ゲスト
(ka0000)
自由都市同盟のおすすめは?
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/10/30 07:30
- 完成日
- 2019/11/10 02:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟の港湾都市ポルトワールには、海軍の本部がある。
基地での所用を済ませたメリンダ・ドナーティ(kz0041)は、通りに出たところで、自分を呼ぶ声に気づいて振り向いた。
「アスタリスク大尉(kz0234)! まあ、戻っていらっしゃったんですか」
「はい。つい昨日です」
赤毛の男は人好きのする笑顔を浮かべる。
元はリアルブルーの月面基地、崑崙の防衛隊に所属する軍人で、強化人間。
その後、クリムゾンウェストで覚醒者となり、同盟軍の覚醒者部隊ヴォルペ・ヴィオラ(菫狐隊)の初代隊長職を経て、最終決戦に際して崑崙基地へ派遣される……という、少々複雑な経緯を経た人物である。
「今回クリムゾンウェストに戻されたついでに、正式に帰還することになりました」
「それはお疲れさまでした」
メリンダは、短い言葉に万感の想いを籠める。
戦いに翻弄され続けたであろう相手へ、かけるべき言葉が見つからないからだ。
「それで、ヴォルペ・ヴィオラに復帰されるんですか?」
「その予定だと聞いています」
「それは……」
メリンダが肩を震わせて笑い出し、アスタリスクは怪訝な表情になる。
「いえ、ごめんなさい。隊員の皆さんはきっと喜ばれると思いますわ」
「だといいのですが」
覚醒者部隊と言えば聞こえはいいが、実際は腕に自信はあれどハンターにはなじまないという札付きの寄せ集め。
隊長職を代理で勤める人物は冷徹な切れ者と呼び声高い若手将校であり、彼と上手くやっているとはお世辞にも言えない連中だ。
いかにも生真面目なアスタリスクが、荒くれどもの手綱はしっかり捌いていたのが不思議なほどだったのだ。
「まあそれで、復帰の前に、少し休暇を貰えることになりまして。まずはポルトワールへ来てみたんですよ」
来てみたものの、何をする予定もなし。
なんとなく海軍の基地でも見てみようかと足を向けたところで、顔見知りのメリンダを見かけたという訳だ。
「そうだ、ドナーティ中尉。相談に乗ってもらえませんか?」
「相談ですか?」
「ええ。この機会に、クリムゾンウェストのことをもう少し知っておきたくて。とはいえ、惑星中を回っているほどの時間はないので……」
アスタリスクの表情が少し改まる。
「せめて同盟で、ここは是非見ておいた方がいい場所、などというのを教えていただけたら助かります」
「そうですね……今は郷祭の時期ですし、ジェオルジをお勧めしたいのですけど」
メリンダが考え込み、困ったように首を傾げる。
「私の故郷ですので、ひいき目になってしまうかも。……そうだわ!」
メリンダはアスタリスクを、ポルトワールの市街地へと誘った。
●
「で、なんで私まで引っ張り出されるんだ?」
ポルトワールでもひと際賑やかな通りのひとつにある、『金色のカモメ亭』でヴァネッサ(kz0030)が頬杖をついて唸る。
「ポルトワールに詳しい人もいたほうがいいかなって思ったからよ」
テーブルを挟んだ向かい側で、メリンダはにっこり笑った。
その隣には、お行儀よくアスタリスクが座っている。
近づいてきた店主のジャン=マリア・オネスティが、どんとテーブルにジョッキを置いた。
「まあまあ、いいじゃないの。アタシとしては常連が増えるのは大歓迎よ!」
ジャンは三十前のがっしりした体格の男で、派手なエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしておリボンを結んでいるといういで立ちだが、これでもメリンダの士官学校の先輩で、元は優秀な軍人だった。……らしい。
「それにこのヒト、アタシの店で前に暴れた連中を仕切ってるらしいし。知り合いになっておいて損はないんじゃない?」
「……何をやったんですか、彼らは」
アスタリスクの顔が、若干ひきつる。
「あらやだ、気にしないで! 今はいいお客様よ~」
おほほと笑いながら、ジャンが引っ込んでいく。
ヴァネッサはやれやれというように、ジョッキを持ち上げた。
「まあいいか。この一杯はメリンダのおごりってことで。それで? 何を聞きたいんだ?」
「同盟のことをもっとよく知りたいのです。貴女はポルトワールのことをよくご存じだと聞きました」
「へえ……?」
ヴァネッサが意味ありげにアスタリスクの、そしてメリンダの顔を眺める。
「でも私の案内だと、あんたには面白くない話ばかりになるだろうけどね。そうだ、ここの連中にそれぞれ聞いて見たらどうだい?」
ヴァネッサは笑いながら軽く手を振り、店にいる人々を促したのだった。
同盟の港湾都市ポルトワールには、海軍の本部がある。
基地での所用を済ませたメリンダ・ドナーティ(kz0041)は、通りに出たところで、自分を呼ぶ声に気づいて振り向いた。
「アスタリスク大尉(kz0234)! まあ、戻っていらっしゃったんですか」
「はい。つい昨日です」
赤毛の男は人好きのする笑顔を浮かべる。
元はリアルブルーの月面基地、崑崙の防衛隊に所属する軍人で、強化人間。
その後、クリムゾンウェストで覚醒者となり、同盟軍の覚醒者部隊ヴォルペ・ヴィオラ(菫狐隊)の初代隊長職を経て、最終決戦に際して崑崙基地へ派遣される……という、少々複雑な経緯を経た人物である。
「今回クリムゾンウェストに戻されたついでに、正式に帰還することになりました」
「それはお疲れさまでした」
メリンダは、短い言葉に万感の想いを籠める。
戦いに翻弄され続けたであろう相手へ、かけるべき言葉が見つからないからだ。
「それで、ヴォルペ・ヴィオラに復帰されるんですか?」
「その予定だと聞いています」
「それは……」
メリンダが肩を震わせて笑い出し、アスタリスクは怪訝な表情になる。
「いえ、ごめんなさい。隊員の皆さんはきっと喜ばれると思いますわ」
「だといいのですが」
覚醒者部隊と言えば聞こえはいいが、実際は腕に自信はあれどハンターにはなじまないという札付きの寄せ集め。
隊長職を代理で勤める人物は冷徹な切れ者と呼び声高い若手将校であり、彼と上手くやっているとはお世辞にも言えない連中だ。
いかにも生真面目なアスタリスクが、荒くれどもの手綱はしっかり捌いていたのが不思議なほどだったのだ。
「まあそれで、復帰の前に、少し休暇を貰えることになりまして。まずはポルトワールへ来てみたんですよ」
来てみたものの、何をする予定もなし。
なんとなく海軍の基地でも見てみようかと足を向けたところで、顔見知りのメリンダを見かけたという訳だ。
「そうだ、ドナーティ中尉。相談に乗ってもらえませんか?」
「相談ですか?」
「ええ。この機会に、クリムゾンウェストのことをもう少し知っておきたくて。とはいえ、惑星中を回っているほどの時間はないので……」
アスタリスクの表情が少し改まる。
「せめて同盟で、ここは是非見ておいた方がいい場所、などというのを教えていただけたら助かります」
「そうですね……今は郷祭の時期ですし、ジェオルジをお勧めしたいのですけど」
メリンダが考え込み、困ったように首を傾げる。
「私の故郷ですので、ひいき目になってしまうかも。……そうだわ!」
メリンダはアスタリスクを、ポルトワールの市街地へと誘った。
●
「で、なんで私まで引っ張り出されるんだ?」
ポルトワールでもひと際賑やかな通りのひとつにある、『金色のカモメ亭』でヴァネッサ(kz0030)が頬杖をついて唸る。
「ポルトワールに詳しい人もいたほうがいいかなって思ったからよ」
テーブルを挟んだ向かい側で、メリンダはにっこり笑った。
その隣には、お行儀よくアスタリスクが座っている。
近づいてきた店主のジャン=マリア・オネスティが、どんとテーブルにジョッキを置いた。
「まあまあ、いいじゃないの。アタシとしては常連が増えるのは大歓迎よ!」
ジャンは三十前のがっしりした体格の男で、派手なエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしておリボンを結んでいるといういで立ちだが、これでもメリンダの士官学校の先輩で、元は優秀な軍人だった。……らしい。
「それにこのヒト、アタシの店で前に暴れた連中を仕切ってるらしいし。知り合いになっておいて損はないんじゃない?」
「……何をやったんですか、彼らは」
アスタリスクの顔が、若干ひきつる。
「あらやだ、気にしないで! 今はいいお客様よ~」
おほほと笑いながら、ジャンが引っ込んでいく。
ヴァネッサはやれやれというように、ジョッキを持ち上げた。
「まあいいか。この一杯はメリンダのおごりってことで。それで? 何を聞きたいんだ?」
「同盟のことをもっとよく知りたいのです。貴女はポルトワールのことをよくご存じだと聞きました」
「へえ……?」
ヴァネッサが意味ありげにアスタリスクの、そしてメリンダの顔を眺める。
「でも私の案内だと、あんたには面白くない話ばかりになるだろうけどね。そうだ、ここの連中にそれぞれ聞いて見たらどうだい?」
ヴァネッサは笑いながら軽く手を振り、店にいる人々を促したのだった。
リプレイ本文
●
その場にいた面々が、互いの顔を見合わせる。
ヴァネッサはジョッキを上げて見せた。
「何か一言言ってやりたいって顔をしてるからね。当たりだろう?」
「そう来なくちゃな」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は口をはさむタイミングを計っていたので、早々に席を移ってくる。
元々ヴァネッサらしき姿を見かけて店に立ち寄ったのだから、目的は明確だ。
しっかり隣の席を確保し、馴れ馴れしさと親しみの絶妙にブレンドされた笑顔を見せた。
声を掛けようと糸口を探っていたのは、ヴァージルだけではなかった。
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が軽く手を振り、アスタリスクに微笑みかける。
「アスタリスクさん、戻って来たんだ。皆、喜ぶね。もう、会ったの?」
「スカルラッティさん! お久しぶりです。いえ、休暇が終わってから改めて、と思いまして」
アスタリスクは頭をかいた。
「勝手ばかりしていて、信用も何もないんじゃないかと」
「そんなことないんじゃないかな。とにかく、私は歓迎するよ」
マチルダは隣のテーブルを近づけて、アスタリスクの隣に少し間を開けて座る。
「同盟を知りたい、か。そんな話を聞いちゃ黙ってられねえからな」
ジャック・エルギン(ka1522)がヴァネッサを挟んでヴァージルの反対側の席に座った。
「任せろ。ハンター随一の同盟好きを自称する俺が相談に乗ってやるぜ」
同じテーブルに、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は自分の食べていた料理を乗せたトレイを抱えて移動してくる。
「おまかせください! ニンジャの情報力を駆使して、おすすめポイントをバーンと教えちゃいますよ!」
そして取り出したのは、『金色のカモメ亭』のメニュー表。
「まずはこのお店のおすすめメニューから! ポルトワールといえば新鮮な海の幸! 今まで私が色々食べた美味しい物の場所をお教えしちゃいますね」
「あらやだ~うちの店でお腹いっぱい食べて行ってよね」
ジャンがジョッキを運んできて、ウィンクする。
「もちろんです! 色々見て回るならっていうことですよ!」
そこで店の扉が開く。
「ジャンさんお久しぶりー。何か美味しい物食べたくなって遊びに来……」
宵待 サクラ(ka5561)が元気よく飛び込んでくると、何やらみっちり人が詰まっている一角に気づく。
「え。あれ? メリンダさんもいるじゃん!? え、また蛸討伐? しまったー、メリンダさんの触手プレイ見逃したー」
「待って! すごい誤解与えてますから!!」
メリンダが、笑顔の固まったアスタリスクの腕を掴んで揺すった。
帽子のつばの陰で笑いをかみ殺しながら、トリプルJ(ka6653)がぽんとアスタリスクの肩を叩く。
「よぅ、大尉。珍しいな、こっちで会うとは思わなかったぜ」
「色々とありまして。これからは此方でお世話になります」
見知った顔に声を掛けられ、アスタリスクの表情にも儀礼を越えた笑みが浮かんでいた。
●
ジャンが大皿を運んでくると、トリプルJが声をかけた。
「元軍人のやってる飯の旨い店、と聞いてな。楽しみにしていたんだ」
「あら~光栄ね。でもアタシにとって軍隊は黒歴史よん?」
からからと笑いながら、大男は厨房とテーブルをひらひらと往復する。
「ではまずは乾杯から始めますよ! かんぱ~い!」
ルンルンに促されるまま、それぞれの飲み物の器を掲げる一同。
そして料理に取り掛かる。
「これは、タコのアヒージョですね! 歪虚がいなくなったので、ゆっくり漁ができるようになったみたいですよ」
メリンダがぼそりと呟く。
「でも歪虚になりたてだと美味しいんですよね……」
「え?」
アスタリスク、ドン引きである。
ルンルンが別の料理を示した。
「タコだけじゃないですよ。市場だといろんな新鮮な海の幸が手に入りますし、眺めてるだけでも楽しいですよ」
「市場ですか。それは面白そうだ」
「同盟は色んな都市があって、地域色が濃いから、行く先々で町の雰囲気や人の感じも変わるかな」
マチルダは、ポルトワール以外の都市のことにも触れる。
「私も同盟出身だけど、ハンターになって他の地方に行くようになって、やっぱり同盟は自由で生き生きした雰囲気があるなあと思ったよ」
「しかし同盟の見所だあ? そりゃサリムにでも聞いた方が、ハンターよりも色んな場所を知っていそうだぜ」
ヴァージルがアスタリスクの部下の名前を挙げた。
「だいたい、観光向けの綺麗な表の顔を見たいか、実際に暮らす人間の生活を知りたいかによるがな」
ちらりとヴァネッサの表情を盗み見る。
顔色一つ変えずにジョッキをあおっているが、おそらく「面白くないだろう」とは、そこを指しているのは間違いないだろう。
ジャックもまたそれに気づいている。そしてアスタリスクの言わんとしていることも。
「そこも併せて、見たいってことじゃないのか?」
「私も見ていい? あんまり同盟のことは詳しくないから、教えてほしいかなぁ。あ、でもジェオルジならちょこっと行ったなぁ」
サクラは王国の事情には詳しいが、同盟の情報は地方のひとつ、ジェオルジに限られる。
「ペリニョン村の卵祭りは春だしなあ……あとカルドビーノ村のトマト祭りは確か9月……ちょっと時期が違ったね。タスカービレ村に行った時はまだ村興し中だったけど、温泉会館作って温泉街として売り出すって聞いたよ」
指折り数えながら、立ち寄った村の話をする。
「あとはバチャーレ村は品……ごほんごほん、農作業頑張りながらマニュス様っていう精霊を祀ってるけど、それはJさんの方が詳しいね」
「まあな。俺ぁ同盟じゃ殆どジェオルジ近郊で活動してたから、他はあんまり知らねぇからな」
トリプルJは火をつけていない紙煙草を弄び、両手の間で消したり出したりする手品を、無意識のうちに繰り返している。
「……郷祭中だし、祭り体験ならジェオルジじゃねぇ? 同盟の穀倉地帯だけあって、近隣の村から色々出店してるぜ」
「中尉もおすすめでしたね、ジェオルジは」
アスタリスクに言われ、メリンダが頷く。故郷の話題はやはり嬉しいものだ。
「ジェオルジの奥地にバチャーレっていう村がある。あそこにゃロッソからの移民が多いし、村長もRBの技術士官だった筈だ」
「そうなのですか?」
アスタリスクが目を丸くする。実際の移民の話を聞くのが初めてらしい。
「近くの山に、マニュス・ウィリディスって精霊がいて、山に詣でるとこのキアーラ石をくれる。自分で見つけたこの石を贈ると、贈られた相手が幸せになるって話があってな。そういう繋がりを大事にする気風を俺は気に入ってる」
トリプルJの手から煙草が消え、代わりに小さな貴石が現れた。
「……ってわけでこれは大尉のだ」
ウィンクをしてみせると、アスタリスクの掌に落とす。
「そんな貴重なものを」
「いや、大したもんじゃない。マニュス様が気が向けばくれるんでな」
「有難うございます。……綺麗ですね」
アスタリスクはハンカチを取り出し、丁寧に包んでポケットに戻した。
「方角は違うが、さっき話に出てきたタスカービレって村は、東方風の温泉で村興し中だ。村の名産は白茶とチクワ、ボーっと湯に浸かって休みたいならお勧めだ。青竜紅刃流って道場もある……道場破りするなら付き合うぜ」
「遠慮しておきましょう。軍から追い出されます」
「違いねぇ」
トリプルJは声をあげて笑った。
●
結局、まずは今いるポルトワールを見て回ることになった。
「皆のお話を聞いて回るのは面白そう。私も暇だからついていくね、いい?」
マチルダが尋ねると、アスタリスクはもちろん、と答えた。
「ではツアーに出発ですね!」
一瞬どこかへ消えたルンルンが戻ってくると、リアルブルーのニッポンでは「ガイドさん」と親しまれる、案内人風の服装になっていた。
同盟の小旗などを持って、意気揚々と先頭を歩いていく。
「はいこちらに見えますのが右手……ではなく、海軍本部です」
ジャックが更に詳しく説明を始める。
「ポルトワールにゃ軍、港湾、商業、一通りが揃ってるからな。まず軍人にゃ関係の深いこの街の中心、ここが行政区画だな」
通りは整然と整備されており、見通しが良い。
「それからこっちに戻ると、市街地中心部。露店からレストランまで、新鮮な海の幸を使った料理はちょっとしたもんだ。カモメ亭も美味いが飲食店街はだいたいハズレがねえぜ?」
一行は商業地域を抜けて、港の近くへ出る。
「私のお勧めは、やっぱり港かな」
マチルダが岸壁の護岸にひょいと飛び上がると、くるりと回った。隣にひらりと、ルンルンが飛びあがる。
「港、私も大好きです!」
秋の澄んだ青空を映す海は、穏やかだった。
「ほら、船が出ますよ! アスタリスクさんと乗った軍艦じゃないですけど!」
ルンルンが指さす方に、商船らしい大きな船があった。
「昼間もいいけど、私は夜明け前の港がお気に入り。軍艦もいいけど、私は漁にでた船が戻ってきて、カモメが騒ぐのも好き」
「素敵ですね。是非見てみたい」
アスタリスクは目を細めて、水平線に遠ざかる船を眺めていた。
その頃、ヴァネッサとヴァージルは『金色のカモメ亭』で相変わらず飲んでいた。
「ツアーに行かなくて良かったのか?」
ヴァネッサが特に感情のこもらない調子で呟いた。
「何、元々俺はヴァネッサが目的だ」
「ははっ、奢りにはありついておいて調子のいいことだ」
ヴァージルは普段の世慣れた様子とは少し違う口調で切り出した。
「実はなにか商売でも始めてみようかと思ってるのさ」
「へえ。それは意外だな」
ヴァネッサは相変わらずヴァージルを見ないまま、相槌を打つ。
「ハンターになる前は一所に留まらず、根なし草のように生きてきたんだが……。色々と伝手で、各種装備品をそれなりに入手してな、今後はこれを売り払って行こうかとな」
ヴァージルは飲み物をボトルで注文した。
「……お前さんが気に入らないのは、あの軍人の『観光気分』だろう?」
ヴァネッサは何も答えないが、ヴァージルは先を続ける。
「まともな仕事があれば、ダウンタウンもちょっとはマシになるんじゃないか?」
「それがあんたの店ってことか。見上げた慈善活動だな」
乾いた笑い声だった。店一軒ぐらいでどうなる、という気配が伝わる。
「いや、慈善事業なんてこれっぽっちも考えちゃいないさ。そもそも俺は裏方に徹して、誰かに店を任せたいと思っている。そこで、お前さんのアドバイスが欲しいんだ」
どんな店なら維持できるのか。どんな商売なら人は働くことができるのか。
かつてダウンタウンで見たように、貧困ゆえに道を誤る大人と、その大人を支えようとする子供を、ひとりでも救いたい。
下心はあれど、それも本心だ。
「それに、店をお前さんの隠れ家として利用してくれてもいいんだ」
運ばれてきた飲み物を、ヴァネッサのグラスに注ぐ。
「本来は腰を落ち着けるのは性に合ってないんだが。これからもお前を見ていたいからな。もう少し付き合わせてもらうぜ」
「……とりあえず、このボトルが空くまでは付き合うさ」
やっとヴァネッサが、ヴァージルへ顔を向けた。半ば呆れ、半ば面白がる微笑みを浮かべて。
アスタリスク一行は、港から移動している。
ジャックは湿った匂いの立ち込める路地へ皆を導いていく。
「そんで最後は……楽しいって場所じゃねえが、ダウンタウンだ」
ルンルンもガイドの扮装を解いてついていく。遊び半分で歩き回る場所ではないことは、よくわかっているからだ。
「毎日どこかで大なり小なり、揉め事や犯罪が起きる危ねえ場所だ。ただ、ここに流れてくる住人にだって理由や事情はあるんだ」
アスタリスクは用心深く、辺りを見回した。
「商売第一の同盟の方針が、貧富の差ってのを生んでる面もある」
「ヴァネッサさんのおっしゃっていた『面白くない』ことですね」
メリンダが遠慮がちに口を挟んだ。
「ヴァネッサはダウンタウンの治安維持に貢献してくれています。軍にもわかっている人は多いのですが、どうしても避けられない対立もあります」
政治を担う評議会と、軍と、商人。各都市の力関係。都市内での勢力争い。
これまでは歪虚との闘いに生き残ることが優先されてきたが、今後はまた別の戦いが生じるだろう。
「その結果、犠牲になるのは結局、子供だ」
ジャックは、かつて自分が参加した依頼について語る。
親を歪虚との戦いで失った子供は、寂しさを忘れるために歪虚に取り込まれ、ついに自分もまた歪虚となってしまったという。
「あんな境遇の子供は、もう増やしたくねえ。俺も同盟の住人として、そのためなら協力は惜しまねえぜ」
握った拳の強さに、ジャックの決意が現れていた。
●
暗い海の彼方が、ほんのりと白くなる。空には明けの明星がまだ残っていた。
「夜明けだね。私の大好きな眺めだよ」
マチルダが囁いた。
一同はポルトワールを見て回った後に店に戻り、お腹を満たして、夜明けの港に繰り出したのだ。
トリプルJとサクラは、南海にある島の方向を眺め、思い出と未来を語り合う。
やがて夜明けの空は虹色に輝いたかと思うと、薄桃色、金色と、刻々と色を変えていく。
黒一色だった波も、キラキラと輝いている。
その一方で、港は騒がしくなっていた。漁から戻る船の明かりが見えたのだ。
人が騒ぐ声よりも騒がしく、分け前を狙うカモメが鳴き騒ぐ。
「この空気を感じると、なんだか気持ちよく一日が始まるし、ここの美味しいご飯も、同盟の海と山の幸の御蔭と思うとねえ」
「素晴らしい眺めですね」
アスタリスクが誰にともなく語る。
「人が暮らす場所には、美しいところも醜いところもあるはずです。それを含めて、自分が『誰のために』働くのか、知りたいと思ったのです」
そこで言葉を切り、ひとつ息を吐く。
「この雰囲気を知ることができてよかったです。賑やかで、穏やかで、美しい」
「でもまだ、ポルトワールだけですよ! 同盟、もっともっと楽しい所有るので、またの機会があったら見て回ってくださいね」
ルンルンは朝日を受けて輝くような笑顔を見せる。
「あ、このままジェオルジの郷祭も行っちゃうのはどうですか? きっと楽しいですよ。美味しいものもたくさんあります!」
それからくるりとメリンダを振り向く。
「それぐらいの休暇、軍人さんって無理ですか?」
「大丈夫だと思いますよ。後で大尉がたくさん働かないといけなくなるかもしれませんが。ところで……」
メリンダがアスタリスクの横顔を見上げる。
「折角ですから、本当のお名前になさいませんか?」
「え?」
「復帰後のお名前です。……コードネームでしょう?」
アスタリスクは虚を突かれたような表情になり、それからゆっくりと口を開いた。
「私の名前は……」
朝の光、波の音が辺りを満たす。
新しい一日の始まりだった。
<了>
その場にいた面々が、互いの顔を見合わせる。
ヴァネッサはジョッキを上げて見せた。
「何か一言言ってやりたいって顔をしてるからね。当たりだろう?」
「そう来なくちゃな」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は口をはさむタイミングを計っていたので、早々に席を移ってくる。
元々ヴァネッサらしき姿を見かけて店に立ち寄ったのだから、目的は明確だ。
しっかり隣の席を確保し、馴れ馴れしさと親しみの絶妙にブレンドされた笑顔を見せた。
声を掛けようと糸口を探っていたのは、ヴァージルだけではなかった。
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が軽く手を振り、アスタリスクに微笑みかける。
「アスタリスクさん、戻って来たんだ。皆、喜ぶね。もう、会ったの?」
「スカルラッティさん! お久しぶりです。いえ、休暇が終わってから改めて、と思いまして」
アスタリスクは頭をかいた。
「勝手ばかりしていて、信用も何もないんじゃないかと」
「そんなことないんじゃないかな。とにかく、私は歓迎するよ」
マチルダは隣のテーブルを近づけて、アスタリスクの隣に少し間を開けて座る。
「同盟を知りたい、か。そんな話を聞いちゃ黙ってられねえからな」
ジャック・エルギン(ka1522)がヴァネッサを挟んでヴァージルの反対側の席に座った。
「任せろ。ハンター随一の同盟好きを自称する俺が相談に乗ってやるぜ」
同じテーブルに、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は自分の食べていた料理を乗せたトレイを抱えて移動してくる。
「おまかせください! ニンジャの情報力を駆使して、おすすめポイントをバーンと教えちゃいますよ!」
そして取り出したのは、『金色のカモメ亭』のメニュー表。
「まずはこのお店のおすすめメニューから! ポルトワールといえば新鮮な海の幸! 今まで私が色々食べた美味しい物の場所をお教えしちゃいますね」
「あらやだ~うちの店でお腹いっぱい食べて行ってよね」
ジャンがジョッキを運んできて、ウィンクする。
「もちろんです! 色々見て回るならっていうことですよ!」
そこで店の扉が開く。
「ジャンさんお久しぶりー。何か美味しい物食べたくなって遊びに来……」
宵待 サクラ(ka5561)が元気よく飛び込んでくると、何やらみっちり人が詰まっている一角に気づく。
「え。あれ? メリンダさんもいるじゃん!? え、また蛸討伐? しまったー、メリンダさんの触手プレイ見逃したー」
「待って! すごい誤解与えてますから!!」
メリンダが、笑顔の固まったアスタリスクの腕を掴んで揺すった。
帽子のつばの陰で笑いをかみ殺しながら、トリプルJ(ka6653)がぽんとアスタリスクの肩を叩く。
「よぅ、大尉。珍しいな、こっちで会うとは思わなかったぜ」
「色々とありまして。これからは此方でお世話になります」
見知った顔に声を掛けられ、アスタリスクの表情にも儀礼を越えた笑みが浮かんでいた。
●
ジャンが大皿を運んでくると、トリプルJが声をかけた。
「元軍人のやってる飯の旨い店、と聞いてな。楽しみにしていたんだ」
「あら~光栄ね。でもアタシにとって軍隊は黒歴史よん?」
からからと笑いながら、大男は厨房とテーブルをひらひらと往復する。
「ではまずは乾杯から始めますよ! かんぱ~い!」
ルンルンに促されるまま、それぞれの飲み物の器を掲げる一同。
そして料理に取り掛かる。
「これは、タコのアヒージョですね! 歪虚がいなくなったので、ゆっくり漁ができるようになったみたいですよ」
メリンダがぼそりと呟く。
「でも歪虚になりたてだと美味しいんですよね……」
「え?」
アスタリスク、ドン引きである。
ルンルンが別の料理を示した。
「タコだけじゃないですよ。市場だといろんな新鮮な海の幸が手に入りますし、眺めてるだけでも楽しいですよ」
「市場ですか。それは面白そうだ」
「同盟は色んな都市があって、地域色が濃いから、行く先々で町の雰囲気や人の感じも変わるかな」
マチルダは、ポルトワール以外の都市のことにも触れる。
「私も同盟出身だけど、ハンターになって他の地方に行くようになって、やっぱり同盟は自由で生き生きした雰囲気があるなあと思ったよ」
「しかし同盟の見所だあ? そりゃサリムにでも聞いた方が、ハンターよりも色んな場所を知っていそうだぜ」
ヴァージルがアスタリスクの部下の名前を挙げた。
「だいたい、観光向けの綺麗な表の顔を見たいか、実際に暮らす人間の生活を知りたいかによるがな」
ちらりとヴァネッサの表情を盗み見る。
顔色一つ変えずにジョッキをあおっているが、おそらく「面白くないだろう」とは、そこを指しているのは間違いないだろう。
ジャックもまたそれに気づいている。そしてアスタリスクの言わんとしていることも。
「そこも併せて、見たいってことじゃないのか?」
「私も見ていい? あんまり同盟のことは詳しくないから、教えてほしいかなぁ。あ、でもジェオルジならちょこっと行ったなぁ」
サクラは王国の事情には詳しいが、同盟の情報は地方のひとつ、ジェオルジに限られる。
「ペリニョン村の卵祭りは春だしなあ……あとカルドビーノ村のトマト祭りは確か9月……ちょっと時期が違ったね。タスカービレ村に行った時はまだ村興し中だったけど、温泉会館作って温泉街として売り出すって聞いたよ」
指折り数えながら、立ち寄った村の話をする。
「あとはバチャーレ村は品……ごほんごほん、農作業頑張りながらマニュス様っていう精霊を祀ってるけど、それはJさんの方が詳しいね」
「まあな。俺ぁ同盟じゃ殆どジェオルジ近郊で活動してたから、他はあんまり知らねぇからな」
トリプルJは火をつけていない紙煙草を弄び、両手の間で消したり出したりする手品を、無意識のうちに繰り返している。
「……郷祭中だし、祭り体験ならジェオルジじゃねぇ? 同盟の穀倉地帯だけあって、近隣の村から色々出店してるぜ」
「中尉もおすすめでしたね、ジェオルジは」
アスタリスクに言われ、メリンダが頷く。故郷の話題はやはり嬉しいものだ。
「ジェオルジの奥地にバチャーレっていう村がある。あそこにゃロッソからの移民が多いし、村長もRBの技術士官だった筈だ」
「そうなのですか?」
アスタリスクが目を丸くする。実際の移民の話を聞くのが初めてらしい。
「近くの山に、マニュス・ウィリディスって精霊がいて、山に詣でるとこのキアーラ石をくれる。自分で見つけたこの石を贈ると、贈られた相手が幸せになるって話があってな。そういう繋がりを大事にする気風を俺は気に入ってる」
トリプルJの手から煙草が消え、代わりに小さな貴石が現れた。
「……ってわけでこれは大尉のだ」
ウィンクをしてみせると、アスタリスクの掌に落とす。
「そんな貴重なものを」
「いや、大したもんじゃない。マニュス様が気が向けばくれるんでな」
「有難うございます。……綺麗ですね」
アスタリスクはハンカチを取り出し、丁寧に包んでポケットに戻した。
「方角は違うが、さっき話に出てきたタスカービレって村は、東方風の温泉で村興し中だ。村の名産は白茶とチクワ、ボーっと湯に浸かって休みたいならお勧めだ。青竜紅刃流って道場もある……道場破りするなら付き合うぜ」
「遠慮しておきましょう。軍から追い出されます」
「違いねぇ」
トリプルJは声をあげて笑った。
●
結局、まずは今いるポルトワールを見て回ることになった。
「皆のお話を聞いて回るのは面白そう。私も暇だからついていくね、いい?」
マチルダが尋ねると、アスタリスクはもちろん、と答えた。
「ではツアーに出発ですね!」
一瞬どこかへ消えたルンルンが戻ってくると、リアルブルーのニッポンでは「ガイドさん」と親しまれる、案内人風の服装になっていた。
同盟の小旗などを持って、意気揚々と先頭を歩いていく。
「はいこちらに見えますのが右手……ではなく、海軍本部です」
ジャックが更に詳しく説明を始める。
「ポルトワールにゃ軍、港湾、商業、一通りが揃ってるからな。まず軍人にゃ関係の深いこの街の中心、ここが行政区画だな」
通りは整然と整備されており、見通しが良い。
「それからこっちに戻ると、市街地中心部。露店からレストランまで、新鮮な海の幸を使った料理はちょっとしたもんだ。カモメ亭も美味いが飲食店街はだいたいハズレがねえぜ?」
一行は商業地域を抜けて、港の近くへ出る。
「私のお勧めは、やっぱり港かな」
マチルダが岸壁の護岸にひょいと飛び上がると、くるりと回った。隣にひらりと、ルンルンが飛びあがる。
「港、私も大好きです!」
秋の澄んだ青空を映す海は、穏やかだった。
「ほら、船が出ますよ! アスタリスクさんと乗った軍艦じゃないですけど!」
ルンルンが指さす方に、商船らしい大きな船があった。
「昼間もいいけど、私は夜明け前の港がお気に入り。軍艦もいいけど、私は漁にでた船が戻ってきて、カモメが騒ぐのも好き」
「素敵ですね。是非見てみたい」
アスタリスクは目を細めて、水平線に遠ざかる船を眺めていた。
その頃、ヴァネッサとヴァージルは『金色のカモメ亭』で相変わらず飲んでいた。
「ツアーに行かなくて良かったのか?」
ヴァネッサが特に感情のこもらない調子で呟いた。
「何、元々俺はヴァネッサが目的だ」
「ははっ、奢りにはありついておいて調子のいいことだ」
ヴァージルは普段の世慣れた様子とは少し違う口調で切り出した。
「実はなにか商売でも始めてみようかと思ってるのさ」
「へえ。それは意外だな」
ヴァネッサは相変わらずヴァージルを見ないまま、相槌を打つ。
「ハンターになる前は一所に留まらず、根なし草のように生きてきたんだが……。色々と伝手で、各種装備品をそれなりに入手してな、今後はこれを売り払って行こうかとな」
ヴァージルは飲み物をボトルで注文した。
「……お前さんが気に入らないのは、あの軍人の『観光気分』だろう?」
ヴァネッサは何も答えないが、ヴァージルは先を続ける。
「まともな仕事があれば、ダウンタウンもちょっとはマシになるんじゃないか?」
「それがあんたの店ってことか。見上げた慈善活動だな」
乾いた笑い声だった。店一軒ぐらいでどうなる、という気配が伝わる。
「いや、慈善事業なんてこれっぽっちも考えちゃいないさ。そもそも俺は裏方に徹して、誰かに店を任せたいと思っている。そこで、お前さんのアドバイスが欲しいんだ」
どんな店なら維持できるのか。どんな商売なら人は働くことができるのか。
かつてダウンタウンで見たように、貧困ゆえに道を誤る大人と、その大人を支えようとする子供を、ひとりでも救いたい。
下心はあれど、それも本心だ。
「それに、店をお前さんの隠れ家として利用してくれてもいいんだ」
運ばれてきた飲み物を、ヴァネッサのグラスに注ぐ。
「本来は腰を落ち着けるのは性に合ってないんだが。これからもお前を見ていたいからな。もう少し付き合わせてもらうぜ」
「……とりあえず、このボトルが空くまでは付き合うさ」
やっとヴァネッサが、ヴァージルへ顔を向けた。半ば呆れ、半ば面白がる微笑みを浮かべて。
アスタリスク一行は、港から移動している。
ジャックは湿った匂いの立ち込める路地へ皆を導いていく。
「そんで最後は……楽しいって場所じゃねえが、ダウンタウンだ」
ルンルンもガイドの扮装を解いてついていく。遊び半分で歩き回る場所ではないことは、よくわかっているからだ。
「毎日どこかで大なり小なり、揉め事や犯罪が起きる危ねえ場所だ。ただ、ここに流れてくる住人にだって理由や事情はあるんだ」
アスタリスクは用心深く、辺りを見回した。
「商売第一の同盟の方針が、貧富の差ってのを生んでる面もある」
「ヴァネッサさんのおっしゃっていた『面白くない』ことですね」
メリンダが遠慮がちに口を挟んだ。
「ヴァネッサはダウンタウンの治安維持に貢献してくれています。軍にもわかっている人は多いのですが、どうしても避けられない対立もあります」
政治を担う評議会と、軍と、商人。各都市の力関係。都市内での勢力争い。
これまでは歪虚との闘いに生き残ることが優先されてきたが、今後はまた別の戦いが生じるだろう。
「その結果、犠牲になるのは結局、子供だ」
ジャックは、かつて自分が参加した依頼について語る。
親を歪虚との戦いで失った子供は、寂しさを忘れるために歪虚に取り込まれ、ついに自分もまた歪虚となってしまったという。
「あんな境遇の子供は、もう増やしたくねえ。俺も同盟の住人として、そのためなら協力は惜しまねえぜ」
握った拳の強さに、ジャックの決意が現れていた。
●
暗い海の彼方が、ほんのりと白くなる。空には明けの明星がまだ残っていた。
「夜明けだね。私の大好きな眺めだよ」
マチルダが囁いた。
一同はポルトワールを見て回った後に店に戻り、お腹を満たして、夜明けの港に繰り出したのだ。
トリプルJとサクラは、南海にある島の方向を眺め、思い出と未来を語り合う。
やがて夜明けの空は虹色に輝いたかと思うと、薄桃色、金色と、刻々と色を変えていく。
黒一色だった波も、キラキラと輝いている。
その一方で、港は騒がしくなっていた。漁から戻る船の明かりが見えたのだ。
人が騒ぐ声よりも騒がしく、分け前を狙うカモメが鳴き騒ぐ。
「この空気を感じると、なんだか気持ちよく一日が始まるし、ここの美味しいご飯も、同盟の海と山の幸の御蔭と思うとねえ」
「素晴らしい眺めですね」
アスタリスクが誰にともなく語る。
「人が暮らす場所には、美しいところも醜いところもあるはずです。それを含めて、自分が『誰のために』働くのか、知りたいと思ったのです」
そこで言葉を切り、ひとつ息を吐く。
「この雰囲気を知ることができてよかったです。賑やかで、穏やかで、美しい」
「でもまだ、ポルトワールだけですよ! 同盟、もっともっと楽しい所有るので、またの機会があったら見て回ってくださいね」
ルンルンは朝日を受けて輝くような笑顔を見せる。
「あ、このままジェオルジの郷祭も行っちゃうのはどうですか? きっと楽しいですよ。美味しいものもたくさんあります!」
それからくるりとメリンダを振り向く。
「それぐらいの休暇、軍人さんって無理ですか?」
「大丈夫だと思いますよ。後で大尉がたくさん働かないといけなくなるかもしれませんが。ところで……」
メリンダがアスタリスクの横顔を見上げる。
「折角ですから、本当のお名前になさいませんか?」
「え?」
「復帰後のお名前です。……コードネームでしょう?」
アスタリスクは虚を突かれたような表情になり、それからゆっくりと口を開いた。
「私の名前は……」
朝の光、波の音が辺りを満たす。
新しい一日の始まりだった。
<了>
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雑談卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/10/29 23:12:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/10/28 08:23:23 |