ゲスト
(ka0000)
シエルでお茶を
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/11 07:30
- 完成日
- 2015/03/18 22:25
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
そういえば最近は、この世界に来てからやっと落ち着いた生活が出来るようになったような気がする。
そう考えているのはリアルブルー出身の少女で、名前をミズホと言った。
もともと生来の負けん気とかざらなさ、ついでに人並み以上の美人――男がほおっておくわけもないという人物だった彼女は、それに嫌気がさして高校は女子校に行った。
が――いわゆるお嬢様学校で彼女は余りにも目立った。
結果、彼女を『お姉様』と慕う後輩がぞろぞろとついてくるようになっていたというわけである。
その点、このクリムゾンウェストは言われずとも美男美女揃い。
彼女はその中で、初めて追いかけられることなくバレンタインを越えたのだ。
さて――このミズホ、気になる人が存在する。
リアルブルーからの転移者で、カズマという青年だ。
ちなみに見た目は決して良いわけではない。フツメンと言う奴だろう。
しかし、彼女はどこか惹かれるものを感じたのだ。真摯に頑張っている姿かも知れない。
二月は何かと忙しくて贈り物をすることが出来なかった。
しかし、ホワイトデーにかこつけて贈り物は出来るのではないだろうか?
相手もリアルブルー出身者だし、ホワイトデーを知らないほどの鈍感ではないだろう。
別に恋人にならなくても良いのだ。
ただ、声をかけて応援出来るようになりたいというのが本音。
●
彼女の話を聞いたブックカフェ『シエル』のマスター・エリスは、そんなほのかな恋バナが密かな大好物だ。
ミズホの言葉に、それならと提案する。
「うちでちょっとしたティータイムをセッティングしてあげる。他のハンターさんたちもそう言うムードになりたいこともあるだろうし、ね♪」
そう言って笑うエリスに、わずかに顔を赤くするミズホだった。
そういえば最近は、この世界に来てからやっと落ち着いた生活が出来るようになったような気がする。
そう考えているのはリアルブルー出身の少女で、名前をミズホと言った。
もともと生来の負けん気とかざらなさ、ついでに人並み以上の美人――男がほおっておくわけもないという人物だった彼女は、それに嫌気がさして高校は女子校に行った。
が――いわゆるお嬢様学校で彼女は余りにも目立った。
結果、彼女を『お姉様』と慕う後輩がぞろぞろとついてくるようになっていたというわけである。
その点、このクリムゾンウェストは言われずとも美男美女揃い。
彼女はその中で、初めて追いかけられることなくバレンタインを越えたのだ。
さて――このミズホ、気になる人が存在する。
リアルブルーからの転移者で、カズマという青年だ。
ちなみに見た目は決して良いわけではない。フツメンと言う奴だろう。
しかし、彼女はどこか惹かれるものを感じたのだ。真摯に頑張っている姿かも知れない。
二月は何かと忙しくて贈り物をすることが出来なかった。
しかし、ホワイトデーにかこつけて贈り物は出来るのではないだろうか?
相手もリアルブルー出身者だし、ホワイトデーを知らないほどの鈍感ではないだろう。
別に恋人にならなくても良いのだ。
ただ、声をかけて応援出来るようになりたいというのが本音。
●
彼女の話を聞いたブックカフェ『シエル』のマスター・エリスは、そんなほのかな恋バナが密かな大好物だ。
ミズホの言葉に、それならと提案する。
「うちでちょっとしたティータイムをセッティングしてあげる。他のハンターさんたちもそう言うムードになりたいこともあるだろうし、ね♪」
そう言って笑うエリスに、わずかに顔を赤くするミズホだった。
リプレイ本文
●
ブックカフェ『シエル』。
リゼリオの一角にある、少しばかりおしゃれなカフェ――店内にはリアルブルーとクリムゾンウェスト、双方のさまざまな本が並んでいる。
コミックス、文芸書、あるいは絵本に至るまで……
これらはすべて店主であるエリスの趣味だ。
さあ、では覗いてみよう。
あるうららかな春の日の、『シエル』の様子を。
●
ちょうど昼頃になるだろうか。
カランカラン、と店の扉が軽やかに開くと、二人連れの若い男たちがやってきていた。
「これがブックカフェ、か。一人でだったら、絶対来ない場所だな」
そんなことを独りごちるのは、アーテル・テネブラエ(ka3693)。親友のアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)に誘われてやってきた青年である。
「あら、いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
店主のエリスがにっこりと笑って出迎えると、アリオーシュはにっこりと微笑んで頷いた。
「うん、たまには親友と二人でのんびり過ごそうと思ってね」
その言葉に、アーテルの方もゆるゆると頷く。
「それに、ここにはリアルブルーの本もあると聞いてさ。リアルブルーの書籍も読めるなんて、何とも興味深いじゃないか」
な、そうだろ? とアリオーシュが親友に尋ねれば、アーテルは
「……ああ。アリオーシュとゆっくり茶を飲むのは、悪くない。甘いものも嫌いではないし、な」
口調や顔には決して出さないが、それでも喜んでいるらしかった。
「えっと、ご注文はどうなさいますか?」
エリスが問うと、
「ここはラテアートというのが頼めると聞いたな。そうだな……ウサギが良いだろうか」
いわゆるイケメンのアーテルの口から飛び出した、何とも可愛らしい言葉に、アリオーシュはくすっと笑う。
「意外そうな顔をするなよ。確かお前の妹御がウサギを好きだったことを思い出しただけだ。あと、ケーキはガトーショコラで」
アーテルはそう言うとぷいと顔をそらした。わずかに照れくさいのだろうか。
「こっちもじゃあ同じで……ええと、リアルブルーではサクラ、と言う花が美しい季節が近いと聞いたので、それを。あと食べものは、とりあえずホットサンドとサラダ」
アリオーシュもそう言いながら頼むと、エリスはにっこり笑ってさっそく厨房に向かった。
それからほどない頃だろうか。
「いらっしゃいませー」
その声とほぼ同じくして店内に入ってきたのはリアルブルー出身の若者、ガラーク・ジラント(ka2176)だ。きょろきょろと周囲を見回して、さっさと窓際の席に座り込む。
……それほど混んでいない店内。
しかし彼の席の向かいには、なぜか先客である小村 倖祢(ka3892)がいた。
(……なんでこの人わざわざここに座ったんだろう)
倖祢は訝しげな顔で、目の前に座るガラークを見つめる。しかしガラークはなぜか熱心に、窓の外を見つめているのみだった。
ガラークにはもともと妹がいるが、リアルブルーからの転移前に妹とはぐれてそれっきり。しかしその妹も、そして彼自身も軍人だったため、きっとこの世界に来ていると信じているのだ。根拠も何もないガラークの考えだが、思い込んだら一直線。倖祢が座っていることにももしかしたら気づいていないかも知れない。
(よくわかんないけど、話しづらいオーラ全開だよ、この人……)
倖祢はそうも考えるが、それでも持ち前の明るさでそれを払拭しようと心がける。
ウィンナ・コーヒーと日替わりサンドを頼んだガラークは、手近なところにあったクリムゾンウェストの郷土料理本や歴史書をいくつか手に取りぱらぱらとめくる。この世界について詳しく載っている書籍に興味があるらしい。もっとも、この店の書籍は基本的に禁帯出なので、あとで買うことになるのだろうが。
彼がこの席に座ったのは妹を見つけやすかろうという意図のもとなのだが、勿論そんなことを倖祢が知るわけもない。とりあえず挨拶が基本、第一印象が大事――とばかりに
「え、えーと、こんにちは」
と言うと、ガラークはようやく相席の存在に気づいたのだろう、顔を上げた。
が、その顔には……先ほど頼んだウィンナコーヒーを飲んで出来た、クリームの髭。ついでにサンドイッチの粉が服のあちこちに付いていて、お世辞にも格好良いと言えない。と言うかみっともない。
「あの、えーっと……」
これを指摘するべきなのか、それとも見て見ぬ振りをするべきなのか。初対面の相手にそんなことを言うのも失礼ではないかなどとも考えて、倖祢は激しく葛藤した。ガラークはそんなことにお構い亡いかのように
「ああ、こんにちは」
挨拶をされれば返すもの。元軍人たるもの、その辺りは心得ているらしい。しかしその次のつぶやきで、倖祢はいっそう不安に陥った。
「……ふむ。ウィンナ・コーヒーにはウィンナーは入っていないようだ」
別の二人席では、アーテルとアリオーシュが座っている。
「……アーテル、覚えていたんだね」
アリオーシュがふっと懐かしそうな瞳をする。彼の妹はもう六年も前に歪虚の襲撃によって命を落としていた。その妹が好んでいた動物がウサギなんて、とても些細なことの筈なのに。
「……いや、忘れるわけもないだろう。それにしてもこんな風に話をするのも久しぶりだな」
アーテルは運ばれてきたカフェラテに口をつけると、やや自嘲気味に微笑んだ。
「俺は相変わらずだ。昨日も筋トレをして……自分を鍛えるくらいしか、能が無いからな」
穏やかな言葉遣いだが、どこか冷たい印象を持つ青年。それがアーテルだった。それでもアリオーシュのことは親友と思っており、彼にだけは心を開いてくれる。それが、アーテルにとってはもしかしたら救いに近いものなのかも知れない。
「凄いな、アーテルは。相変わらず鍛錬に打ち込んでいるんだね。……そういえば待ち合わせ場所の周りの女性たちはアーテルに視線をやって頬を染めたりもしていたんだよね……君はそう言うのを気にしない方なのは、俺も知ってるけど」
くすり、アリオーシュの口調は親友との会話ともあって弾んでおり、なんだか楽しそうだ。そしてその頬にはちょんとクリームが付いている。
「アリオーシュ、頬にクリーム。慌てて食べなくても、ケーキは逃げん」
そう指摘してやるアーテルも、普段より少し柔らかい表情だった。
●
ブックカフェという店の形態上、長居をする客が多いのはまあ仕方が無いことなのだろう。
義弟と待ち合わせをしているが一向にくる様子を見せないので、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は小さくあくびをした。ペット同伴は流石に無理だったが、愛犬はおとなしく店の前で待ってくれている。そして本人はと言えば、待ちくたびれてしまったのだろう、そこいらにある本に手を伸ばして読み始めた。
もともと絵画も得手としているエヴァ、リアルブルーのコミックもしっかりと読んでいる。
カフェラテを持ってきたエリスに
「言葉は難しくない?」
と尋ねられたが、
『大丈夫、参考になるし』
とスケッチブックに書いてにっこりと笑った。声を発することの出来ない分、『書くこと』への技術力が自己表現に繋がっているエヴァ。絵で訴えてくるコミックというものの技術は大変参考になっているらしい。
『そういえば、ラテアートってどう作るの?』
エヴァは興味津々と言った感じでエリスに尋ねると、もし良かったら簡単なものであれば――と、エリスも乗り気で教えようとしている。ラテアートはクリムゾンウェストでは珍しい技術なので、興味を持ってくれたひとには教えたいのだそうだ。ココアパウダーやデコペンなどを使った、簡単なテクニックを教えると、エヴァの瞳も輝いた。
(どうしよう……メニューを見てみたけど、ちっともわからない……綺麗なおねーさんたちが美味しいって噂してたから来てみたのに)
メニューを持ってうなっているのはカリアナ・ノート(ka3733)。『ラテアート』という言葉の響きに引きつけられてやってきたのだが、肝心の『ラテアート』がメニューに載っていないので非常に戸惑っていた。
(らてあーと、って項目がない……飲み物や食べもの……じゃないの?)
うーんうーん。カリアナは考えた末に一つの結論を導き出した。
(……そうか、店員さんだけにしか出さない、いわゆる裏メニューみたいなものなのかも知れないわっ!)
ラテアートの浸透率が低いため、どうしてもそうとしか思えないらしい。注文を聞きに来たエリスが優しく声をかけてやると、
「ぴゃぁ!? ……あ、あの、らてあーとを注文したいの……裏メニュー、なのかしら?」
するとエリスはにっこりと微笑んだ。
「ラテアートっていうのは、エスプレッソの上に泡立てたミルクを浮かべて、そこにココアパウダーや爪楊枝、デコレーション用のチョコなんかでちょっとしたイラストを描いたりすることなの。それ自体がメニューって訳ではなくて、ね」
ラテアートに初めて触れるひとのためにと簡単な説明をすると、カリアナはわずかに顔を赤くする。
「飲み物の水面に絵を描くことだったのね……なるほど、だから、アート……」
「ちょうど今別のお客さんもチャレンジしているけれど、一緒に参加する? それとも飲むだけにするかしら?」
エヴァのことを指しているらしい。カウンターの方で、なにやら一生懸命カップと格闘している。
「あ、え、私は飲むだけにしておくわ! 絵柄は、お任せでっ」
真っ赤になったカリアナを見て、またくすりと笑うエリス。
「かしこまりました、お待ち下さいね♪」
●
さて、そろそろ三時も近い頃。
やってきたのは少女と見まごう長い黒髪の少年・時音 ざくろ(ka1250)と、その恋人でシスターのアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の二人であった。アデリシアの方が身長も高く女性的な体格のため、どこかアンバランスなカップルという印象を受ける。
「こっちの世界やリアルブルーの本が色々あるみたいで、ゆっくり過ごすにはいいみたいだよ」
ホワイトデーデートなのだから自分がエスコートしないと、と胸の中で意気込むざくろが微笑むと、
「なるほど……道理で本が多くある筈です」
アデリシアは艶然と微笑む。実はこのアデリシア、ざくろがやってくるよりも随分と前から店にいたりしてのんびりと本を読みながら彼を待っていたのだが、彼氏の方は案外気づいていないものらしい。我ながら、浮かれているなあとは思っている。それにしても、とアデリシアは思う。
(わざわざセッティングされているとはなんともはや。まあそのおかげで私たちもご相伴にあやかれるというわけですけれど)
見かけによらず案外子どもっぽいところもあるアデリシアだが、こういうことは素直に喜べる。ざくろの方も、
(そういえばもうこの世界に来て1年半以上……アデリシアたちに出会わなければ大変なことになってたなぁ……今はもう、ずいぶんここの生活に慣れたけど)
そんなことをぼんやり思い描きながら、
「アデリシアと出会ってずいぶんたったなって思って、なんだか嬉しくて」
そしてカフェではそっとエリスに、
「あの、連れには、デザインはお任せだけど……」
そんなことを言うざくろ、名前のごとく顔が真っ赤だ。エリスもははあ、と納得したように頷いて、
「任せてちょうだい♪」
とにっこり微笑む。
そしてそれと時を変わらずしてやってきたのは、今回デートのセッティングをエリスが施したミズホとカズマである。
カズマの方もこの店には初めて来るらしく、きょろきょろと周囲を見回していたが、やがてミズホと楽しそうに話し出した。カズマの方も、まんざらではないらしく、頬をわずかに赤く染めて話している。
「俺、マンガも好きだけれど、こんな店があったんだな」
「そうよ。なかなか良い場所でしょ?」
十人並み以上の見栄えなミズホの、極上の笑み。それに対してカズマはごく普通の青年という風体なため、その差がくっきりと浮き出ているような感じである。しかし、ミズホがそわそわと何か可愛らしい包み紙をポケットから取り出すと、
「……これ」
と、わざと素っ気なく言ってみせる。それをカズマは目を丸くして見つめた。
「エッ、もしかして、俺に?」
カズマの問いに、ミズホが頷く。
そこへエリスが運んできたのは甘さ控えめのチョコレートケーキ。
「一月遅れのバレンタインだけど」
ミズホの頬が赤く染まる。カズマも、照れくさそうに、笑った。
●
「ねぇねぇ、あそこ。……うまくいくと良いよね。見てるとざくろまで……」
ざくろが耳をそばだてながら、照れくさそうに頬を染める。と、そこへ折良く
「はい、ご注文のカプチーノです」
エリスがそっとカップを運んできた。アデリシアに渡されたカップには、ふんわりと可愛らしいハートマーク、そして「大好き」の文字。一瞬目を丸くするが、ざくろの手回しだとすぐに気づくとふんわりと微笑んだ。
「いつも傍にいてくれてありがとう……大好きだよ」
ざくろの笑みに、アデリシアも笑みで返し。
(そういえばもうすぐざくろさんの誕生日……何か贈り物も考えないと)
そんなことを考えながら、カップに口をつけたのだった。
また別の場所では――
(べったべたの甘いシチュエーション!)
エヴァも年頃の女の子、勿論こんなものは大好物。手元のスケッチブックにその様子を書いてみたりして、思う存分「絵描きは見た」状態である。
いっぽうのカリアナは運ばれてきたカップを目を皿のようにして見つめている。
(こ、これがラテアート……かわいくてこんなの、飲めないわ!)
こちらもこちらですっかり虜になっているようだった。
倖祢は色々参っていた。
目の前の人物――ガラークの奇行にくらくらしていたのだ。泡髭のためにハンカチを渡せばそれにサンドイッチを包むし、突然美少女(妹らしい)の写真を見せられ、思わず「可愛い」と呟いたら凄い目つきで睨まれるし、挙げ句のはてには連絡先まで渡される始末。
(シスコンか……そいつに連絡先貰うって、何……)
当のガラークの方はしごく真面目に、妹の行方探しを手伝ってくれそうな親切な少年と信頼しているだけなのだが。
おかわりにガラークは白熊の立体ラテアートを、倖祢は猫の立体ラテアートを頼む。
意外なオーダーに、倖祢は相手を見つめた。ガラークは取っつき悪い第一印象だったが、案外話しやすいのかも知れない、とぼんやり思えるようになってきた。
「白熊と言えば昔、北極で死闘を繰り広げ、途中襲ってきた敵と共闘し、友情を結んだものだ」
相変わらず、変人であるような気はするけれど。
アーテルとアリオーシュも、のんびりとティータイムを楽しんでいた。
「また来ような」
自称腹八分目のアリオーシュが笑えば、アーテルも頷く。
幸せなティータイム。
こんな時間はきっとまた訪れるだろう。きっと。
ブックカフェ『シエル』。
リゼリオの一角にある、少しばかりおしゃれなカフェ――店内にはリアルブルーとクリムゾンウェスト、双方のさまざまな本が並んでいる。
コミックス、文芸書、あるいは絵本に至るまで……
これらはすべて店主であるエリスの趣味だ。
さあ、では覗いてみよう。
あるうららかな春の日の、『シエル』の様子を。
●
ちょうど昼頃になるだろうか。
カランカラン、と店の扉が軽やかに開くと、二人連れの若い男たちがやってきていた。
「これがブックカフェ、か。一人でだったら、絶対来ない場所だな」
そんなことを独りごちるのは、アーテル・テネブラエ(ka3693)。親友のアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)に誘われてやってきた青年である。
「あら、いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
店主のエリスがにっこりと笑って出迎えると、アリオーシュはにっこりと微笑んで頷いた。
「うん、たまには親友と二人でのんびり過ごそうと思ってね」
その言葉に、アーテルの方もゆるゆると頷く。
「それに、ここにはリアルブルーの本もあると聞いてさ。リアルブルーの書籍も読めるなんて、何とも興味深いじゃないか」
な、そうだろ? とアリオーシュが親友に尋ねれば、アーテルは
「……ああ。アリオーシュとゆっくり茶を飲むのは、悪くない。甘いものも嫌いではないし、な」
口調や顔には決して出さないが、それでも喜んでいるらしかった。
「えっと、ご注文はどうなさいますか?」
エリスが問うと、
「ここはラテアートというのが頼めると聞いたな。そうだな……ウサギが良いだろうか」
いわゆるイケメンのアーテルの口から飛び出した、何とも可愛らしい言葉に、アリオーシュはくすっと笑う。
「意外そうな顔をするなよ。確かお前の妹御がウサギを好きだったことを思い出しただけだ。あと、ケーキはガトーショコラで」
アーテルはそう言うとぷいと顔をそらした。わずかに照れくさいのだろうか。
「こっちもじゃあ同じで……ええと、リアルブルーではサクラ、と言う花が美しい季節が近いと聞いたので、それを。あと食べものは、とりあえずホットサンドとサラダ」
アリオーシュもそう言いながら頼むと、エリスはにっこり笑ってさっそく厨房に向かった。
それからほどない頃だろうか。
「いらっしゃいませー」
その声とほぼ同じくして店内に入ってきたのはリアルブルー出身の若者、ガラーク・ジラント(ka2176)だ。きょろきょろと周囲を見回して、さっさと窓際の席に座り込む。
……それほど混んでいない店内。
しかし彼の席の向かいには、なぜか先客である小村 倖祢(ka3892)がいた。
(……なんでこの人わざわざここに座ったんだろう)
倖祢は訝しげな顔で、目の前に座るガラークを見つめる。しかしガラークはなぜか熱心に、窓の外を見つめているのみだった。
ガラークにはもともと妹がいるが、リアルブルーからの転移前に妹とはぐれてそれっきり。しかしその妹も、そして彼自身も軍人だったため、きっとこの世界に来ていると信じているのだ。根拠も何もないガラークの考えだが、思い込んだら一直線。倖祢が座っていることにももしかしたら気づいていないかも知れない。
(よくわかんないけど、話しづらいオーラ全開だよ、この人……)
倖祢はそうも考えるが、それでも持ち前の明るさでそれを払拭しようと心がける。
ウィンナ・コーヒーと日替わりサンドを頼んだガラークは、手近なところにあったクリムゾンウェストの郷土料理本や歴史書をいくつか手に取りぱらぱらとめくる。この世界について詳しく載っている書籍に興味があるらしい。もっとも、この店の書籍は基本的に禁帯出なので、あとで買うことになるのだろうが。
彼がこの席に座ったのは妹を見つけやすかろうという意図のもとなのだが、勿論そんなことを倖祢が知るわけもない。とりあえず挨拶が基本、第一印象が大事――とばかりに
「え、えーと、こんにちは」
と言うと、ガラークはようやく相席の存在に気づいたのだろう、顔を上げた。
が、その顔には……先ほど頼んだウィンナコーヒーを飲んで出来た、クリームの髭。ついでにサンドイッチの粉が服のあちこちに付いていて、お世辞にも格好良いと言えない。と言うかみっともない。
「あの、えーっと……」
これを指摘するべきなのか、それとも見て見ぬ振りをするべきなのか。初対面の相手にそんなことを言うのも失礼ではないかなどとも考えて、倖祢は激しく葛藤した。ガラークはそんなことにお構い亡いかのように
「ああ、こんにちは」
挨拶をされれば返すもの。元軍人たるもの、その辺りは心得ているらしい。しかしその次のつぶやきで、倖祢はいっそう不安に陥った。
「……ふむ。ウィンナ・コーヒーにはウィンナーは入っていないようだ」
別の二人席では、アーテルとアリオーシュが座っている。
「……アーテル、覚えていたんだね」
アリオーシュがふっと懐かしそうな瞳をする。彼の妹はもう六年も前に歪虚の襲撃によって命を落としていた。その妹が好んでいた動物がウサギなんて、とても些細なことの筈なのに。
「……いや、忘れるわけもないだろう。それにしてもこんな風に話をするのも久しぶりだな」
アーテルは運ばれてきたカフェラテに口をつけると、やや自嘲気味に微笑んだ。
「俺は相変わらずだ。昨日も筋トレをして……自分を鍛えるくらいしか、能が無いからな」
穏やかな言葉遣いだが、どこか冷たい印象を持つ青年。それがアーテルだった。それでもアリオーシュのことは親友と思っており、彼にだけは心を開いてくれる。それが、アーテルにとってはもしかしたら救いに近いものなのかも知れない。
「凄いな、アーテルは。相変わらず鍛錬に打ち込んでいるんだね。……そういえば待ち合わせ場所の周りの女性たちはアーテルに視線をやって頬を染めたりもしていたんだよね……君はそう言うのを気にしない方なのは、俺も知ってるけど」
くすり、アリオーシュの口調は親友との会話ともあって弾んでおり、なんだか楽しそうだ。そしてその頬にはちょんとクリームが付いている。
「アリオーシュ、頬にクリーム。慌てて食べなくても、ケーキは逃げん」
そう指摘してやるアーテルも、普段より少し柔らかい表情だった。
●
ブックカフェという店の形態上、長居をする客が多いのはまあ仕方が無いことなのだろう。
義弟と待ち合わせをしているが一向にくる様子を見せないので、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は小さくあくびをした。ペット同伴は流石に無理だったが、愛犬はおとなしく店の前で待ってくれている。そして本人はと言えば、待ちくたびれてしまったのだろう、そこいらにある本に手を伸ばして読み始めた。
もともと絵画も得手としているエヴァ、リアルブルーのコミックもしっかりと読んでいる。
カフェラテを持ってきたエリスに
「言葉は難しくない?」
と尋ねられたが、
『大丈夫、参考になるし』
とスケッチブックに書いてにっこりと笑った。声を発することの出来ない分、『書くこと』への技術力が自己表現に繋がっているエヴァ。絵で訴えてくるコミックというものの技術は大変参考になっているらしい。
『そういえば、ラテアートってどう作るの?』
エヴァは興味津々と言った感じでエリスに尋ねると、もし良かったら簡単なものであれば――と、エリスも乗り気で教えようとしている。ラテアートはクリムゾンウェストでは珍しい技術なので、興味を持ってくれたひとには教えたいのだそうだ。ココアパウダーやデコペンなどを使った、簡単なテクニックを教えると、エヴァの瞳も輝いた。
(どうしよう……メニューを見てみたけど、ちっともわからない……綺麗なおねーさんたちが美味しいって噂してたから来てみたのに)
メニューを持ってうなっているのはカリアナ・ノート(ka3733)。『ラテアート』という言葉の響きに引きつけられてやってきたのだが、肝心の『ラテアート』がメニューに載っていないので非常に戸惑っていた。
(らてあーと、って項目がない……飲み物や食べもの……じゃないの?)
うーんうーん。カリアナは考えた末に一つの結論を導き出した。
(……そうか、店員さんだけにしか出さない、いわゆる裏メニューみたいなものなのかも知れないわっ!)
ラテアートの浸透率が低いため、どうしてもそうとしか思えないらしい。注文を聞きに来たエリスが優しく声をかけてやると、
「ぴゃぁ!? ……あ、あの、らてあーとを注文したいの……裏メニュー、なのかしら?」
するとエリスはにっこりと微笑んだ。
「ラテアートっていうのは、エスプレッソの上に泡立てたミルクを浮かべて、そこにココアパウダーや爪楊枝、デコレーション用のチョコなんかでちょっとしたイラストを描いたりすることなの。それ自体がメニューって訳ではなくて、ね」
ラテアートに初めて触れるひとのためにと簡単な説明をすると、カリアナはわずかに顔を赤くする。
「飲み物の水面に絵を描くことだったのね……なるほど、だから、アート……」
「ちょうど今別のお客さんもチャレンジしているけれど、一緒に参加する? それとも飲むだけにするかしら?」
エヴァのことを指しているらしい。カウンターの方で、なにやら一生懸命カップと格闘している。
「あ、え、私は飲むだけにしておくわ! 絵柄は、お任せでっ」
真っ赤になったカリアナを見て、またくすりと笑うエリス。
「かしこまりました、お待ち下さいね♪」
●
さて、そろそろ三時も近い頃。
やってきたのは少女と見まごう長い黒髪の少年・時音 ざくろ(ka1250)と、その恋人でシスターのアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の二人であった。アデリシアの方が身長も高く女性的な体格のため、どこかアンバランスなカップルという印象を受ける。
「こっちの世界やリアルブルーの本が色々あるみたいで、ゆっくり過ごすにはいいみたいだよ」
ホワイトデーデートなのだから自分がエスコートしないと、と胸の中で意気込むざくろが微笑むと、
「なるほど……道理で本が多くある筈です」
アデリシアは艶然と微笑む。実はこのアデリシア、ざくろがやってくるよりも随分と前から店にいたりしてのんびりと本を読みながら彼を待っていたのだが、彼氏の方は案外気づいていないものらしい。我ながら、浮かれているなあとは思っている。それにしても、とアデリシアは思う。
(わざわざセッティングされているとはなんともはや。まあそのおかげで私たちもご相伴にあやかれるというわけですけれど)
見かけによらず案外子どもっぽいところもあるアデリシアだが、こういうことは素直に喜べる。ざくろの方も、
(そういえばもうこの世界に来て1年半以上……アデリシアたちに出会わなければ大変なことになってたなぁ……今はもう、ずいぶんここの生活に慣れたけど)
そんなことをぼんやり思い描きながら、
「アデリシアと出会ってずいぶんたったなって思って、なんだか嬉しくて」
そしてカフェではそっとエリスに、
「あの、連れには、デザインはお任せだけど……」
そんなことを言うざくろ、名前のごとく顔が真っ赤だ。エリスもははあ、と納得したように頷いて、
「任せてちょうだい♪」
とにっこり微笑む。
そしてそれと時を変わらずしてやってきたのは、今回デートのセッティングをエリスが施したミズホとカズマである。
カズマの方もこの店には初めて来るらしく、きょろきょろと周囲を見回していたが、やがてミズホと楽しそうに話し出した。カズマの方も、まんざらではないらしく、頬をわずかに赤く染めて話している。
「俺、マンガも好きだけれど、こんな店があったんだな」
「そうよ。なかなか良い場所でしょ?」
十人並み以上の見栄えなミズホの、極上の笑み。それに対してカズマはごく普通の青年という風体なため、その差がくっきりと浮き出ているような感じである。しかし、ミズホがそわそわと何か可愛らしい包み紙をポケットから取り出すと、
「……これ」
と、わざと素っ気なく言ってみせる。それをカズマは目を丸くして見つめた。
「エッ、もしかして、俺に?」
カズマの問いに、ミズホが頷く。
そこへエリスが運んできたのは甘さ控えめのチョコレートケーキ。
「一月遅れのバレンタインだけど」
ミズホの頬が赤く染まる。カズマも、照れくさそうに、笑った。
●
「ねぇねぇ、あそこ。……うまくいくと良いよね。見てるとざくろまで……」
ざくろが耳をそばだてながら、照れくさそうに頬を染める。と、そこへ折良く
「はい、ご注文のカプチーノです」
エリスがそっとカップを運んできた。アデリシアに渡されたカップには、ふんわりと可愛らしいハートマーク、そして「大好き」の文字。一瞬目を丸くするが、ざくろの手回しだとすぐに気づくとふんわりと微笑んだ。
「いつも傍にいてくれてありがとう……大好きだよ」
ざくろの笑みに、アデリシアも笑みで返し。
(そういえばもうすぐざくろさんの誕生日……何か贈り物も考えないと)
そんなことを考えながら、カップに口をつけたのだった。
また別の場所では――
(べったべたの甘いシチュエーション!)
エヴァも年頃の女の子、勿論こんなものは大好物。手元のスケッチブックにその様子を書いてみたりして、思う存分「絵描きは見た」状態である。
いっぽうのカリアナは運ばれてきたカップを目を皿のようにして見つめている。
(こ、これがラテアート……かわいくてこんなの、飲めないわ!)
こちらもこちらですっかり虜になっているようだった。
倖祢は色々参っていた。
目の前の人物――ガラークの奇行にくらくらしていたのだ。泡髭のためにハンカチを渡せばそれにサンドイッチを包むし、突然美少女(妹らしい)の写真を見せられ、思わず「可愛い」と呟いたら凄い目つきで睨まれるし、挙げ句のはてには連絡先まで渡される始末。
(シスコンか……そいつに連絡先貰うって、何……)
当のガラークの方はしごく真面目に、妹の行方探しを手伝ってくれそうな親切な少年と信頼しているだけなのだが。
おかわりにガラークは白熊の立体ラテアートを、倖祢は猫の立体ラテアートを頼む。
意外なオーダーに、倖祢は相手を見つめた。ガラークは取っつき悪い第一印象だったが、案外話しやすいのかも知れない、とぼんやり思えるようになってきた。
「白熊と言えば昔、北極で死闘を繰り広げ、途中襲ってきた敵と共闘し、友情を結んだものだ」
相変わらず、変人であるような気はするけれど。
アーテルとアリオーシュも、のんびりとティータイムを楽しんでいた。
「また来ような」
自称腹八分目のアリオーシュが笑えば、アーテルも頷く。
幸せなティータイム。
こんな時間はきっとまた訪れるだろう。きっと。
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雑談所 カリアナ・ノート(ka3733) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/11 00:28:28 |