ゲスト
(ka0000)
空渡る不吉
マスター:硲銘介
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/03 12:00
- 完成日
- 2015/03/10 11:01
みんなの思い出
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オープニング
●
どうしてこんな事に。
頭を過ぎる言葉はそれだけだ。何故、何故。ひたすらに自問するも答は無い。
当然だ。何故、どうして。それらの言葉は理由を尋ねるものだろう。それに対する解答など、ある筈は無いのだ。
――理由など、最初から在りはしないのだから。
「はぁ……っ……は、はっ……ぅ……うぅ」
少年が転がり込んだのは狭い物置小屋の中だった。
日が差し込まない暗い室内。埃が舞い散る中、少年は必死に息を押し殺す。
荒い呼吸、息切れの音は次第に嗚咽へと移り変わっていく。両手で口を押さえつけるも、涙と鼻水が代わりに漏れ出る。
いつの間にか、左足の靴が無くなっていた。此処へ逃げ込む途中、脱げて何処かへいってしまったのだろう。露になった左足には血が滲んでいた。
どうしてこんな事に。浮かぶ言葉は疑問であり、この状況に対する怒りでもあった。
少年は自身の駆け込んできた小屋の戸へ視線を向ける。扉は僅かも揺れる事は無く、押し開けられる予兆は見当たらない。
――それでも、この戸の向こうには数多くの死体が転がる事を少年は知っていた。
靴が脱げたのにも気づかない程に走る中で、多くの死体を見過ごしてきた。その中には顔見知りもいた筈だった。
助けなかったのではない。もう、助からないのだと分かっていた。
彼らの多くはもうこと切れていた。それにどのみち少年には助ける事など出来なかった。
仕方が無い事だ。少年が非力だという話ではない。
怪物に太刀打ちする事など覚醒者でもなければ到底適わないのだから。
そう、仕方が無い。仕方が無い。
いつまでも頭の中で同じ言葉を繰り返す。誰も救えなかった自分を慰めるように、少年は頭の中を埋め尽くす。
そうせざるを得なかった。慰めの為だけではない。油断すれば恐怖で自分がどうにかなってしまいそうだった。
この小屋の外で村人達を狩る奴ら――あの怪鳥の群れが村へ降り立った瞬間を思い出してしまう。
望まざる来訪者の訪れはきっと偶然だった。渡り鳥が行くように、ただ奴らはやって来ただけだ。
だから、この状況に理由を付けるのなら、運が悪かったから。
たまたま奴らの進路にこの村があった。それだけの理由で、この村は滅びたのだ。
――ふざけている。何の伏線も無く、村人達は死に絶えた。急転直下の死に納得できた者などただの一人もいないだろう。
少年は悔しさに奥歯を噛み締める。血の味が口内に広がっても構わず力を込め続ける。憎悪と恐怖とを合わせた感情が体を巡る。
奴らに、死を。村人達を死に至らしめた、自由気ままに空を舞い降り立った死の使いどもに報いを。
この身で復讐を為せないのなら他者の力を行使しよう。怪物の相手は怪物と相場が決まっている。
覚醒者。人の姿をしているからどうした。どうせ同じ怪物だ。
たまたま力に恵まれたというだけでこの地獄を平然と渡る奴らなど、認めたくない。
人間とは自分の様に無力を感じながらただただ呪う事しか出来ない者の事だ。不平等の下方へ落とされた弱者の事だ。
この村が何をした。自分達が何をした。力を得なかったというだけで、この結末を迎えるしかなかった人達が何をしたという……!
「……みんな、死んじまえ」
少年の口から、感情の失せた死んだ声が漏れると同時に――光が差し込んだ。
明るく温かい、人の日常を照らす陽の光。しかし今、光の先には希望など無かった。
「――――――」
少年の視線が上を向く。小屋の屋根が――否、小屋そのものが崩壊していた。
堰を切ったように、鳥の声が耳朶を突き刺す。四方八方、頭の沸いた様な鳴き声が聞こえる。
その群れの一部、上空から少年を見下ろす怪鳥が叫ぶ。一層大きな奇声が耳を劈く。
次の瞬間――少年は彼らの餌となった。
成す術など無い。空の狩人が村を訪れた時から、住民は餌としての存在価値以外は失っていたのだから。
怪鳥が鳴く。鋭い嘴が、爪が、少年の肉体を引き裂いていく。一掻き二掻き、演出過剰に血が噴き出る。
もうとっくに感覚など喪ったのか。少年は体を裂かれる痛みにも一切叫ぶ事は無かった。
自らが人の形を保てなくなっていく中、残された神経が眼球を動かす。瞳に映るのは禍々しき鳥の姿。
他に生存者はいるだろうか――いや、それももうどうでもいい。村がどうとか、人がどうとか、もうわからない。
最後に残ったのは一つの言葉。悲しみも喜びも憎しみも、そういうよく分からない感情とはもう関係ない。ただ一言、意味の無い言葉を残す。
声は出ない。咽などとっくに機能を停止している。指先一つも動かない。それでも、口を動かした。
光を喪う視界。全ての感覚が死に絶えていく。それでも尚、その言葉を吐き続ける。自身の最期を、ただの一言に託して。
死んじまえ。
どうしてこんな事に。
頭を過ぎる言葉はそれだけだ。何故、何故。ひたすらに自問するも答は無い。
当然だ。何故、どうして。それらの言葉は理由を尋ねるものだろう。それに対する解答など、ある筈は無いのだ。
――理由など、最初から在りはしないのだから。
「はぁ……っ……は、はっ……ぅ……うぅ」
少年が転がり込んだのは狭い物置小屋の中だった。
日が差し込まない暗い室内。埃が舞い散る中、少年は必死に息を押し殺す。
荒い呼吸、息切れの音は次第に嗚咽へと移り変わっていく。両手で口を押さえつけるも、涙と鼻水が代わりに漏れ出る。
いつの間にか、左足の靴が無くなっていた。此処へ逃げ込む途中、脱げて何処かへいってしまったのだろう。露になった左足には血が滲んでいた。
どうしてこんな事に。浮かぶ言葉は疑問であり、この状況に対する怒りでもあった。
少年は自身の駆け込んできた小屋の戸へ視線を向ける。扉は僅かも揺れる事は無く、押し開けられる予兆は見当たらない。
――それでも、この戸の向こうには数多くの死体が転がる事を少年は知っていた。
靴が脱げたのにも気づかない程に走る中で、多くの死体を見過ごしてきた。その中には顔見知りもいた筈だった。
助けなかったのではない。もう、助からないのだと分かっていた。
彼らの多くはもうこと切れていた。それにどのみち少年には助ける事など出来なかった。
仕方が無い事だ。少年が非力だという話ではない。
怪物に太刀打ちする事など覚醒者でもなければ到底適わないのだから。
そう、仕方が無い。仕方が無い。
いつまでも頭の中で同じ言葉を繰り返す。誰も救えなかった自分を慰めるように、少年は頭の中を埋め尽くす。
そうせざるを得なかった。慰めの為だけではない。油断すれば恐怖で自分がどうにかなってしまいそうだった。
この小屋の外で村人達を狩る奴ら――あの怪鳥の群れが村へ降り立った瞬間を思い出してしまう。
望まざる来訪者の訪れはきっと偶然だった。渡り鳥が行くように、ただ奴らはやって来ただけだ。
だから、この状況に理由を付けるのなら、運が悪かったから。
たまたま奴らの進路にこの村があった。それだけの理由で、この村は滅びたのだ。
――ふざけている。何の伏線も無く、村人達は死に絶えた。急転直下の死に納得できた者などただの一人もいないだろう。
少年は悔しさに奥歯を噛み締める。血の味が口内に広がっても構わず力を込め続ける。憎悪と恐怖とを合わせた感情が体を巡る。
奴らに、死を。村人達を死に至らしめた、自由気ままに空を舞い降り立った死の使いどもに報いを。
この身で復讐を為せないのなら他者の力を行使しよう。怪物の相手は怪物と相場が決まっている。
覚醒者。人の姿をしているからどうした。どうせ同じ怪物だ。
たまたま力に恵まれたというだけでこの地獄を平然と渡る奴らなど、認めたくない。
人間とは自分の様に無力を感じながらただただ呪う事しか出来ない者の事だ。不平等の下方へ落とされた弱者の事だ。
この村が何をした。自分達が何をした。力を得なかったというだけで、この結末を迎えるしかなかった人達が何をしたという……!
「……みんな、死んじまえ」
少年の口から、感情の失せた死んだ声が漏れると同時に――光が差し込んだ。
明るく温かい、人の日常を照らす陽の光。しかし今、光の先には希望など無かった。
「――――――」
少年の視線が上を向く。小屋の屋根が――否、小屋そのものが崩壊していた。
堰を切ったように、鳥の声が耳朶を突き刺す。四方八方、頭の沸いた様な鳴き声が聞こえる。
その群れの一部、上空から少年を見下ろす怪鳥が叫ぶ。一層大きな奇声が耳を劈く。
次の瞬間――少年は彼らの餌となった。
成す術など無い。空の狩人が村を訪れた時から、住民は餌としての存在価値以外は失っていたのだから。
怪鳥が鳴く。鋭い嘴が、爪が、少年の肉体を引き裂いていく。一掻き二掻き、演出過剰に血が噴き出る。
もうとっくに感覚など喪ったのか。少年は体を裂かれる痛みにも一切叫ぶ事は無かった。
自らが人の形を保てなくなっていく中、残された神経が眼球を動かす。瞳に映るのは禍々しき鳥の姿。
他に生存者はいるだろうか――いや、それももうどうでもいい。村がどうとか、人がどうとか、もうわからない。
最後に残ったのは一つの言葉。悲しみも喜びも憎しみも、そういうよく分からない感情とはもう関係ない。ただ一言、意味の無い言葉を残す。
声は出ない。咽などとっくに機能を停止している。指先一つも動かない。それでも、口を動かした。
光を喪う視界。全ての感覚が死に絶えていく。それでも尚、その言葉を吐き続ける。自身の最期を、ただの一言に託して。
死んじまえ。
リプレイ本文
●
其処にあったのは取るに足らない日常。
子供も大人も老人も、様々な人が暮らしていた。何の問題も無いという程、理想を体現した生活ではなかったかもしれない。
だから、それは取るに足らない日常。喜びも憤りも感じながらも、確かに巡る人の循環。おそらくは、幸福と呼ばれるものが其処にあった。
――それも、最早過去の物となった。
倒壊した建物。四散した肉片。漂う死臭。空を舞う、禍々しい怪鳥の群れ。
村、という呼称はとうに失せた。惨劇の跡を残すだけの其処はただの廃墟である。
その廃墟に、怪鳥の目を掻い潜り近づく者達がいた。
「くだらない惨状だ……反吐が出ますね」
廃墟を視界に捉えるまでに近づき、それを睨みながら猫実 慧(ka0393)が吐き捨てる。言葉通り目つきは一層鋭さを増し、激しい憎悪すら湛えている様だった。
身を隠す他のハンター達も惨状を遠目に見る。クオン・サガラ(ka0018)も例外ではなかったが、動揺を見せる事はなかった。
軍属としての経験を持つクオンには凄惨なこの光景も見慣れたものであった。
だが、自分がどうであれこの光景が異常であり、見慣れぬ者には酷だという事を彼は理解していた。仲間達の反応が気にかかり、周囲を窺う。
「こんなにひどいなんて……」
クオンの懸念通り、慈姑 ぽえむ(ka3243)は大きなショックを受けている様だった。手で口元を覆い体を小刻みに震わせている。
同じ様に衝撃を受けた岩井崎 旭(ka0234)は怒りを噛み殺す様に奥歯に力を込めていた。
とはいえ、ハンターである彼らもそれなりの経験はしているという事か。感情を露にする事のない面子が殆どであった。
「腹ごなしに村一つ襲う、たぁ……動物の本能としちゃぁ上出来だが」
淡々とテスカ・アルリーヴァ(ka2798)が言う。その言葉に旭も口を開く。
「ああ、分かってる。こっちでもリアルブルーでも、人が生きる為に殺して殺されてがあるんだって……当たり前の事だ」
それでも。今にも飛び出しそうな気迫で廃墟を睨み、旭は咆える。
「それでも……見ず知らずの他人の事だろうと、怒りを感じて何が悪いッ!」
咆哮、そして静寂が広がる。反論する者はいない。彼ほどの怒りを覚えずとも、その元凶を放置しておけないという思いは誰もが同じなのだろう。
「――さて、終わってしまった事を悔やむより、これから起こり得る事を止める方が先だからね」
沈黙を破る様にHolmes(ka3813)が口を開いた。まだ距離があるとはいえ空を飛ぶ相手だ。此処でゆっくりしていて捕捉されない保障は無い。
ハンター達は予め立てておいた作戦通り、五人ずつに別れ一方の部隊が先行する。先行部隊に割り当てられたHolmesが別れ際に呟いた。
「なぁに、エスコートなら任せてくれたまえ」
●
廃墟の村の上空を悠然と飛び回る鳥の群れ。破壊の化身たる歪虚と化したそれらが突如沸いた。
壊す事こそを至上とするそれが沸き立つのはただ一つ、新たな獲物を見つけた時だ。
怪鳥が狙いをつけたのは五つの人影。歓喜の声か、はたまた威嚇か。あちこちから奇声があがる。
「さぁ、て……こりゃ確かに数が多い……が、其れだけ打っ潰せるってぇことだな」
鳥の戦慄きが周囲を包む中、テスカが言った。事前情報では約四十とされていた群れ――これが全てではない筈だが、目の当たりにすればそれ以上の数に思える。
だが、そこにテスカが感じるのは恐怖ではない。敵の数が多ければ脅威は増大するが、それでこそやりがいがある。闘争本能が滾るのを感じていた。
地に立つ彼らと、宙を制す怪鳥の群れ。火蓋を切ったのはHolmesの言葉だった。
「では、注目を集めようか」
言うや否や、彼女は自身の得物を振りかぶる。小柄な身が手にするは大鎌。次の瞬間、それは宙を切り裂いた。
体躯の不利など知らぬとばかりに投擲された死神の鎌は鳥達の合間を縫うように飛び、やがて一軒の廃屋の前に突き刺さった。
鎌の投擲は鳥達を外れた――否、その目的は本より攻撃ではない。認識を誘う為の一投に過ぎなかった。
Holmesの思惑通り、鳥達は投げ込まれた凶器から、眼下の彼らを脅威と認識した。
空を敷く鳥達が一斉に咆哮を上げる。それと同時にハンター達もそれぞれ動き始めた。
――稲妻の様な一条の光が天を貫く。
「――胸糞悪ィ」
群れの真ん中に機導砲を撃ち込んだ慧が呟く。
頭上で鳴き喚く声にうんざりとする。吐き気がする。それ以上に――広がる惨状に胃酸がこみ上げる様だった。
広がる廃墟には多くの死体が転がっている。最早人の形を成してはいなかったが、女子供も大勢いた。
厭でも想像する。彼らは無慈悲に、残酷に、為す術もなく惨殺されて地に伏した。
それは紛れも無く、慧が心底嫌う理不尽な蹂躙だ。この光景を嘆くよりも前に、その事実が頭に血を上らせる。
「満足かぁ……てめぇら、アァ!?」
エレクトリックショック――魔導銃の放つ弾丸が雷撃となり上空の歪虚を撃ち抜く。
攻撃で羽を痺れさせた鳥が地に墜ちる。慧は身動きを鈍らせた歪虚を思い切り踏み潰す。
痛みのせいか、足の下の鳥が悲鳴を上げる――それでも力を抜く事無く、踏み躙る。
荒々しい戦法は力の誇示でもある。報復の存在を歪虚に教え込む様に、慧は戦う。
それでも、作戦を忘れてはいない。的確に鳥達を蹴散らしながら、慧は目的地へと向かっていく。
瓦礫が転がる足場をスティリア(ka3277)は駆けて行く。
マルチステップを用いた立体的な動きが鳥の攻撃を軽やかにかわす。
紙一重の回避の後も彼女の表情は変わらない。いつもの様に淡々と冷めた心のままだ。
それでも――この村の惨状を目にした瞬間はそんな心にも波が立った。
雑魔の襲撃に滅ぶ村。そんな光景を目にしたのは初めてではない。いつかの自分が同じ光景の中に在った事を、スティリアは忘れない。
この光景には人並みならぬ想いを抱えている。それでも、今はその激情を抑えていた。
頭の中で作戦を再確認する。五名が先行する目的、それは囮となって後続の攻撃効果を高める事。
その為に、今は自分を獲物として付け狙う空の敵を誘導する事を最優先とする。
目指すは、Holmesが鎌を投げ込んだ損傷度合の低い家屋。
空中の雑魔が村の外周を旋回している。否、あれは標的を追跡しているのだ。
群れの下には一頭の馬。その背には旭の姿があった。
中心部ではなく村の周りに愛馬を走らせ、その後を追わせる。散開した歪虚を集めるのが狙いだった。
纏わり付こうとする鳥達を払い、旭は後方を窺う。数が集まったのを確認し、馬の進路を村の中心へと向ける。
旭の両手は手綱をきつく握り締めていた。駆け抜けた村の惨状が頭から離れない。いったい何人殺された――?
「……殺すぜ、歪虚。一匹たりとも残さねぇ……!」
殺された村人達に誓う旭。そんな主人の怒りを感じてか、馬は駆ける足を速めた。
チャクラムが鳥の翼を裂く。戻ってきた武器を回収しつつ、テスカは走る。
「試し打ちぃ……は、まずまず。思ったとおり、良い切れ味だコレ」
テスカの投擲で傷ついた鳥が攻めの激しさを増し襲い掛かるも、怯まず派手に暴れ、目標の家屋へ辿り着く。
傍らでは動かざるものを用い受けに徹していたHolmesが投げた鎌を回収し、建物の中に飛び込んでいた。
次々と他の面々も敵を引き付けつつ集まり、家の上方には四十超の怪鳥が集結する。
空の大群を見上げテスカは小さく笑う。囮の首尾は上々だ。
テスカは取り出したトランシーバーに告げる。
「焼き鳥四十人前くらいは集まったぜ。さぁ、いっちょ派手に宜しく頼むぜ」
●
「――それでは、皆さん。いきましょうか」
テスカからの連絡を受け取った、アメリア・フォーサイス(ka4111)が言う。
彼女の号令で包囲班の面々は一気に村に向けて駆け出した。
「ん……臭いはちょっと嫌~」
村に近づくにつれ死臭がキツくなっていき、アメリアは顔をしかめた。
「これは中々に……普通じゃないね」
隣を走る二ノ宮 灰人(ka4267)もその異常性に呟く。
「……っ」
ぽえむもまたこの臭気、そして間近で目にした惨劇に戸惑う。
そんな三人を心配し、クオンが声をかける。
「三人とも、大丈夫ですか? この先、もう少し辛くなりますよ」
そう言ってクオンは視線を周囲の死体へ向ける。村の中に入るほど、その数は増す筈だ。
気遣うクオンの言葉だったが、アメリアと灰人は平然として返す。
「あ、多分、大丈夫です。臭いが気になるだけなんです」
「被害がどうであれ、普通に依頼をこなすだけ……さっさと終わらせてしまおう」
クオンの想像と異なり、二人はそれほどショックを受けていない様だった。
だが、残り一人はそうはいかない。心配するクオン、その視線に気づいたのか、ぽえむは気丈に振舞ってみせる。
「ありがとう。鳥だと思って甘く見てたけど……力も結構あるみたいだね。瓦礫も多いし、転ばないように気を付けないと」
大丈夫、と仕草で示すぽえむ。懸念していた事にはならなそうだと、クオンは小さく微笑む。
そんなやり取りの合間に一行は着実に距離を詰め、密集する鳥達を射程範囲内に収める。
「そろそろだ、準備はいいな? さぁて的当て大会だ、落ちたヤツからヤキトリにしてやんよ」
「的当て大会、焼き鳥……普通の思考だ。いや、安易な発想かな。安易というのは普通ではない訳であって、もう少し上等な例えを――」
カルス(ka3647)が包囲班全員に声をかける。灰人が何やらぶつぶつ呟いていたが、特に気にはしない。
カルスの声に各々頷き、攻撃は開始された。
視線の先には暗雲が如き鳥の群れ――そこへ包囲班からの一斉掃射が飛ぶ。
それぞれが最適な位置取りでの集中砲火。密集した鳥達にはかなりの命中を誇る。
クオンは弓と魔導砲を使い分け、射程の穴を埋めるように攻撃を行う。包囲を心がけ狙っていく中、クオンは状況を考察する。
飛行する敵相手への包囲、初手は上々であった。味方への誤射を避け慎重に戦っても八割は殲滅出来よう。残り二割は時間との勝負、だが、
「このままいければ……!」
包囲班の到着を受けて、囮班も本格攻撃へと乗り出す。
「吹ッ飛べ!」
家屋に空いた穴から侵入しようとする鳥達――それを慧の機導砲の一撃が吹き飛ばす。
開いた出口から、限界の近づいた建物を捨て脱出する面々。
Holmesが大鎌を振り回す。空を裂くだけのそれは命中を狙うものではない。
「ふふっ、攻撃もせず耐えるだけだった相手がまるで何事も無かったように牙を向けてくる――たとえ雑魔だろうと戸惑うだろう?」
不敵に笑うHolmes。彼女の放つブロウビートが鳥を威嚇し、怯ませる。その隙を――
「ハンター様のお通りだ、ってなぁ」
テスカの薙刀が一閃する。大きく踏み込んでからの一薙ぎが三羽纏めて薙ぎ払う。
地に落ちた鳥に慧が追撃の弾丸を撃ち込み、蹴り飛ばす。その勢いに乗っかり、テスカとHolmesも続く。
「てめぇらにゃ贅沢なモンだが」
弓での攻撃の最中、カルスは持ち込んだ干し肉を鳥達に向け放り投げる。
単純な考えだが、鳥の頭など知れたものだ。数体がまんまと肉へと向かっていく。
自由に空を舞われては捉え難いが、目標を定めた直線的な動きならば射抜くのは容易い。素早い動きをも予測し、見事に矢を命中させていく。
「……チッ! こっちにきやがったか」
カルスの戦法を見抜いたのか、一体が彼へと襲い掛かる。咄嗟にナイフを抜き、鋭利な爪を受け止める。
「甘ぇよ、そう簡単にやらせるかって」
ナイフを振り抜き、鳥を弾くと共に半歩下がる。どうすべきか思案をめぐらせていると、
「カルスさん!」
一発の銃弾がカルスの前の怪鳥を貫いた。マテリアルを込めた強弾の一撃は歪虚の体を粉々に粉砕した。
攻撃の発射元、アメリアを振り返るカルス。
「助かった。しかし、バラけてきやがったな」
実際、一点に密集していた鳥達は分散し始めていた。アメリアは次なる敵の接近を防ぎつつ答える。
「ここからはより正確さが要りますね。クレー射撃の的がよく動くって感じ? ま、なんとかなるでしょ、多分……!」
そう言いながらもアメリアの撃った弾が遠方の鳥を撃ち落す。マテリアルで強化された視力と合わせ、狙撃手の様に正確に射撃を行っていく。
「……むしろ俺が食いてェくらいだぜ」
食い散らかされた肉を惜しむカルスだったが、すぐに意識を切り替え攻撃を再開した。
灰人の魔導銃が鳥を射落とす。欲張らず、着実に、一体ずつ仕留めていく。
狙いは逃走を図る個体。積極的に攻撃を仕掛けてくる相手は、攻めに執着し逃げを忘れている。そういった相手は後回しでいい。
残さず殲滅するのなら、優先して攻撃を行うべきは――
「普通に考えて、逃亡の阻止を優先するべきだね」
そう考え、逃げに走りそうな個体を探す灰人。だが、
「――――!」
僅かに、付近の敵への警戒が薄れていた。一体の怪鳥が高速で灰人へ接近し、殺意を向ける。
一瞬の遅れ、拳銃の銃口が向く前に、あの猛威は到達する。それを、
「あなた達の相手はこっちだよっ」
ぽえむの構えた盾が受け止めた。衝撃に彼女の体が揺れる。が、それをも押し返し、歪虚を盾で殴り飛ばす。
空中へ逃れる鳥を追い、ぽえむが魔法を詠唱する。その背中を灰人は唖然として見ていた。
彼の定義において、身を挺して仲間を庇うという行為はあり得ない。それは彼の拘る普通の範疇から逸脱している。
「……そう、普通じゃない。それに僕のこのもやしみたいな貧弱な体では雑魔の攻撃は厳しいものがあるのでね」
一人、そう呟く灰人。自身の考えに揺らぎは無い。だからこそ、
「慈姑を援護しようか。受けた恩を返すのは、普通、かな」
灰人は拳銃を構えなおし、ぽえむの方へ駆けて行った。
スティリアのリボルバーが上空の敵を掠める。直撃でなくともかまわない。
目的は敵の飛翔を妨げる事。怪鳥の翼を折り、近接攻撃の範囲に留める事が出来れば問題は無い。
だが、舞台は乱戦。不意を突き、彼女の背後へ猛禽の嘴が迫る。
歪虚と化した彼らは捕食の対象を広範囲へ広げた。狩りを為すのは今も昔も変わらない。殺傷力に優れた嘴と爪である。だが――
「――――」
その嘴も、折れた。瞬間的に繰り出された飛燕の技が空の狩人の牙を砕く。
スティリアがかつて見た光景と、この惨状は似ている。だが決定的に異なるものが一つ。
凄惨な画と死に逝く声が彼女に与えた怨憎に、かつて行き場は無かった。怨敵と対峙する機会が当時は得られなかったのだ。
だが、今は違う。討つべき者は、そこにいる。
――放たれる高速の拳撃。それは真っ直ぐに歪虚を打ち抜き、死へと追いやる。
彼女の装備、それは獣の顎を模したナックルだという。獣の顎の用法――それは噛み砕くことに相違ない。
「喰らい付かれる恐怖、そして跡形も残らぬ滅び――篤と味わえ」
消滅する怪鳥の名残に、スティリアはそう言い放った。
馬が駆ける。鳥が飛ぶ。人の身では追いつくことの出来ない高速で旭は戦う。
互いに疾駆する場での射撃は狙いを定めるのも容易ではない。
だが野生の瞳は獲物の姿を正確に捉え、素早い鳥が相手でもその影を見失う事は無い。
騎射で次々と敵を射落としていく中、旭は遠方を飛ぶ一体の鳥を見つけた――逃げるつもりだ。
手綱を引き、馬を走らせる。既に遠くへ飛んだそれは村の上空から抜けようとしており、仲間の射程外にある。
本来ならば、あそこまで離れた敵に追いすがる事は叶わない、が、目標の速度は遅い。
おそらくは翼を負傷している――仲間達の攻勢がこの機会を生んだ。それならば、尚の事見送るわけにはいかない。
馬の背で弓を引き絞る。酷使する眼球は僅かな軌道の修正すら見逃さない。
「一羽も残さねぇって、言っただろ!」
放たれる一本の矢。風の横槍にも負けず、曲がる事無く飛翔したそれは的の中心へ突き刺さった――
●
「結局、誰も生きちゃいなかったか……」
沈むハンター達の背にカルスがそう呟いた。戦闘が終わり村中を捜したが、生存者は一人も見つからなかった。
「狩って狩られて。世の道理ってのは、良く出来てやがる」
テスカはそう言って、自前の三味線を鳴らす。
「逝く前に、音でも聞いてけや」
この村が無人の墓場に変わる事も世の道理の一つだろう。それでもせめての手向けにと、テスカは三味をかき鳴らす。
三味の音が響く中、黙祷を捧げていたぽえむがぽつりと溢す。
「本当は助けたかったけど……難しいね」
「……きちんと弔ってあげようか」
落ち着いた声でHolmesが言う。その提案に蹲っていた旭が立ち上がる。
「そうだな……墓があれば、誰かが悼む事が出来る。滅ぼされ、誰にも想われない村になったんじゃ、あんまりだから」
それはただの感傷に過ぎないだろう。それに浸るかどうかも個人の自由だ。
死者を弔った者、何もせず立ち去った者。どちらが正しいという事も無い。
ただその双方が、この場所で一つの惨劇があった事。そこに関わった事を、胸に刻んでいった――――
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談用に! アメリア・フォーサイス(ka4111) 人間(リアルブルー)|22才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/03 12:27:19 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/28 13:44:33 |