ゲスト
(ka0000)
【不動】黒槌
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/27 19:00
- 完成日
- 2015/03/07 07:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
赤き大地……辺境の運命を掛けた防衛戦は、始まった。
CAM実験場を落とさんと歪虚の軍勢が南下を始める中、ナナミ側流域に敷かれた防衛線の西端・左翼側では、辺境部族スコール族の長ファリフ・スコール(kz0009)の率いる戦士達が、今まさに迎撃戦に討って出ようとしていた。
「皆、準備はいい!? 今までの犠牲を無駄にしない為にも……絶対に勝とう!」
ファリフがその身の丈程もある大斧を掲げ叫ぶと、続く部族の戦士達は呼応して、空を割らんとするかの様な雄叫びを上げた。
幼き少女は、『伝説の刺青』を資質として生まれ持った、辺境最大の部族の長。
その統率は決して熟達したものではないが、しかし若さ故の勢いと闘志が、猛き戦士達を牽引する大きな力となっていた。
「スコールの長殿よ、少しお耳を拝借して宜しいか」
そのファリフに音も無く近づいたのは……白髪の老戦士、シバ(kz0048)だった。
先のハイルタイとの戦いで負った怪我で杖をついているが、歩き回るだけならばもう大丈夫らしい。
そのシバの、かしこまった物言いを受けて、ファリフは苦笑した。
「シバさん……ファリフでいいよ」
「否、否。戦士たるもの、戦場にあっては器に然るべき呼び名を用いられるべきよ。そんなことよりな、お主の耳に入れねばならぬ話がある」
「?」
「斥候に出たテト達より報せがあった。『黒槌』が既にナナミ川を渡り、ここへ近づいておると」
「……黒槌、グロボル?」
絞り出すように吐息を漏らしたファリフに、シバが頷く。
それは、辺境に古く伝わる歪虚の名だ。象ほどにもある体躯を持った、黒い大猪型の歪虚。
そして、かつて部族の戦士を幾人も屠った、忌まわしい敵。
「一度、あれと戦ったそうだな」
「うん。テトの仲間を、助ける為に」
先の戦いで黒槌グロボルは、辺境部族の斥候を孤立させる事で囮とし、その救援隊諸共に皆殺しにしようと目論んだ。
強いだけではなく、獣以上の知能を持つ、厄介な相手であった。
「あれは聡い獣だが儂と同じ、旧い時代の戦士よ。一度敵を定めたならば、自分か敵の何れかが死ぬまで止まらぬ」
「それってまさか、あの時逃がしたボク達を、追ってきたってこと……?」
「十中八九な。匂いを辿られたのじゃろ」
グロボルの突進は、立ちはだかる物をすべて薙ぎ倒す、まさに大槌の如き威力を持つ。
そのグロボルに狙われるという事は、戦場で戦士達に囲まれ、彼らを指揮しなければならないファリフにとっては最悪の状況と言っていい。
だがファリフは、迷う素振りさえ見せずに決断した。
「なら、ボクが囮になる」
「なんと」
シバが……一瞬浮かべた笑みを隠すかの様に、態とらしく驚いてみせた。
「しかし敵は黒槌のみではない、お主は部族の指揮を取り、実験場に迫る怠惰の眷属も抑えねばならぬ。そこでお主の身に何かがあれば、もはや戦況の取り返しはつかぬぞ」
「だからこそ、迷わずにアイツと戦って、しかも倒さなきゃダメだって、思うんだ。皆を、不安にさせない為に」
黒槌は、一度取り逃がした敵……今のままならば、ファリフを襲うだろう。
であれば、ファリフ自身が味方と共にいれば、その分だけ味方を危険にさらす。
かと言って、部族の長であるファリフが長く欠ければそれだけ戦士達の力も弱まる。
今、必要なのは、速やかにグロボルを退ける事。
「勝算は」シバが問う。
「守りに専念すれば、ボクも少しは持ち堪えられる……と思う。怠惰の群れは、まずスコールの戦士達に抑えてもらうよ。その間にグロボルをやっつけるか、追い返すかできれば」
「時間との勝負じゃな。グロボルへの、反撃を担う者が要る」
「……あては、あるんだ」
「『星の友』か?」
ファリフは、シバの瞳を見据え……自身ありげな笑みと共に、首を横に振った。
「あの人達がそうかは、わかんない。でも……ボクが一番、信じられる人達だから」
赤き大地……辺境の運命を掛けた防衛戦は、始まった。
CAM実験場を落とさんと歪虚の軍勢が南下を始める中、ナナミ側流域に敷かれた防衛線の西端・左翼側では、辺境部族スコール族の長ファリフ・スコール(kz0009)の率いる戦士達が、今まさに迎撃戦に討って出ようとしていた。
「皆、準備はいい!? 今までの犠牲を無駄にしない為にも……絶対に勝とう!」
ファリフがその身の丈程もある大斧を掲げ叫ぶと、続く部族の戦士達は呼応して、空を割らんとするかの様な雄叫びを上げた。
幼き少女は、『伝説の刺青』を資質として生まれ持った、辺境最大の部族の長。
その統率は決して熟達したものではないが、しかし若さ故の勢いと闘志が、猛き戦士達を牽引する大きな力となっていた。
「スコールの長殿よ、少しお耳を拝借して宜しいか」
そのファリフに音も無く近づいたのは……白髪の老戦士、シバ(kz0048)だった。
先のハイルタイとの戦いで負った怪我で杖をついているが、歩き回るだけならばもう大丈夫らしい。
そのシバの、かしこまった物言いを受けて、ファリフは苦笑した。
「シバさん……ファリフでいいよ」
「否、否。戦士たるもの、戦場にあっては器に然るべき呼び名を用いられるべきよ。そんなことよりな、お主の耳に入れねばならぬ話がある」
「?」
「斥候に出たテト達より報せがあった。『黒槌』が既にナナミ川を渡り、ここへ近づいておると」
「……黒槌、グロボル?」
絞り出すように吐息を漏らしたファリフに、シバが頷く。
それは、辺境に古く伝わる歪虚の名だ。象ほどにもある体躯を持った、黒い大猪型の歪虚。
そして、かつて部族の戦士を幾人も屠った、忌まわしい敵。
「一度、あれと戦ったそうだな」
「うん。テトの仲間を、助ける為に」
先の戦いで黒槌グロボルは、辺境部族の斥候を孤立させる事で囮とし、その救援隊諸共に皆殺しにしようと目論んだ。
強いだけではなく、獣以上の知能を持つ、厄介な相手であった。
「あれは聡い獣だが儂と同じ、旧い時代の戦士よ。一度敵を定めたならば、自分か敵の何れかが死ぬまで止まらぬ」
「それってまさか、あの時逃がしたボク達を、追ってきたってこと……?」
「十中八九な。匂いを辿られたのじゃろ」
グロボルの突進は、立ちはだかる物をすべて薙ぎ倒す、まさに大槌の如き威力を持つ。
そのグロボルに狙われるという事は、戦場で戦士達に囲まれ、彼らを指揮しなければならないファリフにとっては最悪の状況と言っていい。
だがファリフは、迷う素振りさえ見せずに決断した。
「なら、ボクが囮になる」
「なんと」
シバが……一瞬浮かべた笑みを隠すかの様に、態とらしく驚いてみせた。
「しかし敵は黒槌のみではない、お主は部族の指揮を取り、実験場に迫る怠惰の眷属も抑えねばならぬ。そこでお主の身に何かがあれば、もはや戦況の取り返しはつかぬぞ」
「だからこそ、迷わずにアイツと戦って、しかも倒さなきゃダメだって、思うんだ。皆を、不安にさせない為に」
黒槌は、一度取り逃がした敵……今のままならば、ファリフを襲うだろう。
であれば、ファリフ自身が味方と共にいれば、その分だけ味方を危険にさらす。
かと言って、部族の長であるファリフが長く欠ければそれだけ戦士達の力も弱まる。
今、必要なのは、速やかにグロボルを退ける事。
「勝算は」シバが問う。
「守りに専念すれば、ボクも少しは持ち堪えられる……と思う。怠惰の群れは、まずスコールの戦士達に抑えてもらうよ。その間にグロボルをやっつけるか、追い返すかできれば」
「時間との勝負じゃな。グロボルへの、反撃を担う者が要る」
「……あては、あるんだ」
「『星の友』か?」
ファリフは、シバの瞳を見据え……自身ありげな笑みと共に、首を横に振った。
「あの人達がそうかは、わかんない。でも……ボクが一番、信じられる人達だから」
リプレイ本文
●
川の北側からトロルの大群が現れ、スコール族ら部族の戦士達が迎撃を始めてから、間もなく。
『それ』は、予測の通り戦場の東側から、ゆっくりと近づいてきた。
猪というには、余りにも大きく、禍々しい影……
退治するのは、九人の覚醒者。
黒槌グロボルを目にした時、彼等の瞳は恐怖ではなく、闘志を湛えていた。
「ふははは、獣でありながら、見事な戦士よ! 戦士が死闘を望むならば それに答えずして なにが狂戦士の一族よ!!」
その姿を認め、開口一番に高笑いを上げたのはバルバロス(ka2119)だ。
敵は黒き沼の森での闘いを経て尚、決着を求めてファリフや、彼を追ってきた。
それは『闘い』を望むバルバロスにとっては、歓迎にさえ値する執念。
「……猪狩りですか、大きさは随分違うみたいですが。歪虚でなければご馳走だったのですけど。」
上泉 澪(ka0518)が、ぽつりと呟くと、傍らのウィンス・デイランダール(ka0039)は、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ご馳走、ね……だとしたらまた、胃もたれしそうな前菜だ」
歪虚さえディナーに例える豪胆は、その生い立ち故か。
川向うの主菜を見据えながら、意識は眼前の敵に。
「老兵は死なずただ去るのみ、ってのが一番綺麗だと思うが……畜生に言っても仕方ないな」
と、不敵に腕組みするのはヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
歩み寄ってくる黒槌に、彼が足を踏み出すと、ハンター達も一人、二人と後に続く。
もう一人の囮役であるファリフも、子供らしからぬ険しい表情で、グロボルを睨んでいたが……見かねたナハティガル・ハーレイ(ka0023)が、ファリフの肩をとん、とつついた。
「まぁ、『大将』はどんと構えてろ、…って言いたい所なんだがーーすまないが、奴さんを釣り上げる為に暫くの間『囮』になって貰うぜ?」
「うん、任せて……あんな奴なんかに、負けてられないんだ」
そう言いながら、ほんの微かに震える、ファリフの手。ナハティガルは、小さく吐息を漏らす。
「ーーサッサと終わらせて、皆の所に戻ろう。勿論、誰1人欠ける事無く……お前達は、俺達が命に代えても守ってみせる」
その言葉に、ファリフは一瞬呆けた様に、褐色の青年の赤い瞳を見つめた。
そして頷く。力強く。
「征こう。得るものの為に相応のリスクを払ったのならば、後は相応しいリターンを得に行くだけだ。」
ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)の言葉に呼応して、ファリフも、ナハティガルも、足を踏み出した。
寡黙な転移者は彼等と違い、己の想いを多くは語らない。
だが、少なくとも彼は、スコールの幼き族長を……轡を並べるに相応しいと判断した様に、見えた。
●
グロボルと睨み合いながら、ハンター達は少しずつ、相手を川の近くへと誘き寄せる。
「足場が悪ければ、突進の威力も減らせる筈……」
足元を確かめつつ、イスフェリア(ka2088)が状況を確認する。
本来ならば罠も仕掛けようとしていた彼女だが、残念ながらそれだけの時間と設備が無かった。後は……純粋な、力比べになるだろう。
「さぁて、黒槌か、強敵か……ならば、我が打ち破ってやろうぞ!」
フラメディア・イリジア(ka2604)は、大槌を構えながら、その瞬間を待ちきれぬかの様に、じりじりと敵との距離を測る。
当然、相手もハンター達に気づいている。
一触即発の状態……
最初に仕掛けたのは、黒槌だった。
「速いっ!?」
砲弾の様な質量と、速度。それは突進という言葉では、生温い程の。
「ファリフ!」「うん!」
グロボルが狙うのは、一度取り逃がしているバルバロスとファリフだ。
バルバロスが右に跳ぶのに呼応し、ファリフは反対の左へ。合わせて他のハンター達も、左右に別れて挟撃の態勢をつくる。
グロボルは即座、バルバロスを狙い進路を変えた。
(やはり、この程度では迷わないか。頭が回る畜生ってのは、面倒なんだが……!)
瞬間、ヴォルフガングは駆けながら、心の中で思考を巡らせた。
だが、これは想定済みの事項でもある。
「頼むぜ、嬢ちゃん。取り敢えずは……危なくなりそうな状況は、全部引き受けてやる。」
ヴォルフガングの言葉に頷いたイスフェリア……その手に握られたロッドの先からは、マテリアルが生み出した黒塊が飛翔する。
「足の指先……蹄を壊せれば……!」
イスフェリアだけではない。
接近する黒槌に合わせて、八人のハンターは全員が、その前足を狙い攻撃を仕掛けた。
一番手にナハティガルが槍を突き出し、次いでヴォルフガングが太刀を居抜く。
同じく太刀を正眼に構えた澪が下段突きを入れた所に、ウィンスがさらに振動刀を振り下ろす。
イスフェリアのシャドウブリッドは蹄を狙い撃ち、ウルヴァンのエレクトリックショックが敵の足取りを鈍らせる。
そして、囮となったバルバロス、それに随伴しているフラメディア。
「さあ、最初から全力で征くぞ! 我が一撃を受けるがよい!」
「来るがいい。我が全霊で打ち砕いてやろう!」
フラメディアの石槌が黒槌の左足、バルバロスの大斧が右足を、それぞれ同時に薙ぐ。
この八撃は、僅か一瞬の出来事。
完璧な集中攻撃であった。
しかし、それでいて、黒槌グロボルを止めるには、至らない。
「ぐおっ……!?」
突進しながらグロボルは微かにその軌道をずらし、進路上に複数のハンターを巻き込んだ。
右翼側に展開したウィンス、ウルヴァン、フラメディアを巻き込み、最後に囮のバルバロスを纏めて轢き倒して、その場を駆け去っていく。
「くくっ、やるではないか……面白い……!」
フラメディアが肩を震わせながらゆらりと立ち上がり、遠間で再び此方を向いたグロボルを睨んだ。
猛烈な衝撃を受けたものの、槌で攻撃を受けて致命打は避けている。
戦場に川辺を選んだ事も、ウルヴァンのエレクトリックショックも、その大きな助けとなっていた。
ただひとつだけ、ハンターの誤算を挙げるなら……
「……踏ん張りが効かないのは、俺達も一緒か」
ウルヴァンが、足元の流木を蹴り飛ばして足場を整え、身構え直した。
地面に転がっているのは、無数の岩、流木、そして水。平地と同じ感覚で動き回るには、そこはあまりに厳しい環境だった。
「上等だ……さっさと平らげて、次の皿に行く……!」
ウィンスは唇から垂れた血を拭い、刀の柄を握り治す。
相手と交戦している以上、再び戦場を変える余裕もない。
あとは真っ向勝負で、打ち破るのみと……敵を見据えた。
「少しふらついてる……こっちの攻撃が、効いてないわけじゃなさそう」
イスフェリアが微かに目を細めてグロボルの様子を見つめながら、バルバロスにヒールを使い、その傷を癒やす。
「なら一撃離脱で攻撃を絶やさず繰り返せば、望みはあるだろう。一網打尽にされないように左右に別れながら、な」
ヴォルフガングが呟くと同時、グロボルの攻撃の、二撃目。
再び狙いは、バルバロス。
「させるか」
ナハティガルが、グロボルの側面から仕掛ける。
攻めの構えで槍を低く構えてからの渾身撃。
さらに反対側からは澪が、川に転がる一際大きな岩に飛び乗り、グロボル目掛けて跳躍した。
グロボルが惑うかと期待しての奇襲と挟撃だったが、敵は頑なだった。
槍とダガーの刃がそれぞれ突き立った瞬間、尚衰えないグロボルの突撃を受け、澪が地面に叩きつけられる。
そのままグロボルは、再びバルバロスを攻撃、離脱していく。
闘いは歪虚とハンターの、泥沼のどつきあいの様相を呈した。
グロボルはバルバロスを集中的に狙いながら、しかし常に複数のハンターを巻き込む軌道を選びながら突撃した。
川の地形で機動力が削がれているとはいえその速度は未だ健在。
対してハンターは、二人一組の挟撃を基本形として、執拗にグロボルの足を狙う。
互いに回避が困難となった敵味方の攻撃はその度に命を削り合い、すぐに戦場には、無傷のものなど一人も居なくなった。
「実に良い……戦士の戦いとは こうでなくてはな!」
「バルバロスさん……!」
自己治癒に、イスフェリアのヒールを重ねて尚、バルバロスの傷は極めて重く、身体は流血に染まっている。
それを見たファリフが思わず駆け出そうとしたのを、フラメディアはそっと掌で制した。
「ファリフ殿、来てはならぬぞ。囮役が纏めて屠られてしまうでな。敵の動きを見て、動作と狙いを読んで指示を出してもらえれば助かるかの?」
あくまで落ち着いた声色に、ファリフもぐっと堪え、敢えてバルバロスと距離を取った。
「匂いを追ってきた、ということだが……その鼻、焼いてやればどうなるかな」
ウルヴァンは、今度はグロボルの鼻を狙って、何度目かのエレクトリックショックを試みる。
恐らくは歪虚にとって、尤も敏感な部位であろう……その鼻に、漸く電撃が命中した瞬間、グロボルは明らかに身を捩り、突撃の軌道を乱した。
「目も耳もあるといえ、有用な知覚に強烈な刺激を受ければ万全では戦えんだろうさ」
「いや……残りも潰す」
ウルヴァンが呟いた直後、ウィンスが一気に前に飛び出す。
危険な駆けだが、チャンスは今しかない。
「単調な味だな。シェフはクビにした方が良い」
動きは見切った。そのまま、猪の左目めがけて刀の切っ先を突き出す。
超高速振動する刃が、歪虚の顔面を深く、抉る。
「これでっ……!」
そこに再度、イスフェリアのシャドウブリットが飛来。
今度は、グロボルの右目が、貫かれる。
『ーーーーーー!』
鼻に次いで目を潰され、角笛の様な悲鳴を挙げるグロボル。だが、仕留めるには一歩、及ばず。
恐るべきは、それでも尚再び走りだし、ハンター達を攻撃しようとする執念である。
「やれやれ……脚を集中的に潰せば、と思ったんだがな」
ヴォルフガングがぼやき、次いで構えた太刀で、グロボルの腿を裂く。
既に前足は肉が削げて骨を露わに、両目と鼻が潰れても、いかなる力を以ってしてか、グロボルは衰えぬ突撃をハンターに、バルバロスに繰り出す。
「耳だけでボクらを捉えてる……!?」ファリフが、驚愕の声を挙げる。
「成程、最期は“戦士”として真っ向勝負を望むかーー良いぜ。受けて立とう……!!」
逆にナハティガルは、口元を僅かに釣り上げて、再び足を踏み出した。
バルバロスを庇うように立ち、再度、槍の刺突。
だが、黒槌は止まらない。
「させないっ……!」
次いでイスフェリアが敢えて敵の進路に立ちシールドバッシュを試みたが、体格が違いすぎた。
確かな手応えはあったものの、少女の小さな身体は、象の様な巨体の質量に負け、跳ね飛ばされてしまう。
グロボルの向かう先には、バルバロス。
囮を一手に引き受け続けた彼は既に、死の間際まで追い詰められている。
だが……それでも、バルバロスは、笑っていた。
殆ど無意識に、彼が手にした斧を振り上げた瞬間。
「黒槌……お前の相手は、その人じゃないっ!」
バルバロスを押し飛ばし、割って入ったのはファリフだった。
斧で受けると同時に、マテリアルを介した祈りが光として爆ぜ、彼女を守る。
そのまま相手の質量に負けて吹っ飛んだ物の、すぐにファリフは立ち上がった。
グロボルは最早死狂いの形相でファリフに追撃を仕掛けようとしたが、雷閃に動きを止められる。
ウルヴァンが、グロボルの至近距離に潜り、最後のエレクトリックショックを放ったのだ。
「部族の長がその身をかけたのに、雇われ者のハンターが尻込みしたのでは美学に反するのでな」
表情を変えぬまま、ウルヴァンはファリフを一瞥する。
それは言うなれば、彼が秘めた信条、拘りなのだろう。そう察したのか、ファリフも無言で頷き、微笑むに留まった。
「決着を付けましょう。相手は死に体です」
澪が、動きの鈍ったグロボルの側面に周り、一息に顔面を凪いだ。グロボルの顔が引き裂かれると同時に、牙が切り落とされ、宙に舞う。
そこにヴォルフガングが強打を用いて、脇腹に太刀の一突き、追い打ちを入れる。
グロボルは苦痛に呻きながらも、尚反撃しようとして、のたうち回った。
「……しぶといな」
「抑えさえすれば、頭が目の前にあるのじゃから狙わぬ道理はないじゃろうて……介錯してくれようぞ」
ヴォルフガングの後ろでフラメディアが攻めの構えを作ってから、大きく、踏み込む。
強打と共に振り下ろされた大槌が……猪の頭を、文字通り『粉砕』した。
●
最期まで闘志を失わぬまま、しかし黒槌グロボルは討たれた。
ハンター達は、すぐに被害状況を確認する。
「バルバロスさんは……動けなさそう、かな」
イスフェリアは、ヒールの余力分を全て、血だるまで倒れる狂戦士に費やしてその生命を繋ぎ止めた。
既に意識を落としているが、命に別条はないと、イスフェリアは語った。
集中攻撃を受けたバルバロスは重体となり、しかしその恩恵として、ファリフは軽傷を負うにとどまっている。
今なお戦う部族の指揮を取らねばならない、ファリフが。
「……押され始めているな、向こうの戦線は」
「そうだ、ボク、戻らなくちゃ!」
目を細めて呟いたウルヴァンの言葉にハッとして、ファリフが勢い良く振り返る。
駆け出そうとしたファリフを、しかしウィンスが、その手を掴んで引き止めた。
「ファリフ……あいつらを、鼓舞してやれ。黒槌は死に、お前は生きている。それを報せるだけで、流れは変わる筈だ」
「……任せて!」
ファリフは頷き、今度こそ、トロルと戦う戦士達の下へと駆ける。
ウィンスは……決意の宿る瞳で、その背中を追いかけ始めた。
「……一服したかったんだがな、もう暫くお預けか」
続いて、ヴォルフガングが。
バルバロスと、彼の容態を観ているイスフェリアはその場に残ったが……残りのハンターは皆戦闘可能であり、全員がそのままトロルへの対処へと合流した。
「皆! グロボルはもう倒したから、負けないで!」
ファリフが駆けつけざまに、力いっぱい叫ぶ。
途端に部族の戦士達が息を吹き返したのが、ハンター達にも、見て取れた。
●
ファリフら部族の戦士とハンター達は、多少の時間は掛けたもののトロルの戦線を押し返し……その殆どを討ち取って、これを撃退した。
部族の間に名の通った存在であるグロボルを討たれた事、それを為したハンター達が戦線に加わった事、首長たるファリフが健在な姿で戦線に戻った事が、全てがプラスに働いた。
「みんな……ありがとう。おかげで、被害が少なくて済んだよ」
ファリフは戦士達を纏め直すと、他の戦線の援護に回る為、トロルの血で染まった川沿いを下流へ向かっていった。
だが、恐らくは必要無いだろう。戦の大局は、今や勝利の形に収束しつつあった。
ハンター達はそこでスコール族の戦士と別れ……やがてそれぞれの戻るべき場所へと、引き上げて行った。
川の北側からトロルの大群が現れ、スコール族ら部族の戦士達が迎撃を始めてから、間もなく。
『それ』は、予測の通り戦場の東側から、ゆっくりと近づいてきた。
猪というには、余りにも大きく、禍々しい影……
退治するのは、九人の覚醒者。
黒槌グロボルを目にした時、彼等の瞳は恐怖ではなく、闘志を湛えていた。
「ふははは、獣でありながら、見事な戦士よ! 戦士が死闘を望むならば それに答えずして なにが狂戦士の一族よ!!」
その姿を認め、開口一番に高笑いを上げたのはバルバロス(ka2119)だ。
敵は黒き沼の森での闘いを経て尚、決着を求めてファリフや、彼を追ってきた。
それは『闘い』を望むバルバロスにとっては、歓迎にさえ値する執念。
「……猪狩りですか、大きさは随分違うみたいですが。歪虚でなければご馳走だったのですけど。」
上泉 澪(ka0518)が、ぽつりと呟くと、傍らのウィンス・デイランダール(ka0039)は、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ご馳走、ね……だとしたらまた、胃もたれしそうな前菜だ」
歪虚さえディナーに例える豪胆は、その生い立ち故か。
川向うの主菜を見据えながら、意識は眼前の敵に。
「老兵は死なずただ去るのみ、ってのが一番綺麗だと思うが……畜生に言っても仕方ないな」
と、不敵に腕組みするのはヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
歩み寄ってくる黒槌に、彼が足を踏み出すと、ハンター達も一人、二人と後に続く。
もう一人の囮役であるファリフも、子供らしからぬ険しい表情で、グロボルを睨んでいたが……見かねたナハティガル・ハーレイ(ka0023)が、ファリフの肩をとん、とつついた。
「まぁ、『大将』はどんと構えてろ、…って言いたい所なんだがーーすまないが、奴さんを釣り上げる為に暫くの間『囮』になって貰うぜ?」
「うん、任せて……あんな奴なんかに、負けてられないんだ」
そう言いながら、ほんの微かに震える、ファリフの手。ナハティガルは、小さく吐息を漏らす。
「ーーサッサと終わらせて、皆の所に戻ろう。勿論、誰1人欠ける事無く……お前達は、俺達が命に代えても守ってみせる」
その言葉に、ファリフは一瞬呆けた様に、褐色の青年の赤い瞳を見つめた。
そして頷く。力強く。
「征こう。得るものの為に相応のリスクを払ったのならば、後は相応しいリターンを得に行くだけだ。」
ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)の言葉に呼応して、ファリフも、ナハティガルも、足を踏み出した。
寡黙な転移者は彼等と違い、己の想いを多くは語らない。
だが、少なくとも彼は、スコールの幼き族長を……轡を並べるに相応しいと判断した様に、見えた。
●
グロボルと睨み合いながら、ハンター達は少しずつ、相手を川の近くへと誘き寄せる。
「足場が悪ければ、突進の威力も減らせる筈……」
足元を確かめつつ、イスフェリア(ka2088)が状況を確認する。
本来ならば罠も仕掛けようとしていた彼女だが、残念ながらそれだけの時間と設備が無かった。後は……純粋な、力比べになるだろう。
「さぁて、黒槌か、強敵か……ならば、我が打ち破ってやろうぞ!」
フラメディア・イリジア(ka2604)は、大槌を構えながら、その瞬間を待ちきれぬかの様に、じりじりと敵との距離を測る。
当然、相手もハンター達に気づいている。
一触即発の状態……
最初に仕掛けたのは、黒槌だった。
「速いっ!?」
砲弾の様な質量と、速度。それは突進という言葉では、生温い程の。
「ファリフ!」「うん!」
グロボルが狙うのは、一度取り逃がしているバルバロスとファリフだ。
バルバロスが右に跳ぶのに呼応し、ファリフは反対の左へ。合わせて他のハンター達も、左右に別れて挟撃の態勢をつくる。
グロボルは即座、バルバロスを狙い進路を変えた。
(やはり、この程度では迷わないか。頭が回る畜生ってのは、面倒なんだが……!)
瞬間、ヴォルフガングは駆けながら、心の中で思考を巡らせた。
だが、これは想定済みの事項でもある。
「頼むぜ、嬢ちゃん。取り敢えずは……危なくなりそうな状況は、全部引き受けてやる。」
ヴォルフガングの言葉に頷いたイスフェリア……その手に握られたロッドの先からは、マテリアルが生み出した黒塊が飛翔する。
「足の指先……蹄を壊せれば……!」
イスフェリアだけではない。
接近する黒槌に合わせて、八人のハンターは全員が、その前足を狙い攻撃を仕掛けた。
一番手にナハティガルが槍を突き出し、次いでヴォルフガングが太刀を居抜く。
同じく太刀を正眼に構えた澪が下段突きを入れた所に、ウィンスがさらに振動刀を振り下ろす。
イスフェリアのシャドウブリッドは蹄を狙い撃ち、ウルヴァンのエレクトリックショックが敵の足取りを鈍らせる。
そして、囮となったバルバロス、それに随伴しているフラメディア。
「さあ、最初から全力で征くぞ! 我が一撃を受けるがよい!」
「来るがいい。我が全霊で打ち砕いてやろう!」
フラメディアの石槌が黒槌の左足、バルバロスの大斧が右足を、それぞれ同時に薙ぐ。
この八撃は、僅か一瞬の出来事。
完璧な集中攻撃であった。
しかし、それでいて、黒槌グロボルを止めるには、至らない。
「ぐおっ……!?」
突進しながらグロボルは微かにその軌道をずらし、進路上に複数のハンターを巻き込んだ。
右翼側に展開したウィンス、ウルヴァン、フラメディアを巻き込み、最後に囮のバルバロスを纏めて轢き倒して、その場を駆け去っていく。
「くくっ、やるではないか……面白い……!」
フラメディアが肩を震わせながらゆらりと立ち上がり、遠間で再び此方を向いたグロボルを睨んだ。
猛烈な衝撃を受けたものの、槌で攻撃を受けて致命打は避けている。
戦場に川辺を選んだ事も、ウルヴァンのエレクトリックショックも、その大きな助けとなっていた。
ただひとつだけ、ハンターの誤算を挙げるなら……
「……踏ん張りが効かないのは、俺達も一緒か」
ウルヴァンが、足元の流木を蹴り飛ばして足場を整え、身構え直した。
地面に転がっているのは、無数の岩、流木、そして水。平地と同じ感覚で動き回るには、そこはあまりに厳しい環境だった。
「上等だ……さっさと平らげて、次の皿に行く……!」
ウィンスは唇から垂れた血を拭い、刀の柄を握り治す。
相手と交戦している以上、再び戦場を変える余裕もない。
あとは真っ向勝負で、打ち破るのみと……敵を見据えた。
「少しふらついてる……こっちの攻撃が、効いてないわけじゃなさそう」
イスフェリアが微かに目を細めてグロボルの様子を見つめながら、バルバロスにヒールを使い、その傷を癒やす。
「なら一撃離脱で攻撃を絶やさず繰り返せば、望みはあるだろう。一網打尽にされないように左右に別れながら、な」
ヴォルフガングが呟くと同時、グロボルの攻撃の、二撃目。
再び狙いは、バルバロス。
「させるか」
ナハティガルが、グロボルの側面から仕掛ける。
攻めの構えで槍を低く構えてからの渾身撃。
さらに反対側からは澪が、川に転がる一際大きな岩に飛び乗り、グロボル目掛けて跳躍した。
グロボルが惑うかと期待しての奇襲と挟撃だったが、敵は頑なだった。
槍とダガーの刃がそれぞれ突き立った瞬間、尚衰えないグロボルの突撃を受け、澪が地面に叩きつけられる。
そのままグロボルは、再びバルバロスを攻撃、離脱していく。
闘いは歪虚とハンターの、泥沼のどつきあいの様相を呈した。
グロボルはバルバロスを集中的に狙いながら、しかし常に複数のハンターを巻き込む軌道を選びながら突撃した。
川の地形で機動力が削がれているとはいえその速度は未だ健在。
対してハンターは、二人一組の挟撃を基本形として、執拗にグロボルの足を狙う。
互いに回避が困難となった敵味方の攻撃はその度に命を削り合い、すぐに戦場には、無傷のものなど一人も居なくなった。
「実に良い……戦士の戦いとは こうでなくてはな!」
「バルバロスさん……!」
自己治癒に、イスフェリアのヒールを重ねて尚、バルバロスの傷は極めて重く、身体は流血に染まっている。
それを見たファリフが思わず駆け出そうとしたのを、フラメディアはそっと掌で制した。
「ファリフ殿、来てはならぬぞ。囮役が纏めて屠られてしまうでな。敵の動きを見て、動作と狙いを読んで指示を出してもらえれば助かるかの?」
あくまで落ち着いた声色に、ファリフもぐっと堪え、敢えてバルバロスと距離を取った。
「匂いを追ってきた、ということだが……その鼻、焼いてやればどうなるかな」
ウルヴァンは、今度はグロボルの鼻を狙って、何度目かのエレクトリックショックを試みる。
恐らくは歪虚にとって、尤も敏感な部位であろう……その鼻に、漸く電撃が命中した瞬間、グロボルは明らかに身を捩り、突撃の軌道を乱した。
「目も耳もあるといえ、有用な知覚に強烈な刺激を受ければ万全では戦えんだろうさ」
「いや……残りも潰す」
ウルヴァンが呟いた直後、ウィンスが一気に前に飛び出す。
危険な駆けだが、チャンスは今しかない。
「単調な味だな。シェフはクビにした方が良い」
動きは見切った。そのまま、猪の左目めがけて刀の切っ先を突き出す。
超高速振動する刃が、歪虚の顔面を深く、抉る。
「これでっ……!」
そこに再度、イスフェリアのシャドウブリットが飛来。
今度は、グロボルの右目が、貫かれる。
『ーーーーーー!』
鼻に次いで目を潰され、角笛の様な悲鳴を挙げるグロボル。だが、仕留めるには一歩、及ばず。
恐るべきは、それでも尚再び走りだし、ハンター達を攻撃しようとする執念である。
「やれやれ……脚を集中的に潰せば、と思ったんだがな」
ヴォルフガングがぼやき、次いで構えた太刀で、グロボルの腿を裂く。
既に前足は肉が削げて骨を露わに、両目と鼻が潰れても、いかなる力を以ってしてか、グロボルは衰えぬ突撃をハンターに、バルバロスに繰り出す。
「耳だけでボクらを捉えてる……!?」ファリフが、驚愕の声を挙げる。
「成程、最期は“戦士”として真っ向勝負を望むかーー良いぜ。受けて立とう……!!」
逆にナハティガルは、口元を僅かに釣り上げて、再び足を踏み出した。
バルバロスを庇うように立ち、再度、槍の刺突。
だが、黒槌は止まらない。
「させないっ……!」
次いでイスフェリアが敢えて敵の進路に立ちシールドバッシュを試みたが、体格が違いすぎた。
確かな手応えはあったものの、少女の小さな身体は、象の様な巨体の質量に負け、跳ね飛ばされてしまう。
グロボルの向かう先には、バルバロス。
囮を一手に引き受け続けた彼は既に、死の間際まで追い詰められている。
だが……それでも、バルバロスは、笑っていた。
殆ど無意識に、彼が手にした斧を振り上げた瞬間。
「黒槌……お前の相手は、その人じゃないっ!」
バルバロスを押し飛ばし、割って入ったのはファリフだった。
斧で受けると同時に、マテリアルを介した祈りが光として爆ぜ、彼女を守る。
そのまま相手の質量に負けて吹っ飛んだ物の、すぐにファリフは立ち上がった。
グロボルは最早死狂いの形相でファリフに追撃を仕掛けようとしたが、雷閃に動きを止められる。
ウルヴァンが、グロボルの至近距離に潜り、最後のエレクトリックショックを放ったのだ。
「部族の長がその身をかけたのに、雇われ者のハンターが尻込みしたのでは美学に反するのでな」
表情を変えぬまま、ウルヴァンはファリフを一瞥する。
それは言うなれば、彼が秘めた信条、拘りなのだろう。そう察したのか、ファリフも無言で頷き、微笑むに留まった。
「決着を付けましょう。相手は死に体です」
澪が、動きの鈍ったグロボルの側面に周り、一息に顔面を凪いだ。グロボルの顔が引き裂かれると同時に、牙が切り落とされ、宙に舞う。
そこにヴォルフガングが強打を用いて、脇腹に太刀の一突き、追い打ちを入れる。
グロボルは苦痛に呻きながらも、尚反撃しようとして、のたうち回った。
「……しぶといな」
「抑えさえすれば、頭が目の前にあるのじゃから狙わぬ道理はないじゃろうて……介錯してくれようぞ」
ヴォルフガングの後ろでフラメディアが攻めの構えを作ってから、大きく、踏み込む。
強打と共に振り下ろされた大槌が……猪の頭を、文字通り『粉砕』した。
●
最期まで闘志を失わぬまま、しかし黒槌グロボルは討たれた。
ハンター達は、すぐに被害状況を確認する。
「バルバロスさんは……動けなさそう、かな」
イスフェリアは、ヒールの余力分を全て、血だるまで倒れる狂戦士に費やしてその生命を繋ぎ止めた。
既に意識を落としているが、命に別条はないと、イスフェリアは語った。
集中攻撃を受けたバルバロスは重体となり、しかしその恩恵として、ファリフは軽傷を負うにとどまっている。
今なお戦う部族の指揮を取らねばならない、ファリフが。
「……押され始めているな、向こうの戦線は」
「そうだ、ボク、戻らなくちゃ!」
目を細めて呟いたウルヴァンの言葉にハッとして、ファリフが勢い良く振り返る。
駆け出そうとしたファリフを、しかしウィンスが、その手を掴んで引き止めた。
「ファリフ……あいつらを、鼓舞してやれ。黒槌は死に、お前は生きている。それを報せるだけで、流れは変わる筈だ」
「……任せて!」
ファリフは頷き、今度こそ、トロルと戦う戦士達の下へと駆ける。
ウィンスは……決意の宿る瞳で、その背中を追いかけ始めた。
「……一服したかったんだがな、もう暫くお預けか」
続いて、ヴォルフガングが。
バルバロスと、彼の容態を観ているイスフェリアはその場に残ったが……残りのハンターは皆戦闘可能であり、全員がそのままトロルへの対処へと合流した。
「皆! グロボルはもう倒したから、負けないで!」
ファリフが駆けつけざまに、力いっぱい叫ぶ。
途端に部族の戦士達が息を吹き返したのが、ハンター達にも、見て取れた。
●
ファリフら部族の戦士とハンター達は、多少の時間は掛けたもののトロルの戦線を押し返し……その殆どを討ち取って、これを撃退した。
部族の間に名の通った存在であるグロボルを討たれた事、それを為したハンター達が戦線に加わった事、首長たるファリフが健在な姿で戦線に戻った事が、全てがプラスに働いた。
「みんな……ありがとう。おかげで、被害が少なくて済んだよ」
ファリフは戦士達を纏め直すと、他の戦線の援護に回る為、トロルの血で染まった川沿いを下流へ向かっていった。
だが、恐らくは必要無いだろう。戦の大局は、今や勝利の形に収束しつつあった。
ハンター達はそこでスコール族の戦士と別れ……やがてそれぞれの戻るべき場所へと、引き上げて行った。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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黒槌来たる 上泉 澪(ka0518) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/02/27 09:59:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 13:31:35 |