ゲスト
(ka0000)
【アルカナ】 傲慢不遜な歪みの王
マスター:桐咲鈴華

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/08 07:30
- 完成日
- 2015/03/11 16:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境東部。マギア砦から遠く離れた場所にあるここは、歪虚の侵攻により奪取されてしまった、かつての人類の居住区である。
おおよそ300年間人の手が入らなかったここは、今や歪虚の領地に等しく、雑魔をはじめとする多数の歪虚が徘徊している。
故に依頼を請けたハンターや腕に覚えのあるトレジャーハンター以外は滅多に人の立ち入る事のない魔境の一つである。
そんな遺跡の中心部。外観はかつての宮殿のようであったその場所でのこと……
●
埃や土砂に埋まった、かつて豪奢な造りをされてたと伺わせる宮殿の遺跡。かつて謁見の場であったと思しきそこで、多数のハンターが横たわっていた。
誰も彼もが重傷を負い、息も絶え絶えといった様子だ。部屋の奥の奥。老朽化した玉座に腰掛ける人影を除いて。
「くはははは、脆いものよ! 人間の戦士とはこれほどまでに脆弱なものであったか? よもやこの300年の間にここまで落ちぶれた訳ではあるまいな!」
尊大な高笑いを浮かべる人の形をしたそれの頭には巨大な角があり、肌は人間のものとは違い金属質だ。高貴な衣装を身に纏い、多数の装飾を施された巨大な剣が傍らに突き立っている。さながらその姿は王族のような印象を受けるものだった。
「ぐ……」
横たわっていたハンターのうちの一人が、剣を杖にして身を起こす。
「なんで……こんな所に、居る。『傲慢』……!」
「口を慎めよ雑種。王の御前であるぞ」
その言葉と同時に立ち上がろうとしていたハンターが急に地に叩きつけられる。まるで身体の上に巨大な岩が落下してきたかのように、その身体が地にへばり付けられる。
「だが許そう。余は復活したてで気分が良い。それに、貴様らにはやって貰わねばならぬ仕事があるからな」
「仕、事……!?」
玉座から立ち上がった歪虚はゆっくりとそのハンターに歩み寄りながら、まるで甘い夢を語るかのような口調でハンターに告げた。
「王には献上物が必要だ。判るであろう? 貴様はそれを連れて参れ」
「お、前……何を……」
「誰が口答えを許した?」
何とか立ち上がろうとするハンターの頭を歪虚は容赦なく踏みつける。ハンターが漏らす苦悶の声も関係なく、言葉を続けてゆく。
「まずは腹が減った。時代も変わり食の文化もさぞ変容した事であろう。絶品と思う物を持って来るが良い」
「食い物には酒が必要だ。極上の逸品を余に献上するが良い」
「腹を満たしたなら次は女だ。豊満な体つきの者が良いが、女としての魅力ある肢体を持つものならば許そう」
「酒に女と来れば次は享楽であろう。芸人を呼べ。武芸者でも道化でも構わぬ。見世物となる技を持つ者を連れて来い」
「それに併せて音楽を聴くのも必要だな。歌や演奏の得意な者を呼べ。極上の物をな」
「人の生き様を愛でるのも王の愉しみよ。数奇な人生を歩んで来た者を連れて来い。その話を肴に酒を飲むのだ」
指を折りながら6つの条件を語る歪虚。踏みつけられているハンターは不思議とその言葉に重みを感じていた。
「覚えたな? これらの条件に合う者と物を、7回太陽が沈むまでに連れて来い。貴様等はその遣いとして、特別に生かして返してやろう」
その言葉と同時に脚をどけると、今まで横たわっていたハンター達の身体が全て宙に浮く。
「もし余の意に背くようであれば、貴様等の街は業火に包まれる物と知れ。王の命は絶対であるぞ」
歪虚の言葉と同時にハンター達の身体は、空中で何かに弾かれたように吹き飛び、窓を突き破って外へ放り出された。
●
「……偶然そこを通りかかったのが幸いでした。辛くも、彼らを助けることが出来ましたから」
ハンターオフィスの受付嬢と机を隔てて向かい合ってるのは、部族の少女。銀髪の綺麗な髪を持つ、物静かな佇まいをする彼女の名はエフィーリア・タロッキ(kz0077)。『タロッキ族』と呼ばれる部族の一人だ。
「……えと、彼らの話に出てきたのが、エフィーリアさんの言う『アルカナ』という歪虚ですか?」
「……はい。間違いないでしょう」
エフィーリアの話によれば、『アルカナ』とはタロッキ族が300年前に封じた、強力な力を有す歪虚群の総称であり、現在までその封印が守られてきた。
しかし近年の歪虚との戦いでその封印に綻びが生じ、その力の一部が漏れ出たらしい。その事態に対抗する為に、部族の代表としてエフィーリアがハンターズソサエティに派遣されて来たのである。
「……彼らの話を聞くに、その歪虚は『The Emperor』と呼ばれるものでしょう。『アルカナ』の中でも絶大な戦闘力を誇り、事象を歪ませる程の重き『言葉』を操る存在です。……漏れ出した一部であっても、強力な個体である事は間違いありません」
「……そ、それで……彼の言っていた『献上』についてですが、これはどうすれば……」
エフィーリアが深刻に言葉を話し、受付嬢はメモをとる。その際に救助されたハンターの話に出ていた、『6つの条件』についてエフィーリアに話を仰いだ。
「……Emperorには『自身の認めた者に対しては甘くなる』という、呪いの如き性質が宿っていると言い伝えられています。……『献上者』が彼を満足させる事が出来れば、その戦闘力は大きく弱体化するでしょう」
「つまり、 その条件に合うハンター達を派遣すれば……」
受付嬢の言葉に、エフィーリアは頷く。
「…… Emperorの討伐を、容易にする事が出来る筈です。漏れ出した一部とはいえ、非常に強力な個体である事には変わりません。このまま放置すれば、アルカナ全体の封印を破壊する為に暗躍を始めるやもしれません。……どうか、一刻も早い討伐をお願いします」
エフィーリアは受付嬢に頭を下げる。こうして、数奇な条件付きの『依頼』がハンターオフィスに貼りだされるのだった。
辺境東部。マギア砦から遠く離れた場所にあるここは、歪虚の侵攻により奪取されてしまった、かつての人類の居住区である。
おおよそ300年間人の手が入らなかったここは、今や歪虚の領地に等しく、雑魔をはじめとする多数の歪虚が徘徊している。
故に依頼を請けたハンターや腕に覚えのあるトレジャーハンター以外は滅多に人の立ち入る事のない魔境の一つである。
そんな遺跡の中心部。外観はかつての宮殿のようであったその場所でのこと……
●
埃や土砂に埋まった、かつて豪奢な造りをされてたと伺わせる宮殿の遺跡。かつて謁見の場であったと思しきそこで、多数のハンターが横たわっていた。
誰も彼もが重傷を負い、息も絶え絶えといった様子だ。部屋の奥の奥。老朽化した玉座に腰掛ける人影を除いて。
「くはははは、脆いものよ! 人間の戦士とはこれほどまでに脆弱なものであったか? よもやこの300年の間にここまで落ちぶれた訳ではあるまいな!」
尊大な高笑いを浮かべる人の形をしたそれの頭には巨大な角があり、肌は人間のものとは違い金属質だ。高貴な衣装を身に纏い、多数の装飾を施された巨大な剣が傍らに突き立っている。さながらその姿は王族のような印象を受けるものだった。
「ぐ……」
横たわっていたハンターのうちの一人が、剣を杖にして身を起こす。
「なんで……こんな所に、居る。『傲慢』……!」
「口を慎めよ雑種。王の御前であるぞ」
その言葉と同時に立ち上がろうとしていたハンターが急に地に叩きつけられる。まるで身体の上に巨大な岩が落下してきたかのように、その身体が地にへばり付けられる。
「だが許そう。余は復活したてで気分が良い。それに、貴様らにはやって貰わねばならぬ仕事があるからな」
「仕、事……!?」
玉座から立ち上がった歪虚はゆっくりとそのハンターに歩み寄りながら、まるで甘い夢を語るかのような口調でハンターに告げた。
「王には献上物が必要だ。判るであろう? 貴様はそれを連れて参れ」
「お、前……何を……」
「誰が口答えを許した?」
何とか立ち上がろうとするハンターの頭を歪虚は容赦なく踏みつける。ハンターが漏らす苦悶の声も関係なく、言葉を続けてゆく。
「まずは腹が減った。時代も変わり食の文化もさぞ変容した事であろう。絶品と思う物を持って来るが良い」
「食い物には酒が必要だ。極上の逸品を余に献上するが良い」
「腹を満たしたなら次は女だ。豊満な体つきの者が良いが、女としての魅力ある肢体を持つものならば許そう」
「酒に女と来れば次は享楽であろう。芸人を呼べ。武芸者でも道化でも構わぬ。見世物となる技を持つ者を連れて来い」
「それに併せて音楽を聴くのも必要だな。歌や演奏の得意な者を呼べ。極上の物をな」
「人の生き様を愛でるのも王の愉しみよ。数奇な人生を歩んで来た者を連れて来い。その話を肴に酒を飲むのだ」
指を折りながら6つの条件を語る歪虚。踏みつけられているハンターは不思議とその言葉に重みを感じていた。
「覚えたな? これらの条件に合う者と物を、7回太陽が沈むまでに連れて来い。貴様等はその遣いとして、特別に生かして返してやろう」
その言葉と同時に脚をどけると、今まで横たわっていたハンター達の身体が全て宙に浮く。
「もし余の意に背くようであれば、貴様等の街は業火に包まれる物と知れ。王の命は絶対であるぞ」
歪虚の言葉と同時にハンター達の身体は、空中で何かに弾かれたように吹き飛び、窓を突き破って外へ放り出された。
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「……偶然そこを通りかかったのが幸いでした。辛くも、彼らを助けることが出来ましたから」
ハンターオフィスの受付嬢と机を隔てて向かい合ってるのは、部族の少女。銀髪の綺麗な髪を持つ、物静かな佇まいをする彼女の名はエフィーリア・タロッキ(kz0077)。『タロッキ族』と呼ばれる部族の一人だ。
「……えと、彼らの話に出てきたのが、エフィーリアさんの言う『アルカナ』という歪虚ですか?」
「……はい。間違いないでしょう」
エフィーリアの話によれば、『アルカナ』とはタロッキ族が300年前に封じた、強力な力を有す歪虚群の総称であり、現在までその封印が守られてきた。
しかし近年の歪虚との戦いでその封印に綻びが生じ、その力の一部が漏れ出たらしい。その事態に対抗する為に、部族の代表としてエフィーリアがハンターズソサエティに派遣されて来たのである。
「……彼らの話を聞くに、その歪虚は『The Emperor』と呼ばれるものでしょう。『アルカナ』の中でも絶大な戦闘力を誇り、事象を歪ませる程の重き『言葉』を操る存在です。……漏れ出した一部であっても、強力な個体である事は間違いありません」
「……そ、それで……彼の言っていた『献上』についてですが、これはどうすれば……」
エフィーリアが深刻に言葉を話し、受付嬢はメモをとる。その際に救助されたハンターの話に出ていた、『6つの条件』についてエフィーリアに話を仰いだ。
「……Emperorには『自身の認めた者に対しては甘くなる』という、呪いの如き性質が宿っていると言い伝えられています。……『献上者』が彼を満足させる事が出来れば、その戦闘力は大きく弱体化するでしょう」
「つまり、 その条件に合うハンター達を派遣すれば……」
受付嬢の言葉に、エフィーリアは頷く。
「…… Emperorの討伐を、容易にする事が出来る筈です。漏れ出した一部とはいえ、非常に強力な個体である事には変わりません。このまま放置すれば、アルカナ全体の封印を破壊する為に暗躍を始めるやもしれません。……どうか、一刻も早い討伐をお願いします」
エフィーリアは受付嬢に頭を下げる。こうして、数奇な条件付きの『依頼』がハンターオフィスに貼りだされるのだった。
リプレイ本文
●謁見
辺境の東にある廃墟、かつて王宮だったと思わせるその廃墟の謁見の場。その玉座には歪虚である皇帝……皇帝が腰掛け、訪れるハンター達を尊大な態度で出迎えた。
「遥々よくぞ来たなハンター達よ。この時代の戦士は斯様な風に呼ぶのであろう」
皇帝は玉座に座りながら、機嫌よく言葉を紡ぐ。一番初めに前に出て、王に近づくのは佐倉 桜(ka0386)。纏っていたローブを脱ぎ、ビキニアーマー姿となる。
「お初にお目にかかります。王のお世話をさせて頂きます、桜と申します」
皇帝はほう、と息を漏らし、桜の露わになった肢体をじっくりと眺める。ただでさえ内気な性格の桜が、男性の姿をしている歪虚の前で素肌を晒している。普段なら真っ赤になって逃げ出してしまいたくなる気持ちも、務めて平静を保って押さえつける。
「成程、先ずの献上品はお前か。素晴らしい。あどけなき少女の貌とは裏腹に豊満な胸、扇情的な肢体。中々に男を惑わす様ではないか」
だが、皇帝の遠慮のない言葉遣いに、流石に赤面までは抑えきれない。耳まで真っ赤にした様子に、皇帝はくっくっと笑う。
「初心な娘子よな、苦しゅうない、近う寄れ。貴様は献上者と認め、王の世話をする事を許そうぞ」
そんな様子に満足気な皇帝は、桜を献上者として認めたようだ。桜は改めて礼をすると、王の傍へと近寄り、身を寄せる。
「さて、それでは見せて貰うとしよう、余への極上の献上品をな」
「僕からだね。絶品の食べ物を持ってきたよ」
その言葉に歩み出たのは樹導 鈴蘭(ka2851)だ。彼は荷物から竹皮包を取り出す。皇帝の表情がぴくりと動く。
「何だ、その面妖な包みは?」
「これは羊羹。リアルブルーのお菓子で、一種の和菓子、だよ。こっちの世界じゃあまり有名じゃないから、知る人ぞ知る絶品さ」
包みを開けると、中には真っ黒な煉羊羹が顔を出す、黒くぷるんとした姿は、光を浴びて艶に満ちている。
「ほう……転移者ならではの食い物で来たか。確かに異世界の菓子とは興味が尽きぬ。だが問題は味だ、余を満足させるに足る味わいなのであろうな?」
鈴蘭は串で丁寧に羊羹を刺し、差し出す。皇帝はそれを受け取ると、興味深そうに眺めたのちに頬張った。
「ふむ……これは……。しっとりしていて、かつ瑞々しい食感。噛めば甘味が口の中に広がってゆくのを感じるぞ」
一噛み毎に皇帝の顔に笑みが湧いてくる。ゆっくりと咀嚼し、新鮮な食感と味を堪能しているようだ。
「瑞々しさでいうなら、こっちもおすすめだよ、皇帝さん」
次に鈴蘭が取り出したのは葛羊羹。透き通った葛餅の中に黒い餡が入っており、その見た目に皇帝は驚く。
「何だ、これも菓子なのか?」
「不思議な見た目だけどすっごく美味しいんだ。こっちも食べてみて」
皇帝は不思議な見た目の菓子に驚いていたが、やがてそちらにも串を刺し、頬張ってみせた。
「ほう……爽やかな外側に、中の濃厚な甘味の調和か,なるほどこれは旨い。転移者も粋な菓子を作るものよ」
皇帝はすっかり羊羹を気に入ったようで、次々と口へ運んでゆく。
「だが、この中身は些か口の中に残るものだな。口を濯ぐよき盃が欲しいものだ」
「ならば、こちらを」
次に名乗りでたのはマッシュ・アクラシス(ka0771)。彼が持ってきたのは酒だ。酒の事はギルドでの仕事を通して学んだらしい。
「私がお持ちしたものは、マティーニと言われるカクテルです。酒に果実や調味料を加えて混ぜ合わせた、リアルブルー伝来の飲み方で、特にマティーニは『カクテルの王』と言われる由緒正しきもの、皇帝には相応しきものと存じましょう」
マッシュは持参した特性のマティーニをカクテルグラスに注ぐ。オリーブを中に沈め、差し出すと、皇帝はそれをくいっと煽る。
「ふむ、変わった味わいだな。悪くない。蒸留酒と葡萄酒に果実で味わいに一癖つけておるのだな」
「一口で見抜くとは流石皇帝。ジンをベースにした為、菓子ともよく合うと存じ上げます」
「成程な、酒を混ぜて飲むとは中々に賢しい発想よ。だが、悪くはない」
満足、といった風に頷く皇帝。そこへ鈴蘭が黄色い羊羹を差し出した。
「またヨウカンというものか?」
「うん。今度のは芋羊羹って言うんだ。ちょっと塩味を強くしてみたから、お酒のあてにもなるんじゃないかな」
芋か。と呟き、それも口にする皇帝。
「これもまた口に残るものだ。だが、飲み易い酒とよく合うな。良かろう、そなたら2人の出した品は確かに逸品であったぞ」
その言葉は2人を認めたという意味に違いない。鈴蘭はやった! と手を挙げ、マッシュは飲み込んでいた息を吐き出した。
「さて、次は……」
「こんにちは、皇帝様」
白衣を翻して歩み出たのはノアール=プレアール(ka1623)だ。
「私はマテリアルも魔力も使わないトリックをお見せするわね」
言うや否やノアールはローブを翻し、くるりと回った瞬間にその姿を変える。白衣姿からダークなゴシックドレスへと姿を変えたのだ。
「早着替えか。だがそれだけで芸とは言うまい」
だが、皇帝の反応はそっけない。宴会の隠し芸程度では動じぬ、ということらしい。
「あら、つれないわね。だったらこういうのはどうかしら」
ノアールはハンカチを取り出し、手に被せる、そしてハンカチをぱっと取ると、先程鈴蘭が出した羊羹が取り出された。
「……ほう?」
これには皇帝も幾分かの興味を示したようだ。ノアールはそのハンカチをそのままくるりとひっくり返すと、今度はマッシュの用意したマティーニが注がれているカクテルグラスが現れた。
「羊羹にお酒。改めて、どうぞ?」
ノアールはそれらを皇帝に渡す。彼はそのままそれらを口にする。
「ふむ、本物のようだな。魔力も使わずに不可思議な現象を起こすとは面妖なものよ。だが、これで終わりではまだまだ認める訳にはいかぬぞ」
「なら、次はこんなのはどうかしら」
ノアールはパルムを呼び出すと、それらを箱の中に入れる。パルムが箱の中に入ったのを確認するとそれをおもむろにナイフで突き刺した。
「なんだ、公開処刑か?」
「そう見えるでしょ? だけど……パルムちゃんは無傷なのよー」
ナイフを抜き、箱を開けると、中から傷ひとつ無いパルムが飛び出した。
「成程な、大した手品よ。だが、手癖の悪さのみでは派手さに欠ける。少し気を引いた所で、箱のすり替え程度を見逃す余ではないぞ」
皇帝はノアールの手品を見抜いたらしい。皇帝はカクテルグラスを煽りつつ、言葉を続ける
「だが余を相手に、一時でも注意を逸らすその技巧は確かなものだ。良いであろう、。些か物足りぬ気はするが、貴様の芸も価値あるものと見做そうぞ」
「あらあら、皇帝様ったら目がいいのねー。だけど、認めて頂けて何より」
あまり小手先のトリックは好みじゃないようね、とノアールは印象を受けた。桜がマッシュの酒をお酌して、機嫌を良くさせているのも一つの勝因だったろう。
「さて、次は歌だが……」
皇帝はちらり、と視線を送る。そこには喉に包帯を巻いたメイ=ロザリンド(ka3394) と金刀比良 十六那(ka1841)がいた。
「まさか怪我人が歌姫とは言うまい? 余は歌えるものを連れてこいと命じた筈だが」
メイを見て皇帝は機嫌を害したようだ。だが、そんな皇帝に桜はそっと耳打ちする。
「歌えぬ鳥が、貴方様の耳に声を届けたい一心で声を張り上げるのです。その心を楽しむのが今の世です」
「……」
その言葉に、皇帝は暫し黙りこむ。メイは一礼し、スケッチブックにて筆談する。
『王様。貴方にこの唄を紡ぎます。どうか、少しでも貴方に届きますように』
十六那がヴァイオリンを構え、演奏する。そのマテリアルの動きに少しだけ、メイの喉の痛みが和らぐ。セイレーンエコーに魔力を通わせ……声を失った喉に、囀るような響きが戻る。
―何時迄も続く 遠い彼方に 絶えぬ愛があると 忘れないで 辛くとも それでも世界は素晴らしいと―
彼女が紡ぐは、故郷の歌。高いソプラノの声を、神楽鈴や舞と共に響かせる。祈りと願いを込めて、時折喉の痛みに声が途切れそうになるも、懸命に詞を紡いでゆく。
「……余の求めるは極上の歌だ。世間がどうであろうが、余が満足出来ねば意味など有りはせん」
玉座に頬杖をつき、歌声を聞きながら、傍らの桜に、呟くように声を漏らす。
「だが、歌とは人の心を動かすモノを言うのであろう。堕ちた小鳥が空を求めるその生き様、彼奴からはそれを感じよう」
メイは歌い終わり、皇帝に一礼する。これが彼女の限界。覚醒状態もほんの一瞬しか維持できぬ程に弱り果ててる彼女の精一杯だった。
それに対して、皇帝は拍手で応えた。
「良い余興であった、大義であるぞ。飛べぬ鳥を愛でるのも悪くない。貴様も献上品として認めよう」
メイはぱっと明るくなり、ぺこりと頭を下げる。
「最後は……貴様か」
皇帝は下がっていくメイから視線を外し、最後に残った一人、十色 エニア(ka0370)を見据える。
「……」
エニアは、思い出した。皇帝の言葉通りに人が動く様を見て、自らの過去を。失った筈の記憶を。
エニアは、皇帝の前に立ち、語り始める。
「……わたしの居た世界では、宇宙に出て、そこに住む人も居ました」
「宇宙。遙かなる空の先にあるという世界か」
エニアはそのまま話を続ける。サルヴァトーレ・ロッソにて、シェルターに避難した話や、ロッソ内でお祭り騒ぎをしたことなど。
「……わたしは、親友の所有物でした。あらゆる意味で、その人の相手をする『人形』でした。ベッドに錠で繋がれ、外に出る事も叶わず、どんな時が流れてるかも解らず……。手の届く範囲、視界に映るもの……それが、私の知る『世界』でした」
淡々と、自らの人生を語るエニア。その言葉に皇帝は耳を傾けている。
「親友は……今は、どうなってるかは解りません。……『これ』は、わたしが彼の『もの』であったという、証」
エニアは頭についたヘアアクセを見せる。皇帝は成程、と頷く。
「男とも女とも似つかぬ貌を持ち、輩という檻の中で閉じ込められし者、か」
桜から注がれた酒を、くいっと一息に飲み干す皇帝。彼はエニアを見据え、言う。
「なかなかに良い酒の肴となる話であった。『貴様』がこれからどこに向かうのか……興味を惹かれるぞ」
どうやらエニアの話も、皇帝に認められたようだ。
「……さて、献上品は出揃った」
皇帝はゆらりと立ち上がる。ただならぬ雰囲気を察知し、桜は慌てて離れる。
『力よ、現れよ。我が剣となりて』
彼が言葉を呟くと、多数の装飾が施された巨大な剣が虚空から出現し、彼の手に携えられる。
「さあ仕上げだ。戦士達よ。最後は貴様らとの『闘争』で、この宴を締めるとしようぞ」
●皇帝との戦い
「漸くやる気ですか。演技とはいえ歪虚に傅くのは中々に堪えましたよ」
マッシュはフォルティスを構え、皇帝に接近戦を挑む。
「気付いておったわ。貴様の目は憎悪の目だ。余が見抜けぬと思ったか」
だが、マッシュの鋭い踏み込みも、皇帝は力任せに振るった巨剣の一閃で薙ぎ払う。その背後から風を纏うエニア、剣を携える鈴蘭が襲いかかる。
「賢しいわ、『地面よ、爆ぜよ』!」
と皇帝は地面を踏みしめる。すると皇帝の周囲の地面が突如爆発し、吹き飛ぶ瓦礫がマッシュ、エニア、鈴蘭を襲う。
そこへ、吹き荒ぶ爆風を引き裂いて一条の光が皇帝を襲う。ノアールの機導砲だ。
「ふふ、私達、貴方が思っているほど弱くはないつもりよ?」
「ほう、それは愉しみだ」
やや傷の深い鈴蘭は桜のヒールを受ける。桜は後衛を勤めつつ、怪我人であるメイが狙われないように立ち回っていた。
「心配するな、戦えぬ者を蹂躙するような無粋な真似を余がすると思うか」
その動きを見破られたか、皇帝は吐き捨てるように桜に言い放つ。
「だが、彼奴を狙はぬということは貴様等だけで余を相手にせよということ。せいぜい足りぬ戦力で足掻いてみせよ!」
皇帝は巨剣で、唸りをあげる突きを繰り出す。寸でのところで盾で受ける事に成功するが、強大な剣圧に盾が粉々になった。
剣を引き戻すまでの一瞬の隙を見つけたマッシュは、鋭い踏み込みで皇帝の胴体を捉え剣を振りぬくが、その皮膚の硬さで僅かに軌道を逸らされる。引き戻された巨剣を剣で受け止め、受け流す。戦線を維持し、拮抗する。その隙を狙ってノアールの機導砲が再び背後から飛来する。
「少し手が足りんな……『剣よ、我が腕と等しくなれ』」
皇帝の紡ぐ言葉に注意していたマッシュは咄嗟に離れる。皇帝の言葉と共に巨剣は二つに分かれ、それぞれが皇帝の腕と同化。後ろ手で機導砲の一撃を振り払い、もう片方の手でマッシュを追撃しようとする。そこへ
「させない!」
少し離れた位置で皇帝の動きを観察していたエニア。精神を集中させ、魔力で集めた水の弾丸をその腕に向かって放つ。強烈な衝撃が皇帝の腕を弾き飛ばす。
「ぐうっ、貴様……!」
「その言葉、厄介だね……つまり、喋れなくすればいいんだよね?」
腕が打ち払われた瞬間、懐に入っていた鈴蘭が剣を切り上げる。回避行動を取った皇帝の胸元が裂ける。回避していなければ喉を直撃していた。
「驕れる者久しからず、猛き人もついには滅びぬっていうし、そろそろ、滅びてくれないかな」
「……は、調子づくなよ小童が!」
振り下ろされる腕の剣。機導術によって盾を動かしてこれを受ける。ノアールもまた防性強化で鈴蘭の守備を固める。強力な斬撃に鈴蘭の盾は破壊され、衝撃が身体を駆け巡るが、下を見れば、今度は上ががら空きだ。静かに機を伺っていたマッシュが頭上から皇帝に剣を振り下ろす。
「沈んでください」
だが皇帝も負けじとそれに反応し、身体を捻り胴体への直撃を免れる。それでもマッシュの剣は皇帝の腕に深く食い込み、重傷を負わせる。
「ぐっ……!」
剣が食い込んだ腕ほど振り払おうとする皇帝。その腕に光の鞭が巻き付く。皇帝を見据えるエニア。その目で彼を見つめ、静かに呟く。
「わたしは……魅力的?」
その強い視線に、思わず皇帝は目を奪われる。先ほど聞いたエニアの過去。そこから訴えかけられる彼の視線に、何かを感じたのだろう。
「皇帝様、そろそろお休みの時間よ」
背後をとったノアールがその決定的な隙を見逃さずに機導砲を直撃させた。
「がふっ……!」
ついに膝をつく皇帝。その身体が少しずつ崩れてゆく。
「……潮時、か。今この身体では、ここまでが限界のようだな……」
皇帝は悔しそうに。だが同時に、満足そうな笑みでハンター達を見回す。
「……よき宴であったぞハンター共、大義である」
そう言い残して、皇帝は消えた。
かくして、アルカナの一体であるEmperorの断片は討伐された。
だが、これはまだ序曲に過ぎない。彼はほんの断片。力の一部でしかないのだから。
辺境の東にある廃墟、かつて王宮だったと思わせるその廃墟の謁見の場。その玉座には歪虚である皇帝……皇帝が腰掛け、訪れるハンター達を尊大な態度で出迎えた。
「遥々よくぞ来たなハンター達よ。この時代の戦士は斯様な風に呼ぶのであろう」
皇帝は玉座に座りながら、機嫌よく言葉を紡ぐ。一番初めに前に出て、王に近づくのは佐倉 桜(ka0386)。纏っていたローブを脱ぎ、ビキニアーマー姿となる。
「お初にお目にかかります。王のお世話をさせて頂きます、桜と申します」
皇帝はほう、と息を漏らし、桜の露わになった肢体をじっくりと眺める。ただでさえ内気な性格の桜が、男性の姿をしている歪虚の前で素肌を晒している。普段なら真っ赤になって逃げ出してしまいたくなる気持ちも、務めて平静を保って押さえつける。
「成程、先ずの献上品はお前か。素晴らしい。あどけなき少女の貌とは裏腹に豊満な胸、扇情的な肢体。中々に男を惑わす様ではないか」
だが、皇帝の遠慮のない言葉遣いに、流石に赤面までは抑えきれない。耳まで真っ赤にした様子に、皇帝はくっくっと笑う。
「初心な娘子よな、苦しゅうない、近う寄れ。貴様は献上者と認め、王の世話をする事を許そうぞ」
そんな様子に満足気な皇帝は、桜を献上者として認めたようだ。桜は改めて礼をすると、王の傍へと近寄り、身を寄せる。
「さて、それでは見せて貰うとしよう、余への極上の献上品をな」
「僕からだね。絶品の食べ物を持ってきたよ」
その言葉に歩み出たのは樹導 鈴蘭(ka2851)だ。彼は荷物から竹皮包を取り出す。皇帝の表情がぴくりと動く。
「何だ、その面妖な包みは?」
「これは羊羹。リアルブルーのお菓子で、一種の和菓子、だよ。こっちの世界じゃあまり有名じゃないから、知る人ぞ知る絶品さ」
包みを開けると、中には真っ黒な煉羊羹が顔を出す、黒くぷるんとした姿は、光を浴びて艶に満ちている。
「ほう……転移者ならではの食い物で来たか。確かに異世界の菓子とは興味が尽きぬ。だが問題は味だ、余を満足させるに足る味わいなのであろうな?」
鈴蘭は串で丁寧に羊羹を刺し、差し出す。皇帝はそれを受け取ると、興味深そうに眺めたのちに頬張った。
「ふむ……これは……。しっとりしていて、かつ瑞々しい食感。噛めば甘味が口の中に広がってゆくのを感じるぞ」
一噛み毎に皇帝の顔に笑みが湧いてくる。ゆっくりと咀嚼し、新鮮な食感と味を堪能しているようだ。
「瑞々しさでいうなら、こっちもおすすめだよ、皇帝さん」
次に鈴蘭が取り出したのは葛羊羹。透き通った葛餅の中に黒い餡が入っており、その見た目に皇帝は驚く。
「何だ、これも菓子なのか?」
「不思議な見た目だけどすっごく美味しいんだ。こっちも食べてみて」
皇帝は不思議な見た目の菓子に驚いていたが、やがてそちらにも串を刺し、頬張ってみせた。
「ほう……爽やかな外側に、中の濃厚な甘味の調和か,なるほどこれは旨い。転移者も粋な菓子を作るものよ」
皇帝はすっかり羊羹を気に入ったようで、次々と口へ運んでゆく。
「だが、この中身は些か口の中に残るものだな。口を濯ぐよき盃が欲しいものだ」
「ならば、こちらを」
次に名乗りでたのはマッシュ・アクラシス(ka0771)。彼が持ってきたのは酒だ。酒の事はギルドでの仕事を通して学んだらしい。
「私がお持ちしたものは、マティーニと言われるカクテルです。酒に果実や調味料を加えて混ぜ合わせた、リアルブルー伝来の飲み方で、特にマティーニは『カクテルの王』と言われる由緒正しきもの、皇帝には相応しきものと存じましょう」
マッシュは持参した特性のマティーニをカクテルグラスに注ぐ。オリーブを中に沈め、差し出すと、皇帝はそれをくいっと煽る。
「ふむ、変わった味わいだな。悪くない。蒸留酒と葡萄酒に果実で味わいに一癖つけておるのだな」
「一口で見抜くとは流石皇帝。ジンをベースにした為、菓子ともよく合うと存じ上げます」
「成程な、酒を混ぜて飲むとは中々に賢しい発想よ。だが、悪くはない」
満足、といった風に頷く皇帝。そこへ鈴蘭が黄色い羊羹を差し出した。
「またヨウカンというものか?」
「うん。今度のは芋羊羹って言うんだ。ちょっと塩味を強くしてみたから、お酒のあてにもなるんじゃないかな」
芋か。と呟き、それも口にする皇帝。
「これもまた口に残るものだ。だが、飲み易い酒とよく合うな。良かろう、そなたら2人の出した品は確かに逸品であったぞ」
その言葉は2人を認めたという意味に違いない。鈴蘭はやった! と手を挙げ、マッシュは飲み込んでいた息を吐き出した。
「さて、次は……」
「こんにちは、皇帝様」
白衣を翻して歩み出たのはノアール=プレアール(ka1623)だ。
「私はマテリアルも魔力も使わないトリックをお見せするわね」
言うや否やノアールはローブを翻し、くるりと回った瞬間にその姿を変える。白衣姿からダークなゴシックドレスへと姿を変えたのだ。
「早着替えか。だがそれだけで芸とは言うまい」
だが、皇帝の反応はそっけない。宴会の隠し芸程度では動じぬ、ということらしい。
「あら、つれないわね。だったらこういうのはどうかしら」
ノアールはハンカチを取り出し、手に被せる、そしてハンカチをぱっと取ると、先程鈴蘭が出した羊羹が取り出された。
「……ほう?」
これには皇帝も幾分かの興味を示したようだ。ノアールはそのハンカチをそのままくるりとひっくり返すと、今度はマッシュの用意したマティーニが注がれているカクテルグラスが現れた。
「羊羹にお酒。改めて、どうぞ?」
ノアールはそれらを皇帝に渡す。彼はそのままそれらを口にする。
「ふむ、本物のようだな。魔力も使わずに不可思議な現象を起こすとは面妖なものよ。だが、これで終わりではまだまだ認める訳にはいかぬぞ」
「なら、次はこんなのはどうかしら」
ノアールはパルムを呼び出すと、それらを箱の中に入れる。パルムが箱の中に入ったのを確認するとそれをおもむろにナイフで突き刺した。
「なんだ、公開処刑か?」
「そう見えるでしょ? だけど……パルムちゃんは無傷なのよー」
ナイフを抜き、箱を開けると、中から傷ひとつ無いパルムが飛び出した。
「成程な、大した手品よ。だが、手癖の悪さのみでは派手さに欠ける。少し気を引いた所で、箱のすり替え程度を見逃す余ではないぞ」
皇帝はノアールの手品を見抜いたらしい。皇帝はカクテルグラスを煽りつつ、言葉を続ける
「だが余を相手に、一時でも注意を逸らすその技巧は確かなものだ。良いであろう、。些か物足りぬ気はするが、貴様の芸も価値あるものと見做そうぞ」
「あらあら、皇帝様ったら目がいいのねー。だけど、認めて頂けて何より」
あまり小手先のトリックは好みじゃないようね、とノアールは印象を受けた。桜がマッシュの酒をお酌して、機嫌を良くさせているのも一つの勝因だったろう。
「さて、次は歌だが……」
皇帝はちらり、と視線を送る。そこには喉に包帯を巻いたメイ=ロザリンド(ka3394) と金刀比良 十六那(ka1841)がいた。
「まさか怪我人が歌姫とは言うまい? 余は歌えるものを連れてこいと命じた筈だが」
メイを見て皇帝は機嫌を害したようだ。だが、そんな皇帝に桜はそっと耳打ちする。
「歌えぬ鳥が、貴方様の耳に声を届けたい一心で声を張り上げるのです。その心を楽しむのが今の世です」
「……」
その言葉に、皇帝は暫し黙りこむ。メイは一礼し、スケッチブックにて筆談する。
『王様。貴方にこの唄を紡ぎます。どうか、少しでも貴方に届きますように』
十六那がヴァイオリンを構え、演奏する。そのマテリアルの動きに少しだけ、メイの喉の痛みが和らぐ。セイレーンエコーに魔力を通わせ……声を失った喉に、囀るような響きが戻る。
―何時迄も続く 遠い彼方に 絶えぬ愛があると 忘れないで 辛くとも それでも世界は素晴らしいと―
彼女が紡ぐは、故郷の歌。高いソプラノの声を、神楽鈴や舞と共に響かせる。祈りと願いを込めて、時折喉の痛みに声が途切れそうになるも、懸命に詞を紡いでゆく。
「……余の求めるは極上の歌だ。世間がどうであろうが、余が満足出来ねば意味など有りはせん」
玉座に頬杖をつき、歌声を聞きながら、傍らの桜に、呟くように声を漏らす。
「だが、歌とは人の心を動かすモノを言うのであろう。堕ちた小鳥が空を求めるその生き様、彼奴からはそれを感じよう」
メイは歌い終わり、皇帝に一礼する。これが彼女の限界。覚醒状態もほんの一瞬しか維持できぬ程に弱り果ててる彼女の精一杯だった。
それに対して、皇帝は拍手で応えた。
「良い余興であった、大義であるぞ。飛べぬ鳥を愛でるのも悪くない。貴様も献上品として認めよう」
メイはぱっと明るくなり、ぺこりと頭を下げる。
「最後は……貴様か」
皇帝は下がっていくメイから視線を外し、最後に残った一人、十色 エニア(ka0370)を見据える。
「……」
エニアは、思い出した。皇帝の言葉通りに人が動く様を見て、自らの過去を。失った筈の記憶を。
エニアは、皇帝の前に立ち、語り始める。
「……わたしの居た世界では、宇宙に出て、そこに住む人も居ました」
「宇宙。遙かなる空の先にあるという世界か」
エニアはそのまま話を続ける。サルヴァトーレ・ロッソにて、シェルターに避難した話や、ロッソ内でお祭り騒ぎをしたことなど。
「……わたしは、親友の所有物でした。あらゆる意味で、その人の相手をする『人形』でした。ベッドに錠で繋がれ、外に出る事も叶わず、どんな時が流れてるかも解らず……。手の届く範囲、視界に映るもの……それが、私の知る『世界』でした」
淡々と、自らの人生を語るエニア。その言葉に皇帝は耳を傾けている。
「親友は……今は、どうなってるかは解りません。……『これ』は、わたしが彼の『もの』であったという、証」
エニアは頭についたヘアアクセを見せる。皇帝は成程、と頷く。
「男とも女とも似つかぬ貌を持ち、輩という檻の中で閉じ込められし者、か」
桜から注がれた酒を、くいっと一息に飲み干す皇帝。彼はエニアを見据え、言う。
「なかなかに良い酒の肴となる話であった。『貴様』がこれからどこに向かうのか……興味を惹かれるぞ」
どうやらエニアの話も、皇帝に認められたようだ。
「……さて、献上品は出揃った」
皇帝はゆらりと立ち上がる。ただならぬ雰囲気を察知し、桜は慌てて離れる。
『力よ、現れよ。我が剣となりて』
彼が言葉を呟くと、多数の装飾が施された巨大な剣が虚空から出現し、彼の手に携えられる。
「さあ仕上げだ。戦士達よ。最後は貴様らとの『闘争』で、この宴を締めるとしようぞ」
●皇帝との戦い
「漸くやる気ですか。演技とはいえ歪虚に傅くのは中々に堪えましたよ」
マッシュはフォルティスを構え、皇帝に接近戦を挑む。
「気付いておったわ。貴様の目は憎悪の目だ。余が見抜けぬと思ったか」
だが、マッシュの鋭い踏み込みも、皇帝は力任せに振るった巨剣の一閃で薙ぎ払う。その背後から風を纏うエニア、剣を携える鈴蘭が襲いかかる。
「賢しいわ、『地面よ、爆ぜよ』!」
と皇帝は地面を踏みしめる。すると皇帝の周囲の地面が突如爆発し、吹き飛ぶ瓦礫がマッシュ、エニア、鈴蘭を襲う。
そこへ、吹き荒ぶ爆風を引き裂いて一条の光が皇帝を襲う。ノアールの機導砲だ。
「ふふ、私達、貴方が思っているほど弱くはないつもりよ?」
「ほう、それは愉しみだ」
やや傷の深い鈴蘭は桜のヒールを受ける。桜は後衛を勤めつつ、怪我人であるメイが狙われないように立ち回っていた。
「心配するな、戦えぬ者を蹂躙するような無粋な真似を余がすると思うか」
その動きを見破られたか、皇帝は吐き捨てるように桜に言い放つ。
「だが、彼奴を狙はぬということは貴様等だけで余を相手にせよということ。せいぜい足りぬ戦力で足掻いてみせよ!」
皇帝は巨剣で、唸りをあげる突きを繰り出す。寸でのところで盾で受ける事に成功するが、強大な剣圧に盾が粉々になった。
剣を引き戻すまでの一瞬の隙を見つけたマッシュは、鋭い踏み込みで皇帝の胴体を捉え剣を振りぬくが、その皮膚の硬さで僅かに軌道を逸らされる。引き戻された巨剣を剣で受け止め、受け流す。戦線を維持し、拮抗する。その隙を狙ってノアールの機導砲が再び背後から飛来する。
「少し手が足りんな……『剣よ、我が腕と等しくなれ』」
皇帝の紡ぐ言葉に注意していたマッシュは咄嗟に離れる。皇帝の言葉と共に巨剣は二つに分かれ、それぞれが皇帝の腕と同化。後ろ手で機導砲の一撃を振り払い、もう片方の手でマッシュを追撃しようとする。そこへ
「させない!」
少し離れた位置で皇帝の動きを観察していたエニア。精神を集中させ、魔力で集めた水の弾丸をその腕に向かって放つ。強烈な衝撃が皇帝の腕を弾き飛ばす。
「ぐうっ、貴様……!」
「その言葉、厄介だね……つまり、喋れなくすればいいんだよね?」
腕が打ち払われた瞬間、懐に入っていた鈴蘭が剣を切り上げる。回避行動を取った皇帝の胸元が裂ける。回避していなければ喉を直撃していた。
「驕れる者久しからず、猛き人もついには滅びぬっていうし、そろそろ、滅びてくれないかな」
「……は、調子づくなよ小童が!」
振り下ろされる腕の剣。機導術によって盾を動かしてこれを受ける。ノアールもまた防性強化で鈴蘭の守備を固める。強力な斬撃に鈴蘭の盾は破壊され、衝撃が身体を駆け巡るが、下を見れば、今度は上ががら空きだ。静かに機を伺っていたマッシュが頭上から皇帝に剣を振り下ろす。
「沈んでください」
だが皇帝も負けじとそれに反応し、身体を捻り胴体への直撃を免れる。それでもマッシュの剣は皇帝の腕に深く食い込み、重傷を負わせる。
「ぐっ……!」
剣が食い込んだ腕ほど振り払おうとする皇帝。その腕に光の鞭が巻き付く。皇帝を見据えるエニア。その目で彼を見つめ、静かに呟く。
「わたしは……魅力的?」
その強い視線に、思わず皇帝は目を奪われる。先ほど聞いたエニアの過去。そこから訴えかけられる彼の視線に、何かを感じたのだろう。
「皇帝様、そろそろお休みの時間よ」
背後をとったノアールがその決定的な隙を見逃さずに機導砲を直撃させた。
「がふっ……!」
ついに膝をつく皇帝。その身体が少しずつ崩れてゆく。
「……潮時、か。今この身体では、ここまでが限界のようだな……」
皇帝は悔しそうに。だが同時に、満足そうな笑みでハンター達を見回す。
「……よき宴であったぞハンター共、大義である」
そう言い残して、皇帝は消えた。
かくして、アルカナの一体であるEmperorの断片は討伐された。
だが、これはまだ序曲に過ぎない。彼はほんの断片。力の一部でしかないのだから。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/02 22:23:16 |
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相談卓 ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/03/07 23:57:22 |
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質問卓 エフィーリア・タロッキ(kz0077) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/03/06 03:14:54 |