ゲスト
(ka0000)
臆病者ですみません
マスター:朝海りく

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/12 19:00
- 完成日
- 2015/03/20 21:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●小さな村で、父を想う
窓を開けると、しっとりと冷えた空気が流れ込んできた。
昼間から降り続けているさらさらとした霧雨は、夕食時を過ぎた今もまだ、やむ気配はない。
湿った窓枠に手を掛けた彼女、アリシアは、ひっそりと溜息をついた。その瞳は雨を抜け、自分たちの住む小さな村と市街地とを隔てる、鬱蒼とした暗い森へ向けられている。
「どうしたの?」
背中に幼い声が掛かった。振り返ると、彼女の娘、リナがじっとこちらを見つめている。
「……雨、やまないなあと思って」
彼女は優しく微笑んでから窓を閉めた。娘を不安にさせないよう努めて明るく振舞いながら、木製のテーブルの上でスケッチブックを広げているリナの隣に座る。
「なんの絵を描いてるの?」
「パパの絵。パパが帰ってきたら、プレゼントするの。いつも、お仕事がんばってるから」
クレヨンを握りしめた少女の手は、さまざまな色で汚れている。画用紙にもあちこちに小さな指のあとがついていた。このクレヨンも、そのスケッチブックも、市街地へ出て泊まり込みで働いている夫からの土産だ。
「パパ、きっとすごく喜ぶわね」
リナは嬉しそうに笑うと、ふたたび手を動かし始めた。子供らしい絵で彩られていく画用紙を見つめながら、彼女は夫のことを想う。
ひどく気弱で、とても優しい、家族想いの夫、ベイル。ここ一か月ほど顔を見ていない。二週間前に届いた手紙によれば休みが取れないほどに仕事が忙しいのだという。それでも、娘の6歳の誕生日には必ず帰ると書き添えてあった。
誕生日は、明日だ。
そして、あの森に雑魔が発生していることをアリシアが聞いたのは、昨日のこと。
「………………」
自然とこぼれそうになる溜息を、すんでのところで飲み込んだ。
帰って、こられるのだろうか。いや、彼のことだ。なんとしてでも帰ってこようとするに違いない。しかし雑魔のいる森が危険であることは、彼女も重々知っている。無理だけはしてほしくない。けれど……。
「パパ、帰ってくるかなあ」
雑魔の発生こそ知らずとも、父親の多忙さを想う少女は、明日、とは決して言わない。
何気ないふうを装う娘の言葉に、胸が締め付けられた。
「明日は、とびきりおいしいケーキを作るから。リナの大好きな生クリームをたっぷり乗せて……苺のジャムもたくさんぬって」
リナは、うん、と頷いて笑った。さみしさをひた隠しにする幼い娘。
アリシアはその小さな身体を思わず抱き締めた。
●オフィス支部
ハンターズオフィスの支部に、一人の男が駆け込んできた。
背中に大きな荷物を背負った、ひょろひょろと縦に長い男。年のころは二十代後半くらいだろうか。
初めて訪れるオフィスの雰囲気に戸惑うように眼鏡の奥の瞳を揺らし、長い身体を小さく縮めながら、彼は恐る恐るといった様子で受付に座る女性へと声を掛ける。
「あ、あの、すみません、依頼を、出したいのですが……。え、ええと、出来れば、ちょっと急ぎめで……というか、その、かなり急ぎめで……」
緊張のあまりに口許が引きつった。
しどろもどろになりながらも、彼は、森に発生した雑魔のこと、村で待つ妻子への想いを懸命に説明していく。
その汗ばんだ手には、丁寧に包装された小さな包みがひとつ、しっかりと握られていた。
●依頼内容
「今回は、依頼主であるベイル・オレットの護衛です」
支部から連絡を受けた受付嬢は、集まったハンター1人1人に瞳を向けた。
「彼の滞在している市街地から、村へ帰るために抜けなければならない森の途中に雑魔が発生しています。雑魔から彼を護り、無事に村まで送り届けてあげてください」
発生している雑魔はタヌキに似た姿をしており、確認できただけでも5体以上はいるという。
「外見はタヌキでも、気性はかなり荒いようです。森に入った者を敵と認識し、鋭く発達した爪と牙を駆使して群れで襲い掛かってくるらしく……情報によれば、すでに数人、被害にあった方もいるみたいですね」
彼女いわく、被害者たちは身体中に無数の傷を負ったそうだ。とはいえ、今のところ死者は出ていない。
標的が逃げようとすれば、タヌキの雑魔たちは深追いせずにふたたび森の中に姿を隠すのだ。
「市街地から村へ行くには、その森を抜ける以外に道はありません。彼の身の安全が最優先ではありますが、……敵は雑魔ですし、護衛に加えてきっちりと殲滅していただくのが望ましいですね。よろしくお願いします」
そう告げて締めくくろうとした彼女は、ふと書類の下方へと目を留めた。
「……ああ、それともう一つ。依頼主であるベイルから、ハンターの方々に伝言がありますね。ええと……」
書き足された一文を見た受付の女性は、思わず苦笑をこぼして言葉を切った。そのまま、ハンターたちに見せるように紙を置く。
彼の自筆だろうか、そこには、小さな文字でこう書かれていた。
『僕も頑張りますが、いざというときに腰を抜かしてしまったらすみません』
窓を開けると、しっとりと冷えた空気が流れ込んできた。
昼間から降り続けているさらさらとした霧雨は、夕食時を過ぎた今もまだ、やむ気配はない。
湿った窓枠に手を掛けた彼女、アリシアは、ひっそりと溜息をついた。その瞳は雨を抜け、自分たちの住む小さな村と市街地とを隔てる、鬱蒼とした暗い森へ向けられている。
「どうしたの?」
背中に幼い声が掛かった。振り返ると、彼女の娘、リナがじっとこちらを見つめている。
「……雨、やまないなあと思って」
彼女は優しく微笑んでから窓を閉めた。娘を不安にさせないよう努めて明るく振舞いながら、木製のテーブルの上でスケッチブックを広げているリナの隣に座る。
「なんの絵を描いてるの?」
「パパの絵。パパが帰ってきたら、プレゼントするの。いつも、お仕事がんばってるから」
クレヨンを握りしめた少女の手は、さまざまな色で汚れている。画用紙にもあちこちに小さな指のあとがついていた。このクレヨンも、そのスケッチブックも、市街地へ出て泊まり込みで働いている夫からの土産だ。
「パパ、きっとすごく喜ぶわね」
リナは嬉しそうに笑うと、ふたたび手を動かし始めた。子供らしい絵で彩られていく画用紙を見つめながら、彼女は夫のことを想う。
ひどく気弱で、とても優しい、家族想いの夫、ベイル。ここ一か月ほど顔を見ていない。二週間前に届いた手紙によれば休みが取れないほどに仕事が忙しいのだという。それでも、娘の6歳の誕生日には必ず帰ると書き添えてあった。
誕生日は、明日だ。
そして、あの森に雑魔が発生していることをアリシアが聞いたのは、昨日のこと。
「………………」
自然とこぼれそうになる溜息を、すんでのところで飲み込んだ。
帰って、こられるのだろうか。いや、彼のことだ。なんとしてでも帰ってこようとするに違いない。しかし雑魔のいる森が危険であることは、彼女も重々知っている。無理だけはしてほしくない。けれど……。
「パパ、帰ってくるかなあ」
雑魔の発生こそ知らずとも、父親の多忙さを想う少女は、明日、とは決して言わない。
何気ないふうを装う娘の言葉に、胸が締め付けられた。
「明日は、とびきりおいしいケーキを作るから。リナの大好きな生クリームをたっぷり乗せて……苺のジャムもたくさんぬって」
リナは、うん、と頷いて笑った。さみしさをひた隠しにする幼い娘。
アリシアはその小さな身体を思わず抱き締めた。
●オフィス支部
ハンターズオフィスの支部に、一人の男が駆け込んできた。
背中に大きな荷物を背負った、ひょろひょろと縦に長い男。年のころは二十代後半くらいだろうか。
初めて訪れるオフィスの雰囲気に戸惑うように眼鏡の奥の瞳を揺らし、長い身体を小さく縮めながら、彼は恐る恐るといった様子で受付に座る女性へと声を掛ける。
「あ、あの、すみません、依頼を、出したいのですが……。え、ええと、出来れば、ちょっと急ぎめで……というか、その、かなり急ぎめで……」
緊張のあまりに口許が引きつった。
しどろもどろになりながらも、彼は、森に発生した雑魔のこと、村で待つ妻子への想いを懸命に説明していく。
その汗ばんだ手には、丁寧に包装された小さな包みがひとつ、しっかりと握られていた。
●依頼内容
「今回は、依頼主であるベイル・オレットの護衛です」
支部から連絡を受けた受付嬢は、集まったハンター1人1人に瞳を向けた。
「彼の滞在している市街地から、村へ帰るために抜けなければならない森の途中に雑魔が発生しています。雑魔から彼を護り、無事に村まで送り届けてあげてください」
発生している雑魔はタヌキに似た姿をしており、確認できただけでも5体以上はいるという。
「外見はタヌキでも、気性はかなり荒いようです。森に入った者を敵と認識し、鋭く発達した爪と牙を駆使して群れで襲い掛かってくるらしく……情報によれば、すでに数人、被害にあった方もいるみたいですね」
彼女いわく、被害者たちは身体中に無数の傷を負ったそうだ。とはいえ、今のところ死者は出ていない。
標的が逃げようとすれば、タヌキの雑魔たちは深追いせずにふたたび森の中に姿を隠すのだ。
「市街地から村へ行くには、その森を抜ける以外に道はありません。彼の身の安全が最優先ではありますが、……敵は雑魔ですし、護衛に加えてきっちりと殲滅していただくのが望ましいですね。よろしくお願いします」
そう告げて締めくくろうとした彼女は、ふと書類の下方へと目を留めた。
「……ああ、それともう一つ。依頼主であるベイルから、ハンターの方々に伝言がありますね。ええと……」
書き足された一文を見た受付の女性は、思わず苦笑をこぼして言葉を切った。そのまま、ハンターたちに見せるように紙を置く。
彼の自筆だろうか、そこには、小さな文字でこう書かれていた。
『僕も頑張りますが、いざというときに腰を抜かしてしまったらすみません』
リプレイ本文
●戦いの前に
むせ返るような木々独特の湿った匂い。夕闇に包まれた目の前の森は、やまない霧雨のせいだろうか、ずいぶん陰鬱とした空気に包まれている。
市街地を出発した一行はすでに森の入口へと到達していたが、不安そうに森を見る依頼主を気遣ってか、そのまま進むことはせずに一度その足を止めた。
「大丈夫ですよ、ベイルさん。たぬきさんは捕食対象です。だからベイルさんも、美味しそうとでも思っておけばいいんです!」
怯えるベイルの気分を落ち着かせるべく、ミネット・ベアール(ka3282)がじゅるっと音を立てながら本気とも冗談ともつかない励ましの言葉を掛けた。
予想外の言葉にベイルが瞬いたのを見て、榎本 かなえ(ka3567)が笑みを零す。
「私達が必ず、無事に家まで送り届けます。だから……心配しないで付いて来てくださいね」
帰りを待つ、家族のためにも。それは、口にはしない彼女の想いだ。
「……依頼主様にとって素敵な日がおくれる様、小生がお守りします。お力に、なりたい……です。その……よ、よよよよよよろしくおねがいします」
森から出たばかりのステラ(ka4327)はいまだ緊張しているようだったが、その言葉の端々に、頑張ろうとする彼女の心が垣間見える。
ベイルにとり彼女たちの言葉はとても心強いものだったが、それ故に自分の情けなさにはどうしても眉尻が下がってしまう。
「ありがとう、ございます。……すみません、僕、どうにも臆病なもので……」
「大切な奥さんと娘さんの為に、危険を冒してでも帰ろうとするベイルさんは臆病じゃありません。その想いを大切にしてください」
マナ・ブライト(ka4268)が真っ直ぐに彼を見た。しっかりと目を合わせ、優しく微笑む。
誕生日の娘に会う、そのための試練としては厳しすぎると、辰川 桜子(ka1027)は思う。だからこそ、ベイルを勇気付けるためにも、にっこりと笑顔を見せた。
「きっと娘さんも貴方の事、首をながーくして待ってるでしょうから、一緒に頑張りましょうね、パパさん!」
ベイルは、小さくも強く、頷いた。しかし、包みを握り締めるその手は震えたままだ。
「……すみません。みなさんのおかげで、勇気は出たんです。なのに……」
拭えぬ恐怖を押し殺そうと、ベイルが唇を噛んだ。
そんな彼の姿を、劉 培花(ka4266)は他人事とは思えなかった。自分にも、覚えがある。培花は、眉を下げて笑んだ。
「怖いものは怖いんですし! 恐怖を自分に認めさせた方が、落ち着いていられますよ」
それは、彼だからこそ伝えられる、恐怖への対処法だった。
彼らの励ましやアドバイスに支えられたベイルの瞳が、真っ直ぐに、森へと向いた。
●森の中で
「闇を照らす光よ」
マナの声と共にルーンソードに光が宿った。さらに後衛の桜子がハンディLEDライトを点け、培花がランタンで辺りを照らし出す。
明かりに包まれた彼らは、静かな森の中を進んでいた。
後衛を守る桜子は、森の中で何か動く気配はないか、聴覚と目視で索敵して奇襲に備えていた。ついでに、前を歩くベイルの包みにも意識を向ける。
桜子はその包みをリュックに入れるか縄で身体に括り付けるか出来ないかと提案してみたのだが、申し訳なさそうにベイルが開けた荷物の中は、日用品や土産物が予想以上にギッシリと詰まっていた上、その中に役立ちそうなものは見当たらなかったのだ。
彼女の隣を歩いていた培花もまた、ベイルの丸まった背中に目を向けていた。びくびくと左右を見回しながら歩く彼の足元は、少々危なっかしい。
「どうぞ道中は歩くことに専念してください。……腰を抜かしても僕が背負って行きますから、安心してくださいね」
後衛としてベイルの後ろについていた培花が、笑いながらベイルの肩を軽く叩いた。
「す、すみません……やっぱり、どうも不安で」
すると、ベイルの前を歩いていたマナが、少しでもその不安を和らげようと口を開く。
「そういえば、娘さんはおいくつなんですか?」
その問いかけに、ベイルの口元にわずかに笑みが乗った。
彼らから少しばかりの距離を置いて先行していたミネットは、聴覚と視覚に集中して『雑魔化したタヌキの気配』を探っていた。纏う雰囲気は、覚醒者たるハンターというよりも、どこか狩猟を生業にしている者のようである。
彼女の隣で魔導銃を手に、両側の気配を探っていたかなえが、ふとよぎった疑問を口にした。
「干し肉……雑魔でも食べるんでしょうか?」
彼女の腰には、雑魔を自分の方へおびき寄せるために携行していた干し肉が吊り下がっている。
「きっと食べますよ、たぬきさんですから。私も、囮用の天ぷらが用意できれば良かったんですけど」
急な依頼だったため道中で入手しようと思っていた天ぷら。しかし世界的にも珍しい和食のひとつであるそれは、小さな市街地ではどうしても見つけることが出来なかったのだ。
一方、マナと共に中衛に位置していたステラが、木々の間に視線を走らせた。そろそろ、雑魔が出てもおかしくないところまで来ているはずだ。
「危険区域に入りました。要、警戒です……」
すると、前方を進んでいたかなえの手が上がった。気配を感じ取ったようだ。
培花が、手に持っていたランタンを掲げて木々を照らした。その隙間に浮かぶ、緑色の不気味な光。それが闇の中でタヌキが見せる独特の眼光であることを、培花は知っていた。
「います……!」
光源に反応したのか、それらは中衛、後衛陣の両側に集中している。
「光が消えます、皆さん注意してください」
そう言って光を消したマナに続き、桜子と培花も、武器に持ち替えるために明かりを消した。
薄闇に支配された中に訪れる静寂。先にそれを破ったのは雑魔だった。左右からいっせいに8体が飛び出す。
瞬時に反応したミネットが弓を引いた。マテリアルを宿したその瞳が雑魔の動きを捉える。
「うわぁあああっ!!」
ベイルの情けない声が響き渡った。とっさにマナが一歩後退し、彼に寄り添うように隣に立つ。
「私達が必ず守ります」
優しくも芯のある声がベイルに届く。
それと同時に、ミネットの弓から放たれた矢が空を切った。マナへと駆ける雑魔に一直線に向かい、その身体を射抜く。
短く上がった悲鳴を、鞭のしなる音が掻き消す。精密さを増した培花の手元から繰り出される一撃が、目の前へと迫った敵の足を打つ。
培花と背中合わせになって死角をカバーした桜子もまた、向かってくる雑魔にその長剣を振り下ろした。雑魔は素早く横へと飛びのき、辛うじてその攻撃をかわす。
不意に轟いた発砲音が、雑魔たちの耳を打った。かなえの牽制の一発に雑魔達が足を止め、それからすぐに森の中に逃げ込もうと身を翻した。
「……仕留めます」
背を見せる雑魔に、ステラが飛びかかった。上から拳を叩きつける。強烈なその一打が雑魔の背中に命中し、押し潰された雑魔はそのままこと切れた。
殲滅に専念するステラの瞳が、木陰に隠れる敵を追いかける。
「地の利は敵にあるわ。足場の良いここで、出てくるのを待ち構えたほうがよさそうね」
桜子の言葉に、彼らはその場に留まった。雑魔の立てる微かな音一つ逃さぬよう神経を研ぎ澄ませる。
「ベイルさんは、プレゼントを確り抱えていてくださいね。……光の加護よ」
ハンター達の戦いを間近に見て呆気に取られるベイルに、マナがプロテクションを掛けた。さらに、かなえが防性強化を重ねる。
しばらく様子を窺っていたらしい雑魔達が、不意に何かに気付いたように動き出した。
「そっちに回ったよ!」
前衛陣に注意を促した培花の声に重なるように、再び雑魔が姿を現した。前衛に、左右から4体、その狙いは干し肉だ。かなえが応戦するべく魔導銃を構えた。
ミネットも弓を引いたが、雑魔との距離が近過ぎた。彼女の武器は接近戦には向かない。しかし今ここを離れれば、かなえが危険だ。目前に迫る雑魔に、ミネットは、弓を強く握り締めた。
「ミネットさん、かなえさん……!」
前衛に集中する雑魔に、ステラが声を上げた。培花の表情にも焦りが浮かぶ。援護しようにも、そこからでは距離があるため彼らの攻撃は届かない。
「前方に4体……、残る敵は2体です」
マナが木々の間に目を走らせる。ベイルに余計な不安を与えぬよう言葉を選んだ。
すぐさまベイルが頷く。
「僕は、大丈夫ですからっ……」
「ここは私達に任せて。ベイルさんは必ず守るわ」
桜子の言葉に、培花とステラが瞳を合わせた。共に小さく頷く。ステラが前衛へと駆け出し、培花もまた、ランアウトを使用してそれに続く。
かなえの正面に現れた雑魔が、その腰に噛みついた。さらにもう1体が、彼女の横へと回る。
「させません……!」
牙を剥いた雑魔の身体を、命中率を上げたステラの拳が突き上げる。下方から繰り出された殴打が致命傷を与え、小さな身体を宙に浮かせた。
かなえの腰にしがみついていた雑魔が怯み、離れた。それを機とし、かなえが銃身を振るう。瞬間的に現れた光り輝く刃が、雑魔の身体を分断する。
彼女たちの後ろで、振り下ろされた雑魔の爪を避けたミネットの横をもう1体の雑魔がすり抜けた。食物を奪い取ろうと動くその雑魔の行く手を阻んだのは、培花が放った鞭の一閃だった。脚を打たれた雑魔の動きが、止まる。
彼らの援護を受け、ミネットは敵を射程距離に捉えるべく前方へと走り出す。
一方後衛では、マナと桜子が木陰に身を隠している雑魔の気配を窺っていた。
不意に、木陰を動く影が見えた。1体の雑魔が、マナの目の前に飛び出してくる。
尖った牙をむき出しにした雑魔の攻撃を、彼女は避けなかった。腕に痛みが走る。
「あ、あの、僕のことは、い、いいですからっ……」
自分をかばって攻撃を受ける彼女に、ベイルは上擦った声をあげる。マナはそれを遮った。
「ベイルさん。大丈夫、ですから……っ」
皮膚に食い込む牙に耐えながらも、彼女は笑みを見せる。しかしすぐにその表情が一変した。ベイルの背後から、雑魔が飛び出してきたのだ。
「ベイルさん、下がって!」
すぐさま桜子が反応し、声を上げる。驚きと恐怖に脚をもつれさせながらも後方へ動くベイルと入れ替わり、敵の爪を刀身で受け止めた。そのまま弾き返す。
おろおろと揺れるベイルの目に、雑魔の攻撃に耐えるマナと剣を振るう桜子、そして、その向こうで戦う前衛陣の姿が映る。
距離を取ったミネットから放たれた矢が、構えなく繰り出された培花の鞭が、敵の動きを牽制し、また素早く動くその足に傷を残す。
動きの鈍った敵に、かなえとステラが攻撃を畳みかけた。銃身に宿る光の剣が雑魔の身体を薙ぎ、激しい打撃がもう1体に打ち込まれる。
前衛を襲った雑魔たちは、彼らの連携攻撃によってあっという間に撃破された。
残るは、後衛を襲っている2体。彼らはすぐさま、ベイルを守るマナと桜子の援護に入る。
出現時と違い、正面切って戦えばこの敵はやはりすばしっこい。対峙する桜子の攻撃はなかなか命中には至らなかったが、それでも、ベイルへと向かう隙を与えぬよう、今一度剣を振るった。
桜子の攻撃を避けようとした雑魔の足元に、ミネットの矢が突き立てられる。
「今ですっ!」
牽制射撃により逃げ場を失った雑魔の身体を、振り下ろされた桜子の剣が切り裂いた。
さらに培花の鞭が縦に曲線を描いて空を裂き、執拗にマナに噛みつく雑魔を払いのける。
途端に不利に立たされた雑魔が身を翻した。木陰へと姿を隠そうとした。
「逃がしませんっ……!」
かなえの魔導銃から放たれた弾丸が雑魔の行く手を阻み、ステラの拳がその背中を打った。弾き飛ばされた雑魔の身体が木に激突してずるりと地面に落ちた。
最後の1体は、そのままぴくりとも動かなかった。
●戦いを終えて
「ベイルさん、怪我はありませんか? もし傷があれば家族の方が心配されるかなと……」
ミネットがベイルに声を掛けた。その隣で、仲間たちの回復を終えたマナが微笑む。
「回復なら、私がお役に立てますから」
「あ、いえ、僕は……まったく……」
2人の言葉に、ベイルが慌てて首を振った。ハンターたちの活躍により、ベイルの身体には傷ひとつ、汚れひとつ付いていなかった。もちろん、手に持つ包みも無事である。
「よかったです! 狸汁はごちそうできなかったですけど娘さんの誕生日、楽しんでくださいね!」
ベイルに明るく笑いかけたミネットは、そのままくるりとステラに向き直った。
「ステラさんもお疲れ様です! これからお互い頑張りましょうね!」
「は、はいっ。が、頑張ります……!」
ステラは慌ててそう返しながらも、どこか嬉しそうにこく、とひとつ頷いた。
「ベイルさん、よく耐えました。……さ、もうひと踏ん張りです」
ベイルの隣に立った培花が、そう声を掛ける。
「娘さんのお誕生日、お祝いしに行かなくちゃね」
そう言ってウィンクする桜子。2人の言葉に、ベイルが笑み、頷いた。
マナが再びシャインで辺りを照らし出す。やわらかな光に包まれた一行は、村へと向かった。雨はいつの間にか、やんでいた。
●家族との再会
ベイルの家は、村に入ってすぐのところにあった。
その家の扉は、一行が村へたどり着いて間もなく勢いよく開き、幼い少女が転がるように走り出てきた。
「パパ!」
「リナっ……!」
駆け寄ってきた幼い少女を抱き上げるベイルの相好が崩れる。次いで出てきた女性に、ベイルが、ただいま、と言うと、彼女は、おかえりなさい、と言って微笑んだ。
「なんとお礼を言ったらいいか……本当に、本当にありがとうございます。彼の護衛、大変だったんじゃありませんか?」
「パパ、おくびょうだから」
事の経緯を聞いたベイルの妻アリシアは、彼の隣で悪戯っぽく笑った。彼の腕に抱かれているリナも、それに続いて、にひ、と歯を見せる。当のベイルはといえば、全くもってその通りなので何も言えずに頬を掻いていた。
そんな幸せそうな彼らの姿に、かなえはほっと胸を撫で下ろす反面、安否の知れない自分の家族のことを思い出さずにはいられなかった。僅かに曇る心を押し隠し、それでも、彼女は笑顔を見せた。
お礼にと、アリシアから渡されたケーキの入った包みを持ち帰路につく彼らに、ベイルとアリシアの2人は深く頭を下げていた。不意に、手を上げたリナがその背中に声を掛ける。
「ハンターさん! パパを守ってくれて、ありがとう!」
心から嬉しそうに笑うリナが、大きく、大きく手を振った。
むせ返るような木々独特の湿った匂い。夕闇に包まれた目の前の森は、やまない霧雨のせいだろうか、ずいぶん陰鬱とした空気に包まれている。
市街地を出発した一行はすでに森の入口へと到達していたが、不安そうに森を見る依頼主を気遣ってか、そのまま進むことはせずに一度その足を止めた。
「大丈夫ですよ、ベイルさん。たぬきさんは捕食対象です。だからベイルさんも、美味しそうとでも思っておけばいいんです!」
怯えるベイルの気分を落ち着かせるべく、ミネット・ベアール(ka3282)がじゅるっと音を立てながら本気とも冗談ともつかない励ましの言葉を掛けた。
予想外の言葉にベイルが瞬いたのを見て、榎本 かなえ(ka3567)が笑みを零す。
「私達が必ず、無事に家まで送り届けます。だから……心配しないで付いて来てくださいね」
帰りを待つ、家族のためにも。それは、口にはしない彼女の想いだ。
「……依頼主様にとって素敵な日がおくれる様、小生がお守りします。お力に、なりたい……です。その……よ、よよよよよよろしくおねがいします」
森から出たばかりのステラ(ka4327)はいまだ緊張しているようだったが、その言葉の端々に、頑張ろうとする彼女の心が垣間見える。
ベイルにとり彼女たちの言葉はとても心強いものだったが、それ故に自分の情けなさにはどうしても眉尻が下がってしまう。
「ありがとう、ございます。……すみません、僕、どうにも臆病なもので……」
「大切な奥さんと娘さんの為に、危険を冒してでも帰ろうとするベイルさんは臆病じゃありません。その想いを大切にしてください」
マナ・ブライト(ka4268)が真っ直ぐに彼を見た。しっかりと目を合わせ、優しく微笑む。
誕生日の娘に会う、そのための試練としては厳しすぎると、辰川 桜子(ka1027)は思う。だからこそ、ベイルを勇気付けるためにも、にっこりと笑顔を見せた。
「きっと娘さんも貴方の事、首をながーくして待ってるでしょうから、一緒に頑張りましょうね、パパさん!」
ベイルは、小さくも強く、頷いた。しかし、包みを握り締めるその手は震えたままだ。
「……すみません。みなさんのおかげで、勇気は出たんです。なのに……」
拭えぬ恐怖を押し殺そうと、ベイルが唇を噛んだ。
そんな彼の姿を、劉 培花(ka4266)は他人事とは思えなかった。自分にも、覚えがある。培花は、眉を下げて笑んだ。
「怖いものは怖いんですし! 恐怖を自分に認めさせた方が、落ち着いていられますよ」
それは、彼だからこそ伝えられる、恐怖への対処法だった。
彼らの励ましやアドバイスに支えられたベイルの瞳が、真っ直ぐに、森へと向いた。
●森の中で
「闇を照らす光よ」
マナの声と共にルーンソードに光が宿った。さらに後衛の桜子がハンディLEDライトを点け、培花がランタンで辺りを照らし出す。
明かりに包まれた彼らは、静かな森の中を進んでいた。
後衛を守る桜子は、森の中で何か動く気配はないか、聴覚と目視で索敵して奇襲に備えていた。ついでに、前を歩くベイルの包みにも意識を向ける。
桜子はその包みをリュックに入れるか縄で身体に括り付けるか出来ないかと提案してみたのだが、申し訳なさそうにベイルが開けた荷物の中は、日用品や土産物が予想以上にギッシリと詰まっていた上、その中に役立ちそうなものは見当たらなかったのだ。
彼女の隣を歩いていた培花もまた、ベイルの丸まった背中に目を向けていた。びくびくと左右を見回しながら歩く彼の足元は、少々危なっかしい。
「どうぞ道中は歩くことに専念してください。……腰を抜かしても僕が背負って行きますから、安心してくださいね」
後衛としてベイルの後ろについていた培花が、笑いながらベイルの肩を軽く叩いた。
「す、すみません……やっぱり、どうも不安で」
すると、ベイルの前を歩いていたマナが、少しでもその不安を和らげようと口を開く。
「そういえば、娘さんはおいくつなんですか?」
その問いかけに、ベイルの口元にわずかに笑みが乗った。
彼らから少しばかりの距離を置いて先行していたミネットは、聴覚と視覚に集中して『雑魔化したタヌキの気配』を探っていた。纏う雰囲気は、覚醒者たるハンターというよりも、どこか狩猟を生業にしている者のようである。
彼女の隣で魔導銃を手に、両側の気配を探っていたかなえが、ふとよぎった疑問を口にした。
「干し肉……雑魔でも食べるんでしょうか?」
彼女の腰には、雑魔を自分の方へおびき寄せるために携行していた干し肉が吊り下がっている。
「きっと食べますよ、たぬきさんですから。私も、囮用の天ぷらが用意できれば良かったんですけど」
急な依頼だったため道中で入手しようと思っていた天ぷら。しかし世界的にも珍しい和食のひとつであるそれは、小さな市街地ではどうしても見つけることが出来なかったのだ。
一方、マナと共に中衛に位置していたステラが、木々の間に視線を走らせた。そろそろ、雑魔が出てもおかしくないところまで来ているはずだ。
「危険区域に入りました。要、警戒です……」
すると、前方を進んでいたかなえの手が上がった。気配を感じ取ったようだ。
培花が、手に持っていたランタンを掲げて木々を照らした。その隙間に浮かぶ、緑色の不気味な光。それが闇の中でタヌキが見せる独特の眼光であることを、培花は知っていた。
「います……!」
光源に反応したのか、それらは中衛、後衛陣の両側に集中している。
「光が消えます、皆さん注意してください」
そう言って光を消したマナに続き、桜子と培花も、武器に持ち替えるために明かりを消した。
薄闇に支配された中に訪れる静寂。先にそれを破ったのは雑魔だった。左右からいっせいに8体が飛び出す。
瞬時に反応したミネットが弓を引いた。マテリアルを宿したその瞳が雑魔の動きを捉える。
「うわぁあああっ!!」
ベイルの情けない声が響き渡った。とっさにマナが一歩後退し、彼に寄り添うように隣に立つ。
「私達が必ず守ります」
優しくも芯のある声がベイルに届く。
それと同時に、ミネットの弓から放たれた矢が空を切った。マナへと駆ける雑魔に一直線に向かい、その身体を射抜く。
短く上がった悲鳴を、鞭のしなる音が掻き消す。精密さを増した培花の手元から繰り出される一撃が、目の前へと迫った敵の足を打つ。
培花と背中合わせになって死角をカバーした桜子もまた、向かってくる雑魔にその長剣を振り下ろした。雑魔は素早く横へと飛びのき、辛うじてその攻撃をかわす。
不意に轟いた発砲音が、雑魔たちの耳を打った。かなえの牽制の一発に雑魔達が足を止め、それからすぐに森の中に逃げ込もうと身を翻した。
「……仕留めます」
背を見せる雑魔に、ステラが飛びかかった。上から拳を叩きつける。強烈なその一打が雑魔の背中に命中し、押し潰された雑魔はそのままこと切れた。
殲滅に専念するステラの瞳が、木陰に隠れる敵を追いかける。
「地の利は敵にあるわ。足場の良いここで、出てくるのを待ち構えたほうがよさそうね」
桜子の言葉に、彼らはその場に留まった。雑魔の立てる微かな音一つ逃さぬよう神経を研ぎ澄ませる。
「ベイルさんは、プレゼントを確り抱えていてくださいね。……光の加護よ」
ハンター達の戦いを間近に見て呆気に取られるベイルに、マナがプロテクションを掛けた。さらに、かなえが防性強化を重ねる。
しばらく様子を窺っていたらしい雑魔達が、不意に何かに気付いたように動き出した。
「そっちに回ったよ!」
前衛陣に注意を促した培花の声に重なるように、再び雑魔が姿を現した。前衛に、左右から4体、その狙いは干し肉だ。かなえが応戦するべく魔導銃を構えた。
ミネットも弓を引いたが、雑魔との距離が近過ぎた。彼女の武器は接近戦には向かない。しかし今ここを離れれば、かなえが危険だ。目前に迫る雑魔に、ミネットは、弓を強く握り締めた。
「ミネットさん、かなえさん……!」
前衛に集中する雑魔に、ステラが声を上げた。培花の表情にも焦りが浮かぶ。援護しようにも、そこからでは距離があるため彼らの攻撃は届かない。
「前方に4体……、残る敵は2体です」
マナが木々の間に目を走らせる。ベイルに余計な不安を与えぬよう言葉を選んだ。
すぐさまベイルが頷く。
「僕は、大丈夫ですからっ……」
「ここは私達に任せて。ベイルさんは必ず守るわ」
桜子の言葉に、培花とステラが瞳を合わせた。共に小さく頷く。ステラが前衛へと駆け出し、培花もまた、ランアウトを使用してそれに続く。
かなえの正面に現れた雑魔が、その腰に噛みついた。さらにもう1体が、彼女の横へと回る。
「させません……!」
牙を剥いた雑魔の身体を、命中率を上げたステラの拳が突き上げる。下方から繰り出された殴打が致命傷を与え、小さな身体を宙に浮かせた。
かなえの腰にしがみついていた雑魔が怯み、離れた。それを機とし、かなえが銃身を振るう。瞬間的に現れた光り輝く刃が、雑魔の身体を分断する。
彼女たちの後ろで、振り下ろされた雑魔の爪を避けたミネットの横をもう1体の雑魔がすり抜けた。食物を奪い取ろうと動くその雑魔の行く手を阻んだのは、培花が放った鞭の一閃だった。脚を打たれた雑魔の動きが、止まる。
彼らの援護を受け、ミネットは敵を射程距離に捉えるべく前方へと走り出す。
一方後衛では、マナと桜子が木陰に身を隠している雑魔の気配を窺っていた。
不意に、木陰を動く影が見えた。1体の雑魔が、マナの目の前に飛び出してくる。
尖った牙をむき出しにした雑魔の攻撃を、彼女は避けなかった。腕に痛みが走る。
「あ、あの、僕のことは、い、いいですからっ……」
自分をかばって攻撃を受ける彼女に、ベイルは上擦った声をあげる。マナはそれを遮った。
「ベイルさん。大丈夫、ですから……っ」
皮膚に食い込む牙に耐えながらも、彼女は笑みを見せる。しかしすぐにその表情が一変した。ベイルの背後から、雑魔が飛び出してきたのだ。
「ベイルさん、下がって!」
すぐさま桜子が反応し、声を上げる。驚きと恐怖に脚をもつれさせながらも後方へ動くベイルと入れ替わり、敵の爪を刀身で受け止めた。そのまま弾き返す。
おろおろと揺れるベイルの目に、雑魔の攻撃に耐えるマナと剣を振るう桜子、そして、その向こうで戦う前衛陣の姿が映る。
距離を取ったミネットから放たれた矢が、構えなく繰り出された培花の鞭が、敵の動きを牽制し、また素早く動くその足に傷を残す。
動きの鈍った敵に、かなえとステラが攻撃を畳みかけた。銃身に宿る光の剣が雑魔の身体を薙ぎ、激しい打撃がもう1体に打ち込まれる。
前衛を襲った雑魔たちは、彼らの連携攻撃によってあっという間に撃破された。
残るは、後衛を襲っている2体。彼らはすぐさま、ベイルを守るマナと桜子の援護に入る。
出現時と違い、正面切って戦えばこの敵はやはりすばしっこい。対峙する桜子の攻撃はなかなか命中には至らなかったが、それでも、ベイルへと向かう隙を与えぬよう、今一度剣を振るった。
桜子の攻撃を避けようとした雑魔の足元に、ミネットの矢が突き立てられる。
「今ですっ!」
牽制射撃により逃げ場を失った雑魔の身体を、振り下ろされた桜子の剣が切り裂いた。
さらに培花の鞭が縦に曲線を描いて空を裂き、執拗にマナに噛みつく雑魔を払いのける。
途端に不利に立たされた雑魔が身を翻した。木陰へと姿を隠そうとした。
「逃がしませんっ……!」
かなえの魔導銃から放たれた弾丸が雑魔の行く手を阻み、ステラの拳がその背中を打った。弾き飛ばされた雑魔の身体が木に激突してずるりと地面に落ちた。
最後の1体は、そのままぴくりとも動かなかった。
●戦いを終えて
「ベイルさん、怪我はありませんか? もし傷があれば家族の方が心配されるかなと……」
ミネットがベイルに声を掛けた。その隣で、仲間たちの回復を終えたマナが微笑む。
「回復なら、私がお役に立てますから」
「あ、いえ、僕は……まったく……」
2人の言葉に、ベイルが慌てて首を振った。ハンターたちの活躍により、ベイルの身体には傷ひとつ、汚れひとつ付いていなかった。もちろん、手に持つ包みも無事である。
「よかったです! 狸汁はごちそうできなかったですけど娘さんの誕生日、楽しんでくださいね!」
ベイルに明るく笑いかけたミネットは、そのままくるりとステラに向き直った。
「ステラさんもお疲れ様です! これからお互い頑張りましょうね!」
「は、はいっ。が、頑張ります……!」
ステラは慌ててそう返しながらも、どこか嬉しそうにこく、とひとつ頷いた。
「ベイルさん、よく耐えました。……さ、もうひと踏ん張りです」
ベイルの隣に立った培花が、そう声を掛ける。
「娘さんのお誕生日、お祝いしに行かなくちゃね」
そう言ってウィンクする桜子。2人の言葉に、ベイルが笑み、頷いた。
マナが再びシャインで辺りを照らし出す。やわらかな光に包まれた一行は、村へと向かった。雨はいつの間にか、やんでいた。
●家族との再会
ベイルの家は、村に入ってすぐのところにあった。
その家の扉は、一行が村へたどり着いて間もなく勢いよく開き、幼い少女が転がるように走り出てきた。
「パパ!」
「リナっ……!」
駆け寄ってきた幼い少女を抱き上げるベイルの相好が崩れる。次いで出てきた女性に、ベイルが、ただいま、と言うと、彼女は、おかえりなさい、と言って微笑んだ。
「なんとお礼を言ったらいいか……本当に、本当にありがとうございます。彼の護衛、大変だったんじゃありませんか?」
「パパ、おくびょうだから」
事の経緯を聞いたベイルの妻アリシアは、彼の隣で悪戯っぽく笑った。彼の腕に抱かれているリナも、それに続いて、にひ、と歯を見せる。当のベイルはといえば、全くもってその通りなので何も言えずに頬を掻いていた。
そんな幸せそうな彼らの姿に、かなえはほっと胸を撫で下ろす反面、安否の知れない自分の家族のことを思い出さずにはいられなかった。僅かに曇る心を押し隠し、それでも、彼女は笑顔を見せた。
お礼にと、アリシアから渡されたケーキの入った包みを持ち帰路につく彼らに、ベイルとアリシアの2人は深く頭を下げていた。不意に、手を上げたリナがその背中に声を掛ける。
「ハンターさん! パパを守ってくれて、ありがとう!」
心から嬉しそうに笑うリナが、大きく、大きく手を振った。
依頼結果
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MVP一覧
- 電脳シューター
榎本 かなえ(ka3567)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/08 22:55:12 |
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相談卓 マナ・ブライト(ka4268) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/03/12 18:41:43 |