ゲスト
(ka0000)
アイリス・レポート:追跡編
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/07 12:00
- 完成日
- 2015/03/12 12:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「アイリスって、どんな奴だったんだ?」
その質問をするとジエルデは決まって今にも泣きそうな目をする。
きっと本人は表情を繕えたつもりでいるのだろう。しかしハジャにはわかる。この女はふとした拍子に傷だらけの弱さを露呈する。
「またですか……それは職務上必要な事ですか? あなたの抹殺対象はキアラであってアイリスは関係ないでしょう?」
と、言う事になっていた。
ハジャは報告書にちょっとでは済まないレベルの虚偽を混ぜている。
その結果、ハジャはみすみす標的であるキアラを仕留め損なった無能、という評価になっていた。少なくともジエルデにとっては。
ナデルハイムの深淵、神霊樹の傍に広がる浅い泉が“器”の住処だ。ジエルデはその近くに居る事が多く、今日もそこで遠巻きに器を見ていた。
男は考えを巡らせ、幾つかの嘘と打算を混ぜて言葉を紡ぐ。
「キアラは里を出た後、アイリスと接触していたという情報がある」
女はぴくりと体を震わせ、また切なげに視線を泳がす。
「今後の仕事でアイリスと当たるかもわからんので、知りたい。育ての親であるあんたなら知ってるかと思ってな」
「……彼女については緘口令が敷かれています。図書館でも調べられなかったでしょう?」
「だな。んで、あんたは今アイリスがどこで何をしていると思う?」
無神経にずかずか踏み込むと、いつも女は怯えるように距離を取る。一歩後ずさる、それもわかっていた。
この女は自らの迂闊さを自覚していない。だからこそ見ていて面白いのだが。
「知る由もありません。討伐報告がないのなら、生きてはいるのでしょうが」
「それだけ?」
「どういう意味です?」
「今もこっそり連絡を取り合ったりしてるんじゃないか? なんたって姉妹なんだしさ」
まるでその言葉を遮るようだった。ぞくりと背筋に悪寒が走る。慌ててハジャが振り返ると、器の少女が真後ろで男を見上げていた。
表情はヴェールに隠れてわからない。ただ、執行者に気取られない程少女には“生気”がなかった。まるで幽鬼のように。
「これは姫様、ご機嫌麗しゅう」
恭しく頭を下げるハジャを無視し、器はジエルデに古びた本を手渡した。
古の時代のエルフの言葉で書かれたものだ。ジエルデのような長老格でも読める者は少なくなった。
「読んで欲しいのね?」
器の前にそっと腰を落とす横顔に、やはり迂闊な女だと思った。
本人はきっと無表情なつもりだろうけれど、その眼差しはどうしようもなく優しかった。
そう、まるで――失ってしまった家族を見るかのように。
「……で? なんでお前がここにいるのですか?」
帝国ユニオンAPVに行けばタングラムに会えるのは自明の理だ。なので、ハジャは普通にそこに足を運んだ。
「そんな邪険にするなよタングラム。この街は中立なんだから、俺がエルフハイム執行者でも問題ないだろ?」
「確かにありませんが、私が不在の間に勝手に茶ぁ飲んでんじゃねぇよ!」
「勝手に出してくれたんだよ。その辺のハンターが」
笑顔でカップを置き、ハジャは立ち上がる。暗殺者の外套さえなければその辺の冒険者に混じっても違和感はない。
「早速だけど、あんたはアイリス・エルフハイムじゃないんだよな?」
タングラムは驚いた後、どの方向にも首を振らずに冷や汗を流す。
「やっぱりか。何を隠してんだ、あんた?」
「お前には関係のない事なのです」
「あ~関係ないね~。その代わり俺がアイリスを追ってもあんたに止める権利はないんだぜ~?」
「今更昔の事を掘り返して、何が目的です?」
「言うと思うか?」
すっと目を細め笑うハジャ。それから直ぐに明るく両腕を広げ。
「今日はハンターに依頼をしに来たんだ。ちゃんとした普通の仕事だからな、きちんと取り次いでくれよ? ユニオンリーダー」
ぐぬぬと歯ぎしりしながら震えるタングラムを見て思う。
これが本当にエルフハイムを裏切った大罪人ならば、この女の人生に一体どれだけ劇的な変化があったのか。仕事抜きに興味はある。
だがもしもこの女がアイリス・エルフハイムではないとしたら……一体どれだけの嘘がその背後にあるのか。
「これも、個人的興味かねぇ?」
「何ブツブツ言っているのです」
「いんや、なんでも?」
「私は今忙しいのです。というかハンター達も今は辺境の闘いで忙しいのです。お前に貸し出す人手はないですよ」
「そう言うなって。執行者が任務に失敗したら普通は“始末”されるんだぜ? お前それ知ってて俺からキアラをかっさらいやがったろ」
「うぐっ」
「俺は失敗報告で長老共にしこたま絞られたのに、歪虚CAM戦ではお前らを助けに駆けつけてやったんだぞ?」
これ見よがしに肩を竦め恩知らずと言わんばかりに見つめる。
タングラムは腕を組み、唇を尖らせながら目を逸らした。
タングラムに客と言うので茶を出してやったのだが、あの様子では望まれない客だったのかもしれない。
そんな事を考えていたハンターに男は歩み寄り、馴れ馴れしい笑みを浮かべる。
「やあ。さっきはお茶ありがとう。話は変わるんだけど、ハンターに依頼したい仕事があってね」
男は帝国軍が発行している手配書を取り出した。そこには一人のエルフの似顔絵が書いてある。
「以前キアラというエルフと組んでいた男だ。こいつを俺の手で拿捕したい。今はキアラの居た盗賊団? を後釜として纏めているらしい」
二刀流の剣士。そのエルフの名はザザというらしい。
「え? 執行者はエルフを殺すんじゃないかって……やだなその話どこで聞いたの? まあいいや、今回は殺さないよ。なんたって俺の獲物じゃないからね」
手配書を丸めながら男はにっこり微笑む。
「依頼を受けてくれる人を探してるんだ。出来れば六人くらい。良かったら手を貸してくれないかな?」
ユニオンでもこの男の話は少し噂になったことがある。いかにも胡散臭い、ほのかに血の匂いが香る青年。
放っておけばそれはそれで面倒かも知れないし、少なくとも今は敵ではないという。
「あ、ついでにお茶のおかわりもらえるかな?」
図々しくそんな事を言う男にお茶のおかわりをあげても、お茶を頭からぶっかけてもいいだろう。
勿論、彼の依頼を断っても、彼の依頼を引き受けても――。
その質問をするとジエルデは決まって今にも泣きそうな目をする。
きっと本人は表情を繕えたつもりでいるのだろう。しかしハジャにはわかる。この女はふとした拍子に傷だらけの弱さを露呈する。
「またですか……それは職務上必要な事ですか? あなたの抹殺対象はキアラであってアイリスは関係ないでしょう?」
と、言う事になっていた。
ハジャは報告書にちょっとでは済まないレベルの虚偽を混ぜている。
その結果、ハジャはみすみす標的であるキアラを仕留め損なった無能、という評価になっていた。少なくともジエルデにとっては。
ナデルハイムの深淵、神霊樹の傍に広がる浅い泉が“器”の住処だ。ジエルデはその近くに居る事が多く、今日もそこで遠巻きに器を見ていた。
男は考えを巡らせ、幾つかの嘘と打算を混ぜて言葉を紡ぐ。
「キアラは里を出た後、アイリスと接触していたという情報がある」
女はぴくりと体を震わせ、また切なげに視線を泳がす。
「今後の仕事でアイリスと当たるかもわからんので、知りたい。育ての親であるあんたなら知ってるかと思ってな」
「……彼女については緘口令が敷かれています。図書館でも調べられなかったでしょう?」
「だな。んで、あんたは今アイリスがどこで何をしていると思う?」
無神経にずかずか踏み込むと、いつも女は怯えるように距離を取る。一歩後ずさる、それもわかっていた。
この女は自らの迂闊さを自覚していない。だからこそ見ていて面白いのだが。
「知る由もありません。討伐報告がないのなら、生きてはいるのでしょうが」
「それだけ?」
「どういう意味です?」
「今もこっそり連絡を取り合ったりしてるんじゃないか? なんたって姉妹なんだしさ」
まるでその言葉を遮るようだった。ぞくりと背筋に悪寒が走る。慌ててハジャが振り返ると、器の少女が真後ろで男を見上げていた。
表情はヴェールに隠れてわからない。ただ、執行者に気取られない程少女には“生気”がなかった。まるで幽鬼のように。
「これは姫様、ご機嫌麗しゅう」
恭しく頭を下げるハジャを無視し、器はジエルデに古びた本を手渡した。
古の時代のエルフの言葉で書かれたものだ。ジエルデのような長老格でも読める者は少なくなった。
「読んで欲しいのね?」
器の前にそっと腰を落とす横顔に、やはり迂闊な女だと思った。
本人はきっと無表情なつもりだろうけれど、その眼差しはどうしようもなく優しかった。
そう、まるで――失ってしまった家族を見るかのように。
「……で? なんでお前がここにいるのですか?」
帝国ユニオンAPVに行けばタングラムに会えるのは自明の理だ。なので、ハジャは普通にそこに足を運んだ。
「そんな邪険にするなよタングラム。この街は中立なんだから、俺がエルフハイム執行者でも問題ないだろ?」
「確かにありませんが、私が不在の間に勝手に茶ぁ飲んでんじゃねぇよ!」
「勝手に出してくれたんだよ。その辺のハンターが」
笑顔でカップを置き、ハジャは立ち上がる。暗殺者の外套さえなければその辺の冒険者に混じっても違和感はない。
「早速だけど、あんたはアイリス・エルフハイムじゃないんだよな?」
タングラムは驚いた後、どの方向にも首を振らずに冷や汗を流す。
「やっぱりか。何を隠してんだ、あんた?」
「お前には関係のない事なのです」
「あ~関係ないね~。その代わり俺がアイリスを追ってもあんたに止める権利はないんだぜ~?」
「今更昔の事を掘り返して、何が目的です?」
「言うと思うか?」
すっと目を細め笑うハジャ。それから直ぐに明るく両腕を広げ。
「今日はハンターに依頼をしに来たんだ。ちゃんとした普通の仕事だからな、きちんと取り次いでくれよ? ユニオンリーダー」
ぐぬぬと歯ぎしりしながら震えるタングラムを見て思う。
これが本当にエルフハイムを裏切った大罪人ならば、この女の人生に一体どれだけ劇的な変化があったのか。仕事抜きに興味はある。
だがもしもこの女がアイリス・エルフハイムではないとしたら……一体どれだけの嘘がその背後にあるのか。
「これも、個人的興味かねぇ?」
「何ブツブツ言っているのです」
「いんや、なんでも?」
「私は今忙しいのです。というかハンター達も今は辺境の闘いで忙しいのです。お前に貸し出す人手はないですよ」
「そう言うなって。執行者が任務に失敗したら普通は“始末”されるんだぜ? お前それ知ってて俺からキアラをかっさらいやがったろ」
「うぐっ」
「俺は失敗報告で長老共にしこたま絞られたのに、歪虚CAM戦ではお前らを助けに駆けつけてやったんだぞ?」
これ見よがしに肩を竦め恩知らずと言わんばかりに見つめる。
タングラムは腕を組み、唇を尖らせながら目を逸らした。
タングラムに客と言うので茶を出してやったのだが、あの様子では望まれない客だったのかもしれない。
そんな事を考えていたハンターに男は歩み寄り、馴れ馴れしい笑みを浮かべる。
「やあ。さっきはお茶ありがとう。話は変わるんだけど、ハンターに依頼したい仕事があってね」
男は帝国軍が発行している手配書を取り出した。そこには一人のエルフの似顔絵が書いてある。
「以前キアラというエルフと組んでいた男だ。こいつを俺の手で拿捕したい。今はキアラの居た盗賊団? を後釜として纏めているらしい」
二刀流の剣士。そのエルフの名はザザというらしい。
「え? 執行者はエルフを殺すんじゃないかって……やだなその話どこで聞いたの? まあいいや、今回は殺さないよ。なんたって俺の獲物じゃないからね」
手配書を丸めながら男はにっこり微笑む。
「依頼を受けてくれる人を探してるんだ。出来れば六人くらい。良かったら手を貸してくれないかな?」
ユニオンでもこの男の話は少し噂になったことがある。いかにも胡散臭い、ほのかに血の匂いが香る青年。
放っておけばそれはそれで面倒かも知れないし、少なくとも今は敵ではないという。
「あ、ついでにお茶のおかわりもらえるかな?」
図々しくそんな事を言う男にお茶のおかわりをあげても、お茶を頭からぶっかけてもいいだろう。
勿論、彼の依頼を断っても、彼の依頼を引き受けても――。
リプレイ本文
「お! 皆久しぶりぶろっ!?」
エアルドフリス(ka1856)の拳がハジャの顔面にめり込み、APVのテーブルの上に倒れこむ。
「これで御相子だ。さ、全面的に協力させて頂こう」
「待て待て待て! 出会い頭に何してんだ!?」
「助けられた事は覚えているが、その前に二発殴られた事も忘れちゃあいない。その借りを返しただけの事」
胸ぐらを掴まれながらも飄々と答えるエアルドフリス。リサ=メテオール(ka3520)は額に手を当て。
「ハジャ……手当たり次第に恨み作ってくるの、もう少し考えたら?」
「違うんだよリサちゃん……ていうかお前、助けて貰った分の借りはどうすんだよ!?」
「……それはこれから返す」
そんなやり取りに苦笑を浮かべるジェールトヴァ(ka3098)。ヒヨス・アマミヤ(ka1403)は慌て。
「あのあのっ、けんかは良くないんだよっ」
「ユニオン内での暴力沙汰はご法度だぁ。ハジャは依頼人でもある。それ以上やるならボクも黙って居られないぞぉ」
トレイに人数分のお茶を乗せたヒース・R・ウォーカー(ka0145)の言葉にソフィア =リリィホルム(ka2383)は頷き。
「ハジャさんは依頼人なんですから」
「む……。すまん、お嬢さん方を怖がらせるつもりはなかった。反省している」
「暴力は良くないね。ただ、きっとあれが彼らなりの親しみの形なんだろう。どれ、傷を見せてみなさい」
ジェールドヴァは鼻血を流したハジャを手当する。
「執行者ハジャ、ねぇ。話には聞いていたけど癖のあるやるみたいだねぇ」
「げっ、あいつ執行者かよ……庇って損したぜ」
「ヒースさん、執行者って?」
舌打ちするソフィア。上目遣いに尋ねるヒヨスにヒースはお茶を出しながら答える。
「ゴメンねハジャ。宿題は全然進んでないや」
一方、リサは背後で手を組みながらハジャと向き合う。男は少し驚いたように。
「意外だな。君も俺を殴る権利くらいはあると思うけど」
「言っとくけど、ハジャの事全面的に信用してる訳じゃないかんね? でも、乗りかかった船だから」
頬を掻き笑うハジャ。こうして小さな騒動を経て、依頼は開始された。
「結界林?」
ザザ達エルフの盗賊が潜む森。そこにはエルフハイム由来の感知術が仕掛けられていると予想された。
「ハジャと以前仕事をした時に教えてもらったんだけどね」
草木を掻き分けながら進むハンター達。ヒヨスの問いに答えながらリサは進む。
「二点に設置した楔という道具を結ぶ線。その感知範囲に触れたマテリアルを察知するらしいけど」
「今回はさほど心配は要らないと言う話だったな」
警戒しつつ進むエアルドフリスだったが、ハジャの話し通り結界林らしき物は見当たらなかった。
結界林はエルフハイムの中でも警備隊、或いは巫女に該当する者のみが扱える特殊な術だ。
キアラは結界林も使える立場にあったが、残されたエルフはそうではない可能性が高い。ザザが術を教わっていたとしても、適正というものがある。
「どちらにせよ通常の罠は警戒が必要ですから、二人の後に続いた方が良さそうですね」
ソフィアの視線の先、先行するヒースとハジャの姿があった。
二人は斥候役として先行。設置されている罠を除去しながら進んでいた。
「見事な手際だねぇ」
「エルフってのはどうしてこう臆病かね……ま、結界林を失い、ついでに盗賊団自体ハンターに半壊させられてるんだから当然か」
トラバサミや撒菱のような原始的な罠、結界林を真似た鳴子、色々あったが除去は難しくない。
気付かれなければ迎撃もない。アジトの周りには弓を持った見張りが三人いるが、ヒースとハジャは見つからないようにアジトの裏へ回りこむ。
合図を受け、エアルドフリスがスリープクラウドを発動。突然の煙に驚く見張りだが、騒ぐ前に眠りについてしまう。
「よかった、眠ってくれて。傷つけずに済むなら、それが一番いいもんね」
「あいつらは縛っておきますから、ルディ先生達は中をお願いします」
ほっと胸を撫で下ろすヒヨス。ソフィアはロープを取り出し、手伝いに挙手したヒヨスと共に高台へ向かう。
「……よし、では行こう」
エアルドフリスの言葉に頷くリサ。ジェールトヴァは杖を掲げ、黒い光を収束させるとコテージの壁に発射する。
「ぐわっ!? な、なんだ!?」
薄い壁を貫通して内部から悲鳴が聞こえた。
「うん? ああ。挟撃だから、陽動気味に動いた方がいいからね。穴も開けたし、スリープクラウドでいいんじゃないかな?」
冷や汗を流しながらエアルドフリスが再びスリープクラウドを発動すると、部屋の中からドタバタ音が聞こえ、間もなく静かになった。
一方ヒースは表の騒動を合図に裏口から侵入。表に出て行く盗賊達を背後から指揮するザザを発見する。
「やっぱりあいつかぁ」
立ちふさがるエルフを切り払い、咄嗟に抜刀したザザに刃をぶつけるヒース。
「キアラの盗賊団にいたと聞いたんでねぇ。前に出くわした時の借り、お前に返させてもらうよぉ」
「また貴様らか……!」
「何? 知り合い?」
「ちょっとねぇ!」
剣を抜いたザザと廊下でやりあうヒース。背中合わせに立つハジャは集まる盗賊を殴り倒している。
ザザの指示で表に出た盗賊達。短剣で武装した者達はリサへ斬りかかるが、ジェールトヴァの援護もあり、返り討ちになる。
「幾ら訓練してても、非覚醒者じゃ勝ち目はないよ」
弓を構える敵兵。それを目にしたエアルドフリスは掌に渦巻く風を浮かべ、投げ槍のように投擲する。
「撃たせん!」
風の刃が放たれた矢ごと盗賊を吹き飛ばす。更に高台から飛び降りてきたソフィアが刀で弓を切断。
「生け捕りって面倒臭いっ!」
「そっか、武器を壊しちゃえば殺さなくて済むよねっ」
ステッキを振るい、光の矢を放つヒヨス。上から飛んできた魔法が弓を破壊。ソフィアは続け魔導銃を向け。
「抵抗するとビリビリしちゃいますよ?」
雷を放ち、武器を失った盗賊を弾き飛ばす。エアルドフリスが剣を突きつけ、リサは腕を捻り上げ銃を突きつけ敵を拘束する。
「これで打ち止めかね?」
「ふう。ちゃちゃっと縛っちゃおう」
バタバタと廊下に倒れるエルフ兵。ハジャは両手を叩き、ヒースに声をかける。
「大体終わったが、手ぇ貸そうか?」
ヒースとザザは互角の戦いを繰り広げている。周囲の戦いが決着したのを察知し逃亡を図るザザだが、ヒースがそれを許さない。
廊下の壁を蹴って舞い上がったザザを同じくヒースが空中で受ける。刃を交えたまま二人は着地し、顔を突きつける。
「それはこの間見たからねぇ」
右手でヒースと鍔迫り合いしたまま腰から提げたもう一振りの剣を抜き、突きを放つ。それに対しヒースは刃を素手で掴んで受け止めると、ザザの顎を蹴りあげた。
更に怯んだ間に右手の刀でザザの剣を弾き、左手の袖から取り出したワイヤーをザザの腕に巻きつける。
「手札は隠しておくものだからねぇ。さぁ、お前の手札はまだあるかい?」
刃がザザの腕に食い込み血飛沫を上げる。更にまだ自由な手を刀で壁に串刺しにするとザザの動きは停止した。
「ヒースさん、大丈夫!?」
「勝利の為なら血を流す。至極当たり前の事さぁ」
「そういう問題じゃないよ~!」
負傷したヒースを心配するヒヨス。捕縛された盗賊達は逃亡を避ける意味でも室内に押し込められていた。
「ご覧の通り逃げ場はない。あんた達は帝国に引き渡すが、命まで取ろうってわけじゃない。観念するんだな」
「ならば早くそうすればいい」
「そういうわけにも行かないんですよ」
エアルドフリスに続き肩を竦めるソフィア。代わりに前に出たのはハジャだ。
「キアラと一緒に居たなら聞いてないか? エルフハイムの大罪人、アイリスの事が知りたい」
「話すと思うか?」
睨み返すザザにヒヨスは歩み寄り、腰を落とす。
「あのね、ヒヨたちは情報が欲しいだけなの。自分を捕まえたヒヨたちの事、嫌いになるのは当然だよね。それでも、教えて欲しいの」
「部外者がそれを知ってどうする? 貴様のような子供が」
ヒヨスを見るザザの目はどこか悲しげだ。リサは腕を組み、ザザの前に片膝を着く。
「や、また会ったね。相変わらず人間嫌いみたいだけど……この子の事はそうでもない?」
「関係がないからな」
「それは、キアラやあなたに関係がないって事?」
黙りこむザザ。ジェールトヴァは小さく息をつき。
「ザザさんが教えてくれなければ、ハジャさんはキアラさんに話を聞きに行くだろう。ザザさんはハジャさんの執行対象ではないようだけれど、キアラさんは違う。穏便に事を済ませたいなら、ここで話すべきじゃないかな?」
問いかけるようにハジャに目を向けると、まさにその通りだと言わんばかりに頷く。
「ここで進まないと次の依頼はアネリブーベ潜入になるな」
「気軽に犯罪の片棒担がせようとしないでくれる?」
ジト目を向けるリサ。ザザは暫し思案し。
「キアラとアイリスは最早無関係だ。二人の縁は革命戦争直前に切れている」
そしてザザはゆっくりと語り出した。
「……革命戦争前、帝国領における人間と亜人の関係性は最悪だった。お前達は知らんだろうが、人間はエルフを弾圧し、支配しようとしていた」
嘗て帝国領には大小様々なエルフの里があった。しかし人間は様々な理由からエルフの里を襲い、里は滅んで行った。
「技術、資源、そしてエルフは美しく長寿だ。人間は私利私欲の支配を敷き、帝国軍は見て見ぬふりをした」
権力者と癒着した軍はその犯罪行為を黙認。結果、国外からは、そして無関心な者の目には見えない戦争が続いた。
「アイリスはそんな中、エルフを救う為に人間と戦った一団の長だったと聞いている。キアラと出会ったのもその組織の中だったと」
その強さとカリスマで組織を率いたアイリスは、しかしついに帝国の将に討ち取られる。
「名をヒルデブラント・ウランゲル。後の帝国皇帝となる男だった」
ヒルデブラント率いる部隊により組織は壊滅。キアラはその時アイリスと離れ離れになり、その後互いの消息を知る事はなかった。
「これが俺の知る全てだ。俺はエルフハイムの生まれでもない。悪いが期待には応えられん」
「エルフが迫害されていた……?」
眉を潜め考えこむソフィア。自分もまた迫害される側の人間だったが、人間の中に居た彼女はその話に覚えがなかった。
「じゃあ、ザザさんが人間を憎んでいるのは……?」
「俺の里は人間によって闇に葬られた。人間はそれを子孫に伝えず、歴史の闇に葬った。今は昔より随分マシになった。だがそれでも……」
ザザは顔を上げ、悲しげにヒヨスを見つめる。
「知るという事はそういう事だ。知らなければ憎む事も、奪い合う事もない。貴様らがそうであるようにな。だが知ればそうはいかない。俺の仲間がそうであるように」
思わず後ずさるヒヨス。ヒースはそれを受け止め、肩をそっと叩く。
「それでも知らなきゃいけないんだぁ。罪から目を逸らさない為にねぇ」
「はあ……何だかまたわけわかんなくなってきた」
帝国軍への引き渡しは滞り無く終了した。最寄りの町で護送される盗賊団を見送りソフィアは溜息を零す。
「あんたは知ってたのか? さっきの話」
「いや。初耳だ」
ハジャは険しい表情で答える。
「わたしもエルフハイム出身だよ。五十年位前に追い出されて同盟の方に居たが……あんな話は聞かなかった」
「二人が知らないってのは、どういう事なのかね?」
首を傾げるエアルドフリス。だが二人共その答えは持ち合わせていない。
「長老会が隠してたのかもな」
「どうやら私達が想像する以上に、エルフハイムは嘘を重ねているようだね」
ジェールトヴァは確信する。ハジャが何故ハンターに協力を求めたのか。
エルフハイムの中に居ては見えない物が余りにも多すぎる。そしてきっと“過去”を隠したいという、多くの意図が彼の活動を阻んでいる。
タングラムとて例外ではない。だからこそ、第三者であるハンターでなければ彼女から話を聞く事は出来ないだろう。
「あんたも気苦労が多いようだな、ハジャ。そういえば俺も気になっている事がある。剣妃オルクスの事だ」
オルクスは結界に詳しく、楔に似た杖を持っていた。そして器を知っているような口ぶりだった。
「俺も気になって調べたが、何もわからなかった」
「……何も?」
「ああ。何も。誰の目から見てもあいつがエルフハイムと関係があるのは明らかなのにな」
強く拳を握り締めるハジャ。その姿に少しだけ、彼が手段を選ばず何かを知ろうとする意思の根源を見る。
「今更あそこがどうなろうが心底どうでもいいが……あんたと彼女にとっては他人事じゃないからな」
「ああ。書庫姫とリンクしたんだったな」
「何で知ってんだ?」
「本人に聞いたからな、そりゃ」
首を傾げるソフィア。リサは頷き。
「結局さ、ハジャもどうして自分がアイリスを追ってるのか、良く分かってないんだね」
「アイリスは長老会が消そうとして消せなかった過去だ。そして何か理由があって里を滅ぼそうとした。執行者だったそいつが何故事件を起こしたのかわかれば、解決の緒が見えるかと思ってさ」
苦笑を浮かべ空を仰ぐハジャ。
「やっぱりもう一度キアラに当ってみようよ」
「あいつも多分何か知ってるからこそ、他の連中と同じで黙ってんだよなあ」
「今なら心変わりしてるかもしれないしさ」
ハジャの背中を叩くリサ。ソフィアも頷き。
「また仕事があればヨロシク。爺共に一泡吹かせるってんならこっちも楽しいしね」
「オルクスについても内密に調べてみる。ま、期待はしない方がいいと思うが」
エアルドフリスと話し込むハジャ。ヒヨスはそんな輪から少し離れた道端に腰を下ろしていた。
町の出入口から盗賊達を乗せた馬車はもう見えなくなった。ヒースはその隣で風に髪を揺らす。
「ザザさんたちは、何も知らなければ盗賊になる事もなかったのかな?」
悲しげな目が訴えかけていた。憎みたくて憎んでいるわけでも、殺したくて殺しているわけでもないと。
「かもねぇ。だけど不都合な過去や事実を隠す事が違う不幸を生む事もある。ザザも本当は知って欲しかったんじゃないかぁ?」
「そうだよね。知ってもらう事で、救われる事もあるよね」
頭を撫でられヒヨスは立ち上がる。
「だからボク達は、それが良い事でも悪い事でも背負って生きるしかないのさぁ」
「うんっ! ヒヨ、これからも頑張って色んな人と会って、色んな事、見つけていくからっ」
強い風がヒヨスの黒髪を揺らす。
「良い事も悪い事も……忘れないよ、ザザさん」
踵を返し二人は仲間の元へ歩き出した。
沢山の嘘に隠された過去と真実。その綻びを掴む為に……。
エアルドフリス(ka1856)の拳がハジャの顔面にめり込み、APVのテーブルの上に倒れこむ。
「これで御相子だ。さ、全面的に協力させて頂こう」
「待て待て待て! 出会い頭に何してんだ!?」
「助けられた事は覚えているが、その前に二発殴られた事も忘れちゃあいない。その借りを返しただけの事」
胸ぐらを掴まれながらも飄々と答えるエアルドフリス。リサ=メテオール(ka3520)は額に手を当て。
「ハジャ……手当たり次第に恨み作ってくるの、もう少し考えたら?」
「違うんだよリサちゃん……ていうかお前、助けて貰った分の借りはどうすんだよ!?」
「……それはこれから返す」
そんなやり取りに苦笑を浮かべるジェールトヴァ(ka3098)。ヒヨス・アマミヤ(ka1403)は慌て。
「あのあのっ、けんかは良くないんだよっ」
「ユニオン内での暴力沙汰はご法度だぁ。ハジャは依頼人でもある。それ以上やるならボクも黙って居られないぞぉ」
トレイに人数分のお茶を乗せたヒース・R・ウォーカー(ka0145)の言葉にソフィア =リリィホルム(ka2383)は頷き。
「ハジャさんは依頼人なんですから」
「む……。すまん、お嬢さん方を怖がらせるつもりはなかった。反省している」
「暴力は良くないね。ただ、きっとあれが彼らなりの親しみの形なんだろう。どれ、傷を見せてみなさい」
ジェールドヴァは鼻血を流したハジャを手当する。
「執行者ハジャ、ねぇ。話には聞いていたけど癖のあるやるみたいだねぇ」
「げっ、あいつ執行者かよ……庇って損したぜ」
「ヒースさん、執行者って?」
舌打ちするソフィア。上目遣いに尋ねるヒヨスにヒースはお茶を出しながら答える。
「ゴメンねハジャ。宿題は全然進んでないや」
一方、リサは背後で手を組みながらハジャと向き合う。男は少し驚いたように。
「意外だな。君も俺を殴る権利くらいはあると思うけど」
「言っとくけど、ハジャの事全面的に信用してる訳じゃないかんね? でも、乗りかかった船だから」
頬を掻き笑うハジャ。こうして小さな騒動を経て、依頼は開始された。
「結界林?」
ザザ達エルフの盗賊が潜む森。そこにはエルフハイム由来の感知術が仕掛けられていると予想された。
「ハジャと以前仕事をした時に教えてもらったんだけどね」
草木を掻き分けながら進むハンター達。ヒヨスの問いに答えながらリサは進む。
「二点に設置した楔という道具を結ぶ線。その感知範囲に触れたマテリアルを察知するらしいけど」
「今回はさほど心配は要らないと言う話だったな」
警戒しつつ進むエアルドフリスだったが、ハジャの話し通り結界林らしき物は見当たらなかった。
結界林はエルフハイムの中でも警備隊、或いは巫女に該当する者のみが扱える特殊な術だ。
キアラは結界林も使える立場にあったが、残されたエルフはそうではない可能性が高い。ザザが術を教わっていたとしても、適正というものがある。
「どちらにせよ通常の罠は警戒が必要ですから、二人の後に続いた方が良さそうですね」
ソフィアの視線の先、先行するヒースとハジャの姿があった。
二人は斥候役として先行。設置されている罠を除去しながら進んでいた。
「見事な手際だねぇ」
「エルフってのはどうしてこう臆病かね……ま、結界林を失い、ついでに盗賊団自体ハンターに半壊させられてるんだから当然か」
トラバサミや撒菱のような原始的な罠、結界林を真似た鳴子、色々あったが除去は難しくない。
気付かれなければ迎撃もない。アジトの周りには弓を持った見張りが三人いるが、ヒースとハジャは見つからないようにアジトの裏へ回りこむ。
合図を受け、エアルドフリスがスリープクラウドを発動。突然の煙に驚く見張りだが、騒ぐ前に眠りについてしまう。
「よかった、眠ってくれて。傷つけずに済むなら、それが一番いいもんね」
「あいつらは縛っておきますから、ルディ先生達は中をお願いします」
ほっと胸を撫で下ろすヒヨス。ソフィアはロープを取り出し、手伝いに挙手したヒヨスと共に高台へ向かう。
「……よし、では行こう」
エアルドフリスの言葉に頷くリサ。ジェールトヴァは杖を掲げ、黒い光を収束させるとコテージの壁に発射する。
「ぐわっ!? な、なんだ!?」
薄い壁を貫通して内部から悲鳴が聞こえた。
「うん? ああ。挟撃だから、陽動気味に動いた方がいいからね。穴も開けたし、スリープクラウドでいいんじゃないかな?」
冷や汗を流しながらエアルドフリスが再びスリープクラウドを発動すると、部屋の中からドタバタ音が聞こえ、間もなく静かになった。
一方ヒースは表の騒動を合図に裏口から侵入。表に出て行く盗賊達を背後から指揮するザザを発見する。
「やっぱりあいつかぁ」
立ちふさがるエルフを切り払い、咄嗟に抜刀したザザに刃をぶつけるヒース。
「キアラの盗賊団にいたと聞いたんでねぇ。前に出くわした時の借り、お前に返させてもらうよぉ」
「また貴様らか……!」
「何? 知り合い?」
「ちょっとねぇ!」
剣を抜いたザザと廊下でやりあうヒース。背中合わせに立つハジャは集まる盗賊を殴り倒している。
ザザの指示で表に出た盗賊達。短剣で武装した者達はリサへ斬りかかるが、ジェールトヴァの援護もあり、返り討ちになる。
「幾ら訓練してても、非覚醒者じゃ勝ち目はないよ」
弓を構える敵兵。それを目にしたエアルドフリスは掌に渦巻く風を浮かべ、投げ槍のように投擲する。
「撃たせん!」
風の刃が放たれた矢ごと盗賊を吹き飛ばす。更に高台から飛び降りてきたソフィアが刀で弓を切断。
「生け捕りって面倒臭いっ!」
「そっか、武器を壊しちゃえば殺さなくて済むよねっ」
ステッキを振るい、光の矢を放つヒヨス。上から飛んできた魔法が弓を破壊。ソフィアは続け魔導銃を向け。
「抵抗するとビリビリしちゃいますよ?」
雷を放ち、武器を失った盗賊を弾き飛ばす。エアルドフリスが剣を突きつけ、リサは腕を捻り上げ銃を突きつけ敵を拘束する。
「これで打ち止めかね?」
「ふう。ちゃちゃっと縛っちゃおう」
バタバタと廊下に倒れるエルフ兵。ハジャは両手を叩き、ヒースに声をかける。
「大体終わったが、手ぇ貸そうか?」
ヒースとザザは互角の戦いを繰り広げている。周囲の戦いが決着したのを察知し逃亡を図るザザだが、ヒースがそれを許さない。
廊下の壁を蹴って舞い上がったザザを同じくヒースが空中で受ける。刃を交えたまま二人は着地し、顔を突きつける。
「それはこの間見たからねぇ」
右手でヒースと鍔迫り合いしたまま腰から提げたもう一振りの剣を抜き、突きを放つ。それに対しヒースは刃を素手で掴んで受け止めると、ザザの顎を蹴りあげた。
更に怯んだ間に右手の刀でザザの剣を弾き、左手の袖から取り出したワイヤーをザザの腕に巻きつける。
「手札は隠しておくものだからねぇ。さぁ、お前の手札はまだあるかい?」
刃がザザの腕に食い込み血飛沫を上げる。更にまだ自由な手を刀で壁に串刺しにするとザザの動きは停止した。
「ヒースさん、大丈夫!?」
「勝利の為なら血を流す。至極当たり前の事さぁ」
「そういう問題じゃないよ~!」
負傷したヒースを心配するヒヨス。捕縛された盗賊達は逃亡を避ける意味でも室内に押し込められていた。
「ご覧の通り逃げ場はない。あんた達は帝国に引き渡すが、命まで取ろうってわけじゃない。観念するんだな」
「ならば早くそうすればいい」
「そういうわけにも行かないんですよ」
エアルドフリスに続き肩を竦めるソフィア。代わりに前に出たのはハジャだ。
「キアラと一緒に居たなら聞いてないか? エルフハイムの大罪人、アイリスの事が知りたい」
「話すと思うか?」
睨み返すザザにヒヨスは歩み寄り、腰を落とす。
「あのね、ヒヨたちは情報が欲しいだけなの。自分を捕まえたヒヨたちの事、嫌いになるのは当然だよね。それでも、教えて欲しいの」
「部外者がそれを知ってどうする? 貴様のような子供が」
ヒヨスを見るザザの目はどこか悲しげだ。リサは腕を組み、ザザの前に片膝を着く。
「や、また会ったね。相変わらず人間嫌いみたいだけど……この子の事はそうでもない?」
「関係がないからな」
「それは、キアラやあなたに関係がないって事?」
黙りこむザザ。ジェールトヴァは小さく息をつき。
「ザザさんが教えてくれなければ、ハジャさんはキアラさんに話を聞きに行くだろう。ザザさんはハジャさんの執行対象ではないようだけれど、キアラさんは違う。穏便に事を済ませたいなら、ここで話すべきじゃないかな?」
問いかけるようにハジャに目を向けると、まさにその通りだと言わんばかりに頷く。
「ここで進まないと次の依頼はアネリブーベ潜入になるな」
「気軽に犯罪の片棒担がせようとしないでくれる?」
ジト目を向けるリサ。ザザは暫し思案し。
「キアラとアイリスは最早無関係だ。二人の縁は革命戦争直前に切れている」
そしてザザはゆっくりと語り出した。
「……革命戦争前、帝国領における人間と亜人の関係性は最悪だった。お前達は知らんだろうが、人間はエルフを弾圧し、支配しようとしていた」
嘗て帝国領には大小様々なエルフの里があった。しかし人間は様々な理由からエルフの里を襲い、里は滅んで行った。
「技術、資源、そしてエルフは美しく長寿だ。人間は私利私欲の支配を敷き、帝国軍は見て見ぬふりをした」
権力者と癒着した軍はその犯罪行為を黙認。結果、国外からは、そして無関心な者の目には見えない戦争が続いた。
「アイリスはそんな中、エルフを救う為に人間と戦った一団の長だったと聞いている。キアラと出会ったのもその組織の中だったと」
その強さとカリスマで組織を率いたアイリスは、しかしついに帝国の将に討ち取られる。
「名をヒルデブラント・ウランゲル。後の帝国皇帝となる男だった」
ヒルデブラント率いる部隊により組織は壊滅。キアラはその時アイリスと離れ離れになり、その後互いの消息を知る事はなかった。
「これが俺の知る全てだ。俺はエルフハイムの生まれでもない。悪いが期待には応えられん」
「エルフが迫害されていた……?」
眉を潜め考えこむソフィア。自分もまた迫害される側の人間だったが、人間の中に居た彼女はその話に覚えがなかった。
「じゃあ、ザザさんが人間を憎んでいるのは……?」
「俺の里は人間によって闇に葬られた。人間はそれを子孫に伝えず、歴史の闇に葬った。今は昔より随分マシになった。だがそれでも……」
ザザは顔を上げ、悲しげにヒヨスを見つめる。
「知るという事はそういう事だ。知らなければ憎む事も、奪い合う事もない。貴様らがそうであるようにな。だが知ればそうはいかない。俺の仲間がそうであるように」
思わず後ずさるヒヨス。ヒースはそれを受け止め、肩をそっと叩く。
「それでも知らなきゃいけないんだぁ。罪から目を逸らさない為にねぇ」
「はあ……何だかまたわけわかんなくなってきた」
帝国軍への引き渡しは滞り無く終了した。最寄りの町で護送される盗賊団を見送りソフィアは溜息を零す。
「あんたは知ってたのか? さっきの話」
「いや。初耳だ」
ハジャは険しい表情で答える。
「わたしもエルフハイム出身だよ。五十年位前に追い出されて同盟の方に居たが……あんな話は聞かなかった」
「二人が知らないってのは、どういう事なのかね?」
首を傾げるエアルドフリス。だが二人共その答えは持ち合わせていない。
「長老会が隠してたのかもな」
「どうやら私達が想像する以上に、エルフハイムは嘘を重ねているようだね」
ジェールトヴァは確信する。ハジャが何故ハンターに協力を求めたのか。
エルフハイムの中に居ては見えない物が余りにも多すぎる。そしてきっと“過去”を隠したいという、多くの意図が彼の活動を阻んでいる。
タングラムとて例外ではない。だからこそ、第三者であるハンターでなければ彼女から話を聞く事は出来ないだろう。
「あんたも気苦労が多いようだな、ハジャ。そういえば俺も気になっている事がある。剣妃オルクスの事だ」
オルクスは結界に詳しく、楔に似た杖を持っていた。そして器を知っているような口ぶりだった。
「俺も気になって調べたが、何もわからなかった」
「……何も?」
「ああ。何も。誰の目から見てもあいつがエルフハイムと関係があるのは明らかなのにな」
強く拳を握り締めるハジャ。その姿に少しだけ、彼が手段を選ばず何かを知ろうとする意思の根源を見る。
「今更あそこがどうなろうが心底どうでもいいが……あんたと彼女にとっては他人事じゃないからな」
「ああ。書庫姫とリンクしたんだったな」
「何で知ってんだ?」
「本人に聞いたからな、そりゃ」
首を傾げるソフィア。リサは頷き。
「結局さ、ハジャもどうして自分がアイリスを追ってるのか、良く分かってないんだね」
「アイリスは長老会が消そうとして消せなかった過去だ。そして何か理由があって里を滅ぼそうとした。執行者だったそいつが何故事件を起こしたのかわかれば、解決の緒が見えるかと思ってさ」
苦笑を浮かべ空を仰ぐハジャ。
「やっぱりもう一度キアラに当ってみようよ」
「あいつも多分何か知ってるからこそ、他の連中と同じで黙ってんだよなあ」
「今なら心変わりしてるかもしれないしさ」
ハジャの背中を叩くリサ。ソフィアも頷き。
「また仕事があればヨロシク。爺共に一泡吹かせるってんならこっちも楽しいしね」
「オルクスについても内密に調べてみる。ま、期待はしない方がいいと思うが」
エアルドフリスと話し込むハジャ。ヒヨスはそんな輪から少し離れた道端に腰を下ろしていた。
町の出入口から盗賊達を乗せた馬車はもう見えなくなった。ヒースはその隣で風に髪を揺らす。
「ザザさんたちは、何も知らなければ盗賊になる事もなかったのかな?」
悲しげな目が訴えかけていた。憎みたくて憎んでいるわけでも、殺したくて殺しているわけでもないと。
「かもねぇ。だけど不都合な過去や事実を隠す事が違う不幸を生む事もある。ザザも本当は知って欲しかったんじゃないかぁ?」
「そうだよね。知ってもらう事で、救われる事もあるよね」
頭を撫でられヒヨスは立ち上がる。
「だからボク達は、それが良い事でも悪い事でも背負って生きるしかないのさぁ」
「うんっ! ヒヨ、これからも頑張って色んな人と会って、色んな事、見つけていくからっ」
強い風がヒヨスの黒髪を揺らす。
「良い事も悪い事も……忘れないよ、ザザさん」
踵を返し二人は仲間の元へ歩き出した。
沢山の嘘に隠された過去と真実。その綻びを掴む為に……。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/02 11:09:24 |
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作戦相談所 ヒース・R・ウォーカー(ka0145) 人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/03/07 04:24:15 |