ゲスト
(ka0000)
山岳猟団〜鳴動
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/16 22:00
- 完成日
- 2015/02/24 11:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境要塞、ノアーラ・クンタウ……帝国軍の対歪虚部隊『山岳猟団』の兵舎、その中にある、一室。
決して豪奢ではない、寧ろ殺風景とも言えるその部屋で、男と少女が、一対一で対峙していた。
「……」
男の名前は、八重樫 敦(kz0056)。多民族部隊、山岳猟団を率いる、彼自身も傭兵である。
彼は手にした手紙らしき紙切れを何度も読み返しながら、一言も喋らない。
「…………っ」
対する少女は、辺境部族風の服を着た、猫背がかった娘だった。
阿吽の吽形の様に険しい八重樫の表情を、縮こまりながら覗き込む。
「…………にわかには信じられにゃい内容かもしれません。んでもこれは」
「いや、いい。この文書を偽物とは思わん」
沈黙に耐えきれず口を開いた少女を、八重樫は制した。
そして、その手紙をすぐに、懐から出したオイルライターで燃やす。
「テトと言ったな」
「ひ、ひゃい」
「奴は無事なんだな」
テト、と呼ばれた少女は、ぶんぶんと首を縦に振った。
「奴に伝えろ。『担がれてやる』。だが、『お前が俺の障害となれば、即座に切り捨てる』とな」
見下ろす視線は、抜き身の剣の様に鋭い。
テトは猫背を少しだけ伸ばし……小さくもう一度頷くと、逃げるように部屋を後にした。
八重樫はその背を見送った後……一度だけ、深い、深いため息を付く。
「狸爺……」
俯き、ポツリと呟いたその表情は……影に隠れ、誰にも、覗けない。
誰にも……
●
一方で、その一室から少し離れた、一般団員用の詰め所では。
「何故だ、歪虚がバカスカ湧いてるこの一大事に、なぜ俺たち猟団は出撃しねえ!」
髭面のドワーフ戦士が、机に拳を叩きつけながら叫んだ。
その横では、帝国軍の正規兵らしき装備を身にまとった男が、顔を顰めて腕組みしている。
「待機命令が出ているからだ。昨今の情勢下、要塞の守りを欠くわけには行かんと説明されただろうが」
「全ッ然、守備は足りてるじゃねぇか! ダイイチシダンの連中が、ウジャウジャよぉ!」
正規兵の言葉に、ドワーフ戦士は顔を真っ赤にして怒鳴った。
彼ほどに怒りを顕にするものは少なくとも、その場に集う団員の表情は決して明るくない。
無理も無い。辺境が歪虚の攻撃に晒されている昨今、しかし山岳猟団はひたすら要塞での待機命令を受けていた。
それは、事実上の謹慎である。
「警戒されてンのよ、俺達は。シバの爺様が好き勝手かました挙句、審問隊を撒いてマギア砦に向かっちまったからな。その息が掛かってる俺等も、何しでかすか分からんてコト」
辺境部族風の青年が、愉快げにけらけら笑いながら言った。
シバ。
辺境部族でありながら真っ先に帝国軍に降り、山岳猟団の事実上の参謀として戦ってきた老兵。
しかしそのシバは、先に起こったオイマト族の捜索任務において、帝国軍に黙っていた情報を敢えて辺境部族に流すという背信行為を行った。
もとより、猟団の運用を立て直す際に、清廉とは言えぬ手まで用いて目的を達成した男。
加えてこの件でシバは帝国軍の不審を買い、要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の懐刀とも言える審問隊ベヨネッテ・シュナイダーの監視を受けていたのだが……あろうことか、シバはその監視を脱してまでマギア砦に向かったのだ。
攻撃された、部族の者達を、助けるために。
「口を慎め。我らは任務で要塞を守っている、それ以上の意味は無い。シバとて……そう、何か意図があってこの状況を作った筈」
そう言ったのは、再び帝国軍正規兵の団員。その彼らでさえ、この場に居ないシバを責めることはない。
猟団員であれば、誰でも判っているのだ。団長代八重樫と共に、かつて運用の崩壊していた猟団をありとあらゆる手を尽くして立て直した功労者が、その老兵であると。
そうして、団員達が煙の燻ぶるような議論を重ねていると、不意に、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
「出撃だ」
入ってきたのは団長代、八重樫。
団員達が湧いた。
「ぃよし! やっと命令が降りたかァ!?」
「違う」
八重樫は、自らの意図を淡々と、端的に説明した。
シバ達辺境部族側の斥候から、ある有益な情報がリークされた。
ナナミ川上流にある、大昔に歪虚に占拠された砦……パシュパティ砦が、昨今の騒ぎの影響で、現在手薄の状態にあるという。
当然、帝国軍からの出撃要請はなく、猟団は待機命令下にある。
しかし、この機を逃せば、対歪虚戦線において重要な橋頭堡となりうるこの砦を奪還する事は、二度と適うまい。
よってーー
「俺達は、俺達の意思で出撃する。パシュパティ砦を、奪う」
「……正気か。正気なのか団長代」
帝国軍正規兵の中の最先任者ガーハートが……愕然として問うた。
待機命令を無視し、自らの意思で出撃する。その意味を。
「山岳猟団は、『対歪虚』部隊だ。要塞の警備部隊では無い」答える八重樫。
「命令違反だ。帝国軍を裏切る事になるぞ」
「俺達が帝国軍を裏切るのではない。帝国軍が俺達を裏切った」
「……団長代!」
ガーハートが、目を見開く。
八重樫の表情は、いつもと何一つ変わらぬ仏頂面。
けれど……そこには、何かが宿っていた。何者にも干渉を許さぬ、超然とした、狂気的な何かが。
「一度だけ各人に意思決定の機会を与える。不服の者は来るな」
八重樫の言葉に、迷いを見せる者もいた。
だが、団員の多くは迷わなかった。
八重樫の判断は、いつでも早く、そして的中してきた……何より彼の言葉通り、山岳猟団の団員は、誰もが『歪虚を討つ』為に集ったのだから。
帝国、部族、ドワーフ、傭兵、そしてハンター、その立場さえ超えて。
「……ええい、私はどうなっても知らんぞッ。敵地の情報は!?」
全猟団員の、その最後に立ち上がったガーハートが、やけくそ気味に八重樫に言った。
「パシュパティ砦は川沿いの丘にある要衝。砦の北側は川で逃げ場はない。守備は現在、ストーンゴーレムの大型変種が2体のみ」
「大物だが猿以下の知能だ。誘き出せる」
ガーハートの言葉に、八重樫が頷いた。
「ハンターを含む選抜者で陽動部隊を作る。砦の南側にある窪地に射手を配置し、誘い出した後に包囲攻撃。残りの者は、その隙に砦に突入し、内部を完全制圧する」
「そう何もかも上手く行くか……」
「どう転んでも、やることは変わらん。見つけた歪虚は全て殺せ。それで片が付く」
八重樫が言い放つと、団員達の、部屋が割れんばかりの咆哮が響いた。
かつての没落、再起、歪虚との闘いの日々、栄光……
そして再びの抑圧を経た今、猟団は熱狂の中にあった。
彼らの理念はただひとつ、『歪虚討つべし』。
その為の闘いが今……新たな局面を切り開こうとしていた。
辺境要塞、ノアーラ・クンタウ……帝国軍の対歪虚部隊『山岳猟団』の兵舎、その中にある、一室。
決して豪奢ではない、寧ろ殺風景とも言えるその部屋で、男と少女が、一対一で対峙していた。
「……」
男の名前は、八重樫 敦(kz0056)。多民族部隊、山岳猟団を率いる、彼自身も傭兵である。
彼は手にした手紙らしき紙切れを何度も読み返しながら、一言も喋らない。
「…………っ」
対する少女は、辺境部族風の服を着た、猫背がかった娘だった。
阿吽の吽形の様に険しい八重樫の表情を、縮こまりながら覗き込む。
「…………にわかには信じられにゃい内容かもしれません。んでもこれは」
「いや、いい。この文書を偽物とは思わん」
沈黙に耐えきれず口を開いた少女を、八重樫は制した。
そして、その手紙をすぐに、懐から出したオイルライターで燃やす。
「テトと言ったな」
「ひ、ひゃい」
「奴は無事なんだな」
テト、と呼ばれた少女は、ぶんぶんと首を縦に振った。
「奴に伝えろ。『担がれてやる』。だが、『お前が俺の障害となれば、即座に切り捨てる』とな」
見下ろす視線は、抜き身の剣の様に鋭い。
テトは猫背を少しだけ伸ばし……小さくもう一度頷くと、逃げるように部屋を後にした。
八重樫はその背を見送った後……一度だけ、深い、深いため息を付く。
「狸爺……」
俯き、ポツリと呟いたその表情は……影に隠れ、誰にも、覗けない。
誰にも……
●
一方で、その一室から少し離れた、一般団員用の詰め所では。
「何故だ、歪虚がバカスカ湧いてるこの一大事に、なぜ俺たち猟団は出撃しねえ!」
髭面のドワーフ戦士が、机に拳を叩きつけながら叫んだ。
その横では、帝国軍の正規兵らしき装備を身にまとった男が、顔を顰めて腕組みしている。
「待機命令が出ているからだ。昨今の情勢下、要塞の守りを欠くわけには行かんと説明されただろうが」
「全ッ然、守備は足りてるじゃねぇか! ダイイチシダンの連中が、ウジャウジャよぉ!」
正規兵の言葉に、ドワーフ戦士は顔を真っ赤にして怒鳴った。
彼ほどに怒りを顕にするものは少なくとも、その場に集う団員の表情は決して明るくない。
無理も無い。辺境が歪虚の攻撃に晒されている昨今、しかし山岳猟団はひたすら要塞での待機命令を受けていた。
それは、事実上の謹慎である。
「警戒されてンのよ、俺達は。シバの爺様が好き勝手かました挙句、審問隊を撒いてマギア砦に向かっちまったからな。その息が掛かってる俺等も、何しでかすか分からんてコト」
辺境部族風の青年が、愉快げにけらけら笑いながら言った。
シバ。
辺境部族でありながら真っ先に帝国軍に降り、山岳猟団の事実上の参謀として戦ってきた老兵。
しかしそのシバは、先に起こったオイマト族の捜索任務において、帝国軍に黙っていた情報を敢えて辺境部族に流すという背信行為を行った。
もとより、猟団の運用を立て直す際に、清廉とは言えぬ手まで用いて目的を達成した男。
加えてこの件でシバは帝国軍の不審を買い、要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の懐刀とも言える審問隊ベヨネッテ・シュナイダーの監視を受けていたのだが……あろうことか、シバはその監視を脱してまでマギア砦に向かったのだ。
攻撃された、部族の者達を、助けるために。
「口を慎め。我らは任務で要塞を守っている、それ以上の意味は無い。シバとて……そう、何か意図があってこの状況を作った筈」
そう言ったのは、再び帝国軍正規兵の団員。その彼らでさえ、この場に居ないシバを責めることはない。
猟団員であれば、誰でも判っているのだ。団長代八重樫と共に、かつて運用の崩壊していた猟団をありとあらゆる手を尽くして立て直した功労者が、その老兵であると。
そうして、団員達が煙の燻ぶるような議論を重ねていると、不意に、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
「出撃だ」
入ってきたのは団長代、八重樫。
団員達が湧いた。
「ぃよし! やっと命令が降りたかァ!?」
「違う」
八重樫は、自らの意図を淡々と、端的に説明した。
シバ達辺境部族側の斥候から、ある有益な情報がリークされた。
ナナミ川上流にある、大昔に歪虚に占拠された砦……パシュパティ砦が、昨今の騒ぎの影響で、現在手薄の状態にあるという。
当然、帝国軍からの出撃要請はなく、猟団は待機命令下にある。
しかし、この機を逃せば、対歪虚戦線において重要な橋頭堡となりうるこの砦を奪還する事は、二度と適うまい。
よってーー
「俺達は、俺達の意思で出撃する。パシュパティ砦を、奪う」
「……正気か。正気なのか団長代」
帝国軍正規兵の中の最先任者ガーハートが……愕然として問うた。
待機命令を無視し、自らの意思で出撃する。その意味を。
「山岳猟団は、『対歪虚』部隊だ。要塞の警備部隊では無い」答える八重樫。
「命令違反だ。帝国軍を裏切る事になるぞ」
「俺達が帝国軍を裏切るのではない。帝国軍が俺達を裏切った」
「……団長代!」
ガーハートが、目を見開く。
八重樫の表情は、いつもと何一つ変わらぬ仏頂面。
けれど……そこには、何かが宿っていた。何者にも干渉を許さぬ、超然とした、狂気的な何かが。
「一度だけ各人に意思決定の機会を与える。不服の者は来るな」
八重樫の言葉に、迷いを見せる者もいた。
だが、団員の多くは迷わなかった。
八重樫の判断は、いつでも早く、そして的中してきた……何より彼の言葉通り、山岳猟団の団員は、誰もが『歪虚を討つ』為に集ったのだから。
帝国、部族、ドワーフ、傭兵、そしてハンター、その立場さえ超えて。
「……ええい、私はどうなっても知らんぞッ。敵地の情報は!?」
全猟団員の、その最後に立ち上がったガーハートが、やけくそ気味に八重樫に言った。
「パシュパティ砦は川沿いの丘にある要衝。砦の北側は川で逃げ場はない。守備は現在、ストーンゴーレムの大型変種が2体のみ」
「大物だが猿以下の知能だ。誘き出せる」
ガーハートの言葉に、八重樫が頷いた。
「ハンターを含む選抜者で陽動部隊を作る。砦の南側にある窪地に射手を配置し、誘い出した後に包囲攻撃。残りの者は、その隙に砦に突入し、内部を完全制圧する」
「そう何もかも上手く行くか……」
「どう転んでも、やることは変わらん。見つけた歪虚は全て殺せ。それで片が付く」
八重樫が言い放つと、団員達の、部屋が割れんばかりの咆哮が響いた。
かつての没落、再起、歪虚との闘いの日々、栄光……
そして再びの抑圧を経た今、猟団は熱狂の中にあった。
彼らの理念はただひとつ、『歪虚討つべし』。
その為の闘いが今……新たな局面を切り開こうとしていた。
リプレイ本文
●
「汝等に神々の祝福があらん事を」
聖導師ライエル・ブラック(ka1450)が、整列した団員達に祈りの言葉を向ける。
少年でありながらも堂に入った振る舞いに、歴戦の荒くれ者達が沈黙し、中には頭を垂れる者も居た。
「行動開始」
そして八重樫の一言で、最初で最後の沈黙は終わる。
瞬間、山岳猟団は獣めいた咆哮を上げ、足を踏み出した。
「今回はでっかい相手やねー。ちょっと楽しみ」
既に地平の向こうに現れた石の巨人を、紅く染まった瞳で見据えるのはイチカ・ウルヴァナ(ka4012)。
隣では、右手に流線の紋様を浮かばせた八城雪(ka0146)が、ぐっと得物の大槌を握りしめる。
「ちょーど良い機会、です。量産剣機とか、ガルドブルムとか、でかい敵との戦い方も、べんきょーしねーと、です」
彼女自身は、強力な歪虚にやられっぱなしの近況。ここいらで一度、自分を鍛え直す必要があると感じていた。
一方で、真田 天斗(ka0014)は、冷静な表情で戦士達の姿を、その熱狂を見つめる。
「この熱が何かをもたらすのか、それとも失わせるのか……」
「『歪虚討つべし』……俺は、まったくもって同感ですけどね」
呟く天斗の脇を通り過ぎたのは、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)だ。
かつて歪虚に故郷を奪われた青年が生きる力、即ち魔術を学んだのは、その為にこそ。
ならば、今、この時……
「微力ですが、死力を尽くします」
ラシュディアの言葉に、天斗も、力強く頷く。
「私も、此処に居る以上やる事は決まっています……もしかしたら、私も熱に当てられているのかもしれませんね」
「山岳猟団さんのお手伝い! モニカ(ka1736)も頑張る! なのよーっ!!」
そこに、無邪気に目を輝かせたエルフの少女が加わると、青年二人は顔を見合わせ、頷いた。
「作戦が成功したら前に作ったハンバーガー、また作るから皆頑張ろう!」
天竜寺 詩(ka0396)の放った一言に、再度沸き立つ団員達。
その間をすり抜け、グレイブ(ka3719)が八重樫に近づく。
「団長代、悪いが十名程度貸してもらえるか? 西側から侵入路探して、中から南の正面入り口を制圧したいんでね」
隻眼を怪しく輝かせるグレイブに、八重樫は傍らの団員を見やった。
「……ガーハート、分隊共々付いてやれ」「了解」
「前に世話になった息子分に頼まれてな。やれる事はやっておくさ」
「……」
その息子分に聞いた通りの、無愛想な指揮官に苦笑しつつ……グレイブ達は猟団本隊とは反対の西回りで、砦を目指し始めた。
●陽動
ハンター達の作戦は、二体居るゴーレムを一体ずつ順に窪地に誘き寄せるという物だった。
猟団側もその提案を呑み、囮役の疾影士は三人ずつ、それぞれが詩とイチカの班に別れた。
「馬に乗ったら、少しは安全ちゃうかな」
「どうかな。俺達と違って、馬にアレの拳が直撃したら耐えられんぜ」
団員の言葉にイチカは少し迷ったが、結局は機動力を重視して騎乗、団員達もそれに合わせた。
「流石に初撃だけでまっすぐは追ってこーへんやろ……って、うわ」
接近した瞬間、二体のゴーレムは同時に、イチカを狙い突撃、拳を振り下ろした。
想像よりもずっと早い。
馬身を逸らして事無きを得たが、直撃すればどうなるか。
「見ただけで追っかけてくるとか、食い付き良すぎやろっ……詩っ!」
慌てて馬首を翻しつつ、回りこんでいた詩へと叫ぶ。
「任せて!」
すかさず、横合いからゴーレムの片割れに数本の矢が飛来する。
「ほらほら、お人形ちゃん、こっちだよ!」
詩と三人の猟団員が、ゴーレムの一体を狙ったのだ。
幸い、射られたゴーレムはそのまま方向を変え、詩達を追って行った。
「ほんとーに動物並のオツムやね……なんて言ってる場合ちゃうか」
残る一体はイチカ達を狙ったままだ。
「今からそっちに行くで、準備しといてや!」
トランシーバーで伏撃班に連絡を取ると、イチカ達は石の巨人を連れたまま、少しずつ南下を始めた。
伏撃部隊は、待ち伏せ地点の窪地を囲む様に身を伏せ、攻撃の機を待っていた。
足止め様の油は手に入らず、隠れる穴を掘る時間はなかった物の、迷彩用の布は手に入った。
それを被るだけでも、知能の低いストーンゴーレム相手には、欺瞞として十分な機能を果たす。
「……来た!」
自分の体を覆う土色の布をずらし、ラシュディアは、迫る石の巨人を視認した。
イチカや疾影士は、互いをカバーする様に囮役と攻撃役に別れながら、少しずつ窪地に近づいている。
「まだ……まだ、まだ、なのよっ」
モニカが、祈るかの様に囁く。
合図と、その後の段取りは既に猟団と調整済み。
後は、標的を十分に引きつけねばならない。
そして…………ゴーレムが、窪地に踏み込んだ瞬間。
「放て!!」
『オォォォォォォォッ!』
モニカが腕を上げると同時、雄叫びと共に猟団員が身を起こし、全力射撃をゴーレムの足元に叩きこむ。
「……なのよっ」と、続いたモニカの台詞は、叫びと射撃の音にかき消されてしまった。
尚も足を止めないゴーレムに、モニカ自身は威嚇射撃の矢を放ち、その移動を阻害する。
「攻撃は緩めない! 相手に移動の隙を与えては駄目!! なのよ!」
初撃を放ったのは伏撃部隊の半分だ。
そして直ぐ様に、残りの半分……ラシュディア達が、ゴーレムに追撃を加える。
「これで……!」
ラシュディアは手にするワンドの先に精神の全てを集中し、石の弾丸を空中に化現させた。
……こういう戦いを、ずっと待ち望んでいた気がする。
ふと、そんな想いが、青年の脳裏を過る。
あの時は、奪われるがまま、言われるがまま、守られるがまま、逃げるだけだったけれど。
(でも……今なら)
その記憶を、憎しみをもマテリアルに載せて……アースバレットを、巨人目掛けて撃ちだした。
伏撃隊の二段構えの一斉射撃に、ゴーレムは蹌踉めき……しかし踏ん張り、姿勢を保つ。
「流石に石だけあって、かてー、です」
嘆息した雪が隊列から飛び出し、斜面を駆け下りた。
「……っ!」
踏み降ろされたゴーレムの足を紙一重に躱す。
雪はそのまま勢いに身を任せてルーサーンハンマーを振り降ろし、巨人の足首を強打した。
「でかくても、足で歩くなら、バランス崩せば転ぶ、です」
集中砲火で脆くなっていた石作りの左足が、圧倒的質量の打撃に、砕ける。
後は雪の言葉通りだ。
ゴーレムは平衡を失い、轟音と土埃を上げながら倒れる。
咄嗟、雪が身を退かせると、そこに矢と、銃弾と、魔法が雨あられ。
「……巻き込まれたら、洒落にもならねーです」
三十人超の覚醒者による弾幕である。
如何に堅牢な身体を持とうと、動きを封じれば的も同然。
擂鉢で潰される芋の様に……やがて石の巨人は、降り注ぐ弾幕に砕け散った。
「……あっちはうまく行ったみたいね」
一体目のゴーレムが倒れたのを見て、詩達はすかさず、自分達が引きつける二体目の誘導を開始する。
「皆も頑張って、もう少しだから!」
詩が馬上から、共に囮になっている疾影士に、ヒール、プロテクションと魔法を飛ばす。
身のこなしに優れる分、彼等が詩より前に出てくれているが、その分受ける傷も大きかった。
疾影士達は、片翼を輝かせる少女に笑顔で応えると、再びゴーレムに接近していく……
●制圧
陽動班がゴーレムを引きつけるのに合わせ、先駆けて砦の東西に回りこんでいた制圧部隊は、即座に行動を開始した。
「こう言うのを、鬼が出るか蛇が出るかと言うんでしたっけ?」
外壁の隙間を覗き込みながら、ライエルが呟いた。
屋外に歪虚の姿は一切無いものの、建造物内部の情報は全く不明だ。
「中が蛻の殻という事も無いでしょう。注意するべきです」
特殊作戦の経験がある天斗は、注意深く建物に突入可能な入り口と、その周辺の地形を確認する。
先に動いたのは、西側に回り込んだグレイブ達だった。
「よし、野郎ども。厄介な場所は多少ぶっ壊してでも進むぞ。待ち構えてる所に突っ込んでやる必要は無い」
丁度目の前には、朽ちかけた木造の扉。
一息に蹴破り踏み込むと、眼前には剣を携えた歩く骸骨。
「ッ!」
問答無用。
グレイブは盾を突き出し、相手を全力で叩き伏せた。
すかさず彼の後ろから、十名の猟団員が屋内へ雪崩れ込み、倒れた骸骨へ止めを刺す。
「スケルトン? 伏兵のつもりか」
随行する団員が呟く。
部屋の中には、無数の骸骨がこちらに気づき、臨戦態勢を取っていた。
その光景に……グレイブは、小さく肩を震わせ、笑った。
「関係ないさ。暴れろ、鬱憤たまってんだろ?」
「言われるまでもない!」
グレイブが踏み出す。猟団員も、後に続いた。
それに呼応するかの様に、本隊も砦南側の正面入り口から仕掛けた。
天斗が瞬脚で先行、手信号を後続に送り、侵入配置につける。
「3、2、1……!」
突入。即座、西側入口に注意を引かれていた骸骨に出くわすと、天斗はドリルナックルを翳し、飛燕を叩き込んだ。
その掘削音に引き寄せられたもう一体の骸骨は、飛来したチャクラムが阻む。
「貴方達が留守番役ですか? 申し訳ないですが、降伏してくれると助かるのですが?」
無駄とは思いつつも、ライエルは降伏勧告を叩きつけてみる。
これで運良く戦闘を避けられれば、怪我人を極限できるが……しかし、否。
「やはり、言葉は通じませんか」
ライエルは諦めた様に二、三度首を横に振り、突入する戦士達に続いた。
二方向からの突入が功を奏し、一階の鎮圧は戦死者ゼロで成功した。
ライエルが負傷者を治療する傍ら、グレイブ達がフロアを捜索。地下と二階への階段が発見された。
「どうする。上と下で別れるか」
「負傷者は一階で待機。俺が一個分隊と共に地下へ行く。他は二階へ当たれ」
グレイブの言葉に、八重樫は即断する。
天斗が、八重樫には一階に残り全体を統括して欲しいと申し出たが、八重樫は拒んだ。
「俺の後方待機は承認しない。だが、望むなら一個分隊を預ける」
「お気持ちは分りますが、八重樫様に何かあったら山岳猟団はどうなってしまわれるか、それをお考え下さい」
「俺が前線から下がれば、隊の士気を削ぐ。俺が死ぬのと結果は同じだ」
「山岳猟団として命を粗末にはしません。どうか許可をお願いいたします」
食い下がった天斗の目を正面から見据え、八重樫は言った。
「……逆だ。死ぬつもりで戦い、しかし勝ち残れ。俺達には『それしかない』」
死を恐れない。歪虚を討つ為に。或いは、生き残る為に。
その矛盾した理念こそ猟団の強さであり、組織の枠を飛び出した今の彼等そのもの。
八重樫の言葉を聞いたグレイブは、さも愉快げに、頬を歪めた。
「--いいぜ、死んだら幾らでも墓を掘ってやる。ただし、俺は強欲でな。俺が必要とする限り、簡単には死ねんぞ。愛すべきクソ野郎共」
●
グレイブ、天斗、ライエル達が二階へ上がると、窓の外からは二体目のゴーレムが倒れる轟音が聞こえてきた。
小規模な戦闘と捜索の後に、二階フロアを完全掌握したあたりで、ゴーレムへの対処部隊も砦に進撃、制圧班に追いつき合流した。
『ゴーレムは二体ともやっつけて、伏撃班の人達も、陽動班の人達も、みんな無事なのよっ! 怪我しちゃった人達は、モニカが手当してるのよっ』
一階に残ったモニカが、トランシーバーごしに元気よく報告してくると、ライエルが心なしか、安堵した様な表情を見せた。
「砦の護衛が、あんな簡単に釣られる様なヤツだけとか、ねーと思ったです」
雪とラシュディア、それに伏撃部隊で健在な者を加え、制圧班は三階へと進撃した。
階段を登り切った矢先、先頭の天斗とグレイブの目の前に、鋭く矢が降り立つ。
「またガイコツ野郎かい」
グレイブは顔をしかめつつ、盾を構えて突撃。
『接敵!』
続いて天斗と雪が、無線に報告を入れながら、団員ともども切り込んでいく。
その背中から、ラシュディアがファイアアローを、ライエルと詩がホーリーアローを放って支援する。
幾筋もの光が尾を引いて飛ぶと同時、天斗はスラッシュエッジを、雪は強打を繰り出し、それぞれが眼前の骸骨を粉砕した。
数だけは揃っていたものの、骸骨達は、緻密に連携したハンターと猟団を抑えるに足る者では無かった。
ハンターが各々の役割を明確に分担した事も功を奏し、歪虚は時間を掛けずして掃討され……やがて、パシュパティ砦は、奪還された。
●
「……お、終わったん?」
無事に砦から出てきたハンター達を見て、外壁の東側を警戒していたイチカが、戻ってきた。
「増援なんかは、影も形も見えへん。CAM実験場へ向かったきりなんやろね」
「八重樫さんが、地下で古い工房や倉庫を見つけたそうです……連中、もしかしてここを武器庫にしてたのかも」
イチカの報告を聞いて、ラシュディアが考えこむ様に唸る。
「敵が帰ってくる恐れもあります。すぐに無傷なものを防御に配置し、味方に連絡しましょう」
次いで、負傷者の手当を終えたライエルがやってきて、八重樫に告げた。
「無論、防備は早急に固める。だが……今の俺達に、味方は居ない」
八重樫の回答の意味は、その場の誰もが察する事ができた。
「みんな、相変わらず危ない橋を渡ってるんだね……」
詩の表情が、微かに曇る。かつての約束を、あの老兵は覚えてくれているだろうかと……ほんの少しだけ、詩は胸騒ぎを覚えた。
「正規軍は、せーじとか、色々めんどーそう、です」
「……ああ」
八重樫を見て率直に呟いた雪を、彼自身が肯定した。
「でも、ここをマギア砦取り返す、足掛かりにも、使えるかも、しれねー、です。命令違反帳消しに出来るくれーの、手柄立てりゃ良いんじゃねー、です?」
「八重樫様、私は何も言いません。山岳猟団の歩む道に何が有るのか見てみたいものです。関わった者として」
雪の言葉に続いたのは、天斗だ。
二人の視線を受けて……山岳猟団の指揮官は、ただ沈黙で、答えた。
「それはそうと……無事作戦が成功したんだから、約束通り、ハンバーガー作らなくっちゃねっ」
気を取り直した詩の言葉に「待ってました!」と喜ぶのは、特にリアルブルー出身の団員達だ。
無論、他の団員とて、女の子の手料理ならば歓喜するのは自然の道理。
団員達がどこからか運び込んでいた酒樽が出現すると……パシュパティ砦奪還の、戦勝会が始まったのだった。
「八重樫さん……猟団の即応員に、してくれませんか。俺で、役に立つのであれば」
宴も盛り上がり始めた頃、ラシュディアは、雪やグレイブと共に、八重樫にそう切り出した。
八重樫は、二つ返事でそれを受け入れる。
そして……一切表情の変わらぬ仏頂面のまま、彼らに告げた。
「『歪虚を討つ意思』。即応員に求む資質はそれ一つだ。期待する」
「汝等に神々の祝福があらん事を」
聖導師ライエル・ブラック(ka1450)が、整列した団員達に祈りの言葉を向ける。
少年でありながらも堂に入った振る舞いに、歴戦の荒くれ者達が沈黙し、中には頭を垂れる者も居た。
「行動開始」
そして八重樫の一言で、最初で最後の沈黙は終わる。
瞬間、山岳猟団は獣めいた咆哮を上げ、足を踏み出した。
「今回はでっかい相手やねー。ちょっと楽しみ」
既に地平の向こうに現れた石の巨人を、紅く染まった瞳で見据えるのはイチカ・ウルヴァナ(ka4012)。
隣では、右手に流線の紋様を浮かばせた八城雪(ka0146)が、ぐっと得物の大槌を握りしめる。
「ちょーど良い機会、です。量産剣機とか、ガルドブルムとか、でかい敵との戦い方も、べんきょーしねーと、です」
彼女自身は、強力な歪虚にやられっぱなしの近況。ここいらで一度、自分を鍛え直す必要があると感じていた。
一方で、真田 天斗(ka0014)は、冷静な表情で戦士達の姿を、その熱狂を見つめる。
「この熱が何かをもたらすのか、それとも失わせるのか……」
「『歪虚討つべし』……俺は、まったくもって同感ですけどね」
呟く天斗の脇を通り過ぎたのは、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)だ。
かつて歪虚に故郷を奪われた青年が生きる力、即ち魔術を学んだのは、その為にこそ。
ならば、今、この時……
「微力ですが、死力を尽くします」
ラシュディアの言葉に、天斗も、力強く頷く。
「私も、此処に居る以上やる事は決まっています……もしかしたら、私も熱に当てられているのかもしれませんね」
「山岳猟団さんのお手伝い! モニカ(ka1736)も頑張る! なのよーっ!!」
そこに、無邪気に目を輝かせたエルフの少女が加わると、青年二人は顔を見合わせ、頷いた。
「作戦が成功したら前に作ったハンバーガー、また作るから皆頑張ろう!」
天竜寺 詩(ka0396)の放った一言に、再度沸き立つ団員達。
その間をすり抜け、グレイブ(ka3719)が八重樫に近づく。
「団長代、悪いが十名程度貸してもらえるか? 西側から侵入路探して、中から南の正面入り口を制圧したいんでね」
隻眼を怪しく輝かせるグレイブに、八重樫は傍らの団員を見やった。
「……ガーハート、分隊共々付いてやれ」「了解」
「前に世話になった息子分に頼まれてな。やれる事はやっておくさ」
「……」
その息子分に聞いた通りの、無愛想な指揮官に苦笑しつつ……グレイブ達は猟団本隊とは反対の西回りで、砦を目指し始めた。
●陽動
ハンター達の作戦は、二体居るゴーレムを一体ずつ順に窪地に誘き寄せるという物だった。
猟団側もその提案を呑み、囮役の疾影士は三人ずつ、それぞれが詩とイチカの班に別れた。
「馬に乗ったら、少しは安全ちゃうかな」
「どうかな。俺達と違って、馬にアレの拳が直撃したら耐えられんぜ」
団員の言葉にイチカは少し迷ったが、結局は機動力を重視して騎乗、団員達もそれに合わせた。
「流石に初撃だけでまっすぐは追ってこーへんやろ……って、うわ」
接近した瞬間、二体のゴーレムは同時に、イチカを狙い突撃、拳を振り下ろした。
想像よりもずっと早い。
馬身を逸らして事無きを得たが、直撃すればどうなるか。
「見ただけで追っかけてくるとか、食い付き良すぎやろっ……詩っ!」
慌てて馬首を翻しつつ、回りこんでいた詩へと叫ぶ。
「任せて!」
すかさず、横合いからゴーレムの片割れに数本の矢が飛来する。
「ほらほら、お人形ちゃん、こっちだよ!」
詩と三人の猟団員が、ゴーレムの一体を狙ったのだ。
幸い、射られたゴーレムはそのまま方向を変え、詩達を追って行った。
「ほんとーに動物並のオツムやね……なんて言ってる場合ちゃうか」
残る一体はイチカ達を狙ったままだ。
「今からそっちに行くで、準備しといてや!」
トランシーバーで伏撃班に連絡を取ると、イチカ達は石の巨人を連れたまま、少しずつ南下を始めた。
伏撃部隊は、待ち伏せ地点の窪地を囲む様に身を伏せ、攻撃の機を待っていた。
足止め様の油は手に入らず、隠れる穴を掘る時間はなかった物の、迷彩用の布は手に入った。
それを被るだけでも、知能の低いストーンゴーレム相手には、欺瞞として十分な機能を果たす。
「……来た!」
自分の体を覆う土色の布をずらし、ラシュディアは、迫る石の巨人を視認した。
イチカや疾影士は、互いをカバーする様に囮役と攻撃役に別れながら、少しずつ窪地に近づいている。
「まだ……まだ、まだ、なのよっ」
モニカが、祈るかの様に囁く。
合図と、その後の段取りは既に猟団と調整済み。
後は、標的を十分に引きつけねばならない。
そして…………ゴーレムが、窪地に踏み込んだ瞬間。
「放て!!」
『オォォォォォォォッ!』
モニカが腕を上げると同時、雄叫びと共に猟団員が身を起こし、全力射撃をゴーレムの足元に叩きこむ。
「……なのよっ」と、続いたモニカの台詞は、叫びと射撃の音にかき消されてしまった。
尚も足を止めないゴーレムに、モニカ自身は威嚇射撃の矢を放ち、その移動を阻害する。
「攻撃は緩めない! 相手に移動の隙を与えては駄目!! なのよ!」
初撃を放ったのは伏撃部隊の半分だ。
そして直ぐ様に、残りの半分……ラシュディア達が、ゴーレムに追撃を加える。
「これで……!」
ラシュディアは手にするワンドの先に精神の全てを集中し、石の弾丸を空中に化現させた。
……こういう戦いを、ずっと待ち望んでいた気がする。
ふと、そんな想いが、青年の脳裏を過る。
あの時は、奪われるがまま、言われるがまま、守られるがまま、逃げるだけだったけれど。
(でも……今なら)
その記憶を、憎しみをもマテリアルに載せて……アースバレットを、巨人目掛けて撃ちだした。
伏撃隊の二段構えの一斉射撃に、ゴーレムは蹌踉めき……しかし踏ん張り、姿勢を保つ。
「流石に石だけあって、かてー、です」
嘆息した雪が隊列から飛び出し、斜面を駆け下りた。
「……っ!」
踏み降ろされたゴーレムの足を紙一重に躱す。
雪はそのまま勢いに身を任せてルーサーンハンマーを振り降ろし、巨人の足首を強打した。
「でかくても、足で歩くなら、バランス崩せば転ぶ、です」
集中砲火で脆くなっていた石作りの左足が、圧倒的質量の打撃に、砕ける。
後は雪の言葉通りだ。
ゴーレムは平衡を失い、轟音と土埃を上げながら倒れる。
咄嗟、雪が身を退かせると、そこに矢と、銃弾と、魔法が雨あられ。
「……巻き込まれたら、洒落にもならねーです」
三十人超の覚醒者による弾幕である。
如何に堅牢な身体を持とうと、動きを封じれば的も同然。
擂鉢で潰される芋の様に……やがて石の巨人は、降り注ぐ弾幕に砕け散った。
「……あっちはうまく行ったみたいね」
一体目のゴーレムが倒れたのを見て、詩達はすかさず、自分達が引きつける二体目の誘導を開始する。
「皆も頑張って、もう少しだから!」
詩が馬上から、共に囮になっている疾影士に、ヒール、プロテクションと魔法を飛ばす。
身のこなしに優れる分、彼等が詩より前に出てくれているが、その分受ける傷も大きかった。
疾影士達は、片翼を輝かせる少女に笑顔で応えると、再びゴーレムに接近していく……
●制圧
陽動班がゴーレムを引きつけるのに合わせ、先駆けて砦の東西に回りこんでいた制圧部隊は、即座に行動を開始した。
「こう言うのを、鬼が出るか蛇が出るかと言うんでしたっけ?」
外壁の隙間を覗き込みながら、ライエルが呟いた。
屋外に歪虚の姿は一切無いものの、建造物内部の情報は全く不明だ。
「中が蛻の殻という事も無いでしょう。注意するべきです」
特殊作戦の経験がある天斗は、注意深く建物に突入可能な入り口と、その周辺の地形を確認する。
先に動いたのは、西側に回り込んだグレイブ達だった。
「よし、野郎ども。厄介な場所は多少ぶっ壊してでも進むぞ。待ち構えてる所に突っ込んでやる必要は無い」
丁度目の前には、朽ちかけた木造の扉。
一息に蹴破り踏み込むと、眼前には剣を携えた歩く骸骨。
「ッ!」
問答無用。
グレイブは盾を突き出し、相手を全力で叩き伏せた。
すかさず彼の後ろから、十名の猟団員が屋内へ雪崩れ込み、倒れた骸骨へ止めを刺す。
「スケルトン? 伏兵のつもりか」
随行する団員が呟く。
部屋の中には、無数の骸骨がこちらに気づき、臨戦態勢を取っていた。
その光景に……グレイブは、小さく肩を震わせ、笑った。
「関係ないさ。暴れろ、鬱憤たまってんだろ?」
「言われるまでもない!」
グレイブが踏み出す。猟団員も、後に続いた。
それに呼応するかの様に、本隊も砦南側の正面入り口から仕掛けた。
天斗が瞬脚で先行、手信号を後続に送り、侵入配置につける。
「3、2、1……!」
突入。即座、西側入口に注意を引かれていた骸骨に出くわすと、天斗はドリルナックルを翳し、飛燕を叩き込んだ。
その掘削音に引き寄せられたもう一体の骸骨は、飛来したチャクラムが阻む。
「貴方達が留守番役ですか? 申し訳ないですが、降伏してくれると助かるのですが?」
無駄とは思いつつも、ライエルは降伏勧告を叩きつけてみる。
これで運良く戦闘を避けられれば、怪我人を極限できるが……しかし、否。
「やはり、言葉は通じませんか」
ライエルは諦めた様に二、三度首を横に振り、突入する戦士達に続いた。
二方向からの突入が功を奏し、一階の鎮圧は戦死者ゼロで成功した。
ライエルが負傷者を治療する傍ら、グレイブ達がフロアを捜索。地下と二階への階段が発見された。
「どうする。上と下で別れるか」
「負傷者は一階で待機。俺が一個分隊と共に地下へ行く。他は二階へ当たれ」
グレイブの言葉に、八重樫は即断する。
天斗が、八重樫には一階に残り全体を統括して欲しいと申し出たが、八重樫は拒んだ。
「俺の後方待機は承認しない。だが、望むなら一個分隊を預ける」
「お気持ちは分りますが、八重樫様に何かあったら山岳猟団はどうなってしまわれるか、それをお考え下さい」
「俺が前線から下がれば、隊の士気を削ぐ。俺が死ぬのと結果は同じだ」
「山岳猟団として命を粗末にはしません。どうか許可をお願いいたします」
食い下がった天斗の目を正面から見据え、八重樫は言った。
「……逆だ。死ぬつもりで戦い、しかし勝ち残れ。俺達には『それしかない』」
死を恐れない。歪虚を討つ為に。或いは、生き残る為に。
その矛盾した理念こそ猟団の強さであり、組織の枠を飛び出した今の彼等そのもの。
八重樫の言葉を聞いたグレイブは、さも愉快げに、頬を歪めた。
「--いいぜ、死んだら幾らでも墓を掘ってやる。ただし、俺は強欲でな。俺が必要とする限り、簡単には死ねんぞ。愛すべきクソ野郎共」
●
グレイブ、天斗、ライエル達が二階へ上がると、窓の外からは二体目のゴーレムが倒れる轟音が聞こえてきた。
小規模な戦闘と捜索の後に、二階フロアを完全掌握したあたりで、ゴーレムへの対処部隊も砦に進撃、制圧班に追いつき合流した。
『ゴーレムは二体ともやっつけて、伏撃班の人達も、陽動班の人達も、みんな無事なのよっ! 怪我しちゃった人達は、モニカが手当してるのよっ』
一階に残ったモニカが、トランシーバーごしに元気よく報告してくると、ライエルが心なしか、安堵した様な表情を見せた。
「砦の護衛が、あんな簡単に釣られる様なヤツだけとか、ねーと思ったです」
雪とラシュディア、それに伏撃部隊で健在な者を加え、制圧班は三階へと進撃した。
階段を登り切った矢先、先頭の天斗とグレイブの目の前に、鋭く矢が降り立つ。
「またガイコツ野郎かい」
グレイブは顔をしかめつつ、盾を構えて突撃。
『接敵!』
続いて天斗と雪が、無線に報告を入れながら、団員ともども切り込んでいく。
その背中から、ラシュディアがファイアアローを、ライエルと詩がホーリーアローを放って支援する。
幾筋もの光が尾を引いて飛ぶと同時、天斗はスラッシュエッジを、雪は強打を繰り出し、それぞれが眼前の骸骨を粉砕した。
数だけは揃っていたものの、骸骨達は、緻密に連携したハンターと猟団を抑えるに足る者では無かった。
ハンターが各々の役割を明確に分担した事も功を奏し、歪虚は時間を掛けずして掃討され……やがて、パシュパティ砦は、奪還された。
●
「……お、終わったん?」
無事に砦から出てきたハンター達を見て、外壁の東側を警戒していたイチカが、戻ってきた。
「増援なんかは、影も形も見えへん。CAM実験場へ向かったきりなんやろね」
「八重樫さんが、地下で古い工房や倉庫を見つけたそうです……連中、もしかしてここを武器庫にしてたのかも」
イチカの報告を聞いて、ラシュディアが考えこむ様に唸る。
「敵が帰ってくる恐れもあります。すぐに無傷なものを防御に配置し、味方に連絡しましょう」
次いで、負傷者の手当を終えたライエルがやってきて、八重樫に告げた。
「無論、防備は早急に固める。だが……今の俺達に、味方は居ない」
八重樫の回答の意味は、その場の誰もが察する事ができた。
「みんな、相変わらず危ない橋を渡ってるんだね……」
詩の表情が、微かに曇る。かつての約束を、あの老兵は覚えてくれているだろうかと……ほんの少しだけ、詩は胸騒ぎを覚えた。
「正規軍は、せーじとか、色々めんどーそう、です」
「……ああ」
八重樫を見て率直に呟いた雪を、彼自身が肯定した。
「でも、ここをマギア砦取り返す、足掛かりにも、使えるかも、しれねー、です。命令違反帳消しに出来るくれーの、手柄立てりゃ良いんじゃねー、です?」
「八重樫様、私は何も言いません。山岳猟団の歩む道に何が有るのか見てみたいものです。関わった者として」
雪の言葉に続いたのは、天斗だ。
二人の視線を受けて……山岳猟団の指揮官は、ただ沈黙で、答えた。
「それはそうと……無事作戦が成功したんだから、約束通り、ハンバーガー作らなくっちゃねっ」
気を取り直した詩の言葉に「待ってました!」と喜ぶのは、特にリアルブルー出身の団員達だ。
無論、他の団員とて、女の子の手料理ならば歓喜するのは自然の道理。
団員達がどこからか運び込んでいた酒樽が出現すると……パシュパティ砦奪還の、戦勝会が始まったのだった。
「八重樫さん……猟団の即応員に、してくれませんか。俺で、役に立つのであれば」
宴も盛り上がり始めた頃、ラシュディアは、雪やグレイブと共に、八重樫にそう切り出した。
八重樫は、二つ返事でそれを受け入れる。
そして……一切表情の変わらぬ仏頂面のまま、彼らに告げた。
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八重樫団長代へ質問! モニカ(ka1736) エルフ|12才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/15 23:50:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/11 02:42:11 |
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話し合いの卓 真田 天斗(ka0014) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/02/16 21:37:05 |