ゲスト
(ka0000)
【不動】ポンコツの本気と憲兵の戦う理由
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/02/26 12:00
- 完成日
- 2015/03/01 22:47
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国の山間部にその街は屍を晒していた。
かつては、鉱物性マテリアルを産出する鉱山として栄えた街であった。
しかし、採掘量の減少と、マテリアルの枯渇による汚染の拡大と雑魔の発生などが重なり、鉱山が廃鉱となると街そのものも打ち捨てられ、荒廃と雑魔の蹂躙するに任された。
跡地開発の目途もなく、ただ打ち捨てられ忘れ去られ、荒廃を待つだけの村。しかし、その村に続く荒れ果てた街道を帝国の誇る魔導トラックが今、土埃を巻き上げて進む。
列の真ん中を走る三台のトラックの荷台には、防水シートをかけられた4mほどの機械が一台ずつ積まれている。
「しかし、何故軍が我々錬魔院の頼みに、こうも易々と応じたのでしょうか?」
そう首を傾げたのは錬魔院の技術者の一人だ。
「今回の実験……いや、デモンストレーションには色々な面で軍の協力が必要だったからな。元々水面下で交渉は進めていたらしい。如何せん軍にとってもウチにとっても色々と初めて尽くしで、人選に苦労したらしいが、開発チームの一つが、ある軍人を名指しで指名したところ、先方も二つ返事で引き受けたんだと」
「それが、あの女ドワーフなんですか? ……しかし、あの人たち、工兵とか整備兵じゃなく憲兵でしょう? 機械に強い憲兵というのも、何かしっくりこないですね。……まあ、要人警護は確かに専門でしょうが」
「その指名したチームが、CAMの実験場を目指して暴走した事件な。その時に何かあったらしい。……いや、俺も何度か話してみたが、知識と技術は信用は出来る。まあ、ドワーフってのはもともと器用だし、長生きだからな。軍に入る前に色々あったんだろう」
その頃、オレーシャは先頭のトラックの荷台で、じっと物思いに耽っていた
「兵長。最後尾車より報告。以前周囲に異常なし。このままいけば予定時刻に到着します……兵長?」
●
『わぁ! 動いた! ねぇ、他にはどんな機械があるの? おにいちゃん!』
『ドワーフが器用なのは知っていたけど……オレーシャは機械に強いんだな。よし、次は、俺がリアルブルーで子供の頃に作ったこれを分解して、組み立ててみよう』
それは、過ぎ去ってしまった遠い穏やかな時代の記憶。
私がまだ帝国北部の故郷にいた頃の記憶だ。
彼はリアルブルーにいた頃はどこかの大企業のエンジニア……上級技術者だったらしい。
『おにいちゃん、怖いよ……』
『ここに隠れていなさい。大丈夫、ここは帝国だ。すぐに師団が駈けつけて来る』
私が生きている彼の姿を見たのは、それが最後だった。
連中は、当時の政権の弱体化を良いことに地方で跋扈していた盗賊団だった。リアルブルーからの転移者で、ドワーフとの交流もある事から金目の物目当てで彼の家を襲ったのだ。
賊には三下とはいえ覚醒者もおり、争いごとの嫌いな彼は精霊のとの契約すら行っていなかった。
恐る恐る外の様子をうかがった私は変わり果てた彼の姿を見たのだろうが、幼い精神が拒絶したのかそれは霞んで思い出せない。
かわりに私の脳裏に焼きついているのは。
『ぐぎゃあああ!? 腕が、俺の腕が!』
『勝手なマネしやがって』
モヒカンなる珍妙な髪形をしたこれまたチンピラにしか見えないひょろ長い男と。
『一人も殺すな』
あの頃はまだ、眼帯をしていなかった我が副師団長の姿だった。
『この機会に組織を根絶やしにする。口だけは動くようにしておけ』
●
「兵長? ……もしかして、まだ傷が……」
部下が心配そうな声を出す。
オレーシャはCAMを巡る一連の事件で十三魔の一人アイゼンハンダーと接触し、体に穴を開けられるほどの重傷を受けたのが、ようやく原隊復帰の許可が出たばかりであった。
「……ああ、すまない」
ようやく意識を過去から現在に引き戻したオレーシャは、ハンターたちの方を振り向いて状況の説明を始める。
「今回の依頼には二つの目的がある。我々が向かう鉱山町には旧政権時代に採掘された大量の鉱物性マテリアルが残されている。資料の信憑背には疑問が残るが、CAMの動力が鉱物性マテリアルで代用可能と判明している以上、探す価値はあるだろう」
次に、オレーシャは悪戯っぽく笑った。
「もう一つは……先ほどから諸君も気になっているアレだ。我が国の開発した魔導アーマーもまた、先の実験の結果その性能を大きく前進させたことは既に諸君らも知ってくれていると思う。今回の依頼の目的はそのデモンストレーションだ」
やがて、トラックが目的に辿り着くと、荷台から次々と防水シートが取り払われていく。
起動のため忙しく動き回る帝国兵士や技術者たちを、悠然と構えた三人の人物が眺めていた。
「ナナミ河には怠惰の軍勢が集まっているようですが、こんな所にアーマーを投入して帝国は大丈夫なのですかな?」
男の一人が尋ねた。
三人は、全て仮面やフードで素顔を隠しておりその正体は判然としない。
「無論、帝国から辺境に向けて、大量のアーマーが輸送中です。……あなたがたはアーマーの性能を最前線でご覧になりたいとおっしゃるのか?」
既にアーマーに乗り込んでいたオレーシャが首を傾げる
「と、と、とんでんもない!」
マスクをしたやや小太りの男が慌てて首を振った。
「わ、わたしには貴国の魔導アーマーとやらの性能を確かめる大切な目的がある。も、もしわたしの身に何かあったら、困るのはアーマーを売りたい帝国の方ですぞぉ!」
「ご心配無く。ナナミ河からもたらされるのは、魔導アーマーの輝かしい戦果であることはお約束出来ます。今回のデモンストレーションの目的は、実戦における魔導アーマーの性能をより詳細にご覧いただくためのものだ」
ここで、それまでじっと黙っていた、フードを目深に被った男がようやく口を開いた。
「同時に、辺境に注目が集まっているこの機会を利用して帝国内で蠢動を試みる国内の歪虚や、不穏分子への牽制をも兼ねる、といったところか。……なるほど、流石は悪名高い第一師団憲兵隊の兵長殿だ」
「その通り」
皮肉な口調に淡々とオレーシャは応じた。
「最前線で巨大な脅威と戦わなければ人類は守れない。だが、国内に潜む脅威とて、一度牙を剥けば人の命を奪う事には変わりが無い。最前線で戦う者たちのために、国内を守るのが我々の務めですので」
トラック上の三台のアーマーは次々と起動し、無骨だが力強い四本の脚が大地を踏みしめた。
かつては、鉱物性マテリアルを産出する鉱山として栄えた街であった。
しかし、採掘量の減少と、マテリアルの枯渇による汚染の拡大と雑魔の発生などが重なり、鉱山が廃鉱となると街そのものも打ち捨てられ、荒廃と雑魔の蹂躙するに任された。
跡地開発の目途もなく、ただ打ち捨てられ忘れ去られ、荒廃を待つだけの村。しかし、その村に続く荒れ果てた街道を帝国の誇る魔導トラックが今、土埃を巻き上げて進む。
列の真ん中を走る三台のトラックの荷台には、防水シートをかけられた4mほどの機械が一台ずつ積まれている。
「しかし、何故軍が我々錬魔院の頼みに、こうも易々と応じたのでしょうか?」
そう首を傾げたのは錬魔院の技術者の一人だ。
「今回の実験……いや、デモンストレーションには色々な面で軍の協力が必要だったからな。元々水面下で交渉は進めていたらしい。如何せん軍にとってもウチにとっても色々と初めて尽くしで、人選に苦労したらしいが、開発チームの一つが、ある軍人を名指しで指名したところ、先方も二つ返事で引き受けたんだと」
「それが、あの女ドワーフなんですか? ……しかし、あの人たち、工兵とか整備兵じゃなく憲兵でしょう? 機械に強い憲兵というのも、何かしっくりこないですね。……まあ、要人警護は確かに専門でしょうが」
「その指名したチームが、CAMの実験場を目指して暴走した事件な。その時に何かあったらしい。……いや、俺も何度か話してみたが、知識と技術は信用は出来る。まあ、ドワーフってのはもともと器用だし、長生きだからな。軍に入る前に色々あったんだろう」
その頃、オレーシャは先頭のトラックの荷台で、じっと物思いに耽っていた
「兵長。最後尾車より報告。以前周囲に異常なし。このままいけば予定時刻に到着します……兵長?」
●
『わぁ! 動いた! ねぇ、他にはどんな機械があるの? おにいちゃん!』
『ドワーフが器用なのは知っていたけど……オレーシャは機械に強いんだな。よし、次は、俺がリアルブルーで子供の頃に作ったこれを分解して、組み立ててみよう』
それは、過ぎ去ってしまった遠い穏やかな時代の記憶。
私がまだ帝国北部の故郷にいた頃の記憶だ。
彼はリアルブルーにいた頃はどこかの大企業のエンジニア……上級技術者だったらしい。
『おにいちゃん、怖いよ……』
『ここに隠れていなさい。大丈夫、ここは帝国だ。すぐに師団が駈けつけて来る』
私が生きている彼の姿を見たのは、それが最後だった。
連中は、当時の政権の弱体化を良いことに地方で跋扈していた盗賊団だった。リアルブルーからの転移者で、ドワーフとの交流もある事から金目の物目当てで彼の家を襲ったのだ。
賊には三下とはいえ覚醒者もおり、争いごとの嫌いな彼は精霊のとの契約すら行っていなかった。
恐る恐る外の様子をうかがった私は変わり果てた彼の姿を見たのだろうが、幼い精神が拒絶したのかそれは霞んで思い出せない。
かわりに私の脳裏に焼きついているのは。
『ぐぎゃあああ!? 腕が、俺の腕が!』
『勝手なマネしやがって』
モヒカンなる珍妙な髪形をしたこれまたチンピラにしか見えないひょろ長い男と。
『一人も殺すな』
あの頃はまだ、眼帯をしていなかった我が副師団長の姿だった。
『この機会に組織を根絶やしにする。口だけは動くようにしておけ』
●
「兵長? ……もしかして、まだ傷が……」
部下が心配そうな声を出す。
オレーシャはCAMを巡る一連の事件で十三魔の一人アイゼンハンダーと接触し、体に穴を開けられるほどの重傷を受けたのが、ようやく原隊復帰の許可が出たばかりであった。
「……ああ、すまない」
ようやく意識を過去から現在に引き戻したオレーシャは、ハンターたちの方を振り向いて状況の説明を始める。
「今回の依頼には二つの目的がある。我々が向かう鉱山町には旧政権時代に採掘された大量の鉱物性マテリアルが残されている。資料の信憑背には疑問が残るが、CAMの動力が鉱物性マテリアルで代用可能と判明している以上、探す価値はあるだろう」
次に、オレーシャは悪戯っぽく笑った。
「もう一つは……先ほどから諸君も気になっているアレだ。我が国の開発した魔導アーマーもまた、先の実験の結果その性能を大きく前進させたことは既に諸君らも知ってくれていると思う。今回の依頼の目的はそのデモンストレーションだ」
やがて、トラックが目的に辿り着くと、荷台から次々と防水シートが取り払われていく。
起動のため忙しく動き回る帝国兵士や技術者たちを、悠然と構えた三人の人物が眺めていた。
「ナナミ河には怠惰の軍勢が集まっているようですが、こんな所にアーマーを投入して帝国は大丈夫なのですかな?」
男の一人が尋ねた。
三人は、全て仮面やフードで素顔を隠しておりその正体は判然としない。
「無論、帝国から辺境に向けて、大量のアーマーが輸送中です。……あなたがたはアーマーの性能を最前線でご覧になりたいとおっしゃるのか?」
既にアーマーに乗り込んでいたオレーシャが首を傾げる
「と、と、とんでんもない!」
マスクをしたやや小太りの男が慌てて首を振った。
「わ、わたしには貴国の魔導アーマーとやらの性能を確かめる大切な目的がある。も、もしわたしの身に何かあったら、困るのはアーマーを売りたい帝国の方ですぞぉ!」
「ご心配無く。ナナミ河からもたらされるのは、魔導アーマーの輝かしい戦果であることはお約束出来ます。今回のデモンストレーションの目的は、実戦における魔導アーマーの性能をより詳細にご覧いただくためのものだ」
ここで、それまでじっと黙っていた、フードを目深に被った男がようやく口を開いた。
「同時に、辺境に注目が集まっているこの機会を利用して帝国内で蠢動を試みる国内の歪虚や、不穏分子への牽制をも兼ねる、といったところか。……なるほど、流石は悪名高い第一師団憲兵隊の兵長殿だ」
「その通り」
皮肉な口調に淡々とオレーシャは応じた。
「最前線で巨大な脅威と戦わなければ人類は守れない。だが、国内に潜む脅威とて、一度牙を剥けば人の命を奪う事には変わりが無い。最前線で戦う者たちのために、国内を守るのが我々の務めですので」
トラック上の三台のアーマーは次々と起動し、無骨だが力強い四本の脚が大地を踏みしめた。
リプレイ本文
「瓦礫の向こうの様子はどうだ?」
魔導アーマーを操縦する鳴神 真吾(ka2626)がそう、複座の八島 陽(ka1442)に尋ねた瞬間、廃墟にライフルの乾いた銃声が反響する。鬼塚 雷蔵(ka3963)は、自身が撃ち倒した雑魔が黒い塵と化していくのを見下ろしながら、瓦礫の向こうの仲間たちに通信を行う。
「俺だ。隠れていた雑魔は全て片付けた」
これを受けて陽はアーマを操縦する真吾へ合図を送る。
「進路クリア。前進を」
アーマーを前進させる真吾。
「つまらんな」
と、その時アーマーの背後から辛辣な声が。
「さっきから雑魔を倒しているのは、あの男だけではないか。生身の歩兵を前に立てて安全な道を行くのが帝国の最新兵器とやらか」
三人の要人の一人であるフードを目深に被った男だ。
本来なら、オレーシャたちに守られて、西側を探索する班に同行しているはずの彼が何故此方にいるのかについては説明が必要だろう。
「我々には、あらゆる状況下でのアーマーの運用を確認する権利がある」
危険だと諭す帝国憲兵をこう一蹴したフードの男は、真吾たち西班に同行するといって譲らなかった。
「後で、東側に同行した彼らと、私のレポートを合わせれば、より詳細なデーターが集まるのではないか?」
フードの男のいう事にも一理あった。何より、今回の依頼はその性質上彼らに強い発言権がある。
かくして、オレーシャは指揮下の兵士のなかから手練れのものをこの要人の警護のため西側に回すことでしぶしぶ承諾したのである。
真吾が口を開いた。
「最新兵器だからと無茶をさせては何にもならないでしょう……ロマンを追い求めるは、基本がしっかり出来てからの話だ」
「ふむ。それは正しい理屈だ。だが、多少は無茶も見せてもらわないと評価のしようもない」
今度は陽が何か言い返そうとしたとき、再度瓦礫の向こうから雷蔵の発砲する銃声が響いた。それも、一発や二発ではない。
「雷蔵さん!?」
慌てて無線機に怒鳴る陽。
『雑魔の群れだ! 数が多すぎる。一旦そっちまで後退するぞ!』
陽は地図を確認して叫んだ。
「ここを突っ切れば倉庫まですぐです!」
「ようやく出番だな!」
鳴神が速度を上げるのと、街路に雷蔵を追ってネズミを醜く歪めたような犬くらいの大きさの雑魔の群れが出現したのはほぼ同時であった。
●
「うおりゃあああ!」
真吾は思いっ切りアーマーのクローを振り回した。その爪の軌道上の雑魔は血と肉片をまき散らしながら薙ぎ払われ、廃屋の壁に叩きつけられる。
その大振りな動きの隙を突いて、別方向から数体の雑魔がアーマーに飛び掛かろうとする。
「やらせるかよ!」
だが、陽がアーマーの上から拳銃を発砲。雑魔が動きを止めたところにアーマーのブレードが突き出された。
巨大な刃は一体を串刺にして、もう一体の胴体もすれ違いざま切り裂く。
残った一体は鋭い前歯を剥きだして、アーマーに飛びつくと思いっ切り噛みついた。
「そこまでだ」
しかし、その装甲を傷つけることが出来ない内に、背後から雷蔵の弾丸を受け、ずるずるとアーマーの表面に血の跡を残しながら滑り落ちる。
やがて、街路が雑魔の死体で埋まり、それが全て黒い塵となって吹き散らされたとき、陽は汗を拭って、背後の要人の方を振り向く。
「……なるほど、少なくとも見かけ倒しではないようだ」
フードの男はそう小さく呟いて肩を竦めた。
●
「わたしのしている事は、正しい事なのでしょうか……」
荒れ果てた町を、そして大地を見ながらメトロノーム・ソングライト(ka1267)は誰にも聞こぬよう、そっと呟いた。
(魔導アーマーの売り込みが上手くいって、更に大量投入されれば、それだけ多くのマテリアル燃料が必要になるのですね……いえ、既にその流れは止めようもないのでしょうし、歪虚との戦いに必要なのでしょうけれど)
言うまでもなく、マテリアル燃料の過剰な採掘は、汚染の原因となる。その結果はどうなるかは――この、下草さえも枯れ果てた街の姿が雄弁に物語っている。
先のCAM稼働実験において姿を現した災厄の十三魔のような強力な歪虚との戦いにとってこのアーマーが大きな力となってくれるであろうことは確かだ。
それでも、歪虚との戦いのために汚染を拡大し、新たな雑魔を生み出すような行為は、彼女にとって簡単に納得できるようなものではないのだろう。
「足が四つに増えただけあって、やっぱり安定しているように感じるね」
一方、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)はメトロノームの様子を気にしつつも、CAMの乗り心地に感心したような声を上げる。
レホスは以前の戦いで魔導アーマーと作戦を共にしたことはあったが、こうして乗り込むのは初めてだ。CAMとは異なる機動兵器である魔導アーマーの実力を把握しておきたいのだろう。
「後ろの様子はどうだ?」
アーマーを操縦するゲルト・フォン・B(ka3222)が、レホスの方に首を回した。
「敵影なし。オレーシャさんたちの方も異常なしだよ」
「そうか……」
ゲルトは溜息をついた。
無理もない。ここに至るまでゲルトたつは小型の雑魔数体と遭遇しただけである。
メトロノームもうまく誘導して、アーマーと雑魔が戦えるような状況を作り出してくれてはいたが、アーマーの性能を見せつける、というのにはほど遠い状況であった。
「見た目よりはスピードはあるようですが……所詮は機械、不恰好ですな」
「ふぅふぅ……まだ、歩くのかね……。これなら見目麗しい操縦士殿が直接戦った方が退屈せんわい」
要人たちの様子に三人は顔を見合わせるが、こればかりは如何ともしがたく、やがて一行は倉庫に辿り着く。
その時、トランシーバーに耳を当てていたレホスが驚いた様子を見せた。
「ら、雷蔵さん、今の音はなんなのっ!?」
驚いた様子のレホスに、雷蔵のすまなそうが通信機から響く。
『すまん。倉庫の中に雑魔がいないか確かめようとしたんだ』
どうやら、雷蔵は石を倉庫の扉に投げて周辺の雑魔の反応を探ろうとしたらしい。
『問題はなそうだ。これから倉庫に入る、引き続き連絡を絶やさないようにしよう』
●
「こいつは……結構厄介だな」
倉庫の前に駐機したアーマーの上で、真吾は頭を捻っていた。
真吾は、作戦前に応急修理・復旧の方法を確認していた陽から、彼がアーマーの技術者たちから受け取ったマニュアルまで借りて、アーマーを調べようとしていたのだが、マニュアルは専門家が使うための分厚い代物であり、おまけにとても読みにくかった。
「なるほど……戦場での整備性も当然考慮すべきだな。今回のようにいつでも整備兵や技術者が前線にまで同行してくれるわけではないのだから。一般兵やハンターにとってお手上げというようではとてもとても……」
相変わらずの嫌味を無視して、陽は定時連絡のためにトランシーバーのスイッチを入れる。
『聞こえますか? どうも不味いことになったみたいです』
やや緊張した様子の陽の声。
「何かあったのか?」
『東側の倉庫内のレホスたちと通信が繋がらなくなったんです……一旦戻った方が良いかもしれない』
実質二人だけで倉庫を探索していた真吾たちと違い、人員に余裕があったレホスたちはレホスの提案で帝国兵たちにも捜索を手伝ってもらい、より細かい所まで倉庫を捜索出来た。
その結果、レホスとメトロノームは地下へ通じる隠し扉のようなもの発見していたのである。
だが、二人がそこに入った瞬間から通信が不調になり、やがて陽たちは勿論、近くの帝国兵たちとも連絡がとれなくなったというのだ。
「解った」
真吾がそう返事をして、東側の倉庫の方向を見た瞬間、突如地響きが建物を揺らした。
「何だ!?」
陽が叫んだ瞬間、突如彼の見ていた東側の倉庫の屋根が吹き飛んだ。
●
倉庫の屋根を突き破って現れたのは、鋭い牙の生えた口を備え、全身に濁った色の鉱石の結晶を纏わりつかせたミミズの化け物のような大型雑魔であった。
「全員無事か!?」
魔導アーマーに乗ったオレーシャが叫ぶ。
「部隊は揃っています! ただ、ハンターの二人がまだ……!」
慌てて兵士が叫ぶ。その間にも倉庫の前は大混乱に陥っていた。地中から現れたミミズに呼応するかのように、土竜やら百足やらの雑魔が大量に出現したのだ。
オレーシャは最優先で部下に要人を退避させると自身はアーマーで雑魔を蹴散らしていく。
「こんな大物が来るなんてな……!」
ゲルトは苦笑すると、盾を構える。
だが、ミミズがその巨体でゲルトのアーマーに突っ込んで来た!
「ぐぅ!?」
アーマーを揺らす衝撃に思わず呻くゲルト。
「今行くぞ……ええい、邪魔をするな!」
ゲルトを援護しようとするオレーシャだがこの混乱で、しかも要人の安全を最優先にしなければならない状況では、思うように動けない。
「は、早く我々を退避させたまえ!」
「助けてくれえ! ほ、報酬は弾むから……」
「死にたくなければお黙りなさいっ! ……む、いかん!」
ミミズはデカいとはいっても所詮は雑魔。しかも、さほどパワーもないらしく、ゲルトのアーマーとの力比べにも押され気味であった。
しかし、ゲルトが防御に集中して思うようにブレードを振るえないのを良いことに、その胴体を滑らせ頭を自由にすると、ゲルトをかみ砕こうと口を開く!
「しまっ……」
思わず、目を見開くゲルト。
オレーシャも敵を突破したが、とても間に合わない。
その時ミミズの横にある建物の壁が崩れ、中から新しいアーマーが飛び出した。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはさせん! 機導特査! ガイアードッ! 見参!」
鳴神はそのままアーマーをミミズに激突させる。
「間に合ったぜ!」
サブパイロットの陽も、敵に次々と弾丸を撃ち込んだ。
ミミズは鋭い悲鳴を上げて仰け反り、ゲルトへの攻撃を中断する。
「今度こそ……お前の力を見せてやれるぞ……!」
ゲルトはすかさず、構えていた盾を突き出し、思いっ切りワームを押した。たまらず体勢を崩すワーム。
「いけえええ!」
直後、ゲルトがアーマーのブレードを一息に振り抜いた。
鈍い音と共に、濁った色の体液が周囲の建物の壁にべっとりと付着する。続いて空中高く刎ね飛ばされたワームの頭部が瓦礫の上に落下し、ぐしゃりと潰れる。
既に周囲の雑魔をあらかた全滅させていたオレーシャたちは固唾を飲んでこの光景を見ていたが、ミミズの胴体がどうっと倒れると同時に大きな歓声を上げる。
やや遅れて、茫然自失となっていた二人の要人も拍手を始めた。
その興奮もさめぬうちに、近くの瓦礫が突然崩れた。
「! 新手か!?」
咄嗟に身構えるオレーシャたちの前で、瓦礫の下から埃まみれのレホスとメトロノームがひょっこり顔を出した。
「あれ? こんな所に繋がっていたんだね」
きょとんとした様子で呟くレホスに大きな溜息をつく一同。
「……? 皆様、どうかなさったのですか? 随分とお疲れの様子ですが……」
やはりきょとんとした様子のメトロノームに苦笑する雷蔵。
「二人とも無事でよかったよ。てっきりあの雑魔に襲われたのかと心配していたところだ」
「なんのこと? ……あ、そうだ! みんなこれを見て!」
思い出したように、持っていた袋の中身を地面に空けるレホス。
「これは……!」
息をのむオレーシャ。それは、高純度の鉱石マテリアルであった。
「隠し通路の奥で見つけました……まだ、奥にはかなりの量が……」
二人の話では、隠し通路の奥は入り組んだ通路になっていたようだ。散々迷った挙句ようやく奥の部屋でこれを発見したという。
「旧政権の隠し財宝だ、一筋縄ではいかない場所には隠されていないと考えるのが自然だったな……二人とも、良く見つけてくれた」
オレーシャはそう言って二人に手を差し出すのであった。
●
「随分無理をさせちまったな」
鉱石も全て回収され、撤収作業が進む中、真吾はボロボロになったアーマーを見上げて頭を掻いた。
かなり頑丈だとはいえ、最短距離で町を突っ切るために建物を幾つか無理やり壊したのだ。
「あれは最良の判断だった。こいつもも本望だろう」
オレーシャは他の技術者に混じってアーマーを整備しながら答える。
「しかし、オレーシャはよくそんな複雑な構造の物を扱えるな。専門家でもないのに……」
「そうか? 確かにトラックよりは複雑だが、むしろ良くここまでシンプルな構造にし上げたものだと感心しているのだが……とはいえ、なるほど。実戦での整備の問題についても情報をまとめる必要があるな。他には何かあるか?」
「ああ、これはゲルトが言っていたんだが、ホーリーセイバーとかの強化の術式が魔導アーマーに対してどのくらい有効なのか、あるいはそもその効果が無いのかはっきりしたデーターが欲しいそうだ」
「ハンターが使用するならその辺りも確かめる必要があるな。参考になった。感謝する」
●
「要人が行方不明だと?」
「も、申し訳ありません!」
新兵らしき兵士が頭を下げる。
「撤収作業の最中、急に用を足したくなったから一人にしてくれと……。着いていこうとしたのですが、その、嫌味を言われて……」
と、その時別の兵士がオレーシャに何かの紙切れを渡し、何事か囁いた。
「……いや、粘らなくて命拾いしたかもしれんな」
「え?」
「たった今、あのフードのやんごとなきお方について照会が済んだ。上層部が調べた所、奴の身分は偽称だ。正体は調査中だが……ここまで手の込んだ事のできる組織は限られている」
「まさか……反政府組織の?」
「“ヴルツァライヒ”……?」
「何やらキナ臭くなってきたな……」
じっと話を聞いていた雷蔵は、帽子を目深に被り直し静かに呟くのだった。
●
不審者の一件で、やや重苦しい雰囲気になった帰途、トラックの荷台で再びメトロノームは沈み夕日を眺めながら一人浮かない顔をしていた。
「もしかして、鉱物が見つからない方が良いって思ってた?」
「レホスさん……。……いえ、そのようなことは……」
顔を逸らすメトロノーム。
「解るよ。アーマーやCAMを動かすためにマテリアルを消費すれば……でも、ボクにとってもこれは……特にCAMは譲れないんだ。ゴメンね……」
「……難しいですね」
メトロノームはそっと呟いた。
魔導アーマーを操縦する鳴神 真吾(ka2626)がそう、複座の八島 陽(ka1442)に尋ねた瞬間、廃墟にライフルの乾いた銃声が反響する。鬼塚 雷蔵(ka3963)は、自身が撃ち倒した雑魔が黒い塵と化していくのを見下ろしながら、瓦礫の向こうの仲間たちに通信を行う。
「俺だ。隠れていた雑魔は全て片付けた」
これを受けて陽はアーマを操縦する真吾へ合図を送る。
「進路クリア。前進を」
アーマーを前進させる真吾。
「つまらんな」
と、その時アーマーの背後から辛辣な声が。
「さっきから雑魔を倒しているのは、あの男だけではないか。生身の歩兵を前に立てて安全な道を行くのが帝国の最新兵器とやらか」
三人の要人の一人であるフードを目深に被った男だ。
本来なら、オレーシャたちに守られて、西側を探索する班に同行しているはずの彼が何故此方にいるのかについては説明が必要だろう。
「我々には、あらゆる状況下でのアーマーの運用を確認する権利がある」
危険だと諭す帝国憲兵をこう一蹴したフードの男は、真吾たち西班に同行するといって譲らなかった。
「後で、東側に同行した彼らと、私のレポートを合わせれば、より詳細なデーターが集まるのではないか?」
フードの男のいう事にも一理あった。何より、今回の依頼はその性質上彼らに強い発言権がある。
かくして、オレーシャは指揮下の兵士のなかから手練れのものをこの要人の警護のため西側に回すことでしぶしぶ承諾したのである。
真吾が口を開いた。
「最新兵器だからと無茶をさせては何にもならないでしょう……ロマンを追い求めるは、基本がしっかり出来てからの話だ」
「ふむ。それは正しい理屈だ。だが、多少は無茶も見せてもらわないと評価のしようもない」
今度は陽が何か言い返そうとしたとき、再度瓦礫の向こうから雷蔵の発砲する銃声が響いた。それも、一発や二発ではない。
「雷蔵さん!?」
慌てて無線機に怒鳴る陽。
『雑魔の群れだ! 数が多すぎる。一旦そっちまで後退するぞ!』
陽は地図を確認して叫んだ。
「ここを突っ切れば倉庫まですぐです!」
「ようやく出番だな!」
鳴神が速度を上げるのと、街路に雷蔵を追ってネズミを醜く歪めたような犬くらいの大きさの雑魔の群れが出現したのはほぼ同時であった。
●
「うおりゃあああ!」
真吾は思いっ切りアーマーのクローを振り回した。その爪の軌道上の雑魔は血と肉片をまき散らしながら薙ぎ払われ、廃屋の壁に叩きつけられる。
その大振りな動きの隙を突いて、別方向から数体の雑魔がアーマーに飛び掛かろうとする。
「やらせるかよ!」
だが、陽がアーマーの上から拳銃を発砲。雑魔が動きを止めたところにアーマーのブレードが突き出された。
巨大な刃は一体を串刺にして、もう一体の胴体もすれ違いざま切り裂く。
残った一体は鋭い前歯を剥きだして、アーマーに飛びつくと思いっ切り噛みついた。
「そこまでだ」
しかし、その装甲を傷つけることが出来ない内に、背後から雷蔵の弾丸を受け、ずるずるとアーマーの表面に血の跡を残しながら滑り落ちる。
やがて、街路が雑魔の死体で埋まり、それが全て黒い塵となって吹き散らされたとき、陽は汗を拭って、背後の要人の方を振り向く。
「……なるほど、少なくとも見かけ倒しではないようだ」
フードの男はそう小さく呟いて肩を竦めた。
●
「わたしのしている事は、正しい事なのでしょうか……」
荒れ果てた町を、そして大地を見ながらメトロノーム・ソングライト(ka1267)は誰にも聞こぬよう、そっと呟いた。
(魔導アーマーの売り込みが上手くいって、更に大量投入されれば、それだけ多くのマテリアル燃料が必要になるのですね……いえ、既にその流れは止めようもないのでしょうし、歪虚との戦いに必要なのでしょうけれど)
言うまでもなく、マテリアル燃料の過剰な採掘は、汚染の原因となる。その結果はどうなるかは――この、下草さえも枯れ果てた街の姿が雄弁に物語っている。
先のCAM稼働実験において姿を現した災厄の十三魔のような強力な歪虚との戦いにとってこのアーマーが大きな力となってくれるであろうことは確かだ。
それでも、歪虚との戦いのために汚染を拡大し、新たな雑魔を生み出すような行為は、彼女にとって簡単に納得できるようなものではないのだろう。
「足が四つに増えただけあって、やっぱり安定しているように感じるね」
一方、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)はメトロノームの様子を気にしつつも、CAMの乗り心地に感心したような声を上げる。
レホスは以前の戦いで魔導アーマーと作戦を共にしたことはあったが、こうして乗り込むのは初めてだ。CAMとは異なる機動兵器である魔導アーマーの実力を把握しておきたいのだろう。
「後ろの様子はどうだ?」
アーマーを操縦するゲルト・フォン・B(ka3222)が、レホスの方に首を回した。
「敵影なし。オレーシャさんたちの方も異常なしだよ」
「そうか……」
ゲルトは溜息をついた。
無理もない。ここに至るまでゲルトたつは小型の雑魔数体と遭遇しただけである。
メトロノームもうまく誘導して、アーマーと雑魔が戦えるような状況を作り出してくれてはいたが、アーマーの性能を見せつける、というのにはほど遠い状況であった。
「見た目よりはスピードはあるようですが……所詮は機械、不恰好ですな」
「ふぅふぅ……まだ、歩くのかね……。これなら見目麗しい操縦士殿が直接戦った方が退屈せんわい」
要人たちの様子に三人は顔を見合わせるが、こればかりは如何ともしがたく、やがて一行は倉庫に辿り着く。
その時、トランシーバーに耳を当てていたレホスが驚いた様子を見せた。
「ら、雷蔵さん、今の音はなんなのっ!?」
驚いた様子のレホスに、雷蔵のすまなそうが通信機から響く。
『すまん。倉庫の中に雑魔がいないか確かめようとしたんだ』
どうやら、雷蔵は石を倉庫の扉に投げて周辺の雑魔の反応を探ろうとしたらしい。
『問題はなそうだ。これから倉庫に入る、引き続き連絡を絶やさないようにしよう』
●
「こいつは……結構厄介だな」
倉庫の前に駐機したアーマーの上で、真吾は頭を捻っていた。
真吾は、作戦前に応急修理・復旧の方法を確認していた陽から、彼がアーマーの技術者たちから受け取ったマニュアルまで借りて、アーマーを調べようとしていたのだが、マニュアルは専門家が使うための分厚い代物であり、おまけにとても読みにくかった。
「なるほど……戦場での整備性も当然考慮すべきだな。今回のようにいつでも整備兵や技術者が前線にまで同行してくれるわけではないのだから。一般兵やハンターにとってお手上げというようではとてもとても……」
相変わらずの嫌味を無視して、陽は定時連絡のためにトランシーバーのスイッチを入れる。
『聞こえますか? どうも不味いことになったみたいです』
やや緊張した様子の陽の声。
「何かあったのか?」
『東側の倉庫内のレホスたちと通信が繋がらなくなったんです……一旦戻った方が良いかもしれない』
実質二人だけで倉庫を探索していた真吾たちと違い、人員に余裕があったレホスたちはレホスの提案で帝国兵たちにも捜索を手伝ってもらい、より細かい所まで倉庫を捜索出来た。
その結果、レホスとメトロノームは地下へ通じる隠し扉のようなもの発見していたのである。
だが、二人がそこに入った瞬間から通信が不調になり、やがて陽たちは勿論、近くの帝国兵たちとも連絡がとれなくなったというのだ。
「解った」
真吾がそう返事をして、東側の倉庫の方向を見た瞬間、突如地響きが建物を揺らした。
「何だ!?」
陽が叫んだ瞬間、突如彼の見ていた東側の倉庫の屋根が吹き飛んだ。
●
倉庫の屋根を突き破って現れたのは、鋭い牙の生えた口を備え、全身に濁った色の鉱石の結晶を纏わりつかせたミミズの化け物のような大型雑魔であった。
「全員無事か!?」
魔導アーマーに乗ったオレーシャが叫ぶ。
「部隊は揃っています! ただ、ハンターの二人がまだ……!」
慌てて兵士が叫ぶ。その間にも倉庫の前は大混乱に陥っていた。地中から現れたミミズに呼応するかのように、土竜やら百足やらの雑魔が大量に出現したのだ。
オレーシャは最優先で部下に要人を退避させると自身はアーマーで雑魔を蹴散らしていく。
「こんな大物が来るなんてな……!」
ゲルトは苦笑すると、盾を構える。
だが、ミミズがその巨体でゲルトのアーマーに突っ込んで来た!
「ぐぅ!?」
アーマーを揺らす衝撃に思わず呻くゲルト。
「今行くぞ……ええい、邪魔をするな!」
ゲルトを援護しようとするオレーシャだがこの混乱で、しかも要人の安全を最優先にしなければならない状況では、思うように動けない。
「は、早く我々を退避させたまえ!」
「助けてくれえ! ほ、報酬は弾むから……」
「死にたくなければお黙りなさいっ! ……む、いかん!」
ミミズはデカいとはいっても所詮は雑魔。しかも、さほどパワーもないらしく、ゲルトのアーマーとの力比べにも押され気味であった。
しかし、ゲルトが防御に集中して思うようにブレードを振るえないのを良いことに、その胴体を滑らせ頭を自由にすると、ゲルトをかみ砕こうと口を開く!
「しまっ……」
思わず、目を見開くゲルト。
オレーシャも敵を突破したが、とても間に合わない。
その時ミミズの横にある建物の壁が崩れ、中から新しいアーマーが飛び出した。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはさせん! 機導特査! ガイアードッ! 見参!」
鳴神はそのままアーマーをミミズに激突させる。
「間に合ったぜ!」
サブパイロットの陽も、敵に次々と弾丸を撃ち込んだ。
ミミズは鋭い悲鳴を上げて仰け反り、ゲルトへの攻撃を中断する。
「今度こそ……お前の力を見せてやれるぞ……!」
ゲルトはすかさず、構えていた盾を突き出し、思いっ切りワームを押した。たまらず体勢を崩すワーム。
「いけえええ!」
直後、ゲルトがアーマーのブレードを一息に振り抜いた。
鈍い音と共に、濁った色の体液が周囲の建物の壁にべっとりと付着する。続いて空中高く刎ね飛ばされたワームの頭部が瓦礫の上に落下し、ぐしゃりと潰れる。
既に周囲の雑魔をあらかた全滅させていたオレーシャたちは固唾を飲んでこの光景を見ていたが、ミミズの胴体がどうっと倒れると同時に大きな歓声を上げる。
やや遅れて、茫然自失となっていた二人の要人も拍手を始めた。
その興奮もさめぬうちに、近くの瓦礫が突然崩れた。
「! 新手か!?」
咄嗟に身構えるオレーシャたちの前で、瓦礫の下から埃まみれのレホスとメトロノームがひょっこり顔を出した。
「あれ? こんな所に繋がっていたんだね」
きょとんとした様子で呟くレホスに大きな溜息をつく一同。
「……? 皆様、どうかなさったのですか? 随分とお疲れの様子ですが……」
やはりきょとんとした様子のメトロノームに苦笑する雷蔵。
「二人とも無事でよかったよ。てっきりあの雑魔に襲われたのかと心配していたところだ」
「なんのこと? ……あ、そうだ! みんなこれを見て!」
思い出したように、持っていた袋の中身を地面に空けるレホス。
「これは……!」
息をのむオレーシャ。それは、高純度の鉱石マテリアルであった。
「隠し通路の奥で見つけました……まだ、奥にはかなりの量が……」
二人の話では、隠し通路の奥は入り組んだ通路になっていたようだ。散々迷った挙句ようやく奥の部屋でこれを発見したという。
「旧政権の隠し財宝だ、一筋縄ではいかない場所には隠されていないと考えるのが自然だったな……二人とも、良く見つけてくれた」
オレーシャはそう言って二人に手を差し出すのであった。
●
「随分無理をさせちまったな」
鉱石も全て回収され、撤収作業が進む中、真吾はボロボロになったアーマーを見上げて頭を掻いた。
かなり頑丈だとはいえ、最短距離で町を突っ切るために建物を幾つか無理やり壊したのだ。
「あれは最良の判断だった。こいつもも本望だろう」
オレーシャは他の技術者に混じってアーマーを整備しながら答える。
「しかし、オレーシャはよくそんな複雑な構造の物を扱えるな。専門家でもないのに……」
「そうか? 確かにトラックよりは複雑だが、むしろ良くここまでシンプルな構造にし上げたものだと感心しているのだが……とはいえ、なるほど。実戦での整備の問題についても情報をまとめる必要があるな。他には何かあるか?」
「ああ、これはゲルトが言っていたんだが、ホーリーセイバーとかの強化の術式が魔導アーマーに対してどのくらい有効なのか、あるいはそもその効果が無いのかはっきりしたデーターが欲しいそうだ」
「ハンターが使用するならその辺りも確かめる必要があるな。参考になった。感謝する」
●
「要人が行方不明だと?」
「も、申し訳ありません!」
新兵らしき兵士が頭を下げる。
「撤収作業の最中、急に用を足したくなったから一人にしてくれと……。着いていこうとしたのですが、その、嫌味を言われて……」
と、その時別の兵士がオレーシャに何かの紙切れを渡し、何事か囁いた。
「……いや、粘らなくて命拾いしたかもしれんな」
「え?」
「たった今、あのフードのやんごとなきお方について照会が済んだ。上層部が調べた所、奴の身分は偽称だ。正体は調査中だが……ここまで手の込んだ事のできる組織は限られている」
「まさか……反政府組織の?」
「“ヴルツァライヒ”……?」
「何やらキナ臭くなってきたな……」
じっと話を聞いていた雷蔵は、帽子を目深に被り直し静かに呟くのだった。
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不審者の一件で、やや重苦しい雰囲気になった帰途、トラックの荷台で再びメトロノームは沈み夕日を眺めながら一人浮かない顔をしていた。
「もしかして、鉱物が見つからない方が良いって思ってた?」
「レホスさん……。……いえ、そのようなことは……」
顔を逸らすメトロノーム。
「解るよ。アーマーやCAMを動かすためにマテリアルを消費すれば……でも、ボクにとってもこれは……特にCAMは譲れないんだ。ゴメンね……」
「……難しいですね」
メトロノームはそっと呟いた。
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相談卓 レホス・エテルノ・リベルター(ka0498) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/26 11:29:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 12:02:58 |