• 【郷祭1019】

【郷祭】変身・ベジトリックカーニバル

マスター:奈華里

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
7日
締切
2019/10/24 07:30
完成日
2019/11/04 23:56

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「やったよ、マローナ、シモン! 私のお店が決まりましたー!」
 唐突にやってきた村娘の一人、ポニーテールでどちらかと言えばしっかり者のリコットが報告する。
「やったじゃない! で場所はどこ?」
「リコットの料理美味しいもんねぇ。儲かること間違いなしだよ」
 それを聞き、連れ添いやってきた二人もその報告に笑顔を返す。
 ここはジェオルジにあるとある村。この三人はこの村でもなかなかに働き者で、これまでも村の為にと精力的に作物をPRし、時に臨時のお店を開いては結構な売り上げを上げてきたのだ。そろそろ自分の夢を叶えたいと言っていたリコットは、これまで貯めに貯めてきた貯金をはたいて、ついにここまで来たようだ。
「場所はなんとリゼリオでーす。邪神がいなくなったとはいえ、あそこは人の集まる中心地でしょ。そこで開けば沢山の人に私の料理、食べてもらえると思って奮発しちゃった!」
 笑顔を絶やすことなく、彼女が言う。
「もちろん使う食材はうちらの村のだよね? って事はいいお得意様だぁ。できるだけいいのをこっそり卸してあげるよ~」
 マローナは冗談交じりにそう言って、すでに自分事のように浮かれムードだ。
 しかし、現実は甘くない。店の方はとんとん拍子に準備が進んでオープンしたのだが…。

「どうしてよ…」
 店の内装が素朴過ぎたのかいけなかったのだろうか?
 極力自然でいきたいと思い、壁紙は張らず木のぬくもりを重視した。テーブルも椅子も、お洒落ではなかったけれど、彼女なりにピクニックに来たような温かさを感じるクロスと薄くはあるがふんわりとしたクッションをひき、女性が好みそうなインテリアを飾っている。なのに、人が余り入らない。
 オープンして一週間は物珍しさからお客は入っていたのだが、その後は人も疎ら。お昼の時間になっても二十席ある全ての席が埋まることはない。
「私の考えが甘かったのかな…」
 鍋に残ったポトフやコンソメを見つめて、ぽつりと呟く。
 天狗になっていたつもりはかった。郷祭での弁当の時も、ピザ作りの時も…臨時のミント料理の時だって精一杯やった結果、お客様に喜んで頂いたとそう思えていたからだ。
「このままじゃ、お家賃払えなくなっちゃう…」
 オープンの為にすでに色々買い足しているから残りの貯金は少ない。
 唯一の救いは食材は仲間から仕入れているから多少の融通は利くだろうが、ずっとという訳にはいかない。
(シモン、マローナ…)
 いつも一緒にやってきた二人の名が浮かぶ。けれど、助けて欲しいと言う勇気は出ない。
 料理がいけないんだと、いろいろ試行錯誤するもののすればするほど材料費も嵩み、睡眠時間もろくに取れず。そうなってくると負のスパイラルまっしぐら。

「こんにちはー! 配達に……ってあれ?」
「誰もいない?」
 いつもとは違う時間に配達に来た二人がこの現状を知り、眉をしかめる。
 するとその声に堪らず、リコットが床に崩れ落ちる。
「どうしたの…何かあ…」
「シモン…マローナぁ…、私、私ね…頑張ったんだけど……何か、うまくいかなくて…ぐすぐすっ」
 人一倍しっかり者のリコットの事だ。さぞ言いにくかった事だろう。
 二人は彼女が落ち着くのを待って事情を聞き立ち上がる。
「やるわよ、マローナ!」
「もちろんですよぉ」
 そう言ってからの二人の動きは速かった。市場調査の為、近隣のお店を回り通行人にも細かな聞き込み。
 その調査から見えてきた事はほんの些細な事だ。
「よーするに、普通過ぎるみたいね。味はいいけど、普通過ぎて決め手にならない。母の味と言えば聞こえはいいけど、家でも食べれるかもって事になるとわざわざ食べに行かないじゃない」
 シモンが店の隅の席でマローナに言う。
「って事はぁびっくりするような仕掛けが必要ってことですねぇ? けど、どうしましょうか?」
 それに答えて――しかし、仕掛けなどそう思いつくものではない。
「こんにちはー、子供もいいですか?」
 その時だった。お店に入ってきた家族連れの子供がカボチャのバケツを手にしているではないか。
「カボチャ…そうよ、それだわ!」
 シモンが突如立ち上がる。その物音に視線が集まり、慌ててフォローするマロ―ナ。
 しかし、その発想は悪くなかった。この閃きを閉店後リコットに話して、方針は決定。
「いーい、時期が私達に味方してくれるわ。郷祭協賛としてベジトリックな特別メニューを販売! 投票により、常設メニューにするってことで大きく打ち出せばきっとみんな興味を持ってくれるし、個性も出る筈よ」
 さすが三人娘のリーダーポジのシモンだ。発言にパワーがある。その意見を聞いて、早速一品考えたリコット。
 彼女のそばにはカボチャをくり抜いて作られた器にチーズドライカレーが詰まった料理が置かれている。どうやらこれが彼女らの言う『ベジトリック』な料理らしい。が投票となるとまだまだ足りない。
「もっと驚くようなメニューを考えなきゃ」
 リコットがふらつきながらも頭をフル回転させる。が、もとより一人ではアイデアにも偏りが出てしまう。
「リコットはまず休むの。どうせ今回も人出は必要だしぃ、料理好きのハンターさんにも力を借りようって事で、ね」
 マローナがそう言い、人員募集に向かう。
「え、でもそんなお金…」
「任せなさい。一応私たちもちょっとくらいは貯えあるから」
 シモンのその言葉に再び泣きそうになるリコット。
 店の再起をかけて、彼女らの美味しいトリックは成功と相成りますかな?

リプレイ本文

●現状
 ハンターオフィスからは徒歩十分程度のところに村娘達の、いやリコットの店はあった。
 しかし、ハンター達も彼女の店の場所は知らなかったらしい。依頼書の番地を参考にその場所を探す。
 確かにこじんまりとした素朴な店だった。ミント料理で一時的に借りていた店よりも広いのだが、それは今回引き受けたハンター達には知らぬ事である。
「ここですか…」
 店の入り口に飾られた花のリースを見つけてGacrux(ka2726)が呟く。
「みたいですねー。とりあえずは行ってみましょう」
 そう言うのは星野 ハナ(ka5852)だ。いつもと変わらぬテンションで扉をノックし、中へと入る。
「いらっしゃいま…あぁ、皆さん!」
 すると開いた傍から聞きなれた声が聞こえて、その先にはリコットのみならずシモンとマローナの姿もある。
「相変わらず元気そうね。けど、お客は……いまいちってところかしら?」
 時間は一時過ぎ。かき入れ時は幾分過ぎているとはいえ、この時間ならまだ列ができていたりしてもいい時間だ。
 しかし、現状はカウンターとテーブルに数名程度。彼女達を含めてもまだ空きがある。
「あー、痛い所をついてきますねぇ。けど、それがマリィアさんらしいかも」
 マローナが微苦笑しながら言葉する。
「大丈夫よ。この状況を打破すべく私たちが来たんだもの。この状況は想定内よ」
 ひとまず料理を食べるつもりなのかマリィア・バルテス(ka5848)が空席に腰を下ろす。
「まあ、そうだね。人数は少ないけど、やれることをやってみよう」
 レシピのアイデアはないものの、彼女達との付き合いは長い鞍馬 真(ka5819)。
 ハンターとして始めて受けた依頼が彼女達とのものだった事を思い出して、今度もまた何か力になりたいと今回は友人のGacruxと共に店を訪れたらしい。
「有難うございます、皆さん。もしお昼まだでしたら、うちでどうぞ」
 リコットがグラスにミント水を注ぎ、それぞれに提供する。
 そこで彼らはメニューを前に好みのものを注文開始。
 ちなみにメニュー表には下記の料理が並んでいた。まずは根菜のポトフ、彼女達の村で育てているジャガイモや人参の他レンコンやゴボウも入れて、野菜好きにはたまらない。その下にはロールキャベツに茄子グラタンと続き、さらに下には目玉なのだろう太字で『おススメの野菜たっぷりハンバーグ』と『ベジタブルクリームコロッケ』が記されている。
「ふーむ、キングオブ家庭料理って感じですねー」
 ハナがずばり言い切る。
「けど、セットにすればパンとサラダ、そしてドリンクがついてくるみたいだよ。これって結構お得じゃないかな?」
 真はそれをフォローしようとこのメニューのいい点を取り上げる。
「そうね、お得感はあるわね…でも、このありさま。まあ、まずは食べてみましょ」
 それぞれが別のものを頼んでリコットの料理を試食する。が、やはり味は悪くなかった。
 これまで何度となく村娘達に協力してきた彼らだからそれはある程度承知している。
「……あの、こう言っては何ですが開店時何かPR的なものはされたのですか?」
 Gacruxがふと尋ねる。
「え、あ…はい。一応、チラシを作ってそれを配って…」
「そのチラシ、見せて頂けますか?」
 何か気にかかる所があるのだろう。彼はこだわる。
 するとそのチラシにはオープンの日時と場所、そして料理に関する情報のみしか記されていなくて…。
(成程、急いでオープンしたようですが…これは少し勿体ないですね)
 彼が黙ったまま、そのチラシを見つめる。
「がっくん…」
 友のそんな様子に隣りの真が何か感じ取ったようだった。

●レシピ
 さて、何はなくとも議題はベジトリックである。
 シモンがこれで行くと決めた以上は最低でも後三~四つはメニューを追加する必要がある。
「考えてきたわよ。見て分からなければいいのよね?」
 マリィアがそう言って紙に起こしてきた料理のレシピを披露する。
「えーと、何々トマトの肉詰めオーブン焼きに、あはっ、ラビオリ! これ懐かしいですぅ」
 マローナが過去を振り返って声を上げる。
「もしかして中身は?」
「あの時とは少し違うわよ。生地はプレーンで統一、ソースをトマト・チーズ・ホワイトソースに分けているの。見た目には何が入ってるか判らなければいいって事はこれもありでしょ?」
 彼女が言う。ちなみにあの時とは数年前の春郷祭での事だ。
 春色パスタ弁当開発の折に彼女は生地に野菜を練り混んで彩り豊かなラビオリを作って見せたのである。
 だが、そのレシピを前にシモンの反応はあまりよくない。リコットも何かに気付いて視線が泳ぐ。
「あら、何かまずかったかしら?」
 マリィアが問う。
「あー……うーんと、ありかなしかで言えばちょっと、これは…」
「なしです」
 言い淀むリコットに変わってシモンがバッサリと言い切る。
「あら、何がいけないの?」
 その言葉にマリィアが反論する。
「折角考えて頂いたのにごめんなさい。けど、これだけは譲れないんです! ラビオリはすでに認知されているお料理です。つまりは中に何が入っているかのワクワク感は確かにありますが、中に何かが入っているという事はすでにばれています。これではインパクトが足りない。加えて」
「パスタ生地を使うからベジトリックとは少し言いにくいってところかなぁ」
 シモンの後ろからマローナもそう付け加える。
「はぁ……なるほどね。となると、後のやつも全部アウトね」
 マリィアが一瞬にしてそれを覚り、レシピを回収しようとする。
「ちょちょちょっと待って下さい! 折角のアイデアです! まだ諦めないでッ!!」
 リコットがそう言い、マリィアのレシピに待ったをかける。
「ブッタボウルにタコス、それにブリトーまで! きっと美味しいものばかりですよね。あっさりやめてしまうなんて勿体ないです!!」
 全てを大事そうにかき集めて、リコットは必死だ。
「そ、そう…そこまで言うなら」
 その行動にマリィアは目をぱちくりした。軍ではイエスかノーかの選択肢は一つだ。
 必要ないならそれまでと割り切ってしまう彼女であるが、どうやらここではそうではないらしい。
(これだけ大切に思ってくれるなら、私もその誠意に応えないとね)
 マリィアが心の中で決意する。
「あーと、じゃあ私のもよく考えたら残念賞かもしれません」
 その話を聞いて、ハナがいつになく消極的になり、自分のアイデアを出し渋る。
「というと?」
「一つは聖輝節の時のようなパンをくり抜いてその中にシチューを入れたやつですぅ。ブール生地に人参や南瓜で色付けしておく事でホワイトシチューが映えると思ったんですが、意外性は皆無です。そして、もう一つは果物の器を使ったゼリーなんですけど…よくよく考えるとこれ食べれないですよねぇ…」
 ベジトリック料理の条件をもう一度確認して、彼女が苦笑する。そう、その本文にはこうある。
 【器自体も全部きれいに食べれてしまうのも面白ポイントの一つ】と。
「うーん、でもこの書き方ではポイントの一つとしてみるだけで、どうしてもそうでないといけないとは読み取りにくいですし、仕方のないことかもしれません」
 Gacruxがそう判断する。
「大丈夫です! 何とかします! だってだって、マリィアさんもハナさんも私のお店の為に考えて来て下さったんですもの。使わないと罰が当たります!」
 リコットがそう言ってハナのレシピも自分の手元へかき集める。
「そうですぅ? そう言って貰えると嬉しいのですが…」
「あ、ちなみに俺のはベジトリックというよりはハロウィンを意識したものです。使うかどうかはお任せします」
 リコットに予めそのことを話して、Gacruxがレシピを直接手渡す。
「へぇ、墓守の心臓…フォンダンショコラか」
 真が料理名を読み上げる。
「がっくんがお菓子を作れたのは意外だな」
「フフッ、まあそれなりには」
 実際にできるのか否かはさておいて、彼はそう言い不敵に微笑む。
「私は料理は普通のしか作れないから力になれない。だから、接客に回るとするよ」
 残るは真だけだったのだがその言葉を聞き、ここからは試行錯誤タイムだ。
 提供されたレシピを使って、それをベジトリックな料理に変えていくしかない。
「よし、じゃあ料理のできるマリィアさんとハナさんは試作を。私達は…」
「衣装でも買いに行きませんか? ハロウィンを打ち出すなら必要ですよね?」
 Gacruxが言う。
「そうね。じゃあ私達行ってくるから」
「わかった。お二人もよろしくお願いします」
 シモンの言葉にリコットが返答し、ぺこりと男性陣に頭を下げる。彼女達の戦いは今始まったばかりであった。

 その後はお店の運営をしながらの試作は続いた。
 マリィアとハナのレシピを使って、更なるアレンジを加える作業はとても大変だ。
 しかし、ハンターという協力者が来たことによりリコットに心の余裕が生まれて、いつもの元気と料理への熱意が戻りつつある。
「器になりえる野菜は限られていますが、きっとお二人のに合う野菜がある筈です。まずは片っ端から試してみましょう」
 村で採れた野菜を前に焼く、煮る、蒸す。ありとあらゆる方法を使って、ぴったりのを探す。
「これは面白い発想ね」
「私も今度別の野菜でやってみますぅ」
 マリィアもハナもその想像力には感心しきり。
 その間も店は店。ハロウィンまでの間はハンターの皆が店を訪れて、男二人は仮装した格好での接客を開始。
 その姿の珍しさからか少しずつではあるが、人が来るようになり来店したお客には近々行うベジトリックカーニバルの事を告知し、またの来店を促す。
(うん、あれもひっそりとながら効果を発揮しているのかもしれませんねぇ)
 漆黒のマントを羽織って吸血鬼の仮装をしたGacruxが壁の経歴に目をやる。
 それは彼女達がこれまで成してきた事の年表みたいなものだ。とある村に住む彼女達が郷祭で大いに活躍した。
 始まりはそうピッツァだった。彼も窯の管理をしていたし、真とマリィアは調理場でせっせと働いていたのを覚えている。その売れ行きは予想以上で常に窯はフル稼働していた。その後はスタッフ用の弁当作りやら焼きパスタやら、いつの間にかハナの参加も常連となり、村娘達を手伝うのが恒例化した。そんな活躍により評判もうなぎ上りで一目置かれる存在となった事は郷祭に出ているものにはそれなりに聞き及んでいる筈だ。そんな経歴を店に飾らないのは勿体ない。
 そこで衣装を買った翌日、営業前のちょっとした時間に彼が飾るべきではと助言したのである。
 もちろん郷祭の実行委員の許可は得た。そして、ついでだからとベジトリックカーニバルの告知用チラシにもそのことをわかるよう大きく記載している。
「すみませーん。お水下さーい」
 後方で客の声がする。
「あぁ、すみませんね。少々お待ちを」
 その声に合わせて振り向くと、彼はここ数日で会得した営業スマイルで切り返す。
 が、衣装ゆえか…あるいは生まれつきの三白眼が原因か。客の背中にぞくりと何かが走った気がした。

●初日
 軽やかな笛の音が辺りに響く。今日はベジトリックカーニバル初日。
 これから二週間はベジトリック料理onlyでの営業をして、初代常設メニューを決める投票が行われる。
 それを祝い、この初日は真が一肌脱いだようだ。仮装はどちらかというと可愛い系。仮面をつけてはいるが、白いケープともこもこのうさ耳カチューシャが小柄な彼によく似合っている。その姿で小気味よい音色を奏でれば、Gacruxのパルムが上機嫌に踊り始め、裏通りに近いというのに道行く人の興味を集める。
「さぁさ、いらっしゃい。今日から二週間は不思議な料理の提供だよ。その名もベジトリック料理。お味と趣向は食べてみてのお楽しみ~♪」
 真がそう言い通行人を煽る。
「南瓜に、トマトに大玉ねぎ。私の棺もございますよ?」
 そういうのはGacruxだ。棺というのは勿論彼の考案したフォンダンショコラの事だったり。
 何分ハロウィンにデザートがないというのは如何なものかという事で、彼のケーキは特別枠の期間限定デザートとして提供する事にしたらしい。
「どうぞ、一度入ってみて下さいな。絶対損はさせませんから」
 マローナは明るい水色のワンピースにリボンをして、いわゆる不思議の国に迷い込んだあの少女の仮装で客を呼び込む。
「はうぅ…私もフロアに、外に行きたい…」
 厨房では窓から覗く楽しげな雰囲気にハナが少しばかり嫉妬中。
「何言ってるのよ。結構どれも手間かかるんだからまずは手を動かす。でないと後が辛いわよ?」
 軽く煮たカブの中身をくり抜きながらマリィアが言う。
「あはは…お手間かけます」
 そんな二人のやり取りにリコッタが苦笑する。がハナとて料理好きのはしくれだ。基本、料理が苦ではない。自作料理で可愛いホームパーティーを夢見ていたら、いつの間にか腕前が上がり今に至る。これも大きなホームパーティーだと思えば、ある意味は夢が叶っていると言えなくはない。だから、
「大丈夫、手は抜きませんから!」
 一つにまとめたポニーテールを揺らして、ハナが目の前の野菜を刻んでゆく。
「オーダー、キング一つです」
「了解ですよぅ」
 本日一人目のオーダーにハナが快活にそう答えた。

 久方振りに賑わう店内。外には順番を待つ列もできている。
「はい、こちらがクイーン・トマトでございます。お熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい」
 テーブルでは出来立てほやほやの料理が早速お客に提供される。
「おお、これがベジトリック料理か」
 その姿を前に客がしげしげと料理を眺める。
 仕上がったベジトリック料理は全部で四つ。トランプのそれに倣って、それぞれにジャック・クイーン・キング。そして、ジョーカーの名を配している。それに加えて今だけ、器となる野菜にそれぞれ切り込みや海苔を使って、ジャック・オー・ランタンのように顔をつけていたり。その中のクイーン・トマトはマリィアのレシピによるものだ。
「お、サラダがついてるのか…ってよく見たらご飯もあるな」
 チーズの笠を被ったトマトのオーブン焼きの中にはじっくり煮込んで作られた極上のミートソース。その周りを取り囲むように野菜が並ぶ。野菜は熱いものの傍ではしなってしまうため、軽くボイルしたものが多い。そして、その野菜に隠されているのは雑穀ご飯。トマトの器を崩しながら食べてもよし、ご飯をつけて食べてもよしという訳だ。
「どれどれこっちは…おや、これはまた」
 連れに来た料理と見比べるようにして自分が注文した料理に目を落とす。と、そこにはドドーンと鎮座する大玉ねぎ。こちらはキング・オニオン…ハナのレシピに手を加えたものだ。玉ねぎの周りを茹でただけのパスタが囲むその見た目はなかなかインパクトである。そして、そこに更に添えられているのは衣に身を包んだ数個のフライだ。
「どれも形は似通っているが、違うのか?」
 男はそう言い、そっとナイフを入れる。するとまず鼻に届いたのは香ばしい肉の香り…続いて、ナイフが少し硬さのあるものをとらえる。それをフォークに刺して口へと運んで…。
「んっ、これはまさか!」
 肉と共に流れる果汁――ベーコンに巻かれていたのはなんと柿だ。
 生ハムメロンのように、果物の柿の甘さとベーコン肉のしょっぱさとが絶妙のハーモニーを奏でている。
「フッフッフゥ、驚いて頂けました? けど、フライにはまだ秘密があるんですよぉ」
 店内に戻っていたマローナがハナっぽく笑い言葉する。そこでもう一つ、フライを口に運んで男はハッとした。
(そうか…同じに見えて全部違うのか)
 形を揃えて切りベーコンで巻いて揚げる。そうする事で中身が何か食べるまで判らない。どちらかというとベジトリックの亜種的ものだが、これはこれで悪くない。もちろん、メインの玉ねぎの中にはマリィアのトマト同様仕掛けがある。
「ねぇ、これすごいよぉ。中から真っ白ソースが出てくるのぉ」
「あら、ほんと。玉ねぎも柔らかいしとても甘い。これだったら苦手な子も食べてくれそうね」
 親子な二人連れはそんな会話で盛り上がりながら料理を楽しむ。
 これならば、ホワイトソースだからフライにもパスタにもいけるだろう。
 そんな家族が目に留まって、微笑するのは真だ。
(玉ねぎ…大変だったけど、あの笑顔は嬉しいな)
 大玉の玉ねぎを確保する為に奔走した彼である。村娘の村でも玉ねぎは作られていたが、小ぶりなものが多く使えなかった。そこで休憩や営業前の時間を使って、市場を回り手頃なのを探し取り付けてきたのが彼だ。
「おいしいねー」
「うん、これは斬新だな」
 テーブルのそこかしこからそんな声が聞こえて、初日は上々。
 リコットのジャック・パンプキン(レンコンチップス付き)に加えて、別のテーブルではマリィアとハナの没案を蘇らせて作られた合作『ジョーカー・MIX』が運ばれてゆく。
「お待たせしました。こちらがジョーカー・MIXになります」
 マローナが運んだトレーには深皿にカブと敷き詰められた芽キャベツが。白と緑のコントラストが目に優しい。
 その二つの食材がスープの海に浸っている。
「どれどれ」
 紳士がまずは芽キャベツにフォークを突き刺す。一見、ただの芽キャベツだが、やはりそこはベジトリック料理であり、そうではない。みじん切りした野菜とすり身にした魚を一緒に混ぜた団子が仕込まれている。
「おぉおぉ、これは懐かしい…」
 紳士の口からそんな感想が漏れる。
 初めてなのに、懐かしさを感じるのはどうしてか。彼はリアルブルー出身だった。察するに鍋のような、あるいは野菜と魚介の組み合わせと言えば冬の定番メニュー・おでんを思い出したのかもしれない。
「ふっふっふ、私の知識が役に立ちましたね」
 厨房からその様子を見てハナが呟く。
「変わった味のポトフのようだ…」
 そういう者は多分クリムゾンウエスト出身だからか。
 カブを口にすれば、しみ込んだスープと中身の具がポトフの味わいを彷彿とさせる。
 ちなみにカブの方にはソーセージの種に近い配合の肉と野菜がつめられている。加えて、スープの海にはボリュームを考慮して、主食になりうる貝の形をしたパスタ・コンキッリェを沈め、全体のバランスを考慮している。
「そういえばなんで大根じゃなくカブにしたんですか?」
 リコットがマリィアに尋ねる。
「あれから調べたのよ、ラビオリの事。あなたが私達のレシピを活かしたいって言ってくれたからね。そうしたら、ラビオリの名称はカブを意味する『Rapa』から来たって言うじゃない。それにカブの薄切りにチーズを挟んだ料理に似ていた事から命名されたともあったし、だったらカブしかないなと思ったの」
 形はだいぶ変わっているが、何かを詰めるというこの料理の発想のベースはラビオリからきている。
 したがって、カブを選ぶことにしたマリィアである。
「はー、なるほど」
 リコットが納得するように首を縦に振る。
「添えている焼きリンゴのゼリーも好評みたいだよ」
 皿を片付けて来た真がきれいになくなっている皿を洗い場に返しつつ言う。
「それはなんたって私が考えてますからねー。任せて下さいですよぉ」
 ハナ発案のくり抜きゼリー。それにひと手間加えてできたのがそれだ。
 リンゴを半分にして中をくり抜き、焼きリンゴにして一旦冷ます。そうして、冷めたらその中に別の果実(今日はみかん)のゼリー液を注ぎ入れ固めれば、一つで二度おいしい。アッと驚くデザートの出来上がりである。
「次、キングとジャック一つずつお願いしまーす」
「こちらはクイーン二つです」
 厨房にオーダーが飛ぶ。
 手の込んだ料理だけに気が抜けないが、着実にお客の心を掴んでいるのは間違いなかった。

●経過と結果
 ベジトリ週間が始まって早六日。人の流れも徐々に把握できてきた。
 お昼時間が終わって、人の波が落ち着き始めた頃増えてくるのはやはり若い層である。
 ハロウィン自体も若者が楽しんでいる部分が大きい事もあって、仮装した姿を見つけた時点で近付いてくれることが多い。そしてそれは、八割方女性が多い。
 何故なら、呼び込みに出るのが男二人、女一人の比率という事もあるが、性別的特徴も関係しているだろう。それは女性の方が案外怖いもの知らず…もとい、度胸があるらしい。興味さえあれば、新しいものに抵抗なく手を出す勇気は女性の方が高いとかなんとか。まあ、その話はさておいて、この時間は圧倒的に『墓守の心臓』に注文が偏る。となれば彼の出番だ。
「わぁ~、これすっご~い。なんか可愛くない?」
 運ばれてきたフォンダンショコラに女子二人が目を輝かせる。
 このケーキには墓石の形のクッキーと飴細工の鬼火が添えられており、スプーンもスコップ型とこだわりが強く視覚的なお楽しみも抜群。これだけでもハロウィンな雰囲気が倍増する。
「嬉しいお言葉有難うございます」
 Gacruxが吸血鬼の装いで丁寧に言う。
「お嬢様方、ぜひ良ければこちらをご覧あれ。これはとっておきの美味しくなる魔法です」
 そして黒のマントを翻し、Gacruxが指につけた指輪を強調するように掲げてみせる。
 そうして、視線が集まったのを確認すると彼は両の手の親指と人差し指を合わせてハートを作り…。
「もえきゅんビィーーム」
 吸血鬼らしからぬその言葉に場が一瞬凍り付いた。
 しかし、その後本当に光のハートが飛び出したから凍ったままでは終わらない。
「えっ、ええっ! 何っ!?」
「どんな魔法??」
 空を飛んで行ったハートが消えるのを見送って、そんな言葉が各所から聞こえる。
「これはリアルブルーの魔法の一つです。お面白いでしょう」
 ざわつくお客にGacruxがそう説明した。そして、さらにこう付け加える。
「さあ、魔法はかかりました。どうぞ、ケーキを切…いえ、墓を掘ってみて下さい。さらなるトリックが……とこれ以上はご自分の目でお確かめを」
 含みを持たせた言い方で彼はそう言って、その後は彼のお化けの仮装をしたパルムが、彼の肩でスコップを持って先を促す。それに倣って皆がケーキを食べ進めるとスプーンに見えてくるのは真っ赤な色。
「こっ、このソースは…もしかしてベリー!」
「ねえねえ、これミニトマトじゃない?」
 生地の中に隠されていたもの、それは只のチョコではなかった。クランベリーをふんだんに使って色付けしたルビー色のチョコソース。更にその中にはミニトマトのコンポートを入れたのはちょっとした悪戯心。クランベリーとトマトの違った酸味が口の中で不思議な味覚を作り出す。その工夫の甲斐あって、その変わったフォンダンショコラの噂は広まり、日が進むにつれ注文はさらに増えてゆく。
「さすがカルド・ルビーノのミニトマトですね。あの…何て言ったっけ? トマト村の人も喜んでいる筈です」
 トマト祭にも幾度となく出ているハナ。思い出は尽きない。
「確かパーザさんでしたよね。私もお会いしたことあります」
 リコットが言う。そういえば、今年はどんなトマト作りにチャレンジしているのだろう。

 こうして、二週間はあっという間に過ぎた。
 宣伝や噂の効果もあって御客の入りは途絶えることなく、投票もそこそこ。
 毎晩集計していった結果、意外にも合作の『ジョーカー・MIX』が常設に決まる。
「やっぱり一人より二人って事だったのかなー」
 合作という事もあって選ばれたメニューに率直な感想を漏らす。
「なんだかんだ言っても人間って食べなれた味に落ち着くのかもしれませんね…けど、ある意味こっちとリアルブルーの融合料理でしょ。それはそれで常設後もお客の入りは違うかもねー」
 今まで目玉がなかったことが集客に繋がっていなかったのだ。馴染みの味に近いとはいえ、見た目で驚かせるこの料理はなかなか期待が持てるかもしれない。
「手間がかかる料理だけど、きみなら今度こそうまくいくさ」
 真がリコットに言う。
「はい、頑張ってみます!」
 リコットはその言葉を胸に改めて今日まで手伝ってくれたハンター達に頭を下げる。
 そして、最後の晩なのだからと、彼女らは皆に提案する。
「あの、最後にとっておきを用意しているので、ぜひ食べてって下さい」
「今日はハロウィンだからカボチャのカスタードパイを焼いたんですよ」
 三人はばれないようこっそり用意していたらしい。
 ちょうどいい具合にタイマーが鳴って、オーブンを開ければそこには南瓜の種が飾られたパイが顔を出す。
「実にいい匂いだ…これは楽しみです」
 Gacruxが鼻腔をくすぐるかぐわしい匂いに目を細める。
「だね。じゃあ頂いていこうか」
 そういうのは真だ。
 二週間、まかないでも三人娘の料理を食べられて仕事とはいえ役得でしかなかったとも思う。
「私達も頂きましょう。これは美味しい匂いですv」
「そうね、有難う。みなさん」
 ハナとマリィアもその誘惑には勝てず、開いた席に腰を下ろす。
 そんなハンターに運ばれてきたのはパイとそして温かなハチミツ入りコーヒーだ。
「えへへ、ブラック専門という方もたまには変わり種をお試しくださいな」
 マローナがそう言い皆に進める。
 ハチミツが入っていても味はほんのり甘い程度だ。
 しかし、ブラックだけにはない味わいが疲れた体をホッとさせる。
 そして、パンプキンパイはと言うとこちらもカスタードと南瓜の二つのクリームが並び、口に入るとそれぞれの甘さが主張しないのは隠し味のシナモンのおかげか。ともかく彼女達の持ち味である素朴さがパイにも出ている。
「美味しいですぅ。これなら何個でも食べられちゃいますよぅ」
 ハナが言う。
「もしかしたら、レストランじゃなくてこういうのの専門店の方が向いているのかもね」
 マリィアがふとそんな事を言葉する。
「専門店……確かに」
 今まではただのレストランとしてやってきた。けれど、それが色がないと判断される要因でもあった。
 だったら、いっそのことレストランという看板をもっと具体的なものに変えて注目を集めてはどうだろうか。
「例えば田舎料理専門店とか?」
 ポトフやコンソメ。ハンバーグと言った定番メニューを出していた事からシモンが提案する。
「そっちよりもっとなんていうのかなー…野菜専科とかはどうかなぁ? ママズキッチンとかでもいいかも」
 リコットはまだ独身であるが、お母さんメニューが多いならそれもありかもしれない。
 そんな話で盛り上がり始めてはこれからのリコットのお店の方向性は以前より確実に定まってゆく。
「ま、後はあなたたち次第ね」
 無責任なようだが、手伝えるのはここまでと厳しくマリィアが言い放つ。
「はい、有難うございました。また、ぜひお仲間さんと一緒に食べに来て下さいね」
 リコットはちゃっかり集客を狙って、そんな言葉と共に笑顔を返す。
 まあ、そんな言葉が出るくらいなら、もう大丈夫だろう。

 再び笑顔のお客があふれる店を目指して――これからは彼女自身が紡ぐ物語。
 そして、ハンター達も…新たな場所へ。皆に幸あれ。

依頼結果

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参加者一覧

  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言