ゲスト
(ka0000)
【王国展】ワルサー総帥の衣替え
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/07 12:00
- 完成日
- 2015/03/15 17:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
●
王国北部に位置するルサスール領。
一人娘サチコ・W・ルサスールのために、度々依頼を出す親ばかの領主がいた。
領主の名は、カフェ・W・ルサスールという。領民から愛される治世を行っている。
親ばかな依頼が多くても許される理由が、時勢に敏く、商売人としての顔があるためだ。
「王国展、これは成功させねばならぬな」
そもそもルサスール領は、食糧こそ自給自足である。
山裾の涼やかな平地にあるため、畜産が盛んに行われていた。
「親父。特産品ということで牧場主とは話がついた。羊毛の増量いけそうだ」
「職人ギルドからも、この賃金での契約が取れそうです」
中でも、羊毛については主力な産業としてカフェも力を入れている。
北部の職人ギルドと連携し、新商品を王都に送り出すブランディング戦略も行っていた。
なにこの領主……と他の貴族から疎まれることも少なくない。
「今回はどうするんだ? 機能性という面では、他に負ける気はしないが」
息子に問われ、カフェはぎぃっと椅子を鳴らして立ち上がる。
窓の外、サチコがいる山小屋の方角を見据えて告げる。
「かわいい女の子の服とかどうだろうか。リアルブルーの衣装とか」
「ほぅ」と長男の目が細くなる。
「聞くところによれば、リアルブルーの学童が身にまとう服は羊毛製だとか」
取り出されたのは、リアルブルーに関する書籍だ。
図面には、「せーらーふく」という文字が見える。
「これは……なるほど」
「興味深いですね」
興味津々な息子たちの反応に、カフェは確かなものを感じた。
だが、それだけでは足りないだろう。
「いくつか、案を作りたい。それには、職人たちの協力と外部の知恵が必要だ」
「あと、モデルですね」
「そう、モデルだ」
息子とともに、怪しげな笑いを浮かべる領主がいた。
●
「へっくち」
「おや、サチコ様。風邪ですかな?」
カフェの視線の遥か先、山の麓にひとつの小屋がある。
表看板に、「ワルワル団」と書かれた頭の悪そうな小屋だ。
その小屋の主、サチコ・W・ルサスールは身体をぶるりと震わせ、首を傾げる。
「おかしいですわね。寒気はありませ……のだぜ」
「気をつけてくださいよ。春前に引く風邪はきついですからね」
従者タロの言葉に、素直に頷く。山小屋の外で、二人は対峙していた。
コホンと咳払いし、サチコは小さな木刀を手に大見得を切る。
「ワーッハッハッハ、俺様がワルサー総帥なのだぜ!」
「はいはい。総帥、もう一度最初から型のおさらいです」
タロはサチコに剣術を教えているところだった。
その様子を、もう一人の従者ジロが洗濯物を干しながら眺める。
「サチコ様の服も、そろそろよれてきましたね……」
家出(ただし領内)したことで、持ってきた服を着回す形になっていた。
そろそろ、新しい服を貰わなければならないのだが。
「なんでしょね。嫌な予感が……ひしひしと」
ジロは遠くを見つめて思う。
その視線の先に、ルサスール家の屋敷があるのだった。
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
●
王国北部に位置するルサスール領。
一人娘サチコ・W・ルサスールのために、度々依頼を出す親ばかの領主がいた。
領主の名は、カフェ・W・ルサスールという。領民から愛される治世を行っている。
親ばかな依頼が多くても許される理由が、時勢に敏く、商売人としての顔があるためだ。
「王国展、これは成功させねばならぬな」
そもそもルサスール領は、食糧こそ自給自足である。
山裾の涼やかな平地にあるため、畜産が盛んに行われていた。
「親父。特産品ということで牧場主とは話がついた。羊毛の増量いけそうだ」
「職人ギルドからも、この賃金での契約が取れそうです」
中でも、羊毛については主力な産業としてカフェも力を入れている。
北部の職人ギルドと連携し、新商品を王都に送り出すブランディング戦略も行っていた。
なにこの領主……と他の貴族から疎まれることも少なくない。
「今回はどうするんだ? 機能性という面では、他に負ける気はしないが」
息子に問われ、カフェはぎぃっと椅子を鳴らして立ち上がる。
窓の外、サチコがいる山小屋の方角を見据えて告げる。
「かわいい女の子の服とかどうだろうか。リアルブルーの衣装とか」
「ほぅ」と長男の目が細くなる。
「聞くところによれば、リアルブルーの学童が身にまとう服は羊毛製だとか」
取り出されたのは、リアルブルーに関する書籍だ。
図面には、「せーらーふく」という文字が見える。
「これは……なるほど」
「興味深いですね」
興味津々な息子たちの反応に、カフェは確かなものを感じた。
だが、それだけでは足りないだろう。
「いくつか、案を作りたい。それには、職人たちの協力と外部の知恵が必要だ」
「あと、モデルですね」
「そう、モデルだ」
息子とともに、怪しげな笑いを浮かべる領主がいた。
●
「へっくち」
「おや、サチコ様。風邪ですかな?」
カフェの視線の遥か先、山の麓にひとつの小屋がある。
表看板に、「ワルワル団」と書かれた頭の悪そうな小屋だ。
その小屋の主、サチコ・W・ルサスールは身体をぶるりと震わせ、首を傾げる。
「おかしいですわね。寒気はありませ……のだぜ」
「気をつけてくださいよ。春前に引く風邪はきついですからね」
従者タロの言葉に、素直に頷く。山小屋の外で、二人は対峙していた。
コホンと咳払いし、サチコは小さな木刀を手に大見得を切る。
「ワーッハッハッハ、俺様がワルサー総帥なのだぜ!」
「はいはい。総帥、もう一度最初から型のおさらいです」
タロはサチコに剣術を教えているところだった。
その様子を、もう一人の従者ジロが洗濯物を干しながら眺める。
「サチコ様の服も、そろそろよれてきましたね……」
家出(ただし領内)したことで、持ってきた服を着回す形になっていた。
そろそろ、新しい服を貰わなければならないのだが。
「なんでしょね。嫌な予感が……ひしひしと」
ジロは遠くを見つめて思う。
その視線の先に、ルサスール家の屋敷があるのだった。
リプレイ本文
●
王国北部ルサスール領。
山の麓に作られたワルワル団アジトこと山小屋は、賑わっていた。
香ばしい匂いが山小屋の周囲に漂う。
「これが専用鍋か」
エルバッハ・リオン(ka2434)の提案で、リアルブルー由来の専用鍋を取り寄せたのだ。
その名もジンギスカン鍋。羊肉を焼くにはコレがないと始まらないという。
「まだ、始まらないのか」
変装したカフェは、山小屋を見つめる。
時間になったというのに、サチコが姿を表さないのである。
少し前、山小屋の内側ではエルが率先して挨拶をしていた。
「お久しぶりです、ワルサー総帥。本日もよろしくお願いします」
「よろしくなので……だぜ」
ワルサー総帥は、いつもの威勢が影を潜め、調子が悪いのかテンション低めである。
「わるわるさー?」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)がワルワル団の挨拶をして、わるわるさーという声も小さめだ。
事態がよく飲み込めていないというのもあるらしい。
「せっかく自分でデザインした服を総帥に着せて遊ぶチャンス! 楽しまないとね」
さらっとリーラが述べるのに、呼応して夢路 まよい(ka1328)がうんと頷く。
「そんな面白そうな遊び、誘われたらやらないわけないじゃない」
「あ、遊び? わた、俺様はワルワル団の衣装を決める選考って聞いてたのですが……」
「そうですよ。遊びをもたせるのも重要というファッション言葉ですね」
しれっと最上 風(ka0891)がサチコに答える。
何を持ってきたかまでは告げず、ノリ気にさせていく。
「そうそう。リアルブルーに興味があるなら、和装は挑戦してみるべきよ」
「和……装?」
紅緒(ka4255)の言葉にサチコのテンションが僅かに上る。
続けとばかりに、マリンチェ・ピアソラ(ka4179)がプレゼンする。
「あたし、セーラー服っていうのがいいと思うの。リアルブルーの服みたいだけど」
「あっちの世界の服がこっちで着れたら、うれしいんだよ。試してみるのだよ」
笑顔で頷く弓月 幸子(ka1749)に、サチコは興味をそそられる。
きゃいのきゃいのと話が弾む女子たちをよそに、白一点、ユーリ・ヴェルトライゼン(ka4225)が佇んでいた。
中華風の装束を身にまとった姿は、女性にも見紛うが、男である。
「……参加者で男、俺だけ?」
醸しだされる女子会オーラにユーリは、気圧される。
「ところでユーリ君。いつまで、そこにいるのかな?」
「え」
幸子に名前を呼ばれ、顔を上げる。
女子全員の視線がユーリへと注がれ、面食らう。
「いや、衣装を合わせるのなら」
「衣装を合わせるなら、むしろ、外で待つべきではないかしら?」
リーラの言葉に、それもそうかと頷く。
もし、言われなければ居続けるつもりだったのだろうか。そうすれば、カフェに殺されかねない。
「では、先んじて肉を頂くとしよう」
ユーリが出て行くと同時に、お着替えタイムが始まるのだった。
●
「トップバッターはそろそろか」
カフェが肉を焼きながらつぶやく。領主自ら焼くのかと、ユーリは思うのであった。
山小屋の中から、風がサチコを押し出す。
「これ従者の服です……だぜ?」
「メイド服は、リアルプルーでは、とても一般的な服ですよ?」
サチコは、ロングタイプのメイド服を身に纏っていた。
スカートが揺れ、髪が跳ねる。
「サチコさん、とりあえず、『お帰りなさいませ、御主人様』といってくみてくれませんか?」
それがこの衣装を着た時の、盟約なのですと嘯く。
「お、お帰りなさいませ、御主人様?」
辿々しく復唱するサチコに、風は細かいポージングを指示してみる。
「メイド服なら、飲食店やお屋敷に何食わぬ顔で潜入できますよ」
それに、と風は続ける。
「いざというときに、総帥服に着替えたほうが、悪の総帥っぽいですよ」
「そ、そうなのだぜ?」
「能ある鷹は爪を隠す的な。偽装ですよ、メイド服は」
サチコは感心するが、適当並べているだけである。
「メイドの心を理解するため、風に食べさせてください。あーんしてください」
風の要求に、これも修行なのだぜと言い聞かせたサチコが羊肉を与える。
うまうまとしている風へ、カフェが怨嗟の視線を向けるが、軽く流した。
「何でしたら、タロさんたちにも着てもらいますか?」
「まよいさんらに言われ、すでに着ています」
他の人に促された二人のメイドがそこにいた。
「食べ過ぎて動けませんので」と一切れしか食べてない口で言う。
「どなたか……具体的にはジロさん。風を運んでください」
一番手になった理由は、肉を食べたいからである。
メイド服のジロに運ばれる風を見て、サチコは何だこの絵面と思わざるを得なかった。
「何だこの絵面は」とユーリが声に出した頃。
「こ、この格好は」
サチコはミニスカニーソな魔法少女風衣装に身体を震わせていた。
さらにヘソ出しであれば、恥ずかしさも上がるというものだ。
エルはそんな彼女を饒舌に説き伏せる。
「リアルブルー知識によりますと、リアルブルーのワルは、ただ恐ろしいとか、威圧感があるといっただけではなく、可愛らしい路線も抑えているそうです」
なお、エル自身、本当かどうかはわからない。
適当に勢いで押していく。
「真のワルならば」とサチコが食いつきそうな言葉から切り崩す。
案の定、サチコの瞳に興味が宿った。
「この程度のこと、鼻で笑ってこなすくらいでなければならないと思います。そう、何かを極めようとするならば、少々のことなど、何だというのですか」
胸を張って、自身の服装を見せつけながら、エルは続ける。
「見てください。私など、こんなに露出が多い服でもいたって平気です。これが、極めるということです」
「極める」
「そう、極めるのです」
ぐっと、ステッキを持つサチコの手を握り、エルは押す。
そのとき、サチコが動いた。
「ハーハッハッハ、極めて見せます……見せるのだぜ!」
「その意気です」とサチコを送り出した後、エルはふうと一息つく。
「我ことながら、何を言いたいのかさっぱりわかりませんね」
説得は出来たのでよしとしましょうか等と呟きながら、会場外へと足を運ぶ。
手配してもらったジンギスカン専用鍋に、興味が移っていくエルなのであった。
恥ずかしさに顔を真赤にしながら、ポーズを決めたサチコが次に纏ったのは……悪一文字の羽織だった。
「ハーッハッハッハ!」とこれにはご満悦のサチコである。
「あたしは『尾瀬』を転じて『悪勢』、反逆する異端の集まりって意味で『悪』の一文字を背負っているんだけど」
紅緒も着替えながら、説明する。
「実際、悪一文字の羽織としてね。悪の一文字はワルとも読むし、似合ってるわよ」
「紅緒も似合っているのだぜ」
「……でも微妙に小さいわね」
紅緒が着ているのは、サチコが普段まとっている黒を貴重にしたゴシックドレスだ。
若干、サチコが来ている時よりもミニっぽくなっている。
「『ワル』にこだわる、紅世界と蒼世界の饗宴って感じね」
連れ立って出ると、サチコは見得を切る。道着と袴姿に、羽織がよく似合う。
対する紅緒も、腕組み仁王立ちをしていた。
おぉ、と兄達が感心する中、紅緒はサチコと踵を返す。
「さて、次ね」
サチコは反応するまもなく、着替えさせられていた。
続いては白衣に緋袴、つまり巫女装束であった。
「着せ替えの通過儀礼みたいなものよ」
淡々と着せ替えれば、白い衣に銀髪が光る。
金髪でも生えるが、銀髪も乙だと思わせる力があった。
「へぇ、結構に合って見えるわね」
今度はどうすればいいかわからず戸惑ったまま、お目見えし、再び小屋の中へ。
そろそろ成されるがままに惚けてきたサチコに、浴衣を着せる。
「まだ、寒いかもしれないけれど……夏には丁度いいと思うわ」
髪を結い上げ、簪を指せば光の加減で八重の山吹にも見える。
浴衣の淡い藍色が、雰囲気によくあっていた。
「この格好で花火を見上げたりするんだけど、綺羅びやかなサチコは夜の花火も方なしね、きっと」
「そこまで褒められると、気恥ずかしいぜ」
紅緒の言葉に、声を小さくして頬を染めるサチコであった。
次に出てきたサチコは、中華風の半袖チュニック丈の上着と、ふくらはぎ丈のパンツの組み合わせだった。
あれはどういう衣装かと問うカフェにユーリが、答える。
「チャイナドレスというリアルブルーの衣装に近いものだ」
「ほぅ」
「ただ、ある程度大人というか、グラマーじゃないとチャイナドレスは似合わないのでね」
「あぁ」とカフェは納得した表情を見せる。
話の種にされているサチコは動きやすい服装を喜んでいた。
まさか、こんな会話がなされているとは夢にも思うまい。
「ワルサー総帥には、多分こっちの方が似合うと思う。俺はね」
忌憚のないユーリの意見に、カフェも賛同する。
それでいいのか、親父さんと内心思いつつ、口には出さない。
「……あぁ、今の自分だと若干寒い、か」
小さくくしゃみをしたサチコに、申し訳無さそうな視線を向ける。
もう少し工夫をしたデザインもあり、そちらならより温かいと説明したところで、
「ユーリさん。そちらのお肉持ってきてくれますか?」
風がユーリを呼んだため、説明を切り上げるのだった。
続いては、幸子&マリンチェのセーラー服祭りである。
「サチ……ワルサーちゃんが赤いラインとスカーフ。あたしは白いラインとスカーフね」
自身の緑髪を気にしつつの色合いで、マリンチェがコーディネートする。
「悪い子だと、確か、すごく裾の長いスカートを履くんだっけ」
おぼろげな知識で引きずりそうなスカートを二人とも履いていた。
「ハーハッハ、何だかワルの気分なのだぜ」
意気揚々なサチコであるが、男どもの視線はマリンチェへ向く。
グラビアを飾りそうな体つきに、学生服は反則であった。
「……何だか負けた気分」とサチコもポツリとつぶやく。
「ワルサーちゃん。ほら、スカーフをリボン結びにしたりして」とマリンチェは気にしていない。
「ほら、次は私の番なのだよ」と幸子が呼び、一度サチコが引っ込む。ややこしい。
マリンチェは、台を降りて自分が提案した煮込み料理の味を見ていた。
「うん、家庭の味よね。そして、こっちが」
「ジンギスカンですわ。由緒正しい専用鍋で焼いた羊肉、でしてよ」
エルがすっと説明に入る。
そうこうしている間に、サチコが再び戻ってきた。
「後ろは学ランで隠れるから、大丈夫なんだよ」
赤面するサチコをぐいぐい幸子が押していく。
「袖を通さずに肩に羽織るのがポイントなんだよ」とサチコに学ランをはおらせていた。
さっきとは打って変わってミニスカートである。
絶対領域にポニーテールと、オプションも追加されていた。
「ちょっと地味かも……腕にシルバーとか巻いてみるんだよ」
とどこぞの知識を引っ張りだして、アドバイスする幸子の言葉が届いていたかどうかは微妙である。
「あ、サチコちゃん。一周回って欲しかったのだよ……」
羞恥心が最高に達したのか、サチコが踵を返す。
その瞬間、飛んでしまった学ランを手に幸子は舞台を降りる。
「いい匂い。香草で臭みを消してるんだね。煮込みも美味しいんだよ」
用意された羊肉料理に、舌鼓を打つのであった。
「これは、無理! 無理ですわ!」
「え~、それくらいはさすがにしないと、お客さんいっぱい集まらないよ。きっと、たぶん、おそらくメイビー?」
「お客さんってなんですの!?」
「気にしなくていいよ。ほら、いくよー」
サチコを素に戻しつつ、まよいが押し出す。
出てきたサチコは、肩や脚を大胆に露出したチューブトップワンピを纏っていた。
「ふむ」
「ほう」
この場においては希少価値の高い男子、ユーリや兄達が声を出した。
もっこもこした生地で作られた服は、どこか艶かしさを残す。
「まるごとベリアルって名前の服だよ」
しかし、名前は艶かしさはおろか、愛らしさの欠片もなかった。
「やっぱりワルの代名詞といったらこれだよね」と満足気なまよいである。
「そうなの……だぜ?」と情勢に疎いサチコは首を傾げる。
「ほら、ベリアルって胸のあたりまでしか毛がなかったじゃない?」
説明されても、サチコは目をパチクリするばかり。恥ずかしげに肩や脚を隠そうとする。
「せっかく、綺麗なんだから見せつけなきゃ」
見せたいまよいと手足を絡めての押し問答が続き、やきもきする人たちが居た。
そのやきもきを残したまま、サチコが退場していく。
「楽しかった」と感想をこぼすあたり、さすがである。
舞台を降りて、羊肉に興味が移ったのか。美味しそうに頬張るまよいであった。
「……あ、あれ可愛い」
マリンチェが楽しげに声を漏らす、最後の衣装。
それは、ハート柄ピンクパジャマであった。ナイトキャップにぬいぐるみと装備もばっちりである。
何で昼間からパジャマ、と渋い顔をしていたサチコをリーラは次のように説き伏せていた。
「総帥~、総帥は一日にどれ位の睡眠をとるのかしら?」
「一日の四分の一くらい……ですわ」
「ふ~ん、じゃあ、その睡眠時間が人生において、どれ程の割合を占めているかわかっているわよね」
当然、睡眠時間が一日の四分の一であれば、
「人生の四分の一は寝て過ごしているといえるわ。つまり、就寝時の姿とは、人間の第二の私服といえるわけ」
ぐっと力説するリーラに、サチコは目をグルグルさせる。
「故に」とさらに語気を強め、宣言する。
「このような場でパジャマになったとしても、何ら問題はないわ!」
「じゃあ、リーラさんもパジャマになってくれますわね?」
この返しをされると、リーラは断れない。
もとより、最終手段として用意はしていたのだ。
アイボリー系の花がらパジャマをすらりと身にまとう。
「露出は少ないけれど、ちらっと見えるオヘソがチャームポイントよ」
リーラがそう説明すると、とたんにサチコはぬいぐるみをお腹に持ってくる。
それはそれで、小動物を抱えているみたいでかわいいのだ。そうカフェは語る。
「そして、特産品候補にこの『ワルサー総帥のポートレイト付パジャマ』を提案するわ!」
ババンっと言い切るリーラにサチコがぎょっとする。
「質のいい羊毛をふんだんに使ったふんわりあったかな可愛いパジャマに、可愛いパジャマ姿の総帥の絵が付けば大ヒット間違いないわー!」
意気揚々とガッツポーズするリーラと、なるほどと頷く兄達。
しかし、最後の難関が大きく×印を掲げていた。
「だめだ! サチコのあられもない姿を晒すわけにはいかぬ!!」
「えー、いいじゃない。特産品よ」
「だめなものは、だめー!」
もはや、駄々をこねるような勢いのカフェに、言い募るリーラ。
風やまよいが肉を盛大に食べながら、それを眺めていた。
一人サチコは、空を見上げてつぶやくのだった。
「やっぱり……いつもの服がいいのですわ」
王国北部ルサスール領。
山の麓に作られたワルワル団アジトこと山小屋は、賑わっていた。
香ばしい匂いが山小屋の周囲に漂う。
「これが専用鍋か」
エルバッハ・リオン(ka2434)の提案で、リアルブルー由来の専用鍋を取り寄せたのだ。
その名もジンギスカン鍋。羊肉を焼くにはコレがないと始まらないという。
「まだ、始まらないのか」
変装したカフェは、山小屋を見つめる。
時間になったというのに、サチコが姿を表さないのである。
少し前、山小屋の内側ではエルが率先して挨拶をしていた。
「お久しぶりです、ワルサー総帥。本日もよろしくお願いします」
「よろしくなので……だぜ」
ワルサー総帥は、いつもの威勢が影を潜め、調子が悪いのかテンション低めである。
「わるわるさー?」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)がワルワル団の挨拶をして、わるわるさーという声も小さめだ。
事態がよく飲み込めていないというのもあるらしい。
「せっかく自分でデザインした服を総帥に着せて遊ぶチャンス! 楽しまないとね」
さらっとリーラが述べるのに、呼応して夢路 まよい(ka1328)がうんと頷く。
「そんな面白そうな遊び、誘われたらやらないわけないじゃない」
「あ、遊び? わた、俺様はワルワル団の衣装を決める選考って聞いてたのですが……」
「そうですよ。遊びをもたせるのも重要というファッション言葉ですね」
しれっと最上 風(ka0891)がサチコに答える。
何を持ってきたかまでは告げず、ノリ気にさせていく。
「そうそう。リアルブルーに興味があるなら、和装は挑戦してみるべきよ」
「和……装?」
紅緒(ka4255)の言葉にサチコのテンションが僅かに上る。
続けとばかりに、マリンチェ・ピアソラ(ka4179)がプレゼンする。
「あたし、セーラー服っていうのがいいと思うの。リアルブルーの服みたいだけど」
「あっちの世界の服がこっちで着れたら、うれしいんだよ。試してみるのだよ」
笑顔で頷く弓月 幸子(ka1749)に、サチコは興味をそそられる。
きゃいのきゃいのと話が弾む女子たちをよそに、白一点、ユーリ・ヴェルトライゼン(ka4225)が佇んでいた。
中華風の装束を身にまとった姿は、女性にも見紛うが、男である。
「……参加者で男、俺だけ?」
醸しだされる女子会オーラにユーリは、気圧される。
「ところでユーリ君。いつまで、そこにいるのかな?」
「え」
幸子に名前を呼ばれ、顔を上げる。
女子全員の視線がユーリへと注がれ、面食らう。
「いや、衣装を合わせるのなら」
「衣装を合わせるなら、むしろ、外で待つべきではないかしら?」
リーラの言葉に、それもそうかと頷く。
もし、言われなければ居続けるつもりだったのだろうか。そうすれば、カフェに殺されかねない。
「では、先んじて肉を頂くとしよう」
ユーリが出て行くと同時に、お着替えタイムが始まるのだった。
●
「トップバッターはそろそろか」
カフェが肉を焼きながらつぶやく。領主自ら焼くのかと、ユーリは思うのであった。
山小屋の中から、風がサチコを押し出す。
「これ従者の服です……だぜ?」
「メイド服は、リアルプルーでは、とても一般的な服ですよ?」
サチコは、ロングタイプのメイド服を身に纏っていた。
スカートが揺れ、髪が跳ねる。
「サチコさん、とりあえず、『お帰りなさいませ、御主人様』といってくみてくれませんか?」
それがこの衣装を着た時の、盟約なのですと嘯く。
「お、お帰りなさいませ、御主人様?」
辿々しく復唱するサチコに、風は細かいポージングを指示してみる。
「メイド服なら、飲食店やお屋敷に何食わぬ顔で潜入できますよ」
それに、と風は続ける。
「いざというときに、総帥服に着替えたほうが、悪の総帥っぽいですよ」
「そ、そうなのだぜ?」
「能ある鷹は爪を隠す的な。偽装ですよ、メイド服は」
サチコは感心するが、適当並べているだけである。
「メイドの心を理解するため、風に食べさせてください。あーんしてください」
風の要求に、これも修行なのだぜと言い聞かせたサチコが羊肉を与える。
うまうまとしている風へ、カフェが怨嗟の視線を向けるが、軽く流した。
「何でしたら、タロさんたちにも着てもらいますか?」
「まよいさんらに言われ、すでに着ています」
他の人に促された二人のメイドがそこにいた。
「食べ過ぎて動けませんので」と一切れしか食べてない口で言う。
「どなたか……具体的にはジロさん。風を運んでください」
一番手になった理由は、肉を食べたいからである。
メイド服のジロに運ばれる風を見て、サチコは何だこの絵面と思わざるを得なかった。
「何だこの絵面は」とユーリが声に出した頃。
「こ、この格好は」
サチコはミニスカニーソな魔法少女風衣装に身体を震わせていた。
さらにヘソ出しであれば、恥ずかしさも上がるというものだ。
エルはそんな彼女を饒舌に説き伏せる。
「リアルブルー知識によりますと、リアルブルーのワルは、ただ恐ろしいとか、威圧感があるといっただけではなく、可愛らしい路線も抑えているそうです」
なお、エル自身、本当かどうかはわからない。
適当に勢いで押していく。
「真のワルならば」とサチコが食いつきそうな言葉から切り崩す。
案の定、サチコの瞳に興味が宿った。
「この程度のこと、鼻で笑ってこなすくらいでなければならないと思います。そう、何かを極めようとするならば、少々のことなど、何だというのですか」
胸を張って、自身の服装を見せつけながら、エルは続ける。
「見てください。私など、こんなに露出が多い服でもいたって平気です。これが、極めるということです」
「極める」
「そう、極めるのです」
ぐっと、ステッキを持つサチコの手を握り、エルは押す。
そのとき、サチコが動いた。
「ハーハッハッハ、極めて見せます……見せるのだぜ!」
「その意気です」とサチコを送り出した後、エルはふうと一息つく。
「我ことながら、何を言いたいのかさっぱりわかりませんね」
説得は出来たのでよしとしましょうか等と呟きながら、会場外へと足を運ぶ。
手配してもらったジンギスカン専用鍋に、興味が移っていくエルなのであった。
恥ずかしさに顔を真赤にしながら、ポーズを決めたサチコが次に纏ったのは……悪一文字の羽織だった。
「ハーッハッハッハ!」とこれにはご満悦のサチコである。
「あたしは『尾瀬』を転じて『悪勢』、反逆する異端の集まりって意味で『悪』の一文字を背負っているんだけど」
紅緒も着替えながら、説明する。
「実際、悪一文字の羽織としてね。悪の一文字はワルとも読むし、似合ってるわよ」
「紅緒も似合っているのだぜ」
「……でも微妙に小さいわね」
紅緒が着ているのは、サチコが普段まとっている黒を貴重にしたゴシックドレスだ。
若干、サチコが来ている時よりもミニっぽくなっている。
「『ワル』にこだわる、紅世界と蒼世界の饗宴って感じね」
連れ立って出ると、サチコは見得を切る。道着と袴姿に、羽織がよく似合う。
対する紅緒も、腕組み仁王立ちをしていた。
おぉ、と兄達が感心する中、紅緒はサチコと踵を返す。
「さて、次ね」
サチコは反応するまもなく、着替えさせられていた。
続いては白衣に緋袴、つまり巫女装束であった。
「着せ替えの通過儀礼みたいなものよ」
淡々と着せ替えれば、白い衣に銀髪が光る。
金髪でも生えるが、銀髪も乙だと思わせる力があった。
「へぇ、結構に合って見えるわね」
今度はどうすればいいかわからず戸惑ったまま、お目見えし、再び小屋の中へ。
そろそろ成されるがままに惚けてきたサチコに、浴衣を着せる。
「まだ、寒いかもしれないけれど……夏には丁度いいと思うわ」
髪を結い上げ、簪を指せば光の加減で八重の山吹にも見える。
浴衣の淡い藍色が、雰囲気によくあっていた。
「この格好で花火を見上げたりするんだけど、綺羅びやかなサチコは夜の花火も方なしね、きっと」
「そこまで褒められると、気恥ずかしいぜ」
紅緒の言葉に、声を小さくして頬を染めるサチコであった。
次に出てきたサチコは、中華風の半袖チュニック丈の上着と、ふくらはぎ丈のパンツの組み合わせだった。
あれはどういう衣装かと問うカフェにユーリが、答える。
「チャイナドレスというリアルブルーの衣装に近いものだ」
「ほぅ」
「ただ、ある程度大人というか、グラマーじゃないとチャイナドレスは似合わないのでね」
「あぁ」とカフェは納得した表情を見せる。
話の種にされているサチコは動きやすい服装を喜んでいた。
まさか、こんな会話がなされているとは夢にも思うまい。
「ワルサー総帥には、多分こっちの方が似合うと思う。俺はね」
忌憚のないユーリの意見に、カフェも賛同する。
それでいいのか、親父さんと内心思いつつ、口には出さない。
「……あぁ、今の自分だと若干寒い、か」
小さくくしゃみをしたサチコに、申し訳無さそうな視線を向ける。
もう少し工夫をしたデザインもあり、そちらならより温かいと説明したところで、
「ユーリさん。そちらのお肉持ってきてくれますか?」
風がユーリを呼んだため、説明を切り上げるのだった。
続いては、幸子&マリンチェのセーラー服祭りである。
「サチ……ワルサーちゃんが赤いラインとスカーフ。あたしは白いラインとスカーフね」
自身の緑髪を気にしつつの色合いで、マリンチェがコーディネートする。
「悪い子だと、確か、すごく裾の長いスカートを履くんだっけ」
おぼろげな知識で引きずりそうなスカートを二人とも履いていた。
「ハーハッハ、何だかワルの気分なのだぜ」
意気揚々なサチコであるが、男どもの視線はマリンチェへ向く。
グラビアを飾りそうな体つきに、学生服は反則であった。
「……何だか負けた気分」とサチコもポツリとつぶやく。
「ワルサーちゃん。ほら、スカーフをリボン結びにしたりして」とマリンチェは気にしていない。
「ほら、次は私の番なのだよ」と幸子が呼び、一度サチコが引っ込む。ややこしい。
マリンチェは、台を降りて自分が提案した煮込み料理の味を見ていた。
「うん、家庭の味よね。そして、こっちが」
「ジンギスカンですわ。由緒正しい専用鍋で焼いた羊肉、でしてよ」
エルがすっと説明に入る。
そうこうしている間に、サチコが再び戻ってきた。
「後ろは学ランで隠れるから、大丈夫なんだよ」
赤面するサチコをぐいぐい幸子が押していく。
「袖を通さずに肩に羽織るのがポイントなんだよ」とサチコに学ランをはおらせていた。
さっきとは打って変わってミニスカートである。
絶対領域にポニーテールと、オプションも追加されていた。
「ちょっと地味かも……腕にシルバーとか巻いてみるんだよ」
とどこぞの知識を引っ張りだして、アドバイスする幸子の言葉が届いていたかどうかは微妙である。
「あ、サチコちゃん。一周回って欲しかったのだよ……」
羞恥心が最高に達したのか、サチコが踵を返す。
その瞬間、飛んでしまった学ランを手に幸子は舞台を降りる。
「いい匂い。香草で臭みを消してるんだね。煮込みも美味しいんだよ」
用意された羊肉料理に、舌鼓を打つのであった。
「これは、無理! 無理ですわ!」
「え~、それくらいはさすがにしないと、お客さんいっぱい集まらないよ。きっと、たぶん、おそらくメイビー?」
「お客さんってなんですの!?」
「気にしなくていいよ。ほら、いくよー」
サチコを素に戻しつつ、まよいが押し出す。
出てきたサチコは、肩や脚を大胆に露出したチューブトップワンピを纏っていた。
「ふむ」
「ほう」
この場においては希少価値の高い男子、ユーリや兄達が声を出した。
もっこもこした生地で作られた服は、どこか艶かしさを残す。
「まるごとベリアルって名前の服だよ」
しかし、名前は艶かしさはおろか、愛らしさの欠片もなかった。
「やっぱりワルの代名詞といったらこれだよね」と満足気なまよいである。
「そうなの……だぜ?」と情勢に疎いサチコは首を傾げる。
「ほら、ベリアルって胸のあたりまでしか毛がなかったじゃない?」
説明されても、サチコは目をパチクリするばかり。恥ずかしげに肩や脚を隠そうとする。
「せっかく、綺麗なんだから見せつけなきゃ」
見せたいまよいと手足を絡めての押し問答が続き、やきもきする人たちが居た。
そのやきもきを残したまま、サチコが退場していく。
「楽しかった」と感想をこぼすあたり、さすがである。
舞台を降りて、羊肉に興味が移ったのか。美味しそうに頬張るまよいであった。
「……あ、あれ可愛い」
マリンチェが楽しげに声を漏らす、最後の衣装。
それは、ハート柄ピンクパジャマであった。ナイトキャップにぬいぐるみと装備もばっちりである。
何で昼間からパジャマ、と渋い顔をしていたサチコをリーラは次のように説き伏せていた。
「総帥~、総帥は一日にどれ位の睡眠をとるのかしら?」
「一日の四分の一くらい……ですわ」
「ふ~ん、じゃあ、その睡眠時間が人生において、どれ程の割合を占めているかわかっているわよね」
当然、睡眠時間が一日の四分の一であれば、
「人生の四分の一は寝て過ごしているといえるわ。つまり、就寝時の姿とは、人間の第二の私服といえるわけ」
ぐっと力説するリーラに、サチコは目をグルグルさせる。
「故に」とさらに語気を強め、宣言する。
「このような場でパジャマになったとしても、何ら問題はないわ!」
「じゃあ、リーラさんもパジャマになってくれますわね?」
この返しをされると、リーラは断れない。
もとより、最終手段として用意はしていたのだ。
アイボリー系の花がらパジャマをすらりと身にまとう。
「露出は少ないけれど、ちらっと見えるオヘソがチャームポイントよ」
リーラがそう説明すると、とたんにサチコはぬいぐるみをお腹に持ってくる。
それはそれで、小動物を抱えているみたいでかわいいのだ。そうカフェは語る。
「そして、特産品候補にこの『ワルサー総帥のポートレイト付パジャマ』を提案するわ!」
ババンっと言い切るリーラにサチコがぎょっとする。
「質のいい羊毛をふんだんに使ったふんわりあったかな可愛いパジャマに、可愛いパジャマ姿の総帥の絵が付けば大ヒット間違いないわー!」
意気揚々とガッツポーズするリーラと、なるほどと頷く兄達。
しかし、最後の難関が大きく×印を掲げていた。
「だめだ! サチコのあられもない姿を晒すわけにはいかぬ!!」
「えー、いいじゃない。特産品よ」
「だめなものは、だめー!」
もはや、駄々をこねるような勢いのカフェに、言い募るリーラ。
風やまよいが肉を盛大に食べながら、それを眺めていた。
一人サチコは、空を見上げてつぶやくのだった。
「やっぱり……いつもの服がいいのですわ」
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新作衣装発表所 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/06 23:35:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/04 22:54:55 |