宿酔盆に返らず

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/30 07:30
完成日
2014/07/04 01:04

みんなの思い出

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オープニング


 ――……げろ、……!

 ゲ■?

 あァ、それならもう、浴びるほどした。干乾びるんじゃねェかってくらいに。
 いや、枯れたわ。男ケンザブロウ28歳、最早枯れ果てた。その証拠にもう何も出てこない。口渇が酷い。
 何の話だったか。
 そうだ、■ロだ。
 最初は苦しかったもんだが、慣れてくると……その、なんだ。捨てたもんじゃ、ないかもしれない。
 あれは――激震し続ける世界の中に降り立った救いだった。

『両手を組んで跪け。便所はそこだ。
 祈るように頭を垂れろ。崩壊はすぐそこだ。

 頭が痛むか?  世界が廻るか?
 視界が霞むか? 右手が疼くか?

 それは天罰だ。抗えるもんじゃない。人の仔に刻まれた自浄装置さ。
 穢れなき聖女のように居住まいを正して、衝動に任せるがいい』

 そんな声が聞こえたんだ。
 もちろん錯覚だ。幻聴だ。

 俺はその声に身を任せた。
 さあ、共に来いよ、死後の楽園へ……!



「逃げ……! ……ドだ!」

「……ん?」
 耳に届く喧騒に、意識が覚めた。
 瞬間、こめかみを貫くように電撃痛。視界がバチバチと明滅し、思わず目を瞑る。

「うげ……」

 堪えきれずに突っ伏した。ひんやりとしていた筈の石畳は人肌に温められ、少しばかり気持ち悪い。
「硬いよ……」
 不快に思い、冷えた肌触りを求めて身体を動かした、が。
「痛ッ!! うぎ……」
 頭痛がスマッシュヒット。

 あきませんわ。

 二日酔いですわ。

「雑魔がでたぞ! 逃げろ!!!」
「えっ!」

 跳ね起きた。急な動きに立ち眩みを覚えるが、激しい頭痛で強制的に現実に引き戻される。
 痛ェ。泣けてきた。枯れ果てたと思っていたけど、このくらいの水っ気は残っていたらしい。
 じゃなくて!
「雑魔……ヴォ、ヴォイド……?」
 気がつけば、村中が騒がしい。本当に、出たのか。歪虚が。夢じゃなくて?

「に、逃げ……」
 なくては、と、思ったのも束の間。

「■■■■■■■■――――――!!!」

 勿論、雑魔の悲鳴じゃない。俺の悲鳴だ。
 俺は、突然こみ上げたソレを、堪えるしかなかった。

「……何が死後の楽園だ」

 は、吐き気が、死ぬほど、辛い。もぅゃだ……。
 思い返すのは昨日のことだ。どうしてこんなことになってしまった……。



 ハンターは飲むのが仕事みたいな空気になっていた。ちゃっちゃとスライムっぽい雑魔を倒して、王国は歓迎するって、そんな感じで飲んでたんだ。
 無論、そんな空気を読む必要は無かったと思う。
 だが、俺は読んでしまった。往々にして、こういう飲み会では雰囲気に飲まれるやつから死んでいく。
 周りのハンターたちもそりゃあもう凄い飲みっぷりで、俺も飲んで、飲んで飲んで飲んで飲んで飲みまくっては飲ませて飲んで、いつしか周囲は人の尊厳について考えたくなるくらいの混沌ぶりだった。
 旨い酒が良くなかった。旨い飯が良くなかった。陽気な音楽が良くなかった。職人通りで働いているというドワーフ兄弟も良くなかった。
 あいつらが一番最低だった。あいつらのコールと煽りっぷりときたら……。
 ……もう、何もかもが良くなかった。
 俺は気がつけば踊り狂っていたが、途中から■■まくっていた記憶しかない。それにしたって、ぶつ切りで今ひとつはっきりしていない。

 人間には、アルコールを分解するための酵素があるのだという。遺伝でその質が決まっていて、後はその量で酒の強さが決まるらしい。
 俺だって、酒の強さは中々のものだと自負していた。その証拠といってはなんだが、あのドワーフ達と相打ちになった。三人で肩を並べてトイレでうずくまっていたのを覚えている。
 朝型まで飲み明かしたハンターもいるかもしれない。

「ん?」

 ふと。何かが脳裏をよぎった。
 何か――大事なことを、忘れているような……。

「あ……」

 そう、そうだ。
 気づいた瞬間、絶望で蓋をされていた世界が開けたような心地がした。

「ハンター、いるじゃん! ……アデデデ……」

 だめだ。俺は動けそうもない。

「へへ……頼んだぜ……ハンター……」
 そう言って、俺は目を閉じた。

 今はただ、水が欲しかった。

リプレイ本文


 エフィルロス・リンド(ka0450)。爛漫な笑顔で絶望を振りまいた幼女よ。
 ユハニ・ラハティ(ka1005)。老体に自ら鞭打つFunkyでOldなGuyよ。
 蒼聖(ka1739)。鋼の肉体に柔らかな心を収めてしまった偉丈夫よ。
 酔仙(ka1747)。嫋やかな身体で舞うように酔ってしまった女よ。
 ヴァール(ka1900)。熟れた身体で暴虐をつくした二児の母よ。

 盛大に、宴を楽しんで頂けたようで何よりだ。

 遅れたがソレル・ユークレース(ka1693)とリュンルース・アウイン(ka1694)。
 君らの道行きに、幸あれ。


●在る男の回顧録
 蒼聖と物静かに食事を摂っていた所は覚えてる。
「よう、蒼聖。やってるか?」
「やってますかー!」
 そこに、ソレルがはしゃぐエフィルロスと共に現れた。
「む。ソレル殿……や、ワシは一杯で十分だ。後は皆で」
 続く酒を辞そうとした蒼聖であったが、
「ヘイヘイ、ファンキーじゃねーじゃん。楽しまなきゃソンだぜ?」
 断ろうとしている間に、ユハニに酒を注がれていた。
「む……なら、もう一杯だけ」
 一息に呷る蒼聖に、エフィルロスは喝采をあげていたが。
「一杯だけなんですか? せっかくお酒が飲めるのに、勿体無いです!」
 そこからが、何かがおかしかった。
「……ならもう二杯ほど」
「「ハイハイハイ! 蒼聖の! ちょっとイイトコ見てみたい!」」
「あ、私も混ぜてください! ちょっと待って!」
「ワシもだ!」
「俺も飲むぜ?」
 どこからか酔仙とヴァールが飛んできて。ソレルが意気揚々とジョッキを掲げるのをリュンルースは嬉しげに見つめていて。
「「ちょっと待って! かーらーのー! アソーレもう一杯! もう一杯!」」
 喧しい声は……そうだ、ドワーフ兄弟の――。



 ヴァールは、目覚めと同時に鈍い頭痛を自覚した。
「ん……」
 片手で頭を押さえ、悩ましげな声を漏らす。
「なんだ……?」
 酔いを払うように思考を手繰るが、今ひとつはっきりしない。手がかりを求めて視線を巡らせた。

 真っ先に目に入ったのは、壁を背に座り込んだソレルと、彼に後ろから抱かれているリュンルース。
「ソル……」
 リュンルースの悩ましげな寝言が妙に艶っぽく、彼のカチューシャの猫耳がピンと立っている事すら妖しく映える。
「……」
 絶句しながらヴァールは周囲を見渡す。
 すると、壁に異変が刻まれている事に気付いた。周囲には壊れ果てたテーブルと椅子が散在している。
 黄色主体のアートグラフは異世界流の芸術なのだろうか。周囲の混沌ぶりと相まって鬼気迫るものを感じないでもない。
「ユハニ殿?」
 壁画からペンキの痕が伸びていくのを辿ると、壊れ果てたテーブルに埋まって意識を失っているユハニが居た。
 後退し始めた毛髪前線を覆うように、ペンキで前額部が塗り上げられている。
 ――Funkyには違いないが、些か痛ましい。
「そうそうそうなんですよぉユハニぃ……それで私はこう言ってやったんですよぉ。え……本当にぃ?」
 轟沈しているユハニの前に座り込み、返事はも無いのにユハニに延々話しかけている酔仙も、同時に目に入った。
 ヴァールは、御機嫌なユハニからそっと目を逸らした。
 逸らした、その先で。蒼聖が巨躯を膝を抱き、石畳に横たわって寝ている。
「もう誰もワシをかわいいだおなごだとは言わせん、言わせんのだ……もう、変な男に狙われる事は……うっ」
 頬に幾筋もの涙の痕が刻まれているのが哀愁を誘う。着物をはだけきっており、見た目に肌色成分が異様に多い事に気付いて、思わずヴァールは嘆息した。
 なんだこれ。
「……昨日何があった?」
 ――誰かマトモな者はおらんのか、と。
 嘆息し、俯こうとした。
 その時だ。
「ファッ!?」
 ヴァールは思わず奇声を上げて、近くに転がったテーブルの残骸に身を隠した。辺りを見渡す。無い。無い。無い。
「なな、ななな、何故だ!」
 手頃な布を探すが、目につく範囲には何もなく身動きが取れない。
「このままでは……」
 今は、良い。誰も彼もが酒の暴威に呑まれている。
 だが――いつか。起きてきてしまったら?
 解決策を模索するが、肝心のモノが無くては始まらない。
「ぬぅぅ」
 困り果てた、その時だ。
「大きいね!!」
 救いの主は、そんな言葉と共に訪れた。何が大きかったのかは諸般の事情で伏せさせて頂きたい。
 その後だ。

「歪虚だ!」

 という、叫び声が聞こえたのは。



 悲鳴を聞いて目を覚ましたリュンルースはソレルの拘束を解き、立ち上がる。
「飲み過ぎた、かな」
 不意に襲ってきた酩酊を受け止めて、リュンルースはそう零した。
 ――んー? 猫なのに尻尾はないのか?
 ……仕方ない。楽しかったのだから。
 昨夜の狂騒を反芻して、小さく頷いた。ソレルの言葉と共に腰の辺りに伸びた手の感触が、どこか懐かしい。
「さて、ソル起きて? 歪虚が出たってさ」
 リュンルースはちゃっかり猫耳カチューシャをソレルの頭に載せた後に、その頬をはたいた。
「ん……あぁ、ルース……頭痛ぇ」
「だろうね。飲み過ぎだよ」
 ソレルは頭痛を堪えながら、リュンルースから差し出された水を受け取った。
 頭痛が引くのを待って漸くの思いで目を開けると、苦笑したリュンルースの細い身体が窓から差し込む朝日に縁取られていた。絹糸の如き髪が、光を返す。
 ソレルは視界の端でヴァールがいそいそと蠢いているのも気づかずに、息を呑んだ。
「ルース……お前、なんか」
「?」
「……いや、何でもない」
「そう? ところでソル」
「ん?」
「歪虚、出たってさ」
「先に言えよ!」
「言ったってば……」



「くっ……正体を無くすまで呑んでしまうとは」
 蒼聖は、何故か無性に背筋を貫く悪寒を無視して建物の外へと急いだ。はだけきった着物を直している間に、何人かは外に飛び出していったようである。
「わぁあ! 久しぶりですね!」
 酔仙などはそう言って真っ先に駆け出していったが、知人でもいたのだろうか。
「そうだ、今は歪虚に集中しなくては」
 ふらつく身体で駆け出して、暫し。
「む。エフィルロス殿。落としたようだ、ぞ……?」
「え? あっ! ありがとうございます!」
 エフィルロスが落としたそれは、一枚の絵であった。

 ――ワシの体のほうが鍛え上げられておるぞ!
 ――切れてるねー!!

 それが、否が応でも、記憶を喚起して。
「そ、それは?」
「これですか? 皆さん楽しそうで見てる私も楽しかったのです! 
 で、皆さんの姿をちゃんと記録してあとで思い出に出来たらもっと楽しいかなって!
 あの時の蒼聖さん、暑そうだったなぁ……」
「……」

 絶句している内に、超絶御機嫌の蒼聖自身の声が、脳裏に蘇ってきた。
 ――そう、ワシには幼馴染がいてな……。
 ――燃えるような朱き髪、金の瞳。我儘なヤツだが、可愛い所もあってなァ……まあ! 俺の! 幼馴染だからな! やらんけどな!!
 ――いらねェよオッサン!
 ――ぬ!? 何がいらないだと!?

 ズシャァ! と、蒼聖は膝をついた。
「あうあうあうあうあ……!」
 慚愧の念が、言葉となって零れ落ちる。
「ふふ、言葉に出来ないくらい喜んでくれたみたいで嬉しいです!」
 エフィルロスの斜め上な拡大解釈にツッコミすら出来ない。
「じゃあ私、いきますね。蒼聖さんも、気が向いたらでいいから、来てくださいねっ!」
「……」
 生温い配慮が傷痕を抉る。
 蒼聖は走り去るエフィルロスの背中を見ることもできず。
「……シニタイ」
 うなだれて震えることしか、できなかった。



 覚醒し、誰よりも早くBIGスライムに向かっていた酔仙。
「あは、あははは! たのし、ぉぇ、た、たのしいれすねぇ! ぎゃんきそうでボクも嬉しいですよぉ」
 常ならば、ただの酔いどれ風味になるはずの覚醒であったが、今日はすこしばかり勝手が違うようだった。
 汗ばんだ肌は紅潮を通り越して蒼白で、目は開いているかどうかも分からない。時々聞こえる嗚咽が非常に不吉だ。
「なんねん、ぉ、ぅ、ぶりでしょうねぇ、しゃ、里のみんなはげんきですぅ?」
 酔仙が非常に危うげにスライムの猛攻の中立ちまわっているのを見て、ユハニは空寒いものを覚えていた。
 ――あれって、ひょっとしなくてもワシのせいか?

 ―・―

 ドワーフ兄弟の掛け声から始まったコール合戦に興が乗って、ユハニはFunkyなCocktailを作ってしまったのだ。
 といっても異世界の酒だ。よく分からなかったから、目に入ったものを適当に混ぜ込んだ。
 塩や胡椒。辛そうなものは何となく調味料だと解っていたが酔っ払っていたので適当に混ぜ込んだ。
 出来上がったのは酒的なナニカに過ぎなかったが、それでも良かった。
 ただ、自分自身がファンキーであれば良かったのだ。

 だが。

 ――酒仙! 行っきまーしゅ!
 ――ワシらも一気しまーす!!
 ――じゃ俺も逝っきまーす!!

 作った酒は取り上げられて皆で飲むことになった。

 ――陽気な酒場にしてやるぜっ!

 その後、とか言いながら、何となく机(楽器)を叩いたり、食器(楽器)を叩いていた気はする。
 ひょっとしたら店の器物を壊していたかも……しれない……。

 ―・―

「……ちっ、頭が痛ぇから早く片付けるぜ」
 冷や汗を拭いながら、懐から得物を抜き。
「これじゃねーっ!!」
 愛用の銃ではなく、『女物の』下着だった。瞬間、ヴァールが視線を泳がしたような気がするが、多分気のせいだろう。人格を疑われていそうな気がして、そういうことにした。
「……どこにやっちまった?」
「あ、これの事ですか?」
「お。ありがとよ」
 幼気な声と共に差し出されたそれを受け取る、と。
「そうそう……これでもねーっ! 酒じゃねーか!」
「えー……でも、こういう時は確かムカエザケと言ってお酒飲むと良いって」
「ンな事誰が言った!」
「ヴァールさん」
 エフィルロスが指差す先でヴァールはエールを呷りながらどこかやけっぱちにスライムへと猛突進している。
「とにかく俺は、銃を探してんだよ! 下着でも酒でもなk」
「銃……あ、これですか?」
 ムカエザケが受け入れられなかった事に疑問げなまま、少女は懐からジャンクガンを取り出した。
 銃口を、突きつけるように。
「おい!」
「?」
 彼女にはユハニがハンズアップして抗議する理由が分からなかったのだろう。だが、その様子が興に入ったか彼女は笑って。
「台所にありましたよ!」
 純度100%の善意でそう告げて、手渡したのだった。



「早く帰って寝てえんだがなッ!」
 銀髪。身体に浮かぶ紋様。どこか白狼を思わせる男――ソレルは、身を低くして疾走した。
 足取りは確たるものなのに、体幹が左右に揺れているのはご愛嬌だ。
 その眼前、酔仙がスライムの只中で舞うように――いや。
「ょぉあぁぁ、ぁぅ、ぉ、ぇ、あぶ、ぶぁ!」
「どう見ても千鳥足にしか見えねえ……」
 酔仙は人語を忘れかけながらも、危うげな足取りのまま触腕の隙間をすり抜けていく。避けながらヌンチャクを振り回してもいるが、これも酔っ払いの駄々にしか見えない。
 だが、ソレルにとっては好都合だ。思いっきり、往けるのだから。
 瞬後。
 傍らを、一条の矢が奔った。
「ルース」
 ソレルには見慣れた光だ。リュンルースの魔術だと直ぐに知れた。
 狙い澄まして放たれたその矢は、違わずソレルの進路上にあった触腕を撃ちぬく。
 道は拓いた、と同時。ソレルは背中に視線が届くのを感じる。
 その視線の熱に乗るように、ソレルは歯を剥いて笑って大きく踏み込み――剣閃。
 酔うていても、これだけお膳立てが揃えば十全だ。
「喰らいな!」
 剣閃は、軟体を大きく切り裂いた。断面から粘質な液体がどろりと溢れ落ちる。

 ハンター達の猛攻は終わらない。

 少し遅れたユハニの射撃音が響く中、出足の遅れたヴァールはスライムに接近すると、ロッドを大きく振りかぶりながら小さく飛び上がり。
「せいっ!」
 ――実に、聖導士らしい一打を振るった。
 彼女が振るうと神聖な趣のあるロッドが何故かバールのような凶器に見えるから不思議だ。
「ん!? ……ふ、ん! こ、このくらいにしておくか!」
 ローブの裾がひらりと舞うのを自覚して、ヴァールは気まずげにBIGスライムから距離を取った。諸般の事情で理由を詳らかにすることは出来ないのだが、お察しして欲しい。
 攻勢を前に、BIGスライムの震えが一層大きくなる。反攻せんという意思の表出だろう。
 そこに。
「オォォォォォォォッ!」
 雄叫びが、響いた。
 慟哭の如き声と共に疾駆する巨体。

 ――蒼聖であった。

 この時、確かに蒼聖は――泣いていた。
 深い自戒の念を拳に乗せて、痛撃を見舞わんとする蒼聖。



 そして。



 ――この日、彼らの活躍のおかげでBIGスライムは土に還った。
 その活躍ぶりを余さず描くには、残念ながら字数が足りなかった。




「あ、」
 戦闘が終わるや否や、酔仙。
「や、ば」
「待て待て待て!」
 唐突に不穏な事を呟きながら口元を押さえる酔仙にユハニが慌てて袋を探すが、使えそうなものは手元のハリセンしかない。
 ――殴るか?
 真剣な顔でハリセンを見つめるユハニも立派に酔っ払いだった。
「あ、無理ですねぇ、これ」
 崩壊を前に、いっそ冷静になる酔仙。あれだけ呑んで、あれだけ酔っ払って、あれだけ動き回ったのだ。当然の結果だと言えなくもない。
 決壊する。

 その、寸前だった。

「酔仙さん! これを!」
 エフィルロスが、慌てた様子で器を差し出した。
「あ、ぁぁ、ぁりがとうございますぅ……」
 差し出された勢いのまま、酔仙はそれを、『大きく、呷った』。
「酒じゃねーか!」
「あたっ!」
 スパァン、と小気味良い音が辺りに響いた。ユハニが瞬間的に振りぬかれたハリセンの音だ。
 酔仙はというと、喉を鳴らしながら酒を飲み干して、こう言った。
「……ひとごこちですぅ」
「うむ。迎い酒は良い物だろう?」
「おぬしら……」
 傍らでエールを飲むヴァールがにこやかに頷くのを見て、ユハニは小さく嘆息したのだった。

 その光景を背に、ソレルとリュンルースは手の甲を合わせて勝利の余韻を味わっている。
 向かい合いながら。ソレルはある事に気付いた。
「ソル。何か変だと思ってたんだが」
「ん?」
「猫耳、付けてねぇな」
「ああ」
 リュンルースはくすりと笑って、続けた。
「ちょっと、人に貸してるんだ」
「ふぅん……何か妙に似合ってたぜ、あれ」
「そうかい? ふふ、じゃあいつか返してもらおうかな」
 リュンルースはどこか嬉しげに、そういうのだった。

 最後に、蒼聖はというと。
「もう、深酒はせんぞ……」
 と、独り蹲って呻いていたという。
 その背が哀れ過ぎて誰も彼も声を掛けられなかったそうだ。

 酒は呑んでも呑まれるな、というが。
 これだけ前向きに呑まれるのであれば、こういう一日もたまには良いのかもしれない。

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参加者一覧

  • 完全少女
    エフィルロス・リンド(ka0450
    エルフ|15才|女性|聖導士
  • Funky Guy
    ユハニ・ラハティ(ka1005
    人間(蒼)|65才|男性|猟撃士
  • White Wolf
    ソレル・ユークレース(ka1693
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 道行きに、幸あれ
    リュンルース・アウイン(ka1694
    エルフ|21才|男性|魔術師
  • やわらかハート
    蒼聖(ka1739
    人間(紅)|38才|男性|霊闘士
  • その血は酒で出来ている
    酔仙(ka1747
    エルフ|20才|女性|疾影士
  • 撲滅聖導士
    ヴァール(ka1900
    ドワーフ|10才|女性|聖導士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/25 17:42:59
アイコン 相談卓!
酔仙(ka1747
エルフ|20才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/06/28 20:09:56