ゲスト
(ka0000)
【不動】ちょっとカッコいいとこ見せてくれ
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/08 19:00
- 完成日
- 2015/03/17 15:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●フマーレの一画にて
狭い通りは、様々な物音に満ちていた。
蒸気の噴き出す音、機械の軋む音、そして怒鳴い合いのような話し声。
同盟軍中尉メリンダ・ドナーティ(kz0041)はそれらの物音に注意を払いつつ、同時に地番を示す看板を目で追っていた。
彼女の後には年老いた男がついて来る。老いて杖をついているが、彼の気配には弱さは微塵も感じられない。
寧ろその眼光は鋭くも好奇心に輝き、全身から漲る生気はそこらの若者にも引けを取らないほどだ。
「中尉」
「はい、何でしょう」
呼びかけられ、メリンダは素早く振り向いた。
「最近は広報官まで武装しておるのか。勇ましい事よのう!」
「……恐れ入ります、名誉大将」
カラカラと笑うイザイア・バッシ名誉大将に、メリンダは完璧に整えられた事務用スマイルで応えた。そして内心で呟く。
(貴方が随員の2~3人も連れて来てくれないからでしょう……!!)
今日のメリンダはいつものスカートではなく、パンツスタイルだ。そして上着の下には拳銃を吊っている。イザイアには上着に寄る皺でそれが分かったのだろう。
「ああ、ここですわ。工房グランディ」
呼び鈴を引くこと数度。ドアから覗いた壮年の男は、不審感を隠そうともせず、メリンダとその後ろの老人を眺めまわす。
「なんだ、あんたらは」
メリンダは笑みを浮かべつつ、用向きを切り出した。
●事の発端
その少し前の事。
メリンダはオフィスで上司に呼び出されていた。
「中尉、今からフマーレに飛んでほしい」
「フマーレですか?」
メリンダは業務上、転移装置の利用を許可されているので、移動自体に問題は無い。
問題は用向きだ。
「そちらでイザイア・バッシ名誉大将がお待ちなので、例のCAMのガレージの責任者……えっと誰だったか……そうそう、ミケーレ・カルヴィーニだ! そちらへご案内してもらいたいんだ」
「はい?」
雲の上の御仁の名前に、メリンダが首を傾げる。確か現在、モデスト・サンテ少将の代役としてポルトワールに居るのではなかったか。
「良く分からんのだが、まさかおひとりで行かせるわけにもいかん。なるべく急いでくれ」
そう言われて、はるばるフマーレ。
「おおすまんな。では行こうか」
流石に緊張の面持ちで敬礼するメリンダを、老人はやたらフランクに促した。
名誉大将がCAM導入に積極的であることは周知の事実だ。また先日来の歪虚との戦いに於いて、機動兵器は既に軍にとっては欠かすことのできない存在となっていた。
フマーレの軍需産業を扱う地域にあった大きな空き倉庫は、同盟内でCAMの整備や装備開発を担うために整備されつつある。その責任者に据えられたのが、フマーレ労働組合の長であるフランコ・カルヴィーニの息子、ミケーレだった。
「こりゃどうも、遠いところをわざわざ……まだ何にもないような状態ですがね」
互いの自己紹介が済むと、ミケーレは大小様々な機械が並んだガレージ内を案内する。
老人は暫くあちらこちらを見ていたが、すぐに我慢しきれず本題に切り込んだ。
「実はCAM用の武装について相談したい事があるのじゃが」
「なんでしょう?」
「人が使うような……例えば格闘戦用の武装を、CAM用に作れんかね?」
目的はそれか。
熱心に刀だの棍だのの説明を始めるイザイアに、メリンダはようやく得心した。
自身も一度操縦した事があるが、現在CAMの武装は飛び道具がメインだ。恐らくは名誉大将の肝入りの特機隊から要望があったのだろう。
まともに軍の中で要望を回していては、いつ実装されるかも分からない。そこでこの古狐は、直接行動に出たという訳だ。
「正直言って、無理っすね」
だが、ミケーレはあっさりそう言った。
「装甲の強化やなんかは、俺達の技術で何とかして見せますがね。そもそも人間用だって刀を打てるような技術は……」
そこでふとミケーレは言葉を切った。
「ああいや……あのおっさんなら……」
「できる御仁がおるか」
イザイアは身を乗り出す。
「う~ん……できる、かもしれねえけど……やるかどうかは……」
ミケーレは頭を掻きつつ、ぽつぽつとその男のことを語る。
●偏屈な匠
その男こそがグランディだった。
彼は戸口で用件を聞くと、直ぐに目を逸らし、吐き捨てるように言う。
「帰んな。今更何言ってやがんだ」
メリンダは陰鬱な気分にとらわれる。
何でもこの男、若い頃から腕が良いと評判の技術者だったのだが、ある日『もっと上を目指す』と言ってふらりといなくなったのだという。
そして10年余り後に戻って来た時には、ドワーフの親方の所で修行してきたとかで、更に高度な技術を身につけていた。
だが拘りが強過ぎて、客とはトラブルの連続。挙句には他の技術者との諍いも多くなり、ついには仕事をしているのかどうかも判らない状態になっていたのだ。
が、拘りの度合いではイザイアも負けてはいなかった。
閉まるドアの隙間に杖を挟み、肩をねじ込む。
「怖いんじゃな」
「……何だと」
挑発的な言葉に、グランディの目が不穏な光を帯びる。
「できなくて恥をかくのが怖いのじゃろう」
「……この野郎、何を言ってやがる!!」
グランディはいきなりイザイアの襟首を掴んだ。
メリンダが直ぐに腰のホルスターに手をかけるが、当人は後ろ手で大丈夫だと合図を送る。
「よし分かった。そこまで言うなら、俺の得物を見せてやらあ!!」
グランディはドアを大きく開く。
「それを使いこなせる奴を連れて来い! そうしたら新しい武器を打ってやろうじゃないか!」
「それでこそじゃ! では頼むぞ中尉」
「はい?」
イザイアに肩を叩かれ、メリンダは強張った微笑みを向けるのだった。
狭い通りは、様々な物音に満ちていた。
蒸気の噴き出す音、機械の軋む音、そして怒鳴い合いのような話し声。
同盟軍中尉メリンダ・ドナーティ(kz0041)はそれらの物音に注意を払いつつ、同時に地番を示す看板を目で追っていた。
彼女の後には年老いた男がついて来る。老いて杖をついているが、彼の気配には弱さは微塵も感じられない。
寧ろその眼光は鋭くも好奇心に輝き、全身から漲る生気はそこらの若者にも引けを取らないほどだ。
「中尉」
「はい、何でしょう」
呼びかけられ、メリンダは素早く振り向いた。
「最近は広報官まで武装しておるのか。勇ましい事よのう!」
「……恐れ入ります、名誉大将」
カラカラと笑うイザイア・バッシ名誉大将に、メリンダは完璧に整えられた事務用スマイルで応えた。そして内心で呟く。
(貴方が随員の2~3人も連れて来てくれないからでしょう……!!)
今日のメリンダはいつものスカートではなく、パンツスタイルだ。そして上着の下には拳銃を吊っている。イザイアには上着に寄る皺でそれが分かったのだろう。
「ああ、ここですわ。工房グランディ」
呼び鈴を引くこと数度。ドアから覗いた壮年の男は、不審感を隠そうともせず、メリンダとその後ろの老人を眺めまわす。
「なんだ、あんたらは」
メリンダは笑みを浮かべつつ、用向きを切り出した。
●事の発端
その少し前の事。
メリンダはオフィスで上司に呼び出されていた。
「中尉、今からフマーレに飛んでほしい」
「フマーレですか?」
メリンダは業務上、転移装置の利用を許可されているので、移動自体に問題は無い。
問題は用向きだ。
「そちらでイザイア・バッシ名誉大将がお待ちなので、例のCAMのガレージの責任者……えっと誰だったか……そうそう、ミケーレ・カルヴィーニだ! そちらへご案内してもらいたいんだ」
「はい?」
雲の上の御仁の名前に、メリンダが首を傾げる。確か現在、モデスト・サンテ少将の代役としてポルトワールに居るのではなかったか。
「良く分からんのだが、まさかおひとりで行かせるわけにもいかん。なるべく急いでくれ」
そう言われて、はるばるフマーレ。
「おおすまんな。では行こうか」
流石に緊張の面持ちで敬礼するメリンダを、老人はやたらフランクに促した。
名誉大将がCAM導入に積極的であることは周知の事実だ。また先日来の歪虚との戦いに於いて、機動兵器は既に軍にとっては欠かすことのできない存在となっていた。
フマーレの軍需産業を扱う地域にあった大きな空き倉庫は、同盟内でCAMの整備や装備開発を担うために整備されつつある。その責任者に据えられたのが、フマーレ労働組合の長であるフランコ・カルヴィーニの息子、ミケーレだった。
「こりゃどうも、遠いところをわざわざ……まだ何にもないような状態ですがね」
互いの自己紹介が済むと、ミケーレは大小様々な機械が並んだガレージ内を案内する。
老人は暫くあちらこちらを見ていたが、すぐに我慢しきれず本題に切り込んだ。
「実はCAM用の武装について相談したい事があるのじゃが」
「なんでしょう?」
「人が使うような……例えば格闘戦用の武装を、CAM用に作れんかね?」
目的はそれか。
熱心に刀だの棍だのの説明を始めるイザイアに、メリンダはようやく得心した。
自身も一度操縦した事があるが、現在CAMの武装は飛び道具がメインだ。恐らくは名誉大将の肝入りの特機隊から要望があったのだろう。
まともに軍の中で要望を回していては、いつ実装されるかも分からない。そこでこの古狐は、直接行動に出たという訳だ。
「正直言って、無理っすね」
だが、ミケーレはあっさりそう言った。
「装甲の強化やなんかは、俺達の技術で何とかして見せますがね。そもそも人間用だって刀を打てるような技術は……」
そこでふとミケーレは言葉を切った。
「ああいや……あのおっさんなら……」
「できる御仁がおるか」
イザイアは身を乗り出す。
「う~ん……できる、かもしれねえけど……やるかどうかは……」
ミケーレは頭を掻きつつ、ぽつぽつとその男のことを語る。
●偏屈な匠
その男こそがグランディだった。
彼は戸口で用件を聞くと、直ぐに目を逸らし、吐き捨てるように言う。
「帰んな。今更何言ってやがんだ」
メリンダは陰鬱な気分にとらわれる。
何でもこの男、若い頃から腕が良いと評判の技術者だったのだが、ある日『もっと上を目指す』と言ってふらりといなくなったのだという。
そして10年余り後に戻って来た時には、ドワーフの親方の所で修行してきたとかで、更に高度な技術を身につけていた。
だが拘りが強過ぎて、客とはトラブルの連続。挙句には他の技術者との諍いも多くなり、ついには仕事をしているのかどうかも判らない状態になっていたのだ。
が、拘りの度合いではイザイアも負けてはいなかった。
閉まるドアの隙間に杖を挟み、肩をねじ込む。
「怖いんじゃな」
「……何だと」
挑発的な言葉に、グランディの目が不穏な光を帯びる。
「できなくて恥をかくのが怖いのじゃろう」
「……この野郎、何を言ってやがる!!」
グランディはいきなりイザイアの襟首を掴んだ。
メリンダが直ぐに腰のホルスターに手をかけるが、当人は後ろ手で大丈夫だと合図を送る。
「よし分かった。そこまで言うなら、俺の得物を見せてやらあ!!」
グランディはドアを大きく開く。
「それを使いこなせる奴を連れて来い! そうしたら新しい武器を打ってやろうじゃないか!」
「それでこそじゃ! では頼むぞ中尉」
「はい?」
イザイアに肩を叩かれ、メリンダは強張った微笑みを向けるのだった。
リプレイ本文
●
フランシスカ(ka3590) が丁寧に声を掛ける。
「お邪魔いたします」
扉を開けると、陽気なだみ声が響いて来た。
「おう、遅かったな! 得物はホレ、そこに並んどるぞ!」
グランディは鉄骨をベンチに、すっかり宴会気分である。が、フランシスカは動じない。
「今日はよろしくお願いいたします」
グランディは機嫌よく声を上げた。
「よしよし、楽しみにしてるからな! ほれネエちゃん、そんな顔してねえであんたも飲め!」
メリンダ・ドナーティ(kz0041)はそれを笑顔で拒否した。
「申し訳ありません。任務中ですので」
「かてえこと言うなよ。ほれ爺さん、あんたも言ってやれ」
爺さんと呼ばれたのは、同盟軍名誉大将イザイア・バッシ(kz0104)その人だ。
「中尉、ワシが許可する。飲んでよし」
その声は重々しく。手にはグラス、もぐもぐ齧るのは干した貝柱。
(もう、どうなっても知らないから……!!)
メリンダは遠い目をしながらグラスを受け取った。
「依頼の内容は武器を使いこなせ、だったか……また、随分と変わった依頼だとは思ったけど」
この光景に、鳳 覚羅(ka0862)は溜息をつく。
「……何というか、武技というものは本来、宴会芸ではないのだけどね」
あの男が伝説の武器職人とは疑わしい限りではあるが。それでも依頼とあれば、きちんと勤め上げるまで。
「CAMの格闘武器は必要だろうしね。グランディさんの腕に期待して、やってみるか」
武器の並んだ台を眺める。オキクルミ(ka1947)も同様だ。
「武器は道具なんだから。ある程度は使い捨てが普通なんだけどなぁ」
流石にこれは小声で言いつつ、持ち重りのする長槍を選んだ。
「まぁお仕事だし、そういう魅せ方が好みならそうしようか」
軽く振ってみると、意外にも手にしっくりくる。
覚羅は傭兵時代に使い慣れたタイプの刀を選んだ。思いの外出来がいい。
「ふむ……拵も見事だし鋼の鍛錬技術もかなりの物……研ぎも秀逸……此方の世界の鍛冶の技法で刀はどうかなって思ってたけどかなりの業物だよ」
案外、噂通りかもしれない。目利きを自負する覚羅も認めざるを得なかった。
「おい嬢ちゃん、頭からキノコが生えとるぞ」
グランディがチョココ(ka2449)の頭上を指さした。
「パルムのパルパルですの。いつでもどこでも、一緒ですわ♪」
にこにこ笑いながら、チョココは籠いっぱいのオレンジとベリーのマーマレードを差し出した。
「運動した後は甘い物がいいと思いますの。たくさんありますわよ♪」
「酒のあてには……」
「ワシは気にせんぞ。チョコレートをあてには飲むじゃろうが」
イザイアが手を伸ばした。……どう見てもおっさん共は出来上がっている。
柊 真司(ka0705)は特機隊から要望があったという刀を選んだ。
「技術も拘りも強過ぎる爺さんが作った武器か、どんなもんか知らないが使いこなしてみせるぜ」
少し離れたところで、試しに数回振ってみる。見事な反りと刃紋の刀だ。
「成程な。ま、後は相手次第ってとこかな」
真司は刀を鞘に納め、同行者達を見た。
「……む。これはなかなかの剣です。こちらの刀も相当な業物と見ました」
フランシスカが何やら呟きながら、武器を手にとっては確かめている。
「ぜひ扱いたいですが……せっかくの機会です。いつもとは違う武器を使うとしましょう」
取りだしたのは旋棍(トンファー)。先にギルドで買い求めて来たのだ。グランディが試作した物と持ち比べ、具合を確かめる。
「実際に持つと、持ちやすさと重心の違いを感じますね」
軽く振ってみると尚更だった。本人が豪語するだけのことはあって、取り回しも数段上のような気がする。
「後は模擬戦次第ですね」
CAMが使える近接武器が増えれば、運用の幅は広がると聞く。是非ともグランディにその気になってもらわねばならない。
「お、始めますか?」
静架(ka0387)が満面の笑みで振り返った。しっかり宴席に混じり、グラスを重ねていたのだ。
「では、自分も得物を。普段は跳び道具を使っていますが……ふふふ……」
何が嬉しいのか、にこにこしながら武器を選んでいる。普段の冷静沈着な彼を知る者は、少なからず驚いたに違いない。
「こ・れ・だー!」
長大な斧を選ぶと、石突をドンと地面に。
「真の男の浪漫はパワーですよ?」
刻崎 藤乃(ka3829)は突撃槍(ランス)を持ち、軽く準備運動。
「ちょっとかっこいいとこ見てみたい……ですのね?」
びしっと先端をグランディにつきつけ、高らかに声を上げた。
「ならば、存分に括目してくださいまし!」
●
まず覚羅が進み出た。
「さて……此れを使いこなせればいいんだね? でも、俺のは実戦剣術みたいなものだから御眼鏡に適うかどうかは知らないよ?」
そう言うや否や強い踏み込み、上段に構えた刀を振り下ろす。ぴたりと止まった剣先は再び降り上げられ、続いて斜めに。
唐竹、袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟、刺突と、次第に剣速は早くなってゆく。
最後に鞘に納めたと見せて、一呼吸の後に居合い抜きの技を見せ、ようやく覚羅が静かに深い息を吐いた。
静まり返った一同の中、分厚い掌の拍手が響く。
「これは見事じゃな。いや、良い物を見せて貰った」
一番喜んでいるのはイザイアであった。
「ではでは。続いて白のフクロウが氏族オキクルミ、一指し舞わせて貰いましょう」
オキクルミがきりりと長槍を立てると、槍首につけた神楽鈴がしりんと鳴った。
正面高くかざし、振り下ろす。その穂先を腰の高さで止め、鋭く突き、相手の胴を払い、返す石突をお見舞いする。
続けて足捌きのみで体を返し、切り返しからの縦回転の切り、突き、踏み込んでもう一度突き。
体を低く回転させつつ上払い、中断石突き回転打ち、下段穂先での払い。
実戦を想定しながらも、所々にタメを入れて『魅せる』舞である。
最後に力強く穂先を突き上げ、ぴたりと止めたところで神楽鈴が鳴った。
「……以上、お粗末さまでした」
軽く礼をしながらも、オキクルミは疑問を拭えない。
(こんな感じでよかったのかなぁ?)
何かに拗ねた相手をおだててその気にさせるというのは簡単ではないだろうと思うのだが。
「まぁ自分の仕事はしたしいいよね! あとはタダ酒だねっ、飲むぞ~!」
さっきまでの迫力は何処へやら、オキクルミは嬉しそうに酒宴に加わる。
静架は待ちきれないと言わんばかりの笑顔だ。
「御相手よろしくお願いします♪」
「こちらこそよろしくお願いします」
フランは旋棍を構えた尼僧という外見の破壊力にもかかわらず、丁寧に挨拶する。
ざっ。
2人が向かい合うと、緊迫した空気が流れる。
すぐさま、静架が長斧を振り被った。
「的を見てから攻撃しするのでは、遅いんですよ」
何せ静架の身長よりも長い柄である。命中率はお察しだが、体技でカバーするつもりだ。
「猟撃士の目を舐めないでくださいね?」
狙撃手としての静架は、的を見るのでなく、次の行動を予測して、予測地点に自分の攻撃を嵌める。
敢えて長斧を選んだのも、相手が接近するよりも早く自分の攻撃を仕掛け、主導権を握る為だ。
「そういうことですね」
フランシスカは静かにトンファーを取り回す。斧刃をまともに受け止めるのは流石に無謀だが、相手は小回りが利かない。
初撃をギリギリかわし、持ち替えたトンファーで静架の腕を打つ。
「これでどうですか」
だが静架は口元に笑みを湛えたままだ。酔いも回り、痛みにも普段より鈍感である。
それでも腕に無理な力を掛けずに、斧の重みのまま取り回した石突きで相手の重心のかかった足を狙う。
フランシスカはそのまま静架の懐に飛び込むと、片手のトンファーを斧に絡め、もう片方で静架の腕の付け根を打ち据えた。
「成程、あれを欲しがるのも分かるのう」
イザイアはこの模擬戦を、実に興味深そうに見ていた。
続いて真司と藤乃が向きあった。
「お手柔らかに頼むぜ」
真司はそう言って、目で合図を送る。依頼の目的からして、お互いに見せ場を作るべきだ。
だが藤乃は意外なことを言いだした。
「馬に乗ってはいけませんの?」
「馬? CAMは馬に乗らないぞ」
「今はそうですけれど、馬型CAMに乗って戦うとか浪漫ではありませんの?」
どうすんだこれ。
「まあ、今日の所は馬はなしで行こう」
「仕方ありませんわね」
藤乃がランスと盾を構える。
真司は速攻に賭けることにした。
「攻撃させないように攻め続けるぜ」
一気に距離を詰めると剣先を身体ごとぶつけるように突き込む。
「そうは行きませんわよ」
藤乃は盾を操り受け流す。真司はすぐに体勢を立て直し、再び剣を繰り出す。だが最初の一撃よりはどうしても弱い。藤乃は今度はそれをマルチステップでかわすと、タイミングを見計らってランスを繰り出した。
(部位狙いが難しいのが、こういった武器の難点ですわね)
ランスはそれこそ馬上で相手を叩き落とす物で、一撃で急所を狙うような攻撃には向かない。
その代わり一回の攻撃は重く、まともに当たればそこで勝負がついてしまう。
「海女さん、なめんなよ! ですわ!!」
普段使い慣れた銛とは違うが、突くことに特化した武器は藤乃にとって扱いやすい。
真司は槍先を下に向かって受け流すと、間合いを詰める。
「懐に入られないように注意だな」
「おあいにく様、ですわ」
渾身の一撃は、盾によってはじかれていた。
手に汗握る先頭の脇で、シバ・ミラージュ(ka2094)が宴席ににじり寄っていた。
「中尉ともなれば、さぞかし強いに違いないッ……!」
目指すはメリンダ。なんか階級とかすごいっぽいから、強いんだろう。
……シバは同盟の階級制度に明るくなかった。
愛想よく笑顔を振りまき、酌をして回る。
「中尉や名誉大将なんて凄い身分の方とお話できて、僕幸せです。あ、これ、お近づきの印に」
差し出したのは手製の超固茹で卵。
「ハハハ、何、大したことは無い。こういう物は付けておけと煩く言われるから付けておるだけじゃ」
イザイアは階級章を親指で差し、無造作に卵を割った。
「……何じゃこれは」
「おお、ホビロンか。珍しいな!」
グランディが中身をつまみ上げる。
尚、詳細を記すのは憚られるため、気になる方はお調べ頂きたい。
とりあえずメリンダが卒倒しそうになったことだけは、付け加えておこう。
「珍味のお礼だ、飲め」
「あ、すみません。僕は年齢的にお酒は……」
「そうか、残念だな」
グランディは特に気を悪くした様子もなく、手酌を煽る。
「で、あんたは何を使うんだ?」
「はい、ナイフを。近接の最後の砦、投擲もできる基本かつ便利な武器ですから」
「ナイフか、どれでも使え!」
グランディは嬉しそうだ。
「はい。では早速……とう!」
シバはそこにあった果物ナイフを取り上げ、いきなり投げた。
「危ないッ!」
メリンダが咄嗟に皿を取り上げ、イザイアの耳を削ごうという角度で飛んできたナイフを叩き落とした。
「何するんですかっ!!」
「すみません、僕、本来は魔術師だから武器はあまり得意じゃなくて」
そういう問題か?
「なので、メリンダ中尉、ぜひお願いします」
「はい?」
なんで私が。顔にそう書いてあるがシバは引き下がらない。
「いえいえご謙遜なさらず、中尉ともあろう御方ならさぞかし強いと思うんです、後学のためにもぜひ……! 名誉大将、お借りしてもよろしいですよね?」
「許す」
面白いから。イザイアは鷹揚に頷いた。
●
演武も模擬戦も終わった者から宴会モードへ。
チョココは一通り武器を眺めた後、戻って来てぺたりと座りこんだ。
「ところで、近接武器……ウイップはありませんの?」
幼女のキラッキラの瞳が、グランディを見つめていた。
「ウイップ……鞭か?」
「そうですの! びしばし、使いこなせたら女王様になれるって……聞いた事がありますわ。 きっと、見た目カッコイイですの♪」
誰だこんなことを教えた奴は。
こんな中でのシバとメリンダの模擬戦は、まさしく余興。
「士官学校では一応習ったけどッ……!!」
シバが不慣れだからこそ、型を習ったメリンダには厄介な相手である。
というか、何をしてくるかわからない。
「そこだっ!!」
滑らかな手の返しから、鮮やかに繰り出すナイフ。が、すっぽ抜けた。
飛んで行く先では、イザイアがお盆でナイフを受けていた。
「なんでそうなるんですかー!!」
「だって僕、本来は魔術師だから(以下略)」
「いい加減にしてください」
ゴッ。ナイフの柄がシバの脳天を直撃した。
「おお、そういう使い方をするか」
カラカラと笑うイザイアに、オキクルミが酒瓶を傾ける。
「ささ、どうぞ一杯」
何を隠そう、オキクルミの守備範囲は広い。イザイアをロックオンにかかる。
「お、こりゃすまん。さっきはなかなか見事な槍捌きじゃったな!」
「ありがと。ご希望のトンファーは使った事なくてさ~、ゴメンね。あ、特機隊が希望してるのってこんな奴?」
携帯ゲームを起動し、対戦格闘ゲームを見せる。
「だからほら、ムチもカッコイイと思うのですわ」
チョココは諦めきれず、そのゲームの鞭使いを熱く支持する。
シバの脳天をヒールで癒し、フランシスカが宴席に戻ってきた。
「ところで職人さん、このヨーヨーは作れるでしょうか」
グランディに自前のヨーヨーを操って見せる。
「CAM用に開発できれば面白いと思うのですが……やはり難しいですかね」
それぞれの得意な武器、好きな武器があればと考えるのは、特機隊もハンターも変わらないようだ。
グランディの目つきが真剣な物になる。
「本体は何とかできそうだがワイヤーが難しいな……そっちの嬢ちゃんの鞭もだが」
ここで多少酔いの醒めた静架が口を挟んだ。
「グランディさんの武器は、バランスが良いですね」
何処か疑わしげな視線を真っ直ぐ受け止め、静架は臆さず続ける。
「別におだてている訳ではありませんよ。本来狙撃手の自分でも扱いやすいというのは事実ですから」
「大きなお世話かもしれないけど」
覚羅も続ける。
「此れだけの技術を持っていながら、燻っているのは俺としてはどうかと思うよ……技術者としての更なる高み、どこまで極められるか自分でも知りたくないかい?」
グランディが黙り込む。その気持ちがあったからこそ、こんなに多くの種類の武器を作ったのだ。
「そうだな。そろそろ本気出してもいいかもな」
「やってくれるか!」
イザイアが膝を乗り出した。
が。
「CAMのは無理だがな」
あっさりグランディが言い放った。
「何じゃと?」
「アレに剣だのトンファーだの持たせてみろ、重心狂ってぶっ倒れるわい」
「なにい!?」
「そうだな……も少し比重の軽い新素材があれば、何とかしてやるぞ!」
……浪漫装備への道はまだまだ険しいようだ。
<了>
フランシスカ(ka3590) が丁寧に声を掛ける。
「お邪魔いたします」
扉を開けると、陽気なだみ声が響いて来た。
「おう、遅かったな! 得物はホレ、そこに並んどるぞ!」
グランディは鉄骨をベンチに、すっかり宴会気分である。が、フランシスカは動じない。
「今日はよろしくお願いいたします」
グランディは機嫌よく声を上げた。
「よしよし、楽しみにしてるからな! ほれネエちゃん、そんな顔してねえであんたも飲め!」
メリンダ・ドナーティ(kz0041)はそれを笑顔で拒否した。
「申し訳ありません。任務中ですので」
「かてえこと言うなよ。ほれ爺さん、あんたも言ってやれ」
爺さんと呼ばれたのは、同盟軍名誉大将イザイア・バッシ(kz0104)その人だ。
「中尉、ワシが許可する。飲んでよし」
その声は重々しく。手にはグラス、もぐもぐ齧るのは干した貝柱。
(もう、どうなっても知らないから……!!)
メリンダは遠い目をしながらグラスを受け取った。
「依頼の内容は武器を使いこなせ、だったか……また、随分と変わった依頼だとは思ったけど」
この光景に、鳳 覚羅(ka0862)は溜息をつく。
「……何というか、武技というものは本来、宴会芸ではないのだけどね」
あの男が伝説の武器職人とは疑わしい限りではあるが。それでも依頼とあれば、きちんと勤め上げるまで。
「CAMの格闘武器は必要だろうしね。グランディさんの腕に期待して、やってみるか」
武器の並んだ台を眺める。オキクルミ(ka1947)も同様だ。
「武器は道具なんだから。ある程度は使い捨てが普通なんだけどなぁ」
流石にこれは小声で言いつつ、持ち重りのする長槍を選んだ。
「まぁお仕事だし、そういう魅せ方が好みならそうしようか」
軽く振ってみると、意外にも手にしっくりくる。
覚羅は傭兵時代に使い慣れたタイプの刀を選んだ。思いの外出来がいい。
「ふむ……拵も見事だし鋼の鍛錬技術もかなりの物……研ぎも秀逸……此方の世界の鍛冶の技法で刀はどうかなって思ってたけどかなりの業物だよ」
案外、噂通りかもしれない。目利きを自負する覚羅も認めざるを得なかった。
「おい嬢ちゃん、頭からキノコが生えとるぞ」
グランディがチョココ(ka2449)の頭上を指さした。
「パルムのパルパルですの。いつでもどこでも、一緒ですわ♪」
にこにこ笑いながら、チョココは籠いっぱいのオレンジとベリーのマーマレードを差し出した。
「運動した後は甘い物がいいと思いますの。たくさんありますわよ♪」
「酒のあてには……」
「ワシは気にせんぞ。チョコレートをあてには飲むじゃろうが」
イザイアが手を伸ばした。……どう見てもおっさん共は出来上がっている。
柊 真司(ka0705)は特機隊から要望があったという刀を選んだ。
「技術も拘りも強過ぎる爺さんが作った武器か、どんなもんか知らないが使いこなしてみせるぜ」
少し離れたところで、試しに数回振ってみる。見事な反りと刃紋の刀だ。
「成程な。ま、後は相手次第ってとこかな」
真司は刀を鞘に納め、同行者達を見た。
「……む。これはなかなかの剣です。こちらの刀も相当な業物と見ました」
フランシスカが何やら呟きながら、武器を手にとっては確かめている。
「ぜひ扱いたいですが……せっかくの機会です。いつもとは違う武器を使うとしましょう」
取りだしたのは旋棍(トンファー)。先にギルドで買い求めて来たのだ。グランディが試作した物と持ち比べ、具合を確かめる。
「実際に持つと、持ちやすさと重心の違いを感じますね」
軽く振ってみると尚更だった。本人が豪語するだけのことはあって、取り回しも数段上のような気がする。
「後は模擬戦次第ですね」
CAMが使える近接武器が増えれば、運用の幅は広がると聞く。是非ともグランディにその気になってもらわねばならない。
「お、始めますか?」
静架(ka0387)が満面の笑みで振り返った。しっかり宴席に混じり、グラスを重ねていたのだ。
「では、自分も得物を。普段は跳び道具を使っていますが……ふふふ……」
何が嬉しいのか、にこにこしながら武器を選んでいる。普段の冷静沈着な彼を知る者は、少なからず驚いたに違いない。
「こ・れ・だー!」
長大な斧を選ぶと、石突をドンと地面に。
「真の男の浪漫はパワーですよ?」
刻崎 藤乃(ka3829)は突撃槍(ランス)を持ち、軽く準備運動。
「ちょっとかっこいいとこ見てみたい……ですのね?」
びしっと先端をグランディにつきつけ、高らかに声を上げた。
「ならば、存分に括目してくださいまし!」
●
まず覚羅が進み出た。
「さて……此れを使いこなせればいいんだね? でも、俺のは実戦剣術みたいなものだから御眼鏡に適うかどうかは知らないよ?」
そう言うや否や強い踏み込み、上段に構えた刀を振り下ろす。ぴたりと止まった剣先は再び降り上げられ、続いて斜めに。
唐竹、袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟、刺突と、次第に剣速は早くなってゆく。
最後に鞘に納めたと見せて、一呼吸の後に居合い抜きの技を見せ、ようやく覚羅が静かに深い息を吐いた。
静まり返った一同の中、分厚い掌の拍手が響く。
「これは見事じゃな。いや、良い物を見せて貰った」
一番喜んでいるのはイザイアであった。
「ではでは。続いて白のフクロウが氏族オキクルミ、一指し舞わせて貰いましょう」
オキクルミがきりりと長槍を立てると、槍首につけた神楽鈴がしりんと鳴った。
正面高くかざし、振り下ろす。その穂先を腰の高さで止め、鋭く突き、相手の胴を払い、返す石突をお見舞いする。
続けて足捌きのみで体を返し、切り返しからの縦回転の切り、突き、踏み込んでもう一度突き。
体を低く回転させつつ上払い、中断石突き回転打ち、下段穂先での払い。
実戦を想定しながらも、所々にタメを入れて『魅せる』舞である。
最後に力強く穂先を突き上げ、ぴたりと止めたところで神楽鈴が鳴った。
「……以上、お粗末さまでした」
軽く礼をしながらも、オキクルミは疑問を拭えない。
(こんな感じでよかったのかなぁ?)
何かに拗ねた相手をおだててその気にさせるというのは簡単ではないだろうと思うのだが。
「まぁ自分の仕事はしたしいいよね! あとはタダ酒だねっ、飲むぞ~!」
さっきまでの迫力は何処へやら、オキクルミは嬉しそうに酒宴に加わる。
静架は待ちきれないと言わんばかりの笑顔だ。
「御相手よろしくお願いします♪」
「こちらこそよろしくお願いします」
フランは旋棍を構えた尼僧という外見の破壊力にもかかわらず、丁寧に挨拶する。
ざっ。
2人が向かい合うと、緊迫した空気が流れる。
すぐさま、静架が長斧を振り被った。
「的を見てから攻撃しするのでは、遅いんですよ」
何せ静架の身長よりも長い柄である。命中率はお察しだが、体技でカバーするつもりだ。
「猟撃士の目を舐めないでくださいね?」
狙撃手としての静架は、的を見るのでなく、次の行動を予測して、予測地点に自分の攻撃を嵌める。
敢えて長斧を選んだのも、相手が接近するよりも早く自分の攻撃を仕掛け、主導権を握る為だ。
「そういうことですね」
フランシスカは静かにトンファーを取り回す。斧刃をまともに受け止めるのは流石に無謀だが、相手は小回りが利かない。
初撃をギリギリかわし、持ち替えたトンファーで静架の腕を打つ。
「これでどうですか」
だが静架は口元に笑みを湛えたままだ。酔いも回り、痛みにも普段より鈍感である。
それでも腕に無理な力を掛けずに、斧の重みのまま取り回した石突きで相手の重心のかかった足を狙う。
フランシスカはそのまま静架の懐に飛び込むと、片手のトンファーを斧に絡め、もう片方で静架の腕の付け根を打ち据えた。
「成程、あれを欲しがるのも分かるのう」
イザイアはこの模擬戦を、実に興味深そうに見ていた。
続いて真司と藤乃が向きあった。
「お手柔らかに頼むぜ」
真司はそう言って、目で合図を送る。依頼の目的からして、お互いに見せ場を作るべきだ。
だが藤乃は意外なことを言いだした。
「馬に乗ってはいけませんの?」
「馬? CAMは馬に乗らないぞ」
「今はそうですけれど、馬型CAMに乗って戦うとか浪漫ではありませんの?」
どうすんだこれ。
「まあ、今日の所は馬はなしで行こう」
「仕方ありませんわね」
藤乃がランスと盾を構える。
真司は速攻に賭けることにした。
「攻撃させないように攻め続けるぜ」
一気に距離を詰めると剣先を身体ごとぶつけるように突き込む。
「そうは行きませんわよ」
藤乃は盾を操り受け流す。真司はすぐに体勢を立て直し、再び剣を繰り出す。だが最初の一撃よりはどうしても弱い。藤乃は今度はそれをマルチステップでかわすと、タイミングを見計らってランスを繰り出した。
(部位狙いが難しいのが、こういった武器の難点ですわね)
ランスはそれこそ馬上で相手を叩き落とす物で、一撃で急所を狙うような攻撃には向かない。
その代わり一回の攻撃は重く、まともに当たればそこで勝負がついてしまう。
「海女さん、なめんなよ! ですわ!!」
普段使い慣れた銛とは違うが、突くことに特化した武器は藤乃にとって扱いやすい。
真司は槍先を下に向かって受け流すと、間合いを詰める。
「懐に入られないように注意だな」
「おあいにく様、ですわ」
渾身の一撃は、盾によってはじかれていた。
手に汗握る先頭の脇で、シバ・ミラージュ(ka2094)が宴席ににじり寄っていた。
「中尉ともなれば、さぞかし強いに違いないッ……!」
目指すはメリンダ。なんか階級とかすごいっぽいから、強いんだろう。
……シバは同盟の階級制度に明るくなかった。
愛想よく笑顔を振りまき、酌をして回る。
「中尉や名誉大将なんて凄い身分の方とお話できて、僕幸せです。あ、これ、お近づきの印に」
差し出したのは手製の超固茹で卵。
「ハハハ、何、大したことは無い。こういう物は付けておけと煩く言われるから付けておるだけじゃ」
イザイアは階級章を親指で差し、無造作に卵を割った。
「……何じゃこれは」
「おお、ホビロンか。珍しいな!」
グランディが中身をつまみ上げる。
尚、詳細を記すのは憚られるため、気になる方はお調べ頂きたい。
とりあえずメリンダが卒倒しそうになったことだけは、付け加えておこう。
「珍味のお礼だ、飲め」
「あ、すみません。僕は年齢的にお酒は……」
「そうか、残念だな」
グランディは特に気を悪くした様子もなく、手酌を煽る。
「で、あんたは何を使うんだ?」
「はい、ナイフを。近接の最後の砦、投擲もできる基本かつ便利な武器ですから」
「ナイフか、どれでも使え!」
グランディは嬉しそうだ。
「はい。では早速……とう!」
シバはそこにあった果物ナイフを取り上げ、いきなり投げた。
「危ないッ!」
メリンダが咄嗟に皿を取り上げ、イザイアの耳を削ごうという角度で飛んできたナイフを叩き落とした。
「何するんですかっ!!」
「すみません、僕、本来は魔術師だから武器はあまり得意じゃなくて」
そういう問題か?
「なので、メリンダ中尉、ぜひお願いします」
「はい?」
なんで私が。顔にそう書いてあるがシバは引き下がらない。
「いえいえご謙遜なさらず、中尉ともあろう御方ならさぞかし強いと思うんです、後学のためにもぜひ……! 名誉大将、お借りしてもよろしいですよね?」
「許す」
面白いから。イザイアは鷹揚に頷いた。
●
演武も模擬戦も終わった者から宴会モードへ。
チョココは一通り武器を眺めた後、戻って来てぺたりと座りこんだ。
「ところで、近接武器……ウイップはありませんの?」
幼女のキラッキラの瞳が、グランディを見つめていた。
「ウイップ……鞭か?」
「そうですの! びしばし、使いこなせたら女王様になれるって……聞いた事がありますわ。 きっと、見た目カッコイイですの♪」
誰だこんなことを教えた奴は。
こんな中でのシバとメリンダの模擬戦は、まさしく余興。
「士官学校では一応習ったけどッ……!!」
シバが不慣れだからこそ、型を習ったメリンダには厄介な相手である。
というか、何をしてくるかわからない。
「そこだっ!!」
滑らかな手の返しから、鮮やかに繰り出すナイフ。が、すっぽ抜けた。
飛んで行く先では、イザイアがお盆でナイフを受けていた。
「なんでそうなるんですかー!!」
「だって僕、本来は魔術師だから(以下略)」
「いい加減にしてください」
ゴッ。ナイフの柄がシバの脳天を直撃した。
「おお、そういう使い方をするか」
カラカラと笑うイザイアに、オキクルミが酒瓶を傾ける。
「ささ、どうぞ一杯」
何を隠そう、オキクルミの守備範囲は広い。イザイアをロックオンにかかる。
「お、こりゃすまん。さっきはなかなか見事な槍捌きじゃったな!」
「ありがと。ご希望のトンファーは使った事なくてさ~、ゴメンね。あ、特機隊が希望してるのってこんな奴?」
携帯ゲームを起動し、対戦格闘ゲームを見せる。
「だからほら、ムチもカッコイイと思うのですわ」
チョココは諦めきれず、そのゲームの鞭使いを熱く支持する。
シバの脳天をヒールで癒し、フランシスカが宴席に戻ってきた。
「ところで職人さん、このヨーヨーは作れるでしょうか」
グランディに自前のヨーヨーを操って見せる。
「CAM用に開発できれば面白いと思うのですが……やはり難しいですかね」
それぞれの得意な武器、好きな武器があればと考えるのは、特機隊もハンターも変わらないようだ。
グランディの目つきが真剣な物になる。
「本体は何とかできそうだがワイヤーが難しいな……そっちの嬢ちゃんの鞭もだが」
ここで多少酔いの醒めた静架が口を挟んだ。
「グランディさんの武器は、バランスが良いですね」
何処か疑わしげな視線を真っ直ぐ受け止め、静架は臆さず続ける。
「別におだてている訳ではありませんよ。本来狙撃手の自分でも扱いやすいというのは事実ですから」
「大きなお世話かもしれないけど」
覚羅も続ける。
「此れだけの技術を持っていながら、燻っているのは俺としてはどうかと思うよ……技術者としての更なる高み、どこまで極められるか自分でも知りたくないかい?」
グランディが黙り込む。その気持ちがあったからこそ、こんなに多くの種類の武器を作ったのだ。
「そうだな。そろそろ本気出してもいいかもな」
「やってくれるか!」
イザイアが膝を乗り出した。
が。
「CAMのは無理だがな」
あっさりグランディが言い放った。
「何じゃと?」
「アレに剣だのトンファーだの持たせてみろ、重心狂ってぶっ倒れるわい」
「なにい!?」
「そうだな……も少し比重の軽い新素材があれば、何とかしてやるぞ!」
……浪漫装備への道はまだまだ険しいようだ。
<了>
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作戦?相談卓 シバ・ミラージュ(ka2094) 人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/07 23:30:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/04 00:25:33 |