ゲスト
(ka0000)
お土産は裏路地で
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/19 12:00
- 完成日
- 2015/02/28 17:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
港湾都市ポルトワール。
風光明媚な観光都市としての表の顔と、渾然一体としたダウンタウンは裏の顔。
二面性を持つこの都市は、近年目覚ましい発展を遂げつつあり、ヴァリオスとはまた異なった趣きを魅力に感じた観光客で栄えています。特に、地理的にも近いフマーレからは人気のようです。
ここにも、一組の家族がおりました。
子供がある程度大きくなるまでは遠出を自粛していたこともあって、両親は新婚以来の旅行にウキウキなご様子。子供から目を離してしまったのも、仕方ないのかもしれません。
気づいた時にはもう遅し。
市街を探し回ってはみたものの、影も形もありません。
もしかしたら――。両親は我が子がダウンタウンに紛れ込んでしまったのでは、と戦々恐々です。
慌てて駆け入ったのは、言わずと知れたハンターオフィス。
ハンター達は至急の案件として、ダウンタウンでの子供の捜索を頼まれることになりました。
●ピッキオの冒険
さて、そんな騒動が起きているとも露知らず、一人息子のピッキオ君8歳は薄暗い路地裏へと足を進めています。
お坊ちゃんのように短く纏められた樺色の髪の毛を揺らし、開いているのか分からない糸のような目できょろきょろと辺りを見回します。どうも迷子のようです。
ちょっと臭いもあります。鼻を摘まみたくなってしまいますね。
「止まれ!」
不意に呼び止められ、ピッキオは後ろを振り返りました。
そこにいたのは、10人の子供達。歳は6~12歳程度でしょうか。
真ん中に立つリーダーっぽい坊主頭の少年が、両腕を組んで胸を張り睥睨します。警戒しているようです。
「おい、お前! ここに何の用だ!」
「…………」
ピッキオは答えません。
「モクヒするきか。いい度胸だ」
リーダーはふんと鼻を鳴らします。自分たちの縄張りを荒らす者を許したりはしません。
背後に控えていた小さな少女が服を引っ張っりました。
「ねぇ、モクヒってなぁに?」
「リーデルの邪魔しちゃだめよ」
「メントレはしってるの?」
「え、あ、あたしは……ティコ、どうなの?」
「お、俺に振るなよ! ……イーナ、また今度な」
「えーでも」
リーダーの少年リーデルはざわざわとする背後にひくついています。
「……お土産」
と、ピッキオが口を開きました。どうやら話す気が無いわけでは無いようです。
「みやげ?」
リーデルは少し安堵しながら、ピッキオに先を促しました。
ピッキオは、腰に提げたキーホルダーを子供達に見えるように示します。キーホルダーには、小さなレンチの玩具がくっついていました。
「これ、貰ったから、お礼に……」
「ふむ」
ピッキオは友達の女の子から貰ったお礼に、お土産を探しているようです。
「その子はどんなのが好きなんだ?」
「ん……分からない」
「分からないって、何かあんだろ。ヒントとかよ」
「ん……自然が好き。木とか、動物」
「なるほどね……」
子供たちは暫し、ああだこうだと激論を交わしていましたが、やがてピッキオに向き直ると、
「よし、俺達が一緒に探してやる」
言い放ちました。
「…………」
「路地裏にもな、ちょっとした露店が沢山あるんだ。ついてこい」
ピッキオはリーデルに連れられ、奥へ奥へと進んでいきました。
●ハンターオフィス受付嬢の言葉
「最近はダウンタウンの治安も大分和らいできたんですけどね。
相変わらず軽犯罪は絶えませんが、重大な犯罪は目に見えて減ってきています。
だからといって、子供が迷い込んで安全という訳ではないのですけど……。
都市側も配給や寝床の提供などを行って、孤児への配慮も欠かしておりませんし――」
●ピッキオご一行
「なんだ、お前フマーレから来たのか」
「ん」
ピッキオ達は入り組んだ路地裏を歩きます。道端で屯しているやさぐれ者達は、ちらりと見るだけで何も言っては来ません。
ストリートチルドレン。ダウンタウンでは、そう珍しいものでもありません。
ピッキオはそんな男達の怖い視線に少し怯えているような気がします。表情は特に変わらないので、分かりにくいのですが。
「……大人は敵だ。気ーつけろよ」
リーデルは厳しい表情で前を見ます。
彼らはまだ幼いですが、この歳でも色々と厳しい経験を積んできたのです。
配給や寝床の提供を行ってくれる大人がいることも承知しています。
ですが、その一方で、それを横取りする大人やスリをして稼いだ金を巻き上げる連中もいるのです。
何度も苦渋を舐めてきました。その度に大人への反骨心は増していき、現在に至ります。
「だからといってガキなら大丈夫ってわけじゃねえ。ガキでもハンターがいる。ハンターは海軍の手先だ。ガキだからって油断するなよ」
ハンターが海軍の手先とは初耳です。リーデル達にはそう見えるのでしょうか。
「ま、最近はあんまり危ないことも減って来たけどな。それでも、俺らはジャクシャだ。所詮子供。大人にゃかなわねぇ。近づいて来る奴らには気ーつけろ。立ち向かうときは一人で挑むなよ。皆で力を合わせて対抗するんだ」
ピッキオは分かったのか分かっていないのか、小首を傾げます。
リーデルはため息を一つ。
「ここら辺は俺たちの縄張りだから、できればマクのが一番だ。例えば――」
と、リーデルは建物の入口の戸を勝手に開け、すたすたと中へ入っていきました。
後について行くピッキオ達。幸い家主はいないようです。
ここら辺では誰も鍵をかけたりしません。
鍵をかけるということは、守らなければならないものがあるということ。
そんなものを、ここの者達が見過ごすはずがありません。
だから誰も鍵をかけないのです。
「……いいの?」
「言ったろ。ここは俺たちの縄張りだって。こっそりいきゃバレないもんさ。子供にしか通れない道もあるから、後で教えてやるよ」
ピッキオはこくりと首を縦に振ります。
「しっかし、おめぇの土産、何にすっかなぁ」
ぐー。
誰かのお腹が鳴りました。
「……気にすんな。そういうこともある」
「今のリーデルじゃ――」
「止しな、ティコ!」
「…………」
気まずい沈黙。
「よーし、ピッキオ! 腹が減っただろ! 俺達のテクを見せてやる!」
リーデルは居丈高に叫び、石ころを思い切り蹴り飛ばします。
リーデル率いる子供たちは、路地裏で時折見られる怪しげな露店を巡って、旅を続けました。
風光明媚な観光都市としての表の顔と、渾然一体としたダウンタウンは裏の顔。
二面性を持つこの都市は、近年目覚ましい発展を遂げつつあり、ヴァリオスとはまた異なった趣きを魅力に感じた観光客で栄えています。特に、地理的にも近いフマーレからは人気のようです。
ここにも、一組の家族がおりました。
子供がある程度大きくなるまでは遠出を自粛していたこともあって、両親は新婚以来の旅行にウキウキなご様子。子供から目を離してしまったのも、仕方ないのかもしれません。
気づいた時にはもう遅し。
市街を探し回ってはみたものの、影も形もありません。
もしかしたら――。両親は我が子がダウンタウンに紛れ込んでしまったのでは、と戦々恐々です。
慌てて駆け入ったのは、言わずと知れたハンターオフィス。
ハンター達は至急の案件として、ダウンタウンでの子供の捜索を頼まれることになりました。
●ピッキオの冒険
さて、そんな騒動が起きているとも露知らず、一人息子のピッキオ君8歳は薄暗い路地裏へと足を進めています。
お坊ちゃんのように短く纏められた樺色の髪の毛を揺らし、開いているのか分からない糸のような目できょろきょろと辺りを見回します。どうも迷子のようです。
ちょっと臭いもあります。鼻を摘まみたくなってしまいますね。
「止まれ!」
不意に呼び止められ、ピッキオは後ろを振り返りました。
そこにいたのは、10人の子供達。歳は6~12歳程度でしょうか。
真ん中に立つリーダーっぽい坊主頭の少年が、両腕を組んで胸を張り睥睨します。警戒しているようです。
「おい、お前! ここに何の用だ!」
「…………」
ピッキオは答えません。
「モクヒするきか。いい度胸だ」
リーダーはふんと鼻を鳴らします。自分たちの縄張りを荒らす者を許したりはしません。
背後に控えていた小さな少女が服を引っ張っりました。
「ねぇ、モクヒってなぁに?」
「リーデルの邪魔しちゃだめよ」
「メントレはしってるの?」
「え、あ、あたしは……ティコ、どうなの?」
「お、俺に振るなよ! ……イーナ、また今度な」
「えーでも」
リーダーの少年リーデルはざわざわとする背後にひくついています。
「……お土産」
と、ピッキオが口を開きました。どうやら話す気が無いわけでは無いようです。
「みやげ?」
リーデルは少し安堵しながら、ピッキオに先を促しました。
ピッキオは、腰に提げたキーホルダーを子供達に見えるように示します。キーホルダーには、小さなレンチの玩具がくっついていました。
「これ、貰ったから、お礼に……」
「ふむ」
ピッキオは友達の女の子から貰ったお礼に、お土産を探しているようです。
「その子はどんなのが好きなんだ?」
「ん……分からない」
「分からないって、何かあんだろ。ヒントとかよ」
「ん……自然が好き。木とか、動物」
「なるほどね……」
子供たちは暫し、ああだこうだと激論を交わしていましたが、やがてピッキオに向き直ると、
「よし、俺達が一緒に探してやる」
言い放ちました。
「…………」
「路地裏にもな、ちょっとした露店が沢山あるんだ。ついてこい」
ピッキオはリーデルに連れられ、奥へ奥へと進んでいきました。
●ハンターオフィス受付嬢の言葉
「最近はダウンタウンの治安も大分和らいできたんですけどね。
相変わらず軽犯罪は絶えませんが、重大な犯罪は目に見えて減ってきています。
だからといって、子供が迷い込んで安全という訳ではないのですけど……。
都市側も配給や寝床の提供などを行って、孤児への配慮も欠かしておりませんし――」
●ピッキオご一行
「なんだ、お前フマーレから来たのか」
「ん」
ピッキオ達は入り組んだ路地裏を歩きます。道端で屯しているやさぐれ者達は、ちらりと見るだけで何も言っては来ません。
ストリートチルドレン。ダウンタウンでは、そう珍しいものでもありません。
ピッキオはそんな男達の怖い視線に少し怯えているような気がします。表情は特に変わらないので、分かりにくいのですが。
「……大人は敵だ。気ーつけろよ」
リーデルは厳しい表情で前を見ます。
彼らはまだ幼いですが、この歳でも色々と厳しい経験を積んできたのです。
配給や寝床の提供を行ってくれる大人がいることも承知しています。
ですが、その一方で、それを横取りする大人やスリをして稼いだ金を巻き上げる連中もいるのです。
何度も苦渋を舐めてきました。その度に大人への反骨心は増していき、現在に至ります。
「だからといってガキなら大丈夫ってわけじゃねえ。ガキでもハンターがいる。ハンターは海軍の手先だ。ガキだからって油断するなよ」
ハンターが海軍の手先とは初耳です。リーデル達にはそう見えるのでしょうか。
「ま、最近はあんまり危ないことも減って来たけどな。それでも、俺らはジャクシャだ。所詮子供。大人にゃかなわねぇ。近づいて来る奴らには気ーつけろ。立ち向かうときは一人で挑むなよ。皆で力を合わせて対抗するんだ」
ピッキオは分かったのか分かっていないのか、小首を傾げます。
リーデルはため息を一つ。
「ここら辺は俺たちの縄張りだから、できればマクのが一番だ。例えば――」
と、リーデルは建物の入口の戸を勝手に開け、すたすたと中へ入っていきました。
後について行くピッキオ達。幸い家主はいないようです。
ここら辺では誰も鍵をかけたりしません。
鍵をかけるということは、守らなければならないものがあるということ。
そんなものを、ここの者達が見過ごすはずがありません。
だから誰も鍵をかけないのです。
「……いいの?」
「言ったろ。ここは俺たちの縄張りだって。こっそりいきゃバレないもんさ。子供にしか通れない道もあるから、後で教えてやるよ」
ピッキオはこくりと首を縦に振ります。
「しっかし、おめぇの土産、何にすっかなぁ」
ぐー。
誰かのお腹が鳴りました。
「……気にすんな。そういうこともある」
「今のリーデルじゃ――」
「止しな、ティコ!」
「…………」
気まずい沈黙。
「よーし、ピッキオ! 腹が減っただろ! 俺達のテクを見せてやる!」
リーデルは居丈高に叫び、石ころを思い切り蹴り飛ばします。
リーデル率いる子供たちは、路地裏で時折見られる怪しげな露店を巡って、旅を続けました。
リプレイ本文
●手分けして
「ダウンタウンに子供が一人……何が起こってもおかしくないですね」
フランシスカ(ka3590)の心配に、メル・アイザックス(ka0520)は街の様子を観察しています。
「何からしようか? フラン君」
「まずは聞き込みから……そうですね、あの子なんてどうでしょう」
フランが指差すのは、箱の上で丸まっているどっしりとした猫。一瞥をくれるだけで見向きもしていませんが、ツナ缶で手懐けました。
「心強い協力者ができましたね」
懐柔した猫の巨体を抱えて満足気なフランに、メルはくすくすと笑います。
「犬ならまだしもねぇ。まぁ、急がず焦らず行きますか」
心配は心配ですが、可愛い子には何とやら。ダウンタウンの地図は残念ながら無いようでしたが、まあ何とかなるでしょう。
「なあ、こんくらいの目のほっそいガキ見なかったか?」
聞き込みをしている蘇芳 大和(ka4136)。その隣には、子供らしいワンピース姿のミィリア(ka2689)もいます。
腕まくりして手当たり次第に声をかける大和はやる気十分です。
「小さな子がふらついてるのは、おねーちゃんとして見逃せないでござるっ!」
ミィリアも負けません。
可愛らしい少女と言っても彼女はドワーフ。見た目通りの年齢とは――っと、誰か来たようです。
………
……
…。
「あらいいオンナ。よろしくねぇ」
ウィンクする沢城 葵(ka3114)に、ドロテア・フレーベ(ka4126)もウィンクを返しました。
「アオイさんこそ。女同士楽しく行きましょ!」
そう女同士。何も言う事はありません。あるはずがありません。
露店を巡って情報を集める二人は、言葉巧みにカタギでは無さそうな店主との交渉に臨みました。
「やぁねぇ。それよりもこっちの方がいいわ~」
商品を購入して態度を軟化させる心積もりですが、だからと言ってボッタくり品を買ったりするのは癪です。商売人として、目利きは大事ですね。
「あたしはこれを貰おうかしら」
ドロテアも木製の熊型チャームを手に取ります。
店主の顔が緩んだところで、二人は話を切り出しました。
「あたしらはただ、猫を探しているだけでさぁ」
ウォルター・ヨー(ka2967)が目通りしているのは、この界隈の顔役です。
そっと相手の懐に心付けを忍ばせました。
「何卒これで一つ」
「猫、ね……」
拒否しない顔役に、ウォルターはにへらと笑います。メイ=ロザリンド(ka3394)は、後ろで心配そうに見つめていました。
用件は済んだと立ち去ろうとした二人を、顔役が呼び止めます。
「少ねぇんじゃねえか? 猫とやらが大事なら――」
凄もうとした顔役に、ウォルターは一層笑みを深めました。
「それ以上は言わねぇ方が、身の為だと思いやすぜ?」
一触即発、というのも一瞬のこと。ウォルターはへらへらとした笑顔に戻す。
「と、すいやせん、旦那。用が済んだらとっとと出ていきやすんで」
弛緩した空気に、メイはほっと安堵しました。
「あら、ありがとね。……あなた、結構イイ男ね。お礼に――」
葵に話を訊かれていた若く精悍な男は、「ひぃ」と慌てて店じまいをして尻をまくって逃げました。
ドロテアは、くふふと笑って葵を慰めます。
「もう……」
男の話では、ピッキオは一人ではないようです。
「よく唐繰通りとかいう辺りにいるらしいわよ? ――そう。それと、リーダーの子、やんちゃで警戒心が強いらしいから気をつけたほうがいいわね」
無線と伝話で皆に情報を伝えると、二人は探索に戻りました。
●追跡○○時
「唐繰通りってのは、ここら辺か?」
大和とミィリア様は葵達から得た情報を基に、現場へとやって来ました。
「――と、あれ」
ミィリア様が前方を指差します。
そこには、子供達ばかりが11人。ダウンタウンに似つかわしくないお坊ちゃん風の子もいますね。
「おい、そこのガキ共!」
大和が声を張り上げます。
子供達は遠く背後の大和を視認すると、ごにょごにょと話したかと思えば、すぐさま走り出しました。
「おいこら、なんで逃げんだ!」
自分達は迷子を助けに来ただけのはず。実は迷子ではなく、子供特有の冒険心というやつなのでしょうか。
しかし、そういうことなら黙ってはいられません。親御さんは心配しているのです。説教の一つでもくれてやりましょう。
「待ちやがれチビ共!」
大和は脚を速めます。
「何々、鬼ごっこ?」
ミィリア様も負けじとその後を追います。
「楽しそうだし、ミィリアもまーぜーてーー!!」
笑顔が眩しいですね。さすがです、とハッ!? 私は何を……。
さあ、ドタバタ鬼ごっこの開幕となります。
「お昼時か……。どこかで食事でも取っているのかねぇ」
「なるほど。その辺りを――」
メルとフランが唐繰通りを歩いていると、無線と伝話が一遍に鳴り響きました。
どうやら、大和・ミィリア組が発見したようです。
その直後――ばたばたと砂塵を上げて疾走してくる子供達の一団が。
「おらあぁぁ、逃がすかよおぉぉ」
子供達の背後から大和とミィリアも追ってきます。
「フラン、メル! そっち行ったよーー!」
フランとメルは互いにこくりと頷くと、子供達の進路上に立ちはだかりました。
フランは抱えていた巨猫を解き放ちます。
さあ、行くのです、と言わんばかりにフランは自身ありげですが、巨猫は一度彼女に目をやると、そのまま脇に寝そべりました。
「ま、猫だしねぇ」
メルが突っ込んでいる間に、子供達は脇道へと進路を変更します。
ぐぬぬ、とフランは再び巨猫を抱え、メルとともに鬼ごっこに加わりました。
が、しかし――。
「うごっ!」
一足先に曲がり角を曲がった大和が、顔を押さえて仰向けに倒れています。
「大丈夫でござるか、大和!」
曲がった先には一面の壁。壁にはくっきりと大和の跡が。
よく見ると、隅っこの下の方に子供だけが通れる大きさの穴が空いていました。一見さんには回避不能です。子供達も見失ってしまいました。
「お、やるねぇ」
感心するメルをよそに、大和はくわっと立ち上がって獰猛な笑みを浮かべました。
「いい度胸じゃねえか」
凄む大和。
鼻血が垂れていなければ様になったのですが。
「見つけた!」
ドロテアの叫びに、子供達は歩きから走りへ転じました。
葵が連絡を入れている間に、ドロテアは全力で後を追います。ランアウトまで使うとは容赦ありません。あっという間に追いつきそうです。
「って、なに!?」
子供達が走り抜けた先には、ゴロツキの集団。
足元や隙間を縫って駆けた子供達はさておき、大人であるドロテアはそうはいきません。
「あん? 妙な格好してやがるが……えれぇ別嬪じゃねえか」
下卑た笑みを浮かべるゴロツキ達に、ドロテアは笑顔で睨みつけます。次の瞬間――
「っ!」
つねられ、足を踏まれ、剣の柄で腹を突かれた男はその場に崩れ落ちました。武器を抜かないのは、大事になっても面倒だからです。
「あら、ごめんあそばせ♪」
たじろいだ男達を放って、ドロテアは子供達の後を追いました。
(子供達はどこでしょうか……)
逃走したと見られる辺りをうろつくメイに、ウォルターから事前に渡されていた無線が鳴りました。
『そっちはどうですかい?』
コンコン。
メイは二度無線を叩きました。NOの合図です。
『一旦合流しやしょうか』
コン――と、叩こうとして、メイは立て続けに3回叩きました。緊急事態の合図です。
(!?)
彼女の前には、騒がしい子供達の集団。
この辺りでは見慣れぬゴシックドレスの女に、先頭の坊主頭の少年は迷わず逃走を試みました。
(鬼ごっこなら得意なの、ですよ……!!)
メイも孤児院に居た頃には散々やったものです。
けれども、ここは完全アウェイ。思ったようにはいきません。
子供達は走りながらも、道端の材木を手当たり次第に倒していきました。
(わわっ)
すってんころりん。
材木に躓いたメイはでんぐり返しをして、すぐに後を追います。
(もう少し……!)
メイの手が子供達に伸びます。
と、そこへ――、
「おぉーっとーー」
脇から飛び出してきたウォルターが、メイともつれるように転がりました。ウォルターは急に止まれません。
すんでの所で難を逃れた子供達でしたが、魔の手はまだまだ終わりません。
「ごるぁ!」
「まてまてーいっ! でござる!」
「待ちなさーい!」
大和・ミィリア・ドロテアを筆頭に、フランとメルも倒れた二人の脇を走り抜けます。
転がりくる樽の群れ。
大和は構わず弾き飛ばしました。正面から堂々とがモットーです。
「なんだこりゃ!」
壊れた樽の中から出てきたのは、ねばねばとしたとりもちのような液体。大和の脚が止まります。
「何よこれ!」
ドロテアを襲うのは、ゴミ一杯の樽。悪臭に思わず顔を顰めました。
脚の鈍った二人に構わず、ミィリアは樽の残骸を蹴散らして通り抜けます。
「パンにキャンディ、チョコもありますよ」
フランの言葉に何人かの子供達の脚が止まりかけますが、坊主頭の少年の喝がそれを押し留めました。
「他には無いのかね」と、メルは子供達の仕業に期待しているようです。
「そこまでよ!」
子供達の行く手を先回りしていた葵が塞ぎますが、子供達は難なく脇をすり抜けました。
最内コースを通って曲がる子供達と同じ進路を取って追う葵。
「待ちなさ――いっ!?」
しかし、子供達が一ヶ所だけ踏むのを避けていた脆い石板があったのには気が付きませんでした。
「ちょっと、この靴高かったのにっ!」
側溝に嵌った葵を尻目に、子供達は今度は民家の中へ逃げ込みます。
「なんだなんだ!」
家主の住人は突然の闖入者に驚いています。
バタバタと駆けていく子供達。
「とおりゃああああ!」
「失礼します」
「ごめんねー」
その後をミィリアが、フランが、メルが通ります。
「逃がさないわよー!」
「くぉらあぁ、っとお邪魔します」
『待ってください!』
「んもうっ!」
「失礼しやした」
ドロテア達も続きました。無論、全員土足です。
「なんだってんだ……」
嵐が駆け抜けた後には、べたべたとした床はドブの水で汚れ、悪臭に塗れた室内に佇む男が一人残されていました。
●確保して
「いいか、お前ら。自分で責任とれねー内は、親や人様に心配かけんじゃねぇぞ」
大和が懇々と説教をしています。ぼさぼさの頭に、頬は擦り傷だらけですが、死闘を制したその顔には、一定の満足感が見られました。
「食べますか。美味しいですよ」
フランが懐からパンやチョコなどを取り出して見せます。ポテチなど、子供達は初めて見ました。お腹がぐーぐーと五月蠅いです。
「私は君達と話したい。君達はお腹が空いている。コーショーって奴かね。どうだい?」
「……海軍の狗のくせに」
「私ゃリアルブルー出身さ。海軍の味方なんてする必要が無いじゃないか。分かるだろう?」
坊主頭の少年、リーデルは渋い顔。
メルの言葉は頭では理解できているのですが、簡単に納得できれば苦労はありません。
「んー美味しいでござるよ~」
チョコ餅を美味しそうに食べるミィリア。
子供達は涎がだらだら。リーデルの制止も、もうこれ以上は不可能です。我先にと、お菓子に殺到しました。
「ほら、これもどうかね」
メルは露店から、ホットドッグのようなものと肉まんのようなものを買い与えます。
子供達の警戒は見る間に溶けていきます。リーデルも、少なくとも逃げるような素振りは無くなりました。
食べ物に釣られたように見えますが、それを与える側の心根には、彼らは敏感です。
ハンター達に子供だからといった侮りは見られません。あくまで対等に、という彼らの姿勢は、今までの大人達とは一味違いました。
「ま、警戒心の強いことは悪いことじゃねえさ」
「ところで、こんなところで何をしてたの?」
ウォルターと葵に、絞られていたピッキオが答えます。
「お土産」
「……こいつの土産を探してたんだよ」
不貞腐れたようにリーデルが事情を補足しました。
「その年で女の子に贈り物なんて見所があるわねー」
ずぶ濡れのドロテアは服を絞ります。空から降って来たバケツ、言えるのはただそれだけです。
『でも、誰かを心配させて買ったプレゼントを貰っても嬉しくないと思うの、ですよ。次はちゃんと家族に言ってから街に行きましょう、ね』
所々ちぎれたドレスが痛ましいメイのスケッチブックに書かれた文字に、ピッキオは「ん」と頷きました。罠を喰らい続けた甲斐があったでしょうか。
「あんた、すげぇな。ポチを手懐けるなんて」
リーデルが見つめるのはフランが抱える巨猫。
「ポチ……この子ですか」
小さな子は「ポチはここのボスなんだよ!」と見上げます。
「ポチは誰にも懐かねぇんだけどな」と子供達は尊敬の眼差しです。警戒心が一段と和らぎました。
「どうせなら買って帰りましょ」
「いいんじゃね?」
ドロテアに大和も賛同します。一行は揃ってお土産探しをすることになりました。
露店巡りをしながら、メルは子供達から街の現状を親身に聞いています。口が滑りやすいように、おかわりを与えるのも忘れません。
苦しい生活ながらも逞しく生きる子供達の話は、意外にも殆ど前向きなものばかりでした。
「……女の子の名前はセルバ、ですか。なるほど」
「……知ってるの?」
「以前に一度」
フランとピッキオが幼馴染の少女について語り合っている間、一団の前の方ではお土産について激論が交わされていました。
「木彫りの置物とかどうかな」
猫さんとか!と提案するミィリア。
「そうね、植物型のチャームとかも可愛いわよね。あなた達のオススメは?」
「チビ共のお勧めスポットとか、ねーのか?」
ドロテアは女の子達の意見も伺い、大和も興味津々です。
『どんなものがあるのか、わたしも見て回りたいです』
メイもわくわくして過ぎゆく露店を覘いています。
「あの店は? 狸の尻尾とか白骨兎さんとか脱皮した大蛇の器とか」
「ばかっ。それより、大熊の肉球手袋とか頬に餌を詰めすぎて窒息したリスの剥製とか」
「ぺろぺろ」
メイから貰った飴を舐めながら、喧々諤々たる議論は夕暮れ近くまで続きました。
●ダウンタウンの入口
「君達も大変だと思うけど、大人は利用してやる位でいた方が得よ?」
ドロテアの忠告に、リーデルは渋々頷きました。
メルは罠の改良についても具申しています。
結局ピッキオは荒ぶる猫の木彫りの置物と、ドロテアが捜索中に購入した仰向けに倒れた熊型のチャームの二つをお土産としました。
無表情ですが、ピッキオはご満足のようです。
「坊ちゃんらも、頑張んなせえ。出来ることが増えれば、守れるもんも増えるでやしょうし」
ウォルターの激励に、リーデルはふんと鼻を鳴らして背を向けます。
その背からは、生き抜いてやるという力強い意思が感じられました。
「ダウンタウンに子供が一人……何が起こってもおかしくないですね」
フランシスカ(ka3590)の心配に、メル・アイザックス(ka0520)は街の様子を観察しています。
「何からしようか? フラン君」
「まずは聞き込みから……そうですね、あの子なんてどうでしょう」
フランが指差すのは、箱の上で丸まっているどっしりとした猫。一瞥をくれるだけで見向きもしていませんが、ツナ缶で手懐けました。
「心強い協力者ができましたね」
懐柔した猫の巨体を抱えて満足気なフランに、メルはくすくすと笑います。
「犬ならまだしもねぇ。まぁ、急がず焦らず行きますか」
心配は心配ですが、可愛い子には何とやら。ダウンタウンの地図は残念ながら無いようでしたが、まあ何とかなるでしょう。
「なあ、こんくらいの目のほっそいガキ見なかったか?」
聞き込みをしている蘇芳 大和(ka4136)。その隣には、子供らしいワンピース姿のミィリア(ka2689)もいます。
腕まくりして手当たり次第に声をかける大和はやる気十分です。
「小さな子がふらついてるのは、おねーちゃんとして見逃せないでござるっ!」
ミィリアも負けません。
可愛らしい少女と言っても彼女はドワーフ。見た目通りの年齢とは――っと、誰か来たようです。
………
……
…。
「あらいいオンナ。よろしくねぇ」
ウィンクする沢城 葵(ka3114)に、ドロテア・フレーベ(ka4126)もウィンクを返しました。
「アオイさんこそ。女同士楽しく行きましょ!」
そう女同士。何も言う事はありません。あるはずがありません。
露店を巡って情報を集める二人は、言葉巧みにカタギでは無さそうな店主との交渉に臨みました。
「やぁねぇ。それよりもこっちの方がいいわ~」
商品を購入して態度を軟化させる心積もりですが、だからと言ってボッタくり品を買ったりするのは癪です。商売人として、目利きは大事ですね。
「あたしはこれを貰おうかしら」
ドロテアも木製の熊型チャームを手に取ります。
店主の顔が緩んだところで、二人は話を切り出しました。
「あたしらはただ、猫を探しているだけでさぁ」
ウォルター・ヨー(ka2967)が目通りしているのは、この界隈の顔役です。
そっと相手の懐に心付けを忍ばせました。
「何卒これで一つ」
「猫、ね……」
拒否しない顔役に、ウォルターはにへらと笑います。メイ=ロザリンド(ka3394)は、後ろで心配そうに見つめていました。
用件は済んだと立ち去ろうとした二人を、顔役が呼び止めます。
「少ねぇんじゃねえか? 猫とやらが大事なら――」
凄もうとした顔役に、ウォルターは一層笑みを深めました。
「それ以上は言わねぇ方が、身の為だと思いやすぜ?」
一触即発、というのも一瞬のこと。ウォルターはへらへらとした笑顔に戻す。
「と、すいやせん、旦那。用が済んだらとっとと出ていきやすんで」
弛緩した空気に、メイはほっと安堵しました。
「あら、ありがとね。……あなた、結構イイ男ね。お礼に――」
葵に話を訊かれていた若く精悍な男は、「ひぃ」と慌てて店じまいをして尻をまくって逃げました。
ドロテアは、くふふと笑って葵を慰めます。
「もう……」
男の話では、ピッキオは一人ではないようです。
「よく唐繰通りとかいう辺りにいるらしいわよ? ――そう。それと、リーダーの子、やんちゃで警戒心が強いらしいから気をつけたほうがいいわね」
無線と伝話で皆に情報を伝えると、二人は探索に戻りました。
●追跡○○時
「唐繰通りってのは、ここら辺か?」
大和とミィリア様は葵達から得た情報を基に、現場へとやって来ました。
「――と、あれ」
ミィリア様が前方を指差します。
そこには、子供達ばかりが11人。ダウンタウンに似つかわしくないお坊ちゃん風の子もいますね。
「おい、そこのガキ共!」
大和が声を張り上げます。
子供達は遠く背後の大和を視認すると、ごにょごにょと話したかと思えば、すぐさま走り出しました。
「おいこら、なんで逃げんだ!」
自分達は迷子を助けに来ただけのはず。実は迷子ではなく、子供特有の冒険心というやつなのでしょうか。
しかし、そういうことなら黙ってはいられません。親御さんは心配しているのです。説教の一つでもくれてやりましょう。
「待ちやがれチビ共!」
大和は脚を速めます。
「何々、鬼ごっこ?」
ミィリア様も負けじとその後を追います。
「楽しそうだし、ミィリアもまーぜーてーー!!」
笑顔が眩しいですね。さすがです、とハッ!? 私は何を……。
さあ、ドタバタ鬼ごっこの開幕となります。
「お昼時か……。どこかで食事でも取っているのかねぇ」
「なるほど。その辺りを――」
メルとフランが唐繰通りを歩いていると、無線と伝話が一遍に鳴り響きました。
どうやら、大和・ミィリア組が発見したようです。
その直後――ばたばたと砂塵を上げて疾走してくる子供達の一団が。
「おらあぁぁ、逃がすかよおぉぉ」
子供達の背後から大和とミィリアも追ってきます。
「フラン、メル! そっち行ったよーー!」
フランとメルは互いにこくりと頷くと、子供達の進路上に立ちはだかりました。
フランは抱えていた巨猫を解き放ちます。
さあ、行くのです、と言わんばかりにフランは自身ありげですが、巨猫は一度彼女に目をやると、そのまま脇に寝そべりました。
「ま、猫だしねぇ」
メルが突っ込んでいる間に、子供達は脇道へと進路を変更します。
ぐぬぬ、とフランは再び巨猫を抱え、メルとともに鬼ごっこに加わりました。
が、しかし――。
「うごっ!」
一足先に曲がり角を曲がった大和が、顔を押さえて仰向けに倒れています。
「大丈夫でござるか、大和!」
曲がった先には一面の壁。壁にはくっきりと大和の跡が。
よく見ると、隅っこの下の方に子供だけが通れる大きさの穴が空いていました。一見さんには回避不能です。子供達も見失ってしまいました。
「お、やるねぇ」
感心するメルをよそに、大和はくわっと立ち上がって獰猛な笑みを浮かべました。
「いい度胸じゃねえか」
凄む大和。
鼻血が垂れていなければ様になったのですが。
「見つけた!」
ドロテアの叫びに、子供達は歩きから走りへ転じました。
葵が連絡を入れている間に、ドロテアは全力で後を追います。ランアウトまで使うとは容赦ありません。あっという間に追いつきそうです。
「って、なに!?」
子供達が走り抜けた先には、ゴロツキの集団。
足元や隙間を縫って駆けた子供達はさておき、大人であるドロテアはそうはいきません。
「あん? 妙な格好してやがるが……えれぇ別嬪じゃねえか」
下卑た笑みを浮かべるゴロツキ達に、ドロテアは笑顔で睨みつけます。次の瞬間――
「っ!」
つねられ、足を踏まれ、剣の柄で腹を突かれた男はその場に崩れ落ちました。武器を抜かないのは、大事になっても面倒だからです。
「あら、ごめんあそばせ♪」
たじろいだ男達を放って、ドロテアは子供達の後を追いました。
(子供達はどこでしょうか……)
逃走したと見られる辺りをうろつくメイに、ウォルターから事前に渡されていた無線が鳴りました。
『そっちはどうですかい?』
コンコン。
メイは二度無線を叩きました。NOの合図です。
『一旦合流しやしょうか』
コン――と、叩こうとして、メイは立て続けに3回叩きました。緊急事態の合図です。
(!?)
彼女の前には、騒がしい子供達の集団。
この辺りでは見慣れぬゴシックドレスの女に、先頭の坊主頭の少年は迷わず逃走を試みました。
(鬼ごっこなら得意なの、ですよ……!!)
メイも孤児院に居た頃には散々やったものです。
けれども、ここは完全アウェイ。思ったようにはいきません。
子供達は走りながらも、道端の材木を手当たり次第に倒していきました。
(わわっ)
すってんころりん。
材木に躓いたメイはでんぐり返しをして、すぐに後を追います。
(もう少し……!)
メイの手が子供達に伸びます。
と、そこへ――、
「おぉーっとーー」
脇から飛び出してきたウォルターが、メイともつれるように転がりました。ウォルターは急に止まれません。
すんでの所で難を逃れた子供達でしたが、魔の手はまだまだ終わりません。
「ごるぁ!」
「まてまてーいっ! でござる!」
「待ちなさーい!」
大和・ミィリア・ドロテアを筆頭に、フランとメルも倒れた二人の脇を走り抜けます。
転がりくる樽の群れ。
大和は構わず弾き飛ばしました。正面から堂々とがモットーです。
「なんだこりゃ!」
壊れた樽の中から出てきたのは、ねばねばとしたとりもちのような液体。大和の脚が止まります。
「何よこれ!」
ドロテアを襲うのは、ゴミ一杯の樽。悪臭に思わず顔を顰めました。
脚の鈍った二人に構わず、ミィリアは樽の残骸を蹴散らして通り抜けます。
「パンにキャンディ、チョコもありますよ」
フランの言葉に何人かの子供達の脚が止まりかけますが、坊主頭の少年の喝がそれを押し留めました。
「他には無いのかね」と、メルは子供達の仕業に期待しているようです。
「そこまでよ!」
子供達の行く手を先回りしていた葵が塞ぎますが、子供達は難なく脇をすり抜けました。
最内コースを通って曲がる子供達と同じ進路を取って追う葵。
「待ちなさ――いっ!?」
しかし、子供達が一ヶ所だけ踏むのを避けていた脆い石板があったのには気が付きませんでした。
「ちょっと、この靴高かったのにっ!」
側溝に嵌った葵を尻目に、子供達は今度は民家の中へ逃げ込みます。
「なんだなんだ!」
家主の住人は突然の闖入者に驚いています。
バタバタと駆けていく子供達。
「とおりゃああああ!」
「失礼します」
「ごめんねー」
その後をミィリアが、フランが、メルが通ります。
「逃がさないわよー!」
「くぉらあぁ、っとお邪魔します」
『待ってください!』
「んもうっ!」
「失礼しやした」
ドロテア達も続きました。無論、全員土足です。
「なんだってんだ……」
嵐が駆け抜けた後には、べたべたとした床はドブの水で汚れ、悪臭に塗れた室内に佇む男が一人残されていました。
●確保して
「いいか、お前ら。自分で責任とれねー内は、親や人様に心配かけんじゃねぇぞ」
大和が懇々と説教をしています。ぼさぼさの頭に、頬は擦り傷だらけですが、死闘を制したその顔には、一定の満足感が見られました。
「食べますか。美味しいですよ」
フランが懐からパンやチョコなどを取り出して見せます。ポテチなど、子供達は初めて見ました。お腹がぐーぐーと五月蠅いです。
「私は君達と話したい。君達はお腹が空いている。コーショーって奴かね。どうだい?」
「……海軍の狗のくせに」
「私ゃリアルブルー出身さ。海軍の味方なんてする必要が無いじゃないか。分かるだろう?」
坊主頭の少年、リーデルは渋い顔。
メルの言葉は頭では理解できているのですが、簡単に納得できれば苦労はありません。
「んー美味しいでござるよ~」
チョコ餅を美味しそうに食べるミィリア。
子供達は涎がだらだら。リーデルの制止も、もうこれ以上は不可能です。我先にと、お菓子に殺到しました。
「ほら、これもどうかね」
メルは露店から、ホットドッグのようなものと肉まんのようなものを買い与えます。
子供達の警戒は見る間に溶けていきます。リーデルも、少なくとも逃げるような素振りは無くなりました。
食べ物に釣られたように見えますが、それを与える側の心根には、彼らは敏感です。
ハンター達に子供だからといった侮りは見られません。あくまで対等に、という彼らの姿勢は、今までの大人達とは一味違いました。
「ま、警戒心の強いことは悪いことじゃねえさ」
「ところで、こんなところで何をしてたの?」
ウォルターと葵に、絞られていたピッキオが答えます。
「お土産」
「……こいつの土産を探してたんだよ」
不貞腐れたようにリーデルが事情を補足しました。
「その年で女の子に贈り物なんて見所があるわねー」
ずぶ濡れのドロテアは服を絞ります。空から降って来たバケツ、言えるのはただそれだけです。
『でも、誰かを心配させて買ったプレゼントを貰っても嬉しくないと思うの、ですよ。次はちゃんと家族に言ってから街に行きましょう、ね』
所々ちぎれたドレスが痛ましいメイのスケッチブックに書かれた文字に、ピッキオは「ん」と頷きました。罠を喰らい続けた甲斐があったでしょうか。
「あんた、すげぇな。ポチを手懐けるなんて」
リーデルが見つめるのはフランが抱える巨猫。
「ポチ……この子ですか」
小さな子は「ポチはここのボスなんだよ!」と見上げます。
「ポチは誰にも懐かねぇんだけどな」と子供達は尊敬の眼差しです。警戒心が一段と和らぎました。
「どうせなら買って帰りましょ」
「いいんじゃね?」
ドロテアに大和も賛同します。一行は揃ってお土産探しをすることになりました。
露店巡りをしながら、メルは子供達から街の現状を親身に聞いています。口が滑りやすいように、おかわりを与えるのも忘れません。
苦しい生活ながらも逞しく生きる子供達の話は、意外にも殆ど前向きなものばかりでした。
「……女の子の名前はセルバ、ですか。なるほど」
「……知ってるの?」
「以前に一度」
フランとピッキオが幼馴染の少女について語り合っている間、一団の前の方ではお土産について激論が交わされていました。
「木彫りの置物とかどうかな」
猫さんとか!と提案するミィリア。
「そうね、植物型のチャームとかも可愛いわよね。あなた達のオススメは?」
「チビ共のお勧めスポットとか、ねーのか?」
ドロテアは女の子達の意見も伺い、大和も興味津々です。
『どんなものがあるのか、わたしも見て回りたいです』
メイもわくわくして過ぎゆく露店を覘いています。
「あの店は? 狸の尻尾とか白骨兎さんとか脱皮した大蛇の器とか」
「ばかっ。それより、大熊の肉球手袋とか頬に餌を詰めすぎて窒息したリスの剥製とか」
「ぺろぺろ」
メイから貰った飴を舐めながら、喧々諤々たる議論は夕暮れ近くまで続きました。
●ダウンタウンの入口
「君達も大変だと思うけど、大人は利用してやる位でいた方が得よ?」
ドロテアの忠告に、リーデルは渋々頷きました。
メルは罠の改良についても具申しています。
結局ピッキオは荒ぶる猫の木彫りの置物と、ドロテアが捜索中に購入した仰向けに倒れた熊型のチャームの二つをお土産としました。
無表情ですが、ピッキオはご満足のようです。
「坊ちゃんらも、頑張んなせえ。出来ることが増えれば、守れるもんも増えるでやしょうし」
ウォルターの激励に、リーデルはふんと鼻を鳴らして背を向けます。
その背からは、生き抜いてやるという力強い意思が感じられました。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/15 18:42:41 |
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相談しましょ! ドロテア・フレーベ(ka4126) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/02/19 02:45:19 |