ゲスト
(ka0000)
ルミちゃんの1分くっきんぐ♪ たまご編
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/07 15:00
- 完成日
- 2015/03/21 02:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あ゛~、なんか、最近満ち足りないよぉ~」
オフィスのデスクに突っ伏しながら、新米受付嬢のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)はバタバタと机の下で足を慣らした。
周りの同僚達は「また始まったよ……」といった感じの、どこか生暖かい視線を送りながらも、特に彼女に言葉を掛ける事も無く、自らの仕事に黙々と取り掛かっている。
ちなみに、代名詞ともなって来ている「新米受付嬢」。
「新米」は正直もう取っても良いハズなのだが、なんだか語呂が良いからと、本人の希望で外されないまま日が過ぎていた。
「またですか。この間、ポルトワールのイタリアンを食べに行きましたよね。アレじゃ足りませんでしたか?」
隣のデスクのイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)が、ルミが散らかした分の書類の整理をしながらため息混じりに答える。
先日、休みを合わせて二人で息ぬきにポルトワールへ出かけて、散々美味しいものを食べ歩いたそうなのだが。
おそらくそれから1週間も経っていない。
「この間のはとっても美味しかったですよ~。魚介の出汁が効きまくったスープとか。大きな魚が丸ごと入ったトマト味の煮物とか……もう、舌がとろけちゃうレベルでしたよ!」
しかし、「でも」とルミは言葉を続けると、机からガタリと立ち上がり、拳を振り上げて力説した。
「今のルミちゃんが求めてるのは素材なんです! こう、素材の旨みだけでボコボコにされるようなのが食べたいんです!」
「はぁ……」
「減ってるのはお腹じゃなくって、食に対する心なんですよ、心!」
そう、シャドーボクシングをして見せながら今の自分の心境を端的に説明してくれようとしているのだか、正直いまいちよく分からない。
「つまり、美味しい果物とか、生魚とか、そういうそのまんま食べて美味しいものが欲しいって事ですか?」
「そう、それですっ! さっすがイルムさん♪」
パチンと指を鳴らして賛辞するルミの姿にイルムはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、素材の旨みでゴリ圧せるもの……今の時期、何かあるだろうか。
近代農業技術(それこそハウスとか)が浸透してないジェオルジでは、この時期採れる作物になかなか期待も出来ない。
ポルトワールやヴァリオスの漁港を訪れるのも手ではあるが、そう言えば前回ポルトワールに行った時は魚尽くしだったなと、彼女の世話焼きスキルが警鐘を鳴らす。
「それなら、いいものがありますよ」
そう、珍しく彼女達の雑談に割って入ったのは、先輩受付嬢に当たるモア・プリマクラッセ(kz0066)であった。
相変わらずの能面顔はそのままだが、身を乗り出してどこか積極的に絡んできたこのスタイル。
きっと、彼女の商売が絡んでいるのだろう。
「あ、あまり値の張るものは手を出せないですよ……?」
やや遠慮がちにNOと答えるルミ。しかし、モアはその言葉想定していたかのように首を横に振ると、説明を始めた。
「以前、ルミさんが何度か向かった鍾乳洞があるでしょう。あの山合いの峡谷に住む、少し変わった鳥が居るのです」
そう、モアは説明を始める。
――ホテルバードと呼ばれるその鳥は、この時期に北の地から南下し同盟領へと訪れる渡り鳥。
渡る頃に繁殖の時期を向かえ、同盟の領地内で沢山の卵を産み、雛を育てるらしい。
名前の由来となったのは、その巣を作る特性。
彼らは群れを成し、同じ崖肌へと家族ごとに巣を作る。
強靭強固な嘴で固い岩盤を砕き、巣穴を掘るのだ。
穴は冷たい空気を遮り、同時に保温効果を持ち、巣としては最適だという。
そうして彼らが崖に作った巣の穴々は、まるで一冬の彼らの避寒地のようにも見え、かの名前が付いたとされる。
「山肌の崖にこぞって巣を作る鳥……ですか」
ルミは唇に手をあてて、うーんと想像をめぐらせる。
崖にアリの巣のように部屋を掘って家を作る鳥達の姿が浮かんでは、掻き消した。
「冬の産卵と言う事で、親鳥はかなりのエネルギーを蓄えて備えるようです。そうやって産み落とされた卵は栄養価豊富で美容にもよく、まるでとろけるかのような口当たりと、まろやかな味わいを持つと言います」
「なにそれ、欲しいっ!」
「ですから、それをハンターさん達に取ってきて頂くのはどうでしょうか?」
そこまで言って、モアはルミにそう提案した。
「う~、でもこの間の鍾乳洞探検の報酬もポルトワールで使っちゃったし、ルミちゃん暫くピンチなんだよね……」
「大丈夫です。ホテルバードの卵……それだけ美味しいのですから、ちまたの高級料理店では引く手数多の超高級食材なのです。ですので、皆さんで食べる分を除いて、余剰分をすべて我々バロテッリ商会で買い取らせて頂きたいというご提案です。その買い取らせて頂く金額でしたら、ハンターさん達の報酬に当てても遜色無い程度かと」
「お~なるほど、やけにモアさんが絡んでくるからどんな裏があるのかと思いましたが、そう言うことだったんですね♪」
やや失礼な返答を返しながらも、ルミは今の情報を軽く整理した。
ルミちゃん ――卵が食べられて嬉しい!
モアさん ――商会が卵を仕入れられて嬉しい!
ハンターさん ――報酬が入って嬉しい!
「誰も損しないじゃ~ん。決まりっ♪」
ルミの即答により商談成立。
つらつらと依頼書に必要事項が書き込まれて行くのであった。
オフィスのデスクに突っ伏しながら、新米受付嬢のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)はバタバタと机の下で足を慣らした。
周りの同僚達は「また始まったよ……」といった感じの、どこか生暖かい視線を送りながらも、特に彼女に言葉を掛ける事も無く、自らの仕事に黙々と取り掛かっている。
ちなみに、代名詞ともなって来ている「新米受付嬢」。
「新米」は正直もう取っても良いハズなのだが、なんだか語呂が良いからと、本人の希望で外されないまま日が過ぎていた。
「またですか。この間、ポルトワールのイタリアンを食べに行きましたよね。アレじゃ足りませんでしたか?」
隣のデスクのイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)が、ルミが散らかした分の書類の整理をしながらため息混じりに答える。
先日、休みを合わせて二人で息ぬきにポルトワールへ出かけて、散々美味しいものを食べ歩いたそうなのだが。
おそらくそれから1週間も経っていない。
「この間のはとっても美味しかったですよ~。魚介の出汁が効きまくったスープとか。大きな魚が丸ごと入ったトマト味の煮物とか……もう、舌がとろけちゃうレベルでしたよ!」
しかし、「でも」とルミは言葉を続けると、机からガタリと立ち上がり、拳を振り上げて力説した。
「今のルミちゃんが求めてるのは素材なんです! こう、素材の旨みだけでボコボコにされるようなのが食べたいんです!」
「はぁ……」
「減ってるのはお腹じゃなくって、食に対する心なんですよ、心!」
そう、シャドーボクシングをして見せながら今の自分の心境を端的に説明してくれようとしているのだか、正直いまいちよく分からない。
「つまり、美味しい果物とか、生魚とか、そういうそのまんま食べて美味しいものが欲しいって事ですか?」
「そう、それですっ! さっすがイルムさん♪」
パチンと指を鳴らして賛辞するルミの姿にイルムはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、素材の旨みでゴリ圧せるもの……今の時期、何かあるだろうか。
近代農業技術(それこそハウスとか)が浸透してないジェオルジでは、この時期採れる作物になかなか期待も出来ない。
ポルトワールやヴァリオスの漁港を訪れるのも手ではあるが、そう言えば前回ポルトワールに行った時は魚尽くしだったなと、彼女の世話焼きスキルが警鐘を鳴らす。
「それなら、いいものがありますよ」
そう、珍しく彼女達の雑談に割って入ったのは、先輩受付嬢に当たるモア・プリマクラッセ(kz0066)であった。
相変わらずの能面顔はそのままだが、身を乗り出してどこか積極的に絡んできたこのスタイル。
きっと、彼女の商売が絡んでいるのだろう。
「あ、あまり値の張るものは手を出せないですよ……?」
やや遠慮がちにNOと答えるルミ。しかし、モアはその言葉想定していたかのように首を横に振ると、説明を始めた。
「以前、ルミさんが何度か向かった鍾乳洞があるでしょう。あの山合いの峡谷に住む、少し変わった鳥が居るのです」
そう、モアは説明を始める。
――ホテルバードと呼ばれるその鳥は、この時期に北の地から南下し同盟領へと訪れる渡り鳥。
渡る頃に繁殖の時期を向かえ、同盟の領地内で沢山の卵を産み、雛を育てるらしい。
名前の由来となったのは、その巣を作る特性。
彼らは群れを成し、同じ崖肌へと家族ごとに巣を作る。
強靭強固な嘴で固い岩盤を砕き、巣穴を掘るのだ。
穴は冷たい空気を遮り、同時に保温効果を持ち、巣としては最適だという。
そうして彼らが崖に作った巣の穴々は、まるで一冬の彼らの避寒地のようにも見え、かの名前が付いたとされる。
「山肌の崖にこぞって巣を作る鳥……ですか」
ルミは唇に手をあてて、うーんと想像をめぐらせる。
崖にアリの巣のように部屋を掘って家を作る鳥達の姿が浮かんでは、掻き消した。
「冬の産卵と言う事で、親鳥はかなりのエネルギーを蓄えて備えるようです。そうやって産み落とされた卵は栄養価豊富で美容にもよく、まるでとろけるかのような口当たりと、まろやかな味わいを持つと言います」
「なにそれ、欲しいっ!」
「ですから、それをハンターさん達に取ってきて頂くのはどうでしょうか?」
そこまで言って、モアはルミにそう提案した。
「う~、でもこの間の鍾乳洞探検の報酬もポルトワールで使っちゃったし、ルミちゃん暫くピンチなんだよね……」
「大丈夫です。ホテルバードの卵……それだけ美味しいのですから、ちまたの高級料理店では引く手数多の超高級食材なのです。ですので、皆さんで食べる分を除いて、余剰分をすべて我々バロテッリ商会で買い取らせて頂きたいというご提案です。その買い取らせて頂く金額でしたら、ハンターさん達の報酬に当てても遜色無い程度かと」
「お~なるほど、やけにモアさんが絡んでくるからどんな裏があるのかと思いましたが、そう言うことだったんですね♪」
やや失礼な返答を返しながらも、ルミは今の情報を軽く整理した。
ルミちゃん ――卵が食べられて嬉しい!
モアさん ――商会が卵を仕入れられて嬉しい!
ハンターさん ――報酬が入って嬉しい!
「誰も損しないじゃ~ん。決まりっ♪」
ルミの即答により商談成立。
つらつらと依頼書に必要事項が書き込まれて行くのであった。
リプレイ本文
●高級食材を求めて
ゴツゴツとした岩肌の山道を、6人のハンター達は列を成して歩いていた。
「もうそろそろ、でしょうか?」
何処までも続きそうに見える先を見つめ、ラピリス・C・フローライト(ka3763)はうっすらと額に浮かんだ汗を拭いながらそう口にした。
「結構歩いたよね。これだけ人里から離れるなら、確かに天敵は少なくなって棲みやすくはあるのかも」
ラピリスの言葉に、フィーゼ=ネルフェクト(ka2724)は逆に来た道を振り返りながらそう答えた。
出立した直近の村は既に遥か遠く、米粒ほどの大きさにも見えない山道。
岩山であるせいか、生い茂る木々も無く、そういった所にのみ生える生命力の強い雑草の類が足元に点在するのみ。
人間はおろか、野生動物ですら基本的には棲み辛い場所と言えるだろう。
「食べ物とかどうしてるんだろうね。虫くらいは居るだろうけど」
アルフィ(ka3254)もややその生態系に興味有り、といった様子でまだ見ぬホテルバードに思いを馳せる。
「もちろん、味も気になるけどね。普段食べてる卵とどう違うんだろ?」
「俺も聞いたことはあるけど、食った事は無いからなぁ……すげぇ高いんだぜ?」
やや息巻いた様子で答えるのは、同盟出身のジャック・エルギン(ka1522)だ。
相手は『超』が付く高級食材。
普段の生活で手の届くような品物では決してない事を彼は知っていた。
「だからこそ、商魂滾るってもんだ」
そう、エルギンと反対側で答えるもう一人のジャック。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はギラギラと瞳の奥を輝かせて、その闘志を燃やしていた。
今回の依頼を通して、巣を作る場所を知る事が出来れば今度は自分の力で捕りに来る事も――そんな未来を思い描きつつ、一歩、また一歩と足を踏みしめる。
「卵ねぇ……腹の足しにはならなそうだな。どうせなら焼き鳥とかよ、ガッツリ食べるのが良かったぜ」
そう、小腹が空いたのかお腹を摩りながらユーロス・フォルケ(ka3862)はぼやいて見せた。
どうやら卵より鶏肉の方が興味があるようだ。
そんな言葉を交わしながら山を登り進むと、不意に視界が開けた。
そこは眼下に広大な森を見渡した、切り立った岩の壁。
森を取り囲むようにしてできた高さ200mの壁が冠状に連なった山頂部分であった。
「あっ、あそこ!」
アルフィが、そんな崖肌の一部を指差した。
その先は、対岸の崖に見える転々と開いた壁の『目』。
ホテルバードの巣であった。
●天空の宿泊施設
「流石に高いですね……」
断崖絶壁から下を覗き込みながら、ラピリスは生唾を飲み込んだ。
冬の冷たい風がビュウと音を立てて、ハンター達の間を吹き抜ける。
「どれ、俺様が軽く様子を見て来てやるぜ」
そう一足先に命綱のロープを腰へ結びつけたグリーヴは気合を入れると、静かにその足を岩肌へと足を下ろし始めた。
比較的ゴツゴツと凹凸の多い岩肌は、注意して降りる分にはハンターであればなんら問題なく降りる事が出来そうな様子だが、目的の巣はここからさらに100mほど降りた場所。
たどり着くまででも、それなりに一苦労である。
「流石に、行って戻ってくるのは時間のムダか……俺様が降りやすそうな場所を探してやるから、先遣の奴らは続いて来てくれ!」
そう、頭上の仲間達へと声を上げた。
その声を受けて、エルギンとフィーゼの2人もまた、岩肌へと身を投じて行く。
「おーい、何かの拍子で切れると悪いから、毛布、噛ませといたから!」
「おう、ありがとよ!」
フィーゼは手馴れた様子でラペリングに従事しながら、先を行くグリーヴへと声を掛けた。
「おーい、グリーヴよ!」
続くようにジャックもまた、眼下のクリーヴへと声を張り上げた。
「同じジャックの名に掛けて、負けねぇからな! 覚悟しろよ!」
同じジャック同士、何か感じ入るものがあるのだろう。
エルギンはそう高らかに宣言すると、「これでだ」といいたげに卵回収用の袋を掲げてみせた。
「金になりゃ、何だっていいぜ! だが、俺様に勝てるかな……?」
グリーヴはそう言葉を返すと、応えるように袋を掲げてみせる。
「男の子は熱いねー。私は親鳥と熱い抱擁を交わしたいけどね」
果たしてその願いは聞き届けられるのか……それはこの先に待つ鳥達のみが知る事だろう。
「私たちはもう少し待機ですね」
命綱を念入りにチェックしながらラピリスはそう、2人の後続組のメンバーへと声を掛けた。
「上手く引き付けてくれれば良いんだけどね。それにしても空、近いなぁ」
こちらも結び目の状態を確かめながら、アルフィは遥か頭上に広がる大空を見上げた。
「比較的頑丈そうだし、1本で十分だろ」
一方のユーロスは手に持った綱をビンと引っ張りながら、崖の下を覗き込む。
200m。数字では何とも分からないものだが、かなり高い。
吸い込まれるような感覚を覚えながら、ユーロスは小さく身震いする。
「い、一応念のため保険にもう一本結んでおくか……」
「そうですね。岩肌に穴を掘るほどの嘴ですし、ロープぐらい切ってしまうかもしれません」
同じようにロープ2本を結んだラピリスが頷くと、何度でも確認するように、結び目をきつく縛り上げるのだった。
先発の3人は、しばらくのラペリングの後に目標到着する事ができていた。
「アレが巣、か」
そんな岩肌にぽっかりと明いた穴が1、2、3~約20個。
「こりゃ良い眺めじゃん。宿としちゃ優良物件だな!」
そう、手でひさしを作りながら展望を眺めるエルギン。
彼らと同じ目線に立って眼前の風景を眺めると、遥か遠方に煌く海。
その途中に小さく、同盟の都市であろう、大き目の街を眺める事ができた。
「さーて、鳥さんは居るかなぁっと」
言いながら、フィーゼはするすると巣の前へロープを垂らし始めた。
その先には持ち込んだパンとナッツ。
それらを巣の前に垂らしてみると、暫くして中から1匹の鳥が顔を覗かせた。
灰色の毛並みに黄色いトサカを付けた鳥、かの、ホテルバードである。
「やー、きゃわわ!」
そんな鳥の様子にフィーゼは既にメロメロである。
そんな彼女を他所に、グリーヴはそろりそろりと巣へ近づいていく。
(気づかないでくれよ……)
そう、心の中で念じながら静かにその手を伸ばす。
巣の中には鶏卵ほどのサイズの白い卵が3つ、産み落とされていた。
そのうちの1個を捕れればそれで良いのだが……
「いっ……!」
伸ばしたその手を、今まで餌に興味を示していた嘴が勢い良く突いた。
我慢できないほどではないが、この嘴、意外と痛い。
それでも痛みに耐えながら、親鳥の間を縫って強引に卵を1個その手に掴む事に成功した。
「なるほど、要領はそんな感じか」
そんなグリーヴの前例を見て、エルギンもまた直近の巣穴へとその身を忍ばせた。
同じように中には卵が3つ。
それを温めるように2匹の鳥が寄り添っている。
「と……すまねぇな。これも依頼なんだ」
そう言いながら、巣穴の卵を2つ掴み急いで革袋へと仕舞い込む。
同時に、親鳥の一羽がエルギンの顔目掛けて飛び出したが、それをひらりとかわして見せた。
親鳥はそのまま空を滞空するように羽ばたくと、連続してジャックの腰元――革袋をぶら下げた部分を突く。
「怒る気持ちは分かるけどよ、悪いがこれで勘弁してくれ!」
そう、親鳥の攻撃を甘んじて受けながらジャックは懐から取り出した魚の干物をちぎって巣の中へと投げ入れる。
せめてものお礼というか、お代がわりである。
しばらくそうして3人で卵を採取し、次第に袋の中身も重くなって来た。
その間、親鳥への反撃は一切せず、卵が集まるのに比例するようにして群がる鳥も増えてくる。
「痛ててっ、集まってきやがった!」
「可愛いけど、これはちょっとキツイよ~」
頭を腕で覆って攻撃を凌ぎながら、エルギンとフィーゼが言う。
「満タンにはなってないが……しかたねぇな」
多くの巣から1個ずつだけ卵を集めていたグリーヴもまた、それぞれの巣の親鳥に狙われながらそう呟いた。
「一端引き上げて、後続組に引き渡すぜ!」
大量の鳥に群がられる中でこれ以上同じように採取を続けるのも困難と判断したのだろう、そう2人へ向かって叫ぶと、エルギンとフィーゼもまた同じように頷いた。
「――あっ、3人、上ってくるよ!」
そうして崖を上り始めた3人の様子をアルフィが崖上から確認。
入れ替わるように、後続の3人が崖へとその足を掛けた。
「大丈夫ですか~?」
少しずつ距離が近づいて来る下の3人へとラピリスは声を投げかける。
「上手い具合に囮にはなってくれてるみたいだな……」
「大丈夫かな。入れ違いにヒール掛けてあげよう」
自分はああはなりたくないな、といった表情で3人を見つめるユーロスの横でアルフィは胸元のロザリオを軽く握り締める。
そうして途中ですれ違う彼らにそれぞれ回復の魔法を掛けてあげるのであった。
一方、グリーヴ達が親鳥の気を引いてくれているせいか、巣の警備はかなりユルユルの様子。
「すみません、頂きますね」
そう、柔らかい物腰で頭を下げながら、ラピリスは卵を1個、革袋へと入れた。
巣の中にはまだ2つほど卵は残っていたが、それ以上手は付けず、彼女は別の巣へと身を滑らせる。
同様にユーロスもまた別の巣穴から卵を3つほど失敬。
そうしていくつかの巣を渡り歩いた後に、ばさばさと上空からけたたましい羽音の群れが迫る音を聞いた。
「うわっ、戻って来たよ!」
上空から迫る大量の親鳥達に目を丸くしながら、アルフィが叫んだ。
先発組を諦めて戻って来た親鳥達か、後発組の存在に気づいたのだ。
一斉に3人の周囲に群がり、その嘴を振るう。
「餌に釣られてくれないでしょうか……!」
ラピリスは迫り来る群れに向けて木の実を放り投げてみるも、既に目標を定めた鳥達には行動空しく、ひゅるひゅるとがけ下目掛けて落ちてゆく。
「いたたたた、ホント痛いよこれ!」
その嘴の猛攻を受け思わず蹲るアルフィ。
慌てて自らにヒールを掛けると、続けざまにラピリスへもロザリオを掲げる。
暖かいマテリアルの輝きが、彼女の生傷を癒した。
「あぁもう、うっとおしいな!」
腕で振り払えない数の鳥を相手にユーロスはその懐から銃を抜き取る。
そのまま天高く掲げると、狙いも付けずに一気に引き金を引き絞った。
同時に響く銃声。
弾は出ない、空砲だ。
しかしその音に驚いたのか、鳥達が一斉にハンター達の周囲から引く。
「二人とも! 今のうちに、一度戻るぞ!」
銃を懐に戻しながらユーロスが叫ぶ。
そのまま崖を上り始めた頃、銃声に気づいた先発隊が再び崖を降りようとしている姿が遥か上空に見て取れた。
多少手痛い反撃を受けながらも、ハンター達はそうして交互に崖を上り下りしながら卵集めに専念したのであった。
●高級食材を食して
「皆さん、お疲れ様でした~!」
オフィスへと帰ってきたハンター達は満面の笑顔のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)へと出迎えられた。
「って、みんなボロボロ……大丈夫?」
「まぁ……少なくとも命に別状はありませんね」
そう、ラピリスは苦笑しながら答えた。
「とりあえず、卵は今、あそこで茹でて貰ってます。少しゆっくり待っててくださいねっ♪」
そう微笑むルミの後ろでは、火にかけられた大きな鍋の中で踊る卵が15個。
ハンター達が1人2個ずつで、ルミとモアが1個ずつ、あとエルギンの計らいでもう1人の受付嬢・イルムへも1個。
それ以外は報酬に当てるために商会がすべて買い取った。
ほぼすべてが美品であり、商会としてはとても喜ばしい事だそうだ。
「ところで……ね、ねぇルミちゃん。さ、触ってもいい?」
「え、な、何を……!?」
そう、手をワキワキさせながら近づくフィーゼに、ルミはやや引きつった笑みで後ずさる。
しかし、フィーゼはじりりとその距離を詰めると、視線をルミの腰へと落として呟いた。
「……そのポーチ」
「へ?」
どうやら腰のうさぎポーチが気になっていたようだった。
ルミは、大事なものだから乱暴しないでくださいねと念を押して、その申し出を受け入れる。
それを聞くや否や、その身体ごと抱きつく勢いでフィーゼはポーチへと飛び掛って行った。
「――と、言う事で。実食と行きましょうっ」
目の前に並んだ茹でたての卵。
見た目は、普段のものとあまり変わらない様子だが……ハンター達は興味深くその卵を取った。
軽くヒビを入れただけで綺麗に向けた卵は、真っ白よりはやや黄色がかっており、やはり鶏卵と違った雰囲気をかもし出していた。
「じゃあ、いっただきまーす!」
そう元気良く宣言したアルフィの掛け声と共に、皆一斉に口元へと運び入れる。
「ほっほう、コイツは……」
開口一声、感心したようにエルギンは呟いた。
口当たりは、誰もが想像してた卵の白身よりもかなり固く、しっかりとしたもの。
まさしくタンパクなその白身の中から現れる、トロリとした黄身。
ややオレンジ掛かった色の黄身は、しっかり火を通してなおトロトロで、噛み切った白身の隙間からじわりと、まるで肉汁のようにあふれ出す。
ほんのり甘さが広がると共に、口いっぱいにバターのような強い香りが広がった。
「そうそう、こう言うの~! こう言うのを待ってたんですっ!」
そんな風味にルミはご満悦の様子。
「これは……すごいですね。このような卵が世の中に存在しているなんて」
「チーズとかクラッカーとか持ってきてみたけど……これなら要らないかも!」
そう、じっくり味わうように噛み締めながらラピリスとアルフィはじんわりと感に入った。
広がった黄身の味わいを淡白な白身に絡めると、それだけでメインディッシュを食べているような感覚だ。
「これがあの可愛い親鳥に……悲しい、でも美味しい!」
そう、フィーゼどこか複雑な心境ながらも、目の前の美味しいものには逆らえない。
「なるほどな、こいつは高い値が付くわけだ。だが、アレを一人でどうこうは出来そうにないな……」
グリーヴもまた、商品価値を見出したように深く頷いて見せる。
しかし、ハンター6人の力を持ってしてこれを手に入れるための苦労を思い返せば、そう安々と常備化できそうな品でも無い事を同時に理解した。
だからこその、超高級食材。
「こいつは驚いたな……」
ユーロスは虚を突かれたような様子で、そう呟いていた。
卵だからと、正直少し侮っていた部分はある。
だがそれを持って余りある味わい、そして同時にその栄養価からだろうか、鳴り掛けていた腹の虫もぴったりと収まってしまった。
「鳥には勝っても、コイツには完敗だな」
そう、残る1個の卵をお土産に懐に仕舞いながら、彼もまた、彼なりに世界の広さを実感したのだった。
ゴツゴツとした岩肌の山道を、6人のハンター達は列を成して歩いていた。
「もうそろそろ、でしょうか?」
何処までも続きそうに見える先を見つめ、ラピリス・C・フローライト(ka3763)はうっすらと額に浮かんだ汗を拭いながらそう口にした。
「結構歩いたよね。これだけ人里から離れるなら、確かに天敵は少なくなって棲みやすくはあるのかも」
ラピリスの言葉に、フィーゼ=ネルフェクト(ka2724)は逆に来た道を振り返りながらそう答えた。
出立した直近の村は既に遥か遠く、米粒ほどの大きさにも見えない山道。
岩山であるせいか、生い茂る木々も無く、そういった所にのみ生える生命力の強い雑草の類が足元に点在するのみ。
人間はおろか、野生動物ですら基本的には棲み辛い場所と言えるだろう。
「食べ物とかどうしてるんだろうね。虫くらいは居るだろうけど」
アルフィ(ka3254)もややその生態系に興味有り、といった様子でまだ見ぬホテルバードに思いを馳せる。
「もちろん、味も気になるけどね。普段食べてる卵とどう違うんだろ?」
「俺も聞いたことはあるけど、食った事は無いからなぁ……すげぇ高いんだぜ?」
やや息巻いた様子で答えるのは、同盟出身のジャック・エルギン(ka1522)だ。
相手は『超』が付く高級食材。
普段の生活で手の届くような品物では決してない事を彼は知っていた。
「だからこそ、商魂滾るってもんだ」
そう、エルギンと反対側で答えるもう一人のジャック。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はギラギラと瞳の奥を輝かせて、その闘志を燃やしていた。
今回の依頼を通して、巣を作る場所を知る事が出来れば今度は自分の力で捕りに来る事も――そんな未来を思い描きつつ、一歩、また一歩と足を踏みしめる。
「卵ねぇ……腹の足しにはならなそうだな。どうせなら焼き鳥とかよ、ガッツリ食べるのが良かったぜ」
そう、小腹が空いたのかお腹を摩りながらユーロス・フォルケ(ka3862)はぼやいて見せた。
どうやら卵より鶏肉の方が興味があるようだ。
そんな言葉を交わしながら山を登り進むと、不意に視界が開けた。
そこは眼下に広大な森を見渡した、切り立った岩の壁。
森を取り囲むようにしてできた高さ200mの壁が冠状に連なった山頂部分であった。
「あっ、あそこ!」
アルフィが、そんな崖肌の一部を指差した。
その先は、対岸の崖に見える転々と開いた壁の『目』。
ホテルバードの巣であった。
●天空の宿泊施設
「流石に高いですね……」
断崖絶壁から下を覗き込みながら、ラピリスは生唾を飲み込んだ。
冬の冷たい風がビュウと音を立てて、ハンター達の間を吹き抜ける。
「どれ、俺様が軽く様子を見て来てやるぜ」
そう一足先に命綱のロープを腰へ結びつけたグリーヴは気合を入れると、静かにその足を岩肌へと足を下ろし始めた。
比較的ゴツゴツと凹凸の多い岩肌は、注意して降りる分にはハンターであればなんら問題なく降りる事が出来そうな様子だが、目的の巣はここからさらに100mほど降りた場所。
たどり着くまででも、それなりに一苦労である。
「流石に、行って戻ってくるのは時間のムダか……俺様が降りやすそうな場所を探してやるから、先遣の奴らは続いて来てくれ!」
そう、頭上の仲間達へと声を上げた。
その声を受けて、エルギンとフィーゼの2人もまた、岩肌へと身を投じて行く。
「おーい、何かの拍子で切れると悪いから、毛布、噛ませといたから!」
「おう、ありがとよ!」
フィーゼは手馴れた様子でラペリングに従事しながら、先を行くグリーヴへと声を掛けた。
「おーい、グリーヴよ!」
続くようにジャックもまた、眼下のクリーヴへと声を張り上げた。
「同じジャックの名に掛けて、負けねぇからな! 覚悟しろよ!」
同じジャック同士、何か感じ入るものがあるのだろう。
エルギンはそう高らかに宣言すると、「これでだ」といいたげに卵回収用の袋を掲げてみせた。
「金になりゃ、何だっていいぜ! だが、俺様に勝てるかな……?」
グリーヴはそう言葉を返すと、応えるように袋を掲げてみせる。
「男の子は熱いねー。私は親鳥と熱い抱擁を交わしたいけどね」
果たしてその願いは聞き届けられるのか……それはこの先に待つ鳥達のみが知る事だろう。
「私たちはもう少し待機ですね」
命綱を念入りにチェックしながらラピリスはそう、2人の後続組のメンバーへと声を掛けた。
「上手く引き付けてくれれば良いんだけどね。それにしても空、近いなぁ」
こちらも結び目の状態を確かめながら、アルフィは遥か頭上に広がる大空を見上げた。
「比較的頑丈そうだし、1本で十分だろ」
一方のユーロスは手に持った綱をビンと引っ張りながら、崖の下を覗き込む。
200m。数字では何とも分からないものだが、かなり高い。
吸い込まれるような感覚を覚えながら、ユーロスは小さく身震いする。
「い、一応念のため保険にもう一本結んでおくか……」
「そうですね。岩肌に穴を掘るほどの嘴ですし、ロープぐらい切ってしまうかもしれません」
同じようにロープ2本を結んだラピリスが頷くと、何度でも確認するように、結び目をきつく縛り上げるのだった。
先発の3人は、しばらくのラペリングの後に目標到着する事ができていた。
「アレが巣、か」
そんな岩肌にぽっかりと明いた穴が1、2、3~約20個。
「こりゃ良い眺めじゃん。宿としちゃ優良物件だな!」
そう、手でひさしを作りながら展望を眺めるエルギン。
彼らと同じ目線に立って眼前の風景を眺めると、遥か遠方に煌く海。
その途中に小さく、同盟の都市であろう、大き目の街を眺める事ができた。
「さーて、鳥さんは居るかなぁっと」
言いながら、フィーゼはするすると巣の前へロープを垂らし始めた。
その先には持ち込んだパンとナッツ。
それらを巣の前に垂らしてみると、暫くして中から1匹の鳥が顔を覗かせた。
灰色の毛並みに黄色いトサカを付けた鳥、かの、ホテルバードである。
「やー、きゃわわ!」
そんな鳥の様子にフィーゼは既にメロメロである。
そんな彼女を他所に、グリーヴはそろりそろりと巣へ近づいていく。
(気づかないでくれよ……)
そう、心の中で念じながら静かにその手を伸ばす。
巣の中には鶏卵ほどのサイズの白い卵が3つ、産み落とされていた。
そのうちの1個を捕れればそれで良いのだが……
「いっ……!」
伸ばしたその手を、今まで餌に興味を示していた嘴が勢い良く突いた。
我慢できないほどではないが、この嘴、意外と痛い。
それでも痛みに耐えながら、親鳥の間を縫って強引に卵を1個その手に掴む事に成功した。
「なるほど、要領はそんな感じか」
そんなグリーヴの前例を見て、エルギンもまた直近の巣穴へとその身を忍ばせた。
同じように中には卵が3つ。
それを温めるように2匹の鳥が寄り添っている。
「と……すまねぇな。これも依頼なんだ」
そう言いながら、巣穴の卵を2つ掴み急いで革袋へと仕舞い込む。
同時に、親鳥の一羽がエルギンの顔目掛けて飛び出したが、それをひらりとかわして見せた。
親鳥はそのまま空を滞空するように羽ばたくと、連続してジャックの腰元――革袋をぶら下げた部分を突く。
「怒る気持ちは分かるけどよ、悪いがこれで勘弁してくれ!」
そう、親鳥の攻撃を甘んじて受けながらジャックは懐から取り出した魚の干物をちぎって巣の中へと投げ入れる。
せめてものお礼というか、お代がわりである。
しばらくそうして3人で卵を採取し、次第に袋の中身も重くなって来た。
その間、親鳥への反撃は一切せず、卵が集まるのに比例するようにして群がる鳥も増えてくる。
「痛ててっ、集まってきやがった!」
「可愛いけど、これはちょっとキツイよ~」
頭を腕で覆って攻撃を凌ぎながら、エルギンとフィーゼが言う。
「満タンにはなってないが……しかたねぇな」
多くの巣から1個ずつだけ卵を集めていたグリーヴもまた、それぞれの巣の親鳥に狙われながらそう呟いた。
「一端引き上げて、後続組に引き渡すぜ!」
大量の鳥に群がられる中でこれ以上同じように採取を続けるのも困難と判断したのだろう、そう2人へ向かって叫ぶと、エルギンとフィーゼもまた同じように頷いた。
「――あっ、3人、上ってくるよ!」
そうして崖を上り始めた3人の様子をアルフィが崖上から確認。
入れ替わるように、後続の3人が崖へとその足を掛けた。
「大丈夫ですか~?」
少しずつ距離が近づいて来る下の3人へとラピリスは声を投げかける。
「上手い具合に囮にはなってくれてるみたいだな……」
「大丈夫かな。入れ違いにヒール掛けてあげよう」
自分はああはなりたくないな、といった表情で3人を見つめるユーロスの横でアルフィは胸元のロザリオを軽く握り締める。
そうして途中ですれ違う彼らにそれぞれ回復の魔法を掛けてあげるのであった。
一方、グリーヴ達が親鳥の気を引いてくれているせいか、巣の警備はかなりユルユルの様子。
「すみません、頂きますね」
そう、柔らかい物腰で頭を下げながら、ラピリスは卵を1個、革袋へと入れた。
巣の中にはまだ2つほど卵は残っていたが、それ以上手は付けず、彼女は別の巣へと身を滑らせる。
同様にユーロスもまた別の巣穴から卵を3つほど失敬。
そうしていくつかの巣を渡り歩いた後に、ばさばさと上空からけたたましい羽音の群れが迫る音を聞いた。
「うわっ、戻って来たよ!」
上空から迫る大量の親鳥達に目を丸くしながら、アルフィが叫んだ。
先発組を諦めて戻って来た親鳥達か、後発組の存在に気づいたのだ。
一斉に3人の周囲に群がり、その嘴を振るう。
「餌に釣られてくれないでしょうか……!」
ラピリスは迫り来る群れに向けて木の実を放り投げてみるも、既に目標を定めた鳥達には行動空しく、ひゅるひゅるとがけ下目掛けて落ちてゆく。
「いたたたた、ホント痛いよこれ!」
その嘴の猛攻を受け思わず蹲るアルフィ。
慌てて自らにヒールを掛けると、続けざまにラピリスへもロザリオを掲げる。
暖かいマテリアルの輝きが、彼女の生傷を癒した。
「あぁもう、うっとおしいな!」
腕で振り払えない数の鳥を相手にユーロスはその懐から銃を抜き取る。
そのまま天高く掲げると、狙いも付けずに一気に引き金を引き絞った。
同時に響く銃声。
弾は出ない、空砲だ。
しかしその音に驚いたのか、鳥達が一斉にハンター達の周囲から引く。
「二人とも! 今のうちに、一度戻るぞ!」
銃を懐に戻しながらユーロスが叫ぶ。
そのまま崖を上り始めた頃、銃声に気づいた先発隊が再び崖を降りようとしている姿が遥か上空に見て取れた。
多少手痛い反撃を受けながらも、ハンター達はそうして交互に崖を上り下りしながら卵集めに専念したのであった。
●高級食材を食して
「皆さん、お疲れ様でした~!」
オフィスへと帰ってきたハンター達は満面の笑顔のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)へと出迎えられた。
「って、みんなボロボロ……大丈夫?」
「まぁ……少なくとも命に別状はありませんね」
そう、ラピリスは苦笑しながら答えた。
「とりあえず、卵は今、あそこで茹でて貰ってます。少しゆっくり待っててくださいねっ♪」
そう微笑むルミの後ろでは、火にかけられた大きな鍋の中で踊る卵が15個。
ハンター達が1人2個ずつで、ルミとモアが1個ずつ、あとエルギンの計らいでもう1人の受付嬢・イルムへも1個。
それ以外は報酬に当てるために商会がすべて買い取った。
ほぼすべてが美品であり、商会としてはとても喜ばしい事だそうだ。
「ところで……ね、ねぇルミちゃん。さ、触ってもいい?」
「え、な、何を……!?」
そう、手をワキワキさせながら近づくフィーゼに、ルミはやや引きつった笑みで後ずさる。
しかし、フィーゼはじりりとその距離を詰めると、視線をルミの腰へと落として呟いた。
「……そのポーチ」
「へ?」
どうやら腰のうさぎポーチが気になっていたようだった。
ルミは、大事なものだから乱暴しないでくださいねと念を押して、その申し出を受け入れる。
それを聞くや否や、その身体ごと抱きつく勢いでフィーゼはポーチへと飛び掛って行った。
「――と、言う事で。実食と行きましょうっ」
目の前に並んだ茹でたての卵。
見た目は、普段のものとあまり変わらない様子だが……ハンター達は興味深くその卵を取った。
軽くヒビを入れただけで綺麗に向けた卵は、真っ白よりはやや黄色がかっており、やはり鶏卵と違った雰囲気をかもし出していた。
「じゃあ、いっただきまーす!」
そう元気良く宣言したアルフィの掛け声と共に、皆一斉に口元へと運び入れる。
「ほっほう、コイツは……」
開口一声、感心したようにエルギンは呟いた。
口当たりは、誰もが想像してた卵の白身よりもかなり固く、しっかりとしたもの。
まさしくタンパクなその白身の中から現れる、トロリとした黄身。
ややオレンジ掛かった色の黄身は、しっかり火を通してなおトロトロで、噛み切った白身の隙間からじわりと、まるで肉汁のようにあふれ出す。
ほんのり甘さが広がると共に、口いっぱいにバターのような強い香りが広がった。
「そうそう、こう言うの~! こう言うのを待ってたんですっ!」
そんな風味にルミはご満悦の様子。
「これは……すごいですね。このような卵が世の中に存在しているなんて」
「チーズとかクラッカーとか持ってきてみたけど……これなら要らないかも!」
そう、じっくり味わうように噛み締めながらラピリスとアルフィはじんわりと感に入った。
広がった黄身の味わいを淡白な白身に絡めると、それだけでメインディッシュを食べているような感覚だ。
「これがあの可愛い親鳥に……悲しい、でも美味しい!」
そう、フィーゼどこか複雑な心境ながらも、目の前の美味しいものには逆らえない。
「なるほどな、こいつは高い値が付くわけだ。だが、アレを一人でどうこうは出来そうにないな……」
グリーヴもまた、商品価値を見出したように深く頷いて見せる。
しかし、ハンター6人の力を持ってしてこれを手に入れるための苦労を思い返せば、そう安々と常備化できそうな品でも無い事を同時に理解した。
だからこその、超高級食材。
「こいつは驚いたな……」
ユーロスは虚を突かれたような様子で、そう呟いていた。
卵だからと、正直少し侮っていた部分はある。
だがそれを持って余りある味わい、そして同時にその栄養価からだろうか、鳴り掛けていた腹の虫もぴったりと収まってしまった。
「鳥には勝っても、コイツには完敗だな」
そう、残る1個の卵をお土産に懐に仕舞いながら、彼もまた、彼なりに世界の広さを実感したのだった。
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相談スレッド ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/04/12 23:45:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/03 23:45:22 |