ゲスト
(ka0000)
花 決意
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/19 12:00
- 完成日
- 2015/02/27 06:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
花、散って。
雪の降る季節を巡り結ぶまた蕾、一つ。
●
「……噂を聞いたんだが」
最近、辺境に現れるようになったという亡霊剣士の話を詳しく聞きたい。
ハンターオフィスに現れた男は、その切れ長の瞳に確固たる意志を宿し職員にそう尋ねた。
「オレが聞いた話じゃあ、その亡霊の特徴は、藍の鞘の立派な拵えの剣。その鞘の鍔近くのあたりにゃあ、金で花びらが彫られてる。……ちょうど、こんな感じか?」
そう言って、男はぐいと、己の腰に差した剣を、鞘に収めたまま職員の眼前に突きつけた。……ちょうど、男が今述べたとおりの特徴を持つ、それを。
「ああ、勘違いしねえで欲しい。残念ながら、そいつはもうオレが倒してきたとかそういうオチじゃねえ。こいつは只の模倣品だ。――……昔オレを逃がして死んだ、オレの師匠の剣の、な」
一拍。
職員が男の言葉の意味を飲み込むのに、時間が掛かった。沈痛な表情を見せる職員に、男は確信を得たようにそうか、と、目を伏せて呟いた。
ここ最近の襲撃で、付近の負のマテリアルが増加したせいなのか。
死んで暫くの時が過ぎてはいるが、歪虚の影響を受け彷徨い出でた剣士の亡霊、その依り代とされたのは己の師匠の肉体で間違いないらしい。
「……じゃあ改めて、詳しい話を聞かせてもらおうか。来てんだろ、討伐依頼」
「――……」
決然とした男の言葉に、しかし職員は咄嗟に言葉が見つからず、だから視線で問いかけていた。
倒すつもりなのか。……あなたが、倒せるのかと。
人の死体や魂が雑魔と化す例は幾らでもある。……そして、生前の姿にそれを重ね合わせ、その対応を誤ってしまう例も、幾らでも。
「分かってる。『これ』の中身は師匠じゃねえ。なら、てめぇの身体好き勝手に使われてあの人が納得してる訳がねえ。さっさと止めてやらねえと浮かばれねえだろうが。あの人はそういう人だ」
「……です、が」
男の言葉に、職員はなおも心配を消せずにいた。
その視線は、相変らず男が突き出したままの剣に釘付けになっていた。冬を越した今頃の時期に蕾をつける木の花びら。見事な意匠の鞘。
模したのは、男の、その師匠への敬意と、その剣そのものへの憧れの現われなのだろう。だからこそ。
男の立ち振る舞いに隙はない。昨日今日弔いを決意して慌てて剣を手に取ったわけではないのだろう。職員としての目で見れば、ハンターとしてそれなり以上の熟練は積んでいるようだった。
だから……知っているはずだ。歪虚の影響を受けた存在、それを滅した後はどうなるのか。
黒い塵となって、失われる。雑魔と化した肉体のみならず、すべてが。それらを維持する負のマテリアルが失われたその時、何も遺さず崩れ去る。
武器、防具、装飾品の一欠けらですら。
墓標に遺すもの何一つ許されず、すべてが無に還る。
……だからこそ。事前に幾ら己を鼓舞しようが、直前になり躊躇ってしまう者が後を絶たないのだ。
間違った形でも。
せめてこの人がこの世界に居た証、何かそれを残す事は許されてはいけないのかと。
「……あの人は、オレを逃がして死んだ。オレに後を託して、逝ったんだ」
分かってる、と、もう一度呟いてから男は口を開く。
「だからこの亡霊はオレが斬る。斬らなきゃならねえ。あんたの後は間違いなくオレが継いだ、あんたが斬るはずだった歪虚はオレが斬ると、証明してやるのが恩返しだろうがっ……!」
男の言葉を、職員は肯定も否定も出来なかった。決意を語る男の瞳には強い光が宿っている。ただ、その輝きは……今にも涙を零しそうにも、見えるのだ。
完全に言葉を失った職員に、男はふぅ、と息を吐く。
「まあ、そうだな。実際にこの亡霊を斬れるかどうかは、あんただけに頼んでどうにかなることじゃねえ」
そう言って、男は後ろを振り向いた。……後に控える、同じ依頼を受けようとしているハンター達の下へ。
「なあ。オレもハンターで、戦士だ。この職員さんが懸念してる内容も分かるし、あんたらからしても、なるべくなら強い敵と戦いてえとか、武勲を立ててえとか、依頼に私情を挟むなとかいう言い分も分かってる。……が、今回はそこを曲げて、この亡霊に関してはオレに譲っちゃくれねえか。……この通り、頼む」
そう言って男はハンター達に、丁寧に頭を下げた。
雪の降る季節を巡り結ぶまた蕾、一つ。
●
「……噂を聞いたんだが」
最近、辺境に現れるようになったという亡霊剣士の話を詳しく聞きたい。
ハンターオフィスに現れた男は、その切れ長の瞳に確固たる意志を宿し職員にそう尋ねた。
「オレが聞いた話じゃあ、その亡霊の特徴は、藍の鞘の立派な拵えの剣。その鞘の鍔近くのあたりにゃあ、金で花びらが彫られてる。……ちょうど、こんな感じか?」
そう言って、男はぐいと、己の腰に差した剣を、鞘に収めたまま職員の眼前に突きつけた。……ちょうど、男が今述べたとおりの特徴を持つ、それを。
「ああ、勘違いしねえで欲しい。残念ながら、そいつはもうオレが倒してきたとかそういうオチじゃねえ。こいつは只の模倣品だ。――……昔オレを逃がして死んだ、オレの師匠の剣の、な」
一拍。
職員が男の言葉の意味を飲み込むのに、時間が掛かった。沈痛な表情を見せる職員に、男は確信を得たようにそうか、と、目を伏せて呟いた。
ここ最近の襲撃で、付近の負のマテリアルが増加したせいなのか。
死んで暫くの時が過ぎてはいるが、歪虚の影響を受け彷徨い出でた剣士の亡霊、その依り代とされたのは己の師匠の肉体で間違いないらしい。
「……じゃあ改めて、詳しい話を聞かせてもらおうか。来てんだろ、討伐依頼」
「――……」
決然とした男の言葉に、しかし職員は咄嗟に言葉が見つからず、だから視線で問いかけていた。
倒すつもりなのか。……あなたが、倒せるのかと。
人の死体や魂が雑魔と化す例は幾らでもある。……そして、生前の姿にそれを重ね合わせ、その対応を誤ってしまう例も、幾らでも。
「分かってる。『これ』の中身は師匠じゃねえ。なら、てめぇの身体好き勝手に使われてあの人が納得してる訳がねえ。さっさと止めてやらねえと浮かばれねえだろうが。あの人はそういう人だ」
「……です、が」
男の言葉に、職員はなおも心配を消せずにいた。
その視線は、相変らず男が突き出したままの剣に釘付けになっていた。冬を越した今頃の時期に蕾をつける木の花びら。見事な意匠の鞘。
模したのは、男の、その師匠への敬意と、その剣そのものへの憧れの現われなのだろう。だからこそ。
男の立ち振る舞いに隙はない。昨日今日弔いを決意して慌てて剣を手に取ったわけではないのだろう。職員としての目で見れば、ハンターとしてそれなり以上の熟練は積んでいるようだった。
だから……知っているはずだ。歪虚の影響を受けた存在、それを滅した後はどうなるのか。
黒い塵となって、失われる。雑魔と化した肉体のみならず、すべてが。それらを維持する負のマテリアルが失われたその時、何も遺さず崩れ去る。
武器、防具、装飾品の一欠けらですら。
墓標に遺すもの何一つ許されず、すべてが無に還る。
……だからこそ。事前に幾ら己を鼓舞しようが、直前になり躊躇ってしまう者が後を絶たないのだ。
間違った形でも。
せめてこの人がこの世界に居た証、何かそれを残す事は許されてはいけないのかと。
「……あの人は、オレを逃がして死んだ。オレに後を託して、逝ったんだ」
分かってる、と、もう一度呟いてから男は口を開く。
「だからこの亡霊はオレが斬る。斬らなきゃならねえ。あんたの後は間違いなくオレが継いだ、あんたが斬るはずだった歪虚はオレが斬ると、証明してやるのが恩返しだろうがっ……!」
男の言葉を、職員は肯定も否定も出来なかった。決意を語る男の瞳には強い光が宿っている。ただ、その輝きは……今にも涙を零しそうにも、見えるのだ。
完全に言葉を失った職員に、男はふぅ、と息を吐く。
「まあ、そうだな。実際にこの亡霊を斬れるかどうかは、あんただけに頼んでどうにかなることじゃねえ」
そう言って、男は後ろを振り向いた。……後に控える、同じ依頼を受けようとしているハンター達の下へ。
「なあ。オレもハンターで、戦士だ。この職員さんが懸念してる内容も分かるし、あんたらからしても、なるべくなら強い敵と戦いてえとか、武勲を立ててえとか、依頼に私情を挟むなとかいう言い分も分かってる。……が、今回はそこを曲げて、この亡霊に関してはオレに譲っちゃくれねえか。……この通り、頼む」
そう言って男はハンター達に、丁寧に頭を下げた。
リプレイ本文
森の中に現れた雑魔退治。種別の系統としては幽鬼の類で、計9匹。
サントール・アスカ(ka2820)にとってみればそれはさして珍しくもない、ごく普通の雑魔退治の依頼、に思えた。
が。
(わけありの同行者がいるようだね)
受付のカウンターから聞こえてきた会話、聞けば聞くほどサントールにとっては共感できる部分が大きかった。
彼もまた大切なものを歪虚に奪われた身だ。もし仮に、自分の、例えば両親が雑魔化したとしたらどうだろう。
……己が出す答えも、スウィンとそう変わりはない。せめて、自分の手で。
そう思うからこそ、彼には協力してやりたい、とは思うが。
――但し、それが適うならば、という前提条件は要る。
「貴方が一人で戦ったとして……力及ばず、かつて師であった歪虚に敗れ、そして死ぬかもしれません。その事を、どうお考えですか」
ふと抱いた懸念を実際に口にしたのは柳津半奈(ka3743)だった。
「……負けるつもりはねえよ」
返すスウェンの声には若干の苛立ちが見て取れた。負けるのを前提とするところから話をされるのは気に食わなかったらしい。
微妙な空気を察してか、ラディスラウス・ライツ(ka3084)がそこに割って入る。
「仕事は仕事だが、お前の邪魔をするつもりはない。だが、命を捨てるような真似はするなよ。……分かっているとは、思うが」
言っていることは柳津とほぼ変わらないのだが、先に『邪魔をしない』と示したことで、スウィンの表情から険が消える。
「あー……別に俺ぁ師匠に負い目があるとか、いっそ殺されてぇとか、そんなつもりじゃ、ねえよ。勝てるつもりだから、んなこと言ってる。……相手は所詮、雑魔、一匹だ」
それが実際、ただの雑魔一匹であるのならば、ここまで心配はしない。
今度は柳津の眉間に僅かに皺が寄る番だった。……捨て鉢ではなさそうだが、彼女が求める答えには足りない。いざというときに割り込みをしたらそれを受け止めてくれるかどうか……この返答では、それが判断できない。
……いや、スウィンにも分かってはいる。今ここに居る者たちが何を恐れ、何を言って欲しいのかを。分かっていてなお、彼のほうから「やばいときは頼む」とは言えなかった。それを口にしてしまえば、己の覚悟が酷く半端なものに思えてしまうから。
微妙な、膠着。
仕方がないと、スウィンは何とか納得しようとする。
そもそも、初めからそんな話は承服できないといわれないだけ御の字なのだ……そう思い、ふと他の皆へと視線をめぐらせる。
その視線がティス・フュラー(ka3006)へと重なったとき、少女は慌てて表情を引き締めた。
……彼女も、心配する気持ち、そして応援したい気持ちは皆と一緒なのだ。
どんな形であれ、決着は付けさせてあげるべきなのだろう、と。彼がこれから、前に進むために。
だけど、お師匠さんの思いを無駄にしないために、死なせるわけにはいかない。もしスウィンが殺されそうにでもなったら、助けに入らせてもらうだろう、と。
自分のような経験の浅い子供がそれを表に出せば却って怒らせるかと思い、これまで口を噤んでいたが。
大丈夫だろうか。露骨に不安な目線を向けていなかっただろうか。不自然に表情と姿勢を正す少女の姿に……そこで初めて、スウィンの表情がふっ、と緩んだ。
シルヴァ グラッセ(ka4008)が口を開いたのは、そのタイミング。
「御気持ちは解りますけど……探してから決めないです……?」
それはこの場をごまかし、お茶を濁すだけの提案に過ぎないと、言った本人が一番分かっている。だが。
「ま、そりゃそーだな。ケリをつけるにしたって、相手が見つかんなけりゃあ話になんねぇ」
スウィンはあえて、茶化してそれに乗った。それが、固まっていた空気を動かすだけのきっかけにはなる。
……ただ。
「どんな形であれ、愛弟子を手に掛けたいと思う師など居ない筈。よくお考え下さい。恩を報いるとは、どういう事なのかを」
スウィンが意図して逸らした問題を、柳津がもう一度、俎上に上げる。……この点は、何もかもが曖昧なまま済ませてしまうわけには行かなかった。
「……わぁってるよ」
彼からの返事はそれだけ。
やはり、望む形の答えは得られなかった。
それでも、返ってきた声が幾分柔らかくなっていたことに、柳津もクスリと笑みを零した。
●
森の捜索は、さほど労はなかった。おおよそ聞いていたあたりの地点を歩くそのうちに、がさり、と葉擦れの音。気配に振り向くと、向こうもこちらの気配に惹かれたのか、怨霊がぼんやりと漂いながら虚ろな目を一行へと向けていた。
即座に、一行も反応する。
ティスのウィンドスラッシュが、ラディスラウスのホーリーライトが、向かい来る浮遊霊を弾き返す。
「雑魔は仇以外にも居る様です。確りと仇と対峙できるまでは自分を見失わず、1対1、もしくは仇への攻撃の好機が出来るまで、少し待って下さい」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)はそう告げて、彼もまたホーリーライトで浮遊霊を叩く。
「……恩に着るぜ、まったく」
呟き返し、静かに剣の柄に手をかけたスウィンの横を、柳津が、サントールが駆け抜ける。
立ちはだかるスケルトンに、柳津は一気に剣の間合いまで飛び込むと、吹き飛ばすように剣を横なぎに振るい敵を退かせる。
サントールは、その身軽さを活かし戦場を一気に駆け抜けると、ひきつけた敵を迎撃するように細かなステップからのジャブを刻み、敵を足止めする。スケルトンがバランスを崩し、体が浮いたところで……強烈なアッパーが、その顎に叩き込まれる。
押しのけられる敵たち。その奥。
ゆらりと立つ、浮かび上がる姿。その腰には、スウェンが持つものと全く同じに見える剣が佩かれていた。
「大丈夫そうですか……?」
スウェンのすぐ傍に立ち援護射撃をしていたシルヴァがそっと、声を掛ける。
返事は――期待してない。
「託されたのって剣を振るうことだけじゃないと思うんです……師と弟子ならそれでも、貴方と彼だと少し違う……かもしれないです」
彼女の言葉が終わるか終わらないかの隙。言葉を返さぬまま、スウィンは剣を抜き放ち真っ直ぐに駆け抜けた。
亡霊騎士が抜き放つ刃とスウィンが振り下ろす刃がぶつかる、硬い音が響く。
そのまま二度、三度と、彼と亡霊の剣が交差して。
……その軌跡は、似通っているように思えた。
これはただ、骸を操っているだけの雑魔。
そう思っていた相手が、自分のよく知る動きをして。スウィンの顔に僅かに戸惑いが浮かぶ。
咄嗟に引いた彼の身体を追うように亡霊剣士が距離を詰め、彼の腕を浅く斬った。
「――……っ!」
反射的に、シルヴァが隠れていた木陰から姿を現す。
「……まだだっ!」
直後、スウィンが鋭い声を上げた。
だからこそシルヴァは、助けに行くべきだと考える。やはり今の彼は、冷静になりきれていないと――……
「……もう少しだけ、見ててやらないか」
が。
そこに、後衛から全ての戦況を見渡していたラディスラウスが声を掛ける。
不意の声に足が止まった、その瞬間、直線距離を浮遊霊が塞ぐ。唇を噛んで、邪魔なその敵を拳銃で貫き。
「……彼が、彼のみで倒すことだけが、本当に大事ですか……?」
思わずシルヴァはラディスラウスにそう問いかけていた。
「迷ってしまうならば。それなら……それでも、いいじゃないですか」
これまでに彼女が人たち。
深い想いを硬い信念の殻で覆う……それは、一つ傷がついたときに中身が大きいほどに、容易く崩れるようなもの。
今目前で闘う彼の気持ちも、今まさに一つ皹が入ったように見えて。でも。
「悲しいなら悲しい。それで……いいと思うんです。それだけ大事な人だったってことだから……」
彼女は、強く惹かれてしまうその弱さも肯定したかった。
「……おまえの言うこともわかるがね……」
ラディスラウスは、やはり視線は眼前の悪霊たちに向けたまま。しかし穏やかな声で答える。
「……己がこれと決めた戦いに負け、逃げちまったら……そこからずるずると、勝てなくなっちまう奴もいる」
そんな奴にはなって欲しくないと、口の端を歪めて、ラディスラウスは笑う。
彼がやろうとしていることは、雑魔退治とはいえ、恩人の遺体を傷つけるようなものだ。
相応の覚悟を持ってきたんだろう、と。
……ぬくもりだけではないその笑顔に、『そんな奴』とは誰のことなのか、凡その見当はついてしまう。
「……でも、彼、本当に大丈夫でしょうか……?」
今のシルヴァに返せるのは、それだけ。だがそれだけは、譲れない一つだった。
戦場で命が刈り取られるのは一瞬だ。
一撃を受け、なお己を制止しようとした彼が、そうした手遅れを招かないほどの冷静さを今、保てているのか……。
「……わたくしは、まだ判断しかねると考えます」
答えたのは柳津だった。答えと同時に打ち下ろした剣に、彼女の前のスケルトンが一体、崩れて塵へと還る。
「先ほどスウィンさんが声を上げられた件。わたくしには、二通りの解釈があると」
一つは、シルヴァが懸念したとおり、己の手での決着に固執し冷静さを失っている可能性。
「ですがこうも考えられます。この状況において、彼にはまだ、わたくしたちのことも見えている、と」
――……それは、頭に血が上り狭窄した視野では為せない事ではないか、と。
●
距離をとって構えなおすと、スウィンは一度大きく呼吸をした。目の前の敵は確かに師匠と同じ姿、同じ動きに思えた。
――……例えそうでも、負けるつもりはねえ。
再び、剣を交える。眼前に師匠の顔を見据え……そして背中に、今戦ってくれる仲間達の気配を、ずっと感じていた。
……良い奴らと、一緒になれたよな。
付き合う義理なんざ全くない、はずなのに。こうして己の気持ちを汲んで、託してくれた。
と、同時に。会話は聞こえないが、なんとなく感じる雰囲気がある。
良い奴、だが、決して『間抜けなお人よし』ではない。
このままぽかんと、自分と亡霊との戦いを突っ立って見ててくれる、ということはないだろう。
――『後悔しないように』。
森に入る直前、サントールにそう言って叩かれた肩が疼くのを感じた。
後悔しないように。
オレは、今、後悔しないようにどうしたい?
……報いたい。死んだ師匠だけじゃない。生きて、今一緒に戦ってくれて、託してくれたこいつらに。
だから。
かっと目を見開いて、もう一度、今戦う師匠――師匠の姿をした、雑魔を、見据える。
「……っらぁっ!!」
そうして、合わせたままの刃を踏み込んで強引に押し込むと、下がった体めがけて飛び込むように……蹴りを、叩き入れた。
「型だけ物まねして師匠の全部を奪ったつもりか雑魚野郎がっ! 生憎とオレと師匠の『実戦』はんなお上品じゃねえんだよっ!」
吼えて――横一閃。その左腕を切り落とす!
「……やった!?」
物陰から、身を守りながら魔法を撃ち続けていたティスが歓声を上げる。剣を持つ腕ではないとはいえ、片腕を失えば人間の身体は大きくバランスを崩す。痛みを感じない歪虚とはいえ、動きが大幅に鈍ることには変わりはなかった。
シルヴァが、息を一つ吐いて拳銃を構えなおす。その照準を、残る敵へと向けて。
もとより、彼が現実を目の当たりにして、それでも最初の決意が持てるなら、任せるつもりで居たのだ。
周囲の雑魔も奮戦により減りつつある。最後に残ったスケルトンを、サントールのコンビネーションからの必殺のストレートが肋骨を粉砕し、無に還したところで。
スウィンの剣が、倒れた亡霊剣士に止めの一撃を与えようと掲げられた……――そこで、ぴたりと静止した、ように、見えた。
●
実際のところそれはどれほどの時間だったのだろう。
長いようで、実はほんの数瞬の事だったのかも知れない。
ユキヤは思わず一歩踏み出して、その結末を固唾を呑んで見守っていた。
もしここにきて、彼が振り下ろすのを躊躇うならば。
そうして、亡霊剣士が反撃の刃を彼へと向けるならば。
割り込んで止めに入らなければならない。
彼に生きて欲しいと思う彼の師匠の気持ちは……確かだと思うから。
(貴方は生きていなければならない。スウィンさんも理解していると思います)
生きて居た証明を残さないのが此方の世界で当たり前の事なのかも知れない。
でも、向うの世界では、それだけじゃない。生きて居た証を少しでも残したい。
それでも良いかも知れないと少しでもスウィンが思ってくれるなら。
――その”証”こそ、スウィンさんである。と。
祈るように見つめる、ユキヤの先で。
スウィンの刃が、振り下ろされる。
振り上げて一瞬と待ったその隙に、彼の師匠の姿をした亡霊はその剣を。彼が愛し、その記憶にと模したその剣を割り込ませて。
「う……おぉおおおお!」
瞬間。渾身のマテリアルを込めた一撃が。元となった師匠の剣を叩き折りながら。なおも止まらず肩から腹に向けて、亡霊の身体を大きく切り裂いた。
亡霊の身体がビクリと震え、そして、力なく大地に倒れる。
「終わっ……た……?」
ポツリと、隣で呟いたティスに。
「いや。……これから、だよ」
ユキヤは、思わずそう呟き返していた。
「……あ、あ……」
この結末は分かっていた。
そうなることを望んでいたはずなのに。
それでも、崩れゆく師匠の骸を見てスウィンの唇から漏れ出るのは呻き声だった。
「……ちく……しょう、師匠……オレ、はっ……」
言葉にならない想いを、必死で紡ごうとするその前で、しかし目の前の存在は容赦なく崩れ去っていく。
足元から。服諸共。そして、彼がどこか自慢げに語った見事な拵えの鞘。その鞘にあしらわれた、記念の日に送られた飾り紐。そう言ったもの全て、何一つ、容赦なく。
今彼が、何を想うのか。
想像は出来ても、その全てを同じく受け止めることなど出来るはずもない。
(……亡くしたモノは還らない。ただ、生きるしかない)
胸が締め付けら得る想いで、しかしユキヤはその光景を、目を逸らさず見つめていた。
苦しくとも、師匠の事を忘れずに、生きるしかない。
(……辛く、そして……悲しいですけれど……)
かける言葉が見当たらない一行の中、唯一、サントールが無言で、スウィンの肩を軽く叩いた。
……それが、殻を破る最後の一撃となった。
細められたスウィンの瞳から、すう、と、真っ直ぐに雫がこぼれていく。
この涙が収まったときに、彼の戦いは一区切りなのかもしれない。
そして。
(俺の戦いはいつまで続くんだろうか)
柄にもなくサントールは、そんなことを、思って、天を仰いだ。
木の葉を揺らしながら、森から一匹の鳥が空へ羽ばたいていった。
一人の男の魂を空へと運ぶかのように。
サントール・アスカ(ka2820)にとってみればそれはさして珍しくもない、ごく普通の雑魔退治の依頼、に思えた。
が。
(わけありの同行者がいるようだね)
受付のカウンターから聞こえてきた会話、聞けば聞くほどサントールにとっては共感できる部分が大きかった。
彼もまた大切なものを歪虚に奪われた身だ。もし仮に、自分の、例えば両親が雑魔化したとしたらどうだろう。
……己が出す答えも、スウィンとそう変わりはない。せめて、自分の手で。
そう思うからこそ、彼には協力してやりたい、とは思うが。
――但し、それが適うならば、という前提条件は要る。
「貴方が一人で戦ったとして……力及ばず、かつて師であった歪虚に敗れ、そして死ぬかもしれません。その事を、どうお考えですか」
ふと抱いた懸念を実際に口にしたのは柳津半奈(ka3743)だった。
「……負けるつもりはねえよ」
返すスウェンの声には若干の苛立ちが見て取れた。負けるのを前提とするところから話をされるのは気に食わなかったらしい。
微妙な空気を察してか、ラディスラウス・ライツ(ka3084)がそこに割って入る。
「仕事は仕事だが、お前の邪魔をするつもりはない。だが、命を捨てるような真似はするなよ。……分かっているとは、思うが」
言っていることは柳津とほぼ変わらないのだが、先に『邪魔をしない』と示したことで、スウィンの表情から険が消える。
「あー……別に俺ぁ師匠に負い目があるとか、いっそ殺されてぇとか、そんなつもりじゃ、ねえよ。勝てるつもりだから、んなこと言ってる。……相手は所詮、雑魔、一匹だ」
それが実際、ただの雑魔一匹であるのならば、ここまで心配はしない。
今度は柳津の眉間に僅かに皺が寄る番だった。……捨て鉢ではなさそうだが、彼女が求める答えには足りない。いざというときに割り込みをしたらそれを受け止めてくれるかどうか……この返答では、それが判断できない。
……いや、スウィンにも分かってはいる。今ここに居る者たちが何を恐れ、何を言って欲しいのかを。分かっていてなお、彼のほうから「やばいときは頼む」とは言えなかった。それを口にしてしまえば、己の覚悟が酷く半端なものに思えてしまうから。
微妙な、膠着。
仕方がないと、スウィンは何とか納得しようとする。
そもそも、初めからそんな話は承服できないといわれないだけ御の字なのだ……そう思い、ふと他の皆へと視線をめぐらせる。
その視線がティス・フュラー(ka3006)へと重なったとき、少女は慌てて表情を引き締めた。
……彼女も、心配する気持ち、そして応援したい気持ちは皆と一緒なのだ。
どんな形であれ、決着は付けさせてあげるべきなのだろう、と。彼がこれから、前に進むために。
だけど、お師匠さんの思いを無駄にしないために、死なせるわけにはいかない。もしスウィンが殺されそうにでもなったら、助けに入らせてもらうだろう、と。
自分のような経験の浅い子供がそれを表に出せば却って怒らせるかと思い、これまで口を噤んでいたが。
大丈夫だろうか。露骨に不安な目線を向けていなかっただろうか。不自然に表情と姿勢を正す少女の姿に……そこで初めて、スウィンの表情がふっ、と緩んだ。
シルヴァ グラッセ(ka4008)が口を開いたのは、そのタイミング。
「御気持ちは解りますけど……探してから決めないです……?」
それはこの場をごまかし、お茶を濁すだけの提案に過ぎないと、言った本人が一番分かっている。だが。
「ま、そりゃそーだな。ケリをつけるにしたって、相手が見つかんなけりゃあ話になんねぇ」
スウィンはあえて、茶化してそれに乗った。それが、固まっていた空気を動かすだけのきっかけにはなる。
……ただ。
「どんな形であれ、愛弟子を手に掛けたいと思う師など居ない筈。よくお考え下さい。恩を報いるとは、どういう事なのかを」
スウィンが意図して逸らした問題を、柳津がもう一度、俎上に上げる。……この点は、何もかもが曖昧なまま済ませてしまうわけには行かなかった。
「……わぁってるよ」
彼からの返事はそれだけ。
やはり、望む形の答えは得られなかった。
それでも、返ってきた声が幾分柔らかくなっていたことに、柳津もクスリと笑みを零した。
●
森の捜索は、さほど労はなかった。おおよそ聞いていたあたりの地点を歩くそのうちに、がさり、と葉擦れの音。気配に振り向くと、向こうもこちらの気配に惹かれたのか、怨霊がぼんやりと漂いながら虚ろな目を一行へと向けていた。
即座に、一行も反応する。
ティスのウィンドスラッシュが、ラディスラウスのホーリーライトが、向かい来る浮遊霊を弾き返す。
「雑魔は仇以外にも居る様です。確りと仇と対峙できるまでは自分を見失わず、1対1、もしくは仇への攻撃の好機が出来るまで、少し待って下さい」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)はそう告げて、彼もまたホーリーライトで浮遊霊を叩く。
「……恩に着るぜ、まったく」
呟き返し、静かに剣の柄に手をかけたスウィンの横を、柳津が、サントールが駆け抜ける。
立ちはだかるスケルトンに、柳津は一気に剣の間合いまで飛び込むと、吹き飛ばすように剣を横なぎに振るい敵を退かせる。
サントールは、その身軽さを活かし戦場を一気に駆け抜けると、ひきつけた敵を迎撃するように細かなステップからのジャブを刻み、敵を足止めする。スケルトンがバランスを崩し、体が浮いたところで……強烈なアッパーが、その顎に叩き込まれる。
押しのけられる敵たち。その奥。
ゆらりと立つ、浮かび上がる姿。その腰には、スウェンが持つものと全く同じに見える剣が佩かれていた。
「大丈夫そうですか……?」
スウェンのすぐ傍に立ち援護射撃をしていたシルヴァがそっと、声を掛ける。
返事は――期待してない。
「託されたのって剣を振るうことだけじゃないと思うんです……師と弟子ならそれでも、貴方と彼だと少し違う……かもしれないです」
彼女の言葉が終わるか終わらないかの隙。言葉を返さぬまま、スウィンは剣を抜き放ち真っ直ぐに駆け抜けた。
亡霊騎士が抜き放つ刃とスウィンが振り下ろす刃がぶつかる、硬い音が響く。
そのまま二度、三度と、彼と亡霊の剣が交差して。
……その軌跡は、似通っているように思えた。
これはただ、骸を操っているだけの雑魔。
そう思っていた相手が、自分のよく知る動きをして。スウィンの顔に僅かに戸惑いが浮かぶ。
咄嗟に引いた彼の身体を追うように亡霊剣士が距離を詰め、彼の腕を浅く斬った。
「――……っ!」
反射的に、シルヴァが隠れていた木陰から姿を現す。
「……まだだっ!」
直後、スウィンが鋭い声を上げた。
だからこそシルヴァは、助けに行くべきだと考える。やはり今の彼は、冷静になりきれていないと――……
「……もう少しだけ、見ててやらないか」
が。
そこに、後衛から全ての戦況を見渡していたラディスラウスが声を掛ける。
不意の声に足が止まった、その瞬間、直線距離を浮遊霊が塞ぐ。唇を噛んで、邪魔なその敵を拳銃で貫き。
「……彼が、彼のみで倒すことだけが、本当に大事ですか……?」
思わずシルヴァはラディスラウスにそう問いかけていた。
「迷ってしまうならば。それなら……それでも、いいじゃないですか」
これまでに彼女が人たち。
深い想いを硬い信念の殻で覆う……それは、一つ傷がついたときに中身が大きいほどに、容易く崩れるようなもの。
今目前で闘う彼の気持ちも、今まさに一つ皹が入ったように見えて。でも。
「悲しいなら悲しい。それで……いいと思うんです。それだけ大事な人だったってことだから……」
彼女は、強く惹かれてしまうその弱さも肯定したかった。
「……おまえの言うこともわかるがね……」
ラディスラウスは、やはり視線は眼前の悪霊たちに向けたまま。しかし穏やかな声で答える。
「……己がこれと決めた戦いに負け、逃げちまったら……そこからずるずると、勝てなくなっちまう奴もいる」
そんな奴にはなって欲しくないと、口の端を歪めて、ラディスラウスは笑う。
彼がやろうとしていることは、雑魔退治とはいえ、恩人の遺体を傷つけるようなものだ。
相応の覚悟を持ってきたんだろう、と。
……ぬくもりだけではないその笑顔に、『そんな奴』とは誰のことなのか、凡その見当はついてしまう。
「……でも、彼、本当に大丈夫でしょうか……?」
今のシルヴァに返せるのは、それだけ。だがそれだけは、譲れない一つだった。
戦場で命が刈り取られるのは一瞬だ。
一撃を受け、なお己を制止しようとした彼が、そうした手遅れを招かないほどの冷静さを今、保てているのか……。
「……わたくしは、まだ判断しかねると考えます」
答えたのは柳津だった。答えと同時に打ち下ろした剣に、彼女の前のスケルトンが一体、崩れて塵へと還る。
「先ほどスウィンさんが声を上げられた件。わたくしには、二通りの解釈があると」
一つは、シルヴァが懸念したとおり、己の手での決着に固執し冷静さを失っている可能性。
「ですがこうも考えられます。この状況において、彼にはまだ、わたくしたちのことも見えている、と」
――……それは、頭に血が上り狭窄した視野では為せない事ではないか、と。
●
距離をとって構えなおすと、スウィンは一度大きく呼吸をした。目の前の敵は確かに師匠と同じ姿、同じ動きに思えた。
――……例えそうでも、負けるつもりはねえ。
再び、剣を交える。眼前に師匠の顔を見据え……そして背中に、今戦ってくれる仲間達の気配を、ずっと感じていた。
……良い奴らと、一緒になれたよな。
付き合う義理なんざ全くない、はずなのに。こうして己の気持ちを汲んで、託してくれた。
と、同時に。会話は聞こえないが、なんとなく感じる雰囲気がある。
良い奴、だが、決して『間抜けなお人よし』ではない。
このままぽかんと、自分と亡霊との戦いを突っ立って見ててくれる、ということはないだろう。
――『後悔しないように』。
森に入る直前、サントールにそう言って叩かれた肩が疼くのを感じた。
後悔しないように。
オレは、今、後悔しないようにどうしたい?
……報いたい。死んだ師匠だけじゃない。生きて、今一緒に戦ってくれて、託してくれたこいつらに。
だから。
かっと目を見開いて、もう一度、今戦う師匠――師匠の姿をした、雑魔を、見据える。
「……っらぁっ!!」
そうして、合わせたままの刃を踏み込んで強引に押し込むと、下がった体めがけて飛び込むように……蹴りを、叩き入れた。
「型だけ物まねして師匠の全部を奪ったつもりか雑魚野郎がっ! 生憎とオレと師匠の『実戦』はんなお上品じゃねえんだよっ!」
吼えて――横一閃。その左腕を切り落とす!
「……やった!?」
物陰から、身を守りながら魔法を撃ち続けていたティスが歓声を上げる。剣を持つ腕ではないとはいえ、片腕を失えば人間の身体は大きくバランスを崩す。痛みを感じない歪虚とはいえ、動きが大幅に鈍ることには変わりはなかった。
シルヴァが、息を一つ吐いて拳銃を構えなおす。その照準を、残る敵へと向けて。
もとより、彼が現実を目の当たりにして、それでも最初の決意が持てるなら、任せるつもりで居たのだ。
周囲の雑魔も奮戦により減りつつある。最後に残ったスケルトンを、サントールのコンビネーションからの必殺のストレートが肋骨を粉砕し、無に還したところで。
スウィンの剣が、倒れた亡霊剣士に止めの一撃を与えようと掲げられた……――そこで、ぴたりと静止した、ように、見えた。
●
実際のところそれはどれほどの時間だったのだろう。
長いようで、実はほんの数瞬の事だったのかも知れない。
ユキヤは思わず一歩踏み出して、その結末を固唾を呑んで見守っていた。
もしここにきて、彼が振り下ろすのを躊躇うならば。
そうして、亡霊剣士が反撃の刃を彼へと向けるならば。
割り込んで止めに入らなければならない。
彼に生きて欲しいと思う彼の師匠の気持ちは……確かだと思うから。
(貴方は生きていなければならない。スウィンさんも理解していると思います)
生きて居た証明を残さないのが此方の世界で当たり前の事なのかも知れない。
でも、向うの世界では、それだけじゃない。生きて居た証を少しでも残したい。
それでも良いかも知れないと少しでもスウィンが思ってくれるなら。
――その”証”こそ、スウィンさんである。と。
祈るように見つめる、ユキヤの先で。
スウィンの刃が、振り下ろされる。
振り上げて一瞬と待ったその隙に、彼の師匠の姿をした亡霊はその剣を。彼が愛し、その記憶にと模したその剣を割り込ませて。
「う……おぉおおおお!」
瞬間。渾身のマテリアルを込めた一撃が。元となった師匠の剣を叩き折りながら。なおも止まらず肩から腹に向けて、亡霊の身体を大きく切り裂いた。
亡霊の身体がビクリと震え、そして、力なく大地に倒れる。
「終わっ……た……?」
ポツリと、隣で呟いたティスに。
「いや。……これから、だよ」
ユキヤは、思わずそう呟き返していた。
「……あ、あ……」
この結末は分かっていた。
そうなることを望んでいたはずなのに。
それでも、崩れゆく師匠の骸を見てスウィンの唇から漏れ出るのは呻き声だった。
「……ちく……しょう、師匠……オレ、はっ……」
言葉にならない想いを、必死で紡ごうとするその前で、しかし目の前の存在は容赦なく崩れ去っていく。
足元から。服諸共。そして、彼がどこか自慢げに語った見事な拵えの鞘。その鞘にあしらわれた、記念の日に送られた飾り紐。そう言ったもの全て、何一つ、容赦なく。
今彼が、何を想うのか。
想像は出来ても、その全てを同じく受け止めることなど出来るはずもない。
(……亡くしたモノは還らない。ただ、生きるしかない)
胸が締め付けら得る想いで、しかしユキヤはその光景を、目を逸らさず見つめていた。
苦しくとも、師匠の事を忘れずに、生きるしかない。
(……辛く、そして……悲しいですけれど……)
かける言葉が見当たらない一行の中、唯一、サントールが無言で、スウィンの肩を軽く叩いた。
……それが、殻を破る最後の一撃となった。
細められたスウィンの瞳から、すう、と、真っ直ぐに雫がこぼれていく。
この涙が収まったときに、彼の戦いは一区切りなのかもしれない。
そして。
(俺の戦いはいつまで続くんだろうか)
柄にもなくサントールは、そんなことを、思って、天を仰いだ。
木の葉を揺らしながら、森から一匹の鳥が空へ羽ばたいていった。
一人の男の魂を空へと運ぶかのように。
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MVP一覧
- 安穏を願う道標
ラディスラウス・ライツ(ka3084)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/17 15:24:52 |
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相談用 サントール・アスカ(ka2820) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/02/18 21:23:44 |