ゲスト
(ka0000)
ゴブリンを撃滅せよ!
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/24 07:30
- 完成日
- 2015/02/27 19:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●古都アークエルスにて
王国の北東部の山麓にやや近い場所にある、歴史や魔法など様々な研究を目的とした学術都市だ。
都市の大きな特徴はグラズヘイム王立図書館がある事。
通称グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれるこの図書館の歴史は古く、一説には古都が街としてのまとまりを持つことになるより以前、さらには王国が成り立つ前から存在するのではないかと噂されている。
だが、そんな事は、ある1人の男にとってはどうでもいい事だった。
その男は元々、古都アークエルスよりも北の山麓の村に住んでいた。ゴブリンの襲撃により、その村を追われ、古都に逃げ込んできたのは、数日前の話だ。
「うぅ……ひっく……」
酒場で毎夜飲んだくれている。
「お前さん、いい加減にしたらどうだい」
女将が心配して、水を出した。
この男は、古都に逃げ込む前、街道でゴブリンの一団の追撃を受けた時のショックが抜けきれないのだ。
「俺は最低だ……」
「こうやって、毎日毎日飲んでる方が最低よ」
だが、女将の声は届いていない。
男がここまで落ち込む本当の理由を、決して彼は語ろうとしない。
避難途中でゴブリンの追撃にあったのも、人づてに聞いたものだ。
●嘆きの橋
それは古都のとある水路に途中まで架かっている橋だ。
綺麗な半円を描いている石造りの橋は、途中で資金が足りなくなって完成できなかったとか、水路に飛びこむ為のものだとか、桟橋のつもりが設計者が勘違いしたとか言われている。
そして、こんな噂もある。
『この橋で嘆けば、その悲しみや苦しみから解放される』
今日も男はその橋にやってきた。
既に日も落ちて、幾刻か過ぎて、あたりは真っ暗だ。
橋の先端まで進む。ここから身投げすれば逝けるのだろうかと思うが、身体が前に進む覚悟がない。
「俺は最低だ……」
男は語りだした。
彼には妻がいた事。その妻は覚醒者であり、元ハンターだった事。
村人達と一緒に逃げる途中、追撃にきたゴブリンを、妻が1人で足止めした。
そのおかげで村人達は犠牲者を出す事なく逃げ切れたのだが、妻は帰って来なかった。
「俺は……逃げてしまった……妻を置いて……」
ゴブリンに襲われた恐怖に怯え、振り返りもせず、真っ先に。
その行動はある意味正しかったかもしれない。
見方によれば、彼が率先して示した事で、村人達は救われたのだと。
「ごめんよ……ごめんよ……」
結婚する時に死ぬ時は一緒だと誓った言葉を思い出す。
せめて、同じ場所で死にたいと思った彼は、襲撃された場所に戻ろうとした。
だが、既に街道は封鎖されていた。
見張りに立っている兵士達に事情を話すも、鼻で笑われ、追い返された。
しつこく懇願すると、槍の柄でボロボロになるまで叩かれた。
死ぬに死ねず。ただ恥を晒しているだけの人生に何の意味があるというのだと男は嘆く。
「貴様のノゾミ。叶えてやらん事もないぞ」
そんな声が、橋の先から聞こえた。
泣き顔をあげると、路地からローブに身を包んだ何者かが現れた。
「ほ、本当か?」
「対価は頂こうか。貴様の持っている物で一番価値のある物と交換だ」
男は首にかかったネックレスを無意識に握り締めた。
「わかった」
「ならば、私についてくると良い。臆病な貴様にピッタリの物を渡してやろう」
●封鎖されているある街道にて
「また、お前か。見ての通り街道は封鎖されているぞ」
見張りの兵士が男に向かって槍を突き出して言った。
「それとも、また、ボコボコにされたいのか?」
「サンドバッグがまた来たのかよ」
他の兵士達がからかう。
だが、男は無言でバリケードに近付いてきた。
そして、兵士達の地面に向かって、壺を投げつける。
「おいおい、こりゃ、なんの真似だ?」
「あーあ。壺が勿体ねぇ」
不用意に割れた壺に近づく兵士。
次の瞬間、割れた壺から流れでた液体状の物が、兵士に『飛びかかった』。
悲鳴をあげながら、液体に包まれる。
「ス、スライムだ!」
「うわぁぁぁ」
混乱する兵士達。
その隙をついて、男がバリケードを乗り越えていった。
だが、それを制止している余裕は兵士達にはなかったのであった。
●とあるハンターオフィスにて
「この依頼は、街道に現れるゴブリンを討伐する依頼となります」
やけに笑顔な受付嬢。
最近、良い事でもあったというらしいが。
「街道を封鎖していた兵士達が負傷してしまい、これ以上封鎖を続ける事が困難なので、元を断ってしまいましょうという事になった様です」
資料を配る。
街道はゴブリンの襲撃で廃村となった村に続いているようだ。
「もちろん、全て討伐できれば、それで良いですが、追い払う事ができても良いです」
過去に討伐隊を派遣した際、ゴブリン達は街道横の森の中から出てくる事はなかったと記してある。
「ゴブリンを誘き出す作戦は必要だと思いますが、それはハンターにお任せになっています」
馬車は貸し出せますのでと受付嬢はつけ加える。
他に必要な道具・武具類はハンター達の持ち出しになりそうだ。
「あと、負傷した兵士からの情報ですが、その廃村出身の男性が封鎖を突破して街道に入って行ったらしいです」
きっともう死んでるでしょうけどと、小さく呟いた。
その男性の生死や救出等は依頼には入っていないようだ。
「では、お引き受け下さる場合は、こちらにサインをお願いします」
王国の北東部の山麓にやや近い場所にある、歴史や魔法など様々な研究を目的とした学術都市だ。
都市の大きな特徴はグラズヘイム王立図書館がある事。
通称グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれるこの図書館の歴史は古く、一説には古都が街としてのまとまりを持つことになるより以前、さらには王国が成り立つ前から存在するのではないかと噂されている。
だが、そんな事は、ある1人の男にとってはどうでもいい事だった。
その男は元々、古都アークエルスよりも北の山麓の村に住んでいた。ゴブリンの襲撃により、その村を追われ、古都に逃げ込んできたのは、数日前の話だ。
「うぅ……ひっく……」
酒場で毎夜飲んだくれている。
「お前さん、いい加減にしたらどうだい」
女将が心配して、水を出した。
この男は、古都に逃げ込む前、街道でゴブリンの一団の追撃を受けた時のショックが抜けきれないのだ。
「俺は最低だ……」
「こうやって、毎日毎日飲んでる方が最低よ」
だが、女将の声は届いていない。
男がここまで落ち込む本当の理由を、決して彼は語ろうとしない。
避難途中でゴブリンの追撃にあったのも、人づてに聞いたものだ。
●嘆きの橋
それは古都のとある水路に途中まで架かっている橋だ。
綺麗な半円を描いている石造りの橋は、途中で資金が足りなくなって完成できなかったとか、水路に飛びこむ為のものだとか、桟橋のつもりが設計者が勘違いしたとか言われている。
そして、こんな噂もある。
『この橋で嘆けば、その悲しみや苦しみから解放される』
今日も男はその橋にやってきた。
既に日も落ちて、幾刻か過ぎて、あたりは真っ暗だ。
橋の先端まで進む。ここから身投げすれば逝けるのだろうかと思うが、身体が前に進む覚悟がない。
「俺は最低だ……」
男は語りだした。
彼には妻がいた事。その妻は覚醒者であり、元ハンターだった事。
村人達と一緒に逃げる途中、追撃にきたゴブリンを、妻が1人で足止めした。
そのおかげで村人達は犠牲者を出す事なく逃げ切れたのだが、妻は帰って来なかった。
「俺は……逃げてしまった……妻を置いて……」
ゴブリンに襲われた恐怖に怯え、振り返りもせず、真っ先に。
その行動はある意味正しかったかもしれない。
見方によれば、彼が率先して示した事で、村人達は救われたのだと。
「ごめんよ……ごめんよ……」
結婚する時に死ぬ時は一緒だと誓った言葉を思い出す。
せめて、同じ場所で死にたいと思った彼は、襲撃された場所に戻ろうとした。
だが、既に街道は封鎖されていた。
見張りに立っている兵士達に事情を話すも、鼻で笑われ、追い返された。
しつこく懇願すると、槍の柄でボロボロになるまで叩かれた。
死ぬに死ねず。ただ恥を晒しているだけの人生に何の意味があるというのだと男は嘆く。
「貴様のノゾミ。叶えてやらん事もないぞ」
そんな声が、橋の先から聞こえた。
泣き顔をあげると、路地からローブに身を包んだ何者かが現れた。
「ほ、本当か?」
「対価は頂こうか。貴様の持っている物で一番価値のある物と交換だ」
男は首にかかったネックレスを無意識に握り締めた。
「わかった」
「ならば、私についてくると良い。臆病な貴様にピッタリの物を渡してやろう」
●封鎖されているある街道にて
「また、お前か。見ての通り街道は封鎖されているぞ」
見張りの兵士が男に向かって槍を突き出して言った。
「それとも、また、ボコボコにされたいのか?」
「サンドバッグがまた来たのかよ」
他の兵士達がからかう。
だが、男は無言でバリケードに近付いてきた。
そして、兵士達の地面に向かって、壺を投げつける。
「おいおい、こりゃ、なんの真似だ?」
「あーあ。壺が勿体ねぇ」
不用意に割れた壺に近づく兵士。
次の瞬間、割れた壺から流れでた液体状の物が、兵士に『飛びかかった』。
悲鳴をあげながら、液体に包まれる。
「ス、スライムだ!」
「うわぁぁぁ」
混乱する兵士達。
その隙をついて、男がバリケードを乗り越えていった。
だが、それを制止している余裕は兵士達にはなかったのであった。
●とあるハンターオフィスにて
「この依頼は、街道に現れるゴブリンを討伐する依頼となります」
やけに笑顔な受付嬢。
最近、良い事でもあったというらしいが。
「街道を封鎖していた兵士達が負傷してしまい、これ以上封鎖を続ける事が困難なので、元を断ってしまいましょうという事になった様です」
資料を配る。
街道はゴブリンの襲撃で廃村となった村に続いているようだ。
「もちろん、全て討伐できれば、それで良いですが、追い払う事ができても良いです」
過去に討伐隊を派遣した際、ゴブリン達は街道横の森の中から出てくる事はなかったと記してある。
「ゴブリンを誘き出す作戦は必要だと思いますが、それはハンターにお任せになっています」
馬車は貸し出せますのでと受付嬢はつけ加える。
他に必要な道具・武具類はハンター達の持ち出しになりそうだ。
「あと、負傷した兵士からの情報ですが、その廃村出身の男性が封鎖を突破して街道に入って行ったらしいです」
きっともう死んでるでしょうけどと、小さく呟いた。
その男性の生死や救出等は依頼には入っていないようだ。
「では、お引き受け下さる場合は、こちらにサインをお願いします」
リプレイ本文
●廃村に至る街道にて
「お馬さん、だいじょうぶ。キミもあたしたちがちゃーんと守ってあげるから、ねっ♪」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)の元気な声が街道を流れていく。
屋根のある大きな馬車の御者として、馬の手綱を握る。
馬車と共に貸し出された馬は、ゆっくりとした足取りだ。
もしかして、人よりも先にゴブリンの存在に気がつくかもしれない……そんな風に思いながらテトラは自然の風景を楽しんでいた。
鮮やか……とは言い難いかもしれないが、竪琴の音色が響く。
十色 エニア(ka0370)が馬車の屋根の上で弾いているのだ。
(そういえば、普通のゴブリン退治は、何気に初めてなのよね~)
今まで、様々な依頼を受けてきたが、ただゴブリンを退治するという依頼は初めてだった。
竪琴を弾いているのは、油断しているからではない。
馬車に乗りあわせている人をイメージしての事だからだ。
今回、街道に現れるゴブリンを誘き出す為に、ハンター達は行商を装う事にしている。
「自らバリケードを突破した男も気になるけど……今はゴブリンの討伐が先決ね……」
いつもの目立ち過ぎる派手な外見から一転、地味な姿で商人見習いを装いながら、馬車の横を歩くクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。
口調まで、いつもの年寄口調ではなく変装するのに徹底している……ゴブリンがそこまで気がつくかわからないが。
水溜りに映った自分の姿……それは、仮の姿のはずだ。
「こちらの世界では簡単に人が死んでしまうのですね」
転移者であるエルヴィア(ka4180)がクラリッサの言葉からそんな感想をついた。
「そ、そう……そうですね」
いつもの口調が出てきそうになったクラリッサが言い直す。
「残された者にとってはとても悲しい世界ね」
エルヴィアが左手の薬指に視線を落として悲しげに言った。
バリケードを突破した男は、この先の廃村出身だったという。
何を思って封鎖した街道を突破したのだろうか。
男の所在は分からないが、大体、想像はつく。
ハンターオフィスも同様な判断をしたのか、救助に関する項目は、今回の依頼には入っていなかった。
悲しげな表情の彼女を馬車の窓からチラっと見ている影が一つ。
「さすが元女優さん、綺麗じゃーん! スタイルもいいし!」
その影はリオン(ka1757)だった。
「リオン、もう少し静かに出来ないのか?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が彼女に注意をした。
せっかく、馬車の中で目立たない様にじっと息を潜めているというのに、このギャル娘は……。
ゴブリンに警戒されて奴らが襲ってこないと、作戦は失敗してしまう。
「だって、暇だしー。てか、依頼でエヴァちゃんと依頼で一緒とか、やっべーこれもDESTINY?」
「ゴブリンと一緒にするんじゃねぇよ」
リオンは先程まで、ゴブリン退治の依頼に参加できた事を運命と言っていた。
ゴブリンとなにかと縁がある。今回も出会ったら、動かなくなるまでブチのめすつもりの様だ。
「そういや、エヴァちゃん、なんで、出発に遅れそうになったの? マジ、ウケルんですけど」
出発前の事を訊ねられ、エヴァンスが返事に詰まった時だった。
テトラが何かを見つけた様だった。
それは、男の遺体だった。
姿の特徴が一致したので、街道を封鎖していたバリケードを突破した男だろう。
死因は刃物や鈍器で傷つけられた様子だ。それも複数個所、全身だ。
「まったくもう、ここの兵士さんたちはなっさけないなぁ」
テトラが少し怒っていた。
そもそも、街道を封鎖していた兵士達がしっかりしていれば、この男性が街道に入り込む事はなかっただろう。
クールな表情で真っ先に遺体を調べていた十色は遺体が死後数日経っていると判断した。
「街道に遺体放置?」
ゴブリンの仕業だろう。街道は封鎖されているので、山賊が出るような場所でもないはずだ。
それにしては……。
「ちょー笑顔じゃん!」
「なにか成し遂げた様な感じだな」
リオンとエヴァンスが犠牲者の顔を見て言った。
確かに、男は悲痛な顔ではなく、なにか成し遂げた様な雰囲気だった。
「……とりあえず、放っておけないよね。この人の村に届けちゃだめかな」
テトラの台詞にエルヴィアも頷いた。
死体をこのままここに放置するのも、見た以上は気がひける。
どうせ、ゴブリンが襲って来なかったら、廃村まで行く事になるのだ。なら、遺体を運んでも問題はないはず。
「ゴブリンの討伐が終わったら、この先の廃村で犠牲者を弔ってあげたいわ」
エルヴィアの言葉に仲間達は頷いた。
一応、大きめの袋や箱の類は馬車の中にあるので、運べない事もないだろう。
遺体と一緒にエヴァンスとリオンは馬車の中に居る事になる。それを気にする2人でもなさそうではあるが……。
ハンター達は遺体を丁寧に馬車へと運びこむのであった。
●覚醒者とゴブリン
「目に優しいね~」
右見ても左見ても、自らの髪も緑。
テトラは、雨上がりの鮮やかな空を見上げる。青と緑が新鮮で気持ちが良かった。
ところが、深く深呼吸をした時、森から放たれた矢が馬車に突き刺る。
「ギャー!」
街道の両側から醜悪なゴブリンが姿を現した。
テトラは馬車の速度やや上げる。
そうする事で、両側からの挟撃から逃れるだけではなく、逃げる振りをして、ゴブリン共を引き寄せる事にもなるからだ。
「あぁ! ゴブリンが! 来ないでぇ!」
さすが元女優という所なのだろうか、エルヴィアが馬車の中に聞こえる様にも悲鳴の声をあげた。
ゴブリンが奇声をあげて迫ってくる。
「キャ~! 助けて~! 襲われる~!」
「来やがったか!」
外の音に注意を払っていたリオンが異変に気がつき、芝居かかってる声をあげる。
エヴァンスは嬉しそうに自身の肩をまわす。
十三魔との戦いで重傷だった傷も癒えた所なので、戦いの調整ついでにはちょうど良い。
2人は馬車の中に隠しておいた仲間の武器を掴むと、馬車から出るタイミングを図る。
早く出過ぎてしまったら、ゴブリンに逃げられる可能性もあるからだ。
それは、馬車の屋根にいた十色も同様だ。すぐに攻撃せずに、非戦闘員を装う。
眼下をチラリと確認した。
地味な姿のクラリッサが怯えた様な表情をゴブリンに向けながら、走っている。
(弓持ちはどこじゃ……)
視線を巡らす。森の中と草原に二人ずつ確認できた。
テトラが馬車を止めると、あっという間にゴブリン共が追いついてくる。
そのタイミングで、馬車の中にいた2人が飛び出ると、武器を仲間に渡す。
同時にそれは戦闘の合図であり、各自が覚醒状態に入る。
テトラの緑髪とマフラーが碧色に光る。
マフラーがふわふわ浮いて、神秘的だ。
「誰が呼んだか草葉の影、ぴょんと飛び出す碧き星! 稀代の美少女忍者テトラ・ティーニストラ参上!」
袋の中から手裏剣を取りだすと、棍棒を振りかざして迫るゴブリンの1体に狙いを定める。
「キミたちのせいで景観が台無しだよ! トゲトゲのサボテンにしちゃうんだから!」
手裏剣を放つと、直線の軌道はゴブリンの首元に叩きこまれた。
覚醒しても、赤い瞳が琥珀色に変わる程度なエヴァンスは、獰猛な笑みを口元で浮かべると、緑色の刀身を持つグレートソードを上段に構えた。
「我が名はエヴァンス・カルヴィ! 悪を断つ剣なり!」
口上を無視して襲いかかってくるゴブリンの攻撃を避けようともせず、エヴァンスは大剣を渾身の力で振り下ろす。
十分な威力と重量を持った剣先は文字通りゴブリンを真っ二つにした。
猛獣を思わせる犬歯を魅せるリオン。右手の甲には獅子の紋章が浮かび、紋章から金色の燐光が全身を包む様に放たれていた。
膨れた四肢の筋肉が圧倒的な力を感じさせる。
「ボッコボコにしてあげるじゃん♪」
クルッと宙返りしながら、ゴブリンの攻撃を避けると装着しているナックルを繰り出した。
狙いはゴブリンの脚。逃亡を防ぐ為だ。
十色は目のハイライトが消えて、生気の抜けた人形な様な雰囲気になる。
馬車の屋根に立っているのは目立つのか、ゴブリンの放った矢が飛んできた。
「そんな雑なの、当たらないよ」
避けるまでもない。反撃とばかり、草原側で弓を構えているゴブリン2体に魔法を唱える。
一瞬、十色の背中に9つの羽のような形のオーラが現れた。直後、発生した眠りの雲でゴブリン2体は睡眠状態に入った。
クラリッサの黒い瞳と髪が青く変化し、風になびく髪は、グラデーションが波打つかのように蠢いた。
「良い風が吹いておる。風の導くままに……じゃな」
仮の姿から正しき自分の姿になったクラリッサは短杖を森の方角に向けた。
そこにも、弓を持つゴブリンがいるからだ。
彼女の唱えた眠りの雲の魔法は確実に森の中で弓を構えているゴブリンを眠らせる。
行商を装う為に軽装だったエルヴィアはゴブリンの攻撃を受けたが、祖霊の力を武器に込め、槍を大きく振り抜く。
エルヴィアの美しい顔の額からは、一角獣を思わせる白い角が生えていた。
また、背部下の辺りから白毛の尻尾が伸びている。腰まで届く純白の髪と泡雪の様な肌と合わさって、幻獣の様だ。
「これを、受けてみなさい」
繰り出した槍の一撃をゴブリンは身体で受け止める事になってしまった。
貫かれたゴブリンは動きを止める。
戦闘開始して10秒程度で既にゴブリンは壊滅状態となった。
弓持ちのゴブリンは無力化され、接近戦を挑んだゴブリンは半壊だ。
ゴブリンの士気は完全になくなり、逃げ去ろうとしている。人間の女ばかりだと思ってナメていたのだろう。
「閃いて、碧き風! いっくよォ!」
テトラの二射目は脚を負傷して逃げようとしたゴブリンの後頭部を直撃した。
逃げ出す残りのゴブリンをエヴァンスとリオンが追いかける。
宙を裂いて槍が飛ぶ。エルヴィアが投げた物だ。
投てき用の武器ではないが、ゴブリンの脚に当たり、バランスを崩して派手に転がる。
「逃げちゃダメじゃん」
ゴブリンを身体で押さえつけ、右拳を掲げた。
脱出しようと、もがいて抵抗するゴブリンに、狂気的な瞳を向けるリオン。
文字通り、頭が木端微塵になるまで拳を叩きこむ姿は鬼の様だ。
「背中が無防備だぜ!」
エヴァンスが大剣を振り下ろす。
背中をパックリと斬られ、ゴブリンは数歩よろよろと進んでから倒れた。
これで、接近戦を挑んできたのは、全て倒した。
「しょせん、ゴブリンはこの程度という事じゃな」
敵を切り裂く風の刃を寝ているゴブリンに向かって放つクラリッサ。
ゴブリン相手には強烈過ぎるようで、きっと、眠りから覚めた瞬間、あの世に意識は飛んでいるに違いない。
「この程度なのか……」
少し残念そうなのは十色だ。普通のゴブリン退治が初めてというのもあり、予想とは違っていたかもしれない。
十色が放つ水球の魔法は、眠っているゴブリンを確実に仕留めていた。
前衛が弓を持ったゴブリンに近付く前に、2人の魔術師によって、片はついてしまった。
「ゴブちゃんは、これで全部じゃん」
単なる骸となったゴブリンを一ヶ所に集めてリオンが言った。
数は10体。
依頼されている数ぴったりだ。無事に全部倒しきった。
「どうしようか?」
「埋めるか、荼毘するか……かしらね」
十色の質問にエルヴィアが答える。
「よし! じゃ、俺は運動したりねぇから、掘るか」
「あたしも、穴掘るね~」
エヴァンスが大剣を地面に降ろすと、テトラは馬車から飛び降りる。
「なら、馬車の中になにか道具があるか見てくるぜ」
馬車の中に入るエヴァンス。
だが、次の瞬間、彼の動きが止まる。
「ふむ……汝は、そういうのが好きか」
クラリッサが今まさに着替えようとしている所だったからだ。
慌てたあまり、馬車から転げ落ちるエヴァンスだった。
●廃村にて
ゴブリンに襲われて放棄されたという村の広場にハンター達はやってきた。
依頼対象であったゴブリンは退治したので、ここまで来る必要はなかったのだが、街道で息絶えていた男をこの村で埋葬しようと思ったからだ。
広場の中央には墓標の様な物が立っていた。
「『村を守る為に天に召された我らの仲間、ここに眠る』……村人達が残した物かしら?」
エルヴィアは墓標の様な物に記されていた文字を読んで、そんな感想をついた。
村人達はゴブリンの襲撃に抵抗し、支えきれないと悟って廃村を決めたのだろう。
詳しい話は、古都に戻って、かつて、この村の住民だった人に聞けばわかるはずだ。
「誰かを亡くす悲しみは分からないでもないから」
悲しげに呟いたエルヴィアの横をリオンが通り過ぎる。
「これ、ちょーいい感じじゃん」
村はずれで咲いていた花を集め、墓標の様な物の傍に飾る。
男の遺体はここの傍に埋めた。
村人達の魂と一緒の方が良いだろう。
その時、一陣の風が吹き抜けた。花びらが舞い、空に上がっていく。
リオンが瞳を輝かせたのを見て、エルヴィアは微笑を浮かべた。
出発前に男の事を調べていた十色は神妙な顔をしている。
大切な人をゴブリンの襲撃で失ったと聞いた。
この男が、深い悲しみのあまり死地を求めていたのは容易に想像できる。
「大切な人、か……」
マギア砦に向かう船上での戦いを思い出した。現れた十三魔と対峙し、重傷を負った友人の事も。
結果的に命を落とさなかった。だが、結果としてそうだっただけで、死んでいた結果もありえたかもしれない。
クラリッサが、気持ちの切り替えになればと、十色に声をかける。
「エニアよ。この男について調べていたようじゃが、なにか分かったのか?」
「それは、俺も気になる所だな」
辺りを見渡しながらエヴァンスがクラリッサに追随する。
「特にバリケードを突破するのにスライムを使ったというじゃないか」
一般人が扱えるような怪物ではない。
それを一体、どこでどうやって手にいれたのか。
「きっと、スライムを物々交換してる人がいるんだよ」
テトラの突拍子もない冗談に、エヴァンスがため息をつく。
「じゃ、そのスライムはどこから来るんだ?」
「あ……そっか……」
テヘ☆っと、可愛げな身振りをしたテトラとは別に、そのやり取りを見ていた十色がハッとする。
「もしかして、この事件。裏があるかもしれない……」
古都に戻ったら、もっと詳しく調べようと思い至る。
「なら、古都に帰ったら、皆で調べてみるか」
エヴァンスが宣言をする。
「はーい!」
「そうじゃの」
テトラとクラリッサの声が重なった。
ハンター達の仕事はもう少し続きそうだ。
古都に戻ったハンター達は死んだ男の足取りを追った。
その結果、居なくなる前日、『嘆きの橋』という場所付近で目撃されている事が分かった。
しかし、一行は『嘆きの橋』に行くも、それ以上の情報を得る事はできなかったのであった。
おしまい。
「お馬さん、だいじょうぶ。キミもあたしたちがちゃーんと守ってあげるから、ねっ♪」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)の元気な声が街道を流れていく。
屋根のある大きな馬車の御者として、馬の手綱を握る。
馬車と共に貸し出された馬は、ゆっくりとした足取りだ。
もしかして、人よりも先にゴブリンの存在に気がつくかもしれない……そんな風に思いながらテトラは自然の風景を楽しんでいた。
鮮やか……とは言い難いかもしれないが、竪琴の音色が響く。
十色 エニア(ka0370)が馬車の屋根の上で弾いているのだ。
(そういえば、普通のゴブリン退治は、何気に初めてなのよね~)
今まで、様々な依頼を受けてきたが、ただゴブリンを退治するという依頼は初めてだった。
竪琴を弾いているのは、油断しているからではない。
馬車に乗りあわせている人をイメージしての事だからだ。
今回、街道に現れるゴブリンを誘き出す為に、ハンター達は行商を装う事にしている。
「自らバリケードを突破した男も気になるけど……今はゴブリンの討伐が先決ね……」
いつもの目立ち過ぎる派手な外見から一転、地味な姿で商人見習いを装いながら、馬車の横を歩くクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。
口調まで、いつもの年寄口調ではなく変装するのに徹底している……ゴブリンがそこまで気がつくかわからないが。
水溜りに映った自分の姿……それは、仮の姿のはずだ。
「こちらの世界では簡単に人が死んでしまうのですね」
転移者であるエルヴィア(ka4180)がクラリッサの言葉からそんな感想をついた。
「そ、そう……そうですね」
いつもの口調が出てきそうになったクラリッサが言い直す。
「残された者にとってはとても悲しい世界ね」
エルヴィアが左手の薬指に視線を落として悲しげに言った。
バリケードを突破した男は、この先の廃村出身だったという。
何を思って封鎖した街道を突破したのだろうか。
男の所在は分からないが、大体、想像はつく。
ハンターオフィスも同様な判断をしたのか、救助に関する項目は、今回の依頼には入っていなかった。
悲しげな表情の彼女を馬車の窓からチラっと見ている影が一つ。
「さすが元女優さん、綺麗じゃーん! スタイルもいいし!」
その影はリオン(ka1757)だった。
「リオン、もう少し静かに出来ないのか?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が彼女に注意をした。
せっかく、馬車の中で目立たない様にじっと息を潜めているというのに、このギャル娘は……。
ゴブリンに警戒されて奴らが襲ってこないと、作戦は失敗してしまう。
「だって、暇だしー。てか、依頼でエヴァちゃんと依頼で一緒とか、やっべーこれもDESTINY?」
「ゴブリンと一緒にするんじゃねぇよ」
リオンは先程まで、ゴブリン退治の依頼に参加できた事を運命と言っていた。
ゴブリンとなにかと縁がある。今回も出会ったら、動かなくなるまでブチのめすつもりの様だ。
「そういや、エヴァちゃん、なんで、出発に遅れそうになったの? マジ、ウケルんですけど」
出発前の事を訊ねられ、エヴァンスが返事に詰まった時だった。
テトラが何かを見つけた様だった。
それは、男の遺体だった。
姿の特徴が一致したので、街道を封鎖していたバリケードを突破した男だろう。
死因は刃物や鈍器で傷つけられた様子だ。それも複数個所、全身だ。
「まったくもう、ここの兵士さんたちはなっさけないなぁ」
テトラが少し怒っていた。
そもそも、街道を封鎖していた兵士達がしっかりしていれば、この男性が街道に入り込む事はなかっただろう。
クールな表情で真っ先に遺体を調べていた十色は遺体が死後数日経っていると判断した。
「街道に遺体放置?」
ゴブリンの仕業だろう。街道は封鎖されているので、山賊が出るような場所でもないはずだ。
それにしては……。
「ちょー笑顔じゃん!」
「なにか成し遂げた様な感じだな」
リオンとエヴァンスが犠牲者の顔を見て言った。
確かに、男は悲痛な顔ではなく、なにか成し遂げた様な雰囲気だった。
「……とりあえず、放っておけないよね。この人の村に届けちゃだめかな」
テトラの台詞にエルヴィアも頷いた。
死体をこのままここに放置するのも、見た以上は気がひける。
どうせ、ゴブリンが襲って来なかったら、廃村まで行く事になるのだ。なら、遺体を運んでも問題はないはず。
「ゴブリンの討伐が終わったら、この先の廃村で犠牲者を弔ってあげたいわ」
エルヴィアの言葉に仲間達は頷いた。
一応、大きめの袋や箱の類は馬車の中にあるので、運べない事もないだろう。
遺体と一緒にエヴァンスとリオンは馬車の中に居る事になる。それを気にする2人でもなさそうではあるが……。
ハンター達は遺体を丁寧に馬車へと運びこむのであった。
●覚醒者とゴブリン
「目に優しいね~」
右見ても左見ても、自らの髪も緑。
テトラは、雨上がりの鮮やかな空を見上げる。青と緑が新鮮で気持ちが良かった。
ところが、深く深呼吸をした時、森から放たれた矢が馬車に突き刺る。
「ギャー!」
街道の両側から醜悪なゴブリンが姿を現した。
テトラは馬車の速度やや上げる。
そうする事で、両側からの挟撃から逃れるだけではなく、逃げる振りをして、ゴブリン共を引き寄せる事にもなるからだ。
「あぁ! ゴブリンが! 来ないでぇ!」
さすが元女優という所なのだろうか、エルヴィアが馬車の中に聞こえる様にも悲鳴の声をあげた。
ゴブリンが奇声をあげて迫ってくる。
「キャ~! 助けて~! 襲われる~!」
「来やがったか!」
外の音に注意を払っていたリオンが異変に気がつき、芝居かかってる声をあげる。
エヴァンスは嬉しそうに自身の肩をまわす。
十三魔との戦いで重傷だった傷も癒えた所なので、戦いの調整ついでにはちょうど良い。
2人は馬車の中に隠しておいた仲間の武器を掴むと、馬車から出るタイミングを図る。
早く出過ぎてしまったら、ゴブリンに逃げられる可能性もあるからだ。
それは、馬車の屋根にいた十色も同様だ。すぐに攻撃せずに、非戦闘員を装う。
眼下をチラリと確認した。
地味な姿のクラリッサが怯えた様な表情をゴブリンに向けながら、走っている。
(弓持ちはどこじゃ……)
視線を巡らす。森の中と草原に二人ずつ確認できた。
テトラが馬車を止めると、あっという間にゴブリン共が追いついてくる。
そのタイミングで、馬車の中にいた2人が飛び出ると、武器を仲間に渡す。
同時にそれは戦闘の合図であり、各自が覚醒状態に入る。
テトラの緑髪とマフラーが碧色に光る。
マフラーがふわふわ浮いて、神秘的だ。
「誰が呼んだか草葉の影、ぴょんと飛び出す碧き星! 稀代の美少女忍者テトラ・ティーニストラ参上!」
袋の中から手裏剣を取りだすと、棍棒を振りかざして迫るゴブリンの1体に狙いを定める。
「キミたちのせいで景観が台無しだよ! トゲトゲのサボテンにしちゃうんだから!」
手裏剣を放つと、直線の軌道はゴブリンの首元に叩きこまれた。
覚醒しても、赤い瞳が琥珀色に変わる程度なエヴァンスは、獰猛な笑みを口元で浮かべると、緑色の刀身を持つグレートソードを上段に構えた。
「我が名はエヴァンス・カルヴィ! 悪を断つ剣なり!」
口上を無視して襲いかかってくるゴブリンの攻撃を避けようともせず、エヴァンスは大剣を渾身の力で振り下ろす。
十分な威力と重量を持った剣先は文字通りゴブリンを真っ二つにした。
猛獣を思わせる犬歯を魅せるリオン。右手の甲には獅子の紋章が浮かび、紋章から金色の燐光が全身を包む様に放たれていた。
膨れた四肢の筋肉が圧倒的な力を感じさせる。
「ボッコボコにしてあげるじゃん♪」
クルッと宙返りしながら、ゴブリンの攻撃を避けると装着しているナックルを繰り出した。
狙いはゴブリンの脚。逃亡を防ぐ為だ。
十色は目のハイライトが消えて、生気の抜けた人形な様な雰囲気になる。
馬車の屋根に立っているのは目立つのか、ゴブリンの放った矢が飛んできた。
「そんな雑なの、当たらないよ」
避けるまでもない。反撃とばかり、草原側で弓を構えているゴブリン2体に魔法を唱える。
一瞬、十色の背中に9つの羽のような形のオーラが現れた。直後、発生した眠りの雲でゴブリン2体は睡眠状態に入った。
クラリッサの黒い瞳と髪が青く変化し、風になびく髪は、グラデーションが波打つかのように蠢いた。
「良い風が吹いておる。風の導くままに……じゃな」
仮の姿から正しき自分の姿になったクラリッサは短杖を森の方角に向けた。
そこにも、弓を持つゴブリンがいるからだ。
彼女の唱えた眠りの雲の魔法は確実に森の中で弓を構えているゴブリンを眠らせる。
行商を装う為に軽装だったエルヴィアはゴブリンの攻撃を受けたが、祖霊の力を武器に込め、槍を大きく振り抜く。
エルヴィアの美しい顔の額からは、一角獣を思わせる白い角が生えていた。
また、背部下の辺りから白毛の尻尾が伸びている。腰まで届く純白の髪と泡雪の様な肌と合わさって、幻獣の様だ。
「これを、受けてみなさい」
繰り出した槍の一撃をゴブリンは身体で受け止める事になってしまった。
貫かれたゴブリンは動きを止める。
戦闘開始して10秒程度で既にゴブリンは壊滅状態となった。
弓持ちのゴブリンは無力化され、接近戦を挑んだゴブリンは半壊だ。
ゴブリンの士気は完全になくなり、逃げ去ろうとしている。人間の女ばかりだと思ってナメていたのだろう。
「閃いて、碧き風! いっくよォ!」
テトラの二射目は脚を負傷して逃げようとしたゴブリンの後頭部を直撃した。
逃げ出す残りのゴブリンをエヴァンスとリオンが追いかける。
宙を裂いて槍が飛ぶ。エルヴィアが投げた物だ。
投てき用の武器ではないが、ゴブリンの脚に当たり、バランスを崩して派手に転がる。
「逃げちゃダメじゃん」
ゴブリンを身体で押さえつけ、右拳を掲げた。
脱出しようと、もがいて抵抗するゴブリンに、狂気的な瞳を向けるリオン。
文字通り、頭が木端微塵になるまで拳を叩きこむ姿は鬼の様だ。
「背中が無防備だぜ!」
エヴァンスが大剣を振り下ろす。
背中をパックリと斬られ、ゴブリンは数歩よろよろと進んでから倒れた。
これで、接近戦を挑んできたのは、全て倒した。
「しょせん、ゴブリンはこの程度という事じゃな」
敵を切り裂く風の刃を寝ているゴブリンに向かって放つクラリッサ。
ゴブリン相手には強烈過ぎるようで、きっと、眠りから覚めた瞬間、あの世に意識は飛んでいるに違いない。
「この程度なのか……」
少し残念そうなのは十色だ。普通のゴブリン退治が初めてというのもあり、予想とは違っていたかもしれない。
十色が放つ水球の魔法は、眠っているゴブリンを確実に仕留めていた。
前衛が弓を持ったゴブリンに近付く前に、2人の魔術師によって、片はついてしまった。
「ゴブちゃんは、これで全部じゃん」
単なる骸となったゴブリンを一ヶ所に集めてリオンが言った。
数は10体。
依頼されている数ぴったりだ。無事に全部倒しきった。
「どうしようか?」
「埋めるか、荼毘するか……かしらね」
十色の質問にエルヴィアが答える。
「よし! じゃ、俺は運動したりねぇから、掘るか」
「あたしも、穴掘るね~」
エヴァンスが大剣を地面に降ろすと、テトラは馬車から飛び降りる。
「なら、馬車の中になにか道具があるか見てくるぜ」
馬車の中に入るエヴァンス。
だが、次の瞬間、彼の動きが止まる。
「ふむ……汝は、そういうのが好きか」
クラリッサが今まさに着替えようとしている所だったからだ。
慌てたあまり、馬車から転げ落ちるエヴァンスだった。
●廃村にて
ゴブリンに襲われて放棄されたという村の広場にハンター達はやってきた。
依頼対象であったゴブリンは退治したので、ここまで来る必要はなかったのだが、街道で息絶えていた男をこの村で埋葬しようと思ったからだ。
広場の中央には墓標の様な物が立っていた。
「『村を守る為に天に召された我らの仲間、ここに眠る』……村人達が残した物かしら?」
エルヴィアは墓標の様な物に記されていた文字を読んで、そんな感想をついた。
村人達はゴブリンの襲撃に抵抗し、支えきれないと悟って廃村を決めたのだろう。
詳しい話は、古都に戻って、かつて、この村の住民だった人に聞けばわかるはずだ。
「誰かを亡くす悲しみは分からないでもないから」
悲しげに呟いたエルヴィアの横をリオンが通り過ぎる。
「これ、ちょーいい感じじゃん」
村はずれで咲いていた花を集め、墓標の様な物の傍に飾る。
男の遺体はここの傍に埋めた。
村人達の魂と一緒の方が良いだろう。
その時、一陣の風が吹き抜けた。花びらが舞い、空に上がっていく。
リオンが瞳を輝かせたのを見て、エルヴィアは微笑を浮かべた。
出発前に男の事を調べていた十色は神妙な顔をしている。
大切な人をゴブリンの襲撃で失ったと聞いた。
この男が、深い悲しみのあまり死地を求めていたのは容易に想像できる。
「大切な人、か……」
マギア砦に向かう船上での戦いを思い出した。現れた十三魔と対峙し、重傷を負った友人の事も。
結果的に命を落とさなかった。だが、結果としてそうだっただけで、死んでいた結果もありえたかもしれない。
クラリッサが、気持ちの切り替えになればと、十色に声をかける。
「エニアよ。この男について調べていたようじゃが、なにか分かったのか?」
「それは、俺も気になる所だな」
辺りを見渡しながらエヴァンスがクラリッサに追随する。
「特にバリケードを突破するのにスライムを使ったというじゃないか」
一般人が扱えるような怪物ではない。
それを一体、どこでどうやって手にいれたのか。
「きっと、スライムを物々交換してる人がいるんだよ」
テトラの突拍子もない冗談に、エヴァンスがため息をつく。
「じゃ、そのスライムはどこから来るんだ?」
「あ……そっか……」
テヘ☆っと、可愛げな身振りをしたテトラとは別に、そのやり取りを見ていた十色がハッとする。
「もしかして、この事件。裏があるかもしれない……」
古都に戻ったら、もっと詳しく調べようと思い至る。
「なら、古都に帰ったら、皆で調べてみるか」
エヴァンスが宣言をする。
「はーい!」
「そうじゃの」
テトラとクラリッサの声が重なった。
ハンター達の仕事はもう少し続きそうだ。
古都に戻ったハンター達は死んだ男の足取りを追った。
その結果、居なくなる前日、『嘆きの橋』という場所付近で目撃されている事が分かった。
しかし、一行は『嘆きの橋』に行くも、それ以上の情報を得る事はできなかったのであった。
おしまい。
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来いよゴブリン。怖いのか? 十色・T・ エニア(ka0370) 人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/02/23 16:48:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/19 02:56:58 |