ゲスト
(ka0000)
折れる事無き商魂とは
マスター:桜井空

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/13 12:00
- 完成日
- 2015/02/21 21:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「クケェェェェェェェェ!」
渓谷沿いの街道にそんな鳴き声が響き渡り始めたのは一年程前の話だ。
朝夕問わず、気まぐれに響き渡るけたたましい鳴き声に近くの街では雑魔がでたのではないかと一時騒然となった。
当然ながら捜査隊も何度か派遣されたが、その時は結局鳴き声の正体は見つからず、姿も実害も無い鳴き声を街の住人は段々気にしなくなっていった。
渓谷から聞こえてくる謎の鳴き声。
街にくる商人の間では、その鳴き声を聞いたものは大儲けできる、という噂まで流れていた。
「いやー今日もいい天気だなぁ」
曇り空を見てそんな事を呟く長い赤髪の若い女性商人も、その噂を耳にした事があった。
「クェェェェェェェェ!」
だから、不意に聞こえて来たその鳴き声に対してなんの警戒心も抱かなかった。
「お、もしかしてこれが噂の幸せを呼ぶ鳴き声かー? ふふん、こりゃ大儲けの予感がするね」
一頭立ての馬車をゆっくり走らせながら商人はそんな独り言を呟き、商品から拝借した赤い果物を一つ齧った。
「さて、後は良い宿でゆっくり寝れれば今日は満足だなー」
適当に纏めた髪を揺らしながら、商人はご機嫌で鼻唄を歌いだした。
丁度その時である。
「クェェェェ!」
先程よりもはっきりと噂の鳴き声が聞こえて来たのだ。
「お、二回聞いたら効果も二倍かなー、はっ、もしかして二乗!?」
商人は大儲けした自分の姿を想像する。
「クェェェ! クェェ!」
「三回!? 三乗? 三乗でいいの!?」
商人の想像の中で、彼女はさらに皮算用していた。
しかし、またもや聞こえて来た四回目の鳴き声と、地響き、加えて突如馬車を襲った衝撃で彼女はようやく我に返った。
「え? 何? ……うわっ!」
突然の衝撃に暴れる馬をなだめようとした商人だったが、さらに襲って来た衝撃によって地面に放り出されてしまった。
「げほっげほっ、いった……!」
痛みに呻きながら彼女が聞いたのは、馬車が横倒しにされる音と、それが巨大な力によって破壊される音である。
幸運だったのは馬と荷台をつなぐ木製のシャフトも同時に破壊された事だろう。突然の自体に見舞われた馬は、怪我をする前に恐れおののき走り去って行く。
その足音を聞きながら彼女が起き上がると、そこには馬車の荷台に顔を突っ込む巨大な影が鎮座していた。
人の身長程もある足、見上げるような体躯、長く太い首、そして荷台から引き抜かれた顔についている巨大なクチバシ。
「あ!」
果汁を滴らせながらジロリと恐怖で声が出せない彼女を見下ろしたのは、茶色の羽毛で身体が覆われている大きな大きな鳥だった。
「ちょっと! こら! 食べるな!」
「クエッ!」
「うひゃっ!」
思わず食って掛かった商人だが、クチバシから吐き出された火炎に驚き尻餅をついてしまった。
「クゲップ」
「ああ……なんて事を……」
商人の叫びも虚しく、あっという間に積み荷の果物を食べ尽くした巨大な鳥は、満足そうな鳴き声をあげる。そして鳥が次に目を付けたのは、儀礼用の刀剣類だ。装飾華美でキラキラと美しい高額商品である。
「あ! ちょっと! それは食べられないでしょ! こら! 持っていくなバカ鳥!」
光り物が好きなのか、巨大な鳥は、それらをごっそり加えると、足取り軽く去って行ってしまった。
取り残されたのは、粉砕された馬車と商品を全て失った悲劇の商人だけである。
「お、覚えとけよバカ鳥——————————!」
商人の叫びに呼応するように、どこからか鳥の鳴き声が返って来たという。
翌日、街で一番大きな酒場にこんな張り紙が貼られていた。
『本日、20時より大鶏肉祭開催! 鶏肉料理が食べ放題! みなさん奮ってご参加を!』
「さて、後は食材を捕まえるだけね。卵一つも逃しはしないわ」
その日の朝、そんなセリフを呟きながらハンターオフィスに向かう赤毛の女性が目撃されたという。
赤毛の美人商人様からの依頼です
本日の夜に催されるイベントの食材を取って来て欲しいとの事です。
対象は、街近くの街道が通る渓谷に生息していると思われる巨大な鳥。
姿かたちは平胸類のよう、つまり走る事に特化しているダチョウのような姿をしていますが、その大きさは馬車を軽く凌駕していると聞いています。
今回の依頼は簡単に言えば、その巨大な鳥の狩猟と、その鳥の巣を発見し卵を手に入れる事です。
生息予想地は街からさほど離れていませんし、鳴き声が時たま聞こえてくる、との事ですから捜索範囲は大きくありません。巨大な生物が隠れられそうな場所も限られているはずです。
探し方、もしくは誘き出し方はお任せします。好きな方法で構いません。
特筆事項がいくつかあります。
まず、狩猟対象ですが、後々食材として扱う為極力外傷を増やさないようにお願いします。
次に卵ですが、うっかり壊してしまわないように注意して下さい。もっとも、本当に卵があるかどうかは分からないらしいので、あれば持ち帰る、という形でかまいません。
美人の商人さんですが、鳥の巣まで意地でもついて行くと言っています。戦闘になれば邪魔にならないように離れているとは言っていますが、怪我させないように気を付けて下さいね。
巨大な鳥と、その卵を持ち帰るために運搬用の馬車を準備するとの事です。行きぐらいは荷台に乗せてもらえるのではないでしょうか。はい、帰りは知りません。歩いて行けない距離ではないですから。
そうそう狩猟対象ですが、火を吹くそうです。射程距離は1メートルぐらいだったと聞いていますが、それより長距離に火を吹く事も可能かもしれません。大ヤケドしないように十分注意した方がいいと思います。
最後になりましたが、依頼人さんからの伝言があります。
『狩猟に成功したら脚の一本ぐらいあげるから好きにしていいわよ』
だそうです。
知ってますか? ダチョウの肉は高タンパク、低脂肪、歯ごたえ有りのヘルシー肉として需要があるそうです。ステーキに焼き肉、刺身にタタキと味にクセが少ないため、味付けの幅が豊富なんだとか。流れる川を眺めながら自然の中で食べるのもなかなかいいと思いませんか?
いえ、特に関係は無い情報です。私ですか? はい、焼き鳥は好きですよ。
では、蹴り飛ばされたり黒こげにされたりしないように。ご武運を。
以上、まだ若いハンターオフィスの受付嬢による事情説明。
渓谷沿いの街道にそんな鳴き声が響き渡り始めたのは一年程前の話だ。
朝夕問わず、気まぐれに響き渡るけたたましい鳴き声に近くの街では雑魔がでたのではないかと一時騒然となった。
当然ながら捜査隊も何度か派遣されたが、その時は結局鳴き声の正体は見つからず、姿も実害も無い鳴き声を街の住人は段々気にしなくなっていった。
渓谷から聞こえてくる謎の鳴き声。
街にくる商人の間では、その鳴き声を聞いたものは大儲けできる、という噂まで流れていた。
「いやー今日もいい天気だなぁ」
曇り空を見てそんな事を呟く長い赤髪の若い女性商人も、その噂を耳にした事があった。
「クェェェェェェェェ!」
だから、不意に聞こえて来たその鳴き声に対してなんの警戒心も抱かなかった。
「お、もしかしてこれが噂の幸せを呼ぶ鳴き声かー? ふふん、こりゃ大儲けの予感がするね」
一頭立ての馬車をゆっくり走らせながら商人はそんな独り言を呟き、商品から拝借した赤い果物を一つ齧った。
「さて、後は良い宿でゆっくり寝れれば今日は満足だなー」
適当に纏めた髪を揺らしながら、商人はご機嫌で鼻唄を歌いだした。
丁度その時である。
「クェェェェ!」
先程よりもはっきりと噂の鳴き声が聞こえて来たのだ。
「お、二回聞いたら効果も二倍かなー、はっ、もしかして二乗!?」
商人は大儲けした自分の姿を想像する。
「クェェェ! クェェ!」
「三回!? 三乗? 三乗でいいの!?」
商人の想像の中で、彼女はさらに皮算用していた。
しかし、またもや聞こえて来た四回目の鳴き声と、地響き、加えて突如馬車を襲った衝撃で彼女はようやく我に返った。
「え? 何? ……うわっ!」
突然の衝撃に暴れる馬をなだめようとした商人だったが、さらに襲って来た衝撃によって地面に放り出されてしまった。
「げほっげほっ、いった……!」
痛みに呻きながら彼女が聞いたのは、馬車が横倒しにされる音と、それが巨大な力によって破壊される音である。
幸運だったのは馬と荷台をつなぐ木製のシャフトも同時に破壊された事だろう。突然の自体に見舞われた馬は、怪我をする前に恐れおののき走り去って行く。
その足音を聞きながら彼女が起き上がると、そこには馬車の荷台に顔を突っ込む巨大な影が鎮座していた。
人の身長程もある足、見上げるような体躯、長く太い首、そして荷台から引き抜かれた顔についている巨大なクチバシ。
「あ!」
果汁を滴らせながらジロリと恐怖で声が出せない彼女を見下ろしたのは、茶色の羽毛で身体が覆われている大きな大きな鳥だった。
「ちょっと! こら! 食べるな!」
「クエッ!」
「うひゃっ!」
思わず食って掛かった商人だが、クチバシから吐き出された火炎に驚き尻餅をついてしまった。
「クゲップ」
「ああ……なんて事を……」
商人の叫びも虚しく、あっという間に積み荷の果物を食べ尽くした巨大な鳥は、満足そうな鳴き声をあげる。そして鳥が次に目を付けたのは、儀礼用の刀剣類だ。装飾華美でキラキラと美しい高額商品である。
「あ! ちょっと! それは食べられないでしょ! こら! 持っていくなバカ鳥!」
光り物が好きなのか、巨大な鳥は、それらをごっそり加えると、足取り軽く去って行ってしまった。
取り残されたのは、粉砕された馬車と商品を全て失った悲劇の商人だけである。
「お、覚えとけよバカ鳥——————————!」
商人の叫びに呼応するように、どこからか鳥の鳴き声が返って来たという。
翌日、街で一番大きな酒場にこんな張り紙が貼られていた。
『本日、20時より大鶏肉祭開催! 鶏肉料理が食べ放題! みなさん奮ってご参加を!』
「さて、後は食材を捕まえるだけね。卵一つも逃しはしないわ」
その日の朝、そんなセリフを呟きながらハンターオフィスに向かう赤毛の女性が目撃されたという。
赤毛の美人商人様からの依頼です
本日の夜に催されるイベントの食材を取って来て欲しいとの事です。
対象は、街近くの街道が通る渓谷に生息していると思われる巨大な鳥。
姿かたちは平胸類のよう、つまり走る事に特化しているダチョウのような姿をしていますが、その大きさは馬車を軽く凌駕していると聞いています。
今回の依頼は簡単に言えば、その巨大な鳥の狩猟と、その鳥の巣を発見し卵を手に入れる事です。
生息予想地は街からさほど離れていませんし、鳴き声が時たま聞こえてくる、との事ですから捜索範囲は大きくありません。巨大な生物が隠れられそうな場所も限られているはずです。
探し方、もしくは誘き出し方はお任せします。好きな方法で構いません。
特筆事項がいくつかあります。
まず、狩猟対象ですが、後々食材として扱う為極力外傷を増やさないようにお願いします。
次に卵ですが、うっかり壊してしまわないように注意して下さい。もっとも、本当に卵があるかどうかは分からないらしいので、あれば持ち帰る、という形でかまいません。
美人の商人さんですが、鳥の巣まで意地でもついて行くと言っています。戦闘になれば邪魔にならないように離れているとは言っていますが、怪我させないように気を付けて下さいね。
巨大な鳥と、その卵を持ち帰るために運搬用の馬車を準備するとの事です。行きぐらいは荷台に乗せてもらえるのではないでしょうか。はい、帰りは知りません。歩いて行けない距離ではないですから。
そうそう狩猟対象ですが、火を吹くそうです。射程距離は1メートルぐらいだったと聞いていますが、それより長距離に火を吹く事も可能かもしれません。大ヤケドしないように十分注意した方がいいと思います。
最後になりましたが、依頼人さんからの伝言があります。
『狩猟に成功したら脚の一本ぐらいあげるから好きにしていいわよ』
だそうです。
知ってますか? ダチョウの肉は高タンパク、低脂肪、歯ごたえ有りのヘルシー肉として需要があるそうです。ステーキに焼き肉、刺身にタタキと味にクセが少ないため、味付けの幅が豊富なんだとか。流れる川を眺めながら自然の中で食べるのもなかなかいいと思いませんか?
いえ、特に関係は無い情報です。私ですか? はい、焼き鳥は好きですよ。
では、蹴り飛ばされたり黒こげにされたりしないように。ご武運を。
以上、まだ若いハンターオフィスの受付嬢による事情説明。
リプレイ本文
二頭の馬が引いているのは、板に車輪を付けただけのような簡素なしかし巨大な荷台だった。
その馬車を軽々と操っているのは赤髪の女商人であり、激しい揺れに晒されながら荷台に乗っているのは六人のハンターである。
加えて赤い果実が一杯につまった大きな木箱が荷台の端で大きく揺れている。今回のターゲットである巨大な鳥をおびき寄せる為の餌なのだが、荷台が揺れる度に漂う甘い柔らかい香りは、六人の食欲を大きく刺激していた。
「うまそーだな」
箱に寄りかかるようにして座っていたユーロス・フォルケ(ka3862)がそうポツリと呟いた。
「ダメだぞ、ユーロス殿。それは作戦に用いる大事な餌だ」
それをやんわりと咎めたのはクリスティン・ガフ(ka1090)だ。
「別に食べる気はねぇよ」
「あははは、干して食べるものだから、人の口には合わないと思うけど……一つぐらい食べてもかまわないよ?」
商人は笑いながらそんな事を言った。
「だから食べる気はねぇって」
その時、馬車の荷台が大きく揺れた。箱から転がり出た赤い果実は、Σ(ka3450)の元へと転がって行く。
「……」
Σはそれを無言で拾うと、黙ったまま隣のユーロスに投げ渡した。
「だから食べねえって!」
「……」
不必要なコミュニケーションをとる気が無いΣはそんなユーロスの言葉を聞いているのかいないのか、黙ったまま流れる景色を眺めるだけである。
「それで、エクラ教に入信する気にはなった? 真司君」
「検討中だ」
セリス・アルマーズ(ka1079)は柊 真司(ka0705)をひたすらに宗教へ勧誘中であり、真司はそれを軽く受け流していた。
「お願いですから、あまり標的に近づかないように気を付けて下さいね?」
「わかってるってー、任せておいて!」
落葉松 鶲(ka0588)は無茶をしそうな商人へと念を押す。
「餌で標的をおびき寄せ、巣まで帰る後を付けて行く事になるが、追跡は我々が行う。間違っても一人で追いかけたりはしないでくれよ」
「大丈夫大丈夫、怪我するような事はしないよ」
補足を付け加えたクリスティンに対する言葉もどうにも適当な商人である。
護衛にセリスがつくとはいえ、どうにも不安は拭えない。
そんなクリスティンと落葉松が顔を見合わせる、と、馬車はガクンと一度大きく揺れるとゆっくりと動きを止めた。
「そんな不安そうな顔しないでよ、ほら! みんなついたよ」
キレイな水がとうとうと流れる渓流。川の流れは存外速く、川幅も広い。反対側は緑が生い茂った険しい崖が高い所まで続いている。
そんな渓谷沿いの街道の比較的に道幅が広い所で馬車は停車していた。
「ここらへんまで来れば十分でしょう」
商人はひらりと馬車から飛び降りると、まだ荷台の上にいる六人のハンターに向き直った。
「さぁ、獲物探しを始めよう。よろしく頼むねハンターさん」
そう言って商人はニヤリと笑った。
不測の事態とは起こりうるものである。
今回の場合は、探す事を前提としていた、つまり準備ができた上で遭遇する事を前提としていた事が原因だ。
馬車の荷台から真司が果実の詰まった箱をおろそうとした時である。
「クェェェェェェェ!」
いきなり渓谷にけたたましい鳴き声が響き渡り、馬車の真ん前に巨大な何かが落ちて来たのだ。
「うわっ!」
いきなり目の前に現れた巨大な何かに驚いた商人は、慌てて足をすべらせ尻餅をつく。
見上げるような巨体、太い脚に、大きな翼。
ターゲットである巨大な鳥が、果実の匂いに誘われて自ら登場して来たのだ。どうやら崖の上から飛び降りて来たらしい。
「セリス!」
「分かってる!」
真司が叫ぶよりも早く、セリスは商人をかばうように鳥の前に立っていた。
攻撃を防ぐ為に盾を構える。
真司は木箱を抱えたまま、馬車から距離を取るように走り出す。囮になり、鳥から馬車と商人を引き離すつもりなのだ。
落葉松、クリスティンは、鳥の両側面にまわり、ユーロス、Σは鳥の背後についた。
ハンターの資質とは、不測の事態に陥った時どう立ち回るかによっても測る事が出来るが、その面ではこの六人のハンターは非常に優秀と言えるだろう。
一瞬で守りと、迎撃の体勢を整えたのだ。何が起こったか分からず未だ動けないでいるのは商人だけである。
慌ててむやみに攻撃する事も無かったおかげで下手に反撃される事も無い。
鳥はハンター達に見向きもせず、真司を追う。もっとも、正確には真司の抱える大量の果実である。
大きな歩幅のため、鳥は数歩で真司に追いつく。
「よっと!」
真治は木箱を、放り捨てると紙一重で鳥の脚の間をくぐり抜ける。
「クケッ」
一目散に木箱にクチバシを突っ込んだ鳥は、果汁をまき散らしながら果実を飲み込んで行く。
「クゲップ!」
一瞬にして餌の無くなった木箱から顔を上げると、鳥は一息つくように虚空に火炎を吐いた。
そしてジロリと武器を構えるハンター達を見下ろすと、踵を返して再び走り出そうとする。
次の餌場か、巣に帰るかは分からないが、飛べない以上地面を行くのは明白だ。
「行くぞ」
剣を構え、隙のない視線を巡らすクリスティンの一言を皮切りに、ハンター達は獲物を追跡する為に一斉に走り出す。
「うふふふふふ! 逃がさないわよ!」
それとほぼ同時に、いつの間にか馬車に戻っていた商人が馬に思いっきり鞭を入れた。
「あっ! ちょっと! 勝手に行かないで!」
商人を静止しようと、慌ててセリスも荷台に飛び乗るが、馬車はそのまま急発進である。
「おとなしく、お金になりなさい!」
商人の叫びとともに巨大な鳥の大追跡劇が幕を開けた。
幸か不幸か、追跡劇は鳥の巣の発見によりあっさりと終わる事になった。
木陰に隠れた大きな崖の亀裂に、鳥はヒョコヒョコと入り込んで行ったのだ。
「勝手に行かないでっていったじゃない!」
「私からも頼む、商人殿あまり危ない事はしないでくれ」
「もう! だから言ったじゃないですか!」
その巣の近くで、セリス、クリスティン、落葉松に注意を受けながらも商人からはほとんど反省の色は伺えない。
「わかった、もうしないから!」
そんな事を言う商人を女性三人はジト目で見つめる。
一方、真司は持参したロープを張り巡らせ、鳥討伐の為の罠をこしらえる。
ユーロスとΣは既に散開し攻撃位置についている。
鳥を誘き出すのは、落葉松の役目だ。
「ではセリスさん、商人さんはお任せしますね」
「今度こそ任せて」
光を反射するネックレスを手にもって、落葉松は巣へと近づく。
「クケ?」
チラリと反射した光に気がついたのか、大きな鳥はのそりのそりと再び巣穴から顔を出した。
その目に映るのは光り輝くネックレスだ。
「クケェ!」
その瞬発力は恐るべきものである。
一瞬で相対距離がゼロになった鳥の鋭いクチバシを、落葉松は身をよじってかわす。そのまま落葉松は連続して襲いかかってくるクチバシを一歩一歩確実に見極めながら避け続ける。槍でいなし、ステップで下がる。
「クケッ!」
落葉松の見事な誘導により鳥の脚がロープに引っかかったのはその時だ。巨大な身体が大きく傾ぐ。
瞬間、攻撃の機会を待っていたユーロス、Σ、真司、クリスティンが四方向から同時に飛びかかった。
タイミングは完璧だ。
「クケッ!」
しかし、鳥はそこまで簡単な相手ではなかった。大きくアギトを開くと巨大な火炎をばらまいた。
「うわっちぃ!」
「……話の通りだなおもしろい」
左右から挟み込むような形で飛びかかったユーロスとΣは、灼熱の息吹をなんとかかいくぐる。
同時に、振り抜かれた翼は、その大きさ故に巨大なエネルギーを秘めていた。
攻撃になっていないような攻撃でもその大きさ故に大きな脅威となる。
木々をなぎ倒しながら迫ってくる翼は、真司やクリスティンと言えど避けるしか無い。
命の危険を感じた事がその大きさ故に少なかったのか、巨大な鳥はハンター達の脅威に気づくと、ただただ暴れ始めた。火炎をばらまき、翼をいたずらに振り回す。強靭な脚の一撃はハンターでも直撃すれば怪我では済みそうにない。
「危ない!」
流れ弾をセリスが盾で弾きとばす。
さすがに鳥の暴れっぷりに恐れをなしたのか、商人はすっかり放心状態だ。飛んでくる大きな瓦礫や灼熱の息吹をセレスはひたすら受け止め続ける。
商人の盾になるため、セレスは逃げる事ができない。大盾では防ぎきれない細かな破片は彼女に降り注ぎ続けるが、彼女は決して動こうとしない。商人はまるで巨大な壁に守られているかのように無傷のままである。
「適度な運動にヘルシーな鶏肉ね、なかなかいい仕事じゃない」
まるでダメージが無いようにそんな軽口を叩きながら、またもや飛んで来た大きな石を弾きとばす。
「……」
Σが動いたのは丁度その時だ。
彼の投げたナイフが鳥のクチバシをかすめて飛んで行く。
精確な軌道を描いたナイフはギリギリ鳥にはあたらない。
しかし、ただそれだけの事で鳥の動きは一瞬止まった。
そしてクリスティンには一瞬で十分だった。
普段よりもいくらかキリっとした雰囲気を纏った彼女は、攻めの構えを崩さない。
飛んでくる鋭い破片が彼女の肌を浅く裂く。しかしそんな事は問題にならない。
静かに一歩踏み込む。そして放たれる強烈な一撃。
両手で振り抜いたルーンソードは鳥の強靭な脚をあっさりと切り裂いた。
「ゲェェェェェェェェ!」
強烈な叫び声。しかしまだ倒れる事は無い。
「おらっ!」
だが真司に斧による一撃が間髪入れずに、傷ついた脚に迫る。
グレイシャーによる一撃は一瞬で斬撃箇所を凍り付かせる。
クリスティンの攻撃で弱っていた脚部は、その一発で粉々に砕け散った。
「おら、大人しく狩られて俺の夕飯になりやがれぇえええ!!」
片足を失い、動きに勢いが無くなった鳥の背中に飛び乗ったのは、他でもないユーロスだ。
鳥の頭を後ろから思いっきりぶん殴ったと思うと、両腕でギリギリと鳥の首を締め付ける。
「ははっ! 鳥は絞めるのが一番ってなぁ!」
呼吸が苦しくなった鳥は当然ながら暴れ回る。無理矢理に空気を吸い込み、再び火炎をまき散らそうとクチバシを開こうとする。が、Σの鞭で縛られたクチバシが大きく開く事は無かった。
「ゴフッ!」
吐き出すはずの火炎が、クチバシの中で暴発する。完全に鳥は動きを止める。脚を失った身体は重力に従い倒れて行く。
その時には、セリスの唱えたホーリーセイバーは、すでにもう一人のハンターの武器に力を宿していた。
全長180センチのシンプルな槍、フラメア。
白い輝きが加わった槍を軽々と振り回す落葉松は、力を込めた一撃を放つ。
同時に宙に舞ったのは真っ赤な鮮血と大きな鳥の頭である。
「では一応吊るしてしっかりと血抜きを行おう」
「そうですね、羽も取った方がいいのでしょうか? お湯、たりますかね」
可憐な女性が二人、巨大な鳥を前にして解体手順について話し合っているというのは中々不思議な感じがする。
狩猟知識のあるクリスティンと落葉松はナイフ片手にそんな会話を繰り広げていた。
ユーロスはと言うと、一人で必死に焼き鳥の準備である。
「おおおおお! うまい肉が食えるぜぇ!」
よっぽどお腹がすいていたのか、それとも肉が食べたいのかは分からないが、それなりに手際はいいようだ。
ちなみにΣは仕事が終わるとさっさと帰ってしまっていた。
彼なりに不思議な鳥との戦闘を楽しんだのか、満足そうな顔をしていた。
一方、主のいなくなった巣の方でもこれまた不毛なる争いが行われていた。
「ちょっと! それは私のよ真司君!」
「ふざけんな! これは俺が見つけたんだから俺のだ!」
セリスと真司は、たからさがしに夢中である。予想通り光り物がたくさん落ちていた巣の中で半ば取り合いしながらかき集めている。
錆びた鉄板などゴミも多かったが、それ以上に装飾品や刀剣類の類が多く転がっており、二人の両手はすぐにいっぱいになってしまった。
「こ、これは結構な金額になるんじゃないの?」
「なかなか言い金になるぞ」
宝石の装飾がついたナイフや、儀礼用のギラギラした剣を抱えて二人はほくそ笑む。
残念ながら鳥の卵は見つからなかったが、二人は抱えるだけ抱えて巣を後にしようとした。
「ありがとう、二人とも私の荷物を探してくれて」
そこでそんな事を言い出したのは他でもない、依頼人である商人だ。
「はい、じゃあこの袋に入れて? はい、ありがと」
商人は準備していたらしい大きな布袋に、半ば強引に二人の抱えたお宝を詰め込んだ。
「え?」
「へ?」
商人はチラリと巣の中を覗くと、満足そうに頷いた。
「ん、後は私の荷物じゃないから好きにしていいよー、じゃあ私は馬車にこれを置いてくるから」
ずっしりと重そうな袋を担いで商人は去って行く。
「……」
「……」
セリスと真司はお互い顔を見合わせた。
巣の中に残っていたのは、ガラクタだけだった。
「じゃあ私は先に帰るから、気が向いたら鶏肉祭りに顔出してね、安くしとくよ」
最低限の処理を終えた大量の鶏肉と、自称自分の荷物である多くの光り物を荷台に詰め込み、商人は恐るべき速さで馬車を走らせて去って行った。
発車の直前に「守ってくれてありがとね」と小声でウィンクを送ったのは恐らくセシルに向けてだろう。
そして残されたのは五人のハンターと、刀傷がついた鳥の脚一本である。
もっともサイズがサイズなのでその量は非常に多い。
「よっしゃーとりあえず焼き鳥に唐揚げだ!」
嬉しそうにそう叫んだのはほかでもないユーロスだ。
「お手伝いします」
料理がそれなりにできる落葉松もすすんで協力を申し出る。
「ヘルシー、ヘルシー鶏肉、楽しみね」
「……そもそもこの肉はうまいのか?」
「真司殿、今更そんな事を言ってどうする」
どうやら残る三人は食べる専門になるらしい。
それなりに激しい戦いの後、ハンター達の一時の休息は、鶏肉の焼ける匂いとともに始まったのだ。
「ふふふふーん、いい儲け! いい儲け! さーて次は何で儲けようかなぁ」
数日後、街から旅立つ商人の馬車は、それはもう立派なものになっていたとう。
この世界では、強い意志を持つものが強いのだ。
それはハンターも商人も同じ事なのかもしれない。
その馬車を軽々と操っているのは赤髪の女商人であり、激しい揺れに晒されながら荷台に乗っているのは六人のハンターである。
加えて赤い果実が一杯につまった大きな木箱が荷台の端で大きく揺れている。今回のターゲットである巨大な鳥をおびき寄せる為の餌なのだが、荷台が揺れる度に漂う甘い柔らかい香りは、六人の食欲を大きく刺激していた。
「うまそーだな」
箱に寄りかかるようにして座っていたユーロス・フォルケ(ka3862)がそうポツリと呟いた。
「ダメだぞ、ユーロス殿。それは作戦に用いる大事な餌だ」
それをやんわりと咎めたのはクリスティン・ガフ(ka1090)だ。
「別に食べる気はねぇよ」
「あははは、干して食べるものだから、人の口には合わないと思うけど……一つぐらい食べてもかまわないよ?」
商人は笑いながらそんな事を言った。
「だから食べる気はねぇって」
その時、馬車の荷台が大きく揺れた。箱から転がり出た赤い果実は、Σ(ka3450)の元へと転がって行く。
「……」
Σはそれを無言で拾うと、黙ったまま隣のユーロスに投げ渡した。
「だから食べねえって!」
「……」
不必要なコミュニケーションをとる気が無いΣはそんなユーロスの言葉を聞いているのかいないのか、黙ったまま流れる景色を眺めるだけである。
「それで、エクラ教に入信する気にはなった? 真司君」
「検討中だ」
セリス・アルマーズ(ka1079)は柊 真司(ka0705)をひたすらに宗教へ勧誘中であり、真司はそれを軽く受け流していた。
「お願いですから、あまり標的に近づかないように気を付けて下さいね?」
「わかってるってー、任せておいて!」
落葉松 鶲(ka0588)は無茶をしそうな商人へと念を押す。
「餌で標的をおびき寄せ、巣まで帰る後を付けて行く事になるが、追跡は我々が行う。間違っても一人で追いかけたりはしないでくれよ」
「大丈夫大丈夫、怪我するような事はしないよ」
補足を付け加えたクリスティンに対する言葉もどうにも適当な商人である。
護衛にセリスがつくとはいえ、どうにも不安は拭えない。
そんなクリスティンと落葉松が顔を見合わせる、と、馬車はガクンと一度大きく揺れるとゆっくりと動きを止めた。
「そんな不安そうな顔しないでよ、ほら! みんなついたよ」
キレイな水がとうとうと流れる渓流。川の流れは存外速く、川幅も広い。反対側は緑が生い茂った険しい崖が高い所まで続いている。
そんな渓谷沿いの街道の比較的に道幅が広い所で馬車は停車していた。
「ここらへんまで来れば十分でしょう」
商人はひらりと馬車から飛び降りると、まだ荷台の上にいる六人のハンターに向き直った。
「さぁ、獲物探しを始めよう。よろしく頼むねハンターさん」
そう言って商人はニヤリと笑った。
不測の事態とは起こりうるものである。
今回の場合は、探す事を前提としていた、つまり準備ができた上で遭遇する事を前提としていた事が原因だ。
馬車の荷台から真司が果実の詰まった箱をおろそうとした時である。
「クェェェェェェェ!」
いきなり渓谷にけたたましい鳴き声が響き渡り、馬車の真ん前に巨大な何かが落ちて来たのだ。
「うわっ!」
いきなり目の前に現れた巨大な何かに驚いた商人は、慌てて足をすべらせ尻餅をつく。
見上げるような巨体、太い脚に、大きな翼。
ターゲットである巨大な鳥が、果実の匂いに誘われて自ら登場して来たのだ。どうやら崖の上から飛び降りて来たらしい。
「セリス!」
「分かってる!」
真司が叫ぶよりも早く、セリスは商人をかばうように鳥の前に立っていた。
攻撃を防ぐ為に盾を構える。
真司は木箱を抱えたまま、馬車から距離を取るように走り出す。囮になり、鳥から馬車と商人を引き離すつもりなのだ。
落葉松、クリスティンは、鳥の両側面にまわり、ユーロス、Σは鳥の背後についた。
ハンターの資質とは、不測の事態に陥った時どう立ち回るかによっても測る事が出来るが、その面ではこの六人のハンターは非常に優秀と言えるだろう。
一瞬で守りと、迎撃の体勢を整えたのだ。何が起こったか分からず未だ動けないでいるのは商人だけである。
慌ててむやみに攻撃する事も無かったおかげで下手に反撃される事も無い。
鳥はハンター達に見向きもせず、真司を追う。もっとも、正確には真司の抱える大量の果実である。
大きな歩幅のため、鳥は数歩で真司に追いつく。
「よっと!」
真治は木箱を、放り捨てると紙一重で鳥の脚の間をくぐり抜ける。
「クケッ」
一目散に木箱にクチバシを突っ込んだ鳥は、果汁をまき散らしながら果実を飲み込んで行く。
「クゲップ!」
一瞬にして餌の無くなった木箱から顔を上げると、鳥は一息つくように虚空に火炎を吐いた。
そしてジロリと武器を構えるハンター達を見下ろすと、踵を返して再び走り出そうとする。
次の餌場か、巣に帰るかは分からないが、飛べない以上地面を行くのは明白だ。
「行くぞ」
剣を構え、隙のない視線を巡らすクリスティンの一言を皮切りに、ハンター達は獲物を追跡する為に一斉に走り出す。
「うふふふふふ! 逃がさないわよ!」
それとほぼ同時に、いつの間にか馬車に戻っていた商人が馬に思いっきり鞭を入れた。
「あっ! ちょっと! 勝手に行かないで!」
商人を静止しようと、慌ててセリスも荷台に飛び乗るが、馬車はそのまま急発進である。
「おとなしく、お金になりなさい!」
商人の叫びとともに巨大な鳥の大追跡劇が幕を開けた。
幸か不幸か、追跡劇は鳥の巣の発見によりあっさりと終わる事になった。
木陰に隠れた大きな崖の亀裂に、鳥はヒョコヒョコと入り込んで行ったのだ。
「勝手に行かないでっていったじゃない!」
「私からも頼む、商人殿あまり危ない事はしないでくれ」
「もう! だから言ったじゃないですか!」
その巣の近くで、セリス、クリスティン、落葉松に注意を受けながらも商人からはほとんど反省の色は伺えない。
「わかった、もうしないから!」
そんな事を言う商人を女性三人はジト目で見つめる。
一方、真司は持参したロープを張り巡らせ、鳥討伐の為の罠をこしらえる。
ユーロスとΣは既に散開し攻撃位置についている。
鳥を誘き出すのは、落葉松の役目だ。
「ではセリスさん、商人さんはお任せしますね」
「今度こそ任せて」
光を反射するネックレスを手にもって、落葉松は巣へと近づく。
「クケ?」
チラリと反射した光に気がついたのか、大きな鳥はのそりのそりと再び巣穴から顔を出した。
その目に映るのは光り輝くネックレスだ。
「クケェ!」
その瞬発力は恐るべきものである。
一瞬で相対距離がゼロになった鳥の鋭いクチバシを、落葉松は身をよじってかわす。そのまま落葉松は連続して襲いかかってくるクチバシを一歩一歩確実に見極めながら避け続ける。槍でいなし、ステップで下がる。
「クケッ!」
落葉松の見事な誘導により鳥の脚がロープに引っかかったのはその時だ。巨大な身体が大きく傾ぐ。
瞬間、攻撃の機会を待っていたユーロス、Σ、真司、クリスティンが四方向から同時に飛びかかった。
タイミングは完璧だ。
「クケッ!」
しかし、鳥はそこまで簡単な相手ではなかった。大きくアギトを開くと巨大な火炎をばらまいた。
「うわっちぃ!」
「……話の通りだなおもしろい」
左右から挟み込むような形で飛びかかったユーロスとΣは、灼熱の息吹をなんとかかいくぐる。
同時に、振り抜かれた翼は、その大きさ故に巨大なエネルギーを秘めていた。
攻撃になっていないような攻撃でもその大きさ故に大きな脅威となる。
木々をなぎ倒しながら迫ってくる翼は、真司やクリスティンと言えど避けるしか無い。
命の危険を感じた事がその大きさ故に少なかったのか、巨大な鳥はハンター達の脅威に気づくと、ただただ暴れ始めた。火炎をばらまき、翼をいたずらに振り回す。強靭な脚の一撃はハンターでも直撃すれば怪我では済みそうにない。
「危ない!」
流れ弾をセリスが盾で弾きとばす。
さすがに鳥の暴れっぷりに恐れをなしたのか、商人はすっかり放心状態だ。飛んでくる大きな瓦礫や灼熱の息吹をセレスはひたすら受け止め続ける。
商人の盾になるため、セレスは逃げる事ができない。大盾では防ぎきれない細かな破片は彼女に降り注ぎ続けるが、彼女は決して動こうとしない。商人はまるで巨大な壁に守られているかのように無傷のままである。
「適度な運動にヘルシーな鶏肉ね、なかなかいい仕事じゃない」
まるでダメージが無いようにそんな軽口を叩きながら、またもや飛んで来た大きな石を弾きとばす。
「……」
Σが動いたのは丁度その時だ。
彼の投げたナイフが鳥のクチバシをかすめて飛んで行く。
精確な軌道を描いたナイフはギリギリ鳥にはあたらない。
しかし、ただそれだけの事で鳥の動きは一瞬止まった。
そしてクリスティンには一瞬で十分だった。
普段よりもいくらかキリっとした雰囲気を纏った彼女は、攻めの構えを崩さない。
飛んでくる鋭い破片が彼女の肌を浅く裂く。しかしそんな事は問題にならない。
静かに一歩踏み込む。そして放たれる強烈な一撃。
両手で振り抜いたルーンソードは鳥の強靭な脚をあっさりと切り裂いた。
「ゲェェェェェェェェ!」
強烈な叫び声。しかしまだ倒れる事は無い。
「おらっ!」
だが真司に斧による一撃が間髪入れずに、傷ついた脚に迫る。
グレイシャーによる一撃は一瞬で斬撃箇所を凍り付かせる。
クリスティンの攻撃で弱っていた脚部は、その一発で粉々に砕け散った。
「おら、大人しく狩られて俺の夕飯になりやがれぇえええ!!」
片足を失い、動きに勢いが無くなった鳥の背中に飛び乗ったのは、他でもないユーロスだ。
鳥の頭を後ろから思いっきりぶん殴ったと思うと、両腕でギリギリと鳥の首を締め付ける。
「ははっ! 鳥は絞めるのが一番ってなぁ!」
呼吸が苦しくなった鳥は当然ながら暴れ回る。無理矢理に空気を吸い込み、再び火炎をまき散らそうとクチバシを開こうとする。が、Σの鞭で縛られたクチバシが大きく開く事は無かった。
「ゴフッ!」
吐き出すはずの火炎が、クチバシの中で暴発する。完全に鳥は動きを止める。脚を失った身体は重力に従い倒れて行く。
その時には、セリスの唱えたホーリーセイバーは、すでにもう一人のハンターの武器に力を宿していた。
全長180センチのシンプルな槍、フラメア。
白い輝きが加わった槍を軽々と振り回す落葉松は、力を込めた一撃を放つ。
同時に宙に舞ったのは真っ赤な鮮血と大きな鳥の頭である。
「では一応吊るしてしっかりと血抜きを行おう」
「そうですね、羽も取った方がいいのでしょうか? お湯、たりますかね」
可憐な女性が二人、巨大な鳥を前にして解体手順について話し合っているというのは中々不思議な感じがする。
狩猟知識のあるクリスティンと落葉松はナイフ片手にそんな会話を繰り広げていた。
ユーロスはと言うと、一人で必死に焼き鳥の準備である。
「おおおおお! うまい肉が食えるぜぇ!」
よっぽどお腹がすいていたのか、それとも肉が食べたいのかは分からないが、それなりに手際はいいようだ。
ちなみにΣは仕事が終わるとさっさと帰ってしまっていた。
彼なりに不思議な鳥との戦闘を楽しんだのか、満足そうな顔をしていた。
一方、主のいなくなった巣の方でもこれまた不毛なる争いが行われていた。
「ちょっと! それは私のよ真司君!」
「ふざけんな! これは俺が見つけたんだから俺のだ!」
セリスと真司は、たからさがしに夢中である。予想通り光り物がたくさん落ちていた巣の中で半ば取り合いしながらかき集めている。
錆びた鉄板などゴミも多かったが、それ以上に装飾品や刀剣類の類が多く転がっており、二人の両手はすぐにいっぱいになってしまった。
「こ、これは結構な金額になるんじゃないの?」
「なかなか言い金になるぞ」
宝石の装飾がついたナイフや、儀礼用のギラギラした剣を抱えて二人はほくそ笑む。
残念ながら鳥の卵は見つからなかったが、二人は抱えるだけ抱えて巣を後にしようとした。
「ありがとう、二人とも私の荷物を探してくれて」
そこでそんな事を言い出したのは他でもない、依頼人である商人だ。
「はい、じゃあこの袋に入れて? はい、ありがと」
商人は準備していたらしい大きな布袋に、半ば強引に二人の抱えたお宝を詰め込んだ。
「え?」
「へ?」
商人はチラリと巣の中を覗くと、満足そうに頷いた。
「ん、後は私の荷物じゃないから好きにしていいよー、じゃあ私は馬車にこれを置いてくるから」
ずっしりと重そうな袋を担いで商人は去って行く。
「……」
「……」
セリスと真司はお互い顔を見合わせた。
巣の中に残っていたのは、ガラクタだけだった。
「じゃあ私は先に帰るから、気が向いたら鶏肉祭りに顔出してね、安くしとくよ」
最低限の処理を終えた大量の鶏肉と、自称自分の荷物である多くの光り物を荷台に詰め込み、商人は恐るべき速さで馬車を走らせて去って行った。
発車の直前に「守ってくれてありがとね」と小声でウィンクを送ったのは恐らくセシルに向けてだろう。
そして残されたのは五人のハンターと、刀傷がついた鳥の脚一本である。
もっともサイズがサイズなのでその量は非常に多い。
「よっしゃーとりあえず焼き鳥に唐揚げだ!」
嬉しそうにそう叫んだのはほかでもないユーロスだ。
「お手伝いします」
料理がそれなりにできる落葉松もすすんで協力を申し出る。
「ヘルシー、ヘルシー鶏肉、楽しみね」
「……そもそもこの肉はうまいのか?」
「真司殿、今更そんな事を言ってどうする」
どうやら残る三人は食べる専門になるらしい。
それなりに激しい戦いの後、ハンター達の一時の休息は、鶏肉の焼ける匂いとともに始まったのだ。
「ふふふふーん、いい儲け! いい儲け! さーて次は何で儲けようかなぁ」
数日後、街から旅立つ商人の馬車は、それはもう立派なものになっていたとう。
この世界では、強い意志を持つものが強いのだ。
それはハンターも商人も同じ事なのかもしれない。
依頼結果
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相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/13 10:38:38 |
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行動予定(仮) クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/13 10:26:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/10 19:27:34 |