ゲスト
(ka0000)
コボルドと追いかけっこ
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/29 19:00
- 完成日
- 2014/07/05 12:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●出発進行
町から町へ、大きな町から近隣の小さな町や村へ乗合馬車は、今日も土埃と小気味よい鞭の音、馬の嘶きと手綱の撓る音を共に軽快に走っていく。
ある町の駅で妙齢の女性が乗り込んでくる。馭者は懐中時計で時間を計りながら、遠眼鏡で行き先を眺めていた。女性が目的地までの時間を尋ねて、馭者は遠眼鏡の先を確り睨んで、首を振った。
「最近どうも、道に出てくるコボルドが危なっかしくて……気をつけちゃいるんですけどね、この前もこの先で、コボルドを蹴り飛ばした馬が転けたらしくってさ。死者も怪我人も大勢出る事故があってね……」
「それは、それは。是非、気をつけて走って下さいね」
「勿論、そのつもりですよ――まあ、何事も無けりゃ、1時間ほどですね」
女性が乗り込むと、既に多くの客が座っていた。端の窓際に座って、それから数人が乗り込んで、ピシ、と鞭が一つ鳴って。
二頭立ての馬車は年季の入った幌を牽いて走り始めた。
乗合馬車は走る。潺の橋を越えて、畑の脇を駆け抜けて。
幌の中では楽しげな会話が弾んでいる。
行き先を気に掛けていた女性も、隣に掛けた老人と談笑していた。元は猟師だという老人の話しは、とても興味深かった。
彼がよく狩りに入ったという山が見え、その麓に村が広がっている。長閑で、穏やかな景色。到着まで、まだもう少し掛かりそうだ。
●悪戯発生
山の麓の村はずれ、小さな家の庭先、留守番の少女が一人人形を抱えて遊んでいた。
葉っぱのお皿に土のお団子、花びらを浮かべた雨水のスープ。一人は少し退屈だった。
少女に話し掛ける陰が1つ2つ、3つ4つ。キシシと笑ったコボルドは人形を掠って走って行った。
反対側の村はずれ、他の家より少し大きい村長の家。
珍しく無人なその家を覗いて、キシシと笑う陰が5つ。
その陰を見つけた農夫が鍬を振り回すと、コボルド達は逃げていった。家はどうやら無事らしい。
●本日の依頼と、偶発的な追いかけっこ
「コボルドですか? 分かりました、ではハンターさん達を集めてシュババババっと、懲らしめちゃいますね……増えると厄介ですし、すぐ増えちゃいますもんね。善は急げってやつですよ」
案内人が請け負ってきたのは村で時折見かけるようになったコボルドの駆除。
山中の洞穴に住み着いてしまったらしく、このところ毎日のように、軒に吊った保存食が盗まれたり、納屋が荒らされたり、庭や畑を悪戯されたり。と、小さな被害が報告されている。
目撃されるのは日に多くても3、4匹らしいが、増えてしまう前に駆除しておきたいとのことだった。
追い払うのはそろそろ疲れた。巣穴ごと潰して貰いたいものだ、と村長は深い溜息を吐く。
コボルドならハンターの敵ではないです、と案内人は胸を張って依頼を持ち帰り、ハンター達に招集を掛けた。
「最近、コボルドの被害ってどこででも起きてて嫌になりますね。でも、コボルドなら皆さんの敵ではありませんよねっ。ササッと懲らしめて、村で採れた夏野菜のスープ、食べに行きま、しょ……う?」
くる、くるり、案内人がはしゃぐその眼前を、一匹のコボルドが走って行った。
呆気に取られた案内人のぱちくり瞬く眼前を、今度は少女が走って行った。
「待て――――っ」
そしてその後ろから、コボルドが3匹追いかけて行った。
コボルドと少女を追いかけようとして足を縺れさせた案内人はその場で転び、村長が少女とコボルドたちの走って行く先を指さし、懐中時計を引っ張り出して青ざめる。
「と、止めなくては……馬車が、馬車が来るぞ……」
「待て――――っ」
そこへ走り来た農夫に追われた5匹のコボルド。ハンターの一行と、鍬を構えた逞しい農夫と、転んだ案内人と、青ざめた村長に囲まれ、逃げ出した。
安全運転が心情の馭者。しかし、彼の目には馬車道へ走り出たコボルドも、少女もまだ見えていない。
小さな脅威が迫ることを、まだ気付いていない。
町から町へ、大きな町から近隣の小さな町や村へ乗合馬車は、今日も土埃と小気味よい鞭の音、馬の嘶きと手綱の撓る音を共に軽快に走っていく。
ある町の駅で妙齢の女性が乗り込んでくる。馭者は懐中時計で時間を計りながら、遠眼鏡で行き先を眺めていた。女性が目的地までの時間を尋ねて、馭者は遠眼鏡の先を確り睨んで、首を振った。
「最近どうも、道に出てくるコボルドが危なっかしくて……気をつけちゃいるんですけどね、この前もこの先で、コボルドを蹴り飛ばした馬が転けたらしくってさ。死者も怪我人も大勢出る事故があってね……」
「それは、それは。是非、気をつけて走って下さいね」
「勿論、そのつもりですよ――まあ、何事も無けりゃ、1時間ほどですね」
女性が乗り込むと、既に多くの客が座っていた。端の窓際に座って、それから数人が乗り込んで、ピシ、と鞭が一つ鳴って。
二頭立ての馬車は年季の入った幌を牽いて走り始めた。
乗合馬車は走る。潺の橋を越えて、畑の脇を駆け抜けて。
幌の中では楽しげな会話が弾んでいる。
行き先を気に掛けていた女性も、隣に掛けた老人と談笑していた。元は猟師だという老人の話しは、とても興味深かった。
彼がよく狩りに入ったという山が見え、その麓に村が広がっている。長閑で、穏やかな景色。到着まで、まだもう少し掛かりそうだ。
●悪戯発生
山の麓の村はずれ、小さな家の庭先、留守番の少女が一人人形を抱えて遊んでいた。
葉っぱのお皿に土のお団子、花びらを浮かべた雨水のスープ。一人は少し退屈だった。
少女に話し掛ける陰が1つ2つ、3つ4つ。キシシと笑ったコボルドは人形を掠って走って行った。
反対側の村はずれ、他の家より少し大きい村長の家。
珍しく無人なその家を覗いて、キシシと笑う陰が5つ。
その陰を見つけた農夫が鍬を振り回すと、コボルド達は逃げていった。家はどうやら無事らしい。
●本日の依頼と、偶発的な追いかけっこ
「コボルドですか? 分かりました、ではハンターさん達を集めてシュババババっと、懲らしめちゃいますね……増えると厄介ですし、すぐ増えちゃいますもんね。善は急げってやつですよ」
案内人が請け負ってきたのは村で時折見かけるようになったコボルドの駆除。
山中の洞穴に住み着いてしまったらしく、このところ毎日のように、軒に吊った保存食が盗まれたり、納屋が荒らされたり、庭や畑を悪戯されたり。と、小さな被害が報告されている。
目撃されるのは日に多くても3、4匹らしいが、増えてしまう前に駆除しておきたいとのことだった。
追い払うのはそろそろ疲れた。巣穴ごと潰して貰いたいものだ、と村長は深い溜息を吐く。
コボルドならハンターの敵ではないです、と案内人は胸を張って依頼を持ち帰り、ハンター達に招集を掛けた。
「最近、コボルドの被害ってどこででも起きてて嫌になりますね。でも、コボルドなら皆さんの敵ではありませんよねっ。ササッと懲らしめて、村で採れた夏野菜のスープ、食べに行きま、しょ……う?」
くる、くるり、案内人がはしゃぐその眼前を、一匹のコボルドが走って行った。
呆気に取られた案内人のぱちくり瞬く眼前を、今度は少女が走って行った。
「待て――――っ」
そしてその後ろから、コボルドが3匹追いかけて行った。
コボルドと少女を追いかけようとして足を縺れさせた案内人はその場で転び、村長が少女とコボルドたちの走って行く先を指さし、懐中時計を引っ張り出して青ざめる。
「と、止めなくては……馬車が、馬車が来るぞ……」
「待て――――っ」
そこへ走り来た農夫に追われた5匹のコボルド。ハンターの一行と、鍬を構えた逞しい農夫と、転んだ案内人と、青ざめた村長に囲まれ、逃げ出した。
安全運転が心情の馭者。しかし、彼の目には馬車道へ走り出たコボルドも、少女もまだ見えていない。
小さな脅威が迫ることを、まだ気付いていない。
リプレイ本文
●
コボルド退治に集められ、村の入り口でその逃走に巻き込まれたハンター達。
彼らには、村長のように青ざめている暇も無ければ、転んでいる暇だって無い。
「私はあの二匹を狙います! 皆さんも、ここは別れて討伐してください!」
イレーナ(ka0188)がワンドを構えて声を上げた。彼女の目は今逃げ出したばかりの二匹を追う。
「俺も助けるよ、逃げる前に倒そう」
同じ的を睨んだゼル・アーガイア(ka0373)が猟銃を下ろし装填を終える。
「うむ。私はあいつらを追うぞ!」
同じく猟銃に装填し、それを背負い直したレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が、既に走って行った3匹を追って道に出た。
「村長よ、やつらが戻ってきてはことじゃ。人を集めて村を守れ」
振り返りながら、まだ竦んでいる村長へ言い残すと、土埃を上げて地面を蹴った。
「足には自身があります。ボクがあの先頭を追いましょう!」
瞳に光を揺らめかせ、ロートス・リィエン(ka0513)は村へ残るハンター達へ声を掛けながら疾走する。
「私は村へ向かいましょう」
ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)が緩やかに踵を返した。軽装のコボルドさん、武器も持たずに。強力なコボルドさんなのでしょう、私の手に負えますでしょうか。淑やかに一歩踏み出した足は、軽快に地面を蹴って、村の中へ紛れていくコボルドを追って走った。
ハンター達が散った後、ユニキス・ファフナ(ka2391)が村長に尋ねる。
「自分が馬車を……村長、馬車はこの道から来るようだけども、いつここに着くのかなぁ?」
馬車を留めようと、しかし、村長は首を振った。
「すぐに来る、今に見えるだろう……間に合うか、どうか……」
今は逃げていったコボルドをハンターに任せ、レーヴェに言われた通り、村での被害を食い止めよう。村長は深く息を吐いて、のたのたと走って行った。
●
イレーナが農夫を庇いながら、青い宝石の瞬くワンドの切っ先を、逃げ出したばかりのコボルドへ向けた。
「貴方も下がってください!」
農夫が弾かれたように村長の後を追う。イレーナの足下で雑草が微かに揺れた。微風は彼女の体を包み、撫でるように髪をなびかせる。風を纏った金色の髪を波打たせ、真っ直ぐ伸ばしたワンドの先は違わず一匹のコボルドを狙う。
届く。コボルドがそれを見る間も与えずに、青い石から放たれた炎の矢は、光の軌跡を描いて向かっていった。
「右をお願いします」
そのコボルドから狙いを外さないままの、凜と清涼な声がゼルに向いた。
「ああ! 逃がさないよ」
装填を済ませた猟銃を構えて地面を踏みしめる。ストックを肩に当ててフォアグリップを握るとずしりとその重さを感じてマテリアルがざわめく。
リアサイトからフロントサイトを睨むと、その星がコボルドの真ん中を捉えた。ざらりと均された細かな土が擦れる音を立てる。
トリガーを引いた。弾丸は狙い通りに進み、貫かれたコボルドは一度跳ねて地面に伏せた。
リアサイトからその光景を眺めると、ゼルは銃を下ろした。
「よし、命中っ。俺は村に回るよ」
「はい、私もすぐに」
コボルドを射抜いた炎は高く燃え上がった瞬間に消え、そこには何も残っていない。
二匹の駆除を確認すると、一つ小さく頷いて、イレーナも村の中へと走った。
道へ出て三匹のコボルドの姿を見つけるとレーヴェは足を止めた。
その丈には少し大きな猟銃を軽々と構え、騒ぐマテリアルを感じる。銃口を向けるのは逃げていくコボルドの背。
少し遠い的だ。マテリアルを目に込めて狙いを定め、照準は正確に合わせる。狙いを据えて、けれど、彼らを倒すよりも、今は。
「――ロートス、先に行くのじゃ。ここは私が請け負おう」
「助かります。ではっ!」
先に走らせたロートスへ追いつかせない為に。
銃弾を受けた一匹が倒れ、残りの二匹は逃げ出そうとする。その行く手を阻み銃口を向けた。
「おぬしもじゃ、ユニキス。行けぇ」
ユニキスを馬車へと走らせると、二匹へ向けて猟銃を構え直す。どちらを先に屠ってやろう。
少女はコボルドを追いながら息を上げていた。あと少しで追いつけそうなのに、足がもう動かない。転けて擦りむいた膝が痛い。
もう一回、倒れそうになった時、少女よりも少しだけ背の高い少年が軽快に走って追いついてきた。
「ここは危ないですよ」
潜める声で囁いた少年が腰のダガーの抜き様にコボルドへ迫ろうとする姿に痛みを忘れて一時、見入っていると走ってきた方から数発の銃声を聞いた。
危ない、と焦った少女が足を引きずりながら道を引き返す途中、一心に走る逞しい男がすれ違い、数歩進んで足を止めた。少女を呼んでいる。
「――馬車に危ないって言いにいかんと、ならんのだけどねェ」
近づくと少女の擦った膝にロッドを向けて、ぽっと温かな光を灯す。
痛みは、すぐに無くなった。曲げても、歩いても、飛び跳ねても、もう痛くない。少女は円らな目を見張って、それから嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「いーや、気ぃつけて走れ、な?」
「うん」
おじちゃんも気をつけて、少女が手を振ると、その男はまだ若ぇよと笑って、すぐに真面目な顔に戻って走って行った。
銃を撃っていたのは少年より少しだけ背の高い女性だった。
大きな銃でコボルドを狙っている。
「下がっておれ、今にロートスが人形を取り返してくるじゃろ。ここも後一匹じゃ――のう、コボルドよ。ドワーフを無礼るでないぞ」
銃の反動にも怯まずに、その、変わった口調の女性は、少女を背に庇いながら、最後の一匹を撃ち倒した。
「ハンターの、レーヴェじゃ」
そう言って、その女性はダガーを構えた少年がロートスで、膝を治した男はユニキス、皆コボルドの駆除に来たハンターだと教えた。
村の中追い詰めたコボルドはニャンゴの顔を見上げながらぷるぷると震えて後退る。
ぺき、と足が踏み折った小枝を投げつけるが、力なく飛ぶそれは脛の横を透かして地面にぽとりと落ちた。
ゆらりと諸刃の剣を構える。
今の攻撃はコボルドさんのけん制でしょう。ならば逃げるなどもはや不可能。マテリアルの熱を感じて、ニャンゴは抜き放った剣の切っ先をコボルドの喉元に据えた。
「さあ、砕け散りましょう…………」
強力に叩き込まれた白刃に、コボルドが砕け散った。倒れるその背に留めとばかりのもう一撃を突き刺して、ニャンゴは濡れた剣を下ろした。
「亡くなっていますね……このような私に滅ぼされるなんて……」
剣を振り払って納めると、さあ、次です、と見回した。
少し先に、山の方へと逃げていく小さな後ろ姿が見えて、背後からゼルの声が聞こえた。
「ニャンゴ、そっちはどう」
ニャンゴは揃えた指で地面の血だまりを示した。ゼルはそれを見て、走って行くコボルドへ銃を向ける。
「上々みたいだね、次はあいつか」
「私が引きつけましょう……この命をお役立て頂ければ幸いです」
動く的は、狙いづらいでしょうから。そう言ってニャンゴはコボルドを追った。
剣を向けて怯ませる。地べたの土を掴んで腕を振り上げ止まったその的を、ゼルの銃弾が貫き、吹き飛ばした。
一匹だけ、逃げた道を戻ったコボルドがいた。
村長の家に辿り着くと、そこには誰もいない。村の中の少し離れたところで、仲間の断末魔が聞こえたかも知れないが、気のせいだろう。
破った柵から中に入って、ぎょろっとした目で周りを探る。
悪戯を再開させようとしたその時、村長の声が聞こえた。驚いて飛び上がり振り返ると、青ざめていた村長が、赤くなって怒っていた。
そして、その後ろから鋤を持った農夫とそのほか数人の村人がぞろぞろと集まってきた。
逃げ場を探してコボルドが周りを見回す。人垣が不意にざわついた。
「皆さん、離れて下さい――逃がしません」
イレーナがワンドを振りかざし、炎の矢を放つ。それは芝生の青い庭の中で、コボルドだけを的確に灼いて、一瞬で消えた。
今のが三匹目だったのだろうかとイレーナが見回すと、他の二匹の駆除を終えたニャンゴとゼルが集まってきた。
「……では、残るのは……」
「うん。先に逃げていった奴だらけだね」
ひとまず、村の中の安全は戻ったようだ。
銃声に振り向いたコボルドがロートスの構えるダガーを見た。
「気付かれてしまいましたか……ですが、同じ事です」
コボルドを見据えた瞳は淡い光を帯びて完全に紅く染まっている。
土埃を上げながら斬りかかる一撃で、コボルドは人形を道ばたへ放り出して倒れた。尚も藻掻いて逃げようとする肩を捉え、首へナイフを立てるとコボルドは完全に動けなくなる。
武器の血を払って納めて人形を拾う。古風な造りの布人形だった。
「これは、返して貰いますよ」
コボルドの骸は答えない。
走るユニキスが緩いカーブを越えるとすぐに馬車が見えた。道の中程へ出て手を振ると、馭者は馬脚を緩めて止まった。
「どうしました?」
「先で、ちょいと――」
村を荒らして逃げ出したコボルドが数匹、この道へ逃げ出したから駆除している。
「まあ、もう銃の音も止んで――始末は済んだと思いてェが……残ってたら、俺がやるさ」
幌の中は満席、馬の横を歩くと言ったが、馭者がタラップを空けて、歩くような速さで馬を進めた。
カーブに差し掛かると小脇に人形を抱えたロートスが手を振った。
「終わりました……いいですね、ボクも乗せて貰って良いですか?」
2人のハンターをタラップに座らせて、馬車は少し速度を上げた。
カーブを曲がると村に向かって歩いていたレーヴェと少女が見つかった。
「何じゃ、おぬしら、面白そうなところに乗っておるの」
猟銃を背負ってレーヴェが笑う。ロートスは人形の土を払って少女に差し出した。少女は目を輝かせて人形を受け取り抱き締めた。祖母の手製の物だという。
「お兄ちゃんも、小っちゃいのに、すごいのね!」
満面の笑顔を浮かべ、きらきらと幼く無邪気な眼差しでロートスの顔を覗き込んだ。
●
馬車が村に到着した。村での駆除を終えた3人が迎えると、馭者は安堵の溜息を吐いた。そして次の村へと馬車を走らせていく。
ハンターさん、ありがとう。そう言って少女は家へ帰っていった。何度も振り返って手を振って。迎えに来たらしい少女の母親がその頭を撫でて無事を喜び、ハンターの6人へ深く頭を下げた。
レーヴェはぽんと手を打って村長の家へ向かった。そこには破られた柵の前、数枚の板と釘と真新しい工具箱を並べ腕組みをする村長がいた。
「のう、復旧くらいなら引き受けるぞ? また破られても困るじゃろ」
村長は助かったと言ってレーヴェに柵を任せた。破れた柵は数時間で塞がれた。少しばかり芸術的な出来映えの意図に村長は首を捻ることになる。
今回出てきたコボルドは住み着いた群の殆どだったのだろうと農夫は言った。しかし、またすぐに増えてしまうのだろうとも、溜息交じりに。
「悪戯をすれば罰を受けると、自覚する知能があれば良いんですけど」
イレーナは土に残ったコボルドの足跡を見下ろして肩を竦めた。
ゼルは母親と共に帰って行った少女の姿を思い出した。村で戦いながらも気になっていた彼女の無事にほっとする。コボルトを倒して、あの子の笑顔が見れた。
「なんだかんだで、ハッピーエンドだね」
日が傾きかけ、ハンター達の影を長く伸ばした。
●
手当を終えた案内人が顔を出す。無傷でコボルドを一掃したハンター一行を見回し。腰に手を当てると満足そうに大きく頷いた。
「さっすが、私の見込んだハンターさん達ですね!……ととと……お一人、いらっしゃらないようですが?」
ユニキス、と誰かが呼んだ。
「まぁまぁ。夜に一人は危ないですからね、日が落ちる前には帰ってますよ」
ぽん、と手を叩いて、はい解散。ハンター達はそれぞれの帰途に就いた。
コボルド退治に集められ、村の入り口でその逃走に巻き込まれたハンター達。
彼らには、村長のように青ざめている暇も無ければ、転んでいる暇だって無い。
「私はあの二匹を狙います! 皆さんも、ここは別れて討伐してください!」
イレーナ(ka0188)がワンドを構えて声を上げた。彼女の目は今逃げ出したばかりの二匹を追う。
「俺も助けるよ、逃げる前に倒そう」
同じ的を睨んだゼル・アーガイア(ka0373)が猟銃を下ろし装填を終える。
「うむ。私はあいつらを追うぞ!」
同じく猟銃に装填し、それを背負い直したレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が、既に走って行った3匹を追って道に出た。
「村長よ、やつらが戻ってきてはことじゃ。人を集めて村を守れ」
振り返りながら、まだ竦んでいる村長へ言い残すと、土埃を上げて地面を蹴った。
「足には自身があります。ボクがあの先頭を追いましょう!」
瞳に光を揺らめかせ、ロートス・リィエン(ka0513)は村へ残るハンター達へ声を掛けながら疾走する。
「私は村へ向かいましょう」
ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)が緩やかに踵を返した。軽装のコボルドさん、武器も持たずに。強力なコボルドさんなのでしょう、私の手に負えますでしょうか。淑やかに一歩踏み出した足は、軽快に地面を蹴って、村の中へ紛れていくコボルドを追って走った。
ハンター達が散った後、ユニキス・ファフナ(ka2391)が村長に尋ねる。
「自分が馬車を……村長、馬車はこの道から来るようだけども、いつここに着くのかなぁ?」
馬車を留めようと、しかし、村長は首を振った。
「すぐに来る、今に見えるだろう……間に合うか、どうか……」
今は逃げていったコボルドをハンターに任せ、レーヴェに言われた通り、村での被害を食い止めよう。村長は深く息を吐いて、のたのたと走って行った。
●
イレーナが農夫を庇いながら、青い宝石の瞬くワンドの切っ先を、逃げ出したばかりのコボルドへ向けた。
「貴方も下がってください!」
農夫が弾かれたように村長の後を追う。イレーナの足下で雑草が微かに揺れた。微風は彼女の体を包み、撫でるように髪をなびかせる。風を纏った金色の髪を波打たせ、真っ直ぐ伸ばしたワンドの先は違わず一匹のコボルドを狙う。
届く。コボルドがそれを見る間も与えずに、青い石から放たれた炎の矢は、光の軌跡を描いて向かっていった。
「右をお願いします」
そのコボルドから狙いを外さないままの、凜と清涼な声がゼルに向いた。
「ああ! 逃がさないよ」
装填を済ませた猟銃を構えて地面を踏みしめる。ストックを肩に当ててフォアグリップを握るとずしりとその重さを感じてマテリアルがざわめく。
リアサイトからフロントサイトを睨むと、その星がコボルドの真ん中を捉えた。ざらりと均された細かな土が擦れる音を立てる。
トリガーを引いた。弾丸は狙い通りに進み、貫かれたコボルドは一度跳ねて地面に伏せた。
リアサイトからその光景を眺めると、ゼルは銃を下ろした。
「よし、命中っ。俺は村に回るよ」
「はい、私もすぐに」
コボルドを射抜いた炎は高く燃え上がった瞬間に消え、そこには何も残っていない。
二匹の駆除を確認すると、一つ小さく頷いて、イレーナも村の中へと走った。
道へ出て三匹のコボルドの姿を見つけるとレーヴェは足を止めた。
その丈には少し大きな猟銃を軽々と構え、騒ぐマテリアルを感じる。銃口を向けるのは逃げていくコボルドの背。
少し遠い的だ。マテリアルを目に込めて狙いを定め、照準は正確に合わせる。狙いを据えて、けれど、彼らを倒すよりも、今は。
「――ロートス、先に行くのじゃ。ここは私が請け負おう」
「助かります。ではっ!」
先に走らせたロートスへ追いつかせない為に。
銃弾を受けた一匹が倒れ、残りの二匹は逃げ出そうとする。その行く手を阻み銃口を向けた。
「おぬしもじゃ、ユニキス。行けぇ」
ユニキスを馬車へと走らせると、二匹へ向けて猟銃を構え直す。どちらを先に屠ってやろう。
少女はコボルドを追いながら息を上げていた。あと少しで追いつけそうなのに、足がもう動かない。転けて擦りむいた膝が痛い。
もう一回、倒れそうになった時、少女よりも少しだけ背の高い少年が軽快に走って追いついてきた。
「ここは危ないですよ」
潜める声で囁いた少年が腰のダガーの抜き様にコボルドへ迫ろうとする姿に痛みを忘れて一時、見入っていると走ってきた方から数発の銃声を聞いた。
危ない、と焦った少女が足を引きずりながら道を引き返す途中、一心に走る逞しい男がすれ違い、数歩進んで足を止めた。少女を呼んでいる。
「――馬車に危ないって言いにいかんと、ならんのだけどねェ」
近づくと少女の擦った膝にロッドを向けて、ぽっと温かな光を灯す。
痛みは、すぐに無くなった。曲げても、歩いても、飛び跳ねても、もう痛くない。少女は円らな目を見張って、それから嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「いーや、気ぃつけて走れ、な?」
「うん」
おじちゃんも気をつけて、少女が手を振ると、その男はまだ若ぇよと笑って、すぐに真面目な顔に戻って走って行った。
銃を撃っていたのは少年より少しだけ背の高い女性だった。
大きな銃でコボルドを狙っている。
「下がっておれ、今にロートスが人形を取り返してくるじゃろ。ここも後一匹じゃ――のう、コボルドよ。ドワーフを無礼るでないぞ」
銃の反動にも怯まずに、その、変わった口調の女性は、少女を背に庇いながら、最後の一匹を撃ち倒した。
「ハンターの、レーヴェじゃ」
そう言って、その女性はダガーを構えた少年がロートスで、膝を治した男はユニキス、皆コボルドの駆除に来たハンターだと教えた。
村の中追い詰めたコボルドはニャンゴの顔を見上げながらぷるぷると震えて後退る。
ぺき、と足が踏み折った小枝を投げつけるが、力なく飛ぶそれは脛の横を透かして地面にぽとりと落ちた。
ゆらりと諸刃の剣を構える。
今の攻撃はコボルドさんのけん制でしょう。ならば逃げるなどもはや不可能。マテリアルの熱を感じて、ニャンゴは抜き放った剣の切っ先をコボルドの喉元に据えた。
「さあ、砕け散りましょう…………」
強力に叩き込まれた白刃に、コボルドが砕け散った。倒れるその背に留めとばかりのもう一撃を突き刺して、ニャンゴは濡れた剣を下ろした。
「亡くなっていますね……このような私に滅ぼされるなんて……」
剣を振り払って納めると、さあ、次です、と見回した。
少し先に、山の方へと逃げていく小さな後ろ姿が見えて、背後からゼルの声が聞こえた。
「ニャンゴ、そっちはどう」
ニャンゴは揃えた指で地面の血だまりを示した。ゼルはそれを見て、走って行くコボルドへ銃を向ける。
「上々みたいだね、次はあいつか」
「私が引きつけましょう……この命をお役立て頂ければ幸いです」
動く的は、狙いづらいでしょうから。そう言ってニャンゴはコボルドを追った。
剣を向けて怯ませる。地べたの土を掴んで腕を振り上げ止まったその的を、ゼルの銃弾が貫き、吹き飛ばした。
一匹だけ、逃げた道を戻ったコボルドがいた。
村長の家に辿り着くと、そこには誰もいない。村の中の少し離れたところで、仲間の断末魔が聞こえたかも知れないが、気のせいだろう。
破った柵から中に入って、ぎょろっとした目で周りを探る。
悪戯を再開させようとしたその時、村長の声が聞こえた。驚いて飛び上がり振り返ると、青ざめていた村長が、赤くなって怒っていた。
そして、その後ろから鋤を持った農夫とそのほか数人の村人がぞろぞろと集まってきた。
逃げ場を探してコボルドが周りを見回す。人垣が不意にざわついた。
「皆さん、離れて下さい――逃がしません」
イレーナがワンドを振りかざし、炎の矢を放つ。それは芝生の青い庭の中で、コボルドだけを的確に灼いて、一瞬で消えた。
今のが三匹目だったのだろうかとイレーナが見回すと、他の二匹の駆除を終えたニャンゴとゼルが集まってきた。
「……では、残るのは……」
「うん。先に逃げていった奴だらけだね」
ひとまず、村の中の安全は戻ったようだ。
銃声に振り向いたコボルドがロートスの構えるダガーを見た。
「気付かれてしまいましたか……ですが、同じ事です」
コボルドを見据えた瞳は淡い光を帯びて完全に紅く染まっている。
土埃を上げながら斬りかかる一撃で、コボルドは人形を道ばたへ放り出して倒れた。尚も藻掻いて逃げようとする肩を捉え、首へナイフを立てるとコボルドは完全に動けなくなる。
武器の血を払って納めて人形を拾う。古風な造りの布人形だった。
「これは、返して貰いますよ」
コボルドの骸は答えない。
走るユニキスが緩いカーブを越えるとすぐに馬車が見えた。道の中程へ出て手を振ると、馭者は馬脚を緩めて止まった。
「どうしました?」
「先で、ちょいと――」
村を荒らして逃げ出したコボルドが数匹、この道へ逃げ出したから駆除している。
「まあ、もう銃の音も止んで――始末は済んだと思いてェが……残ってたら、俺がやるさ」
幌の中は満席、馬の横を歩くと言ったが、馭者がタラップを空けて、歩くような速さで馬を進めた。
カーブに差し掛かると小脇に人形を抱えたロートスが手を振った。
「終わりました……いいですね、ボクも乗せて貰って良いですか?」
2人のハンターをタラップに座らせて、馬車は少し速度を上げた。
カーブを曲がると村に向かって歩いていたレーヴェと少女が見つかった。
「何じゃ、おぬしら、面白そうなところに乗っておるの」
猟銃を背負ってレーヴェが笑う。ロートスは人形の土を払って少女に差し出した。少女は目を輝かせて人形を受け取り抱き締めた。祖母の手製の物だという。
「お兄ちゃんも、小っちゃいのに、すごいのね!」
満面の笑顔を浮かべ、きらきらと幼く無邪気な眼差しでロートスの顔を覗き込んだ。
●
馬車が村に到着した。村での駆除を終えた3人が迎えると、馭者は安堵の溜息を吐いた。そして次の村へと馬車を走らせていく。
ハンターさん、ありがとう。そう言って少女は家へ帰っていった。何度も振り返って手を振って。迎えに来たらしい少女の母親がその頭を撫でて無事を喜び、ハンターの6人へ深く頭を下げた。
レーヴェはぽんと手を打って村長の家へ向かった。そこには破られた柵の前、数枚の板と釘と真新しい工具箱を並べ腕組みをする村長がいた。
「のう、復旧くらいなら引き受けるぞ? また破られても困るじゃろ」
村長は助かったと言ってレーヴェに柵を任せた。破れた柵は数時間で塞がれた。少しばかり芸術的な出来映えの意図に村長は首を捻ることになる。
今回出てきたコボルドは住み着いた群の殆どだったのだろうと農夫は言った。しかし、またすぐに増えてしまうのだろうとも、溜息交じりに。
「悪戯をすれば罰を受けると、自覚する知能があれば良いんですけど」
イレーナは土に残ったコボルドの足跡を見下ろして肩を竦めた。
ゼルは母親と共に帰って行った少女の姿を思い出した。村で戦いながらも気になっていた彼女の無事にほっとする。コボルトを倒して、あの子の笑顔が見れた。
「なんだかんだで、ハッピーエンドだね」
日が傾きかけ、ハンター達の影を長く伸ばした。
●
手当を終えた案内人が顔を出す。無傷でコボルドを一掃したハンター一行を見回し。腰に手を当てると満足そうに大きく頷いた。
「さっすが、私の見込んだハンターさん達ですね!……ととと……お一人、いらっしゃらないようですが?」
ユニキス、と誰かが呼んだ。
「まぁまぁ。夜に一人は危ないですからね、日が落ちる前には帰ってますよ」
ぽん、と手を叩いて、はい解散。ハンター達はそれぞれの帰途に就いた。
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相談用スレッド ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/06/29 09:02:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/28 20:45:16 |