ゲスト
(ka0000)
ハイクを詠んでみよう
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/05 19:00
- 完成日
- 2015/03/16 23:16
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
ある晴れた昼下がり、木陰で一人の少女がせっせと紙に何かを書いていた。
「なにをしているんですか?」
それを覗き込むのは中年の男である。その容姿は少女とは似ても似つかない。
「え、えっとね。はいくを詠む練習!」
その男に対し、ある程度の親しみを持って少女は答えた。彼が目を凝らして紙を見てみると、見慣れない形式で並べられた言葉の連隊が見える。
「はいく……?」
少女は訝しげに尋ねる男を見上げ、にいっと可愛らしい笑みを浮かべた。そして、自信満々に、
「リアルブルーの詩だよ!」
……と、答える。
「ほう」
少女の返答に対し、男は短く音を溢した。少女はそれを聞いて、話題を移す。
「友達の間で流行ってる遊びがあるんだけど、皆で川の傍に座ったあと、川の上流にお皿を浮かべて、それが自分の前を通り過ぎる前にひとつ詩を作って、あとで発表するの」
少女の言葉を聞いた男の頭には、奇妙な光景が浮かんでいる。
高速で増幅する疑問符に、頭をパンクさせかけた男は首を振り、少女に対して簡潔な否定を口にした。
「そんな短い時間で詩など作れるわけないでしょう」
「出来るもん!」
少女は頬を膨らませ、男をぺしんと叩いた。しかし少女の弱い力では相手はびくともしない。
男に生暖かい視線で見られた少女は、しばらく目を泳がせた後に俯いて叫んだ。
「まだ私や友達にはできないけど……リアルブルーの昔の人はそうやって遊んでたって本には書いてあるから!」
響いた声の後を追うように、草を踏む足音がした。足音は少女の方へ向かっていく。
明るい日に照らされて立っているのは、今まで少女の相手をしていた中年の男より若く、柔らかい雰囲気を持った青年であった。
「ドナート様」
現れた青年に、中年の男は頭を垂れる。青年はそれを制すと、少女に向かって微笑みかけた。
青年の顔立ちは少女とどこか似通っている。その微笑はどこか困ったような陰も宿していた。
「リアルブルーね……また変な本読んだんだな」
青年はこう言って、少女の頭を撫でる。
「パパ! ちがうもん、変じゃないもん!」
少女は子供扱いされたことと、変だと言われたことに抗議の態度を見せた。続けて、
「ハンターの人ならきっと知ってるはず……だもん。それっぽいの、お店でやってみようよー!」
と言った。涙を浮かべそうな少女に青年は謝罪すると、
「そうだな……少し考えてみるよ」
と、困ったように答えた。
「まさか本気にしているのではありませんな」
少女が庭で遊んでいる様子を窓から眺めながら、男が気後れするように尋ねる。
「いや、子供だからといって軽く見てはいけないよ」
しかし青年は、手元に置かれたメモに字を書き記していく。内容は先ほど少女に提案された内容を、より広げたものであった。
「とすると」
男が身を乗り出して、青年を見る。青年は苦笑混じりに答えた。
「しばらくしたら店でイベントをやるから、それと一緒に……使ってみようかと……」
「しかし彼女の説明どおりには出来ませんよ」
そうなんだけど……と、呟いて青年は顎に手を当てる。
「まあ……『それっぽいの』が出来れば問題ないさ。最初は教えることにして、希望した人に即興で作らせてみる、とか……」
「……なるほど。では、お任せ致します」
出された結論に、男は納得したように言い、席を立った。
その後日。
「いらっしゃいませ。あちらの机が気になりますか?」
とあるハンターがその店に入ると、店員が笑顔で出迎えた。一画に置かれた机に目を向けると、上には短冊と墨、硯、筆がある。説明を求めたハンターに、店員は物腰穏やかに答えていく。
「今でしたら俳句の体験教室をやっております。参加するのでしたら、こちらにサインを願います」
差し出された表にサインするか、どうしようか。ハンターが逡巡していると、店員は、
「参加されなくても、何かありましたらいつでもお申し付けください」
と言う。ハンターが周囲を眺めると、店内はかなり賑わっているようだ。
陳列棚に置かれた商品も可愛らしく、桃の節句を飾るに相応しい。せっかくだから、なにか買っていくのも良いだろう。
「なにをしているんですか?」
それを覗き込むのは中年の男である。その容姿は少女とは似ても似つかない。
「え、えっとね。はいくを詠む練習!」
その男に対し、ある程度の親しみを持って少女は答えた。彼が目を凝らして紙を見てみると、見慣れない形式で並べられた言葉の連隊が見える。
「はいく……?」
少女は訝しげに尋ねる男を見上げ、にいっと可愛らしい笑みを浮かべた。そして、自信満々に、
「リアルブルーの詩だよ!」
……と、答える。
「ほう」
少女の返答に対し、男は短く音を溢した。少女はそれを聞いて、話題を移す。
「友達の間で流行ってる遊びがあるんだけど、皆で川の傍に座ったあと、川の上流にお皿を浮かべて、それが自分の前を通り過ぎる前にひとつ詩を作って、あとで発表するの」
少女の言葉を聞いた男の頭には、奇妙な光景が浮かんでいる。
高速で増幅する疑問符に、頭をパンクさせかけた男は首を振り、少女に対して簡潔な否定を口にした。
「そんな短い時間で詩など作れるわけないでしょう」
「出来るもん!」
少女は頬を膨らませ、男をぺしんと叩いた。しかし少女の弱い力では相手はびくともしない。
男に生暖かい視線で見られた少女は、しばらく目を泳がせた後に俯いて叫んだ。
「まだ私や友達にはできないけど……リアルブルーの昔の人はそうやって遊んでたって本には書いてあるから!」
響いた声の後を追うように、草を踏む足音がした。足音は少女の方へ向かっていく。
明るい日に照らされて立っているのは、今まで少女の相手をしていた中年の男より若く、柔らかい雰囲気を持った青年であった。
「ドナート様」
現れた青年に、中年の男は頭を垂れる。青年はそれを制すと、少女に向かって微笑みかけた。
青年の顔立ちは少女とどこか似通っている。その微笑はどこか困ったような陰も宿していた。
「リアルブルーね……また変な本読んだんだな」
青年はこう言って、少女の頭を撫でる。
「パパ! ちがうもん、変じゃないもん!」
少女は子供扱いされたことと、変だと言われたことに抗議の態度を見せた。続けて、
「ハンターの人ならきっと知ってるはず……だもん。それっぽいの、お店でやってみようよー!」
と言った。涙を浮かべそうな少女に青年は謝罪すると、
「そうだな……少し考えてみるよ」
と、困ったように答えた。
「まさか本気にしているのではありませんな」
少女が庭で遊んでいる様子を窓から眺めながら、男が気後れするように尋ねる。
「いや、子供だからといって軽く見てはいけないよ」
しかし青年は、手元に置かれたメモに字を書き記していく。内容は先ほど少女に提案された内容を、より広げたものであった。
「とすると」
男が身を乗り出して、青年を見る。青年は苦笑混じりに答えた。
「しばらくしたら店でイベントをやるから、それと一緒に……使ってみようかと……」
「しかし彼女の説明どおりには出来ませんよ」
そうなんだけど……と、呟いて青年は顎に手を当てる。
「まあ……『それっぽいの』が出来れば問題ないさ。最初は教えることにして、希望した人に即興で作らせてみる、とか……」
「……なるほど。では、お任せ致します」
出された結論に、男は納得したように言い、席を立った。
その後日。
「いらっしゃいませ。あちらの机が気になりますか?」
とあるハンターがその店に入ると、店員が笑顔で出迎えた。一画に置かれた机に目を向けると、上には短冊と墨、硯、筆がある。説明を求めたハンターに、店員は物腰穏やかに答えていく。
「今でしたら俳句の体験教室をやっております。参加するのでしたら、こちらにサインを願います」
差し出された表にサインするか、どうしようか。ハンターが逡巡していると、店員は、
「参加されなくても、何かありましたらいつでもお申し付けください」
と言う。ハンターが周囲を眺めると、店内はかなり賑わっているようだ。
陳列棚に置かれた商品も可愛らしく、桃の節句を飾るに相応しい。せっかくだから、なにか買っていくのも良いだろう。
リプレイ本文
●桃の花咲くに
「いらっしゃいませ」
入ってきたハンターに対し、店長が愛想の良い笑顔で応えた。店のカウンターには内裏雛が、棚には桃の花を模した造花が飾られて揺れている。
ハンター……リステル=胤・エウゼン(ka3785)は、店内を見回す。そして見つけた雛あられを一つ手にしたと同時に、振り返って店長に尋ねた。
「雛あられの他に、何かおすすめの商品はありますか?」
「でしたら、こちらは如何でしょう」
これに店長は笑顔を保ったまま答え、棚から四角いお菓子の入った箱を出してリステルに見せた。
箱の中のお菓子は緑、白、ピンクの色をしたものが層になっていて、小さな菱形をしている。
「菱餅というものです。由来には諸説ありますが、一説によれば長寿の願いが込められているそうですね。菱餅の他には白酒もございます」
「ふむ」
店長の説明にリステルは頷き、次は店内の片隅にあるテーブルに目を向けた。
「あそこでは、何を?」
「あちらでは現在、俳句教室をやっております。参加してみますか?」
テーブルには既に参加を申し込んだ数人が集まっていた。
「俳句……あぁ、十七音ですね。子供の頃に母に教わった事があります」
リステルは店長に差し出された表にサインし、微笑む。
「こういった催し物をなさるのでしたら、端午の節句や七夕も面白くなりそうですね」
店長と別れたリステルは、店内に立っていた少女、デボラに話しかけた。
「初めまして、私はリステル・エウゼンと申します」
「はじめまして! 私はデボラっていいます。リステルさん、こんにちは!」
デボラは笑って会釈をすると、視線をリステルの背後に移した。
「そちらのおにいさんは?」
リステルの振り返った先には、リュー・グランフェスト(ka2419)がいた。リューは「おっ」と短く反応してから、
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
と軽く挨拶する。
「ええ、よろしくお願いします」
リステルはこう返してから、デボラの本を見て言う。
「デボラさんのお持ちの日本文化の本を少し見せて頂けますか?」
「どうぞ!」
デボラから本を受け取ったリステルはぱらぱらとページをめくり、目当ての章にたどり着くとそこで手を止め、じっと文字を追った。リステルの隣で覗き込むリューも中身を読んでいる。
(……なるほど、随分ざっくりと書かれていますね)
書物の内容はとても大雑把である。リステルは一目見た後、リューが読み終えたことを確認して本を閉じた。
「なるほどな。お袋から聞いた内容でだいたい合ってる、かな?」
リューもおぼろげな記憶を漁りつつ、理解したようだった。
「デボラさんの仰る、川にお皿を浮かべて通り過ぎる迄に詩を作る遊びは『曲水の宴』というのですよ」
デボラから彼女と友人間で流行っている遊びとやらを聞いたリステルは、母より伝わった知識をそっと教えることにした。
「そうなんだぁ」
それを聞いて、デボラも本にメモ書きを施す。間違った知識もひとまずは修正されただろうか。
「ハイクねえ……」
その隣でそう呟いたリューの心には、
(なんか楽しいのかなあ、これ?)
という本音も過ぎるが、今は自重して。
(まあ試しにやってみるか……と考えてみるかな)
最終的に軽い気持ちでカウンターに置かれた表にサインをした。
「リステルさんのお母さんはハイク知ってるんですか?」
丁寧な動作で本を返されたデボラは、リステルを見上げたまま尋ねる。
「私の母は蒼の世界からの転移者で、俳句文化が生まれた国の出身なのですよ」
リステルの説明にリューも「へー」と短く言葉を発し、
「俺のお袋もリアルブルー出身なんだよ。元は侍の家系とかでさ。いろいろ聞いてたからその通りなのか気になって来てみたんだけど」
と言った。とそこで、テーブルからがたっと音がした。
「おサムライさん!?」
リューの言葉に反応した音の主は、ミィリア(ka2689)であった。
「リューのお母さんはおサムライさんなの?」
サムライを目指すミィリアは、きらきらした目でリューを見た。リューは首を傾げながら記憶を引き出す。
「そういう家系だけど、今はどうだろうな。でも刀や心構えとか習ったぜ」
「刀! やっぱりおサムライさんの武器は刀なんだねっ……でござるっ」
ミィリアは楽しそうに、リューの話を聞いていた。
「あの、試し書きしてもいいでしょうか」
ミィリアの隣に座っていた柏木 千春(ka3061)はその様子を横目で見ながら、店長に声をかける。店長は、
「そういうことでしたら、問題ありません。どうぞ」
と、快く承諾して、すぐに試し書き用の紙を千春の前に置いた。
(実際に自分で使ってみるのは初めてです)
墨を筆につけて、いざ試し書きを。
「……あ、はねたっ! ああ、文字が真っ黒にっ!?」
……書いてみれば、なかなか上手くいかないようだ。
(むむむ、なかなか難しいですね……!)
思い通りにいかない文字に、千春は唸った。
千春の試し書きも終わり、人数が揃ったことを確認した店長は口を開いた。
「皆様、この度はご参加いただき、ありがとうございます」
……から始まる、俳句と、今回の教室に関する説明をつらつらと述べる。
千春は昔住んでいた村にいた、かつて日本に住んでいたというおじいちゃんに話を聞いた程度だったので、日本文化の説明を興味深く聞いている。
ミィリアもうんうん、と興味津々のようだった。
「こういう頭使うのは苦手なんだけどなぁ……」
説明が終わってから、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は頭を悩ませていた。
「そう? こういうのって、楽しんだ者勝ちなのよぉ」
その横では姚 水晶(ka3630)がマイペースな態度で応じていた。ボルディアは水晶の言葉に少し驚いて、
「そうなのか」
と返した。水晶はそのままボルディアに短冊を勧め、ゆったりと言葉を紡ぐ。
「リアルブルーにはぁ、サラリーマン達が面白おかしく俳句を詠んで大賞を取り合っているという企画もあるみたいだしぃ。ボルディアちゃんも気楽にやってみたらどうかしらぁ?」
「サラリーマン……? ま、物は試しってやつでやってみるか」
リアルブルーの、少し聞きなれない単語に困惑するものの、水晶の言葉にほっとしたボルディアは筆をとった。
●思い出の中は
店長によって引っくり返された砂時計の中の砂が、さらさらと落ちて時間の経過を知らせていく。
15分という短い時間の中、6人のハンターたちはそれぞれ思い思いの句を詠もうとしていた。
(短冊に筆と硯と墨もあるとは……)
リステルは感心しつつ、
「短冊に書くのは得意です」
と言い、トップバッターを飾る。彼の実家では七夕の行事もやっていたため、短冊に書くのも慣れたものだ。
『清明の 寿ぎ馨る 桃の花』
書き終えて、リステルは余った時間が経つのを待っていた。
(ここにはリアルブルーのやつもクリムゾンウェストの人間もいる)
次に順番が回ってきたリューは、こんなことを考えていた。
(クリムゾンウェストなのに、リアルブルーの行事をためしてる)
なんか不思議だな、と思いつつ、砂が落ちきる頃にはリューも一句詠み終えていた。
『桃の下 世界を超えて 集う剣』
「えーっと、とりあえず五・七・五で文章を作ればいいんだよな?」
そうです、と店長に確認を貰ったところで、ボルディアはそうだなぁ……と呟いた。
(……んじゃ、故郷でも思い出して作ってみるか)
故郷を題材に決めたボルディアは、故郷であった島を出る前のことを思い出す。小さな頃、とても大きく見えた父の背中を。
『海駆ける 父の背広く 兄と俺』
「こんなもんか」
出来上がった句を眺めて、ボルディアは筆を置いた。
「筆を持つのも久しぶりねぇ」
久しぶりの感触に、水晶は昔の記憶を掘り起こしていく。
(あの頃はぁ……武術の鍛錬だけでなく、学問についても厳しい教育だったわぁ)
若輩ながら頭首を務めていた水晶の、普段の様子とは少し違った一面が思い出の中に光る。
(もっとも、水晶はよく指導中に眠ってたりサボったりしてて怒られちゃってたわねぇ)
懐かしくてついくすくすと笑ってしまう。春眠暁を覚えずというけども。春は皆のことを思い出す。
記憶は進み、かつて布団から出られずにまるで蓑虫のようになっていた水晶と……
「師範、起きてください!」
……といった感じで、彼女を必死に起こしに来た師範代の人々の姿が水晶の回想に現れた。
(春は皆のことを思い出しちゃうわぁ……懐かしいわねぇ……皆元気かしらぁ……)
耽っているうちに、順番が回ってきたようだ。水晶は短冊を手に、書いていく。
店内の商品たちは、水晶の故郷の庭に立つ桃の木を思い出させた。
『桃の花 故郷の庭も 咲きにけり』
暫くして、そう書かれた短冊が出来上がった。
「うーんうーん、どういうのにしたらいいんだろう」
制限時間が進む中で、ミィリアはうーんうーんと唸り続けていた。
(悩みこんだって駄目だろーとは思うのだけれどっ。やっぱり思いつかないー!)
なにか参考になりそうなものはないだろうか、と店内を見回したミィリアの目に、ちょうど飾られていた桃の花が留まる。
これにびびっとインスピレーションを得たミィリアは、筆を執って書き上げた。
『桃の花 果実の方と そっくりさん』
しっかりとミィリア、と名前を書く。ちらっと砂時計を見ていると、まだ余裕があるようだ。予備の短冊に手を伸ばし、そちらにも書いていく。
『夢見草 気高く強く 在るがまま』
大切な人にもらった言葉。こちらには春霞、とこれも大切な人に頂いた名を添える。
貰った名前はリアルブルーで雅号といわれるものだと、ミィリアは聞いていた。
(いつか胸を張っておサムライさんに慣れた時にも、名乗りたいもの……)
今はまだちょっと早いから、と。春霞の方は他の参加者に見られないように懐にしまった。
(いけないいけない、勝手になんだかしんみりしちゃったけど、こういうのはガラじゃないない!)
気を取り直すと、ミィリアはいつもの明るい調子で口を開く。
「他の皆はどんなの書いたのかなぁ。気になっちゃうでござる!」
そして千春もまた、店内からヒントを得ようとしていた一人であった。
(ええと、たしか季語……季節に関係する言葉を入れるんですよね。なるほど、雛祭り)
雛祭り、といえば桃。そして桃の花言葉は『私はあなたのとりこ』……そうして思い出したのは、一人の顔。どこか寂しくて、冷たいような……
うん、と頷いて千春は筆を取った。
『桃の木の つぼみは春を 待ち望み』
(……あの人に、暖かな春が訪れますように)
祈りを込めて詠み、筆を置いた。
●見せ合いっこ
「では、せっかくなので見せ合いましょうか」
店長の言葉に、千春は少し慌てていた。
「そ、それはちょっと、はずかしいような……っ!」
人に見られるのは少し、恥ずかしい。けど……千春は覚悟を決めて、先ほど詠んだ句を見せた。隣に居たミィリアもそれを見て感想を言う。
「素敵なハイクでござる!」
「あ、ありがとう……みーちゃんのハイクは?」
千春の言葉を聞いて、ミィリアは少し達成感溢れる顔で短冊を見せた。
「『桃の花 果実の方と そっくりさん』! 我ながら頑張ったでござる! なんだか実の方とお花、どっちも似た色なのがすごいなーって思ったのでござる」
「言われてみれば」
微笑む二人の流れに乗って、水晶も自分の句を発表する。リューもそれに続いた。
「私はぁ、故郷を懐かしんでか、するりとできちゃったのよぉ」
「俺は、教室を見て思いついたものを」
そして、ボルディアも自分の句を発表した。
「父親は漁師をやっていてな。まー、何かあると女でもすぐぶん殴るクソ親父なんだけど、海に出て行く親父はカッコよかったんだ」
故郷の話も添えて語るボルディアの話を他の参加者も静かに聞いていた。
「その背中見て育ったからかな。俺も大きくなったら海というか、世界に目を向けたいとかは思ってた」
あのカッコよかった親父みたいに、と言ってからまた、ボルディアは続ける。
「んで、都合よく覚醒者の素質があったからハンターになってここにいる訳なんだが……」
ここまで語ってから、こう締める。
「んまあ、これはちいせぇ頃の親父の背中は広くてカッコよかった、みたいな句だな」
それから、ボルディアはリステルの句を見た。
「リステルの句は、どんな意味なんだ?」
「私の句は、春の始まりを祝うかのように桃の花の香りがしますね……という意味ですね。桃の節句ですし」
と言ってから、リステルは句の横に、せいめいの ことほぎかおる もものはな……と読み仮名もつけた。
「しかし、ニホン文化てのは文章作るのにこんなめんどくさいルールが一々あるのか?」
「いえいえ。五・七・五に拘らず、自由に書かれた詩もあります」
自分の疑問に応じたリステルの説明に感心して頷いたボルディアは、デボラを呼び止めて尋ねた。
「娘さん、デボラだっけ? 他にどんなニホン文化があるのか、教えてほしい」
頼られて上機嫌なデボラは、持っている本を開いて、先ほど開かれた俳句のページ……の隣を指差して言う。
「えっと、ハイクの親戚にタンカとセンリュウがあるよ!」
「ほうほう」
そこから話が広がっていったのか、俳句教室は体験が終わったその後も暫く続いた。
●雛祭りを終えて
「無事終わったみたいですな」
ハンターが去って数時間後、店員が桃の造花などを片付けながら微笑んだ。
「ああ、よかったよ」
店長もそれに合わせて顔を綻ばせつつ、後始末をしていた。
そのついでに次の企画も考えていると、小さな足音が響いてくる。
「パパ! きょうハンターのお客さんにおしえてもらった!」
嬉しそうに駆け寄ってくる娘の頭を撫でて、店長はイベントの成功を噛み締めていた。
「いらっしゃいませ」
入ってきたハンターに対し、店長が愛想の良い笑顔で応えた。店のカウンターには内裏雛が、棚には桃の花を模した造花が飾られて揺れている。
ハンター……リステル=胤・エウゼン(ka3785)は、店内を見回す。そして見つけた雛あられを一つ手にしたと同時に、振り返って店長に尋ねた。
「雛あられの他に、何かおすすめの商品はありますか?」
「でしたら、こちらは如何でしょう」
これに店長は笑顔を保ったまま答え、棚から四角いお菓子の入った箱を出してリステルに見せた。
箱の中のお菓子は緑、白、ピンクの色をしたものが層になっていて、小さな菱形をしている。
「菱餅というものです。由来には諸説ありますが、一説によれば長寿の願いが込められているそうですね。菱餅の他には白酒もございます」
「ふむ」
店長の説明にリステルは頷き、次は店内の片隅にあるテーブルに目を向けた。
「あそこでは、何を?」
「あちらでは現在、俳句教室をやっております。参加してみますか?」
テーブルには既に参加を申し込んだ数人が集まっていた。
「俳句……あぁ、十七音ですね。子供の頃に母に教わった事があります」
リステルは店長に差し出された表にサインし、微笑む。
「こういった催し物をなさるのでしたら、端午の節句や七夕も面白くなりそうですね」
店長と別れたリステルは、店内に立っていた少女、デボラに話しかけた。
「初めまして、私はリステル・エウゼンと申します」
「はじめまして! 私はデボラっていいます。リステルさん、こんにちは!」
デボラは笑って会釈をすると、視線をリステルの背後に移した。
「そちらのおにいさんは?」
リステルの振り返った先には、リュー・グランフェスト(ka2419)がいた。リューは「おっ」と短く反応してから、
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
と軽く挨拶する。
「ええ、よろしくお願いします」
リステルはこう返してから、デボラの本を見て言う。
「デボラさんのお持ちの日本文化の本を少し見せて頂けますか?」
「どうぞ!」
デボラから本を受け取ったリステルはぱらぱらとページをめくり、目当ての章にたどり着くとそこで手を止め、じっと文字を追った。リステルの隣で覗き込むリューも中身を読んでいる。
(……なるほど、随分ざっくりと書かれていますね)
書物の内容はとても大雑把である。リステルは一目見た後、リューが読み終えたことを確認して本を閉じた。
「なるほどな。お袋から聞いた内容でだいたい合ってる、かな?」
リューもおぼろげな記憶を漁りつつ、理解したようだった。
「デボラさんの仰る、川にお皿を浮かべて通り過ぎる迄に詩を作る遊びは『曲水の宴』というのですよ」
デボラから彼女と友人間で流行っている遊びとやらを聞いたリステルは、母より伝わった知識をそっと教えることにした。
「そうなんだぁ」
それを聞いて、デボラも本にメモ書きを施す。間違った知識もひとまずは修正されただろうか。
「ハイクねえ……」
その隣でそう呟いたリューの心には、
(なんか楽しいのかなあ、これ?)
という本音も過ぎるが、今は自重して。
(まあ試しにやってみるか……と考えてみるかな)
最終的に軽い気持ちでカウンターに置かれた表にサインをした。
「リステルさんのお母さんはハイク知ってるんですか?」
丁寧な動作で本を返されたデボラは、リステルを見上げたまま尋ねる。
「私の母は蒼の世界からの転移者で、俳句文化が生まれた国の出身なのですよ」
リステルの説明にリューも「へー」と短く言葉を発し、
「俺のお袋もリアルブルー出身なんだよ。元は侍の家系とかでさ。いろいろ聞いてたからその通りなのか気になって来てみたんだけど」
と言った。とそこで、テーブルからがたっと音がした。
「おサムライさん!?」
リューの言葉に反応した音の主は、ミィリア(ka2689)であった。
「リューのお母さんはおサムライさんなの?」
サムライを目指すミィリアは、きらきらした目でリューを見た。リューは首を傾げながら記憶を引き出す。
「そういう家系だけど、今はどうだろうな。でも刀や心構えとか習ったぜ」
「刀! やっぱりおサムライさんの武器は刀なんだねっ……でござるっ」
ミィリアは楽しそうに、リューの話を聞いていた。
「あの、試し書きしてもいいでしょうか」
ミィリアの隣に座っていた柏木 千春(ka3061)はその様子を横目で見ながら、店長に声をかける。店長は、
「そういうことでしたら、問題ありません。どうぞ」
と、快く承諾して、すぐに試し書き用の紙を千春の前に置いた。
(実際に自分で使ってみるのは初めてです)
墨を筆につけて、いざ試し書きを。
「……あ、はねたっ! ああ、文字が真っ黒にっ!?」
……書いてみれば、なかなか上手くいかないようだ。
(むむむ、なかなか難しいですね……!)
思い通りにいかない文字に、千春は唸った。
千春の試し書きも終わり、人数が揃ったことを確認した店長は口を開いた。
「皆様、この度はご参加いただき、ありがとうございます」
……から始まる、俳句と、今回の教室に関する説明をつらつらと述べる。
千春は昔住んでいた村にいた、かつて日本に住んでいたというおじいちゃんに話を聞いた程度だったので、日本文化の説明を興味深く聞いている。
ミィリアもうんうん、と興味津々のようだった。
「こういう頭使うのは苦手なんだけどなぁ……」
説明が終わってから、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は頭を悩ませていた。
「そう? こういうのって、楽しんだ者勝ちなのよぉ」
その横では姚 水晶(ka3630)がマイペースな態度で応じていた。ボルディアは水晶の言葉に少し驚いて、
「そうなのか」
と返した。水晶はそのままボルディアに短冊を勧め、ゆったりと言葉を紡ぐ。
「リアルブルーにはぁ、サラリーマン達が面白おかしく俳句を詠んで大賞を取り合っているという企画もあるみたいだしぃ。ボルディアちゃんも気楽にやってみたらどうかしらぁ?」
「サラリーマン……? ま、物は試しってやつでやってみるか」
リアルブルーの、少し聞きなれない単語に困惑するものの、水晶の言葉にほっとしたボルディアは筆をとった。
●思い出の中は
店長によって引っくり返された砂時計の中の砂が、さらさらと落ちて時間の経過を知らせていく。
15分という短い時間の中、6人のハンターたちはそれぞれ思い思いの句を詠もうとしていた。
(短冊に筆と硯と墨もあるとは……)
リステルは感心しつつ、
「短冊に書くのは得意です」
と言い、トップバッターを飾る。彼の実家では七夕の行事もやっていたため、短冊に書くのも慣れたものだ。
『清明の 寿ぎ馨る 桃の花』
書き終えて、リステルは余った時間が経つのを待っていた。
(ここにはリアルブルーのやつもクリムゾンウェストの人間もいる)
次に順番が回ってきたリューは、こんなことを考えていた。
(クリムゾンウェストなのに、リアルブルーの行事をためしてる)
なんか不思議だな、と思いつつ、砂が落ちきる頃にはリューも一句詠み終えていた。
『桃の下 世界を超えて 集う剣』
「えーっと、とりあえず五・七・五で文章を作ればいいんだよな?」
そうです、と店長に確認を貰ったところで、ボルディアはそうだなぁ……と呟いた。
(……んじゃ、故郷でも思い出して作ってみるか)
故郷を題材に決めたボルディアは、故郷であった島を出る前のことを思い出す。小さな頃、とても大きく見えた父の背中を。
『海駆ける 父の背広く 兄と俺』
「こんなもんか」
出来上がった句を眺めて、ボルディアは筆を置いた。
「筆を持つのも久しぶりねぇ」
久しぶりの感触に、水晶は昔の記憶を掘り起こしていく。
(あの頃はぁ……武術の鍛錬だけでなく、学問についても厳しい教育だったわぁ)
若輩ながら頭首を務めていた水晶の、普段の様子とは少し違った一面が思い出の中に光る。
(もっとも、水晶はよく指導中に眠ってたりサボったりしてて怒られちゃってたわねぇ)
懐かしくてついくすくすと笑ってしまう。春眠暁を覚えずというけども。春は皆のことを思い出す。
記憶は進み、かつて布団から出られずにまるで蓑虫のようになっていた水晶と……
「師範、起きてください!」
……といった感じで、彼女を必死に起こしに来た師範代の人々の姿が水晶の回想に現れた。
(春は皆のことを思い出しちゃうわぁ……懐かしいわねぇ……皆元気かしらぁ……)
耽っているうちに、順番が回ってきたようだ。水晶は短冊を手に、書いていく。
店内の商品たちは、水晶の故郷の庭に立つ桃の木を思い出させた。
『桃の花 故郷の庭も 咲きにけり』
暫くして、そう書かれた短冊が出来上がった。
「うーんうーん、どういうのにしたらいいんだろう」
制限時間が進む中で、ミィリアはうーんうーんと唸り続けていた。
(悩みこんだって駄目だろーとは思うのだけれどっ。やっぱり思いつかないー!)
なにか参考になりそうなものはないだろうか、と店内を見回したミィリアの目に、ちょうど飾られていた桃の花が留まる。
これにびびっとインスピレーションを得たミィリアは、筆を執って書き上げた。
『桃の花 果実の方と そっくりさん』
しっかりとミィリア、と名前を書く。ちらっと砂時計を見ていると、まだ余裕があるようだ。予備の短冊に手を伸ばし、そちらにも書いていく。
『夢見草 気高く強く 在るがまま』
大切な人にもらった言葉。こちらには春霞、とこれも大切な人に頂いた名を添える。
貰った名前はリアルブルーで雅号といわれるものだと、ミィリアは聞いていた。
(いつか胸を張っておサムライさんに慣れた時にも、名乗りたいもの……)
今はまだちょっと早いから、と。春霞の方は他の参加者に見られないように懐にしまった。
(いけないいけない、勝手になんだかしんみりしちゃったけど、こういうのはガラじゃないない!)
気を取り直すと、ミィリアはいつもの明るい調子で口を開く。
「他の皆はどんなの書いたのかなぁ。気になっちゃうでござる!」
そして千春もまた、店内からヒントを得ようとしていた一人であった。
(ええと、たしか季語……季節に関係する言葉を入れるんですよね。なるほど、雛祭り)
雛祭り、といえば桃。そして桃の花言葉は『私はあなたのとりこ』……そうして思い出したのは、一人の顔。どこか寂しくて、冷たいような……
うん、と頷いて千春は筆を取った。
『桃の木の つぼみは春を 待ち望み』
(……あの人に、暖かな春が訪れますように)
祈りを込めて詠み、筆を置いた。
●見せ合いっこ
「では、せっかくなので見せ合いましょうか」
店長の言葉に、千春は少し慌てていた。
「そ、それはちょっと、はずかしいような……っ!」
人に見られるのは少し、恥ずかしい。けど……千春は覚悟を決めて、先ほど詠んだ句を見せた。隣に居たミィリアもそれを見て感想を言う。
「素敵なハイクでござる!」
「あ、ありがとう……みーちゃんのハイクは?」
千春の言葉を聞いて、ミィリアは少し達成感溢れる顔で短冊を見せた。
「『桃の花 果実の方と そっくりさん』! 我ながら頑張ったでござる! なんだか実の方とお花、どっちも似た色なのがすごいなーって思ったのでござる」
「言われてみれば」
微笑む二人の流れに乗って、水晶も自分の句を発表する。リューもそれに続いた。
「私はぁ、故郷を懐かしんでか、するりとできちゃったのよぉ」
「俺は、教室を見て思いついたものを」
そして、ボルディアも自分の句を発表した。
「父親は漁師をやっていてな。まー、何かあると女でもすぐぶん殴るクソ親父なんだけど、海に出て行く親父はカッコよかったんだ」
故郷の話も添えて語るボルディアの話を他の参加者も静かに聞いていた。
「その背中見て育ったからかな。俺も大きくなったら海というか、世界に目を向けたいとかは思ってた」
あのカッコよかった親父みたいに、と言ってからまた、ボルディアは続ける。
「んで、都合よく覚醒者の素質があったからハンターになってここにいる訳なんだが……」
ここまで語ってから、こう締める。
「んまあ、これはちいせぇ頃の親父の背中は広くてカッコよかった、みたいな句だな」
それから、ボルディアはリステルの句を見た。
「リステルの句は、どんな意味なんだ?」
「私の句は、春の始まりを祝うかのように桃の花の香りがしますね……という意味ですね。桃の節句ですし」
と言ってから、リステルは句の横に、せいめいの ことほぎかおる もものはな……と読み仮名もつけた。
「しかし、ニホン文化てのは文章作るのにこんなめんどくさいルールが一々あるのか?」
「いえいえ。五・七・五に拘らず、自由に書かれた詩もあります」
自分の疑問に応じたリステルの説明に感心して頷いたボルディアは、デボラを呼び止めて尋ねた。
「娘さん、デボラだっけ? 他にどんなニホン文化があるのか、教えてほしい」
頼られて上機嫌なデボラは、持っている本を開いて、先ほど開かれた俳句のページ……の隣を指差して言う。
「えっと、ハイクの親戚にタンカとセンリュウがあるよ!」
「ほうほう」
そこから話が広がっていったのか、俳句教室は体験が終わったその後も暫く続いた。
●雛祭りを終えて
「無事終わったみたいですな」
ハンターが去って数時間後、店員が桃の造花などを片付けながら微笑んだ。
「ああ、よかったよ」
店長もそれに合わせて顔を綻ばせつつ、後始末をしていた。
そのついでに次の企画も考えていると、小さな足音が響いてくる。
「パパ! きょうハンターのお客さんにおしえてもらった!」
嬉しそうに駆け寄ってくる娘の頭を撫でて、店長はイベントの成功を噛み締めていた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/02 17:36:43 |