【未来】戻れない日常

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/11/01 15:00
完成日
2019/11/06 21:17

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 邪神討伐後、辺境は復興の道へと動き出している。

 討伐の暫し後、探索隊が辺境ドワーフを取りまとめるヨアキムの遺体が発見された。
 簡単に死ぬような漢ではないと言われていたヨアキムの死は辺境ドワーフ、本来彼が管理するドワーフ工房にも衝撃が走る。
 ヨアキムの娘であるカペラ、妻のリナンは暫くそれぞれの業務を休んでいた。

 カペラはヨアキムの娘として、彼の業務を受け継がねばならない。
 ドワーフ工房管理官の業務。
 代理でアルフェッカがやっていたのは、ヨアキムが好き勝手やっていて、事務仕事をしてなかったからだ。
 アルフェッカの本来の仕事は要塞都市の管理官の補佐役。
 とはいえ、数年はアルフェッカが工房管理官をやるが、最終的にはカペラがやることになる。
 そして、カペラは工房に復帰する為、久しぶりに要塞都市へ足を踏み入れた。

 市街地を歩いていると、治安部隊の見回りと遭遇する。
「あ、カペラさん」
 今日の班の中にクヤムという青年がいた。
 以前、フォニケに助けられて恋心に近い憧れを持っていたが、酔漢も黙らせるドワーフ工房のメンバーであったことを知るなり、ドン引き、仲の良い知人どまりで終わっているとか。
「お父様の件、ご冥福を申し上げます」
「ありがとう」
 律儀に告げるクヤムにカペラは微笑む。
「要塞都市に変わりはない? 工房の皆とも近況を聞いてないのよ」
「え、聞いてないっても、アルフェッカ様がフォニケさんに告白をしたって話くらいは……」
 他の兵士が呟くと、クヤムは妙に凹んだ顔をする。
「なにそれ! 聞いてない!!」
 急いでアルフェッカに事情を聞きださねばとカペラは別れの挨拶もそこそこに工房へと駆け出した。
 カペラの後姿を見送ったクヤムは先輩兵士へと少し恨みがましい視線を送る。
「僕がアルフェッカ様にフォニケさんの事、尋ねさせたのって、僕とアルフェッカ様をからかってたんですよね」
「さぁ、なんのことか。そら、行くぞ」
 何も知らない憧れを抱く新米兵士と、知っている者ならバレバレなまでにフォニケへ想いを寄せる要塞管理官補佐役の様子は悪趣味なまでに面白かったのだろう。

 バタバタと駆け出したカペラが向かうのは工房管理官の執務室。
 ノックもそこそこにカペラがドアを開けると、そこにはアルフェッカとフォニケが至近距離で顔を近づけていた。
「こんなに高い仕入れなんか承諾できるかぁ!」
「はぁ!? このスケジュールであの材料でやれってんの!? もっとむしり取ってきなさいよ!」
 ぎゃぁぎゃぁとスケジュールと金の事で騒ぐ二人。
 ドワーフ工房ではカペラもシェダルもやってきたことだ。
「恋人同士になったってのに変わらないわねー」
 ため息混じりのカペラの言葉に二人はぴたりと止まる。
「違うわよ!」
「これからだ!」
 フォニケとアルフェッカの威勢のいい声が第三者……カペラへ向けられるが、二人の動きは止まっていた。
 声に気づいた二人は入口の方を向く。
「カペラちゃん!」
 驚きと喜びが入り混じったフォニケとアルフェッカの声が重なる。
「ただーいま!」
 にっこりと笑うカペラは日常へと戻ってきた。

 辺境のトップの一角を担う事になったファリフは一つどころに留まらずに飛び回っていた。
 五日に一度は要塞都市郊外の町にいるので、用がある時はそこに持って行くのがいいと言われつつある。
 以前はならず者の集まりであった者達が整備した町は綺麗であり、要塞都市に近い暮らしをしていた。
 その技術は部族なき部族のリーダーであるテトが仕切っており、話を通せば金銭や食料等で取引をし、人員を派遣していた。
 現在は物分かりのいいものだけが行っているが、少しずつ彼らは変わってきている。
 機転が利き、気さくな態度で悪さもしない。
 まだ部族なき部族のメンバーの管理は必要なため、何かあれば彼らが応対する。
 少しずつ評判を呼び、日の当たらぬ生活をしていた彼等は少しずつ辺境の生活へと馴染んでいった。
 それは表向きな話であり、裏では歪虚の調査も行っている。

 町の一角では部族なき部族のメンバーが住まう集合住宅が出来上がりつつあった。
 部族なき部族は要塞都市にも住居があるので、先に整備するのは住民という方針をしている。
 住民は家を完成しており、最後に部族なき部族の家が建てられる。
 女性メンバーは集合住宅……シェアハウスに近い形式のものとなり、宿屋をリフォームしていた。
 三階建てで、風呂は一階と二階にあり、洗面所、トイレは各部屋にある。
 調理場は一つだが、とても広い。魔導冷蔵庫もある。
 個人の部屋も簡易調理場付き居間と寝室が隔てられている。
 ファリフの部屋もここにあるので、町に逗留中はそこにいるようだ。
 現在、ファリフは町におり、テトに近況を聞いていた。
「仕事は軌道に乗れそうだね」
「はいですにゃ。連中も大人しくなりましたにゃ」
 一時期はテトを認めない連中から喧嘩をふっかけられることもあったが、町の皆を呼び、我こそは強者であると思うもの全員と広場で喧嘩をしたらしい。
 彼等にとって、喧嘩は娯楽の一部でもある為、大いに盛り上がったという。
 テトは自身も大怪我を負いながらも喧嘩に勝ったのは言うまでもない。
 それからというもの町の者達も大人しくなり、テトの愛嬌の良さもあって、リーダーとして認めつつあるとか。
「そういや、カペラがドワーフ工房に復帰すると聞きましたにゃ」
「うん、そろそろ戻っているんじゃないかな」
 町を歩きつつ、二人は世間話をしていた。
「あ、そいや」
 ふと思い出すファリフにテトは首を傾げる。
「この町の名前ってあったっけ??」
「あー、それはですね……」
 二人の話し声は賑やかな町の音に紛れていった。

 一年後のあなたはどこで何をしてますか?

リプレイ本文


 この日、要塞都市ノアーラ・クンタウの運営を取り纏める管理官、ヴェルナーは要塞都市にはいなかった。
 ヴェルナーとの面会を望んだハンス・ラインフェルト(ka6750)だが、それは叶わなかった。
 ファリフもイェルズもいなかったが、今回の件は彼らが出来ることはハンスの要望の半分くらいでしかない。
 代理で話を聞いたのは補佐官のアルフェッカ。
「東方をいかにして東方足らしめるか。簡単に言えば、それは観測する他者の存在が必須であると私は考えます」
 そう告げるハンスにとって、東方の国の名が何故『エトファリカ』なのかという事に違和感を持ったという。
 エトファリカ連邦国は様々な都市が名を連ねている国。
 かの国の名づけはこの地の言葉と耳にした故に、ハンスは帝国、もしくは辺境に東方に関する学術的資料があるのではないかと予想をし、調査に乗り出そうと考えていた。
 ハンスはとある人物からの文をヴェルナーに渡すように託し、アルフェッカは早馬を走らせて上官である要塞管理官へ文を渡し、指示を仰いだ。
 早馬が帰ってくるまで時間がかかる為、ハンスは妻の穂積 智里(ka6819)と共に要塞都市に逗留していた。
 賑やかな要塞都市のメインストリートに面するカフェで二人はのんびりとお茶をする。
 気温が低くなってきて、温かい飲み物がより美味しく感じる時期だと智里は脳内の片隅で思うが、メインの思考はシャッツ……夫であるハンスのこと。
 シャッツは凝り性だ。
 凝り性ゆえに突き詰めていく。
 ハンスの今回の狙いはシルクロードを探し当てる事。
 リアルブルーにもあった一大交易路。クリムゾンウェストにもあるのではという考えがあるのだ。
 あるのかどうかは行ってみないと分からないのだ。
「どうかしましたか?」
 妻からの視線に最初から気づいていたが、ハンスはあえて尋ねてみた。
「今回の目的はよいことだと思いまして」
「智里さんにそう言ってもらえるのは嬉しい事です」
 穏やかに笑うハンスは少し温くなった茶を口に含む。
 斬った張ったという命を賭けるものよりずっと、智里の気の持ちように優しいのだ。


 エステル・ソル(ka3983)が毎朝、欠かさず捧ぐのは星への祈り。
 現在は部族なき部族のメンバーとし辺境に現れる歪虚の討伐をはじめ、各部族の顔出しをし、部族間での紛糾抑止等、辺境の調査をしている。
 現在、エステルの住居は要塞都市郊外の町で部族なき部族の女性メンバーが暮らす集合住宅に住んでいた。
 要塞都市郊外の町は一年足らずで随分と治安が変わり、大通りであれば子供達が気軽に遊べる程に。
 テトは町の者達と喧嘩しては回復させては打ち解けていった。エステルが贈った魔導ワイヤーをドワーフ工房で改造し、愛用の武器になっている。
「エステルさん、お帰りなさい」
 大通りを歩いていると、ルックスとすれ違う。
「只今戻りました」
 ルックスは背が伸び、体格もしっかりとしてきた。ティアランのメンバーから戦闘訓練を受けており、更に強くなってきているが、彼に心の影がある。
 助言を口にしようとも何故か止めてしまい、エステルは首を傾げて住居に戻ろうと足を動き出すと、別の方向から先に住居へ向かっていく姿にエステルは気付く。

 部族なき部族はここ一年、二人の仲間を迎え入れた。
 一人はエステル。
 もう一人はアイラ(ka3941)。
 アイラが加入するという話を聞いたメンバーのリアクションは只一つ。
「え、入ってなかったの?」
 女性メンバーからは集合住宅にアイラの部屋も用意しているとまで言われる。
 ルックスに至っては「アイラさんは俺にとって先輩です!」とのこと。
 思い込みの恐ろしさを理解した。
 それだけ部族なき部族からの信頼が厚いのだろうという事でアイラは納得することにした。
 今は要塞都市郊外の町におり、町や部族なき部族を繋ぐ取り纏め役の一人でもある。
「カスケードさん、十日後の派遣のメンバーが決まったんだけど、テト君知らないかな」
 共用キッチンにいた花豹を本名で呼んだアイラはティアランから託された紙を持っていた。
「テト? リビングにいないかい?」
 そういえばまだ見てなかったと思い出してアイラはリビングの方へと向かう。
「きゃー! テトちゃーん! 帰りましたよーーー!」
 聞きなれた帰りの挨拶が聞こえたので、アイラはその方向へと行く。
 リビングでは南征帰りの星野 ハナ(ka5852)がテトをぬいぐるみかってくらいに抱きしめていた。
「お疲れ様ー」
 アイラがハナに声をかける。
「はい、戻りましたぁ。テトちゃんは最近は大丈夫ですか?」
「逆らってくる人もいなくなったよ」
「町の人たちが取り持ってくれるようになりましたのです」
 頷くアイラの言葉を引き継ぐようにエステルがハナの後ろからひょっこり出てくる。
「それはよかったです」
「ハナも長距離移動でお疲れ様なのにゃ」
 一年前はどこか蟠りを持っていたテトだが、今ではハナと仲良くなっている。
 現在のハナは北へ南、王国へと三ヶ月おきに飛び回る超多忙ハンターの一人であり、辺境に来るのは休暇だ。
「テトちゃんの所で休暇を取るのが楽しみなのですよぅ」
 整備された町は観光地に近い形式になっていき、生活も豊かになりつつある。
「あの、テトさん。先ほどルックスさんと会ったのですが、何かあったのでしょうか……」
 エステルの話に三人は顔を見合わせる。
「……ルックスは平和になっていく事に戸惑っているようなのですにゃ」
「ルックスさんにはぁ、大事な幼馴染がいたんですよぅ」
 三人から告げられたのはルックスが何故、部族なき部族に入った経緯。
 タットルに部族を滅ぼされ、若い女達を連れ去られた。その中にはルックスの幼馴染の少女がいた。
 少女はアクベンスに買われ、命を奪われた。
「ルックス君、石の色が違うだけの赤い羽根の首飾りを二つかけてるの。片方は幼馴染のものなの」
「戸惑いつつもルックスは前を向いてますにゃ」
 大丈夫、とテトはエステルに笑いかける。
「そういえば、アルフェッカさんがフォニケさんに告白したって話が流れてますね」
 話を変えたハナの言葉にテトとアイラが反応する。
「とうとうですにゃ!?」
「返事とかは!?」
 食い気味の二人にハナはそこまでの情報は掴んでいない模様。
「まだ保留中なのです」
 そう告げたエステルに三人は彼女の方を向く。
「エステル、明日は要塞都市に行く日にゃんね! フォニケをこっちに呼んでくるのにゃー!」
「了解なのです!」
「バッファロー獲ってきますねぇ~♪」
「ハルシさんにお酒譲ってもらうわ」
 てきぱきと分担する部族なき部族は今日も賑やかである。


 結果を伝えたのはファリフだった。
 帝国や辺境の東方に関する資料は探しておくという事だった。
「辺境に紙で遺すという事はあるのでしょうか? 紙は百年も保つことはできません。殆どの部族は移動しますし、口伝があるのでしょうか?」
 ハンスの考えにファリフは頷く。
「移動しない部族も存在はしている。スコール族もその一つだが、生憎、東方との繋がりはなくてね」
 割と南側に在るスコール族は数少ない定住部族であり、狩猟と昔ながらの農耕で生きてきたのだという。
「長らくの歪虚との戦いで滅んだ部族もある。恥ずかしながら、ボクのような若輩者も知らずに滅んだ部族もある。今生きながらえている部族から情報を引き出すのは時間がかかることを理解してほしい」
「わかりました」
 ファリフの言葉にハンスと智里は誠意と受け取った。ハンスが持ってきた文が効いたのかは定かではないが、納得できないというわけではないので、資料に関してはそれで良しとした。
 安全圏にいたはずなのにファリフは西の狐と東の狸の場外乱闘に巻き込まれたとしか思いようがなかった。
「ですが、実際に向かってみようと思うのです」
 ハンスの意思はファリフにしては予測済みという様子で頷く。
「ただし、条件がある。案内人は用意できる。けど、恐らくハンスさんが向かおうとしている場所は森林地帯なので、遭難する可能性もある。無理な調査をして案内人を困らせないこと。それが守れないようであれば今後、我々は調査に協力することはない」
 いつもの様子とはうって変わったファリフの厳かな口調にハンスは頷いた。

 ファリフから用意してくれたのは幌付きの馬車。
 案内人は二人。部族なき部族のメンバーである山羊と花豹だ。
「この方向は確か……」
 ふと、気づいた智里が呟く。
 森林地帯に近づいて来ているのだが、その向こうのへは戦いの爪痕が残っていた。
 ハンターならば知らぬものは少ないだろう。
「この先に幻獣の森があった」
 緑が多く、深かった森も歪虚の大群に襲撃されて無惨な姿となっていた。
「進むのは一苦労ですね」
 困ったような口ぶりのハンスだが、その表情はやる気に満ちており、瞳が輝いていた。
「大変だねぇ」
 くすりと微笑む花豹が向けるのは智里。
 智里当人はもう諦めというか、許容してる様子でもあった。
「突き詰める人なんです」
 目を細めて智里は笑みを浮かべた。
 それから森林地帯を探していたが、ハンスの納得がいくルートは見えておらず、山羊のストップがかかって、今回の調査は終了することになる。
 しかし、ハンスは別のルートの当たりもつけていたため、いずれは第二回目の調査も見据えていた。


 その一方、ドワーフ工房では久しぶりの客が飛び込んできた。
「フォニケさんとアルフェッカさんが婚約したって聞いたのーー!」
 元気よく飛び込んできたディーナ・フェルミ(ka5843)の声にいつもは大喜びをするフォニケだが、今日はその場で固まって手に抱えていたマテリアル鉱石を落とす。
「まだ、そんな仲じゃないから……」
 完全に動揺しているフォニケは鉱石を上手く拾えてない。
「えーと……もしかして少し早かった、かな?」
 小首を傾げるディーナに「そうね」と背後からカペラが顔をだす。
「でも、何年越しの片思いが一歩進めることが出来たのはよかったと思うのです」
 うふふと両手の指先で口元を隠すエステルはカペラと一緒に現れる。
「エステルちゃんは頑張ってたもんねー」
 ドワーフ工房の女性技師が声をかける。
「シェダルさんを巻き込んで頑張っちゃいました!」
 ガッツポーズをする笑顔一杯のエステルにフォニケとカペラは目を丸くする。
「あの面倒くさがり屋のシェダルが!?」
「何をどうしたら動かせたのよ!」
 驚きの声を上げる二人の様子にエステルは不思議そうな顔をする。
「優しいですよ?」
「普段の行いの差、だ」
 後ろを通り過ぎるシェダルがカペラとフォニケに言葉を放る。
「エステル。今、アルフェッカの所にファリフがいる。用があるなら声かけておけよ」
「はい、わかりました」
 ついでに情報も置いていく世話焼きぶりに二人はいつの間に……と呆然としていた。
「今、ハナさんがこちらにいらしてるんです。今日はバッファローを取りに行くとハナさんが言ってたので、一緒にどうですか?」
 エステルの誘いにディーナの目が輝く。
「フォニケさん、絶対お美味しいやつなの!」
「もちろん、行くわよ!」
 二人の声がハモると、エステルは三時間後に正面口で待ち合わせと告げてファリフの方へと向かう。
 フォニケが仕事を終わらせると、玄関口でディーナが最近の近況を伝えていた。
「結構王国の聖導士学校に顔出してるの。あそこも避難民問題でまだばたばたしてるから」
「へぇ、転移門は楽よね」
 ディーナの話を聞きつつ、フォニケは頷く。
「その髪飾り、気に入ってくれた?」
 聞きそびれたことを口にするフォニケにディーナは笑顔を綻ばせる。
「うん、とっても綺麗なの」
「よかったわ」
 のんびり世間話をしていると、エステルがファリフとカペラを連れてきた。

 魔導トラックを使って要塞郊外の街へと向かう。
 到着時はもう夕方であり、歓楽街に吸い込まれていく人もいれば、自宅に戻る姿もあった。
 部族なき部族の集合住宅から香草焼きのいい匂いがする。
「これは美味しい香草焼きなの!」
「ハナちゃんブレンドの香草って最高よね」
 匂いだけで美味しいとわかってキャッキャと喜ぶ二人を背にエステルはドアを開けた。
 エントランスを通って共用ダイニングに入ると、ハナが丁度良く香草焼きを載せているプレートをキッチンから持ってきていたところ。
 可愛らしいフリルが付いたエプロンが良く似合う。
「皆さん、お久しぶりですよぉ☆」
 その後ろからアイラが酒瓶を冷やすアイスペールを抱えてきた。
「ファリフ君、お疲れ様ー!」
「お誘いされたんだ」
 テトも配膳のお手伝いをしてて、エステル達も手伝いに加わる。
 今日はフォニケ達も来るということで、ハルシお手製オレンジシロップをおすそ分けしてもらったので炭酸で割ったり、それぞれ好きな飲み物を手にして乾杯して宴会が始まった。
 夜になると冷えてきたので、根菜類たっぷりの煮込み料理はとてもありがたい。
 迫力のある香草焼きも喜ばれたが、チーズのベーコン巻きにはカペラが大喜びしていた。
 豪勢なハナの料理を堪能した後、デザートのベイクドチーズケーキをつつきつつ、改めて近況を話していた。
 ワインやシャンパンの他、フォニケが差し入れしてくれたコーディアルはノンアルコールを好む者に喜ばれ、炭酸割りや紅茶に入れたりしていた。
 ハーブの香りが高く、果実の甘みもあって、鼻に抜ける香りが心地よい。
「それってぇ、帝国のですよね」
 キラリと輝くハナの目にフォニケは固まる。
「アルフェッカの実家の領地にコーディアル作る農家があったにゃんね」
 にやりと笑うテトも情報は回っているようだ。
「やっぱり、アルフェッカさんとそういう仲に!?」
 アイラが目を輝かせると、「皆、落ち着いて」とフォニケが両手を上げてオロオロとする。
「私、思うのー」
 チーズケーキを飲み込んだディーナが真面目な口調で切り出す。
「フォニケさんの結婚式にはどーんと肉祭りしなきゃなの」
 いきなり何を言い出すのかとカペラは思ったが、ディーナは真剣そのもの。
「だって、アルフェッカさんは帝国の軍の人でしょ? しかも、貴族だし。フォニケさんだって、ドワーフ工房に長くいるっていうし、先十年は語り継がれるように盛大にやらなきゃって」
「それは凄そうですぅ。前に開いた広場で足りるでしょうかねぇ。羨ましいですぅ」
 盛大な宴と聞いてハナが反応する。
「気が早いね」
 くすくす笑うファリフにアイラがじっと見つめていた。
「ファリフ君はいいなって思う人できた?」
「まだフェンリルより強い人に会えてないからね」
 ニッコリ笑顔のファリフにアイラとエステルは「暫く無理では?」と心の中で呟いた。

 未来を肴に女の子だけの宴は遅くまで続いていた。

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参加者一覧

  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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