• 不動

【不動】ブラッディー・リバー

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/27 22:00
完成日
2015/03/12 06:31

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

「……族長! 敵軍が、ナナミ川の防衛線を越えました!」
 馬を駆り伝えてきた部族の戦士に、バタルトゥ・オイマト(kz0023)は静かに頷き、報告を聞く。
 時間がないと手短に報告された内容に、バタルトゥは表情を変えぬまま、腕を上げて静かに、後方に控える戦士たちに合図した。
 ナナミ川の防衛ライン、そのほか、この戦いのこれまで戦況がいかなるものであろうと己たちがこの場でやることは変わらない。
 CAM実験場前の防衛線。この場を死守しつつ、敵の目をひきつける。
 CAMや魔導アーマーを率いる殲滅部隊が、引き付けられた敵軍の包囲を完了するその時まで。
 そういう……作戦だ。
 ……言葉にすると、ひどく短く、軽い。
 だが流れる血は決して少なくはないだろう。
 いや、もう既にナナミ川では、どれほどの血が流れたか。
 ナナミ川防衛線だけではない。マギア砦の防衛戦。そこに至るまでの幾多の戦い。
 ……それらで味わってきたものは、決して勝利の美酒だけではなかった。
 未だ飲み込みきれぬ苦汁の味もまだ喉の奥に残っている。
 その味を知りなお、流れた血に報いるために、新たな血を流すのだ。
 不毛な連鎖にも思える戦いの連続。だが、立ち止まり、背を向けるわけには行かなかった。
 退けば、更に多くの血が流れる。戦う覚悟をした戦士の血ではない、希望と名づけられた開拓地に、希望を寄せて集まった多くの無辜の人間の血が。
 だから……バタルトゥは命じる。
 部族を率いる長として、躊躇も後悔も飲み込んで。
「……手筈は伝えたとおりだ。ハンターと連携し、敵の目をこの場にひきつけ、押さえる。……総員、構えろ!」
 号令と共に、怠惰の軍勢がやがてその姿を現し始めた。
 ひどく緩慢に見える動きで近づく怠惰の軍勢。バタルトゥは、その後ろに見えなくなったナナミ川の流れを感じようとした。
 ――己が流す血も。敵が流す血も。心が流す血も。この地ならばやがて大地に染みこみ川に至り、雪いでくれることだろう。
 今は、悔やむことも恐れることも捨て、守るために、一歩でも前へ。
 背後で戦士たちが雄叫びを上げるのにあわせ、バタルトゥもまた、確りと弓を構えた。

リプレイ本文

 矢の雨、降り注ぎ。
 血の川となって流れる。

 会敵と同時に応酬された飛び道具の打ち合いは、人類側の優勢となった。
 整列されたオイマト族の一斉射撃に対し、敵兵の弓は統率を欠き、位置もタイミングもばらけている。
 巨人の放つ強弓の矢を密度で叩き落としながら、降り注いだ矢は味方より敵陣へ到達したものの方がはるかに多い。
 それでも、一網打尽とはいかない。
 矢を掻い潜り、盾で防ぎ、あるいは多少の矢などものともせず。制圧する弾雨の圧力を押しのけ、こちらの喉元に迫らんと敵が前進してくる。
 それを――このために待機していたハンター達が前に出て、迎撃する。
(場違い感が凄いなあ……まあ強そうな人がたくさん居るから平気……かな……)
 シルヴァ グラッセ(ka4008)はそんなことを嘯きながら、一斉射撃を終えたオイマト族たちよりやや前のめりに位置し、突出する敵個体、先頭の出鼻を挫くべく狙い打つ。
「さて、ここでなんとしても敵を食い止めねばなりませんね? ……今まで流れた血に報いるためにも、これ以上無駄な血を流さずに済むように」
 コルネ(ka0207)もそう言って、ロングボウをつがえ前に出る亜人どもの顔めがけて放つ。
「ここを墓場と定めるつもりはありませんが、簡単に退くわけには参りませんね。数多の勇士の死が無駄ではなかったこと。それを証明する為にも…この戦、勝たせていただきます」
 シルウィス・フェイカー(ka3492)も強く己の意志を定め、先頭を行く敵をすばやく狙い撃つ。
「故郷に錦を……なんざ柄でもねえがな。ここがどこにせよ、歪虚に居場所なんかねえのさ」
 アーヴィン(ka3383)もまた、呟くと同時に手にした大弓を引く。狙いをつけるのは序盤の打ち合いで浮き足立ち、孤立した敵の射撃兵。
 敵の尖兵の脚を射撃が鈍らせる隙に、イブリス・アリア(ka3359)が斬り込んで行く。
「出る杭は打たれるって、リアルブルーでは言うらしいぞ」
 先頭に出た敵個体に対し、近接手の一番とばかりに相対し、よろめく相手を強襲する。
「斯様な大群と、正面より相対するのは初めてでございます……」
 開戦前。溜め込まぬようにと吐き出したレオン・イスルギ(ka3168)は、己の声がかすかに震えていることを自覚していた。
 それを、武者震いと己に言い聞かせ。
「辺境部族アマツが戦士、レオン……推して参ります」
 すらりと太刀を抜き放ち、しかし彼女から最初に放たれるのは魔術。眠りの雲が、敵陣営へと放たれる。
「いやあ……いきなり大乱闘だねえ。陸の戦いってのはどうなってんだい」
 アルフォード(ka4161)は飄々とそう言って、手近な敵を殴りつけてひきつけては下がる、を繰り返す。
「……さーて、時間稼ぎ……ってな。兄さん、うちは……此処におるで……」
 白藤(ka3768)は呟いて、首をくるりと回してから前を見据えると、覚醒。
「アルフォード、うちのためにもっと前出てや!」
 叱咤の声を上げると、アルフォードは前線で苦笑する。
「おっと、お嬢。シーラーフージー。こんなトコであうたあ奇遇だねえ……」
 苦笑気味に答えるアルフォード。その間も、手と足は止めてはいない。
「まーとりあえず、ちゃんと頑張るからよ。おっちゃんと頑張ろうぜ、ってなあ」
 白藤も愉しげな笑みを浮かべながら、射撃でそれを援護する。
「……時間稼ぎか。これは結構骨が折れそうな任務だな。まあ、任された以上最善は尽くすが、な」
 先を行く仲間達から、あえて遅れて一歩。皆の動きに合わせられる位置で榊 兵庫(ka0010)が打って出る。
 そうして、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、前に出た仲間達を見やりながら。
「多くの血も、涙も要らぬ……故に、両の手で届く限りは護り抜こうて」
 己の誓いを確かめるように声に出して、呪を唱え、弓をつがえる。
『魔力の矢よ、炎を纏て彼の敵を穿て』
 生まれた赤が、向かい来る矢を炎に包み落とす。

 ハンター達の基本方針は確りしていた。
 オイマト族の射撃を中心としてのヒットアンドアウェイ。
 部族の射撃を、前線を掻い潜って懐にもぐりこみ喉笛に噛みつかんとする敵を、そうなる前にハンターが叩き、しかし敵陣深く誘い込まれる前に、援護を受けながら後退する。
 大勢を、統率力に優れる集団が押さえ、それでも戦術の外に漏れる敵を柔軟性に優れる個人が対応する。というのは、互いの特徴を活かした非常に理にかなった動きといえた。
「お前さん等はとにかく射ちまくれ。それでも邪魔なのを俺らが潰す」
 というのは、イブリスが戦う前にバタルトゥへと告げた言葉。勿論、鵜呑みにして矢鱈目鱈と射ちまくるわけではないが、数度ハンター達のそうした働きが繰り返されると、オイマト族の動きも彼らの動きに対応した形へと変わっていく。
 基本の形を確りと皆が守りながら、その上でよりよい結果を導こうと、各々が考えられる限りを尽くす。
「八ツ原御流東儀解法――“細波”」
 レオンが、低い姿勢から刀を横になぎ払い、相手の姿勢を崩す。
 コルネもまた、射撃においては相手の顔や防具の薄い位置、近接においては脚間接などを狙い、士気を挫き動きを妨害する役割を意識して動く。
 アーヴィンは、「嫌がらせ」という意思を徹底する。逃げる敵は追い。向かい来る敵からは逃げ。立ち止まるならば矢を降らせる。
「狩りと一緒だ。猪相手に正面から仕掛ける必要はねえだろうよ」
 混迷とする戦場の中敵を振り回し、長距離武器を活かし敵の射撃塀を狙って落としていく。
 同じく弓を操るシルフィスが狙うのは最前線の敵。
 敵は多い。狙いを定めるのに時間をかけすぎるのは悪手。命中の上昇はスキルに頼り、目に当たれば幸運と大まかに顔を狙う攻撃を仕掛ける。
 シルヴァも、前に出る仲間を援護するためにと敵の前線狙いで射撃を行う。盾で防がれるようならば後衛に……とも思ったが、その、盾を持つ敵はイブリスが前線で対処していた。イブリスが腕を狙いたまらず盾を下げた敵に対し、シルヴァの矢が突き立てられる。そうして、膝を折った敵を見やると、イブリスは無理に止めは刺さずに次の敵へと向かう。この、イブリスの盾潰しは、オイマト族の射撃もあって戦況に大きく貢献した。
 アルフォードは、瞬脚で遠距離武器を持った敵の下へもぐりこむと、防具の薄いところを狙い一発食らわせて離れ、を繰り返す。とはいえ、先行した奇襲部隊が敵陣を乱してくれた序盤はともかく、敵も戦況に慣れ隊列を整えてくると遠距離武器を持たないアルフォードが敵後衛を狙うのは難しくなった。そこからは、主にトロル、特にダメージが蓄積した個体に狙いを定める。
「はぁい、うちとボーナスステージって洒落込まん? なぁーんて……♪」
 前衛が敵の遠距離部隊を狙うのが厳しくなってきたのを埋めるように、白藤が代わって敵の射撃部隊を狙い打つ。全体が良く見える後衛の位置から、前衛の隙を補うように。援護射撃、波状攻撃を意識して畳みかける。
 榊は常に仲間の動きを意識しながら立ち会った。ハンターが担うのはピンポイントな戦場とはいえ、向かい来る敵は多数だ。油断すれば囲まれる。そうならぬよう、仲間と連携を図り、相互を補完する動きに務めた。独断専行を避ける彼の動きが、味方の孤立も防止している。
「俺が一番タフだしな。俺が殿を務めるのが一番マシだろう」
 そうした彼の意思は、撤退の際にも現れている。
 その榊を。
『背を預けて征くなればその想いに応えよう。故に疑う事なかれじゃ』
 守るように、蜜鈴の矢が、呪力の炎が、敵陣を貫いていく。
 尖兵がハンター達に叩き潰され、改めて数で押し切ろうと敵が一度部隊をまとめようと下がる。そのタイミングでハンター達も一度後退し、ハンターの後退を持ってオイマト族が再びの一斉射撃を行う。
 ハンターの意思は統一されていた。
 オイマト族もそれに呼応した。
 過酷な戦況において、彼らは良く戦ったし、成果を上げていた。

 それでも――血は流れる。
 いかに避け、防具で受け止めようとも、混迷とした戦いの中幾度となく敵の刃が己の身を掠めていく。
 遠距離攻撃を厄介と考えるのは敵も同じだ。敵の弓や投石も幾度となく後衛を襲い、落としきれなかったそれが部族の戦士に突き立てられる。
 防具を武器を伝っていくのは己の血か、敵の血か、友の血か。
 纏わりつくそれが増えて行き、ぽたりぽたりと地に落ちる。
「さーて、お仲間は随分とのんびりやけどいつくるんやろうな?」
 白藤はあえて軽い口調で告げる。
 が、それこそがこの戦いにおける最大の難敵。
 どれほど戦った?
 いつまで戦えばいい?
 倒してもまた敵は現れ、退けば敵軍がまだ健在であることをはっきりと見せ付けられる。
 これまでは良く戦えた。だが、いつまで続けられるか。
 油断すると、その事実が心を押しつぶしに来そうで。
 だから。
「まったく、あまりのんびりしていたら私たちが倒してしまいますわね?」
 コルネが、白藤に続くように声をかける。
「無理は禁物だが……まあ、時間稼ぎと気取られないためにはそのくらいのつもりで攻めるのもいいだろう」
 榊が口を挟み、槍を構えなおす。
「ま、しんどい戦いなのは確かだが、続けてざまあない姿をさらすわけにもいかねえ。もーちょいきばらねえとな」
 イブリスがぼやくように言って、ぐるりと味方を見回す。
「本当に、過酷な戦いを押し付けてくれる……終えれば勿論、美味なる酒位振る舞ってくれよるじゃろう?」
 蜜鈴がくすくすと笑いながら、バタルトゥを見やった。
「……酔いたい気分に、させてくれるのならばな……」
 部族の指示に忙しいかと思いきや、寡黙な青年は意外にも反応を返した。
「おっと。聞いたかシラフジー。今夜の酒はどうやらこちらの兄さんの奢りだ。たらふく飲めるぞ」
 アルフォードが豪快に笑う。
「せやなあ……もうちょいしたら、こんだけの大群があわてて逃げ惑うとこ見れるさかいに、ええ肴になること間違い無しやで」
 白藤もにやりと笑ってそれに答えて。
「なんだ。野営地に戻ったら宴会か? いい女はいるかね」
 戦場ゆえにずっと生真面目な顔をしていたアーヴィンが、一瞬、普段の悪癖を覗かせて唇の端を上げる。
「なんというか……皆さんやっぱり、凄いですね……」
 シルヴァは、思わず呆れなのか感心なのか分からない呟きを漏らした。
「きっと、こんなときだから……終わったら何しよう、って考えるのが大事なんです。それが、生き残る意志になる」
 誰もが無事に済むとは思えない。
 だけど、出来る限り脱落者のない状態で終わりたい。
 戦いは続く。その最果てまで生き抜いてこそ、本当の勝利。
 一時的に退却し、再び体勢を整えるまでの一瞬の空隙。長い戦いの中、だからこそ一瞬だけ息を整える。
 折れそうな心を支えあい、戦いを続ける。

 大丈夫。
 このまま皆で戦い続ければ、耐え抜ける。
 硬直した戦線。
 敵はこちらを攻めあぐね、だが守勢に入る人類側も、敵の大群に決定的な攻撃は加えられない。
 互いに1手、決め手を求めて戦いを続ける、そんな状況で。

 ――『何か』は、起きた。

 さざなみの様に、気配が動いたのが戦場から伝わってくる。
 敵の動きの変化……それは、『乱れ』というべきか。だが、何かの誘いかもしれない。
 戸惑い、しかし動揺を押さえ込むバタルトゥの元へ。一つの報告が、もたらされる。
「族長! その……。ドワーフ王ヨアキム殿が、敵陣に向けて発射されたそうです!」
「………………。そうか」
 普通に考えたら、「分かったおまえ疲れすぎてるみたいだから下がれ」とでも言いたくなるような報告内容だった。斥候自身何言ってるんだろうという想いはあるのだろう、半ばやけくそ気味の報告。それでもバタルトゥは、その報告の意味を正確に飲み込もうと務めていた。……慣れというものに、どこか悲しさを感じるが、しかし今回は有益に働く。
 混乱が起きた方向。位置。あの王が何かしらやらかし、そして終えたことは間違いないのだろう……ロウザや岩動、リラといった、別方面に向かったと報告されたハンターたちがいつの間にかこちらの戦線の援護に来ている。
「――機を逃すな! 浮き足立った敵を叩く!」
 オイマト族が、再び一斉射撃の構えを見せる。
 分断された敵を再びハンターたちが叩く。
 別方面からの援護もあり、今回の突撃は今まで以上に上手くいった。戸惑う敵陣の、密度が僅かに薄くなる。
 バタルトゥは目を細め、一本、通常とは異なる矢を引き抜き、つがえた。
 特殊な風切り羽を持つそれは、通常の矢より高い音を立ててひゅう、と戦場を通り抜けていく。
 そしてそれは、一体のサイクロプスの前に突き立った。
 一際確りと作りこまれた鎧に身を硬め、周囲に指示を飛ばすそいつの周辺は今、空白が出来ている。
 前に出たハンターたちが、詰められなくもない位置だった。
「……無理するつもりはなかったが、要請とあっちゃあやるしかねえか」
 あのときの汚名返上といくかね、と、イブリスが不敵に笑ったその時に。
 榊とレオンが、挟撃するように左右から同時に斬り込んでいく!
『ふ……あはははははは!』
 己をめがけてくるハンターに対し、サイクロプスの女が上げたのは歓喜の笑い声だった。
『ああ……いいねいいね! ちまちま部下に指示だししてふんぞり返ってるなんざ、いい加減、飽き飽きなんだよっ!』
 哄笑を挙げながら、サイクロプスは二人の刀を、槍を受け止め、手にした槌を振り下ろす!
 衝撃が大地を走り、ハンターの足元がふらつく。
 それほどの一撃を、しかし榊は槍を使ってどうにか捌き、威力を殺す。
『あはははは! いいねえいいねえ簡単に壊れないおもちゃはさ! どれだけ愉しませてくれるんだい!?』
 笑いながら、榊を気に入ったように、狙いを定めて槌を振り回してくるサイクロプス。全ての威力をいなせるわけではない榊の身に、防具を通じてしびれる痛みが蓄積していく。
「基礎能力の差は歴然……玩具扱いも已む無し、か俺一。人で、戦うならな」
 対応する榊の声に絶望はない。
 初めから彼はそうやって戦っていた。
 味方の行動を活かし、効率のよい戦いを。
 己が攻撃に回れなくとも、自分が止めた隙を仲間がついてくれるはず。
 榊のそうした思いを、やはり味方の指示を最優先にと目と耳を凝らしていたシルフィスが最大限に応えた。
 絶好の機を狙って放たれた矢が、鎧の隙間を縫って小さな傷を穿つ。ほんの蟻の一撃よと、気にも留めないサイクロプスの、脇腹からぽたりぽたりと血の雫が滴り落ちる。
 そして。
 矢が立つそこが鎧の隙間かと、ちょうどいい目印になって、イブリスがねじ込むように手裏剣でその傷口を抉る。
『がぁっ!?』
 巨体を持つサイクロプスが、このとき初めて悲鳴を上げた。
 怒りに満ちた目で、イブリスへと向き直る。
 その瞬間、レオンの魔術がサイクロプスの顔面を襲った。
「このような時の為、魔術も修めているのです」
 近距離から、この体格差で顔を狙う攻撃は、巨人ゆえに意識の外だったろう。たまらずサイクロプスは苦悶に身をよじる。
『こんなっ! 矮小な、人間ごときにっ! あたしがっ!』
 出鱈目に振り回される槌はそれでも嵐がごとき暴力だった。レオンの身体が吹き飛ばされる。
 追撃を加えようとするサイクロプスを。
『しつこい殿御は好かれぬぞ? ああ、女御であったか』
 蜜鈴が援護のマジックアローを射かけ、レオンが体勢を整えるまでを援護する。
 そして、榊が再びレオンをかばうように前に出て、再び槍を構え相対する。
 動きの大幅に鈍る敵に対し、全力で踏み込みその槍がサイクロプスの肩を抉る。
 膨大な大群を相手にし。
 そして今は強大な個体を敵にしている。
 それでも、レオンは再び、立ち上がって刀を構える。
「八ツ原御流天津交法“散花”が崩し――“火蜂”」
 繰り出すは突きを鎧の表面に滑らせ、隙間へとねじ込む技……――!
『ニンゲェェェン!』
 絶叫が戦場へと響き渡る。

 ハンターが、要となる敵将を討ち取ったとの報がもたらされるのは、これより暫く後。
『さぁ、後僅かじゃ。戦は終わっては居らぬぞ?』
 微笑む蜜鈴の言葉に、バタルトゥは鷹揚に頷く。
 だが、見れば戦場は初期の頃よりはるかに安定しているのはもう疑う必要はなかった。

 かくしてハンター達の活躍により、この戦線は守られる。
 だが、戦いはまだ終わりではない――

 バタルトゥは部下達に、一部のものは他の戦線の援護向かうようにと指示し、そして。
「……ここはもう、俺たちが抑えよう。まだ働くつもりがあるなら、馬は貸す」
 主に傷の浅い、ハンターの後衛たちにもそう声をかけた。
 右翼に向かっていた別の部隊が援軍に来てくれたからではあるが、間違いなく、この場にいるハンターたちが敵将を討ち取ったからこそ生まれた余裕。

 あちこちに、戦士たちが目の前にまで迫る勝利のときへと向けて気勢を上げる。
 それは勝利したハンター達を祝福する声だった。

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MVP一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫ka0010

  • アーヴィンka3383
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカーka3492

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • キャラバンの美人秘書
    コルネ(ka0207
    エルフ|23才|女性|霊闘士
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • いつか、が来るなら
    イブリス・アリア(ka3359
    人間(紅)|21才|男性|疾影士

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカー(ka3492
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士

  • シルヴァ グラッセ(ka4008
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師

  • アルフォード(ka4161
    人間(紅)|50才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
コルネ(ka0207
エルフ|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/02/27 19:43:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/23 23:08:33
アイコン 質問卓
イブリス・アリア(ka3359
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/02/23 13:06:44