スミレの花を染めて

マスター:サトー

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/05 12:00
完成日
2015/03/10 16:12

みんなの思い出

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オープニング

 綺麗な花畑だった。
 青白黄の3色のスミレ。街道の脇に咲き乱れるそれらに、少女の目は釘づけだ。
 絹の糸のような嫋やかな髪は純白に濡れ、肩口から垂れ下がり腕にかかる。
「お土産にしようかしら」
 慈愛を湛えた瞳は優しさを体現し、面貌を彩るは慎ましやかな微笑。
 あの人は喜んでくれるだろうか、と胸中に心地の良い期待感が高まっていくのを感じ、心は弾むよう。
 少女はまだ15歳。
 大人とも子供とも言えぬ穢れを知らない彼女は、靄のように純潔を纏い、あどけない心をその身に隠す。
 花畑の中にしゃがみ込み花を愛でる少女を、馬車の中から二組の目が見守っていた。
 愛娘の愛らしい姿に細まる目。乾いた喉を水で潤し、片方が腹から声を出す。
「ローザ! お前も少し休んだらどうだ?」
「お父様、もう少しだけ!」
 両親は顔を見合わせ苦笑する。
 一家3人、旅先からの帰郷の途中。故郷のプレアルバ村までは、もう後1,2時間といったところ。
 焦ることも無いかと、御者を務める父は煙草で一服――しようとして、我が目を疑った。
 大岩の陰から覗くゴブリンの姿。
 ゴブリンは獲物を見定めると、一直線にローザへと駆ける。花に夢中となっている彼女に。
「ローザ!!」
「えっ――」
 使い古された剣先が、少女の顔に傷を刻む。
 ローザの身が崩れるのと、両親が駆けだしたのはほぼ同時だった。
 倒れた少女に二撃目を打ち込むゴブリン。従えたコボルドもそれに追従する。
 三撃目――四撃目のところで、両親はローザを庇うようにその身を投げ出した。
 ローザを覆う両親の身体を、ゴブリンは執拗に剣で突き刺し、コボルドも爪で切り裂く。
 血だまりがスミレの花を染めていく。
 仲間のゴブリン達は、その間に馬車を漁り中を物色していた。
 ジェオルジの街道を往く乗合馬車が通りかかったのは、そんな場面だった。


「こんな辺鄙な村までわざわざお越し頂き、ありがとうございます」
 一人の黒髪の青年が、ハンター達に頭を下げる。
「私は、ルチオ・スペランツァと言います。駆け出しですが、機導師をしております。今回の依頼に関して、村長に代わり私の方からご説明させて頂きます」
 ルチオの説明が始まる。
 依頼は、街道脇の花畑にどこからかやってきて棲みついたゴブリンとコボルドの退治。
 数はゴブリンが7。コボルドが8。
 弓や杖、剣などで武装したゴブリン達は互いに連携し、手先となっているコボルドが戦場をかき回す。
 ある程度統率の取れた厄介な集団らしい。
 なぜそこまで詳しく分かっているのかという問いに、ルチオは面目無さそうな笑みを浮かべた。
「現場へ通りかかった乗合馬車に、たまたま乗っていたのです」
 その馬車には、ルチオともう一人ベテランのハンターが乗っていたそうな。
 二人は協力してゴブリンを追い払うことに成功したそうだが。
「あれは私達が追い払ったというより、向こうが退いたという感じでした」
 二人の威嚇に、ゴブリン達は無理をせず、奪った物資を持ってすぐ近くの森に身を隠したとのこと。
「その後、時間をおいて偵察に出てみましたが、あの花畑を住処と定めたようです」
 このままでは安全に街道を通過できないということで、此度の依頼になった運びである。
「この村の者に死傷者も出ておりますので、出来れば逃がしたくはありません」
 最初に襲われた一家三人の内、父母は死亡。娘も意識不明の重体だ。
 傷は深く、外科的施術が必要ということで、街道の安全を取り戻し次第、娘はジェオルジの統治者一族が治める土地付近の医療設備の整った村まで移送する予定らしい。
「役に立てるか分かりませんが、私もご同行いたします。宜しくお願いいたします」

 村長宅を出たハンター一同。
 扉を開ければ、そこには一人の少女が待ち受けていた。
「あの! ハンターの皆さん、お願いがあります!」
「こら、イーダ」
 ルチオは少女を諌める。
「だって! だって……」
「すみません、妹が」
 目の前の少女は、ルチオの妹。名をグイーダという。
 どうやらグイーダは、被害にあったローザという少女を実の姉のように慕っていたらしい。
「お願いします。お姉ちゃんの仇をとってください。お願いします!」
 グイーダはこれ以上ないほどに、ハンター達に頭を下げた。

リプレイ本文

 グイーダの肩に、小さな手がふわりと乗る。
 顔を上げた少女の瞳に映るは、自身よりも若干小さな白髪のエルフ。
「ああ、もちろんだ。全部倒してすぐ戻るよ……早くお姉さんのために道の安全を確保しないと、だからね」
 リリス・ハックウッド(ka3754)の隣には、艶のある長い黒髪に穏やかな笑みを浮かべたマナ・ブライト(ka4268)。
「安心して下さい。私達が必ずの仇を、人々を苦しめる亜人を討伐します。だから、イーダちゃんはローザさんの傍にいてあげて下さい」
「はい……!」
 少女の頭が再び下がる。
 握りしめられた両の拳から、二人はその想いを確かに受け取った。

●馬車の中。
「優しい妹さんだな。お兄さんも、わかりやすい説明をありがとう。よろしくな」
「はい、こちらこそ」
 リリスの言葉を契機に、作戦の確認を終えたラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)が向き直る。
「貴方のもたらした情報のおかげで、こちらも準備をして臨む事ができました」
「いえ、そんな……」
「謙遜することないわ。あなたもコボルドの対応、お願いするわね」
 薛 夏湍(ka3721)に、ルチオは頷きを返す。
 ふと目が合ったシャルティナ(ka0119)は、びくっと身じろいだ。
「え、えと……」
 小動物のような瞳。眉尻が下がり、ぺこりと頭を下げた。
「仇討ちか、嬢ちゃんの自己満足と前に進む切っ掛けにはなるか」
 リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は愛用の刀の手入れを行い、ロニ・カルディス(ka0551)は首から提げたロザリオを掌の上で転がした。
「……大人しくしていれば良いものを。やりすぎたな」
「許してはいけません、絶対に」
 ラシュディアの熱の籠った声音が馬車内を温める。
「ええ、急ぎましょう」
「はい!」
 夏湍とマナ。リカルドは刀を透かし見る。
「きっちり仇はとってやるさ」
 刃毀れ一つ無い刀身がきらりと光った。


 目的地を前に馬車を降りた一行。
 暫しして、ハンター達の前に広がるスミレの花畑。その只中、大岩の傍に陣取りくつろいでいるゴブリン達が見えた。
「さて、早く片付けよう。一匹たりとも逃さんぞ」
 意気込むリリスに、シャルティナは若干緊張気味。手の震えは不安によるものか。
「思ったよりたくさんいますね……うまく倒せるでしょうか……」
 敵の数は総計15。情報としては知っていた。だが、実際に目の当たりにすれば、その数字は異なる印象を与えて来る。経験の浅い者には尚更だ。
「確かに数は多いです。ですが――」
「一人で相手をするわけではありません」
 マナの言葉を引き継ぐように、ラシュディアは言う。
「仲間を信用しな」
 剣を取るリカルド。ロニは盾を用意して、リリスはライフルを担ぐ。
「そういうことだ」
「リリスも戦闘は初めてさ。お互い、全力を尽くそう」
「作戦通りにすれば、きっと上手くいくわ」
 背をさする夏湍。シャルティナの手は、もう震えてはいなかった。


 開けた地形。互いを認識した瞬間、ハンター達は一斉に駆けだした。
 強襲に、ゴブリン達は慌てて大地に放り出していた武器を取る。
 メイジの指示が飛ぶ。
 先頭を走るロニ目がけて放たれる二本の矢。
 リリスはライフルを構え、ラシュディアが杖を翳し、マナの剣はロニへと向けられる。
「光の加護を」
 聖なる光に包まれたロニが盾で一本を軽々と防ぐ間に、もう一本の矢もリリスに撃ち落されていた。
 動揺の声が上がる敵陣。
 前に出ようとしていた数体のゴブリンがその場でふらついている。
 ラシュディアの杖から放たれたのは、睡眠を誘う青白いガス。眠ったゴブリンを二体のコボルドが起こしにかかる内に、更に距離が詰まる。
 再びメイジの指示が飛ぶ。
 戦場の両端から駆けだすは、コボルド6体。
 対して、ハンター側から抜け出したのは、疾影士の二人。
 夏湍の瞳が青から赤へ。姿勢は前傾。小太刀を手に、夜明け前の空のような深い青の髪が大地と並行に泳ぐ。
 その隣を疾走するは、銀色の髪の少女。柔弱な瞳は若干引き締まり、手にした日本刀に力が入る。
 向かい来る二人にメイジは杖を向け、魔法を放とうとして、頬を弾丸が掠めた。リリスの牽制に、あたふたと射線上を回避する。それを見たアーチャーの一体も、大盾の後方に隠れるように、身を動かした。

 振るわれたコボルドの爪。
 夏湍の瞳が濁る。
 地に伏せる様に身を低くして躱すと、そのまま足を斬りつける。
 短い悲鳴。膝が落ち、急所を晒す。
 ルチオの弾丸が上体を起こす。小太刀が胸に突きこまれた。
 間合いを一気に詰めたシャルティナも、刀のリーチを生かして胸に突きこむ。
 振り上げた腕をぴくぴくと揺らし、コボルドが地に倒れ伏す。
 たったの一撃。あっけない終りに感想を抱く間もなく、シャルティナは刀を振るう。弾かれた投石。コボルドの舌打ちが聞こえた。
 数秒の内に二匹のコボルドを失ったソルジャーらが、これ以上やらせてなるものかと前へ出ようとして、その足を止めた。
 射抜くは、大地が溶け込んだような凛々しきドワーフの双眸。
「さて、俺が相手になろう」
 盾と槍を構え、ロニは真正面から敵を見据える。
 大盾を構えた二体の左右に、剣を持ったゴブリンがそれぞれ就く。
 ロニの視界の端には、花畑を彩る血だまりの跡。憤りが胸を撫でた。
「特別に情け容赦無しでやってやる」
 気迫は風となって吹き付ける。大盾が身じろぐ。槍の横薙ぎ一つに、ソルジャー4体が後ずさった。
 その間にも、コボルドを先に潰そうとするハンター達の勢いは止まらない。
「悪しき者達よ、光の前に消えなさい!」
 光弾に撃たれたコボルドが吹き飛ぶ。
 喘ぐように見上げた瞳に映ったのは、光そのもの。輝きを纏ったマナは躊躇うことなく剣を振り下ろし、トドメをさした。
 柔和な面持ちは引き結ばれ、心優しき修道女も今ばかりは慈悲は無い。
 シャルティナに襲いかかろうとしている二匹のコボルドを見て、マナは剣に光を宿す。

 一閃。空を切る音に、肌が粟立つ。
 リカルドの大振りの一振りを、コボルドは辛うじて身を逸らして避けた。面上に浮かぶは歪んだ笑み。当たってないぞ、と嘲笑するかのような貌は、直後、激痛に歪む。
 一発。燻る硝煙。銃口が示すのは足の甲。先の一振りはただの布石だ。
 蹲りかけた首を、逆手に持ち替えた刀で撫で斬りに。悲鳴を上げる間もなく、頭を撃ち抜く。二発。
 演武のような流麗な動き。コボルドは為す術も無く命を失った。
 メイジとアーチャーへの牽制に追われていたリリスだったが、遂に敵の攻撃を許してしまう。
「……抑えきれんかったか。リカルド! 狙われているぞ……!!」
 リリスの声に、咄嗟に半身をそらすリカルド。
 その隙に、慄いた別のコボルドが背を向けて走り出す。
 頬を掠めていく矢。それに構わず、胸につけた拳銃は照準を定めている。
 三発。
 コボルドの左腕に走った痛み。喚くように頭が上がった。
 拳銃はそのまま高くスライドし、銃口が火を噴く。四発。
 更に反転し、手近な敵に二発ぶち込み、六発。そして、リロード。
 弾数は全部で七。だが、無くなってからでは遅い。
 リカルドは自身の弾丸の行方を確認することなく、ゴブリンと相対するロニの下へ急いだ。

 迫る二匹のコボルド。
 尖った爪がシャルティナの刀の上を滑る。キリリと耳障りな音を残して、コボルドの体勢が崩れた。
 絶好の隙。しかし、身を乗り出してくるもう一匹の影がいる。
 口が裂け、覗いた鋭い牙。喰らいつかんとするそれを、飛来した光弾が撃ち砕く。
 痛苦の叫びを尻目に、シャルティナは体勢を立て直そうとしている方に狙いを定めた。
「しつこいのはいや、ですよ」
 舐めるような刀身の流れが、コボルドの身体を断ち切る。
 もう一匹はと見やれば、既に倒れ伏した後。リカルドとルチオ、三発の弾丸に撃ち抜かれた敵に、明日は無い。
 他方でも、マナの光弾で怯んだところを夏湍が小太刀で切り刻んでいるのが見えた。
 残すはゴブリンのみ。
 弾む息のままに、シャルティナも加勢に向かった。


 ロニの槍が大盾を激しく打つ。
 防がれたものの、その強烈な一撃に大盾2体はたたらを踏んで後退した。
 コボルドらの援護をと両脇から進み出ようとしたソルジャーの小盾を水球が押し返す。
「抜かせない!」
 突き刺さる鋭利な視線。足が地面に縫い付けられる。
 ラシュディアを厭うたのか、メイジとアーチャーの矛先が彼に変わった。
 銃弾と黒弾がアーチャーを妨害するが、メイジの放った石礫までは防げない。
 身体を打つ衝撃。
 痛みを噛み殺すラシュディア。彼への視線を遮らんと、小柄で屈強な青年が立ちはだかる。
「どこを見ている」
 注意を惹くロニに、前に出た二体のソルジャーが、同時に剣を振り下ろす。
 突き出した盾と槍。金属と金属がぶつかり合い、ロニは歯を食いしばる。相手は盾を捨て両手で押し込んでくる。
 その上、ソルジャー達の剣に炎が宿る。
「っ!」
 軋む両腕。顔を焼く熱気。歯を食いしばる。
 リリスの牽制が敵後衛を抑制し、横入りさせない。
 拮抗した力に、固まる三者。
 それを崩したのは一本の炎の矢。
 ラシュディアの眼光よりも猶鋭い矢が、ソルジャーの頬に刺さった。
 顔を抑えて一歩二歩と後ずさる一体。もう片方を、ロニは渾身の力で盾を以て弾き返す。
 後方から牽制に徹していたリリスの脇を、全き剣と化した仲間が駆け抜けていく。
 コボルドは片付いたようだ。
「よし……これで一気に……」
 大盾を穿つ鉛玉。
 ずれた大盾の隙間を狙って、ロニは槍を突き込む。
 胴体に槍を生やしたゴブリンが助けを求める悲鳴を上げ、剣を手にしたソルジャーが救出へと向かうが――。
 不意に腕に走る痛み。視界の端を過ぎる、透き通るような銀の髪。
「とどめはお願いしますね?」
「任せな」
 シャルティナは別のゴブリンへ。後を引き継いだリカルドは上段から一振り。
 ソルジャーは剣を掲げて防ぐ。が、それも彼の掌の上。
 流水のように滑らかに滑る刀身が肘の内側を切り裂き、弾丸が足の甲を貫く。
 痛みを堪え剣を振るおうとしたソルジャーの前には、既に何も無く。
 両の膝裏に走った痛みが、彼の位置を教えてくれた。
「じゃあな」
 後頭部に突きつけられた銃口。
 銃声と共に、ゴブリンは崩れ落ちた。

「癒しの加護を」
 マナのヒールがロニとラシュディアへ飛ぶ。
 痛みが引いていくのを感じながら、ロニは槍を引き抜いた。倒れた敵を放って、顔を押さえたソルジャーに黒弾を放つ。
「先ほどのお返しだ、たっぷりと魔法を浴びてもらおうか!」
 ラシュディアもメイジ目がけて炎の矢を飛ばす。対するメイジも炎の矢を宙に描く。
 互いを違わず、一直線に飛ぶマテリアルの塊。
 烈火の峻峰は交差し――、夏湍はラシュディアの前に割り込んだ。
 捧げ持つ小太刀にかかる圧力。強い衝撃に、腕が押される。炎と風。分は悪い。けれど――。
 小太刀を僅かに引く。ぶつかる力を器用に逸らし、群青の髪を割って炎が去る。
 メイジは仰向けに倒れ伏している。
 夏湍の耳から一筋の紅い雫が垂れた。

 残るゴブリンは、大盾1にアーチャー2。
 劣勢を悟ったアーチャーの一体が武器を捨てて逃走を図る。
 無防備な背。遮るものは無い。
「まったく敵に背を向けるとは……しかし、おかげで狙いやすいよ。ありがとう」
 リリスの銃弾とマナの光弾が穿った。
 残るアーチャーが岩陰に隠れようと走る。先客がいるとも知らずに。
「残念だったわね」
 しかし、夏湍は動こうとしない。訝しむアーチャー。
 一拍して、小太刀が既に赤く染まっているのに気が付いた。
 アーチャーの身体が傾ぐ。その血が誰のものか、知る事も出来ぬうちに。
 そして、頭を撃ち抜かれた大盾が倒れ、この場に立つ敵はいなくなった――。


「作業終了っとまあこんなもんか」
 リカルドの言葉に、皆が一息吐く。とりわけ、シャルティナは深い息を吐いた。
 命を失うことなく無事に任務を終えられた。
 膝がかくりと落ちそうになる。張りっぱなしだった緊張の糸が解れ、どっと疲労となって押し寄せてきた。
「大丈夫でしょうか?」
 皆の治療に勤しんでいたマナに、シャルティナは小さくお礼を言う。
「はい、ありがとうございます……」
 つつがなく切り抜けられたこと、それだけで今は十分だった。
 そこここで倒れ伏したゴブリンとコボルド。
 その剣や爪を見て、夏湍は微かに目を細める。あんなもので切りつけられれば、恐らく傷が残ることは避けられないだろう。
 まだ15歳という年頃の女の子。
 目を覚まし、両親の死と自らの怪我を知れば、どれほど苦しむだろうか。考えただけで、夏湍の胸は痛いほどに締め付けられた。
「遺品の回収をしましょう。それと――、この花畑も」
 いずれ両親の弔いに少女が訪れた時、少しでも心安らかでいられるようにと、夏湍は花畑の修復を志願した。
「そうだな」
 ロニ達も手分けして遺留品を探す。
 見つかったのは、僅かに簪が一つだけ。
 ルチオに確認して貰ったところ、それは少女の母がいつも付けていたものらしい。
 こびり付いた血を丁寧に拭い、夏湍はバンダナに包んでルチオに手渡す。
 残りの修復は、村の人達に任せることにした。
「歪虚の脅威が迫っている中、何故亜人達はこうも愚かな行為を繰り返すのでしょうか」
 憤りと嘆きは縒り合わさり、マナの胸中を辛く縛る。
「利害の対立、異種への嫌悪感、自己防衛……」
「えっ?」
「亜人は亜人。歪虚でも、知能の低い動物でもありません。だからこそ、難しいのでしょう」
 ルチオの言はまるで亜人を擁護するかのようで、マナは口を噤んだ。
「ふむ、花を取ろうとしたのだろうか……」
 リリスはぼそりと呟く。
 スミレの花言葉は謙虚に誠実、そして……。ちらりとルチオを見やる。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや。ローザさんだったか? 無事、良くなると良いな」
「そうですね。それが妹の願いでもありますから」
 穏やかな微笑を浮かべるルチオに、リリスはうーんと眉を寄せたが、何も言わなかった。
「ローザさんの移送には、私も付きあわせて頂いて良いでしょうか?」
 少しでも痛みを和らげるお手伝いがしたいと申し出るマナ。ラシュディアも続く。
「俺も付き合います。再度の襲撃の可能性も0ではありませんし、乗りかかった船です。一区切りがつくまでは」
「ありがとうございます。是非お願いします」

 ロニは戦場となった花畑を見渡し、ぽつりと独りごちる。
「失ったものは大きく、得たものは少ないか……」
「まあ後は嬢ちゃん達の問題だわな」
 これで少しはあの少女の胸もすっとしただろうか。そうであればいい、とリカルドは願う。
 復讐、とはいえ、それで被害者が前に進むことが出来るようになるのなら、それは肯定されるべきだと。
 ロニは目を伏せて、ロザリオに手を添えた。

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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 大飛燕草は風に乗り
    薛 夏湍ka3721

  • リリス・ハックウッドka3754

重体一覧

参加者一覧

  • 《臆病》な心を斬伏せる者
    シャルティナ(ka0119
    エルフ|15才|女性|疾影士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779
    人間(紅)|19才|男性|魔術師
  • 大飛燕草は風に乗り
    薛 夏湍(ka3721
    人間(紅)|28才|女性|疾影士

  • リリス・ハックウッド(ka3754
    エルフ|10才|女性|猟撃士

  • マナ・ブライト(ka4268
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
リカルド=フェアバーン(ka0356
人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/03/05 06:34:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/01 23:12:17