• 不動

【不動】戦場を貫く矢となって

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/02/27 19:00
完成日
2015/03/07 12:22

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 キルゾーンへ誘導して包囲、持てる火力の全てを使い殲滅。人類側の作戦を説明すれば以上のようになる。ダンテ・バルカザール率いる王国騎士団赤の隊は包囲を万全のものとすべく、包囲完了後に逃げる敵を封じ込める任務を担った。赤の隊の騎馬部隊はハンター共に近くの林に潜み、作戦の進捗を睨んでいた。そんな折の襲撃であった。
 襲撃者は竜と蜥蜴の中間のような姿をしていた。全長は2.5mから大きいもので5m。体高は1.3mから2m程度。暗緑色でまだらの体皮と長い足に大きな鉤爪、細く尖った頸部には鋭い牙が生えている。身軽に飛び跳ねる竜達は潜んでいた騎士達と馬に襲い掛かり、あっと言う間に乱戦となった。小柄な個体がほとんどであるために一体一体の脅威は小さいが、とにかく数が多く集団でかく乱しながら飛び掛ってくる。騎士アーノルドはその一体に飛びつかれ、自慢の戦槌を振り回すことができずにいた。周りは混乱しており、助けは求められそうに無い。どうしたものかと焦りの中で思案していたが、横から差し出された銃が至近距離から竜の頭を吹き飛ばしていた。アーノルドはその拳銃に見覚えがあった。
「トゥアンか、すまない」
「良いからさっさと立てボケナス。こっちも暇じゃねーんだよ!」
 口が悪いベトナム系の女性ハンター、阮妙純(グェン・ジェウ・トゥアン)は言いながらもまた他の一体を銃撃する。彼女は乱戦になっても大して動揺していなかった。若いが本国の同じ年齢の騎士よりも余程場慣れしていると感心する。むしろ血を見るほどに喜んでいる気配があるが、まだ若いアーノルドはそこまで推察することはできなかった。 
「くそ、きりがねえ。ファンタジー映画は好きじゃねえが、恐竜映画も好きじゃねえんだよ!」
 リアルブルーの者達の感想を率直に表現するならばまさにそれであった。竜達は映画に登場したヴェロキラプトルやディノニクスに酷似しており、それがパニック映画さながら後から後から沸いてくるのだ。とはいえ襲われているのは一般人ではない。騎士の精鋭とハンターの混成部隊だ。徐々に秩序だった行動を回復し、竜達に連携して反撃を開始していた。竜達も連携してはいるが、ファランクスの如く陣形を固める騎士達相手では分が悪い。戦況は好転するように見えるが、その竜の背後に控える大物が明らかになり、誰もが緊張の度合いを高めていった。
「……てめえ、ガルドブルムだな」
 背後に控える巨大な竜、ガルドブルムはダンテの問いに答えず、しかし人類側の恐怖と緊張を感じ取り満足げな唸り声を漏らしていた。ガルドブルムが一歩前に踏み出すと、他の竜達は恐怖したかのように道を譲り、攻撃を一斉に中止していた。ガルドブルムと騎士の間は何も居なくなったわけではなく、彼の護衛らしい竜に跨った蜥蜴人間が数体道を塞いでいた。誰もが金属の槍や鎧を装備し、互いの動きを制限しない絶妙な距離をあけて壁となっている。
「人間。なぜ竜が生物の王たるか……わかるか?」
「ああ?」
 ガルドブルムの気まぐれな問いにダンテは問答無用とばかりの態度だ。しかしダンテもこの問いかけに意味があることを感じ取り、それ以上前に進まない。答えは彼に代わって副官の1人として随伴するジェフリー・ブラックバーン(kz0092)が答えた。
「空を飛ぶ力があるからか?」
「しかり。空に生きる俺には地で蠢くものを観察することなど造作もなくてな」
「……てめえは何が言いたいんだ?」
 ガルドブルムは話しても無駄とばかりに、先程の回答者へと視線を移したままだ。もしかしたら呆れているのかもしれない。
「それはつまり、こちらの伏兵の位置はお見通しと言うわけだな」
「そういうことよ。ハ、愚か者のトレークハイトはまるで気づいてねェけどな」
 それは作戦の根幹に関わる内容であった。伏兵を用いての挟撃は場所が割れてしまえば全てが水泡に帰す。しかし同時に疑問もわく。何故それを、すぐに前線の味方に伝えないのか。ジェフリーが答えを探る前に、ガルドブルムは詰まらなさそうに呟いた。
「つまらん。実につまらん戦だ。見ている方が苛立つほどにな。ま、俺がトレークハイトを助けてやっても良いんだが、それはそれでつまらねェ」
 楽しくないから教えない。ジェフリーには理解し難い内容だったが、ここまで黙っていたダンテはそれで全て得心がいった。
「そんじゃあ俺達がこの戦争を楽しくしてやらねえとダメだな。で、どうすんだ? ここで俺達がお前と遊んでやりゃ良いのか?」
 獰猛な笑みを浮かべるダンテ。勝ち目は薄いがそれしかない。ジェフリーは苦い顔を浮かべるが、この理屈ではダンテが正しい。
「ははッ、悪くねェ。が、それだけじゃあダメだ。人間。ここは一つ、嫉妬の人形どもに倣ってゲームをしようじゃねェか」
 言ってガルドブルムは唸り声にしか聞こえない言語で蜥蜴人間に話しかけた。頷いた一匹はすぐさま騎竜(と表現しか出来ない乗り物の竜)の首を返し、林の外に向けて軽快な足で走り出した。それには群の何割かが追随する。ガルドブルムは再び人間に向き直った。
「今から我が眷属をトレークハイトのもとに走らせる。追って皆殺しに出来ればお前らの勝ちだ。そんときゃゴホウビをやる」
 ガルドブルムは楽しそうに目を細める。ジェフリー達が唖然とするなか、ダンテだけはいち早く動き出していた。
「追うぞ!」
 言う間にもダンテは自分の馬に飛び乗る。考えと動きに間の無いダンテだが、飛び乗った馬に大型の竜の一体が突進を仕掛けてきた。流石のダンテもかわしきれず、再び地面に放り出される。
「くそ、てめえら!!」
 残った竜は足止めの役割だった。目立つ鎧を着ていたためか、それとも巧みな馬術を警戒されたのか。赤の隊の騎士は軒並み動きが止められていた。馬に乗れたのは半分以下だ。その半分のうちほとんどが竜に阻まれ前に出れない。動けるのはジェフリーとハンターが10名のみだ。
「おおおおお!!」
 赤の隊屈指の巨漢であるダリウスはその動きを阻む竜へと盾で殴りかかった。馬に乗るのが遅れたのをこれ幸いと、巨大なハルバードを左右に振り回して暴れまくる。
「ダリウス!」
「行け、ジェフリー! あいつらを追え!」
 一斉に飛び掛ってくる小型の竜を怪力で押しのけ、ダリウスは馬が通れるだけの道を作り出した。
「ジェフリー、ここは構うな!」
「了解。続ける者は続け!」
 ダンテの声に後押しされ、ジェフリー達は馬を走らせた。林はあっと言う間に途切れ、遠くでは巨人達が群で居留地へと進んでいる。距離を取られてしまったが足の速さでは王国の誇る軍馬、青毛のゴースロン種が一枚上手。スタミナを考えれば長期戦は不利だが、まだ希望は残っている。ジェフリーは槍を構えなおすと、ハンター達と一丸となって走る竜の群へと突撃した。背後では心底楽しそうなガルドブルムの笑い声が大地を震わせていた。

リプレイ本文

 林を抜けた者達は揃って馬に鞭を振るい速度を上げる。ガルドブルムの行動はハンター達に焦りよりも混乱を生んだが、逃げる敵集団に仕掛ける頃になると全員が冷静さを取り戻していた。冷静になってしまうと、ガルドブルムの舐めた言動が再び頭を熱くさせた。
「あんの糞大トカゲぇぇっ! 余計な事しくさってえぇぇぇっっ!!」
 叫んだのは十 音子(ka0537)だった。彼女の怒りは正当なものだ。断ることもできない上にゲームとなれば腹も立つ。叫びはしないものの、隣を走るヴィルマ・ネーベル(ka2549)も同意の意味で嘆息する。
「とんだチキンレースじゃな。ガルドブルムの掌の上で弄ばれているようじゃのぅ」
「トカゲ風情が上等じゃねぇか。俺様が完膚無きまでに負かしてやらあ!」
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は吹きすさぶ風に負けじと吼えた。概ねハンターの半数と赤の隊の騎士も似たような感想だったが、ガルドブルムを好敵手と捉えている者達はそうでもなかった。クリスティン・ガフ(ka1090)はやる気十分と言った風情で馬を走らせている。やる気の問題でもあったが、アルビルダ=ティーチ(ka0026)やメープル・マラカイト(ka0347)は、ゲームよりも後のほうが気になっていた。
「ゴホウビって何でしょう。凄くいいお酒だったりすると嬉しいですけど。ふふ、楽しみですね」
「デートよ。折角なんだし私はデートしたいわね」
「私はあの角ですね。勝ってへし折ってやりますよ」
 リリティア・オルベール(ka3054)などは既に勝つつもりで話をしている。気迫という意味では良し。緊張していないならなお良し。イーディス・ノースハイド(ka2106)は周囲を見渡し、そう評価した。
「これなら大丈夫そうだ。わざわざ此方に挽回の機会を与えてくれたと考えるべきかな…」
 だが仕掛けるには数の利がない。既に向こうもこちらに気づいている。言葉を少し交わす間にも距離は縮まっていく。馬に鞭をくれれば捕まえられる距離だ。ジェフリー・ブラックバーン(kz0092)はどう命令を出すべきか迷っていた。依頼主だが指揮官ではない。そしてハンターの能力の全てを把握しているわけでもない。しかしバラバラに動くのはまずい。そしてこの決断は長くは待てない。迷った時間は10秒に満たなかったが、目ざとく気づいた文月 弥勒(ka0300)が馬を寄せた。
「ブラックバーン、俺たちは好きに動いても構まわねえな? こんな寄せ集めじゃチームワークは向こうのが上だろう。個々の能力で圧倒するしかねえ」
 それは一つの答えだが博打でもあった。しかし言い出してくる以上は何か勝算があるのだろう。賭けるか否か。伸るか反るか。ジェフリーは腹を決めた。
「……わかった。おまえ達に任せる。存分に暴れてこい!」
「オーケー! そうこなくっちゃな!」
 紫月・海斗(ka0788)は口笛でも吹きそうな勢いで喝采をあげる。
「ガルドブルムの旦那を楽しませる約束だからな。ジャーック! 連中の頭を抑えるぜ!」
「おう! 任せとけ!」
 ジャックは紫月に追いつきながらも愛用の銃を抜く。その顔には戦意に満ち満ちた獰猛な笑みが浮かんでいた。
「ジェフリー! お前さんも付き合え!」
「良いだろう」
 ジェフリーも遅れじと槍斧を構える。
「よーし、突撃だぁ!」
 紫月が叫び、馬に鞭をくれる。馬達が乗り手の意思を組み、一斉に速度をあげていく。竜達が警戒して鳴き声をあげる中、騎馬の群は巨大な槍となって突き進んだ。



 ハンター達は三つに分かれた。まずは後方に残る者。メープルとヴィルマは距離をとりながら、後方から魔法攻撃で群を脅かす。次に両側面より敵の前に出ようとする者。紫月とジャックとジェフリーが右側面にアルビルダ、クリスティン、リリティア、音子が左側面に別れる。弥勒、イーディスは右側面のチームの後方につく。竜人は警戒を強めており、ハンターの包囲にはすばやく対応した。竜人が一声何かを指示を出すと、小さな竜の何匹かは逃げることを止め手近なハンターに距離を詰めていく。飛び掛る準備動作を始める竜に、クリスティンの銃撃が放たれた。銃声は三度。竜達は飛びのいて距離をとり回避。狙う位置が低いために、小さい動きでもかわされてしまう。片手撃ちの分それは仕方ない。そして、かわされるところまで想定内でもあった。
「残念ね。空飛べるようになってから出直してきなさい」
 アルビルダの銃が時間差で火を噴き、小型の頭を吹き飛ばした。ぴょんぴょん飛び跳ねまわって当てにくいが、牽制も交えて追い込んでいけば問題ない。一方右側面では、ヨーヨーで竜をぶん殴ってるやつがいた。
「オラオラ! 寄るんじゃねぇ!」
 紫月がヨーヨーを振り回し、近寄る竜に手当たり次第にぶつけている。おもちゃにしか見えないヨーヨーだが実際には合金製。飛び込んできた竜にぶつかると骨が砕けたような音がした。
「あ、こけやがった。南無三。……つか、ジャーック! 近いのは頼むぜオイ!」
「うるせえ! 数が多いんだ、ちょっとぐらい我慢しやがれ!」
 ジャックは更に多くの攻撃を止めていた。小型は敵にならないにしても大型がまずい。一撃を受ければ落馬しかねない巨体だ。それの牽制で身動きがとれなくなっていた。大型はジャックの攻撃が牽制ばかりと見ると、強引に体当たりを仕掛けようとした。その一撃が逃げ損ねたジャックに到達する前に、ジェフリーが矛槍を振りかざし割ってはいる。振り下ろした矛槍で竜の肩口を切り裂き、振り回して距離を取らせる。
「先に行け!」
「……わかった。任せたぜ!」
 ジャックはその場を2人に任せ更に前に出る。左側面からはリリティアと音子が迫った。
「てめえの出番は終わりだぜ!」
 ジャックは竜人の乗る騎竜に向けて発砲する。銃弾を食らった竜は血を流して叫ぶが、足の速さに衰えはない。信じられないぐらいにタフだ。ならばと足元への攻撃に切り替えるが、竜人は巧みな操縦で牽制射撃をかわしていく。
「トカゲのくせにやるじゃねえか!」
 ジャックは余裕の表情ながらも、状況の推移に焦っていた。短い時間でハンターの言い出した作戦は二つある。そのどちらを成功させるにせよ、竜人の気を引き注意を逸らすのは絶対条件だ。まだまだ竜人の動きには余裕がある。この余裕を崩さなければならない。
「なら私が行きます!」
 リリティアが刀を抜き放ち、一気に竜人へと距離を詰めていった。竜人は槍を構えなおし左側面から迫るリリティアに連撃を見舞った。リリティアは刀で受け流していくが、逆に距離を詰められていく。
(これは……まずいですね)
 竜人の槍捌きは巧みだ。一撃入ればガルドブルムの鱗も切り裂く刀だが、間合いを制されては無用の長物ともなった。そしてその下で騎竜が威嚇してきている。近寄った瞬間に馬の首に噛み付くつもりだろう。逃げるわけにもいかないが、この槍を掻い潜って近づくのも危険すぎる。武器の間合いの差が勝敗を分けていた。刀で弾いているが、その重さで手がしびれそうになる。勝機の見えない戦いに、リリティアが徐々に押され始めていく。
「リリティアさん!」
 後ろから迫った音子が竜人に銃撃をくれる。竜人は鎧と鱗を貫通されるが、ひるんだ様子は見えない。音子は続けて騎竜の足元に狙いを変更。竜は銃劇をかわすためにリリティアから離れていく。竜人は音子を脅威と見るや、隣に並ぶべく速度を落としていった。それはリリティアがさせじと果敢に剣で切りかかった。
「はぁっ!」
 竜人は間一髪、槍の柄で受け止める。両者が近寄っては音子も射撃しづらいが、今度はリリティアが一方的に攻める番だった。金属質な音が響き渡り、何合も激しい打ち合いが続いた。竜人が距離を取ると攻勢は逆転。また間合いの利を生かした戦いをはじめ、リリティアは防戦一方となる。音子がこの段階で再び竜への銃撃を開始するが、既に動きがばれているため竜人は牽制の射撃から逃げ切った。距離を取り周囲を確認した竜人は、妙な動きをする弥勒とイーディスを捉える。後方にいたはずの2人はジャックの更に外側を通り、竜人の乗る竜を追い越していた。並んで走る二人の手には一本の太い縄。弥勒は馬を走らせ、竜の群の前を横切っていく。意図に気づいた竜人は縄を切るべく騎竜を走らせるが、リリティアに妨害され前に出ることが出来ない。準備が整い、弥勒は仮面の下で会心の笑みを浮かべた。
「さあ、縄跳びの時間だぜ」
 弥勒はイーディスに合図とすると、縄をもったまま一気に速度を落とす。縄は竜の胸元あたりに目掛けて迫る。しかし竜人も一筋縄ではいかない。騎竜に何事か合図すると、騎竜は首をもたげて迫る縄に噛み付いた。
「こいつ……!」
 騎竜はすさまじい力で縄を引き回す。片手で持っている二人はそれに対抗できず、落馬しないように手を放す。竜達の足は止まらない。縄の策を掻い潜った竜人は近くのハンターに狙いを定めた。槍は態勢を崩した弥勒に向く。武器を構えなおしている時間はない。弥勒が竜人の動きに対応する前に、状況は急変した。
「頃合は良し、じゃ。準備は良いな?」
「はい。行きましょう、ヴィルマさん」
 後方で嫌がらせに徹していた魔術師2人の詠唱が変わった。2人が高く掲げた杖の先に魔力が集中する。それは現実世界に光となって現れた時、全く違う色として発現した。
「「スリープクラウド」」
 ドライアドの杖から放たれた2発のスリープクラウドが、竜の群全体を包むように炸裂した。ハンター達が包囲したのはこのためだ。足止めを行い、縄で足をとろうとした策は防がれたが、それは後続となるスリープクラウドを隠蔽する目眩ましになった。意図した連携ではないが、知性ある者が1人しか居ない部隊には致命的な一撃だった。一発ならあるいは耐える者もいたかもしれない。しかし2発分の濃密な空気に耐えうる個体はなく、ほとんどの個体が眠りこけて地面に倒れた。無論眠ってこけた衝撃で目を覚ましはしたが、一撃をぶつけるには十分な時間となった。多くの竜がその場で転んだ。転んだ上から銃撃をたっぷりとくらった。
「もう逃げられませんよ」
 散々攻撃をかわされ続けてきたクリスティンが一匹ずつ着実に竜を減らしていく。小型の竜はその身軽さゆえに脅威であったが、こうなってはまともに戦える個体は一つもなかった。更に悪いことに、ハンター達の予測通り竜達は水や冷気に耐性がなかった。牽制に使っていた2人分のウォーターシュートは、着実に竜の命を奪っていく。残るのは大型の竜2匹のみ。それすらも集合しつつあるハンターの敵では無い。一匹はメイプルとヴィルマの魔術師2人の猛攻の前にあえなく沈み、もう一匹は紫月とジェフリーに全身を叩きのめされ動かなくなった。
「どこ見てるんだい?」
 竜人は後方の異変に気を取られ、イーディスの接近に気づくのが遅れた。イーディスは縄を切られた後、すぐさま馬の向きを変えて竜人に狙いを合わせていた。
「王国騎士団仕込みの騎馬突撃、受けきれるかな!」
 イーディスは馬の腹を蹴る。馬は命じられたままに慣れ親しんだ突撃を始めた。突撃する騎兵槍の衝撃力は数トンにも達するという。竜人の取り回しを重視した細身の槍では対応することもできない。槍は狙いたがわず竜人の胸の突き、竜人は衝撃で地面へと投げ出された。竜人は投げ出されながらも受身を取り、すぐに体勢を立て直すが、騎竜を失ってしまえば脅威ではない。リリティアはすぐさま飛び降り接近戦に移る。騎兵用の長い槍で受けてはいるが、詰め寄られては戦いようがない。それでもなんとか逃げようと足掻く竜人に、ジャックは冷酷に銃を向けた。
「残念だったな、トカゲ野郎」
 リリティアが一歩下がると、ジャックは引き金を引く。胸に銃弾を受け、竜人はそのまま前のめりに倒れ伏した。
「俺様の前に出たのが運の尽きだったな」
 もしかしたらこの竜人も何かを背負っていたのかもしれないが、背負う物があるのはお互い様だ。
 指揮をとる竜人を欠いた部隊は脆かった。てんでばらばらに動きだし、手近な目標めがけて飛びかかっていく。数の優位で戦っていた獣が同数以下となれば勝ち目の一つもあるわけがなく、逃げようにも軍馬の移動力とハンターの射程距離をすり抜けることはできない。全滅にかかった時間は20秒ほどであった。



 死屍累々。周囲には血の悪臭、遠くでは砲撃の音。戦闘は終結していなかったが、その周囲の時間は停止しているようにすら思えた。引き伸ばされた時間を断ち切ったのは、大きな羽ばたきの音。ガルドブルムがいつの間にかハンター達の頭上まで飛来していた。巻き起こる風が淀んだ空気をかき消していく。
「ははっ! 見事な余興だった、人間ども」
 ガルドブルムは気安く良いながら、ハンター達の間近に着地する。
「勝負は我らの勝ちじゃ。褒美は準備しておるんじゃろうな?」
「それなら……」
「そうだった!! ガルドの旦那ー!」
 ヴィルマに問われ発言しようとしたガルドブルムを遮ったのは紫月であった。気を削がれたガルドブルムは完全に聞く体勢になってしまっている。紫月は間髪入れず叫ぶ。
「すまねぇー! 貰った竜鱗の欠片壊しちまったぁー!」
「あぁ?」
「意外と脆かったからもっと硬いトコ下さい!」
 ガルドブルムは、というか周囲の誰もが呆れ返る。ようやく意味を理解したガルドブルムは、くくくと忍び笑いをもらした。 
「おいおい、そいつはお前、【強欲】っつーよりなんだ、がめついとでも言うんじゃねェか? 次から物は大事にするんだな」
「おっしゃるとおりです!」
「……ハ、恍けた野郎め。この俺といずれまた契約を交わしてみせろ。この血を滾らせる契約をよ……」
 歪虚に常識を諭される図は間抜けではあったが、遣り取りの結果ガルドブルムの戦意が完全に失せてしまっていた。「じゃあご褒美は何? お酒?」
「焦んな焦んな。別に考えてねェわけじゃない」
 メイプルが問いかける頃にはすっかりと緊張は解けていた。殺しあう空気ではない。目の前の竜が脅威でないことはないが、戦場を変える要素ではなくなった。アルビルダは落ち着き払ってガルドブルムの前に出た。
「じゃデートしましょ、ガルドブルム。良い喫茶店見つけたのよね」
 ガルドブルムは答えることなく、前屈みになって頭をアルビルダの前に突き合わせる。アルビルダは怯むことなくガルドブルムの目を見返していた。この悪竜が気まぐれを起こせば瞬きする間に噛み砕かれるだろう。開いた口からは熱気を伴った吐息が溢れ、それだけでアルビルダの肌はひりついていく。
「嬢ちゃん、前にも言ったとおりだ。てめえの欲は人間にしちゃあでかい。だが俺からすりゃあ、ガキが背伸びしてるようなもんだ。もっと欲望に身を焦がせ。そして欲望に見合う力を身につけろ。そうすれば俺が直にてめえの魂魄を蹂躙しつくしてやるさ」
「ガルドブルム、思い違いをしてるわ。私が貴方の物になるんじゃない。貴方が私の物になるのよ」
「…………クク……クックック……ハハハハ……!!」
 立ち上がったガルドブルムは堪えきれないように笑みを零し、ついには野太い笑い声を響かせながら、巨大な翼を羽ばたかせる。翼は周囲に風を巻き起こし、風は流れて暗雲を呼んだ。ただの風でないのは誰の目にも明らかだった。魔術師であるメイプルやヴィルマには、強大な魔力が溢れていくさまがありありと見えていた。
「遊びは遊びだ。だがゴホウビはくれてやる」
 暗雲は雨を呼び、雷を呼び、風は遂に嵐となった。
「これのどこが御褒美というんじゃ!?」
 ヴィルマの叫びは風の音にかき消され、もはや聞き取れなくなっていた雨は河を増水させ、どこも渡れるような水位ではなくなっていた。雲は光を遮り周囲は夜の間際のように暗くなっていく。嵐は生き物全てを飲み込み、小さな人間は身動きがとれなくなっている。それは、怠惰の巨人達も例外ではなかった。戦場は既に死地と化している。逃げようともがく怠惰の巨人達は、嵐を前に行くべき方角すら見失い始めていた。死門をくぐる巨人達に活路無し。そして引き返す先には光明なく、退路を示す標もなし。
「命を張ったぶんだけ、命でこたえるってことかな?」
 イーディスは雨の中、遠くに展開する戦場を眺めた。荒野に鉄林弾雨が降り注ぐ。戦場の趨勢は既に、大きく人類へと傾いていた。
 

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 渇望の瞳
    アルビルダ=ティーチ(ka0026
    人間(蒼)|17才|女性|霊闘士
  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • Pun Pun ぷー
    メープル・マラカイト(ka0347
    エルフ|25才|女性|魔術師

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/02/26 17:09:25
アイコン 行動予定(仮)
クリスティン・ガフ(ka1090
人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/02/27 16:45:31
アイコン 相談卓
アルビルダ=ティーチ(ka0026
人間(リアルブルー)|17才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/02/27 15:53:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/22 22:19:41