ゲスト
(ka0000)
羊が農村を食い尽くす
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 15:00
- 完成日
- 2014/06/21 12:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
リゼリオより南方に広がる広大な農地。
そこで農作業をしている農民の一人が、何気無く遠くを眺めると、異質なものを目撃した。
巻き上がる土煙。こちらに向かってくる。次第に聞こえてきだしたのは足音だ。
無数の獣の駆ける音。やがて姿が見える。
「ひっ……ひ、ひ、ひ、ひ」
農民は目を見開く。
その目に映ったものは、白くふわふわした毛と、螺旋状に曲がった角、そして、体に似つかわしくない凶悪な面構え……。
「ひつじだあ!!!」
どうしてそうなったのか、彼にはわからなかった。
本来、羊というものはとても平和そうな顔をしている。
距離の離れた、つぶらな瞳。長い顔。微笑むかのように弧を描いた口。
そういうものだったはずだ。しかし、ハンターズソサエティに依頼に来たその老人は興奮してこう語った。
「眉間にはシワがより、目は血走って赤く、歯を剥き出しにしておりましたのじゃ! ありゃあ怒り狂ったジャイアントさながらの凶悪なツラですわい!!」
この老人がジャイアントを見たことあるのかどうかはさておき、農地に凶悪な羊の群れが現れ、農作物を食い荒らし、そのまま居着いた……という。
「畑は踏み荒らすわ、作物は食い荒らすわ、追い払おうとした村の若い衆は蹴り飛ばされるわ、子供は見ただけで泣き出す始末!」
そのような動物は存在しない。
雑魔、と見ていいだろう。
直接人を襲って食べたりはしないものの、放っておけば農業にダメージを被ってしまうことは容易に想像できるはずだ。
「お助けくだされェェ~~~!!!」
程よく日焼けした、農作業で鍛えられた頑健な体を持つ老人は、その逞しい手を合わせて、泣き崩れるようにして懇願した。
「お見苦しいところをお見せしましたじゃ」
老人は涙をぬぐいながらも、ひとまず落ち着いた。
「ひつじどもは農業用地に陣取っておりますですじゃ……。
周りには農作物がまだ無事なところもあります。みなさん、それらは荒らさぬようお願いしたく存じます……。
百姓どもには出来うる限り注意は促しておりますゆえ……農場に人はおらんと思います……。
……そうそう、役に立つかはわかりませぬが、羊は先導者に着いていく習性があるとか……」
老人はそこまで言うと、また疲れ果てた表情に戻った。
そこで農作業をしている農民の一人が、何気無く遠くを眺めると、異質なものを目撃した。
巻き上がる土煙。こちらに向かってくる。次第に聞こえてきだしたのは足音だ。
無数の獣の駆ける音。やがて姿が見える。
「ひっ……ひ、ひ、ひ、ひ」
農民は目を見開く。
その目に映ったものは、白くふわふわした毛と、螺旋状に曲がった角、そして、体に似つかわしくない凶悪な面構え……。
「ひつじだあ!!!」
どうしてそうなったのか、彼にはわからなかった。
本来、羊というものはとても平和そうな顔をしている。
距離の離れた、つぶらな瞳。長い顔。微笑むかのように弧を描いた口。
そういうものだったはずだ。しかし、ハンターズソサエティに依頼に来たその老人は興奮してこう語った。
「眉間にはシワがより、目は血走って赤く、歯を剥き出しにしておりましたのじゃ! ありゃあ怒り狂ったジャイアントさながらの凶悪なツラですわい!!」
この老人がジャイアントを見たことあるのかどうかはさておき、農地に凶悪な羊の群れが現れ、農作物を食い荒らし、そのまま居着いた……という。
「畑は踏み荒らすわ、作物は食い荒らすわ、追い払おうとした村の若い衆は蹴り飛ばされるわ、子供は見ただけで泣き出す始末!」
そのような動物は存在しない。
雑魔、と見ていいだろう。
直接人を襲って食べたりはしないものの、放っておけば農業にダメージを被ってしまうことは容易に想像できるはずだ。
「お助けくだされェェ~~~!!!」
程よく日焼けした、農作業で鍛えられた頑健な体を持つ老人は、その逞しい手を合わせて、泣き崩れるようにして懇願した。
「お見苦しいところをお見せしましたじゃ」
老人は涙をぬぐいながらも、ひとまず落ち着いた。
「ひつじどもは農業用地に陣取っておりますですじゃ……。
周りには農作物がまだ無事なところもあります。みなさん、それらは荒らさぬようお願いしたく存じます……。
百姓どもには出来うる限り注意は促しておりますゆえ……農場に人はおらんと思います……。
……そうそう、役に立つかはわかりませぬが、羊は先導者に着いていく習性があるとか……」
老人はそこまで言うと、また疲れ果てた表情に戻った。
リプレイ本文
●羊のいる風景(剣呑)
本来ならば緑が美しい農場の風景だったのだろう。遠くからでも作物が食い荒らされた様子が目立つ。
「戦場を選ぶのは獲物じゃない、ハンターだ」
猟撃士たるライナス・ブラッドリー(ka0360)は語る。農場に現れた雑魔を退治するため、ハンター達が最初にしなければならなかったのは、まずは全力で戦える場所を確保することだった。
「戦ってると、周りとか見えなくなるタチなんで、あんまり気にしねぇでやれるとこが良い、です」
八城雪(ka0146)は、その言葉通りに作物が食い荒らされ地面も踏み荒らされ、畑として見る影も無くなったが開けていて邪魔になるものがない、そんな場所を見つけることが出来た。
雪の言い様では『思い切り暴れられる場所』を探しただけのように聞き取れるが、農作物を荒らさないようにという配慮が主な理由である。結果は同じことだったが。
「悪いことをするひつじさんはおしおきだっ!」
畑の惨状に怒りを覚えたのか、アニス(ka0306)は戦斧を握る手に力を入れる。
「にゃ!」
ペンギンのフードをかぶった水晶(ka1744)も同意するように武器を振り回して意気込みを見せた。
その場所は雑魔の陣取っている場所からは離れていたが、雑魔の姿はそこからでも眺めることが出来た。
雑魔――羊が群れを成している。
……遠目には長閑なのだが、かれらは雑魔。現に陣取っている場所は荒らされており、離れていてもまるで暴徒の集会のように、ピリピリした空気が伝わってくる。
「羊相手なのが不満だけど切り刻んで調子を取り戻すには丁度良い相手よね」
十六夜(ka0172)はそんな空気も楽しむかのように、剣の重みを確かめていた。
一方、イレーヌ(ka1372)、クリスティーネ・メルマム(ka0221)、東郷 猛(ka0493)の三人は、百姓達に交渉を持ちかけていた。
羊をおびき寄せる餌とする野菜を分けてもらえないかという内容だった。
かれらの作戦はこうだ――畑の作物を荒らさぬよう、数人が雑魔を作物等が無いところまでおびきよせ、追って来た所を待ち伏せている仲間達が包囲する。
「こういった農場を守らなければ俺達の食生活も厳しくなるからな……」
猛は譲ってもらった野菜を手に、打倒歪虚の決意を新たにする。
居住区から離れ、農場に踏み入って間もなくして、羊達の姿が目に入った。
「沢山いますね。1匹、2匹、3匹……両手じゃ収まりきれない」
クリスティーネは遠くからその様子を見やる。
「普通の羊なら可愛げがあって好きなのだが……」
聞く限りは別物だろう。イレーヌはそう判断し、遠慮なく叩けるから好都合と結論付けた。
●第一次囲い込み
全員が合流し、作戦は実行に移された。雪と猛の二人はその体にしっかりとロープを結わえ(結び目は蝶々結びですぐ解ける)、反対側に野菜を詰め込んだバケツをくくりつける。これを餌に羊をおびき寄せるのだ。
羊どもを刺激し、仲間達が待機している場所までおびき寄せれば作戦は成功だ。
二人はライナスの提案で、風上から回り込んで羊達の陣取っている地点へと近づいた。
ある程度近寄ったところで待機している仲間達を見る。
アニスが笑顔で手を振って応えた――準備完了。
雪と猛は互いにうなづくと、それぞれ覚醒状態に入り、標的へと近づいた。
「メ゛ェエ?」
羊の一匹が気づいた。
それは羊の声だったが、中年男性がドスの効いた声で「あぁん?」と言うような調子だった。
離れた所から明らかな敵意を感じる。羊の皮を被った凶悪犯みたいな奴が、こいつはヤバいと思わせるような視線を向けられた。
いつの間にか全員が雪と猛を見ていた。緊張が走る。
雪は餌の入った桶を強調するように見せ、猛は小さな餌をばら撒いて気を引こうとする。
「メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」
突然この世のものとは思えない絶叫が響いた。
異変を察した二人は仲間の待つ地点目掛けて反射的に駆け出した。
一体が絶叫して駆け出すと、他の羊達も同じように叫んでそれに続く。羊と言うよりまるで荒々しい獣達だ。
逃げる二人。追う羊達。
奇妙に勇壮な羊飼いの行進だ。
覚醒者の脚力は常人を遥かに上回る。土煙をあげ走る二人は――しかし差は詰められつつあった。
四本足の獣の歪虚の速さは尋常ではなかった。
二人は速度を上げる。仲間のいる所まではもう少しだ。もう少し――
――だがそこで羊の角が猛を捕らえた。
体勢を低くしての突進からの突き上げ――190cm104kgの巨体が宙を舞う。
その速度と質量は、確実に人が殺せる衝撃を生んでいた。
衝撃で餌を入れた桶が外れ、羊達はそれに殺到する――もっとも、食欲と言うより闘争本能にかられていたような感じだ。
「今だ、囲め!」
退路を断つために控えていたライナスとイレーヌが羊の群れの後方に立つ。この二人は羊が群れから逸れぬよう注視していたが、羊どもは一匹として群れから離れなかった。同時に他のメンバーも陣形を展開し、包囲する。雪は追いつかれることなく攻撃へと転向した。
……作戦は成功だ。
●ユートピアの崩壊
「猛さんは!」
クリスティーネは回復の必要性も考え猛を振り返る。宙を飛んで地面に叩きつけられたまでは見た。
果たして、猛はもう立ち上がっていた。
「この程度、何でも無い!」
両脚を開き上半身を低くして構える。青白いオーラが立ち昇り、ティラノサウルスの姿を取った。
そして、地面を拳で叩くと前に向かって駆ける。
「どっせええええええええええええッ!!!」
爆発的な脚力で駆ける。今度は猛の強烈なブチカマシが、羊の一体を吹っ飛ばした。
背中から地面に叩きつけられる羊。こちらはそのまま泡を吹いて動かなくなった。
それを合図に、仲間達は続いた。
「ボクは誇り高きウルスラの戦士、アニス! 悪いひつじさんめっ、正義の鉄槌を受けてみよー!」
ここぞとばかりに名乗りをあげるのはアニス。力強い踏み込みから、戦斧で敵を強打する。
「大丈夫、苦しまないように一撃で終わらせるからさぁ!」
十六夜は側面に回りこんでからの斬撃を繰り出す。
剣が閃くと、羊の首がぼとりと落ちた。
雪もまた剣を一閃させ、羊の一体を血祭りにあげていた。
「これこれ、この感覚、マジさいっこー、です」
凄惨な笑みで悦に浸る。
「メ゛ッ!?」「メ゛エエ!」
何だと?! びびるな、やっちまえ! というふうに羊達がいきり立つ。
羊達は再び強襲した。
短い助走をつけての突進。イレーヌは盾をかざしこれを受ける。
「確かに強いが……耐えられないほどでは、ない」
包囲の輪からは逃さない。勢いを力で押さえつけ、ロッドで反撃に出る。
「その機動力、殺がせてもらう」
狙い澄ましたライナスの銃が、羊の大腿部を撃ち抜いた。
天を仰ぎ絶叫する羊。脚を引きずっては蹴りも突進も叶わない。
「……4匹、5匹、6匹! 皆さん、この調子です!」
癒し手でもあるクリスティーネは全体を確認しながら倒れた敵の数を数える。自らも武器を振るい短期決戦を狙う。
「……7匹目っ!」
『メイスファイティング』により強化されたクリスティーネのロッドが、羊を叩きのめした。
「にゃー!」「メ゛エエー!」
羊と真正面から向き合うのはペンギン、否、水晶。言動はユーモラスだがその剣筋は本物だ。不思議エルフの剣戟が羊雑魔を血祭りにあげていく。
ハンター達は数で劣るものの優勢に戦いを運んだ。しかし、獣というのは追い詰められるほど凶暴になるものである。
数の減った雑魔たちは密集し始めていた。
「ヒャッハぁぁーー!」
これまでの勢いに乗って雪が斬り込んでいく。
踏み込んでからの上段から振り降ろされた刃を……羊は、僅かに身体の向きを変えて、羊毛で受けた。
獣の毛は束ねられると強靭になる。それが羊ならばそれだけ毛は多く、ちょっとした鎧のようなものだ。刃は身体に達しはしたものの、致命傷には至らない。
「メ゛ッ!」
気づくと、別の羊がすぐ横に迫っていた。
跳ねて身体を回転させてからの蹴りが来る。雪は直撃を受けつつも、剣は手放さずに後ろへと下がる。
「野郎、やりやがったな、です」
「精霊よ、癒しを!」
イレーヌがすぐさま反応し『ヒール』をかける。柔らかな光が雪を包み、傷を癒していく。
「獣にしては連携がとれるな、だがこれはどうだ」
ライナスが狙いを定める。
狙い澄ました一撃が、密集した羊のうち一体の首元の動脈を撃ち抜いた。
遠距離の攻撃には対応できない。その隣の一体目掛けて十六夜が駆け込む。
羊はあえて避けずにそれを迎え撃つ。またもやダメージ覚悟で仲間に反撃を託すつもりだ。
「コレは防げないよ!」
力強く踏み込んでの、刺突。全体重をかけた一撃が繰り出された。
鋭い一撃が羊毛ごと身体を貫いた。
返り血を浴びて十六夜は満足げに笑う。
「やられっぱなしでいられるか、です!」
雪は剣を片手に羊の一体に飛び掛る。
羊はそれに反応して回転し蹴りを放った。雪は紙一重で避け、羊の脚が降りる一瞬にその背に飛び乗る。
左手で押さえ込み、逆手に持った剣を頚椎に深々と突き刺す。軍人仕込の戦闘術だ。
夥しい血を噴出しながら羊は崩れ落ちた。
敵の数が減ったことで包囲の輪を狭めていく。猛は勢いそのままに、すり足で距離を詰めていく。
血走った目の羊が、先手を取ろうと突進した。
「勢いだけでは通用せんぞ!」
上体を低くし猛もぶつかっていく。両者はそのまま激突し、組み合った。猛は手を伸ばし、腰あたりの豊かな毛を掴んで持ち上げる。
「でりゃあ!」
そのまま豪快に投げ飛ばす。――相撲の決まり手八十二手の一つ、上手投げだ。
だが、今は一対一の格闘技とは違う点がある――別の一体が横方向から蹴りかかってくる。
その時猛の影から何かが飛び出した。その様子はさながら氷海を矢のように泳ぐペンギン――水晶が羊に剣を突き立てた。
130cm25kgの小柄な体躯を利用し猛の影に隠れて敵に近づいていたのだ。
「にゃ」
フッと笑って猛に親指を立てる。
大男と小男の凸凹コンビの心が一瞬、重なった。
「さああと2匹です! 一気に片付けてしまいましょう!」
「まかせてー! いっくよー!」
クリスティーネとアニスが一気に畳み掛けようと仕掛ける。
高く掲げられた、アニスの全長100cmの戦斧が唸りをあげて振り下ろされた。
「成敗っ☆」
「メ゛ェ」
圧倒的な威力――それは羊の脳天に過たず振り下ろされ、頭部を叩き潰しただけで飽き足らず、地面を穿った。
「さすがは武勇の誉れ高きドワーフの戦士! 私も負けていられません!」
残る一匹にクリスティーネは向かい合い、ロッドを構える。
「メ゛ェェェェ……メ゛ェー!」
最後の一体になっても羊は怯えを見せず、凶悪な顔で雄叫びをあげ続けていた。
「悪いけど……畑を荒らすのはここまでよ!」
「メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッ!」
死に花を咲かせんとばかりに羊は突進してくる。
クリスティーネは一歩も退かずに、ただ、狙いを定めた。
両横に角のある、眉間に向けて振り下ろされたロッドに羊自身の突進が生んだ衝撃が加わる。クリスティーネは地面を強く踏みしめ、突進の勢いに耐えた。
右手に瞬時に凄まじい重量がかかる。
しかし、民の為に闘うのも貴族の務め――その信念を体現するように、クリスティーネは押し勝った。
羊は力なくその場に倒れこみ、
身体は崩れていく。
「これで……最後の……1匹……」
●羊達の沈黙
羊達はもういない。あれほどうるさかった喧騒が嘘のように静まり返っている。雑魔は死ぬと体が崩れ去り残らない。残ったのは荒れ果てた農場の風景と、八人のハンターの姿だけだった。
「数多くてなかなか楽しめたけど、次はもうチョイ骨が有るヤツとやりてぇ、です」
「だね、次は強いのが斬りたいよね」
恍惚とした表情の雪と十六夜。衣服は返り血で真っ赤に染まっており、汚れを気にするそぶりは微塵も見せない。
「にゃっ!」
それに並んで血まみれのペンギンがニヒルな笑みを浮かべた。
なんだか大量殺戮をしでかしたペンギンとでも形容するようなカオスな絵が出来上がった。血まみれの女二人が傍らにいることでカオス具合も倍増である。
ライナスは煙草に火を付けて一服する。
その横で、クリスティーネが大きなあくびをした。思わず見てしまうライナス、クリスティーネは照れ笑いを浮かべる。
「なんだか突然眠気が……」
「羊でも数えすぎたか?」
イレーヌ、猛、アニスは荒らされた農場の整備を申し出た。
申し出を受けたのは依頼人の老人であったが――涙を流して喜んだ。
「羊を退治して下さっただけでなく、そこまでしていただけるとは、ハンター様様ですじゃ!!!」
「壊れちゃった柵や道具なんかがあれば直してあげるよ! 大工仕事は朝飯前なんだから!」
快活に申し出るアニスを老人は拝まんばかりだ。
何しろ割と広大な農場……人手は貴重である。
「いやいや、困った時はお互い様ですぞ」
猛は豪快に笑う。実際、猛は労働力数人分にも匹敵するだろう。数十人分かもしれない。
「ところでここで作られた野菜を幾つか土産にもらえないだろうか?」
「どうぞどうぞ! いくらでもお持ちくだされ」
イレーヌの提案にも老人は快く応じる。
「ありがとう! いい酒のつまみになりそうだ!」
どう見ても10歳前後の少女のイレーヌの言葉に老人は耳を疑った。
こうしてハンター達は農場の危機を救った。
大局的に見れば決して大きな事件ではなかったかもしれないが、農村の人々にとっては、かれらは確かに『希望』をもたらしたのだ……。
本来ならば緑が美しい農場の風景だったのだろう。遠くからでも作物が食い荒らされた様子が目立つ。
「戦場を選ぶのは獲物じゃない、ハンターだ」
猟撃士たるライナス・ブラッドリー(ka0360)は語る。農場に現れた雑魔を退治するため、ハンター達が最初にしなければならなかったのは、まずは全力で戦える場所を確保することだった。
「戦ってると、周りとか見えなくなるタチなんで、あんまり気にしねぇでやれるとこが良い、です」
八城雪(ka0146)は、その言葉通りに作物が食い荒らされ地面も踏み荒らされ、畑として見る影も無くなったが開けていて邪魔になるものがない、そんな場所を見つけることが出来た。
雪の言い様では『思い切り暴れられる場所』を探しただけのように聞き取れるが、農作物を荒らさないようにという配慮が主な理由である。結果は同じことだったが。
「悪いことをするひつじさんはおしおきだっ!」
畑の惨状に怒りを覚えたのか、アニス(ka0306)は戦斧を握る手に力を入れる。
「にゃ!」
ペンギンのフードをかぶった水晶(ka1744)も同意するように武器を振り回して意気込みを見せた。
その場所は雑魔の陣取っている場所からは離れていたが、雑魔の姿はそこからでも眺めることが出来た。
雑魔――羊が群れを成している。
……遠目には長閑なのだが、かれらは雑魔。現に陣取っている場所は荒らされており、離れていてもまるで暴徒の集会のように、ピリピリした空気が伝わってくる。
「羊相手なのが不満だけど切り刻んで調子を取り戻すには丁度良い相手よね」
十六夜(ka0172)はそんな空気も楽しむかのように、剣の重みを確かめていた。
一方、イレーヌ(ka1372)、クリスティーネ・メルマム(ka0221)、東郷 猛(ka0493)の三人は、百姓達に交渉を持ちかけていた。
羊をおびき寄せる餌とする野菜を分けてもらえないかという内容だった。
かれらの作戦はこうだ――畑の作物を荒らさぬよう、数人が雑魔を作物等が無いところまでおびきよせ、追って来た所を待ち伏せている仲間達が包囲する。
「こういった農場を守らなければ俺達の食生活も厳しくなるからな……」
猛は譲ってもらった野菜を手に、打倒歪虚の決意を新たにする。
居住区から離れ、農場に踏み入って間もなくして、羊達の姿が目に入った。
「沢山いますね。1匹、2匹、3匹……両手じゃ収まりきれない」
クリスティーネは遠くからその様子を見やる。
「普通の羊なら可愛げがあって好きなのだが……」
聞く限りは別物だろう。イレーヌはそう判断し、遠慮なく叩けるから好都合と結論付けた。
●第一次囲い込み
全員が合流し、作戦は実行に移された。雪と猛の二人はその体にしっかりとロープを結わえ(結び目は蝶々結びですぐ解ける)、反対側に野菜を詰め込んだバケツをくくりつける。これを餌に羊をおびき寄せるのだ。
羊どもを刺激し、仲間達が待機している場所までおびき寄せれば作戦は成功だ。
二人はライナスの提案で、風上から回り込んで羊達の陣取っている地点へと近づいた。
ある程度近寄ったところで待機している仲間達を見る。
アニスが笑顔で手を振って応えた――準備完了。
雪と猛は互いにうなづくと、それぞれ覚醒状態に入り、標的へと近づいた。
「メ゛ェエ?」
羊の一匹が気づいた。
それは羊の声だったが、中年男性がドスの効いた声で「あぁん?」と言うような調子だった。
離れた所から明らかな敵意を感じる。羊の皮を被った凶悪犯みたいな奴が、こいつはヤバいと思わせるような視線を向けられた。
いつの間にか全員が雪と猛を見ていた。緊張が走る。
雪は餌の入った桶を強調するように見せ、猛は小さな餌をばら撒いて気を引こうとする。
「メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」
突然この世のものとは思えない絶叫が響いた。
異変を察した二人は仲間の待つ地点目掛けて反射的に駆け出した。
一体が絶叫して駆け出すと、他の羊達も同じように叫んでそれに続く。羊と言うよりまるで荒々しい獣達だ。
逃げる二人。追う羊達。
奇妙に勇壮な羊飼いの行進だ。
覚醒者の脚力は常人を遥かに上回る。土煙をあげ走る二人は――しかし差は詰められつつあった。
四本足の獣の歪虚の速さは尋常ではなかった。
二人は速度を上げる。仲間のいる所まではもう少しだ。もう少し――
――だがそこで羊の角が猛を捕らえた。
体勢を低くしての突進からの突き上げ――190cm104kgの巨体が宙を舞う。
その速度と質量は、確実に人が殺せる衝撃を生んでいた。
衝撃で餌を入れた桶が外れ、羊達はそれに殺到する――もっとも、食欲と言うより闘争本能にかられていたような感じだ。
「今だ、囲め!」
退路を断つために控えていたライナスとイレーヌが羊の群れの後方に立つ。この二人は羊が群れから逸れぬよう注視していたが、羊どもは一匹として群れから離れなかった。同時に他のメンバーも陣形を展開し、包囲する。雪は追いつかれることなく攻撃へと転向した。
……作戦は成功だ。
●ユートピアの崩壊
「猛さんは!」
クリスティーネは回復の必要性も考え猛を振り返る。宙を飛んで地面に叩きつけられたまでは見た。
果たして、猛はもう立ち上がっていた。
「この程度、何でも無い!」
両脚を開き上半身を低くして構える。青白いオーラが立ち昇り、ティラノサウルスの姿を取った。
そして、地面を拳で叩くと前に向かって駆ける。
「どっせええええええええええええッ!!!」
爆発的な脚力で駆ける。今度は猛の強烈なブチカマシが、羊の一体を吹っ飛ばした。
背中から地面に叩きつけられる羊。こちらはそのまま泡を吹いて動かなくなった。
それを合図に、仲間達は続いた。
「ボクは誇り高きウルスラの戦士、アニス! 悪いひつじさんめっ、正義の鉄槌を受けてみよー!」
ここぞとばかりに名乗りをあげるのはアニス。力強い踏み込みから、戦斧で敵を強打する。
「大丈夫、苦しまないように一撃で終わらせるからさぁ!」
十六夜は側面に回りこんでからの斬撃を繰り出す。
剣が閃くと、羊の首がぼとりと落ちた。
雪もまた剣を一閃させ、羊の一体を血祭りにあげていた。
「これこれ、この感覚、マジさいっこー、です」
凄惨な笑みで悦に浸る。
「メ゛ッ!?」「メ゛エエ!」
何だと?! びびるな、やっちまえ! というふうに羊達がいきり立つ。
羊達は再び強襲した。
短い助走をつけての突進。イレーヌは盾をかざしこれを受ける。
「確かに強いが……耐えられないほどでは、ない」
包囲の輪からは逃さない。勢いを力で押さえつけ、ロッドで反撃に出る。
「その機動力、殺がせてもらう」
狙い澄ましたライナスの銃が、羊の大腿部を撃ち抜いた。
天を仰ぎ絶叫する羊。脚を引きずっては蹴りも突進も叶わない。
「……4匹、5匹、6匹! 皆さん、この調子です!」
癒し手でもあるクリスティーネは全体を確認しながら倒れた敵の数を数える。自らも武器を振るい短期決戦を狙う。
「……7匹目っ!」
『メイスファイティング』により強化されたクリスティーネのロッドが、羊を叩きのめした。
「にゃー!」「メ゛エエー!」
羊と真正面から向き合うのはペンギン、否、水晶。言動はユーモラスだがその剣筋は本物だ。不思議エルフの剣戟が羊雑魔を血祭りにあげていく。
ハンター達は数で劣るものの優勢に戦いを運んだ。しかし、獣というのは追い詰められるほど凶暴になるものである。
数の減った雑魔たちは密集し始めていた。
「ヒャッハぁぁーー!」
これまでの勢いに乗って雪が斬り込んでいく。
踏み込んでからの上段から振り降ろされた刃を……羊は、僅かに身体の向きを変えて、羊毛で受けた。
獣の毛は束ねられると強靭になる。それが羊ならばそれだけ毛は多く、ちょっとした鎧のようなものだ。刃は身体に達しはしたものの、致命傷には至らない。
「メ゛ッ!」
気づくと、別の羊がすぐ横に迫っていた。
跳ねて身体を回転させてからの蹴りが来る。雪は直撃を受けつつも、剣は手放さずに後ろへと下がる。
「野郎、やりやがったな、です」
「精霊よ、癒しを!」
イレーヌがすぐさま反応し『ヒール』をかける。柔らかな光が雪を包み、傷を癒していく。
「獣にしては連携がとれるな、だがこれはどうだ」
ライナスが狙いを定める。
狙い澄ました一撃が、密集した羊のうち一体の首元の動脈を撃ち抜いた。
遠距離の攻撃には対応できない。その隣の一体目掛けて十六夜が駆け込む。
羊はあえて避けずにそれを迎え撃つ。またもやダメージ覚悟で仲間に反撃を託すつもりだ。
「コレは防げないよ!」
力強く踏み込んでの、刺突。全体重をかけた一撃が繰り出された。
鋭い一撃が羊毛ごと身体を貫いた。
返り血を浴びて十六夜は満足げに笑う。
「やられっぱなしでいられるか、です!」
雪は剣を片手に羊の一体に飛び掛る。
羊はそれに反応して回転し蹴りを放った。雪は紙一重で避け、羊の脚が降りる一瞬にその背に飛び乗る。
左手で押さえ込み、逆手に持った剣を頚椎に深々と突き刺す。軍人仕込の戦闘術だ。
夥しい血を噴出しながら羊は崩れ落ちた。
敵の数が減ったことで包囲の輪を狭めていく。猛は勢いそのままに、すり足で距離を詰めていく。
血走った目の羊が、先手を取ろうと突進した。
「勢いだけでは通用せんぞ!」
上体を低くし猛もぶつかっていく。両者はそのまま激突し、組み合った。猛は手を伸ばし、腰あたりの豊かな毛を掴んで持ち上げる。
「でりゃあ!」
そのまま豪快に投げ飛ばす。――相撲の決まり手八十二手の一つ、上手投げだ。
だが、今は一対一の格闘技とは違う点がある――別の一体が横方向から蹴りかかってくる。
その時猛の影から何かが飛び出した。その様子はさながら氷海を矢のように泳ぐペンギン――水晶が羊に剣を突き立てた。
130cm25kgの小柄な体躯を利用し猛の影に隠れて敵に近づいていたのだ。
「にゃ」
フッと笑って猛に親指を立てる。
大男と小男の凸凹コンビの心が一瞬、重なった。
「さああと2匹です! 一気に片付けてしまいましょう!」
「まかせてー! いっくよー!」
クリスティーネとアニスが一気に畳み掛けようと仕掛ける。
高く掲げられた、アニスの全長100cmの戦斧が唸りをあげて振り下ろされた。
「成敗っ☆」
「メ゛ェ」
圧倒的な威力――それは羊の脳天に過たず振り下ろされ、頭部を叩き潰しただけで飽き足らず、地面を穿った。
「さすがは武勇の誉れ高きドワーフの戦士! 私も負けていられません!」
残る一匹にクリスティーネは向かい合い、ロッドを構える。
「メ゛ェェェェ……メ゛ェー!」
最後の一体になっても羊は怯えを見せず、凶悪な顔で雄叫びをあげ続けていた。
「悪いけど……畑を荒らすのはここまでよ!」
「メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッ!」
死に花を咲かせんとばかりに羊は突進してくる。
クリスティーネは一歩も退かずに、ただ、狙いを定めた。
両横に角のある、眉間に向けて振り下ろされたロッドに羊自身の突進が生んだ衝撃が加わる。クリスティーネは地面を強く踏みしめ、突進の勢いに耐えた。
右手に瞬時に凄まじい重量がかかる。
しかし、民の為に闘うのも貴族の務め――その信念を体現するように、クリスティーネは押し勝った。
羊は力なくその場に倒れこみ、
身体は崩れていく。
「これで……最後の……1匹……」
●羊達の沈黙
羊達はもういない。あれほどうるさかった喧騒が嘘のように静まり返っている。雑魔は死ぬと体が崩れ去り残らない。残ったのは荒れ果てた農場の風景と、八人のハンターの姿だけだった。
「数多くてなかなか楽しめたけど、次はもうチョイ骨が有るヤツとやりてぇ、です」
「だね、次は強いのが斬りたいよね」
恍惚とした表情の雪と十六夜。衣服は返り血で真っ赤に染まっており、汚れを気にするそぶりは微塵も見せない。
「にゃっ!」
それに並んで血まみれのペンギンがニヒルな笑みを浮かべた。
なんだか大量殺戮をしでかしたペンギンとでも形容するようなカオスな絵が出来上がった。血まみれの女二人が傍らにいることでカオス具合も倍増である。
ライナスは煙草に火を付けて一服する。
その横で、クリスティーネが大きなあくびをした。思わず見てしまうライナス、クリスティーネは照れ笑いを浮かべる。
「なんだか突然眠気が……」
「羊でも数えすぎたか?」
イレーヌ、猛、アニスは荒らされた農場の整備を申し出た。
申し出を受けたのは依頼人の老人であったが――涙を流して喜んだ。
「羊を退治して下さっただけでなく、そこまでしていただけるとは、ハンター様様ですじゃ!!!」
「壊れちゃった柵や道具なんかがあれば直してあげるよ! 大工仕事は朝飯前なんだから!」
快活に申し出るアニスを老人は拝まんばかりだ。
何しろ割と広大な農場……人手は貴重である。
「いやいや、困った時はお互い様ですぞ」
猛は豪快に笑う。実際、猛は労働力数人分にも匹敵するだろう。数十人分かもしれない。
「ところでここで作られた野菜を幾つか土産にもらえないだろうか?」
「どうぞどうぞ! いくらでもお持ちくだされ」
イレーヌの提案にも老人は快く応じる。
「ありがとう! いい酒のつまみになりそうだ!」
どう見ても10歳前後の少女のイレーヌの言葉に老人は耳を疑った。
こうしてハンター達は農場の危機を救った。
大局的に見れば決して大きな事件ではなかったかもしれないが、農村の人々にとっては、かれらは確かに『希望』をもたらしたのだ……。
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羊(?)退治相談場 東郷 猛(ka0493) 人間(リアルブルー)|28才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/06/16 01:45:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/15 18:41:31 |