ゲスト
(ka0000)
【不動】錬魔院製試作武器稼働実験!
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/25 12:00
- 完成日
- 2015/03/05 07:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
イルリヒト機関校長アンゼルムの元に手紙が届いたのは、CAMと魔導アーマーに関する実験が始まったと聞いた頃であった。
「ナサニエル氏からだね」
事務員から手紙を受け取った瞬間呟いたアンゼルムの言葉に、事務員はこくりと頷く。
ピンクのハートマークがちりばめられた封筒に、大仰な錬魔院の封蝋。こんなものを送って来るのは帝都広しといえど彼くらいである。
しかも多分、リアルブルー由来の『バレンタイン』とかいう行事に乗っかった挙句に売れ残ったラブレター用封筒を、期日が過ぎたおかげで安いからと言う理由だけで買ったとかそういうやつだ。ナサニエルはそういう男だ。
「……ふむ。ハンターの方々と共に、試作兵器のテスト。そして『同時にドゥンケルベルクの掃討もしちゃえばいいんじゃないですかねぇ、実地実験です』だそうだね」
ドゥンケンベルク。かつて実戦形式の演習の場所として使われていたが、急激な歪虚の増加によって今は演習は中止されている。
だが、確かにいつかは、この場所に現れたゾンビ達を掃討する必要があった。
確かにそれは道理だと、手紙を一読して頷いたアンゼルムに、事務員は思わず首を傾げる。
「なぜ、ハンターと共に?」
「錬魔院の技術発表という側面もあるのだろうね。また、イルリヒトでは1人1人に異なる試作兵器を渡しているけれど、それだと1つ当たりの兵器に対するデータはどうしても少なくなるからでもあるのだろう」
「そういうことですか。けれど、いい機会なのでは?」
事務員の言葉に、アンゼルムは深く頷いた。
「ハンターとの交流は、生徒達に必ずいい影響を及ぼすはずだ。彼らは……」
ふ、とアンゼルムは、遠くを見るように視線を投げて、呟く。
「自らの意志で戦うということの、そして生き残るということの意味を、きっと教えてくれるだろうから」
ドゥンケルベルクが見えてきた辺りで、ハンター達とイルリヒト生徒達は足を止めた。
今回の掃討戦にハンター達と共に参加するイルリヒト生徒は15人。彼らはエルガーの先導で、魔導トラックから武器の入ったケースを次々に降ろしていく。
「試作兵器については事前に選んでもらっていたものを、この場で貸し出してこの場で返却する形になる。また、ハンターの方が希望すれば、こちらの魔導トラックで今持っている武器や荷物を預かることもできる。教員2人がこの場に残るので、荷物の安全については保証する」
そう説明するエルガーの周りで、イルリヒト生徒達が次々に試作兵器をハンター達に渡していく。その形状は、様々だ。
今回同行しているハラーツァイやゲルトが持つ、パリィグローブやガントンファー。ベルフラウが使っている聖機剣もある。
他にも、両手に1つずつ装備する円形の盾や、4つセットで手首と足首に着けるベルト。紫の石が埋め込まれた指輪や、大仰なゴーグルといった武器が、事前に指定していた通りにハンター達に手渡されていく。
「試作兵器だから、戦いの中で傷ついたりする分には構わないとのことだ。だが、なるべく改善点などを知らせてほしい」
そう言ってハンター達を見渡したエルガーは、うきうきとパリィグローブを嵌めながら「りべんじまっち!」とはしゃいでいるハラーツァイを「うるせぇ説明中だ」と後ろに放る。
「さて……それと、今回はドゥンケルベルクのゾンビ達の掃討戦も依頼させてもらっているため、俺達イルリヒト生徒はハンターの方々の指示に従う。もちろん、自由に戦った方がいいならば、俺達のやり方でやらせてもらう」
それに眼鏡をくいと上げて頷くゲルト、「よろしくお願いしますね!」と朗らかに頭を下げるベルフラウ。
「通常のゾンビであれば大した脅威にはならないだろうが、少なくとも1体は3mほどの巨大ゾンビがいることがわかっている。……俺達が戦った限りでは、強敵だった」
十分に気を付けてほしいと、エルガーはハンター達に、イルリヒト生徒達に真剣な顔で言って。
「……だが、今回はハンターの皆と思う存分一緒に戦える機会だ。俺は、楽しみにしているぜ」
そう言ってにやりと笑い、愛用の槍を担いだのだった。
「ナサニエル氏からだね」
事務員から手紙を受け取った瞬間呟いたアンゼルムの言葉に、事務員はこくりと頷く。
ピンクのハートマークがちりばめられた封筒に、大仰な錬魔院の封蝋。こんなものを送って来るのは帝都広しといえど彼くらいである。
しかも多分、リアルブルー由来の『バレンタイン』とかいう行事に乗っかった挙句に売れ残ったラブレター用封筒を、期日が過ぎたおかげで安いからと言う理由だけで買ったとかそういうやつだ。ナサニエルはそういう男だ。
「……ふむ。ハンターの方々と共に、試作兵器のテスト。そして『同時にドゥンケルベルクの掃討もしちゃえばいいんじゃないですかねぇ、実地実験です』だそうだね」
ドゥンケンベルク。かつて実戦形式の演習の場所として使われていたが、急激な歪虚の増加によって今は演習は中止されている。
だが、確かにいつかは、この場所に現れたゾンビ達を掃討する必要があった。
確かにそれは道理だと、手紙を一読して頷いたアンゼルムに、事務員は思わず首を傾げる。
「なぜ、ハンターと共に?」
「錬魔院の技術発表という側面もあるのだろうね。また、イルリヒトでは1人1人に異なる試作兵器を渡しているけれど、それだと1つ当たりの兵器に対するデータはどうしても少なくなるからでもあるのだろう」
「そういうことですか。けれど、いい機会なのでは?」
事務員の言葉に、アンゼルムは深く頷いた。
「ハンターとの交流は、生徒達に必ずいい影響を及ぼすはずだ。彼らは……」
ふ、とアンゼルムは、遠くを見るように視線を投げて、呟く。
「自らの意志で戦うということの、そして生き残るということの意味を、きっと教えてくれるだろうから」
ドゥンケルベルクが見えてきた辺りで、ハンター達とイルリヒト生徒達は足を止めた。
今回の掃討戦にハンター達と共に参加するイルリヒト生徒は15人。彼らはエルガーの先導で、魔導トラックから武器の入ったケースを次々に降ろしていく。
「試作兵器については事前に選んでもらっていたものを、この場で貸し出してこの場で返却する形になる。また、ハンターの方が希望すれば、こちらの魔導トラックで今持っている武器や荷物を預かることもできる。教員2人がこの場に残るので、荷物の安全については保証する」
そう説明するエルガーの周りで、イルリヒト生徒達が次々に試作兵器をハンター達に渡していく。その形状は、様々だ。
今回同行しているハラーツァイやゲルトが持つ、パリィグローブやガントンファー。ベルフラウが使っている聖機剣もある。
他にも、両手に1つずつ装備する円形の盾や、4つセットで手首と足首に着けるベルト。紫の石が埋め込まれた指輪や、大仰なゴーグルといった武器が、事前に指定していた通りにハンター達に手渡されていく。
「試作兵器だから、戦いの中で傷ついたりする分には構わないとのことだ。だが、なるべく改善点などを知らせてほしい」
そう言ってハンター達を見渡したエルガーは、うきうきとパリィグローブを嵌めながら「りべんじまっち!」とはしゃいでいるハラーツァイを「うるせぇ説明中だ」と後ろに放る。
「さて……それと、今回はドゥンケルベルクのゾンビ達の掃討戦も依頼させてもらっているため、俺達イルリヒト生徒はハンターの方々の指示に従う。もちろん、自由に戦った方がいいならば、俺達のやり方でやらせてもらう」
それに眼鏡をくいと上げて頷くゲルト、「よろしくお願いしますね!」と朗らかに頭を下げるベルフラウ。
「通常のゾンビであれば大した脅威にはならないだろうが、少なくとも1体は3mほどの巨大ゾンビがいることがわかっている。……俺達が戦った限りでは、強敵だった」
十分に気を付けてほしいと、エルガーはハンター達に、イルリヒト生徒達に真剣な顔で言って。
「……だが、今回はハンターの皆と思う存分一緒に戦える機会だ。俺は、楽しみにしているぜ」
そう言ってにやりと笑い、愛用の槍を担いだのだった。
リプレイ本文
ドゥンケルベルクのふもとには、ハンター達とイルリヒト生徒達の明るい声が響いていた。
「私はナナート=アドラー。今回はヨロシクねん」
「ああ、よろしく頼む。共に戦えるのが楽しみだ」
挨拶に訪れたエルガーの言葉に、ナナート=アドラー(ka1668)は微笑みと共に1つの提案をする。
「序盤の内に大きなゾンビを撃破しちゃった方が良いと思うのだけれど……エルガーちゃんはどう思う?」
「そうだな、確かにゾンビの掃討で戦力が分散してからあの改造フェレライと会うのはぞっとしない」
一致した意見に、ナナートは嬉しそうに頷く。
「先ずは生徒とハンター達で大きなゾンビを包囲して集中攻撃。撃破した後に余裕を持って試作兵器のモニターをする……って流れはどうかしらん?」
「道中で出会ったゾンビは片付けていくとして、索敵は奴を倒した後に回す形か。異論はないな」
頷き合い、エルガーは集まった者達に方針を提案し、賛同を得ていく。
「久しぶりじゃな、ベルどん、ゲルトどん」
「あっはい、今回もよろしくお願いします!」
「ああ、剣魔と戦って以来だろうか、よろしく頼む」
カナタ・ハテナ(ka2130)の挨拶に、ベルフラウとゲルトがそれぞれに頭を下げる。
「ゲルトが持ってたのを見たときから、気になっちゃいたのよね……!」
レム・K・モメンタム(ka0149)がくるくるとガントンファーを回す。それは光栄だな、とゲルトが、表情を変えずに頷いた。
「以前から聖機剣には興味がありましたからね、実に楽しみです」
聖機剣を展開させたり振ってみたりと調子を確かめていた米本 剛(ka0320)が、ふとそれをニコニコして見ていたベルフラウに声をかける。
「そういえば……ベルフラウさんはゲルト君にチョコ渡したので?」
「え、何でですか?」
ぽかんとした顔になって首を傾げるベルフラウ。
「いえ、バレンタインデーという行事があったので」
「何ですかそれ?」
――しばしの説明。
「……ああ! それでゲルトがみんなにチョコを配ってたんですね!」
「そ、そうだったんですか?」
「はい! 美味しかったです!」
チョコを作ったのはゲルトの方であったらしい。しかもみんなに。
「……このグローブって『コストの低い盾』って視点で見ても、かなりの将来性が有るんじゃないかな?」
その間にも、武器の受け渡しは進んでいる。超級まりお(ka0824)が受け取ったのは、試作型パリィグローブだ。
以前から一つ試したいことがあって、というまりおは、私物のパリィグローブを持ち込んだ上で同じものを借りている。
「そんじゃあモニタリング頑張るねー」
うきうきと言いながらパリィグローブを嵌め、駆け出していくまりお。
そして同じく楽しそうに、時音 ざくろ(ka1250)も受け取ったブーストベルトを手足に巻き付けていた。
「能力変化なんて、興味深いもん!」
特にざくろは錬金術師。近接攻撃と魔法を使い分ける戦い方をすることもあるから、近接攻撃と魔法攻撃を補助するベルトに期待も高まろうというものだ。
「試作兵器か……上手く行けば強力な武器になる、見極めるか」
試作型射撃ゴーグルを借りた対崎 紋次郎(ka1892)が、そう呟きながら猟銃との接続設定を済ませる。
その向こうではひょいと馬に跨りながら、ナナートが紫に輝く指輪を嵌めご満悦だ。
「綺麗な花には棘があるとも言うし、私にピッタリよねん」
さらにその隣では、鳴神 真吾(ka2626)が手足にベルトを巻きつける。
「恰好だけなら大分らしくはなれてきたもんだ」
彼が目指すのは、リアルブルーで『演じていた』ヒーロー。それを、本物にするために。
今回の戦いだって、その一歩だ。
「流石軍事国家、面白いものを作るね」
感心したように目を細めながらパリィグローブをはめるのは、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だ。傭兵として多くの武器の訓練を受けてきた彼女は、また新たな武器の知識を身に着けられる機会に感謝していると笑みを浮かべる。
「試作品のテストついでに、僕の新装備のテストもやっちゃうよ!」
新たな武器に――こちらは持ち込みだが――目を輝かせるのは、アルトだけではない。
海魔の名を持つ鋸の如き剣を手に、ブーストベルトを手足に、仁川 リア(ka3483)が楽しげに目を輝かせる。
同じくブーストベルトを手に取りつつも、城戸 慶一郎(ka3633)はやや釈然としない顔だ。
「これは射撃に関する効果はないのか」
戦争に銃が加わったことで、戦争のあり方は変わった。要するに、銃を撃つ兵士にも機動力は必要だ、とは彼の弁。
「運動能力が上がると良いんだけどな。これが提案かな」
今後の戦いのためにも、と呟きながら、慶一郎はベルトを巻く。
その向こうでくるくるとガントンファーを回すのは、マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)。
「……まずます、ですわね」
頷いたマレーネは、今度は丁寧に武器の癖を観察していく。
「ああ、これ……まどうきかいでも、ありますのね」
つまりは、そこを起点に錬金術師の技を使えるとマレーネは把握する。
「うし、3人で楽しく試験兼ゾンビ狩りといくか!」
やはりガントンファーを回し、エヴァンス・カルヴィ (ka0639) がにかりと笑った。その隣で聖機剣を展開しながら、首を傾げるのはリリティア・オルベール (ka3054)。
「変形式で便利かなーとは思いますが、この機能っていりますかね?」
必要かどうかわからなかったらとりあえず作ってみるのが錬魔院である。
たぶん。
「武器のテストとゾンビ討伐、望むところと言いたいですが、やはりゾンビは苦手ですね……」
小さく続けた呟きに、励ますようにエヴァンスがぽんと肩を叩く。
「ま、それじゃ行きましょうか!」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)がパリィグローブを嵌めた手をパンと打ち合わせ、3人は、そしてハンター達は斜面を駆け登る。
目指すは――巨体の改造フェレライの姿。
最大の敵の元に辿り着くまでも、ゾンビ達はてんでばらばらに、けれど数多く襲い掛かってくる。
「それじゃ、一丁いきますか!」
タン、と地を蹴ったレムは、距離を詰めながら牽制の弾丸を発する。射程はかなり短いが、接近しながら使うなら牽制には十分!
怯んだように立ち止まった懐に入り込み、トンファーの先端で顎へとアッパーを決める。
――トンファーは、多様な武器である。
握りで引っ掛ける。拳打の要領で石突で打つ。相手が踏み込もうとすれば、回転させて威嚇することもできる。
さらに、ガントンファーにはそれに銃撃が加わる。
射撃機構を仕込んだためか、攻撃を受け止める性能は高くない。流しきれなかったゾンビの拳を胸元に受けて、ぐっと息を詰めながらもレムは弾丸を発し、距離を取ってリロードと自己回復を済ませる。
「……ってか、イルリヒトの皆ってよくこんな使いにくいの実戦で使えるわね?」
「まぁ、ゲルトは鍛錬の鬼だから……」
その呟きにイルリヒト生徒の1人がぼそりと答えた時には、レムは石突でゾンビの横面を張り倒し止めを刺していた。
「リハビリがてらに今日は派手にいかせてもらうぜ、覚醒!!」
そう叫んでヒーローの姿となった真吾が、戦場を駆け抜ける。
包囲されぬように動き回りながら、いくつかのモードを切り替えて試してみる。
(決めポーズってのはいいんだが、自然に立ち回りや動きの中で取り入れられればいいんだがな)
やはり、ポーズを取っての切り替え時間は、長い。
だが――格好いいポーズと言う方向性で行くなら、見た目も妥協する気はない。
だってヒーローだもの!
(ま、アイテムを使ってブーストってのは面白いし、真面目なのも作っていいだろうけどな)
とりあえずふらついたゾンビ相手に命中重視から威力重視に切り替えて、サーベルを叩き込む真吾である。
ゾンビと至近距離で殴り合いながら、マレーネは機導砲や機導剣を交え戦闘を繰り広げる。
「……ふつうのものよりも、いりょくはひかえめ……ですわね」
まず引っかかったのは、それであった。魔導機械として錬金術を繰り出す分には気にならないが、普通に戦っていればやはり気になるのはその打撃力。
一番使うだけに、やはり一番気になる場所だ。
グリップ部分に回転機構を追加して打撃力を向上できないか、さらにはマテリアルを増幅する機構を付けられないか、と、戦いの合間にマレーネは考える。
(このままでは、もったいなきがいたしますの)
何か強みになるものをと伝えようと、マレーネは心に決めた。
素早い動きのスケルトンに、ぐっとカナタが息を呑む。
「け……剣魔が出たのじゃ……」
その言葉に怪訝な表情をする者もいるが、ゲルトとベルフラウはそれも致し方なしと頷く。
彼らが共に戦った時に現れた剣魔は、確かにスケルトンの姿だったのだ。
けれど彼らが動きを止めた間に、既に飛び出す一つの影!
「チェーンジブースト1、スイッチオン!」
近接攻撃の命中補助へと切り替えるためのポーズは――とにかく(錬魔院基準で)カッコいい!
アルケミックギアブレイドが、確かに普段よりも鋭く振るわれてスケルトンの肋骨を割る。
「……普通のスケルトンかの!?」
動きを見ているうちに剣魔ではないと気付いたか、強気に戻ったカナタがシンバルシールドを手に飛び出す。
「剣魔を装い心理的動揺を与えようと狙った様じゃが」
狙ってない狙ってない。
「そんな手は通じぬの!」
……まぁ、戦意を取り戻したならいいことである。
スケルトンの背後へと回り込み、シンバルシールドを打ち鳴らす。びんびんと骨に響くのか、緩慢な動きで振り向いて殴りかかる敵に、カナタは容赦なくシンバルシールドを叩きつけた。
バランスを崩したスケルトンに、さらに追い打ちのように鳴らすシンバルシールド。
(……しかし、やはり片手で持てるようにした方が良さそうじゃのう……)
カナタが頭に思い浮かべるのは、シンバルの真ん中に魔導機械入りの軸棒を通して自動で音を打ち鳴らせる片手持ちのシンバルシールド。
「あとは盾の強度を高めて耳栓じゃな!」
一応影響は受けないのだが、自分でも正直うるさいらしい。
そして――さらに寄ってきたゾンビやスケルトンを相手取っていたざくろが、さっと魔法の威力を増強させるポーズを取る。
マジカルステッキのようにくるくる回す機械の剣。可愛らしく踏むステップ。
「ピンプル・ラブリン・パラリンコ……マジカルタッチで魔力よつよくなーぁれっ★」
実は台詞は必要ないのだが。
誰かにいるって吹き込まれたらしく、非常に堂々と完璧な呪文であった。
「テクニカル・ライトブレード!」
ついでにブーストされた機導剣も必殺技っぽく!
塵に還ったスケルトンを、見送るように決めポーズ。ゲルトに「台詞はいらないぞ」とツッコミを受けるまであと3秒。
聖機剣を展開した剛は、それを力の起点としてホーリーライトを、次にシャドウブリットをゾンビに向けて解き放つ。
「……なるほど。魔法自体を増強してくれるわけではないのですね」
聖なる光の、そして漆黒の弾を浴びてなお倒れぬゾンビを、剛は今度は聖機剣を振り上げて迎え撃つ。
剛の体格と筋力があれば、両手なら軽々と振り回せる程度の重さだ。その分攻撃力は控えめで、防御に使うにも変形機構のせいかやや心もとない。
すっとそのゾンビの後ろに、影から現れるようにUisca Amhran(ka0754)が回り込む。そして――両手に持ったシンバルシールドを、勢いよく打ち鳴らす!
「っと!」
ゾンビの行動が明らかに鈍り、振り下ろされようとしていた拳を剛が難なく聖機剣で弾く。
「……しかし、やはり随分な音ですね」
やや離れているから影響こそ受けないものの、鼓膜を揺るがす轟音に剛は苦笑いを浮かべる。動きを鈍らせ、Uiscaにシンバルシールドの一撃を受けてよろめくゾンビに止めを刺そうとして、はっと剛は手を伸ばした。
現れた輝きが、Uiscaの背後に迫っていたゾンビを貫く。急いで振り向いたUiscaが、腐敗した拳をシンバルシールドで受け止めてそのままシールドバッシュで畳み込む。
「八百万の神よ、我が同胞を癒し給え!」
捌き切れずに刻まれた傷には、聖機剣を握って念じた剛の祈りによって癒しが宿る。
「ありがとうございます。けれど、楽器の効果と盾の両立は難しいですね」
「聖機剣の方も、まだ法具としての性能を中心に改良点が見つかりますね」
実験であることも、実戦であることも忘れずにちらりと視線を見交わして。
再び2人は、そこかしこから現れるゾンビへと向き直る。
剛が言うところの『随分な音』は、他の場所でも響き渡っていた。
中でも一番激しいのが、ピオス・シルワ(ka0987)のシンバルシールドの響きである。
「なんだか音楽隊になった気分!」
さっきまで懸命に魔力の矢や風の刃を解き放っていたのだが、敵に囲まれたので思いっきり鳴らしてみたらこれが楽しくて楽しくて。
「っと!」
それでも殴りかかってきたゾンビに対して、すっと打ち鳴らすのをやめて盾を構える。魔術師である彼女にとっては、音の響きと盾としての強度を両立させたシンバルシールドはやや大きく重い。
ただしその大きさゆえに、攻撃を受け止める性能は悪くはない。衝撃がそれなりに腕に響いてくるのが難点だろうか。
(扱いやすさの改良と……それに、打ち鳴らした時にもっと音が鳴るようにすれば効果も高そうですね)
そう真剣に考えながら、ピオスは敵の攻撃を受け流すと再び高らかにシンバルシールドを打ち鳴らした。
「射撃武器と連動するなら……射撃武器を媒体にして機導砲を撃てば、同じように精度が上がるんじゃないか?」
そう考えた紋次郎は、周りの戦いの様子に気を配りつつ、照準を合わせながら機導砲を撃ち込む。確かに銃口を起点として位置を合わせれば不可能ではないが、銃口から真っ直ぐに飛ばすよう調整するのは自分自身であるため、やはりいくらかのずれは出るようで。
その代わり射撃に関しては、猟銃の射程距離ギリギリから狙っても、半分の距離から射撃するのと同程度には命中率を補ってくれる。
ヘッドショットは流石に成功させる方が難しいが、ゴーグルなしで狙うよりはそれなりに分がいい。
「……と」
ゾンビに囲まれて前後から殴られそうになったイルリヒト生徒に、防御障壁を飛ばしてやる。拳を受け止めて砕けた光の壁に、はっと気づいたイルリヒト生が前からの拳を防御しながら軽く頭を下げる。
生徒達は元から試作兵器を支給されて、実験しながら戦うことに慣れているようだと紋次郎は安堵する。実験に執着し過ぎる者は、いないようだ。
(しかしこのゴーグル、いっそ武器と連動せずともマーキングできれば追跡用ゴーグルとしても使用できるな)
そう提案してみようと考えながら、再び紋次郎は引き金を引いた。
その頃まりおは、パリィグローブを手に1体のゾンビと対峙していた。
ゾンビが無造作に繰り出してくる拳を、まりおは力の使い方を研究しつつ丁寧に受け止める。
「力の流れに逆らわないように身体を捻って……ここで押し流すように……!?」
さっと上手く身を翻せば、ほぼ傷を負うことなくゾンビの攻撃を受け流すことに成功する。
「くふっ、さすが回避の補助っぽく使用できるね。面白いかもっ」
にやりと笑って、再び繰り出された拳を今度は反対側への動きで逸らしてみせる。
「で、実践で使用して確信が持てたよ――このグローブはやっぱり両手に装備すべきだって事!」
す、とまりおが取り出したパリィグローブを、もう片手にはめて。
完璧に武装を整え、楽しげに構えを取る。
「さあこいっ」
襲い来るゾンビと、拳と掌がぶつかり合う!
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)も、パリィグローブを選んだ1人である。
もう片手に持つのは、日本刀だ。いつもと異なる戦闘スタイルであると心に刻み、地を蹴る。
ゾンビの鈍重な拳をグローブで受けていなし、刀を振るう。反対側に来れば上手く受け止め、いなし、一撃。
拳を受け止める掌が、空気を切り肉を断つ刀が、奏でる音がリズムよく、まるで音楽を刻むように。
後ろから来たとみれば、すぐさま動物霊の力を脚に宿して囲みを抜ける。
「やっぱりこのポーズ……妙だし隙が多いね?」
長めのポーズをとる間に寄って来たゾンビを、リアがジオラとタイミングを合わせて薙ぎ払い、囲みを突破する。
確かにいつもと感覚が違うと、リアは口元を緩めて。
「いつもより力が漲ってくる気がする、さっきの変なポーズの隙さえなければ最高の道具だね!」
海の魔物の歯を使った刃が、やすやすとゾンビの身体を引き裂いていく。新たな武器をいつもより力強く振るえる状況に、心は高揚する。
ゾンビの攻撃は、華麗なステップでするりとかわして。ふと、このベルトで回避もブーストできたら、とアイディアが浮かぶ。
「遅い! そんなんじゃ当たんないよ!」
数が増えてきたゾンビに、近くにいたジオラと背を合わせるような状況になる。
「大丈夫か……大丈夫そうだな」
「まだ余裕さ、任せて」
2人の背が離れ、一気にゾンビへと力を揮う!
――変身ベルトは、慶一郎にとって子どもの頃からの憧れであった。
(……ポーズは割と手間だな)
そう思いつつもきっちりポーズを取って、威力を増したバットでゾンビの群れを薙ぎ払い――射撃。
威力が上がっているだけあって囲まれた状況を打開するにはいいが、やはり機動力が欲しいというのが感想だ。
「炎を纏て刀を振るう様は差詰め不動明王か……彼の好みそうな事じゃ」
その背を支えるように現れ、そう呟いて目を細めるのは、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。術師なれども前に出れるか見定めようて、と選んだのは、パリィグローブ。
『我を護りし炎獄の精よ、刃に宿りて全てを屠る力となれ』
そう唱えると同時に、手にした剣に炎が宿る。
「剣舞と言うたかの? 舞は我の得意とする所じゃ」
普段とは違う、前に出る戦い。知らずの内に慶一郎と蜜鈴が、互いの背を庇い合うような形になり、無事を確かめればまた離れていく。
「カッコイイポーズでパワーアップだなんて浪漫でござる! ノリノリでいっちゃおー!」
ブーストベルトを装備したミィリアが、目を輝かせて元気にポーズ。
サムライアタック、構えは攻め!
深い踏み込み!
渾身の……一撃!
「おサムライさん必殺剣!! どおりゃーでござるーー!!」
ブーストベルトも使って極限まで威力を上げた一撃が、ゾンビを一刀両断!
――両断できなかったら思いっきり反撃喰らう構えである。
「うーん、武器を大きく一回転させて攻撃すると発動とか、できるといいでござるね!」
やっぱり1ターンかかるのは、結構なネックである。特にミィリアなんて防御捨ててるし。
そのフォローというわけでもないが、何体かのゾンビはアルトが引き付けていた。ついでにミィリアの背中を護っているのは炎を宿した蜜鈴である。
実験のためである。掌と甲どちらで受けるのが負担が少ないか、肩から手にかけての関節が受ける衝撃はどのようなものか、それを動作ごとに実証しているのだ。
ひたすら攻撃を受け止め続ける様は、もはや求道者じみている。
「基本は、掌で受ける構造だね……っと」
布地自体は甲の方が厚いのだが、魔導技術を使っているのか掌で受ける方が負担が少ないとアルトは結論付ける。
で。
「あ、そこの生徒さん、あとお願いするよ」
「へっ!?」
他のゾンビを片付けて増援に来た生徒に、まるっとゾンビを押し付ける。
ぶっちゃけアルトは攻撃受け続けてデータ取っただけである。
「折角の実戦の機会、イルリヒトの生徒なら死なないだろ。頑張れ明日を担う若人達」
「ちょ、や、行けるけどぉぉ!」
がんばれ未来の帝国軍人。きっと輝かしい未来はこのゾンビの群れの先にある。
「技量と経験で補ってたもんが機械で補ってくれるたぁ便利になったもんだ」
リハビリに付き合ってもらうぜ、と笑いながら、ジャンクは何人かの生徒と共にゾンビの討伐に向かう。
イルリヒトの生徒達もそれぞれに戦いには慣れているが、各地の傭兵団を回ったジャンクには学ぶところも多い。確かな技術を持つ者に対しては、生徒達は真摯だ。
戦場で、死なぬために。
「銃兵伏兵は近づかれる前に撃って直ぐ動くのが鉄則だ。位置がバレてもその場に留まってちゃ死ぬぜ?」
生徒達に声を掛けながら、ジャンクは次々にゴーグルの性能を確認していく。
風速の影響補正は実装されていないようだ。マーキングと銃の照準は別に動くため、別の目標を狙ってもあまり支障はない――が、マーキングした目標を狙うに比べればやはり恩恵は少ない。
「あれ、倒してもらえるか」
「了解」
さらにマーキングした敵を生徒に倒させ、その時の影響を確認する。普通にマークが消えるだけで、悪影響はなさそうだ。
その一団に加わり、パリィグローブを使いながら、銃との組み合わせを研究するのは二ノ宮 灰人(ka4267)である。
「……さすがに、銃の反動は和らがないか」
使えれば強力であったかもしれないが、やはり刃や拳を受け止めるのに特化した武器である。だが、銃を持った手の甲でも、ゾンビの攻撃は充分受け流せることは確認できた。
掌側の方がメインで使うように出来てはいるが、強度に問題はない。
そうなれば、あとは銃を持ちながら超近接戦闘を挑むのみ!
「お前らのそれは死じゃない、屍体を冒涜するな」
ゾンビの攻撃を銃を持った手の甲で受け止め、そのまま発砲する。あくまで受ける武器であるため傷を完全には防げないが、他の武器を使うよりも上手くすれば防御効果は大きい。
目指すのは試作品の実戦投入。防御を主体とした武器ながら、まだそれを防御よりも攻撃に生かすのは――彼の若さなのかもしれない。
「こんなトンデモ戦術が通用する普通じゃない発明、ご勘弁願いたいけどね」
そう肩を竦めながら、灰人は己の戦を繰り広げていく。
「病み上がりの復帰戦の相手にゃ丁度いいかぁ……」
ぱしん、と拳同士を打ち合わせるボルディア・コンフラムス(ka0796)の指には、ポイズンリングがはめられ紫色の淡い光を放っていた。
そこに現れた不幸なゾンビに、ニィとボルディアの唇の端が吊り上がる。
「サンドバッグの相手としちゃ二流もいいとこだけどよぉ!」
覚醒の証の犬の耳と尾は、炎を纏ったように揺らめき――赤と黒の軌跡を描いてゾンビへと飛びかかる!
「オラオラオラオラオラァ!」
反撃をものともせず、ひたすらに殴る。殴る。殴り続ける。
「っと!」
指に殴られた傷とは違う痛みを感じてふと見れば、紫色の毒が皮膚から身体を侵食していく。ふっと息を吐き身体を巡るマテリアルによって傷を癒しながら、目が合ったカナタに「頼む!」と声をかける。
「了解なのじゃ!」
詳細は言わずとも、ポイズンリングの使用者を確認していたカナタには通じる。すぐにボルディアの身体に、毒に抗う力が流れ込んだ。
「っし! ありがとな!」
そう礼を言って、再びゾンビに飛びかかってしばし。
ゾンビの姿は地に溶けた。
「さて……」
次の実験は、斧へと括り付けたポイズンリングが効力を発揮するか――だがこの実験で、ゾンビに一撃を叩き込んだボルディアは即座に結論を出した。
「使いづれぇな」
ポイズンリングの毒は宝石部分との接触によって発動するが、斧は叩き斬る武器だ。接触させようと思えば、斬るのに邪魔になる。
「オーケイ。じゃ、実験は終わりだ」
再びリングを嵌め直し、ボルディアは改造フェレライの元へと歩み出すのだった。
改造フェレライを最初に発見したのは、馬で先行したナナートだった。
そのままナナートは、改造フェレライを惹きつけハンター達、そしてイルリヒト生徒達の元へとおびき出す。
岩場も多いが、ナナートが目指すのは動きやすく戦いやすくなっている場所だ。
「連れて来たわよん!」
ナナートの張り上げた声に、ハンター達が飛びだして行く。ナナートも馬からひらりと降りて、ポイズンリングを嵌めた拳を握る。
その間に、離れた場所から敵を狙う者もいる――。
「そんじゃ錬魔院の技術がどんなもんか、見せてもらうか」
ユーロス・フォルケ(ka3862)が期待するように目を細めて、遠くのゾンビを相手にゴーグルの設定を始める。
手動での設定は、乱戦時に誤射や設定ミスを防げる。十分な距離で設定できれば自動化できなくてもいいというのが持論だ。
――ただし、試作品ゆえだろう。少なくとも拳銃の射程程度には入らなければ、設定ができない。
弓の射程からなど、ほぼ不可能だ。まだましなのは、武器と連動した照準機能の方はまともに働くことである。
「なるほど。次は……」
一度マーキングを済ませてしまえば、ある程度は離れることができる。この点は、利点であった。
限界距離はやはり弓の射程には及ばないが、銃であれば十分だろう。
ハンター達が接敵する前に、さらに射撃の実験。ゴーグルあり、なし、両方の射撃を試した結果――マーキング機能の限界点から射撃すれば、距離による修正を完全に補うほどではないが、それなりの補助になる程度には効いていることを確認する。
確かめた3つの点の改良を希望しようと思いながら――ユーロスは、ゴーグルを掛け直し再び弓を引く。
さらに魔力の矢、そして炎の矢が、連続して飛んで行く。フェレライの顔を穿ったそれは、蜜鈴が放ったものだ。
前衛のハンター達が改造フェレライに接敵したのは、その時であった。
正面に立ったのは、エリシャとHolmes(ka3813)だ。
「折角の実地実験なんだ。十全に活かすべきだろう?」
そう言いながらHolmesは、パリィグローブの耐久性を調べる気である。
「チェーンソーは二振り、ボクの両腕は二本……うん、何も問題はないね」
野生の力を借りた瞳をぎらりと輝かせ、Holmesは不敵に笑う。
チェーンソーを手袋だけで引っ掴むとか正気の沙汰じゃないが、何しろこれはパリィグローブ。
振り下ろされたチェーンソーを、がっしと片手が受け止めた。巨体のフェレライの両腕を、小柄なHolmesが完全に止めることは体格的に、というかHolmesの腕が届かなくて不可能だが、片腕だけでも抑えられるのは大きなアドバンテージだ。
「彼が倒れるのが先か、グローブが耐え切れなくなるのが先か……まぁ、僕も黙って両腕を差し上げる気はないからね」
ニヤリと笑うHolmesのパリィグローブと、チェーンソーの間に火花が散る。
正面に陣取ったエリシャがさっと後ろに下がると同時、エヴァンスがガントンファーを叩き込む。
「ははっ、結構いい手応えだな!」
攻撃力はさほど高くはないが、普段の剣とは違う使い勝手も心地いいのかエヴァンスは楽しげだ。さらにエヴァンスが退いた瞬間、一気に踏み込んでフェイントを交え斬り付けたのはリリティア。
「しぶとい上強い……」
聖機剣自体の攻撃力の低さもあって、高い生命力がさらにしぶとく感じる。さらに振り回されたチェーンソーは、変形機構を埋め込んだ刀身では受けづらい。
「よっこらしょっと」
逆にパリィグローブを使うエリシャの方は、実験がてらチェーンソーの側面を拳でぶん殴って軌道を逸らすなんて技を披露してみせる。攻撃力はないが受けへの適性は確かだ。
「っていうか女に正面戦闘任せるってどうなのよ、ねぇ?」
そうエリシャがジト目でエヴァンスを睨みながら、再びチェーンソーの攻撃を弾き飛ばす。
「あ、てめ、今俺の方に攻撃逸らしただろ!?」
慌てて飛びのいたエヴァンスのいた場所に、唸りを上げて落ちてくるチェーンソー。
「ちっ、惜しいわね」
「おいこらぁ!?」
「リリティア、そっち行くわよー」
「はい、何とか……いけます!」
攻撃を受け止めて、一度退いた間に飛び込んだカナタがシンバルシールドを鳴らす。普通のゾンビに比べて抵抗力が高いのか少し効きは良くないが、効けばその効果は大きい。
今回は、効いた。
動きが思い切り鈍った所に、ナナートが拳を叩きつけ、指輪から毒を送り込む。
さらに波状攻撃に参加していた真吾が、すっと手を伸ばした。決めポーズを取って魔法威力の強化へとモードを切り替え、その手の先に光の剣が宿る。
「マテリアルセイバー! ガイアインパルスッ!!」
相手がまだシンバルの音に惑わされている間に――深い、一撃!
「おサムライさん必殺剣、再臨でござるるる!」
さらに離れた場所から一気に踏み込んで、ミィリアが渾身のサムライアタック!
バランスを崩したのをきっかけに、Holmesが手をさっと離して。浮いた形になったその武器に、ひょいと蜜鈴が乗ってみせた。
「魔力の矢よ、炎を纏って彼の敵を穿て」
伸ばした手から放たれる輝きの矢、さらにチェーンソーを蹴って飛びながら炎纏いし剣を薙ぐ。
そしてそこにHolmesが、握った拳を思いっきり振り抜くクラッシュブロウ!
巨体を地面に横たえたゾンビは、そのまま消えて行った。
ゾンビの掃討をしながら試作兵器のテストを重ねる間に、発見されたのは――馴染みある者もいる大きなコンテナ。
「これは、リンドヴルム型剣機の……」
恐らくは、この巨体のフェレライも、運ばれてきたうちの1体だったのだろう。大量発生したゾンビも、同じく運ばれてきたものかもしれない。
ドゥンケルベルクのゾンビ大量発生の謎が解けたこと。そして、大量の実験データが集まったこと。
それによって、錬魔院の試作兵器研究室では嬉しい悲鳴がしばらく上がり続けたとのことである。
「私はナナート=アドラー。今回はヨロシクねん」
「ああ、よろしく頼む。共に戦えるのが楽しみだ」
挨拶に訪れたエルガーの言葉に、ナナート=アドラー(ka1668)は微笑みと共に1つの提案をする。
「序盤の内に大きなゾンビを撃破しちゃった方が良いと思うのだけれど……エルガーちゃんはどう思う?」
「そうだな、確かにゾンビの掃討で戦力が分散してからあの改造フェレライと会うのはぞっとしない」
一致した意見に、ナナートは嬉しそうに頷く。
「先ずは生徒とハンター達で大きなゾンビを包囲して集中攻撃。撃破した後に余裕を持って試作兵器のモニターをする……って流れはどうかしらん?」
「道中で出会ったゾンビは片付けていくとして、索敵は奴を倒した後に回す形か。異論はないな」
頷き合い、エルガーは集まった者達に方針を提案し、賛同を得ていく。
「久しぶりじゃな、ベルどん、ゲルトどん」
「あっはい、今回もよろしくお願いします!」
「ああ、剣魔と戦って以来だろうか、よろしく頼む」
カナタ・ハテナ(ka2130)の挨拶に、ベルフラウとゲルトがそれぞれに頭を下げる。
「ゲルトが持ってたのを見たときから、気になっちゃいたのよね……!」
レム・K・モメンタム(ka0149)がくるくるとガントンファーを回す。それは光栄だな、とゲルトが、表情を変えずに頷いた。
「以前から聖機剣には興味がありましたからね、実に楽しみです」
聖機剣を展開させたり振ってみたりと調子を確かめていた米本 剛(ka0320)が、ふとそれをニコニコして見ていたベルフラウに声をかける。
「そういえば……ベルフラウさんはゲルト君にチョコ渡したので?」
「え、何でですか?」
ぽかんとした顔になって首を傾げるベルフラウ。
「いえ、バレンタインデーという行事があったので」
「何ですかそれ?」
――しばしの説明。
「……ああ! それでゲルトがみんなにチョコを配ってたんですね!」
「そ、そうだったんですか?」
「はい! 美味しかったです!」
チョコを作ったのはゲルトの方であったらしい。しかもみんなに。
「……このグローブって『コストの低い盾』って視点で見ても、かなりの将来性が有るんじゃないかな?」
その間にも、武器の受け渡しは進んでいる。超級まりお(ka0824)が受け取ったのは、試作型パリィグローブだ。
以前から一つ試したいことがあって、というまりおは、私物のパリィグローブを持ち込んだ上で同じものを借りている。
「そんじゃあモニタリング頑張るねー」
うきうきと言いながらパリィグローブを嵌め、駆け出していくまりお。
そして同じく楽しそうに、時音 ざくろ(ka1250)も受け取ったブーストベルトを手足に巻き付けていた。
「能力変化なんて、興味深いもん!」
特にざくろは錬金術師。近接攻撃と魔法を使い分ける戦い方をすることもあるから、近接攻撃と魔法攻撃を補助するベルトに期待も高まろうというものだ。
「試作兵器か……上手く行けば強力な武器になる、見極めるか」
試作型射撃ゴーグルを借りた対崎 紋次郎(ka1892)が、そう呟きながら猟銃との接続設定を済ませる。
その向こうではひょいと馬に跨りながら、ナナートが紫に輝く指輪を嵌めご満悦だ。
「綺麗な花には棘があるとも言うし、私にピッタリよねん」
さらにその隣では、鳴神 真吾(ka2626)が手足にベルトを巻きつける。
「恰好だけなら大分らしくはなれてきたもんだ」
彼が目指すのは、リアルブルーで『演じていた』ヒーロー。それを、本物にするために。
今回の戦いだって、その一歩だ。
「流石軍事国家、面白いものを作るね」
感心したように目を細めながらパリィグローブをはめるのは、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だ。傭兵として多くの武器の訓練を受けてきた彼女は、また新たな武器の知識を身に着けられる機会に感謝していると笑みを浮かべる。
「試作品のテストついでに、僕の新装備のテストもやっちゃうよ!」
新たな武器に――こちらは持ち込みだが――目を輝かせるのは、アルトだけではない。
海魔の名を持つ鋸の如き剣を手に、ブーストベルトを手足に、仁川 リア(ka3483)が楽しげに目を輝かせる。
同じくブーストベルトを手に取りつつも、城戸 慶一郎(ka3633)はやや釈然としない顔だ。
「これは射撃に関する効果はないのか」
戦争に銃が加わったことで、戦争のあり方は変わった。要するに、銃を撃つ兵士にも機動力は必要だ、とは彼の弁。
「運動能力が上がると良いんだけどな。これが提案かな」
今後の戦いのためにも、と呟きながら、慶一郎はベルトを巻く。
その向こうでくるくるとガントンファーを回すのは、マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)。
「……まずます、ですわね」
頷いたマレーネは、今度は丁寧に武器の癖を観察していく。
「ああ、これ……まどうきかいでも、ありますのね」
つまりは、そこを起点に錬金術師の技を使えるとマレーネは把握する。
「うし、3人で楽しく試験兼ゾンビ狩りといくか!」
やはりガントンファーを回し、エヴァンス・カルヴィ (ka0639) がにかりと笑った。その隣で聖機剣を展開しながら、首を傾げるのはリリティア・オルベール (ka3054)。
「変形式で便利かなーとは思いますが、この機能っていりますかね?」
必要かどうかわからなかったらとりあえず作ってみるのが錬魔院である。
たぶん。
「武器のテストとゾンビ討伐、望むところと言いたいですが、やはりゾンビは苦手ですね……」
小さく続けた呟きに、励ますようにエヴァンスがぽんと肩を叩く。
「ま、それじゃ行きましょうか!」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)がパリィグローブを嵌めた手をパンと打ち合わせ、3人は、そしてハンター達は斜面を駆け登る。
目指すは――巨体の改造フェレライの姿。
最大の敵の元に辿り着くまでも、ゾンビ達はてんでばらばらに、けれど数多く襲い掛かってくる。
「それじゃ、一丁いきますか!」
タン、と地を蹴ったレムは、距離を詰めながら牽制の弾丸を発する。射程はかなり短いが、接近しながら使うなら牽制には十分!
怯んだように立ち止まった懐に入り込み、トンファーの先端で顎へとアッパーを決める。
――トンファーは、多様な武器である。
握りで引っ掛ける。拳打の要領で石突で打つ。相手が踏み込もうとすれば、回転させて威嚇することもできる。
さらに、ガントンファーにはそれに銃撃が加わる。
射撃機構を仕込んだためか、攻撃を受け止める性能は高くない。流しきれなかったゾンビの拳を胸元に受けて、ぐっと息を詰めながらもレムは弾丸を発し、距離を取ってリロードと自己回復を済ませる。
「……ってか、イルリヒトの皆ってよくこんな使いにくいの実戦で使えるわね?」
「まぁ、ゲルトは鍛錬の鬼だから……」
その呟きにイルリヒト生徒の1人がぼそりと答えた時には、レムは石突でゾンビの横面を張り倒し止めを刺していた。
「リハビリがてらに今日は派手にいかせてもらうぜ、覚醒!!」
そう叫んでヒーローの姿となった真吾が、戦場を駆け抜ける。
包囲されぬように動き回りながら、いくつかのモードを切り替えて試してみる。
(決めポーズってのはいいんだが、自然に立ち回りや動きの中で取り入れられればいいんだがな)
やはり、ポーズを取っての切り替え時間は、長い。
だが――格好いいポーズと言う方向性で行くなら、見た目も妥協する気はない。
だってヒーローだもの!
(ま、アイテムを使ってブーストってのは面白いし、真面目なのも作っていいだろうけどな)
とりあえずふらついたゾンビ相手に命中重視から威力重視に切り替えて、サーベルを叩き込む真吾である。
ゾンビと至近距離で殴り合いながら、マレーネは機導砲や機導剣を交え戦闘を繰り広げる。
「……ふつうのものよりも、いりょくはひかえめ……ですわね」
まず引っかかったのは、それであった。魔導機械として錬金術を繰り出す分には気にならないが、普通に戦っていればやはり気になるのはその打撃力。
一番使うだけに、やはり一番気になる場所だ。
グリップ部分に回転機構を追加して打撃力を向上できないか、さらにはマテリアルを増幅する機構を付けられないか、と、戦いの合間にマレーネは考える。
(このままでは、もったいなきがいたしますの)
何か強みになるものをと伝えようと、マレーネは心に決めた。
素早い動きのスケルトンに、ぐっとカナタが息を呑む。
「け……剣魔が出たのじゃ……」
その言葉に怪訝な表情をする者もいるが、ゲルトとベルフラウはそれも致し方なしと頷く。
彼らが共に戦った時に現れた剣魔は、確かにスケルトンの姿だったのだ。
けれど彼らが動きを止めた間に、既に飛び出す一つの影!
「チェーンジブースト1、スイッチオン!」
近接攻撃の命中補助へと切り替えるためのポーズは――とにかく(錬魔院基準で)カッコいい!
アルケミックギアブレイドが、確かに普段よりも鋭く振るわれてスケルトンの肋骨を割る。
「……普通のスケルトンかの!?」
動きを見ているうちに剣魔ではないと気付いたか、強気に戻ったカナタがシンバルシールドを手に飛び出す。
「剣魔を装い心理的動揺を与えようと狙った様じゃが」
狙ってない狙ってない。
「そんな手は通じぬの!」
……まぁ、戦意を取り戻したならいいことである。
スケルトンの背後へと回り込み、シンバルシールドを打ち鳴らす。びんびんと骨に響くのか、緩慢な動きで振り向いて殴りかかる敵に、カナタは容赦なくシンバルシールドを叩きつけた。
バランスを崩したスケルトンに、さらに追い打ちのように鳴らすシンバルシールド。
(……しかし、やはり片手で持てるようにした方が良さそうじゃのう……)
カナタが頭に思い浮かべるのは、シンバルの真ん中に魔導機械入りの軸棒を通して自動で音を打ち鳴らせる片手持ちのシンバルシールド。
「あとは盾の強度を高めて耳栓じゃな!」
一応影響は受けないのだが、自分でも正直うるさいらしい。
そして――さらに寄ってきたゾンビやスケルトンを相手取っていたざくろが、さっと魔法の威力を増強させるポーズを取る。
マジカルステッキのようにくるくる回す機械の剣。可愛らしく踏むステップ。
「ピンプル・ラブリン・パラリンコ……マジカルタッチで魔力よつよくなーぁれっ★」
実は台詞は必要ないのだが。
誰かにいるって吹き込まれたらしく、非常に堂々と完璧な呪文であった。
「テクニカル・ライトブレード!」
ついでにブーストされた機導剣も必殺技っぽく!
塵に還ったスケルトンを、見送るように決めポーズ。ゲルトに「台詞はいらないぞ」とツッコミを受けるまであと3秒。
聖機剣を展開した剛は、それを力の起点としてホーリーライトを、次にシャドウブリットをゾンビに向けて解き放つ。
「……なるほど。魔法自体を増強してくれるわけではないのですね」
聖なる光の、そして漆黒の弾を浴びてなお倒れぬゾンビを、剛は今度は聖機剣を振り上げて迎え撃つ。
剛の体格と筋力があれば、両手なら軽々と振り回せる程度の重さだ。その分攻撃力は控えめで、防御に使うにも変形機構のせいかやや心もとない。
すっとそのゾンビの後ろに、影から現れるようにUisca Amhran(ka0754)が回り込む。そして――両手に持ったシンバルシールドを、勢いよく打ち鳴らす!
「っと!」
ゾンビの行動が明らかに鈍り、振り下ろされようとしていた拳を剛が難なく聖機剣で弾く。
「……しかし、やはり随分な音ですね」
やや離れているから影響こそ受けないものの、鼓膜を揺るがす轟音に剛は苦笑いを浮かべる。動きを鈍らせ、Uiscaにシンバルシールドの一撃を受けてよろめくゾンビに止めを刺そうとして、はっと剛は手を伸ばした。
現れた輝きが、Uiscaの背後に迫っていたゾンビを貫く。急いで振り向いたUiscaが、腐敗した拳をシンバルシールドで受け止めてそのままシールドバッシュで畳み込む。
「八百万の神よ、我が同胞を癒し給え!」
捌き切れずに刻まれた傷には、聖機剣を握って念じた剛の祈りによって癒しが宿る。
「ありがとうございます。けれど、楽器の効果と盾の両立は難しいですね」
「聖機剣の方も、まだ法具としての性能を中心に改良点が見つかりますね」
実験であることも、実戦であることも忘れずにちらりと視線を見交わして。
再び2人は、そこかしこから現れるゾンビへと向き直る。
剛が言うところの『随分な音』は、他の場所でも響き渡っていた。
中でも一番激しいのが、ピオス・シルワ(ka0987)のシンバルシールドの響きである。
「なんだか音楽隊になった気分!」
さっきまで懸命に魔力の矢や風の刃を解き放っていたのだが、敵に囲まれたので思いっきり鳴らしてみたらこれが楽しくて楽しくて。
「っと!」
それでも殴りかかってきたゾンビに対して、すっと打ち鳴らすのをやめて盾を構える。魔術師である彼女にとっては、音の響きと盾としての強度を両立させたシンバルシールドはやや大きく重い。
ただしその大きさゆえに、攻撃を受け止める性能は悪くはない。衝撃がそれなりに腕に響いてくるのが難点だろうか。
(扱いやすさの改良と……それに、打ち鳴らした時にもっと音が鳴るようにすれば効果も高そうですね)
そう真剣に考えながら、ピオスは敵の攻撃を受け流すと再び高らかにシンバルシールドを打ち鳴らした。
「射撃武器と連動するなら……射撃武器を媒体にして機導砲を撃てば、同じように精度が上がるんじゃないか?」
そう考えた紋次郎は、周りの戦いの様子に気を配りつつ、照準を合わせながら機導砲を撃ち込む。確かに銃口を起点として位置を合わせれば不可能ではないが、銃口から真っ直ぐに飛ばすよう調整するのは自分自身であるため、やはりいくらかのずれは出るようで。
その代わり射撃に関しては、猟銃の射程距離ギリギリから狙っても、半分の距離から射撃するのと同程度には命中率を補ってくれる。
ヘッドショットは流石に成功させる方が難しいが、ゴーグルなしで狙うよりはそれなりに分がいい。
「……と」
ゾンビに囲まれて前後から殴られそうになったイルリヒト生徒に、防御障壁を飛ばしてやる。拳を受け止めて砕けた光の壁に、はっと気づいたイルリヒト生が前からの拳を防御しながら軽く頭を下げる。
生徒達は元から試作兵器を支給されて、実験しながら戦うことに慣れているようだと紋次郎は安堵する。実験に執着し過ぎる者は、いないようだ。
(しかしこのゴーグル、いっそ武器と連動せずともマーキングできれば追跡用ゴーグルとしても使用できるな)
そう提案してみようと考えながら、再び紋次郎は引き金を引いた。
その頃まりおは、パリィグローブを手に1体のゾンビと対峙していた。
ゾンビが無造作に繰り出してくる拳を、まりおは力の使い方を研究しつつ丁寧に受け止める。
「力の流れに逆らわないように身体を捻って……ここで押し流すように……!?」
さっと上手く身を翻せば、ほぼ傷を負うことなくゾンビの攻撃を受け流すことに成功する。
「くふっ、さすが回避の補助っぽく使用できるね。面白いかもっ」
にやりと笑って、再び繰り出された拳を今度は反対側への動きで逸らしてみせる。
「で、実践で使用して確信が持てたよ――このグローブはやっぱり両手に装備すべきだって事!」
す、とまりおが取り出したパリィグローブを、もう片手にはめて。
完璧に武装を整え、楽しげに構えを取る。
「さあこいっ」
襲い来るゾンビと、拳と掌がぶつかり合う!
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)も、パリィグローブを選んだ1人である。
もう片手に持つのは、日本刀だ。いつもと異なる戦闘スタイルであると心に刻み、地を蹴る。
ゾンビの鈍重な拳をグローブで受けていなし、刀を振るう。反対側に来れば上手く受け止め、いなし、一撃。
拳を受け止める掌が、空気を切り肉を断つ刀が、奏でる音がリズムよく、まるで音楽を刻むように。
後ろから来たとみれば、すぐさま動物霊の力を脚に宿して囲みを抜ける。
「やっぱりこのポーズ……妙だし隙が多いね?」
長めのポーズをとる間に寄って来たゾンビを、リアがジオラとタイミングを合わせて薙ぎ払い、囲みを突破する。
確かにいつもと感覚が違うと、リアは口元を緩めて。
「いつもより力が漲ってくる気がする、さっきの変なポーズの隙さえなければ最高の道具だね!」
海の魔物の歯を使った刃が、やすやすとゾンビの身体を引き裂いていく。新たな武器をいつもより力強く振るえる状況に、心は高揚する。
ゾンビの攻撃は、華麗なステップでするりとかわして。ふと、このベルトで回避もブーストできたら、とアイディアが浮かぶ。
「遅い! そんなんじゃ当たんないよ!」
数が増えてきたゾンビに、近くにいたジオラと背を合わせるような状況になる。
「大丈夫か……大丈夫そうだな」
「まだ余裕さ、任せて」
2人の背が離れ、一気にゾンビへと力を揮う!
――変身ベルトは、慶一郎にとって子どもの頃からの憧れであった。
(……ポーズは割と手間だな)
そう思いつつもきっちりポーズを取って、威力を増したバットでゾンビの群れを薙ぎ払い――射撃。
威力が上がっているだけあって囲まれた状況を打開するにはいいが、やはり機動力が欲しいというのが感想だ。
「炎を纏て刀を振るう様は差詰め不動明王か……彼の好みそうな事じゃ」
その背を支えるように現れ、そう呟いて目を細めるのは、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。術師なれども前に出れるか見定めようて、と選んだのは、パリィグローブ。
『我を護りし炎獄の精よ、刃に宿りて全てを屠る力となれ』
そう唱えると同時に、手にした剣に炎が宿る。
「剣舞と言うたかの? 舞は我の得意とする所じゃ」
普段とは違う、前に出る戦い。知らずの内に慶一郎と蜜鈴が、互いの背を庇い合うような形になり、無事を確かめればまた離れていく。
「カッコイイポーズでパワーアップだなんて浪漫でござる! ノリノリでいっちゃおー!」
ブーストベルトを装備したミィリアが、目を輝かせて元気にポーズ。
サムライアタック、構えは攻め!
深い踏み込み!
渾身の……一撃!
「おサムライさん必殺剣!! どおりゃーでござるーー!!」
ブーストベルトも使って極限まで威力を上げた一撃が、ゾンビを一刀両断!
――両断できなかったら思いっきり反撃喰らう構えである。
「うーん、武器を大きく一回転させて攻撃すると発動とか、できるといいでござるね!」
やっぱり1ターンかかるのは、結構なネックである。特にミィリアなんて防御捨ててるし。
そのフォローというわけでもないが、何体かのゾンビはアルトが引き付けていた。ついでにミィリアの背中を護っているのは炎を宿した蜜鈴である。
実験のためである。掌と甲どちらで受けるのが負担が少ないか、肩から手にかけての関節が受ける衝撃はどのようなものか、それを動作ごとに実証しているのだ。
ひたすら攻撃を受け止め続ける様は、もはや求道者じみている。
「基本は、掌で受ける構造だね……っと」
布地自体は甲の方が厚いのだが、魔導技術を使っているのか掌で受ける方が負担が少ないとアルトは結論付ける。
で。
「あ、そこの生徒さん、あとお願いするよ」
「へっ!?」
他のゾンビを片付けて増援に来た生徒に、まるっとゾンビを押し付ける。
ぶっちゃけアルトは攻撃受け続けてデータ取っただけである。
「折角の実戦の機会、イルリヒトの生徒なら死なないだろ。頑張れ明日を担う若人達」
「ちょ、や、行けるけどぉぉ!」
がんばれ未来の帝国軍人。きっと輝かしい未来はこのゾンビの群れの先にある。
「技量と経験で補ってたもんが機械で補ってくれるたぁ便利になったもんだ」
リハビリに付き合ってもらうぜ、と笑いながら、ジャンクは何人かの生徒と共にゾンビの討伐に向かう。
イルリヒトの生徒達もそれぞれに戦いには慣れているが、各地の傭兵団を回ったジャンクには学ぶところも多い。確かな技術を持つ者に対しては、生徒達は真摯だ。
戦場で、死なぬために。
「銃兵伏兵は近づかれる前に撃って直ぐ動くのが鉄則だ。位置がバレてもその場に留まってちゃ死ぬぜ?」
生徒達に声を掛けながら、ジャンクは次々にゴーグルの性能を確認していく。
風速の影響補正は実装されていないようだ。マーキングと銃の照準は別に動くため、別の目標を狙ってもあまり支障はない――が、マーキングした目標を狙うに比べればやはり恩恵は少ない。
「あれ、倒してもらえるか」
「了解」
さらにマーキングした敵を生徒に倒させ、その時の影響を確認する。普通にマークが消えるだけで、悪影響はなさそうだ。
その一団に加わり、パリィグローブを使いながら、銃との組み合わせを研究するのは二ノ宮 灰人(ka4267)である。
「……さすがに、銃の反動は和らがないか」
使えれば強力であったかもしれないが、やはり刃や拳を受け止めるのに特化した武器である。だが、銃を持った手の甲でも、ゾンビの攻撃は充分受け流せることは確認できた。
掌側の方がメインで使うように出来てはいるが、強度に問題はない。
そうなれば、あとは銃を持ちながら超近接戦闘を挑むのみ!
「お前らのそれは死じゃない、屍体を冒涜するな」
ゾンビの攻撃を銃を持った手の甲で受け止め、そのまま発砲する。あくまで受ける武器であるため傷を完全には防げないが、他の武器を使うよりも上手くすれば防御効果は大きい。
目指すのは試作品の実戦投入。防御を主体とした武器ながら、まだそれを防御よりも攻撃に生かすのは――彼の若さなのかもしれない。
「こんなトンデモ戦術が通用する普通じゃない発明、ご勘弁願いたいけどね」
そう肩を竦めながら、灰人は己の戦を繰り広げていく。
「病み上がりの復帰戦の相手にゃ丁度いいかぁ……」
ぱしん、と拳同士を打ち合わせるボルディア・コンフラムス(ka0796)の指には、ポイズンリングがはめられ紫色の淡い光を放っていた。
そこに現れた不幸なゾンビに、ニィとボルディアの唇の端が吊り上がる。
「サンドバッグの相手としちゃ二流もいいとこだけどよぉ!」
覚醒の証の犬の耳と尾は、炎を纏ったように揺らめき――赤と黒の軌跡を描いてゾンビへと飛びかかる!
「オラオラオラオラオラァ!」
反撃をものともせず、ひたすらに殴る。殴る。殴り続ける。
「っと!」
指に殴られた傷とは違う痛みを感じてふと見れば、紫色の毒が皮膚から身体を侵食していく。ふっと息を吐き身体を巡るマテリアルによって傷を癒しながら、目が合ったカナタに「頼む!」と声をかける。
「了解なのじゃ!」
詳細は言わずとも、ポイズンリングの使用者を確認していたカナタには通じる。すぐにボルディアの身体に、毒に抗う力が流れ込んだ。
「っし! ありがとな!」
そう礼を言って、再びゾンビに飛びかかってしばし。
ゾンビの姿は地に溶けた。
「さて……」
次の実験は、斧へと括り付けたポイズンリングが効力を発揮するか――だがこの実験で、ゾンビに一撃を叩き込んだボルディアは即座に結論を出した。
「使いづれぇな」
ポイズンリングの毒は宝石部分との接触によって発動するが、斧は叩き斬る武器だ。接触させようと思えば、斬るのに邪魔になる。
「オーケイ。じゃ、実験は終わりだ」
再びリングを嵌め直し、ボルディアは改造フェレライの元へと歩み出すのだった。
改造フェレライを最初に発見したのは、馬で先行したナナートだった。
そのままナナートは、改造フェレライを惹きつけハンター達、そしてイルリヒト生徒達の元へとおびき出す。
岩場も多いが、ナナートが目指すのは動きやすく戦いやすくなっている場所だ。
「連れて来たわよん!」
ナナートの張り上げた声に、ハンター達が飛びだして行く。ナナートも馬からひらりと降りて、ポイズンリングを嵌めた拳を握る。
その間に、離れた場所から敵を狙う者もいる――。
「そんじゃ錬魔院の技術がどんなもんか、見せてもらうか」
ユーロス・フォルケ(ka3862)が期待するように目を細めて、遠くのゾンビを相手にゴーグルの設定を始める。
手動での設定は、乱戦時に誤射や設定ミスを防げる。十分な距離で設定できれば自動化できなくてもいいというのが持論だ。
――ただし、試作品ゆえだろう。少なくとも拳銃の射程程度には入らなければ、設定ができない。
弓の射程からなど、ほぼ不可能だ。まだましなのは、武器と連動した照準機能の方はまともに働くことである。
「なるほど。次は……」
一度マーキングを済ませてしまえば、ある程度は離れることができる。この点は、利点であった。
限界距離はやはり弓の射程には及ばないが、銃であれば十分だろう。
ハンター達が接敵する前に、さらに射撃の実験。ゴーグルあり、なし、両方の射撃を試した結果――マーキング機能の限界点から射撃すれば、距離による修正を完全に補うほどではないが、それなりの補助になる程度には効いていることを確認する。
確かめた3つの点の改良を希望しようと思いながら――ユーロスは、ゴーグルを掛け直し再び弓を引く。
さらに魔力の矢、そして炎の矢が、連続して飛んで行く。フェレライの顔を穿ったそれは、蜜鈴が放ったものだ。
前衛のハンター達が改造フェレライに接敵したのは、その時であった。
正面に立ったのは、エリシャとHolmes(ka3813)だ。
「折角の実地実験なんだ。十全に活かすべきだろう?」
そう言いながらHolmesは、パリィグローブの耐久性を調べる気である。
「チェーンソーは二振り、ボクの両腕は二本……うん、何も問題はないね」
野生の力を借りた瞳をぎらりと輝かせ、Holmesは不敵に笑う。
チェーンソーを手袋だけで引っ掴むとか正気の沙汰じゃないが、何しろこれはパリィグローブ。
振り下ろされたチェーンソーを、がっしと片手が受け止めた。巨体のフェレライの両腕を、小柄なHolmesが完全に止めることは体格的に、というかHolmesの腕が届かなくて不可能だが、片腕だけでも抑えられるのは大きなアドバンテージだ。
「彼が倒れるのが先か、グローブが耐え切れなくなるのが先か……まぁ、僕も黙って両腕を差し上げる気はないからね」
ニヤリと笑うHolmesのパリィグローブと、チェーンソーの間に火花が散る。
正面に陣取ったエリシャがさっと後ろに下がると同時、エヴァンスがガントンファーを叩き込む。
「ははっ、結構いい手応えだな!」
攻撃力はさほど高くはないが、普段の剣とは違う使い勝手も心地いいのかエヴァンスは楽しげだ。さらにエヴァンスが退いた瞬間、一気に踏み込んでフェイントを交え斬り付けたのはリリティア。
「しぶとい上強い……」
聖機剣自体の攻撃力の低さもあって、高い生命力がさらにしぶとく感じる。さらに振り回されたチェーンソーは、変形機構を埋め込んだ刀身では受けづらい。
「よっこらしょっと」
逆にパリィグローブを使うエリシャの方は、実験がてらチェーンソーの側面を拳でぶん殴って軌道を逸らすなんて技を披露してみせる。攻撃力はないが受けへの適性は確かだ。
「っていうか女に正面戦闘任せるってどうなのよ、ねぇ?」
そうエリシャがジト目でエヴァンスを睨みながら、再びチェーンソーの攻撃を弾き飛ばす。
「あ、てめ、今俺の方に攻撃逸らしただろ!?」
慌てて飛びのいたエヴァンスのいた場所に、唸りを上げて落ちてくるチェーンソー。
「ちっ、惜しいわね」
「おいこらぁ!?」
「リリティア、そっち行くわよー」
「はい、何とか……いけます!」
攻撃を受け止めて、一度退いた間に飛び込んだカナタがシンバルシールドを鳴らす。普通のゾンビに比べて抵抗力が高いのか少し効きは良くないが、効けばその効果は大きい。
今回は、効いた。
動きが思い切り鈍った所に、ナナートが拳を叩きつけ、指輪から毒を送り込む。
さらに波状攻撃に参加していた真吾が、すっと手を伸ばした。決めポーズを取って魔法威力の強化へとモードを切り替え、その手の先に光の剣が宿る。
「マテリアルセイバー! ガイアインパルスッ!!」
相手がまだシンバルの音に惑わされている間に――深い、一撃!
「おサムライさん必殺剣、再臨でござるるる!」
さらに離れた場所から一気に踏み込んで、ミィリアが渾身のサムライアタック!
バランスを崩したのをきっかけに、Holmesが手をさっと離して。浮いた形になったその武器に、ひょいと蜜鈴が乗ってみせた。
「魔力の矢よ、炎を纏って彼の敵を穿て」
伸ばした手から放たれる輝きの矢、さらにチェーンソーを蹴って飛びながら炎纏いし剣を薙ぐ。
そしてそこにHolmesが、握った拳を思いっきり振り抜くクラッシュブロウ!
巨体を地面に横たえたゾンビは、そのまま消えて行った。
ゾンビの掃討をしながら試作兵器のテストを重ねる間に、発見されたのは――馴染みある者もいる大きなコンテナ。
「これは、リンドヴルム型剣機の……」
恐らくは、この巨体のフェレライも、運ばれてきたうちの1体だったのだろう。大量発生したゾンビも、同じく運ばれてきたものかもしれない。
ドゥンケルベルクのゾンビ大量発生の謎が解けたこと。そして、大量の実験データが集まったこと。
それによって、錬魔院の試作兵器研究室では嬉しい悲鳴がしばらく上がり続けたとのことである。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 21:50:47 |
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作戦相談所 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/02/24 05:36:19 |