ゲスト
(ka0000)
【未来】東方大復興
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/09/26 09:00
- 完成日
- 2019/10/06 16:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
天ノ都で盛大な祭りが開かれている。
東方大復興が宣言された後、3年という年月が経とうとしていた。復興祭と名付けられたこの祭りは東方各地から多くの人々が帝に復興の経過を伝えにくるのだ。
「ただいま、満席でありましてー」
とある麺屋には、口コミによる評判もあって行列となっていた。
憤怒によって一度は半壊した店だったが、従業員や常連客の努力により、再開。復興初期から人々の胃袋を支えていたのだ。
「こんなに混んでいると、猫の手も借りたいぜ」
「ぼやいていないで、さっさと動く!」
元常連客であった男が女将に怒られながら、忙しく動き回っている。
「こりゃ、蒼人様も驚くほどの忙しさなんだって」
「あの御方の方が忙しいに決まってるでしょ! それに、無駄口よ!」
「……尻に敷かれた結果とは、3年前はこうなると思いもしなかったぜ……」
男はそんな愚痴を呟きながら、窓の外に広がる空を見つめた。
あの素浪人は今頃どうしているのだろうか。
エトファリカ武家四十八家門第九位大轟寺家の当主である蒼人は多忙な日々を過ごしていた。
武家を見張る役目もそうだが、スメラギの幼馴染という事もあり、国家運営を表に裏に手伝っていたからだ。
あれから武家同士や武家と公家の争いがなかった訳ではない。ただ、それは他国と同様な程度の具合に過ぎない。
「振り返ってみると早いものだな……僕もそりゃ歳をとるか」
「蒼人様はまだまだ20台ではありませんか。それはそうと、あの婚姻の話はどうなりましたか」
年老いた側近が淡々と告げる。
「あのね、僕、忙しいの。そんな暇ないって言ってるじゃん!」
「それは言い訳です。そろそろ世継ぎの事も……」
「また、それかよ。だいたいさ、将来的には大轟寺家の役目もなくなるんだから、世継ぎがいなくてもいいんじゃない?」
軽く言ったつもりだったが、側近は憤怒にも勝るような怒りを全身に発する。
「家が続く事が大事なのですぞ!」
「あー、もう親父に当たれよ。怪我人っつっても、日常生活で困ってないんだからよ、僕は歳離れた弟がいても構わないし」
「親子して、まったく!」
憤慨する側近に蒼人は手を顔に近づけた。
それは眼鏡をしていた時の癖だ。位置を直す必要がある眼鏡はそこにはない。
「はー、もうそろそろ、出掛けて来ようかな」
そう言って蒼人はスッと立ち上がると、側近の制止の声を聞かず、ササーと音もなく歩く。
折角の祭りなのだ。ずっと側近の小言を言われているぐらいなら、気分転換に出掛けるのも悪くないだろう。
「さて、行ってくるかな」
あれから多くの人が前進んだ。
それがどうなったのか、そして、これからどうっていくのか、多くの人々の未来を、知りたいと思いながら。
天ノ都で盛大な祭りが開かれている。
東方大復興が宣言された後、3年という年月が経とうとしていた。復興祭と名付けられたこの祭りは東方各地から多くの人々が帝に復興の経過を伝えにくるのだ。
「ただいま、満席でありましてー」
とある麺屋には、口コミによる評判もあって行列となっていた。
憤怒によって一度は半壊した店だったが、従業員や常連客の努力により、再開。復興初期から人々の胃袋を支えていたのだ。
「こんなに混んでいると、猫の手も借りたいぜ」
「ぼやいていないで、さっさと動く!」
元常連客であった男が女将に怒られながら、忙しく動き回っている。
「こりゃ、蒼人様も驚くほどの忙しさなんだって」
「あの御方の方が忙しいに決まってるでしょ! それに、無駄口よ!」
「……尻に敷かれた結果とは、3年前はこうなると思いもしなかったぜ……」
男はそんな愚痴を呟きながら、窓の外に広がる空を見つめた。
あの素浪人は今頃どうしているのだろうか。
エトファリカ武家四十八家門第九位大轟寺家の当主である蒼人は多忙な日々を過ごしていた。
武家を見張る役目もそうだが、スメラギの幼馴染という事もあり、国家運営を表に裏に手伝っていたからだ。
あれから武家同士や武家と公家の争いがなかった訳ではない。ただ、それは他国と同様な程度の具合に過ぎない。
「振り返ってみると早いものだな……僕もそりゃ歳をとるか」
「蒼人様はまだまだ20台ではありませんか。それはそうと、あの婚姻の話はどうなりましたか」
年老いた側近が淡々と告げる。
「あのね、僕、忙しいの。そんな暇ないって言ってるじゃん!」
「それは言い訳です。そろそろ世継ぎの事も……」
「また、それかよ。だいたいさ、将来的には大轟寺家の役目もなくなるんだから、世継ぎがいなくてもいいんじゃない?」
軽く言ったつもりだったが、側近は憤怒にも勝るような怒りを全身に発する。
「家が続く事が大事なのですぞ!」
「あー、もう親父に当たれよ。怪我人っつっても、日常生活で困ってないんだからよ、僕は歳離れた弟がいても構わないし」
「親子して、まったく!」
憤慨する側近に蒼人は手を顔に近づけた。
それは眼鏡をしていた時の癖だ。位置を直す必要がある眼鏡はそこにはない。
「はー、もうそろそろ、出掛けて来ようかな」
そう言って蒼人はスッと立ち上がると、側近の制止の声を聞かず、ササーと音もなく歩く。
折角の祭りなのだ。ずっと側近の小言を言われているぐらいなら、気分転換に出掛けるのも悪くないだろう。
「さて、行ってくるかな」
あれから多くの人が前進んだ。
それがどうなったのか、そして、これからどうっていくのか、多くの人々の未来を、知りたいと思いながら。
リプレイ本文
●一真斎
天ノ都の鳴月家屋敷の一角に設けられた私塾に今日も多くの若者が集まっていた。
年齢も性別も身分も出身も種族ですらも様々だ。学ぶ内容も一般教養から専門知識、武術など幅が広い。
覚醒者としての素質が無い者が多いが、天ノ都の中でも屈指の学問塾である。
「先生」
龍崎・カズマ(ka0178)だった男が、自身を呼ぶ声に作業していた手を止めて振り返った。
そこには美しい黒髪を揺らしながら澄んだ青色の瞳を持つ女性――朱夏(kz0116)が居た。
「こんにちわ、朱夏さん。いや、ご当主様と呼んだ方がいいのかな?」
「朱夏と呼んで下さいと、いつも、申しているではありませんか」
頬を膨らませながら、朱夏は言った。
立花院家の当主就任が決まったのは先日の事。邪神との戦いが終わった後、メキメキと頭角を現したのだ。
その影に、立花院家と鳴月家を支える一人の守護者がいたという事実はあまり知られてはいない。
「本日は、就任式の招待状を持ってきました。鳴月家からも強い意向がありますので、必ずご出席下さい」
「……私塾もあるし、そういうのは、な……」
断るように言った一真斎の腕を朱夏が掴む。
ふと、気配を感じると建物の影から幾人もの弟子達が顔を出していた。
「実はもうお弟子さん達に協力をお願いしていますから、観念して下さいね」
彼女の台詞に、弟子達がわくわくとした表情を浮かべていたのであった。
●未来を憂う者
天ノ都における東方大復興祭は大きな盛り上がりを見せている。
新たに拝領を受けたハンターや武士の多くが、領地運営の報告に来ているこの時期に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)の二人は情報を得る為に訪れていた。
通りを歩いていると人混みに流されそうになり、智里は思わずハンスの手を強く握った。
「……あっ」
「大丈夫ですよ、智里さん」
グッと力を入れて握り返すハンス。
誰も彼も祭りで浮かれている中、彼は冷静だった。
そんなハンスを見上げながら智里はそっと小さく呟く。
「殿が言った通りの世界になるのでしょうか」
「余程の事がない限りは、いつか、そのような日が来るかもしれませんね」
ハンターや一介の武士に領地経験のイロハがあるとは思えない。
そんな所に悪意を持った存在が入り込んだとしたら――後、数年もすれば、下剋上が起こる可能性はあるだろう。
「……言っていましたね。確か、早ければ10年と」
「国主の代替わりは、いつか必ず起きます」
もっとも、それは国だけの問題ではない。
古くから所領を持つ武家もそうだし、拝領を受けたハンターも同様だ。
そして、詩天でも間違いない……いや、年齢という事を考慮すれば、もしや、“殿”が一番先になる可能性も否定できない。
「戦国の時代に来たら、領地経営を知らないハンター達の領地は下剋上で消え去るかもしれませんね」
「ハンター達は横の力が強い。仲間を呼び、助力を求めるはずです」
「……その時、詩天にとって……」
ピタリと智里は足を止めた。それに応じるようにハンスも止まると、流れてくる人の波から彼女を守るように智里の身体を引き寄せる。
未来の事を思うと祭りで浮かれている場合ではない。
覚醒者であるハンターの戦力は侮り難いものがある。小さな所領であれば腕の立つハンターが数人いれば、征服するのに事足りるだろう。
「誰と誰が結ぶ。誰と誰が詩天様と“殿”の敵になるか」
「見極めないといけませんね」
笑顔を向けながらも冷たい眼差しのハンスに智里が、台詞を続けた。
既存武家とハンターと繋がりがある者も多い。そう遠くない将来、かつて、仲間だった者同士が戦い合うような【未来】がきた時、果たして、自分達はどうなるのだろうか――。
●変わらぬ仲を
転移門が設置してある建物から出た所で、出迎えたメンカル(ka5338)と仙堂 紫苑(ka5953)、両名の姿を見つけ、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が小走りしながら、突っ込んできた。
「わぅ、シオンー!」
「久しぶりだな、アルマ」
飛び込んできた彼を受け止める紫苑。
久方ぶりに相棒に甘えられるのが嬉しいようで、なかなか離れようとしない弟の頭をメンカルはポンポンと叩いた。
「話が進まないだろう。お互いの近況を伝え合う為に集まったのに」
「これも大事な事なのですー。だって、簡単には逢えないから」
東方の地で暮らしているメンカルと紫苑とは違い、アルマは西方諸国で生活している。
「本当は妻も連れてこられれば良かったんですけど……」
「帝国英霊では仕方ない事だろ」
応えた相棒の台詞にアルマは「だから!」と、飛びついたまま言い放った。
その様子に苦笑を浮かべるメンカル。久々に胃が痛くなりそうだが、それもそれで、懐かしい感覚だなと思う。
「それにしても紫苑、良かったのか? 故郷から離れて、東方で領主とは」
「たまたま、良い感じの土地を貰ったからな……自分はもっと強くならないといけない」
その強さが、単なる力だけを指す事ではないと、メンカルはすぐに理解できた。
彼が譲り受けた領地は鍛冶を特産とする街であったが、今は魔導技術も取り込んだ工業街を目指して奮闘しているのだ。
まだ大きな成果はないが、技術スピードの上昇率でいえば、東方でもトップクラスにあるかもしれない。元々、東方は魔導技術が遅れているというのもあるが。
「そうか……ところで、紫苑。今年の取引は去年と同じで大丈夫か?」
「あぁ、通りの整備も終わったからな。なかなか良い雰囲気の街灯に仕上がったよ」
「なら、来年あたりから少し増やしてよさそうだな」
頷きながらメンカルはそう言うと、サッと取り出した手帳にメモを残す。
紫苑が治める街には、木材や鉱物などの資源が乏しい。東方は至るところで復興に向けて動いているので、資源の仕入れ先は競争倍率が高い。
そんな訳で、メンカルは開発があまり入っていないが資源が豊富な土地を希望したのだ。
憤怒歪虚が残した爪痕が大きかったが地道にコツコツと負のマテリアルを排除し、メンカルが治める領地も軌道に乗りつつある。
「メンカルこそ、良いのか? 兄として弟の事が心配だろう?」
「俺も人の事は言えんよ……まぁ、アルが帝国から動けん分はな……」
東方に所領を持つには条件がある。流石に、帝国に住みながら拝領はできないだろう弟に代わってという所だ。
「わふー。離れていても僕、シオンもお兄ちゃんもだいすきですー」
二人の真面目な会話に退屈していたアルマが、区切りがついた所で割り込んできた。
離れてはいるが、何があっても、紫苑は相棒で、メンカルは兄なのだ。
「折角、東方まで来たんだから、アルマも手伝ってくれよ、元工房助手くん」
「わぅ? はいですっ。僕、お手伝いするですー!」
紫苑の誘いにアルマは満面の笑みを浮かべた。
魔導技術の技術者は、帝国と比べると東方はまだまだ少ない。百戦錬磨のアルマなら、一日二日でも即戦力と成り得るだろう。
周囲を跳ねるように飛び回るアルマを見ながら、紫苑は懐かしそうに呟いた。
「あれから3年も経ったんだな……」
感慨深げにしている彼の肩にメンカルが手を置いた。
「これからもよろしく頼む。今度は領主同士として」
「もちろんだ」
そんな二人に向かってアルマが両手を広げて飛び掛かった。
「あー。二人ともずるいですー。帝国にも、また遊びに来るといいです! 待ってますです!」
きっと、いつまでも変わらない関係がこれからも、続いていくのだろう。
●スカウトマン
復興を祝う為の祭りを楽しみつつ、エルバッハ・リオン(ka2434)は天ノ都にある立花院家の屋敷に訪れていた。
出迎えたのは朱夏だった。
「素質のある孤児をスカウトしに来たとお聞きしましたが」
「その通りです。然るべき所に照会して頂いてかまいません」
サッと“【東幕】支援感謝符”を取り出したエルバッハだったが、朱夏は慌てて首を横に振った。
「あ、いえ、疑っている訳ではなく、再確認でして……」
「意外ですね。普通なら覚醒者の素養があるなら、留めておきたいと思っても可笑しくないのに」
ましてや武家一位に君臨する立花院家だ。
孤児達を養う事も問題はないだろう。
「特に分け隔てていませんので……“私塾”の事もありますから」
「責任をもって、確りとみさせてもらいます」
「エルバッハさんも、やはり、教壇に立たれるのですか?」
朱夏の問いに彼女は「はい」と答えた。
王国の聖導士学校で魔術師課程を始めるにあたり、素質がある孤児を数人探していたのだ。
その申し出に朱夏は快諾した。希望者がいれば、勉強の為に西方諸国に留学に行く事は素晴らしい事だ。
「それでは早速、子供達に会っていいでしょうか」
微笑みながらエルバッハは言った。
きっと、東西の交流というものはこういう事が下地として、次の世代に受け継がれていくのだろう。
●新たなる出逢いを
拝領できる権利などの辞退を申し出たアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、天ノ都での祭りで一人の少年と出逢った。
愚かにもアルトの懐を狙ったのだ。あっさりと掴まえたが、なかなかどうして、良い動きであった。
「それじゃ、姐さんはハンターで、西方の傭兵なのかよ! すげぇや」
「分かっただろう。相手を選ぶ目も養え」
適当な所で解放しようとしたのだが、少年に懐かれてしまった。
「ハンターって凄いんだろ! 龍を倒したり、亜人の王を倒したりさ! 姐さんもそんな戦いに参加したのか?」
「ん……あ、あぁ」
そんな返事に、少年は目を輝かせた。
その背中には少年には不釣り合いなほどの大太刀。
「俺も戦いてぇ! そして、強くなりてぇ!」
「なぜ、強くなりたいのだ?」
「決まってるじゃん。強くなって、苦しんでいる人々を助けたいんだ!」
「それで、強そうな奴とか金持ちから盗みを働いていたのか……」
命知らずだが、そのブレない度胸は好印象だった。
「姐さん、頼む! 俺もその傭兵団に連れてってくれ! 頑張るからさ!」
「……死ぬかもしれないぞ。それでもいいのか?」
アルトの真剣な眼差しに対し少年は一歩も引かず、力強く頷いた。
この出逢いが、将来に大きな意味を持つとは、その時、アルトは思いもしなかったのであった。
●舞詩姉妹
混み合う麺屋に訪れ、女将や元常連に挨拶と姉を紹介した天竜寺 詩(ka0396)は二階の個室へと案内された。
「混んでるのに、特別待遇だね」
あぐらをかいて座る天竜寺 舞(ka0377)はそう言うと、壁に掛けられているメニューを眺める。
天ノ都でも人気店らしい。働いている従業員の立ち振る舞いに自然と目が行くのは、代官という仕事柄だろう。
「で? 開拓の方は順調なの?」
「こうして、こっちに来る余裕位は出来たかな」
詩は立花という素浪人が率いる開拓団に参加していた。
開拓事業は順調だ。でなければ、今、こうしてはいられないだろう。
「それは良かったけどさ。あんた、一応領主だって事忘れないでよ」
詩は拝領を受けたが、開拓団に参加する関係で、舞を代官として任命していたのだ。
妹の恋路を邪魔する訳ではないが、任された方も大変なのだ。ぼやきの一つぐらいは許されるだろう。
「あの人と共に行く決心は変わらなかったけど、スメラギ君の為にも何かしたかったの。お姉ちゃんには感謝してる」
「まぁ、こっちもこっちで順調だから」
賜った領地は元々、公家と関わりがある所で、東方由来の伝統文化が大事にしていた。
最初こそ、疑心はあったが、今では領地経営の方針に積極的に協力して、文化の街として発展してきている。
「で、あんたの『地球やこの星の様々な文化や芸を学び披露出来る街づくり』って計画。各地に打診して、講師と民間の出資者を募ってる所。それなりに賛同者も増えてるけど、実現にはもう少しかかるかな」
「良い方向に進んでて良かった」
「公家の偉い人の理解があってさ。その代わり、スメラギの儀式には手伝いに行かなきゃだけど」
ある意味、利用されているともいえるが、それはそれで悪い事ではないだろう。
朝廷の儀式を支える存在も必要なのだ。それらは一朝一夕で出来る事ではない。
「地球へ行ってクソ親父や兄貴達にも頼んできた」
「お父さんは伝統芸の大家だし、お友達も多いしね」
複雑な表情を浮かべる舞に対し、詩は微笑で応える。
住む世界が違っても似ている文化があるのは不思議な事で、双方にとって良い刺激になるだろう。
「直ぐには難しくても、エトファリカの売りになる街が出来れば、交流も盛んになるし発展に繋がると思うんだ」
「先が長い話だけどね」
「どうか、よろしくね、お姉ちゃん」
頭を下げた妹に舞はポンポンと軽く叩いた。
可愛い妹の為だ。出来る限りの事はやろうと改めて心の中で誓うのであった。
●愛を絆いで
夕明かりの中、突然、打ち上がった花火に見惚れた時、志鷹 都(ka1140)の視界は一瞬で反転した。
思わず小さな悲鳴を上げる。留守をしている子供達に買った御菓子お土産が壊れてしまわないようにする事だけが精一杯だった。
階段から足を踏み外したようだった。幸いな事に最後の一段だったので、大怪我にはなっていないようだが。
「大丈夫か」
サッと差し出されたのは、志鷹 恭一(ka2487)の手だった。
それに掴まると、引っ張られるように立ち上がる。
「目に見える怪我は――ないようだな」
「ありがとう」
当然のように差し出された手は、離れる事なく、繋いだままだ。
その光景に、都は再会した頃の事を思い出した。
あの時は、転びそうになっても手を取ってはくれず、横に並ぶ事もなく、ただただ、彼の冷たさを感じる広い背中を見つめているだけだった。
「どうか、したのか?」
「こうして手を繋げるようになるまでの事を、思い出していました」
「そう、か……」
恭一も思い出していた。
夏の祭りで再会した時、彼女の今にも壊れそうで、優しい温もりの手を取る事が出来なかった。
自分の穢れた冷たい手が、何もかも壊してしまいそうだった。
手だけではない。腕も、脚も、髪も、身体全てが、触れてはならぬと己に言い聞かせていたあの頃を。
「行こうか」
「はい」
無事を確認して、恭一は都と共に歩き出す。
繋いだ手が祭りの賑わいの中で離れてしまわないように、確りと握りながら。
彼女の穏やかなでゆったりとした歩調に合わしながら。時を刻むように一歩一歩薄暗い道を行く。
「綺麗な花火です」
「あぁ、そうだな」
二人の行く道を照らすように打ち上げ花火が煌めく。
都は自身の手を確りと握る彼の大きな手が嬉しかった。
貴方の手は冷たくはない。世界で一番、優しい、あたたかな手。
それがどれだけ尊いものなのか、ハンターという立場に立てば嫌でもよく分かる。
(生きていてくれれば、それで……)
彼への想いが胸の中から溢れそうだった。
いや、それは、堪えようとするほど、涙となって零れ落ちる。
「……都」
邪神との戦いが終わって3年。
共に、自らが選択した道を歩み、変わらぬ日々を送っていた。今日の祭りに参加したのも、故郷の復興を願う為だ。
そして、そんな変わらぬ日々でも、改めて気が付く事がある。
「恭……」
涙を隠そうと俯いていた都は顔を上げた。
グッと力を籠める彼女の手に、恭一はそっと、抱きしめて応える。
これからも、ずっと、愛を絆いでいく為に――。
●鬼塚巨砲神社
それは天ノ都郊外の小高い丘の上に建てられた、とある守護者と大精霊を祭る神社であった。
東方由来の神社とは違うのは、鳥居や灯篭が、黒く大きく立派で逞しい大砲を模しているという事だ。
そのご利益は、『邪神払い』……これは邪神を打ち払った守護者としての力。『道中安全』は仲間達との苦難の道のりを歩んだ事から、『重体回避』は守護者が瞬く間に回復する様から、そして、『縁結び』は――尻に敷かれたいと願う野郎共が集まるとか集まらないとか……。
「私は尻に敷いていませんから!」
「事実がそのまま、受け継がれる訳ではないので……えと……ご愁傷様です?」
顔を真っ赤に染めて叫ぶ鬼塚 小毬(ka5959)に、巫女姿のエステル・ソル(ka3983)が首を傾げながら応える。
噂によると神社を建てる為に必要な費用は守護者からの寄付であったらしい。
「まぁ、あながち間違って……あ、いや、ほら、時の移り代わりでご利益の理由なんて変わるよね」
鬼塚 陸(ka0038)が嫁から鬼のような視線を受け、途中で咳払いして言い直した。
兎に角、立派な神社になって良かったと思う。
「ツッコミどころしか無いというか、見た目も、その……けったいな……としか、言いようが無い気も致しますけれど」
機嫌を損ねたようで口を尖らせる小毬。
黒く大きく立派で逞しい大砲を模した鳥居の柱や灯篭の根本に巨大な丸石が二つ並んで置かれているのも、何か意図があるのではないかと疑いたくなる。
「まさかと思いますが、これ、リクさんの意向じゃないですよね?」
スリットの間から見える美しい脚線美の脚で丸石に踏み下ろしながら訊ねる。
あれは痛そうだとか陳腐な事を思いながら、陸は大袈裟な手振りで答えた。
「いや、まさか、そんな事あるわけないって」
「ほ・ん・と・う・に?」
ぐーと迫る嫁の顔に、サッと顔を反らして否定する陸。
なんでも見通してしまいそうな赤い瞳だ。これは浮気だって即バレするだろう。
「ウ、ウン、ホントウダヨ」
「二人とも仲が良いのは、良い事なんですが、境内でいちゃつくと他の人の迷惑ですよ」
「い、いちゃついて、なんか!」
3年経ってもウブな反応に、エステルは微笑みながら冊子を手渡した。
受け取ったそれの中身を確認すると、祭りで得た情報から東方各地の特産や名物がまとめられた物であった。
手作り満載の絵が描かれ、美味しい郷土料理の感想や、特産品の使い方等が記載されている。
「エステルちゃん、これどうしたの?」
「領主さん達に配って、地域ごとの交流がもっと活発になるといいなと思うのです」
エステルの説明に小毬は手を叩いた。
「なるほど、それは確かに便利ですね」
「なので、お手伝いとして臨時巫女で働きながら、ここにも奉納しています」
そんな事を言いつつ、エステルは何か用を思い出したようで、サッと辺境産のタオルセットが入った紙袋を陸に渡す。
「キヅカ先生は働き者ですが、たまにはゆっくり家族サービスをするといいのです。これはお土産です」
「ありがとう。境内を散策したら汗もかきそうだし」
敷地も広い立派な神社なのだ。
「そうですわね。皆様のもとから集った物で建てられた、と考えれば人々の願いを叶えたとも言えなくもないですし」
ちゃっかりと魔導カメラを手にする小毬。
見て周りながら色々と撮り残さなければ、支援してくれた仲間や知り合い達に申し訳ない。
「人々の想いの証という事か……」
「……正直、私も面白がってお贈りしてましたし! これは、良い話として納得しておいて、散策でも致しましょう」
「はい、いってらっしゃいです。お二人に鬼塚世音菩薩のご加護がある事を」
送り出したエステルの台詞に陸は苦笑を浮かべて応えたのであった。
●あの日、夜空の下で
天ノ都にある慰霊碑の前で、ミィリア(ka2689)が献花台に花を供える。
静かに手を合わせて心の中で、これまでの事を報告すると、パンパンと頬を叩いた。
「……あんまり成長してないって失礼しちゃうでござる……また、来るね」
空耳に対して呟き返すと、彼女は気持ちを入れ替えて、歩き出した。
この3年間、ミィリアは流浪の侍として東方や南方を駆け回っていた。
困っている人がいたら、駆け付けたり、危険な道で荷物を担いで運んだりと、人々の力となっていた。
「うーん。まだ、時間はあるでござるな」
空を見上げ、太陽の位置を確認するとミィリアは何か閃いたようで、駆け出した。
悠長に歩き続けるのは性に合わない。元気一杯、駆け回る日々が、もっとも自分らしいのだと、感じながら。
それから間もなく、慰霊碑に訪れたのは本多 七葵(ka4740)だった。
詩天からほど近い領地を拝領した彼は、東方大復興祭に合わせ上京し、帝に自領の様子を報告した後だ。
「……正秋殿、久方ぶりだ」
献花台に供えられた真新しい花の隣に、祭りで購入した花と酒を並べる。
七葵が治めている土地は耕作に向かぬ地であった。その為、衣食住を失った職人や商人を呼び集めて、製造業などで成り立つように開発を進めて、軌道に乗りつつある。
「領地の名は“千寿”と付けた。多くの、めでたき事があるように、末永く栄えるように、そんな意味を込めて」
報告を終えると、七葵は慰霊碑を真っ直ぐに見つめる。
ようやく、まともに報告が出来た気がした。来年、また、ここに来て報告を続けよう……そう思いながら、七葵はゆっくりと歩き出した。
その少し後、銀 真白(ka4128)と黒戌(ka4131)の二人が慰霊碑に訪れた。
墓参りは久々……では無かった。というのも、真白は十鳥城と、更に隣接する所領を持つ、新興武家の中でも指折りの領主だからだ。
その影には、真白に協力する仲間達の表裏にも及ぶ活躍があるから他ならない。
「本日は帝に報告をしてきた。十鳥城は人々で賑わう街になったと……」
それは城下町の人々の力による所も大きい。
なにより、領主と領民の関係が強く続いている。その基礎を作ったのは、間違いなく、仁々木 正秋(kz0241)や歴代の代官達だろう。
真白はそっと慰霊碑に触れた。
「帝より、お褒めの言葉を賜った……正秋殿に、と……」
堪えていた涙が溢れだして頬を流れる。
本当なら共に祝いたかった。それが叶わないと分かっていても……。
「……」
その様子を黒戌はジッとただ見守る。
もし、周囲に誰か、あるいは仲間がいたら、真白は決して涙を見せなかっただろう。
十鳥城下にある共同墓地では泣くことはできない。泣いている領主など、領民を不安にさせるだけだから。
だから、いつにも増して気丈に振る舞い続けた妹に、今、この場は必要だった。
「……真白、人が上がってくるでござる」
一般人が慰霊碑に上がってくる気配を感じて、黒戌は静かに耳元で伝えた。
小さく頷いて涙を拭うと一礼して立ち去る真白の後ろ姿。音も立てずに黒戌はその後に続くのであった。
夕日が大地と空を染める頃、慰霊碑の前にユリアン・クレティエ(ka1664)の姿があった。
「……」
献花台にある花は、いずれも真新しいものが置かれていた。
途切れる事なく、ここに訪れる者がいるのだろう。
「……花と同じく道も。何処に在っても、続いていくんだ……」
風が吹き抜け、乱れた前髪を無意識に直すと深く頭を下げる。
あの頃から変わった事も多いし、変わらない事も多い。きっと、これから先も……。
頭を上げると、名残惜しそうな目を浮かべつつ、彼は慰霊碑から離れる。次、来るときも、一人だろうか、それとも、誰かと一緒だろうか。
「……厳靖さん」
「いよっ! 元気そうだな」
慰霊碑から降りた先、劉 厳靖(ka4574)が若い松の木に寄り掛かって待っていた。
思わぬ再会にユリアンは目を丸くする。ここで出逢う話はしていなかったからだ。
「どうしてここに?」
「そろそろ、来る頃だろうと思ってな。まぁ、なんだ、傭兵の勘って奴だ」
厳靖は傭兵として東方の地に残っていた。
傭兵といっても、実際は十鳥城を治める真白専属の私兵というべき立場だ。
そして、彼にはもう一つの顔があった。黒戌から“汚れ仕事”を請け負っているのだ。
「さぁ、行こうぜ。ここでは、あまり懐かしい話もできないだろ?」
「と、言うと?」
「まぁ、付いて来いよ」
言葉の意味を理解できずに首を傾げるユリアンに、厳靖はニヤリと笑うのであった。
「来た来た!」
祭りの会場から離れた場所でミィリアがユリアンと厳靖に手を振る。
他にも幾つかの人影。それが誰か、ユリアンには分かった。
「みんな……これは?」
焚火と鍋、大きめのレジャーシートには8つの座布団が置かれていた。
そして、風景に微かな記憶が蘇る。そう、ここは――。
「5年前のちょうどこの日、皆で、飲み明かした所だからな」
七葵が飲み物を持って出迎える。
正秋隊の皆で夜通し過ごした日の事だ。
「それにしても打ち合わせ無しで集まるとは、流石」
「事情を知らぬ故、大事な日だと忘れないように繰り返し呟いていた意味が、今日でようやく納得できたでござるよ」
誇らしそうに言った真白に対し、黒戌が小さく呟く。
そして、自分は裏方だと言わんばかりに、鍋奉行に戻りつつ、他にも祭りで買ってきた食事を大皿に纏める。
「そういう事だ。ほら、座れ座れ。色々と話も聞きたいしな」
既に酒瓶を片手に厳靖が座布団に座り、その隣をユリアンに勧める。
言われるがままにユリアンも座ると、とりあえず、土産のチーズを取り出した。
「飲み過ぎに注意だと伝えて欲しいと言われましたが、これは……飲みすぎる夜になりそうですね」
「おう。まぁ、立派な薬師になったろうから、安心して飲めるって事だ」
ドンドンとユリアンの背を叩く厳靖。
「まだまだ研鑽中です。東方に来たのも、こちらの薬を学ぶ為です」
「ならよ、銀や七葵の所で勉強がてら手伝ったらどうだ? 二人とも、今や領主様だからな」
「そんな偉いものではない。兄上や厳靖殿、ミィリア殿に頼りっぱなしだ」
苦笑を浮かべる真白の手には皿。
大皿から幾つかお惣菜や饅頭などを小綺麗に乗せていた。
「皆、それぞれの道を進んでいるので、ござる」
得意気な顔でミィリアも皿におかずを盛っていた。
それも限りなく、わざと“平ら”に盛り付けていくと、ニヤリと口元を歪めた。
「これは、瞬殿の分で、ござる」
「私は正秋殿の分をよそった」
空いている座布団の前に箸と酒と共に皿を置いた。
「よし、じゃ始めるか」
「それでは年長者の厳靖殿に、まずは一言頂きたい」
チーズを齧りながら既に飲み始めている厳靖に七葵が言った。
年長者を立てている……ようだ。
「俺かァ!?」
「締めの挨拶は私からしますので」
「寝落ちしなければ、ね」
襟を正して真面目な顔で宣言する真白と、この後の事をちゃっかりと補足するミィリア。
そんなやり取りを黒戌は心の中で微笑みながら、焦げないように鍋をかき混ぜる。
(良い戦友を持ったでござるな)
真白が拝領を受けるという事で、自身の役目も終わったかと思ったが、妹からの頼みに領地経営を手伝っていた。
3年という年月は短いようで長い。それでも関係が続いている事は、素晴らしい事だった。
全員で輪となって話が盛り上がる。昔の事、今の事、将来の事、色々な話が出ては、最終的には誰かのツッコミか、新しい話のタネが出てきて終わる事なく、続く。
この光景がどことなく懐かしくもあり、同時に新しくもあった。
「見えているだろうか、この光景が」
七葵は夜空を見上げる。星々の輝きは、あの日、夜空の下でみたものと変わらない。
東方も、自分達も未来に向かって進んでいる。まだまだ未熟かもしれないが、彼らに恥ずかしくない人生を歩んでいると思うのであった。
●子宝領主御一行様
天ノ都の大通りを大名行列の如く、ハンター領主が仲間達と共に歩く。
その中心にいるのは、時音 ざくろ(ka1250)だった。
拝領を受けたざくろは領地経営に乗り出すのだが、井戸を掘る際に温泉が湧き出るという幸運もあり、3年という短い時間で所領は大きく発展していた。
「色々と大変だったし、これからも、まだまだ大変だから、今日は束の間の休息だよ!」
いかにも領主らしく宣言する。
「主が領地なぁ……まさか、文字通り一国一城になるとは思わなんだな」
しみじみと告げるのは、ソティス=アストライア(ka6538)だった。
同意するように舞桜守 巴(ka0036)がうんうんと頷く。
「まさかここまで来るとは思いませんでしたねー……流石は、私達の旦那様でしょうか」
二人の視線は、他の嫁達に両腕を引っ張られるざくろに向けられていた。
嫁だけではなく、小さい子供達と世話をする人も含めれば、大人数にならないはずがない。
「リアルブルーに戻っても良いとは思ったが、こうなった以上は仕方あるまいて……子もいるのだ、この地でのんびり過ごそうか」
「ふふ、まだまだ頑張っていただきませんと? ほら、私達……妻だけでなく子供達のために?」
ソティスと巴の会話が聞こえたのか、ざくろが振り向く。
「精一杯やるよ! みんな、愛する大事な人だからっ!」
「……にしてもざくろよ、娘にまで手を出したらその時は狼たちが火を噴くからな?」
「し、しないよ!」
「妾を増やすのは構いませんけど、娘達まで手を出したらお仕置きですからね?」
「だから、しないって!」
必死に否定するざくろの表情が面白可愛く、巴はクスクスと笑い、ソティスはニヤニヤと口元を緩めた。
「それから、着物を買うのなら、ここは一つ私が見立ててやろうかね? 今日は離さんからな、せいぜい覚悟していろよ?」
ざくろの小さな悲鳴が響く。
今日はナニをどうしても、らきすけの神が降臨するだろうから、だったら、最初から、ナニがあり気で動いた方がいいだろう。
……ざくろが鼻血を出しすぎて倒れなければ。
「折角の休息の日です。子供達の世話はお任せ下さい。主は皆と共に羽を伸ばして貰えれば」
何台も連結した乳母車を押しているのは、時音 リンゴ(ka7349)だった。
タイミングよく、産後に揃ったので、現在、出産間際の妊婦はいないのだ。思いっきり遊ぶには今しかない。
「みんなが頑張って働いたからこその今日です。みんなが遊んだり出来るように、桜もしっかりと子守りするです」
天儀の巫女装束を模した服装で、リンゴと共に乳母車を押す八重 桜(ka4253)。
「ありがとう、リンゴ、桜」
「主、祭りのパンフレットです」
「あまり動くと子供達も心配だから、適当な場所で待ってますね」
本来であれば全員で遊びにいければ良いのだろうが、子供もいるとなると難しいものだ。
率先して世話を見てくれるという二人にざくろは心の奥底から感謝した。
「メイドとして主様のサポートができていれば幸いです」
「子供の数だけ愛があるのです。子供は世界の宝です」
子沢山なので世話も大変だけど、子供はやっぱり可愛いと桜は思っていた。どういう訳か、生まれた子供が全員女の子なのは謎だが。
とにかく、愛する人の子というのもあるかもしれないし、子供が生まれてからざくろの愛情も増した気がする。
人は変わるものだ……桜の胸は3年経ってもあまり変わりはないが……。
「本当に、ありがとう。必ず、二人と子供達の分のお土産も買ってくるからね」
「ありがとうございます。主様」
主の顔を確りと見つめて、リンゴは笑顔で応える。
これはこれで、嬉しい役回りかもしれない。
一方、育児から解放された事で白山 菊理(ka4305)が高々と両手を上げて伸びをした。
「愛しいわが子とはいえ、流石に疲れは溜まるものだな……」
「大事な機会ですから、食べ物も催し物も、色々楽しみたいですよね」
サクラ・エルフリード(ka2598)が、菊理の言葉に頷いて同意しながらパンフレットを広げていた。
東方大復興祭というだけあって、東方各地の美味しい郷土料理を出す店も多い。
「お土産には何がいいでしょうか」
「さて、何がいいかな。この天気の中、持ち歩いた食べ物は鮮度がもたないだろうし、小さい玩具は子供が口に入れてしまうからな」
「ざくろが率先して決められればいいんだけど……」
二人の会話にざくろが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
こればっかりは性格というのもあるだろうし、皆で考えるというのも楽しみの一つだから、これで良い面もあった。
「色々なお土産を見て回るのも、温泉街の参考になっていいかもです」
「なるほど。確かに、そうね」
「頼もしいな~」
仲良くパンフレットを見つめる妻達の姿。
ざくろの所領が大きく発展したのは、彼女らの力による所が大きい。
今日、ここにいる嫁達だけで8人はいるのだ。しかも、全員が覚醒者であり、それぞれ、実力者でもある。ざくろ自身も含めれば、これだけの力量ある覚醒者を抱えられる新興武家は少ないだろう。
おまけに女性が活躍している所領という噂が立てば、そこで一旗あげようとする人材もまた集まってくる――結局はマンパワーがものを言うのだ。
「3年経てば、まぁまぁ変わるわよね~。ここまで上手くいったのは凄いけど」
アルラウネ(ka4841)が歩んできた道のりを振り返りながら、そう言った。
嫁同士で仲が良い事も大事な事だし、維持できるように“立ち回る”ざくろも凄いのだが。
「教えを広められるなら、どこだって私は構いませんからね。どこまでも一緒に行きますよ」
いかにも敬虔な信徒のような事をアデリシア・R・時音(ka0746)が告げる。
そして、そっとお腹を摩った。
「まだまだ子供も小さい……というかローテを組みきれていないですが……」
「そうね……ざくろんもまだ、子供欲しいみたいだし?」
「だ、ダメかな?」
顔を真っ赤にして答えるざくろに、アデリシアは微笑を浮かべる。
「ダメではありませんわ。計画性があっても良いと思っただけですから」
「子宝で、ハーレムで、温泉を持つ領主って……ざくろんの事を知ってる人からすると、もう笑うしかないって感じよね」
落ち着いた大人の女性のような態度のアデリシアと、小悪魔を思わせるようないぢわるな台詞を口にするアルラウネ。
子育てもそうだが、家庭を守る事も、領主という立場も、ざくろには成さなければいけない事が多い。
勿論、そうした多忙に折れるようなざくろではない。
「それでもいい。ざくろは皆と一緒に、未来を歩みたいから」
真面目な顔で妻達を一人ひとり順に見渡しながら宣言した。
きっと、これからも色々な事が起こって駆け回る事になるだろう。けれど、どんな苦難も皆と一緒なら乗り越えられるはずなのだから。
「都じゃないと買えない服とか、所領で待つ皆へのお土産も、いっぱい買って楽しんでいこう!」
今日の為に頑張って積み立てたお金がぎっしりと詰まった袋を握りしめるざくろ。
妻達には沢山の苦労を掛けているのだ。彼女らは気にしないだろうが、ざくろとしてはここで少しでも労いたい所だ。
「たまの服選び。都だし、他の国の品とかも買うチャンスかしらね……うん、楽しい時間になりそう」
「それじゃ、まずはそういうアルラウネの服から見立てるとするか」
「よし、ざくろ、頑張るよ!」
ソティスが手を伸ばすのと、ざくろが伸ばした手が同時だった。
が、そのタイミングと勢いが悪かった。ソティスの手を避けようとした動きで、アルラウネの胸を思いっきり鷲掴みしたからだ。
「あわわわわ!」
その弾力に驚き、慌てて手を放すも、今度は空いていた手がソティスの豊かなそれを掴む。
「ふむ、やはり、こうなるな」
「ち、違うから、わざとじゃないから!」
大きくのけ反った所で、バランスを崩してざくろは、アデリシアの胸にある深い谷間に頭を埋める。
「まだ昼間ですよ」
「ご、ご、ごめん。そうだよね、昼間だよね」
夜だったら、どうなっていたというのか、錯乱しながら脱出しようと両腕を伸ばして藻掻くざくろ。
当然のことながら、それぞれの手が柔らかいものを確りと掴んだ。
「流石に往来のど真ん中では……お仕置きが必要でしょうか?」
「……昨夜の事が足りないならそう言ってくれれば良かったのに」
胸を掴まれながら、巴と菊理が冷静にざくろに告げる。
いつものらきすけ空間になった所で桜が顔を両手で覆う。指の間は確りと開いているが。
「見ちゃった……」
「まだ、終わっていないとみました」
桜の隣でリンゴが淡々と事実を述べる。
鼻血を噴き出して倒れたざくろに、サクラが手を差し出したのだが、引っ張る力が強すぎて、逆に引き込んでしまったのだ。
「きゃぁ」
可愛らしい小さい悲鳴をあげて倒れ落ちる直前、空いている手で救いを求めるとそれをアルラウネが無理な態勢で掴む。
……が、それが良くなかった。彼女もまた、バランスを崩し倒れかかり、助けようとしたソティスだったが、魔術師なだけに力が足りなかった。
一緒になって転んでしまう所を巴と菊理が咄嗟に手を伸ばしたが、勢いが先回りしたのか、アデリシアを巻き込み、桜とリンゴを以外、全員が仲良く地面に転がるのであった。
「うぎゅうぅぅぅぅ」
胸やら太ももやら股やらの間に全身が埋まったざくろ。
見ようによっては羨ましいハーレム状態なのだが、一番の下敷きになったのは苦しかったようだ。
起き上がろうとするも、全員が何かしら、誰かに縺れていて、そう簡単には起きられない。
「み、皆、大丈夫かな?」
それでも、自分より愛する妻達の事を心配するのは流石だろう。
その手に誰かのパンツを握っていなければ――。
「こ、これ、あ……パ、パンツぅ!?」
鼻血の噴水が盛大に吹き出るのであった。
天ノ都の鳴月家屋敷の一角に設けられた私塾に今日も多くの若者が集まっていた。
年齢も性別も身分も出身も種族ですらも様々だ。学ぶ内容も一般教養から専門知識、武術など幅が広い。
覚醒者としての素質が無い者が多いが、天ノ都の中でも屈指の学問塾である。
「先生」
龍崎・カズマ(ka0178)だった男が、自身を呼ぶ声に作業していた手を止めて振り返った。
そこには美しい黒髪を揺らしながら澄んだ青色の瞳を持つ女性――朱夏(kz0116)が居た。
「こんにちわ、朱夏さん。いや、ご当主様と呼んだ方がいいのかな?」
「朱夏と呼んで下さいと、いつも、申しているではありませんか」
頬を膨らませながら、朱夏は言った。
立花院家の当主就任が決まったのは先日の事。邪神との戦いが終わった後、メキメキと頭角を現したのだ。
その影に、立花院家と鳴月家を支える一人の守護者がいたという事実はあまり知られてはいない。
「本日は、就任式の招待状を持ってきました。鳴月家からも強い意向がありますので、必ずご出席下さい」
「……私塾もあるし、そういうのは、な……」
断るように言った一真斎の腕を朱夏が掴む。
ふと、気配を感じると建物の影から幾人もの弟子達が顔を出していた。
「実はもうお弟子さん達に協力をお願いしていますから、観念して下さいね」
彼女の台詞に、弟子達がわくわくとした表情を浮かべていたのであった。
●未来を憂う者
天ノ都における東方大復興祭は大きな盛り上がりを見せている。
新たに拝領を受けたハンターや武士の多くが、領地運営の報告に来ているこの時期に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)の二人は情報を得る為に訪れていた。
通りを歩いていると人混みに流されそうになり、智里は思わずハンスの手を強く握った。
「……あっ」
「大丈夫ですよ、智里さん」
グッと力を入れて握り返すハンス。
誰も彼も祭りで浮かれている中、彼は冷静だった。
そんなハンスを見上げながら智里はそっと小さく呟く。
「殿が言った通りの世界になるのでしょうか」
「余程の事がない限りは、いつか、そのような日が来るかもしれませんね」
ハンターや一介の武士に領地経験のイロハがあるとは思えない。
そんな所に悪意を持った存在が入り込んだとしたら――後、数年もすれば、下剋上が起こる可能性はあるだろう。
「……言っていましたね。確か、早ければ10年と」
「国主の代替わりは、いつか必ず起きます」
もっとも、それは国だけの問題ではない。
古くから所領を持つ武家もそうだし、拝領を受けたハンターも同様だ。
そして、詩天でも間違いない……いや、年齢という事を考慮すれば、もしや、“殿”が一番先になる可能性も否定できない。
「戦国の時代に来たら、領地経営を知らないハンター達の領地は下剋上で消え去るかもしれませんね」
「ハンター達は横の力が強い。仲間を呼び、助力を求めるはずです」
「……その時、詩天にとって……」
ピタリと智里は足を止めた。それに応じるようにハンスも止まると、流れてくる人の波から彼女を守るように智里の身体を引き寄せる。
未来の事を思うと祭りで浮かれている場合ではない。
覚醒者であるハンターの戦力は侮り難いものがある。小さな所領であれば腕の立つハンターが数人いれば、征服するのに事足りるだろう。
「誰と誰が結ぶ。誰と誰が詩天様と“殿”の敵になるか」
「見極めないといけませんね」
笑顔を向けながらも冷たい眼差しのハンスに智里が、台詞を続けた。
既存武家とハンターと繋がりがある者も多い。そう遠くない将来、かつて、仲間だった者同士が戦い合うような【未来】がきた時、果たして、自分達はどうなるのだろうか――。
●変わらぬ仲を
転移門が設置してある建物から出た所で、出迎えたメンカル(ka5338)と仙堂 紫苑(ka5953)、両名の姿を見つけ、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が小走りしながら、突っ込んできた。
「わぅ、シオンー!」
「久しぶりだな、アルマ」
飛び込んできた彼を受け止める紫苑。
久方ぶりに相棒に甘えられるのが嬉しいようで、なかなか離れようとしない弟の頭をメンカルはポンポンと叩いた。
「話が進まないだろう。お互いの近況を伝え合う為に集まったのに」
「これも大事な事なのですー。だって、簡単には逢えないから」
東方の地で暮らしているメンカルと紫苑とは違い、アルマは西方諸国で生活している。
「本当は妻も連れてこられれば良かったんですけど……」
「帝国英霊では仕方ない事だろ」
応えた相棒の台詞にアルマは「だから!」と、飛びついたまま言い放った。
その様子に苦笑を浮かべるメンカル。久々に胃が痛くなりそうだが、それもそれで、懐かしい感覚だなと思う。
「それにしても紫苑、良かったのか? 故郷から離れて、東方で領主とは」
「たまたま、良い感じの土地を貰ったからな……自分はもっと強くならないといけない」
その強さが、単なる力だけを指す事ではないと、メンカルはすぐに理解できた。
彼が譲り受けた領地は鍛冶を特産とする街であったが、今は魔導技術も取り込んだ工業街を目指して奮闘しているのだ。
まだ大きな成果はないが、技術スピードの上昇率でいえば、東方でもトップクラスにあるかもしれない。元々、東方は魔導技術が遅れているというのもあるが。
「そうか……ところで、紫苑。今年の取引は去年と同じで大丈夫か?」
「あぁ、通りの整備も終わったからな。なかなか良い雰囲気の街灯に仕上がったよ」
「なら、来年あたりから少し増やしてよさそうだな」
頷きながらメンカルはそう言うと、サッと取り出した手帳にメモを残す。
紫苑が治める街には、木材や鉱物などの資源が乏しい。東方は至るところで復興に向けて動いているので、資源の仕入れ先は競争倍率が高い。
そんな訳で、メンカルは開発があまり入っていないが資源が豊富な土地を希望したのだ。
憤怒歪虚が残した爪痕が大きかったが地道にコツコツと負のマテリアルを排除し、メンカルが治める領地も軌道に乗りつつある。
「メンカルこそ、良いのか? 兄として弟の事が心配だろう?」
「俺も人の事は言えんよ……まぁ、アルが帝国から動けん分はな……」
東方に所領を持つには条件がある。流石に、帝国に住みながら拝領はできないだろう弟に代わってという所だ。
「わふー。離れていても僕、シオンもお兄ちゃんもだいすきですー」
二人の真面目な会話に退屈していたアルマが、区切りがついた所で割り込んできた。
離れてはいるが、何があっても、紫苑は相棒で、メンカルは兄なのだ。
「折角、東方まで来たんだから、アルマも手伝ってくれよ、元工房助手くん」
「わぅ? はいですっ。僕、お手伝いするですー!」
紫苑の誘いにアルマは満面の笑みを浮かべた。
魔導技術の技術者は、帝国と比べると東方はまだまだ少ない。百戦錬磨のアルマなら、一日二日でも即戦力と成り得るだろう。
周囲を跳ねるように飛び回るアルマを見ながら、紫苑は懐かしそうに呟いた。
「あれから3年も経ったんだな……」
感慨深げにしている彼の肩にメンカルが手を置いた。
「これからもよろしく頼む。今度は領主同士として」
「もちろんだ」
そんな二人に向かってアルマが両手を広げて飛び掛かった。
「あー。二人ともずるいですー。帝国にも、また遊びに来るといいです! 待ってますです!」
きっと、いつまでも変わらない関係がこれからも、続いていくのだろう。
●スカウトマン
復興を祝う為の祭りを楽しみつつ、エルバッハ・リオン(ka2434)は天ノ都にある立花院家の屋敷に訪れていた。
出迎えたのは朱夏だった。
「素質のある孤児をスカウトしに来たとお聞きしましたが」
「その通りです。然るべき所に照会して頂いてかまいません」
サッと“【東幕】支援感謝符”を取り出したエルバッハだったが、朱夏は慌てて首を横に振った。
「あ、いえ、疑っている訳ではなく、再確認でして……」
「意外ですね。普通なら覚醒者の素養があるなら、留めておきたいと思っても可笑しくないのに」
ましてや武家一位に君臨する立花院家だ。
孤児達を養う事も問題はないだろう。
「特に分け隔てていませんので……“私塾”の事もありますから」
「責任をもって、確りとみさせてもらいます」
「エルバッハさんも、やはり、教壇に立たれるのですか?」
朱夏の問いに彼女は「はい」と答えた。
王国の聖導士学校で魔術師課程を始めるにあたり、素質がある孤児を数人探していたのだ。
その申し出に朱夏は快諾した。希望者がいれば、勉強の為に西方諸国に留学に行く事は素晴らしい事だ。
「それでは早速、子供達に会っていいでしょうか」
微笑みながらエルバッハは言った。
きっと、東西の交流というものはこういう事が下地として、次の世代に受け継がれていくのだろう。
●新たなる出逢いを
拝領できる権利などの辞退を申し出たアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、天ノ都での祭りで一人の少年と出逢った。
愚かにもアルトの懐を狙ったのだ。あっさりと掴まえたが、なかなかどうして、良い動きであった。
「それじゃ、姐さんはハンターで、西方の傭兵なのかよ! すげぇや」
「分かっただろう。相手を選ぶ目も養え」
適当な所で解放しようとしたのだが、少年に懐かれてしまった。
「ハンターって凄いんだろ! 龍を倒したり、亜人の王を倒したりさ! 姐さんもそんな戦いに参加したのか?」
「ん……あ、あぁ」
そんな返事に、少年は目を輝かせた。
その背中には少年には不釣り合いなほどの大太刀。
「俺も戦いてぇ! そして、強くなりてぇ!」
「なぜ、強くなりたいのだ?」
「決まってるじゃん。強くなって、苦しんでいる人々を助けたいんだ!」
「それで、強そうな奴とか金持ちから盗みを働いていたのか……」
命知らずだが、そのブレない度胸は好印象だった。
「姐さん、頼む! 俺もその傭兵団に連れてってくれ! 頑張るからさ!」
「……死ぬかもしれないぞ。それでもいいのか?」
アルトの真剣な眼差しに対し少年は一歩も引かず、力強く頷いた。
この出逢いが、将来に大きな意味を持つとは、その時、アルトは思いもしなかったのであった。
●舞詩姉妹
混み合う麺屋に訪れ、女将や元常連に挨拶と姉を紹介した天竜寺 詩(ka0396)は二階の個室へと案内された。
「混んでるのに、特別待遇だね」
あぐらをかいて座る天竜寺 舞(ka0377)はそう言うと、壁に掛けられているメニューを眺める。
天ノ都でも人気店らしい。働いている従業員の立ち振る舞いに自然と目が行くのは、代官という仕事柄だろう。
「で? 開拓の方は順調なの?」
「こうして、こっちに来る余裕位は出来たかな」
詩は立花という素浪人が率いる開拓団に参加していた。
開拓事業は順調だ。でなければ、今、こうしてはいられないだろう。
「それは良かったけどさ。あんた、一応領主だって事忘れないでよ」
詩は拝領を受けたが、開拓団に参加する関係で、舞を代官として任命していたのだ。
妹の恋路を邪魔する訳ではないが、任された方も大変なのだ。ぼやきの一つぐらいは許されるだろう。
「あの人と共に行く決心は変わらなかったけど、スメラギ君の為にも何かしたかったの。お姉ちゃんには感謝してる」
「まぁ、こっちもこっちで順調だから」
賜った領地は元々、公家と関わりがある所で、東方由来の伝統文化が大事にしていた。
最初こそ、疑心はあったが、今では領地経営の方針に積極的に協力して、文化の街として発展してきている。
「で、あんたの『地球やこの星の様々な文化や芸を学び披露出来る街づくり』って計画。各地に打診して、講師と民間の出資者を募ってる所。それなりに賛同者も増えてるけど、実現にはもう少しかかるかな」
「良い方向に進んでて良かった」
「公家の偉い人の理解があってさ。その代わり、スメラギの儀式には手伝いに行かなきゃだけど」
ある意味、利用されているともいえるが、それはそれで悪い事ではないだろう。
朝廷の儀式を支える存在も必要なのだ。それらは一朝一夕で出来る事ではない。
「地球へ行ってクソ親父や兄貴達にも頼んできた」
「お父さんは伝統芸の大家だし、お友達も多いしね」
複雑な表情を浮かべる舞に対し、詩は微笑で応える。
住む世界が違っても似ている文化があるのは不思議な事で、双方にとって良い刺激になるだろう。
「直ぐには難しくても、エトファリカの売りになる街が出来れば、交流も盛んになるし発展に繋がると思うんだ」
「先が長い話だけどね」
「どうか、よろしくね、お姉ちゃん」
頭を下げた妹に舞はポンポンと軽く叩いた。
可愛い妹の為だ。出来る限りの事はやろうと改めて心の中で誓うのであった。
●愛を絆いで
夕明かりの中、突然、打ち上がった花火に見惚れた時、志鷹 都(ka1140)の視界は一瞬で反転した。
思わず小さな悲鳴を上げる。留守をしている子供達に買った御菓子お土産が壊れてしまわないようにする事だけが精一杯だった。
階段から足を踏み外したようだった。幸いな事に最後の一段だったので、大怪我にはなっていないようだが。
「大丈夫か」
サッと差し出されたのは、志鷹 恭一(ka2487)の手だった。
それに掴まると、引っ張られるように立ち上がる。
「目に見える怪我は――ないようだな」
「ありがとう」
当然のように差し出された手は、離れる事なく、繋いだままだ。
その光景に、都は再会した頃の事を思い出した。
あの時は、転びそうになっても手を取ってはくれず、横に並ぶ事もなく、ただただ、彼の冷たさを感じる広い背中を見つめているだけだった。
「どうか、したのか?」
「こうして手を繋げるようになるまでの事を、思い出していました」
「そう、か……」
恭一も思い出していた。
夏の祭りで再会した時、彼女の今にも壊れそうで、優しい温もりの手を取る事が出来なかった。
自分の穢れた冷たい手が、何もかも壊してしまいそうだった。
手だけではない。腕も、脚も、髪も、身体全てが、触れてはならぬと己に言い聞かせていたあの頃を。
「行こうか」
「はい」
無事を確認して、恭一は都と共に歩き出す。
繋いだ手が祭りの賑わいの中で離れてしまわないように、確りと握りながら。
彼女の穏やかなでゆったりとした歩調に合わしながら。時を刻むように一歩一歩薄暗い道を行く。
「綺麗な花火です」
「あぁ、そうだな」
二人の行く道を照らすように打ち上げ花火が煌めく。
都は自身の手を確りと握る彼の大きな手が嬉しかった。
貴方の手は冷たくはない。世界で一番、優しい、あたたかな手。
それがどれだけ尊いものなのか、ハンターという立場に立てば嫌でもよく分かる。
(生きていてくれれば、それで……)
彼への想いが胸の中から溢れそうだった。
いや、それは、堪えようとするほど、涙となって零れ落ちる。
「……都」
邪神との戦いが終わって3年。
共に、自らが選択した道を歩み、変わらぬ日々を送っていた。今日の祭りに参加したのも、故郷の復興を願う為だ。
そして、そんな変わらぬ日々でも、改めて気が付く事がある。
「恭……」
涙を隠そうと俯いていた都は顔を上げた。
グッと力を籠める彼女の手に、恭一はそっと、抱きしめて応える。
これからも、ずっと、愛を絆いでいく為に――。
●鬼塚巨砲神社
それは天ノ都郊外の小高い丘の上に建てられた、とある守護者と大精霊を祭る神社であった。
東方由来の神社とは違うのは、鳥居や灯篭が、黒く大きく立派で逞しい大砲を模しているという事だ。
そのご利益は、『邪神払い』……これは邪神を打ち払った守護者としての力。『道中安全』は仲間達との苦難の道のりを歩んだ事から、『重体回避』は守護者が瞬く間に回復する様から、そして、『縁結び』は――尻に敷かれたいと願う野郎共が集まるとか集まらないとか……。
「私は尻に敷いていませんから!」
「事実がそのまま、受け継がれる訳ではないので……えと……ご愁傷様です?」
顔を真っ赤に染めて叫ぶ鬼塚 小毬(ka5959)に、巫女姿のエステル・ソル(ka3983)が首を傾げながら応える。
噂によると神社を建てる為に必要な費用は守護者からの寄付であったらしい。
「まぁ、あながち間違って……あ、いや、ほら、時の移り代わりでご利益の理由なんて変わるよね」
鬼塚 陸(ka0038)が嫁から鬼のような視線を受け、途中で咳払いして言い直した。
兎に角、立派な神社になって良かったと思う。
「ツッコミどころしか無いというか、見た目も、その……けったいな……としか、言いようが無い気も致しますけれど」
機嫌を損ねたようで口を尖らせる小毬。
黒く大きく立派で逞しい大砲を模した鳥居の柱や灯篭の根本に巨大な丸石が二つ並んで置かれているのも、何か意図があるのではないかと疑いたくなる。
「まさかと思いますが、これ、リクさんの意向じゃないですよね?」
スリットの間から見える美しい脚線美の脚で丸石に踏み下ろしながら訊ねる。
あれは痛そうだとか陳腐な事を思いながら、陸は大袈裟な手振りで答えた。
「いや、まさか、そんな事あるわけないって」
「ほ・ん・と・う・に?」
ぐーと迫る嫁の顔に、サッと顔を反らして否定する陸。
なんでも見通してしまいそうな赤い瞳だ。これは浮気だって即バレするだろう。
「ウ、ウン、ホントウダヨ」
「二人とも仲が良いのは、良い事なんですが、境内でいちゃつくと他の人の迷惑ですよ」
「い、いちゃついて、なんか!」
3年経ってもウブな反応に、エステルは微笑みながら冊子を手渡した。
受け取ったそれの中身を確認すると、祭りで得た情報から東方各地の特産や名物がまとめられた物であった。
手作り満載の絵が描かれ、美味しい郷土料理の感想や、特産品の使い方等が記載されている。
「エステルちゃん、これどうしたの?」
「領主さん達に配って、地域ごとの交流がもっと活発になるといいなと思うのです」
エステルの説明に小毬は手を叩いた。
「なるほど、それは確かに便利ですね」
「なので、お手伝いとして臨時巫女で働きながら、ここにも奉納しています」
そんな事を言いつつ、エステルは何か用を思い出したようで、サッと辺境産のタオルセットが入った紙袋を陸に渡す。
「キヅカ先生は働き者ですが、たまにはゆっくり家族サービスをするといいのです。これはお土産です」
「ありがとう。境内を散策したら汗もかきそうだし」
敷地も広い立派な神社なのだ。
「そうですわね。皆様のもとから集った物で建てられた、と考えれば人々の願いを叶えたとも言えなくもないですし」
ちゃっかりと魔導カメラを手にする小毬。
見て周りながら色々と撮り残さなければ、支援してくれた仲間や知り合い達に申し訳ない。
「人々の想いの証という事か……」
「……正直、私も面白がってお贈りしてましたし! これは、良い話として納得しておいて、散策でも致しましょう」
「はい、いってらっしゃいです。お二人に鬼塚世音菩薩のご加護がある事を」
送り出したエステルの台詞に陸は苦笑を浮かべて応えたのであった。
●あの日、夜空の下で
天ノ都にある慰霊碑の前で、ミィリア(ka2689)が献花台に花を供える。
静かに手を合わせて心の中で、これまでの事を報告すると、パンパンと頬を叩いた。
「……あんまり成長してないって失礼しちゃうでござる……また、来るね」
空耳に対して呟き返すと、彼女は気持ちを入れ替えて、歩き出した。
この3年間、ミィリアは流浪の侍として東方や南方を駆け回っていた。
困っている人がいたら、駆け付けたり、危険な道で荷物を担いで運んだりと、人々の力となっていた。
「うーん。まだ、時間はあるでござるな」
空を見上げ、太陽の位置を確認するとミィリアは何か閃いたようで、駆け出した。
悠長に歩き続けるのは性に合わない。元気一杯、駆け回る日々が、もっとも自分らしいのだと、感じながら。
それから間もなく、慰霊碑に訪れたのは本多 七葵(ka4740)だった。
詩天からほど近い領地を拝領した彼は、東方大復興祭に合わせ上京し、帝に自領の様子を報告した後だ。
「……正秋殿、久方ぶりだ」
献花台に供えられた真新しい花の隣に、祭りで購入した花と酒を並べる。
七葵が治めている土地は耕作に向かぬ地であった。その為、衣食住を失った職人や商人を呼び集めて、製造業などで成り立つように開発を進めて、軌道に乗りつつある。
「領地の名は“千寿”と付けた。多くの、めでたき事があるように、末永く栄えるように、そんな意味を込めて」
報告を終えると、七葵は慰霊碑を真っ直ぐに見つめる。
ようやく、まともに報告が出来た気がした。来年、また、ここに来て報告を続けよう……そう思いながら、七葵はゆっくりと歩き出した。
その少し後、銀 真白(ka4128)と黒戌(ka4131)の二人が慰霊碑に訪れた。
墓参りは久々……では無かった。というのも、真白は十鳥城と、更に隣接する所領を持つ、新興武家の中でも指折りの領主だからだ。
その影には、真白に協力する仲間達の表裏にも及ぶ活躍があるから他ならない。
「本日は帝に報告をしてきた。十鳥城は人々で賑わう街になったと……」
それは城下町の人々の力による所も大きい。
なにより、領主と領民の関係が強く続いている。その基礎を作ったのは、間違いなく、仁々木 正秋(kz0241)や歴代の代官達だろう。
真白はそっと慰霊碑に触れた。
「帝より、お褒めの言葉を賜った……正秋殿に、と……」
堪えていた涙が溢れだして頬を流れる。
本当なら共に祝いたかった。それが叶わないと分かっていても……。
「……」
その様子を黒戌はジッとただ見守る。
もし、周囲に誰か、あるいは仲間がいたら、真白は決して涙を見せなかっただろう。
十鳥城下にある共同墓地では泣くことはできない。泣いている領主など、領民を不安にさせるだけだから。
だから、いつにも増して気丈に振る舞い続けた妹に、今、この場は必要だった。
「……真白、人が上がってくるでござる」
一般人が慰霊碑に上がってくる気配を感じて、黒戌は静かに耳元で伝えた。
小さく頷いて涙を拭うと一礼して立ち去る真白の後ろ姿。音も立てずに黒戌はその後に続くのであった。
夕日が大地と空を染める頃、慰霊碑の前にユリアン・クレティエ(ka1664)の姿があった。
「……」
献花台にある花は、いずれも真新しいものが置かれていた。
途切れる事なく、ここに訪れる者がいるのだろう。
「……花と同じく道も。何処に在っても、続いていくんだ……」
風が吹き抜け、乱れた前髪を無意識に直すと深く頭を下げる。
あの頃から変わった事も多いし、変わらない事も多い。きっと、これから先も……。
頭を上げると、名残惜しそうな目を浮かべつつ、彼は慰霊碑から離れる。次、来るときも、一人だろうか、それとも、誰かと一緒だろうか。
「……厳靖さん」
「いよっ! 元気そうだな」
慰霊碑から降りた先、劉 厳靖(ka4574)が若い松の木に寄り掛かって待っていた。
思わぬ再会にユリアンは目を丸くする。ここで出逢う話はしていなかったからだ。
「どうしてここに?」
「そろそろ、来る頃だろうと思ってな。まぁ、なんだ、傭兵の勘って奴だ」
厳靖は傭兵として東方の地に残っていた。
傭兵といっても、実際は十鳥城を治める真白専属の私兵というべき立場だ。
そして、彼にはもう一つの顔があった。黒戌から“汚れ仕事”を請け負っているのだ。
「さぁ、行こうぜ。ここでは、あまり懐かしい話もできないだろ?」
「と、言うと?」
「まぁ、付いて来いよ」
言葉の意味を理解できずに首を傾げるユリアンに、厳靖はニヤリと笑うのであった。
「来た来た!」
祭りの会場から離れた場所でミィリアがユリアンと厳靖に手を振る。
他にも幾つかの人影。それが誰か、ユリアンには分かった。
「みんな……これは?」
焚火と鍋、大きめのレジャーシートには8つの座布団が置かれていた。
そして、風景に微かな記憶が蘇る。そう、ここは――。
「5年前のちょうどこの日、皆で、飲み明かした所だからな」
七葵が飲み物を持って出迎える。
正秋隊の皆で夜通し過ごした日の事だ。
「それにしても打ち合わせ無しで集まるとは、流石」
「事情を知らぬ故、大事な日だと忘れないように繰り返し呟いていた意味が、今日でようやく納得できたでござるよ」
誇らしそうに言った真白に対し、黒戌が小さく呟く。
そして、自分は裏方だと言わんばかりに、鍋奉行に戻りつつ、他にも祭りで買ってきた食事を大皿に纏める。
「そういう事だ。ほら、座れ座れ。色々と話も聞きたいしな」
既に酒瓶を片手に厳靖が座布団に座り、その隣をユリアンに勧める。
言われるがままにユリアンも座ると、とりあえず、土産のチーズを取り出した。
「飲み過ぎに注意だと伝えて欲しいと言われましたが、これは……飲みすぎる夜になりそうですね」
「おう。まぁ、立派な薬師になったろうから、安心して飲めるって事だ」
ドンドンとユリアンの背を叩く厳靖。
「まだまだ研鑽中です。東方に来たのも、こちらの薬を学ぶ為です」
「ならよ、銀や七葵の所で勉強がてら手伝ったらどうだ? 二人とも、今や領主様だからな」
「そんな偉いものではない。兄上や厳靖殿、ミィリア殿に頼りっぱなしだ」
苦笑を浮かべる真白の手には皿。
大皿から幾つかお惣菜や饅頭などを小綺麗に乗せていた。
「皆、それぞれの道を進んでいるので、ござる」
得意気な顔でミィリアも皿におかずを盛っていた。
それも限りなく、わざと“平ら”に盛り付けていくと、ニヤリと口元を歪めた。
「これは、瞬殿の分で、ござる」
「私は正秋殿の分をよそった」
空いている座布団の前に箸と酒と共に皿を置いた。
「よし、じゃ始めるか」
「それでは年長者の厳靖殿に、まずは一言頂きたい」
チーズを齧りながら既に飲み始めている厳靖に七葵が言った。
年長者を立てている……ようだ。
「俺かァ!?」
「締めの挨拶は私からしますので」
「寝落ちしなければ、ね」
襟を正して真面目な顔で宣言する真白と、この後の事をちゃっかりと補足するミィリア。
そんなやり取りを黒戌は心の中で微笑みながら、焦げないように鍋をかき混ぜる。
(良い戦友を持ったでござるな)
真白が拝領を受けるという事で、自身の役目も終わったかと思ったが、妹からの頼みに領地経営を手伝っていた。
3年という年月は短いようで長い。それでも関係が続いている事は、素晴らしい事だった。
全員で輪となって話が盛り上がる。昔の事、今の事、将来の事、色々な話が出ては、最終的には誰かのツッコミか、新しい話のタネが出てきて終わる事なく、続く。
この光景がどことなく懐かしくもあり、同時に新しくもあった。
「見えているだろうか、この光景が」
七葵は夜空を見上げる。星々の輝きは、あの日、夜空の下でみたものと変わらない。
東方も、自分達も未来に向かって進んでいる。まだまだ未熟かもしれないが、彼らに恥ずかしくない人生を歩んでいると思うのであった。
●子宝領主御一行様
天ノ都の大通りを大名行列の如く、ハンター領主が仲間達と共に歩く。
その中心にいるのは、時音 ざくろ(ka1250)だった。
拝領を受けたざくろは領地経営に乗り出すのだが、井戸を掘る際に温泉が湧き出るという幸運もあり、3年という短い時間で所領は大きく発展していた。
「色々と大変だったし、これからも、まだまだ大変だから、今日は束の間の休息だよ!」
いかにも領主らしく宣言する。
「主が領地なぁ……まさか、文字通り一国一城になるとは思わなんだな」
しみじみと告げるのは、ソティス=アストライア(ka6538)だった。
同意するように舞桜守 巴(ka0036)がうんうんと頷く。
「まさかここまで来るとは思いませんでしたねー……流石は、私達の旦那様でしょうか」
二人の視線は、他の嫁達に両腕を引っ張られるざくろに向けられていた。
嫁だけではなく、小さい子供達と世話をする人も含めれば、大人数にならないはずがない。
「リアルブルーに戻っても良いとは思ったが、こうなった以上は仕方あるまいて……子もいるのだ、この地でのんびり過ごそうか」
「ふふ、まだまだ頑張っていただきませんと? ほら、私達……妻だけでなく子供達のために?」
ソティスと巴の会話が聞こえたのか、ざくろが振り向く。
「精一杯やるよ! みんな、愛する大事な人だからっ!」
「……にしてもざくろよ、娘にまで手を出したらその時は狼たちが火を噴くからな?」
「し、しないよ!」
「妾を増やすのは構いませんけど、娘達まで手を出したらお仕置きですからね?」
「だから、しないって!」
必死に否定するざくろの表情が面白可愛く、巴はクスクスと笑い、ソティスはニヤニヤと口元を緩めた。
「それから、着物を買うのなら、ここは一つ私が見立ててやろうかね? 今日は離さんからな、せいぜい覚悟していろよ?」
ざくろの小さな悲鳴が響く。
今日はナニをどうしても、らきすけの神が降臨するだろうから、だったら、最初から、ナニがあり気で動いた方がいいだろう。
……ざくろが鼻血を出しすぎて倒れなければ。
「折角の休息の日です。子供達の世話はお任せ下さい。主は皆と共に羽を伸ばして貰えれば」
何台も連結した乳母車を押しているのは、時音 リンゴ(ka7349)だった。
タイミングよく、産後に揃ったので、現在、出産間際の妊婦はいないのだ。思いっきり遊ぶには今しかない。
「みんなが頑張って働いたからこその今日です。みんなが遊んだり出来るように、桜もしっかりと子守りするです」
天儀の巫女装束を模した服装で、リンゴと共に乳母車を押す八重 桜(ka4253)。
「ありがとう、リンゴ、桜」
「主、祭りのパンフレットです」
「あまり動くと子供達も心配だから、適当な場所で待ってますね」
本来であれば全員で遊びにいければ良いのだろうが、子供もいるとなると難しいものだ。
率先して世話を見てくれるという二人にざくろは心の奥底から感謝した。
「メイドとして主様のサポートができていれば幸いです」
「子供の数だけ愛があるのです。子供は世界の宝です」
子沢山なので世話も大変だけど、子供はやっぱり可愛いと桜は思っていた。どういう訳か、生まれた子供が全員女の子なのは謎だが。
とにかく、愛する人の子というのもあるかもしれないし、子供が生まれてからざくろの愛情も増した気がする。
人は変わるものだ……桜の胸は3年経ってもあまり変わりはないが……。
「本当に、ありがとう。必ず、二人と子供達の分のお土産も買ってくるからね」
「ありがとうございます。主様」
主の顔を確りと見つめて、リンゴは笑顔で応える。
これはこれで、嬉しい役回りかもしれない。
一方、育児から解放された事で白山 菊理(ka4305)が高々と両手を上げて伸びをした。
「愛しいわが子とはいえ、流石に疲れは溜まるものだな……」
「大事な機会ですから、食べ物も催し物も、色々楽しみたいですよね」
サクラ・エルフリード(ka2598)が、菊理の言葉に頷いて同意しながらパンフレットを広げていた。
東方大復興祭というだけあって、東方各地の美味しい郷土料理を出す店も多い。
「お土産には何がいいでしょうか」
「さて、何がいいかな。この天気の中、持ち歩いた食べ物は鮮度がもたないだろうし、小さい玩具は子供が口に入れてしまうからな」
「ざくろが率先して決められればいいんだけど……」
二人の会話にざくろが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
こればっかりは性格というのもあるだろうし、皆で考えるというのも楽しみの一つだから、これで良い面もあった。
「色々なお土産を見て回るのも、温泉街の参考になっていいかもです」
「なるほど。確かに、そうね」
「頼もしいな~」
仲良くパンフレットを見つめる妻達の姿。
ざくろの所領が大きく発展したのは、彼女らの力による所が大きい。
今日、ここにいる嫁達だけで8人はいるのだ。しかも、全員が覚醒者であり、それぞれ、実力者でもある。ざくろ自身も含めれば、これだけの力量ある覚醒者を抱えられる新興武家は少ないだろう。
おまけに女性が活躍している所領という噂が立てば、そこで一旗あげようとする人材もまた集まってくる――結局はマンパワーがものを言うのだ。
「3年経てば、まぁまぁ変わるわよね~。ここまで上手くいったのは凄いけど」
アルラウネ(ka4841)が歩んできた道のりを振り返りながら、そう言った。
嫁同士で仲が良い事も大事な事だし、維持できるように“立ち回る”ざくろも凄いのだが。
「教えを広められるなら、どこだって私は構いませんからね。どこまでも一緒に行きますよ」
いかにも敬虔な信徒のような事をアデリシア・R・時音(ka0746)が告げる。
そして、そっとお腹を摩った。
「まだまだ子供も小さい……というかローテを組みきれていないですが……」
「そうね……ざくろんもまだ、子供欲しいみたいだし?」
「だ、ダメかな?」
顔を真っ赤にして答えるざくろに、アデリシアは微笑を浮かべる。
「ダメではありませんわ。計画性があっても良いと思っただけですから」
「子宝で、ハーレムで、温泉を持つ領主って……ざくろんの事を知ってる人からすると、もう笑うしかないって感じよね」
落ち着いた大人の女性のような態度のアデリシアと、小悪魔を思わせるようないぢわるな台詞を口にするアルラウネ。
子育てもそうだが、家庭を守る事も、領主という立場も、ざくろには成さなければいけない事が多い。
勿論、そうした多忙に折れるようなざくろではない。
「それでもいい。ざくろは皆と一緒に、未来を歩みたいから」
真面目な顔で妻達を一人ひとり順に見渡しながら宣言した。
きっと、これからも色々な事が起こって駆け回る事になるだろう。けれど、どんな苦難も皆と一緒なら乗り越えられるはずなのだから。
「都じゃないと買えない服とか、所領で待つ皆へのお土産も、いっぱい買って楽しんでいこう!」
今日の為に頑張って積み立てたお金がぎっしりと詰まった袋を握りしめるざくろ。
妻達には沢山の苦労を掛けているのだ。彼女らは気にしないだろうが、ざくろとしてはここで少しでも労いたい所だ。
「たまの服選び。都だし、他の国の品とかも買うチャンスかしらね……うん、楽しい時間になりそう」
「それじゃ、まずはそういうアルラウネの服から見立てるとするか」
「よし、ざくろ、頑張るよ!」
ソティスが手を伸ばすのと、ざくろが伸ばした手が同時だった。
が、そのタイミングと勢いが悪かった。ソティスの手を避けようとした動きで、アルラウネの胸を思いっきり鷲掴みしたからだ。
「あわわわわ!」
その弾力に驚き、慌てて手を放すも、今度は空いていた手がソティスの豊かなそれを掴む。
「ふむ、やはり、こうなるな」
「ち、違うから、わざとじゃないから!」
大きくのけ反った所で、バランスを崩してざくろは、アデリシアの胸にある深い谷間に頭を埋める。
「まだ昼間ですよ」
「ご、ご、ごめん。そうだよね、昼間だよね」
夜だったら、どうなっていたというのか、錯乱しながら脱出しようと両腕を伸ばして藻掻くざくろ。
当然のことながら、それぞれの手が柔らかいものを確りと掴んだ。
「流石に往来のど真ん中では……お仕置きが必要でしょうか?」
「……昨夜の事が足りないならそう言ってくれれば良かったのに」
胸を掴まれながら、巴と菊理が冷静にざくろに告げる。
いつものらきすけ空間になった所で桜が顔を両手で覆う。指の間は確りと開いているが。
「見ちゃった……」
「まだ、終わっていないとみました」
桜の隣でリンゴが淡々と事実を述べる。
鼻血を噴き出して倒れたざくろに、サクラが手を差し出したのだが、引っ張る力が強すぎて、逆に引き込んでしまったのだ。
「きゃぁ」
可愛らしい小さい悲鳴をあげて倒れ落ちる直前、空いている手で救いを求めるとそれをアルラウネが無理な態勢で掴む。
……が、それが良くなかった。彼女もまた、バランスを崩し倒れかかり、助けようとしたソティスだったが、魔術師なだけに力が足りなかった。
一緒になって転んでしまう所を巴と菊理が咄嗟に手を伸ばしたが、勢いが先回りしたのか、アデリシアを巻き込み、桜とリンゴを以外、全員が仲良く地面に転がるのであった。
「うぎゅうぅぅぅぅ」
胸やら太ももやら股やらの間に全身が埋まったざくろ。
見ようによっては羨ましいハーレム状態なのだが、一番の下敷きになったのは苦しかったようだ。
起き上がろうとするも、全員が何かしら、誰かに縺れていて、そう簡単には起きられない。
「み、皆、大丈夫かな?」
それでも、自分より愛する妻達の事を心配するのは流石だろう。
その手に誰かのパンツを握っていなければ――。
「こ、これ、あ……パ、パンツぅ!?」
鼻血の噴水が盛大に吹き出るのであった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/20 20:04:40 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/09/21 22:52:46 |