岩の番人

マスター:硲銘介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/03/14 12:00
完成日
2015/03/21 23:25

みんなの思い出

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オープニング


「…………」
 風が吹いた。山道を歩む旅人が一人、彼の羽織るマントが靡く。
 砂埃が舞い上がる中を彼、ラサースは進んでいく。
 齢二十といったところだろうか、旅慣れた装備に身を包む男は中々の美男子である。その表情は険しく、何か重い覚悟を背負――
「……ぬふ」
 ――っては、いなかった。
「ぬふ。ぬふふふ……ぬふぁはっはっはっは!」
 ラサースは我慢できずに大笑いする。整った容姿が勿体無い程の馬鹿笑い。ついでに笑い声は気持ち悪い。
 そんな事など気にも留めず、ラサースは一人笑いながらニタニタとした表情を貼り付けている。
 彼は懐から一枚の紙切れを取り出し、目の前に広げるとまた愉快そうに笑い出した。
「ぬふふふふ……これが笑わずにいられるか、いいや! いられない!」
 何度も断るが、彼は一人である。ソロである。
「お宝! 宝の地図! これぞロマン、男のロマンではないか! なぁ、そう思うだろう!」
 誰もいません。
「ようやく手に入れたこの宝の地図。これが示す先には眩く輝く金銀財宝が眠っているに決まっている! 僕の未来は明るいぞぉ、テッカテカだ!」
 ご機嫌に踊り歩くラサース。手に握った紙切れはどうやら宝の地図らしい。
 街道から外れた山道を行く理由はずばり、宝探し。一攫千金を企むハンターは地図に記された宝の在り処へ向かっている真っ最中だという訳だ。


 ――さて、浮かれ狂うラサースだが、彼はどうやって宝の地図を手に入れたのだろう。

 それは少し前に立ち寄ったある町での事。宿を探し歩くラサースは人通りの無い裏路地へと迷い込んでいた。
 日が落ちた町の暗い路地裏、其処でとある露天商と出会った。
「イカしたにーちゃん、ちょっと見ていかんかね」
 店の主は皺くちゃの爺さんだった。薄く開いた目で見つめられ、ラサースは足を止めた。
 何が気になったという訳でもない。いや、爺さんの体臭が気になったけどそういうことじゃなくて。まぁ、なんてことない気まぐれで足を止めた。
「しかし……ロクなものがないな、爺さん」
 率直な感想を口にした。事実、並んでいるのはガラクタの様なものばかり。店を開く場所も手伝って、これでは売れそうも無い。
 ラサースの言葉に老人は愉快そうに笑った。
「ふぉっふぉっふぉ、真っ直ぐな御仁じゃ。やはり、ワシの目に狂いは無かった」
「あぁ? なんだよ、爺さん。その見えてるのかどうか疑わしい目で何を見たって?」
「――運命」
「…………!」
 ラサースは戦慄した! 老人の放ったその一言が全身の血を湧き立たせるのを感じた! うん、なんでさ。
「……面白い爺さんだ。つまりは理屈じゃない、そう言いたい訳だ」
 老人は言葉を返さない。代わりにニッと汚い歯をむき出しに笑って見せた。
「お前さんにこいつを授けたい」
「こ、これは……っ!」
 奥の荷物から何かを取り出した老人から渡されたのは古臭い紙一枚。記されているのは地図、そして謎のバツ印。
「じ、爺さん……こいつはまさか、宝の――」
「ワシは、今日この日の為に生きてきたのだと悟ったよ。お前さんに、これを渡す為に」
 言葉を遮り、老人は言った。その言葉は重い。老人の生きてきた人生、これまでが染み付いたかの様に重い言葉だった……と、ラサースは感じた。
 思わずラサースは背を向けた。目頭が熱くなるのを感じ、しかし、この老人に涙を見せてはいけないと思った。
 彼は言ったのだ、自分にこれを渡す為だけに生きてきたと。その自分が涙を、弱さを露呈して良い訳が無い。
「――爺さん。僕の為に、これまでありがとう。こいつは、僕が必ず手に入れてくる……そう、必ずだっ!」
 背中を向けたまま、覚悟を叫び、ラサースはその場を立ち去ろうとした。この老人にかけるものはそれだけで充分だと感じたからだ。
 ――そして、老人はその背中にもう一度言葉をかけた。
「待て待て、金を払ってから行けぃ」
「――って金取るのかよッ!?」

 ――以上、回想終了。いや、なんつーか……いや、いいや、もう……


 ラサースは目的の場所へ辿り着いていた。山の中間辺り、開けた場所にそれはあった。
 辺りを崖に囲まれた広い空間、大小様々な岩が散らばる他は――小さな祠が一つ。大きさ的に内部は小部屋が一つといった程度だろうか。
「ぬふ。ぬふふふ……完璧だ。あそこに僕の財宝が眠っている、ぬふふふ……金を払っただけはある。あれぞ宝の在処という感じではないか!」
 笑いを抑えきれず漏らしまくりながら、かつ、それなりに格好良くクールに振舞いながら祠へ近づく。道中では馬鹿笑いをしていたが、宝を目前にしては美学があるらしい。
 ……と、言っている内に祠に近づいてきた。のだが、ここにきて何か違和感を感じる。
「……なんか、動いてね?」
 その視線は周囲の岩石に向く。四方八方に散らばっていた筈の岩がいつの間にかに前方に集中して来ていた。
 気づけば、バラバラだった岩は二箇所。祠の前方、左右に集まっていた。いや、もっと早く気づけ?
 弛んだ空気など知らぬとばかりに――その岩石が隆起する。否、これは元々そういうものだった。
 散らばる岩の一つ一つが体であり、この形こそが真の姿。寄せ集められた岩石は二体の巨人へと姿を変えていく。
 ラサースはただ、積み上がっていく巨体を見上げるばかりだった。
 其は、岩石の巨人。財宝を守る異形の番人。数多の冒険者を退け、屍と変えたその巨躯――名を、ゴーレム。
「おっ……おぉぅ……」
 思わず口を突いて出たのはそんな言葉だった。いや、言葉じゃないのだけれども。
 その巨体を前にしてラサースは半ば放心状態にあったが、すぐにこの場に立ち戻る。
 侮る無かれ。ラサースという男も伊達にハンターではない。脅威を前にして呆ける能無しではないのだ。
 決断から実行まで、全ては迅速だった。ラサースは迷わずに、祠と石の番人に背を向け――全速力でその場から逃げ出した。


「――という訳で、財宝を手に入れるにはあの憎きゴーレムを打倒しなければならない! 君達の力を僕に貸したまえ!」
 無事に逃げ帰ったラサースは集めたハンター達を前に高らかにこれまでの経緯を語った。
 当の本人は自身の武勇伝を語るかの様に誇らしげだ。聞かされているハンター達は、まぁ、呆れてたり、感心してたり、エトセトラエトセトラ。
「だが、僕の所持金は無い! 殆ど無い! あの爺さんに払ってしまったからだ! よって君達に支払う報酬は無い! ごめんッ!」
 堂々と言い放つ。その態度に多くのハンター達がその場を立ち去ろうとする。のを、ラサースが慌てて引き止める。
「わ、わかった! 僕が財宝を手に入れた暁には、君達にも分け前をくれてやる! それでいいなっ! いいよねっ!?」
 狼狽するラサースを冷ややかに見つめるハンター達。さて、この依頼を受ける物好きが果たしているものか――――

リプレイ本文


「ぬふ……ぬふふふふっ! お宝が僕を待っているぞぉ!」
 依頼を受けたハンター達をお供に、再び地図が示す祠へと迫るラサース。この戦力なら、ゴーレムなどただの石くれに過ぎない。
 ――と、楽観視する彼は実にご機嫌で、気持ちの悪い笑みを絶やさない。
 そんな彼のすぐ後ろをロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920)とミコト=S=レグルス(ka3953)の二人が付いて歩く。
「わはは! 宝探し楽しそう! ロウザも協力するぞ」
「うん、宝の地図とか……ファンタジーな感じだねっ」
 ラサース同様、二人もまだ見ぬ宝への期待を膨らませていた。
「宝ってなにかな?」
「ぬふふ、当然抱えきれない程の金銀財宝だよ!」
「ピカピカ金貨の山に宝石とか王冠とかあって、てっぺんに魔法の剣がささってる! とかかな?」
「うわぁ……! そんな凄い宝物が見つかったら素敵だよねっ」
「考えたらロウザ興奮してきたぞ! むふ~」
「うちもっ。楽しみだなー!」
「まったくだ! ぬふふ……!」
「なーなー、ラサースは宝見つけたらどうするんだ?」
「良く聞いてくれた。豪奢な素敵計画を用意してあってね――」
 雨雲も避けていく様な明るさで三人の会話は続く。
 その先頭集団から数歩後ろを行く他の面々。能天気な会話を続ける友人を呆れたように眺めるトルステン=L=ユピテル(ka3946)が呟く。
「宝探し、ね……ミコの好きそーなネタだな。けどこの依頼人、騙されてる感すげーし……ホントにあったら面白いケド、どーだろな」
 トルステンの心配は尤もだ。地図があるとはいえ、宝がある可能性は低いようにすら思える。
「宝探しなんて、夢と浪漫溢れる話じゃないですか。応援してますよ」
 楽しそうに進む三人の背中を追いながらメリエ・フリョーシカ(ka1991)が言う。
 ま、あったらいーけど。ぶっきらぼうに返すトルステンの言葉に彼女は笑う。
「男のロマンとやらは理解できませんが……地図に記された位置に祠と守護者、何も無い事はないと思うのですが」
「ですね。その祠は気になります。何故ゴーレムが配置されているのかも含めて」
 アレグラ・スパーダ(ka4360)の発言にメリエも同意を示す。
 ゴーレムは何らかの役割を持って配置されるものだ。ゴーレムの存在そのものが祠の何らかの特殊性を暗示している可能性は高い。
 クオン・サガラ(ka0018)もそれには同感だったが、宝の存在は正直疑っていた。
「まぁ、祠に何があるかは……期待してませんが、地図の老人が怪しいので個人的には警戒しておきたいですね」
 クオンの言葉にトルステンも頷く。
 怪しさ爆発の老商人。彼がラサースに地図を売ったのは何故か。
 彼はゴーレムの存在を知っているのか。だとしたら、戦わせる事こそが目的なのか。
「何にせよ、受けた依頼はラサース様の護衛と標的の排除。ひとまずはそれに注力しましょうか」
 思案する二人にアレグラが言う。様々な憶測が浮かぶも、現時点では結局それ以上には至らない。
 戦闘中もそれとなく老人の存在に留意する、という事で議論は一旦落ち着けた。
 そのやり取りに耳を傾けつつ、メリエは品定めするようにラサースの全身をねめつけていた。
「まぁ、経験が積めるなら何でもいいんですがね……身包み剥いでも二束三文にもなりゃしなさそうですし……」
 ぼそっ、と小さな呟き。それは誰に届くでもなく、陽気な旅人の声に掻き消されていった。


 ほどなくして、一行は山中の開けた一角へと辿り着いた。
 ラサースが最初に訪れた時には散っていた多数の岩石は、今は奥に見える祠の左右に二分されている。
 それが、ただの岩でない事は集った全員が知っている。崖が織り成す広場へ踏み込む前に、クオンは今一度ラサースを振り返った。
「もう一度確認しておきますが、戦闘中は決して前に出ないで、後方で大人しくしていて下さい。決して、先走って祠に向かったりしないように」
「わかっているさ。ミコト君からも注意を受けたばかりだ。君達はそんなに僕が心配かね」
 心配だから、クオンは確認しているのだが。やれやれ、と小さく息を吐き、クオンは前方へ向き直る。
 そして、一行が番人が守る空間へ足を踏み入れると――轟音が響いた。
 打ち捨てられていた岩塊が、明確な目的を持って独りでに積み重なっていく。
 大地を踏みしめる脚。標的を潰す無機質の腕。聳える巨躯。現れたる二体の巨兵。
 岩石を肉とし、何者かの意に従い動く番人ゴーレムが起動した。
「うおー。デケェ。マジ岩だし」
 巨体を見上げ、トルステンが呟く。彼我の体格差は比べるまでも無い。到底、人間が太刀打ちできる大きさではない。
 立ち塞がる巨躯の威圧感が場を支配する。特別な力を持たぬラサースはその脅威に足が震えるのを感じていた。
 ――だが、彼の眼前にて、巨体に向かい立つ六人は違った。
 右のゴーレムが大きな一歩を踏み出す。それと同時に、弾ける様にミコトが駆け出す。
 彼女の後にトルステンも続く。残る四人は前に出た一体に意識を向けつつも、避けるように移動を始めた。
 二歩、三歩。ラサースは後ずさりしつつ物陰に身を隠して、その戦いを目に収める。
 人の身では到底抗えぬ脅威――それを狩る、真のハンター達の戦いを。

 前進を始めたゴーレムへ、一人突撃するミコトの体を光が包んでいく。
「ミコ!」
「ありがと、ステン君の支援期待してるねっ」
 プロテクション――トルステンのかけた保護の術がミコトの守りを高める。
 友人に支援を託し、ミコトは一人ゴーレムの攻撃範囲に侵入する。
 素早い身のこなしで地を駆けつつも、放つ銃撃は巨体を外さない。足元や手元を狙い射撃を重ねていく。
 だが、全身岩のゴーレムは驚異的な防御力を誇る。異端を狩るハンターの銃弾といえど、その鎧を貫く事は容易くはない。
 動き回りながら射撃を繰り返すミコト、その攻撃はダメージとしては微々たるものだが、狙いは果たしていた。
 ゴーレムはもう一方の個体から離れ、ミコトを追い前進してくる。彼女に近づくにつれ、祠と相方との距離は離れていく。
 それこそがハンター達の狙いだった。単体で脅威となるゴーレムを二体同時に相手するのは困難とし、まず一体を集中攻撃し数を減らす策を立てた。
 ミコトの戦闘目的は打倒に非ず。味方が一体を倒すまでの間、囮となって釘付けにする役割だ。
 攻撃はダメージよりも意識を惹く事を狙い、動きを妨害するように銃撃を放つ。
「――ここだっ」
 振り払うゴーレムの腕をかわし、ミコトが敵の懐へと飛び込む。
 覚醒の炎が揺らぎ、少女の体が跳ねる。かかる先は巨体の左足、身につけた鉤爪が岩石の肌へ突き刺さる。だが、
「っ――――!」
 次の瞬間、ミコトは大きく吹き飛ばされ、数メートル離れた荒い地面を転がっていた。
 巨人の放つ蹴りは人間のそれとは比較にならない。動かざるものと守護術の恩恵を受けながらも尚、細い体が悲鳴を上げていた。
 攻撃に巻き込まれぬように距離を取っていたトルステンの目からも、それは重い一撃だった。
「ミコ、もちっと頑張れー……あ、ヤバいか? あんま怪我させっと怒られっからなァ……」
 ヒールを飛ばしつつ、友人の体を気遣うトルステン。だが、心配をよそにミコトはすぐに立ち上がった。
「……大丈夫! もう少し粘るからねっ」
 後方のトルステンにそう返し、ミコトは再度攻撃を開始する。
 軋んでいた肉体をヒールと自らの自己治癒が活性化させていくのを感じていた。
 巨体が繰り出す破壊力は脅威だが、大きい分だけその動作は緩慢だ。攻撃と回避の比重を誤らなければ耐え切ることは可能だろう。

 ミコトとトルステンが一体を相手する間に、残りの者達はもう一方へ火力を集中していた。
「討伐対象を確認。排除します」 
 開戦の言葉を告げ、アレグラが豪腕の届かぬ遠距離から強弾を撃ち込む。
 続き、クオンも射撃攻撃を始める。狙いは頭部と膝。巨体とはいえ、駆動の仕組みは人体のそれと変わらない。膝さえ粉砕すれば動きを止められる筈だ。
 二名の射撃が飛ぶ中を、メリエとロウザの二人は敵への接近を試みる。
 的の巨大さも手伝い、射撃は全て命中している。それでも力不足は否めず、巨兵の動きは鈍らない。
 手足を振るうだけの単純な動作も、有するも超重量により必殺の一撃となる。直撃を受ければダメージは計り知れない。
 ――その、連打。攻撃を受けて尚怯まぬゴーレムはただひたすらに攻撃を繰り返す。遂に地面は破砕され、周囲に小規模な揺れさえも引き起こす。
「殴られても痛いだけだぞ、痛いだけじゃロウザは倒れないぞ!」
 だが、その中を二人のハンターは生き抜いていた。
 防御姿勢を取り、攻撃の大半を引き受けるロウザは自己治癒を重ねる事で怒涛の攻めを乗り切っていく。そして、
「遅いっ!」
 直撃だけは避け、砕けた破片が飛ぶならそれを盾で受け流し、メリエは巨人の足元へ辿り着く。
 突入の勢いのまま、メリエは刀を振るう。二撃、三撃と繰り返される斬撃。接触の度、岩石の体が少しずつ砕けていく。
 前衛の突入に合わせ、後衛も移動していた。位置の修正をしたアレグラは攻撃の手を緩めない。
 砕けた岩の破片を利用した跳弾。レンジ外からも攻撃を可能とする遠射。厚い装甲を穿つ為の強弾。
 二挺の魔導拳銃を繰り、状況に応じた撃ち分けが巨体を襲う。

 ――それでも、巨兵は崩れない。
 巨体は伊達でないと、疲労するハンター達に耐久力を見せつける。
「でも負ける気しないぞ! どんなに硬くても、壊れるまで叩けば良いだけだぞ」
 自らを、仲間達を鼓舞するように叫ぶロウザは言葉通り、猛攻の中を進み攻撃を叩き込む。魔導ドリルの高速回転が岩の肉体を削岩していく。
 それに負けじと、メリエの攻撃も続く。弛まぬ向上心故か、鉄壁を前に戦意は僅かも薄れない。
 事此処に至って戦術など不要。ただひたすらに目の前の相手に打ち込んでいく――ただし、その攻撃、それ全てが渾身の一撃。
 無我の剣閃はただ一念を追い続ける――物質であるのなら、壊せない道理は無い。動かざる岩石が動こうとも、その理だけは曲げられない――!
「ただ質量で潰すしか能がないか! ハイルタイの矢は、こんなもんじゃなかったぞ石くれ!」
 足元の蟻が害為すものと気づいたか、巨兵の攻め手が加速する。しかしかの十三魔と比べれば、鈍重な石人形の攻撃など児戯に等しい。
 ――そして、繰り返される攻撃にやがて巨兵の左足が瓦解する。
 一撃は軽くとも、クオンの膝部への集中攻撃とアレグラの絶え間無い射撃。それら蓄積したダメージがメリエの快心の一撃で炸裂したかの様だった。
 派手な崩壊と共に、巨体が沈んでいく。こうなればもう無力化したようなものだ。
 番人の片翼を制した彼らは、ミコトが抑えるもう一方へも攻撃を開始するのだった。


「ぬふふ! 諸君、良くやってくれた! これで宝は僕らのものだ。さぁ、行くぞ!」
 二体のゴーレムが沈黙すると、それまで完全に身を隠していたラサースがひょっこり現れ、高笑いと共に宣言した。
 激しい戦闘の直後、ハンター達が息を整える間もなく、一人ずかずかと祠へ向かっていく。
「ここで気を抜いたらダメなんだぞ! 祠に仕掛けがないかよく調べるぞ。鍵開けならロウザに任せろ~だぞ!」
 座り込んで休んでいたロウザだがすぐに立ち上がり、鍵開け道具片手にラサースに注意を促しに走る。
 他の者達も取り残されないよう、急ぎ彼らの後を追う。
「……結局、件の老人は現れませんでしたか」
 最後に、クオンが周囲を見渡しながら呟いた。戦闘中も他者の気配は感じられなかった。
 漁夫の利が狙いと警戒していたが、杞憂だったようだ。

 祠の内部は薄暗く、視界が悪かった。アレグラとメリエの二人がランタンを灯し中を照らす。
「何の祠なんですかねぇ……こんなゴーレム配置する程の意味や価値があるんですかねぇ……?」
 暗がりを覗きメリエが言う。外見から予想はついたが、祠の中は部屋が一つだけの質素な造りだった。
「警戒して慎重に進――まないのがいそうだ。ミコちょい待ち! 躓くぞ!」
「何か仕掛けとか罠とかあったりするのかな? 宝の地図にヒントが隠されてたり……ブルーの冒険映画みたいに!」
 楽しそうに、迂闊に暗がりに突っ込んでいくミコトと、彼女の抑止力としてライトを手にしたトルステンが続く。
 だが、そもそも探索、という程の規模にはなりそうにない。狭い室内は実に無個性で、調べるとしても床と壁――そして唯一存在感を示す宝箱が一つあるが、
「…………」
 明かりが照らす箱。それは鍵はおろか蓋が開き中が丸見えになっていた。
 中身は――積もった埃だけ。随分前に開けられた痕跡のある箱は、ただの空箱であった。
 言葉も無く、ラサースが箱の前でうな垂れる。冗談で吹聴していた訳ではなく、本気で宝の存在を信じていた彼には相当ショックだったらしい。
 背後で、アレグラが担いでいたスコップを下ろす音がした。何か埋まってやしないかと祠の周辺を軽く回ったが、成果は無かった。
 残念な沈黙。だが、
「わはは! 元気出せ! また宝の地図買って探せばいいぞ」
 ラサースの背中をポンポン叩きながら笑うロウザの声がそれを破った。
「お金にならなくてもワクワク出来たからロウザは嬉しいぞ」
「ロウザ君……!」
 温かいロウザの言葉に目を潤ませるラサース。嗚呼、哀しい時に必要なのはやはり何よりも人の心なのだ……!
 ロウザに続くように、メリエも落ち込むラサースの肩に手を置く。そして、
「ま、報酬なんて最悪貴方自身を質に入れればいい話ですもんねっ」
 にっこりと、ソフトな死刑宣告を口にした。
「ッ……お、怒っているのか? 怒っているのか、メリエ君!?」
「…………」
 にっこり。
「ほ、報酬はちゃんと払う! その、物で、というか……しょ……食料とかで、勘弁してはいただけないでしょうか……?」
 と、ラサースは荷物から携帯食料を取り出し突きつける。
 ゴーレム二体を戦わせておいてこれでは報酬としてはあまりに破格であるが――無論、駄目な方向で。この結果に納得がいくかどうかは、各々方次第である。
 結局、宝は無かった。だが祠があった以上、地図は本物だったのだ。老人は既に宝が無いのを承知で地図を売りつけただけなのかもしれない。
 この場に本人がいない以上、想像の域を出ないのではあるが――――

 ちなみに。騒ぐラサース達の後ろでは、
「お宝無かったねー、ステン君……残念だなぁ」
「別に。俺は最初から無いと思ってたし」
「そっかー……」
 そっけなく答えながら、トルステンは祠から出る。ミコトも肩を落としてそれに付いて続く。
「…………」
「…………」
「……ステン君、やっぱりがっかりしてない?」
「…………」
 ラサースの他にもう一人、静かに深く落ち込む者がいたとか。

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MVP一覧

  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルスka3953

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • わんぱく娘
    ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920
    ドワーフ|10才|女性|霊闘士
  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテル(ka3946
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 海読みの射手
    アレグラ・スパーダ(ka4360
    人間(紅)|21才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン お宝を求めてっ
ミコト=S=レグルス(ka3953
人間(リアルブルー)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/03/14 00:42:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/09 04:55:42