ゲスト
(ka0000)
【不動】ブリとワカメとスーパーロボット
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/21 09:00
- 完成日
- 2015/02/28 22:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「魔導型CAM……小型とは言え、魔導アーマー用のエンジンを六つも搭載させるつもり?」
「ええ。CAMに搭載されているマテリアルエンジンの燃料消費を抑える為ですから、仕方ありません」
錬魔院が保持する機導兵器用ハンガーでナサニエル・カロッサとヤン・ビットマンは肩を並べていた。
ナサニエルはワルプルギス錬魔院の院長。そしてヤンは機導兵器開発室の室長というポジションであり、要は二人ともこの計画の責任者である。
魔導型CAMの試作機は既に組み上がっている。腕部分、足部分だけにバラしたCAMに魔導エンジンを接続し駆動させる実験は錬魔院の中だけで終了している。
「後は実際に組み立てた機体を動かして見るだけです。まあ、ほぼ動作は安定していますので、実験結果を待たずして現行機を魔導型に改造する予定ですねぇ」
「贅沢ねぇ。この改造処理はデュミナスだけじゃなくて、ドミニオンにも適応出来るんでしょ?」
「ええ。別にそう難しくありませんよ。クラーレ・クラーラにダメにされた機体も少なくありませんが、残りの機体を魔導型に改造出来れば状況は盛り返せるんじゃないでしょうか」
玉のような形状のエンジンを埋め込まれた魔導型の試作機はハンガーに四肢を分解されたまま宙吊りになっている。
主機であるマテリアルエンジンは胴体部分にあるが、そこから物理的に切断された手足も魔導エンジンの力で動いているのが見える。主機と接続すれば、このぎこちなさも解決するだろう。
「ところであなた……さっきから何やってるの?」
怪訝な表情を浮かべるヤン。視線の先ではナサニエルがずーっと携帯ゲーム機を無表情に操作していた。
「リアルブルーから持ち込まれたゲーム機ですよぉ」
「見ればわかるわよ。そうじゃなくて、なんで今ゲームしてるのかって話よ」
「私にしてみれば、ヤンさんはムキムキのおじさんなのになんでオカマ口調なのかの方が気になりますけど」
「ほっとけ!」
「これはブリジッタから借りた物です。彼女が私の部屋に勝手に置いてったんです。新型魔導アーマーの資料と一緒にね」
ブリジッタ・ビットマンというのは、ヤンの養子でもある研究者の少女の名だ。
先のCAM実験関連の裏で、魔導アーマー研究者たちが起こした幾つかの騒動の中で“活躍”した少女であり、頭脳は明晰だが色々な部分がとても残念だった。
「思い出した! あの子をリーゼちゃんの所にけしかけたの、あんたの仕業でしょう?」
「ええ、まあ。“アーマーユニットプロジェクト”と言うそうです。新型魔導アーマープランの一つですよ」
ブリジッタはこれまでの騒動の中でハンターと触れ合い、彼らから多くの影響を受けてきた。
特に、落ち着いた頃に思い出したように始めた携帯ゲームが大ヒット。リアルブルーのマンガ、アニメ、ゲームにドハマりしてしまった。
「リアルブルーには変身ヒーローというか……アレだそうです。バイクがこう、機械鎧になるそうですよ。まあ、空想上の存在だそうですが」
「リーゼちゃんがパワーローダー……障害者や負傷兵の為のアシスト装置の開発をしているって、いつから知ってたの?」
「錬金術士組合は錬金術を秘匿せず、その成果物を公に還元すべきと主張しています。以前論文だけふらっと立ち読みしました」
「それを兵器利用しようなんて、あの子絶対認めないわよ」
「でもブリジッタを無碍に出来ませんよ。リーゼはそういう人です。そしてヒントさえあれば、あの子は完成形に漕ぎ着ける」
溜息を零すヤン。ナサニエルはゲームの電源を落とし、にっこりと微笑む。
「試作機の性能を向上させた量産型魔導アーマーは既に一定数を生産しています」
「ほんと手際いいわね。というか、あんなポンコツの状態から一気に実用段階に持っていくとは恐れいったわ」
「私は天才ですし、天才である以外に価値のない人間ですからねぇ。それくらいはしますよ」
四本足で歩き回る、歩兵の盾としての戦車。量産型魔導アーマーは非覚醒者でも操れる兵器として完成を目指している。
だが同時にブリジッタはそれ以外の新しい形の魔導アーマー開発にも着手していた。その一つがアーマーユニットプロジェクトであり……。
「“サクラプロジェクト”というらしいですよ」
ブリジッタの企画書を取り出し、その中に描かれているロボットのイラストをヤンに差し出す。リアルブルーのゲームに登場するマシンだ。
「魔導型CAM作りついでに色々調べた結果、こっちの世界でも再現できそうな技術に目処はついています」
「それでこれを作ろうってわけ?」
「勿論すぐには無理ですけどね。このロボットはマスタースレイヴ方式という操縦方法を採用しているそうです。先ずはそのマスタースレイヴを実現させます」
「ところで、サクラってなんなの?」
「さあ? 私もよくわかりませんが……なんなんでしょうか?」
男二人で顔を見合わせる。サクラという言葉が何を意味しているのか、それはおそらくブリジッタにもよくわかっていないのだ。
「ま、とりあえずさくっとその辺ひと通り作ってハンターに実験を依頼します」
「なんでハンターなの?」
「覚醒者でなければ扱えない機体になる可能性がありますから。クリケットには別件を頼んでいますし」
「クリケットって……この間“カスパール”を使わせて殺そうとした男の子?」
「殺そうとしてませんよぉ。彼が自分からやりたいって言い出したんですぅ。それで、なんか錬魔院で働きたいってまた自分から志願したのでぇ」
「便利に使ってると……。彼、元CAMパイロットでしょ。CAMに乗せてあげなさいよ……」
「いやぁ。なんというか、彼を酷使するのが面白くて」
楽しげに笑うナサニエルにヤンは何度目かわからない溜息を零した。
「大まかな下準備が終わり次第、調整を加えてカールスラーエに移動。魔導型CAMと新型アーマーのお披露目にと行きましょうか」
腕を組み、ヤンは思案する。
今、錬魔院で製造されている幾つかの試作兵器達。それは勿論気になるが、ヤンには他にも気がかりな事があった。
「あんた、ブリジッタのプランをどんどん採用してるけど……まさかロリコンじゃないわよね?」
「はぃ?」
「ブリジッタはあんたに妙に懐いてるし……」
「そうですかぁ? どちらかというとリーゼに懐いているんじゃないですかぁ?」
至極どうでも良さそうに耳をほじりながら呆れたように答えるナサニエル。。
「言っておくけど、研究にかこつけてあの子に手を出したら……」
「なぁんでそうなるんですかぁ。私、女性に興味ないですよぉ?」
「まさか男に……!?」
「も、興味ないですぅ。私が興味があるのは、私とまだ私の知らない事だけですから」
もう話すことは何もないと言わんばかりにゲーム機の電源をつけ、歩きながらプレイを始めるナサニエル。
ヤンはその背中が見えなくなるまで、突き刺すような疑心の眼差しを向け続けていた。
「ええ。CAMに搭載されているマテリアルエンジンの燃料消費を抑える為ですから、仕方ありません」
錬魔院が保持する機導兵器用ハンガーでナサニエル・カロッサとヤン・ビットマンは肩を並べていた。
ナサニエルはワルプルギス錬魔院の院長。そしてヤンは機導兵器開発室の室長というポジションであり、要は二人ともこの計画の責任者である。
魔導型CAMの試作機は既に組み上がっている。腕部分、足部分だけにバラしたCAMに魔導エンジンを接続し駆動させる実験は錬魔院の中だけで終了している。
「後は実際に組み立てた機体を動かして見るだけです。まあ、ほぼ動作は安定していますので、実験結果を待たずして現行機を魔導型に改造する予定ですねぇ」
「贅沢ねぇ。この改造処理はデュミナスだけじゃなくて、ドミニオンにも適応出来るんでしょ?」
「ええ。別にそう難しくありませんよ。クラーレ・クラーラにダメにされた機体も少なくありませんが、残りの機体を魔導型に改造出来れば状況は盛り返せるんじゃないでしょうか」
玉のような形状のエンジンを埋め込まれた魔導型の試作機はハンガーに四肢を分解されたまま宙吊りになっている。
主機であるマテリアルエンジンは胴体部分にあるが、そこから物理的に切断された手足も魔導エンジンの力で動いているのが見える。主機と接続すれば、このぎこちなさも解決するだろう。
「ところであなた……さっきから何やってるの?」
怪訝な表情を浮かべるヤン。視線の先ではナサニエルがずーっと携帯ゲーム機を無表情に操作していた。
「リアルブルーから持ち込まれたゲーム機ですよぉ」
「見ればわかるわよ。そうじゃなくて、なんで今ゲームしてるのかって話よ」
「私にしてみれば、ヤンさんはムキムキのおじさんなのになんでオカマ口調なのかの方が気になりますけど」
「ほっとけ!」
「これはブリジッタから借りた物です。彼女が私の部屋に勝手に置いてったんです。新型魔導アーマーの資料と一緒にね」
ブリジッタ・ビットマンというのは、ヤンの養子でもある研究者の少女の名だ。
先のCAM実験関連の裏で、魔導アーマー研究者たちが起こした幾つかの騒動の中で“活躍”した少女であり、頭脳は明晰だが色々な部分がとても残念だった。
「思い出した! あの子をリーゼちゃんの所にけしかけたの、あんたの仕業でしょう?」
「ええ、まあ。“アーマーユニットプロジェクト”と言うそうです。新型魔導アーマープランの一つですよ」
ブリジッタはこれまでの騒動の中でハンターと触れ合い、彼らから多くの影響を受けてきた。
特に、落ち着いた頃に思い出したように始めた携帯ゲームが大ヒット。リアルブルーのマンガ、アニメ、ゲームにドハマりしてしまった。
「リアルブルーには変身ヒーローというか……アレだそうです。バイクがこう、機械鎧になるそうですよ。まあ、空想上の存在だそうですが」
「リーゼちゃんがパワーローダー……障害者や負傷兵の為のアシスト装置の開発をしているって、いつから知ってたの?」
「錬金術士組合は錬金術を秘匿せず、その成果物を公に還元すべきと主張しています。以前論文だけふらっと立ち読みしました」
「それを兵器利用しようなんて、あの子絶対認めないわよ」
「でもブリジッタを無碍に出来ませんよ。リーゼはそういう人です。そしてヒントさえあれば、あの子は完成形に漕ぎ着ける」
溜息を零すヤン。ナサニエルはゲームの電源を落とし、にっこりと微笑む。
「試作機の性能を向上させた量産型魔導アーマーは既に一定数を生産しています」
「ほんと手際いいわね。というか、あんなポンコツの状態から一気に実用段階に持っていくとは恐れいったわ」
「私は天才ですし、天才である以外に価値のない人間ですからねぇ。それくらいはしますよ」
四本足で歩き回る、歩兵の盾としての戦車。量産型魔導アーマーは非覚醒者でも操れる兵器として完成を目指している。
だが同時にブリジッタはそれ以外の新しい形の魔導アーマー開発にも着手していた。その一つがアーマーユニットプロジェクトであり……。
「“サクラプロジェクト”というらしいですよ」
ブリジッタの企画書を取り出し、その中に描かれているロボットのイラストをヤンに差し出す。リアルブルーのゲームに登場するマシンだ。
「魔導型CAM作りついでに色々調べた結果、こっちの世界でも再現できそうな技術に目処はついています」
「それでこれを作ろうってわけ?」
「勿論すぐには無理ですけどね。このロボットはマスタースレイヴ方式という操縦方法を採用しているそうです。先ずはそのマスタースレイヴを実現させます」
「ところで、サクラってなんなの?」
「さあ? 私もよくわかりませんが……なんなんでしょうか?」
男二人で顔を見合わせる。サクラという言葉が何を意味しているのか、それはおそらくブリジッタにもよくわかっていないのだ。
「ま、とりあえずさくっとその辺ひと通り作ってハンターに実験を依頼します」
「なんでハンターなの?」
「覚醒者でなければ扱えない機体になる可能性がありますから。クリケットには別件を頼んでいますし」
「クリケットって……この間“カスパール”を使わせて殺そうとした男の子?」
「殺そうとしてませんよぉ。彼が自分からやりたいって言い出したんですぅ。それで、なんか錬魔院で働きたいってまた自分から志願したのでぇ」
「便利に使ってると……。彼、元CAMパイロットでしょ。CAMに乗せてあげなさいよ……」
「いやぁ。なんというか、彼を酷使するのが面白くて」
楽しげに笑うナサニエルにヤンは何度目かわからない溜息を零した。
「大まかな下準備が終わり次第、調整を加えてカールスラーエに移動。魔導型CAMと新型アーマーのお披露目にと行きましょうか」
腕を組み、ヤンは思案する。
今、錬魔院で製造されている幾つかの試作兵器達。それは勿論気になるが、ヤンには他にも気がかりな事があった。
「あんた、ブリジッタのプランをどんどん採用してるけど……まさかロリコンじゃないわよね?」
「はぃ?」
「ブリジッタはあんたに妙に懐いてるし……」
「そうですかぁ? どちらかというとリーゼに懐いているんじゃないですかぁ?」
至極どうでも良さそうに耳をほじりながら呆れたように答えるナサニエル。。
「言っておくけど、研究にかこつけてあの子に手を出したら……」
「なぁんでそうなるんですかぁ。私、女性に興味ないですよぉ?」
「まさか男に……!?」
「も、興味ないですぅ。私が興味があるのは、私とまだ私の知らない事だけですから」
もう話すことは何もないと言わんばかりにゲーム機の電源をつけ、歩きながらプレイを始めるナサニエル。
ヤンはその背中が見えなくなるまで、突き刺すような疑心の眼差しを向け続けていた。
リプレイ本文
「随分と姿が変わりましたが……久しぶり、と言えばいいのでしょうか」
錬魔院が保有するハンガーには魔導CAMが宙吊りにされている。セレン・コウヅキ(ka0153)は懐かしむように目を細め見上げる。
「CAMに見慣れないもんが付いてるが、アレが魔導エンジンってやつか」
「こっちの技術屋も面白い物作るんだな」
ガルシア・ペレイロ(ka0213)の言葉にミカ・コバライネン(ka0340)も魔導エンジンに注目。
今は発光していないが、各部に装備された球体が魔導エンジンだという。塗装や一部パーツのデザインも若干変わっているようだ。
「随分とヒロイックな外観になった様で。……いや、前からか」
「CAMに以前から触れていた人達が集まってくれて助かりますねぇ」
そんなハンター達に笑いかけるナサニエル。守原 由有(ka2577)は腕を組み。
「よろしくね、院長。それにしても凄いワカメね」
「それは今関係ないのでは」
「また面白そうな事してるね、ナサニエルさん」
目を向けた先から南條 真水(ka2377)が歩み寄る。
「あなたでしたか。久しぶりですね」
「今日は色々と楽しませてもらうよ」
向き合うそんな二人の間にひょっこり割り込んだのはファティマ・シュミット(ka0298)だ。
「ところで、わたしクリムゾンウェスト出の者なんですが、魔導型CAMにも乗せて貰えるんです?」
「別に構いませんよぉ。オートパイロットもあるし、不安なら経験者と同乗しても良いでしょう」
「まずはバランスを見ないと何とも言えないからな。俺達が乗ってみて、問題なさそうなら一緒にどうだ? ……まあ、大分狭いが」
ガルシアの言葉に嬉しそうに頷くファティマ。真水も同じように微笑み。
「良かった。南条さんも素人だからね。初見お断りじゃ触れない」
「CAMの操縦系は非常に優秀です。自動操縦や操縦補佐が充実しているし、オートバランサがでたらめに秀逸です」
「ま、そうでなけりゃ二足歩行なんて不可能だがね」
肩を竦めるミカ。雪村 練(ka3808)は布団にくるまりオキクルミ(ka1947)と共に周囲を眺めていた。
「おおー、CAMってバラすとこんな感じなんだね。間近で見るのは初めてだよ」
「整備士でもなきゃそうだろうなー。これモーター部分どうなってんだ?」
置かれている完全に組み上がった形のCAMが一機、そしてパーツごとに分離されたCAMが一機。もう一機実験用に存在しているが、今この場には置いていない。
「さて、そろそろ始めましょう。今日はやる事いっぱいだもの、ちゃちゃっと行かないと!」
手を叩く由有の声にそれぞれ動き出す。そう、今日は色々と押しているのだ。
まずCAMに乗り込んだのはガルシアだ。実際にCAMを起動し、ハンガー内を歩かせてみる。
気になっていたウェイトバランスだが、意外と殆ど気にならない。尤も背面の大型エンジン二機は別。全くこれまで存在しなかった物で、やはり違和感はある。
「とは言え勝手に動くのか。スタビライザーみたいなモンかね」
歩くCAMを眺めるハンター達。セレンはやはり魔導エンジンを気にしていた。
「問題クリアの為とは言え、狙いやすそうなあれは弱点にならないのですか?」
「弱点になります。とは言え、そこまで脆くもありませんが」
エンジンはあの光っている球体に内側に入っている。発光している球体そのものは魔導シェルという新素材を使った言わば装甲なのだという。
「それと、衝撃で爆発する事はありません。任意で自爆させるんですよ」
「気になるんだけど戦闘中に一撃貰ってエンジンが一機停止したりするとどうなるのかな?」
「本来は主機だけで動く物ですから、機能停止はしません。化石燃料消費が増加するので、可動時間は低減しますが」
オキクルミの質問にスラスラ答えるナサニエル。練はぼんやりとCAMを見上げ。
「化石燃料って複合的マテリアル燃料だよな。こっちの世界に石油がねぇのは、マテリアルを消費するのと関係あるのかもなー」
「素晴らしい着眼点ですね。私も同じ考えです」
クリムゾンウェストはマテリアルを消費する社会だが、リアルブルーはマテリアルという概念を知らない社会だった。
「異世界人であるあなた達はこちらの世界の人間よりマテリアルを多く保有している。それも同じ理屈なのかもしれません」
「でもそれは、消費してきたモノの違いでしかない」
ミカは片手で空を握るように目を細め。
「こちらの世界の空は凄く綺麗なんだ。水も空気もうまいしな。リアルブルーじゃこうはいかない」
二つの世界は異なる文明を持ち、しかし同じ様に何かを汚し、壊しながら命を繋げてきたのだ。
「私もリアルブルーに行ってみたい物です。向こうでなら実現可能な技術も沢山あるでしょうねぇ」
そう笑うナサニエルからは純粋さしか感じ取れない。ミカは片目を瞑り。
「……院長が院長で良かったな」
「と言うと?」
「ああいう人はむしろ権限や環境を与えた方がいいんだよ」
首を傾げるセレン。そこへガルシアが戻ってくる。
「空いたぞ。次はどいつだ?」
「動作に問題は?」
「経験者ならないだろうな。ちとバランサーに癖があるが」
「はい! わたし乗りたいです!」
「セレンさんと一緒に行ってきたら? 一人じゃいざって時危ないわよ」
由有の言葉に従い、セレンとシュミットが同乗し歩いてみる事になったらしい。
なんだかんだでセレンもCAMに乗るのが楽しみだった。二人を乗せたCAMはゆっくりと立ち上がる。
「それにしても魔導型CAM、思った以上ね」
「南条さんも乗ってみたいのだけれど、いいかな?」
「それじゃあ次はあたしと一緒に乗ってみる?」
由有と真水の話を横目に、ミカはふと尋ねる。
「そういえば、魔導CAMでマテリアルエンジン全開にする試験は実施済みで?」
ナサニエルは無表情にキリキリと振り返り。
「まだ」
とだけ言った。だんだんミカの顔色が悪くなる。
「それ、今ここでやっても……?」
「かせきねんりょうがあまりなくて」
「何故棒読みで?」
「おい……大丈夫なんだろうな……」
ガルシアまで不安になってきた。左右から詰め寄られたナサニエルは「後で許可が出たらやっとく」と一応約束だけはしてくれた。
「南條さん、大丈夫?」
「うぅ……逆に何故君達は大丈夫なんだい」
CAMに搭乗した真水はぐったりしていた。二足歩行兵器の乗り物酔いと言うのはかなり独特なものだ。
「あれで戦闘中は飛んだり跳ねたりするんだろう? 人の乗り物とは思えないよ……」
「ファティマさんは大丈夫でしたか?」
「わたしですか? わたしはほら、常に飛んだり跳ねたりしてるところありますからっ!」
両手でサムズアップするファティマ。セレンは冷や汗を流しつつ特に何も言わなかった。
「魔導型には目立った問題点もないようだな」
「魔導エンジンとマテリアルエンジンも上手く噛み合ってるみたいね」
「元々心配はしてなかったがね。……元々は」
ガルシアと由有にミカが続き、腕を組んだままナサニエルを見る。もうワカメは次の作業に移っているフリをして無視だ。
「これがサクラ型の試作機?」
「ええ。まだ動作試験用で組み上げてもいませんが」
金属フレーム剥き出しの言わば巨大な人間の手の骨のような物が胴体だけの量産型魔導アーマーに取り付けられている。
そこからケーブルで繋がれた装置はグローブのような形をしており、肩から取り付ける仕組みになっていた。
先ずはオキクルミが試すという事で、左右の腕にスレイブ装置を取り付ける。危ないので皆下がろう。
「おぉ~! 手の動きに連動してる! よーし、アンサーシステムスタンバイ! なんちゃって~」
「なんです、それは?」
「リアルブルーのアニメでやってたんだよ。ロボ起動時は掛け声が必要なんだよね」
手を握ったり開いたりし、オキクルミが拳を繰り出すと魔導アーマーの腕も連動し拳を繰り出す。
「……なあ。これさ、もうこれだけでいいんじゃねぇの?」
練の言葉に首を傾げるナサニエル。
「あの腕だけ魔導で浮かせて操作するような武具はできねーか?」
「ああ、それは面白いな。魔導型は部位ごとに動力を積んで動いているんだったな。なら可能だと思うが?」
「浮かせるのは難しいですが、まあ出来ると思いますよぉ」
間に入ったミカの問いに頷くナサニエル。オキクルミはロボと一緒に手を振り。
「これどのくらい器用な事出来るの~? でっかすぎてボクの想定してたの出来ないんだけど~」
「槍でも振ってみますぅ?」
鉄パイプを持ったオキクルミと同じく機会腕はパルスグレイブを動かす。手の中でくるりと回し、構える動きすら可能だ。
「すげえなおい。どうなってんだありゃ」
「覚醒者による機導の直接操作だろ? こっちの世界ならではだな」
そんなガルシアと練のやりとりの直後、突然オキクルミがふらつきはじめ。
「はりゃ? なんら急に力が……」
口の端から涎を垂らし、虚ろな目でうつ伏せに倒れこんだ。由有は慌てて駆け寄り。
「ちょっと、大丈夫!?」
「あ。すいません、それ覚醒者の生命力を消費して動くので……」
全員ナサニエルに目を向け、慌ててそれぞれオキクルミの救助へ向かった。
「皆大袈裟だな~。ボクは大丈夫だよ」
ひらひら手を振りつつ額に濡れタオルを置かれたオキクルミが笑う。
「命に別状はないようですね」
「ナサニエルさんってこういう事普通にしてくるからね」
ほっと胸を撫で下ろすセレン。真水は別に驚かず平然としている。
「想像以上に消耗が激しかったようです。それも込みの実験ではありますが」
「……それもそうだけど、動作確認は出来たんだ。今回はこの辺にしとこう」
溜息混じりのミカに同意するハンター達。だがまだHMDのテストが残っている。
「こっちは命を吸う装置ではないので大丈夫ですよぉ」
「あっちは命を吸う装置って認識だったんだね。まあいいや、それは南條さんがやろう」
HMDと繋がれた機械の頭部。南條は装置を手に取る。
「眼鏡を外している間はこっち見るなよ」
眼鏡外したくないなら何故立候補したんだ、とは誰も言わなかった。
「というかこれってグラたんの仮面かい?」
「ええ。タングラムの機導面をモデルにしています」
そんなやりとりをしている間、ハンター達はサクラ型の企画書と睨めっこしていた。
「それにしてもこのサクラ型ってのは搭載機構がいちいち面倒臭ぇのな。技術試験機としてはアリだが、実用性はあんのか?」
「さっきの動きを見る限り、搭乗者の格闘センスを活かした戦いならCAMより優秀なんじゃない?」
「マシンが生物的機動を取る脅威を俺達は体験してるからな。CAMより柔軟な行動が取れるなら、活路はあると思う」
練の言葉にそれぞれの反応を示す由有とミカ。セレンは完成予想図を手に取り。
「フロッシュのような量産型とは全く違いますね。こう……」
「ヒロイックな」
「です」
ミカに頷き返すセレン。そうこうしている間に連動カメラの準備が終わったようだ。
真水が首を動かすとマシンも連動し頭を動かす。それ自体は問題なく既に動作している。
「それはいいが、サクラ型は有視界が得られないほどでかいアーマーなのか? キャノピーでいいんじゃないの?」
「量産型は操縦者が剥き出しなので装甲で覆えと散々言われたんですよぉ。あとは、ロボットには頭がないと嫌だってブリジッタが」
確かに魔導アーマーに頭はない。ある必要がないからだ。練は首を捻り。
「MSは操縦室が大型化する。内部で動くからな。それこそ、操縦者剥き出しくらいで丁度いい気もするが」
「そもそもマスタースレイブには欠点もある。技量や疲労を反映させすぎる点は勿論だが、何より人体にない部分は動かせない」
「完全なマスタースレイブよりもセミ・マスタースレイブにして、巡航形態と戦闘形態で操縦法を切り替えられるとかあるといいわね」
ガルシアと由有がそんな話をしている時、ふとファティマが。
「そういえば気になっていたんですけど、スレイブ操縦の際、操縦者にマシンから触覚のフィードバックはないんですか?」
思えば先ほどオキクルミはマシンが槍を持つ時自分も鉄パイプを持っていた。
「触覚のフィードバックがないと力加減が出来ません。そうすると触れる物皆壊すヤバイものになるんじゃ……」
「ええ。しかし五感へのフィードバックはまだ技術的に難しいんですよ。動かすのと感じるのは全く別ですからね」
「攻撃を受けたら自分も痛いくらいじゃないと、本当の意味で精密な動作は出来ないと思います」
「え? いいんですか?」
「えっ?」
「いいんですか?」
「な、なにがですか……?」
楽しそうな笑顔で詰め寄ってくるナサニエルに後ずさるファティマ。そこへ装置を外した真水が歩いてくる。
「ナサニエルさん、ちょっと見た目が体裁悪いよ」
少女に詰め寄るワカメ。ナサニエルはすっと身を引き「失礼」と頭を下げた。
「さっき聞いたんだけど、これのモデルは変形するんだってね。それ実装しようよ。だってその方が格好いいじゃないか」
「ブリジッタのような事を言うんですねぇ」
「それともう一つ。せっかくだから、クラスごとの性質にあったカスタムバリエーションがあるといいね」
「近接職は勿論だけど、魔法職の技能も活かせるといいんじゃないかな」
真水に続き提案する由有。ガルシアはニヤリと笑い。
「あとはあれだ。必殺技だな、必殺技」
「いいね。対艦機導剣とか、超収束マテリアル粒子機導砲とか!」
意気投合するガルシアと真水。それを横目にミカは。
「王国の刻令術はご存知で?」
「ええ。私も興味がありますし、実はいずれは技術協力を結べないかと考えています」
「刻令術があればクリア出来る問題も幾つか思い当たる。試せる手は試してみるべきだ」
「そういえばナサニエルさんはこの子達をどういう風にしたいんですか?」
ファティマの問いにナサニエルは目を丸くする。
「どう……?」
「はい。マッドサ……ワカ……ナサニエルさんがどんなビジョンを持っているのか興味あるです」
男は目を見開いたまま天を仰ぐ。
「一度も考えた事がありませんでした」
「え?」
「私はただ、思いつくまま全てを試しているだけです。これまでも何かを作りたいと思った事はありませんでした」
そんな事あるのかと驚くファティマ。その肩をミカはポンと叩く。
「それで、今回の俺達のプランは実現出来そうで?」
「ええ」
男は別に何事もなかったかのように。
「時間さえあれば、全て」
当たり前の様に答えた。そして困ったように腕を組み。
「全て可能なので、“何からやるか”の順序付けは必要ですが、何をしたいのかなんて考えた事もありませんでした。その発想は興味深い。自分が何をしたいのか、初めてこれから考えてみようと思います」
錬魔院が保有するハンガーには魔導CAMが宙吊りにされている。セレン・コウヅキ(ka0153)は懐かしむように目を細め見上げる。
「CAMに見慣れないもんが付いてるが、アレが魔導エンジンってやつか」
「こっちの技術屋も面白い物作るんだな」
ガルシア・ペレイロ(ka0213)の言葉にミカ・コバライネン(ka0340)も魔導エンジンに注目。
今は発光していないが、各部に装備された球体が魔導エンジンだという。塗装や一部パーツのデザインも若干変わっているようだ。
「随分とヒロイックな外観になった様で。……いや、前からか」
「CAMに以前から触れていた人達が集まってくれて助かりますねぇ」
そんなハンター達に笑いかけるナサニエル。守原 由有(ka2577)は腕を組み。
「よろしくね、院長。それにしても凄いワカメね」
「それは今関係ないのでは」
「また面白そうな事してるね、ナサニエルさん」
目を向けた先から南條 真水(ka2377)が歩み寄る。
「あなたでしたか。久しぶりですね」
「今日は色々と楽しませてもらうよ」
向き合うそんな二人の間にひょっこり割り込んだのはファティマ・シュミット(ka0298)だ。
「ところで、わたしクリムゾンウェスト出の者なんですが、魔導型CAMにも乗せて貰えるんです?」
「別に構いませんよぉ。オートパイロットもあるし、不安なら経験者と同乗しても良いでしょう」
「まずはバランスを見ないと何とも言えないからな。俺達が乗ってみて、問題なさそうなら一緒にどうだ? ……まあ、大分狭いが」
ガルシアの言葉に嬉しそうに頷くファティマ。真水も同じように微笑み。
「良かった。南条さんも素人だからね。初見お断りじゃ触れない」
「CAMの操縦系は非常に優秀です。自動操縦や操縦補佐が充実しているし、オートバランサがでたらめに秀逸です」
「ま、そうでなけりゃ二足歩行なんて不可能だがね」
肩を竦めるミカ。雪村 練(ka3808)は布団にくるまりオキクルミ(ka1947)と共に周囲を眺めていた。
「おおー、CAMってバラすとこんな感じなんだね。間近で見るのは初めてだよ」
「整備士でもなきゃそうだろうなー。これモーター部分どうなってんだ?」
置かれている完全に組み上がった形のCAMが一機、そしてパーツごとに分離されたCAMが一機。もう一機実験用に存在しているが、今この場には置いていない。
「さて、そろそろ始めましょう。今日はやる事いっぱいだもの、ちゃちゃっと行かないと!」
手を叩く由有の声にそれぞれ動き出す。そう、今日は色々と押しているのだ。
まずCAMに乗り込んだのはガルシアだ。実際にCAMを起動し、ハンガー内を歩かせてみる。
気になっていたウェイトバランスだが、意外と殆ど気にならない。尤も背面の大型エンジン二機は別。全くこれまで存在しなかった物で、やはり違和感はある。
「とは言え勝手に動くのか。スタビライザーみたいなモンかね」
歩くCAMを眺めるハンター達。セレンはやはり魔導エンジンを気にしていた。
「問題クリアの為とは言え、狙いやすそうなあれは弱点にならないのですか?」
「弱点になります。とは言え、そこまで脆くもありませんが」
エンジンはあの光っている球体に内側に入っている。発光している球体そのものは魔導シェルという新素材を使った言わば装甲なのだという。
「それと、衝撃で爆発する事はありません。任意で自爆させるんですよ」
「気になるんだけど戦闘中に一撃貰ってエンジンが一機停止したりするとどうなるのかな?」
「本来は主機だけで動く物ですから、機能停止はしません。化石燃料消費が増加するので、可動時間は低減しますが」
オキクルミの質問にスラスラ答えるナサニエル。練はぼんやりとCAMを見上げ。
「化石燃料って複合的マテリアル燃料だよな。こっちの世界に石油がねぇのは、マテリアルを消費するのと関係あるのかもなー」
「素晴らしい着眼点ですね。私も同じ考えです」
クリムゾンウェストはマテリアルを消費する社会だが、リアルブルーはマテリアルという概念を知らない社会だった。
「異世界人であるあなた達はこちらの世界の人間よりマテリアルを多く保有している。それも同じ理屈なのかもしれません」
「でもそれは、消費してきたモノの違いでしかない」
ミカは片手で空を握るように目を細め。
「こちらの世界の空は凄く綺麗なんだ。水も空気もうまいしな。リアルブルーじゃこうはいかない」
二つの世界は異なる文明を持ち、しかし同じ様に何かを汚し、壊しながら命を繋げてきたのだ。
「私もリアルブルーに行ってみたい物です。向こうでなら実現可能な技術も沢山あるでしょうねぇ」
そう笑うナサニエルからは純粋さしか感じ取れない。ミカは片目を瞑り。
「……院長が院長で良かったな」
「と言うと?」
「ああいう人はむしろ権限や環境を与えた方がいいんだよ」
首を傾げるセレン。そこへガルシアが戻ってくる。
「空いたぞ。次はどいつだ?」
「動作に問題は?」
「経験者ならないだろうな。ちとバランサーに癖があるが」
「はい! わたし乗りたいです!」
「セレンさんと一緒に行ってきたら? 一人じゃいざって時危ないわよ」
由有の言葉に従い、セレンとシュミットが同乗し歩いてみる事になったらしい。
なんだかんだでセレンもCAMに乗るのが楽しみだった。二人を乗せたCAMはゆっくりと立ち上がる。
「それにしても魔導型CAM、思った以上ね」
「南条さんも乗ってみたいのだけれど、いいかな?」
「それじゃあ次はあたしと一緒に乗ってみる?」
由有と真水の話を横目に、ミカはふと尋ねる。
「そういえば、魔導CAMでマテリアルエンジン全開にする試験は実施済みで?」
ナサニエルは無表情にキリキリと振り返り。
「まだ」
とだけ言った。だんだんミカの顔色が悪くなる。
「それ、今ここでやっても……?」
「かせきねんりょうがあまりなくて」
「何故棒読みで?」
「おい……大丈夫なんだろうな……」
ガルシアまで不安になってきた。左右から詰め寄られたナサニエルは「後で許可が出たらやっとく」と一応約束だけはしてくれた。
「南條さん、大丈夫?」
「うぅ……逆に何故君達は大丈夫なんだい」
CAMに搭乗した真水はぐったりしていた。二足歩行兵器の乗り物酔いと言うのはかなり独特なものだ。
「あれで戦闘中は飛んだり跳ねたりするんだろう? 人の乗り物とは思えないよ……」
「ファティマさんは大丈夫でしたか?」
「わたしですか? わたしはほら、常に飛んだり跳ねたりしてるところありますからっ!」
両手でサムズアップするファティマ。セレンは冷や汗を流しつつ特に何も言わなかった。
「魔導型には目立った問題点もないようだな」
「魔導エンジンとマテリアルエンジンも上手く噛み合ってるみたいね」
「元々心配はしてなかったがね。……元々は」
ガルシアと由有にミカが続き、腕を組んだままナサニエルを見る。もうワカメは次の作業に移っているフリをして無視だ。
「これがサクラ型の試作機?」
「ええ。まだ動作試験用で組み上げてもいませんが」
金属フレーム剥き出しの言わば巨大な人間の手の骨のような物が胴体だけの量産型魔導アーマーに取り付けられている。
そこからケーブルで繋がれた装置はグローブのような形をしており、肩から取り付ける仕組みになっていた。
先ずはオキクルミが試すという事で、左右の腕にスレイブ装置を取り付ける。危ないので皆下がろう。
「おぉ~! 手の動きに連動してる! よーし、アンサーシステムスタンバイ! なんちゃって~」
「なんです、それは?」
「リアルブルーのアニメでやってたんだよ。ロボ起動時は掛け声が必要なんだよね」
手を握ったり開いたりし、オキクルミが拳を繰り出すと魔導アーマーの腕も連動し拳を繰り出す。
「……なあ。これさ、もうこれだけでいいんじゃねぇの?」
練の言葉に首を傾げるナサニエル。
「あの腕だけ魔導で浮かせて操作するような武具はできねーか?」
「ああ、それは面白いな。魔導型は部位ごとに動力を積んで動いているんだったな。なら可能だと思うが?」
「浮かせるのは難しいですが、まあ出来ると思いますよぉ」
間に入ったミカの問いに頷くナサニエル。オキクルミはロボと一緒に手を振り。
「これどのくらい器用な事出来るの~? でっかすぎてボクの想定してたの出来ないんだけど~」
「槍でも振ってみますぅ?」
鉄パイプを持ったオキクルミと同じく機会腕はパルスグレイブを動かす。手の中でくるりと回し、構える動きすら可能だ。
「すげえなおい。どうなってんだありゃ」
「覚醒者による機導の直接操作だろ? こっちの世界ならではだな」
そんなガルシアと練のやりとりの直後、突然オキクルミがふらつきはじめ。
「はりゃ? なんら急に力が……」
口の端から涎を垂らし、虚ろな目でうつ伏せに倒れこんだ。由有は慌てて駆け寄り。
「ちょっと、大丈夫!?」
「あ。すいません、それ覚醒者の生命力を消費して動くので……」
全員ナサニエルに目を向け、慌ててそれぞれオキクルミの救助へ向かった。
「皆大袈裟だな~。ボクは大丈夫だよ」
ひらひら手を振りつつ額に濡れタオルを置かれたオキクルミが笑う。
「命に別状はないようですね」
「ナサニエルさんってこういう事普通にしてくるからね」
ほっと胸を撫で下ろすセレン。真水は別に驚かず平然としている。
「想像以上に消耗が激しかったようです。それも込みの実験ではありますが」
「……それもそうだけど、動作確認は出来たんだ。今回はこの辺にしとこう」
溜息混じりのミカに同意するハンター達。だがまだHMDのテストが残っている。
「こっちは命を吸う装置ではないので大丈夫ですよぉ」
「あっちは命を吸う装置って認識だったんだね。まあいいや、それは南條さんがやろう」
HMDと繋がれた機械の頭部。南條は装置を手に取る。
「眼鏡を外している間はこっち見るなよ」
眼鏡外したくないなら何故立候補したんだ、とは誰も言わなかった。
「というかこれってグラたんの仮面かい?」
「ええ。タングラムの機導面をモデルにしています」
そんなやりとりをしている間、ハンター達はサクラ型の企画書と睨めっこしていた。
「それにしてもこのサクラ型ってのは搭載機構がいちいち面倒臭ぇのな。技術試験機としてはアリだが、実用性はあんのか?」
「さっきの動きを見る限り、搭乗者の格闘センスを活かした戦いならCAMより優秀なんじゃない?」
「マシンが生物的機動を取る脅威を俺達は体験してるからな。CAMより柔軟な行動が取れるなら、活路はあると思う」
練の言葉にそれぞれの反応を示す由有とミカ。セレンは完成予想図を手に取り。
「フロッシュのような量産型とは全く違いますね。こう……」
「ヒロイックな」
「です」
ミカに頷き返すセレン。そうこうしている間に連動カメラの準備が終わったようだ。
真水が首を動かすとマシンも連動し頭を動かす。それ自体は問題なく既に動作している。
「それはいいが、サクラ型は有視界が得られないほどでかいアーマーなのか? キャノピーでいいんじゃないの?」
「量産型は操縦者が剥き出しなので装甲で覆えと散々言われたんですよぉ。あとは、ロボットには頭がないと嫌だってブリジッタが」
確かに魔導アーマーに頭はない。ある必要がないからだ。練は首を捻り。
「MSは操縦室が大型化する。内部で動くからな。それこそ、操縦者剥き出しくらいで丁度いい気もするが」
「そもそもマスタースレイブには欠点もある。技量や疲労を反映させすぎる点は勿論だが、何より人体にない部分は動かせない」
「完全なマスタースレイブよりもセミ・マスタースレイブにして、巡航形態と戦闘形態で操縦法を切り替えられるとかあるといいわね」
ガルシアと由有がそんな話をしている時、ふとファティマが。
「そういえば気になっていたんですけど、スレイブ操縦の際、操縦者にマシンから触覚のフィードバックはないんですか?」
思えば先ほどオキクルミはマシンが槍を持つ時自分も鉄パイプを持っていた。
「触覚のフィードバックがないと力加減が出来ません。そうすると触れる物皆壊すヤバイものになるんじゃ……」
「ええ。しかし五感へのフィードバックはまだ技術的に難しいんですよ。動かすのと感じるのは全く別ですからね」
「攻撃を受けたら自分も痛いくらいじゃないと、本当の意味で精密な動作は出来ないと思います」
「え? いいんですか?」
「えっ?」
「いいんですか?」
「な、なにがですか……?」
楽しそうな笑顔で詰め寄ってくるナサニエルに後ずさるファティマ。そこへ装置を外した真水が歩いてくる。
「ナサニエルさん、ちょっと見た目が体裁悪いよ」
少女に詰め寄るワカメ。ナサニエルはすっと身を引き「失礼」と頭を下げた。
「さっき聞いたんだけど、これのモデルは変形するんだってね。それ実装しようよ。だってその方が格好いいじゃないか」
「ブリジッタのような事を言うんですねぇ」
「それともう一つ。せっかくだから、クラスごとの性質にあったカスタムバリエーションがあるといいね」
「近接職は勿論だけど、魔法職の技能も活かせるといいんじゃないかな」
真水に続き提案する由有。ガルシアはニヤリと笑い。
「あとはあれだ。必殺技だな、必殺技」
「いいね。対艦機導剣とか、超収束マテリアル粒子機導砲とか!」
意気投合するガルシアと真水。それを横目にミカは。
「王国の刻令術はご存知で?」
「ええ。私も興味がありますし、実はいずれは技術協力を結べないかと考えています」
「刻令術があればクリア出来る問題も幾つか思い当たる。試せる手は試してみるべきだ」
「そういえばナサニエルさんはこの子達をどういう風にしたいんですか?」
ファティマの問いにナサニエルは目を丸くする。
「どう……?」
「はい。マッドサ……ワカ……ナサニエルさんがどんなビジョンを持っているのか興味あるです」
男は目を見開いたまま天を仰ぐ。
「一度も考えた事がありませんでした」
「え?」
「私はただ、思いつくまま全てを試しているだけです。これまでも何かを作りたいと思った事はありませんでした」
そんな事あるのかと驚くファティマ。その肩をミカはポンと叩く。
「それで、今回の俺達のプランは実現出来そうで?」
「ええ」
男は別に何事もなかったかのように。
「時間さえあれば、全て」
当たり前の様に答えた。そして困ったように腕を組み。
「全て可能なので、“何からやるか”の順序付けは必要ですが、何をしたいのかなんて考えた事もありませんでした。その発想は興味深い。自分が何をしたいのか、初めてこれから考えてみようと思います」
依頼結果
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質問スレッド 雪村 練(ka3808) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/20 00:13:20 |
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新型機開発提案準備室 守原 由有(ka2577) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/20 14:12:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/16 23:31:41 |