ゲスト
(ka0000)
【MV】チョコレートが食べたいんだもん
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/21 12:00
- 完成日
- 2015/03/01 00:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
クリムゾンウエストにも、バレンタインの足音が近づいてきています。
ハロウィンやクリスマスのようにリアルブルーからやってきた文化のひとつではありますが、その伝わり方はひとつではありませんでした。
チョコレートを贈る日、気持ちを伝える日、合同結婚式が頻繁に行われる時期、食品業界が活性化する時期……あげればきりがありません。
感情の絆、マテリアルリンクが強まり世の中のマテリアルが活性化すると言われることもありますが、少しばかり別の形……愛情を育む者達を羨み憎むための怪しげな集会が行われ、嫉妬の絆で結束を強めているという噂もあるようです。本当でしょうか?
崖上都市「ピースホライズン」は催し事に力を入れる土地。勿論今は、バレンタインの賑わいで都市中が彩られています。
その中の、ほんの一部だけでも……確かめに行ってみてはいかがでしょうか?
●
この男ハンター二人組について話せば、少しばかり長くなる。
……読み終わった後に、内容が無いよう、とかいうのは駄目だぞ☆
彼らの名は、武と健二。齢にして十九。リアルブルーからの転移者たちだ。
二人の関係は悪友、とでも言っておけば想像がつくだろう。
そんな彼らも男の端くれ。バレンタインがやってくればそわそわしてしまう。
けれど。おそらく神は残酷なのだろう。いくら祈ろうとも、彼らの思いは届かなかった。
下駄箱の中にチョコが入っていることも、机の中にチョコが入っていることも、ましてや呼び出されて渡されることもなかった。
母親以外の異性からもらったチョコと言えば、笑顔で渡される義理チョコのみ。
リアルブルーにおける二人の青春は、ほろ苦い、などというものではなかった。もうカカオ百パーセントのレベル。
そんな灰色の青春を生き、新たに大学生活を営んでいた彼らが、突如としてこの世界へと転移されたのが一年前。
転移の戸惑いの中、彼らはこの世界で覚醒者としての力を手に入れた。
そして彼らは悟った。
この力は自分たちがチョコを手に入れるために与えられたものなのだと(違います)。
作ってもらえないのなら、作らせればいい。
本命? そんなことは関係ない。思いがこもってなくともいい。その女の子が、自分たちのためだけに作ったチョコ。それだけで十分だ。
●
バレンタインでにぎわいを見せるピースホライズンの街。
そんな街の中を、露店の売り物などを見ながら歩く若い女性が一人。
おめかししている様子から察するに誰かと待ち合わせでもしているのだろう。
「あ、間に合わないかも」
左腕にまかれた時計を見た女性の歩調が早まる。
「ちっかみち~」
そう言いながら裏路地に姿を消す女性。知る人ぞ知る近道らしいのだが、いかんせん路地裏である。昼間といえど薄暗い。
しかし女性にとっては使い慣れた道なのか、軽い足取りで路地を進んでいく。
……その時だった。
「んっ……!」
背後からとっさに現れた男に口を押えられ動きを封じられる。
これでは身動きが取れないばかりか助けも呼べない。
「ちょっと付き合ってもらうぜ?」
その言葉を聞いたのを最後に女性の意識は遠くなっていった。
●
「放してよ」
昼間だというのにカーテンが閉められたその部屋には、覚醒した男ハンター二人と、机の脚と自分の脚をつながれた女性が一人。
「お願い。彼氏と約束があるの!」
「そいつは無理な相談だなぁ、お嬢さん。もうしばらく俺らに時間を割いてもらうぜ?」
ハンターの指さす先、女性の脚がつながれた机の上にはチョコレートを作る材料一式がそろっていた……。
●
「今回の依頼ですが……」
内容を説明しようとする受付嬢が、読み上げる前から頭を抱えている。
「最近、一人で歩いている女性をむりやり部屋に拉致して拘束。その後、覚醒したうえで女性を脅し、チョコレートを作らせているハンターの二人組がいるそうです。
その挙句、完成したチョコレートを大事そうに抱えて、女性に泣きながら土下座し、最大限の感謝を表して解放するようです」
説明を受けていたハンターの間に、思い思いのざわめきが立つ。
「幸いなことに、被害にあった女性にけがはありません。ですが、これ以上の横行はハンター本部としても見過ごせない、ということで取り締まりが決定されました。
被害にあった女性の証言から、犯行に使われる部屋がいつも一緒で、それがどこにあるのか、までわかっています。
参加される方はこちらからお願いします」
クリムゾンウエストにも、バレンタインの足音が近づいてきています。
ハロウィンやクリスマスのようにリアルブルーからやってきた文化のひとつではありますが、その伝わり方はひとつではありませんでした。
チョコレートを贈る日、気持ちを伝える日、合同結婚式が頻繁に行われる時期、食品業界が活性化する時期……あげればきりがありません。
感情の絆、マテリアルリンクが強まり世の中のマテリアルが活性化すると言われることもありますが、少しばかり別の形……愛情を育む者達を羨み憎むための怪しげな集会が行われ、嫉妬の絆で結束を強めているという噂もあるようです。本当でしょうか?
崖上都市「ピースホライズン」は催し事に力を入れる土地。勿論今は、バレンタインの賑わいで都市中が彩られています。
その中の、ほんの一部だけでも……確かめに行ってみてはいかがでしょうか?
●
この男ハンター二人組について話せば、少しばかり長くなる。
……読み終わった後に、内容が無いよう、とかいうのは駄目だぞ☆
彼らの名は、武と健二。齢にして十九。リアルブルーからの転移者たちだ。
二人の関係は悪友、とでも言っておけば想像がつくだろう。
そんな彼らも男の端くれ。バレンタインがやってくればそわそわしてしまう。
けれど。おそらく神は残酷なのだろう。いくら祈ろうとも、彼らの思いは届かなかった。
下駄箱の中にチョコが入っていることも、机の中にチョコが入っていることも、ましてや呼び出されて渡されることもなかった。
母親以外の異性からもらったチョコと言えば、笑顔で渡される義理チョコのみ。
リアルブルーにおける二人の青春は、ほろ苦い、などというものではなかった。もうカカオ百パーセントのレベル。
そんな灰色の青春を生き、新たに大学生活を営んでいた彼らが、突如としてこの世界へと転移されたのが一年前。
転移の戸惑いの中、彼らはこの世界で覚醒者としての力を手に入れた。
そして彼らは悟った。
この力は自分たちがチョコを手に入れるために与えられたものなのだと(違います)。
作ってもらえないのなら、作らせればいい。
本命? そんなことは関係ない。思いがこもってなくともいい。その女の子が、自分たちのためだけに作ったチョコ。それだけで十分だ。
●
バレンタインでにぎわいを見せるピースホライズンの街。
そんな街の中を、露店の売り物などを見ながら歩く若い女性が一人。
おめかししている様子から察するに誰かと待ち合わせでもしているのだろう。
「あ、間に合わないかも」
左腕にまかれた時計を見た女性の歩調が早まる。
「ちっかみち~」
そう言いながら裏路地に姿を消す女性。知る人ぞ知る近道らしいのだが、いかんせん路地裏である。昼間といえど薄暗い。
しかし女性にとっては使い慣れた道なのか、軽い足取りで路地を進んでいく。
……その時だった。
「んっ……!」
背後からとっさに現れた男に口を押えられ動きを封じられる。
これでは身動きが取れないばかりか助けも呼べない。
「ちょっと付き合ってもらうぜ?」
その言葉を聞いたのを最後に女性の意識は遠くなっていった。
●
「放してよ」
昼間だというのにカーテンが閉められたその部屋には、覚醒した男ハンター二人と、机の脚と自分の脚をつながれた女性が一人。
「お願い。彼氏と約束があるの!」
「そいつは無理な相談だなぁ、お嬢さん。もうしばらく俺らに時間を割いてもらうぜ?」
ハンターの指さす先、女性の脚がつながれた机の上にはチョコレートを作る材料一式がそろっていた……。
●
「今回の依頼ですが……」
内容を説明しようとする受付嬢が、読み上げる前から頭を抱えている。
「最近、一人で歩いている女性をむりやり部屋に拉致して拘束。その後、覚醒したうえで女性を脅し、チョコレートを作らせているハンターの二人組がいるそうです。
その挙句、完成したチョコレートを大事そうに抱えて、女性に泣きながら土下座し、最大限の感謝を表して解放するようです」
説明を受けていたハンターの間に、思い思いのざわめきが立つ。
「幸いなことに、被害にあった女性にけがはありません。ですが、これ以上の横行はハンター本部としても見過ごせない、ということで取り締まりが決定されました。
被害にあった女性の証言から、犯行に使われる部屋がいつも一緒で、それがどこにあるのか、までわかっています。
参加される方はこちらからお願いします」
リプレイ本文
●チョコはいかが?
件の家の前。そこに三人の女の子の姿があった。
「鬼百合くん、かわいいね」
「し、仕事のためなんでしゃあなしでさ……」
女の子用の衣装に身を包んだ鬼百合(ka3667)を和泉 鏡花(ka3671)がからかっている。
「さて、それでは手筈通り頼みましたよ」
「頑張ってくるのですよぉ」
待機組である天央 観智(ka0896)、春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)の二人はそう言い残して身をひそめている。
「それではいきますよ」
待機組の姿が玄関口から見えないことを確認して、クリスティーネ=L‐S(ka3679)がドアをノックする。
……こんこん。
……こんこん。
返答がない。
「お留守、でしょうか?」
家にいないということは、現在進行形で誰かが襲われているかもしれないということ。クリスティーネが心配そうな声でつぶやく。
……こんこん。
「んだよ、うるせぇなぁ!」
「っひゃあ」
唐突にあいたドア。それとほぼ同時の男ハンターの怒鳴り声。たまらず鏡花はかわいらしい悲鳴を上げてしまった。
「ああ? んあ!? んん?」
今まで寝ていたのであろうことが容易に想像できるぼさぼさの髪をした男ハンターはようやく今の事態を理解したらしい。
ドアを開けてみれば知らない女の子が三人。
「えっと、どういったご用件で?」
今更感が甚だしいが、体裁を整えた風に男ハンターが言葉を言いなおした。
「バレンタインを盛り上げる活動の一環として、お仕事で忙しい独り身の男性ハンターさんに手作りチョコのプレゼントをさせて頂いているのです」
「オレ……私たち、おにーさんたちに作ってあげたいんですよぅ」
「噂に聞いてて…。ここで貴方たちのためにチョコを作れるって」
それっぽいことを口々に言う三人。
これで騙されてもらえなければそもそもの計画が破たんしてしまう。
……しかしそんな心配は不要だった。
「え、まじ? ほんとに!? おい健二、ちょっと片づけ手伝え! あ、ちょっと待っててもらえるかな」
ドタバタと家の中に消えていく男ハンター。
それから待たされること三分。
「ささ、どうぞどうぞ」
さきほどまでとはうって変わって、しゃれた服に身を包んだ男ハンターが出てきた。いつの間にか髪型まで整えられている。
「おじゃまします」
鏡花を先頭に、家の中に入っていく三人。
「武、この子たち何なの?」
「チョコ作ってくれるんだってさ!」
後から出てきた健二に武が答える。それはどう考えても内容不足な応答。
「え、なに? 要するにそう言うこと? まじで?」
「そうそうまじまじ!」
しかしどうやら二人の意思疎通にはそれで十分だったようだ。
「ちょろすぎないでしょうかねぃ」
そんな男ハンターたちの様子を見て、明らかに飽きれた様子を示す鬼百合。
「勝手に盛り上がっちゃってごめんね。こっちについてきてもらえるかな」
三人は犯行現場と思しき部屋に通された。
●レッツクッキング
「三人とも、大丈夫ですかねぇ?」
窓の外にロープを張りながら、紫苑が問いかけると、
「きっとうまくやってくれますよ」
その問いに、突入のタイミングを待つ観智が答える。
「ひとまずはいきなり飛び出してきた時の対策くらいですかね」
「そん時はこれが役に立ちゃいいですねぃ」
三人が通された部屋にはすでにチョコレートの材料がそろっていた。
「これは好きに使ってくれていいからな」
「あ、材料は私たちのほうで用意してますから問題ないですよ」
紫苑が用意していたチョコレートの材料を取り出しながらクリスティーネが答える。
「そうかい。そんじゃいっちょ頼むわ」
それだけ言うと、男ハンターたちは部屋を後にした。
「少しばかり警戒が薄すぎませんでしょうか?」
「そうですねぃ」
「どういうことなのでしょうか?」
話に聞いていたような乱暴さが全く感じられない男ハンターたちに、三人は疑問を抱き始めていた。
「どちらにせよやることは変わりません」
「はじめましょうか」
持ってきた材料を改めて机の上に並べなおす。
作るのは、あまり時間をかけずに作れるトリュフチョコ。
チョコレートを溶かして丸めて、それにココアパウダーをまぶせば完成だ。
の、はずなのだが、鬼百合の動作はどうもぎこちない。
「なかなか難しいでさ……」
鏡花とクリスティーネの見様見真似で作っているのだが、いかんせん形が不恰好である。
「ここをこうするといいですよ」
横から鏡花が作り方を教えている様子はなんとも楽しそうだった。
「それにしても、ちょこれえとなんて自分で買えばいいんじゃねぇ、の?」
「気持ちなんてこれっぽっちもこもってないでしょうに」
「ただ食べたいだけなのではないでしょうか」
本当にチョコレートが食べたいだけでここまでのことをするだろうか。そんな考えが三人の中にはあった。
チョコレートを丸くするところまでやり終えたころ、男ハンターたちが戻ってきた。
しばらくは無言で三人の作業を眺めていたが、その沈黙は健二によって破られた。
「なぁ、どうしてチョコなんか作りに来てくれたんだ?」
「わ、私っ、あなたたちのファンなんです……! 初めて見かけたときからとってもかっこいいって思ってて……」
その質問に、頬を染めた鏡花が答える。あらかじめ用意しておいた台本通り読んでいるのだが、男ハンターたちに気づく気配はない。
「今まで遠くで眺めているだけだったんですけど、こうして出会えたわけですし。その……チョコを作らせてもらえませんか……?」
「あ、いや、ダメとかじゃなくて……。どうしてかなって思ってな。いやはや嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
赤くなりながらも言葉を紡ぐ鏡花を見て、それ以上追及する、否。それ以上疑う道理は男ハンターたちに無かった。
……無論、その台詞を恥ずかしがって赤くなっているのだが、男ハンターたちはそれに気づく由もなかった。
「チョコを作る、といえば、最近妙な噂を聞くのですがご存知でしょうか?」
「妙な噂?」
クリスティーネが話の流れをうまくつないで核心に迫っていこうとする。男ハンターたちも世間話程度に乗ってきた。わかってて知らないふりをしているのか、たんにわかってないだけなのかは判断しかねるが。
「女性を拐かして脅してチョコを作らせる事件があるらしいんです。もらえないからって強制的に作らせるなんて、なんとも悲しい事件ですよね。私が被害者だったら、と思うと……」
「わたしもそんな話を聞いたんでさ」
チョコをきれいな丸の形にできるようになった鬼百合も話に加わってきた。
「強制的に……ねぇ?」
「なんでも、監禁まがいのことまでしているとか。そんな状況で作らされたチョコをもらって何が嬉しいのでしょうか」
「……」
会話はそこで途切れ、しばらく無言の時間が続いた。
形を整えたチョコにココアパウダーをまぶしていき、とうとうトリュフチョコが完成した。
箱に詰めて、きれいな紙でラッピングをする。リボンを巻けばすてきなプレゼントの出来上がり。
「さ、完成です」
二個ずつ三つの小包が机の上に置かれた。
それは、男ハンターたちに渡すはずのチョコ。その中に、「しーちゃん」「鬼百合くん」と書かれた包みがあったことは、書いた本人以外知らなかった。
●演劇の終わり
「そろそろ、僕の出番ですよね」
家の外で待機していた観智が玄関に手をかける。
「それじゃあ、作戦通りに」
「外の守りは任せるのですよぉ」
紫苑と最後の確認をしてから観智は玄関から堂々と侵入し、人の気配のする部屋の前まで進む。
その扉を開ければ、板一枚を隔てた先で行われている演劇に幕を下ろすことになる。嘘をバラして現実を突きつける。
「おじゃましますよ」
「誰だ? お前」
観智が部屋に踏み入れた瞬間、男ハンターたちが殺気立つのがわかった。
女の子三人組を観智から守るように、男ハンターたちは三人と観智の間に立った。おそらく、関わりが無いものとでも思っているのだろう。
「あなた方がここのところのチョコ騒ぎの犯人なんですよね?」
「なんのことだ?」
「ほら、さっき話してたやつだろ。強制的につくらせてるとかなんとか」
「あくまでしらを切るつもりですか。被害にあった方の話から、あなた方が犯人だということはすでに分かっているのですが」
男ハンターたちに動揺が走った。それも、ファンの前で恥をかきたくないという類の。
「それで、俺たちが犯人だったらどうするって言うんだ?」
「言わなければわからないのでしょうか?」
「……頼む! 今だけは見逃してくれ! やっと本物をもらえたんだ。あとでどこへでも行くから! な、頼むよ!」
見事なまでの掌返しに、観智が一つため息をつく。
「『本物』ですか。……もういいですよ」
観智の言葉を合図にして、男ハンターたちの後ろにいた三人の女の子、もとい二人の女の子と一人の男の子が観智の背後へと移動する。
「おい、どういうことだよ」
「本当はお二人が犯人だということを知ってたんです」
ついさっきまで自分たちのファンだと思っていた女の子たち。結局それは嘘だったのだ。
「元々、リアルブルーでは、日頃お世話になっている人に、感謝の気持ちを込めた贈り物をする日というのがバレンタインだった。ですがそれをお菓子業界が陰謀で歪めて、チョコレートを渡す日という認識を植付けてしまった」
観智は一度そこで言葉を区切った。一呼吸おいて、続きを話し始める。
「そんな誤認に踊らされている……ピエロになっている事には、同情します。けれどそれでも、あなた方の行為は許されるものではありませんよ」
沈黙を貫く男ハンターたち。
が、突然身をひるがえしたかと思うと、自分たちの背後にあった窓ガラスを割りながら家の外に飛び出た。
そこに窓があることはもちろんわかっていた。けれど男ハンターたちのとっさの行動に、対応が一拍遅れてしまった。
しかし窓の外には紫苑が張ったロープが待っている。
ばたん! と、盛大に倒れる音が一つ。しかし音はそのひとつしかしない。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「健二……すまない!」
室内にいた四人に加えて、玄関前で待機していた紫苑が音を聞きつけて駆けつけると、走って逃げていく武と、見事にロープに引っかかって倒れている健二の姿があった。
いくら自分たちがハンターとはいえ相手もハンター。すでに走りだしていた武に追いつける見込みは薄かった。
倒れている健二に紫苑が近づいて縛り上げる。
「それが犯罪だということはわかっているんでしょう?」
「……」
「刑法225条、営利目的等略取及び誘拐罪。刑法220条……」
今回の一件で、RBにおける法律なら何に該当するのかをさらさらと唱えあげていく紫苑。
「RBでも、こんだけの法にひっかかる行為ですぜ。見つかって無事ですむたぁお前さんらも思ってないでしょう」
「……」
縛り上げられたままの健二は沈黙を貫き通す。RBの法律的に言えば黙秘だろうか。
「そもそも、法に触れているからという理由だけじゃありやせんぜ。女の子たちの細やかな思いを踏みにじったこと、その女の子たちの彼氏たちに心配をかけさせたこと。そういう心の部分もですよねぇ」
「それだけではありません。皆が皆ではないけれど……覚醒者には一般人よりも、身体能力に優れる人も相応にいて、それが自分達を助けてくれる。そして自分達に対して、危害を加える方向に働かない……と、信頼されているからこそ、今の状況が成り立っています」
「薄々気づいてはいたが、お前たちもハンターだったのか。ってことは依頼主はハンター本部ってとこか?」
観智が紫苑を加勢し始めると、さすがにだんまりは決め込めないと思ったのか、健二が諦めたように口を開き始めた。
「お前らはチョコもらったことあんのかよ? あっちの世界のやつもいるんだったらこの気持ちわかるだろ?」
「だから、その行為が正当化されるとでも言いたいんですか?」
「っ……」
観智の言葉に健二は答えあぐねている。自分たちでも悪いことをしている自覚があった証拠だ。
「はじめはなんでおにーさんたちがちょこれえとを欲しがるのかわからなかったんでさ。でも作ってるうちにちょっとだけわかったんでさ」
「突然さらわれたと思ったら知らない男の人にチョコを作れって言われる女の子、絶対にあなたたちに対する思いはないですよ!? 買ったチョコと同じですっ! すっかすかですっ」
鬼百合と鏡花、そしてクリスティーネ。初めて本当の意味で自分たちのためにチョコを作ってくれる人に出会えたと思った。嬉しかった。だからこそ鬼百合と鏡花の言わんとすることがわかる。
「きっとそうなんだろうな。やっとわかった」
「いや、前々から気づいてはいたんじゃねぇですかぃ? 作らせたものでは満足できなかったから繰り返した」
鋭い刃となって紫苑の言葉が健二の胸を刺す。
「……。そうだな……」
「自分たちの行いが、どれだけの人の心を傷つけたのかを知ってそれでもまだ……続けるおつもりなのですか?」
「いや、やめとくよ。君たちが、作ってくれるって言ってくれたときのうれしさを知っちゃったから」
「なら、もう二度としないと誓えますよね?」
クリスティーネが優しい口調で問いかける。
「当たり前だ。悪いが縄を解いてもらえないか? 謝りに回らなきゃならない」
「一緒に行ってやりますよ。腹ごしらえにチョコくったら謝りに回りましょうか」
「それこそ意味が無い。俺一人で行くさ。……きっと武も気づいてるだろうしな」
バレンタインデー。その甘い響きの裏には、数多の物語が隠されている。
チョコレートが欲しかった男たちが起こしたこの事件もきっと、そんな物語の一つだったのだろう。
件の家の前。そこに三人の女の子の姿があった。
「鬼百合くん、かわいいね」
「し、仕事のためなんでしゃあなしでさ……」
女の子用の衣装に身を包んだ鬼百合(ka3667)を和泉 鏡花(ka3671)がからかっている。
「さて、それでは手筈通り頼みましたよ」
「頑張ってくるのですよぉ」
待機組である天央 観智(ka0896)、春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)の二人はそう言い残して身をひそめている。
「それではいきますよ」
待機組の姿が玄関口から見えないことを確認して、クリスティーネ=L‐S(ka3679)がドアをノックする。
……こんこん。
……こんこん。
返答がない。
「お留守、でしょうか?」
家にいないということは、現在進行形で誰かが襲われているかもしれないということ。クリスティーネが心配そうな声でつぶやく。
……こんこん。
「んだよ、うるせぇなぁ!」
「っひゃあ」
唐突にあいたドア。それとほぼ同時の男ハンターの怒鳴り声。たまらず鏡花はかわいらしい悲鳴を上げてしまった。
「ああ? んあ!? んん?」
今まで寝ていたのであろうことが容易に想像できるぼさぼさの髪をした男ハンターはようやく今の事態を理解したらしい。
ドアを開けてみれば知らない女の子が三人。
「えっと、どういったご用件で?」
今更感が甚だしいが、体裁を整えた風に男ハンターが言葉を言いなおした。
「バレンタインを盛り上げる活動の一環として、お仕事で忙しい独り身の男性ハンターさんに手作りチョコのプレゼントをさせて頂いているのです」
「オレ……私たち、おにーさんたちに作ってあげたいんですよぅ」
「噂に聞いてて…。ここで貴方たちのためにチョコを作れるって」
それっぽいことを口々に言う三人。
これで騙されてもらえなければそもそもの計画が破たんしてしまう。
……しかしそんな心配は不要だった。
「え、まじ? ほんとに!? おい健二、ちょっと片づけ手伝え! あ、ちょっと待っててもらえるかな」
ドタバタと家の中に消えていく男ハンター。
それから待たされること三分。
「ささ、どうぞどうぞ」
さきほどまでとはうって変わって、しゃれた服に身を包んだ男ハンターが出てきた。いつの間にか髪型まで整えられている。
「おじゃまします」
鏡花を先頭に、家の中に入っていく三人。
「武、この子たち何なの?」
「チョコ作ってくれるんだってさ!」
後から出てきた健二に武が答える。それはどう考えても内容不足な応答。
「え、なに? 要するにそう言うこと? まじで?」
「そうそうまじまじ!」
しかしどうやら二人の意思疎通にはそれで十分だったようだ。
「ちょろすぎないでしょうかねぃ」
そんな男ハンターたちの様子を見て、明らかに飽きれた様子を示す鬼百合。
「勝手に盛り上がっちゃってごめんね。こっちについてきてもらえるかな」
三人は犯行現場と思しき部屋に通された。
●レッツクッキング
「三人とも、大丈夫ですかねぇ?」
窓の外にロープを張りながら、紫苑が問いかけると、
「きっとうまくやってくれますよ」
その問いに、突入のタイミングを待つ観智が答える。
「ひとまずはいきなり飛び出してきた時の対策くらいですかね」
「そん時はこれが役に立ちゃいいですねぃ」
三人が通された部屋にはすでにチョコレートの材料がそろっていた。
「これは好きに使ってくれていいからな」
「あ、材料は私たちのほうで用意してますから問題ないですよ」
紫苑が用意していたチョコレートの材料を取り出しながらクリスティーネが答える。
「そうかい。そんじゃいっちょ頼むわ」
それだけ言うと、男ハンターたちは部屋を後にした。
「少しばかり警戒が薄すぎませんでしょうか?」
「そうですねぃ」
「どういうことなのでしょうか?」
話に聞いていたような乱暴さが全く感じられない男ハンターたちに、三人は疑問を抱き始めていた。
「どちらにせよやることは変わりません」
「はじめましょうか」
持ってきた材料を改めて机の上に並べなおす。
作るのは、あまり時間をかけずに作れるトリュフチョコ。
チョコレートを溶かして丸めて、それにココアパウダーをまぶせば完成だ。
の、はずなのだが、鬼百合の動作はどうもぎこちない。
「なかなか難しいでさ……」
鏡花とクリスティーネの見様見真似で作っているのだが、いかんせん形が不恰好である。
「ここをこうするといいですよ」
横から鏡花が作り方を教えている様子はなんとも楽しそうだった。
「それにしても、ちょこれえとなんて自分で買えばいいんじゃねぇ、の?」
「気持ちなんてこれっぽっちもこもってないでしょうに」
「ただ食べたいだけなのではないでしょうか」
本当にチョコレートが食べたいだけでここまでのことをするだろうか。そんな考えが三人の中にはあった。
チョコレートを丸くするところまでやり終えたころ、男ハンターたちが戻ってきた。
しばらくは無言で三人の作業を眺めていたが、その沈黙は健二によって破られた。
「なぁ、どうしてチョコなんか作りに来てくれたんだ?」
「わ、私っ、あなたたちのファンなんです……! 初めて見かけたときからとってもかっこいいって思ってて……」
その質問に、頬を染めた鏡花が答える。あらかじめ用意しておいた台本通り読んでいるのだが、男ハンターたちに気づく気配はない。
「今まで遠くで眺めているだけだったんですけど、こうして出会えたわけですし。その……チョコを作らせてもらえませんか……?」
「あ、いや、ダメとかじゃなくて……。どうしてかなって思ってな。いやはや嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
赤くなりながらも言葉を紡ぐ鏡花を見て、それ以上追及する、否。それ以上疑う道理は男ハンターたちに無かった。
……無論、その台詞を恥ずかしがって赤くなっているのだが、男ハンターたちはそれに気づく由もなかった。
「チョコを作る、といえば、最近妙な噂を聞くのですがご存知でしょうか?」
「妙な噂?」
クリスティーネが話の流れをうまくつないで核心に迫っていこうとする。男ハンターたちも世間話程度に乗ってきた。わかってて知らないふりをしているのか、たんにわかってないだけなのかは判断しかねるが。
「女性を拐かして脅してチョコを作らせる事件があるらしいんです。もらえないからって強制的に作らせるなんて、なんとも悲しい事件ですよね。私が被害者だったら、と思うと……」
「わたしもそんな話を聞いたんでさ」
チョコをきれいな丸の形にできるようになった鬼百合も話に加わってきた。
「強制的に……ねぇ?」
「なんでも、監禁まがいのことまでしているとか。そんな状況で作らされたチョコをもらって何が嬉しいのでしょうか」
「……」
会話はそこで途切れ、しばらく無言の時間が続いた。
形を整えたチョコにココアパウダーをまぶしていき、とうとうトリュフチョコが完成した。
箱に詰めて、きれいな紙でラッピングをする。リボンを巻けばすてきなプレゼントの出来上がり。
「さ、完成です」
二個ずつ三つの小包が机の上に置かれた。
それは、男ハンターたちに渡すはずのチョコ。その中に、「しーちゃん」「鬼百合くん」と書かれた包みがあったことは、書いた本人以外知らなかった。
●演劇の終わり
「そろそろ、僕の出番ですよね」
家の外で待機していた観智が玄関に手をかける。
「それじゃあ、作戦通りに」
「外の守りは任せるのですよぉ」
紫苑と最後の確認をしてから観智は玄関から堂々と侵入し、人の気配のする部屋の前まで進む。
その扉を開ければ、板一枚を隔てた先で行われている演劇に幕を下ろすことになる。嘘をバラして現実を突きつける。
「おじゃましますよ」
「誰だ? お前」
観智が部屋に踏み入れた瞬間、男ハンターたちが殺気立つのがわかった。
女の子三人組を観智から守るように、男ハンターたちは三人と観智の間に立った。おそらく、関わりが無いものとでも思っているのだろう。
「あなた方がここのところのチョコ騒ぎの犯人なんですよね?」
「なんのことだ?」
「ほら、さっき話してたやつだろ。強制的につくらせてるとかなんとか」
「あくまでしらを切るつもりですか。被害にあった方の話から、あなた方が犯人だということはすでに分かっているのですが」
男ハンターたちに動揺が走った。それも、ファンの前で恥をかきたくないという類の。
「それで、俺たちが犯人だったらどうするって言うんだ?」
「言わなければわからないのでしょうか?」
「……頼む! 今だけは見逃してくれ! やっと本物をもらえたんだ。あとでどこへでも行くから! な、頼むよ!」
見事なまでの掌返しに、観智が一つため息をつく。
「『本物』ですか。……もういいですよ」
観智の言葉を合図にして、男ハンターたちの後ろにいた三人の女の子、もとい二人の女の子と一人の男の子が観智の背後へと移動する。
「おい、どういうことだよ」
「本当はお二人が犯人だということを知ってたんです」
ついさっきまで自分たちのファンだと思っていた女の子たち。結局それは嘘だったのだ。
「元々、リアルブルーでは、日頃お世話になっている人に、感謝の気持ちを込めた贈り物をする日というのがバレンタインだった。ですがそれをお菓子業界が陰謀で歪めて、チョコレートを渡す日という認識を植付けてしまった」
観智は一度そこで言葉を区切った。一呼吸おいて、続きを話し始める。
「そんな誤認に踊らされている……ピエロになっている事には、同情します。けれどそれでも、あなた方の行為は許されるものではありませんよ」
沈黙を貫く男ハンターたち。
が、突然身をひるがえしたかと思うと、自分たちの背後にあった窓ガラスを割りながら家の外に飛び出た。
そこに窓があることはもちろんわかっていた。けれど男ハンターたちのとっさの行動に、対応が一拍遅れてしまった。
しかし窓の外には紫苑が張ったロープが待っている。
ばたん! と、盛大に倒れる音が一つ。しかし音はそのひとつしかしない。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「健二……すまない!」
室内にいた四人に加えて、玄関前で待機していた紫苑が音を聞きつけて駆けつけると、走って逃げていく武と、見事にロープに引っかかって倒れている健二の姿があった。
いくら自分たちがハンターとはいえ相手もハンター。すでに走りだしていた武に追いつける見込みは薄かった。
倒れている健二に紫苑が近づいて縛り上げる。
「それが犯罪だということはわかっているんでしょう?」
「……」
「刑法225条、営利目的等略取及び誘拐罪。刑法220条……」
今回の一件で、RBにおける法律なら何に該当するのかをさらさらと唱えあげていく紫苑。
「RBでも、こんだけの法にひっかかる行為ですぜ。見つかって無事ですむたぁお前さんらも思ってないでしょう」
「……」
縛り上げられたままの健二は沈黙を貫き通す。RBの法律的に言えば黙秘だろうか。
「そもそも、法に触れているからという理由だけじゃありやせんぜ。女の子たちの細やかな思いを踏みにじったこと、その女の子たちの彼氏たちに心配をかけさせたこと。そういう心の部分もですよねぇ」
「それだけではありません。皆が皆ではないけれど……覚醒者には一般人よりも、身体能力に優れる人も相応にいて、それが自分達を助けてくれる。そして自分達に対して、危害を加える方向に働かない……と、信頼されているからこそ、今の状況が成り立っています」
「薄々気づいてはいたが、お前たちもハンターだったのか。ってことは依頼主はハンター本部ってとこか?」
観智が紫苑を加勢し始めると、さすがにだんまりは決め込めないと思ったのか、健二が諦めたように口を開き始めた。
「お前らはチョコもらったことあんのかよ? あっちの世界のやつもいるんだったらこの気持ちわかるだろ?」
「だから、その行為が正当化されるとでも言いたいんですか?」
「っ……」
観智の言葉に健二は答えあぐねている。自分たちでも悪いことをしている自覚があった証拠だ。
「はじめはなんでおにーさんたちがちょこれえとを欲しがるのかわからなかったんでさ。でも作ってるうちにちょっとだけわかったんでさ」
「突然さらわれたと思ったら知らない男の人にチョコを作れって言われる女の子、絶対にあなたたちに対する思いはないですよ!? 買ったチョコと同じですっ! すっかすかですっ」
鬼百合と鏡花、そしてクリスティーネ。初めて本当の意味で自分たちのためにチョコを作ってくれる人に出会えたと思った。嬉しかった。だからこそ鬼百合と鏡花の言わんとすることがわかる。
「きっとそうなんだろうな。やっとわかった」
「いや、前々から気づいてはいたんじゃねぇですかぃ? 作らせたものでは満足できなかったから繰り返した」
鋭い刃となって紫苑の言葉が健二の胸を刺す。
「……。そうだな……」
「自分たちの行いが、どれだけの人の心を傷つけたのかを知ってそれでもまだ……続けるおつもりなのですか?」
「いや、やめとくよ。君たちが、作ってくれるって言ってくれたときのうれしさを知っちゃったから」
「なら、もう二度としないと誓えますよね?」
クリスティーネが優しい口調で問いかける。
「当たり前だ。悪いが縄を解いてもらえないか? 謝りに回らなきゃならない」
「一緒に行ってやりますよ。腹ごしらえにチョコくったら謝りに回りましょうか」
「それこそ意味が無い。俺一人で行くさ。……きっと武も気づいてるだろうしな」
バレンタインデー。その甘い響きの裏には、数多の物語が隠されている。
チョコレートが欲しかった男たちが起こしたこの事件もきっと、そんな物語の一つだったのだろう。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 任侠姐さん
春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓です クリスティーネ=L‐S(ka3679) 人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/21 00:48:30 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/20 14:40:41 |