ゲスト
(ka0000)
【不動】同盟軍怠惰包囲作戦・戦線維持
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/28 19:00
- 完成日
- 2015/03/09 05:24
みんなの思い出
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オープニング
●
CAM実験場の一角に設置された、同盟軍の天幕にて。
若き英傑、自由都市同盟軍の最高司令官――ブルーノ・ジェンマ元帥は、腕組みをして一つ頷いた。
「最終確認だ。モデスト少将、頼む」
「はっ」
同盟海軍のモデスト・サンテ少将はさっと手を上げ、部下に地図を広げさせた。
現状、手持ちの戦力を正面からぶつける余裕はない。そのため、少々変則的な奇襲作戦を取ることになった。
同盟軍はCAM故障機体の退避を装い、CAM実験場から東部へ向けて輸送を開始する。行く先には同盟軍の船舶が停泊し、これを待つ準備も整えている。
無論、これはフェイクだ。実際はCAM全機が稼動可能で、特機隊の隊員が搭乗した状態で幌がかけられているだけである。
CAMの護衛を装った海軍は、途中で輸送隊を離れ、敵の包囲を担うために北西へと向かう。怠惰の軍を包囲網の一翼を担い、戦線の維持するという過酷を極める任務だ。CAM輸送隊は時機を見て東進を止め、包囲陣を形成する海軍と合流し、包囲した敵部隊を急襲、撃破する。
ハンターにはCAM輸送隊が反転した後の随伴、海軍と連携して敵包囲陣を維持、そして包囲陣から少し離れた南東に位置する岩陰に潜伏し、CAMと合流した後に伏兵として出現するという3つの任務が与えられていた。
要はCAMを戦力の中核に据えた、一点突破からの殲滅作戦である。
「本作戦の有効度は、防衛戦の状況如何で変化する。これは奇策だ。防衛線が大きく後退した場合は致命的な状況に陥るかもしれん」
「このモデスト、身命を賭しても戦線を維持する所存!」
その熊の如き巨体から声を張って、モデストは宣言した。
包囲陣の維持は、海軍が担当。指揮官はモデスト少将だ。
「ダニエル中佐、特機隊はどうだ」
ブルーノの問いかけに、彼は普段通りヘラリと笑った。
「バッチシです。機体も十全、ジーナ軍曹もヴィオ大尉も気力横溢、まったく頼もしい限りです」
同盟陸軍特殊機体操縦部隊――通称「特機隊」。その隊長、ダニエル・コレッティ中佐。
普段は昼行灯と揶揄される飄々とした男だが、その実、無能の対極に位置する人間だ。
「後は……最後の一人の調子、ですかね?」
それを聞き、誰かが「ちっ」と舌を打つ。
ダニエルはニヤニヤ笑って、そちらに顔を向けた。
モデスト少将の後ろに控える部下だ。美女ではあるが、気難しく刺のある性格が顔に出ている。
同盟海軍の白い制服に身を包んだ黒髪黒目の彼女は、露骨に嫌そうな顔をしてダニエルを見た。
「ディアナ大尉、訓練結果はどうだい?」
彼女の名は、ディアナ・クリティア・フェリックスという。
元同盟軍の元帥、イザイア・バッシ名誉大将が開いた『黒狐塾』という精鋭養成機関がある。
年は離れているが、ダニエルとディアナはそこの同期だ。
同盟陸軍は海軍に比して貧弱であり、イザイアはその補強を図って塾を開いた。
わけても彼女は、ある種の分野でずば抜けた才を発揮した女傑『だった』。
「……上々です。どこかの昼行灯がサボりの名目に私を使わなければ、完璧に仕上げられたかと」
「完璧ってわけね。あと、俺サボったことないよぉ?」
ディアナは右手に握った杖で床をトンと突き、彼を無視するようにして元帥の方へ向き直った。
彼女は傷痍軍人である。
かつて元陸軍の精鋭であった彼女は戦闘中に右脚部を損傷し、一線を退いた。その後は師・イザイアの伝手で、モデスト少将の副官の補佐に落ち着いている。
「よし、ディアナ大尉。一時的な措置として、特機隊への編入を認める」
「はっ、了解しました」
実際には転属も決まってはいたが、今は兼任扱いとなった。
少し前から、ダニエルは少将の随伴で辺境に来ていたディアナを勧誘しており、双方とも承知の上である。
これを聞いたモデストは頭を掻く。
「君の皮肉が聞けなくなると寂しくなるな」
「私も不思議と寂しい気分です。少将が煮え湯を飲まされて悔しがる姿が見れなくなると思うと」
「前言撤回だ。どこへなりとも行ってしまえ!」
「では、そのように」
全くスラスラと回る弁舌だ。
彼女はダニエルを見て、大きく息を吸う。
決別せねばならなかった。或いは、期待を押し殺さねばならなかった。
時代がもう一度、己を戦場へと駆り立てるというのだから。
「ディアナ・フェリックス、これより同盟陸軍・特殊機体操縦部隊に合流します。隊長、ご命令を」
ダニエルはクスリと笑って、鞄を漁り始めた。
「じゃ、最初の任務」
差し出されたのは、黒い飾り羽根をつけた陸軍の黒帽。
かつての彼女のトレードマークだ。
ディアナはそれを受け取り、目深に被った時には既に――猛禽の目を取り戻していた。
満足気にそれを見て、ダニエルは両手を広げる。
「特機隊第3号隊員として、君を歓迎しよう。――おかえり、『黒羽根』」
ディアナ・クリティア・フェリックス。
かつて黒鴉と呼ばれた、天才狙撃手である。
●
今は歩行に支障はないとはいえ、杖持ちで戦場に出れるわけがない。
有望だった将来を怪我で閉ざしたディアナにとって、CAMパイロットは天啓ともいえた。
振り返らずにCAMへと向かっていった黒髪の女を思い返し、そこに佇む鋼鉄の巨人を見上げ、モデスト少将は兵を見る。
そして、彼の言葉を待つ多くの兵卒たちに熊の如き偉容を向け、大声を張った。
「作戦概要は既に知っているだろう。諸君、我々の役目は彼ら特機隊が最大限に活動できるよう、場を整えることだ」
ずらりと整列した海軍兵卒たち。
そこに集められたのは、何もモデスト傘下の海兵ばかりではない。そこにはハンターもいた。
輸送台に乗せられたCAMたちを背に、少将は拳を握りしめる。
「危険な戦いになるだろう。敵は巨大にして強力。包囲し押し留めるなど、並大抵のことではない」
それだけではない。防衛戦の状況如何では、殲滅という方針を捨てて撤退する可能性さえあるのだ。
だが、と彼は叫ぶ。
「この作戦の要諦は、我らがどれだけ包囲網を維持できるかにかかっている!」
包囲が崩れてしまえば、その奥からやってくる特機隊はその対処に時間を食う。
混戦の中にCAMを放り込むわけにはいかない。
彼らが攻撃にのみ集中できる状況を作る。それが、この場の戦士たちの任務だ。
「我らが背には、我らの希望が芽吹かんとしている! 踏みにじられるなど! 断じて許してはならぬ!」
モデストはあらん限りの声と共に腕を振り上げた。
「――これより作戦を開始する! 進軍せよ! 総員、死力を尽くせぇっ!」
この鼓舞が皆の背を押すかのように、行軍が始まった。
CAM実験場の一角に設置された、同盟軍の天幕にて。
若き英傑、自由都市同盟軍の最高司令官――ブルーノ・ジェンマ元帥は、腕組みをして一つ頷いた。
「最終確認だ。モデスト少将、頼む」
「はっ」
同盟海軍のモデスト・サンテ少将はさっと手を上げ、部下に地図を広げさせた。
現状、手持ちの戦力を正面からぶつける余裕はない。そのため、少々変則的な奇襲作戦を取ることになった。
同盟軍はCAM故障機体の退避を装い、CAM実験場から東部へ向けて輸送を開始する。行く先には同盟軍の船舶が停泊し、これを待つ準備も整えている。
無論、これはフェイクだ。実際はCAM全機が稼動可能で、特機隊の隊員が搭乗した状態で幌がかけられているだけである。
CAMの護衛を装った海軍は、途中で輸送隊を離れ、敵の包囲を担うために北西へと向かう。怠惰の軍を包囲網の一翼を担い、戦線の維持するという過酷を極める任務だ。CAM輸送隊は時機を見て東進を止め、包囲陣を形成する海軍と合流し、包囲した敵部隊を急襲、撃破する。
ハンターにはCAM輸送隊が反転した後の随伴、海軍と連携して敵包囲陣を維持、そして包囲陣から少し離れた南東に位置する岩陰に潜伏し、CAMと合流した後に伏兵として出現するという3つの任務が与えられていた。
要はCAMを戦力の中核に据えた、一点突破からの殲滅作戦である。
「本作戦の有効度は、防衛戦の状況如何で変化する。これは奇策だ。防衛線が大きく後退した場合は致命的な状況に陥るかもしれん」
「このモデスト、身命を賭しても戦線を維持する所存!」
その熊の如き巨体から声を張って、モデストは宣言した。
包囲陣の維持は、海軍が担当。指揮官はモデスト少将だ。
「ダニエル中佐、特機隊はどうだ」
ブルーノの問いかけに、彼は普段通りヘラリと笑った。
「バッチシです。機体も十全、ジーナ軍曹もヴィオ大尉も気力横溢、まったく頼もしい限りです」
同盟陸軍特殊機体操縦部隊――通称「特機隊」。その隊長、ダニエル・コレッティ中佐。
普段は昼行灯と揶揄される飄々とした男だが、その実、無能の対極に位置する人間だ。
「後は……最後の一人の調子、ですかね?」
それを聞き、誰かが「ちっ」と舌を打つ。
ダニエルはニヤニヤ笑って、そちらに顔を向けた。
モデスト少将の後ろに控える部下だ。美女ではあるが、気難しく刺のある性格が顔に出ている。
同盟海軍の白い制服に身を包んだ黒髪黒目の彼女は、露骨に嫌そうな顔をしてダニエルを見た。
「ディアナ大尉、訓練結果はどうだい?」
彼女の名は、ディアナ・クリティア・フェリックスという。
元同盟軍の元帥、イザイア・バッシ名誉大将が開いた『黒狐塾』という精鋭養成機関がある。
年は離れているが、ダニエルとディアナはそこの同期だ。
同盟陸軍は海軍に比して貧弱であり、イザイアはその補強を図って塾を開いた。
わけても彼女は、ある種の分野でずば抜けた才を発揮した女傑『だった』。
「……上々です。どこかの昼行灯がサボりの名目に私を使わなければ、完璧に仕上げられたかと」
「完璧ってわけね。あと、俺サボったことないよぉ?」
ディアナは右手に握った杖で床をトンと突き、彼を無視するようにして元帥の方へ向き直った。
彼女は傷痍軍人である。
かつて元陸軍の精鋭であった彼女は戦闘中に右脚部を損傷し、一線を退いた。その後は師・イザイアの伝手で、モデスト少将の副官の補佐に落ち着いている。
「よし、ディアナ大尉。一時的な措置として、特機隊への編入を認める」
「はっ、了解しました」
実際には転属も決まってはいたが、今は兼任扱いとなった。
少し前から、ダニエルは少将の随伴で辺境に来ていたディアナを勧誘しており、双方とも承知の上である。
これを聞いたモデストは頭を掻く。
「君の皮肉が聞けなくなると寂しくなるな」
「私も不思議と寂しい気分です。少将が煮え湯を飲まされて悔しがる姿が見れなくなると思うと」
「前言撤回だ。どこへなりとも行ってしまえ!」
「では、そのように」
全くスラスラと回る弁舌だ。
彼女はダニエルを見て、大きく息を吸う。
決別せねばならなかった。或いは、期待を押し殺さねばならなかった。
時代がもう一度、己を戦場へと駆り立てるというのだから。
「ディアナ・フェリックス、これより同盟陸軍・特殊機体操縦部隊に合流します。隊長、ご命令を」
ダニエルはクスリと笑って、鞄を漁り始めた。
「じゃ、最初の任務」
差し出されたのは、黒い飾り羽根をつけた陸軍の黒帽。
かつての彼女のトレードマークだ。
ディアナはそれを受け取り、目深に被った時には既に――猛禽の目を取り戻していた。
満足気にそれを見て、ダニエルは両手を広げる。
「特機隊第3号隊員として、君を歓迎しよう。――おかえり、『黒羽根』」
ディアナ・クリティア・フェリックス。
かつて黒鴉と呼ばれた、天才狙撃手である。
●
今は歩行に支障はないとはいえ、杖持ちで戦場に出れるわけがない。
有望だった将来を怪我で閉ざしたディアナにとって、CAMパイロットは天啓ともいえた。
振り返らずにCAMへと向かっていった黒髪の女を思い返し、そこに佇む鋼鉄の巨人を見上げ、モデスト少将は兵を見る。
そして、彼の言葉を待つ多くの兵卒たちに熊の如き偉容を向け、大声を張った。
「作戦概要は既に知っているだろう。諸君、我々の役目は彼ら特機隊が最大限に活動できるよう、場を整えることだ」
ずらりと整列した海軍兵卒たち。
そこに集められたのは、何もモデスト傘下の海兵ばかりではない。そこにはハンターもいた。
輸送台に乗せられたCAMたちを背に、少将は拳を握りしめる。
「危険な戦いになるだろう。敵は巨大にして強力。包囲し押し留めるなど、並大抵のことではない」
それだけではない。防衛戦の状況如何では、殲滅という方針を捨てて撤退する可能性さえあるのだ。
だが、と彼は叫ぶ。
「この作戦の要諦は、我らがどれだけ包囲網を維持できるかにかかっている!」
包囲が崩れてしまえば、その奥からやってくる特機隊はその対処に時間を食う。
混戦の中にCAMを放り込むわけにはいかない。
彼らが攻撃にのみ集中できる状況を作る。それが、この場の戦士たちの任務だ。
「我らが背には、我らの希望が芽吹かんとしている! 踏みにじられるなど! 断じて許してはならぬ!」
モデストはあらん限りの声と共に腕を振り上げた。
「――これより作戦を開始する! 進軍せよ! 総員、死力を尽くせぇっ!」
この鼓舞が皆の背を押すかのように、行軍が始まった。
リプレイ本文
●
「総員、配置につけぇ――!」
指揮官であるモデスト・サンテ(kz0101)の号令と共に、屈強な海軍兵たちが軍用魔導銃を構える。
銃口の先には、迫り来る怠惰の軍勢。
「総勢は、おおよそ巨人二十に、雑魔が四十、三十か。想定通りだな」
防衛線に対し迂回を選択した歪虚を、同盟軍はここで抑えておかねばならない。
海軍五十名に加え、整列する中にはハンターたちの姿もあった。
「押し留める、時間を稼ぐ。数千数万数十万の為に十二の生贄を出す。計算式としちゃ元は取れるわな?」
「生贄とは聞き捨てならんな!」
龍崎・カズマ(ka0178)が皮肉げに笑うと、モデストは目敏く聞きつけて吠えた。
「たかだか二十とオマケで出来た軍勢などに、同盟軍が負けるはずがあるまい! 精強なるハンター諸君もそうだろう?」
カズマは肩を竦めた。
「必要なのはどれだけ邪魔を、嫌がらせが出来るかってとこだ」
ハンターたち十二人は、それぞれフォーマンセルを組み、中央・両翼に分かれて位置についていた。
「あー、怠惰なら怠惰らしく、ぐだぐだ寝ててくれりゃ、いーのに、です」
中央班、八城雪(ka0146)は上がる土煙を見てぼやき、カズマが鼻で笑う。
「戦場で都合の良い事なんぞ起きねーさ」
「だから戦場にくんな、っつー話、です」
雪は長柄の槌を肩に担いだ。
「いきなりの大仕事ですわね……」
緊張を適度なラインに保ちつつ、イレス・アーティーアート(ka4301)は馬上で待機。
「連絡は?」
「特にありませんわ」
クルス(ka3922)の問いかけに、イレスは簡潔に答える。
「もうぞろ作戦開始か」
「未熟な若輩の身なれど精一杯頑張ります!」
彼我の距離が狭まるにつれ、緊張も高まる。
所変わって右翼。
「さて、なかなかに厳しい状況だけど」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)は敵陣を見て呟いた。
「皆で力を合わせた作戦を、ここで失敗させる訳にはいかないしね?」
シェラリンデ(ka3332)が後を継ぐ。
(本当に戦いに出る事になるのは、やっぱりちょっとだけ、怖いけど……)
ミコト=S=レグルス(ka3953)は手の甲、鉤爪を撫でた。
「でも、ここはうちらが頑張らないとですよねっ」
ルドルフは彼女の肩をそっと叩いた。
「ミコ、無茶しないようにね?」
「勿論!」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は遠く土煙を上げる敵陣を見ていた。
「勝ちましょう。この戦いには、色々なものがかかってるから」
「ボクも、全力を尽くさせてもらうよ?」
「頑張りますっ!」
ミコトが突き出した拳に合わせて、四人は拳を打ち合わせた。
「結局、最前線とはねぇ。あーヤダヤダ」
左翼。鵤(ka3319)は気怠くタバコに火を付けた。
「鵤さん。あんたの命は、俺が守ります」
隣に控えるGacrux(ka2726)が律儀に答えた。
「そいつぁ楽でいいけどさぁ、そうも行かないっしょ、これ」
魔導拳銃の動作を確かめながら、彼はぼやく。
「戦線維持ですか……」
サクラ・エルフリード(ka2598)は難しい顔で唸った。
「なんとしても今の戦線は守って行きたい所ですね……」
「その為には、誰一人と欠けてはダメですよ」
Gacruxの言葉に、イチカ・ウルヴァナ(ka4012)が追随する。
「きっちり役割こなして、作戦成功させなね」
鵤は邪魔そうに盾を持ち上げると、トランシーバーを手に取った。
「さて、もうぞろ始まるらしいぜ?」
●
文字通りの嚆矢を放ったのは、怠惰の軍勢だ。
五体の弓兵が丸太のような矢を番え、巨大な弓を引き絞る。少数が放ったそれは弾幕というには程遠く。
「回避しろ! 潰されるぞ!」
攻城兵器に近かった。
地に突き立つ柱のような矢は巨躯故のもの。
「射程もボクより長いみたいだね?」
シェラリンデは放たれる弓兵に狙いを定める。続く第二射、前進した敵に合わせて弓を放った。
弓兵の頭に突き刺さった矢は弓兵の頭を強烈に揺らしたが、サイズが違いすぎる。人の矢では刺さるだけだ。
第二射が弓を射ったシェラリンデの側へと向けられる。海軍も含めてそれを飛び退いてかわす頃には、敵は突進を始めていた。
「モデストさん!」
「分かっているとも! 総員ッ! 構えぇいッ!」
ハンターの要請を受け、モデストの号令で海兵たちが魔導銃を構える。
狙いは、先陣を切る雑魔の群れ。
「撃てぇ――ッ!」
射程に入るとほぼ同時、モデストの号令とともに五十近い魔導銃が一斉に火を噴いた。
やってくる雑魔がばたばたとなぎ倒されていく。
「まずは掃除からだよねぇ」
左翼の鵤と右翼全員が遠距離攻撃を繰り出し、迫る雑魔の群れの数を減らしていく。
「まずは猪や猿を狙って! 陣形が崩れるのはまずいよ!」
「任せて」
ルーエルのホーリーライトに合わせてルドルフのデリンジャーが重ねられる。
「それっ!」
接近してきた猪をミコトの鉤爪が迎撃する。
雑魔の大部分は魔導銃の掃射によって討伐出来たらしく、残りは三分の一程度だった。それらも続く二射で続々と数を減らしていく。
だが、ここまでは前座だ。
「来たぞ! 巨人だ!」
巨体と怪力を併せ持つ怠惰の歪虚兵士たちが、攻勢を開始した。
「ふん、小癪な。そこは通してもらうぞ、人間共」
その巨躯を足止めするには数人がかりでなければならない。
「通れるもんなら通ってみいや」
言うが早いかの振り下ろしに対し、イチカは巨体へ潜り込むようにしてそれをかわし、返す刀でその腕を引き切った。
「でっかいしかったいわ、こいつ」
Gacruxも巨体に張り付き、バルディッシュを振りかぶった。
(狙うはアキレス腱)
すれ違いざまの一撃が足へ突き刺さるが、分厚い筋肉に阻まれる。
「一度や二度では駄目ですね……」
股下で武器を構える彼へと、後方で巨人がスリングを振りかぶる。
「おおーっと、そいつはいただけないねぇ」
その脚部目掛けて、鵤は魔導拳銃を放った。手元が狂い、やや外れた位置へと着弾する。
「すみません」
「いーから前見て、前」
巨剣の薙ぎ払いを背面跳びでかわし、Gacruxは更に攻勢をかける。
イチカは迫る斧の一撃に受けの構えをとった。
「支援します。あなたに光の加護を……プロテクション!」
「おおきに!」
サクラの防御魔法と合わせて、イチカは攻撃を受け切る。
「雑魔なんて気にしねーで、突っ込んできやがった、です」
「踏み潰せば変わらないってことだろうよ」
クルスは移動しながらヒールを唱えた。
イレスの案内に合わせて軍馬を走らせ、中央班はやや右よりの位置へとつく。今回ハンターはモデスト少将の指揮下で動く事にしている。海軍及び各班はトランシーバーで連携を取って穴を埋めているのだ。
中央班は直撃で重傷を負った兵士のカバーに入る。
「ハンターか! 助かる!」
「回復を続けてくださいまし!」
雪とカズマが巨人を迎え撃ち、イレスがクルスを護衛しつつ槍で援護。自然と出来上がった中央班の連携である。
「今だ、行け!」
クルスの魔法を顔で受けた巨人が体制を崩す。そこをカズマの振動刀が膝を深く抉り。
「そろそろ……ぶっ倒れろ、です!」
雪の槌が膝を強かに打ち抜き、ついに巨人の足を破壊した。
「やりましたわ!」
足を失ってその場に倒れこんだ巨体は、成程壁と形容するに相応しいものだった。
イレスは生き残りの雑魔弓兵が放った矢を盾で受け流し、巨人の腕を突く。海軍たちも射撃で援護し、地に伏せた怠惰兵から武器を奪った。
「貴様ら、まさか!?」
「邪魔臭え体してんだ、有効活用だろ?」
怠惰の巨人は移動力を奪われ、侵攻を妨げる壁となっていた。
「人間相手なら、負傷者増やしゃ、救護や輸送でそれ以上の敵、撤退させられんだけど、こいつらにゃ期待できねー、です」
「次は中央ですわ! 急ぎますわよ!」
イレスの連絡に、四人は軍馬に飛び乗った。
「気を付けて、左から来るよ」
「了解だよ?」
ルドルフの助言に合わせ、シェラリンデは巨剣の一閃をひらりと避けた。
「よーし、ルゥ君行くよ!」
「任せて」
ルドルフが正面で注意を引き、攻撃を盾で受ける。そこへミコトが飛びかかり、指に突き刺さる鉤爪の一撃で武器を取り落とさせた。
「行きます!」
更にルーエルの魔法が膝を破壊し、壁がまたひとつ出来上がる。
「ミコ、ちょっと下がろう」
「オッケー!」
タッグを組んで攻めるミコトとルドルフ、変幻自在に立ち回るシェラリンデ。回復役ながら高い火力も持ち合わせるルーエル。右翼班の四人は状況に応じて連携を切り替えながら、柔軟に攻勢を捌いていく。
シェラリンデの弓が、また遠く弓兵に突き刺さった。
「思った以上に牽制の効果は出ているらしいね?」
「露骨に射撃攻撃の量が違いますからね」
彼女の言葉にルーエルは頷く。継続して行う弓兵への嫌がらせはかなり効果を発揮していた。敵が後方支援を欠いているため、右翼の戦いは比較的楽ではあった。
とは言え。
「あの弓兵だ!」
弓の援護は敵の注目も引いていた。
「ちっ――!」
「シェラリンデさん!」
避けそこねたシェラリンデが大剣の一撃をもろに食らう。
「大丈夫ですか!?」
ルーエルがすぐに回復術を唱える。
「ああ、ルドルフくんのおかげだね?」
胴で受けたことと彼の防御障壁も合わせて、手痛くはあるが致命傷ではない。彼女はすぐ弓を引き始めた。
ミコトは鉤爪でうまく槍をいなし、反撃とばかりに飛びかかる。突き立てた鉤爪を抉るように捻り、深く傷を残した。
「意地悪かなぁ……」
「ミコ、気にしてる暇はないみたいだ」
壁を乗り越え、次の巨人がやってくる。
●
敵の足を破壊して壁代わりに使うという戦術が功を奏し、敵は少数の前衛を立てての投射攻撃に移行した。
予想外だったのは、投射武器を持たない兵の行動である。
「まさか岩を投げてくるとはな」
土煙を上げて着弾する岩を飛び退いてかわし、カズマは悪態をつく。
荒野には所々に岩が存在し、投擲武器を持たない巨人は、その膂力で岩を持ち上げ、投げ始めたのだ。
「巨人が物量戦術とか、反則にちけー、です」
雪がぼやく。
だが、投擲武器も『壁』の懐には届かない。
「ぬぅッ……貴様ら、よくも、よくもぉ!」
「黙ってろっての」
腕の振り下ろしを避けたクルスは、顔面へ魔術を叩き込んだ。
「乗り越えてくると思ったんだがな」
「戦場で都合の良い事は起きないんじゃねーのか、です」
「違いない」
「言ってる場合ですの!?」
敵の投射攻撃は、ハンターに集中していた。正確には、ハンターの特に数人が。
「動きづらいな」
クルスは呟き、カズマはちらりと戦場を見た。
「指揮官はあいつか……」
一人弓兵に並ぶ大剣持ちの歪虚は、周囲に指示を飛ばしていた。
「狙いは中央のハンター共、それからあの白衣と、回復術を使う連中だ!」
指揮官は苦い顔で指示する。
同朋が邪魔で兵士を並べづらく、投擲と射撃で削るより他にない状況だ。
向かって左、川方面の連中は厄介だが火力に乏しい。いや、中央と右の火力が高いのだ。特に白衣の男は強力な銃器を扱い、こちらの投射兵を狙うためかなり厄介だった。
また、敵を回復する連中も早く始末する必要があった。
弓で邪魔をしてくる敵に対しては射程で勝るこちらの弓兵を差し向け、全体を中央からやや右に比重を置く。
「構えっ!」
そうして敵の弓使いから距離を取った弓兵が。
「ってェ――!」
――敵の一斉射撃を身に浴びた。
「撃ち方やめっ! 近接戦闘用意っ!」
モデストの号令で、迂闊に近づいた弓兵の一人に鉛弾の雨を浴びて消滅させた。
「敵はハンターを意識し始めている! 精強なる同盟海軍を、奴らは侮った!」
モデスト自身も熊のような巨体で槍斧を担ぎ、鼻を鳴らす。
「その報いを受けさせてやれ! 全軍進撃! ハンターを援護しろ!」
雄叫びが上がる。
ハンターたちを狙う剣にエンフォーサーの海軍兵が割り込み、それを受け流す。
イェーガーの兵士が狙い澄ました一射で投擲体勢を取った巨人の腕を撃ち抜く。
アルケミストはハンターたちに支援の機導術をかけた。
「ほんま助かるわあ! うらっ!」
イチカは踏みつける足を横へかわし、カウンターでくるぶし辺りを斬りつける。
「これ以上先へと進ませるわけにはいきません……」
サクラは盾で雑魔を殴りつけた。
「後ろに下がってください」
「そうするよぉ。なんだかおっさん妙にモテてるみたいだしぃ?」
へらへら笑う鵤。その先で、Gacruxは弦が風を切る音を聞いた。
「鵤さんっ!」
瞬時に狙いを読み取った彼が声を上げる。
「っとぉ!」
鵤へと飛来した、柱のごとき矢。彼は機導術で加速した盾でそれを受け、何とか流した。
「大丈夫ですか!」
「あー、無事無事」
魔導拳銃では弓兵には届かない。腹いせにスリング巨人を撃ち抜いて、鵤は眼鏡を押し上げた。
「ルクス君は自分の心配をしてなさいって、ほーら前!」
「くっ!」
どうにか腕で受けたGacruxだが、蓄積したダメージは大きい。
「ん、流石に被害が……。怪我が酷い人から癒して行きますね」
サクラが回復に入りGacruxも自己回復を行う。鵤は彼の前にしれっと立つと、ゴブリン雑魔の弓矢を盾でいなし、反撃で撃ち殺した。
「増援が来るまでなんとしても守りましょう……」
「せやね! 負けてられへんって!」
サクラも続いて自分にヒールをかける。前線に出ている彼女も相当にダメージを受けていた。
「く、流石にきつくなってきましたか」
だがここで、彼女は最後のヒールを使い切った。それでも果敢に巨人へと挑むサクラ――。
「ですが、ここを引くわけにはいかないのです!」
「あ、あかんよそれは!」
前へ出、盾を構えた彼女へと、巨人の攻撃が殺到する。三度のうち二つは避け、受けたが、最後の一撃を受け損ねた。
「しまっ」
戦槌の一撃が直撃する。
「おいおいおい、やばいんじゃないのこれ」
地上を何度か跳ねて、ごろりと倒れこんだ彼女を見て、鵤は冷や汗を垂らした。
●
――幾つかの問題は発生しつつも、作戦通りに状況は膠着し始めていた。
勿論、増援を待つこちら側の完全な有利だ。
足をやられた怠惰兵は張ってでも前進を続け、こちらはそれを余裕を持って後退しつつとどめを刺す。壁の空いた場所に新たな敵を見繕って、脚部を破壊する。
流石に前衛もやすやすと足を狙われるようなことはなくなったが、その分攻め手はどうしても緩む。どう転んでも怠惰兵の不利になる状況である。
一時間が過ぎ、一時間半が経過しようという頃の戦力はこうだ。
敵歪虚兵、総勢二十二体に対し合わせて十体程度を討ち取った。
対して海軍は、総戦力の概ね七割程度が残存。ハンターもサクラが気絶して後方に下げられたが、他は問題なく立ち回れている。
イチカとGacruxは自己回復力が高く、鵤は防御が硬い。とは言えどうしても秒間の自己回復量には限度があり、前衛二人が同時に負傷する状況もあったのだが、海軍の支援もあって回復役が抜けてもすぐさま崩壊という事態にはならなかった。
中央は最も激しい戦場となったが、戦況は一番安定していた。雪とカズマが鬼神の如き活躍でただただ足を砕き腕を折る。イレスの素早い指示で広く展開。前衛があまり回復術に頼らないため、クルスの回復術も結構な量が温存出来ていた。
右翼は敵の射撃攻撃は薄く、結果的にダメージをあまり受けていない。その分彼ら自身の攻撃力も高くないのだが、連携によってそれをカバーしていた。彼らの強みが結果的にとはいえうまくはまった形である。
順調、いや、想定以上と言っていい。この膠着は生半可な方法では崩せない。
後は、いつ特機隊が到着するか――。
というところで、敵指揮官は状況の打開を試みた。
「矮小な防衛網などぶち破れ! 全軍、突撃ぃっ!」
「敵指揮官に動きあり!」
「ほう、中々気骨のある指揮官じゃあないか」
モデストは感心したように言ったが、すぐに口元を釣り上げた。
「自ら出るという心意気は買ったぞ。だが、焦れて突撃というのはいただけんなァ」
ハンター三班から、ほぼ同時に要請が来る。彼らも優秀だ。ここまで戦力を残せたのも彼らの活躍によるところが大きい。
だが、全て頼りっぱなしでは同盟軍の名がすたる。
「一番隊、前線を支援!」
「はっ!」
迫り来る敵兵を前衛で押し留めさせ、残る兵卒で狙いを付けさせる。勿論、一番隊も号令に続く準備は出来ていた。
「構え――ッ!」
彼はすっと手を掲げる。
兵卒は銃器を揃って構えた。
敵指揮官めがけ、モデストは手を振り下ろす。
「撃てぇ――ッ!」
――銃弾が雪崩を打った。
殺到する銃弾は幾らかが前衛に阻まれるが、その多くは指揮官の体を貫いた。
「ぐ、ぬぅ――!」
だがまだ、倒すには至らない。海軍たちも接近する敵前衛の対処に向かわざるを得ない、が――。
快音と共に指揮官の足が吹き飛んだ。
「ついに来たか!」
モデストが気色を浮かべる。
そして、彼方より鋼鉄の軍靴が鳴り響く。
それは、蒼き世界の戦士たちの鎧。
それは、強大なる鋼鉄の巨人。
この世界に齎された、新たなる希望。
『白熊提督、お待たせしたね』
そして、どこか間の抜けた声と共に。
『同盟陸軍特殊機体操縦部隊、これより状況を開始する――』
特機隊操るCAMが、戦場へと姿を現した。
「総員、配置につけぇ――!」
指揮官であるモデスト・サンテ(kz0101)の号令と共に、屈強な海軍兵たちが軍用魔導銃を構える。
銃口の先には、迫り来る怠惰の軍勢。
「総勢は、おおよそ巨人二十に、雑魔が四十、三十か。想定通りだな」
防衛線に対し迂回を選択した歪虚を、同盟軍はここで抑えておかねばならない。
海軍五十名に加え、整列する中にはハンターたちの姿もあった。
「押し留める、時間を稼ぐ。数千数万数十万の為に十二の生贄を出す。計算式としちゃ元は取れるわな?」
「生贄とは聞き捨てならんな!」
龍崎・カズマ(ka0178)が皮肉げに笑うと、モデストは目敏く聞きつけて吠えた。
「たかだか二十とオマケで出来た軍勢などに、同盟軍が負けるはずがあるまい! 精強なるハンター諸君もそうだろう?」
カズマは肩を竦めた。
「必要なのはどれだけ邪魔を、嫌がらせが出来るかってとこだ」
ハンターたち十二人は、それぞれフォーマンセルを組み、中央・両翼に分かれて位置についていた。
「あー、怠惰なら怠惰らしく、ぐだぐだ寝ててくれりゃ、いーのに、です」
中央班、八城雪(ka0146)は上がる土煙を見てぼやき、カズマが鼻で笑う。
「戦場で都合の良い事なんぞ起きねーさ」
「だから戦場にくんな、っつー話、です」
雪は長柄の槌を肩に担いだ。
「いきなりの大仕事ですわね……」
緊張を適度なラインに保ちつつ、イレス・アーティーアート(ka4301)は馬上で待機。
「連絡は?」
「特にありませんわ」
クルス(ka3922)の問いかけに、イレスは簡潔に答える。
「もうぞろ作戦開始か」
「未熟な若輩の身なれど精一杯頑張ります!」
彼我の距離が狭まるにつれ、緊張も高まる。
所変わって右翼。
「さて、なかなかに厳しい状況だけど」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)は敵陣を見て呟いた。
「皆で力を合わせた作戦を、ここで失敗させる訳にはいかないしね?」
シェラリンデ(ka3332)が後を継ぐ。
(本当に戦いに出る事になるのは、やっぱりちょっとだけ、怖いけど……)
ミコト=S=レグルス(ka3953)は手の甲、鉤爪を撫でた。
「でも、ここはうちらが頑張らないとですよねっ」
ルドルフは彼女の肩をそっと叩いた。
「ミコ、無茶しないようにね?」
「勿論!」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は遠く土煙を上げる敵陣を見ていた。
「勝ちましょう。この戦いには、色々なものがかかってるから」
「ボクも、全力を尽くさせてもらうよ?」
「頑張りますっ!」
ミコトが突き出した拳に合わせて、四人は拳を打ち合わせた。
「結局、最前線とはねぇ。あーヤダヤダ」
左翼。鵤(ka3319)は気怠くタバコに火を付けた。
「鵤さん。あんたの命は、俺が守ります」
隣に控えるGacrux(ka2726)が律儀に答えた。
「そいつぁ楽でいいけどさぁ、そうも行かないっしょ、これ」
魔導拳銃の動作を確かめながら、彼はぼやく。
「戦線維持ですか……」
サクラ・エルフリード(ka2598)は難しい顔で唸った。
「なんとしても今の戦線は守って行きたい所ですね……」
「その為には、誰一人と欠けてはダメですよ」
Gacruxの言葉に、イチカ・ウルヴァナ(ka4012)が追随する。
「きっちり役割こなして、作戦成功させなね」
鵤は邪魔そうに盾を持ち上げると、トランシーバーを手に取った。
「さて、もうぞろ始まるらしいぜ?」
●
文字通りの嚆矢を放ったのは、怠惰の軍勢だ。
五体の弓兵が丸太のような矢を番え、巨大な弓を引き絞る。少数が放ったそれは弾幕というには程遠く。
「回避しろ! 潰されるぞ!」
攻城兵器に近かった。
地に突き立つ柱のような矢は巨躯故のもの。
「射程もボクより長いみたいだね?」
シェラリンデは放たれる弓兵に狙いを定める。続く第二射、前進した敵に合わせて弓を放った。
弓兵の頭に突き刺さった矢は弓兵の頭を強烈に揺らしたが、サイズが違いすぎる。人の矢では刺さるだけだ。
第二射が弓を射ったシェラリンデの側へと向けられる。海軍も含めてそれを飛び退いてかわす頃には、敵は突進を始めていた。
「モデストさん!」
「分かっているとも! 総員ッ! 構えぇいッ!」
ハンターの要請を受け、モデストの号令で海兵たちが魔導銃を構える。
狙いは、先陣を切る雑魔の群れ。
「撃てぇ――ッ!」
射程に入るとほぼ同時、モデストの号令とともに五十近い魔導銃が一斉に火を噴いた。
やってくる雑魔がばたばたとなぎ倒されていく。
「まずは掃除からだよねぇ」
左翼の鵤と右翼全員が遠距離攻撃を繰り出し、迫る雑魔の群れの数を減らしていく。
「まずは猪や猿を狙って! 陣形が崩れるのはまずいよ!」
「任せて」
ルーエルのホーリーライトに合わせてルドルフのデリンジャーが重ねられる。
「それっ!」
接近してきた猪をミコトの鉤爪が迎撃する。
雑魔の大部分は魔導銃の掃射によって討伐出来たらしく、残りは三分の一程度だった。それらも続く二射で続々と数を減らしていく。
だが、ここまでは前座だ。
「来たぞ! 巨人だ!」
巨体と怪力を併せ持つ怠惰の歪虚兵士たちが、攻勢を開始した。
「ふん、小癪な。そこは通してもらうぞ、人間共」
その巨躯を足止めするには数人がかりでなければならない。
「通れるもんなら通ってみいや」
言うが早いかの振り下ろしに対し、イチカは巨体へ潜り込むようにしてそれをかわし、返す刀でその腕を引き切った。
「でっかいしかったいわ、こいつ」
Gacruxも巨体に張り付き、バルディッシュを振りかぶった。
(狙うはアキレス腱)
すれ違いざまの一撃が足へ突き刺さるが、分厚い筋肉に阻まれる。
「一度や二度では駄目ですね……」
股下で武器を構える彼へと、後方で巨人がスリングを振りかぶる。
「おおーっと、そいつはいただけないねぇ」
その脚部目掛けて、鵤は魔導拳銃を放った。手元が狂い、やや外れた位置へと着弾する。
「すみません」
「いーから前見て、前」
巨剣の薙ぎ払いを背面跳びでかわし、Gacruxは更に攻勢をかける。
イチカは迫る斧の一撃に受けの構えをとった。
「支援します。あなたに光の加護を……プロテクション!」
「おおきに!」
サクラの防御魔法と合わせて、イチカは攻撃を受け切る。
「雑魔なんて気にしねーで、突っ込んできやがった、です」
「踏み潰せば変わらないってことだろうよ」
クルスは移動しながらヒールを唱えた。
イレスの案内に合わせて軍馬を走らせ、中央班はやや右よりの位置へとつく。今回ハンターはモデスト少将の指揮下で動く事にしている。海軍及び各班はトランシーバーで連携を取って穴を埋めているのだ。
中央班は直撃で重傷を負った兵士のカバーに入る。
「ハンターか! 助かる!」
「回復を続けてくださいまし!」
雪とカズマが巨人を迎え撃ち、イレスがクルスを護衛しつつ槍で援護。自然と出来上がった中央班の連携である。
「今だ、行け!」
クルスの魔法を顔で受けた巨人が体制を崩す。そこをカズマの振動刀が膝を深く抉り。
「そろそろ……ぶっ倒れろ、です!」
雪の槌が膝を強かに打ち抜き、ついに巨人の足を破壊した。
「やりましたわ!」
足を失ってその場に倒れこんだ巨体は、成程壁と形容するに相応しいものだった。
イレスは生き残りの雑魔弓兵が放った矢を盾で受け流し、巨人の腕を突く。海軍たちも射撃で援護し、地に伏せた怠惰兵から武器を奪った。
「貴様ら、まさか!?」
「邪魔臭え体してんだ、有効活用だろ?」
怠惰の巨人は移動力を奪われ、侵攻を妨げる壁となっていた。
「人間相手なら、負傷者増やしゃ、救護や輸送でそれ以上の敵、撤退させられんだけど、こいつらにゃ期待できねー、です」
「次は中央ですわ! 急ぎますわよ!」
イレスの連絡に、四人は軍馬に飛び乗った。
「気を付けて、左から来るよ」
「了解だよ?」
ルドルフの助言に合わせ、シェラリンデは巨剣の一閃をひらりと避けた。
「よーし、ルゥ君行くよ!」
「任せて」
ルドルフが正面で注意を引き、攻撃を盾で受ける。そこへミコトが飛びかかり、指に突き刺さる鉤爪の一撃で武器を取り落とさせた。
「行きます!」
更にルーエルの魔法が膝を破壊し、壁がまたひとつ出来上がる。
「ミコ、ちょっと下がろう」
「オッケー!」
タッグを組んで攻めるミコトとルドルフ、変幻自在に立ち回るシェラリンデ。回復役ながら高い火力も持ち合わせるルーエル。右翼班の四人は状況に応じて連携を切り替えながら、柔軟に攻勢を捌いていく。
シェラリンデの弓が、また遠く弓兵に突き刺さった。
「思った以上に牽制の効果は出ているらしいね?」
「露骨に射撃攻撃の量が違いますからね」
彼女の言葉にルーエルは頷く。継続して行う弓兵への嫌がらせはかなり効果を発揮していた。敵が後方支援を欠いているため、右翼の戦いは比較的楽ではあった。
とは言え。
「あの弓兵だ!」
弓の援護は敵の注目も引いていた。
「ちっ――!」
「シェラリンデさん!」
避けそこねたシェラリンデが大剣の一撃をもろに食らう。
「大丈夫ですか!?」
ルーエルがすぐに回復術を唱える。
「ああ、ルドルフくんのおかげだね?」
胴で受けたことと彼の防御障壁も合わせて、手痛くはあるが致命傷ではない。彼女はすぐ弓を引き始めた。
ミコトは鉤爪でうまく槍をいなし、反撃とばかりに飛びかかる。突き立てた鉤爪を抉るように捻り、深く傷を残した。
「意地悪かなぁ……」
「ミコ、気にしてる暇はないみたいだ」
壁を乗り越え、次の巨人がやってくる。
●
敵の足を破壊して壁代わりに使うという戦術が功を奏し、敵は少数の前衛を立てての投射攻撃に移行した。
予想外だったのは、投射武器を持たない兵の行動である。
「まさか岩を投げてくるとはな」
土煙を上げて着弾する岩を飛び退いてかわし、カズマは悪態をつく。
荒野には所々に岩が存在し、投擲武器を持たない巨人は、その膂力で岩を持ち上げ、投げ始めたのだ。
「巨人が物量戦術とか、反則にちけー、です」
雪がぼやく。
だが、投擲武器も『壁』の懐には届かない。
「ぬぅッ……貴様ら、よくも、よくもぉ!」
「黙ってろっての」
腕の振り下ろしを避けたクルスは、顔面へ魔術を叩き込んだ。
「乗り越えてくると思ったんだがな」
「戦場で都合の良い事は起きないんじゃねーのか、です」
「違いない」
「言ってる場合ですの!?」
敵の投射攻撃は、ハンターに集中していた。正確には、ハンターの特に数人が。
「動きづらいな」
クルスは呟き、カズマはちらりと戦場を見た。
「指揮官はあいつか……」
一人弓兵に並ぶ大剣持ちの歪虚は、周囲に指示を飛ばしていた。
「狙いは中央のハンター共、それからあの白衣と、回復術を使う連中だ!」
指揮官は苦い顔で指示する。
同朋が邪魔で兵士を並べづらく、投擲と射撃で削るより他にない状況だ。
向かって左、川方面の連中は厄介だが火力に乏しい。いや、中央と右の火力が高いのだ。特に白衣の男は強力な銃器を扱い、こちらの投射兵を狙うためかなり厄介だった。
また、敵を回復する連中も早く始末する必要があった。
弓で邪魔をしてくる敵に対しては射程で勝るこちらの弓兵を差し向け、全体を中央からやや右に比重を置く。
「構えっ!」
そうして敵の弓使いから距離を取った弓兵が。
「ってェ――!」
――敵の一斉射撃を身に浴びた。
「撃ち方やめっ! 近接戦闘用意っ!」
モデストの号令で、迂闊に近づいた弓兵の一人に鉛弾の雨を浴びて消滅させた。
「敵はハンターを意識し始めている! 精強なる同盟海軍を、奴らは侮った!」
モデスト自身も熊のような巨体で槍斧を担ぎ、鼻を鳴らす。
「その報いを受けさせてやれ! 全軍進撃! ハンターを援護しろ!」
雄叫びが上がる。
ハンターたちを狙う剣にエンフォーサーの海軍兵が割り込み、それを受け流す。
イェーガーの兵士が狙い澄ました一射で投擲体勢を取った巨人の腕を撃ち抜く。
アルケミストはハンターたちに支援の機導術をかけた。
「ほんま助かるわあ! うらっ!」
イチカは踏みつける足を横へかわし、カウンターでくるぶし辺りを斬りつける。
「これ以上先へと進ませるわけにはいきません……」
サクラは盾で雑魔を殴りつけた。
「後ろに下がってください」
「そうするよぉ。なんだかおっさん妙にモテてるみたいだしぃ?」
へらへら笑う鵤。その先で、Gacruxは弦が風を切る音を聞いた。
「鵤さんっ!」
瞬時に狙いを読み取った彼が声を上げる。
「っとぉ!」
鵤へと飛来した、柱のごとき矢。彼は機導術で加速した盾でそれを受け、何とか流した。
「大丈夫ですか!」
「あー、無事無事」
魔導拳銃では弓兵には届かない。腹いせにスリング巨人を撃ち抜いて、鵤は眼鏡を押し上げた。
「ルクス君は自分の心配をしてなさいって、ほーら前!」
「くっ!」
どうにか腕で受けたGacruxだが、蓄積したダメージは大きい。
「ん、流石に被害が……。怪我が酷い人から癒して行きますね」
サクラが回復に入りGacruxも自己回復を行う。鵤は彼の前にしれっと立つと、ゴブリン雑魔の弓矢を盾でいなし、反撃で撃ち殺した。
「増援が来るまでなんとしても守りましょう……」
「せやね! 負けてられへんって!」
サクラも続いて自分にヒールをかける。前線に出ている彼女も相当にダメージを受けていた。
「く、流石にきつくなってきましたか」
だがここで、彼女は最後のヒールを使い切った。それでも果敢に巨人へと挑むサクラ――。
「ですが、ここを引くわけにはいかないのです!」
「あ、あかんよそれは!」
前へ出、盾を構えた彼女へと、巨人の攻撃が殺到する。三度のうち二つは避け、受けたが、最後の一撃を受け損ねた。
「しまっ」
戦槌の一撃が直撃する。
「おいおいおい、やばいんじゃないのこれ」
地上を何度か跳ねて、ごろりと倒れこんだ彼女を見て、鵤は冷や汗を垂らした。
●
――幾つかの問題は発生しつつも、作戦通りに状況は膠着し始めていた。
勿論、増援を待つこちら側の完全な有利だ。
足をやられた怠惰兵は張ってでも前進を続け、こちらはそれを余裕を持って後退しつつとどめを刺す。壁の空いた場所に新たな敵を見繕って、脚部を破壊する。
流石に前衛もやすやすと足を狙われるようなことはなくなったが、その分攻め手はどうしても緩む。どう転んでも怠惰兵の不利になる状況である。
一時間が過ぎ、一時間半が経過しようという頃の戦力はこうだ。
敵歪虚兵、総勢二十二体に対し合わせて十体程度を討ち取った。
対して海軍は、総戦力の概ね七割程度が残存。ハンターもサクラが気絶して後方に下げられたが、他は問題なく立ち回れている。
イチカとGacruxは自己回復力が高く、鵤は防御が硬い。とは言えどうしても秒間の自己回復量には限度があり、前衛二人が同時に負傷する状況もあったのだが、海軍の支援もあって回復役が抜けてもすぐさま崩壊という事態にはならなかった。
中央は最も激しい戦場となったが、戦況は一番安定していた。雪とカズマが鬼神の如き活躍でただただ足を砕き腕を折る。イレスの素早い指示で広く展開。前衛があまり回復術に頼らないため、クルスの回復術も結構な量が温存出来ていた。
右翼は敵の射撃攻撃は薄く、結果的にダメージをあまり受けていない。その分彼ら自身の攻撃力も高くないのだが、連携によってそれをカバーしていた。彼らの強みが結果的にとはいえうまくはまった形である。
順調、いや、想定以上と言っていい。この膠着は生半可な方法では崩せない。
後は、いつ特機隊が到着するか――。
というところで、敵指揮官は状況の打開を試みた。
「矮小な防衛網などぶち破れ! 全軍、突撃ぃっ!」
「敵指揮官に動きあり!」
「ほう、中々気骨のある指揮官じゃあないか」
モデストは感心したように言ったが、すぐに口元を釣り上げた。
「自ら出るという心意気は買ったぞ。だが、焦れて突撃というのはいただけんなァ」
ハンター三班から、ほぼ同時に要請が来る。彼らも優秀だ。ここまで戦力を残せたのも彼らの活躍によるところが大きい。
だが、全て頼りっぱなしでは同盟軍の名がすたる。
「一番隊、前線を支援!」
「はっ!」
迫り来る敵兵を前衛で押し留めさせ、残る兵卒で狙いを付けさせる。勿論、一番隊も号令に続く準備は出来ていた。
「構え――ッ!」
彼はすっと手を掲げる。
兵卒は銃器を揃って構えた。
敵指揮官めがけ、モデストは手を振り下ろす。
「撃てぇ――ッ!」
――銃弾が雪崩を打った。
殺到する銃弾は幾らかが前衛に阻まれるが、その多くは指揮官の体を貫いた。
「ぐ、ぬぅ――!」
だがまだ、倒すには至らない。海軍たちも接近する敵前衛の対処に向かわざるを得ない、が――。
快音と共に指揮官の足が吹き飛んだ。
「ついに来たか!」
モデストが気色を浮かべる。
そして、彼方より鋼鉄の軍靴が鳴り響く。
それは、蒼き世界の戦士たちの鎧。
それは、強大なる鋼鉄の巨人。
この世界に齎された、新たなる希望。
『白熊提督、お待たせしたね』
そして、どこか間の抜けた声と共に。
『同盟陸軍特殊機体操縦部隊、これより状況を開始する――』
特機隊操るCAMが、戦場へと姿を現した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質疑応答 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/27 22:36:34 |
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相談しましょうっ ミコト=S=レグルス(ka3953) 人間(リアルブルー)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/02/28 17:18:50 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 20:58:04 |