ゲスト
(ka0000)
温泉山の鬼退治
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/10 19:00
- 完成日
- 2015/02/17 22:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
湯気が立ち込める山道を二人の男が行く。
鼻をくすぐる腐った卵のような臭いに、時折顔をしかめながら足を動かす。
傾斜がそれほど険しいわけではないが、杖をつく。足場が悪いのだ。
「源泉はこの先か?」
「えぇ、そのはず」
二人の目的は、この山にある温泉の源である。
裾野に広がる湯治場の温泉が濁っていると聞き、領主の依頼を受けて様子を見に来たのだ。
自警団を担い、体力には自信のある二人だが、この熱さはこたえる。
服が汗を吸って、じっとりと身体に張り付く。
「水あるか?」
「ぬるいがな」
山裾からすでにぬるまっていた水は、より温まっていた。
足を止めて喉を潤すが、同時に湯気を吸ってむせる。
「おい、零すなよ」
相方に言われ、力なく笑いながらボトルを返す。
受け取ろうとした相方の手が止まった。後ろの方を眺めて、固まる。
「どうした?」
「……あ、あれ」
指さした方角を見れば、枯れ木ほどある身長の人が歩いていた。
この辺りの枯れ木は、二人の倍はある。
いうなれば、巨人といっても差支えがないのかもしれない。
「角が生えて……ば、ばけものだ」
顔をひきつらせ、相方が逃げ出す。杖を放り捨て、男も逃げ出した。
途中、振り返れば同じ姿の化け物が増えていた。
山肌に転がる石を蹴飛ばしながら、必死に駆けていく。
「わわわわわ」
化け物は手に、金属で出来た棍棒を持っていた。
見えたうちの一体が、二人を追いかけているらしく、邪魔な岩を割っていた。
金棒を一閃すれば、風刃が飛び、目の前の枯れ木から枝を落とす。
転がるように山から抜けだし、振り返れば化け物は諦めたのか背中を見せていた。
頭に二本の角をはやし、全身を真っ赤に染める。
あまりの恐ろしさに、口の中が完全に乾いていた。
●
「この温泉がとりわけ利益を生み出すわけじゃないが……」
二人の報告を聞いた領主は険しい顔をしていた。
自領内に化け物がいるというだけでも、問題である。
ましてや、憩いの場として利用される場所である。
「領民のストレスがマッハでやばい」
「領主、言葉が乱れています」
「頭痛が痛い……」
「領主、早急に依頼を出すしかないかと」
「そうそう、それが言いたかったのよ」
文句をぐっと飲み込み、自警団の二人は告げる。
「戻ってくる途中、旅人から聞いたのですが」
「我々が見た化け物はオニという、東の化け物に酷似しているそうです」
「依頼は、オニ退治としておこう。興味を引いてもらって、さっさと解決したい」
段々とやり投げな態度になってきた領主に適当な相槌をうち、二人は退出する。
湯治場の主人と話をつけ、湯治客を含めて一時的に避難してもらった。
だが、怪我や病気の者を長期間避難してもらうわけにも行かない。
「オニ退治……来てくれるといいのだが」
「あの温泉卵投げつけたら、倒せないかな」
「さすがに……ムリだろう」
意外と美味しいのだと思っていることは、胸に秘める男であった。
●
「温泉が濁る直接の原因かはわかりません」
スタッフはまず、こう述べた。
「しかし、歪虚の存在が温泉に悪影響を与えている可能性は否定しきれません」
化け物対自体が、温泉を元に戻す可能性はあるというのだ。
その上で、スタッフは続ける。
「いずれにせよ、化け物を放置しておくわけには行きません。オニ退治、引き受けてくれますか?」
湯気が立ち込める山道を二人の男が行く。
鼻をくすぐる腐った卵のような臭いに、時折顔をしかめながら足を動かす。
傾斜がそれほど険しいわけではないが、杖をつく。足場が悪いのだ。
「源泉はこの先か?」
「えぇ、そのはず」
二人の目的は、この山にある温泉の源である。
裾野に広がる湯治場の温泉が濁っていると聞き、領主の依頼を受けて様子を見に来たのだ。
自警団を担い、体力には自信のある二人だが、この熱さはこたえる。
服が汗を吸って、じっとりと身体に張り付く。
「水あるか?」
「ぬるいがな」
山裾からすでにぬるまっていた水は、より温まっていた。
足を止めて喉を潤すが、同時に湯気を吸ってむせる。
「おい、零すなよ」
相方に言われ、力なく笑いながらボトルを返す。
受け取ろうとした相方の手が止まった。後ろの方を眺めて、固まる。
「どうした?」
「……あ、あれ」
指さした方角を見れば、枯れ木ほどある身長の人が歩いていた。
この辺りの枯れ木は、二人の倍はある。
いうなれば、巨人といっても差支えがないのかもしれない。
「角が生えて……ば、ばけものだ」
顔をひきつらせ、相方が逃げ出す。杖を放り捨て、男も逃げ出した。
途中、振り返れば同じ姿の化け物が増えていた。
山肌に転がる石を蹴飛ばしながら、必死に駆けていく。
「わわわわわ」
化け物は手に、金属で出来た棍棒を持っていた。
見えたうちの一体が、二人を追いかけているらしく、邪魔な岩を割っていた。
金棒を一閃すれば、風刃が飛び、目の前の枯れ木から枝を落とす。
転がるように山から抜けだし、振り返れば化け物は諦めたのか背中を見せていた。
頭に二本の角をはやし、全身を真っ赤に染める。
あまりの恐ろしさに、口の中が完全に乾いていた。
●
「この温泉がとりわけ利益を生み出すわけじゃないが……」
二人の報告を聞いた領主は険しい顔をしていた。
自領内に化け物がいるというだけでも、問題である。
ましてや、憩いの場として利用される場所である。
「領民のストレスがマッハでやばい」
「領主、言葉が乱れています」
「頭痛が痛い……」
「領主、早急に依頼を出すしかないかと」
「そうそう、それが言いたかったのよ」
文句をぐっと飲み込み、自警団の二人は告げる。
「戻ってくる途中、旅人から聞いたのですが」
「我々が見た化け物はオニという、東の化け物に酷似しているそうです」
「依頼は、オニ退治としておこう。興味を引いてもらって、さっさと解決したい」
段々とやり投げな態度になってきた領主に適当な相槌をうち、二人は退出する。
湯治場の主人と話をつけ、湯治客を含めて一時的に避難してもらった。
だが、怪我や病気の者を長期間避難してもらうわけにも行かない。
「オニ退治……来てくれるといいのだが」
「あの温泉卵投げつけたら、倒せないかな」
「さすがに……ムリだろう」
意外と美味しいのだと思っていることは、胸に秘める男であった。
●
「温泉が濁る直接の原因かはわかりません」
スタッフはまず、こう述べた。
「しかし、歪虚の存在が温泉に悪影響を与えている可能性は否定しきれません」
化け物対自体が、温泉を元に戻す可能性はあるというのだ。
その上で、スタッフは続ける。
「いずれにせよ、化け物を放置しておくわけには行きません。オニ退治、引き受けてくれますか?」
リプレイ本文
●
「冬でもここまで汗を掻く環境があるのね……」
じっとりと貼り付く巫女装束と髪の毛に、柏部 狭綾(ka2697)がぽつりと零す。
ハンターたちが訪れた山道は、湯気が視界を霞ませる程、立ち込めていた。
「冷えた水がうまいぜ」
ちびっと水を飲みながら、上霧 鋭(ka3535)が湯気の先を見る。
「まさか鬼退治なんてやる羽目になるなんてよ、まるで御伽話みてーだな」
「確かに、風を纏う鬼とは、リアルブルーの童話にでも出てきそうな敵じゃのぅ」
そっとヴィルマ・ネーベル(ka2549)が振り返り、応じる。
二人とも、会話をしつつ、口に水を運んでいた。
こまめな水分補給が重要だという共通認識があった……のだが。
「メープルは、本当にそれで大丈夫なのかぇ?」
「大丈夫です、お酒大好きですから。身体に、ワインはいーんですよ?」
柔和な笑みを浮かべ、メープル・マラカイト(ka0347)はヴィルマに言葉を返す。
※蒸し風呂のような環境でお酒を飲むのは、避けましょう。
「それにしても、鬼のおにぃさんはどこかしらね」
ふふっと笑いながら、ふわりと視線を揺らす。
「早く片付けてさっぱりしたいわ」
この悪環境にげんなりと言う狭綾。
それとは対照的に、テンションの高い人達がいた。
「鬼……鬼退治といえば、おサムライさんだよね、だよね!」
「異世界に飛ばされ、鬼が山で鬼退治だと!? 幸せすぎて死にそうだ!」
喜びが口からあふれている、ミィリア(ka2689)と筱崎あかね(ka3788)である。
無論、鬼に苦しめられている人々のことも救う気満々である。
「私の命に代えても鬼に襲われた住人を救う……」とあやねはぶつぶつ呟いているし、
「終わった後には温泉につかって、疲れた身体に熱燗とか……」とミィリアはいっている。
温泉に浸かるためには、住人を助ける必要があるのだから、やる気満々なのだ。
間違いない。
「ふへへ……楽しみでござる」と顔が緩んでいるが、大丈夫だ。多分。
「温泉に浸かる愉しみ、それが奪われることがどれだけ辛いことか。ボクもわかっているつもりさ」
そんなミィリアの隣で、Holmes(ka3813)が静かに告げる。
ホームズも気が抜けた炭酸飲料で、水分補給を怠らない。
「ならば、大王たるボクと仲間たちがしっかりと討伐してやろうではないか!」
ばしっと拳を突き上げ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が宣言する。
その宣言に反応したのだろうか。
低い地響きのような声が、湯気の向こうから聞こえてきた。
上がりきっていたテンションを抑え、ミィリアが刀を抜く。
鋭やディアドラが盾を構え、後衛を見やる。
まもなくして、鬼の巨体が目に飛び込んできた。
●
こちらが気づくと同時に、向こうも察したのだろうか。
鬼の丸太ほどありそうな腕が、ぐらりと持ち上がった。
「見えたでござる! いざ、尋常に勝負でござるー!」
ミィリアが先行、続いて鋭が盾を押し出すように駆ける。
二人に続き、ディアドラが行く。ホームズは様子を見つつ、前へ出る。
「ふむ、ちょうど4体か」
ホームズが告げる通り、敵影は4つ。
そのうち、二体が金棒をぶん回す。
「離れる前に、やることがあるのじゃ」
「焦ったらダメですよ」
メープルとヴィルマが口々に、風の守りを付与していく。
刹那、鬼に動きがあった。回転させた金棒から風刃が放たれたのだ。
「これぐらいでボクは止まらないな!」
「鬼さんこちら、でござる!」
風刃を避け、ディアドラとミィリアはなおも進む。
鋭も進もうとしたところへ、一体の鬼が肉薄した。
「でけー……」
頭ひとつ以上飛び抜けた鬼を見上げ、一瞬固まる。
しかし、覚醒すれば同じぐらいにまで鋭の身長は高くなるのだ。
そして、すぐに硬いことに定評のある動物霊の力を借り、防御を固める。
ガッチガチに、盾と同化した右腕を構え、攻撃に供える。
「――っ!!」
言葉にならぬ声を上げ、鬼が金棒を振り下ろす。
ガツンと頭に振るわれた一撃は、傷こそ負わなかったものの、目の前に星を散らした。
では、残る一体は?
件の鬼は、前衛を無視するような軌道で走っていた。
「無作法は、よくないわよ」
急接近しようとする鬼へ、狭綾が矢を射かける。
直撃ではなく、わざと鬼の面前に矢を飛ばし、動きに制限をかけた。
「しかし、ただ壁役として足止めするのでは面白くない」
おもむろに、その鬼から一番近いホームズが歩み寄る。
抜身の仕込み杖をふと転がし、両手を広げてみせた。
「……キミ達もそうは思わないかい?」
力比べを誘うように、手指を動かす。
だが、金棒を手にした鬼が簡単に誘いにのるわけがない。
黒目のない眼が、ギラリと光る。
「風情を解しないとは、いささか残念だよ」
薙ぎ払われた金棒が、ホームズを襲う。庇い立てする隙はない。
ゴリッと全身に痛みを感じながら、金棒を受け止める。
「あまり、無茶はしないでくださいね」
金棒を持つ手を狙い、メープルがウィンドスラッシュを唱える。
風刃が腕を切り裂き、力をゆるめた。
ここぞとばかりに、ホームズは金棒を引き剥がして投げ捨てた。
「さぁ、これでも興が乗らないのかな?」
試すようにいいながら、鬼の開いた両手へ掴みかかる。
マテリアルを身体に満たし、ぐっと腰を入れる。
「遠慮せずに来ると良い。老婆一人倒せないようでは、鬼の名前が泣くというものだ」
挑戦的な笑みを浮かべ、鬼の双眸を見上げるのであった。
●
ホームズが力比べにかかる頃、ディアドラも切っ先をぶつけていた。
「大王たるボクを差し置いて、何処にも行かせないぞ」
先手を取るべく、踏み込みからの一撃をかます。
避けられても鬼の視線がこちらに向けば、十分であった。
まずは、注意をひくこと。それが肝要なのだ。
「夜空に乗っていれば、もっと格好がついたのに」
少し悔しそうなあかねが、同じ鬼に狙いをつける。
夜空とは、彼女の愛馬である。
途中まででもと思ったが、山に立ち込める臭いに脚が止まるようで、麓に置いてきたのだった。
いずれにせよ、戦闘中は危険ゆえ離しておくつもりではあったが。
馬はいないが、弓はある。
「篠崎家の弓の力、かならず役立ててみせる!」
気合とともに覚醒、彼女の背後に一人の精霊が浮かび上がる。
精霊こそ、あかねの祖先たる篠崎早矢であった。
弓を強く引き絞るあかねの手に、手を重ね、力を高める。
「ふっ」と短い息とともに放たれた矢は、鬼の顔面に深々と突き刺さる。
その身体がのけぞった瞬間に、ディアドラが強く踏み入れた。
懐に振り下ろされた金棒を盾で防ぎ、反撃の一手を放つ。
すぐさま体勢を戻し、次の攻撃にディアドラは備えるのだった。
そこから僅か十数メートルの地点で、鋭がじっと耐え忍んでいた。
硬い動物霊の力を絶やさぬよう注意しつつ、後方へ向かおうとする鬼を堰き止める。
「あんまり慌てることないじゃんか」
密着するように右腕を押し当て、踏ん張る。
目の前に見える鬼の目は、御伽話というよりも映画のCGを思わせる。
距離をとった鬼が風刃を飛ばそうとすれば、肉薄しすべて受け止める。
「後ろに当たったらどうすんの。危ないじゃんか」
ちらりと見れば、ヴィルマが水弾を放っていた。
ヴィルマの水弾の行く先は、ミィリアの対峙する鬼であった。
「ちとかっかしすぎでは無いかのぅ? 水でもかぶって少しは頭を冷やすのじゃよ」
ヴィルマの言葉と水弾を振り払うように金棒を振るった瞬間、ミィリアが一気に攻め込んだ。
守りを捨て、鬼の懐に潜り込めば、身長より長い大太刀が猛威をふるう。
「金棒、厄介でござる……が!」
風切音を立てながら、刃が腕を切り裂く。
強力な一撃に、金棒を持つ手が揺らぐ。その隙を逃さないよう、さらに踏み入れる。
逃れようとする鬼の脚元へ、狭綾が矢を放つ。
「決めてよね」
次なる矢をつがえ、水を飲む。
長丁場は危険だと、身体が告げていた。
回避の乱れた鬼へ、ミィリアが刃を振り上げる。
袈裟斬りに、鬼の肩口から腰の先まで斬り伏せる。
「渾身の一撃、いかがでござるか!」
予備動作で、身を離し鬼を睨めつける。
巨体が揺らいだところへ、止めとばかりに押しの一撃。
金棒が地面へ落ち、紅い巨体が地面の上に倒れこんだ。
「おサムライさんに一歩近づけたでござる……よね? だよね?」
喜びが湧き上がりそうになるが、一度抑える。
まだ残る敵へ、ミィリアはかけ出す。
●
残る三体のうち、一体はディアドラとあかねに翻弄されていた。
攻勢に出ようとすれば、
「ここだ!」とディアドラの剣先が襲いかかる。
かといって、じっとしていてはあかねの矢に撃たれるだけだ。
「攻めあぐねているとは、いい的だ」
口角を上げ、マテリアルを込めた瞳で睨めつける。
鬼の心情は計り知れないが、悪あがきをしているようにすら見えた。
早矢の霊と動作を重ね、放たれた矢は鬼の目を射抜いた。
「狙い通り」
「一気に決めるのだ!」
いきり立った鬼の一撃をいなし、ディアドラのレイピアがしなる。
肩の関節を穿ち、鬼の片腕がだらりと下がる。
放たれた足払いも盾で防ぎ、隙を突く。
同時に、手の空いた狭綾がここぞとばかりに、鬼の脚元を乱した。
「鬼を打ち払うのは、私の弓だ!」
気合を込め、引き絞られた弓が大きく唸る。
喉元へ吸い込まれた矢が、鬼の首を刎ね飛ばした。
「討ち取ったり!」
ぐっと拳を握り、あかねは告げた。
「正面は押さえとくからなー。頼むぜ」
駆けつけたミィリアに、鋭はそう告げる。
金棒の一撃は、鋭が阻んで通さない。鬼の動きに合わせて、右腕で受ける。
「蒸発する水が霧のようじゃのぅ。クク、霧の魔女としては嬉しい限りじゃ」
とヴィルマが多重に水弾を放つ。集中して、視覚や動きの要所を狙う。
多勢に無勢とあっては、いかに鬼といえども敵わない。
ましてや、頼みの綱の風刃も鋭が近すぎるために、奮わない。
「させないってーの」
「同じく、でござる!」
ミィリアが脚元を斬りつけ、上体を揺らす。膝こそ付かないが、動きが止まった。
「おぉわりぃけど、終わりなの~なんて微妙ですね……」
「余裕綽々じゃの……確かに終わりじゃがな!」
メープルが風刃、ヴィルマが水弾を同時に放った。
どちらが止めかは定かではない。穿たれた鬼は、為す術なく崩れ去るのであった。
「そろそろ、幕引きだね」
ホームズは鼻息の荒い鬼へ、静かに告げる。
鬼の放った膝を受け止め、残念そうにため息をつく。
「楽しかったが、もう少し頑張ってくれてもよかったのだよ?」
ぐらりと鬼の巨体がゆらぎ、地面に落とされる。
それがホームズに投げられたのだと気づく前に、あかねの矢とディアドラの刃が身体を貫いた。
「さて、温泉が愉しみだね」
鬼に一瞥くべると、元きた道をホームズは先んじて歩いて行く。
乾いた喉を、水がよく通り過ぎていった。
●
「戦いの後の温泉は身に沁みて気持ちがいいのじゃ~」
乳白色の湯につかり、ヴィルマは幸せそうに声を出す。
鬼の討伐を確認したハンターたちは、保養所の温泉で疲れを癒していた。
「これが、熱燗!」
「未成年に熱燗はアカンです、ふふ。でも、ミィリアさんは大丈夫ですよね」
「うん、大丈夫」と実年齢は言わず、頷き返す。
着々と湯場で酒盛りに興じる面々、ちなみにつまみはナイススメルな卵である。
作り上がった卵を引き上げ、器に割り入れる。
「匂いが強烈だが、これは癖になる味だな」
「おみやげ用に残しとくかなー」
臭いものほど旨いというが、この温泉卵も例外ではない。
殻が放つ臭いは、鼻を摘みたくなるような程だ。
しかし、味は別。
一皮むけば、とろんとした白身が姿を現しなんとも言えない味わいが口に広がる。
「酒によく合うものだね」
ホームズもメープルに一献預かりながら、卵を味わう。
「飲みすぎないでね」
巻き込まれないよう、少し距離をとった狭綾がツッコむ。
「保養所だから、人が少なくてよかったわ」
メープルのダジャレに拍車がかかり始め、ミィリアもテンションがいささか高い。
「何かあれば、私もいますから」
「そうね」
ちらりと隣にいるあかねを見やり、狭綾は応える。
口元まで、一瞬お湯に浸かる狭綾であった。何故かは不問である。
※なお、温泉に浸かりながらの飲酒は実際には危ないので、気をつけましょう。
明かりも少ないためか、見上げれば星空が見える。
何かに捧げるように、ホームズは酒の入った器を星空へ掲げる。
「……彼らとも1つ、酒を飲み交わしてみたかったよ」
昼間の戦いを思い出しながら、口に運ぶ。
甘い香りが口中に広まる。温泉の暖かさが、増した気がした。
これほど魔力のあるものだからこそ、彼らも現れたのかもしれないな。
そんな風に思う、ホームズであった。
「冬でもここまで汗を掻く環境があるのね……」
じっとりと貼り付く巫女装束と髪の毛に、柏部 狭綾(ka2697)がぽつりと零す。
ハンターたちが訪れた山道は、湯気が視界を霞ませる程、立ち込めていた。
「冷えた水がうまいぜ」
ちびっと水を飲みながら、上霧 鋭(ka3535)が湯気の先を見る。
「まさか鬼退治なんてやる羽目になるなんてよ、まるで御伽話みてーだな」
「確かに、風を纏う鬼とは、リアルブルーの童話にでも出てきそうな敵じゃのぅ」
そっとヴィルマ・ネーベル(ka2549)が振り返り、応じる。
二人とも、会話をしつつ、口に水を運んでいた。
こまめな水分補給が重要だという共通認識があった……のだが。
「メープルは、本当にそれで大丈夫なのかぇ?」
「大丈夫です、お酒大好きですから。身体に、ワインはいーんですよ?」
柔和な笑みを浮かべ、メープル・マラカイト(ka0347)はヴィルマに言葉を返す。
※蒸し風呂のような環境でお酒を飲むのは、避けましょう。
「それにしても、鬼のおにぃさんはどこかしらね」
ふふっと笑いながら、ふわりと視線を揺らす。
「早く片付けてさっぱりしたいわ」
この悪環境にげんなりと言う狭綾。
それとは対照的に、テンションの高い人達がいた。
「鬼……鬼退治といえば、おサムライさんだよね、だよね!」
「異世界に飛ばされ、鬼が山で鬼退治だと!? 幸せすぎて死にそうだ!」
喜びが口からあふれている、ミィリア(ka2689)と筱崎あかね(ka3788)である。
無論、鬼に苦しめられている人々のことも救う気満々である。
「私の命に代えても鬼に襲われた住人を救う……」とあやねはぶつぶつ呟いているし、
「終わった後には温泉につかって、疲れた身体に熱燗とか……」とミィリアはいっている。
温泉に浸かるためには、住人を助ける必要があるのだから、やる気満々なのだ。
間違いない。
「ふへへ……楽しみでござる」と顔が緩んでいるが、大丈夫だ。多分。
「温泉に浸かる愉しみ、それが奪われることがどれだけ辛いことか。ボクもわかっているつもりさ」
そんなミィリアの隣で、Holmes(ka3813)が静かに告げる。
ホームズも気が抜けた炭酸飲料で、水分補給を怠らない。
「ならば、大王たるボクと仲間たちがしっかりと討伐してやろうではないか!」
ばしっと拳を突き上げ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が宣言する。
その宣言に反応したのだろうか。
低い地響きのような声が、湯気の向こうから聞こえてきた。
上がりきっていたテンションを抑え、ミィリアが刀を抜く。
鋭やディアドラが盾を構え、後衛を見やる。
まもなくして、鬼の巨体が目に飛び込んできた。
●
こちらが気づくと同時に、向こうも察したのだろうか。
鬼の丸太ほどありそうな腕が、ぐらりと持ち上がった。
「見えたでござる! いざ、尋常に勝負でござるー!」
ミィリアが先行、続いて鋭が盾を押し出すように駆ける。
二人に続き、ディアドラが行く。ホームズは様子を見つつ、前へ出る。
「ふむ、ちょうど4体か」
ホームズが告げる通り、敵影は4つ。
そのうち、二体が金棒をぶん回す。
「離れる前に、やることがあるのじゃ」
「焦ったらダメですよ」
メープルとヴィルマが口々に、風の守りを付与していく。
刹那、鬼に動きがあった。回転させた金棒から風刃が放たれたのだ。
「これぐらいでボクは止まらないな!」
「鬼さんこちら、でござる!」
風刃を避け、ディアドラとミィリアはなおも進む。
鋭も進もうとしたところへ、一体の鬼が肉薄した。
「でけー……」
頭ひとつ以上飛び抜けた鬼を見上げ、一瞬固まる。
しかし、覚醒すれば同じぐらいにまで鋭の身長は高くなるのだ。
そして、すぐに硬いことに定評のある動物霊の力を借り、防御を固める。
ガッチガチに、盾と同化した右腕を構え、攻撃に供える。
「――っ!!」
言葉にならぬ声を上げ、鬼が金棒を振り下ろす。
ガツンと頭に振るわれた一撃は、傷こそ負わなかったものの、目の前に星を散らした。
では、残る一体は?
件の鬼は、前衛を無視するような軌道で走っていた。
「無作法は、よくないわよ」
急接近しようとする鬼へ、狭綾が矢を射かける。
直撃ではなく、わざと鬼の面前に矢を飛ばし、動きに制限をかけた。
「しかし、ただ壁役として足止めするのでは面白くない」
おもむろに、その鬼から一番近いホームズが歩み寄る。
抜身の仕込み杖をふと転がし、両手を広げてみせた。
「……キミ達もそうは思わないかい?」
力比べを誘うように、手指を動かす。
だが、金棒を手にした鬼が簡単に誘いにのるわけがない。
黒目のない眼が、ギラリと光る。
「風情を解しないとは、いささか残念だよ」
薙ぎ払われた金棒が、ホームズを襲う。庇い立てする隙はない。
ゴリッと全身に痛みを感じながら、金棒を受け止める。
「あまり、無茶はしないでくださいね」
金棒を持つ手を狙い、メープルがウィンドスラッシュを唱える。
風刃が腕を切り裂き、力をゆるめた。
ここぞとばかりに、ホームズは金棒を引き剥がして投げ捨てた。
「さぁ、これでも興が乗らないのかな?」
試すようにいいながら、鬼の開いた両手へ掴みかかる。
マテリアルを身体に満たし、ぐっと腰を入れる。
「遠慮せずに来ると良い。老婆一人倒せないようでは、鬼の名前が泣くというものだ」
挑戦的な笑みを浮かべ、鬼の双眸を見上げるのであった。
●
ホームズが力比べにかかる頃、ディアドラも切っ先をぶつけていた。
「大王たるボクを差し置いて、何処にも行かせないぞ」
先手を取るべく、踏み込みからの一撃をかます。
避けられても鬼の視線がこちらに向けば、十分であった。
まずは、注意をひくこと。それが肝要なのだ。
「夜空に乗っていれば、もっと格好がついたのに」
少し悔しそうなあかねが、同じ鬼に狙いをつける。
夜空とは、彼女の愛馬である。
途中まででもと思ったが、山に立ち込める臭いに脚が止まるようで、麓に置いてきたのだった。
いずれにせよ、戦闘中は危険ゆえ離しておくつもりではあったが。
馬はいないが、弓はある。
「篠崎家の弓の力、かならず役立ててみせる!」
気合とともに覚醒、彼女の背後に一人の精霊が浮かび上がる。
精霊こそ、あかねの祖先たる篠崎早矢であった。
弓を強く引き絞るあかねの手に、手を重ね、力を高める。
「ふっ」と短い息とともに放たれた矢は、鬼の顔面に深々と突き刺さる。
その身体がのけぞった瞬間に、ディアドラが強く踏み入れた。
懐に振り下ろされた金棒を盾で防ぎ、反撃の一手を放つ。
すぐさま体勢を戻し、次の攻撃にディアドラは備えるのだった。
そこから僅か十数メートルの地点で、鋭がじっと耐え忍んでいた。
硬い動物霊の力を絶やさぬよう注意しつつ、後方へ向かおうとする鬼を堰き止める。
「あんまり慌てることないじゃんか」
密着するように右腕を押し当て、踏ん張る。
目の前に見える鬼の目は、御伽話というよりも映画のCGを思わせる。
距離をとった鬼が風刃を飛ばそうとすれば、肉薄しすべて受け止める。
「後ろに当たったらどうすんの。危ないじゃんか」
ちらりと見れば、ヴィルマが水弾を放っていた。
ヴィルマの水弾の行く先は、ミィリアの対峙する鬼であった。
「ちとかっかしすぎでは無いかのぅ? 水でもかぶって少しは頭を冷やすのじゃよ」
ヴィルマの言葉と水弾を振り払うように金棒を振るった瞬間、ミィリアが一気に攻め込んだ。
守りを捨て、鬼の懐に潜り込めば、身長より長い大太刀が猛威をふるう。
「金棒、厄介でござる……が!」
風切音を立てながら、刃が腕を切り裂く。
強力な一撃に、金棒を持つ手が揺らぐ。その隙を逃さないよう、さらに踏み入れる。
逃れようとする鬼の脚元へ、狭綾が矢を放つ。
「決めてよね」
次なる矢をつがえ、水を飲む。
長丁場は危険だと、身体が告げていた。
回避の乱れた鬼へ、ミィリアが刃を振り上げる。
袈裟斬りに、鬼の肩口から腰の先まで斬り伏せる。
「渾身の一撃、いかがでござるか!」
予備動作で、身を離し鬼を睨めつける。
巨体が揺らいだところへ、止めとばかりに押しの一撃。
金棒が地面へ落ち、紅い巨体が地面の上に倒れこんだ。
「おサムライさんに一歩近づけたでござる……よね? だよね?」
喜びが湧き上がりそうになるが、一度抑える。
まだ残る敵へ、ミィリアはかけ出す。
●
残る三体のうち、一体はディアドラとあかねに翻弄されていた。
攻勢に出ようとすれば、
「ここだ!」とディアドラの剣先が襲いかかる。
かといって、じっとしていてはあかねの矢に撃たれるだけだ。
「攻めあぐねているとは、いい的だ」
口角を上げ、マテリアルを込めた瞳で睨めつける。
鬼の心情は計り知れないが、悪あがきをしているようにすら見えた。
早矢の霊と動作を重ね、放たれた矢は鬼の目を射抜いた。
「狙い通り」
「一気に決めるのだ!」
いきり立った鬼の一撃をいなし、ディアドラのレイピアがしなる。
肩の関節を穿ち、鬼の片腕がだらりと下がる。
放たれた足払いも盾で防ぎ、隙を突く。
同時に、手の空いた狭綾がここぞとばかりに、鬼の脚元を乱した。
「鬼を打ち払うのは、私の弓だ!」
気合を込め、引き絞られた弓が大きく唸る。
喉元へ吸い込まれた矢が、鬼の首を刎ね飛ばした。
「討ち取ったり!」
ぐっと拳を握り、あかねは告げた。
「正面は押さえとくからなー。頼むぜ」
駆けつけたミィリアに、鋭はそう告げる。
金棒の一撃は、鋭が阻んで通さない。鬼の動きに合わせて、右腕で受ける。
「蒸発する水が霧のようじゃのぅ。クク、霧の魔女としては嬉しい限りじゃ」
とヴィルマが多重に水弾を放つ。集中して、視覚や動きの要所を狙う。
多勢に無勢とあっては、いかに鬼といえども敵わない。
ましてや、頼みの綱の風刃も鋭が近すぎるために、奮わない。
「させないってーの」
「同じく、でござる!」
ミィリアが脚元を斬りつけ、上体を揺らす。膝こそ付かないが、動きが止まった。
「おぉわりぃけど、終わりなの~なんて微妙ですね……」
「余裕綽々じゃの……確かに終わりじゃがな!」
メープルが風刃、ヴィルマが水弾を同時に放った。
どちらが止めかは定かではない。穿たれた鬼は、為す術なく崩れ去るのであった。
「そろそろ、幕引きだね」
ホームズは鼻息の荒い鬼へ、静かに告げる。
鬼の放った膝を受け止め、残念そうにため息をつく。
「楽しかったが、もう少し頑張ってくれてもよかったのだよ?」
ぐらりと鬼の巨体がゆらぎ、地面に落とされる。
それがホームズに投げられたのだと気づく前に、あかねの矢とディアドラの刃が身体を貫いた。
「さて、温泉が愉しみだね」
鬼に一瞥くべると、元きた道をホームズは先んじて歩いて行く。
乾いた喉を、水がよく通り過ぎていった。
●
「戦いの後の温泉は身に沁みて気持ちがいいのじゃ~」
乳白色の湯につかり、ヴィルマは幸せそうに声を出す。
鬼の討伐を確認したハンターたちは、保養所の温泉で疲れを癒していた。
「これが、熱燗!」
「未成年に熱燗はアカンです、ふふ。でも、ミィリアさんは大丈夫ですよね」
「うん、大丈夫」と実年齢は言わず、頷き返す。
着々と湯場で酒盛りに興じる面々、ちなみにつまみはナイススメルな卵である。
作り上がった卵を引き上げ、器に割り入れる。
「匂いが強烈だが、これは癖になる味だな」
「おみやげ用に残しとくかなー」
臭いものほど旨いというが、この温泉卵も例外ではない。
殻が放つ臭いは、鼻を摘みたくなるような程だ。
しかし、味は別。
一皮むけば、とろんとした白身が姿を現しなんとも言えない味わいが口に広がる。
「酒によく合うものだね」
ホームズもメープルに一献預かりながら、卵を味わう。
「飲みすぎないでね」
巻き込まれないよう、少し距離をとった狭綾がツッコむ。
「保養所だから、人が少なくてよかったわ」
メープルのダジャレに拍車がかかり始め、ミィリアもテンションがいささか高い。
「何かあれば、私もいますから」
「そうね」
ちらりと隣にいるあかねを見やり、狭綾は応える。
口元まで、一瞬お湯に浸かる狭綾であった。何故かは不問である。
※なお、温泉に浸かりながらの飲酒は実際には危ないので、気をつけましょう。
明かりも少ないためか、見上げれば星空が見える。
何かに捧げるように、ホームズは酒の入った器を星空へ掲げる。
「……彼らとも1つ、酒を飲み交わしてみたかったよ」
昼間の戦いを思い出しながら、口に運ぶ。
甘い香りが口中に広まる。温泉の暖かさが、増した気がした。
これほど魔力のあるものだからこそ、彼らも現れたのかもしれないな。
そんな風に思う、ホームズであった。
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【相談卓】鬼さんこちら Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/02/09 23:37:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/06 06:12:52 |