ゲスト
(ka0000)
【不動】希望を絶望に変えぬ為に
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/27 22:00
- 完成日
- 2015/03/07 18:07
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「……歪虚がマギア砦からさらに南下ですって!?」
連絡を受けたゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)は驚愕の声を上げざるをえなかった。
マギア砦での籠城戦が終わってまだ数えるほどしか日にちはたっていない。
しかしその戦いで払った犠牲はあまりにも大きく、マギア砦は手放さざるをえない状況に追いやられた。
そして今、もしその軍勢が更にナナミ川を突破してきたら――この希望に溢れているはずの開拓地『ホープ』も、失ってしまうことになってしまうかも知れない。
(どうか、この地が蹂躙されることのないように――)
彼女は医師であり、神頼みなどには縁遠い。しかし、今は祈りたかった。
いや、――祈るしか出来なかった。
●
歪虚に対抗するための勢力は、各地から呼応するように呼び寄せられているらしい。
特に、前回のこともあってかCAMの投入もあるとかないとか、それだけでハンターから噂を聞いたホープの避難民たちは大きな安堵のため息をついたものである。
「ハンターがきっと歪虚を何とかしてくれる――」
それは小さな光明に違いなかった。
しかしそうなれば、ある意味当然かもしれないが発生するのは前線での負傷者への対応についての問題だ。
誰も傷を負わずして、戦いが終わることなどあり得ない。
かといって負傷者をそこにとどめ置くわけにも行かず、それなれば。
それとほぼ時を同じくして、一通の手紙がホープのゲルタの元へ届けられた。
差出人をみて、ゲルタはわずかに驚く――そこにあったのは、辺境ユニオン『ガーディナ』のリーダー・リムネラ(kz0018)だったからだ。
『親愛なるホープの医師殿
マギア砦籠城戦のあとも息つく暇がないでしょうが
どうかさしのべられるすべての存在へ
貴方の手をさしのべてあげてください』――
リムネラの手紙は簡潔、しかし心を揺さぶる。
「……わかりました」
メガネをきっとかけ直すと、ゲルタは行動に移った。
その日、ホープにほど近くまで逃げてきた、怪我を負ったハンターや部族の民を更に受け入れる、と彼女は宣言した。
場所の問題はもちろんあるが、何しろそうも言っていられない状況だ。
一人でも多くの怪我人を助ける、それが医師としてのつとめ。
幸い、戦いが始まってまもなくやってきた避難民たちはそれなりに状態も回復し、部族同士の伝手を頼って逃げることが可能になっている。
一部の民は残ると言うことだが、これはホープでゲルタやハンターたちの手伝いをしたいと志願した者だった。なかには子どもも含まれていたが、この際それに何かをいうのも野暮だろう。
ハンターズソサエティにも既に連絡はした。
あとは――自分の出来ることを、やるまでだ。
「……歪虚がマギア砦からさらに南下ですって!?」
連絡を受けたゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)は驚愕の声を上げざるをえなかった。
マギア砦での籠城戦が終わってまだ数えるほどしか日にちはたっていない。
しかしその戦いで払った犠牲はあまりにも大きく、マギア砦は手放さざるをえない状況に追いやられた。
そして今、もしその軍勢が更にナナミ川を突破してきたら――この希望に溢れているはずの開拓地『ホープ』も、失ってしまうことになってしまうかも知れない。
(どうか、この地が蹂躙されることのないように――)
彼女は医師であり、神頼みなどには縁遠い。しかし、今は祈りたかった。
いや、――祈るしか出来なかった。
●
歪虚に対抗するための勢力は、各地から呼応するように呼び寄せられているらしい。
特に、前回のこともあってかCAMの投入もあるとかないとか、それだけでハンターから噂を聞いたホープの避難民たちは大きな安堵のため息をついたものである。
「ハンターがきっと歪虚を何とかしてくれる――」
それは小さな光明に違いなかった。
しかしそうなれば、ある意味当然かもしれないが発生するのは前線での負傷者への対応についての問題だ。
誰も傷を負わずして、戦いが終わることなどあり得ない。
かといって負傷者をそこにとどめ置くわけにも行かず、それなれば。
それとほぼ時を同じくして、一通の手紙がホープのゲルタの元へ届けられた。
差出人をみて、ゲルタはわずかに驚く――そこにあったのは、辺境ユニオン『ガーディナ』のリーダー・リムネラ(kz0018)だったからだ。
『親愛なるホープの医師殿
マギア砦籠城戦のあとも息つく暇がないでしょうが
どうかさしのべられるすべての存在へ
貴方の手をさしのべてあげてください』――
リムネラの手紙は簡潔、しかし心を揺さぶる。
「……わかりました」
メガネをきっとかけ直すと、ゲルタは行動に移った。
その日、ホープにほど近くまで逃げてきた、怪我を負ったハンターや部族の民を更に受け入れる、と彼女は宣言した。
場所の問題はもちろんあるが、何しろそうも言っていられない状況だ。
一人でも多くの怪我人を助ける、それが医師としてのつとめ。
幸い、戦いが始まってまもなくやってきた避難民たちはそれなりに状態も回復し、部族同士の伝手を頼って逃げることが可能になっている。
一部の民は残ると言うことだが、これはホープでゲルタやハンターたちの手伝いをしたいと志願した者だった。なかには子どもも含まれていたが、この際それに何かをいうのも野暮だろう。
ハンターズソサエティにも既に連絡はした。
あとは――自分の出来ることを、やるまでだ。
リプレイ本文
●
マギア砦を失ってまだ間もないが、歪虚の攻撃は休む暇も与えてくれない。
開拓地『ホープ』には、あちこちで戦ったハンターたちが治療のために訪れてくる。
医者として、人間として。
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)は、見過ごせるはずもなかった。
「久しぶり……と言うには時間が経っていないが」
先日も支援でホープを訪れていたレイス(ka1541)がそう言うと、エイル・メヌエット(ka2807)もわずかに顔をしかめつつ、
「余り良い状況ではないようね」
そう言って軽く見渡した。人が溢れんばかりの前回に比べれば、収容人数自体は減っている。しかし、その内訳は負傷ハンターの方がやや多い。
「さっそくチェックに取りかかりましょうか」
エイルが言いながら白衣をバサリとはおると、すっと出てきた子どもがいた。見覚えのある中性的な面差しは、以前避難民として逃れていたファナという子どもだ。どうやら今はゲルタの助手のようなことをしているらしく、上着に白衣を着用している。元気そうで何よりだ、とエイルは微笑んだ。
「この間はありがとうございました」
きちんとした受け答えが出来るようになったのも、ハンターたちのおかげだろう。
「とはいえ再会を喜んでいる暇はないね。過酷だろうけど、頑張らないといけませんから」
ノーマン・コモンズ(ka0251)が頷くと、誰もがそれに呼応した。
これからの一週間は、きっと前回参加した人でもその差をはっきりと感じられるくらいの違いがあるだろう。それでも、救うべき人は出来る限り救ってやりたい。
それがこの場にいる理由なのだから――。
「そういえば、魔導トラックとかを借り受けることは出来るか? 怪我人の搬送に使おうと思うんだが」
提案をしたのは本業が薬師であるエアルドフリス(ka1856)。壊滅した故郷を去って早十余年、一人で生きるための知識と技術を携えて変更に戻ってきたと言うことに小さな感慨を覚えていた。
今回が緊急事態だというのは帝国も把握している状況なので、ゲルタは直ちに要塞都市へその手配を願い出た。
「使えるものは何でも使わなくちゃね」
ゲルタはわずかに微笑む。その表情は、以前よりやややつれて見えた。
「あと、この場所に歪虚や雑魔が来ても危ないよね! ヒヨね、見張りとかも出来たら良いなって思うの!」
そう言って拳を握る少女はヒヨス・アマミヤ(ka1403)、孤児だったこともあってか自分の居場所を求めてあちこちで依頼をこなしているらしい。トランシーバーを持って情報交換は任せてとばかりに笑う。
「そうだね、ここがもし襲撃されたら……笑えない。これもある意味、戦い、なのよね」
ぽつりぽつりと言葉少なに、しかししっかりと言うのはリリア・ノヴィドール(ka3056)。彼女はここに来る前に相談していた内容をメモしていたらしく、それをゲルタに見せた。
「ええと、見張りのシフト予定……?」
物見櫓から敵を視認するためにも、必ず一人はそこに常駐しておきたいところ。その内容については事前に相談をしていたのだ。とは言っても、状況的に身体が空きにくい医療中心のメンバーを除いた五人ほど。見張りが一人では心許なく感じる人もいるかも知れないが、もともとここまで攻め込んでくるとなればそれはこの辺興じたいがかなりの窮地に立たされている状態に違いなく、そしてそれを阻止するべく多くのハンターがナナミ川付近で歪虚と戦っていることを考えれば、防衛を中心に考えるよりも支援を中心に考えるのが筋が通っているとは言えた。
ここには歪虚の影響で行き場を失った辺境の住民や、傷を負ったハンターたちも多く存在している。支援を徹底しなければ、彼らの未来もあり得ない。
「零れ落ちる命は出来る限り掬い上げてみせる……!」
静かな情熱を秘め、レイスがそう呟いた。
●
レイスがあらかじめホープ近辺の集落などの情報を収集して地図にしてくれたのを確認したが、とりあえずこれ以上の部族単位の大きな被害の出る可能性は低そうだ。無論例外は存在するだろうが、現状を考えるにこの地域に来ている部族はそう無いだろう。
「この地図だけでもずいぶん助かるわ」
ゲルタが目を細める。もともと彼女は部族社会の習俗習俗にも興味を示していたため、周辺地域で失われかねない部族がないだけでもほっとしたようだ。
怪我人のトリアージも順調に進む。……前回よりも黄色や赤の多い結果となったのは、それだけ激戦をくぐり抜けてきた結果なのだろう、医療班の一人であるルナ・レンフィールド(ka1565)もさすがに少しばかり困惑した表情を浮かべた。普段ポジティブな彼女にしては珍しいだろうが、それだけ事態は逼迫している――ピュアウォーターで水を浄化しながら、
(でも私たちが不安な顔を見せたら避難している人はもっと不安になっちゃう……笑顔笑顔!)
そう切り替えて、ぱんっと頬を軽くたたく。
医療班は基本軍医であるゲルタ、医術の心得があるハンターのエイルとエアルドフリス、そしてその補佐としてのルナという位置づけだが、リムネラ(kz0018)の呼びかけもあって部族の民からもサポートがある。これはありがたい話だった。医療知識などの差異こそあるが、それも意図をきちんと伝えれば理解してくれる。辺境と言っても知識レベルの大きな差は無いので、きちんと道理が通れば受け入れられるのだ。
「情報の管理と伝達などはこちらでも対処する、任せてくれ」
そう言ってトランシーバーをチューニングするのはレシュ・フィラー(ka3600)、執事のフィリーネ=ウェイランド(ka3599)――普段は男のなりをして名前もフィルと呼ばせている――を伴っての参加であったが、良家出身と言うことはとりあえず今回は二の次、適材適所という言葉の通りに得意とすることを中心に行う。相棒ともいえるフィルや仲間たちに短伝話とトランシーバーを駆使してこまめに連絡を入れ、周囲からの情報を纏めた上で指示を出す。
フィルのことを心配しているきらいがあるのは、彼女の、レシュを何よりも最優先してしまう性格を熟知しているせいだろう。
実際、集落は付近にないとはわかっているが、ナナミ川付近での戦いに参加し、負傷したハンターや部族民はそれなりの量がいる。ねずみ算式に増えていく――と言うほどではないが、周辺の情報把握と怪我人の輸送は彼らがすべきことに違いなかった。足を怪我したり等で自力で動くのも難しい状態にある人は、レシュが集めてくれた情報を頼りに、瞬脚を使えるノーマンが自力でだったり、エアルドフリスが運転する魔導トラックでフィルを伴い、運び込んだりしてくる。
最初は三十人ほどだった避難民・怪我人も、気がつけば五十人ほどにまで増えていた。
やることはまだまだありそうだ。
●
「ご飯も作らないと、元気が出ないよね!」
ヒヨスはそう言いながらおにぎりやサンドイッチなど、食器を使わずに食べられる軽食類を準備して避難民たちに振る舞う。
「お腹がすくと戦にならないとか、そう言う諺もあるでしょ!」
差し出された食事をありがたく受け取って食べる人々の姿を見て、ヒヨスも何となく嬉しくなる。無論これだけではとうてい足りぬので、ルナやフィルが中心となって炊き出しの手伝いをすることにもなった。
人数が結構いること、食事を満足にとれない人も中にはいること、そんなわけで一人で炊き出しを行うのは基本的に困難だ。温かな汁物を振る舞えば、ありがたいと涙を流す怪我人もいた。戦場での状況は人類側優勢らしいとは聞こえているが、食事面までフォロー出来るかというとそう言うわけではない。その代わりというとなんだが、このホープは守るべき拠点であり、ここに来れば食べものももらえる、治療もしてもらえる――と言うことが少しずつでも伝われば、このホープという場所の重要性も徐々にであるが上がっていくだろう。それも彼らの狙いの一つであった。人は「頼れる場所」をどうしても求める存在なのだから。
また、物見櫓からの観察も怠っているわけではない。
一日当たり三人が交代になって監視役をつとめ、歪虚が近づいていないかを注意深く観察する。疲れる作業ではあるが用心に越したことはない。これが避難民たちの心をどれだけ安らかにしたか、安心して眠ることの出来る環境作りというのは本当に大切なのだ。
そう言う意味では、緊張した戦いの場というのは平穏な日常に改めて感謝の気持ちを持てる場所なのかも知れない。
●
レシュの情報処理能力は優秀だった。
特に必要な情報に順位付けをして公開をしたのだ。無論定時連絡というのも欠かすことがない。
基本的に彼の情報は人命救助優先。怪我人の人数や状況を最優先とし、治療についての情報、そして怪我の心配の薄い避難民の状況把握――こうきちんと決めて作業にかかれば、揺らぐものもなく情報をまとめ上げることが出来る。
今回はホープに常駐する以外にも、周囲の状況を確認するためだったり、怪我人の搬送のためだったり、拠点となるホープを一時的でも離れる人は何人かいる。彼らからもらえる情報も鑑みて、必要な情報をピックアップする――なかなか出来る行動ではない。
「そういえば」
今日運んできた負傷者からの情報だけれど、とノーマンが語る。
「予想以上に人類側優勢みたいですよ。怪我人の数は勿論増えるかも知れないけれど、これ以上ひどい負傷者は減ってくるかも」
「まだ情勢が不安定だから確定情報ではないけど、それは助かるな」
レシュも頷く。外部からの受け入れが減少傾向にあれば、しぜんホープの中での活動を活発に出来るからだ。
「あとはこの中での諍いなどが起きないように気を付けないとですね」
ノーマンはそう言って頷く。内部で負傷者が増えてはしゃれにならないのだから。
「そうだな……フィラーが情報を纏めてくれるおかげで大分助かっている。避難民からも情報を募っているが、このあたりはまだ大丈夫そうだ」
レイスもあちこちで情報収集した上で、何度も地図を更新していた。これも周辺の状況を把握するのにずいぶん役立っている。
「あと、あのファナという子だが。今回の避難民にも聞いてみたが、相変わらずだな」
前回訪れた時に出会った子ども――ファナ。素性がなかなか割り出せないが、そうやって気を配っている人がいるだけでもずいぶんありがたい話だった。
「ファナはかわいいのよね。まるで生まれたてのひよこみたいに、なついた人について回っているから……ゲルタさんに懐いているのも、それがあるみたい。うちの犬とも遊んでくれるし、年齢相応よね」
エイルもそんなことを言ってくすりと笑う。不足しがちな医療品についてはユニオン経由で頼み込んだし、負傷状態のひどい人にはヒールを使ったりもして、手を抜くことはしない。
「ブトゥ族の方にも状況は説明しているし、万が一の時にも大丈夫よ」
もし歪虚がここまで押し寄せてきても、避難民が優先的に逃げられるように、あらかじめ作戦はしっかり立ててきた。既に腹は据わっている。
●
医療現場はやや混乱していた。
エイルやゲルタ、搬送の必要の無い時はエアルドフリス、そしてルナや辺境住民有志の力もあるが、何しろ規模が大きい。
ブトゥ族の避難民には偶然薬師も混じっていたが、軽い怪我ですんだらしい。エアルドフリスはそれを聞いて協力を頼み込むと、その薬師は一瞬悩んだようだったが頷いてくれた。怪我を負った状態なので、治療出来るのは一部に限られてしまうが、それでも医療の心得がある人物が加わるのはありがたい話だった。
また、ホープの避難民――特に幼い子ども――が飽きることのないよう、ペットをつれている人も少なくなかった。リアルブルーで言うアニマルセラピーである。心身の健全化を図るのに、動物とのふれあいは必要だろう。
まだ幼さの残るヒヨスは自ら子どもたちの輪に加わり、遊び相手もつとめる。笑顔になれば痛いのも辛いのも飛んでしまうから――それで幸せになれると信じているから、彼女は遊ぶのだ。力の限り。
また、食事のあとにはルナがリュートを奏で、避難民たちの心を明るくしようと努力する。
(さあ、奏でましょう――希望の光はこんなにも輝いているのだから、大丈夫)
ルナはつま弾く時、自分に、周囲に、そう言い聞かせている。音楽の力を信じているのだ、人の癒やしになるようにと。
それが通じたのだろうか。
はじめこそ沈んだ顔をした人の多い環境だったホープが、日に日に笑顔を取り戻していった。
心の栄養も、やはり必要なのだ。
また、フィルらが途中で運び込んだ負傷者も、確実に回復をしていた。
「ホープに行けば、きちんとした治療を受けられる」
そう言って運び込んだ負傷者たち――彼らも温かい食事と寝床、そして献身的な治療のおかげで精神的にも落ち着いてきたようだ。
「でも、レシュ様の情報管理がしっかりしているから、僕の力も役立ているのです」
そう思えばこそ、フィルは主であるレシュの存在を頼もしく思えるのだった。
●
一週間なんてそうなればあっという間だ。
「早いものだな」
レイスの言葉はどこか悔しげな響きが混じる。
「本当ならもっと長期滞在して欲しいのはこっちも同様なんだけれど、約束だしね。それに、ハンターをとどめおき続けるわけにも行かないでしょ」
ゲルタはからからと笑った。
はじめに行われたトリアージの方も、今は緑のリボン――軽傷者の方が多い状態だ。本当にひどい状態の人は早めにもっとしっかりした施設のある場所に運び込んだし、出来る限りのフォローをしたおかげで負傷者自体も減っていた。
「今回もありがとう。ハンターの人たちに頼んで本当によかった」
ゲルタが感謝の言葉を述べると、ハンターたちは照れくさそうに微笑む。
「これ、万が一の事態のための逃走経路です。もっとも、もう必要はなさそうだけれど」
戦いは優勢のまま終わりを迎えそうなのがおおよそ理解出来る状況だった。リリアが差し出した紙を見て、ゲルタは改めて礼を言う。
「もしものことがあったら、使わせてもらうね。だから、大切にする」
そしてゲルタは改めて語気を強めた。
「だから、あなたたちも決して死なないように。あななたちが助けた人が、悲しむから」
ヒヨスが、もちろんとばかりに頷く。
「うん、またヒヨたちに出来ることがあったら、言ってね!」
それはどのハンターもきっと同じ思いだろう。
「あと、ファナだけど……やっぱり、私が引き取る。なんて言うのかな、妹が出来たみたいで」
ゲルタは最後にそんなことを言ってみると、側にいたファナの方はわずかに顔を赤らめた。
希望の地は守られた。
さらなる希望を、胸に秘めて。
そして、辺境に欠かせぬ地となるだろう。きっと。
マギア砦を失ってまだ間もないが、歪虚の攻撃は休む暇も与えてくれない。
開拓地『ホープ』には、あちこちで戦ったハンターたちが治療のために訪れてくる。
医者として、人間として。
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)は、見過ごせるはずもなかった。
「久しぶり……と言うには時間が経っていないが」
先日も支援でホープを訪れていたレイス(ka1541)がそう言うと、エイル・メヌエット(ka2807)もわずかに顔をしかめつつ、
「余り良い状況ではないようね」
そう言って軽く見渡した。人が溢れんばかりの前回に比べれば、収容人数自体は減っている。しかし、その内訳は負傷ハンターの方がやや多い。
「さっそくチェックに取りかかりましょうか」
エイルが言いながら白衣をバサリとはおると、すっと出てきた子どもがいた。見覚えのある中性的な面差しは、以前避難民として逃れていたファナという子どもだ。どうやら今はゲルタの助手のようなことをしているらしく、上着に白衣を着用している。元気そうで何よりだ、とエイルは微笑んだ。
「この間はありがとうございました」
きちんとした受け答えが出来るようになったのも、ハンターたちのおかげだろう。
「とはいえ再会を喜んでいる暇はないね。過酷だろうけど、頑張らないといけませんから」
ノーマン・コモンズ(ka0251)が頷くと、誰もがそれに呼応した。
これからの一週間は、きっと前回参加した人でもその差をはっきりと感じられるくらいの違いがあるだろう。それでも、救うべき人は出来る限り救ってやりたい。
それがこの場にいる理由なのだから――。
「そういえば、魔導トラックとかを借り受けることは出来るか? 怪我人の搬送に使おうと思うんだが」
提案をしたのは本業が薬師であるエアルドフリス(ka1856)。壊滅した故郷を去って早十余年、一人で生きるための知識と技術を携えて変更に戻ってきたと言うことに小さな感慨を覚えていた。
今回が緊急事態だというのは帝国も把握している状況なので、ゲルタは直ちに要塞都市へその手配を願い出た。
「使えるものは何でも使わなくちゃね」
ゲルタはわずかに微笑む。その表情は、以前よりやややつれて見えた。
「あと、この場所に歪虚や雑魔が来ても危ないよね! ヒヨね、見張りとかも出来たら良いなって思うの!」
そう言って拳を握る少女はヒヨス・アマミヤ(ka1403)、孤児だったこともあってか自分の居場所を求めてあちこちで依頼をこなしているらしい。トランシーバーを持って情報交換は任せてとばかりに笑う。
「そうだね、ここがもし襲撃されたら……笑えない。これもある意味、戦い、なのよね」
ぽつりぽつりと言葉少なに、しかししっかりと言うのはリリア・ノヴィドール(ka3056)。彼女はここに来る前に相談していた内容をメモしていたらしく、それをゲルタに見せた。
「ええと、見張りのシフト予定……?」
物見櫓から敵を視認するためにも、必ず一人はそこに常駐しておきたいところ。その内容については事前に相談をしていたのだ。とは言っても、状況的に身体が空きにくい医療中心のメンバーを除いた五人ほど。見張りが一人では心許なく感じる人もいるかも知れないが、もともとここまで攻め込んでくるとなればそれはこの辺興じたいがかなりの窮地に立たされている状態に違いなく、そしてそれを阻止するべく多くのハンターがナナミ川付近で歪虚と戦っていることを考えれば、防衛を中心に考えるよりも支援を中心に考えるのが筋が通っているとは言えた。
ここには歪虚の影響で行き場を失った辺境の住民や、傷を負ったハンターたちも多く存在している。支援を徹底しなければ、彼らの未来もあり得ない。
「零れ落ちる命は出来る限り掬い上げてみせる……!」
静かな情熱を秘め、レイスがそう呟いた。
●
レイスがあらかじめホープ近辺の集落などの情報を収集して地図にしてくれたのを確認したが、とりあえずこれ以上の部族単位の大きな被害の出る可能性は低そうだ。無論例外は存在するだろうが、現状を考えるにこの地域に来ている部族はそう無いだろう。
「この地図だけでもずいぶん助かるわ」
ゲルタが目を細める。もともと彼女は部族社会の習俗習俗にも興味を示していたため、周辺地域で失われかねない部族がないだけでもほっとしたようだ。
怪我人のトリアージも順調に進む。……前回よりも黄色や赤の多い結果となったのは、それだけ激戦をくぐり抜けてきた結果なのだろう、医療班の一人であるルナ・レンフィールド(ka1565)もさすがに少しばかり困惑した表情を浮かべた。普段ポジティブな彼女にしては珍しいだろうが、それだけ事態は逼迫している――ピュアウォーターで水を浄化しながら、
(でも私たちが不安な顔を見せたら避難している人はもっと不安になっちゃう……笑顔笑顔!)
そう切り替えて、ぱんっと頬を軽くたたく。
医療班は基本軍医であるゲルタ、医術の心得があるハンターのエイルとエアルドフリス、そしてその補佐としてのルナという位置づけだが、リムネラ(kz0018)の呼びかけもあって部族の民からもサポートがある。これはありがたい話だった。医療知識などの差異こそあるが、それも意図をきちんと伝えれば理解してくれる。辺境と言っても知識レベルの大きな差は無いので、きちんと道理が通れば受け入れられるのだ。
「情報の管理と伝達などはこちらでも対処する、任せてくれ」
そう言ってトランシーバーをチューニングするのはレシュ・フィラー(ka3600)、執事のフィリーネ=ウェイランド(ka3599)――普段は男のなりをして名前もフィルと呼ばせている――を伴っての参加であったが、良家出身と言うことはとりあえず今回は二の次、適材適所という言葉の通りに得意とすることを中心に行う。相棒ともいえるフィルや仲間たちに短伝話とトランシーバーを駆使してこまめに連絡を入れ、周囲からの情報を纏めた上で指示を出す。
フィルのことを心配しているきらいがあるのは、彼女の、レシュを何よりも最優先してしまう性格を熟知しているせいだろう。
実際、集落は付近にないとはわかっているが、ナナミ川付近での戦いに参加し、負傷したハンターや部族民はそれなりの量がいる。ねずみ算式に増えていく――と言うほどではないが、周辺の情報把握と怪我人の輸送は彼らがすべきことに違いなかった。足を怪我したり等で自力で動くのも難しい状態にある人は、レシュが集めてくれた情報を頼りに、瞬脚を使えるノーマンが自力でだったり、エアルドフリスが運転する魔導トラックでフィルを伴い、運び込んだりしてくる。
最初は三十人ほどだった避難民・怪我人も、気がつけば五十人ほどにまで増えていた。
やることはまだまだありそうだ。
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「ご飯も作らないと、元気が出ないよね!」
ヒヨスはそう言いながらおにぎりやサンドイッチなど、食器を使わずに食べられる軽食類を準備して避難民たちに振る舞う。
「お腹がすくと戦にならないとか、そう言う諺もあるでしょ!」
差し出された食事をありがたく受け取って食べる人々の姿を見て、ヒヨスも何となく嬉しくなる。無論これだけではとうてい足りぬので、ルナやフィルが中心となって炊き出しの手伝いをすることにもなった。
人数が結構いること、食事を満足にとれない人も中にはいること、そんなわけで一人で炊き出しを行うのは基本的に困難だ。温かな汁物を振る舞えば、ありがたいと涙を流す怪我人もいた。戦場での状況は人類側優勢らしいとは聞こえているが、食事面までフォロー出来るかというとそう言うわけではない。その代わりというとなんだが、このホープは守るべき拠点であり、ここに来れば食べものももらえる、治療もしてもらえる――と言うことが少しずつでも伝われば、このホープという場所の重要性も徐々にであるが上がっていくだろう。それも彼らの狙いの一つであった。人は「頼れる場所」をどうしても求める存在なのだから。
また、物見櫓からの観察も怠っているわけではない。
一日当たり三人が交代になって監視役をつとめ、歪虚が近づいていないかを注意深く観察する。疲れる作業ではあるが用心に越したことはない。これが避難民たちの心をどれだけ安らかにしたか、安心して眠ることの出来る環境作りというのは本当に大切なのだ。
そう言う意味では、緊張した戦いの場というのは平穏な日常に改めて感謝の気持ちを持てる場所なのかも知れない。
●
レシュの情報処理能力は優秀だった。
特に必要な情報に順位付けをして公開をしたのだ。無論定時連絡というのも欠かすことがない。
基本的に彼の情報は人命救助優先。怪我人の人数や状況を最優先とし、治療についての情報、そして怪我の心配の薄い避難民の状況把握――こうきちんと決めて作業にかかれば、揺らぐものもなく情報をまとめ上げることが出来る。
今回はホープに常駐する以外にも、周囲の状況を確認するためだったり、怪我人の搬送のためだったり、拠点となるホープを一時的でも離れる人は何人かいる。彼らからもらえる情報も鑑みて、必要な情報をピックアップする――なかなか出来る行動ではない。
「そういえば」
今日運んできた負傷者からの情報だけれど、とノーマンが語る。
「予想以上に人類側優勢みたいですよ。怪我人の数は勿論増えるかも知れないけれど、これ以上ひどい負傷者は減ってくるかも」
「まだ情勢が不安定だから確定情報ではないけど、それは助かるな」
レシュも頷く。外部からの受け入れが減少傾向にあれば、しぜんホープの中での活動を活発に出来るからだ。
「あとはこの中での諍いなどが起きないように気を付けないとですね」
ノーマンはそう言って頷く。内部で負傷者が増えてはしゃれにならないのだから。
「そうだな……フィラーが情報を纏めてくれるおかげで大分助かっている。避難民からも情報を募っているが、このあたりはまだ大丈夫そうだ」
レイスもあちこちで情報収集した上で、何度も地図を更新していた。これも周辺の状況を把握するのにずいぶん役立っている。
「あと、あのファナという子だが。今回の避難民にも聞いてみたが、相変わらずだな」
前回訪れた時に出会った子ども――ファナ。素性がなかなか割り出せないが、そうやって気を配っている人がいるだけでもずいぶんありがたい話だった。
「ファナはかわいいのよね。まるで生まれたてのひよこみたいに、なついた人について回っているから……ゲルタさんに懐いているのも、それがあるみたい。うちの犬とも遊んでくれるし、年齢相応よね」
エイルもそんなことを言ってくすりと笑う。不足しがちな医療品についてはユニオン経由で頼み込んだし、負傷状態のひどい人にはヒールを使ったりもして、手を抜くことはしない。
「ブトゥ族の方にも状況は説明しているし、万が一の時にも大丈夫よ」
もし歪虚がここまで押し寄せてきても、避難民が優先的に逃げられるように、あらかじめ作戦はしっかり立ててきた。既に腹は据わっている。
●
医療現場はやや混乱していた。
エイルやゲルタ、搬送の必要の無い時はエアルドフリス、そしてルナや辺境住民有志の力もあるが、何しろ規模が大きい。
ブトゥ族の避難民には偶然薬師も混じっていたが、軽い怪我ですんだらしい。エアルドフリスはそれを聞いて協力を頼み込むと、その薬師は一瞬悩んだようだったが頷いてくれた。怪我を負った状態なので、治療出来るのは一部に限られてしまうが、それでも医療の心得がある人物が加わるのはありがたい話だった。
また、ホープの避難民――特に幼い子ども――が飽きることのないよう、ペットをつれている人も少なくなかった。リアルブルーで言うアニマルセラピーである。心身の健全化を図るのに、動物とのふれあいは必要だろう。
まだ幼さの残るヒヨスは自ら子どもたちの輪に加わり、遊び相手もつとめる。笑顔になれば痛いのも辛いのも飛んでしまうから――それで幸せになれると信じているから、彼女は遊ぶのだ。力の限り。
また、食事のあとにはルナがリュートを奏で、避難民たちの心を明るくしようと努力する。
(さあ、奏でましょう――希望の光はこんなにも輝いているのだから、大丈夫)
ルナはつま弾く時、自分に、周囲に、そう言い聞かせている。音楽の力を信じているのだ、人の癒やしになるようにと。
それが通じたのだろうか。
はじめこそ沈んだ顔をした人の多い環境だったホープが、日に日に笑顔を取り戻していった。
心の栄養も、やはり必要なのだ。
また、フィルらが途中で運び込んだ負傷者も、確実に回復をしていた。
「ホープに行けば、きちんとした治療を受けられる」
そう言って運び込んだ負傷者たち――彼らも温かい食事と寝床、そして献身的な治療のおかげで精神的にも落ち着いてきたようだ。
「でも、レシュ様の情報管理がしっかりしているから、僕の力も役立ているのです」
そう思えばこそ、フィルは主であるレシュの存在を頼もしく思えるのだった。
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一週間なんてそうなればあっという間だ。
「早いものだな」
レイスの言葉はどこか悔しげな響きが混じる。
「本当ならもっと長期滞在して欲しいのはこっちも同様なんだけれど、約束だしね。それに、ハンターをとどめおき続けるわけにも行かないでしょ」
ゲルタはからからと笑った。
はじめに行われたトリアージの方も、今は緑のリボン――軽傷者の方が多い状態だ。本当にひどい状態の人は早めにもっとしっかりした施設のある場所に運び込んだし、出来る限りのフォローをしたおかげで負傷者自体も減っていた。
「今回もありがとう。ハンターの人たちに頼んで本当によかった」
ゲルタが感謝の言葉を述べると、ハンターたちは照れくさそうに微笑む。
「これ、万が一の事態のための逃走経路です。もっとも、もう必要はなさそうだけれど」
戦いは優勢のまま終わりを迎えそうなのがおおよそ理解出来る状況だった。リリアが差し出した紙を見て、ゲルタは改めて礼を言う。
「もしものことがあったら、使わせてもらうね。だから、大切にする」
そしてゲルタは改めて語気を強めた。
「だから、あなたたちも決して死なないように。あななたちが助けた人が、悲しむから」
ヒヨスが、もちろんとばかりに頷く。
「うん、またヒヨたちに出来ることがあったら、言ってね!」
それはどのハンターもきっと同じ思いだろう。
「あと、ファナだけど……やっぱり、私が引き取る。なんて言うのかな、妹が出来たみたいで」
ゲルタは最後にそんなことを言ってみると、側にいたファナの方はわずかに顔を赤らめた。
希望の地は守られた。
さらなる希望を、胸に秘めて。
そして、辺境に欠かせぬ地となるだろう。きっと。
依頼結果
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ゲルタ嬢に質問 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/02/23 13:41:54 |
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希望を繋ぐ為に【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/02/26 23:53:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/22 22:44:47 |