ゲスト
(ka0000)
猿のマンディくん逃亡記
マスター:村井朋靖

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/28 19:00
- 完成日
- 2014/07/06 04:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●偏屈ジジイの悩み
同盟の中でも由緒正しき極彩色の街、その名は「ヴァリオス」。
この地は首都機能を有するだけでなく、クリムゾンウェストの最先端を行く芸術や文化、最先端の流行が集まる場所である。よって、訪れる観光客も多い。
観光都市として急成長を遂げているポルトワールとは違い、この街は非常に治安がいい。だから「ヴァリオスに一度住めば、二度と離れられなくなる」とも評されるほど。ここはいくらでも華やかになれる街なのだ。そう、お金さえ持っていれば。
この街の発展を支えるのは、伝統ある「ヴァリオス商工会」だ。
組織は、主に2種類の派閥に分けられる。若い頃から努力して積み上げた既得権益を守りたい「長老会」と、すべての商人は平等に商売するべきという理想を掲げる「青年会」。
無論、実権は長老会が握っており、その影響力は自由都市評議会でも発揮されるほど。青年会リーダーのエヴァルド・ブラマンデも評議会員ではあるが、同じく長老会リーダーで評議会員のダリオ・ミネッリにやり込められることが多い。今のところ、「年の功がはるかに勝っている」という状況だ。
この老人、一部からは「若者を見るといじめたくなる偏屈ジジイ」とも揶揄されるが、ダリオ本人は気にもしていない。いつものように古びたベレー帽を被り、今日も大きく大きく育った自分の店で商売に勤しむ。
とはいえ、ダリオほどの大商人になると、本人の仕事はないに等しい。
有能な部下や使用人たちが日々の業務を片付け、ある程度のトラブルなら難なく対処する。ダリオは自分の部屋で重要な書類にハンコを押すか、長老会の付き合いで会食に出かけるくらいしかしていないのが実情だ。普段は馬車に乗っての移動が多いが、今年で87歳を迎えるとは思えないほど足腰が強く、近場であれば歩いていくこともある。どうやらダリオ・ミネッリ、まだまだ健在だ。
そんな彼だが、長年に渡って続けてきた商売に疲れ、また最近は妻のいびりも増え、精神的に少し参っていた。
「ワシは生涯現役のつもりじゃが、まさか商売で倦怠期を迎えることになろうとはのぉ」
長年連れ添った妻より先に商売との付き合いを口にするあたりが、ダリオの話術の妙といえよう。長老会主催の食事会で、彼はそう漏らした。
続けて、妻のいびりにも言及。原因は最近増えつつあるダリオの酒の量にあるという。つまり『その歳で飲みすぎると体に毒だから、少し控えなさい』と、こういうわけだ。商売に飽き、酒も飲めない。これではストレスだけが溜まってしまう。
すると、向かいに座る友人がサラダを喉に詰まらせて盛大にむせた。どうやら彼も似たような境遇に立たされているらしい。ダリオは豪快に笑ってやった。
「はっはっは! どこも同じようなものかな?」
「まったく、ご推察通りですよ。でも私、最近になって克服しましてね」
その友人は、ある秘策をダリオに授けた。
「何、ペットを飼い始めた? 商人を手玉に取ると評されるこのダリオに、動物を飼えと勧めるか?!」
当人は大いに呆れたが、周囲は「おお、それは名案だ」と頷くではないか。その反応が気になったのか、彼は眉をしかめながらも、いちおう最後まで話を聞くことにした。まぁ、こういう話をマジメに聞き出したら、もう結果は言わずもがな、である。
●新しい家族
次の日の夕方。ダリオは友人の紹介で、小猿を譲ってもらった。
明るい茶色の毛並み、くりくりしたつぶらな瞳、思ったよりも小さな手足。そして、初めて来る環境への興味……不意に彼は、すっかり成人した息子が生まれた頃を思い出す。
「おお、そうじゃ。名前じゃ、名前」
ダリオは若い頃に世話になった店の名「マンディ」を授け、この小猿を可愛がることにした。
マンディとの生活が始まると、何もかもがうまく行った。
妻は最初こそ「ペットを飼うなんて慣れないことするもんじゃありません」と説教したが、今ではダリオよりもマンディくんにお熱。近くでフルーツを買ってきては、早く彼の好みを見つけようと必死である。食卓では、ダリオと「どれが好みかねぇ」と話も弾む。
さすがに商売への熱意はさほど戻らなかったが、どこか冷めた感じが和らいだ。おかげで酒の量も減り、少し角が取れて、部下からも「ご機嫌ですね」と言われることが増えた。マンディくんが屋敷にやってきて、順風満帆のミネッリ家だった。
そんなある日。ダリオはマンディくんを残して、店の近くにある倉庫に視察へ出かけた。
仕事自体は順調に進んだが、ダリオは慌てる使用人から「ある連絡」を受ける。マンディくんが逃げたというのだ。
「なっ、何! そ、それはマズイ!」
ダリオは残りを部下に任せ、慌てて自宅へ。どの使用人も「申し訳ありません」と頭を下げるが、「それは後じゃ」とだけ言って、自室へと飛び込んだ。確かに今、マンディくんはこの部屋にいない。
「これまでの状況を、簡潔に説明せよ」
彼は誰を怒るでもなく、極めて冷静に、事情を知る者に説明を求めた。
経緯はこうだ。使用人が部屋の掃除をしようと入ったら、窓から外を見る落ち着きのないマンディの姿があった。使用人も小猿のことは知っていたので、妙に心配になって「どうしたの?」と言いながら近づいたら、素早い身のこなしで半開きになっていた扉から脱走したという。
「どうやらご主人様の姿が見えなくなって、心配だったようにも見えました」
「困ったのぉ、あの倉庫は広く、部屋数も多い。もし、荷物の中にでも紛れ込んでたら大変じゃ」
ダリオは仕方なく、ハンターに依頼を出すことに決めた。
「……とまぁ、こういうわけだ。すでに倉庫は封鎖してある。何とか無事に連れ帰ってくれ」
少し元気を失った店主は、集まったハンターたちを倉庫の前に集め、直々に説明をし、深々と頭を下げた。
同盟の中でも由緒正しき極彩色の街、その名は「ヴァリオス」。
この地は首都機能を有するだけでなく、クリムゾンウェストの最先端を行く芸術や文化、最先端の流行が集まる場所である。よって、訪れる観光客も多い。
観光都市として急成長を遂げているポルトワールとは違い、この街は非常に治安がいい。だから「ヴァリオスに一度住めば、二度と離れられなくなる」とも評されるほど。ここはいくらでも華やかになれる街なのだ。そう、お金さえ持っていれば。
この街の発展を支えるのは、伝統ある「ヴァリオス商工会」だ。
組織は、主に2種類の派閥に分けられる。若い頃から努力して積み上げた既得権益を守りたい「長老会」と、すべての商人は平等に商売するべきという理想を掲げる「青年会」。
無論、実権は長老会が握っており、その影響力は自由都市評議会でも発揮されるほど。青年会リーダーのエヴァルド・ブラマンデも評議会員ではあるが、同じく長老会リーダーで評議会員のダリオ・ミネッリにやり込められることが多い。今のところ、「年の功がはるかに勝っている」という状況だ。
この老人、一部からは「若者を見るといじめたくなる偏屈ジジイ」とも揶揄されるが、ダリオ本人は気にもしていない。いつものように古びたベレー帽を被り、今日も大きく大きく育った自分の店で商売に勤しむ。
とはいえ、ダリオほどの大商人になると、本人の仕事はないに等しい。
有能な部下や使用人たちが日々の業務を片付け、ある程度のトラブルなら難なく対処する。ダリオは自分の部屋で重要な書類にハンコを押すか、長老会の付き合いで会食に出かけるくらいしかしていないのが実情だ。普段は馬車に乗っての移動が多いが、今年で87歳を迎えるとは思えないほど足腰が強く、近場であれば歩いていくこともある。どうやらダリオ・ミネッリ、まだまだ健在だ。
そんな彼だが、長年に渡って続けてきた商売に疲れ、また最近は妻のいびりも増え、精神的に少し参っていた。
「ワシは生涯現役のつもりじゃが、まさか商売で倦怠期を迎えることになろうとはのぉ」
長年連れ添った妻より先に商売との付き合いを口にするあたりが、ダリオの話術の妙といえよう。長老会主催の食事会で、彼はそう漏らした。
続けて、妻のいびりにも言及。原因は最近増えつつあるダリオの酒の量にあるという。つまり『その歳で飲みすぎると体に毒だから、少し控えなさい』と、こういうわけだ。商売に飽き、酒も飲めない。これではストレスだけが溜まってしまう。
すると、向かいに座る友人がサラダを喉に詰まらせて盛大にむせた。どうやら彼も似たような境遇に立たされているらしい。ダリオは豪快に笑ってやった。
「はっはっは! どこも同じようなものかな?」
「まったく、ご推察通りですよ。でも私、最近になって克服しましてね」
その友人は、ある秘策をダリオに授けた。
「何、ペットを飼い始めた? 商人を手玉に取ると評されるこのダリオに、動物を飼えと勧めるか?!」
当人は大いに呆れたが、周囲は「おお、それは名案だ」と頷くではないか。その反応が気になったのか、彼は眉をしかめながらも、いちおう最後まで話を聞くことにした。まぁ、こういう話をマジメに聞き出したら、もう結果は言わずもがな、である。
●新しい家族
次の日の夕方。ダリオは友人の紹介で、小猿を譲ってもらった。
明るい茶色の毛並み、くりくりしたつぶらな瞳、思ったよりも小さな手足。そして、初めて来る環境への興味……不意に彼は、すっかり成人した息子が生まれた頃を思い出す。
「おお、そうじゃ。名前じゃ、名前」
ダリオは若い頃に世話になった店の名「マンディ」を授け、この小猿を可愛がることにした。
マンディとの生活が始まると、何もかもがうまく行った。
妻は最初こそ「ペットを飼うなんて慣れないことするもんじゃありません」と説教したが、今ではダリオよりもマンディくんにお熱。近くでフルーツを買ってきては、早く彼の好みを見つけようと必死である。食卓では、ダリオと「どれが好みかねぇ」と話も弾む。
さすがに商売への熱意はさほど戻らなかったが、どこか冷めた感じが和らいだ。おかげで酒の量も減り、少し角が取れて、部下からも「ご機嫌ですね」と言われることが増えた。マンディくんが屋敷にやってきて、順風満帆のミネッリ家だった。
そんなある日。ダリオはマンディくんを残して、店の近くにある倉庫に視察へ出かけた。
仕事自体は順調に進んだが、ダリオは慌てる使用人から「ある連絡」を受ける。マンディくんが逃げたというのだ。
「なっ、何! そ、それはマズイ!」
ダリオは残りを部下に任せ、慌てて自宅へ。どの使用人も「申し訳ありません」と頭を下げるが、「それは後じゃ」とだけ言って、自室へと飛び込んだ。確かに今、マンディくんはこの部屋にいない。
「これまでの状況を、簡潔に説明せよ」
彼は誰を怒るでもなく、極めて冷静に、事情を知る者に説明を求めた。
経緯はこうだ。使用人が部屋の掃除をしようと入ったら、窓から外を見る落ち着きのないマンディの姿があった。使用人も小猿のことは知っていたので、妙に心配になって「どうしたの?」と言いながら近づいたら、素早い身のこなしで半開きになっていた扉から脱走したという。
「どうやらご主人様の姿が見えなくなって、心配だったようにも見えました」
「困ったのぉ、あの倉庫は広く、部屋数も多い。もし、荷物の中にでも紛れ込んでたら大変じゃ」
ダリオは仕方なく、ハンターに依頼を出すことに決めた。
「……とまぁ、こういうわけだ。すでに倉庫は封鎖してある。何とか無事に連れ帰ってくれ」
少し元気を失った店主は、集まったハンターたちを倉庫の前に集め、直々に説明をし、深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●ハンターの面々
倉庫の前に集まったハンターは、それぞれに荷物を持って集合。倉庫の位置を確認し、作戦実行の瞬間を待つ。
「大丈夫。オレがパパパッとマンディを見つけ出してみせるっす!」
常に前向き、能天気な虎丸 陽一(ka1971)のノリは軽いが、その目に宿る輝きは本物。
「ミネッリ家にとって、マンディくんは立派な家族の一員っすもんね」
その言葉を聞いた剛体の元力士・東郷 猛(ka0493)が、「うむ」と力強く頷く。
「俺も縁あって烏と柴犬を飼う身……無事に見つけて保護してあげたいものだ」
そこへ、今回の作戦を立案したひとりである夢路 まよい(ka1328)が駆け寄ってきた。
「ん~っ、小さなお猿さんってきっと可愛いんだろうなぁ~。うんうん、見てみた~い♪」
マンディくんなる小猿の容姿には、どうしても興味が沸くというもの。まよいが「これっくらいかな?」と手でサイズを示すと、猛が「いやいや、もう少し小さいだろう」と応じた。
早期発見を為すために、準備を進めるハンターの姿もある。
人懐っこそうな表情を見せるアレクシス・ロットワイラー(ka1891)は、ダリオからあるものを借りようと願い出た。
「すみません、もしもマンディくんが好きなおもちゃがあれば、貸していただきたいのですが……」
ダリオは「わかった」と頷き、使用人にそれを持って来させる。
「ワシの息子が赤ん坊の頃に使っていたガラガラだ。今ではマンディのお気に入りだがな」
木彫りで飾り気のないものだが、少し揺れただけで澄んだ音が響く。アレクは不意に微笑んだ。
「じゃあ、お借りします」
それを見ていたエイルズレトラ・マステリオ(ka0689)は「思い出の品ですか」と話しかける。
「こんにちは、エイルズレトラ・マステリオです。以後、お見知りおきを」
自らの名が書かれたカードを手品の要領で出し、ご主人だけでなく使用人たちの心配も和らげた。
「ほほう、これは粋な……ん、マステリオ? その名は聞いた気が……」
「それは気のせいでしょう。それよりも、今はマンディ君ですね」
ダリオの言葉をさらっと否定し、少年は猿が好きそうなバナナあたりをパッと手元に出す。
その様を見て、ジング(ka0342)も懐から怪しい仕草で干し肉を出してみるが、思いの他うまく行かず、渋い表情で首を振った。
「好きなものがわからないんでね。俺は適当に持ってきました」
「皆が同じものでないのは、もしかしたら興味を引くやもしれぬ。しかし、ありがたいことだ」
ダリオはハンターに縋る他ないと本件を依頼したが、都市の大事であれば同盟軍に嫌味を交えながら半ば無理に動かすのが常だ。
同盟軍は自由都市群の出資によって成り立つ組織なので、評議会員の彼が働きかけることは決して間違いではない。
その一方で、ハンターを雇うことは稀だ。理由は簡単、ダリオはまだその実力を真に認めていないからである。
「マンディが戻ってきた時は、ワシもハンターの評価を変えねばならぬ」
発見の期待を高まらせつつも、ダリオは冷静を装った。
そこへ猛がやってくる。
「マンディ君が一番慣れているのは貴方なので、できれば協力をお願いしたい」
「その言葉、心遣いを待っておったわ。さて、ワシはお前についていけばいいか?」
声を躍らせるダリオに対し、使用人たちは表情を曇らせた。
「捜索はお任せください。貴方には中央の部屋に控えていただきます。もし見つかれば、すぐにそちらへ向かっていただければ」
この段取りを聞き、使用人もホッと胸を撫で下ろした。これなら問題ない。ダリオも「任せたぞ」と同意し、ハンターの手腕に期待を寄せた。
「それじゃ、行こっか♪」
まよいが音頭を取り、倉庫の中へと立ち入った。
●ファーストコンタクト
ハンターの作戦はこうだ。
まず3人が北側の1~3番倉庫から捜索を開始し、その後は南下するパターン。そしてもう3人は南側7~9番倉庫から開始し、その後は北上するパターンに分け、どこかでマンディの発見を目指す。
しかし倉庫ひとつの大きさは広く、荷物も積み上がっており、とても見通しが悪い。正直、発見さえ困難に思えるほどだ。
そんな3番倉庫に立ったエイルズは、舞台に立つと不敵な笑みを漏らした。
「さてさて。マジシャンは隠すのは上手いものですが、はたして見つける方はどうでしょうねえ?」
彼は次に捜索する6番倉庫の方へ向かいつつ、用意したフルーツをまんべんなく配置。周囲の音を拾うべく、聞き耳を立てた。
「隠れているのなら、出てきてもらえばいい。これが奇術士の考え方です」
少年がもっとも注意すべきと考えるのは、倉庫をつなぐ扉付近。ここで逃すとマズイので、この周辺での監視に神経を尖らせた。
同じく北側の1番倉庫を調べるジングは、積み上げられた荷物を見上げながら、マンディのいそうな場所を考える。
「俺たちじゃ、あそこまで高い場所には行けないからな。安全地帯だと思って潜んでたらお手上げだぜ」
それでも「そこにいるかも」と思って警戒するだけでも、ハンターには有利と言えよう。
「猿の捜索かあ。人間じゃなくて、猿なんだよなあ……世知辛い」
ひとりになって思わず本音が出たか。ジングはそう言いつつも「ま、お仕事だからな」と気を取り直した。
●突然の遭遇
結局、第1回の捜索は空振りに終わった。それを受け、ハンターたちは中央の部屋に移動する。
5番倉庫には、猛とまよいが合流し、言葉を交わす。
「さっきの部屋にナッツ置いたんだけど、来てくれる気配なかったよ~。猛の方は?」
「こちらも反応なしだ。ダリオ氏によれば、マンディはナッツをよく食べたそうだから、置けば近づきそうなものだが……」
好物とまでは行かないにせよ、これまで食べたことのある品目に含まれるというナッツ。これを見れば食べてもおかしくはないが……ふたりは再びナッツを置き、周辺の捜索を再開した。
同じく、6番倉庫にはエイルズと陽一が合流。
奇術士はせっせとフルーツを並べ、陽一は各種フルーツを紐で縛り、それを弾帯のように身につけて練り歩く。なんとも奇妙な光景だ。
「なんかそれ、便利ですよね」
エイルズが「お腹が空いたら、それ取って食べればいいんだし」という物言いをすると、陽一は図星を突かれたのか「まさか!」と否定した。
「そ、そんなこと考えてないっすよ。これは、動物を追うチェイサーとして、相手の気持ちを考えた結果っす!」
今のマンディはお腹ペコペコ。そこにフルーツの生る木が歩いていれば、勝手に体が動き出すから、そこをキャッチ……という寸法らしい。
「オレって動物には懐かれやすい気がするんで、マンディも警戒心をいくらか解いて出てきてくれるんじゃないかと思うんすよ」
「その奇術、もし成功したらタネを詳しく教えてくださいね」
エイルズは陽一のセンスを評価し、自らは次に向かう9番倉庫にフルーツを並べた。
「マ、マンディくーん。ほら、ガラガラの音。聞こえてるだろ~?」
4番倉庫でアレクが囁いた。こんなに広い倉庫だというのに、借りたガラガラはまるで囁くように小さく響くのみ。
さすがのジングも「この音が聞こえるとは思えないな」と呟き、ついつい渋い表情を浮かべた。それでも干し肉をガラガラと同じ要領で振ったりして、彼も彼なりに努力する。
「こっちのガラガラはかすかに匂いが立ち昇り……って、酒飲みしか反応しないか」
思わず自嘲しながら振り向くと、そこにきょとんとした顔の小猿がいた。
「んん?!」
ジングは驚きのあまり、何も言わずに立ち尽くす。
一方のアレクは、彼の背中越しでガラガラを振って呼びかけを続けていた。
「おーい、マンディくーん」
「……見つけた」
「そうですか、いましたか……って、ええっ?!」
彼が驚く様を見て、ジングは思わず「声がデカい!」とアレクの口を塞ぐ。
「あ、あれがマンディくんですか?」
「実は10匹もいますってんなら、俺は今すぐこの仕事下りるぜ」
アレクは妙に納得した表情で、「そうですよね」と頷いた。
「アレク、隣の倉庫に連絡を頼む。依頼主もいたはずだ」
「了解です。この場はよろしくお願いしますね」
その場は一時、ジングとマンディだけの空間となった。
「あーあ、退屈だぜ……」
彼は敢えて視線を合わせず、「こちらに敵意はない」というアピールをしながら捕獲に挑む。
マンディの周りをボーっと歩きながらも、徐々に距離を縮め、一気に飛び掛かれる地点へ接近しようとするも、あと一歩の所でどうしても相手が身構える。
「キキ!」
「頼むぜ、あとちょっとなんだよ……ふあぁーあ」
そこへ隣からの応援がやってきた。いや、それは秘かに忍び寄る。
まよいがぐるりと後ろに回りこみ、マンディを背後から捕まえようと息を潜めて捕獲にチャレンジした!
「今だー♪」
ところがジングの時と同じで、マンディは気配を察知するとさっさとその場から逃げ、北に位置する1番倉庫へと逃げていく。
「しまったっ! 私のバカバカバカっ!」
「気にするな。オレがやってもあんたがやっても、たぶん結果は同じだった。それよりも追うぞ」
ここにダリオを連れ立った猛とアレクも合流し、再び捕獲に向けて動き出した。
●マンディくん包囲網
1番倉庫にハンターが揃うと、猛がそれぞれの出入口を封鎖。これでマンディの逃げ場はなくなった。
「マンディくーん、おいしいフルーツはここだよー」
アレクは陽一の背中を押しながら歩き、客寄せよろしくガラガラを鳴らして興味を引く。もはや陽一は「歩く果物屋」だ。ちょっとだけ扱いの悪さが気になるが、ここにマンディが来れば確実に捕獲できる。そうなれば、大金星間違いなし。彼の心は燃え上がった。
「イケる、イケるっすよー! 全力キャッチするっすよ!」
熱血移動果物屋を先導するのはジングだ。彼はさっき、この場所を捜索済みで、マンディのいそうな場所に当たりをつけてある。その周りにはエイルズとまよいが潜伏しながら進み、最後尾には猛とダリオが控えるという布陣。もはやマンディの捕獲は時間の問題だ。
そして案の定、マンディは顔を覗かせる。どうやらお目当ては、陽一フルーツ店らしい。
しかし、最後尾からは状況がよく見えるもの。猛はあごに手をやり、ひとつ思案する。
「もしやマンディ君は、アレク殿の持つガラガラの音に反応しているのか?」
それを聞き、ダリオも「ワシも同感じゃ」と頷く。彼は「ガラガラの音に導かれてフルーツを見つけた」と分析するのが正しいと判断。これを繰り返せば、いずれは捕獲できると確信した。
だが、一度のチャンスで成功させてこそ、腕利きハンターと言えよう。
まずエイルズがランアウトを駆使して陽一の背後に素早く回りこみ、自分が用意したフルーツをマンディに向かって投げた。ここで陽一に投げさせないというのがミソだ。
「キ! キキッ?」
突然バナナを持たされたマンディは、うまく皮を剥いてカプカプと三口で平らげる。やはり腹を空かせているようだ。
そこへアレクと陽一が、ゆっくりと忍び寄る。
「ほら! おいしいフルーツですよぉ~」
「ここはひとつ、虎丸 陽一の本気ってやつをお見せしよーじゃありませんか!」
マンディは温和な客引きと熱血店主の組み合わせに戸惑うものの、それでも誘惑には勝てずに自分から動き出した。
「今度こそ捕まえるんだからー!」
小猿の行く手を阻むように側面から飛び出してきたのは、元気いっぱいのまよいちゃん。相手が小さいので、最後は尻餅をつきながらスライディングキャッチに挑む。
「キキッ?!」
あまりの驚きで思わず動きを止めてしまったマンディくんは、そのまま彼女の手の中に納まった。
「よ~しよしよし、可愛いねぇ~♪」
まよいに捕えられて背中の毛並みを擦られるマンディは特に暴れることもなく、借りてきた猫のように大人しい。逃げていたのがウソのようだ。
「あ、大金星がー! でも、キッチリ仕事をこなしたっすよ!」
陽一はダリオに「皆の力で依頼を達成したこと」をアピール。マンディくんの元へ駆け寄り、「腹減ってるっすよね?」と腰に下げたフルーツを差し出した。
「なるほど。仕事に軽重はない。ただひたすらに進むのみ、か……」
ダリオがそう呟くと、自らも歩みを進めて輪の中に入り、小さな家族の帰還を喜んだ。
●宴は長く
その後、ダリオはハンターを連れて夕飯を奢った。
大商人の贔屓の店に招待されると緊張していたアレクだったが、思ったよりも気軽に入れる庶民的な食堂で胸を撫で下ろす。
「マナーとか、俺、あんまり知らないんだけど……こういうとこでよかった」
今日はダリオの奢りなので、何をどれだけ頼んでもいいとのこと。猛は「ごっつあんです」と前置きし、それなりの注文をすることを予告。遠慮ない見事な食べっぷりを披露する。
「マンディは家族の一員ということですが、自分は柴犬を躾けて猟犬にしたいと考えております」
「ほほう、それはそれは」
ダリオはペットについては無知に等しいので、猛の話には熱心に耳を傾けた。
その間、まよいは次々と出てくる料理をちょいとつまんでは舌鼓を打つ。
「うわ、これ美味しい~! お姉さん、これもう一皿♪」
隣に座る陽一も元気いっぱい、若さいっぱいで、たくさんの料理を楽しんだ。
このふたりの食べっぷりは、マンディくんも感心しきりである。
「キキ~ッ」
「え? よく食うなーって? そりゃそうっす、ほらマンディくんも元気のためには食べなくちゃダメっすよ!」
そんな言葉をかけられるマンディに対し、ジングは自分に注がれた酒を差し出すが、相手は「キキッ」と首を横に振った。
「なんだ、酒は苦手か? ま、悪酔いするなら呑まない方がいいな」
ふふんと笑うジングは近くの皿を手に取り、酒を傾けながらじっくりと味わった。
しばらくすると、彼らの元にフルーツが届けられる。これは奇術士エイルズが誘き寄せに使ったものだ。よく見れば、ナッツの類も添えられている。
「これにて奇術士エイルズの舞台は、ひとまず終了。ダリオさん、ハンターとしても、奇術士としても、今後ともご贔屓に」
「ハンター、か。なかなかに面白い。ま、ワシの目に叶うと、ろくな目に遭わんがな。はっはっは!」
ダリオもすっかり元気を取り戻し、豪快に笑った。
それを見たアレクが手にフルーツの皿を持ち、マンディの傍に近づく。
「いくらご主人様が心配でも、もう家出なんてしちゃダメだよ?」
アレクはお気に入りのガラガラをマンディに返すと、彼はそれを尻尾で受け取り、あの音を響かせた。そして手を伸ばし、皿のフルーツを取って食べる。
「あ、そうやって遊んでたのかー」
青年が納得の表情を浮かべると、マンディは「キキ!」と嬉しそうな笑顔を見せた。
この食事会は、夜が更けるまで賑やかに続いたという。
倉庫の前に集まったハンターは、それぞれに荷物を持って集合。倉庫の位置を確認し、作戦実行の瞬間を待つ。
「大丈夫。オレがパパパッとマンディを見つけ出してみせるっす!」
常に前向き、能天気な虎丸 陽一(ka1971)のノリは軽いが、その目に宿る輝きは本物。
「ミネッリ家にとって、マンディくんは立派な家族の一員っすもんね」
その言葉を聞いた剛体の元力士・東郷 猛(ka0493)が、「うむ」と力強く頷く。
「俺も縁あって烏と柴犬を飼う身……無事に見つけて保護してあげたいものだ」
そこへ、今回の作戦を立案したひとりである夢路 まよい(ka1328)が駆け寄ってきた。
「ん~っ、小さなお猿さんってきっと可愛いんだろうなぁ~。うんうん、見てみた~い♪」
マンディくんなる小猿の容姿には、どうしても興味が沸くというもの。まよいが「これっくらいかな?」と手でサイズを示すと、猛が「いやいや、もう少し小さいだろう」と応じた。
早期発見を為すために、準備を進めるハンターの姿もある。
人懐っこそうな表情を見せるアレクシス・ロットワイラー(ka1891)は、ダリオからあるものを借りようと願い出た。
「すみません、もしもマンディくんが好きなおもちゃがあれば、貸していただきたいのですが……」
ダリオは「わかった」と頷き、使用人にそれを持って来させる。
「ワシの息子が赤ん坊の頃に使っていたガラガラだ。今ではマンディのお気に入りだがな」
木彫りで飾り気のないものだが、少し揺れただけで澄んだ音が響く。アレクは不意に微笑んだ。
「じゃあ、お借りします」
それを見ていたエイルズレトラ・マステリオ(ka0689)は「思い出の品ですか」と話しかける。
「こんにちは、エイルズレトラ・マステリオです。以後、お見知りおきを」
自らの名が書かれたカードを手品の要領で出し、ご主人だけでなく使用人たちの心配も和らげた。
「ほほう、これは粋な……ん、マステリオ? その名は聞いた気が……」
「それは気のせいでしょう。それよりも、今はマンディ君ですね」
ダリオの言葉をさらっと否定し、少年は猿が好きそうなバナナあたりをパッと手元に出す。
その様を見て、ジング(ka0342)も懐から怪しい仕草で干し肉を出してみるが、思いの他うまく行かず、渋い表情で首を振った。
「好きなものがわからないんでね。俺は適当に持ってきました」
「皆が同じものでないのは、もしかしたら興味を引くやもしれぬ。しかし、ありがたいことだ」
ダリオはハンターに縋る他ないと本件を依頼したが、都市の大事であれば同盟軍に嫌味を交えながら半ば無理に動かすのが常だ。
同盟軍は自由都市群の出資によって成り立つ組織なので、評議会員の彼が働きかけることは決して間違いではない。
その一方で、ハンターを雇うことは稀だ。理由は簡単、ダリオはまだその実力を真に認めていないからである。
「マンディが戻ってきた時は、ワシもハンターの評価を変えねばならぬ」
発見の期待を高まらせつつも、ダリオは冷静を装った。
そこへ猛がやってくる。
「マンディ君が一番慣れているのは貴方なので、できれば協力をお願いしたい」
「その言葉、心遣いを待っておったわ。さて、ワシはお前についていけばいいか?」
声を躍らせるダリオに対し、使用人たちは表情を曇らせた。
「捜索はお任せください。貴方には中央の部屋に控えていただきます。もし見つかれば、すぐにそちらへ向かっていただければ」
この段取りを聞き、使用人もホッと胸を撫で下ろした。これなら問題ない。ダリオも「任せたぞ」と同意し、ハンターの手腕に期待を寄せた。
「それじゃ、行こっか♪」
まよいが音頭を取り、倉庫の中へと立ち入った。
●ファーストコンタクト
ハンターの作戦はこうだ。
まず3人が北側の1~3番倉庫から捜索を開始し、その後は南下するパターン。そしてもう3人は南側7~9番倉庫から開始し、その後は北上するパターンに分け、どこかでマンディの発見を目指す。
しかし倉庫ひとつの大きさは広く、荷物も積み上がっており、とても見通しが悪い。正直、発見さえ困難に思えるほどだ。
そんな3番倉庫に立ったエイルズは、舞台に立つと不敵な笑みを漏らした。
「さてさて。マジシャンは隠すのは上手いものですが、はたして見つける方はどうでしょうねえ?」
彼は次に捜索する6番倉庫の方へ向かいつつ、用意したフルーツをまんべんなく配置。周囲の音を拾うべく、聞き耳を立てた。
「隠れているのなら、出てきてもらえばいい。これが奇術士の考え方です」
少年がもっとも注意すべきと考えるのは、倉庫をつなぐ扉付近。ここで逃すとマズイので、この周辺での監視に神経を尖らせた。
同じく北側の1番倉庫を調べるジングは、積み上げられた荷物を見上げながら、マンディのいそうな場所を考える。
「俺たちじゃ、あそこまで高い場所には行けないからな。安全地帯だと思って潜んでたらお手上げだぜ」
それでも「そこにいるかも」と思って警戒するだけでも、ハンターには有利と言えよう。
「猿の捜索かあ。人間じゃなくて、猿なんだよなあ……世知辛い」
ひとりになって思わず本音が出たか。ジングはそう言いつつも「ま、お仕事だからな」と気を取り直した。
●突然の遭遇
結局、第1回の捜索は空振りに終わった。それを受け、ハンターたちは中央の部屋に移動する。
5番倉庫には、猛とまよいが合流し、言葉を交わす。
「さっきの部屋にナッツ置いたんだけど、来てくれる気配なかったよ~。猛の方は?」
「こちらも反応なしだ。ダリオ氏によれば、マンディはナッツをよく食べたそうだから、置けば近づきそうなものだが……」
好物とまでは行かないにせよ、これまで食べたことのある品目に含まれるというナッツ。これを見れば食べてもおかしくはないが……ふたりは再びナッツを置き、周辺の捜索を再開した。
同じく、6番倉庫にはエイルズと陽一が合流。
奇術士はせっせとフルーツを並べ、陽一は各種フルーツを紐で縛り、それを弾帯のように身につけて練り歩く。なんとも奇妙な光景だ。
「なんかそれ、便利ですよね」
エイルズが「お腹が空いたら、それ取って食べればいいんだし」という物言いをすると、陽一は図星を突かれたのか「まさか!」と否定した。
「そ、そんなこと考えてないっすよ。これは、動物を追うチェイサーとして、相手の気持ちを考えた結果っす!」
今のマンディはお腹ペコペコ。そこにフルーツの生る木が歩いていれば、勝手に体が動き出すから、そこをキャッチ……という寸法らしい。
「オレって動物には懐かれやすい気がするんで、マンディも警戒心をいくらか解いて出てきてくれるんじゃないかと思うんすよ」
「その奇術、もし成功したらタネを詳しく教えてくださいね」
エイルズは陽一のセンスを評価し、自らは次に向かう9番倉庫にフルーツを並べた。
「マ、マンディくーん。ほら、ガラガラの音。聞こえてるだろ~?」
4番倉庫でアレクが囁いた。こんなに広い倉庫だというのに、借りたガラガラはまるで囁くように小さく響くのみ。
さすがのジングも「この音が聞こえるとは思えないな」と呟き、ついつい渋い表情を浮かべた。それでも干し肉をガラガラと同じ要領で振ったりして、彼も彼なりに努力する。
「こっちのガラガラはかすかに匂いが立ち昇り……って、酒飲みしか反応しないか」
思わず自嘲しながら振り向くと、そこにきょとんとした顔の小猿がいた。
「んん?!」
ジングは驚きのあまり、何も言わずに立ち尽くす。
一方のアレクは、彼の背中越しでガラガラを振って呼びかけを続けていた。
「おーい、マンディくーん」
「……見つけた」
「そうですか、いましたか……って、ええっ?!」
彼が驚く様を見て、ジングは思わず「声がデカい!」とアレクの口を塞ぐ。
「あ、あれがマンディくんですか?」
「実は10匹もいますってんなら、俺は今すぐこの仕事下りるぜ」
アレクは妙に納得した表情で、「そうですよね」と頷いた。
「アレク、隣の倉庫に連絡を頼む。依頼主もいたはずだ」
「了解です。この場はよろしくお願いしますね」
その場は一時、ジングとマンディだけの空間となった。
「あーあ、退屈だぜ……」
彼は敢えて視線を合わせず、「こちらに敵意はない」というアピールをしながら捕獲に挑む。
マンディの周りをボーっと歩きながらも、徐々に距離を縮め、一気に飛び掛かれる地点へ接近しようとするも、あと一歩の所でどうしても相手が身構える。
「キキ!」
「頼むぜ、あとちょっとなんだよ……ふあぁーあ」
そこへ隣からの応援がやってきた。いや、それは秘かに忍び寄る。
まよいがぐるりと後ろに回りこみ、マンディを背後から捕まえようと息を潜めて捕獲にチャレンジした!
「今だー♪」
ところがジングの時と同じで、マンディは気配を察知するとさっさとその場から逃げ、北に位置する1番倉庫へと逃げていく。
「しまったっ! 私のバカバカバカっ!」
「気にするな。オレがやってもあんたがやっても、たぶん結果は同じだった。それよりも追うぞ」
ここにダリオを連れ立った猛とアレクも合流し、再び捕獲に向けて動き出した。
●マンディくん包囲網
1番倉庫にハンターが揃うと、猛がそれぞれの出入口を封鎖。これでマンディの逃げ場はなくなった。
「マンディくーん、おいしいフルーツはここだよー」
アレクは陽一の背中を押しながら歩き、客寄せよろしくガラガラを鳴らして興味を引く。もはや陽一は「歩く果物屋」だ。ちょっとだけ扱いの悪さが気になるが、ここにマンディが来れば確実に捕獲できる。そうなれば、大金星間違いなし。彼の心は燃え上がった。
「イケる、イケるっすよー! 全力キャッチするっすよ!」
熱血移動果物屋を先導するのはジングだ。彼はさっき、この場所を捜索済みで、マンディのいそうな場所に当たりをつけてある。その周りにはエイルズとまよいが潜伏しながら進み、最後尾には猛とダリオが控えるという布陣。もはやマンディの捕獲は時間の問題だ。
そして案の定、マンディは顔を覗かせる。どうやらお目当ては、陽一フルーツ店らしい。
しかし、最後尾からは状況がよく見えるもの。猛はあごに手をやり、ひとつ思案する。
「もしやマンディ君は、アレク殿の持つガラガラの音に反応しているのか?」
それを聞き、ダリオも「ワシも同感じゃ」と頷く。彼は「ガラガラの音に導かれてフルーツを見つけた」と分析するのが正しいと判断。これを繰り返せば、いずれは捕獲できると確信した。
だが、一度のチャンスで成功させてこそ、腕利きハンターと言えよう。
まずエイルズがランアウトを駆使して陽一の背後に素早く回りこみ、自分が用意したフルーツをマンディに向かって投げた。ここで陽一に投げさせないというのがミソだ。
「キ! キキッ?」
突然バナナを持たされたマンディは、うまく皮を剥いてカプカプと三口で平らげる。やはり腹を空かせているようだ。
そこへアレクと陽一が、ゆっくりと忍び寄る。
「ほら! おいしいフルーツですよぉ~」
「ここはひとつ、虎丸 陽一の本気ってやつをお見せしよーじゃありませんか!」
マンディは温和な客引きと熱血店主の組み合わせに戸惑うものの、それでも誘惑には勝てずに自分から動き出した。
「今度こそ捕まえるんだからー!」
小猿の行く手を阻むように側面から飛び出してきたのは、元気いっぱいのまよいちゃん。相手が小さいので、最後は尻餅をつきながらスライディングキャッチに挑む。
「キキッ?!」
あまりの驚きで思わず動きを止めてしまったマンディくんは、そのまま彼女の手の中に納まった。
「よ~しよしよし、可愛いねぇ~♪」
まよいに捕えられて背中の毛並みを擦られるマンディは特に暴れることもなく、借りてきた猫のように大人しい。逃げていたのがウソのようだ。
「あ、大金星がー! でも、キッチリ仕事をこなしたっすよ!」
陽一はダリオに「皆の力で依頼を達成したこと」をアピール。マンディくんの元へ駆け寄り、「腹減ってるっすよね?」と腰に下げたフルーツを差し出した。
「なるほど。仕事に軽重はない。ただひたすらに進むのみ、か……」
ダリオがそう呟くと、自らも歩みを進めて輪の中に入り、小さな家族の帰還を喜んだ。
●宴は長く
その後、ダリオはハンターを連れて夕飯を奢った。
大商人の贔屓の店に招待されると緊張していたアレクだったが、思ったよりも気軽に入れる庶民的な食堂で胸を撫で下ろす。
「マナーとか、俺、あんまり知らないんだけど……こういうとこでよかった」
今日はダリオの奢りなので、何をどれだけ頼んでもいいとのこと。猛は「ごっつあんです」と前置きし、それなりの注文をすることを予告。遠慮ない見事な食べっぷりを披露する。
「マンディは家族の一員ということですが、自分は柴犬を躾けて猟犬にしたいと考えております」
「ほほう、それはそれは」
ダリオはペットについては無知に等しいので、猛の話には熱心に耳を傾けた。
その間、まよいは次々と出てくる料理をちょいとつまんでは舌鼓を打つ。
「うわ、これ美味しい~! お姉さん、これもう一皿♪」
隣に座る陽一も元気いっぱい、若さいっぱいで、たくさんの料理を楽しんだ。
このふたりの食べっぷりは、マンディくんも感心しきりである。
「キキ~ッ」
「え? よく食うなーって? そりゃそうっす、ほらマンディくんも元気のためには食べなくちゃダメっすよ!」
そんな言葉をかけられるマンディに対し、ジングは自分に注がれた酒を差し出すが、相手は「キキッ」と首を横に振った。
「なんだ、酒は苦手か? ま、悪酔いするなら呑まない方がいいな」
ふふんと笑うジングは近くの皿を手に取り、酒を傾けながらじっくりと味わった。
しばらくすると、彼らの元にフルーツが届けられる。これは奇術士エイルズが誘き寄せに使ったものだ。よく見れば、ナッツの類も添えられている。
「これにて奇術士エイルズの舞台は、ひとまず終了。ダリオさん、ハンターとしても、奇術士としても、今後ともご贔屓に」
「ハンター、か。なかなかに面白い。ま、ワシの目に叶うと、ろくな目に遭わんがな。はっはっは!」
ダリオもすっかり元気を取り戻し、豪快に笑った。
それを見たアレクが手にフルーツの皿を持ち、マンディの傍に近づく。
「いくらご主人様が心配でも、もう家出なんてしちゃダメだよ?」
アレクはお気に入りのガラガラをマンディに返すと、彼はそれを尻尾で受け取り、あの音を響かせた。そして手を伸ばし、皿のフルーツを取って食べる。
「あ、そうやって遊んでたのかー」
青年が納得の表情を浮かべると、マンディは「キキ!」と嬉しそうな笑顔を見せた。
この食事会は、夜が更けるまで賑やかに続いたという。
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依頼相談用スレ ジング(ka0342) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/06/28 14:41:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/25 01:09:45 |