ゲスト
(ka0000)
長い旅路の先に
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/12 09:00
- 完成日
- 2015/03/15 19:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●古都アークエルスにて
王国の北東部の山麓にやや近い場所にある、歴史や魔法など様々な研究を目的とした学術都市だ。
都市の大きな特徴はグラズヘイム王立図書館がある事。
通称グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれるこの図書館の歴史は古く、一説には古都が街としてのまとまりを持つことになるより以前、さらには王国が成り立つ前から存在するのではないかと噂されている。
数年前まで図書館で警備の仕事をしていた1人の翁がいた。
翁はこの街で生まれた。覚醒者としての素養があり、若い頃はハンターとして活躍していた。
やがて、愛する人と出逢い、家庭を持ち、慎ましいながらも充実した人生を歩んできた。
「……」
翁が無言で自宅を見上げる。
子供が生まれる時に借りた家だ。今ではもはや、ボロ家と化している。
最近、地主が変わったようで、立ち退きを要求されていた。
頼る先はない。親族も親戚も翁にはいなかったから。
数年前に妻が亡くなった。特別な事じゃない。老衰だ。
時同じくして子が病死した。子と結婚した相手は、故郷に帰ったようだ。
「ただいま、じゃ……」
玄関の戸を開けるが、返事をする者はいない。
もう、いつでも、あの世に逝く用意はできている。
人生という長い旅路の先。いつになったら逝けるのだろうか。
「生きるのも地獄。死ぬのも地獄……じゃな」
若い頃、無理無茶をいっぱいした。善い事も悪い事も。
地獄にきっと落ちると思っていたが、最近、少し考えが変わった。
『今が地獄なんじゃないか』
果てない孤独。
止まない凍え。
さすがに、疲れてきた。
ハンターとして戦いの日々を過ごした事を思い出す。
ふと、その頃に愛用していたアルケミストデバイスが目に入った。
「……」
それを手に取る。
そして、思ったのだ。
このまま、いつ来るかわからない死を待つよりも、最後、戦いの中で死のうと……。
●嘆きの橋
それは古都のとある水路に途中まで架かっている橋だ。
綺麗な半円を描いている石造りの橋には、ある噂がある。
『この橋で嘆けば、その悲しみや苦しみから解放される』
翁は真夜中にその橋にやってきた。
長い人生の間、幾度か通った事があるその橋は、ある意味、翁にとってはなじみの場所でもあった。
そして、誰に話すというわけでもなく、語りだす翁。
長い旅路の先、孤独と凍えに終焉を見たいと。
最後は戦いの中で死にたいと。
王国の西、傲慢の歪虚に占拠されたイスルダ島に単身に乗り込む。
王国の北、ゴブリン等の亜人の勢力地である北の山脈のどこかにあるという巨大洞窟を探す。
これらであれば、死地はあるだろう。
だがら、翁は自分の想いを吐きだしたかったのだ。
誰も聞いていなくとも……。
翁が一通り語り終えた時だった。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
橋の先の路地から1人の少女が現れた。歳は13位。緑色の髪が映えている。
話をずっと聞いていたのだろうか。
「島に行くにも、北の山脈に行くにも、今の貴方にとっては遠すぎるはずです」
確かに少女の言う通り、距離はある。
「お嬢ちゃんには関係のない事じゃ」
「だったら、なぜ、ここで、語っていたのですか?」
誰かに聞いて欲しかったからなのかと。
少女の瞳はそれを訴えていた。
「私には貴方が深い絶望の中にいる気がするのです」
「この歳じゃ、自分の事、世の中の事。悲観的にはなる」
「なら、一緒に前を向きませんか? たとえ、地獄に落ちる所業であったとしても」
その言葉に翁の瞳は、若い頃、ハンターとして戦っていた時の鋭い輝きを放った。
「どういう事じゃ」
「雑魔と戦える場所は用意します。存分に戦って下さい。ですが、もし、貴方が生き残ったら、私達と一緒に行きませんか」
驚きの提案だった。
この少女は、死地を用意するという。それでも、生き残れという。
「面白い提案じゃ。ワシの願い、叶えてもらおう」
橋の先から、対岸に向かって跳ぶ。
この歳で、並の身体能力じゃない。
「あと、儂の事は『貴方』ではなく、オキナとでも呼んでもらおうかのぉ」
●とあるハンターオフィスにて
「倉庫で雑魔って流行ってるのかしら。まさか、今年のトレンド?」
青紫色の髪をクルクルとしながら受付嬢がそんな事を呟いた。
モニターには雑魔討伐の依頼が表示されている。
「古都アークエルスのある貸倉庫内に出現した雑魔を討伐する依頼となります」
なんでも、貸倉庫の内部に雑魔が出現しているらしい。
長らく使われていなかった倉庫だったはずなのだが、倉庫の持ち主に匿名の通報があり、中に雑魔がいる事がわかった。
「近くには民家もありますので、早々に退治しようという事になりました」
依頼の資料が配られる。
雑魔を退治するだけの様だ。
「……受付嬢を交代する人がいたら、私が行っていたのに……」
ボソっとなにか言っている。
資料によると雑魔の数は1体の様だ。
「そ、それでは、依頼を受ける場合、こちらにサインをお願いします」
受付嬢は営業スマイルをハンター達に向けていたのであった。
王国の北東部の山麓にやや近い場所にある、歴史や魔法など様々な研究を目的とした学術都市だ。
都市の大きな特徴はグラズヘイム王立図書館がある事。
通称グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれるこの図書館の歴史は古く、一説には古都が街としてのまとまりを持つことになるより以前、さらには王国が成り立つ前から存在するのではないかと噂されている。
数年前まで図書館で警備の仕事をしていた1人の翁がいた。
翁はこの街で生まれた。覚醒者としての素養があり、若い頃はハンターとして活躍していた。
やがて、愛する人と出逢い、家庭を持ち、慎ましいながらも充実した人生を歩んできた。
「……」
翁が無言で自宅を見上げる。
子供が生まれる時に借りた家だ。今ではもはや、ボロ家と化している。
最近、地主が変わったようで、立ち退きを要求されていた。
頼る先はない。親族も親戚も翁にはいなかったから。
数年前に妻が亡くなった。特別な事じゃない。老衰だ。
時同じくして子が病死した。子と結婚した相手は、故郷に帰ったようだ。
「ただいま、じゃ……」
玄関の戸を開けるが、返事をする者はいない。
もう、いつでも、あの世に逝く用意はできている。
人生という長い旅路の先。いつになったら逝けるのだろうか。
「生きるのも地獄。死ぬのも地獄……じゃな」
若い頃、無理無茶をいっぱいした。善い事も悪い事も。
地獄にきっと落ちると思っていたが、最近、少し考えが変わった。
『今が地獄なんじゃないか』
果てない孤独。
止まない凍え。
さすがに、疲れてきた。
ハンターとして戦いの日々を過ごした事を思い出す。
ふと、その頃に愛用していたアルケミストデバイスが目に入った。
「……」
それを手に取る。
そして、思ったのだ。
このまま、いつ来るかわからない死を待つよりも、最後、戦いの中で死のうと……。
●嘆きの橋
それは古都のとある水路に途中まで架かっている橋だ。
綺麗な半円を描いている石造りの橋には、ある噂がある。
『この橋で嘆けば、その悲しみや苦しみから解放される』
翁は真夜中にその橋にやってきた。
長い人生の間、幾度か通った事があるその橋は、ある意味、翁にとってはなじみの場所でもあった。
そして、誰に話すというわけでもなく、語りだす翁。
長い旅路の先、孤独と凍えに終焉を見たいと。
最後は戦いの中で死にたいと。
王国の西、傲慢の歪虚に占拠されたイスルダ島に単身に乗り込む。
王国の北、ゴブリン等の亜人の勢力地である北の山脈のどこかにあるという巨大洞窟を探す。
これらであれば、死地はあるだろう。
だがら、翁は自分の想いを吐きだしたかったのだ。
誰も聞いていなくとも……。
翁が一通り語り終えた時だった。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
橋の先の路地から1人の少女が現れた。歳は13位。緑色の髪が映えている。
話をずっと聞いていたのだろうか。
「島に行くにも、北の山脈に行くにも、今の貴方にとっては遠すぎるはずです」
確かに少女の言う通り、距離はある。
「お嬢ちゃんには関係のない事じゃ」
「だったら、なぜ、ここで、語っていたのですか?」
誰かに聞いて欲しかったからなのかと。
少女の瞳はそれを訴えていた。
「私には貴方が深い絶望の中にいる気がするのです」
「この歳じゃ、自分の事、世の中の事。悲観的にはなる」
「なら、一緒に前を向きませんか? たとえ、地獄に落ちる所業であったとしても」
その言葉に翁の瞳は、若い頃、ハンターとして戦っていた時の鋭い輝きを放った。
「どういう事じゃ」
「雑魔と戦える場所は用意します。存分に戦って下さい。ですが、もし、貴方が生き残ったら、私達と一緒に行きませんか」
驚きの提案だった。
この少女は、死地を用意するという。それでも、生き残れという。
「面白い提案じゃ。ワシの願い、叶えてもらおう」
橋の先から、対岸に向かって跳ぶ。
この歳で、並の身体能力じゃない。
「あと、儂の事は『貴方』ではなく、オキナとでも呼んでもらおうかのぉ」
●とあるハンターオフィスにて
「倉庫で雑魔って流行ってるのかしら。まさか、今年のトレンド?」
青紫色の髪をクルクルとしながら受付嬢がそんな事を呟いた。
モニターには雑魔討伐の依頼が表示されている。
「古都アークエルスのある貸倉庫内に出現した雑魔を討伐する依頼となります」
なんでも、貸倉庫の内部に雑魔が出現しているらしい。
長らく使われていなかった倉庫だったはずなのだが、倉庫の持ち主に匿名の通報があり、中に雑魔がいる事がわかった。
「近くには民家もありますので、早々に退治しようという事になりました」
依頼の資料が配られる。
雑魔を退治するだけの様だ。
「……受付嬢を交代する人がいたら、私が行っていたのに……」
ボソっとなにか言っている。
資料によると雑魔の数は1体の様だ。
「そ、それでは、依頼を受ける場合、こちらにサインをお願いします」
受付嬢は営業スマイルをハンター達に向けていたのであった。
リプレイ本文
●デジャブ
ハンター達は雑魔が出現したという倉庫を目指して走っていた。
急ぐには理由があったからだ。
「それにしてもほんと、多いわね。これで何度目かしら」
シエラ・ヒース(ka1543)が横を走るシガレット=ウナギパイ(ka2884)に話しかける。
港町ガンナ・エントラータの倉庫でも似た様な事件があった。
「街中に雑魔かァ……治安が変なんだぜ」
シガレットは最近、港町で発生した街中での雑魔絡みの事件から、今回、共通性を疑っている。
それは、オウカ・レンヴォルト(ka0301)も同様であった。
(あの……歪虚が絡んでいる、可能性も……)
倉庫になにか痕跡が残っていればと思う。
雑魔が周辺の住民にとって危険な存在であるという理由と共に、ハンター達が先を急ぐ理由は、ある歪虚が絡んでいるのではないかという思いからだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)と柏木 千春(ka3061)は、先行している3人の後を駆ける。
事情はだいたい教えて貰った。もし、歪虚が絡んでいるのであれば忌々しき事態だ。
「とにかく、雑魔をぶちのめせばいいって事だな」
戦斧を掲げ、ニヤリと笑みを浮かべるボルディア。
対して、逆五角形の形をした盾を持つ柏木は心配そうな表情を浮かべていた。
「付近に住んでいる人達に、危害が及んでなければいいのですけど」
一行の最後尾を行くのは、スピノサ ユフ(ka4283)だ。
(私に覚醒者としての適正……人生、分からないな……)
農民の血しか流れてない自身が、本当に戦えるのかと不安になる。
力を尽くせば、今日までのように自ずと道は開ける……だろうか?
●倉庫にて
「……だれか、いる。……どういう、事だ?」
オウカの言葉通り、目的の倉庫に辿り着いた一行は、驚きを隠せなかった。
既に、倉庫内で雑魔と戦闘を繰り広げている人物が一人いたからだ。
防具の類は身につけていないが、アルケミストデバイスは持っているようで、光の剣を創りだし、雑魔に挑んでいる所を見ると、機導師の覚醒者なのだろうか。
しかし……。
「ジジィじゃねぇか!」
ボルディアが叫んで戦斧を構えて走り出す。
雑魔と戦っていたのは、かなり高齢の爺さんだったからだ。
援護に入ろうと一斉に雑魔へと向かうハンター達に気がついたのか、顔だけ一瞬向けてきた。
「手出し無用!」
額から流れる血が痛々しい。
その隙を雑魔の背に乗っている3つ頭から、毒々しい色の煙が爺に放たれたが、クルリと姿勢をまわして避ける。
「それでも、歪虚を前に、放っておく事は、できない」
オウカは自身のマテリアルを翁へと流す。機導師のスキルである攻性強化だ。
爺は舌打ちしながらも戦闘を継続する。
「おひとりで戦おうとするのは、あなたの勝手ですが、あなたの助太刀をするのは私の勝手です」
回復の魔法を爺にかける柏木。
誰だかわからないが、歪虚との戦いを黙ってみてろだなんて、そんな事は絶対にできない。
「それに、これは、私達の仕事なのよね」
シエラがナックルを構えて最前線に躍り出る。
ハンター達は雑魔討伐の依頼を受けているのだ。自分達の仕事を、投げたりはしない。
オウカ、柏木、シエラの3人が一組で雑魔の右側から挑むと同時に、残り3人は正面から左側面に立ち塞がる。
「おーおー、元気なジジィだこって。 張り切りすぎて、ぎっくり腰になるんじゃねえぞ! 面倒だからな!」
爺が雑魔の攻撃を危なげに避ける姿を見て、ボルディアが注意する。戦闘中に急に動けなくなったら目もあてられない事態になってしまう。
雑魔の背にある3つ首の一つに向けて斧を振り下ろした。
「オラァ! てめぇの相手は俺だァ!」
シガレットが真正面に立ち、光の球の魔法を唱える。
雑魔が前脚を振るうが、硬い防具がそれを通さない。
その彼に攻性強化で援護しつつ、倉庫の窓を開けて行くスピノサ。
雑魔が放った煙を換気する為だ。
(援護に入ったのに、お爺さんは退かない? なぜ?)
そんな疑問が浮かぶ。爺は戦う姿勢のままだ。
その瞳はまるで、なにかを覚悟している様な強い輝きだった。
シエラとボルディアが精霊の力の元、煙を吐き出した背の3つ頭を狙って、渾身の一撃を叩きこむ。
それぞれが、頭を粉砕したが、残った一つが周囲に睡眠を誘う煙を吐き出した。
「私は、お仕事で日々の糧を得ているの。寝るわけにはいかないわ」
「行儀の悪ぃ口は塞がねえとなぁ!」
2人は眠気に抵抗して、再び武器を振りかぶる。前衛はシンプルに殴るだけで、回復は仲間任せのつもりなのだ。
爺は変わらず前衛で機導剣を繰り出している。
援護する形で、オウカとスピノサが、マテリアルを変換した一条の光を放つ。
(あの動き……なるほど……)
オウカはそれとなく、爺との位置取りに気を配りながら、戦い振りを観察していた。
機導師はその特性上、前衛でも後衛でも戦える。逆に、その特性をよく理解していないと、半端になりがちである。
敵と仲間の動きをよく観察し、必要な所で必要なスキルを使用する。そうした、洗練された動きを行おうとしている爺の様だが、身体がついていってないとわかる。
老いるとはそういう事なのかと感じた。
「これが、戦いなのですね」
スピノサも爺の動きを見ていた。
機導師の戦い方という知識は得ている。しかし、実戦の動きとなると別だ。ハンターとして活動していく以上、経験を積んでいく必要があるのは間違いない。
(……特に怪しいのはいねぇかァ……)
猛烈な雑魔の攻撃を防具で受け流し、シガレットは倉庫内を見渡した。
なにもない倉庫に雑魔が急に湧く事など、聞いた事なかった。
この雑魔の背後に歪虚がいるという確信にも似たロジックを感じていた。
ハンター達の攻勢を受けて傷だらけの雑魔が苦し紛れに前脚を、爺に振り上げる。
避ける事はできるはずだ。
だが、爺は避けようとせず、腰を低くして光の剣を突き出す動きをみせる。まるで、相打ちを狙っているかのように。
その動きは、爺を注視していたオウカや真正面で敵の気をひこうとしていたシガレットの予想を越えていた。
自分から死のうとしているようなものだ。それとも、わざとなのか……。
「ダメです!」
雑魔の前脚が、まさに、爺の頭を粉砕しようとした瞬間、柏木が翁の眼前に立つ。
持ってきた頑強な盾を構えている余裕はなかった。
雑魔の攻撃を受け、その場で崩れ落ちた少女の行動を見ても、爺は顔色一つ変えずに冷静だった。
低い腰だめから繰り出した光の剣は雑魔の頭部を貫通させる。
動きが止まった所をトドメとばかり、2人の霊闘士が強烈な攻撃を叩き込む。
「グガァァァ!」
雑魔が咆哮をあげると共に、ボロボロと塵になって消え去る。
慌てて仲間達が柏木に駆け寄った。
だが、少女は痛みに堪えながらも笑みを仲間達に向けたのであった。
●爺とハンター達
「ジジィテメェ!」
ボルディアが爺の胸ぐらを掴みそうな勢いで喰ってかかる。
ハンターの誰もが見てわかった。爺の最後の動きを。
「あんな戦い方じゃジジィテメェ、ドブに命投げ捨てるようなもんだ!」
庇いに入った柏木は深手を負った。回復の魔法で致命傷には至っていないが、もし、庇われなかったら、爺は死んでいたはずだ。
「だいたい、なんで一人で戦っていたんだ! 一人じゃ勝てねぇ位、テメェならわかるだろ!」
爺の動きは老いの影響で鈍くなっているとは言え、立ち位置や攻撃の仕方を見る限り、歴戦のハンターだと容易に分かる。
そんな人物が、己の力量をわからずに、戦いに挑むなどあり得ない。
「答えずともわかるじゃろ」
「ケッ、つまんね。なぁジジィ、どうせ死に花咲かすなら、こんな薄暗ぇ倉庫じゃなくてもっとデケェ舞台があるだろうが」
辺境での怠惰の歪虚の侵攻など、その舞台に相応しいだろうに。
少なくとも、使われていない貸倉庫よりかは、花道を飾れるはずだ。
「アンタの死に様、ホントにそれでいいのかよ?」
「どこで、どう死のうがワシの勝手じゃろ。若いの」
そっぽ向いた爺に、シエラが話しかける。
「まぁ、雑魔を倒せたし、こういう形になったけど、手伝ってくれて、ありがと」
「成り行きじゃ。手出し無用と言っても、お主らはハンターオフィスからの依頼で雑魔を討伐しにきたのじゃろうしな」
「そうよ。私達は、ね。でも、お爺さんは、なんで、戦っていたのかしら?」
その質問に爺は一瞬、柏木に視線を変えた。
彼女は自身で回復の魔法を唱えていた。ある程度、傷は回復するだろうが、それ以上は戻ってからになるだろう。
爺は深くため息をついて語りだした。
元ハンターであった事。数年前まで図書館で警備の仕事をしていた事。
妻子は数年前に亡くなっている事。今は借家に一人で住んでいる事。
生きる事に疲れ、戦いの中で死のうと思った事。
そして、たまたま倉庫の近くを通りがかったら、中に雑魔がいたので、戦いを挑んだ事。
「はァ~? たまたま通りがかったらとか嘘だろォ?」
シガレットの台詞に爺がキッと睨みつけた。
「この雑魔はどうみても自然発生の類じゃねぇ!」
爺が黙り込んだ。
それは、歪虚が裏で糸を引いているというシガレットの考えを肯定するに足る事だった。
「ジーさん、どういう事だァ」
「若造の知った事じゃない!」
反射的に出た爺の拳をシガレットは避けなかった。
「なんだそのヨボヨボした攻撃はァ!」
爺は己の拳を見つめた。
若い頃なら、今の一撃で吹き飛ばす事ぐらい動作もなかった。これが老いなのだなと改めて感じる。
再び黙りに入った爺に、傷をある程度回復した柏木が言葉を投げかける。
「ただの小娘の我儘として、聞き流していただいても構いません」
人生を諦めるのは尚早だと思う事。
この出逢いのご縁を、大切にしたいなと、思う事。
「私は、お爺さんと、沢山お話をしたいです」
最後にそう締め括りニッコリと微笑む柏木に続いて、スピノサが話しかける。
「王立図書館で働いていたのですね。良い場所だ。私は戦いより本が好きで……本は先人の『知』と『祈り』だから」
書を記すという意味を、書を遺していくという意味を。
本の中に、人の心は生き続けることも、きっと有り得る事だ。
そして、本の守り手として、この街で生きていく事は、孤独ではなく、大切な存在も、お爺さんと共に在ると。
「本は確かに良いの……」
スピノサの話を静かに聞いていた爺がある方角に向けて顔をあげた。
ここからは建物は見えないが、王立図書館の方に違いない。
「生意気を言って申し訳ない……だが世界は、人の旅路を見守ってくれる……私はそう思う」
そう信じなければ、残酷な世界のはずだ。
「そうよ、お爺さん。世界は愛おしいわ。喜びも悲しみも、自分が確かに愛したことを教えてくれる」
「ジーさんの人生だから好きにすればいいンだぜ……ただ、ヨメさんに言い訳する様な死に様はするんじゃねぇぜ」
スピノサの言葉に合わせるようにシエラとシガレットが言う。
「あなたの技術を、学ばせて欲しい」
成り行きを見守っていたオウカが、爺の持つアルケミストデバイスに視線を向けながら言った。
きっと名のあるハンターだったろう。機導師としての技術は自分を越えていると感じている。
「ワシから教える事なぞ、ないぞ」
ニヤリと笑ってハンター達を見渡す爺。
「それに、力とは、自分で掴み取っていくものじゃ」
ふと、爺は、昔を思い出した。
ハンターとして活躍していた頃を。全盛期はきっと、この6人を同時に相手しても負けなかっただろう。
「なら、俺達と一緒に、戦わないか」
オウカはそう提案した。
老体のハンターがいないわけじゃない。もう一度、ハンターとして戦うのもありかもしれない。
「ユニオンもどこもうるさいぐらい騒がしいが、皆いい奴ら、だ」
「だろうじゃの……それも、いいかもしれん」
ハンター達を見渡した爺は不器用な笑みをみせる。
「ジーさん、今度は話を聞かせてもらっていいかァ?」
シガレットが言っている事を爺は理解していた。
しばしの逡巡の後に、爺が口を開く。
「『嘆きの橋』と呼ばれる所で、緑髪の少女に出会った。少女は、ここに雑魔がいると教えてくれた」
明らかに言葉を選んでいるようであったが、ハンター達は深く訊ねはしなかった。
「出発前に受付嬢から話がでた奴か?」
「きっと、そうね。歪虚と共に行動をしているという、ノゾミという女の子らしいわ」
ボルディアの質問にシエラが答える。
港町でも、今回と同様の事件を引き起こしていたと思われている。
だが、生身の少女が雑魔を生み出せるわけではないので、裏に歪虚が関わっていると推測されていた。
「おヌシら、あの少女の事を知っているのか?」
「知っている……という程ではないが……そうか、無事で、よかった」
オウカが少女を見たのは、港町での一件でだ。
対峙した歪虚は、気絶した少女を助ける様に去ったのだが、その後行方不明だった。
無事なのは喜ばしい事なのかもしれないし、あの歪虚は少女に危害を加えないだろうという自分の直感が正しかったと思い出す。
「私は会った事ありませんが、きっと同一の人物とみていいのだろう」
スピノサの言葉に一行は頷く。
「そうじゃの、見た目は、そこのお嬢ちゃん位の少女じゃったかの」
爺が指差した先には、柏木がいた。
全員の視線が集まる。
「わ、私は、子供っぽく見えるだけです」
頬を少し膨らませて抗議する柏木の子供っぽい姿に、倉庫に笑い声が響いた。
倉庫に現れた雑魔を討伐し、ハンター達の依頼は達成された。
居合わせたお爺さんも無事で、お爺さんは家に帰っていったのであった。
おしまい。
●旅路の先の未来
長年住んでいた借家から半場、無理矢理に立ち退きを余儀なくとされ、爺は家を見つめていた。
その家は、早々に取り壊しが始まっている。これで、住む場所は無くなった。妻子との思い出も壊されていく。
「これが、現実じゃ……」
もし、先日のハンター達と出逢っていなかったら、絶望のあまり、嘆きの橋から身を投げていただろう。
もしくは、自暴自棄になって、なにか突拍子もない事をしていたのだろうか。
だが、今、不思議と心は冷静だった。自分の旅路に終焉を見出せたから。
爺は感じていた。これから、世の中の流れは、自分達の世代とは明らかに違う様相になると。
もしかして、彼らなら、イスルダ島を奪還できるかもしれない。辺境を歪虚の脅威から救う事ができるかもしれない。
そんな中、年老いて、死を待つだけの自分ができる事はただ一つ。
彼らの礎となる事だ。
「ワシは修羅の道を逝く。見事、ワシを止めてみせい!」
アルケミストデバイスを高く掲げると、緑髪の少女との待ち合わせ場所へ向けて歩き出す。
旅が終わり、一人の戦士が戦場へと帰ってきた瞬間だった。
ハンター達は雑魔が出現したという倉庫を目指して走っていた。
急ぐには理由があったからだ。
「それにしてもほんと、多いわね。これで何度目かしら」
シエラ・ヒース(ka1543)が横を走るシガレット=ウナギパイ(ka2884)に話しかける。
港町ガンナ・エントラータの倉庫でも似た様な事件があった。
「街中に雑魔かァ……治安が変なんだぜ」
シガレットは最近、港町で発生した街中での雑魔絡みの事件から、今回、共通性を疑っている。
それは、オウカ・レンヴォルト(ka0301)も同様であった。
(あの……歪虚が絡んでいる、可能性も……)
倉庫になにか痕跡が残っていればと思う。
雑魔が周辺の住民にとって危険な存在であるという理由と共に、ハンター達が先を急ぐ理由は、ある歪虚が絡んでいるのではないかという思いからだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)と柏木 千春(ka3061)は、先行している3人の後を駆ける。
事情はだいたい教えて貰った。もし、歪虚が絡んでいるのであれば忌々しき事態だ。
「とにかく、雑魔をぶちのめせばいいって事だな」
戦斧を掲げ、ニヤリと笑みを浮かべるボルディア。
対して、逆五角形の形をした盾を持つ柏木は心配そうな表情を浮かべていた。
「付近に住んでいる人達に、危害が及んでなければいいのですけど」
一行の最後尾を行くのは、スピノサ ユフ(ka4283)だ。
(私に覚醒者としての適正……人生、分からないな……)
農民の血しか流れてない自身が、本当に戦えるのかと不安になる。
力を尽くせば、今日までのように自ずと道は開ける……だろうか?
●倉庫にて
「……だれか、いる。……どういう、事だ?」
オウカの言葉通り、目的の倉庫に辿り着いた一行は、驚きを隠せなかった。
既に、倉庫内で雑魔と戦闘を繰り広げている人物が一人いたからだ。
防具の類は身につけていないが、アルケミストデバイスは持っているようで、光の剣を創りだし、雑魔に挑んでいる所を見ると、機導師の覚醒者なのだろうか。
しかし……。
「ジジィじゃねぇか!」
ボルディアが叫んで戦斧を構えて走り出す。
雑魔と戦っていたのは、かなり高齢の爺さんだったからだ。
援護に入ろうと一斉に雑魔へと向かうハンター達に気がついたのか、顔だけ一瞬向けてきた。
「手出し無用!」
額から流れる血が痛々しい。
その隙を雑魔の背に乗っている3つ頭から、毒々しい色の煙が爺に放たれたが、クルリと姿勢をまわして避ける。
「それでも、歪虚を前に、放っておく事は、できない」
オウカは自身のマテリアルを翁へと流す。機導師のスキルである攻性強化だ。
爺は舌打ちしながらも戦闘を継続する。
「おひとりで戦おうとするのは、あなたの勝手ですが、あなたの助太刀をするのは私の勝手です」
回復の魔法を爺にかける柏木。
誰だかわからないが、歪虚との戦いを黙ってみてろだなんて、そんな事は絶対にできない。
「それに、これは、私達の仕事なのよね」
シエラがナックルを構えて最前線に躍り出る。
ハンター達は雑魔討伐の依頼を受けているのだ。自分達の仕事を、投げたりはしない。
オウカ、柏木、シエラの3人が一組で雑魔の右側から挑むと同時に、残り3人は正面から左側面に立ち塞がる。
「おーおー、元気なジジィだこって。 張り切りすぎて、ぎっくり腰になるんじゃねえぞ! 面倒だからな!」
爺が雑魔の攻撃を危なげに避ける姿を見て、ボルディアが注意する。戦闘中に急に動けなくなったら目もあてられない事態になってしまう。
雑魔の背にある3つ首の一つに向けて斧を振り下ろした。
「オラァ! てめぇの相手は俺だァ!」
シガレットが真正面に立ち、光の球の魔法を唱える。
雑魔が前脚を振るうが、硬い防具がそれを通さない。
その彼に攻性強化で援護しつつ、倉庫の窓を開けて行くスピノサ。
雑魔が放った煙を換気する為だ。
(援護に入ったのに、お爺さんは退かない? なぜ?)
そんな疑問が浮かぶ。爺は戦う姿勢のままだ。
その瞳はまるで、なにかを覚悟している様な強い輝きだった。
シエラとボルディアが精霊の力の元、煙を吐き出した背の3つ頭を狙って、渾身の一撃を叩きこむ。
それぞれが、頭を粉砕したが、残った一つが周囲に睡眠を誘う煙を吐き出した。
「私は、お仕事で日々の糧を得ているの。寝るわけにはいかないわ」
「行儀の悪ぃ口は塞がねえとなぁ!」
2人は眠気に抵抗して、再び武器を振りかぶる。前衛はシンプルに殴るだけで、回復は仲間任せのつもりなのだ。
爺は変わらず前衛で機導剣を繰り出している。
援護する形で、オウカとスピノサが、マテリアルを変換した一条の光を放つ。
(あの動き……なるほど……)
オウカはそれとなく、爺との位置取りに気を配りながら、戦い振りを観察していた。
機導師はその特性上、前衛でも後衛でも戦える。逆に、その特性をよく理解していないと、半端になりがちである。
敵と仲間の動きをよく観察し、必要な所で必要なスキルを使用する。そうした、洗練された動きを行おうとしている爺の様だが、身体がついていってないとわかる。
老いるとはそういう事なのかと感じた。
「これが、戦いなのですね」
スピノサも爺の動きを見ていた。
機導師の戦い方という知識は得ている。しかし、実戦の動きとなると別だ。ハンターとして活動していく以上、経験を積んでいく必要があるのは間違いない。
(……特に怪しいのはいねぇかァ……)
猛烈な雑魔の攻撃を防具で受け流し、シガレットは倉庫内を見渡した。
なにもない倉庫に雑魔が急に湧く事など、聞いた事なかった。
この雑魔の背後に歪虚がいるという確信にも似たロジックを感じていた。
ハンター達の攻勢を受けて傷だらけの雑魔が苦し紛れに前脚を、爺に振り上げる。
避ける事はできるはずだ。
だが、爺は避けようとせず、腰を低くして光の剣を突き出す動きをみせる。まるで、相打ちを狙っているかのように。
その動きは、爺を注視していたオウカや真正面で敵の気をひこうとしていたシガレットの予想を越えていた。
自分から死のうとしているようなものだ。それとも、わざとなのか……。
「ダメです!」
雑魔の前脚が、まさに、爺の頭を粉砕しようとした瞬間、柏木が翁の眼前に立つ。
持ってきた頑強な盾を構えている余裕はなかった。
雑魔の攻撃を受け、その場で崩れ落ちた少女の行動を見ても、爺は顔色一つ変えずに冷静だった。
低い腰だめから繰り出した光の剣は雑魔の頭部を貫通させる。
動きが止まった所をトドメとばかり、2人の霊闘士が強烈な攻撃を叩き込む。
「グガァァァ!」
雑魔が咆哮をあげると共に、ボロボロと塵になって消え去る。
慌てて仲間達が柏木に駆け寄った。
だが、少女は痛みに堪えながらも笑みを仲間達に向けたのであった。
●爺とハンター達
「ジジィテメェ!」
ボルディアが爺の胸ぐらを掴みそうな勢いで喰ってかかる。
ハンターの誰もが見てわかった。爺の最後の動きを。
「あんな戦い方じゃジジィテメェ、ドブに命投げ捨てるようなもんだ!」
庇いに入った柏木は深手を負った。回復の魔法で致命傷には至っていないが、もし、庇われなかったら、爺は死んでいたはずだ。
「だいたい、なんで一人で戦っていたんだ! 一人じゃ勝てねぇ位、テメェならわかるだろ!」
爺の動きは老いの影響で鈍くなっているとは言え、立ち位置や攻撃の仕方を見る限り、歴戦のハンターだと容易に分かる。
そんな人物が、己の力量をわからずに、戦いに挑むなどあり得ない。
「答えずともわかるじゃろ」
「ケッ、つまんね。なぁジジィ、どうせ死に花咲かすなら、こんな薄暗ぇ倉庫じゃなくてもっとデケェ舞台があるだろうが」
辺境での怠惰の歪虚の侵攻など、その舞台に相応しいだろうに。
少なくとも、使われていない貸倉庫よりかは、花道を飾れるはずだ。
「アンタの死に様、ホントにそれでいいのかよ?」
「どこで、どう死のうがワシの勝手じゃろ。若いの」
そっぽ向いた爺に、シエラが話しかける。
「まぁ、雑魔を倒せたし、こういう形になったけど、手伝ってくれて、ありがと」
「成り行きじゃ。手出し無用と言っても、お主らはハンターオフィスからの依頼で雑魔を討伐しにきたのじゃろうしな」
「そうよ。私達は、ね。でも、お爺さんは、なんで、戦っていたのかしら?」
その質問に爺は一瞬、柏木に視線を変えた。
彼女は自身で回復の魔法を唱えていた。ある程度、傷は回復するだろうが、それ以上は戻ってからになるだろう。
爺は深くため息をついて語りだした。
元ハンターであった事。数年前まで図書館で警備の仕事をしていた事。
妻子は数年前に亡くなっている事。今は借家に一人で住んでいる事。
生きる事に疲れ、戦いの中で死のうと思った事。
そして、たまたま倉庫の近くを通りがかったら、中に雑魔がいたので、戦いを挑んだ事。
「はァ~? たまたま通りがかったらとか嘘だろォ?」
シガレットの台詞に爺がキッと睨みつけた。
「この雑魔はどうみても自然発生の類じゃねぇ!」
爺が黙り込んだ。
それは、歪虚が裏で糸を引いているというシガレットの考えを肯定するに足る事だった。
「ジーさん、どういう事だァ」
「若造の知った事じゃない!」
反射的に出た爺の拳をシガレットは避けなかった。
「なんだそのヨボヨボした攻撃はァ!」
爺は己の拳を見つめた。
若い頃なら、今の一撃で吹き飛ばす事ぐらい動作もなかった。これが老いなのだなと改めて感じる。
再び黙りに入った爺に、傷をある程度回復した柏木が言葉を投げかける。
「ただの小娘の我儘として、聞き流していただいても構いません」
人生を諦めるのは尚早だと思う事。
この出逢いのご縁を、大切にしたいなと、思う事。
「私は、お爺さんと、沢山お話をしたいです」
最後にそう締め括りニッコリと微笑む柏木に続いて、スピノサが話しかける。
「王立図書館で働いていたのですね。良い場所だ。私は戦いより本が好きで……本は先人の『知』と『祈り』だから」
書を記すという意味を、書を遺していくという意味を。
本の中に、人の心は生き続けることも、きっと有り得る事だ。
そして、本の守り手として、この街で生きていく事は、孤独ではなく、大切な存在も、お爺さんと共に在ると。
「本は確かに良いの……」
スピノサの話を静かに聞いていた爺がある方角に向けて顔をあげた。
ここからは建物は見えないが、王立図書館の方に違いない。
「生意気を言って申し訳ない……だが世界は、人の旅路を見守ってくれる……私はそう思う」
そう信じなければ、残酷な世界のはずだ。
「そうよ、お爺さん。世界は愛おしいわ。喜びも悲しみも、自分が確かに愛したことを教えてくれる」
「ジーさんの人生だから好きにすればいいンだぜ……ただ、ヨメさんに言い訳する様な死に様はするんじゃねぇぜ」
スピノサの言葉に合わせるようにシエラとシガレットが言う。
「あなたの技術を、学ばせて欲しい」
成り行きを見守っていたオウカが、爺の持つアルケミストデバイスに視線を向けながら言った。
きっと名のあるハンターだったろう。機導師としての技術は自分を越えていると感じている。
「ワシから教える事なぞ、ないぞ」
ニヤリと笑ってハンター達を見渡す爺。
「それに、力とは、自分で掴み取っていくものじゃ」
ふと、爺は、昔を思い出した。
ハンターとして活躍していた頃を。全盛期はきっと、この6人を同時に相手しても負けなかっただろう。
「なら、俺達と一緒に、戦わないか」
オウカはそう提案した。
老体のハンターがいないわけじゃない。もう一度、ハンターとして戦うのもありかもしれない。
「ユニオンもどこもうるさいぐらい騒がしいが、皆いい奴ら、だ」
「だろうじゃの……それも、いいかもしれん」
ハンター達を見渡した爺は不器用な笑みをみせる。
「ジーさん、今度は話を聞かせてもらっていいかァ?」
シガレットが言っている事を爺は理解していた。
しばしの逡巡の後に、爺が口を開く。
「『嘆きの橋』と呼ばれる所で、緑髪の少女に出会った。少女は、ここに雑魔がいると教えてくれた」
明らかに言葉を選んでいるようであったが、ハンター達は深く訊ねはしなかった。
「出発前に受付嬢から話がでた奴か?」
「きっと、そうね。歪虚と共に行動をしているという、ノゾミという女の子らしいわ」
ボルディアの質問にシエラが答える。
港町でも、今回と同様の事件を引き起こしていたと思われている。
だが、生身の少女が雑魔を生み出せるわけではないので、裏に歪虚が関わっていると推測されていた。
「おヌシら、あの少女の事を知っているのか?」
「知っている……という程ではないが……そうか、無事で、よかった」
オウカが少女を見たのは、港町での一件でだ。
対峙した歪虚は、気絶した少女を助ける様に去ったのだが、その後行方不明だった。
無事なのは喜ばしい事なのかもしれないし、あの歪虚は少女に危害を加えないだろうという自分の直感が正しかったと思い出す。
「私は会った事ありませんが、きっと同一の人物とみていいのだろう」
スピノサの言葉に一行は頷く。
「そうじゃの、見た目は、そこのお嬢ちゃん位の少女じゃったかの」
爺が指差した先には、柏木がいた。
全員の視線が集まる。
「わ、私は、子供っぽく見えるだけです」
頬を少し膨らませて抗議する柏木の子供っぽい姿に、倉庫に笑い声が響いた。
倉庫に現れた雑魔を討伐し、ハンター達の依頼は達成された。
居合わせたお爺さんも無事で、お爺さんは家に帰っていったのであった。
おしまい。
●旅路の先の未来
長年住んでいた借家から半場、無理矢理に立ち退きを余儀なくとされ、爺は家を見つめていた。
その家は、早々に取り壊しが始まっている。これで、住む場所は無くなった。妻子との思い出も壊されていく。
「これが、現実じゃ……」
もし、先日のハンター達と出逢っていなかったら、絶望のあまり、嘆きの橋から身を投げていただろう。
もしくは、自暴自棄になって、なにか突拍子もない事をしていたのだろうか。
だが、今、不思議と心は冷静だった。自分の旅路に終焉を見出せたから。
爺は感じていた。これから、世の中の流れは、自分達の世代とは明らかに違う様相になると。
もしかして、彼らなら、イスルダ島を奪還できるかもしれない。辺境を歪虚の脅威から救う事ができるかもしれない。
そんな中、年老いて、死を待つだけの自分ができる事はただ一つ。
彼らの礎となる事だ。
「ワシは修羅の道を逝く。見事、ワシを止めてみせい!」
アルケミストデバイスを高く掲げると、緑髪の少女との待ち合わせ場所へ向けて歩き出す。
旅が終わり、一人の戦士が戦場へと帰ってきた瞬間だった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/03/11 20:43:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/07 21:38:44 |