ゲスト
(ka0000)
【MV】ワルサー総帥、VDに興味なし
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/27 07:30
- 完成日
- 2015/03/07 12:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国北部に位置するルサスール領。
この地を治める貴族、カフェ・W・ルサスールは穏やかな治世を行うことで知られる。
領民からの信も厚く、文武にも秀でていた。
だが、その顔は目の前にある難題のために、曇っていた。
「ジロよ。答えてくれ、どうすればいい?」
その日、館を訪れていた従者にカフェは問いただした。
答えてくれと言われても、ジロにはその問題が見えない。
近頃は、天候もよく外敵の出現もない。
自分の主人が、なにに悩んでいるのか、皆目見当がつかない。
「私に答えられることでしたら、お答えしますが」
「うむ。サチコからチョコレートをもらうにはどうすればよいと思う?」
ジロは盛大に、ずっこけた。
起き上がり、なんの冗談かと言いかけて口を紡ぐ。カフェは、真剣だった。
「実はな。リアルブルーにはこの時期に、チョコレートを女の子が渡す習慣がある」
「はぁ」
「サチコはリアルブルーの風習が好きだろう? ならば、バレンタインもやりたいはずだ」
あいにく、サチコの口からバレンタインについて聞いたことはない。
あえて無視しているのか、知らないだけなのかは謎だ。
「お言葉ですが、カフェ様にサチコ様がチョコを渡す姿が想像できません」
ジロの辛辣な答えに、カフェはうなだれた。
現状、プレゼント的な行為に至ることはないだろうと、確信に近い思いを抱いていた。
「ならば、いかなる手段でもよい。サチコにチョコを作らせ、持ってくるのだ! これは、厳命である」
カフェは穏やかな性格である。
領民からの信も厚い。
が、極度のバカ親であったとジロは後に何度も語っている。
●
「わーっはっはっは、わた、俺様がワルワル団のワルサー総帥なのですわ……だぜ」
ルサスール領内の山小屋で、高笑いをするこの少女こそサチコその人である。
彼女は今、次なるワルの計画をたてていた。
「はぁ……」
その姿にジロは思わずため息を漏らす。
バレンタインなるものを、彼自身調べたが、今のサチコでは到底難しい行事だった。
この命令を完遂するだけの知恵は、彼にはない。
「タロ、しばらく山小屋を離れる」
「あ、あぁ」
並々ならぬ悲壮感に、タロはうなずいた。
作戦会議(笑)を中座し、山小屋をでる。
どういうわけか、チョコレートを作るには十分な用意が山小屋にはされている。
問題はやはり、サチコの誘導だ。これには、知恵を借りるより他はない。
「だが、今回は……」
報酬が限りなく少なくなる。
一抹の不安を感じつつ、ジロは馬を走らせるのだった。
王国北部に位置するルサスール領。
この地を治める貴族、カフェ・W・ルサスールは穏やかな治世を行うことで知られる。
領民からの信も厚く、文武にも秀でていた。
だが、その顔は目の前にある難題のために、曇っていた。
「ジロよ。答えてくれ、どうすればいい?」
その日、館を訪れていた従者にカフェは問いただした。
答えてくれと言われても、ジロにはその問題が見えない。
近頃は、天候もよく外敵の出現もない。
自分の主人が、なにに悩んでいるのか、皆目見当がつかない。
「私に答えられることでしたら、お答えしますが」
「うむ。サチコからチョコレートをもらうにはどうすればよいと思う?」
ジロは盛大に、ずっこけた。
起き上がり、なんの冗談かと言いかけて口を紡ぐ。カフェは、真剣だった。
「実はな。リアルブルーにはこの時期に、チョコレートを女の子が渡す習慣がある」
「はぁ」
「サチコはリアルブルーの風習が好きだろう? ならば、バレンタインもやりたいはずだ」
あいにく、サチコの口からバレンタインについて聞いたことはない。
あえて無視しているのか、知らないだけなのかは謎だ。
「お言葉ですが、カフェ様にサチコ様がチョコを渡す姿が想像できません」
ジロの辛辣な答えに、カフェはうなだれた。
現状、プレゼント的な行為に至ることはないだろうと、確信に近い思いを抱いていた。
「ならば、いかなる手段でもよい。サチコにチョコを作らせ、持ってくるのだ! これは、厳命である」
カフェは穏やかな性格である。
領民からの信も厚い。
が、極度のバカ親であったとジロは後に何度も語っている。
●
「わーっはっはっは、わた、俺様がワルワル団のワルサー総帥なのですわ……だぜ」
ルサスール領内の山小屋で、高笑いをするこの少女こそサチコその人である。
彼女は今、次なるワルの計画をたてていた。
「はぁ……」
その姿にジロは思わずため息を漏らす。
バレンタインなるものを、彼自身調べたが、今のサチコでは到底難しい行事だった。
この命令を完遂するだけの知恵は、彼にはない。
「タロ、しばらく山小屋を離れる」
「あ、あぁ」
並々ならぬ悲壮感に、タロはうなずいた。
作戦会議(笑)を中座し、山小屋をでる。
どういうわけか、チョコレートを作るには十分な用意が山小屋にはされている。
問題はやはり、サチコの誘導だ。これには、知恵を借りるより他はない。
「だが、今回は……」
報酬が限りなく少なくなる。
一抹の不安を感じつつ、ジロは馬を走らせるのだった。
リプレイ本文
●
王国北部に位置するルサスール領。
その一角にある山小屋に、数人のハンターが訪れていた。
「はーっはっはっは」
山小屋の中では、サチコが日課で高笑いの練習を行っていた。
「おー、やってるね」
「ハ……ふぇっ!? げほげほっ」
突然後ろから声をかけられ、サチコがむせる。
ごめんごめんと、声をかけた天竜寺 舞(ka0377)が謝りながら入ってくる。
続けてどやどやと入ってくる面々に、サチコは何事かと身構える。
「あんたがサチコね。あたしと同じく悪の字を背負っているらしいじゃない」
「はじめまして、ワルサー総帥。エルバッハ・リオン(ka2434)ともうします。よろしければ、エルとお呼びください」
「そうそう、あたしは紅緒(ka4255)っていうの。よろしくね」
紅緒とエルが相次いで自己紹介をする。
流れで、自己紹介会が始まり、律儀にサチコは「はじめまして」や「お久しぶりですわ」を何度も繰り返していた。
「それで、今日は一体全体、何のようなのです……だぜ?」
「リアルブルーに、バレンタインという行事があるんだがな」
ヴァイス(ka0364)の言葉に、サチコが反応する。
リアルブルーの行事と聞いては、じっとしていられないのだ。
「まぁ、なんだ」
少し考えた後、ヴァイスが告げる。
「チョコレートを友人とかに感謝を伝えるために渡すような行事だ」
「元々は、元々はだよ?」
舞が慌てて補足する。そこを逆手に取るという話なのだと、付け加えた。
「つまり、領民や領主にチョコレートを配って虫歯にしてしまおう大作戦!」
「む、虫歯に!?」
サチコが狼狽するのは、健康を害していいのかという部分だろうか。
それとも、サチコ自身が虫歯にトラウマでもあるのだろうか。
「ワルなのよね?」
紅緒が疑問形で聞き、サチコがぎこちなく頷く。
「だったら、やるときゃやるものよ」
「そーだそーだ」とここぞとばかりに、夢路 まよい(ka1328)が囃し立てる。
「コホン」
乱れた場を、ヴァイスが正す。
「そうなる前に、名乗りを上げていけば予防してくれるだろう」
「むしろ、健康促進だよね」
ヴァイスの題目に、舞が小さくツッコミを入れる。
聞こえたのかはわからないが、サチコが思案顔で「ふむ」と告げた。
「よし、このワルサー総帥が虫歯の怖さを広めてやろうではないか」
「それでこそ、ワルサー総帥、だよ!」
まよいにおだてられ、サチコが高笑いをする。
「確かに、これなら渡してくれそうだけど……」
ここまでじっとしていた月護 紫苑(ka3827)がポツリと呟く。
思いの込められていないチョコレートは、寂しい。
孤児院出身の紫苑にとって、家族を大事にする機会をふいにするなど、許せないのであった。
「サチコさんっ!」
いきなりの大声に、ビクリとサチコは身体を震わした。
「何なのだぜ」とまじまじと見つめるサチコの目を、紫苑はまっすぐに見返す。
「私はサチコさんに、本当のバレ……」
ここで舞が紫苑の口を塞ぎにはいる。
同時にハニーラヴァ・ベア(ka3793)が、紫苑を撤収させていく。
呆然としている間にも、三人は外に出ていった。
「気持ちはよーくわかるよ。けど、ここでこじらせると作ることすら嫌がるかもしれないじゃない」
「うん。それは僕も思った」
舞の説得に、ハニーラヴァも乗っかる。
山小屋を訪れる前に、紫苑はハンターたちには自身の気持ちを話していたのだ。
理解をした上で、舞は作ってもらうことが大事と説き伏せる。
「それにサチコだから、建前はあれでも……ねぇ」
「そうだよ!」と唐突にまよいが乱入する。
「あんなに面白そうな人いないものね」
褒めているのか貶しているのか、兎にも角にも、言いたいことは知れた。
「そう、ですね」と紫苑も頷く。
「しかし、ワルサー総帥ですか。彼女関連の依頼に参加するのは初めてですが、いわゆる反抗期なのでしょうか」
などと呟きながら、エルまで外に出てきた。
「さて、彼女にチョコレートを作ってもらうための説得は他の人に続けてもらうとして」
そう呟きながら、固まっている四人を見やると再び口を動かす。
「私は宣伝の準備をしますか」
エルが去った後、四人は逆に小屋へと戻っていく。
そこでは、紅緒が背負う『悪一文字』についてあれこれ話していた。
「ようはノリと勢いよ。領民にチョコを配るだけじゃないの……あと領主ね」
「そ、そうですわね! 悩んでいても仕方ないですわ……だぜ!」
前言撤回、意気投合気味にサチコが紅緒から励ましを受けていた。
その光景に、大丈夫そうかなと安心する一同であった。
「さて、と」
ヴァイスがここで立ち上がる。
「チョコの調達は俺に任せてくれ。こうみえてリッチマンなんだぜ俺は。人数は必要だから、ジロが手伝ってくれ」
「承知いたしました」
二つ返事で答え、ジロが伴う。
馬を借りて、館への道を行く。もちろん、ヴァイスにそんな金はないわけで。
山小屋を訪れる前に、ジロから事前にカフェへ話を通してもらっていた。
「待たせたな」
「こちらこそ……ジロが手間をかけてようだな」
カフェの視線を受け流し、ジロは窓の外を見る。
「好きでやっていることだから、責めてあげないでくれ」
「わかっている。娘も気難しいからな」とため息をつく。
暗い表情を浮かべていたカフェだったが、サチコがチョコ作りをしてくれると聞き、明るくなっていった。
最終的には、材料をどれだけ持って行っても構わないと言い出し、ジロに窘められた。
「さて後は」とおもむろにヴァイスは身体を前に持っていく。
カフェもつられて前のめりになった。
「総帥のヴァレンタイン特別バージョンの衣装を如何するかだな」
ヴァイスの言葉に、カフェも頷く。
何をやっているんだとジロが小鳥が飛ぶ空を眺めていた。
「親父さんはなにか希望があるかい」と問われ、ふむと思案した後、「普段着だな」と意外な答えを返す。
理由を聞いたヴァイスは、なるほどと感心した。
「後は任せておけ。希望が叶うように何とかしよう」
館を後にしたヴァイスは、材料を山小屋に届けるのだった。
●
山小屋に材料が届けられた頃、ルサスール領の男どもは沸き立っていた。
「サチコ様が皆さんにチョコレートを配ってくれますよー」
告知をしながら、エルは具体的な日時や場所の書かれたビラを配っていた。
山小屋で纏っていたドレスを脱ぎ、ビキニアーマーになっていた。
「ぼんきゅっ……ぼん様じゃぁああ」
老人の中には、そう叫ぶものもいたという。
頭の猫耳カチューシャと相まって、あざとさがうなぎのぼりである。
「はい、どうぞ。チョコレートを配ってくれるそうですよ」
格好は男の目を釘付けにしているが、やることは真面目である。
中には「あなたも大変ねぇ」と温かい飲み物をくれるおばちゃんもいた。
「私は大丈夫なのですが……」
「寒そうじゃない。ちゃんと飲みなさい。私も、チョコ貰いに行くわ」
男たちを中心に、サチコを盛り立てようという機運が高まっているのを感じた。
温かなお茶を啜りながら、エルは次の村に目標を絞るのだった。
エルの村めぐりの最中、小屋では戦争が始まろうとしていた。
「ちょっこれーと、ちょっこれーと! ちょこれーとーはー」
「わるわるさー!」
まよいの歌に合わせて、サチコが名乗りを上げる。
わるわるさーはワルワル団の挨拶。サチコの声に合わせて、わるわるさーと皆で拳を突き上げた。
「チョコは外国のお菓子だけれど、作ったことはあるわ」
「おぉー、それはたのもしいね」
紅緒の宣言に、ハニーラヴァが期待を寄せる。
ただし、成功するとはいっていないのはご愛嬌。
「お菓子作りなら、教えられることが多いと思います。人参料理得意ですから」
「お菓子に人参を使うの?」
「キャロットケーキが得意なんです」
にこやかに告げる紫苑に、舞は感心する。
「こういうのは妹の方が得意なんだよね」
苦笑しながら、お湯の準備をする。
まずは用意されたチョコレートの塊を溶かすところから始めるのだ。
「おおー、どろどろだー……あちち」
「ちょっ、まよいさん火傷しちゃいますよ」
おもむろにチョコへと手指を入れるまよいに、紫苑が慌てる。
「どんな形がいいのかしら」と紅緒があれやこれやと試行錯誤する。
歪だがそれはそれで趣がある。
一方で舞は、溶かしたチョコにナッツを混ぜてハートの型に流し込む。
「ハート……マーク?」
疑問形で口に出したサチコに、面々が警戒の色を出す。
下手に感づかれたは面倒である。ハニーラヴァがサチコにハートの型を見せて、嘯く。
「このハートマークは心臓を現し、お前の心臓は私がぶちぬいてやるという宣言を意味します」
もちろん、本来は感謝の意だが、裏にそういう意味があるのだとそれらしく述べる。
一方で紫苑はすりおろした人参をチョコレートに混ぜていた。
「すりおろした甘い人参を少し混ぜ込みます。型もにんじんの形をしたものを使えばかわいらしくなりますよ」
やいのやいのと作る中、サチコはカフェに食べさせるチョコレート作りという難題に挑む。
しかし、湯煎まで行ったあたりで、サチコの手が止まっていた。
「そうだ」と声をかけたのは、舞だ。
「領主にはとびきり大きくて甘いモノを作ればいいんじゃないかな?」
「そうだね。大きいことはワルいことだから」
手についたチョコレートを舐め取りながら、まよいも乗っかる。
「領主が一番の虫歯になれば、ワルワル団の知名度アップにも効果的じゃない?」
「それにチョコレートが黒いのはお前を焼き殺してやるという意味で、ホワイトチョコレートは人骨を……」
「それは流石に言い過ぎよ。サチコ引いてるじゃない」
人骨とまでいわれ、サチコの乙女な部分が怯えを見せていた。
紅緒に指摘され、これは冗談とハニーラヴァは訂正した。
「何にせよ、大きいのには賛成ね」と紅緒も舞の意見に同意する。
「なるほど、そうですわね……だぜ」
うん、と頷いてサチコは一番大きいハート型を手に取る。
トッピングについては、紫苑と舞に倣って少しの人参とナッツを入れてみる。
色合いはチョコが完全に勝るので、人参は完全に隠し味だった。
「ところで、サチコはさー」
チョコレートが固まるまでの間、おもむろに舞が聞いてきた。
「親父さんのことをどう思っているの?」
「え゛!?」
いきなりの問いかけに、サチコの声が濁る。
「私も気になるな―」と話題の逃げ道をまよいが塞ぐ。
紫苑も真剣な表情でサチコを見ていた。
「わ、わるい人なの……だぜ」と目をそらす。
「本当のところはー?」
間髪入れず、まよいが重ねてきた。
観念したように、サチコが小さな声で答えを告げる。
紫苑の顔が綻ぶ。
そして、
「だったら、大切にしなよ」
紅緒がきっぱりとサチコに言い切るのであった。
その様子を眺めていたヴァイスが、サチコをそっと呼び出す。
手早くサチコへ3枚のメッセージカードを渡した。
「総帥としてではなく、サチコ自身として誰かに「何か」を伝えたかったらチョコと一緒に使ってくれ」
迷っているような表情で見上げるサチコの目をじっと見返す。
「もちろん、使わなくっても構わないが。一応、な」
告げるだけ告げ、ヴァイスはその場を後にした。
●
エルのビラの効果もあってか、領内の男たちを始めとする列がいたるところで発生していた。
「あの格好ではないのかのぅ」としょげる色欲老人もいたが気にしてはいけない。
「あの格好?」とエルを見たサチコには、
「何のことでしょうか。私にはさっぱりです」
しれっと言ってのけ、小首を傾げるのであった。
そんなエルは再びドレスを身にまとって、サチコの手伝いをしていた。
「おめでたいチョコレートだよ」とまよいも盛大にチョコレートを撒いていく。
舞の提案で、白い包装紙に包み、金の折り鶴を取り付けた。
紅白の水引で締めれば、めでたさが上がっていく。
「さぁ、サチコも盛大にいくわよ」と紅緒に促され、サチコも声を張り上げる。
気がつけば、チョコレートは自分たちが食べる分程にまで減っていた。
「問題は、次……ですね」
紫苑が小さくつぶやき、サチコを見やる。
残るはカフェの分だった。
「ちょ、チョコレートなのだぜ! これでぶくぶく太って虫歯になるといいのだぜ!」
たどたどしく台詞を喋りながら、サチコがカフェにチョコを手渡す。
「ピンクのリボンは血管を表し、いつでもお前の血管を引きちぎってやるという意味です」
ハニーラヴァが大言壮語にサチコに吹き込み、愛らしいラッピングを完成させていた。
しかも、
「笑顔はもともと原始哺乳類の威嚇と恐怖の表情で、笑顔で手渡すと相手は恐怖で飛び上がって失神することもあります」
などと嘯いたものだから、超笑顔である。
これにはさしものカフェも驚きを通り越した感激で、本当に失神しかけた。
成し遂げたぜ、と満足そうなサチコは意気揚々と去っていく。
「意外とあっさりだったな。さて、開けてみようか」
ヴァイスに促され、カフェが包みを開ければひらひらと一枚の紙が落ちてきた。
自分が渡したメッセージカードだと気付き、ヴァイスの顔がほころぶ。
「私は、私にしかできないことを探したいのです。見つかるまで、私のわがままをお許し下さい」
精一杯のサチコの気持ちだとカフェは勘付く。
表立っては発することのない、サチコとしての気持ちなのである。
「お父さんに気持ちが伝わるといいですね」
紫苑にそう言われ、サチコはぷいっとそっぽを向く。
その頬が仄かに紅いことは、誰も指摘……
「恥ずかしがってるー」とまよいが指摘した。
「ワルサー総帥は恥ずかしがったり、しないのですわ……だぜ!」
「強がってるわね」
「強がってるね」
紅緒と舞にいわれ、より顔を真赤にする。
ハニーラヴァとエルがその様子を遠巻きに眺めていた。
「しかし、彼女もいつまで続けるつもりでしょうか。まあ、穏便に収まればいいのですが」
「根は真面目そうだから、大丈夫だよ」
エルの呟きに、律儀にハニーラヴァが答える。
サチコは顔が紅いのを夕日のせいにして、がなっているのだった。
追記。
サチコから感謝の言葉つきチョコを貰ったジロとタロ。
この両名は、感激のあまり、本当に失神したという……。
王国北部に位置するルサスール領。
その一角にある山小屋に、数人のハンターが訪れていた。
「はーっはっはっは」
山小屋の中では、サチコが日課で高笑いの練習を行っていた。
「おー、やってるね」
「ハ……ふぇっ!? げほげほっ」
突然後ろから声をかけられ、サチコがむせる。
ごめんごめんと、声をかけた天竜寺 舞(ka0377)が謝りながら入ってくる。
続けてどやどやと入ってくる面々に、サチコは何事かと身構える。
「あんたがサチコね。あたしと同じく悪の字を背負っているらしいじゃない」
「はじめまして、ワルサー総帥。エルバッハ・リオン(ka2434)ともうします。よろしければ、エルとお呼びください」
「そうそう、あたしは紅緒(ka4255)っていうの。よろしくね」
紅緒とエルが相次いで自己紹介をする。
流れで、自己紹介会が始まり、律儀にサチコは「はじめまして」や「お久しぶりですわ」を何度も繰り返していた。
「それで、今日は一体全体、何のようなのです……だぜ?」
「リアルブルーに、バレンタインという行事があるんだがな」
ヴァイス(ka0364)の言葉に、サチコが反応する。
リアルブルーの行事と聞いては、じっとしていられないのだ。
「まぁ、なんだ」
少し考えた後、ヴァイスが告げる。
「チョコレートを友人とかに感謝を伝えるために渡すような行事だ」
「元々は、元々はだよ?」
舞が慌てて補足する。そこを逆手に取るという話なのだと、付け加えた。
「つまり、領民や領主にチョコレートを配って虫歯にしてしまおう大作戦!」
「む、虫歯に!?」
サチコが狼狽するのは、健康を害していいのかという部分だろうか。
それとも、サチコ自身が虫歯にトラウマでもあるのだろうか。
「ワルなのよね?」
紅緒が疑問形で聞き、サチコがぎこちなく頷く。
「だったら、やるときゃやるものよ」
「そーだそーだ」とここぞとばかりに、夢路 まよい(ka1328)が囃し立てる。
「コホン」
乱れた場を、ヴァイスが正す。
「そうなる前に、名乗りを上げていけば予防してくれるだろう」
「むしろ、健康促進だよね」
ヴァイスの題目に、舞が小さくツッコミを入れる。
聞こえたのかはわからないが、サチコが思案顔で「ふむ」と告げた。
「よし、このワルサー総帥が虫歯の怖さを広めてやろうではないか」
「それでこそ、ワルサー総帥、だよ!」
まよいにおだてられ、サチコが高笑いをする。
「確かに、これなら渡してくれそうだけど……」
ここまでじっとしていた月護 紫苑(ka3827)がポツリと呟く。
思いの込められていないチョコレートは、寂しい。
孤児院出身の紫苑にとって、家族を大事にする機会をふいにするなど、許せないのであった。
「サチコさんっ!」
いきなりの大声に、ビクリとサチコは身体を震わした。
「何なのだぜ」とまじまじと見つめるサチコの目を、紫苑はまっすぐに見返す。
「私はサチコさんに、本当のバレ……」
ここで舞が紫苑の口を塞ぎにはいる。
同時にハニーラヴァ・ベア(ka3793)が、紫苑を撤収させていく。
呆然としている間にも、三人は外に出ていった。
「気持ちはよーくわかるよ。けど、ここでこじらせると作ることすら嫌がるかもしれないじゃない」
「うん。それは僕も思った」
舞の説得に、ハニーラヴァも乗っかる。
山小屋を訪れる前に、紫苑はハンターたちには自身の気持ちを話していたのだ。
理解をした上で、舞は作ってもらうことが大事と説き伏せる。
「それにサチコだから、建前はあれでも……ねぇ」
「そうだよ!」と唐突にまよいが乱入する。
「あんなに面白そうな人いないものね」
褒めているのか貶しているのか、兎にも角にも、言いたいことは知れた。
「そう、ですね」と紫苑も頷く。
「しかし、ワルサー総帥ですか。彼女関連の依頼に参加するのは初めてですが、いわゆる反抗期なのでしょうか」
などと呟きながら、エルまで外に出てきた。
「さて、彼女にチョコレートを作ってもらうための説得は他の人に続けてもらうとして」
そう呟きながら、固まっている四人を見やると再び口を動かす。
「私は宣伝の準備をしますか」
エルが去った後、四人は逆に小屋へと戻っていく。
そこでは、紅緒が背負う『悪一文字』についてあれこれ話していた。
「ようはノリと勢いよ。領民にチョコを配るだけじゃないの……あと領主ね」
「そ、そうですわね! 悩んでいても仕方ないですわ……だぜ!」
前言撤回、意気投合気味にサチコが紅緒から励ましを受けていた。
その光景に、大丈夫そうかなと安心する一同であった。
「さて、と」
ヴァイスがここで立ち上がる。
「チョコの調達は俺に任せてくれ。こうみえてリッチマンなんだぜ俺は。人数は必要だから、ジロが手伝ってくれ」
「承知いたしました」
二つ返事で答え、ジロが伴う。
馬を借りて、館への道を行く。もちろん、ヴァイスにそんな金はないわけで。
山小屋を訪れる前に、ジロから事前にカフェへ話を通してもらっていた。
「待たせたな」
「こちらこそ……ジロが手間をかけてようだな」
カフェの視線を受け流し、ジロは窓の外を見る。
「好きでやっていることだから、責めてあげないでくれ」
「わかっている。娘も気難しいからな」とため息をつく。
暗い表情を浮かべていたカフェだったが、サチコがチョコ作りをしてくれると聞き、明るくなっていった。
最終的には、材料をどれだけ持って行っても構わないと言い出し、ジロに窘められた。
「さて後は」とおもむろにヴァイスは身体を前に持っていく。
カフェもつられて前のめりになった。
「総帥のヴァレンタイン特別バージョンの衣装を如何するかだな」
ヴァイスの言葉に、カフェも頷く。
何をやっているんだとジロが小鳥が飛ぶ空を眺めていた。
「親父さんはなにか希望があるかい」と問われ、ふむと思案した後、「普段着だな」と意外な答えを返す。
理由を聞いたヴァイスは、なるほどと感心した。
「後は任せておけ。希望が叶うように何とかしよう」
館を後にしたヴァイスは、材料を山小屋に届けるのだった。
●
山小屋に材料が届けられた頃、ルサスール領の男どもは沸き立っていた。
「サチコ様が皆さんにチョコレートを配ってくれますよー」
告知をしながら、エルは具体的な日時や場所の書かれたビラを配っていた。
山小屋で纏っていたドレスを脱ぎ、ビキニアーマーになっていた。
「ぼんきゅっ……ぼん様じゃぁああ」
老人の中には、そう叫ぶものもいたという。
頭の猫耳カチューシャと相まって、あざとさがうなぎのぼりである。
「はい、どうぞ。チョコレートを配ってくれるそうですよ」
格好は男の目を釘付けにしているが、やることは真面目である。
中には「あなたも大変ねぇ」と温かい飲み物をくれるおばちゃんもいた。
「私は大丈夫なのですが……」
「寒そうじゃない。ちゃんと飲みなさい。私も、チョコ貰いに行くわ」
男たちを中心に、サチコを盛り立てようという機運が高まっているのを感じた。
温かなお茶を啜りながら、エルは次の村に目標を絞るのだった。
エルの村めぐりの最中、小屋では戦争が始まろうとしていた。
「ちょっこれーと、ちょっこれーと! ちょこれーとーはー」
「わるわるさー!」
まよいの歌に合わせて、サチコが名乗りを上げる。
わるわるさーはワルワル団の挨拶。サチコの声に合わせて、わるわるさーと皆で拳を突き上げた。
「チョコは外国のお菓子だけれど、作ったことはあるわ」
「おぉー、それはたのもしいね」
紅緒の宣言に、ハニーラヴァが期待を寄せる。
ただし、成功するとはいっていないのはご愛嬌。
「お菓子作りなら、教えられることが多いと思います。人参料理得意ですから」
「お菓子に人参を使うの?」
「キャロットケーキが得意なんです」
にこやかに告げる紫苑に、舞は感心する。
「こういうのは妹の方が得意なんだよね」
苦笑しながら、お湯の準備をする。
まずは用意されたチョコレートの塊を溶かすところから始めるのだ。
「おおー、どろどろだー……あちち」
「ちょっ、まよいさん火傷しちゃいますよ」
おもむろにチョコへと手指を入れるまよいに、紫苑が慌てる。
「どんな形がいいのかしら」と紅緒があれやこれやと試行錯誤する。
歪だがそれはそれで趣がある。
一方で舞は、溶かしたチョコにナッツを混ぜてハートの型に流し込む。
「ハート……マーク?」
疑問形で口に出したサチコに、面々が警戒の色を出す。
下手に感づかれたは面倒である。ハニーラヴァがサチコにハートの型を見せて、嘯く。
「このハートマークは心臓を現し、お前の心臓は私がぶちぬいてやるという宣言を意味します」
もちろん、本来は感謝の意だが、裏にそういう意味があるのだとそれらしく述べる。
一方で紫苑はすりおろした人参をチョコレートに混ぜていた。
「すりおろした甘い人参を少し混ぜ込みます。型もにんじんの形をしたものを使えばかわいらしくなりますよ」
やいのやいのと作る中、サチコはカフェに食べさせるチョコレート作りという難題に挑む。
しかし、湯煎まで行ったあたりで、サチコの手が止まっていた。
「そうだ」と声をかけたのは、舞だ。
「領主にはとびきり大きくて甘いモノを作ればいいんじゃないかな?」
「そうだね。大きいことはワルいことだから」
手についたチョコレートを舐め取りながら、まよいも乗っかる。
「領主が一番の虫歯になれば、ワルワル団の知名度アップにも効果的じゃない?」
「それにチョコレートが黒いのはお前を焼き殺してやるという意味で、ホワイトチョコレートは人骨を……」
「それは流石に言い過ぎよ。サチコ引いてるじゃない」
人骨とまでいわれ、サチコの乙女な部分が怯えを見せていた。
紅緒に指摘され、これは冗談とハニーラヴァは訂正した。
「何にせよ、大きいのには賛成ね」と紅緒も舞の意見に同意する。
「なるほど、そうですわね……だぜ」
うん、と頷いてサチコは一番大きいハート型を手に取る。
トッピングについては、紫苑と舞に倣って少しの人参とナッツを入れてみる。
色合いはチョコが完全に勝るので、人参は完全に隠し味だった。
「ところで、サチコはさー」
チョコレートが固まるまでの間、おもむろに舞が聞いてきた。
「親父さんのことをどう思っているの?」
「え゛!?」
いきなりの問いかけに、サチコの声が濁る。
「私も気になるな―」と話題の逃げ道をまよいが塞ぐ。
紫苑も真剣な表情でサチコを見ていた。
「わ、わるい人なの……だぜ」と目をそらす。
「本当のところはー?」
間髪入れず、まよいが重ねてきた。
観念したように、サチコが小さな声で答えを告げる。
紫苑の顔が綻ぶ。
そして、
「だったら、大切にしなよ」
紅緒がきっぱりとサチコに言い切るのであった。
その様子を眺めていたヴァイスが、サチコをそっと呼び出す。
手早くサチコへ3枚のメッセージカードを渡した。
「総帥としてではなく、サチコ自身として誰かに「何か」を伝えたかったらチョコと一緒に使ってくれ」
迷っているような表情で見上げるサチコの目をじっと見返す。
「もちろん、使わなくっても構わないが。一応、な」
告げるだけ告げ、ヴァイスはその場を後にした。
●
エルのビラの効果もあってか、領内の男たちを始めとする列がいたるところで発生していた。
「あの格好ではないのかのぅ」としょげる色欲老人もいたが気にしてはいけない。
「あの格好?」とエルを見たサチコには、
「何のことでしょうか。私にはさっぱりです」
しれっと言ってのけ、小首を傾げるのであった。
そんなエルは再びドレスを身にまとって、サチコの手伝いをしていた。
「おめでたいチョコレートだよ」とまよいも盛大にチョコレートを撒いていく。
舞の提案で、白い包装紙に包み、金の折り鶴を取り付けた。
紅白の水引で締めれば、めでたさが上がっていく。
「さぁ、サチコも盛大にいくわよ」と紅緒に促され、サチコも声を張り上げる。
気がつけば、チョコレートは自分たちが食べる分程にまで減っていた。
「問題は、次……ですね」
紫苑が小さくつぶやき、サチコを見やる。
残るはカフェの分だった。
「ちょ、チョコレートなのだぜ! これでぶくぶく太って虫歯になるといいのだぜ!」
たどたどしく台詞を喋りながら、サチコがカフェにチョコを手渡す。
「ピンクのリボンは血管を表し、いつでもお前の血管を引きちぎってやるという意味です」
ハニーラヴァが大言壮語にサチコに吹き込み、愛らしいラッピングを完成させていた。
しかも、
「笑顔はもともと原始哺乳類の威嚇と恐怖の表情で、笑顔で手渡すと相手は恐怖で飛び上がって失神することもあります」
などと嘯いたものだから、超笑顔である。
これにはさしものカフェも驚きを通り越した感激で、本当に失神しかけた。
成し遂げたぜ、と満足そうなサチコは意気揚々と去っていく。
「意外とあっさりだったな。さて、開けてみようか」
ヴァイスに促され、カフェが包みを開ければひらひらと一枚の紙が落ちてきた。
自分が渡したメッセージカードだと気付き、ヴァイスの顔がほころぶ。
「私は、私にしかできないことを探したいのです。見つかるまで、私のわがままをお許し下さい」
精一杯のサチコの気持ちだとカフェは勘付く。
表立っては発することのない、サチコとしての気持ちなのである。
「お父さんに気持ちが伝わるといいですね」
紫苑にそう言われ、サチコはぷいっとそっぽを向く。
その頬が仄かに紅いことは、誰も指摘……
「恥ずかしがってるー」とまよいが指摘した。
「ワルサー総帥は恥ずかしがったり、しないのですわ……だぜ!」
「強がってるわね」
「強がってるね」
紅緒と舞にいわれ、より顔を真赤にする。
ハニーラヴァとエルがその様子を遠巻きに眺めていた。
「しかし、彼女もいつまで続けるつもりでしょうか。まあ、穏便に収まればいいのですが」
「根は真面目そうだから、大丈夫だよ」
エルの呟きに、律儀にハニーラヴァが答える。
サチコは顔が紅いのを夕日のせいにして、がなっているのだった。
追記。
サチコから感謝の言葉つきチョコを貰ったジロとタロ。
この両名は、感激のあまり、本当に失神したという……。
依頼結果
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相談卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/26 20:13:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 18:48:46 |