我儘お嬢様の行進

マスター:トロバドル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/27 07:30
完成日
2015/03/07 09:50

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●とある屋敷の一室
 頬を膨らませ、赤いドレスと纏った少女は、椅子の上で所在なさ気に足を遊ばせている。
「ソラスお嬢様、いい加減機嫌をお直しください。過ぎてしまった事なのですから」
「約束してたのよ!? 納得できるわけないじゃない!」
 怒り余って、ソラスはテーブルの上に置かれていたグラスを、皺ひとつない執事服を纏った初老の男性に投げつけた。
 老執事は眉を動かす事なく、飛んで来たグラスを受け止める。
「何を言われようとも、世の中にはどうにもならない事もあるのですよ?」
「どうにかするのが貴方の仕事でしょ!」
 それはそうなのだが、だがしかしと、老執事は溜息を漏らす。
 本来であれば、この日、ソラスお嬢様は父親と一緒に乗馬を楽しむ予定だった。が、急用が入った事で出かけねばならず、予定は破綻してしまったのだ。
 折角の予定を反故にされ、更に暇を持て余したお嬢様は何か暇を潰す方法を見つけろと、この老紳士に無理難題を言いつけている最中である。
「何度もお伝えしている通り、二日後のパーティーの準備で人手が回せないのです。それにお父上様からも屋敷を出るなと言われていたではありませんか」
「うぅ……わ、判ってるわよ、そんな事……。でも、暇なの! つまんないの! 我慢できないのっ!」
 いーと歯を見せる少女に、執事はやれやれと頭を振る。お嬢様は一度言い出したらそう簡単には意見を変える事はなく、老執事はそれを痛いほどに知っている。
 それに頭を痛めつつも、手の掛かる子は可愛いと言うように、結局は甘やかしてしまうのだった。
 しかし、人手が集まらぬ現状で屋敷の外に出す訳にもいかず、老執事は答えの出ない思考の迷宮に迷い込む。
「――そうだわっ!」
 少女は椅子から飛び降りると、煌びやかなスカートを揺らしながらくるりと回った。
 にっこりとほほ笑むお嬢様の姿には愛らしさがある。が、碌でもない事を考え付いた顔だと、老執事は内心でため息をつく。
「屋敷からは誰も出せないんでしょう?」
「え、えぇ。今はパーティーの準備で手一杯ですから」
 この部屋には老執事とメイドが一人いるだけ。普段ならもう二、三人増え、外出時ともなれば武装した使用人が十の単位で護衛に付く。
 二人だけという現実が、今この時の忙しさを物語っていた。
 猫の手でもいいから本気で借りたい状況の中、お嬢様の為にと漸く捻出したのが、このメイド一人なのだ。
「だからね、この館の中から人を出さなきゃいいのよ」
 何を言ってるんだこの我儘娘は、と老執事は思わず喉元にまで出かけた言葉をやや強引に飲み込んだ。
「で、では一体どこから人を出せと?」
「居るじゃない。そう言うのがピッタリな仕事をしている人達が」
 一瞬何を言っているのか判らなかった老執事だが、数瞬置いて思い出したように頷いた。
「確かに、そう言った仕事も請け負ってくれるでしょうが……いえ、ダメです」
 一瞬その手があるかと思った老執事だったが、いやダメだろ、と頭を振った。
「彼らがダメと言う訳ではなく、素性も知れる方々にお嬢様を任せるなど、出来るはずもはありません。お嬢様の身に何かあったらと思うと――」
「あーはいはい。その後はもう聞き飽きたわよ。でも、退屈なんだもん、仕方ないじゃない」
「仕方がないで済まさないでください。まったく、お嬢様の退屈凌ぎの為に我々がどれだけの苦労を――」
「ねぇ、ちょっと依頼出してきてくれない? 依頼内容は私の護衛って事で」
 ハッとなって老執事は振り返る。いつの間に移動したのか、少女はメイドに仕事を言いつけていた。
「え、えっと、その……し、執事長~」
 半泣きになりそうな顔でメイドが悲鳴を上げる。
「だ、ダメです! なりません!」
「良いじゃない別に。ほら、さっさと行ってきなさい。それともなに? 私の言う事が聞けないの?」
「ダメと言ったらダメです!」
「うわ~ん――! どうしたらいいんですか~!!」
 メイドはついに泣き出した。行けと言う主と、行くなと言う上司。二つに板挟みにされたメイドはどっちに従ったらいいか分からず、渦中に飲み込まれた。

●数分後
「わ、判りました……はぁ、はぁ……。で、では、本館から別館までの間のみと限定していただけるのなら、許可しましょう……はぁ、はぁ……」
「な、納得いかないけど、ま、まぁいいわ……」
 息も絶え絶え。二人の舌戦は熾烈を極め、メイドは部屋の隅で怯えていた。
 一度深呼吸し、乱れた頭髪を正し、衣服の歪みを矯正するといつものすまし顔に戻った老執事はこほんと咳払いを一つする。
「本来であれば許可する訳にはいきませんが、このまま言い争っていても終わりがないでしょうから、今回だけは特別という事をお忘れなく」
「はいはい判ったってば。――ね、これ、直して」
「は、はい、ただいま――!」
 乱れた髪型を指さすと、メイドは慌てて主の髪を梳いて纏める。
「じゃあ早速依頼を出さないとね。一分一秒でも勿体ないわ!」
 目をきらきらと輝かせる小さな主を見て、老執事とメイドは心の中で盛大な溜息を零した。
 一度許可すれば二度、三度と繰り返すのはお決まりで、ならば対策の立て様もあると老紳士は仕事が一つ増えたと嘆息した。
 取り立て、今回をどう乗り切るか。執事は何度も頭の中でシュミレーションしつつ、退室する。

●ハンターオフィス
「あはは……ちょっと変わった内容ですけど、依頼なので――」
 苦笑いと乾いた声で受付嬢は依頼書を提示する。
 依頼内容は簡単だという皮を被った複雑さが見え隠れするものだ。
「依頼内容はソラスお嬢様を目的地まで護衛する、です。敷地内の別館とされていますが、途中に街道が走っているので、外を行くのと同じだと思ってください」
 敷地内ならと許可を出した老執事だったが、私有地だと示す柵がないのであれば入りたい放題だという事に気づいていないようだ。
「街道は整備されていて、旅人や商人が良く行き交っていました」
 過去形で言う彼女に、疑問の念が上がる。彼女はそれに答えるように言葉を続ける。
「最近、この街道付近に雑魔の姿が確認されています。一体一体はさほど脅威ではありませんが、群れて動くタイプなので注意が必要です。加えて、街道には三、四メートルほどの岩が点在しているので、物陰からの奇襲にも注意が必要です」
 更に、お嬢様だけではなくお付のメイドも一人同行すると付け加えた。
 メイドは最終防衛ラインのようなもので、いざとなればその身を持ってお嬢様を守る盾として同行する。
 老執事ははっきりと告げなかったが、ハンターが同行するのなら必要になる事はないだろう、という挑発的な意味合いが少し含まれている。
「――それではこの依頼、お受けしますか?」

リプレイ本文

●【1節】お嬢様の行進
「それではソラスお嬢様、颯たちはこのように動きますので、よろしくお願いいたします」
 少し頭を傾け、微笑ながら八劒 颯(ka1804)はソラスお嬢様に簡単に自分たちの行動を説明した。
「それとソラスお嬢様、これをお羽織りください」
 そう言って結樹 ハル(ka3796)は持参したホワイトスノーコートを差し出す。
 ソラスお嬢様は疑問に首を傾げた。
「戦闘の際に汚れてしまっては、折角のドレスが勿体ないですから。それに、今はまだ冷えますから」
「えぇ、判ったわ。それじゃあ、よろしくね」
 頷き返し、コートに袖を通すソラスお嬢様。そして老執事に向き直るとドン、と胸を張った。
「じゃあ行ってくるわねっ! 私の土産話、期待してなさいな!」
 ふふんと自信満々なお嬢様。

「判る! 判るよ、その気持ちっ!」
 ぎゅっと拳を握ってフレアティラミス(ka0011)はソラスお嬢様の話に何度も頷いた。
「あれもダメ、これもダメ。家の中で大人しくていろって……庭に出る事も口うるさいのよ? まったく……」
 幾ら一人娘が大事でも過保護な両親だと、エルディラ(ka3982)と和泉 澪(ka4070)も苦笑いを浮かべた。
「しかし、それも家族を思う心です。一人娘ともなれば、その気持ちは強いでしょうな」
 群青(ka2650)の言葉に、ソラスお嬢様は小さく頷き返す。
「判ってるんだけどね……。でも、窮屈過ぎるのも問題よ。フレアティラミスもそう思ってたんでしょう?」
「当時はね。でも、もう過去の事だから。過去を振り返らず、今を精一杯楽しむ! がスフィア族のモットーなんだよっ」
 ふむふむ、と何かを得た様子のソラスお嬢様。
 談笑するメンバーの後ろで、ピオス・シルワ(ka0987)は何かを思い悩んでいる顔色を浮かべていた。
「ぼ、僕も何かした方がいいかな……」
「――ピオスは何をこそこそ言うておる?」
「うわっ! ちょ、こ、声が大きいよ!」
 ピオスは慌ててエルディラの手を引いて距離を取る。
「なんじゃ一体……。で、何をしておったのだ?」
「何か、一発芸みたいなのをした方がいいかなって……」
「一発芸? お主は芸人ではないじゃろ……。まぁやりたいのなら止めせんが?」
「そ、そう? じゃあ、やってみようかな。――ソラスお嬢様、少しいいですか!」
 会話が途切れたタイミングを見計らってピオスはソラスお嬢様を呼び止めた。
「え、えっと……1番ピオス! ゴリラのモノマネ、やります!」
「モノマネっ!? いいわね、やって!」
「へぇ。面白そうじゃない。やってみてよ!」
 期待大。そんな瞳のソラスお嬢様に見つめられつつ、ピオス決死のモノマネはゴリラだった。
 出来栄えで言えば、それは見事だった。再現度は高い。しかし、周囲の空気はやや冷たい。
 止めておくべきだったと、若干白い眼のエルディラを見つけ、
「ひどいっ!?」
「――ぷっ! あはっ! あははは――!! なにそれ、面白~い――!!」
 全員が驚いた。
 どうやらピオスのモノマネはソラスお嬢様の笑いのツボを突いた様子で、空に響き渡る程の大爆笑。
 ピオスは一転、照れくさそうに頭を掻いていた。

●【2節】お嬢様の談笑
「ソラスお嬢様、その辺りで彼を許してあげてください」
「別に苛めているつもりはないんだけど、まぁいいわ。ひとしきり笑ったし」
 群青の一言で漸くモノマネ地獄から解放されたピオス。
「た、助かりました……」
「いえいえ。盛り上げ、ご苦労様です」
 群青のねぎらいの一言を助けに、ピオスは護衛の役割を果たす為に少しだけ距離を取った。
「――敵発見! 颯、みんなに伝えて!」
 一行が岩が多く点在している場所に到達すると、周囲を探っていた時音 ざくろ(ka1250)が直ぐに反応する。
 敵が現れたと聞き、ソラスお嬢様も臨戦態勢。彼女を守るように、フレアティラミス、ピオス、エルディラ、群青が周囲を囲む。
 正面に現れた2匹にざくろと颯が。左後方から現れた2匹に和泉 澪(ka4070)が真っ先に向かうと、ハルの意識はそちらに向いた。

 ざくろは一歩前に出ると、
「お前達の相手はざくろだ! ――この煌きを恐れないのならば、かかって来いっ!!」
 機導剣をわざと発動させ、その輝きでもって雑魔の意識を自分に向けさせる。
 雑魔の周囲への注意が薄れた。
「――流石ですお時ちゃん!」
 側面へと回り込んだ颯。ざくろと共に、雑魔を挟み込んだ。
「やるよ颯っ!ざくろ達の力、見せてやろう……。剣よ、闇を払う光りとなれっ! 機導剣――光りの舞っ!!」
「びりびり電撃どりるぅ~~!!」
 二人の攻撃はほぼ同時。
 左右から襲い掛かる二人に、雑魔は困惑し、反応が遅れる。
 ざくろが放ったのは機導剣による乱舞。
 消えては現れ、現れては消える。明滅する閃光による斬撃にソラスお嬢様はその度に声を漏らしていた。
 反対に、颯の攻撃は一撃粉砕。
 ドリルの激しい回転音はそれだけでも強力な迫力と、圧倒的な恐怖を与える。
 突き刺し、回転。さらにエレクトリックショックの一撃。強烈な閃光にソラスお嬢様の声は一層高くなる。
「――フィニッシュ!!」
 二人の声が重なった。
 1匹は細切れに。もう1匹は体内からやかれて黒焦げに。
 撃破した敵を背後に、二人は勝利のハイタッチを交わした。

 最初に斬りかかったのは澪だった。
 裂帛の一太刀。雑魔は盾で受けるも、澪の一撃はそれを容易く破壊する。
 雑魔は苦し紛れに棍棒を振り上げるが、澪は刀を引き戻す勢いを利用して剣閃を刻む。
「鳴隼一刀流――双隼撃っ!」
 一の太刀で切り上げ、二の太刀で袈裟懸け。見事ならスラッシュエッジの二連撃だった。
 瞬きの間に放たれる二つの太刀筋に、ソラスお嬢様の興奮の声は追いつかないでいた。
「――行かせないよ」
 最後の1匹の動きを止めたのは、ハルのエレクトリックショックだ。
 突き出された刀から放たれる電撃。しかし、それは寸前の所で回避される。
 自分が最後という恐怖からか、滅茶苦茶な軌道で棍棒が降られる。
 ハルは時には避け、時には刀で受け、時にはそれをいなして隙を伺う。
 渾身の一撃を刀に受け、弾かれる。防御ががら空きになったと、ソラスお嬢様は息を飲む。
「ごめん、ちょっとそれ、待っていたんです」
 振り下ろされる棍棒。必中確定だった攻撃。しかし、ハルは慌てる事なく、当然のように防御障壁を展開。
 光の障壁は棍棒の一撃を受け止め、砕け散る。
 大きな一撃の後の隙。ハルは機導剣で雑魔の首を刎ねた。
「~~っ!! 皆凄いっ! まるで詩に聞く英雄のようだったわっ!!」
 全身で喜びを表したい様子で、メイドに止められながらもソラスお嬢様は大満足の様子。
 素直な声援と称賛を受け、四人は恥ずかしそうになりながらも、その賛美を受け取った。

●【3節】お嬢様の興奮
「ざくろは時音ざくろ。リアルブルーから来た冒険者だよ」
 最初に言ったはずなのに、と思いながらざくろは改めてソラスお嬢様に名乗った。
 ソラスお嬢様は興味がない事は、どれだけ親切丁寧に説明されても記憶に残らないタイプだ。
「ざくろね、覚えたわ。それで、さっきはなんで気づけたの?」
「ざくろは目がいいんだ。例えば……ほら、あそこにウサギが居るでしょう?」
「ウサギぃ……? ――あぁ、あの黒い塊、みたいな奴?」
 それは確かに野ウサギだったが、ソラスお嬢様には黒い塊にしか見えなかった。
「凄いわね、ざくろ。私にはさっぱりだわ。――貴方のそのドリル、重たくないの?」
「慣れ、ですの。錬成工房には随分と通いました。重すぎたので、性能の底上げ以上に軽量化が必要でしたの」
 削れるところから削ったという颯に、ソラスお嬢様はそこなのかと苦笑いを浮かべた。
「本当は射撃主体で行くつもりでしたのに……。なぜか、支給されたのがこれでしたので、仕方がなくドリル主体にしたんです」
「凄い発想ね、それ。私はドリル好きだけど」
 ありがとうございます、と颯は微笑んだ。
「二人もリアルブルー出身なの? 格好とか武器とか、ちょっと珍しいわよね?」
「これは刀、という武器ですね。片刃なので、こっちでは少し特殊かもしれません」
「胴着、と言います。着慣れているので、私は普段からこれですね」
 ハルと澪は互いに刀と胴着を手に語る。ソラスお嬢様は興味津々といった感じだ。
「へぇ。刀に胴着、ね。面白いわね、それ。やっぱりリアルブルーはこことは雰囲気が違うものなの?」
「そうだね……。こう、天を突かんばかりの建物が乱立している、って感じかな?」
「全てが全てそうだという事はありませんが、首都圏、つまりは人が多く集まる場所ではそうですね」
 ざくろの説明に澪が補足を入れる。ソラスお嬢様は想像が追いつかない様子で、興味心を出しながらも困惑していた。
「――例えばあの木、ですが。あれを更に4、5本上に重ねた高さくらいの建物がある感じですね」
 ハルが指差した木は8メートルほど。それを積み重ねたソラスお嬢様は眉間に皺を刻んだ。
「……息苦しくない?」
 こっちに比べればなくはない、と四人は苦笑いを浮かべた。
「何事も住めば都と申します。こちらにはこちらの、リアルブルーにはリアルブルーの良い所がありますから」
 群青がそう付け加えると、ソラスお嬢様は得心を得た様子を見せる。
「なるほど。それは一理あるわね。息苦しそうだけど、そんな風景をこの目で見てみたいわね」
 思い馳せるソラスお嬢様。
 ふいに、足元の水溜りに気づく。先日に降ったという雨で溜まったのだろう。
 迂回すれば済む事なのだが、なんか癪だと、ソラスお嬢様は唇を尖らせた。
「ではソラスお嬢様、こんなのはどうですかな?」
 群青が提案したのは肩車だった。
 水溜りはそれで直進でき、それなりな距離を歩いてきたのだろうという提案だ。
 直ぐに採用と声高らか。ソラスお嬢様はすいすいと群青の背を昇り、肩に足を掛けた。
 急に高くなる視界。ひろがる景色にソラスお嬢様は思わず息を飲む。
「凄い! 凄いわ、これ! あは、高い高いっ! ――――叫んだら喉渇いちゃった」
「それならば、これはどうかの? 青い世界由来の品物じゃ」
「リアルブルーの!? 欲しい!」
 エルディラが差し出したそれを、ソラスお嬢様は受けるや否や直ぐに封を開けた。
「――わっ!? しゅわしゅわする……。こっちは……初めての味だわ。でも、美味しい」
「喜んでもらえたようならなによりじゃな」
 ニッとエルディラは微笑んだ。
「でも、どうしてリアルブルーのものがあるの?」
「リゼリオ沖を知っておるかえ? そこに今、青の世界の戦艦が停泊しておるんじゃ。これらはそこであつらえた物らしいのぅ」
「へぇ。じゃあ、それに乗ったら青の世界に行けるのかしら?」
「さて、それはどうかの。でも、乗るだけならば、機が熟せば乗る事は叶うかもしれんの」
 そんな未来を夢想するように、ソラスお嬢様は瞳を輝かせていた。

「――さて、隠れていないで出てきたらどうなんでしょうか?」
 え、とソラスお嬢様は驚いた。
 澪の言葉に応えるように、正面から2匹、左右に1匹ずつ雑魔が姿を現す。
 群青はソラスお嬢様に断ってから肩から降ろすと、にじり寄ってくる右側の敵に意識を向ける。
「時にお嬢様。私めと共にあの雑魔、倒してみませんか?」
 戦った事がないから無理と言うソラスお嬢様。当然だ。庭先に出る事すらも禁じられる程の溺愛を受けているのだから。
「それが可能なのです。ソラスお嬢様、このタクトを共に握ってもらえますか?」
 ソラスお嬢様はおっかなびっくりとタクトを共に握る。
「では、あの敵に向かって振ってみましょう。――それ!」
 群青はタクトの動きに合わせ、機導砲を発射。
 一条の光りが雑魔に着弾すると、背後の岩肌に叩きつけた。
「凄い! やったわ! 私、やったのよね!?」
「お見事です。さて、残りは私達にお任せを」
 貴重な体験をしたソラスお嬢様。群青の言葉に何度も頷いていた。

「こっちこっち~。こっちにおいで~」
 フレアティラミスはブローチを手に雑魔の気を引く。
 正面に2匹はあっさりとそれに釣られると、しかし二手に分かれて襲い掛かってきた。
「こっちは俺が。そっちは任せた」
 もう一体を担当すると、ハルはエレクトリックショックを纏わせた刀で斬りかかる。
 盾で防御する雑魔だったが、上段の構えから振り下ろされた一撃は粗末なもので防ぐことはできない。
 防御ごと貫くと、そのまま袈裟懸けに斬り払う。
「あはっ♪ 私もがんばらなくっちゃねっ。――っとと」
 石尾を振り回す雑魔。しかし、フレアティラミスは余裕を見せてそれを回避した。
「残念。――そこは私の距離だよ?」
 ざっと大きく踏み込み、あえて防御を捨てた攻めの構えで狙いを澄ます。
 鞘の中から滑り降りた刀。陽の光りを浴びて剣呑な輝きを見せたかと思うと、次の瞬間には雑魔は見事に両断された。
「ざっとこんなもんかな?」
 余裕綽々と言った様子で、二人は文字通りあっという間に2匹の雑魔を撃破した。

「う、後ろ! 後ろから来たよっ!」
 ピアスの悲鳴めいた声。エルディラが視線を向けると、後方から更に2匹、雑魔が姿を見せていた。
「慌てるな。」
「エルディ!? ――判った!」
 コクリと頷き、エルディラは杖を構えるとアースバレットをあえて連続で放った。
 石の飛礫が無数に現れ、2匹の雑魔に襲い掛かる。足止めを受け、雑魔たちは歩みを止めた。
「僕も――!」
 ピオスもその後に続き、アースバレット。狙いを澄ましたそれは雑魔の体に突き刺さるように着弾。
「エルディ、一緒に!」
「うむ。合わせるんじゃ」
 二人の杖がぶつかり合い、そして振り下ろされる。
 同時に放たれたウィンドスラッシュが2匹の雑魔を包み込むようにして切り裂いた。
 2匹の雑魔は現れた場所から殆ど動く事なく、二人の魔術師に倒された。

●【4節】お嬢様の我儘
 緩やかな丘を登ると、一行は目的に到着した。
「お父様っ!」
 門の所で悲壮感のある顔色で待っていた男性が、ソラスお嬢様の顔を見ると途端に滝のような涙を流して抱き着いた。
「――ふぅ。お疲れ様でした」
 無事に送り届けたと、ハルは隣で安堵の溜息を付いてるメイドさんをねぎらった。
「――ぁ、そうだ。お父様、ちょっと邪魔」
 何かを思い出したソラスお嬢様。父親を蹴り飛ばして抜け出すと、ハンター達の元へとやって来た。
 少し疲労感を滲ませているハンター達を見回し、ソラスお嬢様は笑みを浮かべる。
「今日はありがと。楽しかったわ。――でもそうね。もうちょっとスリルがあった方が楽しかったかしら?」
 欲を言えば、というだけだが。
 お嬢様というのはどこまでも自分勝手で、そして欲が深い。
 流石は我儘お嬢様だと、ハンター達は疲労感と共に苦笑いを浮かべた。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • ドラゴンモドキスレイヤー
    フレアティラミス(ka0011
    人間(紅)|15才|女性|闘狩人

  • ピオス・シルワ(ka0987
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師

  • 群青(ka2650
    人間(蒼)|32才|男性|機導師
  • ブリーダー
    結樹 ハル(ka3796
    人間(蒼)|16才|男性|機導師
  • 今を歌う
    エルディラ(ka3982
    ドワーフ|12才|女性|魔術師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ピオス・シルワ(ka0987
エルフ|17才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/02/26 21:04:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/23 12:19:39