ゲスト
(ka0000)
夕焼けに暮れなずむ
マスター:瀬川綱彦

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/01 12:00
- 完成日
- 2014/07/07 20:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●夕焼みにうごめく
夕闇が不吉などと思ったことはなかった。あんなに綺麗なのだから、怖いものなどなにもないと思っていた。
その認識が間違っていたと気づいたのはエミリーが12歳の時分――つまり、今だった。
周りの人間に隠し、街の隅に繁る木々の合間でエミリーが飼っている猫がいた。元は捨て猫だったのだろう、せめてもの償いにと毛布にくるまれて放置されていた姿を見つけてから、自分のご飯を少し分けながら育てていたのだ。
本当ならちゃんと室内で飼ってあげたかったが、連れ帰ることのできる家が彼女にはなかった。両親は早くに逝去し、孤児院暮らしになっていたからである。院内での生活に特別不満があるというわけでなかったが、親を亡くしたその猫に、幼い彼女は親近感を覚えて溺愛していた。
そうして愛情を注いで育ててしまったから、当初は子猫であったのに今では逆に大きくなりすぎてしまってエミリーでは抱き上げるのも一苦労となってしまったのだが。少しふくよかになりすぎてしまったが、それでも寒さに震えていた幼き頃よりもずいぶんと頼もしい姿になってくれたと安心させてくれたものであった。
だから今日も、いつものように昼ご飯の残りを持って――夜には外出できないから、この時間が最後のチャンスなのだ――猫のいる場所へと向かったのである。
綺麗な夕焼けの下で猫の世話をするのは日課で、胸を喜びで弾ませながら早歩きで向かっていた。
だから件の場所に着いたとき、彼女が呆然と立ち尽くして腕に抱えていたパンを取りこぼしてしまったのも仕方のないことだった。
聞こえるのは猫の鳴き声。
姿は見えない。それでも猫の鳴き声がする。
いや、確かに猫はそこにいて、鳴いている。にゃあにゃあと鳴いている。今でも確かに鳴いている。けれど、エミリーにはそれが猫だと認識できない。
幽かな夕焼けが木々の枝木の間から、それのシルエットを紅く照らす。血の色だ。――不吉だ。
てらてらと躯の表面が光る。躯を覆う鱗が光を反射していて、本当に血に濡れているようであった。
大蛇だった。大きさはエミリーは元より、成人男性すら丸呑みにできそうなほどに巨大だ。
その蛇の腹部が今、大きく膨らんでいる。
確か、あの猫の大きさは、あのくらいではなかったか。
お腹から、にゃあにゃあと猫の鳴き声がした。
猫を丸呑みにした蛇の、冷たく血の通わぬ目がエミリーを見た。
ちろりと舌を覗かせる大蛇の姿に、エミリーは悲鳴をあげて飛び出した。
●
「依頼です。ある街に大蛇が侵入しました」
ハンターオフィスにて、受付嬢がハンターたちを前にして第一声を放った。眼鏡越しに見つめる書類の文面は走り書きされたメモ用紙のような風情で、今回の依頼が緊急の物であることを物語っていた。
「侵入経路は現在不明です。幼生時に貨物に紛れ込み街にやってきたか、その街の警戒に不備があったか……ともあれ、今回気にするべきところではありません。皆様に依頼する任務は、侵入した大蛇の駆除です。それと、件の大蛇は腹部が大きく膨らんでいるでしょうが、それは……」
受付嬢が何事かを説明しかけたとき、オフィスの奥から小さな女の子が姿を現した。年齢は12歳くらいだろうか。目の周りは泣きはらしていて紅くなっており、別の職員が彼女の隣についていた。
「お腹の中から、あの子の声がするの」
掠れた声で少女がそう言うと、受付嬢が言葉を継いだ。
「彼女が大蛇の第一発見者です。野良猫を捕食しているところを目撃したようです。大蛇の腹部が膨らんでいるとしたら、それは野良猫を丸呑みにしたからでしょう。大蛇のサイズは人間を捕食する可能性もある巨大なものです。早急に駆除願います」
少女が鼻をすする音を聞いて、受付嬢の目がちらりとそちらに向いた。
「腹部に攻撃しなければ、中身にダメージを与えることはないでしょう。ともあれ、最優先事項は皆様の身の安全と大蛇の撃破です。それでは、よろしくお願いします」
夕闇が不吉などと思ったことはなかった。あんなに綺麗なのだから、怖いものなどなにもないと思っていた。
その認識が間違っていたと気づいたのはエミリーが12歳の時分――つまり、今だった。
周りの人間に隠し、街の隅に繁る木々の合間でエミリーが飼っている猫がいた。元は捨て猫だったのだろう、せめてもの償いにと毛布にくるまれて放置されていた姿を見つけてから、自分のご飯を少し分けながら育てていたのだ。
本当ならちゃんと室内で飼ってあげたかったが、連れ帰ることのできる家が彼女にはなかった。両親は早くに逝去し、孤児院暮らしになっていたからである。院内での生活に特別不満があるというわけでなかったが、親を亡くしたその猫に、幼い彼女は親近感を覚えて溺愛していた。
そうして愛情を注いで育ててしまったから、当初は子猫であったのに今では逆に大きくなりすぎてしまってエミリーでは抱き上げるのも一苦労となってしまったのだが。少しふくよかになりすぎてしまったが、それでも寒さに震えていた幼き頃よりもずいぶんと頼もしい姿になってくれたと安心させてくれたものであった。
だから今日も、いつものように昼ご飯の残りを持って――夜には外出できないから、この時間が最後のチャンスなのだ――猫のいる場所へと向かったのである。
綺麗な夕焼けの下で猫の世話をするのは日課で、胸を喜びで弾ませながら早歩きで向かっていた。
だから件の場所に着いたとき、彼女が呆然と立ち尽くして腕に抱えていたパンを取りこぼしてしまったのも仕方のないことだった。
聞こえるのは猫の鳴き声。
姿は見えない。それでも猫の鳴き声がする。
いや、確かに猫はそこにいて、鳴いている。にゃあにゃあと鳴いている。今でも確かに鳴いている。けれど、エミリーにはそれが猫だと認識できない。
幽かな夕焼けが木々の枝木の間から、それのシルエットを紅く照らす。血の色だ。――不吉だ。
てらてらと躯の表面が光る。躯を覆う鱗が光を反射していて、本当に血に濡れているようであった。
大蛇だった。大きさはエミリーは元より、成人男性すら丸呑みにできそうなほどに巨大だ。
その蛇の腹部が今、大きく膨らんでいる。
確か、あの猫の大きさは、あのくらいではなかったか。
お腹から、にゃあにゃあと猫の鳴き声がした。
猫を丸呑みにした蛇の、冷たく血の通わぬ目がエミリーを見た。
ちろりと舌を覗かせる大蛇の姿に、エミリーは悲鳴をあげて飛び出した。
●
「依頼です。ある街に大蛇が侵入しました」
ハンターオフィスにて、受付嬢がハンターたちを前にして第一声を放った。眼鏡越しに見つめる書類の文面は走り書きされたメモ用紙のような風情で、今回の依頼が緊急の物であることを物語っていた。
「侵入経路は現在不明です。幼生時に貨物に紛れ込み街にやってきたか、その街の警戒に不備があったか……ともあれ、今回気にするべきところではありません。皆様に依頼する任務は、侵入した大蛇の駆除です。それと、件の大蛇は腹部が大きく膨らんでいるでしょうが、それは……」
受付嬢が何事かを説明しかけたとき、オフィスの奥から小さな女の子が姿を現した。年齢は12歳くらいだろうか。目の周りは泣きはらしていて紅くなっており、別の職員が彼女の隣についていた。
「お腹の中から、あの子の声がするの」
掠れた声で少女がそう言うと、受付嬢が言葉を継いだ。
「彼女が大蛇の第一発見者です。野良猫を捕食しているところを目撃したようです。大蛇の腹部が膨らんでいるとしたら、それは野良猫を丸呑みにしたからでしょう。大蛇のサイズは人間を捕食する可能性もある巨大なものです。早急に駆除願います」
少女が鼻をすする音を聞いて、受付嬢の目がちらりとそちらに向いた。
「腹部に攻撃しなければ、中身にダメージを与えることはないでしょう。ともあれ、最優先事項は皆様の身の安全と大蛇の撃破です。それでは、よろしくお願いします」
リプレイ本文
ハンターオフィスには、依頼を請け負った八人のハンターが揃っていた。
「街の近くに大蛇、おまけに猫が呑まれてるかあ……。これは急がないといけないな」
依頼の内容を思い出して、イスカ・ティフィニア(ka2222)はつぶやいた。
街の中に人を丸呑みにできるほど巨大な蛇が現れた。それだけでも大事だが、今回の依頼人にとって、大蛇に猫が飲まれてしまったということの方が重要であった。身寄りのない子供にとって、飼い猫同然であった猫は家族というべき存在だったからである。
オフィスのカウンターの向こう側、職員に付き添われていたエミリーの側で、松岡 奈加(ka0988)が声をかける。膝を曲げて相手と目を合わせれば、泣きはらして紅くなった目元がよく見えた。
泣き疲れて憔悴した様子のエミリーに、奈加は励ますように笑いかけた。
「大丈夫、絶対にお姉ちゃん達がエミリーちゃんの家族を救ってみせるから! だから安心して待っててね」
正面から語りかけられて少しは落ち着いたのだろう。エミリーは力こそ入っていないものの、ハンターの言葉に頷いてみせる。
猫が消化される前に急がなくては。そう奈加は決意を新たにした。
「もしウチの風楽にも同じ事が、と考えたら……抱き締めたくなりますね」
そちらの方を見ながら、米本 剛(ka0320)は腕で抱え上げている愛猫・風楽の頭を撫でる。筋肉質だからか背丈以上に大きく見える剛の腕の中では、猫は見た目以上に小さく見えた。
「はい、猫さんのためにがんばりませんと……! 絶対に蛇のお腹から出してみせます!」
ルカ(ka0962)の言葉に剛は深く頷いた。
「ええ、にゃんこは助け出さなくては」
「にゃんこ?」
「あ、いえ猫を。ともかく、攻撃には細心の注意を払わなくてはいけませんね」
咳払いをする剛の隣で、リュー・グランフェスト(ka2419)は大きく声を上げて同意を示した。
「助けられる可能性があんなら、諦める手は無えよなっ! 作戦目的は猫の救出と蛇の撃退! と、行こうぜ!」
「蛇退治か」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)がふと口を開いた。
「それはまたヘビーな話であるな」
…………………………。
周りがどんな反応を示したかについては、言うまでもないだろう。
●夕暮れにて待つ
「大蛇退治をすることになるなんて、向こうにいた時は考えもしなかったな」
夕日で紅く染まる草木の合間で声を上げたのは、枝や草を衣服に貼り付けて自然で迷彩を施した安藤・レブナント・御治郎(ka0998)だ。他の仲間たちが誘導してきた大蛇をここで迎え撃つために潜伏しているのである。
(昔、野戦訓練で蛇は鼻がいいと聞いたことがある……風下をとるようにしないとな)
念のため、他の仲間たちにもそう伝えてあった。自分の知っている蛇との生態がどこまで共通しているかは判らないが、念を入れるにこしたことはない。
「私はその蛇を食べてみたいんだが……なんて、言ってる場合じゃないか」
大蛇の拘束用にロープを携えたリリー・アン(ka2117)も近くの林に身をかがめて潜んでいた。
リリーは大蛇をロープで拘束し、動きを鈍らせることが目的だった。
「そうそう、猫ちゃんの救出が最優先よね」
リリーに応えたのは木に登っていた奈加からのものである。彼女もここで待ち伏せ、頭上から蛇を攻撃する予定だ。
奈加の言葉にリリーは当然だと首肯する。
「無論だ。蛇はそのあと食す」
「ぶれないなあ」
「もう彼奴が来る頃であろう、気を引き締めねばいかんぞ」
木の枝に腰かけて魔導銃を手にしているのはミグだ。仲間たちの中では小柄なミグと比べると、魔導銃は不釣り合いに大きく見えた。
そう声をかけたミグは、少々不満げであった。罠を張れなかったのである。
蛇の嗅覚を狂わせるために煙草の吸い殻を水に溶いて妨害に利用すると考えていたが、急ぎの任務なので吸い殻が必要量手に入らなかったのである。自分が煙草か葉巻を持っていれば違ったかもしれないが、それを考えても仕方ないだろう。
「予定とは異なるが、皆が奮戦してくれれば元より不要。ミグはチャンスを待って撃つのみ。ドワーフの戦い方を見せてやろう」
ミグが眼を細めて遠方を見た。
「――きたぞ」
●朱色の世界
時間は囮組が大蛇と接敵した頃まで遡る。
「……いましたね」
剛、ルカ、イスカ、リューの四人は街の隅、そこで繁った木々の影に巨大な蛇の頭を目撃した。
食後だからか。大蛇はその場で動かずにのんびりと佇んでいたが、何かが近づいてくる音を躯で感知し、ゆっくりと首をもたげた。動きは機敏とは言い難いが、それが逆に圧迫感を生んだ。
四人は蛇の動きを警戒しながら慎重に距離をとる。
耳を澄ませても、猫の鳴き声はしなくなっていた。
「なら急がなきゃならないって事だよな」
イスカがショートソードを引き抜く。大蛇は食後でいくらでも時間に余裕はあるが、こちらは食べられた猫が亡くなる前に勝負を決せねばならない。
「後ろは信じて、気を引かせてもらうっ!」
仲間たちに目配せするとイスカは覚醒する。
髪色は新緑に変わり大地を蹴った。
旋風を巻き上げイスカの躯は疾駆する。
疾影士の速度は大蛇が戦闘態勢に入るより速く躯を蛇のもとへと運んでいた。
「喰らえっ!」
構えた刃を大蛇の頭――視覚を奪おうと目をねらって鋭く切り上げた。
その刃は大蛇の鱗に当たり、片目と表皮を浅く切り裂く。
「……っ、硬え!」
武器の前では飾り同然のはずも鱗もこのサイズとなると刃の通りを阻害したが、それ以上に蛇の皮が強固だった。
片目をふさいだ蛇がシュゥと唸る。とっさにイスカは塞がれた目の方へと躯を滑らせた。だが大蛇は見えなくなったはずの目が見えているかのように、大口を開けてイスカの頭へ一直線に飛び出した。
間一髪イスカは剣で蛇の牙を受け止め――しかしその膂力の前に堪えきれずに躯が宙を舞っていた。
「イスカさん!」
今にも追撃をくわえようとする大蛇を見て、ルカはとっさにホーリーライトを放とうと腕を伸ばす。
そのタイミングで蛇の腹部が目の前に押し出され、たじろいだ。
「う、やりにくいです」
「飛び道具じゃ変な所にあたると事だからな、気をつけねえと」
そう言うとリューは、イスカの手当をしている剛の横を通って前へと躍り出た。長剣を油断なく構えると、大蛇の巨躯を見上げる。
「確かに、こいつなら人くらい丸呑みにしやがるだろうな」
大蛇は木々の合間から抜けだし、夕日の下に姿を晒していた。
大蛇が大口を開けてハンターたちに飛びかかる。襲い来る牙をリューがバックラーで受け止めた。
地面を靴底で抉りとりながらも押しとどまると、誘導のためにずるずると後ろへと下がり始める。
人間同士なら息もかかるほど距離――と、リューは蛇の口の上に鼻のような穴が幾つも横一列に並んでいるのを見た。
巨大な蛇の個体の中にも赤外線を視認する器官が存在する。これも同様か、或いは似た別の何かか。これで片目をフォローしたのかもしれないが、最早関係はない。
「このまま誘き出してやる!」
大蛇は縦に瞳孔の裂けた怒りの眼でハンターたちを見ていた。爬虫類の相手でも、敵意と殺意を剥き出しにしてハンターに釘付けなのは判った。
四人は後退を開始した。
ミグが大蛇を発見したと言ったとき、既にリリーは飛び出していた。だから、四人が苦戦しながらも蛇を誘導してるのをすぐに発見した。
リリーは縄を手にすると大蛇の巨大な体に向けて縄の先に作った輪を投げる。それは見事頭から躯にひっかかり、輪は締まって蛇の躯に絡みついた。
「よっしゃ、このまま引っ張って木に――!?」
大蛇を引っ張ろうとするが、ひとりの力ではその巨体はびくともしなかった。まるで木を引き抜こうとしているかのような感触。
そこへ新たなロープが大蛇に絡みついた。イスカだ。
「ふたりならどうだ!」
大蛇と人間の綱引きは、イスカの加勢により人間側に好転した。
「さっきのお返しだ。逃げられると、思うなよ!」
イスカはにやりと笑ってロープに目一杯の力を込めて引いた。
大蛇はずるずると地面に跡を残しながら引きずられ、大きな尾を振り乱す。その尾を剛とリューが打ち払い、ルカがホーリーライトで大蛇の目をくらませる。
そしてついに大蛇は防火林へ――後方からの攻撃が届く位置にまでたどり着いた。
「今だ、奴の頭をぶち抜いてやれっ!」
御治郎とミグの機導砲が同時に炸裂し、奈加のホーリーライトが夕闇を引き裂いて大蛇へ殺到した。
三者の放った光が地面をのたうつ蛇を撃つ。体表に張り付く鱗が夕焼けに散った。
「これだけ離れてたら大きさを気にしないで撃てそうだわ!」
「でもやっこさんまだ元気みてえだな」
蛇の躯には所々の切り傷、肌と一緒に鱗が脱落した箇所が散見されたが、その力強い動きに陰りは見えない。風下からの攻撃は上手く不意打ちに貢献したのだが、のたうちまわっているときの蛇の動きは敏捷で、運悪く機導砲の射撃はかすっただけだ。
「なら死ぬまで撃ち続けてやればよい」
ミグが次弾の用意をし、その眼下ではリリーとイスカが協力して防火林の一本にロープを括りつけようとしていた。
抵抗する大蛇相手に、リリーは歯を食いしばってロープを引く。
「暴れるなよ、いまに、蛇スープに、してやるから、なぁ!」
ロープを木の幹に結びつける。暴れる大蛇の力で幹はミシミシと嫌な音を立てた。
――シィィィィィィィィ!!!
大蛇が甲高い声をあげる。逃げられないという事が判れば、大蛇は抵抗をやめて容赦無くハンターへと牙を剥くことを選んだ。
大蛇の前に強固な防具で身を包んだ剛が割って入る。がっしりとした頑丈そうな躯相手であっても、蛇は物怖じせず突撃した。
大蛇の頭突きは木槌でフルスイングしたような衝撃でもって胸を貫き、剛の口から苦痛の声が漏れた。
「なんの、聖導士がこれしきのことで!」
そのまま大蛇はぐるりと剛の巨体に躯を巻き付けようとする。これだけの膂力、巻き付かれては腕も動かすことができなくなるだろう。
「させません!」
完全に意表をついた一撃だった。
大蛇が威嚇のために口を開いた一瞬の隙をついて、ルカが口内へ光弾を放ったのだ。
ゴウッ、と音を上げて大蛇の頭が跳ね上がる。
びっしりと張り付いた細かな鱗が剥がれ落ち、大蛇は頭を振りながら拘束の手を緩める。その間に剛は大蛇から抜け出した。
ルカのアシストがなければ拘束から抜け出すまでの間、ハンターをひとり欠いて戦う羽目になっていただろう。援護に徹していたが故の的確な援護だった。
「ありがとうございます、助かりました」
「当然の事をしたまでです、このまま猫ちゃんを助けてみせましょう!」
頭部を撃たれ、怒りで巨体を震わせた大蛇がハンターたちを睨み付ける。
――シィィィ!!!
その躯が飛び出そうとした瞬間、遠方より駆けてきた影が大蛇に肉薄していた。
「さっさと猫ちゃんを吐き出しやがれよな!」
それは手にしたアルケミストタクトから機導剣を放つ御治郎だった。
「猫も――報酬のボーナスも――大好きだからさ!」
光刃は宙空に軌跡を描き大蛇の胴を斬りつけた。血が噴き出す。紅い。血の色だ。だがそれは不吉さではなく、戦いの終わりが近いことを示していた。
それでもまだ、大蛇は倒れない。
巨大な尾を鞭のようにしならせる。通常の蛇では見られない、巨体の質量と膂力を生かした一撃だ。
ハンターをまとめて吹き飛ばさんとする気概の一撃を、しかし止めたのは一人のハンターだ。
「ぬう!」
その尾を受け止めたのは剛だった。ギャリギャリギャリと靴底が地面を掘り返しながらも、大蛇の巨体を巨木のごとき両腕で抱え込み受け止めてみせた。剛の躯からはプロテクションの光の粒子が舞い散っている。強化された厚い胸板は見事に大蛇に打ち勝ったのだ。
「聖導士をそう簡単に突破できると思わないでいただきましょうか。あとはお任せします!」
剛が大蛇から距離をとる。すると森林から大蛇への射線が――通った。
「うむ、任されよう」
木々の上、ミグが幹に背中を預けていた。両手で構えた魔導銃は大蛇の頭をしっかりと照準に捉えている。
ぼう、と右目の眼帯の下から紅蓮のオーラがひときわ強く吹き上がった。
大蛇が危険を察知したのは野生の勘か。
だが逃げようとする大蛇の尾を長剣が地面に縫い付けた。
「逃がさねえって!」
リューが長剣を手放し飛び退く。頭は縄、尾は剣。いまここに大蛇の進退窮まった。
ミグはチャンスを待ち――そして、来た。
「散るがよい」
銃爪を引く。
夕焼けを切り裂く閃光は、大蛇の頭をも光に飲み込んだ。
●そして夜がやってくる
オフィスの扉が開く音でエミリーは顔をあげた。
入り口には自分が帰りを待っていたハンターたちの姿がある。そのうちのひとり、ルカの腕の中に見知った猫の姿があった。
「あ!」
エミリーが声をあげて駆け寄る。猫は目をつぶっていて、死んでいるのではないかと思った。
「大丈夫ですよ。眠っているだけです」
ルカが言う通り、猫は寝息を立てて眠っているようだった。
「そうそう、これならすぐ良くなるよ。その、なんというか、見事に丸々した猫ちゃんだし」
奈加が言葉を濁す間も、猫はルカの腕の中でその大柄な体を横たえてぐっすりと寝ていた。これは大物だなと思わされる風体である。
ルカがそっとエミリーに猫を渡すと、エミリーは猫の毛が綺麗になっていることに気づいた。代わりにルカのローブは汚れていて、水場ですぐに猫を洗ったのだろうということが見てとれた。
「あの」
エミリーが遠慮がちに口を開いた。
「あ、ありがとうございました」
ハンターたち全員に向かってエミリーが頭を下げる。
「うむ、そなたも猫が無事でよかったのう」
ミグがエミリーの頭を撫でる。背丈は同じくらいだったが、それでもどうしてかミグが年上に見える雰囲気があった。
リリーもその背後で頷いていた。ただ、口では某かの肉を頬張っている。他にない噛み応えだと呟いているが、何の肉かは聞かぬが花か。
「一応ミルクも少し飲ませてあげたんだけどさ、他の物は口にしなくて。後でまたちゃんとご飯あげてやってくれ。それに孤児院とかで飼えるように頼んでみたらどうだい?」
「ええ、それに報酬は将来のために使ってください」
イスカとルカの言葉にエミリーがふるふると首を振るうと、精一杯背筋を伸ばした。
「ちゃんとお礼はしなきゃダメって、パパとママに言われたから……。だから、ちゃんと払う。それに今度は、エミリーが戦う番だから!」
猫を抱きしめる手に力を込めると、腕の中で目を覚ました猫が抗議の声をあげた。
猫が孤児院で飼えるかどうかは判らない。
けれど不幸な結果にはなるまい。
そんな予感をハンターは覚えた。
「街の近くに大蛇、おまけに猫が呑まれてるかあ……。これは急がないといけないな」
依頼の内容を思い出して、イスカ・ティフィニア(ka2222)はつぶやいた。
街の中に人を丸呑みにできるほど巨大な蛇が現れた。それだけでも大事だが、今回の依頼人にとって、大蛇に猫が飲まれてしまったということの方が重要であった。身寄りのない子供にとって、飼い猫同然であった猫は家族というべき存在だったからである。
オフィスのカウンターの向こう側、職員に付き添われていたエミリーの側で、松岡 奈加(ka0988)が声をかける。膝を曲げて相手と目を合わせれば、泣きはらして紅くなった目元がよく見えた。
泣き疲れて憔悴した様子のエミリーに、奈加は励ますように笑いかけた。
「大丈夫、絶対にお姉ちゃん達がエミリーちゃんの家族を救ってみせるから! だから安心して待っててね」
正面から語りかけられて少しは落ち着いたのだろう。エミリーは力こそ入っていないものの、ハンターの言葉に頷いてみせる。
猫が消化される前に急がなくては。そう奈加は決意を新たにした。
「もしウチの風楽にも同じ事が、と考えたら……抱き締めたくなりますね」
そちらの方を見ながら、米本 剛(ka0320)は腕で抱え上げている愛猫・風楽の頭を撫でる。筋肉質だからか背丈以上に大きく見える剛の腕の中では、猫は見た目以上に小さく見えた。
「はい、猫さんのためにがんばりませんと……! 絶対に蛇のお腹から出してみせます!」
ルカ(ka0962)の言葉に剛は深く頷いた。
「ええ、にゃんこは助け出さなくては」
「にゃんこ?」
「あ、いえ猫を。ともかく、攻撃には細心の注意を払わなくてはいけませんね」
咳払いをする剛の隣で、リュー・グランフェスト(ka2419)は大きく声を上げて同意を示した。
「助けられる可能性があんなら、諦める手は無えよなっ! 作戦目的は猫の救出と蛇の撃退! と、行こうぜ!」
「蛇退治か」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)がふと口を開いた。
「それはまたヘビーな話であるな」
…………………………。
周りがどんな反応を示したかについては、言うまでもないだろう。
●夕暮れにて待つ
「大蛇退治をすることになるなんて、向こうにいた時は考えもしなかったな」
夕日で紅く染まる草木の合間で声を上げたのは、枝や草を衣服に貼り付けて自然で迷彩を施した安藤・レブナント・御治郎(ka0998)だ。他の仲間たちが誘導してきた大蛇をここで迎え撃つために潜伏しているのである。
(昔、野戦訓練で蛇は鼻がいいと聞いたことがある……風下をとるようにしないとな)
念のため、他の仲間たちにもそう伝えてあった。自分の知っている蛇との生態がどこまで共通しているかは判らないが、念を入れるにこしたことはない。
「私はその蛇を食べてみたいんだが……なんて、言ってる場合じゃないか」
大蛇の拘束用にロープを携えたリリー・アン(ka2117)も近くの林に身をかがめて潜んでいた。
リリーは大蛇をロープで拘束し、動きを鈍らせることが目的だった。
「そうそう、猫ちゃんの救出が最優先よね」
リリーに応えたのは木に登っていた奈加からのものである。彼女もここで待ち伏せ、頭上から蛇を攻撃する予定だ。
奈加の言葉にリリーは当然だと首肯する。
「無論だ。蛇はそのあと食す」
「ぶれないなあ」
「もう彼奴が来る頃であろう、気を引き締めねばいかんぞ」
木の枝に腰かけて魔導銃を手にしているのはミグだ。仲間たちの中では小柄なミグと比べると、魔導銃は不釣り合いに大きく見えた。
そう声をかけたミグは、少々不満げであった。罠を張れなかったのである。
蛇の嗅覚を狂わせるために煙草の吸い殻を水に溶いて妨害に利用すると考えていたが、急ぎの任務なので吸い殻が必要量手に入らなかったのである。自分が煙草か葉巻を持っていれば違ったかもしれないが、それを考えても仕方ないだろう。
「予定とは異なるが、皆が奮戦してくれれば元より不要。ミグはチャンスを待って撃つのみ。ドワーフの戦い方を見せてやろう」
ミグが眼を細めて遠方を見た。
「――きたぞ」
●朱色の世界
時間は囮組が大蛇と接敵した頃まで遡る。
「……いましたね」
剛、ルカ、イスカ、リューの四人は街の隅、そこで繁った木々の影に巨大な蛇の頭を目撃した。
食後だからか。大蛇はその場で動かずにのんびりと佇んでいたが、何かが近づいてくる音を躯で感知し、ゆっくりと首をもたげた。動きは機敏とは言い難いが、それが逆に圧迫感を生んだ。
四人は蛇の動きを警戒しながら慎重に距離をとる。
耳を澄ませても、猫の鳴き声はしなくなっていた。
「なら急がなきゃならないって事だよな」
イスカがショートソードを引き抜く。大蛇は食後でいくらでも時間に余裕はあるが、こちらは食べられた猫が亡くなる前に勝負を決せねばならない。
「後ろは信じて、気を引かせてもらうっ!」
仲間たちに目配せするとイスカは覚醒する。
髪色は新緑に変わり大地を蹴った。
旋風を巻き上げイスカの躯は疾駆する。
疾影士の速度は大蛇が戦闘態勢に入るより速く躯を蛇のもとへと運んでいた。
「喰らえっ!」
構えた刃を大蛇の頭――視覚を奪おうと目をねらって鋭く切り上げた。
その刃は大蛇の鱗に当たり、片目と表皮を浅く切り裂く。
「……っ、硬え!」
武器の前では飾り同然のはずも鱗もこのサイズとなると刃の通りを阻害したが、それ以上に蛇の皮が強固だった。
片目をふさいだ蛇がシュゥと唸る。とっさにイスカは塞がれた目の方へと躯を滑らせた。だが大蛇は見えなくなったはずの目が見えているかのように、大口を開けてイスカの頭へ一直線に飛び出した。
間一髪イスカは剣で蛇の牙を受け止め――しかしその膂力の前に堪えきれずに躯が宙を舞っていた。
「イスカさん!」
今にも追撃をくわえようとする大蛇を見て、ルカはとっさにホーリーライトを放とうと腕を伸ばす。
そのタイミングで蛇の腹部が目の前に押し出され、たじろいだ。
「う、やりにくいです」
「飛び道具じゃ変な所にあたると事だからな、気をつけねえと」
そう言うとリューは、イスカの手当をしている剛の横を通って前へと躍り出た。長剣を油断なく構えると、大蛇の巨躯を見上げる。
「確かに、こいつなら人くらい丸呑みにしやがるだろうな」
大蛇は木々の合間から抜けだし、夕日の下に姿を晒していた。
大蛇が大口を開けてハンターたちに飛びかかる。襲い来る牙をリューがバックラーで受け止めた。
地面を靴底で抉りとりながらも押しとどまると、誘導のためにずるずると後ろへと下がり始める。
人間同士なら息もかかるほど距離――と、リューは蛇の口の上に鼻のような穴が幾つも横一列に並んでいるのを見た。
巨大な蛇の個体の中にも赤外線を視認する器官が存在する。これも同様か、或いは似た別の何かか。これで片目をフォローしたのかもしれないが、最早関係はない。
「このまま誘き出してやる!」
大蛇は縦に瞳孔の裂けた怒りの眼でハンターたちを見ていた。爬虫類の相手でも、敵意と殺意を剥き出しにしてハンターに釘付けなのは判った。
四人は後退を開始した。
ミグが大蛇を発見したと言ったとき、既にリリーは飛び出していた。だから、四人が苦戦しながらも蛇を誘導してるのをすぐに発見した。
リリーは縄を手にすると大蛇の巨大な体に向けて縄の先に作った輪を投げる。それは見事頭から躯にひっかかり、輪は締まって蛇の躯に絡みついた。
「よっしゃ、このまま引っ張って木に――!?」
大蛇を引っ張ろうとするが、ひとりの力ではその巨体はびくともしなかった。まるで木を引き抜こうとしているかのような感触。
そこへ新たなロープが大蛇に絡みついた。イスカだ。
「ふたりならどうだ!」
大蛇と人間の綱引きは、イスカの加勢により人間側に好転した。
「さっきのお返しだ。逃げられると、思うなよ!」
イスカはにやりと笑ってロープに目一杯の力を込めて引いた。
大蛇はずるずると地面に跡を残しながら引きずられ、大きな尾を振り乱す。その尾を剛とリューが打ち払い、ルカがホーリーライトで大蛇の目をくらませる。
そしてついに大蛇は防火林へ――後方からの攻撃が届く位置にまでたどり着いた。
「今だ、奴の頭をぶち抜いてやれっ!」
御治郎とミグの機導砲が同時に炸裂し、奈加のホーリーライトが夕闇を引き裂いて大蛇へ殺到した。
三者の放った光が地面をのたうつ蛇を撃つ。体表に張り付く鱗が夕焼けに散った。
「これだけ離れてたら大きさを気にしないで撃てそうだわ!」
「でもやっこさんまだ元気みてえだな」
蛇の躯には所々の切り傷、肌と一緒に鱗が脱落した箇所が散見されたが、その力強い動きに陰りは見えない。風下からの攻撃は上手く不意打ちに貢献したのだが、のたうちまわっているときの蛇の動きは敏捷で、運悪く機導砲の射撃はかすっただけだ。
「なら死ぬまで撃ち続けてやればよい」
ミグが次弾の用意をし、その眼下ではリリーとイスカが協力して防火林の一本にロープを括りつけようとしていた。
抵抗する大蛇相手に、リリーは歯を食いしばってロープを引く。
「暴れるなよ、いまに、蛇スープに、してやるから、なぁ!」
ロープを木の幹に結びつける。暴れる大蛇の力で幹はミシミシと嫌な音を立てた。
――シィィィィィィィィ!!!
大蛇が甲高い声をあげる。逃げられないという事が判れば、大蛇は抵抗をやめて容赦無くハンターへと牙を剥くことを選んだ。
大蛇の前に強固な防具で身を包んだ剛が割って入る。がっしりとした頑丈そうな躯相手であっても、蛇は物怖じせず突撃した。
大蛇の頭突きは木槌でフルスイングしたような衝撃でもって胸を貫き、剛の口から苦痛の声が漏れた。
「なんの、聖導士がこれしきのことで!」
そのまま大蛇はぐるりと剛の巨体に躯を巻き付けようとする。これだけの膂力、巻き付かれては腕も動かすことができなくなるだろう。
「させません!」
完全に意表をついた一撃だった。
大蛇が威嚇のために口を開いた一瞬の隙をついて、ルカが口内へ光弾を放ったのだ。
ゴウッ、と音を上げて大蛇の頭が跳ね上がる。
びっしりと張り付いた細かな鱗が剥がれ落ち、大蛇は頭を振りながら拘束の手を緩める。その間に剛は大蛇から抜け出した。
ルカのアシストがなければ拘束から抜け出すまでの間、ハンターをひとり欠いて戦う羽目になっていただろう。援護に徹していたが故の的確な援護だった。
「ありがとうございます、助かりました」
「当然の事をしたまでです、このまま猫ちゃんを助けてみせましょう!」
頭部を撃たれ、怒りで巨体を震わせた大蛇がハンターたちを睨み付ける。
――シィィィ!!!
その躯が飛び出そうとした瞬間、遠方より駆けてきた影が大蛇に肉薄していた。
「さっさと猫ちゃんを吐き出しやがれよな!」
それは手にしたアルケミストタクトから機導剣を放つ御治郎だった。
「猫も――報酬のボーナスも――大好きだからさ!」
光刃は宙空に軌跡を描き大蛇の胴を斬りつけた。血が噴き出す。紅い。血の色だ。だがそれは不吉さではなく、戦いの終わりが近いことを示していた。
それでもまだ、大蛇は倒れない。
巨大な尾を鞭のようにしならせる。通常の蛇では見られない、巨体の質量と膂力を生かした一撃だ。
ハンターをまとめて吹き飛ばさんとする気概の一撃を、しかし止めたのは一人のハンターだ。
「ぬう!」
その尾を受け止めたのは剛だった。ギャリギャリギャリと靴底が地面を掘り返しながらも、大蛇の巨体を巨木のごとき両腕で抱え込み受け止めてみせた。剛の躯からはプロテクションの光の粒子が舞い散っている。強化された厚い胸板は見事に大蛇に打ち勝ったのだ。
「聖導士をそう簡単に突破できると思わないでいただきましょうか。あとはお任せします!」
剛が大蛇から距離をとる。すると森林から大蛇への射線が――通った。
「うむ、任されよう」
木々の上、ミグが幹に背中を預けていた。両手で構えた魔導銃は大蛇の頭をしっかりと照準に捉えている。
ぼう、と右目の眼帯の下から紅蓮のオーラがひときわ強く吹き上がった。
大蛇が危険を察知したのは野生の勘か。
だが逃げようとする大蛇の尾を長剣が地面に縫い付けた。
「逃がさねえって!」
リューが長剣を手放し飛び退く。頭は縄、尾は剣。いまここに大蛇の進退窮まった。
ミグはチャンスを待ち――そして、来た。
「散るがよい」
銃爪を引く。
夕焼けを切り裂く閃光は、大蛇の頭をも光に飲み込んだ。
●そして夜がやってくる
オフィスの扉が開く音でエミリーは顔をあげた。
入り口には自分が帰りを待っていたハンターたちの姿がある。そのうちのひとり、ルカの腕の中に見知った猫の姿があった。
「あ!」
エミリーが声をあげて駆け寄る。猫は目をつぶっていて、死んでいるのではないかと思った。
「大丈夫ですよ。眠っているだけです」
ルカが言う通り、猫は寝息を立てて眠っているようだった。
「そうそう、これならすぐ良くなるよ。その、なんというか、見事に丸々した猫ちゃんだし」
奈加が言葉を濁す間も、猫はルカの腕の中でその大柄な体を横たえてぐっすりと寝ていた。これは大物だなと思わされる風体である。
ルカがそっとエミリーに猫を渡すと、エミリーは猫の毛が綺麗になっていることに気づいた。代わりにルカのローブは汚れていて、水場ですぐに猫を洗ったのだろうということが見てとれた。
「あの」
エミリーが遠慮がちに口を開いた。
「あ、ありがとうございました」
ハンターたち全員に向かってエミリーが頭を下げる。
「うむ、そなたも猫が無事でよかったのう」
ミグがエミリーの頭を撫でる。背丈は同じくらいだったが、それでもどうしてかミグが年上に見える雰囲気があった。
リリーもその背後で頷いていた。ただ、口では某かの肉を頬張っている。他にない噛み応えだと呟いているが、何の肉かは聞かぬが花か。
「一応ミルクも少し飲ませてあげたんだけどさ、他の物は口にしなくて。後でまたちゃんとご飯あげてやってくれ。それに孤児院とかで飼えるように頼んでみたらどうだい?」
「ええ、それに報酬は将来のために使ってください」
イスカとルカの言葉にエミリーがふるふると首を振るうと、精一杯背筋を伸ばした。
「ちゃんとお礼はしなきゃダメって、パパとママに言われたから……。だから、ちゃんと払う。それに今度は、エミリーが戦う番だから!」
猫を抱きしめる手に力を込めると、腕の中で目を覚ました猫が抗議の声をあげた。
猫が孤児院で飼えるかどうかは判らない。
けれど不幸な結果にはなるまい。
そんな予感をハンターは覚えた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/28 21:25:42 |
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相談卓 米本 剛(ka0320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/01 02:54:01 |