ゲスト
(ka0000)
【不動】雨の声を遮れば
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~3人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/27 15:00
- 完成日
- 2015/03/06 06:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●CAM稼働実験場前防衛線左翼の一角
「伏せろおおおーーー!!!」
怒声が響く。
一拍の静寂。後、轟音が耳をつんざいた。
小隊長は鈍い頭を手で抑えつつ、意識を覚醒させるように頭を二度振る。
音が遠い。
弾着は至近だったようだ。
弱い風。
ようやく晴れた土埃の中から、隊員の兵士が一人倒れているのが見つかった。
「救護班! 急げ!!」
後方に運ばれていく負傷兵。
だが、部下の負傷を気にかけているゆとりはない。
「防護盾が足りんぞ!!」
「現在作成中です!!」
「もたもたするな!」
防御陣地のあちらこちらで見受けられる大きな木の防護盾。小隊長の近くにも一つあったが、既に幾度もの攻撃により使い物にならない状態だ。
「……増援のハンターはまだか!」
「今こちらに向かっています!!」
彼は咄嗟に「遅い!」と言おうとしたが、何とか言葉を呑み込んだ。
皆必死だ。兵士もハンターも、誰しもが最善を尽くそうと努力している。
そう分かっていても、この場を預かる身としては怒鳴りたくなってしまうのを懸命に堪えて、呑み込んだ怒気をも込めて、防御策を挟んだ向かいを睨みつけた。
積み上げられた土嚢と粗末な木の防御柵の向こうに広がるのは、人間の膝丈ほどの草が一面に生え揃う大地と――見慣れた敵影。
スリングと呼ばれる携帯用簡易投石器を用いて、先ほどから石の雨を降らせている憎き敵・オーガだ。
石といっても人の頭を優に凌ぐ大きさ。運が良ければ命は繋げるが、即死してもおかしくはない。
おまけに、その後方から大きな弓矢で射ってくるものもいた。
スリングを用いるオーガ15体に、弓矢を使うオーガ6体。足を止めて射撃に徹する怨敵は、合わせて21体に上る。
こちらは防戦一方。
ろくに反撃もできないまま、手も足も出ないと言うのが現状だ。
カタパルトとバリスタの作成を急いではいるが、断続的に降り続く石と矢の雨に、作成は思うように捗らない。
木の棒を組み合わせただけの簡易な防御柵はあるものの、敵がいつ突撃してくるとも限らない。土嚢も一部崩れてしまっている。
突撃されれば、この粗末な木の柵ではとても……。
早急な対処が必要なのは明白であった。
●
「大至急、防御陣地の強化及びカタパルトとバリスタの作成補助を頼みたい」
集ったハンター達に説明する兵士の顔は憔悴しきっていた。
最も急がれるのは、敵に反撃する為のカタパルトとバリスタの作成。
必要な資材は十分にある。が、降りやまぬ敵の射撃に負傷者は続出し、当初配備されていた人員に大きな穴ができていた。
こうして話している間にも、あちらこちらで破壊音が鳴り響き、その声の度にびくりと身体に力が入る。
この辺りの作業員は、作成に必要な最低限度の人数しか残っていない。負傷者は後方の陣幕へ移送済みだ。
疲労と焦慮と恐怖。
皆、土や埃に塗れ、表情は硬かった。
巨人達を包囲殲滅する為にも、何としてもこの防衛線を維持しなければならない。
求められているのは、彼らを敵の攻撃から守りつつ、作業の補助をすること。その為には、防護盾等の作成や強化も必要だろう。
別班のハンター達が直にこちらに到着し、射撃を行う巨人達への突撃を一足先に行うらしい。
彼らが敵武器の破壊や囮となってくれれば、こちらへの攻撃も和らぐ事が期待できる。
但し、その分彼らが危険に晒されることは言うまでもない。
カタパルトとバリスタの作成には、後40分ほどかかるだろうか。順調にいけば、の話だが。
時間的猶予は無い。
作業が捗るほど、味方への被害を防げるのだ。
彼らの命もまた、自分達の働きにかかっているのだから……。
「早速とりかかろう」
兵士は疲弊した身体をおして、資材置き場へ向かった。
「伏せろおおおーーー!!!」
怒声が響く。
一拍の静寂。後、轟音が耳をつんざいた。
小隊長は鈍い頭を手で抑えつつ、意識を覚醒させるように頭を二度振る。
音が遠い。
弾着は至近だったようだ。
弱い風。
ようやく晴れた土埃の中から、隊員の兵士が一人倒れているのが見つかった。
「救護班! 急げ!!」
後方に運ばれていく負傷兵。
だが、部下の負傷を気にかけているゆとりはない。
「防護盾が足りんぞ!!」
「現在作成中です!!」
「もたもたするな!」
防御陣地のあちらこちらで見受けられる大きな木の防護盾。小隊長の近くにも一つあったが、既に幾度もの攻撃により使い物にならない状態だ。
「……増援のハンターはまだか!」
「今こちらに向かっています!!」
彼は咄嗟に「遅い!」と言おうとしたが、何とか言葉を呑み込んだ。
皆必死だ。兵士もハンターも、誰しもが最善を尽くそうと努力している。
そう分かっていても、この場を預かる身としては怒鳴りたくなってしまうのを懸命に堪えて、呑み込んだ怒気をも込めて、防御策を挟んだ向かいを睨みつけた。
積み上げられた土嚢と粗末な木の防御柵の向こうに広がるのは、人間の膝丈ほどの草が一面に生え揃う大地と――見慣れた敵影。
スリングと呼ばれる携帯用簡易投石器を用いて、先ほどから石の雨を降らせている憎き敵・オーガだ。
石といっても人の頭を優に凌ぐ大きさ。運が良ければ命は繋げるが、即死してもおかしくはない。
おまけに、その後方から大きな弓矢で射ってくるものもいた。
スリングを用いるオーガ15体に、弓矢を使うオーガ6体。足を止めて射撃に徹する怨敵は、合わせて21体に上る。
こちらは防戦一方。
ろくに反撃もできないまま、手も足も出ないと言うのが現状だ。
カタパルトとバリスタの作成を急いではいるが、断続的に降り続く石と矢の雨に、作成は思うように捗らない。
木の棒を組み合わせただけの簡易な防御柵はあるものの、敵がいつ突撃してくるとも限らない。土嚢も一部崩れてしまっている。
突撃されれば、この粗末な木の柵ではとても……。
早急な対処が必要なのは明白であった。
●
「大至急、防御陣地の強化及びカタパルトとバリスタの作成補助を頼みたい」
集ったハンター達に説明する兵士の顔は憔悴しきっていた。
最も急がれるのは、敵に反撃する為のカタパルトとバリスタの作成。
必要な資材は十分にある。が、降りやまぬ敵の射撃に負傷者は続出し、当初配備されていた人員に大きな穴ができていた。
こうして話している間にも、あちらこちらで破壊音が鳴り響き、その声の度にびくりと身体に力が入る。
この辺りの作業員は、作成に必要な最低限度の人数しか残っていない。負傷者は後方の陣幕へ移送済みだ。
疲労と焦慮と恐怖。
皆、土や埃に塗れ、表情は硬かった。
巨人達を包囲殲滅する為にも、何としてもこの防衛線を維持しなければならない。
求められているのは、彼らを敵の攻撃から守りつつ、作業の補助をすること。その為には、防護盾等の作成や強化も必要だろう。
別班のハンター達が直にこちらに到着し、射撃を行う巨人達への突撃を一足先に行うらしい。
彼らが敵武器の破壊や囮となってくれれば、こちらへの攻撃も和らぐ事が期待できる。
但し、その分彼らが危険に晒されることは言うまでもない。
カタパルトとバリスタの作成には、後40分ほどかかるだろうか。順調にいけば、の話だが。
時間的猶予は無い。
作業が捗るほど、味方への被害を防げるのだ。
彼らの命もまた、自分達の働きにかかっているのだから……。
「早速とりかかろう」
兵士は疲弊した身体をおして、資材置き場へ向かった。
リプレイ本文
北の空。
小さな黒点。
近づくにつれ、それは人の頭ほどもある石となる。
「くっ!」
資材置き場を守るのは、2m近い長身となった上霧 鋭(ka3535)。その右腕と同化したシールド「エスペランサ」に衝撃が走った。
飛来する石。その勢いは強く、重く、腕に痺れを残す。
「こりゃあ骨だな」
重い一撃に眉が寄り、痺れを払うように腕を振る。
覚醒し背の伸びたイレーヌ(ka1372)も、木の防護盾で作業場を襲う矢を受けた。
一本。二本。立て続けに板に生えて、イレーヌはひやりと汗を流す。
突き刺さる矢。それを中心に盾に伸びる亀裂。
「そう何度も受け止めるのは難しいか……」
ちらりと向けた視線は、輪になりしゃがみ込む仲間の背を捉えた。
「こんな感じの物ですね」
静架(ka0387)が地面に書いた大まかな図を、覗き込む仲間達。
「板をロープで……把握した」
材料と工程を確認した扼城(ka2836)はレザーハットを深々と被り直し、鹿島 雲雀(ka3706)も頷く。
「何はともあれ、まずは防護面を確りとしておかねーとな」
「壊されちゃったら作り直しだもんね~」
木島 順平(ka2738)に、天川 麗美(ka1355)も異論は無い。
「そうですね。直に増援も来るみたいだし、協力して頑張りましょう」
「私は資材の搬送に従事しよう」
応じたのは、リュカ(ka3828)。製作はできずとも、持久力なら人並み以上だ。
そうと決まれば、後は行動に移すだけ。
各員は早速作業にとりかかった。
●各々の役目
大地の震えに緊張が走る。
露営地のあちらこちらに突き立った巨人の矢。身の丈ほどもあるそれは、さながら槍の如く。
新たに飛来した矢を、麗美のシールド「タルタルガ」が弾き返す。
「当たったら大ケガしそうね」
矢面に立つ、という言葉通りの様相に、知らず苦笑が漏れた。
後に来ると言う増援。それが、今は待ち遠しい。
麗美の背後、そこでは仲間達が慌ただしく作業に勤しんでいる。
扼城は2m程の板の中央を、ロープで交差させて固める。
重心を鑑み、交差させる位置はやや上方。
ロープをぎゅっと引き結び、弛みの無いように。がっちりと固定したのを確認し、板の中央と両端に、水平になるように横板を組む。
釘を取りに行こうと立ち上がろうとした扼城に、タイミングを見計らったように雲雀が金槌と釘を差し出した。
「まずはサポートに徹する。盾の組み立てに集中してくれ」
地面の上には、各道具や材料となる素材が作成しやすいように順に並べられつつある。
作業しやすい環境作り。それは、作成スピードの上昇に寄与するのは間違いない。
扼城の掌を道具が打つ。
金槌と釘だけの重みではない。
視線を上げれば、雲雀の真っ直ぐな目。赤と茶が交錯する。それはまるで、想いを託すかのようで。
防護盾の作成は目下の急務。
扼城は口元を僅かに上げ、謝辞を述べた。
土台となる骨組みを前に、静架は資材置き場から調達してきた布を手にしていた。
「其処にある物を使わない手はないですね」
雨除けのカバー。
大きな布をばさりと広げて。横長に畳まれたその厚さは10cm程もある。
それを骨組みに隙間の無いように取りつければ、凡その形が見えてきた。
布が一枚では脆弱なれど――、「幾重にも重ねれば立派な緩衝材ですよ」と、静架は崩れないようにロープできつく固定した。
木の板を二枚重ね、簡易の防護盾を作成していた順平は周囲を見回す。
「布が足らないかもなんだよ~。陣幕の布も利用できないかな~」
「なら、わたしが聞いてきますね」
麗美は陣幕までひとっ走り。
カッと大地がぼやく。
作業場の近くにまた一つ矢が刺さった。連続して襲い来る矢。それに対し、光の矢が下方から当たり、軌道を逸らした。
「やった~。当たったんだよ~」
順平の気の緩むような声。
作業中であろうと、油断することはできない。敵の攻撃が止む気配は無い。
常に耳を澄ませ周囲への警戒を怠らない静架とは対照的に、一秒でも早く作業を進めんと、警戒薄く手を休めない扼城。
それは仲間への信頼故か、自身の負傷を厭わぬ故か、はたまた両方か。
いずれであっても、捗々しい結果を得るに不足無し。
「すぐに持って来よう」
資材置き場へ向かおうとした作業員を押し留め、リュカが走る。
作業員は非覚醒者。敵の攻撃が当たれば一たまりも無い。
人が動けば動くほど、守らなければならない範囲が増えるのは道理。
であれば、極力彼らが動かずに済んだ方が守る側としても楽だろう。
事実、先ほどからイレーヌと鋭は降りかかる火の粉を払う為に、東西に奔走することを強いられていた。
矢が壁に弾かれる。
フェンスシールド。2m余りあるその盾の威容は、正に壁。巨人用の矢にも動じることなく、幾本もの矢を防ぎきっている。
鉄壁の盾に身を隠すは、銀髪の蠱惑的な女性。
イレーヌは、作業員の身体をすっぽり覆うように盾を翳して矢を遮った。
敵の攻撃は続く。
頭上を越えんとした矢を防いだのは、鋭。全身を覆う黒の外骨格から漏れ出る黄色の光。
長身が高く高く飛び上がり、上空から盾で叩き落とす。
衝撃と共に大地を転がる矢に、作業員らの目が一瞬集まった。
「心配するな。私達が必ず守る」
点滅するライト。鋭は敵の注意を自身に惹きつけようと画策している。
「ま、テメーの仕事をしっかりな」
軽やかな口調。それに似合わぬ、二人の頼もしき背中。
作業員らは無言で頷き、地面に目を戻す。固まっていて尚、防護は二人で手一杯だった。
彼らのような専門的な知識も、技術も、リュカには無い。それを聞き学ぶ時間すらも今は惜しい。
作業に優先順位はあっても、優劣は存在しない。全て等しく必要なことであり、それを一致団結して分担して行えることが、人類の強みなのだ。どの作業が欠けても成り立たず、一つの歯車が狂っただけで、全体に支障をきたしてしまうもの。
ならば、自分にやれることをやるだけ。
彼らがより作業に専念できるように、とリュカは資材置き場と作業場を絶えず往復した。
「余裕があれば地面に止め木を打ち込み固定させて下さい」
静架から防御柵を受けとり、麗美は走る。
陣内を駆け巡る深き群青。歩幅に合わせてローブがはためく。
陥没した地面を避け、矢の雨を掻い潜り、夜空を落とし込んだような服は身軽で、細やかな動きを可能とした。
投石の合間を縫い作業場の北側へ辿り着いた麗美は、静架に言われた通り、止め木を打ち込み固定していく。
『防護盾が溜まってるから、リュカ君にも運搬お願いしたいんだよ~』
「了解した」
順平からの伝話による搬送依頼に、リュカも麗美の手伝いに回る。
扼城は手慣れた手捌きで次々と盾の作成に従事している。日頃から野営時のテント作成や拠点づくりの経験が活きているようだ。
雲雀が順序良く並べた資材や道具のお陰で、時間のロスも少ない。
静架の作る防御柵は、単に釘で打ちつけただけの防護盾に比べれば多少時間がかかっているが、その分簡素な二枚板のものよりも強度が高くなっている。
量の盾と質の柵。
並行して進められる中で、工程を簡略化し、作業の効率化をより高めていく。
「この防護盾を、柵に取りつけてもいいと思うんだよ~」
「む、そうですね。その方が耐久性が上がりそうです」
順平と静架が手早く素案を纏めている間に、設置作業に邁進する麗美からの無線。
『ひとまず、後一つで揃います』
「よっしゃ! これで最低限の数はできたな」
雲雀は作成を終えると、そのまま盾を抱えて作業場の方へ移った。
而して、漸く突撃を敢行する別班が到着した。
●変転
「完成したら、無線で教えて貰えると助かるぜ」
「合図を送ればいいんだね~。撤退するときも教えてほしいんだよ~」
通り際、別班のJ・Dからの要請に、順平が答える。
そのまま颯爽と前線へ向かう彼ら。その背に、若干の羨望を含んだ眼差しが一つ。
肩に置かれた手が、一瞬忘我の淵に旅立っていた順平の意識を呼び戻した。
振り返れば、扼城の顔。そして、静架の視線。
命を懸けにいった彼らの足を引っ張る訳にはいかない。
順平は頷いて、作業へと戻る。
盾は作っても作っても、次から次へと無情にも壊れていく。
そこいらに転がる半壊した防護盾。
扼城の目が光る。
手元には丁度今しがた作成を終えた新しい盾。それに、ロープとワイヤー。
半壊したものを回収し、作成済みの盾にロープとワイヤーで繋ぎ合わせた。即興のリサイクルだ。
「……多少強度が劣るだろうが……面積はカバーできるだろう」
静架も被弾状況を確認しながら、鎹を加えたり、布を湿らせたりして、骨組みの更なる強化を図る。
「次のはここに置いとくぜ」
「助かる!」
雲雀は作業員の仕事ぶりをつぶさに観察し、一手二手先を読み、材料を素早く手渡していく。
全てに対応するには手が足りていないが、それでも十分な短縮に繋がっている。
「ここに置いておく」
リュカが抱えた資材一式を下ろした。
「ああ、有難うな」
釘を打ち込む作業員の傍ら、雲雀は運ばれてきた資材の中から丸板を取り出す。
手を止めた作業員。さっと視界に入るは、丸板。次の作業に必要な材料だ。
黙って受け取り、黙然と手を動かす男。
必要な物を言われてから出していたのでは遅い。工程を把握し、先々のものを事前に用意する。それが彼女の考え出した自身の役割。
雲雀は不敵な笑みを浮かべて、他の作業員にも目を配る。
『盾の数が不足してきたんだよ~』
無線から届くは順平の声。
「向こうがやべぇか。ちょいと手伝ってくる!」
「おう!」
腰を上げた雲雀に、男達はたった二文字の返事だけ。彼らも理解していた。
ハンター達が作業の補助を行うのも、自分達を守ろうと身体を張っているのも、全てはこの兵器の完成の為。だからこそ、手を止めない。顔も上げない。
一刻も早く終わらせること。それが、彼らの想いに報いる方法なのだと。
雲雀は笑みを深める。
その時――前線の方で火柱のようなものが上がるのが見えた。
「ヒールどーもな」
「なに、共に壁役を担う者同士、当然のことだ」
壁の如き盾の陰で、鋭はイレーヌの治療を受ける。攻撃を防ぎ続けて既に10分近くが経過しようとしている。
防護盾も利用していたイレーヌとは違い、盾一つで対処していた鋭の腕は感覚が鈍くなってきていた。
幸いまだ作業員に負傷者は出ていないが、それもいつまで持つか……。
と、治療を終えた二人が、遠く戦場で上がった火の手に気が付く。
「始まったようだな」
「みてーだな」
二人はもくもくと空へ還る煙を眺めつつ、もう一踏ん張りと改めて気合を入れ直した。
『敵の攻撃が随分と減ったようだ』
飛来してくる攻撃がゼロになったわけでは無いが、間隔が大きく開いてきたと、伝話からイレーヌの言葉。
防護盾の数は十分に揃った。予備の分もあるし、攻撃が薄くなったのであれば、十分事足りるだろう。
「作成の補助に回るんだよ~」
順平の言葉に、否やは上がらなかった。
●その背に
「しっかりとした土台は重要です。軸がぶれては照準も満足に定まりません。ここに杭を打ち込んで――」
猟撃士の視点から助言を行う静架。
順平は資材置き場にしゃがみ込み、各作業場で使う資材ごとに分別を行う。取り違えの防止が狙いだ。
「これはあっちにお願いしてもいいかな~?」
「こっちだな」
雲雀は資材を並び替える。
「ありがとうなんだよ~」
「いいってことさ」
順平は適宜、進行状況を無線で別班に伝えるのも忘れない。
資材置き場と作業場の前に並べられた防護柵と盾の複合。
その前に、イレーヌと鋭に加え、扼城と麗美も並ぶ。
上空から落ち窪む矢、その前に扼城は躍り出る。
掲げたるは透明な盾、シールド「プレシオン」。重ねられた防護盾の残骸。
防衛は決して得意な方ではない。だが、一度引き受けた以上、必ず賭して見せる。
めらめらと沸き立つ心。静かなる闘志が呼び覚まされて。
全身に浮かぶは、赤い梵字。それは盾をも覆い、光を放つ。
光の障壁が身体を包み、心強さと温かさを感じさせた。
隣に立つ麗美の優しげな笑み。
扼城の真紅の瞳に紅の梵字が重なり――、放たれた矢はひしゃげて潰れた。
間をおかず麗美目がけて飛来した矢も、高速移動する盾によって虚しく地面に落ちる。
「雨の中の作業は大変なんだよ~」
矢降る大地と向かい合い、図面を見ながら各資材に番号や目印を書き込む順平。
前後左右、裏表を分かりやすく。作業を円滑に。
口ではそう言いながらも、順平に不安げな様子は見られない。
順平だけではない。同じく製作補助をする雲雀も、静架も、散らばる石や矢で防護盾の補強を行っているリュカも同様だ。
なぜなら――。
麗美は背後を顧みた。
盾の向こう、そこには作業に没頭する仲間達がいる。誰しも手を休めることはなく。
脳裏に浮かぶは、町中の雑踏。お祭り。コンサート。
ざわざわと賑わう人々の息吹きが今にも聞こえてきそうで。そういった楽しさの集まる住処を、日常を失わない為にも――ここで敵を抑える。一矢たりとも逃すわけにはいかない。
優しさとは強さ。その後姿は紛れも無く、優しきシスターのそれだった。
そして――作業開始から30分。遂に、完成した。
●その先は
「できたんだよ~」
「おう、解ったぜ」
鋭は即座に無線で、別班へ情報を送る。
静架は終わるや否や、弓を手に前線へ駆け出した。
始終資材の運搬に追われたリュカ。結構な重さのものを持って東奔西走すれば已む無しだろう。流石に疲れが見えている。
覚醒者となって以降、常に心身を鍛えてきたが、それでも疲労と無縁という訳にはいかない。
「……不甲斐ない。やはりエルフとは弱い種族だな」
外界で生きる為に必要な物は身体ではないと分かってはいるが……。
「そんなことないんだよ~」
順平は呑気な調子で首を振る。
「周りを見てみたらどうかな~」
そう言われて目をやれば――。
「……疲れた」
イレーヌは腰から砕け落ち、麗美も一息吐いて微笑む。
「神様にお祈りしたお陰かしら」
扼城も額の汗を拭い、雲雀は張り付いた服をぱたぱたと煽る。
「何とか凌いだな……。見ろよ、見事に汗だくだ。早くひとっ風呂浴びたい気分だぜ」
平然としている者は誰もいない。強いて言うなら、静架だけだろうか。
エルフだろうが、ドワーフだろうが、人間だろうが。そこには、種族など関係ない。
リュカが思案に落ちようとしたとき、鋭の発言が場を乱した。
重傷を負った者がいる――。
全員の視線が一斉にイレーヌへ向かう。
この場にいる聖導士は彼女だけ。
イレーヌは疲れた身体をおして立ち上がり、静架の後を追った。
無線で安全を確認した鋭の指示でカタパルトとバリスタが始動したのは、程なくしてだった。
小さな黒点。
近づくにつれ、それは人の頭ほどもある石となる。
「くっ!」
資材置き場を守るのは、2m近い長身となった上霧 鋭(ka3535)。その右腕と同化したシールド「エスペランサ」に衝撃が走った。
飛来する石。その勢いは強く、重く、腕に痺れを残す。
「こりゃあ骨だな」
重い一撃に眉が寄り、痺れを払うように腕を振る。
覚醒し背の伸びたイレーヌ(ka1372)も、木の防護盾で作業場を襲う矢を受けた。
一本。二本。立て続けに板に生えて、イレーヌはひやりと汗を流す。
突き刺さる矢。それを中心に盾に伸びる亀裂。
「そう何度も受け止めるのは難しいか……」
ちらりと向けた視線は、輪になりしゃがみ込む仲間の背を捉えた。
「こんな感じの物ですね」
静架(ka0387)が地面に書いた大まかな図を、覗き込む仲間達。
「板をロープで……把握した」
材料と工程を確認した扼城(ka2836)はレザーハットを深々と被り直し、鹿島 雲雀(ka3706)も頷く。
「何はともあれ、まずは防護面を確りとしておかねーとな」
「壊されちゃったら作り直しだもんね~」
木島 順平(ka2738)に、天川 麗美(ka1355)も異論は無い。
「そうですね。直に増援も来るみたいだし、協力して頑張りましょう」
「私は資材の搬送に従事しよう」
応じたのは、リュカ(ka3828)。製作はできずとも、持久力なら人並み以上だ。
そうと決まれば、後は行動に移すだけ。
各員は早速作業にとりかかった。
●各々の役目
大地の震えに緊張が走る。
露営地のあちらこちらに突き立った巨人の矢。身の丈ほどもあるそれは、さながら槍の如く。
新たに飛来した矢を、麗美のシールド「タルタルガ」が弾き返す。
「当たったら大ケガしそうね」
矢面に立つ、という言葉通りの様相に、知らず苦笑が漏れた。
後に来ると言う増援。それが、今は待ち遠しい。
麗美の背後、そこでは仲間達が慌ただしく作業に勤しんでいる。
扼城は2m程の板の中央を、ロープで交差させて固める。
重心を鑑み、交差させる位置はやや上方。
ロープをぎゅっと引き結び、弛みの無いように。がっちりと固定したのを確認し、板の中央と両端に、水平になるように横板を組む。
釘を取りに行こうと立ち上がろうとした扼城に、タイミングを見計らったように雲雀が金槌と釘を差し出した。
「まずはサポートに徹する。盾の組み立てに集中してくれ」
地面の上には、各道具や材料となる素材が作成しやすいように順に並べられつつある。
作業しやすい環境作り。それは、作成スピードの上昇に寄与するのは間違いない。
扼城の掌を道具が打つ。
金槌と釘だけの重みではない。
視線を上げれば、雲雀の真っ直ぐな目。赤と茶が交錯する。それはまるで、想いを託すかのようで。
防護盾の作成は目下の急務。
扼城は口元を僅かに上げ、謝辞を述べた。
土台となる骨組みを前に、静架は資材置き場から調達してきた布を手にしていた。
「其処にある物を使わない手はないですね」
雨除けのカバー。
大きな布をばさりと広げて。横長に畳まれたその厚さは10cm程もある。
それを骨組みに隙間の無いように取りつければ、凡その形が見えてきた。
布が一枚では脆弱なれど――、「幾重にも重ねれば立派な緩衝材ですよ」と、静架は崩れないようにロープできつく固定した。
木の板を二枚重ね、簡易の防護盾を作成していた順平は周囲を見回す。
「布が足らないかもなんだよ~。陣幕の布も利用できないかな~」
「なら、わたしが聞いてきますね」
麗美は陣幕までひとっ走り。
カッと大地がぼやく。
作業場の近くにまた一つ矢が刺さった。連続して襲い来る矢。それに対し、光の矢が下方から当たり、軌道を逸らした。
「やった~。当たったんだよ~」
順平の気の緩むような声。
作業中であろうと、油断することはできない。敵の攻撃が止む気配は無い。
常に耳を澄ませ周囲への警戒を怠らない静架とは対照的に、一秒でも早く作業を進めんと、警戒薄く手を休めない扼城。
それは仲間への信頼故か、自身の負傷を厭わぬ故か、はたまた両方か。
いずれであっても、捗々しい結果を得るに不足無し。
「すぐに持って来よう」
資材置き場へ向かおうとした作業員を押し留め、リュカが走る。
作業員は非覚醒者。敵の攻撃が当たれば一たまりも無い。
人が動けば動くほど、守らなければならない範囲が増えるのは道理。
であれば、極力彼らが動かずに済んだ方が守る側としても楽だろう。
事実、先ほどからイレーヌと鋭は降りかかる火の粉を払う為に、東西に奔走することを強いられていた。
矢が壁に弾かれる。
フェンスシールド。2m余りあるその盾の威容は、正に壁。巨人用の矢にも動じることなく、幾本もの矢を防ぎきっている。
鉄壁の盾に身を隠すは、銀髪の蠱惑的な女性。
イレーヌは、作業員の身体をすっぽり覆うように盾を翳して矢を遮った。
敵の攻撃は続く。
頭上を越えんとした矢を防いだのは、鋭。全身を覆う黒の外骨格から漏れ出る黄色の光。
長身が高く高く飛び上がり、上空から盾で叩き落とす。
衝撃と共に大地を転がる矢に、作業員らの目が一瞬集まった。
「心配するな。私達が必ず守る」
点滅するライト。鋭は敵の注意を自身に惹きつけようと画策している。
「ま、テメーの仕事をしっかりな」
軽やかな口調。それに似合わぬ、二人の頼もしき背中。
作業員らは無言で頷き、地面に目を戻す。固まっていて尚、防護は二人で手一杯だった。
彼らのような専門的な知識も、技術も、リュカには無い。それを聞き学ぶ時間すらも今は惜しい。
作業に優先順位はあっても、優劣は存在しない。全て等しく必要なことであり、それを一致団結して分担して行えることが、人類の強みなのだ。どの作業が欠けても成り立たず、一つの歯車が狂っただけで、全体に支障をきたしてしまうもの。
ならば、自分にやれることをやるだけ。
彼らがより作業に専念できるように、とリュカは資材置き場と作業場を絶えず往復した。
「余裕があれば地面に止め木を打ち込み固定させて下さい」
静架から防御柵を受けとり、麗美は走る。
陣内を駆け巡る深き群青。歩幅に合わせてローブがはためく。
陥没した地面を避け、矢の雨を掻い潜り、夜空を落とし込んだような服は身軽で、細やかな動きを可能とした。
投石の合間を縫い作業場の北側へ辿り着いた麗美は、静架に言われた通り、止め木を打ち込み固定していく。
『防護盾が溜まってるから、リュカ君にも運搬お願いしたいんだよ~』
「了解した」
順平からの伝話による搬送依頼に、リュカも麗美の手伝いに回る。
扼城は手慣れた手捌きで次々と盾の作成に従事している。日頃から野営時のテント作成や拠点づくりの経験が活きているようだ。
雲雀が順序良く並べた資材や道具のお陰で、時間のロスも少ない。
静架の作る防御柵は、単に釘で打ちつけただけの防護盾に比べれば多少時間がかかっているが、その分簡素な二枚板のものよりも強度が高くなっている。
量の盾と質の柵。
並行して進められる中で、工程を簡略化し、作業の効率化をより高めていく。
「この防護盾を、柵に取りつけてもいいと思うんだよ~」
「む、そうですね。その方が耐久性が上がりそうです」
順平と静架が手早く素案を纏めている間に、設置作業に邁進する麗美からの無線。
『ひとまず、後一つで揃います』
「よっしゃ! これで最低限の数はできたな」
雲雀は作成を終えると、そのまま盾を抱えて作業場の方へ移った。
而して、漸く突撃を敢行する別班が到着した。
●変転
「完成したら、無線で教えて貰えると助かるぜ」
「合図を送ればいいんだね~。撤退するときも教えてほしいんだよ~」
通り際、別班のJ・Dからの要請に、順平が答える。
そのまま颯爽と前線へ向かう彼ら。その背に、若干の羨望を含んだ眼差しが一つ。
肩に置かれた手が、一瞬忘我の淵に旅立っていた順平の意識を呼び戻した。
振り返れば、扼城の顔。そして、静架の視線。
命を懸けにいった彼らの足を引っ張る訳にはいかない。
順平は頷いて、作業へと戻る。
盾は作っても作っても、次から次へと無情にも壊れていく。
そこいらに転がる半壊した防護盾。
扼城の目が光る。
手元には丁度今しがた作成を終えた新しい盾。それに、ロープとワイヤー。
半壊したものを回収し、作成済みの盾にロープとワイヤーで繋ぎ合わせた。即興のリサイクルだ。
「……多少強度が劣るだろうが……面積はカバーできるだろう」
静架も被弾状況を確認しながら、鎹を加えたり、布を湿らせたりして、骨組みの更なる強化を図る。
「次のはここに置いとくぜ」
「助かる!」
雲雀は作業員の仕事ぶりをつぶさに観察し、一手二手先を読み、材料を素早く手渡していく。
全てに対応するには手が足りていないが、それでも十分な短縮に繋がっている。
「ここに置いておく」
リュカが抱えた資材一式を下ろした。
「ああ、有難うな」
釘を打ち込む作業員の傍ら、雲雀は運ばれてきた資材の中から丸板を取り出す。
手を止めた作業員。さっと視界に入るは、丸板。次の作業に必要な材料だ。
黙って受け取り、黙然と手を動かす男。
必要な物を言われてから出していたのでは遅い。工程を把握し、先々のものを事前に用意する。それが彼女の考え出した自身の役割。
雲雀は不敵な笑みを浮かべて、他の作業員にも目を配る。
『盾の数が不足してきたんだよ~』
無線から届くは順平の声。
「向こうがやべぇか。ちょいと手伝ってくる!」
「おう!」
腰を上げた雲雀に、男達はたった二文字の返事だけ。彼らも理解していた。
ハンター達が作業の補助を行うのも、自分達を守ろうと身体を張っているのも、全てはこの兵器の完成の為。だからこそ、手を止めない。顔も上げない。
一刻も早く終わらせること。それが、彼らの想いに報いる方法なのだと。
雲雀は笑みを深める。
その時――前線の方で火柱のようなものが上がるのが見えた。
「ヒールどーもな」
「なに、共に壁役を担う者同士、当然のことだ」
壁の如き盾の陰で、鋭はイレーヌの治療を受ける。攻撃を防ぎ続けて既に10分近くが経過しようとしている。
防護盾も利用していたイレーヌとは違い、盾一つで対処していた鋭の腕は感覚が鈍くなってきていた。
幸いまだ作業員に負傷者は出ていないが、それもいつまで持つか……。
と、治療を終えた二人が、遠く戦場で上がった火の手に気が付く。
「始まったようだな」
「みてーだな」
二人はもくもくと空へ還る煙を眺めつつ、もう一踏ん張りと改めて気合を入れ直した。
『敵の攻撃が随分と減ったようだ』
飛来してくる攻撃がゼロになったわけでは無いが、間隔が大きく開いてきたと、伝話からイレーヌの言葉。
防護盾の数は十分に揃った。予備の分もあるし、攻撃が薄くなったのであれば、十分事足りるだろう。
「作成の補助に回るんだよ~」
順平の言葉に、否やは上がらなかった。
●その背に
「しっかりとした土台は重要です。軸がぶれては照準も満足に定まりません。ここに杭を打ち込んで――」
猟撃士の視点から助言を行う静架。
順平は資材置き場にしゃがみ込み、各作業場で使う資材ごとに分別を行う。取り違えの防止が狙いだ。
「これはあっちにお願いしてもいいかな~?」
「こっちだな」
雲雀は資材を並び替える。
「ありがとうなんだよ~」
「いいってことさ」
順平は適宜、進行状況を無線で別班に伝えるのも忘れない。
資材置き場と作業場の前に並べられた防護柵と盾の複合。
その前に、イレーヌと鋭に加え、扼城と麗美も並ぶ。
上空から落ち窪む矢、その前に扼城は躍り出る。
掲げたるは透明な盾、シールド「プレシオン」。重ねられた防護盾の残骸。
防衛は決して得意な方ではない。だが、一度引き受けた以上、必ず賭して見せる。
めらめらと沸き立つ心。静かなる闘志が呼び覚まされて。
全身に浮かぶは、赤い梵字。それは盾をも覆い、光を放つ。
光の障壁が身体を包み、心強さと温かさを感じさせた。
隣に立つ麗美の優しげな笑み。
扼城の真紅の瞳に紅の梵字が重なり――、放たれた矢はひしゃげて潰れた。
間をおかず麗美目がけて飛来した矢も、高速移動する盾によって虚しく地面に落ちる。
「雨の中の作業は大変なんだよ~」
矢降る大地と向かい合い、図面を見ながら各資材に番号や目印を書き込む順平。
前後左右、裏表を分かりやすく。作業を円滑に。
口ではそう言いながらも、順平に不安げな様子は見られない。
順平だけではない。同じく製作補助をする雲雀も、静架も、散らばる石や矢で防護盾の補強を行っているリュカも同様だ。
なぜなら――。
麗美は背後を顧みた。
盾の向こう、そこには作業に没頭する仲間達がいる。誰しも手を休めることはなく。
脳裏に浮かぶは、町中の雑踏。お祭り。コンサート。
ざわざわと賑わう人々の息吹きが今にも聞こえてきそうで。そういった楽しさの集まる住処を、日常を失わない為にも――ここで敵を抑える。一矢たりとも逃すわけにはいかない。
優しさとは強さ。その後姿は紛れも無く、優しきシスターのそれだった。
そして――作業開始から30分。遂に、完成した。
●その先は
「できたんだよ~」
「おう、解ったぜ」
鋭は即座に無線で、別班へ情報を送る。
静架は終わるや否や、弓を手に前線へ駆け出した。
始終資材の運搬に追われたリュカ。結構な重さのものを持って東奔西走すれば已む無しだろう。流石に疲れが見えている。
覚醒者となって以降、常に心身を鍛えてきたが、それでも疲労と無縁という訳にはいかない。
「……不甲斐ない。やはりエルフとは弱い種族だな」
外界で生きる為に必要な物は身体ではないと分かってはいるが……。
「そんなことないんだよ~」
順平は呑気な調子で首を振る。
「周りを見てみたらどうかな~」
そう言われて目をやれば――。
「……疲れた」
イレーヌは腰から砕け落ち、麗美も一息吐いて微笑む。
「神様にお祈りしたお陰かしら」
扼城も額の汗を拭い、雲雀は張り付いた服をぱたぱたと煽る。
「何とか凌いだな……。見ろよ、見事に汗だくだ。早くひとっ風呂浴びたい気分だぜ」
平然としている者は誰もいない。強いて言うなら、静架だけだろうか。
エルフだろうが、ドワーフだろうが、人間だろうが。そこには、種族など関係ない。
リュカが思案に落ちようとしたとき、鋭の発言が場を乱した。
重傷を負った者がいる――。
全員の視線が一斉にイレーヌへ向かう。
この場にいる聖導士は彼女だけ。
イレーヌは疲れた身体をおして立ち上がり、静架の後を追った。
無線で安全を確認した鋭の指示でカタパルトとバリスタが始動したのは、程なくしてだった。
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相談卓 上霧 鋭(ka3535) 人間(リアルブルー)|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/02/27 09:36:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/22 22:58:40 |