ゲスト
(ka0000)
希望の地にて求む救い
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/16 19:00
- 完成日
- 2015/02/26 06:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
みんな忘れているかも知れないが、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)の本業は医者である。それも帝国軍属の、れっきとした軍医だ。
しかし、今までそれを発揮する場面はあまりなかった。別の見方をすれば、それはとても幸福なことだったのだろうが――。
●
「ゲルタさん。貴方は、昨今辺境で起きている事態をどれほど把握していますか?」
ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が、彼女を訪ねてきたのはそんなある日のことだった。尋ねられ、彼女はぼんやりと知りうる情報を答える。
「ええと、リアルブルーの兵器が実験場に送られ、歪虚たちもそれに呼応するように出現してきた、とは」
「それだけならまだ良かったのですがねぇ。
……ところで、マギア砦について何か話を聞いてますか?」
マギア砦。
辺境の中でも最前線と言われる場所でハンターたちがマギア砦で籠城戦を行っているという情報も、無論彼女には届いている。ただ、あくまで情報としてだけで、実感は薄いのが実情だった。やんわりと頷いたゲルタに、ヴェルナーは口角をわずかにつり上げる。
「それはよかった。話が早くて済みます。そちらの方はハンターが尽力してますが、なにぶん敵勢が多いのがネックでしてねぇ。どうやら近隣にも歪虚の攻撃を受け、逃走中の部族も存在するようなのです」
「な……!」
そうだ。戦いには常に、罪もなき人々の犠牲も存在する。規模の大きな戦いであればあるほど、それは避けられない事実だった。
「その人たちは、今どうなっているのですか?!」
ゲルタは、柄にもなく大声を上げた。その反応を見たヴェルナーも、ざっと説明してくれる。
現在逃走中の部族は、CAM実験施設に身を寄せているのだとか。そこは辺境ユニオンの責任者であるリムネラ(kz0018)が、後々まで利用できる施設に、街作りにと最近心を砕いているエリアで、寝泊まりできるだけの態勢は整っているらしい。それと、簡易的な診療施設も。
「ノアーラ・クンタウで引き取ろうにもあまりにも距離が遠すぎます。
ちょうどユニオン経由でそちらに逗留することの出来る医師を探している旨がこちらにも届いていましてね。辺境に理解のある貴方なら適任だと思いまして、推挙を検討しておりました」
ヴェルナーの言葉に、ゲルタは一瞬考える。しかし本当にそれは一瞬のことで、
「行かせてください。ただ、私は帝国所属と言うこともあって辺境の人に受け入れられにくい部分もあるでしょうから、ハンターの力を借りたいのですが――」
力強い瞳で訴えると、青年も満足そうに微笑んだ。
●
その頃、CAM実験施設――今は『ホープ』と名付けられたその場所には、多くの避難民が肩を寄せ合っていた。
辺境住人ももちろんだが、逃げ遅れたキャラバン隊の姿もある。
そのなかで一人、薄汚れた子どもが身体を丸めて眠っていた。十歳くらい。時々震えているのは、襲撃の時を思い出しているのだろうか。
「それにしてもこの子も災難だなあ。ちょいと前に仲間とはぐれてたらしいところをうちのキャラバンで拾ったんだが、またこんな目に遭っちまってさぁ」
横に座っていたキャラバンの男が子どもの背を軽く撫でて呟く。
「おまけにショックで色々忘れちまったみたいでさ……泣きっ面に蜂って奴だろうね」
どうやらどこの子どもかもよくわからないらしい。
「もう少ししたら要塞都市あたりから援軍もくるだろうさ。まずはそれからだ。きっと何とかなるさ」
キャラバンの男は、そう言って頷いた。
みんな忘れているかも知れないが、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)の本業は医者である。それも帝国軍属の、れっきとした軍医だ。
しかし、今までそれを発揮する場面はあまりなかった。別の見方をすれば、それはとても幸福なことだったのだろうが――。
●
「ゲルタさん。貴方は、昨今辺境で起きている事態をどれほど把握していますか?」
ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が、彼女を訪ねてきたのはそんなある日のことだった。尋ねられ、彼女はぼんやりと知りうる情報を答える。
「ええと、リアルブルーの兵器が実験場に送られ、歪虚たちもそれに呼応するように出現してきた、とは」
「それだけならまだ良かったのですがねぇ。
……ところで、マギア砦について何か話を聞いてますか?」
マギア砦。
辺境の中でも最前線と言われる場所でハンターたちがマギア砦で籠城戦を行っているという情報も、無論彼女には届いている。ただ、あくまで情報としてだけで、実感は薄いのが実情だった。やんわりと頷いたゲルタに、ヴェルナーは口角をわずかにつり上げる。
「それはよかった。話が早くて済みます。そちらの方はハンターが尽力してますが、なにぶん敵勢が多いのがネックでしてねぇ。どうやら近隣にも歪虚の攻撃を受け、逃走中の部族も存在するようなのです」
「な……!」
そうだ。戦いには常に、罪もなき人々の犠牲も存在する。規模の大きな戦いであればあるほど、それは避けられない事実だった。
「その人たちは、今どうなっているのですか?!」
ゲルタは、柄にもなく大声を上げた。その反応を見たヴェルナーも、ざっと説明してくれる。
現在逃走中の部族は、CAM実験施設に身を寄せているのだとか。そこは辺境ユニオンの責任者であるリムネラ(kz0018)が、後々まで利用できる施設に、街作りにと最近心を砕いているエリアで、寝泊まりできるだけの態勢は整っているらしい。それと、簡易的な診療施設も。
「ノアーラ・クンタウで引き取ろうにもあまりにも距離が遠すぎます。
ちょうどユニオン経由でそちらに逗留することの出来る医師を探している旨がこちらにも届いていましてね。辺境に理解のある貴方なら適任だと思いまして、推挙を検討しておりました」
ヴェルナーの言葉に、ゲルタは一瞬考える。しかし本当にそれは一瞬のことで、
「行かせてください。ただ、私は帝国所属と言うこともあって辺境の人に受け入れられにくい部分もあるでしょうから、ハンターの力を借りたいのですが――」
力強い瞳で訴えると、青年も満足そうに微笑んだ。
●
その頃、CAM実験施設――今は『ホープ』と名付けられたその場所には、多くの避難民が肩を寄せ合っていた。
辺境住人ももちろんだが、逃げ遅れたキャラバン隊の姿もある。
そのなかで一人、薄汚れた子どもが身体を丸めて眠っていた。十歳くらい。時々震えているのは、襲撃の時を思い出しているのだろうか。
「それにしてもこの子も災難だなあ。ちょいと前に仲間とはぐれてたらしいところをうちのキャラバンで拾ったんだが、またこんな目に遭っちまってさぁ」
横に座っていたキャラバンの男が子どもの背を軽く撫でて呟く。
「おまけにショックで色々忘れちまったみたいでさ……泣きっ面に蜂って奴だろうね」
どうやらどこの子どもかもよくわからないらしい。
「もう少ししたら要塞都市あたりから援軍もくるだろうさ。まずはそれからだ。きっと何とかなるさ」
キャラバンの男は、そう言って頷いた。
リプレイ本文
●
――そこは戦場だった。
無論、そこで戦いが行われたという意味ではない。
戦いによって心身傷ついた人々が集い、寒さにふるえながら身を寄せ合う姿はいかにも『被災者』という言葉がしっくりくる。
ホープと名付けられたばかりの開拓地、まだ町としての機能ができはじめたばかりの小さな希望。それを依るすべとして、人々が集まっているのだった。
(戦火時というのはどこも変わらないです……)
自身も軍人だったこともあり、そんな状況は知っているのだろう。シュネー・シュヴァルツ(ka0352)はその光景をじっと見据え、胸の中でそんなことを思う。
「あなたたちがハンターさんかしら」
少し疲れた表情を浮かべた眼鏡の女性が、長い金の髪を揺らしながら近づいてくる。
「今回ここに駐屯医として派遣されたゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)です。よろしく頼みます」
ゲルタは彼らよりわずかに先に到着していたらしい。帝国軍属と言うことだが、小さく浮かべた笑顔は気さくそうだった。民族の差異などは些末なこととしか考えていないらしい。
「ああ、よろしく頼む。あらかじめユニオンにも避難民のための資金や物資の提供を願い出てもらっているのだが――」
歪虚の襲撃により自身の過去をすべて失った経験のあるレイス(ka1541)がそう言うと、
「ユニオンの助けは正直助かるな。一部の避難民は、帝国に対してあんまり好意的でないから」
ゲルタも頷く。
「とりあえずこんな状況だとピリピリしちゃうわよねー。でも、喧嘩している場合じゃないわよー。もともとホープって、『希望』って言う意味なの、希望は敵対ではなく友好から生まれるものなのよ」
ノアール=プレアール(ka1623)がおっとりとした声で、しかし力強く言えば、ゲルタ同様に医術の心得を持つエイル・メヌエット(ka2807)も
「私たちも手伝わせてもらうわ。希望の灯火を消さないためにも、ね」
そう言って微笑んだ。
●
まずエイルが提案したのは、避難民たちの怪我の状況を一目で見分けられるようにするための、いわゆるトリアージである。
避難民はそれぞれハンターたちによる簡単な見立ての後、重傷者は赤、中傷者は黄色、そして軽傷者は緑のリボンを受け取る。
その一方で白衣に袖を通せば医療従事者と一目で見分けがつくだろうと、看護支援を主に担当するエイル、そして小柄なドワーフの少女カトリ・トルマネン(ka4190)らが白衣を着用し、そして避難民たちの様子を見て回る。
「故郷を失う辛さ、あたしにもわかりますから」
カトリは辺境の寒村出身ということもあってか、そんなことを言いながら避難民たちの声を聞いて回っている。部族の民も、特に彼女には話しやすいらしい。
「お嬢ちゃんも大変だったんじゃないのかい?」
身の上をちらりと聞いたらしい子連れの女性が心配げに問うが、
「でもこれが、今あたしに出来る唯一で最善だから」
カトリはにっこり笑った。
いっぽうエイルはと言うと、『帝国の人に治療してもらうのは抵抗がある』というミング族の人々への対応に当たる。ゲルタはそれ以外、ジュマ族やキャラバンの人々に対しての対応が中心だ。
幸運にもジュマ族の難民のなかにはかの部族の薬師も混じっていた。必要な薬品が足りない時には近くで生えている薬草を教えてくれたり、部族伝統の治療法などもアドバイスしてくれる。
何よりもとりあえずは体力を取り戻すこと、気力を取り戻すことが何よりも大事。シュネーや、中性的な容貌の少年仁川 リア(ka3483)ら、炊き出しを目的の中心にやってきたハンターたちはさっそく食材の確認をする。
「あー、コレはずいぶんと……」
避難民が訪れてからそれなりの日数も経っている。自分たちがあらかじめ持っていた食べ物など無いに等しい彼らがちびちびとそれを食べていたのだから、量が少ないのも当然と言えば当然だった。
保存食の追加を要請していてよかったと、レイスなどは思う。
「とりあえず、近くで狩りが出来るかも知れないし、チェックしてくるよ」
リアはそう良いながら、トレードマークのキャップを被り直す。彼も歪虚の襲撃によって既に親を喪っている身である、腹が減っては何とやらと言うことを実感しているのだろう。
避難民のなかにも狩りへ行くことへの希望者が数人いたので、道案内も兼ねつつ共に向かう。リアはもしもの時の護衛役も兼ねているため、万が一のことがあっても何とかなるだろう。
その合間に、初めての依頼にやや緊張気味のセツァルリヒト(ka3807)は、仲間に手伝ってもらいつつトランシーバーの扱い方を教えてもらう。誰でも初めてというのはどこか心細くなるものだと言うこともあり、セツァルリヒトは助けてもらいつつ助けていくというスタイルである。
「ええと、公衆衛生は……やっぱりそこまで手が回っていませんね」
カトリとそう話すと、まずするべきことを考える。――やはり、清掃だろうか。特に寝床にさせてもらっている集会所や居住区として作られた小屋のいくつかは、やはり人が多く、満足な休息も難しいだろう。清潔な空間にするのは、精神的にも肉体手金も避難民が安心できるようになるだろうから――最優先事項とも言えた。
「本当は洗濯もしたいんですけどね」
今は人数の都合で、飲食用の水が最優先。水源は決して大きくないため、いずれこれの整備も必要なのだろうが、今はそんなことをしている余裕はない。以前からの開拓で使ったであろう清掃用具を取り出すと、とりあえず簡単な清掃を始める。
「皆さんも一緒に、お掃除しようー? 少しでも気分が良くなるんじゃないかと思うよ?」
当然ながら劣悪な環境に居続けたいという物好きはいないわけで、コレには賛同者も多かった。特に幼子を抱えた母親たちは、少々戸惑いがあるようには見えたものの、やはり母親らしく手伝ってくれるのだった。
「体力に余裕ある人は、こっちも手伝ってもらえるかしらー?」
ノアールが笑う。彼女は持参した大型テントを、手伝ってもらって張ることにしたのだった。
●
「じゃあさ、子どもたちはこっちで様子見るよ」
そういてにっかり笑うのはダガーフォール(ka4044)、どこか子どもっぽさを残す彼だが、子どもに対してはやはり胸を痛ませていた。
(大人はともかく、子どもは遊んでなんぼの時期に怖がって萎縮して遠慮して――ってのはマジやばいし。子どもと遊んで、それが子どもたちの気晴らしになってくれれば、それが良いと思う)
ダガーフォールは得意の手品をさっと披露する。手元にある小さなボールが、二個三個と増える様は、子どもたちも目を輝かせて見つめている。
「さ。ちょっと外に出てないか? お母さんたち、今から掃除するみたいだしさ。外で他にも手品、見せてやるよ」
そう言うと、子どもたちも素直に従ってくれる。母親たちも彼に感謝しつつ、小さく頭を下げた。
ダガーフォールは開拓地のなかにあるベンチに座り、子どもたちもその周りに集まって輪を作った。ダガーフォールは満足そうに頷きながら言う。
「うんうん。時間ってさー、流れるじゃん? 何してたって同じだけ、さ。しょんぼりしてたって、楽しく過ごしたって、同じ一日。だったらさ、楽しく笑って一日過ごした方が良くなーい?」
子どもたちは一瞬顔を見合わせる。言われてみればその通りで、ここには家族を失って復讐に燃える子もいれば、同時にすべてを失った喪失感ですっかりふさいでしまっている子も存在する。けれど、時間が等しく過ぎていくというなら、それはポジティブな感情で過ごした方がどれほどか楽しいに違いない。
「うんっ」
「たのしいほうがいいー!!」
子どもたちは欲望に忠実だ。
ダガーフォールの言葉に、すっかりと魅せられてしまったらしい。
「でもなんか、やりたい遊びとかあるか? 今までやったことのある遊びとか……」
しかしその問いは杞憂だったらしい。
子どもというのはもともと大人と違う世界に生きるもの。なればこそ、部族の対立関係などにも関係なく、彼らは手を取り遊びに興じることが出来る。
きっかけさえ与えてしまえば、あとは子どもたちが中心になって、やれ鬼ごっこだやれかくれんぼだと、今目の前にある現実を忘れるかのようにして夢中になってはしゃぎ始めていた。
(子どもっていうのは、こういうもんだよなぁ)
ダガーフォールは思う。
(大人の都合で動いたりしない、自由な存在なんだよなぁ)
「ほらほら、おじさんもいっしょにあそぼ!」
子どもたちはダガーフォールも一緒に遊びの輪に加われと言わんばかりに手を引っ張る。
青年は苦笑しながら、子どもたちのあとをついて行くのだった。
●
その日の夕食は、リアが捕まえてきたうさぎと収穫してきた山菜で作ったスープ、それから簡単に作れるトウモロコシのパン。
温かな食事を口に含めば、うま味がいっぱいに広がる。
「そういえば、こういうまともなご飯を食べるのは久しぶりかも知れないねぇ」
部族の女性たちがそう言って笑い会う。
もともとは明るい気質の女性たちなのだろう、腹がふくれれば次第に話も弾んでいく。何よりも緊急事態にいがみ合いばかりを続けているのは不毛なのだと言うことを、無邪気な子どもたちが教えてくれた。ここに恨みがあるわけでもなし、ゆっくりとだが二つの部族は友好を深めていける空気が漂っていく。
劣悪な環境から少しでもすくい上げられれば、これだけ心に余裕も出来るものなのだと、誰もが驚くくらいの変化だった。
――もっとも、帝国の助けとなると、やはりはじめは渋るものもあったが……しかし、二日、三日と日にちが過ぎていけば、ゲルタの懸命な救援活動と真摯な姿勢、それに帝国の者にしては珍しいくらいに辺境の生活に興味を持っていると言うこともあってか次第に理解者も増えていくことになるのだが。
これもハンターたちが間に立ってくれていたことが大きい。
更に、万が一に備え、ハンターたちが定期的に警備を続けてくれていることも精神の安定に繋がっているのだろう。もし突然歪虚や雑魔が顕れたとしても、彼らが対処してくれる――そう思えば、気持ちもずいぶん軽くなるのだった。
●
――話は初日に戻る。
「……そういえば。ずいぶん難儀をしている子どもがいると聞いたのだが」
レイスが尋ねた。すると、ああ、あの子かと何人かの避難民が一つの方向を指さしている。
その子どもは悪い意味で目立っていた――ぼさぼさと長く伸びた髪、泥まみれの服装。彼を連れていたキャラバンの話では、年齢も、性別すらもわからないのだという。
確かにこのくらいの年齢では、時折どちらとも受け取れるような子どももいるのも確かなのだが――本人も余りそれには触れられたくないのだろうか、じっと見つめるにとどめている。
それからも、その子どもはわざと顔を汚したりしているところをしばしば発見された。どうやら、余り顔を見られたくない――と言うことなのだろうか。余り汚れたままでいると今度は衛生面でも問題になってくる。エイルは思い立って、犬を伴って子どもの前に訪れた。
「この子はスクルドっていうの。良かったら、一緒にいてもらえないかな」
【役目】を与えるのは、得てしてプラスに働くことが多い。この子の場合も、同様で――預かり物の犬に汚れた姿で触れるのは良くないと思ったのだろう、素肌の見えるところは綺麗にするようになった。
文字通り中性的な美貌。長い髪の毛は少女とも少年とも受け取れるが、いずれにしてもかなりの美人であることには間違いなかった。
数日後には、スクルドと共にじゃれ合う姿も見られるようになるなど、確実に状態は改善している――ようにも見えた。
「ふむ、ずいぶん状態自体は良くなっているんだな」
「みんなのおかげだね。正直、私にとって一番厄介だったんだ、あの子。素性すらわからない状態だし」
ゲルタも助かっていると礼を言う。一日一回は必ずミーティングをして状況を報告し合っているのだが、そういったこまめな活動が着実に実を結んでいる証拠だった。
シュネーは来てまもなく、その子に雪うさぎを渡したのだという。
「食べられないけれど、必要なのはきっと食べ物だけじゃないから」
どちらかというと無表情気味のシュネーは、そうやって接することで相手の心に触れたかったらしい。
「俺もこの間話したが」
レイスも語る。
――すべてを喪い、自らも見失った。そしてその後も劣悪な環境で過ごさざるをえなかった。そんな世界が許せず、他の誰かもそんな言い方しか出来ないのがいやで、ハンターになろうと決めたのだと、彼自身の生い立ちを少年に話したのだという。
――君は、『レイス』になるな。
レイスとは『幽鬼』という意味の単語。決して祝福の意味ではあり得ない言葉。
――君の幸せを願う人は間違いなくいる。自分の中の冷たさを原動力にせず、外からの暖かさを目指して欲しい。
――それでももし君がまだ一人で苦しいのなら、俺が君の家族になろう――
レイスの言葉はとても胸に響いたことだろう。しかしその子はこくりと頷いて、そして思わぬことを言ったのだという。
「……ファナ、と言うんだそうだ。名前だけは思い出したようだ」
性別についてはあえて追求しない。辺境の文化は多様で、事情があるのかも知れないからだ。
●
「そう考えると、文化の違いって本当に面白いわー。ね」
ノアールが微笑むと、リアも頷いた。土地柄によって猟の作法一つとっても異なるというのだから、やはり興味深い。
「怪我人さんもずいぶん状態が良くなりました……。精神的な傷を負っている人も、一応元気になりつつあります」
セツァルリヒトの言葉に、カトリやエイルたちも頷く。
「雑魚寝の方も何とか配置を工夫することは出来たしね。でも、力不足は否めないなあ」
ハンターといえど人であることは同じ。個々に出来ることは限られている。
「……そういえば、あの子なんですけど」
ファナのことらしい。ミーティングに参加していた部族の女性が言う。
「私たちのどちらの部族の子でもないんですよね。考えられるのは――あとはこのあたりを行き来している部族が幾つかあるので、そちらなんですが」
それなら、とゲルタがぽんと手を打った。
「あの子、途中から診療所の手伝いもしてくれるようになってたのよね。もし引き取り手に困るなら、私が助手にしようかな、とも思うんだけど」
確かに、犬の世話を与えたことで、ファナはずいぶんと元気を取り戻した。ゲルタの側で、何かしらの役目を与えれば――心身共に落ち着きやすいかも知れない。
きっと結果は良くなる。
ハンターたちは役目を終え、ホープに別れを告げた。
難民たちも、さまざまなあてを求めてホープを離れていく。
希望の光を、胸に宿して。
――そこは戦場だった。
無論、そこで戦いが行われたという意味ではない。
戦いによって心身傷ついた人々が集い、寒さにふるえながら身を寄せ合う姿はいかにも『被災者』という言葉がしっくりくる。
ホープと名付けられたばかりの開拓地、まだ町としての機能ができはじめたばかりの小さな希望。それを依るすべとして、人々が集まっているのだった。
(戦火時というのはどこも変わらないです……)
自身も軍人だったこともあり、そんな状況は知っているのだろう。シュネー・シュヴァルツ(ka0352)はその光景をじっと見据え、胸の中でそんなことを思う。
「あなたたちがハンターさんかしら」
少し疲れた表情を浮かべた眼鏡の女性が、長い金の髪を揺らしながら近づいてくる。
「今回ここに駐屯医として派遣されたゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)です。よろしく頼みます」
ゲルタは彼らよりわずかに先に到着していたらしい。帝国軍属と言うことだが、小さく浮かべた笑顔は気さくそうだった。民族の差異などは些末なこととしか考えていないらしい。
「ああ、よろしく頼む。あらかじめユニオンにも避難民のための資金や物資の提供を願い出てもらっているのだが――」
歪虚の襲撃により自身の過去をすべて失った経験のあるレイス(ka1541)がそう言うと、
「ユニオンの助けは正直助かるな。一部の避難民は、帝国に対してあんまり好意的でないから」
ゲルタも頷く。
「とりあえずこんな状況だとピリピリしちゃうわよねー。でも、喧嘩している場合じゃないわよー。もともとホープって、『希望』って言う意味なの、希望は敵対ではなく友好から生まれるものなのよ」
ノアール=プレアール(ka1623)がおっとりとした声で、しかし力強く言えば、ゲルタ同様に医術の心得を持つエイル・メヌエット(ka2807)も
「私たちも手伝わせてもらうわ。希望の灯火を消さないためにも、ね」
そう言って微笑んだ。
●
まずエイルが提案したのは、避難民たちの怪我の状況を一目で見分けられるようにするための、いわゆるトリアージである。
避難民はそれぞれハンターたちによる簡単な見立ての後、重傷者は赤、中傷者は黄色、そして軽傷者は緑のリボンを受け取る。
その一方で白衣に袖を通せば医療従事者と一目で見分けがつくだろうと、看護支援を主に担当するエイル、そして小柄なドワーフの少女カトリ・トルマネン(ka4190)らが白衣を着用し、そして避難民たちの様子を見て回る。
「故郷を失う辛さ、あたしにもわかりますから」
カトリは辺境の寒村出身ということもあってか、そんなことを言いながら避難民たちの声を聞いて回っている。部族の民も、特に彼女には話しやすいらしい。
「お嬢ちゃんも大変だったんじゃないのかい?」
身の上をちらりと聞いたらしい子連れの女性が心配げに問うが、
「でもこれが、今あたしに出来る唯一で最善だから」
カトリはにっこり笑った。
いっぽうエイルはと言うと、『帝国の人に治療してもらうのは抵抗がある』というミング族の人々への対応に当たる。ゲルタはそれ以外、ジュマ族やキャラバンの人々に対しての対応が中心だ。
幸運にもジュマ族の難民のなかにはかの部族の薬師も混じっていた。必要な薬品が足りない時には近くで生えている薬草を教えてくれたり、部族伝統の治療法などもアドバイスしてくれる。
何よりもとりあえずは体力を取り戻すこと、気力を取り戻すことが何よりも大事。シュネーや、中性的な容貌の少年仁川 リア(ka3483)ら、炊き出しを目的の中心にやってきたハンターたちはさっそく食材の確認をする。
「あー、コレはずいぶんと……」
避難民が訪れてからそれなりの日数も経っている。自分たちがあらかじめ持っていた食べ物など無いに等しい彼らがちびちびとそれを食べていたのだから、量が少ないのも当然と言えば当然だった。
保存食の追加を要請していてよかったと、レイスなどは思う。
「とりあえず、近くで狩りが出来るかも知れないし、チェックしてくるよ」
リアはそう良いながら、トレードマークのキャップを被り直す。彼も歪虚の襲撃によって既に親を喪っている身である、腹が減っては何とやらと言うことを実感しているのだろう。
避難民のなかにも狩りへ行くことへの希望者が数人いたので、道案内も兼ねつつ共に向かう。リアはもしもの時の護衛役も兼ねているため、万が一のことがあっても何とかなるだろう。
その合間に、初めての依頼にやや緊張気味のセツァルリヒト(ka3807)は、仲間に手伝ってもらいつつトランシーバーの扱い方を教えてもらう。誰でも初めてというのはどこか心細くなるものだと言うこともあり、セツァルリヒトは助けてもらいつつ助けていくというスタイルである。
「ええと、公衆衛生は……やっぱりそこまで手が回っていませんね」
カトリとそう話すと、まずするべきことを考える。――やはり、清掃だろうか。特に寝床にさせてもらっている集会所や居住区として作られた小屋のいくつかは、やはり人が多く、満足な休息も難しいだろう。清潔な空間にするのは、精神的にも肉体手金も避難民が安心できるようになるだろうから――最優先事項とも言えた。
「本当は洗濯もしたいんですけどね」
今は人数の都合で、飲食用の水が最優先。水源は決して大きくないため、いずれこれの整備も必要なのだろうが、今はそんなことをしている余裕はない。以前からの開拓で使ったであろう清掃用具を取り出すと、とりあえず簡単な清掃を始める。
「皆さんも一緒に、お掃除しようー? 少しでも気分が良くなるんじゃないかと思うよ?」
当然ながら劣悪な環境に居続けたいという物好きはいないわけで、コレには賛同者も多かった。特に幼子を抱えた母親たちは、少々戸惑いがあるようには見えたものの、やはり母親らしく手伝ってくれるのだった。
「体力に余裕ある人は、こっちも手伝ってもらえるかしらー?」
ノアールが笑う。彼女は持参した大型テントを、手伝ってもらって張ることにしたのだった。
●
「じゃあさ、子どもたちはこっちで様子見るよ」
そういてにっかり笑うのはダガーフォール(ka4044)、どこか子どもっぽさを残す彼だが、子どもに対してはやはり胸を痛ませていた。
(大人はともかく、子どもは遊んでなんぼの時期に怖がって萎縮して遠慮して――ってのはマジやばいし。子どもと遊んで、それが子どもたちの気晴らしになってくれれば、それが良いと思う)
ダガーフォールは得意の手品をさっと披露する。手元にある小さなボールが、二個三個と増える様は、子どもたちも目を輝かせて見つめている。
「さ。ちょっと外に出てないか? お母さんたち、今から掃除するみたいだしさ。外で他にも手品、見せてやるよ」
そう言うと、子どもたちも素直に従ってくれる。母親たちも彼に感謝しつつ、小さく頭を下げた。
ダガーフォールは開拓地のなかにあるベンチに座り、子どもたちもその周りに集まって輪を作った。ダガーフォールは満足そうに頷きながら言う。
「うんうん。時間ってさー、流れるじゃん? 何してたって同じだけ、さ。しょんぼりしてたって、楽しく過ごしたって、同じ一日。だったらさ、楽しく笑って一日過ごした方が良くなーい?」
子どもたちは一瞬顔を見合わせる。言われてみればその通りで、ここには家族を失って復讐に燃える子もいれば、同時にすべてを失った喪失感ですっかりふさいでしまっている子も存在する。けれど、時間が等しく過ぎていくというなら、それはポジティブな感情で過ごした方がどれほどか楽しいに違いない。
「うんっ」
「たのしいほうがいいー!!」
子どもたちは欲望に忠実だ。
ダガーフォールの言葉に、すっかりと魅せられてしまったらしい。
「でもなんか、やりたい遊びとかあるか? 今までやったことのある遊びとか……」
しかしその問いは杞憂だったらしい。
子どもというのはもともと大人と違う世界に生きるもの。なればこそ、部族の対立関係などにも関係なく、彼らは手を取り遊びに興じることが出来る。
きっかけさえ与えてしまえば、あとは子どもたちが中心になって、やれ鬼ごっこだやれかくれんぼだと、今目の前にある現実を忘れるかのようにして夢中になってはしゃぎ始めていた。
(子どもっていうのは、こういうもんだよなぁ)
ダガーフォールは思う。
(大人の都合で動いたりしない、自由な存在なんだよなぁ)
「ほらほら、おじさんもいっしょにあそぼ!」
子どもたちはダガーフォールも一緒に遊びの輪に加われと言わんばかりに手を引っ張る。
青年は苦笑しながら、子どもたちのあとをついて行くのだった。
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その日の夕食は、リアが捕まえてきたうさぎと収穫してきた山菜で作ったスープ、それから簡単に作れるトウモロコシのパン。
温かな食事を口に含めば、うま味がいっぱいに広がる。
「そういえば、こういうまともなご飯を食べるのは久しぶりかも知れないねぇ」
部族の女性たちがそう言って笑い会う。
もともとは明るい気質の女性たちなのだろう、腹がふくれれば次第に話も弾んでいく。何よりも緊急事態にいがみ合いばかりを続けているのは不毛なのだと言うことを、無邪気な子どもたちが教えてくれた。ここに恨みがあるわけでもなし、ゆっくりとだが二つの部族は友好を深めていける空気が漂っていく。
劣悪な環境から少しでもすくい上げられれば、これだけ心に余裕も出来るものなのだと、誰もが驚くくらいの変化だった。
――もっとも、帝国の助けとなると、やはりはじめは渋るものもあったが……しかし、二日、三日と日にちが過ぎていけば、ゲルタの懸命な救援活動と真摯な姿勢、それに帝国の者にしては珍しいくらいに辺境の生活に興味を持っていると言うこともあってか次第に理解者も増えていくことになるのだが。
これもハンターたちが間に立ってくれていたことが大きい。
更に、万が一に備え、ハンターたちが定期的に警備を続けてくれていることも精神の安定に繋がっているのだろう。もし突然歪虚や雑魔が顕れたとしても、彼らが対処してくれる――そう思えば、気持ちもずいぶん軽くなるのだった。
●
――話は初日に戻る。
「……そういえば。ずいぶん難儀をしている子どもがいると聞いたのだが」
レイスが尋ねた。すると、ああ、あの子かと何人かの避難民が一つの方向を指さしている。
その子どもは悪い意味で目立っていた――ぼさぼさと長く伸びた髪、泥まみれの服装。彼を連れていたキャラバンの話では、年齢も、性別すらもわからないのだという。
確かにこのくらいの年齢では、時折どちらとも受け取れるような子どももいるのも確かなのだが――本人も余りそれには触れられたくないのだろうか、じっと見つめるにとどめている。
それからも、その子どもはわざと顔を汚したりしているところをしばしば発見された。どうやら、余り顔を見られたくない――と言うことなのだろうか。余り汚れたままでいると今度は衛生面でも問題になってくる。エイルは思い立って、犬を伴って子どもの前に訪れた。
「この子はスクルドっていうの。良かったら、一緒にいてもらえないかな」
【役目】を与えるのは、得てしてプラスに働くことが多い。この子の場合も、同様で――預かり物の犬に汚れた姿で触れるのは良くないと思ったのだろう、素肌の見えるところは綺麗にするようになった。
文字通り中性的な美貌。長い髪の毛は少女とも少年とも受け取れるが、いずれにしてもかなりの美人であることには間違いなかった。
数日後には、スクルドと共にじゃれ合う姿も見られるようになるなど、確実に状態は改善している――ようにも見えた。
「ふむ、ずいぶん状態自体は良くなっているんだな」
「みんなのおかげだね。正直、私にとって一番厄介だったんだ、あの子。素性すらわからない状態だし」
ゲルタも助かっていると礼を言う。一日一回は必ずミーティングをして状況を報告し合っているのだが、そういったこまめな活動が着実に実を結んでいる証拠だった。
シュネーは来てまもなく、その子に雪うさぎを渡したのだという。
「食べられないけれど、必要なのはきっと食べ物だけじゃないから」
どちらかというと無表情気味のシュネーは、そうやって接することで相手の心に触れたかったらしい。
「俺もこの間話したが」
レイスも語る。
――すべてを喪い、自らも見失った。そしてその後も劣悪な環境で過ごさざるをえなかった。そんな世界が許せず、他の誰かもそんな言い方しか出来ないのがいやで、ハンターになろうと決めたのだと、彼自身の生い立ちを少年に話したのだという。
――君は、『レイス』になるな。
レイスとは『幽鬼』という意味の単語。決して祝福の意味ではあり得ない言葉。
――君の幸せを願う人は間違いなくいる。自分の中の冷たさを原動力にせず、外からの暖かさを目指して欲しい。
――それでももし君がまだ一人で苦しいのなら、俺が君の家族になろう――
レイスの言葉はとても胸に響いたことだろう。しかしその子はこくりと頷いて、そして思わぬことを言ったのだという。
「……ファナ、と言うんだそうだ。名前だけは思い出したようだ」
性別についてはあえて追求しない。辺境の文化は多様で、事情があるのかも知れないからだ。
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「そう考えると、文化の違いって本当に面白いわー。ね」
ノアールが微笑むと、リアも頷いた。土地柄によって猟の作法一つとっても異なるというのだから、やはり興味深い。
「怪我人さんもずいぶん状態が良くなりました……。精神的な傷を負っている人も、一応元気になりつつあります」
セツァルリヒトの言葉に、カトリやエイルたちも頷く。
「雑魚寝の方も何とか配置を工夫することは出来たしね。でも、力不足は否めないなあ」
ハンターといえど人であることは同じ。個々に出来ることは限られている。
「……そういえば、あの子なんですけど」
ファナのことらしい。ミーティングに参加していた部族の女性が言う。
「私たちのどちらの部族の子でもないんですよね。考えられるのは――あとはこのあたりを行き来している部族が幾つかあるので、そちらなんですが」
それなら、とゲルタがぽんと手を打った。
「あの子、途中から診療所の手伝いもしてくれるようになってたのよね。もし引き取り手に困るなら、私が助手にしようかな、とも思うんだけど」
確かに、犬の世話を与えたことで、ファナはずいぶんと元気を取り戻した。ゲルタの側で、何かしらの役目を与えれば――心身共に落ち着きやすいかも知れない。
きっと結果は良くなる。
ハンターたちは役目を終え、ホープに別れを告げた。
難民たちも、さまざまなあてを求めてホープを離れていく。
希望の光を、胸に宿して。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/11 23:58:12 |
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相談卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/02/16 04:31:41 |