ゲスト
(ka0000)
【未来】年去り、来る
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/09/26 22:00
- 完成日
- 2019/10/03 01:03
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王国歴1020年。歳末。
●グラウンド・ゼロは今
今年の5月、グラウンド・ゼロにおいてエバーグリーンの都市『セントラル』が再稼働された。
これによって当地で働くハンターたちの職場環境は、ぐんと改善された。テントで夜明かしし、ろくに風呂にも入れず、口にするのはほぼ携帯食――そんな苛酷な状態から、ようやく脱することが出来たのだ。
転移門が開設されてからは、非汚染地帯との行き来も俄然しやすくなった。
セントラルの中は負のマテリアルの影響を受けなくてすむので、一般人も滞在可能だ。目端の利く商人などは、早速小型店舗を開設している(グリーク商会も無論早々に乗り込んでいる)。
浄化が進み人が安心して住める地になれば、セントラルは1つの拠点ではなく1つの都市国家として、大きな飛躍を遂げるであろう。
●リゼリオの歳末
グラウンド・ゼロからリゼリオの自宅に戻ってきたカチャは、まず暖かいココアを飲んで一息ついた。
窓の外。温暖なリゼリオには珍しく、雪がちらついている。
建設中のナディアタワーが通りの屋根ごしに見える。
リアルブルー様式で作られているタワーについて、市民の一部は、『都市同盟の伝統的町並みにそぐわぬ醜いものを建てて』と眉を顰めている。
カチャはそうは思わない。確かに今は浮いているけど、自然に見慣れて行くだろうと考えている。物事、何でも慣れなのだ。
「――さてと」
ココアを飲み干したカチャは、席を立つ。
これから行かなければならないところがあるのだ。仲間と一緒に。
●ユニゾンの歳末
今年ユニゾンは自由都市同盟に加入した。
そして市民が増えた。
目覚ましくというレベルではないにせよ、とにかく増えた。現段階で、総勢200人といったところか。
一番多いのはやっぱりコボルドだ。島のコボルドたちから『とてもよいぼす・まごい』の話を伝え聞き『そんなにいいぼすがいるむれなら、はいりたい』とやってきたのである。
だがほかの種族もぽつぽつ参加してきている。
まず人間。ついでリザードマン――つい最近、ドワーフも島へ見学に来た。
動機は、『これまでにない建築様式で出来た町があると聞いたので、ぜひ見たい』というものであったが、市民募集についても著しく興味を示していたとのこと。
よく考えてみればユニゾンは、地下にも居住空間を作るし、もの作りと土木建築がことのほか好きだし、働くことはいいことだという通念を持つし……意外にドワーフと親和性が高いかもしれない。
逆にエルフとは合わないかもしれない。
そんなことを思いながらニケは、イルミネーションに彩られた港湾地区を眺める。水路の手摺りにもたれ、ポケットから取り出した細長い紙筒を咥える。魔導ライターで火をつける。息を吸い込む。
その途端、紙筒がさっと口元から取り上げられた。
ニケは傍らにきつい眼差しを向ける。
そこにはマルコが立っていた。成長期にあるからだろう、彼は随分背が高くなっている。そろそろ、ニケを追い抜く勢いだ。
「……マルコさん、何のつもりですか」
「煙草は体に悪いですよ」
「返しなさい」
「息がヤニ臭いって、女性にとってマイナスイメージになると思いますけど」
ふてぶてしく返してくる相手の胸元にニケの手が伸びる。ネクタイを思い切り引っ張り、顔を近づけさせる。
とっさのことに固まるマルコ。
その顔に息が吹きかけられた。すうっと冷たい、ハッカの匂い。
「ヤニ臭いですか?」
「……いいえ」
「でしょうね。安心してください。これは煙草じゃなくて清涼剤です」
ニケの手がネクタイから外れた。
マルコに取られたものを引ったくり返す。そしてまた口に咥える。煙をくゆらせる。
「この程度で動揺してるようじゃ、まだまだですね」
マルコは悔しげにニケを見た。頭の半分が痺れるような感覚に、舌が少しもつれる。
「……してませんよ、そんなには」
そこに近づいてくる足音。だみ声。
「ニケの姉さん、ハンターの皆さんが来られましたぜ。魔術師協会のタモンさんも」
「分かりました、ブルーチャーさん――行きましょうか、マルコさん」
「はい」
●新生スペット
市民生産機関、ラボセクション。
マゴイは手術カプセルのカバーを開いた。
スペットの裸体のあちこちに絡み付いていた極細の管が、一本、また一本離れて行く。満ちていた溶液が引いて行く。耳、口、鼻に差し込まれていたチューブが引き抜かれて行く。
ぴょこが近くでじれったそうに跳ねている。
『のう、μよ、βは無事かの、かの。起きてこんのじゃが』
『……静かに……』
ひゅっと息を吸い込む音がした。
目が開く。猫の目ではなく、人の目が。
寝ぼけたように瞬きを繰り返した後、正気づいて起き上がる。
自分の顔を触って歓喜の声を上げる。
「――戻っとる……戻っとるぞー!」
ぴょこもつられて騒ぎ出す。
『おお! βの顔が人になったのじゃ、のじゃ!』
マゴイは間髪入れず『理性の声』を口にした。
《落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて》
条件反射によってぴたっと動きを止められる、もとワーカーとソルジャー。
「……お前な、そういうの止めろやいうて、ハンターに言われてるやろ」
『……そうだったわね……でもここで騒いでは駄目……ウテルスは今……新しい市民を育成している……そして今日また……新しく市民になる受精卵を迎える……この時期は安静が一番大事……』
「あのな、ここでどんだけ声あげたかて、ウテルスには聞こえへんやろ」
『聞こえるとか聞こえないとかそういうことは問題ではない……とにかく騒いでは駄目……いけない……駄目と言ったら駄目なので駄目……』
神経質になっているマゴイに何を言っても無駄だと、スペットは嘆息する。
なんだかもう彼女自身が、卵を抱いているかのようだ。
●去り行くもの
市民生産機関、遺伝情報セクション。
高い高い天井。螺旋を描き、はるか下の暗がりへ――ウテルスへ降りて行く可動式の棚。
棚の片隅に、半透明の小さな箱。触ればふにりと柔らかい。だが、果てしなく丈夫だ。中に収めた大事な大事な卵を守るために。
アスカとジグは分厚い壁に穿たれた小さな窓ごしに、ゆるゆる降りていく箱を見送っている。
それ以上のことは出来ない。ここから先は完全にマゴイの領域だ。ステーツマンを除く他の階級は、入ってはいけない。
アスカの顔色は非常に悪い。ジグも、いいとは言えない。
「……あれが生まれるところ、見られないね」
「……そんなことないだろ、そのくらいまでは持つだろ」
「……あんたはそうかもしれないけど、私は無理……ところであんたまで、何で遺伝情報を登録したの?」
「……お前と似たような感じ。なんか残しておきたくて」
●グラウンド・ゼロは今
今年の5月、グラウンド・ゼロにおいてエバーグリーンの都市『セントラル』が再稼働された。
これによって当地で働くハンターたちの職場環境は、ぐんと改善された。テントで夜明かしし、ろくに風呂にも入れず、口にするのはほぼ携帯食――そんな苛酷な状態から、ようやく脱することが出来たのだ。
転移門が開設されてからは、非汚染地帯との行き来も俄然しやすくなった。
セントラルの中は負のマテリアルの影響を受けなくてすむので、一般人も滞在可能だ。目端の利く商人などは、早速小型店舗を開設している(グリーク商会も無論早々に乗り込んでいる)。
浄化が進み人が安心して住める地になれば、セントラルは1つの拠点ではなく1つの都市国家として、大きな飛躍を遂げるであろう。
●リゼリオの歳末
グラウンド・ゼロからリゼリオの自宅に戻ってきたカチャは、まず暖かいココアを飲んで一息ついた。
窓の外。温暖なリゼリオには珍しく、雪がちらついている。
建設中のナディアタワーが通りの屋根ごしに見える。
リアルブルー様式で作られているタワーについて、市民の一部は、『都市同盟の伝統的町並みにそぐわぬ醜いものを建てて』と眉を顰めている。
カチャはそうは思わない。確かに今は浮いているけど、自然に見慣れて行くだろうと考えている。物事、何でも慣れなのだ。
「――さてと」
ココアを飲み干したカチャは、席を立つ。
これから行かなければならないところがあるのだ。仲間と一緒に。
●ユニゾンの歳末
今年ユニゾンは自由都市同盟に加入した。
そして市民が増えた。
目覚ましくというレベルではないにせよ、とにかく増えた。現段階で、総勢200人といったところか。
一番多いのはやっぱりコボルドだ。島のコボルドたちから『とてもよいぼす・まごい』の話を伝え聞き『そんなにいいぼすがいるむれなら、はいりたい』とやってきたのである。
だがほかの種族もぽつぽつ参加してきている。
まず人間。ついでリザードマン――つい最近、ドワーフも島へ見学に来た。
動機は、『これまでにない建築様式で出来た町があると聞いたので、ぜひ見たい』というものであったが、市民募集についても著しく興味を示していたとのこと。
よく考えてみればユニゾンは、地下にも居住空間を作るし、もの作りと土木建築がことのほか好きだし、働くことはいいことだという通念を持つし……意外にドワーフと親和性が高いかもしれない。
逆にエルフとは合わないかもしれない。
そんなことを思いながらニケは、イルミネーションに彩られた港湾地区を眺める。水路の手摺りにもたれ、ポケットから取り出した細長い紙筒を咥える。魔導ライターで火をつける。息を吸い込む。
その途端、紙筒がさっと口元から取り上げられた。
ニケは傍らにきつい眼差しを向ける。
そこにはマルコが立っていた。成長期にあるからだろう、彼は随分背が高くなっている。そろそろ、ニケを追い抜く勢いだ。
「……マルコさん、何のつもりですか」
「煙草は体に悪いですよ」
「返しなさい」
「息がヤニ臭いって、女性にとってマイナスイメージになると思いますけど」
ふてぶてしく返してくる相手の胸元にニケの手が伸びる。ネクタイを思い切り引っ張り、顔を近づけさせる。
とっさのことに固まるマルコ。
その顔に息が吹きかけられた。すうっと冷たい、ハッカの匂い。
「ヤニ臭いですか?」
「……いいえ」
「でしょうね。安心してください。これは煙草じゃなくて清涼剤です」
ニケの手がネクタイから外れた。
マルコに取られたものを引ったくり返す。そしてまた口に咥える。煙をくゆらせる。
「この程度で動揺してるようじゃ、まだまだですね」
マルコは悔しげにニケを見た。頭の半分が痺れるような感覚に、舌が少しもつれる。
「……してませんよ、そんなには」
そこに近づいてくる足音。だみ声。
「ニケの姉さん、ハンターの皆さんが来られましたぜ。魔術師協会のタモンさんも」
「分かりました、ブルーチャーさん――行きましょうか、マルコさん」
「はい」
●新生スペット
市民生産機関、ラボセクション。
マゴイは手術カプセルのカバーを開いた。
スペットの裸体のあちこちに絡み付いていた極細の管が、一本、また一本離れて行く。満ちていた溶液が引いて行く。耳、口、鼻に差し込まれていたチューブが引き抜かれて行く。
ぴょこが近くでじれったそうに跳ねている。
『のう、μよ、βは無事かの、かの。起きてこんのじゃが』
『……静かに……』
ひゅっと息を吸い込む音がした。
目が開く。猫の目ではなく、人の目が。
寝ぼけたように瞬きを繰り返した後、正気づいて起き上がる。
自分の顔を触って歓喜の声を上げる。
「――戻っとる……戻っとるぞー!」
ぴょこもつられて騒ぎ出す。
『おお! βの顔が人になったのじゃ、のじゃ!』
マゴイは間髪入れず『理性の声』を口にした。
《落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて》
条件反射によってぴたっと動きを止められる、もとワーカーとソルジャー。
「……お前な、そういうの止めろやいうて、ハンターに言われてるやろ」
『……そうだったわね……でもここで騒いでは駄目……ウテルスは今……新しい市民を育成している……そして今日また……新しく市民になる受精卵を迎える……この時期は安静が一番大事……』
「あのな、ここでどんだけ声あげたかて、ウテルスには聞こえへんやろ」
『聞こえるとか聞こえないとかそういうことは問題ではない……とにかく騒いでは駄目……いけない……駄目と言ったら駄目なので駄目……』
神経質になっているマゴイに何を言っても無駄だと、スペットは嘆息する。
なんだかもう彼女自身が、卵を抱いているかのようだ。
●去り行くもの
市民生産機関、遺伝情報セクション。
高い高い天井。螺旋を描き、はるか下の暗がりへ――ウテルスへ降りて行く可動式の棚。
棚の片隅に、半透明の小さな箱。触ればふにりと柔らかい。だが、果てしなく丈夫だ。中に収めた大事な大事な卵を守るために。
アスカとジグは分厚い壁に穿たれた小さな窓ごしに、ゆるゆる降りていく箱を見送っている。
それ以上のことは出来ない。ここから先は完全にマゴイの領域だ。ステーツマンを除く他の階級は、入ってはいけない。
アスカの顔色は非常に悪い。ジグも、いいとは言えない。
「……あれが生まれるところ、見られないね」
「……そんなことないだろ、そのくらいまでは持つだろ」
「……あんたはそうかもしれないけど、私は無理……ところであんたまで、何で遺伝情報を登録したの?」
「……お前と似たような感じ。なんか残しておきたくて」
リプレイ本文
●歳末、ジェオルジ
夏には緑の丘また丘も、この季節には白また白。
「おめでとう、マリー。体調はどう?」
マリィア・バルデス(ka5848)から果物籠を渡されたマリーは、大いに戸惑い目を白黒。
「え? 体調? まあ、風邪とかはひいてないけど……ていうか、おめでとうって? 今日、何かあったっけ?」
「……あら? マリーの所もおめでただって聞いた気がしていたんだけど……聞き間違いだったのかしら」
「えっ、ええっ!? やだ、違うわよ、そんな、どこからそんな話聞い…………え? 『も』?」
マリーは視線をマリィアの腹部に向け『あっ』という顔。
マリィアも自分の腹部に目をやり、あっさり肩を竦める
「うちは女の子よ。エコーで見て、なかったらしいわ」
と言いながら、足元で骨クッキーをほお張るコボちゃん撫で撫でする。
「コボちゃんはすぐ気づいたのよね。まだ目立たないかなって思ったんだけど」
ともあれそこから両者一息つき、椅子に腰掛けての近況報告。世間話に花が咲く。
「マリーとナルシスの結婚にはこっちもやきもきしたもの。結局あの実家にはちょこちょこ帰ってるの?」
「うん、まあ、前よりは。お父さんうるさいのよ、ナルシスくんの仕事はどうなったどうなったって」
「まあ、相変わらずね。マリーたちの子供なら絶対美形間違いなしなんだから、顔見せしないくらいの意地悪はしてもよさそうに思うけどね」
「あ、それいいかも。父さんも一生に一度くらいは外に出てみるべきよね。まだ辛うじてそれが出来る年だったと思うし――カチャがユニゾンに行ってる話は、聞いた?」
「ええ、今さっきコボちゃんからね。スペットの顔が戻ったなら、私もお祝いに行こうかしら。コボちゃんも一緒に行かない?」
●ユニゾン、港湾地区
ユニゾン・グリーク商会出張所――改め今は支店。
普段この時間は閉店しているのだけど、今夜は明かりがついている。
ハンターが貸し切っているのだ。スペットの顔復元祝いのために。
ニケたちを探し呼びに行ったブルーチャーは、一人で帰ってきた。
聞けば後からマルカ・アニチキン(ka2542)がやってきて、ニケと話をし始めたのだという。
「それで、わしゃ先に戻ってきたんで。どうも内密の話らしき雰囲気だったんで」
との説明を聞いた天竜寺 詩(ka0396)は腕時計を眺め、気を揉む。
「スペットたちが来るまでに、全員揃ってる方がいいんだけどなあ」
傍らにいるルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、カチャと話をしている。
「へえ、ルンルンさん、東方に移住したんですか」
「はい。東方と言ったらニンジャの本場です、いずれリリカル衆とかシアンカ忍軍アーモンド衆とか率いる大ニンジャになっちゃうんだからっ。そういえばカチャさん、エルさんの部落で修行してたそうですね」
「ええ。正確には部落じゃなくて、そこから離れたところにある魔境ですけどね」
「どういう修行だったんですか?」
「えーと、まずはウォーミングアップのサバイバル。三日三晩裸で、極寒の地にほうり出されるんですよ。それがすんだら200キロの装備を背負って魔境での戦闘訓練と、行軍訓練。休憩中にも魔境での戦闘に特化した覚醒者による襲撃がありましたね。一時間に一回くらいの割合で。後、42時間ぶっ続けでど詰めされる尋問訓練とか、両手足縛られて湖に投げ込まれて脱出方法の訓練とか」
いやー……と長く引っ張った後カチャは、真顔になった。
「地獄でしたね」
エルバッハ・リオン(ka2434)はすまし顔で言う。
「でも、格段にスキルアップはしましたでしょう?」
「しましたけどね。訓練の最中は、もう完全に鬼教師でしたよエルさん」
ぼやいたカチャの尻を、涙が出るほど思い切り抓る。
「いったあ!」
「馬鹿言っちゃいけません。手加減してましたよ」
「あれでですか!?」
驚愕し聞き返すカチャにリオンは、口を尖らせすねた顔。
「ええ。大学関係者や生徒に迷惑をかけるわけにはいきませんから。本当はもっと色々したかったんです」
「いたたた! 止めてください抓るの! 本気で痛いから!」
●未来に投資
「いいんですか?」
試すようなニケの言葉にマルカは、いいんです、と勢いつけて頷いた。
「グリーク商会の株を購入させてください。もし可能なら、今度ナルシスさんが新しく立ち上げるというアパレル分野に全額投資したいのですがっ!」
マルコが脇から忠告する。
「10,000,000Gと言えば、結構な大金ですよ? 何部門かに分けた方がいいんじゃないですか?」
だがマルカは肯んじない。
「今の世界、この世が戦場なら金は弾丸……頭の中でジルボさんがそう囁くのです」
ニケが朗らかに笑う。
「分かりました。それではそのように手配致しましょう」
差し出された彼女の手をマルカは、力強く握った。
(うまく行きました……これでナルシスさんの会社に社会的信用があると、マリーさんの両親に信頼いただくことが出来ますっ……!)
●忠言耳に逆らう
白と青の薔薇がついた髪飾。胸には白と青の大ぶりな薔薇のコサージュ。それらはルベーノ・バルバライン(ka6752)からの贈り物。
白と青の貝殻と花を連ねた首飾り、腕飾り。それらはコボルド・ワーカーからの贈り物。
その両者をマゴイは、ドレッシーな礼服と併せ身につけている。
本日はユニゾン唯一の祭日だから、そういうことをしてもよい。
マゴイは、トリプルJ(ka6653)の疑問に対し事細かに答えた。
以下はその要約だ。
「自分はユニゾンの領主ではない。新しいステーツマンが生まれてくるまでの、臨時代表者である」
「ハンターオフィスや分霊樹の設置はいずれ行う」
「他の都市から軍事協力を求められても、人道支援以外は応じない。その旨はすでに同盟に伝えてあるし向こうもそれを了承した」
懸念していた問題に対し回答を得たJは、彼女の傍らにいるルベーノに目配せする。これから話すことに口ぞえしてくれよと。
ルベーノは軽く頷き、マゴイに語りかけた。
「μ、お前に相談があるのだが。子供たちの未来に協力してもらえないだろうか」
から始まってしばらく話し合いが行われる。
結論としてマゴイは、彼らの提案『ルル総合大学の生徒達――ハンターを目指し世界の浄化を志す子供たちが、将来セントラルで働く時のため、ユニゾンで教育研修を受けさせ、EGの技術に慣れさせてやって欲しい』を受け入れた。
『……それはとてもよい……喜んで迎えるわ……ユニゾンがとてもよいところだということを……ぜひ知ってもらいたい……』
市民が増えるかもと期待している向きもあるもよう。
(階級色規定に沿った衣料品生産も、これから本格的に始めるとか言っていたしな。まあ、それはそれでいいのだが……)
ルベーノは気を引き締めた。
決めたのだ。今後の彼女とユニゾンのために、これまで避けてきたところを口にしようと。
「それと、な。お前が嫌がると分かっているが、1度だけ踏み込むことを赦してくれ」
マゴイは首をかしげてルベーノを見た。
「……お前達はウテルスで人を増やす。ウテルスのない我々が人を増やすには、母体に頼るしかない」
ここまでは彼女も落ち着いていた。
しかし次の台詞に入ったところで、明らかに感情を乱し始めた。
「お前がウテルスに抱く敬意を、俺達は普遍的な母と言う存在に感じている」
眉間にしわがよる。表情がこわばっていく。顔に血が上り始める。髪がなびき始める。
まずいんじゃないかと傍で見ているJは感じたが、事実その通りだった。
「お前が子供を気に掛ける行動は、俺達の世界では子を守る母がする行動だ。お前が卑猥と感じ差別する【母】と言う存在は、俺達にとっては敬意と思慕の象徴――」
『 うてるす と わたし を ははおや よばわり するとは なにごと なの 』
かくて平手打ちがルベーノを襲う。
●おめでとうスペット
『早う早う、皆、βのお祝いに来てくれたのじゃ』
「分かったがな」
スペットはぴょこに手を引かれるまま、グリーク商会ユニゾン支店へ。
クラッカーと歓呼の声が彼を迎える。
「スペットさん、おめでとうございます!」
「スペット、元の顔に戻れてよかったね!」
「人間復帰、おめでとう!」
ルンルンは一同を代表し、東方みやげの詩天紅白まんじゅうをスペットとぴょこに贈呈する。
猫じゃなくなったからもう又吉と呼べなくて寂しいとか、人間顔結構イケてる方かもとか、さまざまな思いを抱えながら。
「又き……スペット、真人間に戻れておめでとうございます!!」
「おう、ありがとな!」
「刑期も後一年って聞きました、それを終えたらほんとのほんとに真人間なんだからっ……その時はまたお祝いに来ちゃいますね」
ぴょこが、びしと手を挙げた。
『わしからもプレゼントあるのじゃ! 詩と一緒に作ったでな!』
そう言って店の奥へ跳ねていく。
カチャは詩に聞いた。
「何を作ったんです?」
「お祝いのケーキ。今回はデコレーション、すごくうまくいったんだよ」
そこにニケたちが戻ってくる。
「おや、もう始まっていますか」
続けて、想定外のお客様。コボちゃんを連れたマリィア。
「あら……本当に猫の顔じゃなくなったのね。あれはあれで格好良かったのに。残念だわ、おめでとう」
店の奥からぴょこが、三段重ねのスペシャルケーキを持って登場。
『んむ? おう、マリィアも来たのか。ちょうどよいで、一緒に食うていくとよいのじゃ、のじゃ』
飾り付けが無難の範疇に何とか収まっていることに、スペットはいたく感動した。
「θ、えろうなったなあ……」
その後しばらくして、詩と他数名は場を辞した。ジグとアスカに会うために。
ここのところ彼らはずっと、医療施設に泊まっているそうなのだ。コボルド・ワーカーたちがそう言っていた。
●内密にご相談
マゴイを探してユニゾン島をうろついていた星野 ハナ(ka5852)は、波止場にたたずむ彼女を見つけた。
なんだか知らないが、顔が上気している。眉間に皺。髪の端が若干持ち上がりうねっている。
(……ご機嫌悪いんですかねぇ……?)
重々気をつけつつ近づき声をかけ、話を切り出す。
「ステーツマンとマゴイになる遺伝子情報って集まってますぅ?」
『……いいえ……その2階級については……まだ登録はないわ……』
とするとユニゾンの転移システムは、差し当たりマゴイ一人で回すことになるわけだ。
なら『万一』の事態が起きぬよう防衛力を高めなくては、とハナは強く彼女に説く。
「ステーツマンとマゴイに当面代替が居ないならぁ、もっとソルジャーを厚くするべきだと思うんですぅ。庇える戦士はもう居ると思いますのでぇ、足留めや回復のスキル持ちをもっと勧誘したらいいんじゃないでしょおかぁ」
とはいえ、そんなにすぐには都合よく集まらないだろう。そもそも市民になる気を起こす人の方がレアなのだ。
だから、と彼女は続ける。
「私の遺伝子、ソルジャー用に登録させてくれませんか? この地も私にとっては深紅ちゃんの守護する守るべき土地の1つですぅ。危険が予見されてるのに手を打たないのはあり得ないんですよぅ」
この朗報でマゴイは、たちまち機嫌を持ち直した。愁眉が開かれ髪が元通りになる。
『……それはとてもよいこと……感謝する……ウテルスも喜ぶ……でも登録するに当たって……ちょっと注意事項をよいかしら……?』
「なんです?」
『……遺伝情報でどの階級を生み出すか……提供者には決められない……あなたはソルジャーに使ってほしいと言ったけれど……審査の結果別の階級に向いていると判断されれば……そちらに使用される可能性もある……それでもよい?……』
「いいですよ」
この機会を逃さず、他にもお願い、というか提案を。
「後、ジグくんとアスカちゃんのことなんですけどぉ――」
●港湾の一角で男たちは
町角のウォッチャーはJの質問に答える。
【現在ユニゾンにドワーフの市民はおりません。また、アルコール類の販売は致しておりません】
そのあたりはドワーフの市民が出来たとき、改めての検討課題となるだろうか。
思いつつJは、ルベーノの左頬を見る。
「いやー、見事なビンタだったな」
「はっはっは。結界を重ねてきていたからな。結構な衝撃だったぞ」
「ま、他ならぬあんたが言うことだ、マゴイもスルーは出来ないだろ。んで、来年あんたの血を引くソルジャーが、ウテルスから生まれるわけだ。正直どんな気分なんだ?」
「そうだな、ちょっと説明しづらいな。俺の子というわけではないし、向こうも父親とは認識しまい。だが悪い気分ではないぞ? けしてな」
●LONG GOODBYE
ひさかた振りに見たアスカは随分痩せていた。ジグも。どちらも体調が思わしくないのは一目瞭然だった。
「こんにちは――いえこんばんは、久しぶりね」
としかマリィアは言えなかった。この有様を前に「体調はどう?」なんて続けることが、あまりに空々しいと思えて。
「あの、さ。よかったら少し島を回らない?」
そう言いながら詩は、自分が連れてきたイェジドを指す。
「ついでだからさ、乗ってみてよ。二人とも幻獣にまだ乗ったこと、ないでしょ?」
イェジドは大きな尾をバサバサと振った。
マルカの連れてきた犬は鼻を鳴らし、アスカの手を嘗める。
アスカはくすぐったそうに身をよじり、目を細める。ジグが聞く。
「どうする?」
「行く。最近仕事もサボってばっかりだしね……こんな日くらいは見回りしないと」
「そう来なくちゃ」
明るく言って詩は二人をイェジドに乗せ、外に連れ出す。
人が多い場所は疲れるかもしれないので、海岸沿いを歩く。マルカの馬がぽっかぽっかと、一同の後をついて行く。
「島も大分賑やかになったね。人も増えたし、開いてるお店も増えたし」
「……そうね。新しく、リザードマンのソルジャーも入ったし――このまま次が誰も来なかったらまずいな、とか思ってたんだけど、よかった」
「これからソルジャーが生まれるって言ったって、大人になるまでに十年以上はかかるんだしなあ」
会話が途切れる。
そこでマリィアが出し抜けに言った。
「たった2人のソルジャーなんだもの、お互いのことが嫌いでないなら、結婚したっていいんじゃないかしら」
ジグが、考え込むような顔をした。だが、すぐ首を振る。
「それは、あんまり意味ないんじゃいかな。俺たちは人生最晩年に入ってるわけだし」
マリィアはぴしゃりと、切れよく返す。だから何だと言うように。
「私ね、結婚したわ。夫も強化人間で軍人よ。倒れて死ぬまで、一緒に軍人で居ましょうねって約束したわ。だから、私は幸せよ」
イェジドに体をもたれかけさせていたアスカは、のろのろと息を吐く。
「私はそういう話、御免こうむるわ……別にジグが嫌いな訳じゃないけどさ……結婚だの家族だのにいいイメージ全然持てないのよ、悪いけど……」
南の風が甘い花の香りを含み、皆の顔を撫でて行く。
マルカはエボニースタッフを軽く振った。
「ちょっと雪があると、いいですね。年末ですし」
ジグとアスカを中心とした一帯に、白いハート型の雪が散り始める。マテリアルによる幻の雪だ。
だけどそれは、雪というよりも、ハートというよりも、桜吹雪のようだった。
詩の目には花道を退場して行く役者に降り注ぐ紙吹雪のように見えた。
「……」
彼女はジグたちと初めて会った時の事を思い出す。あの時の二人は、揃って人生に絶望したような顔をしていた。
(二人が自分の人生に誇りを持てたら。そう思ってユニゾンのことを教えたのだけど、もしかしてそれは、私の独りよがりだったのかも)
現に彼らの寿命はどうにもならず、消え入ろうとしている。
勇気を振り絞って、詩は、最初で最後になる質問をした。彼らに。
「……二人はこの島へ来て幸せになれたのかな。ソルジャーに推薦したのは私だけど、戦いをせず静かに暮らしていたらもしかしたらもう少し長く生きられたかもしれない」
アスカは、少し笑って言った。
「来ないよりはずっとよかった」
ジグも言った。
「静かに暮らしたら、かえって苦しかったと思う――これでよかったよ。俺たちここで終わっちゃうけど、まだ、続きがいるわけだしさ。よかったらそいつらのこと、頼むよ」
「……うん」
詩は自分が涙声になるのを、どうしても止められなかった。
そこにわいわいと声。コボルドたちだ。
「そうじゃー」「いたー」「じぐ、あーすか」
マゴイもいる。
『……ソルジャー……具合は……』
どうやら二人が心配で探していたらしい。
しかしマゴイはマリィアを見るなり固まった。彼女の下腹部を凝視し、赤くなって身震いする。
マリィアはその理由を、しんからは察し得ない。
「あ、これ? 私ね、来年母親になるのよ」
拒否を表す激越な言葉が、マゴイの口から飛び出しそうになる。
が――彼女はそれをなんとか押さえた。ルベーノから聞かされたことが頭をよぎったのだ。
だから顔を背け、一言。『……なげかわしい……』と言うに止めた。なんとか。
ジグとアスカは翌年の春、死んだ。
ハナの提案による冷凍睡眠延命の話もあったが、本人達が断ったのだ。下手にそうして死期を延ばしたら、また生きたいという思いが強くなり、かえって辛くなるからと。
両者、静かな死に様だったという。
夏には緑の丘また丘も、この季節には白また白。
「おめでとう、マリー。体調はどう?」
マリィア・バルデス(ka5848)から果物籠を渡されたマリーは、大いに戸惑い目を白黒。
「え? 体調? まあ、風邪とかはひいてないけど……ていうか、おめでとうって? 今日、何かあったっけ?」
「……あら? マリーの所もおめでただって聞いた気がしていたんだけど……聞き間違いだったのかしら」
「えっ、ええっ!? やだ、違うわよ、そんな、どこからそんな話聞い…………え? 『も』?」
マリーは視線をマリィアの腹部に向け『あっ』という顔。
マリィアも自分の腹部に目をやり、あっさり肩を竦める
「うちは女の子よ。エコーで見て、なかったらしいわ」
と言いながら、足元で骨クッキーをほお張るコボちゃん撫で撫でする。
「コボちゃんはすぐ気づいたのよね。まだ目立たないかなって思ったんだけど」
ともあれそこから両者一息つき、椅子に腰掛けての近況報告。世間話に花が咲く。
「マリーとナルシスの結婚にはこっちもやきもきしたもの。結局あの実家にはちょこちょこ帰ってるの?」
「うん、まあ、前よりは。お父さんうるさいのよ、ナルシスくんの仕事はどうなったどうなったって」
「まあ、相変わらずね。マリーたちの子供なら絶対美形間違いなしなんだから、顔見せしないくらいの意地悪はしてもよさそうに思うけどね」
「あ、それいいかも。父さんも一生に一度くらいは外に出てみるべきよね。まだ辛うじてそれが出来る年だったと思うし――カチャがユニゾンに行ってる話は、聞いた?」
「ええ、今さっきコボちゃんからね。スペットの顔が戻ったなら、私もお祝いに行こうかしら。コボちゃんも一緒に行かない?」
●ユニゾン、港湾地区
ユニゾン・グリーク商会出張所――改め今は支店。
普段この時間は閉店しているのだけど、今夜は明かりがついている。
ハンターが貸し切っているのだ。スペットの顔復元祝いのために。
ニケたちを探し呼びに行ったブルーチャーは、一人で帰ってきた。
聞けば後からマルカ・アニチキン(ka2542)がやってきて、ニケと話をし始めたのだという。
「それで、わしゃ先に戻ってきたんで。どうも内密の話らしき雰囲気だったんで」
との説明を聞いた天竜寺 詩(ka0396)は腕時計を眺め、気を揉む。
「スペットたちが来るまでに、全員揃ってる方がいいんだけどなあ」
傍らにいるルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、カチャと話をしている。
「へえ、ルンルンさん、東方に移住したんですか」
「はい。東方と言ったらニンジャの本場です、いずれリリカル衆とかシアンカ忍軍アーモンド衆とか率いる大ニンジャになっちゃうんだからっ。そういえばカチャさん、エルさんの部落で修行してたそうですね」
「ええ。正確には部落じゃなくて、そこから離れたところにある魔境ですけどね」
「どういう修行だったんですか?」
「えーと、まずはウォーミングアップのサバイバル。三日三晩裸で、極寒の地にほうり出されるんですよ。それがすんだら200キロの装備を背負って魔境での戦闘訓練と、行軍訓練。休憩中にも魔境での戦闘に特化した覚醒者による襲撃がありましたね。一時間に一回くらいの割合で。後、42時間ぶっ続けでど詰めされる尋問訓練とか、両手足縛られて湖に投げ込まれて脱出方法の訓練とか」
いやー……と長く引っ張った後カチャは、真顔になった。
「地獄でしたね」
エルバッハ・リオン(ka2434)はすまし顔で言う。
「でも、格段にスキルアップはしましたでしょう?」
「しましたけどね。訓練の最中は、もう完全に鬼教師でしたよエルさん」
ぼやいたカチャの尻を、涙が出るほど思い切り抓る。
「いったあ!」
「馬鹿言っちゃいけません。手加減してましたよ」
「あれでですか!?」
驚愕し聞き返すカチャにリオンは、口を尖らせすねた顔。
「ええ。大学関係者や生徒に迷惑をかけるわけにはいきませんから。本当はもっと色々したかったんです」
「いたたた! 止めてください抓るの! 本気で痛いから!」
●未来に投資
「いいんですか?」
試すようなニケの言葉にマルカは、いいんです、と勢いつけて頷いた。
「グリーク商会の株を購入させてください。もし可能なら、今度ナルシスさんが新しく立ち上げるというアパレル分野に全額投資したいのですがっ!」
マルコが脇から忠告する。
「10,000,000Gと言えば、結構な大金ですよ? 何部門かに分けた方がいいんじゃないですか?」
だがマルカは肯んじない。
「今の世界、この世が戦場なら金は弾丸……頭の中でジルボさんがそう囁くのです」
ニケが朗らかに笑う。
「分かりました。それではそのように手配致しましょう」
差し出された彼女の手をマルカは、力強く握った。
(うまく行きました……これでナルシスさんの会社に社会的信用があると、マリーさんの両親に信頼いただくことが出来ますっ……!)
●忠言耳に逆らう
白と青の薔薇がついた髪飾。胸には白と青の大ぶりな薔薇のコサージュ。それらはルベーノ・バルバライン(ka6752)からの贈り物。
白と青の貝殻と花を連ねた首飾り、腕飾り。それらはコボルド・ワーカーからの贈り物。
その両者をマゴイは、ドレッシーな礼服と併せ身につけている。
本日はユニゾン唯一の祭日だから、そういうことをしてもよい。
マゴイは、トリプルJ(ka6653)の疑問に対し事細かに答えた。
以下はその要約だ。
「自分はユニゾンの領主ではない。新しいステーツマンが生まれてくるまでの、臨時代表者である」
「ハンターオフィスや分霊樹の設置はいずれ行う」
「他の都市から軍事協力を求められても、人道支援以外は応じない。その旨はすでに同盟に伝えてあるし向こうもそれを了承した」
懸念していた問題に対し回答を得たJは、彼女の傍らにいるルベーノに目配せする。これから話すことに口ぞえしてくれよと。
ルベーノは軽く頷き、マゴイに語りかけた。
「μ、お前に相談があるのだが。子供たちの未来に協力してもらえないだろうか」
から始まってしばらく話し合いが行われる。
結論としてマゴイは、彼らの提案『ルル総合大学の生徒達――ハンターを目指し世界の浄化を志す子供たちが、将来セントラルで働く時のため、ユニゾンで教育研修を受けさせ、EGの技術に慣れさせてやって欲しい』を受け入れた。
『……それはとてもよい……喜んで迎えるわ……ユニゾンがとてもよいところだということを……ぜひ知ってもらいたい……』
市民が増えるかもと期待している向きもあるもよう。
(階級色規定に沿った衣料品生産も、これから本格的に始めるとか言っていたしな。まあ、それはそれでいいのだが……)
ルベーノは気を引き締めた。
決めたのだ。今後の彼女とユニゾンのために、これまで避けてきたところを口にしようと。
「それと、な。お前が嫌がると分かっているが、1度だけ踏み込むことを赦してくれ」
マゴイは首をかしげてルベーノを見た。
「……お前達はウテルスで人を増やす。ウテルスのない我々が人を増やすには、母体に頼るしかない」
ここまでは彼女も落ち着いていた。
しかし次の台詞に入ったところで、明らかに感情を乱し始めた。
「お前がウテルスに抱く敬意を、俺達は普遍的な母と言う存在に感じている」
眉間にしわがよる。表情がこわばっていく。顔に血が上り始める。髪がなびき始める。
まずいんじゃないかと傍で見ているJは感じたが、事実その通りだった。
「お前が子供を気に掛ける行動は、俺達の世界では子を守る母がする行動だ。お前が卑猥と感じ差別する【母】と言う存在は、俺達にとっては敬意と思慕の象徴――」
『 うてるす と わたし を ははおや よばわり するとは なにごと なの 』
かくて平手打ちがルベーノを襲う。
●おめでとうスペット
『早う早う、皆、βのお祝いに来てくれたのじゃ』
「分かったがな」
スペットはぴょこに手を引かれるまま、グリーク商会ユニゾン支店へ。
クラッカーと歓呼の声が彼を迎える。
「スペットさん、おめでとうございます!」
「スペット、元の顔に戻れてよかったね!」
「人間復帰、おめでとう!」
ルンルンは一同を代表し、東方みやげの詩天紅白まんじゅうをスペットとぴょこに贈呈する。
猫じゃなくなったからもう又吉と呼べなくて寂しいとか、人間顔結構イケてる方かもとか、さまざまな思いを抱えながら。
「又き……スペット、真人間に戻れておめでとうございます!!」
「おう、ありがとな!」
「刑期も後一年って聞きました、それを終えたらほんとのほんとに真人間なんだからっ……その時はまたお祝いに来ちゃいますね」
ぴょこが、びしと手を挙げた。
『わしからもプレゼントあるのじゃ! 詩と一緒に作ったでな!』
そう言って店の奥へ跳ねていく。
カチャは詩に聞いた。
「何を作ったんです?」
「お祝いのケーキ。今回はデコレーション、すごくうまくいったんだよ」
そこにニケたちが戻ってくる。
「おや、もう始まっていますか」
続けて、想定外のお客様。コボちゃんを連れたマリィア。
「あら……本当に猫の顔じゃなくなったのね。あれはあれで格好良かったのに。残念だわ、おめでとう」
店の奥からぴょこが、三段重ねのスペシャルケーキを持って登場。
『んむ? おう、マリィアも来たのか。ちょうどよいで、一緒に食うていくとよいのじゃ、のじゃ』
飾り付けが無難の範疇に何とか収まっていることに、スペットはいたく感動した。
「θ、えろうなったなあ……」
その後しばらくして、詩と他数名は場を辞した。ジグとアスカに会うために。
ここのところ彼らはずっと、医療施設に泊まっているそうなのだ。コボルド・ワーカーたちがそう言っていた。
●内密にご相談
マゴイを探してユニゾン島をうろついていた星野 ハナ(ka5852)は、波止場にたたずむ彼女を見つけた。
なんだか知らないが、顔が上気している。眉間に皺。髪の端が若干持ち上がりうねっている。
(……ご機嫌悪いんですかねぇ……?)
重々気をつけつつ近づき声をかけ、話を切り出す。
「ステーツマンとマゴイになる遺伝子情報って集まってますぅ?」
『……いいえ……その2階級については……まだ登録はないわ……』
とするとユニゾンの転移システムは、差し当たりマゴイ一人で回すことになるわけだ。
なら『万一』の事態が起きぬよう防衛力を高めなくては、とハナは強く彼女に説く。
「ステーツマンとマゴイに当面代替が居ないならぁ、もっとソルジャーを厚くするべきだと思うんですぅ。庇える戦士はもう居ると思いますのでぇ、足留めや回復のスキル持ちをもっと勧誘したらいいんじゃないでしょおかぁ」
とはいえ、そんなにすぐには都合よく集まらないだろう。そもそも市民になる気を起こす人の方がレアなのだ。
だから、と彼女は続ける。
「私の遺伝子、ソルジャー用に登録させてくれませんか? この地も私にとっては深紅ちゃんの守護する守るべき土地の1つですぅ。危険が予見されてるのに手を打たないのはあり得ないんですよぅ」
この朗報でマゴイは、たちまち機嫌を持ち直した。愁眉が開かれ髪が元通りになる。
『……それはとてもよいこと……感謝する……ウテルスも喜ぶ……でも登録するに当たって……ちょっと注意事項をよいかしら……?』
「なんです?」
『……遺伝情報でどの階級を生み出すか……提供者には決められない……あなたはソルジャーに使ってほしいと言ったけれど……審査の結果別の階級に向いていると判断されれば……そちらに使用される可能性もある……それでもよい?……』
「いいですよ」
この機会を逃さず、他にもお願い、というか提案を。
「後、ジグくんとアスカちゃんのことなんですけどぉ――」
●港湾の一角で男たちは
町角のウォッチャーはJの質問に答える。
【現在ユニゾンにドワーフの市民はおりません。また、アルコール類の販売は致しておりません】
そのあたりはドワーフの市民が出来たとき、改めての検討課題となるだろうか。
思いつつJは、ルベーノの左頬を見る。
「いやー、見事なビンタだったな」
「はっはっは。結界を重ねてきていたからな。結構な衝撃だったぞ」
「ま、他ならぬあんたが言うことだ、マゴイもスルーは出来ないだろ。んで、来年あんたの血を引くソルジャーが、ウテルスから生まれるわけだ。正直どんな気分なんだ?」
「そうだな、ちょっと説明しづらいな。俺の子というわけではないし、向こうも父親とは認識しまい。だが悪い気分ではないぞ? けしてな」
●LONG GOODBYE
ひさかた振りに見たアスカは随分痩せていた。ジグも。どちらも体調が思わしくないのは一目瞭然だった。
「こんにちは――いえこんばんは、久しぶりね」
としかマリィアは言えなかった。この有様を前に「体調はどう?」なんて続けることが、あまりに空々しいと思えて。
「あの、さ。よかったら少し島を回らない?」
そう言いながら詩は、自分が連れてきたイェジドを指す。
「ついでだからさ、乗ってみてよ。二人とも幻獣にまだ乗ったこと、ないでしょ?」
イェジドは大きな尾をバサバサと振った。
マルカの連れてきた犬は鼻を鳴らし、アスカの手を嘗める。
アスカはくすぐったそうに身をよじり、目を細める。ジグが聞く。
「どうする?」
「行く。最近仕事もサボってばっかりだしね……こんな日くらいは見回りしないと」
「そう来なくちゃ」
明るく言って詩は二人をイェジドに乗せ、外に連れ出す。
人が多い場所は疲れるかもしれないので、海岸沿いを歩く。マルカの馬がぽっかぽっかと、一同の後をついて行く。
「島も大分賑やかになったね。人も増えたし、開いてるお店も増えたし」
「……そうね。新しく、リザードマンのソルジャーも入ったし――このまま次が誰も来なかったらまずいな、とか思ってたんだけど、よかった」
「これからソルジャーが生まれるって言ったって、大人になるまでに十年以上はかかるんだしなあ」
会話が途切れる。
そこでマリィアが出し抜けに言った。
「たった2人のソルジャーなんだもの、お互いのことが嫌いでないなら、結婚したっていいんじゃないかしら」
ジグが、考え込むような顔をした。だが、すぐ首を振る。
「それは、あんまり意味ないんじゃいかな。俺たちは人生最晩年に入ってるわけだし」
マリィアはぴしゃりと、切れよく返す。だから何だと言うように。
「私ね、結婚したわ。夫も強化人間で軍人よ。倒れて死ぬまで、一緒に軍人で居ましょうねって約束したわ。だから、私は幸せよ」
イェジドに体をもたれかけさせていたアスカは、のろのろと息を吐く。
「私はそういう話、御免こうむるわ……別にジグが嫌いな訳じゃないけどさ……結婚だの家族だのにいいイメージ全然持てないのよ、悪いけど……」
南の風が甘い花の香りを含み、皆の顔を撫でて行く。
マルカはエボニースタッフを軽く振った。
「ちょっと雪があると、いいですね。年末ですし」
ジグとアスカを中心とした一帯に、白いハート型の雪が散り始める。マテリアルによる幻の雪だ。
だけどそれは、雪というよりも、ハートというよりも、桜吹雪のようだった。
詩の目には花道を退場して行く役者に降り注ぐ紙吹雪のように見えた。
「……」
彼女はジグたちと初めて会った時の事を思い出す。あの時の二人は、揃って人生に絶望したような顔をしていた。
(二人が自分の人生に誇りを持てたら。そう思ってユニゾンのことを教えたのだけど、もしかしてそれは、私の独りよがりだったのかも)
現に彼らの寿命はどうにもならず、消え入ろうとしている。
勇気を振り絞って、詩は、最初で最後になる質問をした。彼らに。
「……二人はこの島へ来て幸せになれたのかな。ソルジャーに推薦したのは私だけど、戦いをせず静かに暮らしていたらもしかしたらもう少し長く生きられたかもしれない」
アスカは、少し笑って言った。
「来ないよりはずっとよかった」
ジグも言った。
「静かに暮らしたら、かえって苦しかったと思う――これでよかったよ。俺たちここで終わっちゃうけど、まだ、続きがいるわけだしさ。よかったらそいつらのこと、頼むよ」
「……うん」
詩は自分が涙声になるのを、どうしても止められなかった。
そこにわいわいと声。コボルドたちだ。
「そうじゃー」「いたー」「じぐ、あーすか」
マゴイもいる。
『……ソルジャー……具合は……』
どうやら二人が心配で探していたらしい。
しかしマゴイはマリィアを見るなり固まった。彼女の下腹部を凝視し、赤くなって身震いする。
マリィアはその理由を、しんからは察し得ない。
「あ、これ? 私ね、来年母親になるのよ」
拒否を表す激越な言葉が、マゴイの口から飛び出しそうになる。
が――彼女はそれをなんとか押さえた。ルベーノから聞かされたことが頭をよぎったのだ。
だから顔を背け、一言。『……なげかわしい……』と言うに止めた。なんとか。
ジグとアスカは翌年の春、死んだ。
ハナの提案による冷凍睡眠延命の話もあったが、本人達が断ったのだ。下手にそうして死期を延ばしたら、また生きたいという思いが強くなり、かえって辛くなるからと。
両者、静かな死に様だったという。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/09/23 18:16:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/20 19:59:39 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/09/25 21:10:18 |