• 王国展

【王国展】グリフヴァルト

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/04 07:30
完成日
2015/03/08 18:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

~~以下王国展共通OP

 システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
 システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
 システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
 手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
 少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
 ――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。

●王国騎士団本部騎士団長室にて
「青の隊所属、ソルラ・クート。第13独立小隊、国内潜伏歪虚追跡調査隊、通称『アルテミス』の小隊長を命ずる」
「畏まりました」
 エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が辞令の書類を女性騎士に手渡した。
「詳細は後日連絡する」
「団長、質問よろしいでしょうか?」
 女性騎士ソルラは姿勢を崩さす、エリオットを見つめる。
「あぁ、構わない」
「なぜ、私が異動なのか。そして、なぜ、小隊長なのか、お聞かせ願いたいです」
 微妙な沈黙が部屋の中に流れた。
 幼い頃から知っている者同士であっても、今は上官と部下だ。
「……お前が小隊長の力量に相応しいと判断した為だ」
「歪虚を取り逃がしていますが……」
「だが、クラベルに重傷を負わせることはできた」
 先の大戦時、撤退していく傲慢の歪虚を追撃していた隊の一つにソルラは所属していた。
「分かっています。ですが、もっと早く、クラベルに追いついていれば……」
 デュニクスの住民が戦いに巻き込まれる事も、そして、ゲイル・グリムゲーテ侯爵が戦死する事もなかったはずだ。
 ソルラが所属していた隊は、出発前に、隊長の命令で軽装から重装に変更していた。
 重装備だと重くなり、追撃の速さも落ちる。ソルラは反対したが隊長は聞く耳を持たなかった。
 結局、後少しでクラベルに追いつくという所で、突如現れた歪虚によってクラベルを逃した。
 しかも、防御に優れた装備を選んだ隊長が歪虚によって一撃で葬られたのは皮肉としかいいようがない。
「伯父上、いや……侯爵とは面識が?」
「はい。幼い頃の事ですが」
 ソルラの父は貴族である。もっとも、政治的な繋がりは薄く、体面上の面識程度だったが。
 侯爵の娘であるユエルと初めて会った時は、こんな妹が欲しいと言って、父を困らせたのは、随分と昔の話だ。
 あの子は元気にしているのだろうか……最後に会ったのは、先の大戦が始まる前、王立学校での特別授業で戦闘体験談を語った時だったか。
「取り逃がした歪虚……ネル・ベルの存在は報告書で確認している」
 苦しげに眉を寄せていたエリオットが報告書の束を手に取る。
 ネル・ベルは脅威のレベルで言うと、災厄の十三魔に遥かに及ばない。
「この歪虚だけではなく、王国内に相当数の歪虚が潜伏していると思われる」
「忌々しき事態だと思います」
 それなりの数が潜伏し、それぞれが暗躍していると思うと、それは脅威であるとソルラは思った。
「だから、こそ、だ」
 ソルラが小隊の一つを率いる意味がそこにあるのだと。
「わかりました。ただ、一つ、お願いがあります」
「なんだ?」
「隊が正式結成する前に、古都アークエルスで歪虚の事を調べたいのです」
 古都アークエルスには学術都市と呼ばれ王立図書館もある。
 歪虚の事に関する情報も手に入るかもしれない。
「わかった。許可する」
「ありがとうございます!」
 ビシっと敬礼したソルラであった。

●古都アークエルス
 王国の北東部の山麓にやや近い場所にある、歴史や魔法など様々な研究を目的とした学術都市だ。
 都市の大きな特徴はグラズヘイム王立図書館がある事。
 通称グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれるこの図書館の歴史は古く、一説には古都が街としてのまとまりを持つことになるより以前、さらには王国が成り立つ前から存在するのではないかと噂されている。

 ソルラがこの図書館に足を運んだのは何時ぶりだろうか。
 小さい頃は珍しい絵本を読みに。学生の頃は勉強の為に。そして、騎士となってからは戦術の研究の為に。
 なにかと関わりがあったんだと思い出した。
 そして、今は歪虚の事について。
「敵を知り己を知れば……って、リアルブルーの話だったからしら」
 『アルテミス』の活動を行う前に、改めて確認しておこうとソルラは考えていた。
 特に小隊の性質上、歪虚を追う事がメインになるはずである。
「まずは……情報の共有ね」
 ハンター達からの助言を記したメモを読んで、そう呟く。
 歪虚に関する情報は様々だ。
 中には誤った事が正しいと思っている者もいるはずだし、単に知らないという事もあるだろう。
 だが、それでは、困るのだ。
「歪虚とはいかなる存在なのか、まずはしっかりとした基礎が必要なはず」
 王立学校で学んだ程度の事は把握しているだろうが、思わぬ『抜け』があってはいけない。
 新人や関係者へ説明するにも知識の獲得は大事な事だ。
 時間があまりないので、情報を迅速に調べる為に、今回はハンターにも依頼した。
 待ち合わせの時刻は、もうすぐだ。

リプレイ本文

●歪虚の定義
「話には聞いていたが、流石、国立図書館だな。ここだけでも、凄い量だ」
 司書に案内された場所で、ヴァイス(ka0364)が開口一番に呟いた。
 本棚がまるで、巨大な壁の様だ。
「パルム達にも片付けや本探しを手伝ってもらおうかの?」
 星輝 Amhran(ka0724)は少しでも効率良く調べる為にそう考えた。
 高い本棚の場所にある本など、人が梯子で登り降りするよりかは安全だろうし、早いはず。
 2人は歪虚の定義と七眷属について調べる事にしていた。

「『歪虚とは世界を蝕む闇の存在である、なにかの総称である』……そんな、基本的な事はわかっておる」
 星輝が手にした本のページをめくる。
 狂気の歪虚が見せた連帯性が気になっており、なにか手掛かりがないかと思っていたからだ。
 リアルブルーでの活動を実際に目にしているわけではないし、この世界特有での動きかもしれない。ともあれ、ここは所詮、一般開放区域。これ以上、調べても答えはでてきそうになかった。
 そんな時、気になる事があり、ページをめくるその手を止めた。
(歪虚の強さには、『王』『軍将』『軍長』『兵』『並』『雑魔』と区分されるとな……)
 それは、ハンターであれば、大抵は理解している事だ。
 個体差が大きく、一概には言えないが、軍長以上はたった一人で一軍を相手できるとも言う。
 『飛天真如 ガルドブルム』や『災厄のアイドル ナナ・ナイン』という存在は、正しくその通りだと、戦場での姿を思い出しながら星輝は思った。
 同時に今まで対峙してきた歪虚の事も思い出す。
(ネルベルの雰囲気が、最初とは違う気がするのう)
 仲間の話や自身から見ても、確かな気がした。
 歪虚は後天的に強化されるのではないかというのが、星輝の推測だ。
 そうなると、どの様に強化されるのかが、気になる所だ。全ての歪虚が十三魔の様に強くなってしまっては困る。
(一番可能性があるのはフラベルじゃな。慕っておったようじゃしのぅ……)
 チラリと横で本を読み漁っているヴァイスを盗み見る。
 フラベルに、彼が致命傷を与え、ハンター達によって倒されているのは、その場にいた星輝も知っている。
 ネル・ベルと王都近くの林の中で遭遇した時と、仲間が追撃戦で遭遇した時の彼の姿は違っていた。
 その間に、『強化』されたとみていいはずだ。
 星輝が思案しながら開いたページにそれは記してあった。
「『負のマテリアルを得て成長する場合もあるが、一時的な時もある』じゃと……」
 思わず呟いた一文で、自分の推測がある程度正しかったと思った。
 ネル・ベルは、フラベルの死を確かめに戦場跡へ向かった。そこで、負のマテリアルを得たネル・ベルは強化されたが、その影響は一時的であったのだ。
 その後、雰囲気が当初と違う気がするのは、考えや思考的な事に変化があったのではないか。
(負のマテリアルを得て強くなる事と、精神的な変化は別と考えても良いかもしれんの)
 その様に推論したが、これ以上深く知るには、制限区域や禁止区域の蔵書を調べる必要があるだろうと思い至るのであった。

(やはり……か……)
 ヴァイスは静かに本のページをめくる。
 七眷属の存在が明記され始めた時期や『始祖たる七』の存在を正式に認め始めた経緯、『様々な調査や、過去の歪虚自身の宣言』等の詳しい内容を探していたのだが、概略について記してあるものの、肝心の中身まで記されている本は見つけられなかった。
 彼が調べようとした事の尽くが、その調子なのだ。
 ただ、今調べている一般開放区域内の書物からはわからなくても、制限区域や禁止区域に行けば、得られる情報はあるはずという確信にも似た感覚は得ていた。
 例えば、歪虚の存在が確認された時期。
 調べた本は明確な時期表記はなかった。いずれも遥か昔から存在が確認されるだけだ。
(東方などの地域から侵略されていた……か)
 歪虚は、古代王国を滅ぼしたとされる。
 古代王国は今のクリムゾンウェストよりも高度な文明を持っていたという。
 リアルブルーのCAMと比べる手段はないが、歪虚に対する強力な兵器が存在していたと考えるのは当然の事。
 それなのに古代王国が歪虚によって滅ぼされた。
 その後、なぜ、西方世界は残っていたのだろうという疑問があったのだ。
(東方での侵略が終わったのか、それとも……)
 クリムゾンウェストで人が残っている地域が、もし、ここだけだったら。
(もし、西方世界での人の生活圏が追われたら……)
 どこに逃げれば良いというのだろうか。
「失わせるわけにはいかないな」
 グッと蒼い石のペンダントを握った。
 大勢の人々を歪虚の侵略から守る為にハンターとなった。
 そして、守る為には、歪虚との戦いは必然なのだ。
 基本的に歪虚と人は相容れない存在であり、最終的には歪虚に取り込まれたり、利用されるだけである。
 ふと、緑髪の少女ノゾミの事を想いを馳せた。
 仲間や知り合いから、少女の事を聞いている。歪虚ネル・ベルと行動を共にしているようだとも。
 真相はわからない。だが、確実に言えるのは、最終的に歪虚に取り込まれたりするか利用されるだけのはずだ。
(今からでも間に合うかもしれない)
 あの少女ともう一度、話す機会が欲しい。そう、ヴァイスは願いながら、本を閉じたのであった。
 
●雑魔の発生について
「諸君! 私の名前は久我・御言。よろしく頼む」
 図書館内のパルム達に、まとめて声をかけたのは、久我・御言(ka4137)だった。
 最近、リアルブルーから転移してきた、このサラリーマンは、この世界に転移した事に意味があると思っていた。
 特に帰還を望むでも、焦るでもなく、この地を知ろうと思っている以上、歪虚の事を調べる今回の依頼は願ったり叶ったりだった。
 願ったり叶ったりという点では、同行しているエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も同様な様だ。
 赤い瞳をキラキラとさせて、どこまでも続く本棚を見ている。
 絵に関する書籍も沢山あるはずだ。幻とされる虹色の絵の具の製法が記載された本もあるかもしれない……。
 つい、フラフラっとした所で、久我の視線に気がついた。
『仕事もちゃんとするわ!』
 スケッチブックを掲げるエヴァだった。

 久我とエヴァの2人が調べるのは、雑魔の定義と発生に至るケースについてだ。
 一通り、雑魔と呼ばれる存在に書かれた本を集める所から始めるとした久我は、その本の数の把握から骨が折れると思った。
 その本の多さは、もはや、机の上に乗り切れない。
 というか、まだまだ本棚にはある様だ……。
「これは、時間がかかりそうだ」
 目撃例や記述から、規則性や特異性を見出そうと思っていたが、資料が膨大過ぎるのだ。
 まだ、雑魔の発生例も、実に様々であり、共通点もあったりなかったりだ。
 いずれもが特殊なケースの様で、特殊過ぎる事が多い事が通常のケースなのかと判別しにくい。
「歪虚のうち七眷属に含まれない、自然発生的な歪虚を『雑魔(ゾウマ)』と呼ぶ……とな」
 これは、雑魔の基本的な定義だ。
 また、歪虚が手下として意図的に雑魔を作り出す事も知られている。
 もっとも、作り出す具体的な手法については不明とされており、必要な手段、時間等はわからないままだが。
 そうやって歪虚が意図的に作り出す雑魔や自然発生的に現れる雑魔と、まとめて総称されているのが現状であり、過去の書物の中には、分類分けに挑戦している物もあったが、定着していない所を見ると、分類分けは困難な事なのだろう。
「定義を付けて、名前を広めるべきだな」
 久我はそれを提案しようと思った。
 分からない存在に人は不安になる。それが、過剰なまでの恐れや、逆に根拠のない判断に繋がる場合もある。
 また、久我はクリムゾンウェストにおいて歪虚との戦いが繰り広げられている事に驚いていた。
 彼が知る限り、リアルブルーで歪虚の活動は最近になっての事だからだ。リアルブルーで、雑魔の発生に会った事がなかったかと思い返す。
 この差はなにか……もしかして、マテリアルの存在が絡むのだろうかと久我は思い至る。
 しかし、引き続き、膨大な本を調べるも、彼の考えを証明するものは、出て来なかった。

 エヴァも久我が集めた本の中から調べていた。
 ただ、同じ内容ではなく、別の線から調べている。
(雑魔の中でも、人型で知性を持つ種類を妖魔と呼んでいる……と。ゴブリンの事なのかな)
 ゴブリンやコボルトという存在は絶える事なく存在している。
 ただ、人の生活圏に影響を及ぼさない限りは、基本的は接触する事もない。
(それ以外を魔獣と呼び分けることもある……)
 なるほどと頷きながら、メモに記録していく。
 戦闘力は凄く高いわけではなく、中には一般兵士でも対処が可能な場合もある。
 発生に関しては実に様々だが、魔法公害などのマテリアル異常でも自然発生するのが知られている為、歪虚の支配地域外であっても出現する場合もあるのは知られている事だ。
(そうだよね……魔法公害という事は……)
 気になる記述がある所でページをめくる動きを止めるエヴァ。
 そこには、雑魔が魔法公害でも発生する場合もある以上、半人為的に雑魔を人間が作り出せる可能性がある事が書かれていたからだ。
 ただし、発生した雑魔をコントロールできるわけではないので、作り出すことができても、迷惑な存在なだけなのだが。
 次に、エヴァは辺境での夜煌祭の事を調べ始めた。
 夜煌祭とは、大精霊に捧げる感謝と祈りの祭りの事であり、浄化や癒しという意味合いも持つ。
 昨年、辺境において約50年ぶりに開催されたこの祭りで、狂気に汚染された欠片が浄化されたという話は記憶に新しい。
 こうした祭りや儀式を定期的に行う事で、雑魔の発生率を抑えられるのはないかというのがエヴァと推察していた。
(どこでも、そうした行事はあるものね)
 調べていた本には、王国内での祭りや儀式の一覧が載っていた。その中に、夜煌祭と似た様な位置付けのものもあるかもしれない。
 しかし、これ以上の情報は出てこず、結局は推察は推察のまま終わりそうだ。
 それでも、いつか、人々の平安を願う気持ちが、大精霊に届き、平和な日がきっと、来るはずだ。

●堕落者と契約者
「私の分まで手伝っていただき、ありがとうございます」
 ソルラが笑みを浮かべながら頭を下げた。
「小隊長就任おめでとうございます。ソルラさんの分も協力します」
「微力だが尽力しよう。宜しく頼む」
 Uisca Amhran(ka0754)とアル・シェ(ka0135)の2人がそれぞれ、応える。
 3人が調べるのは『堕落者と契約者の違いとそこに至るケースについて』。
 見方によっては似ている内容かもしれない為、3人で調べる事になった。
 実は、本にも知識にも興味があり本を読む事が好きだとか、知り合いの少女の事を気になるとか理由もあるのだが。

 様々な本があるが、その中でも、敢えて、手垢や汚れが少ない本を探すアル・シェ。
 人の手が入っているという事は、その本の知識は外に流れているだろうと想定したからだ。もっとも、逆に単に古かったり、信憑性が低いという可能性も否めないわけだが。
 丁寧に本を手に取り、題名と中身を少し確認し、アル・シェは、近くを通りがかったパルムにそれを渡して言伝する。
 明らかに違う内容の本が本棚に混ざっていたら、間違いなのか、意味があるのか確認を取っているのだ。
 それ以外にも、他の仲間の調べ物に有効と判断できそうな物が出てきたら、仲間の所へ行く様に手配していた。
「アル・シェさん、そろそろ、内容を確認しますか?」
 梯子の下からUiscaの声が届く。Uiscaも書籍をピックアップしていたのだ。
 短く返事をして梯子を降りると、ソルラが、本ではなく、おしぼりを持っていた。
「友人から聞きました。目に乗せてリラックスすると良いですよって」
 3人が上を向きながら、目におしぼりを乗せている光景は、ある意味、可笑しい光景ではあった。

「『堕落者、契約者ともに歪虚との契約が必要』」
 アル・シェが、そう記載されている所を指でなぞる。
 覗き込む様にUiscaが、その箇所の続きを読んだ。
「『お互いの存在が契約を認める事により契約が成立する』……のですね」
 契約時にはお互いが相手の存在を知っているという事のようだ。
 気がついていたら、歪虚と契約していた……という事は基本的にはあり得ないようだ。
 ただ、なんでもいいからと力を渇望していた結果、契約時に明らかにヤバいというのは、あり得そうな話でもある。
「こっちには、『堕落者と契約者の大きな違いは、死んでいるか生きているか』とあるな」
 アル・シェが別の本を広げた。
 堕落者は死んで歪虚と化した存在。契約者は歪虚の力の一部を行使できる存在という事だ。
「歪虚が正のマテリアルにあてられて正常な生き物になる可能性はあると思いますか?」
「それは、さっき、どこかに書いてあったか」
 気になる部分としてメモした事を思い出して、アル・シェは質問してきたUiscaに、そのメモを渡す。
 『歪虚は既に死んでいるので、正常な生き物になる可能性はほぼない』と書かれていた。
(イケメンさんの雰囲気が変わったってキララ姉さまが仰っていたから、もしかしてと思ったけど……)
 少女ノゾミの影響で歪虚ネル・ベルに変化があったのかと考えていたからだ。
 考え込む様なUiscaの表情を見て、アル・シェが一冊の本を渡す。
「これは?」
「Uiscaの探しているのが何かわからないが、これも見つけた。きっと、大事だと思うからな」
 開かれたページをジッと読み込み、Uiscaはハッとなり、その部分を読み上げた。
「『強い歪虚は存在するだけで周囲を汚染していく場合がある為、生身の人間がずっと傍には居られない』」
 港町で見かけた歪虚と少女を思い出す。少女は、歪虚の様には見えなかった。気絶していたが、生気はあった。
 王都に戻ってきて、お菓子屋に来た時は一人だったと聞いている。歪虚とずっと傍にいると言うわけではなさそうだ。
 考えに耽っていると、ソルラが悩みながら言った。
「調査に来て正解でした。やはり、ノゾミという少女は重要人物の様ですね」
「そ、そうですね」
「少女の自宅に踏み込んだのですが、もぬけの殻でした。歪虚との関わりがある証拠があれば手配書を出せるのに」
 Uiscaの脳裏に、ある日記が巡った。
 ソルラに、なにか言おうとしたUiscaだったが、そこへ、図書館の司書がやって来て、遮られる。
 司書は調査の終了を告げに来たのであった。


 こうして、歪虚に関する調査は終わった。
 集められた多くの調査結果は、後日、ソルラがまとめ、歪虚について基本的な内容を記した書物となるのであった。


 おしまい。

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  • 緑龍の巫女
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  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 探求者
    アル・シェ(ka0135
    エルフ|28才|男性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/28 21:29:10
アイコン 【相談卓】文字の森へようこそ
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/03/03 08:01:11