだな」
「そのようですね。お時間いただきありがとうございます」
お辞儀をして、フィロは話し始めた。
「クロウ様は帝国外に行かれるのに何か制約はおありでしょうか。ないのであれば、王国の聖導士学校は教鞭をとる教師を年中募集しておりますし、北征も南征も現地で研究をなさる方がここで鬱々と農作業なさるより目的に沿うかと思いましたが……違っておりましたでしょうか」
脳裏に先ほどの二人との会話が思い起こされる。確かにそう言った貢献の仕方もできるだろう。だが、同時にクロウは帝国人でもある。
「まぁ、一時的に出向くだけならともかく、そこに落ち着くわけにはいかねぇかもな」
「そうですか……では次です。オートマトンを分解すれば、精霊を定着させる方法に目処はつかれるでしょうか」
意思なきオートマトンのボディを雑魔が乗っ取るということも実際にあったらしい。それゆえに空のボディは放置できないそうだ。
「それにオフィスの未覚醒ボディがなくなれば、私達は種族として終わってしまう……悔しいのです、それでは」
フィロもまた、未来のことを考えていた。種族としての自分たちの未来を。
だが、今のクリムゾンウェストの技術ではフィロの希望はかなえられないだろう。
「ただ……技術ってのは進歩していくもんだ。お前さんの望みも俺たち技術者が歩みを止めなければきっとかなうだろう……答えとしてはこんなもんでどうだ?」
その回答にフィロが納得したかどうかは定かではない。
ただ、フィロは一言「ありがとうございます」と言って工房を後にしたのだった。
「……さて、俺も未来のために一働きしないといけねぇな」
●
次の日、朝早くからクロウは出かけた。ハンター達の意見を聞き、恐らくは暴食王と戦うことになるだろうことを察して。
一段落付いたらもっと本腰いれて研究に打ち込むのも良いだろう。あるいはきちんとした教育機関でも設立して、技術者の育成に力を尽くしてもいい。だが、先のことよりは目の前のことをなんとかしなければならない。
「魔導アーマーの用意に避難誘導、帝都が壊れたあとの復旧やらなにやら……まだまだ忙しい日が続きそうだな」
錬金術師組合の正博士に名を連ねるものとして、クロウは組合本部へと向かうのだった。
ザクザクと地面を耕すクロウに声をかけてきたのはミグ・ロマイヤー(ka0665)だ。
「なんじゃ、遊びに来てはいかんのかえ?」
そう告げたミグに苦笑しつつ、クロウは鍬を置いた。ちょうど休憩しようと思っていたところだったのだ。
「おや、休憩ですか。それならちょうどよかった」
そこにやってきたのは修理品の受け取りに来たGacrux(ka2726)だ。
見ると、端の方にシートを広げ座っていたフィロ(ka6966)がお茶を淹れてくれていた。いくつか質問があると言って、クロウが作業を終わらせるのを待っていたのだ。
「休憩ついでに、世間話でもどうです? 色々考え込んでいるようですし」
図星を突かれたクロウは一瞬驚いたような表情を見せた。
「戦うべきではない」
クロウが「実は暴食王の件で」と口にした瞬間、ミグははっきりそう言った。
「理由をうかがってもよろしいですか」
「うむ。これまでは全く話し合いに応じてこなかった歪虚から停戦の申し出なのだから聞かぬわけにはいくまいよ」
もちろん相手は歪虚だから100%の信用などありはしない。だから見るだけ見てそれでどうするかを判断すればいい。ということだ。
「といっても、国是である以上基本的に歪虚は倒さにゃならんしなぁ」
クロウの国是という言葉に少し複雑そうな表情を浮かべるGacrux。
「確かに倒すべき狂った歪虚もいるのも事実ですが……人の心を持つ歪虚までも排除せねばならないのでしょうか」
月で世界に結界を張るという途方もない事が出来たのだから、人の心を持つ歪虚でも……周囲への負のマテリアルの影響が問題ならそれを抑える道具だって作れたのではないか。そうGacruxは考えていた。
「歪虚だからと諦め、やむなく消滅させていた部分もあったのではと……」
「その考えは否定できんのぅ。技術的な部分は今後の課題とはなってくるじゃろうが……」
憎い敵だから殺す。信用できないから殺すでは戦争とは呼べない。どこかでやめるという落としどころを見つけなければ、歪虚を殺しつくした後には人間同士で殺し合うことになるのは明白だとミグは続けた。
「戦いになれば被害は必至です。大切なものを失いたくない……この気持ちは当然誰にでもあるでしょう」
そのためにも、やはりここで戦いたくはないというのがGacruxの考えのようだ。これには、身を挺したハンターに暴食王が感化されたという話があり、その心を信じてみたい気持ちもあるそうだ。
「なんにせよ、正と負のマテリアル共にある形が世界の両輪なのだから人間との戦争同様休戦するという選択肢をミグは支持するのじゃ」
「人間との戦争同様、か……」
率直に面白い考えだとクロウは思った。生粋の帝国人であるクロウにはそも歪虚と人間を同一視することが難しかったからだ。歪虚と今後どうかかわっていくのか……
「多くの不可能を可能にしてきたのは技術者の力も大きいです。今後、北の浄化の研究のために多く必要とされると思います」
その過程でクリュティエ……知人である歪虚の先行きにも何か明るいものが得られれば良い、と……Gacruxは口には出さなかったが、そんな感情が察せられた。
「長話をしすぎたようですね。修理品は確かに」
「こっちこそ付き合わせて悪かったな」
話し込んでいたようですっかり日も暮れている。修理品を受け取ると、軽く頭を下げながらGacruxは去っていった。
「ではミグも帰るとするかの……クロウよ」
「ん?」
「忘れるでないぞ。暴食王がこちらを罠にはめようというのなら断固相手をするまでである」
Gacruxの姿が見えなくなったところでミグは小さく、しかしはっきりとそう告げて、ミグは背を向けた。
「私も今日は失礼いたします」
「あぁ、話があるってきてくれたのに結局待たせる形になってすまなかったな」
深々とお辞儀をして、フィロもまた去っていった。
●
次の日。作業をしていたところにアルマ・A・エインズワース(ka4901)と時音 ざくろ(ka1250)がやってきた。
2人はしばしクロウと一緒に土いじりをすると、休憩をとる。その時には、例によってフィロが敷いていたシートにメンテナンス中の武具を受け取りに来たキヅカ・リク(ka0038)の姿もあった。
「ふぅ……鍬使うのも武器とは違ったコツがあって……これだと考えちゃうな」
戻ってくるとき、その時ざくろはそんなことをこぼす。
「わふ? 何を考えるです?」
「うん。子供も増えるし嫁様達連れて東方に移住とかもあったんだけど、やっぱりリゼリオに住むか……あっ、自分の話ばっかりでごめんね、帝国もまだ大変そうなのに……多分悩んでるのもそのことだよね?」
ついつい自分の話をしすぎたと慌てたざくろは、そのままクロウに悩みを話すように促す。
「歪虚さんと強力、すごく素敵だと思うです! けど、僕は停戦反対派ですー」
クロウの話を聞き、アルマは停戦に関する意見を即座に否定する。
「暴食王さん、策略ができるってことは僕らを騙すのも簡単ですー。どーして信じるです? よく知らない子ですのに」
無垢なまなざしのまま、しかし、歪虚を信じない、信じるべきではない断言するかのようなアルマ。その言葉は全く持って正しく、クロウは返す言葉がなかった。
「やっぱりそういう人もいるよなぁ……」
静かに話をきいていたキヅカが口を開く。
異世界にやってきたことで、キヅカにもいろいろな変化があった。最たるものは結婚したことだろうか。今後はきっともとの世界に戻り、暴食王と戦うことはないだろう。
「だからこそ。今ここで僕はやつから目をそらしたらダメなんだと思う」
まず暴食王が弱体化し、人類側が戦力を増やしてことにあたることは今後ないだろうとキヅカは考えている。
「だよね。ざくろも今戦って倒すべきだって思う」
それにざくろも同意する。
「先延ばしにして平和が続いたら、段々と戦いの感覚鈍くなっていくんじゃないかって、それで急に戦う事になって戦えるのかって心配も……それはざくろ自身だって多分そう」
農具と武器の使い方は違う。農具に慣れれば武器の扱いを忘れてしまうかもしれない。
また、今でこそ一つの脅威に対して世界が同じ方向を向いてことに当たっていたのだが、数百年後それがどうなっているかはわからない。いや、きっとバラバラになっているだろうことは想像に難くない。
「強者は何かを阻害する道具に、弱者は世界の構図を変える力に……そんな風に駆け引きの要素にされる可能性が高いんじゃないか」
そんな危惧を提示し、キヅカは言葉を切った。
「……そうそう、クロウさん」
しばしの沈黙を破ったのはアルマだった。その手には指輪が光る。
「わふん。僕、最近結婚しましたです」
驚きの表情を浮かべるクロウだったが、アルマの相手が絶火の騎士という話を聞きさらに驚かされた。
「話がそれましたです……なので、暴食王さんに眠ってもらっても、あの子はいつか暴食王さんと戦うことになるです」
「……そうか、精霊だから……」
話を聞いていたざくろが呟くと、肯定するかのようにアルマが頷く。
精霊と暴食は相性が致命的に悪く、エルフの寿命は長い……とはいえ、限りはある。いつかは、相手を一人にしてしまう。
「だったら、僕が死んじゃう前に一緒に戦えたら。あの子も守れて一緒に戦場に出られて、二つ嬉しいことが増えるです! って思うことにしましたです」
普段の言動とは裏腹に大人びた表情を浮かべるアルマ。
「僕の大事な妻を、戦場で一人にしたくないだけの、ただの我儘ですよ」
「我儘、か……まぁ、ここまでは大人的な大義。本音は……ここで避ける道を選ぶ自分を、きっと未来の自分はどこかで後悔しながら生きていくと思うんだ」
アルマの話を受けてキヅカは言う。キヅカはこれを、最後の宿題と称した。
「……だから僕はやつから目をそらさない。乗り越えてみせる……必ず」
話し終わったときには、やはり日が暮れかけていた。
3人は手を振り、フィロも時間が遅いと今日も話をすることなく去っていく。
未来のために彼らは戦うべきだと言った。それは、今ある幸せが未来の脅威により壊させたくないという意思表示なのかもしれない。
「それにしても、嫁さんねぇ……うらやましい限りだ」
●
「クロウさん、インテリ男子からガテン系に転職ですぅ? もしや恋人さんにもっと胸板厚くしろとかせっつかれたんですぅ? いっくら重い物持って錬金するにしたってそれ以上筋肉は増えなさそうですもんねぇ」
次の日、作業はいきなりやってきた星野 ハナ(ka5852)のマシンガントークに中断させられる。
「いやぁ、男の人が女の人の胸やお尻ガン見するのとおんなじでぇ、私たちも男の人の胸の厚みとか腕の太さとかは結構見てますよぅ? 男の人ほどガン見しないだけでぇ」
「……まぁ、褒められたと思っておくぜ」
カッコつけてクール感を装っているが、満更ではなさそうなクロウ。その服の裾が不意に引っ張られる。振り向くと、そこにはディーナ・フェルミ(ka5843)が立っていた。
「……クロウさん、農民に転職しちゃったの? ……ゴッドブレス、必要かな?」
上目遣いでそう聞いてくるディーナ。
「いや、別に転職したわけじゃないし、なんでゴッドブレス使おうと……」
「偉い錬金術師のはずのクロウさんが突然こんなこと始めるの見たら、錬金術用に怪しい禁制品の栽培でも始めるのかなとか、熱中症で脳みそ煮えちゃったのかなとか、色々心配すると思うの」
「なるほどぉ、その可能性も……」
「ないから安心しろ」
納得したように手を打ったハナをたしなめるようにクロウは言った。
「クロウ様はこの数日悩んでいるのです」
助け舟を出すかのように発せられたフィロの言葉。その内容に興味を持った二人は、クロウから話を聞いた。
「なるほど、暴食王の話だったの……」
工房に戻ってきたクロウたちは、フィロにお茶を淹れてもらったお茶を飲みつつ話す。
「決戦が決まればもちろん参加しますけどぉ……今でも勝てる気はあんまりしませんしぃ、未来にはもっと勝てなさそうな気がしますぅ」
「今無理で、未来でも無理ならどうするってんだ?」
「正直、あと半年とか1年程度ならそこそこ勝機はあるかもって思いますぅ」
「……正直な話をすれば、今倒せないんじゃ未来でだって倒せないんじゃないかなって思うの。でも、今すぐの討伐は難しそうな気もするの」
未来に討伐するのは難しいというのに加え、今すぐ倒すのもまた難しいというのが二人の考えらしい。
「崑崙が戻るなら、リアルブルー出身の人たちはみんな帰りそうな気がするもの。エバーグリーンだってもうなくなっちゃった。でもみんな、邪神戦争の煽りで気が抜けちゃったから……」
そこで、ディーナは言葉を濁す。そのあとに続いてハナが話す。
「邪神戦争で喪った物が多くてみんなちょっとメンタルが削れてるんですよねぇ。邪神戦争自体も最後が怒涛過ぎて不完全燃焼でしたしぃ」
今倒すのが難しい理由がこれだろう。つまり、全体が疲弊しているということだ。それに関してはクロウも同意する。ただ、半年から1年以内というのも難しいだろう。
「そう、暴食王の切っている期限がそれと一致しないんですよねぇ。だから、暴食王との戦いは未来への持ち越しになりそうな気がしますぅ」
「でも、もうこんな高レベルハンターは要らないんじゃって話になってるみたいで。それは違うかなって私は思うの」
現状世界の流れは戦力を縮小していく方向に進んでいる。尤も、実際に停戦するとなれば未来のために戦力を維持していこうという方向に舵が切られる可能性もあるが。
「邪神が居なくても歪虚は発生する。放置すれば汚染領域も増える。だから……」
ディーナはクロウの目をまっすぐ見て言った。
「私は王国で高位聖導士の輩出に協力するよ。クロウさんは、帝国で高位機導師輩出とアイテム作りに邁進してほしい……人間領域をもっと広げて、暴食王を倒すために」
「そうだな。努力する……ハナは今後どうするんだ?」
「そうですねぇ。私は帝国での活動は薄いですけど、他は大体均等に依頼を受けてますからぁ。今後は辺境や龍園での活動は増えそうですけどぉ」
辺境や龍園ということは巫女の領域の話になるのだろうか。ハナもきっと未来に残るかもしれない課題のことを考えているのだろう。少なくともクロウはそう考えた。
2人を見送ったクロウは、フィロとともに工房に戻った。
「さて、今日はちっと時間が取れそうだな」
「そのようですね。お時間いただきありがとうございます」
お辞儀をして、フィロは話し始めた。
「クロウ様は帝国外に行かれるのに何か制約はおありでしょうか。ないのであれば、王国の聖導士学校は教鞭をとる教師を年中募集しておりますし、北征も南征も現地で研究をなさる方がここで鬱々と農作業なさるより目的に沿うかと思いましたが……違っておりましたでしょうか」
脳裏に先ほどの二人との会話が思い起こされる。確かにそう言った貢献の仕方もできるだろう。だが、同時にクロウは帝国人でもある。
「まぁ、一時的に出向くだけならともかく、そこに落ち着くわけにはいかねぇかもな」
「そうですか……では次です。オートマトンを分解すれば、精霊を定着させる方法に目処はつかれるでしょうか」
意思なきオートマトンのボディを雑魔が乗っ取るということも実際にあったらしい。それゆえに空のボディは放置できないそうだ。
「それにオフィスの未覚醒ボディがなくなれば、私達は種族として終わってしまう……悔しいのです、それでは」
フィロもまた、未来のことを考えていた。種族としての自分たちの未来を。
だが、今のクリムゾンウェストの技術ではフィロの希望はかなえられないだろう。
「ただ……技術ってのは進歩していくもんだ。お前さんの望みも俺たち技術者が歩みを止めなければきっとかなうだろう……答えとしてはこんなもんでどうだ?」
その回答にフィロが納得したかどうかは定かではない。
ただ、フィロは一言「ありがとうございます」と言って工房を後にしたのだった。
「……さて、俺も未来のために一働きしないといけねぇな」
●
次の日、朝早くからクロウは出かけた。ハンター達の意見を聞き、恐らくは暴食王と戦うことになるだろうことを察して。
一段落付いたらもっと本腰いれて研究に打ち込むのも良いだろう。あるいはきちんとした教育機関でも設立して、技術者の育成に力を尽くしてもいい。だが、先のことよりは目の前のことをなんとかしなければならない。
「魔導アーマーの用意に避難誘導、帝都が壊れたあとの復旧やらなにやら……まだまだ忙しい日が続きそうだな」
錬金術師組合の正博士に名を連ねるものとして、クロウは組合本部へと向かうのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 |