ゲスト
(ka0000)
求めるは休息
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/19 19:00
- 完成日
- 2015/02/23 21:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
町にたたずむ一軒の大衆食堂。その店の名は『我が家』。
店の店主であり唯一の従業員でもある松原静は昼時の客入りラッシュを終え、しばしの休息についていた。
「従業員を増やそうかしら……」
机に突っ伏しながら言葉を漏らす静。
クリムゾンウェストに転移して早半年。異世界とはいえ半年も何もしないでいれば飽きてくる。だったら夢に見た自分の店を構えてみてもいいんじゃないか、そう思ってこの店を始めた。
今となってはありがたいことに我が家はなかなかの人気を誇る店である。
厨房で料理をしながら注文を取って、完成した料理は厨房まで客に取りに来てもらう。そして代金と一緒に食べ終わったお皿を厨房まで持ってきてもらう。人手不足です、と言わんばかりの対応だが、そこがアットホームな感じがしていい、と客から評判のシステムである。
けれどそれは静の目指した食堂ではなかった。
客とたわいもない話をしながら料理をし、完成した料理はちゃんとテーブルまで持っていく。『客が少ない』からこそできるそんな接客にあこがれて、静はこの店を開いた。
……はずだったのだ。
「はぁ~」
あと二時間もすれば今度は夕飯の時間だ。そろそろ下準備を始めないと間に合わない。
「頑張れ、わたし!」
静はエプロンのひもをキュッと締め、気合を入れなおした。
●
「今日のごはん、どうでしたか? また来てくださいね」
にっこり笑いながら、食事の終わった客をそんな風にお見送りする。
……はずだった。
現実はそんなに甘くはなく、次々くる注文と次々出さねばならない料理に追われる。とてもそんな悠長なお見送りをしている余裕などない。
「サバの味噌煮できたよー」
カウンターに並べながら叫ぶ。すると、料理の完成を待っていた客が座っていた席から料理を取りに来る。
「お、今日もうまそうだね」
「いただきます」
「うん、めしあがれ」
料理をとるときに、大概一言かけてくれるが、こう返すので精いっぱいだ。
「次ー親子丼できたよー」
静の声が店内に響く。
●
カランカラン、店のドアについているベルを鳴らしながら、本日最後の客が店を後にした。
「だぁぁぁぁぁ~」
エプロンを緩め、椅子に体を預ける。
「つ~か~れ~た~」
今日は店を休みにしようと何度考えたことか。しかし結局、わたしの料理を待っている人がいると思うと店を開いてしまう。
定休日を設けてはいるが、店で出す料理の材料を調達しに行かなければならず、まともに休めない。
「もうちょっと休めると思ってたんだけどなぁ……」
完全にグダリモードに入ってしまった静は皿を洗うのすら億劫になり始めていた。
「あ」
いっそのこと誰かに頼んでしまおうか。
そうすればその日は一日中休むことができる。
どうせ一日休むのだ。その日の売り上げ全部をお給料ということにすれば代わりをしてくれる人のモチベーションも上がるだろう。
「いいじゃんそれ!」
休める、ということしか頭になくなった静にとって皿洗いも苦じゃなかった。
●
早速その翌朝から、店の前に一つの張り紙がされた。
『今週末の営業はハンターの皆さんにやってもらいます。お出しする料理など、普段とは異なりますが、どうかご容赦ください。
……だって休みたいんだもん』
普段の静の働きぶりを知る客は、みんなのおかんにも休みは必要だよね、とその張り紙を見て苦笑いしていた。
町にたたずむ一軒の大衆食堂。その店の名は『我が家』。
店の店主であり唯一の従業員でもある松原静は昼時の客入りラッシュを終え、しばしの休息についていた。
「従業員を増やそうかしら……」
机に突っ伏しながら言葉を漏らす静。
クリムゾンウェストに転移して早半年。異世界とはいえ半年も何もしないでいれば飽きてくる。だったら夢に見た自分の店を構えてみてもいいんじゃないか、そう思ってこの店を始めた。
今となってはありがたいことに我が家はなかなかの人気を誇る店である。
厨房で料理をしながら注文を取って、完成した料理は厨房まで客に取りに来てもらう。そして代金と一緒に食べ終わったお皿を厨房まで持ってきてもらう。人手不足です、と言わんばかりの対応だが、そこがアットホームな感じがしていい、と客から評判のシステムである。
けれどそれは静の目指した食堂ではなかった。
客とたわいもない話をしながら料理をし、完成した料理はちゃんとテーブルまで持っていく。『客が少ない』からこそできるそんな接客にあこがれて、静はこの店を開いた。
……はずだったのだ。
「はぁ~」
あと二時間もすれば今度は夕飯の時間だ。そろそろ下準備を始めないと間に合わない。
「頑張れ、わたし!」
静はエプロンのひもをキュッと締め、気合を入れなおした。
●
「今日のごはん、どうでしたか? また来てくださいね」
にっこり笑いながら、食事の終わった客をそんな風にお見送りする。
……はずだった。
現実はそんなに甘くはなく、次々くる注文と次々出さねばならない料理に追われる。とてもそんな悠長なお見送りをしている余裕などない。
「サバの味噌煮できたよー」
カウンターに並べながら叫ぶ。すると、料理の完成を待っていた客が座っていた席から料理を取りに来る。
「お、今日もうまそうだね」
「いただきます」
「うん、めしあがれ」
料理をとるときに、大概一言かけてくれるが、こう返すので精いっぱいだ。
「次ー親子丼できたよー」
静の声が店内に響く。
●
カランカラン、店のドアについているベルを鳴らしながら、本日最後の客が店を後にした。
「だぁぁぁぁぁ~」
エプロンを緩め、椅子に体を預ける。
「つ~か~れ~た~」
今日は店を休みにしようと何度考えたことか。しかし結局、わたしの料理を待っている人がいると思うと店を開いてしまう。
定休日を設けてはいるが、店で出す料理の材料を調達しに行かなければならず、まともに休めない。
「もうちょっと休めると思ってたんだけどなぁ……」
完全にグダリモードに入ってしまった静は皿を洗うのすら億劫になり始めていた。
「あ」
いっそのこと誰かに頼んでしまおうか。
そうすればその日は一日中休むことができる。
どうせ一日休むのだ。その日の売り上げ全部をお給料ということにすれば代わりをしてくれる人のモチベーションも上がるだろう。
「いいじゃんそれ!」
休める、ということしか頭になくなった静にとって皿洗いも苦じゃなかった。
●
早速その翌朝から、店の前に一つの張り紙がされた。
『今週末の営業はハンターの皆さんにやってもらいます。お出しする料理など、普段とは異なりますが、どうかご容赦ください。
……だって休みたいんだもん』
普段の静の働きぶりを知る客は、みんなのおかんにも休みは必要だよね、とその張り紙を見て苦笑いしていた。
リプレイ本文
●モーニング
カランカラン、とドアにつけられたベルが客の来店を告げる。
「おはようございますっ、いらっしゃいませ♪」
「ん? おぉ、今日だったか。一日頑張るんじゃぞ」
口ぶりからして常連客の老紳士を出迎えたのは、元気がよく可愛らしい挨拶。
その声の主はユーリィ・リッチウェイ(ka3557)。
「これは……」
「今日のメニューだよ」
ユーリィに促されて席についた老紳士が手にしたのは、開店前にあらかじめ走り 由良(ka3268)が用意しておいたメニュー。
今日の厨房担当であるクリスティン・ガフ(ka1090)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)から今日の料理を聞いて、由良が書いた今日かぎりのものだ。
静のいつものメニューはさながら居酒屋のように、壁にずらっと貼り付けてある。しかしそのどれもが和食、と呼ばれるもの。
「静ちゃんは作ってくれないからのぉ……モーニングセットをいただくとしよう」
「モーニングセットだね。かしこまりました!」
その際にはもちろん笑顔も忘れないユーリィだった。
カランカラン、とまた次の客が来店する。
「いらっしゃいませ。お好きなおせきへどうぞ」
「なんか新鮮だね~。うんうん」
ティアナ(ka2639)と同い年か少し年上のような外見の青年は、接客に出たティアナを一瞥すると、今度は店内を見渡す。視線を一周させたあたりで気が済んだのか、その青年は手近な席に座った。
「洋食も捨てがたいけど、食べ比べもいいよな。うん。焼き魚定食をお願い」
「焼き魚定食でございますね。かしこまりました、少々お待ちください」
厨房のほうへと歩いていくティアナ。青年はその後ろ姿を見ながら、
「この店で座ってれば料理が出てくるって言うのもやっぱ新鮮だね」
楽しそうにつぶやいていた。
パラパラと、入ったり出たりする客に、接客だけでなく厨房もしっかりと対応できていた。
「はい、モーニングセット三つだよ」
「焼き魚定食も二つできたぞ」
クリスティンとクィーロから料理を受け取った葛音 水月(ka1895)がそれぞれのテーブルまで運んでいく。
「はい、こちら焼き魚定食と、モーニングセットになります」
「あら、おいしそうじゃない」
「ほんとねー」
「ごゆっくりどうぞ」
練習の成果だろうか。水月は自然な笑顔をみせながら接客している。
「あ、水月さん、あそこのお客さんが注文待ってるよ」
「了解ですー」
水月の手が空いたのを見計らって、食事の終わったお皿を片づけている由良が声をかける。
かと思えば、
「有難う御座いました。いってらっしゃい♪」
というユーリィの元気なお見送りが聞こえてくる。
……この先も、朝ご飯の時間帯は滞りなく進んでいった。
だんだんと客足が途絶えていき、それぞれ交代で休憩をとる余裕ができた。
その間に、店内の清掃を行い、今日の朝の開店時と同じくらいまできれいにする。
そうした考えうる用意をすべてして突入したお昼時。
彼ら彼女らは、静のすごさを思い知ることとなる。
●ランチタイム
お昼時が近づくにつれて、だんだんと客が店に顔を出すようになってきた。
序盤こそ朝と同じやり方でよかったものの、お昼時に突入していくにつれて、有名店が本領を見せ始める。
まばらに空きがあった店内の机もすでに満席。店の前には列まででき始めている。
「そっちサラダの盛り付けできてるか?」
「ちょうど今完成するところだよ」
クリスティンの作ったカレーにクィーロの盛り付けたサラダがセットになってカウンターに出される。
するとそれをすかさず傍にいたティアナが客のところまで運んでいく。
「お待たせしました。カレーのサラダセットになります」
仕事はまだまだそれだけじゃない。たくさん食べるということは、残るのは大量の皿。その皿を、客から勘定をとりつつ、さらに机の上を布巾できれいにしながら、由良が回収していく。
「これ、頼んだよ」
「任せてよね」
そしてその回収された皿たちは、厨房の流しで泡に手を包まれたユーリィによって汚れを落とされる。
皿が片付いたことで机の上がきれいになったら、そこに新たな客を入れる。
「いらっしゃいませ。現在少々込み合ってございますので、少々お待ちくださいませ」
ティアナは客を席に誘導しつつ、列に並んでいる他の客にも気を配る。
けれど、やっていること自体は朝とさほど変わっていない。
そう。問題なのは量なのだ。単純に客の入りが朝の五倍くらいになっている。
ようするに、朝の五倍の要領で作業しなければ追いつけない。
「かつ丼ができたよ」
「こっちの親子丼も完成だ」
そうこうしているうちにもまた新しい料理ができあがる。
朝と昼の合間に、あらかじめ下準備をしておいたからよかったものの、もししてなかったらと思うとぞっとする。
「僕が持っていきます」
料理を受け取った水月が注文した客のところまで持っていく。
すると、客の中の一人に声をかけられた。
「君たち六人でも精一杯って感じなんだね。静さんってすごいんだな」
たしかに、ここにいる全員がすでに満身創痍でやっている。今のところ料理や接客に対するクレームはない。
しかしこれを静は毎日一人で回しているのだ。休みたくなる理由がわかった気がした。
「こっち注文頼むよー」
「少々お待ちくださいませ」
客を席に通していたティアナが答えて、すぐに注文を取りに行く。
すでに、一人一人の客に割ける時間は微々たるものとなっていた。
「カレーライスの追加できたよ」
「ラーメンもできてるぞ」
「そっちはまだ材料足りてるのかな?」
「ジリ貧……だな」
作っても作っても入ってくる注文に、ホールだけでなく厨房もてんてこ舞いであった。
「ご来店ありがとうございました」
水月にお見送りされて、怒涛の来客ラッシュの最後の客が店を後にする。
「……」
全員が店内の椅子にもたれかかり、しばしの間沈黙が落ちる。
休憩をとりたい、という気持ちもあったものの、いつまでもそうしているわけにもいかない。
あと二時間もしたら夕食を取りに来る客が来店し始める。
下準備をしなければならない上、忙しさのあまり清掃が行き届かず、店内のいたるところが汚れたままになっている。
「……クィーロ殿、下準備を始めないか?」
「……そうだね」
夜、加熱するだけで済むように鳥の酒蒸しを用意しておく。
また、それと同時進行で鶏肉から各種部位を切りだし、串に刺していく。こちらも過熱するだけで済む焼き鳥だ。
その他にも、とり五目を炊く準備も忘れない。あとは時間を見計らって火にかけるだけにする。
クリスティンもクィーロも、慣れた手つきで下準備を進めていく。しかしよく考えてみれば、これくらいの腕前がなければ昼時の厨房は務まらなかったのかもしれない。
「クリスティンさん、こんな感じだよね」
「そうだな。こんなものでいいだろう」
二人が厨房から戻ってくると、水月、ティアナ、由良、ユーリィの店内清掃が最終段階まで進んでいた。
朝のような清潔さを取り戻す店内。
時計に目をやれば、客が来店し始める時間まであと一時間ほど。
昼の疲れを癒す、僅かな休息が訪れた。
●ディナー
「いらっしゃいませー」
仕事帰りに見える、中年男性の団体客を水月が出迎える。
「あれ? 今日静ちゃんいないんだっけ。どうする?」
「俺はどっちでもいいけど」
「ここでいいんじゃない?」
幹事のような男性が他のメンバーに意見を求めている。
どうやら静の料理を求めて来店したようだ。当たり前と言えば当たり前だが。
「えっと、六人だけど席空いてる?」
「はい、こちらになります」
ちょうど六人空いている机に水月が案内していく。
水月に限った話ではないけれど、昼を乗り越えたことで、明らかに接客の技術が上がっていた。
「注文お願いー」
「お待たせしました。何になさいますか?」
「この、鳥の酒蒸しってのはなんなんだ?」
「鳥と葱に調味料を加えて、お酒で蒸したものになります」
「そりゃうまそうだな。じゃあそれと、生二つ」
「かしこまりました」
料理について質問されても即座に答える由良。それが功を奏しているのか、ほとんどの客が質問した料理を頼んでいる。
「酒蒸し追加だよ」
「それならもうできている」
由良に頼まれた分の酒蒸しはすぐに用意できた。伊達に大量の下準備をしていたわけではない。
「空いたお皿持っていくね」
接客技術が上がったのがここにも一人。
「じゃあこれ持ってってくれ」
ユーリィは客からジョッキを渡されると、
「もういいの? もう一杯飲むところ見てみたいな♪」
「お? そうか? そんなこと言うとおじさんもう一杯いっちゃうよ?」
「お前大丈夫なのかよ……」
「へーきへーき」
「すぐ持ってくるね!」
空になったジョッキを回収するだけのはずがさらっと追加注文までさせていた。
……その光景を水月がメモしていたことは本人だけの秘密である。
それから三時間。ラストオーダーの時刻も過ぎ、今食事をしている客が店を出れば今日の仕事は完了となる。
「ごちそうさま」
「いかがだっただろか?」
最後の客、ということで余裕ができたクリスティンが少し心配そうに尋ねる。
その問いに対して、
「おいしかったわ。静さんともいい勝負なんじゃない?」
女性は笑いながらそう言って、代金を支払って店を出て行った。
「ご来店ありがとうございました!」
カランカラン、とドアに取り付けられたベルが鳴る。
それは今日の仕事の終わりを告げるベルでもあった。
●お帰りなさい静さん
お店を静に帰すために、全員で清掃していると、ドアのベルを鳴らしながら静が店に帰ってきた。
「みんなお疲れだね~」
店内を見渡した静の第一声はそれだった。
皆極力表に出さないように努めてはいたが、その道のプロにはまるわかりだったようだ。
「それじゃあ全員集合!」
掃除の手を止め、静の前に集まる一同。
「まずは、みんなお疲れ様。おかげで楽しい休日になったよ」
静の横に置いてある、物がパンパンに詰め込まれた買い物袋からも、楽しんできたことは容易に想像がついた。
「さて、と。今日一日どうだった?」
「お客さんからクレームを受けたり、トラブルになったりすることなく終われました」
一日通して接客をしていた水月が報告の口火を切る。
「厨房面も、特にお昼時は忙しくなったが、お客さんからなにか言われるようなことはなかったな」
「お店の清掃も、それぞれ適当な時間を見計らってできました」
厨房をやっていたクリスティンと、清掃担当だった由良が重ねて述べる。
「いやー実はさ、今日いろんなとこでお買い物してる間もさ、お店の子たち大丈夫かな? なんて思ったりしてたんだけど、杞憂だったみたいだね」
今までうんうん、と聞いていた静の顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「みんな優しいお客さんばっかりだったよね」
皆に向けてユーリィが問いかけると、それぞれが肯定の応答を返す。
「一日お店やってみてどうだった? やっぱり辛かった?」
「たしかに大変ではございましたが、楽しかったです」
全員を代表してティアナが答える。
「ふふっ、みんなにお願いして正解だったみたいね。今日一日、本当にありがとうございました」
改まってお辞儀をする静。
しばらくして顔をあげると、静はまとめてあった今日の売り上げを六分割し始めた。
「えっと、お給料だけど……うわっ! いつもと同じくらいの売り上げ……」
静が驚きの声をあげつつも、六人それぞれのお給料を持って全員に向き直る。
「今日は本当にお疲れ様でした。今度よかったらお客さんとしてお店においでよ。……大した歓迎はできないかもしれないけど」
そう言いつつも、静の目は明日からの仕事に燃えていた。
カランカラン、とドアにつけられたベルが客の来店を告げる。
「おはようございますっ、いらっしゃいませ♪」
「ん? おぉ、今日だったか。一日頑張るんじゃぞ」
口ぶりからして常連客の老紳士を出迎えたのは、元気がよく可愛らしい挨拶。
その声の主はユーリィ・リッチウェイ(ka3557)。
「これは……」
「今日のメニューだよ」
ユーリィに促されて席についた老紳士が手にしたのは、開店前にあらかじめ走り 由良(ka3268)が用意しておいたメニュー。
今日の厨房担当であるクリスティン・ガフ(ka1090)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)から今日の料理を聞いて、由良が書いた今日かぎりのものだ。
静のいつものメニューはさながら居酒屋のように、壁にずらっと貼り付けてある。しかしそのどれもが和食、と呼ばれるもの。
「静ちゃんは作ってくれないからのぉ……モーニングセットをいただくとしよう」
「モーニングセットだね。かしこまりました!」
その際にはもちろん笑顔も忘れないユーリィだった。
カランカラン、とまた次の客が来店する。
「いらっしゃいませ。お好きなおせきへどうぞ」
「なんか新鮮だね~。うんうん」
ティアナ(ka2639)と同い年か少し年上のような外見の青年は、接客に出たティアナを一瞥すると、今度は店内を見渡す。視線を一周させたあたりで気が済んだのか、その青年は手近な席に座った。
「洋食も捨てがたいけど、食べ比べもいいよな。うん。焼き魚定食をお願い」
「焼き魚定食でございますね。かしこまりました、少々お待ちください」
厨房のほうへと歩いていくティアナ。青年はその後ろ姿を見ながら、
「この店で座ってれば料理が出てくるって言うのもやっぱ新鮮だね」
楽しそうにつぶやいていた。
パラパラと、入ったり出たりする客に、接客だけでなく厨房もしっかりと対応できていた。
「はい、モーニングセット三つだよ」
「焼き魚定食も二つできたぞ」
クリスティンとクィーロから料理を受け取った葛音 水月(ka1895)がそれぞれのテーブルまで運んでいく。
「はい、こちら焼き魚定食と、モーニングセットになります」
「あら、おいしそうじゃない」
「ほんとねー」
「ごゆっくりどうぞ」
練習の成果だろうか。水月は自然な笑顔をみせながら接客している。
「あ、水月さん、あそこのお客さんが注文待ってるよ」
「了解ですー」
水月の手が空いたのを見計らって、食事の終わったお皿を片づけている由良が声をかける。
かと思えば、
「有難う御座いました。いってらっしゃい♪」
というユーリィの元気なお見送りが聞こえてくる。
……この先も、朝ご飯の時間帯は滞りなく進んでいった。
だんだんと客足が途絶えていき、それぞれ交代で休憩をとる余裕ができた。
その間に、店内の清掃を行い、今日の朝の開店時と同じくらいまできれいにする。
そうした考えうる用意をすべてして突入したお昼時。
彼ら彼女らは、静のすごさを思い知ることとなる。
●ランチタイム
お昼時が近づくにつれて、だんだんと客が店に顔を出すようになってきた。
序盤こそ朝と同じやり方でよかったものの、お昼時に突入していくにつれて、有名店が本領を見せ始める。
まばらに空きがあった店内の机もすでに満席。店の前には列まででき始めている。
「そっちサラダの盛り付けできてるか?」
「ちょうど今完成するところだよ」
クリスティンの作ったカレーにクィーロの盛り付けたサラダがセットになってカウンターに出される。
するとそれをすかさず傍にいたティアナが客のところまで運んでいく。
「お待たせしました。カレーのサラダセットになります」
仕事はまだまだそれだけじゃない。たくさん食べるということは、残るのは大量の皿。その皿を、客から勘定をとりつつ、さらに机の上を布巾できれいにしながら、由良が回収していく。
「これ、頼んだよ」
「任せてよね」
そしてその回収された皿たちは、厨房の流しで泡に手を包まれたユーリィによって汚れを落とされる。
皿が片付いたことで机の上がきれいになったら、そこに新たな客を入れる。
「いらっしゃいませ。現在少々込み合ってございますので、少々お待ちくださいませ」
ティアナは客を席に誘導しつつ、列に並んでいる他の客にも気を配る。
けれど、やっていること自体は朝とさほど変わっていない。
そう。問題なのは量なのだ。単純に客の入りが朝の五倍くらいになっている。
ようするに、朝の五倍の要領で作業しなければ追いつけない。
「かつ丼ができたよ」
「こっちの親子丼も完成だ」
そうこうしているうちにもまた新しい料理ができあがる。
朝と昼の合間に、あらかじめ下準備をしておいたからよかったものの、もししてなかったらと思うとぞっとする。
「僕が持っていきます」
料理を受け取った水月が注文した客のところまで持っていく。
すると、客の中の一人に声をかけられた。
「君たち六人でも精一杯って感じなんだね。静さんってすごいんだな」
たしかに、ここにいる全員がすでに満身創痍でやっている。今のところ料理や接客に対するクレームはない。
しかしこれを静は毎日一人で回しているのだ。休みたくなる理由がわかった気がした。
「こっち注文頼むよー」
「少々お待ちくださいませ」
客を席に通していたティアナが答えて、すぐに注文を取りに行く。
すでに、一人一人の客に割ける時間は微々たるものとなっていた。
「カレーライスの追加できたよ」
「ラーメンもできてるぞ」
「そっちはまだ材料足りてるのかな?」
「ジリ貧……だな」
作っても作っても入ってくる注文に、ホールだけでなく厨房もてんてこ舞いであった。
「ご来店ありがとうございました」
水月にお見送りされて、怒涛の来客ラッシュの最後の客が店を後にする。
「……」
全員が店内の椅子にもたれかかり、しばしの間沈黙が落ちる。
休憩をとりたい、という気持ちもあったものの、いつまでもそうしているわけにもいかない。
あと二時間もしたら夕食を取りに来る客が来店し始める。
下準備をしなければならない上、忙しさのあまり清掃が行き届かず、店内のいたるところが汚れたままになっている。
「……クィーロ殿、下準備を始めないか?」
「……そうだね」
夜、加熱するだけで済むように鳥の酒蒸しを用意しておく。
また、それと同時進行で鶏肉から各種部位を切りだし、串に刺していく。こちらも過熱するだけで済む焼き鳥だ。
その他にも、とり五目を炊く準備も忘れない。あとは時間を見計らって火にかけるだけにする。
クリスティンもクィーロも、慣れた手つきで下準備を進めていく。しかしよく考えてみれば、これくらいの腕前がなければ昼時の厨房は務まらなかったのかもしれない。
「クリスティンさん、こんな感じだよね」
「そうだな。こんなものでいいだろう」
二人が厨房から戻ってくると、水月、ティアナ、由良、ユーリィの店内清掃が最終段階まで進んでいた。
朝のような清潔さを取り戻す店内。
時計に目をやれば、客が来店し始める時間まであと一時間ほど。
昼の疲れを癒す、僅かな休息が訪れた。
●ディナー
「いらっしゃいませー」
仕事帰りに見える、中年男性の団体客を水月が出迎える。
「あれ? 今日静ちゃんいないんだっけ。どうする?」
「俺はどっちでもいいけど」
「ここでいいんじゃない?」
幹事のような男性が他のメンバーに意見を求めている。
どうやら静の料理を求めて来店したようだ。当たり前と言えば当たり前だが。
「えっと、六人だけど席空いてる?」
「はい、こちらになります」
ちょうど六人空いている机に水月が案内していく。
水月に限った話ではないけれど、昼を乗り越えたことで、明らかに接客の技術が上がっていた。
「注文お願いー」
「お待たせしました。何になさいますか?」
「この、鳥の酒蒸しってのはなんなんだ?」
「鳥と葱に調味料を加えて、お酒で蒸したものになります」
「そりゃうまそうだな。じゃあそれと、生二つ」
「かしこまりました」
料理について質問されても即座に答える由良。それが功を奏しているのか、ほとんどの客が質問した料理を頼んでいる。
「酒蒸し追加だよ」
「それならもうできている」
由良に頼まれた分の酒蒸しはすぐに用意できた。伊達に大量の下準備をしていたわけではない。
「空いたお皿持っていくね」
接客技術が上がったのがここにも一人。
「じゃあこれ持ってってくれ」
ユーリィは客からジョッキを渡されると、
「もういいの? もう一杯飲むところ見てみたいな♪」
「お? そうか? そんなこと言うとおじさんもう一杯いっちゃうよ?」
「お前大丈夫なのかよ……」
「へーきへーき」
「すぐ持ってくるね!」
空になったジョッキを回収するだけのはずがさらっと追加注文までさせていた。
……その光景を水月がメモしていたことは本人だけの秘密である。
それから三時間。ラストオーダーの時刻も過ぎ、今食事をしている客が店を出れば今日の仕事は完了となる。
「ごちそうさま」
「いかがだっただろか?」
最後の客、ということで余裕ができたクリスティンが少し心配そうに尋ねる。
その問いに対して、
「おいしかったわ。静さんともいい勝負なんじゃない?」
女性は笑いながらそう言って、代金を支払って店を出て行った。
「ご来店ありがとうございました!」
カランカラン、とドアに取り付けられたベルが鳴る。
それは今日の仕事の終わりを告げるベルでもあった。
●お帰りなさい静さん
お店を静に帰すために、全員で清掃していると、ドアのベルを鳴らしながら静が店に帰ってきた。
「みんなお疲れだね~」
店内を見渡した静の第一声はそれだった。
皆極力表に出さないように努めてはいたが、その道のプロにはまるわかりだったようだ。
「それじゃあ全員集合!」
掃除の手を止め、静の前に集まる一同。
「まずは、みんなお疲れ様。おかげで楽しい休日になったよ」
静の横に置いてある、物がパンパンに詰め込まれた買い物袋からも、楽しんできたことは容易に想像がついた。
「さて、と。今日一日どうだった?」
「お客さんからクレームを受けたり、トラブルになったりすることなく終われました」
一日通して接客をしていた水月が報告の口火を切る。
「厨房面も、特にお昼時は忙しくなったが、お客さんからなにか言われるようなことはなかったな」
「お店の清掃も、それぞれ適当な時間を見計らってできました」
厨房をやっていたクリスティンと、清掃担当だった由良が重ねて述べる。
「いやー実はさ、今日いろんなとこでお買い物してる間もさ、お店の子たち大丈夫かな? なんて思ったりしてたんだけど、杞憂だったみたいだね」
今までうんうん、と聞いていた静の顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「みんな優しいお客さんばっかりだったよね」
皆に向けてユーリィが問いかけると、それぞれが肯定の応答を返す。
「一日お店やってみてどうだった? やっぱり辛かった?」
「たしかに大変ではございましたが、楽しかったです」
全員を代表してティアナが答える。
「ふふっ、みんなにお願いして正解だったみたいね。今日一日、本当にありがとうございました」
改まってお辞儀をする静。
しばらくして顔をあげると、静はまとめてあった今日の売り上げを六分割し始めた。
「えっと、お給料だけど……うわっ! いつもと同じくらいの売り上げ……」
静が驚きの声をあげつつも、六人それぞれのお給料を持って全員に向き直る。
「今日は本当にお疲れ様でした。今度よかったらお客さんとしてお店においでよ。……大した歓迎はできないかもしれないけど」
そう言いつつも、静の目は明日からの仕事に燃えていた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/19 17:32:56 |
|
![]() |
行動予定(仮) クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/19 17:29:55 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/17 18:35:32 |