ゲスト
(ka0000)
風車は廻る
マスター:ユキ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/29 12:00
- 完成日
- 2014/07/09 17:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
6月。早い小麦はすでに収穫期。王国の南、肥沃な穀倉地帯のはずれにあって、その農家もすでに畑の収穫にとりかかっており、柵には数束の金色の尻尾が整列するように掛けられていた。だが、年老いた農夫は困っていた。父、祖父、その親と代々守ってきた麦畑。そこに立つ風車が今年になり、回らなくなってしまったのだ。
王国歴1009年にあった歪虚の大挙侵攻の折、西岸から離れたこの辺りは直接の被害はなかった。しかし王国は国王と、そして優秀な騎士を多く失った。若い者は国のため、愛する家族のため、あるいは自身の名誉のためと勇んで騎士にならんと志願し、田舎を離れていった。リアルブルーでも聞かれたであろう、都市部と農村でよくある話だ。そしてこの農家の息子も、そのよくある話の一人だった。
幸い彼は恵まれた体格と実直な性格もあって、無事に王国の騎士になることができた。今は妻も娶り、王国の東側に広がる大森林周辺の守護についているという。王国と同盟の都市を結ぶブリギッド大街道が貫くその森は交通の要所だが、魔獣も出没する険しく迷いやすい未開の地。これまでに何度か開拓計画も立ち上がったが、西方や帝国との睨み合い、国内の平定とそれどころではなく、あるいはその他の理由もあったのか定かではないが、結果的に計画は失敗に終わったというのが実情だ。それ故に現在は海上交易が主となっているが、王国にとっては他国との関所の1つであり、魔獣の侵入を防ぐためにも重要な拠点。そのような地の守護という任につけることは名誉なことだと、父親である農夫も喜んで息子を送り出した。なにより、息子の妻は永く生きたエルフらしく、森の近くの方がその身体に良いらしい。自分よりも年上の嫁をとるとはと最初は困惑したものだと、人間の老人は思い出しながら口元を緩める。
だが、息子がいなければ農家はこの老人一人だ。老人の妻はすでにいない。それを寂しいと枕を濡らすことは、今の老人にはもうないだろう。とはいえ、自分一人ではこの小麦を収穫するだけでも大仕事。ましてや風車の動かない中、この小麦を挽くなど到底無茶な話だ。しかし風車を修理しようにも、老いた身体では慣れた農作業はなんとかこなせても、風車の点検作業などはとてもとても。
そんな途方に暮れる老人たちの元をある日突然訪れるハンターたち。なぜ今ハンターがこんな、めったに雑魔も発生せず代わり映えのしない毎日が繰り返されるだけの片田舎を訪れたのか?
「貴方の息子、レオンさんの依頼ですよ。ブルーノ=クレメンティさん」
そう話しながら、ある者は腕まくりをし、またある者は頭にタオルを巻き、ハンターたちは手分けして農作業を手伝おうと我先に金色の海に飛び込んでいった。
――僕の父親の畑仕事を手伝って欲しい。僕は任務で、ここを離れる訳にはいかないから……
予想外の客人と、耳に飛び込んできた懐かしい名前。深い皺の刻まれた老人の顔が綻んだのは、見間違いではなかっただろう。
…………
はたして、ハンターたちの働きもあって農夫は麦穂の収穫を無事に終えることができた。目の前の柵に掛けられた金色のカーテンと、後ろに広がる見晴らしの良くなった畑の光景は毎年のものだが、やはりどこか達成感というか、眺めて気持ちのいいものがある。だが……
「どうしたものかな……」
麦わら帽子のつばを持ち上げながら見上げた先には、静かに麦穂を揺らす風をその身に感じながらも、もはやそれを受け止めるだけの身体を持たないボロボロの羽。せっかく麦の収穫を終えても、もうこの麦を挽くことはできない。
「これもまた、大精霊の御加護がないからかもしれんな……」
苦笑する老人の脳裏に浮かぶのは、王国歴1000年に行われた記念祝典『ソリス・イラ』での失意の光景。大精霊が降臨し、王国に先500年の守護を約束する儀式は失敗に終わった。それから目に見えた天災などの変化があったわけではない。しかしエクラ教の信徒が多い王国の民、ましてや日々自然に触れる者たちの中には、そう思うものがいても自然なことだろう。
王国で、クリムゾンウェストで永く生きる老人には、リアルブルーの人間や覚醒者たちのような豊富なマテリアルはない。魔法技術で風車を直したり回したりするなんてことはできない。そして機導術に劣る王国の片田舎の農家は、もはやリアルブルーの原始的な農家と大差なかった。周りの農家も、どこも同じような状況だ。そんな過疎化の進む農村の老人にはもう、風車を治す術など……。老人が思い浮かべるのは、生前愛する妻が作ってくれたパンやクッキーの薫り。見よう見まねで作る素朴な、けれど毎年の楽しみだったそれも、今年でもうおしまいなのかもしれない。
「おじいさん、次は何を手伝えばいい?」
諦め、もはや口元に淋しげな笑みすら浮かべていた老人に声をかけたのは、やはりハンターたちだった。
王国歴1009年にあった歪虚の大挙侵攻の折、西岸から離れたこの辺りは直接の被害はなかった。しかし王国は国王と、そして優秀な騎士を多く失った。若い者は国のため、愛する家族のため、あるいは自身の名誉のためと勇んで騎士にならんと志願し、田舎を離れていった。リアルブルーでも聞かれたであろう、都市部と農村でよくある話だ。そしてこの農家の息子も、そのよくある話の一人だった。
幸い彼は恵まれた体格と実直な性格もあって、無事に王国の騎士になることができた。今は妻も娶り、王国の東側に広がる大森林周辺の守護についているという。王国と同盟の都市を結ぶブリギッド大街道が貫くその森は交通の要所だが、魔獣も出没する険しく迷いやすい未開の地。これまでに何度か開拓計画も立ち上がったが、西方や帝国との睨み合い、国内の平定とそれどころではなく、あるいはその他の理由もあったのか定かではないが、結果的に計画は失敗に終わったというのが実情だ。それ故に現在は海上交易が主となっているが、王国にとっては他国との関所の1つであり、魔獣の侵入を防ぐためにも重要な拠点。そのような地の守護という任につけることは名誉なことだと、父親である農夫も喜んで息子を送り出した。なにより、息子の妻は永く生きたエルフらしく、森の近くの方がその身体に良いらしい。自分よりも年上の嫁をとるとはと最初は困惑したものだと、人間の老人は思い出しながら口元を緩める。
だが、息子がいなければ農家はこの老人一人だ。老人の妻はすでにいない。それを寂しいと枕を濡らすことは、今の老人にはもうないだろう。とはいえ、自分一人ではこの小麦を収穫するだけでも大仕事。ましてや風車の動かない中、この小麦を挽くなど到底無茶な話だ。しかし風車を修理しようにも、老いた身体では慣れた農作業はなんとかこなせても、風車の点検作業などはとてもとても。
そんな途方に暮れる老人たちの元をある日突然訪れるハンターたち。なぜ今ハンターがこんな、めったに雑魔も発生せず代わり映えのしない毎日が繰り返されるだけの片田舎を訪れたのか?
「貴方の息子、レオンさんの依頼ですよ。ブルーノ=クレメンティさん」
そう話しながら、ある者は腕まくりをし、またある者は頭にタオルを巻き、ハンターたちは手分けして農作業を手伝おうと我先に金色の海に飛び込んでいった。
――僕の父親の畑仕事を手伝って欲しい。僕は任務で、ここを離れる訳にはいかないから……
予想外の客人と、耳に飛び込んできた懐かしい名前。深い皺の刻まれた老人の顔が綻んだのは、見間違いではなかっただろう。
…………
はたして、ハンターたちの働きもあって農夫は麦穂の収穫を無事に終えることができた。目の前の柵に掛けられた金色のカーテンと、後ろに広がる見晴らしの良くなった畑の光景は毎年のものだが、やはりどこか達成感というか、眺めて気持ちのいいものがある。だが……
「どうしたものかな……」
麦わら帽子のつばを持ち上げながら見上げた先には、静かに麦穂を揺らす風をその身に感じながらも、もはやそれを受け止めるだけの身体を持たないボロボロの羽。せっかく麦の収穫を終えても、もうこの麦を挽くことはできない。
「これもまた、大精霊の御加護がないからかもしれんな……」
苦笑する老人の脳裏に浮かぶのは、王国歴1000年に行われた記念祝典『ソリス・イラ』での失意の光景。大精霊が降臨し、王国に先500年の守護を約束する儀式は失敗に終わった。それから目に見えた天災などの変化があったわけではない。しかしエクラ教の信徒が多い王国の民、ましてや日々自然に触れる者たちの中には、そう思うものがいても自然なことだろう。
王国で、クリムゾンウェストで永く生きる老人には、リアルブルーの人間や覚醒者たちのような豊富なマテリアルはない。魔法技術で風車を直したり回したりするなんてことはできない。そして機導術に劣る王国の片田舎の農家は、もはやリアルブルーの原始的な農家と大差なかった。周りの農家も、どこも同じような状況だ。そんな過疎化の進む農村の老人にはもう、風車を治す術など……。老人が思い浮かべるのは、生前愛する妻が作ってくれたパンやクッキーの薫り。見よう見まねで作る素朴な、けれど毎年の楽しみだったそれも、今年でもうおしまいなのかもしれない。
「おじいさん、次は何を手伝えばいい?」
諦め、もはや口元に淋しげな笑みすら浮かべていた老人に声をかけたのは、やはりハンターたちだった。
リプレイ本文
「……たまげた。お前さんら、夜通し起きとったのか?」
農家の朝は早い。だがその日はいつもと違う目覚めだった。納屋の裏から聞こえてくる規則正しく鳴り響く物音に、使い込まれたボウガンを手にした老人だったが、よくよく耳を傾けてみれば、なるほど、その音はひどく馴染みのある音だった。
「ああ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「やぁ! 涼しいうちにと思ったんだが。久々の土仕事に気合が入りすぎたかな」
トントンと木槌で麦を叩く音。神代 誠一(ka2086)とダイ・ベルグロース(ka1769)は、日も昇らないうちから作業に従事していた。老人は朝食にするから皆を起こしてくるようにとだけ伝えると母屋へと足を向ける。去り際、会話の間もずっと鳴り続いていた薪割りの音の方へ目を向けると、ハンドアックスを休め息を吐くイヴァン・レオーノフ(ka0557)がいた。
「……薪はこれくらいで足りるか?」
その横にはすでに山となった薪。その量にもはや呆れつつ、お前さんたちは朝飯の前に井戸で水を浴びてくるようにと付け加えた。
「おはようございますっ!」
今日一番の元気な挨拶をしたラズリー・クレエステル(ka1349)だったが、その実、食卓に姿を見せたのは一番最後だった。特別遅れたわけではないが、昨日は慣れない畑仕事だけでなく、夜中にはロイ・J・ラコリエス(ka0620)とともに風車の上階に上がるための縄梯子を編んで疲れてもいたのだろう。
「あれ? ユミルさんは?」
ラズリーが目覚めた時、唯一同性のユミル(ka2174)の姿はすでになかった。
「エルフのお嬢ちゃんなら、今朝早く弁当を拵えて出かけていったよ」
「ユミルさんなら、この辺りの動物たちに会ってくると話していましたよ」
互いに顔を見合わせるハンターたちだが、夜通し起きていた神代は出かける彼女を見ていたらしい。「大丈夫かね?」と心配する老人だったが、「まぁ、ハンターなら大丈夫か。それに、エルフっていうのは見た目よりも長く生きてるもんだからな」と、自分よりも長命な義理の娘の姿を思い浮かべつつ、切ったパンの上に焼いた目玉焼きと干し肉を乗せただけのシンプルな朝食を配る。できるならこの畑でとれた小麦で作ったパンを食わせてあげたいんだがなと苦笑する老人が差し出すそれは、依頼人である騎士から渡されたハンターたちの滞在中の食料だ。朝食を済ませるとハンターたちはさっそく『仕事』の話へ。
「それで、今日はどうしましょう? 俺は風車の点検に行こうかと思っていますが」
「収穫はあらかた片付いてるからな。ブルーノさんの仕事は俺が手伝うよ」
「……力がいるなら、手伝おう」
「設備のことならまかせてください! 私はエンジニアですからっ!」
年齢も生い立ちも違う者たちだが、『老人のため』という1つの目的に向かって意見を重ねる姿はけして遊びではなくプロの表情だ。概ねその日の予定が定まった所で、
「それじゃ今日も張りきっていってみよー!」
というロイの掛け声で、2日目の作業が幕を開けた。
●風車に巣食う者
その風車は、心地よい風の中にあってその羽を休めていた。
「昨日見た限りですと、この風車ならたぶんこの村にある資材でも十分直せると思いますよっ!」
農作業の傍ら風車の外観を観察し必要になりそうな資材を考えていたラズリー。それらは皆、田舎の農村でもなんとか手に入りそうな物。次は中の確認だ。
「こういう時は身軽な俺の出番だよね」
「肩を貸しますよ」
長身の神代の肩の上に立ち、ロイがひょいと軽い身のこなしで上階へと上がる。
「よっと……やっぱり暗いなー」
「ロイさーん! 太い柱に梯子を固定してくださーいっ!」
暗がりの中から「りょうかーい」という声がすると、時間を掛けずに手製の縄梯子が降ろされる。なかなか器用で手際が良い。垂れ下がる縄を手に取り1回、2回。感覚を確かめた神代が縄を支え、「さ、どうぞ」とラズリーへ促す。下で神代が抑えているので、不安定な縄梯子に揺られることなくラズリーも難なく上階へ。ラズリーが暗がりの中に消えたのを確認し、神代が「さて、自分も……」と作業道具を肩に担いでいると、頭上から
「わっ、本当。真っ暗……ロイさーん? ロイさー……きゃーーっ!? ……も、もう! やめて下さいそういうの! 私は子どもじゃないですから、まったくっ!」
「ハハハハ! ごめんごめん♪」
などというやりとりが。どこか、かつての教え子たちの時折見せる無邪気で子どもらしい姿が思い起こされ、フッっと笑みを零し、無意識に胃のあたりを擦る。そして「さぁ、遊びはそこまでですよ」と声をかけ、神代もまた縄を登っていく。
神代が合流した時、ロイは明かりで周囲を照らし、ラズリーが周囲の様子を確かめていた。
「んー。なんだか思ったよりも……」
「俺、もっとクモの巣とかいっぱいなのかと思ってた。お、あれ窓かな?」
たしかに、長く使われれていない建物にしてはクモの巣が見当たらない。あちこち点検するには好都合なのだが……。
「……!?」
少し朽ちてできた隙間から光が漏れる木戸。長く締め切られていたそれを開けようとロイが手を伸ばしたその時、何かが光を遮り、そして風を切って飛び込んできた。とっさに構えをとるロイだったが
「キィキィ! ギギギギ!」
賑やかなその声に一瞬驚きつつ、すぐにその構えを解いたのだった。ロイだけでなくそこにいる3人が皆、穏やかな笑顔を浮かべていた。
●皆で支えあう農村
「いやあ。いい風の吹く、いい村だなぁ」
ガラガラ、ゴトゴト。少し陽も傾き始めた昼下がり。舗装されてない畦道を、年季の入った荷車を牽きながら歩くのは農作業を終えた2人の大男。彼らは涼しい昼間の間、ブルーノとともに畑に出て収穫後の畑の手入れを済ませ、今は近隣の農家を周って帰るところだった。
「……農場は良い、心が優しくなる」
緩やかな坂を上りきったところで台車を押す手を休め、周辺の畑を見渡すイヴァン。表情はいつもと変わらぬ仏頂面だが、その瞳はどこか優しげだった。その瞳が見つめる先は、目の前の畑のそのまた先、どこか遠く、記憶の中の光景かもしれない。記憶の中で耕した畑。初めて収穫した野菜。一緒に喜んでくれた誰か……。
「そうだなあ。こんないい農場なんだ。ブルーノさんのためにも、依頼主の息子さんのためにも頑張らないとな」
休めた荷車に腰掛け、年下の農夫仲間とともに一面金色の畑と、そこに働く人たちを眺めるダイ。ポンと手を置くそれは、ついさっき近くに済む別の村人から借りてきた石臼。若手がいないのはブルーノの所だけではない。どの家だって似たような者だ。壮年、あるいはもはや老いた農夫が1人か2人畑に出て仕事に精を出す姿。畑もまだ麦の刈り取りが終わっていない所の方が多い。そんな中、ブルーノの風車が使えないからといって「風車を貸してくれ」というのは傲慢というものだ。ハンターの心象だけでなく、この村でのブルーノと村人たちとの関係性も壊してしまう。それらを承知しているからこそ対応には注意していた2人だったが、そんな2人の心配をよそに、村人たちは皆余所者であるハンターにも親切だった。
「石臼? なんだ、そんなもんなら好きにもってけ。たまには使ってやったほうが回りもよくなるしな。ハハハ」
「風車の修理、か。そうさなぁ。裏に材木が転がっとる。使えそうなもんがあったら持ってくといい。いい、いい。困ったときはお互い様だ」
「ブルーノんとこの坊主があんたたちを手伝いによこしたのかい? かーっ、いいねぇまったく。うちのバカ息子にゃそんな甲斐性ありゃしねぇ。そうだ、納屋に布地があるぞ。うちのバカが芸術だとかなんとか言って、絵か何かよくわかんねぇもん描きなぐっちまってるけど、よかったら使ってやってくれよ」
荷台には石臼だけでなく、木材や布地など、「もし調達できたらお願いしますっ!」とラズリーに言われていたものがずらり。それらは皆この村の人々の絆の証。優しさの印。
「さて、そろそろ行くかあ。疲れてたら休んでていいぞ?」
「……こういう仕事なら慣れている。気遣いは無用だ」
持久力には自信のあるダイが気を使うが、イヴァンもまた元軍人。タフな2人は懐かしい力仕事を、自分の経験が誰かのためになっている実感を、どこか楽しんでいるようだった。
●近くて遠い隣人
(……これが、この村の人と……あの子たちとの、距離……)
去り行く後姿を見送りながら、幼いエルフはその場に立ち尽くしていた。見送る相手の姿が見えなくなると、もそもそと荷物の中から少しくたびれた、けれど大切に大切に洗ったり修繕したりしたのだろう、白いキツネのパペットを取り出す。手にしたパペットとしばらくにらめっこをし、パペットの口をパクパクと動かしていた彼女だったが、しばらくして突然、パペットで顔を隠した。
「……ここは、あの森とは、違うから……でも、ちょっと……寂しい……」
そう呟く彼女の瞳を抑えるパペットの手は、うっすらと濡れていたように見えた。
――ユミルには、おじいさん……いるか、わからないけど……きっと、助けてあげたいって、思う、から……だから、ユミルにできることで、がんばりたい……
小さい身体でも老人の力になりたいと頑張っていた。収穫作業を手伝い、汗を流す老人に声をかけ水を差し出すと、老人は笑顔で「ありがとう」と答えてくれた。頭を撫でてくれた。でも、ユミルたちが帰れば老人はまた1人。誰も水を持ってきてはくれないし、もし何かあったら……夜、そんなことを考えながら毛布の中でパペットを遊ばせていたとき、ユミルの耳には『彼女』の声が聞こえた。
翌朝、横で寝ているラズリーを起こさぬように静かに寝床を抜けると、ユミルは1人で村はずれの林にいた。『彼女』を探すため。しゃがみこみ、土を確かめる。樹を撫で、風を感じる。育った辺境の森とは違うが、自然の木々に囲まれることはエルフのユミルにとってはとても心地の良いこと。このまま木々に囲まれて、風に吹かれながら枝葉の囁きを子守唄にお昼寝でもできたなら、どれほど気持ちのいいことだろう。けれどユミルは今日、『彼女』に会うためにここに来た。
(……あ)
そこに『彼女』はいた。全身を灰色の毛に包まれた森の住人、狼。その足元には4匹の小さな子どもたちがぴょこぴょこと。子どもたちははじめこそ母親にじゃれ付いていたが、鼻先でたしなめられると、「あれ、だぁれ?」とでも言うかのように、興味津々な目でユミルを見つめていた。
「……驚かせて、ごめんなさい……」
刺激しないよう、所作はゆっくりと。目を逸らすことなく、手探りで荷物から干し肉を取り出すと、ゆっくりとその場にしゃがみこみ、狼と同じ目線の高さになって、それを差し出す。
「……お土産……仲良く、なりたいから……」
自分と、そして老人と、友達になって欲しい。だがその思いも空しく、差し出した干し肉に彼女たちが近づくことは最後までなかった。ただ、彼女たちがたった1人で森へ踏み込んだ小さな人間を襲うことも、最後までなかった。
夜遅く、とぼとぼと老人の家へ戻ったユミルは、心配する老人に「ごめん、なさい……」と謝ると、そのまま部屋へと戻っていった。小さな明かりを頼りに作業をしていたラズリーの「お帰りなさい」の言葉に、パペットで顔を隠しながら小さな声で「……ただいま……」とだけ答えると、そのまま毛布に包まってしまった。しばらくして神代が「ユミルさんに」とお茶を届けに来た時も、布団の中から「……ありがと……」という言葉だけが返ってくるだけ。でも翌朝、テーブルの上には綺麗に洗ったカップと「きょうははやくかえります」というメモ書きが置かれていたのだった。
その後、ユミルがもう一度林の奥を確かめると、置いていった干し肉がなくなっていた。鳥や他の動物が食べたのかとも思ったが、そこには確かに彼女たちの足跡と、毛や糞など、ユミルにとっての彼女たちからの『プレゼント』が残されていたのだった。
●廻る風車と大地の恵み
一晩中ゴリゴリと石臼を挽く音が鳴り響く夜が明けやってきた最後の日の朝。ラズリーが図面を元に修繕箇所を確認しながら手作りの部品で補強する中、神代は風車の中の居候のための新居作り。夜中に作っておいた、木の棒の上に備え付けられた小さな巣箱。藁が敷き詰められたそこへ居候のツバメの子どもたちをお引越し。ピュイピュイと泣き続ける子どもたちと心配そうな親鳥だったが、しばらくすると落ち着いた様子を見せ、皆を安心させた。
心配された羽は、太陽と月の描かれた布地を使って計3本の羽の修繕をすることができたのだった。羽の修繕中、ラズリーが手本を見せようとした折、急な風にバランスを崩して羽から落下し、覚醒したダイに受け止められるということが起こった以外にはトラブルもなく、昼過ぎには修繕作業は終了となった。林から戻ったユミルを出迎えようと納屋から出た老人が顔を上げたとき、目にした光景に思わず笑顔で涙したことは、ユミルだけしか知らない。
午後、本来ならば畑の収穫作業も終わり風車の修繕、それに予備の部品まで作った彼らは、もう十分に依頼をこなし帰路についても良いはずだった。それでも彼らは自分たちの意思で残り、老人のために小さな収穫祭を催したのだった。イヴァンとダイが夜通し挽いた小麦粉で、男共は水団のような団子汁を拵える。まさに農夫の男飯。一方女子2人は、老人と一緒に彼の妻のレシピを見ながら、懐かしく素朴なパンを捏ねる。パンを焼く間にはロイが脱穀前の麦穂と刈りとった後の麦穂を使い、あたかも枯れた稲穂が再び実ったかのような手品を見せ、皆を感心させた。
収穫祭には隣人たちも集まり、それぞれに手土産の地酒や手料理を持ち込み賑やかなものとなった。宴も終わり夢の跡。帰路に着く前、ラズリーが残りの修繕作業の方法を記したメモと予備の部品ともに、幾ばくかの金銭を老人へ渡す。不思議に思う老人へ「これで小麦を買い付けたいのですっ!」と、商売人としての一面を見せる。最初こそ困惑する老人だったが、しばらくすると家の奥へと姿を消し、戻ってきたとき、その手には1本のエールがあった。残念だが、小麦はまだ売れるほどの量が挽けてない。だが商売人を手ぶらで帰すわけにはいかん。そう話すと、笑顔でエールを差し出し、渡された金銭からほんの少しだけ手に取ったのだった。来年はちゃんと小麦を売るよという約束と一緒に。
村を後にするハンターたちの手には、老人から息子夫婦への手土産が。それは母の味。親から子へ、そしていつか生まれる、その次の世代へ。風車は廻る。大地の恵みを、思い出を未来へと繋げながら、いつまでも。いつまでも。
農家の朝は早い。だがその日はいつもと違う目覚めだった。納屋の裏から聞こえてくる規則正しく鳴り響く物音に、使い込まれたボウガンを手にした老人だったが、よくよく耳を傾けてみれば、なるほど、その音はひどく馴染みのある音だった。
「ああ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「やぁ! 涼しいうちにと思ったんだが。久々の土仕事に気合が入りすぎたかな」
トントンと木槌で麦を叩く音。神代 誠一(ka2086)とダイ・ベルグロース(ka1769)は、日も昇らないうちから作業に従事していた。老人は朝食にするから皆を起こしてくるようにとだけ伝えると母屋へと足を向ける。去り際、会話の間もずっと鳴り続いていた薪割りの音の方へ目を向けると、ハンドアックスを休め息を吐くイヴァン・レオーノフ(ka0557)がいた。
「……薪はこれくらいで足りるか?」
その横にはすでに山となった薪。その量にもはや呆れつつ、お前さんたちは朝飯の前に井戸で水を浴びてくるようにと付け加えた。
「おはようございますっ!」
今日一番の元気な挨拶をしたラズリー・クレエステル(ka1349)だったが、その実、食卓に姿を見せたのは一番最後だった。特別遅れたわけではないが、昨日は慣れない畑仕事だけでなく、夜中にはロイ・J・ラコリエス(ka0620)とともに風車の上階に上がるための縄梯子を編んで疲れてもいたのだろう。
「あれ? ユミルさんは?」
ラズリーが目覚めた時、唯一同性のユミル(ka2174)の姿はすでになかった。
「エルフのお嬢ちゃんなら、今朝早く弁当を拵えて出かけていったよ」
「ユミルさんなら、この辺りの動物たちに会ってくると話していましたよ」
互いに顔を見合わせるハンターたちだが、夜通し起きていた神代は出かける彼女を見ていたらしい。「大丈夫かね?」と心配する老人だったが、「まぁ、ハンターなら大丈夫か。それに、エルフっていうのは見た目よりも長く生きてるもんだからな」と、自分よりも長命な義理の娘の姿を思い浮かべつつ、切ったパンの上に焼いた目玉焼きと干し肉を乗せただけのシンプルな朝食を配る。できるならこの畑でとれた小麦で作ったパンを食わせてあげたいんだがなと苦笑する老人が差し出すそれは、依頼人である騎士から渡されたハンターたちの滞在中の食料だ。朝食を済ませるとハンターたちはさっそく『仕事』の話へ。
「それで、今日はどうしましょう? 俺は風車の点検に行こうかと思っていますが」
「収穫はあらかた片付いてるからな。ブルーノさんの仕事は俺が手伝うよ」
「……力がいるなら、手伝おう」
「設備のことならまかせてください! 私はエンジニアですからっ!」
年齢も生い立ちも違う者たちだが、『老人のため』という1つの目的に向かって意見を重ねる姿はけして遊びではなくプロの表情だ。概ねその日の予定が定まった所で、
「それじゃ今日も張りきっていってみよー!」
というロイの掛け声で、2日目の作業が幕を開けた。
●風車に巣食う者
その風車は、心地よい風の中にあってその羽を休めていた。
「昨日見た限りですと、この風車ならたぶんこの村にある資材でも十分直せると思いますよっ!」
農作業の傍ら風車の外観を観察し必要になりそうな資材を考えていたラズリー。それらは皆、田舎の農村でもなんとか手に入りそうな物。次は中の確認だ。
「こういう時は身軽な俺の出番だよね」
「肩を貸しますよ」
長身の神代の肩の上に立ち、ロイがひょいと軽い身のこなしで上階へと上がる。
「よっと……やっぱり暗いなー」
「ロイさーん! 太い柱に梯子を固定してくださーいっ!」
暗がりの中から「りょうかーい」という声がすると、時間を掛けずに手製の縄梯子が降ろされる。なかなか器用で手際が良い。垂れ下がる縄を手に取り1回、2回。感覚を確かめた神代が縄を支え、「さ、どうぞ」とラズリーへ促す。下で神代が抑えているので、不安定な縄梯子に揺られることなくラズリーも難なく上階へ。ラズリーが暗がりの中に消えたのを確認し、神代が「さて、自分も……」と作業道具を肩に担いでいると、頭上から
「わっ、本当。真っ暗……ロイさーん? ロイさー……きゃーーっ!? ……も、もう! やめて下さいそういうの! 私は子どもじゃないですから、まったくっ!」
「ハハハハ! ごめんごめん♪」
などというやりとりが。どこか、かつての教え子たちの時折見せる無邪気で子どもらしい姿が思い起こされ、フッっと笑みを零し、無意識に胃のあたりを擦る。そして「さぁ、遊びはそこまでですよ」と声をかけ、神代もまた縄を登っていく。
神代が合流した時、ロイは明かりで周囲を照らし、ラズリーが周囲の様子を確かめていた。
「んー。なんだか思ったよりも……」
「俺、もっとクモの巣とかいっぱいなのかと思ってた。お、あれ窓かな?」
たしかに、長く使われれていない建物にしてはクモの巣が見当たらない。あちこち点検するには好都合なのだが……。
「……!?」
少し朽ちてできた隙間から光が漏れる木戸。長く締め切られていたそれを開けようとロイが手を伸ばしたその時、何かが光を遮り、そして風を切って飛び込んできた。とっさに構えをとるロイだったが
「キィキィ! ギギギギ!」
賑やかなその声に一瞬驚きつつ、すぐにその構えを解いたのだった。ロイだけでなくそこにいる3人が皆、穏やかな笑顔を浮かべていた。
●皆で支えあう農村
「いやあ。いい風の吹く、いい村だなぁ」
ガラガラ、ゴトゴト。少し陽も傾き始めた昼下がり。舗装されてない畦道を、年季の入った荷車を牽きながら歩くのは農作業を終えた2人の大男。彼らは涼しい昼間の間、ブルーノとともに畑に出て収穫後の畑の手入れを済ませ、今は近隣の農家を周って帰るところだった。
「……農場は良い、心が優しくなる」
緩やかな坂を上りきったところで台車を押す手を休め、周辺の畑を見渡すイヴァン。表情はいつもと変わらぬ仏頂面だが、その瞳はどこか優しげだった。その瞳が見つめる先は、目の前の畑のそのまた先、どこか遠く、記憶の中の光景かもしれない。記憶の中で耕した畑。初めて収穫した野菜。一緒に喜んでくれた誰か……。
「そうだなあ。こんないい農場なんだ。ブルーノさんのためにも、依頼主の息子さんのためにも頑張らないとな」
休めた荷車に腰掛け、年下の農夫仲間とともに一面金色の畑と、そこに働く人たちを眺めるダイ。ポンと手を置くそれは、ついさっき近くに済む別の村人から借りてきた石臼。若手がいないのはブルーノの所だけではない。どの家だって似たような者だ。壮年、あるいはもはや老いた農夫が1人か2人畑に出て仕事に精を出す姿。畑もまだ麦の刈り取りが終わっていない所の方が多い。そんな中、ブルーノの風車が使えないからといって「風車を貸してくれ」というのは傲慢というものだ。ハンターの心象だけでなく、この村でのブルーノと村人たちとの関係性も壊してしまう。それらを承知しているからこそ対応には注意していた2人だったが、そんな2人の心配をよそに、村人たちは皆余所者であるハンターにも親切だった。
「石臼? なんだ、そんなもんなら好きにもってけ。たまには使ってやったほうが回りもよくなるしな。ハハハ」
「風車の修理、か。そうさなぁ。裏に材木が転がっとる。使えそうなもんがあったら持ってくといい。いい、いい。困ったときはお互い様だ」
「ブルーノんとこの坊主があんたたちを手伝いによこしたのかい? かーっ、いいねぇまったく。うちのバカ息子にゃそんな甲斐性ありゃしねぇ。そうだ、納屋に布地があるぞ。うちのバカが芸術だとかなんとか言って、絵か何かよくわかんねぇもん描きなぐっちまってるけど、よかったら使ってやってくれよ」
荷台には石臼だけでなく、木材や布地など、「もし調達できたらお願いしますっ!」とラズリーに言われていたものがずらり。それらは皆この村の人々の絆の証。優しさの印。
「さて、そろそろ行くかあ。疲れてたら休んでていいぞ?」
「……こういう仕事なら慣れている。気遣いは無用だ」
持久力には自信のあるダイが気を使うが、イヴァンもまた元軍人。タフな2人は懐かしい力仕事を、自分の経験が誰かのためになっている実感を、どこか楽しんでいるようだった。
●近くて遠い隣人
(……これが、この村の人と……あの子たちとの、距離……)
去り行く後姿を見送りながら、幼いエルフはその場に立ち尽くしていた。見送る相手の姿が見えなくなると、もそもそと荷物の中から少しくたびれた、けれど大切に大切に洗ったり修繕したりしたのだろう、白いキツネのパペットを取り出す。手にしたパペットとしばらくにらめっこをし、パペットの口をパクパクと動かしていた彼女だったが、しばらくして突然、パペットで顔を隠した。
「……ここは、あの森とは、違うから……でも、ちょっと……寂しい……」
そう呟く彼女の瞳を抑えるパペットの手は、うっすらと濡れていたように見えた。
――ユミルには、おじいさん……いるか、わからないけど……きっと、助けてあげたいって、思う、から……だから、ユミルにできることで、がんばりたい……
小さい身体でも老人の力になりたいと頑張っていた。収穫作業を手伝い、汗を流す老人に声をかけ水を差し出すと、老人は笑顔で「ありがとう」と答えてくれた。頭を撫でてくれた。でも、ユミルたちが帰れば老人はまた1人。誰も水を持ってきてはくれないし、もし何かあったら……夜、そんなことを考えながら毛布の中でパペットを遊ばせていたとき、ユミルの耳には『彼女』の声が聞こえた。
翌朝、横で寝ているラズリーを起こさぬように静かに寝床を抜けると、ユミルは1人で村はずれの林にいた。『彼女』を探すため。しゃがみこみ、土を確かめる。樹を撫で、風を感じる。育った辺境の森とは違うが、自然の木々に囲まれることはエルフのユミルにとってはとても心地の良いこと。このまま木々に囲まれて、風に吹かれながら枝葉の囁きを子守唄にお昼寝でもできたなら、どれほど気持ちのいいことだろう。けれどユミルは今日、『彼女』に会うためにここに来た。
(……あ)
そこに『彼女』はいた。全身を灰色の毛に包まれた森の住人、狼。その足元には4匹の小さな子どもたちがぴょこぴょこと。子どもたちははじめこそ母親にじゃれ付いていたが、鼻先でたしなめられると、「あれ、だぁれ?」とでも言うかのように、興味津々な目でユミルを見つめていた。
「……驚かせて、ごめんなさい……」
刺激しないよう、所作はゆっくりと。目を逸らすことなく、手探りで荷物から干し肉を取り出すと、ゆっくりとその場にしゃがみこみ、狼と同じ目線の高さになって、それを差し出す。
「……お土産……仲良く、なりたいから……」
自分と、そして老人と、友達になって欲しい。だがその思いも空しく、差し出した干し肉に彼女たちが近づくことは最後までなかった。ただ、彼女たちがたった1人で森へ踏み込んだ小さな人間を襲うことも、最後までなかった。
夜遅く、とぼとぼと老人の家へ戻ったユミルは、心配する老人に「ごめん、なさい……」と謝ると、そのまま部屋へと戻っていった。小さな明かりを頼りに作業をしていたラズリーの「お帰りなさい」の言葉に、パペットで顔を隠しながら小さな声で「……ただいま……」とだけ答えると、そのまま毛布に包まってしまった。しばらくして神代が「ユミルさんに」とお茶を届けに来た時も、布団の中から「……ありがと……」という言葉だけが返ってくるだけ。でも翌朝、テーブルの上には綺麗に洗ったカップと「きょうははやくかえります」というメモ書きが置かれていたのだった。
その後、ユミルがもう一度林の奥を確かめると、置いていった干し肉がなくなっていた。鳥や他の動物が食べたのかとも思ったが、そこには確かに彼女たちの足跡と、毛や糞など、ユミルにとっての彼女たちからの『プレゼント』が残されていたのだった。
●廻る風車と大地の恵み
一晩中ゴリゴリと石臼を挽く音が鳴り響く夜が明けやってきた最後の日の朝。ラズリーが図面を元に修繕箇所を確認しながら手作りの部品で補強する中、神代は風車の中の居候のための新居作り。夜中に作っておいた、木の棒の上に備え付けられた小さな巣箱。藁が敷き詰められたそこへ居候のツバメの子どもたちをお引越し。ピュイピュイと泣き続ける子どもたちと心配そうな親鳥だったが、しばらくすると落ち着いた様子を見せ、皆を安心させた。
心配された羽は、太陽と月の描かれた布地を使って計3本の羽の修繕をすることができたのだった。羽の修繕中、ラズリーが手本を見せようとした折、急な風にバランスを崩して羽から落下し、覚醒したダイに受け止められるということが起こった以外にはトラブルもなく、昼過ぎには修繕作業は終了となった。林から戻ったユミルを出迎えようと納屋から出た老人が顔を上げたとき、目にした光景に思わず笑顔で涙したことは、ユミルだけしか知らない。
午後、本来ならば畑の収穫作業も終わり風車の修繕、それに予備の部品まで作った彼らは、もう十分に依頼をこなし帰路についても良いはずだった。それでも彼らは自分たちの意思で残り、老人のために小さな収穫祭を催したのだった。イヴァンとダイが夜通し挽いた小麦粉で、男共は水団のような団子汁を拵える。まさに農夫の男飯。一方女子2人は、老人と一緒に彼の妻のレシピを見ながら、懐かしく素朴なパンを捏ねる。パンを焼く間にはロイが脱穀前の麦穂と刈りとった後の麦穂を使い、あたかも枯れた稲穂が再び実ったかのような手品を見せ、皆を感心させた。
収穫祭には隣人たちも集まり、それぞれに手土産の地酒や手料理を持ち込み賑やかなものとなった。宴も終わり夢の跡。帰路に着く前、ラズリーが残りの修繕作業の方法を記したメモと予備の部品ともに、幾ばくかの金銭を老人へ渡す。不思議に思う老人へ「これで小麦を買い付けたいのですっ!」と、商売人としての一面を見せる。最初こそ困惑する老人だったが、しばらくすると家の奥へと姿を消し、戻ってきたとき、その手には1本のエールがあった。残念だが、小麦はまだ売れるほどの量が挽けてない。だが商売人を手ぶらで帰すわけにはいかん。そう話すと、笑顔でエールを差し出し、渡された金銭からほんの少しだけ手に取ったのだった。来年はちゃんと小麦を売るよという約束と一緒に。
村を後にするハンターたちの手には、老人から息子夫婦への手土産が。それは母の味。親から子へ、そしていつか生まれる、その次の世代へ。風車は廻る。大地の恵みを、思い出を未来へと繋げながら、いつまでも。いつまでも。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談の場所、なのですっ! ラズリー・クレエステル(ka1349) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/06/28 23:51:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/24 04:34:44 |