イノセントイビル 正史『巨大物体』迎撃戦

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
8~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/10/05 12:00
完成日
2019/10/13 22:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 最初に『その存在』を目撃したのは、大河ティベリスを目指して大湖を走る運搬船の船乗りたちだった。
 彼らは朝靄に煙る大湖を緩やかに走る船の上で、岸辺から聞こえてくるズシン、ズシン、という音を聞いて舷側に集まって…… 靄越しに映った影を見やって、『島が歩いている』と腰を抜かした。
 途中、オーサン川河口の川湊に慌てて立ち寄って、船乗りたちは自分たちが見たその光景を皆に話して聞かせたが、人々は面白おかしく拝聴しつつも、それに『担がれる』者はいなかった。

 続く目撃情報はフィンチ子爵領。山中にて狩りをしていた猟師が慌てて下山して来て屯所に駆け込み、『山が動いてた』と通報するも与太話として処理をされ……
 翌朝、命からがらといった態で逃げて来た山賊たちが別の麓の村で保護をされ。彼らは「何か巨大な化け物にアジトを潰された!」と供述したが、官憲は取り合わずに逮捕し、即日処刑。情報が世に出ることはなかった。

 以降、『その存在』の目撃情報は、暫くの間、プツリと途絶える。そして、『その存在』がダフィールド侯爵領に達した瞬間、それまでと比べ物にならないくらい爆発的な数の目撃情報が寄せられることになった。
 かの侯爵家には優秀な『諜報機関』が存在していた。その情報網は自領のみならず周辺諸侯領にまで及んでいた。

「『新領』より報告。行商人が山間の街道にて『木と岩で出来た巨大な怪物』を目撃したとの情報あり」
「スフィルト子爵領にて『小山みたいにバカでかい何かがなめくじみたいに山を越えていった』との報告。通過跡は家も畑も森も大地も何もかもが抉り取られていたと──」
 侯爵領・ニューオーサンの街。諜報組織本部── 本部長代理を務めるヤングは、矢継ぎ早に入るそんなおとぎ話みたいな報告に困惑しつつ、「何が起こっているんです……?」と誰かに訊ねたくなる気持ちをどうにか呑み込んだ。
「ともかく、似たような事例があったら、みんなこっちへ持って来てくれ。とにかく情報を集約するんだ」
 すぐに報告が纏められ、本部の大地図に目撃地点と大まかな目撃日時が記されていった。現地の人間には無視されたオーサン川河口の川湊やフィンチ子爵領の目撃情報すらも、この場には集められていた。
(……おい。おいおい、待てよ、これって……)
 地図上に浮かび上がって来たその『巨大物体』の行動経路を見やって、ヤングはその背筋を汗で冷たくした。──もしかして、こいつ…… ニューオーサンに向かって来ているんじゃなかろうな──?!
「わ。何だか随分と忙しそうだね」
 そこへ、侯爵領の民生長官を務めるルーサー・ダフィールドが別件で本部を訪れた。その名の通り侯爵家の四男坊であり、本部長(代理が付かない方の)の弟に当たる人物だ。
「すみません、ルーサー様、今は……」
「ああ、僕には構わず仕事を続けて」
 ルーサーはそう言って、邪魔にならぬよう部屋の端まで退くと、壁際から本部全体を観察した。そして、本部内のやり取りから状況を把握すると、壁に掛けられた地図を見やって…… ヤングと同様の推察に至ってその顔面を蒼白にした。
 同時に、ある事実に気付いて慌てて本部を出て行き……程なくして一枚の地図を手に、戻って来た。そして、それを巨大物体の進路が記された大地図に重なる様に光に透かした。
「やっぱり……!」
 ルーサーが見ていたのは、領内の地下遺跡の地図だった。とある事件に関連して、彼の協力者であるマリー・オードランが調査したものだった。
「ルーサー様、これは…… 化け物の進路と地下遺跡のある場所とが重なって……!」
「『木と岩の化け物』。そして、『地面の下』……ねぇ、ヤングさん。これって何かを思い出さないかい?」
 ヤングはすぐに思い至った。『名も知れぬ怠惰の歪虚』──不倶戴天とも言える侯爵家の仇敵。ヤングたち『諜報機関』とルーサーはここ数年、逃げ隠れしながら『種子』をバラ撒く『奴』と激しい『いたちごっこ』を繰り広げていた。その正体が奴であるなら、侯爵領を狙うのにも合点がいく。
「しかし、こんなデカブツって…… すぐに対応しなければ……!」
 ルーサーとヤングはすぐに諜報本部を出た。
 ルーサーは怠惰の本体を討伐するべく、ソードとハンターたちを呼び集める為に。
 ヤングは侯爵家当主の元に赴き、ニューオーサンに迫る『巨大物体』の存在を報せて対処する為に。

 現当主カールはヤングの話を聞くと、すぐに街の人々に対する避難命令を発令した。同時に、対策本部を設置して、ハンターズソサエティと王国に対してユニット戦力の派遣を要請する。

 二日後── ニューオーサンの郊外にまで達した謎の化け物の進路上に、各地から招集されたユニット戦力が集結を終えた。
 場所はニューオーサンの街から山二つ越えた盆地の農村地帯。仮設の厩舎に轡を並べるハンターたちの幻獣部隊に、最後衛に並んだ王国のVolcanius中隊、野戦陣地で最後の燃料・弾薬補給を終えたCAM・魔導アーマー部隊が起動し、立ち上がって整列していく……
「偵察飛竜が侵攻中の『巨大物体』を目視で確認! 進路・速度ともに変わらず。決戦場への到達はおよそ15分後」
「全CAM部隊、前方への展開を開始してください。飛行幻獣部隊は戦闘開始時間ギリギリまで待機です。全砲兵、初弾装填。両翼の牽引砲部隊は擬装状態を維持、正面Volcanius部隊は陣地転換予定の最終確認を……」
 決戦場たる盆地の西端の山の上── 天幕を張っただけの対策本部で、オペレーターたちが忙しく通信のやり取りを行う。
 当主である長兄カールから対策本部長の役職を拝命したルーサー(他に『暇』な人間がいなかった)は、侯爵家の人間としてしっかり『お飾り』の役目を果たしつつ……内心では苦笑を禁じえなかった。
(怠惰の『本体』との決戦に向かうソード兄さんやマリーたちを『御武運を』とか言って送り出したのになぁ…… 彼らよりも最前線にいるよ、僕……)
 内心の苦笑が表に出た。それを見た本部のスタッフたちは、(ルーサー様も剛の者だ……こんな状況で笑みを浮かべられるとは……!)などと勘違いして、士気が上がったりもした。
「偵察飛竜より報告! 『巨大物体』、盆地への侵入を開始!」
 報告と同時に、決戦場全体がどよめいた。その場にいる全ての者たちが、山の稜線をズズズ……と乗り越えて来る『ソレ』の姿を目の当たりにしたからだ。
(話には聞いていたが……悍ましいな)
 直接、目視した敵の姿に眉根を寄せるルーサー。だが、その表情に怯んだ様子はまったくない。
「本部長……」
 侯爵軍指揮官から差し出されたマイクを手に取り、ルーサーは立ち上がった。そして、全部隊に向かって最初の命令を発した。
「対策本部より全ユニット戦力へ。攻撃を開始せよ。『巨大物体』をニューオーサンに近づけさせるな!」

リプレイ本文

●それは『ボロを纏って蹲った人だか獣だか軍艦だかナメクジだかみたいな蠢く小山』

 攻撃開始地点へ向けて移動を始めるユニット部隊── その『鞍上』でハンターたちは、前方、山の端を越えて盆地へと侵入して来る『巨大物体』の姿を、その時、初めて目視した。
「……まだあのようなものが残っていたのですね」
 R7『ウィザード』の操縦席で、呆れた様に呟くエルバッハ・リオン(ka2434)。鞍馬 真(ka5819)もまた飛竜『カートゥル』の首筋を撫でながら、敵の規格外の大きさに「邪神並みの大きさじゃないかな、あれ……」と乾いた笑みを零す。
「まあ、こちとら、デカブツ相手の戦闘は慣れたもんだ。『アレ』が何だろうが、殲滅するのみさ!」
 周りの王国兵を鼓舞するように、近衛 惣助(ka0510)が胸を叩いた。彼と、そして、ミグ・ロマイヤー(ka0665)の二人は他の皆とは異なり、砲兵の一員として他の砲撃機や王国軍Volcanius部隊(その全てが40ポンド施条砲を装備した新式だ)と共に、鶴翼に展開した陣形の『底』──中央部最後衛にて、敵が接近して来るのを待ち構えていた。
 その為に、ミグと惣助が引っ張り出して来たのは最新鋭機ではなく、鈍重だが火力と射程に優れるかつての愛機たちだった。
 特にミグなどは今日の為に新たに改造まで施していた。『ミグ式グランドスラム製造装置』を小型化し、主砲──『グランドスラム』専用砲。『クェーサー砲』と名付けた──に直接給弾できるようにしたのだ。その投射能力はグランドスラム100発以上──まさに狂気が乱舞するような超大火力だ。
「……ザザッ。対策本部より展開中の全ユニットへ。敵が作戦区域へ侵入しました。行動を開始してください」
 聞き覚えのある声に気付いて、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は「ん?」と顔を上げた。
(今の声はルーサー君か? それにしても何の因果か……)
 彼の事情を想像してみて、アルトは気の毒そうに苦笑した。或いは、この戦いの後で時間が取れたら、挨拶がてら顔を見に行くのもいいかもしれない。
「これ以上、この地を蹂躙させるわけにはいきません…… ルーサーに良い報告をする為にも頑張りましょうかね……」
 サクラ・エルフリード(ka2598)は頷くと、精神没入を終えたルクシュヴァリエへの拳をギュッと握った。
「これ以上、被害が出ない内に始末するとしましょうか」
 サクラに同意を示しながら、エルは練り上げた己のマテリアルを同調した機体に注ぎ始めた。R7の主力兵装であるマテリアル兵器の『弾切れ』を防ぐべく、『リロードキャスト』の使用回数を底上げしていく。
「攻略法は……まだ見えないな。仕方がない、地道に行きますか…… 『ストレリア・フーガ』。キヅカ・リク。出るよ……!」
 マスティマ『エストレリア・フーガ』とマテリアルの共有化を済ませ、弾ける様に戦場へと飛び出して行く鬼塚 陸(ka0038)。流れ星の名を冠したその白き機体は、誰かの祈りを背負うもの。そして、祈りに応え、その願いを叶えるもの──
「ニンジャの魂、充填完了……! 炎となったダイニンジャーちゃんは無敵なんだから! 迫る巨大怪物物体は、ルンルン忍法で成敗しちゃいます!(キャピ~ン!)」
 ルクシュヴァリエ『忍者合体『DXダイニンジャー』との『ニンジャ合心』(シャキ~ン!)を終えたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が効果音(?)と共にポーズを決めつつ、ニンジャ走りで後に続く。
「さぁて、気合入れていくぜ! こういう大規模な戦闘の機会は、もういくらもねぇだろうからな!」
「今後はこの機体に乗ることも減るんだろうな…… ならば、思い残すことが無いよう、ひと暴れしてやるぜ!」
 イェジド『ゴルラゴン』の背に跨り、大地を駆け往くアーサー・ホーガン(ka0471)が、R7エクスシアを駆るレイド・グリュエル(ka1174)が、それぞれ幻獣やCAMらに乗る仲間たちと共に前進を開始する。
 ……その光景を、ルクシュヴァリエの『ルクちゃん』と同調した星野 ハナ(ka5852)が溜め息と共に見ていた。
(……皆、随分と熱いわね。これが若さか、ってやつかしら……)
 そう思った直後、ハナは「いやいや、若い! 私、まだまだ十分若いし!」と慌てて頭を振った。そして、全速力で皆の後を追う。

 タスラムの最大射程に敵を捉えた所で、エルは機体の足を止めた。
 背部エンハンサーを起動して上昇させた出力を粒子加速器へと回し…… 長大な砲身から放たれた巨大なマテリアルエネルギーの奔流を『巨大物体』の『鼻面』に叩き込んだ。
 巨大な光の槍と化したマテリアル光が敵の巨体を構成する岩の塊へと突き刺さり、ヒビ入れ、砕き、複数の岩塊に分かちて、崩落させる。だが、その巨大な鎚でノミを打ち入れたが如き一撃も、巨大物体の巨体からすればほんの一部の被害に過ぎない。
「巨大歪虚はブッコロですよぅ~!」
 ハナは機体に巨大なガトリング砲を構えさせると、最大射程から猛烈な勢いで撃ち捲り始めた。高速回転する多重砲身から吐き出される炎の舌── 巨大な弾庫と弾帯で繋がったガトリングガンは際限なく砲弾をバラ撒き続け、巨体へ向かって伸びた火線は殆ど途切れることなく岩や木々を砕いていった。
「こっちは転移前から、狂気の巨大な化け物のやりあってきたんだ。デカブツの処理はまかせな!」
「ニンジャ大筒3WAYサンダーシュリケーン!!」
 近づく程に実感するそのバカでかさに怯む事無く前進しながら、レイドがバズーカ型の魔導砲を巨体目掛けて撃ち放ち。ルンルンもまた『大筒』の砲口から投げ放った『風雷陣』で次々と稲妻を落として岩を砕き、木を燃やす。
 一方、他の幻獣隊と共に敵の側方へ駆け上がったアーサーは、サーベルでゴルラゴンに目標を指示。敵の『前進』に巻き込まれぬよう距離を保ちつつビームを放たせ、両翼からも攻撃を開始する。
「うむ、やはり乗り慣れた機体は尻に馴染む…… さて、近衛殿。我らの最後の砲撃芸術を皆にお見せしようではないか」
「ああ、とっくに準備は出来ている。まずは飽和攻撃で一気に叩くぞ」
 敵が砲兵隊の射程に入った。惣助はインカムを使って、周囲のVolcanius隊、そして、左右両翼に伏せた砲兵隊に砲撃準備の指示を出した。
 擬装を解除してその姿を露わにする無数の野砲── 自ら半包囲の只中、キルゾーンへ進入する形となった敵へ向かって砲撃開始の指示が飛ぶ。
 轟音が戦場を圧した。放たれた初弾が一斉に巨大物体の表面に着弾し、無数の爆発の華が咲いた。三方から間断なく放たれる炸裂弾の釣瓶撃ち── 特に、まるで艦砲射撃の様なグランドスラムの砲撃は、『山の形を変える』どころか『小山を吹き飛ばす』くらいの勢いだ。
「これが俺たちの力だ!」
 砲撃に呼応するように、レイドもまたエンハンサーを起動すると、魔法を使うような所作で以って機の手から『マテリアルライフル』の光条を放った。
 同様に、マテリアルを付与した聖機槍をクルリと頭上に掲げ、『光あれ』の光刃を放つサクラ機。アルトのルクシュヴァリエもまた生身と同じように焔のオーラをその身に纏うと、斬艦刀を振り下ろして光刃を投射。機がマテリアルエネルギーを消費する傍から自身の生体マテリアルで補填しつつ、間断なく光刃を浴びせ掛けていく……
 一方、陸機はブレイズウィングを展開し、その身を依り代に借り受けた星のマテリアルを一身に集めていった。機体胸部前面に構築されていく立体魔法陣──そこから溢れんばかりに集束していく膨大な虹色エネルギーの塊を両手で前へと送り出し…… 弾けるように急加速して飛び出していった光弾は巨大物体に直撃した瞬間、閃光と共に爆発的に膨張。周囲の一切合切を纏めて消し飛ばす。
 ハンターたちの攻撃は、まさに光の波濤と化して巨大物体を呑み込んだ。
 だが、やつは生きていた。黒く焼け焦げた小山と化したその姿を晒しつつ、その前進速度はいささかも衰えていない。
 一瞬、戦場に静寂が舞い降りた。
 こんな化け物に勝てるのか── 兵たちが息を呑む。
 その見えざる問いに、答える者があった。言葉ではなく、態度で示すように。
 飛竜カートゥルを駆る真がただ1騎、巨大物体の上空へと侵入し、その背に虹色の翼を顕現させて広げながら、眼下の敵へ向かって『白龍の息吹』を浴びせ掛けたのだ。
(攻撃をし続けるんだ……たとえ効いているように見えなくても……!)

「……あの物体を支えている部分を狙うか。少しでも進軍速度が落ちれば儲けものだ」
「どの程度効果があるのやら、ですけども……それでも、少しでも効果があるのなら……!」
 アルトとサクラは更に機を巨大物体へ接近させると、その接地面付近へ光刃を集中させた。『足回り』を守っていた硬い岩盤がボロリと崩れ、その『中身』が露になった。
 気付いたハナが「ん?」と照準器越しにそこを覗き込んだ。巨大物体の接地面──そこには、無数の木の根の様なものが、虫の足の様に蠢いていた。
「きっしょおおおぉぉぉ~い!」
 ハナは全力で後退した。背筋にゾワゾワと怖気を感じながら、それでも銃器のリロードは忘れない。
「……下手に近づき過ぎて巻き込まれたら、洒落にならなそうですね……」
「ああ。あの大きさにすり潰されるのは後免だな」
 サクラ、アルトは敵との距離を保ちつつ、その『虫の足』に向かって光刃を放って木の根を根こそぎ引き千切っていった。
 それまで何の反応も見せなかった巨大物体が初めて動いた。その巨体の各所から、何か球形状の物体を一斉に、次々と射出させ始めたのだ。
 それは全長2m程の『胡桃』の様な物体だった。射出された後、それはフワリと浮遊して……鳥よりも速く宙を滑り、一斉に襲い掛かって来た。
「何アレ、パッ○マン!? 私は『ドット』じゃないんだからっ……!」
 大きく開いた『口』の中に剥き出しになる牙── それをガシガシ鳴らしながら突っ込んで来る3体の胡桃を、ルンルンは躱して、躱して、1発喰らった。その噛みつきの威力はCAMの装甲を噛み千切る程。ルンルンはすぐに反撃の『風雷陣』で打ち落とし、機鎌で真っ二つに切り分ける。
 だが、周囲の味方はハンターたち程には上手く対応できなかった。陸は自機への対応の合間に、多数の胡桃に集られた味方機へ向かって『ブレイズウィング』を投擲。それはクルリとその機体の周りを回るように飛び、胡桃を引き裂いて地面へ落とした。
 巨大物体から射出された胡桃の群れは、まるで巨大な渦を描く様に前衛から中衛を呑み込みつつあった。左右両翼へ展開していたイェジド隊にもそれは迫り、アーサーは雲霞の如きその数に舌を打つと、星神器に己の魔力を纏わせ、更に全霊を注ぎ込み…… その魔力を一気に前方へと投射して、その膨大なエネルギーの奔流で以って迫る胡桃の群れの只中に大穴を空けた。
「あくまでも予備の予定が……ここで『修祓陣』切らされるとは思わなかったですよぅ!」
 中衛のハナは内心で盛大に舌を打ちながら、周囲の味方を守るべく光の結界陣を使用した。そして、味方に胡桃への反撃を任せると、自身は修祓陣の維持と次発の符の準備、『ハイマテリアルヒーリング』による回復に専念。『嵐』が過ぎ去るまで態勢の維持に全精力を注ぎ込んだ。
「ミグさん! 『グランドスラム』で胡桃の群れを焼けませんか?! このままじゃ、僕たちはともかく、味方が……!」
「了解した。……全機! 砲撃前に随時、座標を指示するのじゃ。巻き込まれるでないぞ!」
 陸からの支援要請を受け、クェーサー砲の照準を変更するミグ。だが、胡桃たちの『嵐』は、遂に後衛にも達しようとしていた。
「構うな! 俺たちは砲撃続行だ。胡桃モドキの対処は味方に任せろ!」
「任されました。狙撃隊各機、迎撃準備を」
 惣助の声に呼応して、エル機が優雅な動きで長射程ライフルを構え、発砲。周囲の味方機と共に迫る胡桃を狙い撃ちにしていったが、敵は余りにも多かった。
 瞬く間に距離を詰められ、エル機はライフルを手にしたまま左手を上げ、周囲のR7隊と共に一斉に『ファイアーボール』を撃ち放った。空中に爆裂火球が炸裂し、その爆炎の網に突っ込んだ胡桃たちが砕けて地面へ舞い落ちる。
 だが、その弾幕を突破して来た後続の胡桃たちは次々と体当たりを敢行。耐えれず倒れた機体から次々と噛みつかれていった。エル機も踊る様に敵の突撃を躱しながら風の刃を振るって迎撃していたが、すぐに多数の胡桃に囲まれた。
 機体のモニタいっぱいに映し出される胡桃の口── エルは操縦席でクッと奥歯を鳴らすと『マテリアルカーテン』を展開してカメラを守りつつ、群がる胡桃の隙間から機の左腕を突き出し、その手の平に生み出した爆裂火球を地面へと叩きつけた。
 爆発が巻き起こり、エル機に取りついていた胡桃たちがパタパタと落ちていった。その爆炎の只中でエルはまず機の姿勢を整えると後ろへ優美に跳躍させ。後、地面でバタつく胡桃たちへトドメの火球を叩き込んだ。そして、機の両手に風刃と火球を操り、僚機を助けて回って隊を再編。そのまま砲撃隊の援護に入る。
 ──轟音が、響き渡った。
 それはミグが放ったグランドスラムの爆発だった。空中に巨大な炎の華が咲き、多数の胡桃たちを巻き込んで、消し飛ばした。
 更に、惣助の放ったグランドスラムが本体から発射されようとしていた胡桃を纏めて吹き飛ばし。後詰の多くを断たれた胡桃たちへ、ハンターたちが反撃に転じた。
「焼きクルミの匂いがたまらんのう。腹が減るわい」
「ミグ、こっちは『グランドスラム』を使い切った。胡桃の迎撃に回るから、そっちは砲撃を継続してくれ」
 惣助は長砲身重ガトリング砲を空中へ向け構えると、その弾幕で以って砲兵たちに迫る胡桃たちに制圧射撃を浴びせ掛けた。
「いつぞや相手をした『見えない魚』に比べりゃ、楽な的だ」
 地上に落ちた胡桃を踏み潰し、火線の鞭を振って敵を叩き落としていく惣助。地面に落ちた胡桃たちは、再び飛び立つ前にエルたちが銃撃を集中して破壊していった。

 敵本体から再び新手の胡桃が飛び出す。
 だが、それは、空中で待ち構えていた真の『白竜の息吹』と味方飛行ユニットらによって薙ぎ払われた。
 アルトはサクラに『虫の足』を任せると、自身は巨大物体の背の上に跳び乗り、その身にマテリアル障壁を纏いながら一気に突進。発射口内に収まっていた胡桃たちを巨大物体の本体ごと大きく削り取っていく……

 敵本体頭上の制空権は味方が支配しつつあった。敵も黙ってそれを座視したりはしなかった。
 ゴゴゴ……巨大物体が鳴動を始め……
 そして、『変形』を開始した。


●『うず高く積もり上がった瓦礫の塔。もしくは、手足と尻尾がある様に見える、佇立した巨大な何か』

 おもむろに『立ち上がった』全長50mの巨大物体を目の当たりにして、ハンターたちは『戦慄』した。
「あの姿…… まるで日本映画のゴ○ラ……!(違」
「クッ、内閣が総辞職する光線でも撃って来そうな身体つきをしてやがる……!」
 思わずそんな事を呟くリアルブルー出身者のルンルンと陸。その陸は巨大物体の巨体に対抗するべく、『オールマイティ』を使用して機を空中へと浮上させ。ルンルンもウィングフレームのマテリアルの翼を広げて「とぅ!」と空へと舞い上がり…… フライトパックのブースターを噴射して上昇して来たレイドたちと共に、敵の『上半身』への『空襲』を開始した。
「纏え、『万象の器』! 天高く駆けあがり……敵を斬り裂け、ニンジャーサイズ!」
 敵の足下から頭上まで一気に跳び上がったルンルンが敵の『頭上』で機鎌を大きく振り被り、頭の上からつま先まで一気に斬り裂くべく機体ごと急降下を開始する。
 だが、直後、巨大物体の身体中、そこかしこから一斉に闇色エネルギーが放たれた。その闇色光弾と光線の濃密な弾幕に直面して、ルンルンは回避運動に移りながら興奮して叫んだ。
「マク○スみたいな弾幕が……! ハッ!? ゴジ○ス!? ゴ○ラ+マク○スで『ワレハ超時空怪獣ゴ○ロス』、コンゴトモヨロシク』的な!?」
 その弾幕から逃れ出たところへ、いつの間に射出されたのか、上空から胡桃が逆落としに襲い掛かって来てオレサマオマエマルカジリ。ルンルンはそれを生き物の様に機翼を翻して回避し、巴戦へと移行する。
「……そのせり上がり方を見るに、むしろ『アイ○ンギアー』っぽい気もするがの。でなけりゃ、パ〇リムとか」
 乱戦と化した空中戦に砲撃の手を止め、呟くミグ。その乱戦の最中、レイドは度重なる回避運動によるGに振り回されつつ、撃ち上げられる死の投網に全力で抗った。
「俺は……今更、こんな所で、くたばるわけには……! 俺に力を貸してくれ、相棒……!」
 『人機一体』を使って己と機体を同調させた。機体が感覚的に己の身体の一部と……いや、身体そのものと化し、レイドが一体化した視界に飛び来る闇色光弾や闇光線を、先より急激な回避運動で以って僅かな隙間を──死線を潜り抜ける。
 そうして光の彼方に弾幕を抜け── どうにかその弾幕密度の薄い高度まで逃れ出でることが出来たレイドは、だが、背後を振り返って愕然とした。
 ──飛行部隊の多くが、その弾幕を避け切れずに被弾していた。運よく逃れられた者も、その先で胡桃の急襲を受けており、その被害も決して小さいものではない。 
「逃げれば胡桃の群れ、留まれば弾幕の嵐…… っと、これじゃ攻撃どころじゃないな。カートゥル、『近づく』よ!」
 真は巨大物体から離れるのではなく、逆に突っ込んで行った。近づく程に濃密になる対空砲火を『バレルロール』で飛び抜けて……その弾幕の内側に入り込み、巨大物体の体表付近へ取りつく。

 一方、闇色の弾幕は地上の各機にも雨の如く降り注いでいた。
 地面のそこかしこで湧き上がる爆発の華── アーサーとゴルラゴンは回避に徹してどうにか弾幕の網をやり過ごしていたが、他の幻獣と乗り手たちが爆発に吹き飛ばされる様をその目で何度も目の当たりにした。
「チッ……アトラクションにしてはちょいと血生臭すぎるぜ、これは」
「まずはこのキルゾーンから脱出しましょう」
 いつの間にか、サクラ機がすぐ傍にいた。蒼機盾を手に、他の幻獣たちを守るように膝をついている。
「外に出るより、内に潜り込む方が早い…… まずは道を作りましょう…… 全力突撃、行きます……!」
 サクラはそう言うと、幻獣たちの盾になるべく先頭に立って全力移動を開始した。そうして弾幕と雨と胡桃の一撃離脱の只中を互いにフォローし合って突破。少なくない数の戦力を敵本体に取りつかせることに成功した。
 そして、その場で、空中を突破して来た真やルンルンと合流した。サクラは文字通り一息吐くと、『ヒーリングスフィア』で味方のダメージを回復していった。
「アレは……対空砲台か?」
 アーサーの言葉に真が頷いた。彼は闇色エネルギーを撃ち出す巨大物体の『器官』を見つけ出していた。
「……どうやら俺たちの仕事は決まったな」
 真とアーサーは隊を複数の班に分け、『下半身』の砲座を破壊して回った。それを阻まんと新たに射出されてくる胡桃の群れ。それに対してゴルラゴンが体表付近まで下りて来た胡桃に向かって飛びつき、押し落としつつ牙を突き立て、硬い殻ごとかみ砕き。カートゥルら飛竜隊もそんなイェジド隊と挟撃するように胡桃の頭上へ躍り出て、上から火炎の息を吐きつける。
 だが、襲い来る胡桃はその数、天井を知らず……幻獣たちは徐々に追い詰められていった。
「どうやらCAMが目立っているようですね……」
 『セイクリッドフラッシュ』の光で群がる胡桃を纏めて吹き飛ばしながら、サクラは決意した。
「離脱して、私たちに胡桃の群れを引き付けます……」
 それを聞いた真はカートゥルにサクラたちと一緒に離脱するよう指示を出したが、飛竜はフルフルと首を振った。
 『スティールステップ』で敵の包囲から逃れて来たゴルラゴンも、そっとアーサーの傍に寄り添った。
「よーし、じゃあルンルン行くよ!」
 行きと同じように突撃していくサクラたちと別れ、ルンルンは再び敵本体への攻撃に出た。他のCAMと異なり、壁に張り付くことが出来る彼女は本体への攻撃を継続する為にその場へ残ることにしたのだ。
 連続攻撃を本体に叩き込みつつ、寄って来た胡桃の一部を真やアーサーたち引き剥がし、少しずつその戦力を削り取っていく……

 ハンターたちの攻撃によって、『上半身」と『下半身』の砲座は次々と撃破されていった。
 戦況は、再び人類側へと傾いた。
 故に、巨大物体は再び、パワーバランスを一変させるべく次の手を打った。

 巨大物体の『背鰭』が明滅し、その『口』からそれまでとは比べ物にならないくらいに膨大な闇色怪光線を吐き出した。それは地面に弧を描く様に、右翼側の牽引砲隊を丸ごと薙ぎ払った後、中央部右翼側のVolcanius隊の一部を瞬時に蒸発させた。
「クッ……そっちがその気ならば僕にだって覚悟がある……!」
 再び、大型物体の『口中』に集束していく闇色エネルギー── 陸は『プライマルシフト』を使用して地上──味方主力の前面へ機を瞬間移動させた。
 直後に放たれた極大怪光線── その圧倒的な闇色の光量を陸は正面から見据えて……後ろの正規軍ごと呑み込まれた。

 戦線は崩壊した。
 決戦場であるはずの盆地は巨大物体に突破された。
 極大怪光線の第二射によって薙ぎ払われた戦力は……真を含め、無事だった。彼が『パラドックス』を用いて因果律に干渉し、その結果を無かったことにしていたからだ。

 半壊した対策本部から、ルーサーはまだ秩序を保っていたハンターたちに追撃と遅滞戦闘の指示を出した。
 ルンルンは壁を歩いて巨大物体の『足』まで下りると、少しでも足止めしようと『地縛符』を設置した。
「怪獣にはまず、足止め作戦なんだからっ……ジュゲームリリカル、機忍法土蜘蛛作戦の術!」
 ……問題は、巨大物体の『足』が地縛符のサイズよりもデカイ事だったが、そこは、とにかく複数の地縛符を纏めてその分の広さを確保することでクリアした。

 ……山を越えて進軍して行った巨大物体が、そこでなぜか唐突に高く片脚を振り上げ、地面を踏み抜いた。
 その光景を見たハナは「何だか分からないけど、隙だらけですぅ!」と急いでそこへ追い付くと、温存していた『光あれ』をここぞとばかりに連打した。味方を巻き込まぬ光の斬撃なので、もうストレス発散とばかりに思う存分、雄叫びと共に投げまくった。


●『腐ってやがる。早すぎたんだ(何』

 地上の面々にとって、その巨大物体の行動は意味が分からなかった。
 原因はまったく不明だが、突如、発狂したかのように暴れ始めたのだ。
「と、突然、何っ!? とにかく逃げるよ!」
 ルンルンは慌てて巨大物体から飛び降りて、振り回される巨大質量(四肢や尻尾)の予測不可能な動きに巻き込まれぬよう、距離を取った。敵に取りついていた真やアーサーたちは、振り落とされないように必死に木や岩にしがみついた。
「いったい何なんだ!?」
 叫んだ真とアーサーは、巨大物体が振り上げた『拳』を見上げて絶句した。具体的に言えば、それは外に対して振る構えでなく。例えばゴリラが自分の胸を叩く時の様な……
「ッ!? 退避ー!」
 巨大物体の拳が、巨大物体の身体に叩きつけられた。巨大質量同士の激突により岩が砕け、衝撃がハンターたちを吹き飛ばした。
「……自分の体ごとこちらを潰す気か? 急ぎ離脱を……」
「ちょい待った」
 どうにか振り払われずに済んだ真とアーサーは、今の打撃でひび割れた巨大物体の身体の奥に『何か』を見つけて足を止めた。
 それは、無数の蔦が絡み合った、何かの巨大な種子の様に見えた。真とアーサーは互いに顔を見合わせると、意を決してヒビの中へと入っていった。その『種子』が巨大物体にとって何か重要な器官であることは、周囲の土壁から飛び出して来た蔦や根、闇色オーラのトラップといった反応ですぐに分かった。
 辿り着いた種子の前で、両手に握った魔導剣と響劇剣へ魔力を付与して構える真。それを阻まんと周囲の土壁から飛び出して来た蔦や根を、真の背後に立ったアーサーが魔力を込めた星神器で斬り払う。
「やれ、真!」
「……はい!」
 振り下ろした二刀が『種子』を──巨大物体の『結節点』を切り裂いた。闇色の閃光と共に種子が弾け──やがて、ゴゴゴ……という鳴動と共に、周囲の岩が崩れ始めた。
 崩落していくヒビから間一髪飛び出す真とアーサー。まるで復讐するかの如く出口に殺到して来た胡桃らに対し、入口に残して来たゴルラゴンが威圧の叫びを放ち。動きを止めた敵に対して、アーサーは星神器「アンティオキア」の力を解放。必滅、神殺しの『アンフォルタスの槍』を放って、直線状に空間を圧縮。7体の胡桃を撃ち貫く。
「カートゥル……!」
 相棒を迎えに来た飛竜の背に飛び乗り、崩落する大地から飛び立つ真。アーサーもイェジドの背に乗って、崩れ往く『尻尾』部分から『本体』へと跳び渡る……

 その少し前── 外で自機の6倍はある巨大物体の殴る蹴るを避けながら、聖機槍で切り結んできたサクラが最初にその『敵の変化』に気が付いた。
「何か……この敵、端から崩壊し始めてます……?」
 通信機がその呟きを拾い、惣助が返事をする。
「そりゃ、自分で自分を攻撃してりゃあな」
「いえ、そう言うのではなく…… ほら、指先から自壊していっていませんか……?」
 言われてみれば…… と惣助はカメラをズームさせてその現象を確認した。
「……そういや、ハンター仲間が別件で依頼を受けていたな。こりゃ『本体』に何かあったと見るべきか?」
「何があったか分かりませんが、一気に攻勢に出るべきでしょうかね……」
 そこへ真から連絡入り、巨大物体の『弱点』が皆に報せられた。攻勢の機を感じてサクラは再び前へ出た。
「分かった。外のことは俺たちに任せな。中の事は頼むぜ!」
 レイドは真に答えると再びブースターに火を入れて再び敵の上半身へと到達。敵の表皮にヒビを見つけると、それをより広げるべく螺旋槍を突き入れた。その背後へ襲い掛かって来るクルミの群れ── レイドは「こんな攻撃じゃ、やられないぜ!」と気合の光(マテリアルカーテン)で受け弾き。螺旋槍を手にしての空中戦と『マテリアルライフル』の光で一掃した後、再び敵本体へ槍をつける。
「やれやれ。生身の方が動き易いからと、この手の乗り物は敬遠してきたのだがな」
 ありったけのインジェクションを光あれへと注入しつつ、アルトはそう苦笑した。──まあ、これ程のデカブツが相手ではしょうがないし、精神没入型の機体は操縦型のものに比べれば大分扱い易くはある。とは言え、没入型だからこそ余計に感じる生身とのバランスの違いというものもあるのだが……今回のこれまでの戦いで、その違和感にもようやく慣れてきた。
 紅蓮のオーラに身を包み、光刃を放っていくアルト。惣助とミグもまた敵の体表に新たにヒビを入れるべく、真とアーサーがいる箇所を外して砲撃を再開する。
「敵は瀕死と見た! まだまだ弾はある。デカブツにたっぷり馳走してやれ!」
「ふははは、歪虚は燃えているか? これがミグ式の火の7日間じゃイ!」
 そうしてヒビの中に露出した結節点へ向けて、胡桃の相手を仲間たちに任せたエルが機に立射姿勢で構えさせたタスラムで以ってその核を狙撃した。
 陸もまた味方に支援を頼みつつ空中へ吶喊を開始。並み居る胡桃を、投げ放った翼刃で以って斬り払いつつ巨大物体への腰部へ達し、至近から『ハルマゲドン』を投射。二個、三個と大穴を開けてようやく見つけ出した結節点へ翼刃を飛ばして突き立てつつ、自らも雄叫びと共にそちらへ突進。手刀を突き立て、拳を握って一気にブチブチとそれを引っこ抜く……


 エルの狙撃で、巨大物体の右腕がまるで腐れ落ちる様に落下した。
 陸の攻撃で左から崩れ落ちるように膝をつき……敵は orz の姿勢になった。
 それを見たハナはフライトシールドの推進力で飛び出すように空へと上がると、ウィングフレームを展開してイキイキとその上空へと進入し、眼下の『土下座』を見下ろしながら、機の両手にズラリと広げたマテリアルの符──『五色光符陣』を一斉投射。絶え間なく符を補充しながら次々とそれを投げ下ろし、まるで爆撃の如く無数の光の柱を立て続けに巨大物体の背へ打ち立てる。
「さぁ、ダイニンジャーちゃん、薙ぎ払えーなのです! 輝け、ニンジャの一撃。ニンジャーサンシャイン!」
 壁歩きで敵の頭頂部へ登ったルンルンが(傍から見たら横向きの姿勢のまま)、敵の頭から尻へ向けてありったけの光刃を突き入れた。
「成敗!」
 スチャッと着地し、顔面アップになった画面(?)の奥で、ハンターたちの攻撃を受けた巨大物体の岩の身体が大きく分かれて崩れていった。

 ……身体を構成する全ての構造材を失った巨大物体に、残されていた身体はまるで『ガリガリに痩せた木の骨組み』だけだった。
「本体はこんな枯れ木か……色々取り込みすぎたのかな」
「侯爵軍の到着を待って、止め役を委ねるべきだろうか?」
 真とアーサーの提案に、サクラは頭を振った。
「いえ、ここで終わらせてしまいましょう…… 急に弱そうになりましたが、どんな隠し玉があるか分かりませんし……それに、万が一ここで逃がしてしまうと厄介……ええ、とてもとても厄介なので……」
 妙な実感が籠ったサクラの言葉。ハンターたちが最後の攻撃を開始する。

 ハンターたちが光り輝いた。ルンルンもニンジャが輝き、轟いた。
「いっけぇえええ!!!」
 雄叫びと共に陸が振り下ろした斬艦刀を合図に、ハンターたちが放った光の波濤が『枯れ木』を呑み込み、消し去った。


「どうやら終わったかね、あとは念の為焼き払っとくか?」
「そうですね……いえ、一応、地面も掘り返してください」
 戦いが終わった戦場で、万が一にも敵の『逃走』を防ぐべく行った惣助の提案に、サクラが更なる徹底策を提言する。
 アルトは苦笑交じりに嘆息を吐くと、その作業に付き合った。ルーサーの所へ挨拶に行くのは、それが終わってからでもいいだろう……

「隊長……」
 夕陽に照らされて直立するR7──自機を、CAMを見上げて、レイドは小さく呟いた。
「貴方のお陰で……あの時、貴方に助けてもらって、俺、ここまで生き抜くことができました……」
 俯き、再び顔を上げ。靴音高く踵を合わせる。
「隊長、ありがとうございました! 今があるのは、全て貴方のお陰です!」
 レイドは夕陽に向かって敬礼をした。
 クリムゾンウェストの名に相応しい、これまでで一番美しい夕焼けだった。

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ゴルラゴン
    ゴルラゴン(ka0471unit002
    ユニット|幻獣
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ナガミツ
    長光(ka0510unit004
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • かけだしサンタクロース
    レイド・グリュエル(ka1174
    人間(蒼)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka1174unit002
    ユニット|CAM
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka2598unit008
    ユニット|CAM
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka3109unit008
    ユニット|CAM
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ジャンボガッタイダイニンジャー
    忍者合体『DXダイニンジャー』(ka5784unit005
    ユニット|CAM

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ルクチャン
    ルクちゃん(ka5852unit008
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/10/03 22:36:36
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/10/04 08:10:52