ゲスト
(ka0000)
あの味をもう一度
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/13 19:00
- 完成日
- 2015/03/18 02:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●一人の依頼人
王都イルダーナのとあるハンターオフィスで。
時間はまだ早朝だ。誰もいない施設の中で、カウンターにいる一人の受付嬢はあくびをかみころしていた。
バタン!
そんな彼女を一瞬で覚醒させるような音が響き、受付嬢は慌てて顔をそちらに向ける。
入り口に立っていたのは一人の男。
もうすぐしたら初老に達するか、といった風情であった。
男はなぜかそそくさと掲示板へと近寄り、一枚の紙を勝手に貼り付ける。
そこにでかでかと書かれていた文字は……。
【求む! 幻獣!】
「ってなにやってるんですか!?」
あんまりといえばあんまりな内容に、受付嬢はカウンターを抜けて男の側にやってきた。
いたずらを咎められた子供のように、男は舌打ちせんばかりの態度である。
「なんだね? ここはハンターに依頼をする場所なのだろう。ならば、わしがやっていることに何も問題はないはずだが?」
「大有りですよ! そもそも他の紙を隠すように貼っておいて何を言ってるんですか!?」
受付嬢は顔をしかめて男が貼り付けた紙をはがし、それをそのまま突きつける。
「いったいこれはどういう意味ですか!? なんですか【求む! 幻獣!】って!?」
「そのままだよ、娘さん。わしは幻獣が欲しい。いや、正確に言えば幻獣の肉が欲しいのだ」
「肉!? いったい何に使うんです!?」
「決まっておろう。食べるのだ」
「食べるぅ!?」
受付嬢はすっとんきょうな悲鳴をあげるが、幸いそれを耳にしたのは目の前の男だけだ。
「ええと、く、詳しい話をお聞きしても?」
「よかろう。あれは40年くらい前のことだ。わしの生まれはここから遥か北にある小さな村でな。わしはそこを出て、この王都イルダーナにやってくるところであった。その時のわしは希望に溢れておった。きっと前途には輝かしい未来が待っておると……」
「あの、すみません。できたら必要ない箇所は省略していただけると……」
話の腰を折られ、一瞬男は不愉快そうな顔をしたものの、要点だけをまとめた説明をし始める。
「……まあ、かいつまんで言うとな。村からここへと来る時に大人しく街道を通ればよかったのに、何を考えたのか荒野を突っ切ろうと思ったのだ」
「なんでそんな無茶を!?」
王都イルダーナの北に広がる荒野は危険な場所として知られている。男が口にした通り、南北に伸びる街道を通りさえすればその危険度も大きく低下するのだが。
「若気の至りだろう。ま、それはともかく、続けるぞ。そして情けない話だがわしは結局荒野で迷ってしまってな。何も食べるものはなく、飲むものはなく……疲れきって途方に暮れておった」
受付嬢は何も言わず、話の続きを待っている。
「だが、そこでわしはあるハンターの一団と出会った。わしの窮状が分かったのだろう。食事中だった彼らはわしを招き入れ、水なども心良く分けてくれた。ハンター達は鍋を囲んでいたが、その中の肉をわしによそってくれたのだ。空腹だったわしはもちろんがつがつとかきこんだ。それは塩で味付けされた肉だったが、とても美味かった! ……その味が今でも忘れられず、もう一度食べたいと思ったのだ」
「なるほど、それはなんと言えばいいか、結構素敵な経験をされましたね」
受付嬢の言葉にありがとうと答える男。
「そしてその時、元気になったわしは、これはいったい何の肉なのか、と彼らに尋ねたのだがな。彼らは小さく笑いながらはぐらかすばかりだった」
「それでは、なんのお肉なのか分からないじゃないですか」
「まだ続きがある。若い者はせっかちで困る」
受付嬢は内心イラッとしながらも、男が再び話しだした物語に耳を傾けた。
●昔の話
『おっと、またお出ましだぜ』
――ハンターの一人が突然叫び、彼らは臨戦態勢になった。わしはもちろん戦いの心得なんぞない。ハンター達があわただしく立ち上がるのにならって、わしも立ち上がりはしたが、どうすればいいかも分からんかった。わしに出来たのは、おっかない気配がするほうに視線をやるくらいのものだ。そしてわしは見た。
――そこにおったのは、一体の大きな化け物だった。足がたくさんあってな、しかも大きな尻尾がある。体の前にははさみもついていた。そう……巨大なサソリだ。
「サ、サソリーっ!?」
ハンターオフィスの受付嬢といえど、やはりそういう生物は生理的に受け付けないのか悲鳴をあげる彼女。しかし男の昔話は止まらない。
『君はここに隠れていなさい。危ないから出てきてはいけない』
――その言葉に従い、わしは素直にテントの中に隠れた。しばらく戦いの音が聞こえてくるが、やがてその音も止んだ。
『よし、これで数日分になったな』
『お前、こいつが大好きだからな』
『私はちょっと……やっぱ駄目だわ』
『そういえば、さっきも食べてなかったね』
――彼らの話し声がテント越しに聞こえてきた。わしは、去ったらしい脅威にほっとし、彼らの会話の意味を理解することもなく、ハンター達の無事な姿を見るためにテントから出て行った……。
●肉の正体
「これで昔話は終わりだ」
長い話を終え、男はほっと一息ついた。受付嬢の顔は、なぜか真っ青になっている。
「……まさか……まさか……まさか……」
男は、にやりと笑った。
「そう……その時は言葉の意味に気付かなかったのだがな、あの時わしが食べたのは巨大サソリの肉だったというわけだ」
「いやあああああああああああああああああ!!」
喉も枯れんばかりの悲鳴をあげる受付嬢。しかし、初老の男の笑みはますます深くなるばかりだ。
「そのことに気付いたわしは、いろいろと調べてみたのだよ。幻獣の名も分かっている。ヒュージスコーピオンというらしい」
受付嬢は聞きたくないとばかりに頭を左右に振っている。
「こいつの外殻は結構硬くてな。内部の肉だけを取り出してから、塩で味付けして油で揚げるのだ。そうすれば、あの時の味が再現できるはず……ああ、いかん! よだれが出てきおったわ!」
受付嬢は男を見た。それこそ蛇蝎を見るような怯えた目で。
男は一人興奮していたことに気付き、軽く咳払いをする。
「わしももうあまり長くはないだろう。死ぬ前にあの味をもう一度、というわけだ」
改めて受付嬢に依頼の話をしはじめる男。
「ハンターに依頼するお金は工面してきた。もちろん依頼内容はヒュージスコーピオンを討伐すること。ちなみに結構強いらしいから、準備はしっかりとしてもらったほうがいいだろう。ああ、そうそう。サソリの調理はわしが引き受けるとハンターには伝えておいてくれ」
王都イルダーナのとあるハンターオフィスで。
時間はまだ早朝だ。誰もいない施設の中で、カウンターにいる一人の受付嬢はあくびをかみころしていた。
バタン!
そんな彼女を一瞬で覚醒させるような音が響き、受付嬢は慌てて顔をそちらに向ける。
入り口に立っていたのは一人の男。
もうすぐしたら初老に達するか、といった風情であった。
男はなぜかそそくさと掲示板へと近寄り、一枚の紙を勝手に貼り付ける。
そこにでかでかと書かれていた文字は……。
【求む! 幻獣!】
「ってなにやってるんですか!?」
あんまりといえばあんまりな内容に、受付嬢はカウンターを抜けて男の側にやってきた。
いたずらを咎められた子供のように、男は舌打ちせんばかりの態度である。
「なんだね? ここはハンターに依頼をする場所なのだろう。ならば、わしがやっていることに何も問題はないはずだが?」
「大有りですよ! そもそも他の紙を隠すように貼っておいて何を言ってるんですか!?」
受付嬢は顔をしかめて男が貼り付けた紙をはがし、それをそのまま突きつける。
「いったいこれはどういう意味ですか!? なんですか【求む! 幻獣!】って!?」
「そのままだよ、娘さん。わしは幻獣が欲しい。いや、正確に言えば幻獣の肉が欲しいのだ」
「肉!? いったい何に使うんです!?」
「決まっておろう。食べるのだ」
「食べるぅ!?」
受付嬢はすっとんきょうな悲鳴をあげるが、幸いそれを耳にしたのは目の前の男だけだ。
「ええと、く、詳しい話をお聞きしても?」
「よかろう。あれは40年くらい前のことだ。わしの生まれはここから遥か北にある小さな村でな。わしはそこを出て、この王都イルダーナにやってくるところであった。その時のわしは希望に溢れておった。きっと前途には輝かしい未来が待っておると……」
「あの、すみません。できたら必要ない箇所は省略していただけると……」
話の腰を折られ、一瞬男は不愉快そうな顔をしたものの、要点だけをまとめた説明をし始める。
「……まあ、かいつまんで言うとな。村からここへと来る時に大人しく街道を通ればよかったのに、何を考えたのか荒野を突っ切ろうと思ったのだ」
「なんでそんな無茶を!?」
王都イルダーナの北に広がる荒野は危険な場所として知られている。男が口にした通り、南北に伸びる街道を通りさえすればその危険度も大きく低下するのだが。
「若気の至りだろう。ま、それはともかく、続けるぞ。そして情けない話だがわしは結局荒野で迷ってしまってな。何も食べるものはなく、飲むものはなく……疲れきって途方に暮れておった」
受付嬢は何も言わず、話の続きを待っている。
「だが、そこでわしはあるハンターの一団と出会った。わしの窮状が分かったのだろう。食事中だった彼らはわしを招き入れ、水なども心良く分けてくれた。ハンター達は鍋を囲んでいたが、その中の肉をわしによそってくれたのだ。空腹だったわしはもちろんがつがつとかきこんだ。それは塩で味付けされた肉だったが、とても美味かった! ……その味が今でも忘れられず、もう一度食べたいと思ったのだ」
「なるほど、それはなんと言えばいいか、結構素敵な経験をされましたね」
受付嬢の言葉にありがとうと答える男。
「そしてその時、元気になったわしは、これはいったい何の肉なのか、と彼らに尋ねたのだがな。彼らは小さく笑いながらはぐらかすばかりだった」
「それでは、なんのお肉なのか分からないじゃないですか」
「まだ続きがある。若い者はせっかちで困る」
受付嬢は内心イラッとしながらも、男が再び話しだした物語に耳を傾けた。
●昔の話
『おっと、またお出ましだぜ』
――ハンターの一人が突然叫び、彼らは臨戦態勢になった。わしはもちろん戦いの心得なんぞない。ハンター達があわただしく立ち上がるのにならって、わしも立ち上がりはしたが、どうすればいいかも分からんかった。わしに出来たのは、おっかない気配がするほうに視線をやるくらいのものだ。そしてわしは見た。
――そこにおったのは、一体の大きな化け物だった。足がたくさんあってな、しかも大きな尻尾がある。体の前にははさみもついていた。そう……巨大なサソリだ。
「サ、サソリーっ!?」
ハンターオフィスの受付嬢といえど、やはりそういう生物は生理的に受け付けないのか悲鳴をあげる彼女。しかし男の昔話は止まらない。
『君はここに隠れていなさい。危ないから出てきてはいけない』
――その言葉に従い、わしは素直にテントの中に隠れた。しばらく戦いの音が聞こえてくるが、やがてその音も止んだ。
『よし、これで数日分になったな』
『お前、こいつが大好きだからな』
『私はちょっと……やっぱ駄目だわ』
『そういえば、さっきも食べてなかったね』
――彼らの話し声がテント越しに聞こえてきた。わしは、去ったらしい脅威にほっとし、彼らの会話の意味を理解することもなく、ハンター達の無事な姿を見るためにテントから出て行った……。
●肉の正体
「これで昔話は終わりだ」
長い話を終え、男はほっと一息ついた。受付嬢の顔は、なぜか真っ青になっている。
「……まさか……まさか……まさか……」
男は、にやりと笑った。
「そう……その時は言葉の意味に気付かなかったのだがな、あの時わしが食べたのは巨大サソリの肉だったというわけだ」
「いやあああああああああああああああああ!!」
喉も枯れんばかりの悲鳴をあげる受付嬢。しかし、初老の男の笑みはますます深くなるばかりだ。
「そのことに気付いたわしは、いろいろと調べてみたのだよ。幻獣の名も分かっている。ヒュージスコーピオンというらしい」
受付嬢は聞きたくないとばかりに頭を左右に振っている。
「こいつの外殻は結構硬くてな。内部の肉だけを取り出してから、塩で味付けして油で揚げるのだ。そうすれば、あの時の味が再現できるはず……ああ、いかん! よだれが出てきおったわ!」
受付嬢は男を見た。それこそ蛇蝎を見るような怯えた目で。
男は一人興奮していたことに気付き、軽く咳払いをする。
「わしももうあまり長くはないだろう。死ぬ前にあの味をもう一度、というわけだ」
改めて受付嬢に依頼の話をしはじめる男。
「ハンターに依頼するお金は工面してきた。もちろん依頼内容はヒュージスコーピオンを討伐すること。ちなみに結構強いらしいから、準備はしっかりとしてもらったほうがいいだろう。ああ、そうそう。サソリの調理はわしが引き受けるとハンターには伝えておいてくれ」
リプレイ本文
●
「来たか! 待っておったぞ!」
ここは王都イルダーナの北にある小さな街。転移門の中から現れたハンターの一団に男が駆け寄ってきた。すでに皺の刻まれたその顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「依頼を受けてくれてありがとうな! これであの味をまた堪能できる!」
「思い出の味がサソリさんなのん? 見た目アレでも食べたら美味しいのかも知れないのん。エスカルゴとか、タコとか!」
依頼の内容はもちろんハンター達もすでに知っている。ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は首を小さく傾げながらもその味に想いを馳せた。
「サソリっすか~。エビやカニが食えるんだから食えそうではあるっすけど、食いたいかといわれるとう~ん」
神楽(ka2032)はやはりその幻獣の姿を想像してか、唸っている。
(サソリって何となくエビに似ているからお肉の味も似ているのかしらね? 実はちょっと興味津々なんですよぉ)
(一度食べただけで四十年たっても忘れられない美味さか。こいつは期待できそうだな)
天川 麗美(ka1355)、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は巨大サソリを食すという行為に抵抗はそこまでないらしい。
とはいえ、今回の依頼内容を知っていて集まったメンバーなのだ。全員、サソリの肉の味に対して少なからず興味を抱いていた。
アーサー・ホーガン(ka0471)とメオ・C・ウィスタリア(ka3988)ももちろん同様であろう。
「サソリのから揚げなら食った事はあるが。そんだけデカイとなると、話が全然違ってくるな。どんな味なんだろうなぁ。想像するだけで涎が出そうだ」
「まったくだ! わしもこの日をどれだけ待ちわびたか!」
鹿島 雲雀(ka3706)の言葉にガードナーは本当に涎を垂らさんばかりであった。
「思い出の味を求める気持ちは理解が出来ます」
「おお、そう言ってもらえると嬉しいぞ、お嬢さん」
死んだ母の料理を思い出し、依頼人の願いを叶えようと気持ちを高めるエリス・カルディコット(ka2572)。その言葉にガードナーは笑みを浮かべた。美しい容姿を持つエリスもにこり、と微笑む。
なお、エリスの性別は男である。女性と見紛わんばかりの姿形をしているため、ガードナーが気付かなかったのも無理はない。
「では行くか! 外に馬をつないでおってな。調理道具はそれに積んである。悪いが戦いは任せたぞ」
言うが早いか、ガードナーは足早に歩き出した。
●
荒野を彷徨うこと数時間。
メオが突然立ち止まり、手をひさしのようにかざした。
「巨大サソリか……いい肩慣らしにはなりそうだな。それにしても随分と大きなサソリだな。こんなに遠くでも良く見える……あんなものどうやって調理するんだ」
「おお! ついに見つけたか! ヒュージスコーピオン!」
いち早くサソリの姿を見かけたメオの呟きに対し、ガードナーが歓喜の叫びをあげる。メオの視線の先にはたしかに荒野を蠢く影があった。
ハンター達は一気に距離を詰める。幸い、他に敵の姿もない。サソリも近づく一団に気付き、脚を器用に動かして向き直る。
「幻獣なんざ、見るのも戦るのも初めてだぜ。勿論、食うのもな。さぁて、強さも味も話通りだと良いんだがね」
舌なめずりをせんばかりの表情を浮かべ、キャンドルトライデントを構えるアーサー。周りを囲むハンター達に威嚇のポーズをとるヒュージスコーピオン。珍味を求めての戦いが始まった。
●
ハンター達は打ち合わせどおりに行動を開始した。
アーサー、レイオスの二人はサソリの正面へ。
麗美はいつでも『防御障壁』を行使できるようにしながら、魔導銃を手にサソリから離れた場所で機会を窺う。
神楽は前衛二人のやや後方で待機、エリスも同様だ。
雲雀、メオはアーサー達にサソリの注意が向いたのを見届けてから、お互いサソリを挟むように側面へと回り込む。二人の狙いはサソリの脚である。
ミィナは『ストーンアーマー』を誰に用いるか一瞬思考し、囮の二人にはいざという時に麗美の支援が行われることを鑑みて、自分はメオへの援護を行うことにした。魔法は無事に発動し、土砂の防御がメオの体を覆う。
「思ったよりデカイな。だけど普通のサソリよりもたっぷり身が詰まってそうだ」
サソリを間近で見たレイオスがぽつりと呟く。
彼は事前にヒュージスコーピオンの情報を求めて神霊樹にアクセスしていたが、残念ながら特に弱点と思われるような記載は無かった。むしろ、美味い、とか、酒に合う、とか、そういった食に関することの方が多かったくらいである。一部のハンター達の間で需要があったのであろうか。
レイオスの隣でその巨大なサソリへと槍を振るうアーサー。しかし、それはあくまでサソリの気を引くためのブラフに過ぎない。サソリはアーサーへと鋏を突き出したが、彼はその攻撃を槍で受け流す。
「かははっ、その調子で俺を狙ってこい! 来るのが分かってる攻撃なんざ、そうそう当たらねぇぜ!」
『守りの構え』を取っているアーサーは、目論見通りの展開に上機嫌だ。
レイオスも挑発するように目を狙って太刀を繰り出す。ヒュージスコーピオンはうるさそうに鋏を振るい、彼の武器を弾いた。
「多脚っつってもな。片側の脚全部を上げるのは無理だろ!」
雲雀はスキルの『踏込』を用いながらサソリへと距離を詰め、ギガースアックスを横薙ぎに振るう。見事に脚の一本へと命中し、外殻を断ち割り肉を抉る。
メオも雲雀と同じくギガースアックスを操り、雲雀と同様『踏込』んで脚を粉砕せんと刃を一閃させたが、これは残念ながら幻獣の体をかするだけに留まった。
巨大サソリは痛みに悶えながら、雲雀へと毒針のついた尾を勢いよく振り下ろした。雲雀はからくも身をかわすのに成功する。
麗美は敵の動きを阻害せんと脚を狙って射撃した。幻獣は思い通りに行かない怒りを目の前の戦士二人にぶつけた。大きな鋏をレイオスたちに叩きつける。
アーサーはそれをぎりぎりのところで回避できたものの、レイオスは重い一撃を腕に受けてしまい、上体がぐらついた。
しかしレイオスは前衛として果たすべき役割を続ける為に踏みとどまる。
「やらせないっす!」
前衛の二人を援護する為、神楽は魔導銃「フリューゲル」のトリガーを引く。
「上手く柔らかい箇所に当たってくれれば良いのですが……」
エリスもそう呟きながら、アサルトライフル「ヴォロンテAC47」の銃口をサソリの尻尾へと向けて発砲した。
『シャープシューティング』と『強弾』の組み合わせによる高威力の弾丸が尻尾に命中し、サソリはよろめいた。
レイオスはその間に『マテリアルヒーリング』を用い、己の傷を癒す。
後衛でサソリの隙をうかがっていたミィナは、実は尻尾に飛びついてその毒針をサソリ自身に突き立ててやろうと考えていたのだが、様々な銃弾が雨あられと降り注ぐ中それを行うのは危険だと判断し、その場から『マジックアロー』による攻撃を開始した。
ハンター達の攻撃を一身に受け続ける大サソリ。敵の挙動が鈍ったのを機に雲雀、メオが同時に動く。狙いは尻尾だ。
「どっかの狩りゲーを思い出すな。行くぜ!」
敵の尻尾が綺麗に切断されるイメージが雲雀の脳裏に浮かぶ。メオも彼女と同じように上段に斧を構え、全力で振り下ろした。
まずメオの斧が尻尾の根元付近へと命中し、外殻の破片が飛び散り肉を抉る。しかしまだ切断には至らない。
そこに今度は雲雀のギガースアックスが唸りと共に打ち下ろされる。重厚な刃は、今度こそ見事にサソリの尻尾を根元から切断した。
「うほぅ、美味そうな切断面だな。後が楽しみだ」
悲鳴をあげるサソリを傍らに、雲雀はにやりと笑う。
「後は、仕留めるだけだな。そろそろ全開で行くぜ!」
アーサーは吠えると『守りの構え』から『攻めの構え』へと移行した。隣で肩を並べるレイオスもサソリの口の辺りを狙って『渾身撃』を繰り出す。
「外殻は堅くても内部からならどうだっ!」
二人のエンフォーサーの息の合った攻撃により、サソリの動きはいよいよ弱まっていく。それでも敵はまだ鋏を振るったが、最大の武器である尻尾を奪われた今となっては、もう勝負はついたも同然だった。
先程尻尾を切った二人も敵の胴体へと斧を叩きつける。麗美達の銃弾、ミィナの魔法の矢もそれぞれ幻獣の身体を貫いた。
大きなサソリは一瞬だけ胴体を震わせると、その巨体を荒野にゆっくりと沈め、やがて動かなくなった。
●
「さすがハンター! 見事なもんだ!」
サソリが動かなくなるや否や、ガードナーはハンター達の側に寄ってくると笑顔で彼らをねぎらい、さっそく馬の積荷を下ろし始めた。どうやらここでキャンプをするつもりらしい。
「ばらすのはやるから、料理は任せるぜ。俺は、食えりゃそれで良いって料理しか作れねぇからな」
「……すっきりしたぁ。メオさん、こんなにすっきりしたの久々かもー。と、解体作業だね。こまかーく頑張るよー」
アーサー、それと言葉の通りすっきりした表情のメオを始めとし、ハンター達はそれぞれ解体用の武器や道具を取り出す。麗美はナイフを、ミィナはワイヤーを、といった具合に。
レイオスはサソリを見ながら首を捻る。
「エビとかカニみたいに身を引っ張りだすしかないか?」
彼が神霊樹で得た情報では、殻が硬いので先に解体すべき、といった程度の記述しかなかった為、いまいち良い方法が分からない。
何はともあれ、気長に解体作業を行うしかなさそうであった。
「えっと、甲殻類は曲がる方とは反対に折れば外れ易い筈なのん」
ミィナは皮の薄い部分にワイヤーカッターを当てて切れ目を入れ、全体重かけて引っ張っている。
「うっ……何か変な液が……汚れ取れますでしょうか?」
エリスは自分のナイフや服に付着した汚れを気にしながらも、作業を続けた。
依頼時の言葉通り解体をハンターに任せているガードナーはすでにキャンプの準備を終え、火を熾すところであった。
「ところでおっさん、料理の経験はあるんすか? いつもは奥さんに任せて料理は一切しないけど、ヒュージスコーピオンの料理は調べたから大丈夫とか言わないっすよね?」
神楽の言葉にガードナーは豪快に笑う。
「心配はいらん! わしに任せておけ!」
「ならいーっす! 手伝ってやるんでとっとと作るっすよ~!」
「ヒュージスコーピオンの料理に関してわしがどれだけ調べたと思っている? 料理自体は初めてだがなんとかなる!」
「これは駄目なパターンっすよ! 誰か料理出来る奴手伝ってやれっす!」
神楽は顔色を変え、仲間達の方を振り返った。
麗美はその言葉に手伝いを申し出る。
(わたしも少しは料理の心得がありますからね)
解体作業中だった麗美はガードナーの側にやってきた。エリスも続いて手を挙げる。どうやら試したい料理があるようだ。レイオスも料理の知識があるらしく、手伝いに名乗りをあげた。
「塩で味付けして油で揚げるってことは、フリッターなのかしら」
ガードナーの話を聞いた麗美の呟き。初老の男は笑顔を浮かべる。
「おう! そのフリッカーだかスリッパーだかだ! おそらく!」
「……どうせ食べるなら美味しい料理にしなくちゃいけないわね」
ガードナーに任せることに一抹の不安を抱いていた麗美だったが、どうやら予感は的中したようだ。
エリスも料理に詳しそうな彼女に、単純に焼いたものから、薄くスライスしてしゃぶしゃぶにしたもの、ミンチにして団子にしたもの、など、自分が作ってみたい料理の方向性を伝える。
麗美はうなずき、ガードナーが準備してきた材料を見ながら、おそらくなんとかなるだろうと答える。一応ガードナーも含める形で、四人は料理の準備を開始した。
●
「いただきまーすっす!」
西に太陽が沈んでいこうとする中、ついに料理は完成した。
神楽の食前の挨拶を皮切りに、ハンター達はサソリの肉が載せられた皿に手を伸ばす。 最初に口の中に放り込んだのはミィナ。やはり素材が気になるのか、目を閉じたまま一口だけぱくんっ、といった。
「……ん? 意外と普通に食べられるのん! カニさんやエビさんとも違う味なのん」
まぶたを開けた彼女は素直な感想を漏らす。その隣ではガードナーが泣き出さんばかりに舌鼓を打っていた。
「おお……これだ……この味だ……なつかしいぞ!」
雲雀もサソリの肉を摘み上げた。
「何かこう、でかいエビみたいなイメージが湧くが。さって、どんな味かな」
豪快に一口。飲み込んだ後の彼女の表情が、サソリ肉の味を物語っていた。
「んー! こいつぁいいな。なぁ、酒はねーのか?」
雲雀の言葉にガードナーはにやりと笑う。
「わしに抜かりはないぞ?」
「おお! 気が利いてるじゃねーか! いただくぜ!」
雲雀は気色満面でガードナーが取り出した瓶を受け取る。
「お、こりゃ美味ぇな。確かに言うだけの事はあるぜ」
アーサーもサソリの味に満足気だ。
「どんな味かっつうと、カニのような、エビのような、鶏肉と言われりゃそうかもしれねぇし……。まあ、要するに美味ぇ味だ」
レイオスも仲間の言葉に頷く。
「デカイやつだが大味じゃない。結構イケルぜ」
焚き火にハンター達の笑顔が照らされる。
サソリ肉をもとよりたくさん食べる気だったメオは、矢継ぎ早にいろいろな皿に手を伸ばし、神楽と一緒に食べ比べを行っている。
エリスが提案したものを含め、様々な料理が瞬く間になくなっていく。仲間達の食べっぷりにエリスも笑みを浮かべる。麗美も自分主導で作った料理が好評で嬉しそうだ。
結局荒野で一夜を明かすこととなったハンター達であったが、夜は雲雀を始めとして酒や料理を全員心行くまで味わい、楽しいひと時となった。
●
「ああ……さらば荒野よ……ヒュージスコーピオンよ……」
翌朝、ガードナーは荒野を去る前にぽつりと呟いた。なにやら未練がある様子である。まだ解体がすんでいないサソリが地面に残っているが、さすがに何泊もするわけにもいかない。
「はい!」
「む? これは?」
ミィナがガードナーの手に何かを渡す。一瞬きょとんとしたガードナーであったが、その顔がみるみる輝いていく。それはタコ糸で縛られたサソリの肉であった。
「干し肉なのん! これならおじいちゃんがまた食べたくなってもしばらく持つのん!」
まだあまり時間が経っていない為、正確には干し肉風であるが、料理に使うものとは別に確保していた肉からミィナが作成しておいたものだ。
「なんと! これはすばらしい! ありがとうなお嬢ちゃん!」
「どういたしまして! いっぱい作ったから欲しい人も持って帰れるのん!」
「お持ち帰り出来るならお友達にも食べさせてあげたいかもー」
メオを含めたハンター達はミィナから干し肉を受け取った。これもまた、この戦いの思い出の一品となるだろう。
「来たか! 待っておったぞ!」
ここは王都イルダーナの北にある小さな街。転移門の中から現れたハンターの一団に男が駆け寄ってきた。すでに皺の刻まれたその顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「依頼を受けてくれてありがとうな! これであの味をまた堪能できる!」
「思い出の味がサソリさんなのん? 見た目アレでも食べたら美味しいのかも知れないのん。エスカルゴとか、タコとか!」
依頼の内容はもちろんハンター達もすでに知っている。ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は首を小さく傾げながらもその味に想いを馳せた。
「サソリっすか~。エビやカニが食えるんだから食えそうではあるっすけど、食いたいかといわれるとう~ん」
神楽(ka2032)はやはりその幻獣の姿を想像してか、唸っている。
(サソリって何となくエビに似ているからお肉の味も似ているのかしらね? 実はちょっと興味津々なんですよぉ)
(一度食べただけで四十年たっても忘れられない美味さか。こいつは期待できそうだな)
天川 麗美(ka1355)、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は巨大サソリを食すという行為に抵抗はそこまでないらしい。
とはいえ、今回の依頼内容を知っていて集まったメンバーなのだ。全員、サソリの肉の味に対して少なからず興味を抱いていた。
アーサー・ホーガン(ka0471)とメオ・C・ウィスタリア(ka3988)ももちろん同様であろう。
「サソリのから揚げなら食った事はあるが。そんだけデカイとなると、話が全然違ってくるな。どんな味なんだろうなぁ。想像するだけで涎が出そうだ」
「まったくだ! わしもこの日をどれだけ待ちわびたか!」
鹿島 雲雀(ka3706)の言葉にガードナーは本当に涎を垂らさんばかりであった。
「思い出の味を求める気持ちは理解が出来ます」
「おお、そう言ってもらえると嬉しいぞ、お嬢さん」
死んだ母の料理を思い出し、依頼人の願いを叶えようと気持ちを高めるエリス・カルディコット(ka2572)。その言葉にガードナーは笑みを浮かべた。美しい容姿を持つエリスもにこり、と微笑む。
なお、エリスの性別は男である。女性と見紛わんばかりの姿形をしているため、ガードナーが気付かなかったのも無理はない。
「では行くか! 外に馬をつないでおってな。調理道具はそれに積んである。悪いが戦いは任せたぞ」
言うが早いか、ガードナーは足早に歩き出した。
●
荒野を彷徨うこと数時間。
メオが突然立ち止まり、手をひさしのようにかざした。
「巨大サソリか……いい肩慣らしにはなりそうだな。それにしても随分と大きなサソリだな。こんなに遠くでも良く見える……あんなものどうやって調理するんだ」
「おお! ついに見つけたか! ヒュージスコーピオン!」
いち早くサソリの姿を見かけたメオの呟きに対し、ガードナーが歓喜の叫びをあげる。メオの視線の先にはたしかに荒野を蠢く影があった。
ハンター達は一気に距離を詰める。幸い、他に敵の姿もない。サソリも近づく一団に気付き、脚を器用に動かして向き直る。
「幻獣なんざ、見るのも戦るのも初めてだぜ。勿論、食うのもな。さぁて、強さも味も話通りだと良いんだがね」
舌なめずりをせんばかりの表情を浮かべ、キャンドルトライデントを構えるアーサー。周りを囲むハンター達に威嚇のポーズをとるヒュージスコーピオン。珍味を求めての戦いが始まった。
●
ハンター達は打ち合わせどおりに行動を開始した。
アーサー、レイオスの二人はサソリの正面へ。
麗美はいつでも『防御障壁』を行使できるようにしながら、魔導銃を手にサソリから離れた場所で機会を窺う。
神楽は前衛二人のやや後方で待機、エリスも同様だ。
雲雀、メオはアーサー達にサソリの注意が向いたのを見届けてから、お互いサソリを挟むように側面へと回り込む。二人の狙いはサソリの脚である。
ミィナは『ストーンアーマー』を誰に用いるか一瞬思考し、囮の二人にはいざという時に麗美の支援が行われることを鑑みて、自分はメオへの援護を行うことにした。魔法は無事に発動し、土砂の防御がメオの体を覆う。
「思ったよりデカイな。だけど普通のサソリよりもたっぷり身が詰まってそうだ」
サソリを間近で見たレイオスがぽつりと呟く。
彼は事前にヒュージスコーピオンの情報を求めて神霊樹にアクセスしていたが、残念ながら特に弱点と思われるような記載は無かった。むしろ、美味い、とか、酒に合う、とか、そういった食に関することの方が多かったくらいである。一部のハンター達の間で需要があったのであろうか。
レイオスの隣でその巨大なサソリへと槍を振るうアーサー。しかし、それはあくまでサソリの気を引くためのブラフに過ぎない。サソリはアーサーへと鋏を突き出したが、彼はその攻撃を槍で受け流す。
「かははっ、その調子で俺を狙ってこい! 来るのが分かってる攻撃なんざ、そうそう当たらねぇぜ!」
『守りの構え』を取っているアーサーは、目論見通りの展開に上機嫌だ。
レイオスも挑発するように目を狙って太刀を繰り出す。ヒュージスコーピオンはうるさそうに鋏を振るい、彼の武器を弾いた。
「多脚っつってもな。片側の脚全部を上げるのは無理だろ!」
雲雀はスキルの『踏込』を用いながらサソリへと距離を詰め、ギガースアックスを横薙ぎに振るう。見事に脚の一本へと命中し、外殻を断ち割り肉を抉る。
メオも雲雀と同じくギガースアックスを操り、雲雀と同様『踏込』んで脚を粉砕せんと刃を一閃させたが、これは残念ながら幻獣の体をかするだけに留まった。
巨大サソリは痛みに悶えながら、雲雀へと毒針のついた尾を勢いよく振り下ろした。雲雀はからくも身をかわすのに成功する。
麗美は敵の動きを阻害せんと脚を狙って射撃した。幻獣は思い通りに行かない怒りを目の前の戦士二人にぶつけた。大きな鋏をレイオスたちに叩きつける。
アーサーはそれをぎりぎりのところで回避できたものの、レイオスは重い一撃を腕に受けてしまい、上体がぐらついた。
しかしレイオスは前衛として果たすべき役割を続ける為に踏みとどまる。
「やらせないっす!」
前衛の二人を援護する為、神楽は魔導銃「フリューゲル」のトリガーを引く。
「上手く柔らかい箇所に当たってくれれば良いのですが……」
エリスもそう呟きながら、アサルトライフル「ヴォロンテAC47」の銃口をサソリの尻尾へと向けて発砲した。
『シャープシューティング』と『強弾』の組み合わせによる高威力の弾丸が尻尾に命中し、サソリはよろめいた。
レイオスはその間に『マテリアルヒーリング』を用い、己の傷を癒す。
後衛でサソリの隙をうかがっていたミィナは、実は尻尾に飛びついてその毒針をサソリ自身に突き立ててやろうと考えていたのだが、様々な銃弾が雨あられと降り注ぐ中それを行うのは危険だと判断し、その場から『マジックアロー』による攻撃を開始した。
ハンター達の攻撃を一身に受け続ける大サソリ。敵の挙動が鈍ったのを機に雲雀、メオが同時に動く。狙いは尻尾だ。
「どっかの狩りゲーを思い出すな。行くぜ!」
敵の尻尾が綺麗に切断されるイメージが雲雀の脳裏に浮かぶ。メオも彼女と同じように上段に斧を構え、全力で振り下ろした。
まずメオの斧が尻尾の根元付近へと命中し、外殻の破片が飛び散り肉を抉る。しかしまだ切断には至らない。
そこに今度は雲雀のギガースアックスが唸りと共に打ち下ろされる。重厚な刃は、今度こそ見事にサソリの尻尾を根元から切断した。
「うほぅ、美味そうな切断面だな。後が楽しみだ」
悲鳴をあげるサソリを傍らに、雲雀はにやりと笑う。
「後は、仕留めるだけだな。そろそろ全開で行くぜ!」
アーサーは吠えると『守りの構え』から『攻めの構え』へと移行した。隣で肩を並べるレイオスもサソリの口の辺りを狙って『渾身撃』を繰り出す。
「外殻は堅くても内部からならどうだっ!」
二人のエンフォーサーの息の合った攻撃により、サソリの動きはいよいよ弱まっていく。それでも敵はまだ鋏を振るったが、最大の武器である尻尾を奪われた今となっては、もう勝負はついたも同然だった。
先程尻尾を切った二人も敵の胴体へと斧を叩きつける。麗美達の銃弾、ミィナの魔法の矢もそれぞれ幻獣の身体を貫いた。
大きなサソリは一瞬だけ胴体を震わせると、その巨体を荒野にゆっくりと沈め、やがて動かなくなった。
●
「さすがハンター! 見事なもんだ!」
サソリが動かなくなるや否や、ガードナーはハンター達の側に寄ってくると笑顔で彼らをねぎらい、さっそく馬の積荷を下ろし始めた。どうやらここでキャンプをするつもりらしい。
「ばらすのはやるから、料理は任せるぜ。俺は、食えりゃそれで良いって料理しか作れねぇからな」
「……すっきりしたぁ。メオさん、こんなにすっきりしたの久々かもー。と、解体作業だね。こまかーく頑張るよー」
アーサー、それと言葉の通りすっきりした表情のメオを始めとし、ハンター達はそれぞれ解体用の武器や道具を取り出す。麗美はナイフを、ミィナはワイヤーを、といった具合に。
レイオスはサソリを見ながら首を捻る。
「エビとかカニみたいに身を引っ張りだすしかないか?」
彼が神霊樹で得た情報では、殻が硬いので先に解体すべき、といった程度の記述しかなかった為、いまいち良い方法が分からない。
何はともあれ、気長に解体作業を行うしかなさそうであった。
「えっと、甲殻類は曲がる方とは反対に折れば外れ易い筈なのん」
ミィナは皮の薄い部分にワイヤーカッターを当てて切れ目を入れ、全体重かけて引っ張っている。
「うっ……何か変な液が……汚れ取れますでしょうか?」
エリスは自分のナイフや服に付着した汚れを気にしながらも、作業を続けた。
依頼時の言葉通り解体をハンターに任せているガードナーはすでにキャンプの準備を終え、火を熾すところであった。
「ところでおっさん、料理の経験はあるんすか? いつもは奥さんに任せて料理は一切しないけど、ヒュージスコーピオンの料理は調べたから大丈夫とか言わないっすよね?」
神楽の言葉にガードナーは豪快に笑う。
「心配はいらん! わしに任せておけ!」
「ならいーっす! 手伝ってやるんでとっとと作るっすよ~!」
「ヒュージスコーピオンの料理に関してわしがどれだけ調べたと思っている? 料理自体は初めてだがなんとかなる!」
「これは駄目なパターンっすよ! 誰か料理出来る奴手伝ってやれっす!」
神楽は顔色を変え、仲間達の方を振り返った。
麗美はその言葉に手伝いを申し出る。
(わたしも少しは料理の心得がありますからね)
解体作業中だった麗美はガードナーの側にやってきた。エリスも続いて手を挙げる。どうやら試したい料理があるようだ。レイオスも料理の知識があるらしく、手伝いに名乗りをあげた。
「塩で味付けして油で揚げるってことは、フリッターなのかしら」
ガードナーの話を聞いた麗美の呟き。初老の男は笑顔を浮かべる。
「おう! そのフリッカーだかスリッパーだかだ! おそらく!」
「……どうせ食べるなら美味しい料理にしなくちゃいけないわね」
ガードナーに任せることに一抹の不安を抱いていた麗美だったが、どうやら予感は的中したようだ。
エリスも料理に詳しそうな彼女に、単純に焼いたものから、薄くスライスしてしゃぶしゃぶにしたもの、ミンチにして団子にしたもの、など、自分が作ってみたい料理の方向性を伝える。
麗美はうなずき、ガードナーが準備してきた材料を見ながら、おそらくなんとかなるだろうと答える。一応ガードナーも含める形で、四人は料理の準備を開始した。
●
「いただきまーすっす!」
西に太陽が沈んでいこうとする中、ついに料理は完成した。
神楽の食前の挨拶を皮切りに、ハンター達はサソリの肉が載せられた皿に手を伸ばす。 最初に口の中に放り込んだのはミィナ。やはり素材が気になるのか、目を閉じたまま一口だけぱくんっ、といった。
「……ん? 意外と普通に食べられるのん! カニさんやエビさんとも違う味なのん」
まぶたを開けた彼女は素直な感想を漏らす。その隣ではガードナーが泣き出さんばかりに舌鼓を打っていた。
「おお……これだ……この味だ……なつかしいぞ!」
雲雀もサソリの肉を摘み上げた。
「何かこう、でかいエビみたいなイメージが湧くが。さって、どんな味かな」
豪快に一口。飲み込んだ後の彼女の表情が、サソリ肉の味を物語っていた。
「んー! こいつぁいいな。なぁ、酒はねーのか?」
雲雀の言葉にガードナーはにやりと笑う。
「わしに抜かりはないぞ?」
「おお! 気が利いてるじゃねーか! いただくぜ!」
雲雀は気色満面でガードナーが取り出した瓶を受け取る。
「お、こりゃ美味ぇな。確かに言うだけの事はあるぜ」
アーサーもサソリの味に満足気だ。
「どんな味かっつうと、カニのような、エビのような、鶏肉と言われりゃそうかもしれねぇし……。まあ、要するに美味ぇ味だ」
レイオスも仲間の言葉に頷く。
「デカイやつだが大味じゃない。結構イケルぜ」
焚き火にハンター達の笑顔が照らされる。
サソリ肉をもとよりたくさん食べる気だったメオは、矢継ぎ早にいろいろな皿に手を伸ばし、神楽と一緒に食べ比べを行っている。
エリスが提案したものを含め、様々な料理が瞬く間になくなっていく。仲間達の食べっぷりにエリスも笑みを浮かべる。麗美も自分主導で作った料理が好評で嬉しそうだ。
結局荒野で一夜を明かすこととなったハンター達であったが、夜は雲雀を始めとして酒や料理を全員心行くまで味わい、楽しいひと時となった。
●
「ああ……さらば荒野よ……ヒュージスコーピオンよ……」
翌朝、ガードナーは荒野を去る前にぽつりと呟いた。なにやら未練がある様子である。まだ解体がすんでいないサソリが地面に残っているが、さすがに何泊もするわけにもいかない。
「はい!」
「む? これは?」
ミィナがガードナーの手に何かを渡す。一瞬きょとんとしたガードナーであったが、その顔がみるみる輝いていく。それはタコ糸で縛られたサソリの肉であった。
「干し肉なのん! これならおじいちゃんがまた食べたくなってもしばらく持つのん!」
まだあまり時間が経っていない為、正確には干し肉風であるが、料理に使うものとは別に確保していた肉からミィナが作成しておいたものだ。
「なんと! これはすばらしい! ありがとうなお嬢ちゃん!」
「どういたしまして! いっぱい作ったから欲しい人も持って帰れるのん!」
「お持ち帰り出来るならお友達にも食べさせてあげたいかもー」
メオを含めたハンター達はミィナから干し肉を受け取った。これもまた、この戦いの思い出の一品となるだろう。
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ヒュージスコーピオン調理相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/03/13 01:39:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/12 22:55:43 |