はやにえ

マスター:江口梨奈

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/18 15:00
完成日
2015/02/26 17:19

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 高い位置にある梢に、キツネらしきケモノが突き刺さっていた。ワシか何かが咥えていて落としたのだろうか? どちらにせよ、気味悪いものを見てしまった、と、馬車の手綱を握っていた父親は顔をしかめた。
 しばらく進むと、また同じような光景があった。あれもキツネか、それともイタチか。そしてまた……今度は生き物ではなく、外套のようなもの。それから、木箱のようなもの……? 本当にワシの仕業なのだろうか。おかしな光景に、父親は寒気を感じた。
 離れた村にちょっとした用事があって出かけた帰り道だった。付き合いで連れてこられた妻と娘はさぞやつまらなかったろう。特に娘のアイリは疲れたのか、いつも一緒の大きなウサギのぬいぐるみに、体を預けて寝てしまっている。
 早く帰ってやろう、そう思って馬を急かす。
 けれど、それが逆に悪かったのだろうか、アイリが目を覚ましてしまった。
「おとうさん、きもちわるい……」
 乗り物酔いなどしたことのない娘なのに、不調を訴えた。乱暴な操縦をしてしまったかと悔やみ、馬車を停める。アイリはやっぱりウサギのぬいぐるみを抱えたまま、路肩に降りてしゃがみこみ、吐きそうな仕草をしていた。
 と、一家を覆う、影が現れた。父親が顔を上げると、巨大な鳥が足をこちらに向け、今まさに襲いかかろうとしていた!
「アイリ!!」
 慌てて娘を引っ張りよせる。
 大丈夫だ、娘は腕の中にいる。
 けれども……代わりにウサギのぬいぐるみが、巨鳥の足につかまれてしまった。
「ミミちゃん!!」
 娘がぬいぐるみに付けた名前を叫ぶ。
 けれど、連れ去られたぬいぐるみを嘆いている余裕はない。
「まだいる!!」
 なんと、同じような大きさの鳥がもう1羽、こちらを狙って飛び掛かってくるではないか!
「アイリ、乗れ!!」
 青い顔の娘を放るように乗せ、急いで馬を出す。
「ミミちゃん、ミミちゃああーーーん!!」
 アイリは、大切な友人が、木の枝に突き刺されるのを見た。アイリの耳には間違いなく、ウサギのミミの悲鳴が聞こえた。
「おとうさん、停めてよ! 停めてよお!!」
 けれどその願いは、聞き入れてはもらえなかった。

 この奇妙なヴォイドの情報は、すぐにハンターオフィスに届けられた。
 獲物を直接捕食せず、一旦、木の枝に突き刺す巨大な鳥。もしや元はモズだったのかもしれない。けれどヴォイドが獲物としているものは生物に限らず、手ごろな大きさのものであれば何でも(その後の摂食については不明だが)食いつくようだ。目撃情報では2羽、それ以上はまだ報告されていない。
 

リプレイ本文

●囮
 ヴォイド騒ぎで人通りがめっきり減った街道に、1台の馬車があった。
 焦る様子はなく、周りに徒歩の従者も連れて、ぽっくりぽっくり、ゆっくりと進んでいる。
 馬車には大きさも形もさまざまな荷物が積まれ、一見すると、何を運んでいるのか分からない。
 それもそのはず、この馬車はヴォイド退治のために呼ばれたハンター達が、囮として用意したものなのだ。ミオレスカ(ka3496)が聞き集めた情報によれば、大きな鳥に似たヴォイドは、人間の子供程度の大きさの物体を好んで狙ってくるという。しかしその「好み」とは、単に大きさなのか色なのか質感なのかまでは分からず、こうして思いつく限りの荷物を載せてみたのだった。そうして下準備をすませたミオレスカは、一足先に最初に歪虚が目撃された場所へ向かっている。
「今回は、くるっぽはお休みね」
 相棒の梟を連れてこられなかったと、リリティア・オルベール(ka3054)は残念そうに言った。ヴォイドの視線からすれば、梟もりっぱな獲物の一つであっただろう。囮になるのは自分で十分だ、そうリリティアは布にくるまり、他の囮に紛れてうずくまる。
「あれがそうか」
 馬車に付いて歩くヴァイス(ka0364)が見上げた先には、梢に突き刺さったキツネがあった。
「しかし、本当に手当たり次第、無差別に獲物を狙っているんだな」
 キツネ、イタチ、外套、木箱……。教えられた情報にあるものが並んでいる。そう、最初に目撃されたときからいくらか時間が経っているだろうに、改めて食べられた形跡がない。遠くてはっきりとは分からないが、それらのボロボロ具合から、長く放置されているようだった。
「まさに、モズのはやにえのようだ」
 そんなことを、イグレーヌ・ランスター(ka3299)は呟いた。本当のモズも、獲物を突き刺してそれっきりにすることが多いらしい。
「……なかなか、厄介そうな敵だ」
 アバルト・ジンツァー(ka0895)は梢の高さと、刺さっている獲物の大きさを見て、言った。あの大きさの木箱を運んだとなると、ヴォイドの大きさもそれなりだ。そしてあんな高さまで飛べるとなれば、羽根のない自分たちは追いかけるのに苦労するに違いない。
「ピリピリするなよ、呑気にいこーぜ」
 荷台から顔を出した岩井崎 旭(ka0234)は、おやつ代わりの人参を囓りながらなだめた。
 とは言うものの、旭の心中は穏やかではない。なにせ相手は飛べるからと調子に乗った鳥ヤロウ、こっちはミミズクの姿にはなれども1ミリも飛べないというのに! それを考えると腹立たしくて、人参を噛み砕く歯にも力が入った。誰にも聞こえない舌打ちをしつつ体勢を戻すと、うっかり背中を荷物に当て、落としてしまった。
「おっと」
「あらあら」
 荷物は崩れ……落ちない。荷物には、紐がくくりつけられている。
「大丈夫ですよ、なんともないわ」
 こなゆき(ka0960)は、荷を直しながら、紐の結び目をもう一度点検する。ここにあるいくつかの荷物には紐が付けられ、その紐の端は荷台にくくりつけられていた。もしヴォイドが囮を掴んで飛んでいこうとも、紐が邪魔をするという仕組みだ。ただ、問題は、ヴォイドの力が強すぎて、紐を引っ張った勢いで荷台が壊れてしまわないか、ということだが……。
「わたしが直しますよっ」
 頼もしいことを言うソフィア =リリィホルム(ka2383)は、さすがドワーフだ。幼い見た目ではあるが、これでも立派な職人である。そして同時に、彼女自身も囮の荷物のひとつである。せっかくドワーフの遺伝子が彼女を小柄にしたのだから、便利に活用させてもらわなくては。
 こうして、罠をしかけた馬車は街道を進み続ける。
 他に人もなく、活発に動き回る動物も少ない気候だ。この街道の上で今、動いているのはこの馬車だけだった。

●ヴォイド
(この辺り……?)
 ミオレスカは目的の場所に着き、周囲を見回した。来る途中にもいくつかあった、梢に刺さる物、それをここでも見つけた……それは白いウサギのぬいぐるみだった。可哀想に、腹のど真ん中を串刺しにされ、ひとの手が届かない高いところに宙ぶらりんになっている。
 ありがたいことに、身を潜める場所はいくつかあった。ミオレスカは繁みに隠れ、大きな鳥の姿を捜すことにした。
 しばらく待つと、馬車の仲間たちも近づいてきた。のんびりした蹄の音が聞こえる。
 その馬車に付いて歩くイグレーヌも、目を見開き耳を澄ませ、巨鳥の気配を全身で探る。
 ふ、と。視界の端に黒い影を捉えた。そしてハンターとして何度も歪虚と対峙したときと同じ違和感。
「見えました? イグレーヌ君」
 こなゆきも同じものを感じ取ったのだろう、顔の向きは変えないまま、目線をそちらへ遣る。街道の脇にいくつも生える杉の木のてっぺんに、重みで枝をしならせて、1羽の鳥があった。
「あれだけ、か……?」
 ヴァイスは歩みをゆるめる。改めてもう一度周囲を伺う。そして気が付いた、最初に見つけた鳥の後ろに陰になるように、もう1羽の姿があることを。
「手間が省けて、助かるぜ」
 そんな軽口を言いながら、アサルトライフルP5に手を掛ける。さあ、やつらは1羽ずつ動くのか、それとも2羽同時か……。
 馬車もほとんど動かない。どうぞ狙ってくれ、と言わんばかりに。

 注意深く耳をそばだてていなければ聞こえなかっただろう、大きな体を動かしていると思えないほどの静かさで、まず1羽が接近してきた。
 馬車の荷台を狙って足をこちらに向け……掴んだのはソフィアの体だった。
「ひゃぁうっ!?」
 喰らい付いた! ソフィアはすぐさま、鳥の脚を両手でがっちりと掴み返す。獲物に抵抗されヴォイドはバランスを崩し、ふらふらとよろめく、が、力強い羽ばたきでせっかく捕まえた獲物を逃すまいとしている。けれど、キツネやぬいぐるみほど軽くはない獲物の重量のせいで、高く飛ぶことができなくなっている。
「ソフィアさん!」
 リリティアは背中に黒い翼を生やし、連れ去られた仲間を取り返さんと試みる。
「来やがったか!!」
 旭も負けじと鳥の姿に変わり、レイピアを構える。このモズの出来損ないの翼を斬り落として、飛べない鳥の気分をせいぜい味わって貰おうと。……けれど、彼らの振り上げようとした手が、止まる。
「こっちは大丈夫だから!」 
 ソフィアの言葉を信じ、ハンター達は動けないまま、待つ。
 もう1羽が荷台の荷物を奪おうと近づいて来ているのだ! 『狙いやすい獲物』と認識されているこの好機を壊すわけにはいかない。
(短気は損気、ギリギリまで敵を惹き付けて……!)
 長い時間だ。イグレーヌはリュミエールボウの狙いを巨鳥に向けたまま、その『時』を焦がれる。
 荷台に取り付き、掴もうとしたのは、筒状に丸めた毛布だった。こちらの獲物は抵抗することなく、易々と持ち帰れそうだ。
 とヴォイドが思ったのかどうかは分からないが、しかしその餌には紐が結びつけられていた。重い荷台と繋げられた毛布はやっぱり抵抗し、ヴォイドはつんのめるように、一瞬、止まった。
「待たせたな!」
 今度こそ、レイピアを振り下ろす。翼の付け根が裂け、ヴォイドは錐もみした。続けざまに、イグレーヌの矢が突き立てられる。『シャープシューティング』の照準から逃れられず、ヴォイドはもろに矢を受けた。
「逃がさぬ!!」
 重藤弓の弦をぎりぎりと引くアバルトは、『強弾』と共に射る。鋭い軌跡を描いて矢はヴォイドの胴体を貫き、勢いで後ろの木の幹に突き立てた。標本のように貼り付けられ、ヴォイドは狂ったように喚き、暴れたが、次第にその動きは止まっていった。まるではやにえのような、最期の姿だった。

 2体目が毛布を狙ったと同時に。
 ミオレスカのエア・スティーラーが火を吹いていた。狙う先は、ソフィアを掴む歪虚。
「くっ、このっ、このっ!」
 掴まれ、掴み返した体勢でソフィアは反撃しようとしたが思うように動けない。そこに飛び込んできた風の精霊だった。
「そんなところに……」
 ソフィアですら気付かないところにミオレスカは隠れていた。突然、物陰から弾丸が飛んできて、歪虚はさぞや驚いているだろう。しかし驚く間もなく、次はヴァイスの『手当たり次第』で『無差別』な銃弾が撃ち込まれる。とにかく当てて、逃がさない。それだけが目的の銃弾だ。
 重力に従い落下したヴォイドはまだ生きている。その頭部を、ヴァイスは打ち砕いた。歪虚であっても弱点は頭か。いや、たとえ弱点でなくとも、これだけ破壊されては動けまい。現に歪虚はそれ以上羽ばたくことなく、浄化された。
「まず、2羽……」
 ミオレスカは2体のヴォイドが消滅したことを確認して、ごそごそと物陰から這い出てきた。歪虚はもっと潜んでいるかもしれない。
 幸いなことに、それは杞憂に終わった。

●回収
「……あれを、落とすわよ」
 こなゆきは、ウサギのぬいぐるみが突き刺さっている木を見上げた。足がかりもなく、登りにくそうな木だ。なので下から手裏剣を投げ、枝を折ってみようと試みたが……。
「うーん……」
 なかなか届きそうにない。なんとか届いても、あの太い枝を折るほどの威力はないらしく、手裏剣は空しく落ちてくる。
「どれ」
 アバルトが矢をつがえ、同じ場所を狙う。今度はうまくいった、枝が折れ、ぬいぐるみが落ちてきた。
「……確か、アイリという少女がこれを奪われたと……」
 ただの古いぬいぐるみだが、少女にとっては大切な友人だという。このような思い入れのある品が、歪虚の餌食になっているかもしれない。可能な限り回収しようと、アバルトとこなゆきの意見は一致した。
「でしたら、その間に」
 リリティアはぬいぐるみの修繕を申し出た。裁縫は苦手ではない、はみだした綿を納めるぐらいはなんとかなるだろう。
「しっかし、色んなモンがあるなあ」
 呆れた口調で、旭は言った。毛むくじゃらだったりスベスベだったり光っていたりくすんでいたり、大きさ以外は何の統一性もない様々な物が突き刺されていたが、それでも一番多いのはやっぱり獣の類だった。
「あれらが雑魔にならぬよう、弔ってやろう」
 イグレーヌの申し出に誰も反対することなく、皆はそれらを降ろして埋めてやった。

 全ての埋葬が終わる頃に、ウサギの傷は塞がれた。着せられていた赤いワンピースの穴までは治せなかったが、彼女に着替えがあるといいのだが。
「さあ、報告に行きましょう」
 ハンターオフィスに。
 そしてウサギのぬいぐるみの持ち主の所に。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • アイドルの優しき導き手
    こなゆき(ka0960
    人間(紅)|24才|女性|霊闘士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士

  • イグレーヌ・ランスター(ka3299
    人間(紅)|18才|女性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 鳥倒すよっ。
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/02/18 00:38:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/15 19:05:59