【未来】亥子の賀儀

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/10/23 15:00
完成日
2019/11/28 06:36

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 ――エトファリカとはかつて往来があった辺境民が美しさを讃え、その景観そのものにつけた『美しいもの』を示す名である。
 歪虚の侵攻により東方の国が尽く滅び、その体裁を保てなくなり――生き残った者達が暮らす場所が必要となった。
 歪虚に包囲され、この地から出ることもままならなくなった彼らは、西方との繋がりが希望に繋がると信じ、いつか来るその日の為、西方諸国と政治的に渡り合う枠組みを欲した。
 東方大陸南部の小さな島国だったその地の帝は、いつか東方の全てを取り戻す為、自らの名を捨て「エトファリカ」を掲げたという。

 ――生き残った民達に土地と符術を分け与えた初代の帝は、連邦制へ以降する前から存在した政府、「朝廷」の長として君臨した。
 一方、歪虚に対抗するべく急激に肥大化した武家という軍事力を監督する為、「幕府」という第二政府を新設する。
 「陰陽寮」と呼ばれる符術師運用機関を抱え、国防の要たる大結界「天ノ御柱」を維持する帝と、それを支える朝廷。
 その朝廷から軍権、即ち武家四十八家門の運用を任された幕府は、最上位第一家門の長「征夷大将軍」と上位六家門により管理されていたが――憤怒王分体、狐卯猾との戦いにより、征夷大将軍であった立花院 紫草(kz0126)が行方不明となり、その後、その座は空いたままとなっている。
 そしてその戦いから暫くの後。天ノ都の復興が進む中、謎の声に悩まされていたスメラギ(kz0158)は、龍尾城の地下深くの聖域で……とてもとても小さな、黒龍の幼体を発見するに至った。
 小さくはあったが、エトファリカを長く守護してきた存在である黒龍の帰還に、国民は多いに沸いた。
 ――黒龍と帝がいれば大丈夫。再び帝が『お柱様』になり、この国土を守って下さる、と。

 ……スメラギは、そう言って喜ぶ国民達に対し、否定も弁明もしなかった。
 国民の意識を変えて行くのには時間がかかる。そう、ハンターが教えてくれたからだ。
 自身はもう、『お柱』になることはない。黒龍を犠牲にすることは二度としない――。
 その為に、ゆっくりと準備を進めていた。


●亥子の賀儀
 エトファリカ連邦の天ノ都、朝堂院。
 荘厳な雰囲気のあるそこを、深紫の狩衣を着たスメラギ(kz0158)が歩いていた。
 ――この儀式の時に着る衣装は未だに好きにはなれない。
 けれど、これが必要なものであると、今は理解できる。
 ――以前は儀式の度に口うるさく説教をしていた左大臣、足柄天晴ももういない。
 自分の右腕だった紫草も――。
 ……否。蒼人からちらりと、紫草と思わしき武人の噂は聞いた。
 だが、話だけ聞いて、放置している。
 戻って来たいと思えば戻って来るだろうし、戻ってこないということは――そういうことなのだろう。
 ……あいつはもう、充分自分と国の為に尽くしてくれた。
 あんな年になるまで結婚もせずにいたのだ。もう解放されてもいい筈だ。
 ……生きてさえいてくれれば、それでいい。
「……そういや、お前にこの儀式見せんの初めてだったか?」
 目線を横にやるスメラギ。肩の上で寛いでいた手のひらサイズの黒い龍が顔を上げ、黒い円らな瞳でこちらを見つめる。
 その龍は人の言葉を話すことはできないようであったが、何となく人の言う言葉は理解出来ているように見受けられた。
「これから、数日に渡って『亥子の賀儀』の儀式をやる。お前もしっかり見とけよ」
 亥子の賀儀とは、分かり易く言うと収穫を祝う祭である。
 朝廷の長であるスメラギが、エトファリカの守りの要である黒龍や精霊達に初穂を供え、その年の新米で餅を作り、それを食すというもので、黒龍の巫子である帝が自らが食すことで新たな力を得、翌年の豊穣を約束するものとされてきた。
 何より、この儀式を行うことで市井の民もまた収穫祭を各々出来るようになるのだ。
 民が喜び、笑い、この一年の実りに感謝し、来年の豊穣を願う最初の儀式。
 他の儀式はつまらないが、この儀式だけは面白いし、好きだ。
 毎年エトファリカが明るい雰囲気に包まれるこの季節。
 以前は出来なかったが、今度こそ、大勢のハンター達を呼んでやろう……。
 スメラギは笑みを浮かべると、重たい衣装を引きずって歩き出す。

●詩天の道行き
 エトファリカ連邦、詩天。若峰の黒狗城。
 三条家の軍師である水野 武徳(kz0196)は詩天の王、三条 真美(kz0198)と話をしていた。
「天ノ都では今年も予定通り、亥子の賀儀が行われるとのことです」
「そうですか。良かったです。それでは若峰でもそれに合わせ、収穫祭を行いましょう」
「御意」
「ところで武徳。最近、詩天に西方の品が良く届くようですが……」
「ああ。西方の商人に伝手がございましてな。そちらと定期的に交易をするようにしております」
「どれも良い品ですね。見ていて楽しいです」
「左様でございましょう。目利きの商人ですからな」
 嬉しそうな真美に、にんまりと笑みを返す武徳。
 最近詩天は、西方と交易をし、外貨を得るようになっていた。
 外交の制限も形骸化が進んでいるが、万が一の時の為、あくまでも『武徳が付き合いのある商人との私的なもの』であるという言い訳も用意済である。
 流石は古狸。腹黒さも天下一品である。

 ――真美は狐卯猾との戦いの暫し後、正式にスメラギとの縁談に断りを入れた。
 婚姻という形ではなく、詩天という国の名代として、エトファリカをこれからも支えて行くつもりだと添えて。
 それに合わせ、武徳は詩天の周辺諸国と協定を結ぶように取り付けた。
 度重なる歪虚との戦いで国力が弱っている時こそ、力を合わせるべきだと。
 その武徳の主張に賛同する者が多く、詩天の周囲の衝突は抑えられる結果となった。
 そして、詩天は天ノ都から離れている土地だったが故に、狐卯猾との戦いでの被害が最小限だった。
 天ノ都からの避難民を多く受け入れた結果、そのまま詩天に永住する者達が増えた。
 民の数が増えれば、国の力も自然と上がる。
 ……詩天は、かつてない程の安定感と実力を備えた国になろうとしている。
 その事実に危機感を覚える武家もおり、真美の身の安全は、武徳にとっても引き続きの最重要事項となっていた。
「真美様。収穫祭にお出になる際にはハンターを供にお付けください」
「最近どこへ行くにも供をと言いますが……武徳は心配性ですね」
「真美様は詩天にとっては勿論、エトファリカにとっても重要な方になりつつありますゆえ。どうぞ、そのことをご自覚くだされ」
 武徳の言葉に素直に頷く真美。
 詩天の民達が穏やかに暮らしていく為には、力が必要だとこの腹心は言う。
 力を求めたが故に道を誤った初代詩天のことを考えると、複雑ではあったが……武徳の言うことは最もなのだろう。

 様々な事情や思いを孕みつつ。今年も収穫祭が始まろうとしていた。

リプレイ本文

「ごめんね、忙しい時期だったんじゃない?」
「いえ、そんなこともないですよ。神火さんでしたらいつ来て戴いても大歓迎です」
 三条 真美(kz0198)に笑顔を向けられて、じわりと頬が熱くなるのを感じる龍堂 神火(ka5693)。
 彼は邪神を討伐してからまもなく詩天に移住し、符術の勉学に励んでいた。
 そしてこうして時折、真美の元を訪れては、一緒に符術の勉強をしたり、彼女の仕事の手伝いをしたりしている。
「そうだ。ちょうど神火さんにお話しようと思っていたことがあるんです。この間陰陽寮から符術の資料の写しを持って来たんですよ」
「え。本当? それ読ませて貰ってもいい?」
「はい。構いませんよ。ですが、なかなか整理が進んでいなくて……」
「それじゃあ、整理手伝うよ。資料読むのにも丁度いいし」
「ありがとうございます。助かります。……神火さん」
「ん? どうかした?」
「どうしてこんなに親身になって下さるんです? 神火さんだってお忙しいでしょうに」
「それは……」
 言葉に詰まる神火。
 以前、友人と話してから薄々気付いていたけれど。
 この胸に宿る想いは、友達じゃない、もっと特別な感情で……。
 彼はまっすぐに、真美を見据える。
「……好きだからだよ」
「……はい?」
「僕は、真美さんの事が好きなんだ」
 目を見開く真美。みるみる赤くなっていく彼女から目を逸らせない。
 最初は妹のようだと思っていたけれど。いつの間にか、その懸命さに惹かれていた。
 この想いを伝えたら、きっと。手札としては使い辛くなってしまうかもしれないけれど……。
「時間稼ぎのカードでも良いんだ。でも……真美さんの切り札になりたいと、思ってる」
「……あの。別に切り札じゃなくても構いません。お側にいてくださいますか?」
「え。それって……」
「私も、神火さんをお慕いしています」
 予想外の言葉に固まる神火。次の瞬間、ガッツポーズをした。
「やった……! ありがとう真美さん、僕、強い札になるから!!」
「いえ、ですから札にならなくても……」
「僕が真美さんの相手だと周囲を納得させるにはそれくらい必要だよ! よし! 符術開発を目指そう! 勉強するぞ!! 真美さん、さっき言ってた資料はどこ!? すぐ取り掛かろう!」
 一気にまくし立てた神火。そんな彼を見て、真美がくすくすと笑う。
「……何かおかしかった?」
「いえ、嬉しいんです。神火さんが頼もしいと思って……。私も符術開発、お手伝いしますね」
「アハハ。それは合作の術か。それもいいね」
 微笑み合う真美と神火。
 初々しい2人の歩みは、ここから始まった。


「アルラにはこれが似合うと思うんだけど、どうかな」
「え、ちょっと派手じゃない?」
「そんなことないよ。巴は……これがいいんじゃないかな」
「あら、素敵。飾りが鈴になってるんですね。綺麗な音……」
 人で賑わう通り。妻たちに銀細工の髪飾りを見立てる時音 ざくろ(ka1250)。
 時音 巴(ka0036)とアルラウネ(ka4841)の嬉しそうな姿に、彼は目を細める。
 3人は休みを取って、ざくろの領地の一角にある繁華街にやって来ていた。
 ――ざくろが憤怒王分体狐卯猾討伐の功績を認められ、東方に領地を拝領したのが数年前。
 その土地は正直、あまり豊かとは言えず、農業よりは鉱業の方が適していると判断した彼は私財を使って採掘を開始したのだが……何と、出て来たのは鉱石ではなく、温泉だった。
 滾々と湧き出る湯は採掘には邪魔であったが、ざくろは即座に発想を転換した。
 風呂場を用意し、採掘に従事していた者達や、その家族に提供したのだ。
 すると、その温泉は瞬く間に怪我や肌に良いと評判になり――温泉を目当てに人がやって来るようになった結果、1つ、また1つと温泉宿や温浴施設が増えて行き、ちょっとした街並みが出来……今では温泉が産業の中心となっていた。
 アルラウネと巴は街を見渡して、感慨深くため息をつく。
「最初は何にもなかったのに、こんなに建物が増えるなんてね」
「そうですねえ。なんやかんや大変なのはこれからなんですけどねえ……」
「そうね。ここに出店したいって言う人達、増えてるんでしょ?」
「はい。無計画に建物建てられちゃうと困りますし、そこの計画案をどうするかって話になってましたよね」
「うん。そうなんだけど……今日は仕事の話はやめにしようよ~」
 ざくろの声にハッとするアルラウネと巴。
 申し訳なさそうな目線を夫に向ける。
「そうだった。ついいつもの癖で……今日はお休みするんだったよね」
「皆さんの都合が付かなかったのは残念ですけど、子供達の世話もありますし、仕方ないですよね」
 そう、いつもざくろの周りには、もっと沢山の奥方達がいる。あと、子供達も。
 いつもは煩いくらい賑やかなのに、今日は3人だけ。ちょっと寂しいような気もするけれど……。
 こうやって、お互いにじっくりと向き合う時間は本当に久しぶりだから。
「いつも仕事手伝ってくれるだけじゃなくて、娘達の世話も大変でしょ。本当にいつもありがとうね。あ、2人共ちょっとじっとしてて。髪飾りつけてあげる」
 2人の奥さんに笑みを向けるざくろ。髪飾りを手にしようとして……感じた足元の違和感。どうやら大きめの砂利を踏んづけたらしい。
 そのままバランスを崩して――。
「えっ」
「きゃあっ」
 目まぐるしく回る視界。響くアルラウネと巴の悲鳴に、ざくろは慌てて身を起こそうとして……ムニュッと、柔らかいものに手をついた。
 あれっ。これ何だろう。
 もちもちしてて、張りがあって、押すと弾力があって……。
 首を傾げるざくろの下から、アルラと巴の声が聞こえて来た。
「ざくろん。……ちょっと手離して貰えないかな」
「それ、アルラと私の胸ですよ」
「うわあああ!? ご、ごめん!! 大丈夫だった?」
「またいつも通りじゃないの~」
「もう! ざくろ、危ないじゃないですか! 子供を抱っこしてなかったから良かったですけど……もし2人目がお腹に居たらどうするつもりですかっ!」「あ、そうだよね。ごめ……って、ええ、2人目!?」
「今じゃないですよ。今後の予定の話です」
「そうねえ。時間の問題じゃないのぉ?」
 奥方達の意味深な目線に慌てるざくろ。2人を助け起こすと、染まった頬を誤魔化すように笑みを浮かべる。
「あ、えーと。お詫びに温泉寄って帰ろうか。予約してあるんだ」
「あら。気が利きますね。温泉は勿論貸し切りですよね?」
「うん。3人で遠慮なく入れた方がいいでしょ?」
「あらやだ~。ざくろのえっち~」
「えっ!? ち、違うよ!? ただざくろはのんびりできればと思って……!」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
「ふふふ。それじゃ行きましょうか?」
 アルラウネと巴に挟まれるようにして両腕を捕まれるざくろ。
 3人の休日は、始まったばかりだ。


「真美さん。こちらが例の……こほん。えっと、夫のリクさんですわ」
「初めまして。いつもうちの嫁がお世話になってます」
 可愛い妹分に、己の夫を紹介する鬼塚 小毬(ka5959)。
 恭しく頭を下げる鬼塚 陸(ka0038)に、三条 真美(kz0198)はパァっと表情を明るくさせる。
「リクさんですね! 初めまして! いつも小毬姉様から話を伺ってました!」
「……は? え?」
「すごくお強い人だって聞いてます。戦いの腕だけじゃなくて、心も。あと、優しい方で、いつも姉様を甘やかして下さると……」
 被せ気味に話し始めた真美に目を瞬かせる陸。
 何だか随分過大な評価を戴いているような……?
 その目線は、そのまま隣にいる妻に注がれる。
「んん? マリ? 真美ちゃんに僕の事なんて話したの?」
「……ええと。普段のリクさんのご様子を……いえいえ、そうではなくて。ほら、真美さんは大切な妹にしてお友達でもございますもの。女の子同士、秘密のお話くらい致しますわ……!」
「えぇ……。ちょっと色々言い過ぎじゃない……?」
 アワアワと慌てる小毬に、でっかい冷や汗を流す陸。
 真美が不安そうに姉貴分を見上げる。
「私、何か困らせるようなこと言いましたでしょうか」
「いいえ! 真美さんは何も悪くありませんわ! いつも一生懸命で可愛いいい子ですわよ!」
 ああ、可愛い。久しぶりに会ったけれど可愛い。
 今だってこんなに気を遣ってくれて……!
 妹分の肩を引き寄せた小毬は、陸にジト目を向けた。
「リクさん! 真美さんを困らせないでくださいませ!」
「ええ!? 僕のせい!!?」
「小毬姉様、私困ってませんから……。ふふ。でも嬉しいです。ずっとリクさんにはお会いしたいと思っておりましたので」
「そうなの?」
「はい! 小毬姉様の旦那様ですし、リク兄様と呼んでも宜しいですか?」
「うん、勿論! よろしくね!」
 真美の頭をぽんぽん、と撫でる陸。小毬から色々聞いてはいたが、確かにこの子はいい子だ。
 妻が可愛がるのも頷ける。
「……マリの気持ちが今分かった。妹っていいもんなんだね」
「そうでしょう、そうでしょう。真美さんは可愛いですから」
 ドヤ顔で胸を張る小毬。
 その顔を見ていたら、何だか悪戯心が沸いて……陸はちょいちょい、と真美を手招きする。
「……? 兄様、どうかなさいました?」
「折角妹が出来たし、僕も真美ちゃんと話しよっかと思って。ねえねえ、真美ちゃん。聞いてくれる? マリってね。寝起きの顔がすごい可愛いんだよ。ちょっと目が小さくてね……」
「まあ……! 小毬姉様、いつもしゃんとしてらっしゃるのに……!」
「ちょっ!? リクさん!? 真美さんに何を話してるんです!!?」
「マリばっかり真美ちゃんに僕の話してズルいじゃん。僕もマリの話したい!!」
「真美さんに変なこと吹き込むのやめてくださいませ!」
「え。私、姉様のお話聞きたいです。……兄様、私も小毬姉様のお話、色々知ってますよ」
「えっ。なになに?! 教えて教えて!!」
「ちょっと真美さん!!?」
 兄妹の思わぬタッグに頬を染める小毬。
 ――それから小毬は、陸による盛大な惚気と、真美による素敵な姉様自慢を延々と聞かされる羽目になり、大分居心地の悪い思いをしたのだった。


「お前、今日も奥女中達集めて機織りしてたんだって?」
「はい! 皆で作った布、すごく好評なんですよ~!」
 隣に座るスメラギに、満面の笑みを返すアシェ-ル(ka2983)。
 彼女がスメラギの補佐として東方にやって来たのは数年前。
 護衛なら常に傍にいないと! と龍尾城に押しかけ、寝泊まりしているうちに……気が付けば、アシェールはスメラギの正室ということになっていた。
 最初、正室なんて畏れ多いと彼女は訴えたのだが、そもそも奥方がいないスメラギに側室が先に出来るのはおかしい。
 公家も武家も力が弱まり、微妙な状態が続いている中で、ハンターを正室に据えるというのは何の柵にも縛られないという点で、周囲にも歓迎された。
 そんなこんなで、アシェールが正式に帝の元に嫁ぎ、大奥に入った印象として……不謹慎を承知で言うと、無駄の多い場所、だった。
 誰もいない場所を、沢山の人材を使って維持している。
 確かに東方の文化を守っていくという意味では必要なのかもしれないが、スメラギが目指すものを考えたら、ここもいずれ形を変えていかなければならないだろう。
 そうなると、大奥で働く人達の別な働き口を考えないと路頭に迷わせてしまう。
 そこで彼女が考えたのは、奥女中達と一緒に織物をすることだった。
 東方の布は華美で絢爛なものが多い。こういった布は、裕福層に人気がある。
 高級な布で外貨を稼げるようになれば、奥女中達も仕事に困らなくなるはずだ。
「……そういう訳なので、この布じゃんじゃん外で売って来ますね!」
「おう。まあ、好きにしろよ」
「そうします!」
「お前、嫁に来ても全然変わんねーのな」
「んっ!? スメラギ様、お淑やかな方がお好みでした!?」
「いや、そんなことねー。つか、いい意味で言ってんだよ。……正直、助かってるわ」
 笑いながらアシェールの頬をつつくスメラギ。
 正直、ハンター出身の正室と言うだけあって、公家達は特に、冷ややかな目で見る者が多かった。
 アシェールはそれでもめげずに、持ち前の明るさを発揮して奥女中や役人達と積極的に交流し、仲良くなっていった。
 今ではすっかり……本人は全く自覚はないだろうが、大奥の主として認められている。
「スメラギ様のお役に立てて良かったです」
「ん。これからも頼むな」
「はい! お世継ぎも頑張らないとですね!」
 あっけらかんと言うアシェール。スメラギは飲みかけていたお茶をぶぼーっと噴出した。


 ――三年後、秋。
「真美ちゃん、元気にしてたですかー!?」
「はい……!」
「後で毬ちゃんも来るって言ってたです。……また背が伸びたですね!」
 真美からの抱擁を笑顔で受け止めるエステル・ソル(ka3983)。
 辺境風の装束をまとった彼女からあどけなかった少女の面影は消え、憂いを帯びた大人の女性へと変化していて……。
 真美は気遣わしげにエステルの顔を覗き込む。
「……エステルさん、少し痩せました?」
「えっ。そうです? わたくしもちょっと背は伸びたですけど……」
 確かにここ最近、辺境地域の復興などで忙しくはしていた。そのせいだろうか……?
 お友達に心配かけるなんて……と反省するエステル。
 そこに、本多 七葵(ka4740)が顔を出した。
「真美様。七葵、参りました。……これはエステル殿。お元気そうで何より」
「わあ! お久しぶりです! 七葵さんもいらしてたですね」
「ええ。今年の収穫の寿ぎを申し上げに」
 エステルと真美に恭しく頭を下げる七葵。真美は困ったように笑ってため息をつく。
「七葵はいつもこうなのですよ。堅苦しい挨拶は要らないと言っているのですが……」
「いえ! そういう訳には参りません。千寿を預かる身であるからこそ、けじめはつけませんと」
「……七葵の忠義は、良く心得ておりますよ。これからも期待しております」
「はっ。勿体ないお言葉です。精進致します」
「そういえば七葵さんは領地を拝領したんでしたっけ」
 エステルの言葉に頷く七葵。
 ――彼は、詩天にほど近い土地を拝領し、領主となった。
 亡き主君の名をあやかり、千寿と名付けられたその場所は、被災した職人や研究者――ありとあらゆる知識を持つ難民を手厚く保護した。
 その上で、幼い子が学べる寺子屋の数を増やし、更に深く学べる教育機関を設置した。
 人材育成に注力する千寿は西方諸国と交換留学を推し進める水野 武徳(kz0196)との方向性も一致していること、元々本多家は代々詩天に仕えてきたこともあり、詩天とは友好な関係を結んでいる。
「今日は神火殿はいらしていらっしゃらないのですか? 符術の教鞭について話をしたかったのですが……」
「あの方は今日、若峰の方へ出ていて……あと数刻もすれば戻って来ると思いますよ」
「成程。ではこちらでお待ちしても宜しいでしょうか」
「勿論です。今お茶を用意させますから、ゆっくりして行ってください」
 微笑み合う七葵と真美。
 自然と話題に出た彼女の想い人の名を聞くに、どうやら2人は上手く行っているらしい。
 安堵のため息を漏らしたエステルは、ふと気になったことを口にする。
「あの。真美ちゃん。……まだお許しは出ないです?」
「はい、そう簡単には……ということのようです」
 目を伏せる真美。
 ――真美と神火の婚姻に際し、武徳はいくつか条件を出した。
 一つ目は、神火が三条家の婿養子に入ること。
 二つ目は、詩天という土地1つに仕えて貰う為に領地の拝領をしないこと。
 三つめは、詩天において、九代目詩天の婿であると、誰もが納得するだけの実績を上げること――。
 2つの条件はすぐにクリアできたが、3つ目の条件が満たせないでいる、ということらしい。
 その話に、エステルは顔を曇らせる。
「むー! 神火さん、詩天を救った実績もありますのにね!」
「それだけでは足りない、ということのようです。一緒に、気長にやっていくしかありませんね」
「大丈夫です! わたくしも協力します! いつだってわたくしは真美ちゃんの味方です! 七葵さんも協力してくれるですよね!?」
「勿論。一臣下やハンターとしてではなく、一人の男として……これからも真美様を支えたく存じます」
「まあ。ありがとうございます」
 強く頷き返した七葵。真美は二人に深々と頭を下げ……話を振ったエステルは一瞬固まっていたが、猛然と七葵に詰め寄る。
「……七葵さん! ダメです! 真美ちゃんは神火さんのです!!」
「は?」
「今! プロポーズしたです。わたくし聞いたです!!」
「……? いえ、自分はそんなつもりは……」
「そんなつもりがなくてその台詞はもっと大問題ですー!!」
 わーわーと騒ぐエステルに困惑する七葵。そこにひょこっと、小毬が顔を覗かせた。
「あらあら。賑やかですわね。皆様、ごきげんよう」
「あっ! 毬ちゃん聞いてください! 今七葵さんが……!」
 頼りになる姉貴分に慌てて言いつけるエステル。
 耳を傾ける小毬は笑顔のままだが、周囲の温度がだんだん下がっていく。
 ――この後七葵は、真美を除く女性陣にがっつり正座説教を食らったのだった。


 ――3年後、春。
「どう? 奥方様とはうまくやってる?」
「……それ皆聞くのな。俺様どんだけ甲斐性なしだと思われてんだ?」
「ふふふ。違うよ。スメラギ君、なかなか春が来なかったから、皆心配してるんだよ」
 眉間に皺を寄せるスメラギに、くすくすと笑う天竜寺 詩(ka0396)。
 彼女は帝に謁見し、拝領した領地についての経過報告を行っていた。
 様々な芸能や芸術を学べる場所を用意し、それに合わせた街づくりをしていること。
 各地から講師を募った結果、流れの楽師や、歌や踊りを生業としている流民達が多く定住を始めていること――。
「へえ。色々やってんだな」
「うん。ほとんどお姉ちゃんに任せきりだけどね。これが、今後の計画案。目通してね」
「お前こういうとこ本当マメだよなー」
「スメラギ君が大雑把過ぎるんだよ。あ、そうだ。今歌舞伎舞台を建設中で、近々こけら落としに公演を行うんだ。その時は是非奥方様と観覧しに来て」
 改めて招待状送るから……と続けた詩に、鷹揚に頷いたスメラギ。
 彼女は帝を見て、ぐっと声を落とす。
「……あのね。あの人は元気だよ。今は一緒に南方の開拓に努めているんだ。何時かはスメラギ君に会うつもりみたいだから待っててあげて」
 ――誰が聞いているか分からないから、名前は出せない。
 それでも、あの人の今を伝えたい。あの人に頼まれた訳でも、スメラギに望まれた訳でもないけれど。
 この2人には確かな絆があると思うから……。
 スメラギは暫し考えたようにした後、肘掛けに肘をついて、ふーん……と気のない返事をした。
「なあ、詩」
「……なーに?」
「あいつを頼む。今度は手、離すんじゃねーぞ」
「……うん。分かった。何か伝えたいことある?」
「いや、あいつのことだ、どーせこっちのことなんざ把握済だろ。俺様もだけどな」
 ニヤリと笑うスメラギに、微笑んで頷き返す詩。
 ――次に帝に会う時は、あの人も一緒だといいな、と。そんな事を考えた。


「姫君達、相変わらずお美しいですね。天上に来たのかと思いました」
「……うわ。レギ。あなた相変わらずね」
「ん? レギ君、銃の腕前は上がってるよ」
「そういう話じゃないわよ、アルト」
 開口一番、口説き文句を告げたレギに苦笑するアルスレーテ・フュラー(ka6148)。
 師匠としての感想を述べるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)に、思い切り良くツッコむ。
 レギが戦いの修行を積んでいるとは聞いていたけれど、まさかアルトに弟子入りしていると思わなかった。
 相変わらずの仲間達に、リューリ・ハルマ(ka0502)から笑みが漏れる。
「本当皆久しぶりだけど……レギ君、身長伸びたねー!」
「はい。せめて僕の天使さんには追いつきたいですね」
「追いつくと言わず追い越してやんなさいな。20cmくらい」
「僕より20cm高いとなると2m近いんだけどな……」
 久しぶりとは思えない調子で、話が弾む4人。
 リューリ、レギ、アルスレーテ、アルト……皆で並んでお祭りの屋台を眺めつつ、自然と近況の報告になる。
「それにしても、まさかレギ君がアルトちゃんに弟子入りしてると思わなかったよ」
「はい。アルトさんに勝つには、それが一番手っ取り早いかと思いまして。弟子は師匠を越えるものと言いますし!」
「とかなんとか言って、まだ一勝もしたことないんでしょ」
「アルスさんご名答。まあ、僕に勝とうなんて百年早いし」
「僕の天使さんは相変わらず手厳しいです。いつか、この情熱でアルトさんを越えてみせます」
「はいはい。情熱で戦いに勝てたら苦労しないよ」
 レギの口説き文句をピシャリと跳ね除けたアルト。そういえば……と思い出したように続ける。
「リューリちゃんがね、月待猫の支店作ったんだよ」
「そうなの。ホープにね。お陰で燕太郎さんやセトさんのところに通いやすくなったよ」
「えっ。リューリ、あの計画本当に実行した訳!?」
「うん。ほら、歪虚の襲撃でホープにあったお墓も壊れちゃって、もう一度作り直さなきゃいけなかったし。そのついでみたいな」
「そうだったんですね。……兄達の為にありがとうございます」
「ううん! 私がしたかったからしただけだよ」
 呆れたような声を出すアルスレーテ。頭を下げるレギに、リューリはにこにこと笑みを返す。
 数年前、ノアーラ・クンタウに向けて歪虚が押し寄せた際、開拓地ホープも甚大な被害を負った。
 ホープにはCAM実験場などもあった為、早急に復興が進められたが、建てられた墓などの再建はなかなか進まなかった。
 それはそうだ。仕方がない。生活に必要とされない部分は後回しになって当然だ
 でも、リューリは何だかそれが我慢できなくて……私財でリアルブルー遭難者の為の墓を再建したいと申し出たのだ。
 その流れで、月待猫の支店建設の話も進み……墓がよく見えるところに店を構えたという訳だ。
「……墓が見えるって、店の景観としては最悪だと思うんだけど?」
「一応止めはしたんだけどね……」
 顔を見合わせてため息をつくアルスレーテとアルト。
 リューリの感性は独特だから仕方がない。
 まあ……賑やかな彼女が近くにいて、きっと軟派なレギの兄も、あの黒い男も、……そして、男の養女も寂しい思いはしなくて済むだろう。
 そんな友人達の反応に気付く様子もなく、リューリは屋台で飴細工を注文する。
「アルスさんは故郷に戻ってたんだっけ?」
「ええ。お陰様で彼氏と仲良く暮らしてるわ」
「今日は彼氏さん連れて来なかったの?」
「誘ったんだけど、部外者の自分がいたら楽しめないだろうからって断られちゃった」
「そーなんだ。残念。会ってみたかったな」
「伝えておくわー」
 そんな会話をしながら、更に焼き鳥を買ったリューリとアルスレーテ。
 そこに小皿を持ったアルトが戻って来た。
「美味しそうな梨があったから買って来たよ」
「わぁ。秋の味覚ですね!」
「はい、レギ君、どうぞ」
「えっ。いいんですか!?」
 レギに満面の笑顔を向けて、梨をひと切れ差し出すアルト。
 こ、これはもしかして。もしかしなくても恋人同士がよくやる『あーん』というやつではないだろうか!!
 これは受けて立たねばと口を開けた彼。
 しかし、レギがそれを口にする直前で遠ざかり、リューリの口へと運ばれた。
「なーんちゃって。はい、リューリちゃん」
「んー! 甘くておいしー!!」
「ふふふ。残念だったわね。……ってなわけでまずはお約束を食らいなさいレギィィィィィ!!!」
 梨をお預けされたショックから立ち直る暇もなく、レギがアルスレーテにツナサンドを突っ込まれる。
「ひゃひするんえふか」
「あらやだ。アルトの代わりに食べさせてあげたんじゃないの。親切心よ~」
「あるふはんのひんひぇふしんはふへへるとほほいはふ」
「何言ってんだか全然分かんないわよ」
「アルスさんの親切心はズレてると思います、だって」
 くすくすと笑うアルスレーテ。リューリの通訳に、レギは目を白黒させたままこくこくと頷く。
 姉貴分に弄られながらも、楽しそうにしている彼を、アルトはじっと見つめていた。
 ……強化人間として生きていた彼に残された時間は、あとどれくらいなのだろうか。
 強化人間達の寿命を諦めたわけじゃない。出来うる限りの治療も、延命もしたいと思う。
 だけど、世界はそんなに優しくもなくて――。
 いつ終えるか分からないのなら。せめて……彼には出来る限り、思い出を少しでも多くしてあげたい。
 最期のその時に、『生きていてよかった』と思えるように……。
「アルトちゃん、ぼんやりしてるけど大丈夫? どうかした?」
「……ううん。レギ君苦しそうだなって思って。ほら、お茶だよ」
「ありがとうございます」
「あらー。天使に優しくしてもらって良かったわねえ」
 アルトにお茶を飲ませて貰うレギを、ニヤニヤと見守るリューリとアルスレーテ。
 笑い合って、じゃれ合って……こんな時がいつまでも続けばいいと、心から願った。

 余談:ダイエットを忘れて食べまくったアルスレーテさんは、後日筋トレに励む姿が目撃されたようです。


「……イェルズ。ちゃんと寝てる? ご飯食べてる?」
「はい。大丈夫ですよ」
 イェルズ・オイマト(kz0143)の顔を覗き込むラミア・マクトゥーム(ka1720)。
 何だか笑顔が硬い気がして、その頬にそっと触れる。
 ――バタルトゥを喪ってから、この人は少し変わった。
 いつも笑っていて、元気で……そこは変わっていないように見える。
 だけど、心から笑っていないような気がするのだ。
 ……これは、勘というより、彼をずっと見て来たから分かる変化なのかもしれない。
 そう。ラミアはずっとイェルズを見ていた。
 男性だと、意識してからずっと――。
 彼女の胸に輝く紅いペンダントは、イェルズから贈られたものだ。
 リアルブルーに一緒に出掛けた時に贈ってもらって……とても嬉しかった。
 アレクサンドルに攫われたと聞いた時は、心配でたまらなくて――見つけて、生きているのが分かった時。
 その時、ようやく自分の中でイェルズがどれほど大きな存在なのかに気づいて……。
 イェルズをじっと見つめるラミア。何だか彼がいつもと違う表情をしていることに気付いて首を傾げる。
「イェルズ……? どうかした?」
「俺、別に強がってる訳じゃなくて……同情で気引いてるみたいで嫌なんですよ」
「それってどういう……?」
「族長があんなことになって……ラミアさん優しいから、それで傍にいてくれようとしてるんじゃないかって」
「ハァ? バッカじゃないの! そんなことなくたって、私はずっと前からあんたが大好きだったよ!!」
 ――強くて、天然で、鈍くて、子供みたいで。
 でも大らかで優しくて、その分脆くて……。
 目標の背中を追う瞳、辛くても立ち上がる心も、全部全部好きなのにこの人は何を言っているのだろうか。
「強い所も、弱い所も、そういう変に気回す困った所も全部好きなの! だから、これからもずっと傍にいたいの!」
 一つしかない目を見開くイェルズ。
 今さらながらに自分がとても恥ずかしいことを言っている気がして、ラミアは頬を染めて目を伏せる。
 でも、ここで引き下がる訳にもいかないから……。
「だから、その……答え、聞かせて貰っても……?」
「えーと。俺もラミアさんのこと好きですよ」
「…………」
「あ、友達としてじゃないですよ!?」
「……だったらその堅苦しい敬語やめなさいよ馬鹿イェルズ!」
「あ、ごめん。えっと……俺、左側こんなだし、オイマト族の族長にもなったしで、色々苦労かけると思うんだけど……それでもいい?」
「……いいに決まってるでしょ」
 イェルズの胸にもたれかかるラミア。その背に回る、彼の手が温かい。
 ……喜びの涙は、暫く止まりそうになかった。


「キヤイ、また背が伸びたんじゃない? 服が小さくなってるよ。お祭りに来たしついでに服買おうか」
「えっ。僕、お姉ちゃんの作った服がいい!」
「キヤイずるい! 私もお姉ちゃんの作った服欲しい!」
「じゃあ戻ったら皆で作ろう。ね?」
 言い合いになりそうなキヤイとイレスを宥めるイスフェリア(ka2088)。オイマト族の子供達はそれに素直に頷く。
 ――彼女は邪神との戦いが終わった後、子供達の誘いに乗ってオイマト族に身を寄せていた。
 この選択に、悩まなかった訳ではない。
 ここにいると、あの人がいないことを何気ないことからも強く感じてしまうから。
 ハンターとなる前は、色々な人の助けを得た恩を返すために。
 ハンターとなってからは、困っている沢山の人達のために働いてきた。
 そして、その中であの人に出逢って……色々なものを一緒に見て、変わって行った。
 あの人の存在が大きすぎて、この先忘れることはないだろうと思う。
 この胸の痛みが癒える日が来るか分からないけれど……それでも。
 あの人が大切にしてきたものを見守りたい。
 これからは困っている誰かの為ではなく、オイマト族の為に生きようと、決意したのだ。
 イスフェリアは子供達を集めると、順番に言い聞かせる。
「今日は収穫祭に行くけど、皆が何を見たか、何を感じたか、あとでわたしに教えてね」
「どんなことでもいいの?」
「うん。小さなことでも、大きなことでもいいよ。皆が世界を見て、沢山の人と交流することが大事だから」
「……こーりゅー? なに?」
「皆と楽しく遊びましょうってことかな。出店の周りは人が沢山いるから走っちゃダメだよ」
 はーい! と元気に返事をする子供達に、イスフェリアは微笑む。
 ……この子達もいつか、オイマト族を背負って行く身。
 きちんと育てたらきっと、あの人も喜んでくれるはずだから……。
 精霊の還る場所で会った時に、胸を張って報告できるように――。
 彼女達は子供達の手を取って、一緒に歩き出した。


「あの、シアーシャさん。俺、好きな人がいて……本当、ごめんなさい」
「……そっか。イェルズさん、謝らないで。好きな人がいるのは別に悪いことじゃないんだから」
 頭を下げるイェルズを宥めるシアーシャ(ka2507)。
 先日、彼女はイェルズに告白をした。
 ――彼に、仲の良い女の子がいるのは知っていた。
 彼女が、イェルズに向けている想いが同じであることにも気付いていた。
 ……優しい彼のことだ。きっと、この返事をするのにも悩んだのだろう。
 それでも逃げずに応えてくれるのが、イェルズのいいところだと思う。
 シアーシャという少女は、世の中を知らなくて恋に恋する妄想力の逞しい乙女だったけれど。
 依頼を重ねて少しずつ成長した。
 その中で大切な人を得て、本当の『恋』という感情を知った。
 弟のように思っていた存在を喪って、その痛みを知り……。
 そして、それらを乗り越えて、自分の想いを口にする勇気を持った。
 その結果がこれで――残念だけれど……。
 でも、すぐに諦める必要もないよね……。
 いつかこの人が振り向いてくれるかもしれない。
 もっともっと素敵な男性に出逢うかもしれない。
 未来はどうなるか分からないのだ。
 テセウスやバタルトゥのように、未来を見届けられなかった人たちの分も、働いて、遊んで、女子力を更に磨いて――日々を精一杯生きたい。
「よし! イェルズさん。私もっともっと自分を磨いていい女になるからね!」
「あ、はい。シアーシャさんならきっとなれますよ。応援してます」
「うん。ありがと! イェルズさんもイイ男になろうね!」
「あはは。そうですね」
 笑い合う2人。
 元気で明るく前向きで、だけど慎重さが足りないシアーシャ。
 気遣いの細やかさが素晴らしい分、そのぶん気疲れしそうなイェルズ。
 まだ未熟な彼らの未来は、どうなるか分からないけれど。
 ……彼女は痛みを知って、また一つ大人になって行く。


「どうした? ひりょ」
「……いや、君の補佐役は本当に有能だったんだなと思ってね」
「ふふふ。ユーキは父の代から仕えた補佐役だったからな。でも、ひりょとて負けておらんぞ?」
「そうかい? そうだと良いんだけど」
 祭りの喧騒を、手を繋ぎながら歩くトモネと鳳凰院ひりょ(ka3744)。
 ムーンリーフ財団総帥と、その補佐役としての生活はとても忙しく、今日は久しぶりの休暇を取っていた。
 ――総帥としての公務はとても忙しく、今日の休みも本当に久しぶりだった。
 トモネは労ってくれたが……こういった調整も、ユーキであれば難なくこなしていたであろうと思うと、まだまだ補佐役としての手腕が足りないとひりょは思う。
「見ろ、ひりょ。花が咲いておるぞ」
 屋台街から少し離れた場所に花壇を見つけ、微笑むトモネ。
 彼の手を引っ張るようにして花の元へと急ぐトモネを見ていると、年相応の少女に見えて、ひりょの頬が緩む。
 ひりょはふと思い出したように、懐から小さな箱を出して、トモネに差し出した。
「トモネ。これを受け取ってくれるかな」
「む? 開けてみても良いか?」
「勿論」
 頷くひりょに、導かれるまま小箱を開けるトモネ。
 そこには華奢なデザインの美しい指輪があって……トモネは目を輝かせて、自身の指にはめる。
「……ひりょ、嬉しいがサイズが合っておらんぞ」
「それでいいんだよ。この指輪がぴったりになるくらいにトモネが成長するのが先か、俺が補佐として一人前になるのが先か、競争だ」
「だからひりょはもう立派に勤めておるというに……これはつけられるようになるまでペンダントにさせてもらうからな!」
 微かに顔を朱に染めながら、ぷくーと頬を膨らませるトモネ。
 その様子が愛らしくて、ひりょは彼女の頬を撫でる。
「トモネ。今度、父君のところへお墓参りに行こうか」
「父上の? 構わんが……」
「俺にとっても父君になるのに、まだきちんとご挨拶していなかったからね」
 ひりょの言わんとしていることを察して、更に頬を染めるトモネ。
 彼はその様子に目を細める。
 ――そう。ちゃんと自分の口から報告したい。
 今までのことも、ユーキのことも。
 自分とトモネのことも――。
 ……この子がいてくれたから今、俺はこうして生きていく意味を見つけられたのだと。
 その為にはまた、休暇を調整しないといけないな。明日からそのつもりで動かないと。
 彼はそんなことを考えながら、比翼の娘を連れて祭りの喧騒へと戻った。


「かかさま! 蜜鈴様はどこ!?」
「収穫祭の献上品を仕入れに都へおでかけだよ」
「えー。連れて行って欲しかった!」
「蜜鈴様のお邪魔になるだろ。もう少しで帰っていらっしゃるからお待ち」
 ぷうっと頬を膨らませる子を嗜める母。
 ――ここは、東方から辺境により近い山奥にある小さな集落で、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が拝領した土地だ。
 森を開き、縁在る民草が小さな集落を作った。
 その場所には、集落を囲むように椿が植えられ、かつて蜜鈴が失った故郷を彷彿とさせた。
 冬の寒さが厳しい場所だが、その分春になると一斉に花が咲いて美しい。
 田畑を耕し、家畜を育て、自給自足の生活を送り……そしてこうして秋を迎えると、収穫を祝してささやかな祭りが開かれるのだ。
「……一雨来るか。恵みの雨じゃが、急がんとな」
 風が雨の匂いを運んで来たのを察知した蜜鈴。
 ワイバーンの手綱を握り、先を急ぐ。
 ――全身を撫でるように吹く風。風に触れるとあの男を思い出す。
 ……そこにおるかや、バタルトゥ。
 空を駆ければおんしを感じる。
 であれば……傍におらずとも良い。
 ふう、と短く息を吐く蜜鈴。はためく装束から見える腕。
 そこに這うように入れられた無数の入れ墨……。
 ――彼女は土地を拝領後、ハンターとしての立場を捨てて生きていた。
 力に溺れ、慢心するなれば力など要らぬ……。
 ただの人と変わらぬ力で、集落の者達と力を合わせて、ヒトとして生きる。
 ――残りの人生は、そうして行こうと決めた。
 風のようなあの男が、迎えに来るその日まで。
 ……もはや余生のようなものじゃが、妾は生きよう。
 おんしに見て来たものを伝えられるように。
 そして再び見えた時には……鉄拳の一発でもくれてやらねばなるまいの。
 くつりと笑う蜜鈴。フードを目深に被った彼女の眼下に、都が広がっていた。


「わぅ? お久しぶりですー? 最後に会ったの、けっこー前な気がするです!」
「そうだなー。てか、お前何か雰囲気変わったんじゃね?」
「そうです? お嫁さんのせいかもしれないですねー」
 にこにこと笑うアルマ・A・エインズワース(ka4901)に、苦笑を返すスメラギ。
 ふらりとやって来たアルマは、『せっかくだからお話するですー』などと言い、帝をずるずると引きずって龍尾城の中庭にやって来ていた。
 帝に無礼を働いても何も言われないのは、アルマの人徳なのかもしれない。
 2人以外誰もいないこの場所に、アルマの楽しげな声が響く。
 守護者になり、帝国の英霊と結婚して、今は帝国に住んでいること。
 最近兄が東方で土地を拝領し、領主を始めたこと……。
「えーと。紫……あの人はお元気そうだったですよ。わふーってしたです!」
「何だそりゃ。相変わらずお前の表現ふわっとしてるよな」
「わざとふわっと言ってるです」
「本当かぁ? アルマ、割といつもふわっとしてね? ったく。お前がこんなとこまで引っ張って来るからなかなか茶出せなかったじゃねえか。ほれ、飲め」
「あ、ありがとですー」
 スメラギから茶器を渡されて微笑むアルマ。
 いい香りのするお茶を一口飲んだ彼は、じっと帝を見つめる。
「……わぅー。スメラギさんは東方すきです?」
「あ? 何だ急に」
「知りたいと思ったです。東方すきです?」
「そりゃまあ、好きなんじゃねーの」
「わう。良かったです。あの人も東方すきですー。スメラギさんの事も大好きです!」
「何だそれ。あいつ、一体お前に何吹き込んでんだ?」
「ふふふ。秘密です。でも、もうしばらく待ってると素敵な事が起こるですよー」
「ちょ! おい、子供扱いすんじゃねえよ!」
 無邪気な予言者は、帝の頭をぽんぽんと撫でて笑みを深めた。


「やあ、スメラギ君。何だか大人になった気がするね」
「……そういう割に目がこっち見てねーぞ、真」
 スメラギのツッコミに、そうかな? と白々しい返事をする鞍馬 真(ka5819)。
 そう言っている彼の目線はまさに、スメラギの肩の上にいる小さな黒龍に注がれている。
 何を隠そう……全然隠してないけど、真は龍が大好きなんである。
 こんなちっこい黒龍見たら、そりゃあ目が釘付けになるに決まっている。
「おい、黒龍。お前真と遊んでやれ」
「えっ。えええっ。いいのかい!? わあ! おいで!」
 スメラギに言われて顔を上げた黒龍。するりと真の手のひらに収まり、黒いつぶらな瞳でじっと彼を見る。
「かわいい目だね……! あ、ちょっと背中触っても……? うわあ。鱗がつるつるで気持ちいいね……! わあ。すりすりしてくれるのかい!? いい子だねええええ」
「……お前、すごい変わりようだな」
「えっ。そうかい?」
「無自覚かよ!!!」
 黒龍にデレデレの真に二度目のツッコミを入れるスメラギ。
 真はコホンと咳払いするとキリっとした顔を作る。
「東方はこれから大きく変わって行く時だね。長い道のりだろうけど、応援しているよ」
「……急に話変わったな。何だよ。真は領地拝領できんだろ? しねえのか?」
「そうだね。その手もあるけど……私には向いてないと思うし。ま、当分ハンターで居るつもりだから。何かあれば、最優先で依頼を受けるよ」
「真を雇えるならこんなに心強いことねーな」
「それは光栄だよ。息抜きに付き合え、とか、そういう簡単なことでも良いよ。何なら子守も得意だ。龍の世話も出来るよ!」
 ちょっと語尾に力が入ってしまった真。スメラギは苦笑しつつ真の手の上でリラックスしている黒龍を見る。
「……真、いっそ黒龍の世話係にでもなるか?」
「ええっ。それは魅力的な……いやいや、私は当面ハンターで頑張るよ!!?」
「そうかぁ? ま、気が変わったら言えよ。席は空けといてやるよ」
 一瞬食いつきそうになって慌てて首を振る真。
 そんな彼に、スメラギはからからと笑った。


「お前、すげーな。そんな両手いっぱいで大丈夫か?」
「はいなの! これはお土産なの! あっ。お祭りにお招き戴いてありがとうございましたなの!」
 両手いっぱいの荷物を抱えて頭を下げるディーナ・フェルミ(ka5843)に目を丸くするスメラギ。
 彼女が持っているのは、今日のお祭りの屋台で買った食事や、東方の保存食などだ。
 帰ってから自分で食べる分もあるが、お友達にこの祭りの楽しさを共有したい……そう思っていたら、どんどん買い込んでしまって今この状況がある。
 ディーナは思い出したように顔を上げて、帝を見た。
「あの、今日はスメラギさんに王国聖導士学校の勧誘に来たの」
「ん? 勧誘?」
「そうなの。東方から生徒をお招きして、こちらの生徒も東方に留学できないかと思ったの」
 ふと真剣な表情になるディーナ。
 邪神は去り、歪虚王は降し、十三魔もほぼ全滅させた。
 しかし本当に、今後強大な歪虚が出てこないと言い切れるのだろうか?
 この地を長く安全に保つには、力も知識も必要だ。
「人間領域拡大は、エトファリカの考えにも通じると思うの。備えなしでは有事の際に同じことが繰り返されるだけなの。だから、学生交流をお願いしたいの」
「ふーん。まあ、いいんじゃねえの」
「……そんなあっさりでいいの?」
 キョトンとするディーナに、スメラギは肩を竦めてみせる。
「あっさりって訳でもねえよ。……俺が目指してる治世は、民草にも高い知識と教養が必要なんだと。自分の国がどうなっていくか考えるには、まずその知識がないと無理って訳だ」
「確かにその通りなの。支配を受けてた人達に、いきなりそんなこと選べないの」
「そーいうこと。民草に教育を施すには、それなりの年月と設備が要るだろ。お前達の学校で学んで、その知識を持ち帰って来てくれりゃうちも万々歳だ」
「……ありがとうなの。それじゃ、この話持ち帰らせて貰うの」
 スメラギにぺこりと頭を下げるディーナ。もう1つ、大きなお土産が持ち帰れそうで、彼女の頬が自然と緩んだ。


「初めまして、水野様。王国聖導士学校で寮母をしております、フィロと申します。水野様にはルル大学防諜部門長と名乗る方が宜しいでしょうか」
「ほう……。そなたがあの……。遠路はるばる良うお越し下さいましたな」
「有り難きお言葉です」
 水野 武徳(z0196)に深々と頭を下げるフィロ(ka6966)。
 武徳にお茶を勧められ、恭しく受け取る。
「して、本日はどういった用向きですかな」
「はい。今後も詩天からの積極的な入学のお願いしたいと思い、まかりこしました」
 武徳の値踏みするような視線を受け止めるフィロ。
 薄く笑みを称えたまま続ける。
「私達の学校は、聖堂教会過激派が主宰しております。講師が日々叫んでおりますように、『半島1つで何が人類安泰だ、人間領域拡大に貢献せずに何が聖堂教会だ』という思想が根底にございます」
「……ふむ。先日戻って来た学徒もそのようなことを申しておりましたな」
「はい。交換学生にもそのように教授しておりますので。……高位でなくても能力者が全てハンターになるほどでなければ人間領域拡大など夢のままでしょう。その為にも是非、引き続きご協力を戴きたいのです」
「その件については、既に承認をして返信を送付差し上げておりますぞ」
「左様にございましたか。私達は手を取り合えると信じておりました。今後も是非、入学者派遣を宜しくお願い申し上げます」
「うむ。わざわざ来て戴いて手ぶらでお返しするのも忍びない。して、どのくらいの学徒をご希望ですかな?」
「……これはこれは水野様。話が早くて助かります。では、こちらの計画案をご覧いただけますか」
 単刀直入に切りこんで来た武徳に、深い笑みを返すフィロ。
 広げた書類を手に、詩天の軍師へと教育プランの説明を始める。
 ――挨拶の結果は、なかなか上々である。


「お久しぶりですぅ。お元気でしたぁ?」
「おう。お陰様でな」
「そちらが黒龍ですねぇ。こんなに早く復活するなんてちょっと予想外だったですぅ」
「そうだな。ナディアの話じゃ、当分復活できそうにねえって言ってたしな」
 スメラギの肩にいる小さな黒い龍を覗き込む星野 ハナ(ka5852)。
 黒龍が復活するということは、龍脈にマテリアルが戻りつつあるのだろうか。
 人間領域拡大という意味でも、とても喜ばしいことだと思う。
 ハナは黒龍から目線を外すと、まっすぐにスメラギを見据えた。
「紫……立花さんの件は順調ですよぅ。もう少ししたら報告があるんじゃないでしょうかぁ」
「その件、お前達みーんな俺に知らせに来るのな」
「そりゃあそうですよぅ。私達は報告義務があるんですぅ。情勢を調べて把握しないのは為政者として怠慢ですぅ。友情って言葉に逃げないで下さいねぇ」
「あいつが何してるかは把握してる。別に逃げてねえよ。……その辺を踏まえて今は、その時じゃねえってことだろ」
「あら。スメラギさんのくせにきちんと考えてるですねぇ」
「お前は俺を褒めたいのか落としたいのかどっちなんだよ」
「どちらでしょうねぇ? 私の目標はCWの人間領域拡大なのでぇ。スメラギさんも何かあったらどんどん依頼して下さいねぇ」
「おう、考えとくよ」
 ハナの言葉に鷹揚に頷くスメラギ。
 情報提供はしたし、仕事探しの根回しもしたし。これで一先ずは安泰ですかねぇ、と。彼女はにんまりと笑った。


「殿に挨拶を済ませたら行って来ます。戻って来るのは数日後になると思います」
「はい。分かってます。行ってらっしゃい、シャッツ」
 穂積 智里(ka6819)と赤子に見送られ、自宅を出たハンス・ラインフェルト(ka6750)。
 ――旅装束を整えた彼が向かったのは、詩天の軍師を勤める水野 武徳の屋敷だ。
 彼と、その妻である智里は数年前から詩天に移住している。
 智里は違うが――ハンスは依頼での縁もあり、武徳の家臣となっていた。
 とはいえ、表向きはあくまでもハンターで、武徳の家臣であることは漏らしていない。
 偵察などを担う関係上、公平な立場である『ハンター』としておいた方が何かと都合が良いのだ。
 詩天、南征、北征に絡めた依頼で動き、そこから得た情報を武徳へと伝えている。
 今日は亥子の賀儀を見に、天ノ都へと向かうのだ。
 もちろん、ただ見るだけではない。公家と武家、あとスメラギの動きを探らねばならない。
 そして、帝が推し進める政治改革についての動向も……。
 ――共和制、か。それに一番不要なのは帝という存在だろうに。
 そこまで考えたハンス。主の部屋の前に膝をつき、頭を垂れる。
「殿、ハンスです。出発の前にご挨拶に馳せ参じました」
「――うむ。入れ」

「さて、私も出かけましょうか……」
 夫を見送った後、智里はいそいそと準備を始める。
 彼女の今日の予定は、黒狗城から外出する九代目詩天の護衛だ。
 詩天は近隣諸国との同盟を結んでいることから、かつてない程の平和な日々が続いている。
 時折歪虚が出ることがあるが、ごく小規模で智里達で十分対処できる程度だった。
 その為、護衛は要らないと真美自身に言われたのだが、それはそれ、これはこれだ。
 真美の大事な御身に何かあってからでは遅いのだ。
 ――智里はかつて依頼を受けた時に『詩天をよくしていく』という誓いを立てた。
 今の詩天は、なかなか悪くはないように思う。
 もっともっとよくなるように、真美様とこの国を支えて行かねば……。
 ふっと頬を緩める智里。
 見上げた詩天の空は、どこまでも青かった。

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参加者一覧

  • 母親の懐
    時音 巴(ka0036
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

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アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
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2019/10/19 23:50:43
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/10/23 12:32:12